説明

胃酸分泌の測定

哺乳動物の胃液分泌の量を測定する方法は、前記哺乳動物に、非水溶性炭酸塩の過剰な量を含む物質または製剤を投与し、胃内の酸と反応させるステップであって、前記非水溶性炭酸塩には、13C、14C、17Oおよび18Oから選択された少なくとも一つの同位体が既知の量で多く含まれている、ステップを有する。二酸化炭素を含む呼気空気のサンプルを採取する前、および前記呼気二酸化炭素中の前記選択されたまたは各選択された同位体の量を定める前に、呼気二酸化炭素中の前記または各選択された同位体の量を安定化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人を含む哺乳動物の胃酸分泌を測定する非侵襲的な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全ての哺乳類は、胃酸を分泌する。しかしながら、酸は、食物の吸収に必ずしも必要ではなく、生活に必須でもない。酸分泌が受け継がれてきた理由は、上部消化管に、酸バリアを形成し、残りの消化器系を、食物に含まれる微細な病原体から保護するためである。
【0003】
酸分泌は、十二指腸潰瘍、胃潰瘍、逆流性食道疾患(reflux oesophagitis)の成長につながる。逆に障害のある胃酸分泌または不十分な胃酸分泌では、胃癌が生じやすくなる。
【0004】
胃酸分泌抑制を助長する薬物が開発されている。プロトンポンプ阻害薬、オメプラゾールは、この目的に広く処方されている。酸に関する疾患の処置のため、多くの他のプロトンポンプ阻害薬が市販されている。
【0005】
胃酸分泌の機構は、複雑であり、心理学的、神経学的、およびホルモンの制御機構を含む。分泌は、個人間で大きく変化し、その日の摂取食物に依存し、酸の分泌能は、個人および母集団により異なる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
胃酸分泌の測定は、難しい。既知の方法は、鼻−胃管を使用し、分泌を促す刺激を与えるとともに、これを用いて胃から酸を吸引するステップを含む。これは、個人の最大の酸分泌を測定する場合、効果的な方法である。しかしながら、侵襲的で不快な特性のため、研究および医療の双方の実務において、適用は限定されている。非侵襲的な方法の開発が望まれている。これは、疫学的な研究を可能とするが、さらに重要なことは、多くの対象において、抗分泌薬の効果の測定が可能となることである。これにより、異なる抗分泌薬およびそれらの投与の評価が可能となる。しかしながら、これは、非侵襲的な調査の値が特定の値となる、臨床の分野の範囲に限られる。ある患者は、抗酸薬物の処置に対応することができず、これらの場合、失敗が、不十分な投与によるものか、示された薬物に対する抵抗力によるのかが不明確となり、あるいは、応答の失敗が、酸とは無関係な疾患の過程によるものかどうかが不明確となる。
【0007】
従って、酸分泌を測定する非侵襲的な方法は、疫学的な研究において、より効果的な酸抑制薬物の開発の際、および臨床管理の際に、大きな価値がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ある態様では、本発明により、哺乳動物の胃液分泌の量を測定する方法であって、
(a)前記哺乳動物に、非水溶性炭酸塩の過剰な量を含む物質または製剤を投与し、胃内の酸と反応させるステップであって、前記非水溶性炭酸塩には、13C、14C、17Oおよび18Oから選択された少なくとも一つの同位体が既知の量で多く含まれている、ステップと、
(b)呼気二酸化炭素中の前記または各選択された同位体の量を安定化するステップと、
(c)二酸化炭素を含む呼気空気のサンプルを採取するステップと、
(d)前記呼気二酸化炭素中の前記選択されたまたは各選択された同位体の量を定めるステップと、
を有する方法が提供される。
【0009】
この方法は、(a)酸抑制処置に適正に対応することのできない患者、(b)低塩酸で苦しむ患者、(c)萎縮性胃炎で苦しむ患者、および(d)胃癌となる危険性がある患者の同定に使用することができる。
【0010】
不溶性炭酸塩それ自体が投与されても良く、すなわち純粋な物質として、またはいかなる賦形剤も含まない物質の混合物として投与されても良く、あるいはこれは、従来の医薬品賦形剤を含む製剤の一部であっても良い。
【0011】
物質または製剤は、非水溶性で、胃内で酸と反応して、例えばpHを上昇させる炭酸塩以外の、いかなる成分も含まないことが好ましい。製剤は、摂取を容易にするため、可溶性の成分を含んでも良く、この成分は、被覆層の形態またはフィラー等の状態であっても良い。そのような成分は、胃酸と反応する必要はなく、例えば酸と塩基の反応の結果、または加水分解反応の結果、例えば胃内のpHを有意に上昇させる必要はない。含まれ得る成分の一例は、ゼラチンであり、これは、炭酸塩粉末の所定量をカプセル状に閉じ込めるために使用される。
【0012】
別の態様では、本発明により哺乳類の胃内で酸と反応し得る非水溶性炭酸塩を含む、薬学的に許容可能な製剤であって、
前記非水溶性炭酸塩には、13C、14C、17Oおよび18Oから選択された少なくとも一つの同位体が既知の量で多く含まれており、
当該製剤は、胃内で酸と反応する前記非水溶性炭酸塩以外のいかなる成分も含まない、製剤が提供される。
【0013】
さらに別の態様では、本発明により、胃酸の上昇レベルの予防または処置用の薬剤の調製の際の、13C、14C、17Oおよび18Oから選択された少なくとも一つの同位体が既知の量で多く含まれている、不溶性炭酸塩の使用が提供される。
【0014】
別の態様では、本発明により、悪性貧血の検出または測定のため、薬物の調製の際に、13C、14C、17Oおよび18Oから選定された、少なくとも一つの同位体が既知の量で多く含まれる、不溶性炭酸塩の使用が提供される。
【0015】
本発明の方法は、炭酸塩を投与するステップの前に、二酸化炭素を含む呼気のサンプルを得るステップと、呼気の二酸化炭素中の選択された同位体または各選択された同位体の量を判定するステップを含むことが好ましい。
【0016】
呼気の二酸化炭素中の選択された同位体の量は、質量分光分析、赤外線分光分析、レーザアシスト比分析、質量選択性検出機器を備えるガスクロマトグラフィ、シンチレーションカウンタ分析、および加速質量分光分析等の技術を用いて定められる。炭酸塩中の13Cが多い場合、質量分光分析または赤外線分光分析を使用することが好ましい。炭酸塩中の14Cが多い場合、シンチレーションカウンタ分析、および加速質量分光分析を使用することが好ましい。
【0017】
不溶性炭酸塩は、金属炭酸塩であることが好ましい。不溶性炭酸塩製剤は、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、および炭酸亜鉛のうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。炭酸塩の混合物を使用することも可能である。
【0018】
炭酸カルシウムのような不溶性炭酸塩は、非吸収性の化学化合物であり、塩酸のような酸を中和する。塩酸は、胃内で自然に発生する。例えば、塩酸は、炭酸カルシウムと反応し、塩化カルシウム、水および二酸化炭素を形成する。塩酸に炭酸カルシウムが添加されると、迅速かつ効率的に中和が生じ、放出される二酸化炭素の量は、中和された酸の量と等価となる。同様の反応は、いかなる炭酸塩でも生じる。従って、他の不溶性炭酸塩により、同様の結果を得ることができるため、本発明の方法には、いかなる生理的に許容可能な不溶性炭酸塩を使用しても良い。
【0019】
非水溶性炭酸塩は、選択された同位体を、少なくとも約1atm%、好ましくは少なくとも約5atm%含み、特に少なくとも約10atm%含む。
【0020】
天然の豊富な炭素同位体は、約98.93atm%の12Cと、1.07atm%の13Cである。従って、12Cに対する13Cの量が1.07atm%を超える不溶性炭酸塩は、13Cが多い。不溶性炭酸塩に含まれる同位体の量は、同位体量の測定の際に、適正な強い信号が得られる程度に選定される。高い同位体量では、コストが上昇し、正確な測定が難しくなると言う問題が生じる。従って、しばしば、炭酸塩中の13Cの量は、約20atm%以下であることが好ましく、約10atm%以下であることがより好ましい。
【0021】
また本発明では、本発明の方法において、13Cの代わりに14Cを使用することも可能である。従って、前述の本発明の13Cに関する実施例および各態様では、13Cを等量の14Cに置換しても良い。13Cについて示した方法において、この結果生じる変化は、二酸化炭素中のバックグラウンド14Cに対する分泌された14Cの比を求める際に使用される、解析方法の性質にある。この場合、13Cの代わりに14Cを使用する際、呼気サンプルの分析に、シンチレーションカウンタ分析または加速質量分光分析を用いることが必要となる。また、炭酸塩に14Cが多く含まれる場合、同位体量は、前述の範囲の下限に近づけることが好ましくなる。
【0022】
ある実施例では、製剤は、錠剤、カプセルおよびトローチ剤からなる群から選定されることが好ましい。製剤は、粉末またはサスペンションの形態であっても良い。
【0023】
製剤は、ユニットの投与量であることが好ましい。これは、少なくとも250mgのユニット投与量であり、特に少なくとも約500mgの投与量であることがより好ましい。
【0024】
患者に投与される不溶性炭酸塩の全量は、少なくとも約5gであることが好ましく、少なくとも約7.5gであることがより好ましく、特に少なくとも約10gであることが好ましい。例えば、少なくとも約12gである。ある患者には、例えば少なくとも約15gまたは少なくとも約20gなど、不溶性炭酸塩のより多くの投与が必要である。不溶性炭酸塩は、少なくとも約3g/hの速度で患者に投与されることが好ましく、少なくとも約5g/hであることがより好ましい。これらの炭酸塩量は、絶対量で測定され、例えばバインダおよび材料を包囲するカプセルのような、製剤の他の成分の重量は、含まれない。そのような炭酸塩量では、通常の場合、胃酸に比べて、炭酸塩が胃内に過剰に存在することになる。
【0025】
13Cは、自然に生じるコールド同位体であり(放射性ではない)、これは、人体に少量存在する。この化合物の摂取の後、これは、実質的に12時間以内に消滅し、通常のレベルに戻る。
【0026】
胃内での不溶性炭酸塩と酸の間の反応により、酸が中和される。胃内での酸の中和は、胃の粘膜を刺激し、ガストリンが形成され、別の塩酸の分泌を促すホルモンが形成される。
【0027】
過度の炭酸カルシウムの存在により、さらに塩酸が中和され、さらに分泌が誘発される。試験期間内に生じた二酸化炭素の量は、同時期に分泌された酸の量に等しい。
【0028】
前述の中和の結果として胃内で生じた二酸化炭素は、血流に吸収される。次に、これは、肺での交換過程に加わり、人体内での代謝活動の結果生じた二酸化炭素とともに、呼吸内に排出される。本発明は、不溶性炭酸塩の投与後の胃酸の中和の結果として生じた二酸化炭素を、代謝によって生じた二酸化炭素に対して、どのように同定するかという問題を克服する。
【0029】
呼気の二酸化炭素に含まれる同位体量が安定化するのに必要な時間は、胃内での反応に依存し、特に、ガストリンの形成に応じて酸が分泌される速度、および胃内で生じた二酸化炭素が、血液中で定常濃度に至るまでの時間に依存する。呼気中の二酸化炭素の同位体濃度が安定化するまで、しばしば、60分以上かかり、時には少なくとも約120分かかる。従って、(i)非水溶性炭酸塩を含む物質または製剤の初期の投与ステップと、(ii)呼気の二酸化炭素中の選択された各同位体の量が安定してから、呼気のサンプルを得るステップの間の時間は、少なくとも約60分であることが好ましく、少なくとも約120分であることがより好ましい。これは、例えば少なくとも約150分である。
【0030】
本発明の方法は、ステップ(c)と(d)を繰り返すさらなるステップ(e)を有することが好ましい。これにより、呼気二酸化炭素中の各選択された同位体の量を安定化することがより確実となる。
【0031】
本発明の方法は、哺乳動物に、非水溶性炭酸塩を含む物質または製剤を投与する、少なくとも2つのステップを含むことが好ましい。一連の投与ステップの間の時間は、少なくとも約5分であることが好ましく、少なくとも約10分であることがより好ましい。投与ステップが繰り返されることにより、炭酸塩が胃内に確実に過剰に存在するようになる。哺乳動物に投与される非水溶性炭酸塩の量は、既知であることが好ましい。これにより、胃内に過剰の投与炭酸塩が存在することを確認することが容易になる。
【0032】
本発明の方法は、(1または2以上の同位体で標識化された)不溶性炭酸塩を経口投与するステップを有する。周期的なインターバルで、対象が収集容器にストローを介して呼吸し、呼気空気が測定されて、選択された同位体の量が判断される。
【0033】
胃酸分泌の算定が行われる際、対象は、絶食されていることが好ましい。この理由は、絶食と食事採取状態の間で、人の胃腸の生理機能に差異が生じるためである。これは、他の哺乳類でも同様である。
【0034】
食事採取と絶食の間の差は大きく、胃内の食物の有無をデフォルトにすることはできない。胃の筋電活動および運動性は、絶食状態と食事採取状態で極めて異なる。また、絶食/食事採取の差異に加えて、胃内容排出は、溶液、食物および各種寸法の投与形態で異なる。通常の場合、胃内容排出は、食事採取状態では絶食状態に比べて遅くなる。通常、大きな未消化物(および遅い分解投与形態)、例えば、7mm以上の粒子寸法の場合、例えば4mmの粒子寸法のようなより小さな対象に比べて、よりゆっくりと空になる。一方、液体は、これらのいずれよりも迅速に空になる。
【0035】
例えば、絶食状態では、ハウスキーパーフェーズまたはハウスキーパー波としても知られる、未消化物質の胃を空にする泳動筋電錯体(MMC)のフェーズIIIの発生まで、大きな未消化対象(非消化投与形態を含む)は、胃から排出されない。絶食状態では、小さな粒子の溶液およびサスペンションは、実質的に連続的に胃から排出され、ハウスキーパー波を待つ必要はない。これは、約60乃至90分毎に、人体に生じる。
【0036】
反復的なMMCサイクルは、食物が摂取されると停止し、胃の運動性パターンは、有意に変化する。食物の摂取の後、胃は、胃酸および消化酵素の働きにより、食物をゆっくりと小さな粒子にまで微細化する。溶液中の小さな粒子および食物(または薬物)は、幽門弁を通って十二指腸に移動する。摂取後の十二指腸内での食物材料(特に脂肪酸およびアミノ酸)の存在により、この「胃の食事採取状態」が誘発され、これは、ゆっくりとした胃内容排出となり、MMCは存在しない。大きな対象(未消化食物片、非分解投与形態)は、全食物が小さな粒子にまで破壊され、これが幽門を通るまで、およびGIシステムが胃に残留する物質が消化できないことを感知するまで、胃から排出されない。
【0037】
前述の効果に加えて、胃のpHは、食物摂取の際、約pH5まで上昇し、その後、約2時間で約pH2まで戻る。また、食物は、胃で分泌された酸を緩衝する役割を果たし、酸の一部は、炭酸塩による中和に利用されない。
【0038】
本発明において、絶食とは、少なくとも4時間以内に、患者が食物を消費しないことを意味する。本測定の開始から、少なくとも8時間の間、食物が消費されないことが好ましく、絶食の期間は、試験実施前の少なくとも一晩(すなわち少なくとも約12時間)であることがより好ましい。しかしながら、胃運動性またはpHに及ぼす影響が小さい場合、少量の食物または水分の消費は、許容され得る。
【0039】
本発明の方法は、食事採取患者にも実施され、その緩衝作用のため、試験用食事を生体外で評価する場合、測定食物量の採取による酸分泌の変化を評価することができる。
【0040】
時間、すなわち一連の炭酸塩薬物の投与の間のインターバルは、一定であっても変動しても良い。同様に、一連の呼気サンプル採取の間の時間(すなわちインターバル)は、一定であっても変動しても良い。
【0041】
投与ステップまたは判断ステップまたは双方のステップは、少なくとも2回繰り返されることが好ましく、少なくとも3回繰り返されることがより好ましく、少なくとも5回繰り返されることがさらに好ましい。10回以上の反復が望ましい。
【0042】
一連の投与の間の時間インターバルと、一連の呼気サンプルの収集の間の時間インターバルは、同一であっても、異なっていても良い。
【0043】
一連の投与の間のインターバルは、1から30分の間であることが好ましく、少なくとも約5分であることがより好ましく、少なくとも約10分であることがさらに好ましい。
【0044】
一連の呼気サンプル収集の間の時間周期は、1から600分の間であることが好ましく、約15分であることがより好ましい。
【0045】
本方法は、例えば時間変化をプロットしたグラフにより、呼気二酸化炭素中の一つのまたは複数の選択された同位体の量の時間変化を監視するステップを含むことが好ましい。
【0046】
時間プロットに対する測定の結果は、実際の胃酸分泌の量と、以下のように関連付けられる。プロットで使用されるスケールは、ベースラインレベルに対する同位体量の変化を示す。選択同位体が14Cの場合、ベースラインレベルは、バックグラウンドの14Cレベルに対して測定される。選択同位体が13Cの場合、ベースラインレベルは、炭酸塩の投与前の、13Cの測定によって定められる。胃の反応および患者の血液への吸収が、一旦定常状態に達すると、時間に対する同位体量の変化は、胃酸の中和の結果として形成される二酸化炭素の量を反映するようになる。
【0047】
実際の胃酸分泌の量を同定するため、まずこれらの値を変換して、実際の生成二酸化炭素量を求めることが重要である。これは、呼気の容器への収集ステップと、その後のCO2量の分析ステップとを含む。CO2量の分析は、フローシステムまたは他の技術を用いて実施することも可能である。
【0048】
体内で生成された全ての二酸化炭素を呼吸内に排出する必要はなく、少量が例えば尿中に逸散しても良く、ゆっくりと平衡体積に拡散しても良い。これは、個々の患者に依存し、さらなる研究の対象となるが、この試験の目的の場合、二酸化炭素の回復は、80%であると予想される。
【0049】
選択同位体が13Cの場合、以下の量に関する表記が得られる:炭酸塩投与前の呼気中の13C/12C比(ベースライン比)、炭酸塩投与後の13C/12C比、および炭酸塩中の13C/12C比である。炭酸塩投与後の呼気中の13Cの上昇は、胃酸により中和される炭酸塩中に多く含まれる13Cの存在によるものである。
【0050】
呼気中の二酸化炭素の全量は、ダグラスバッグ(Douglas Bag)に収集することにより測定することができる。これは、通常の代謝による二酸化炭素と、摂取炭酸塩の胃酸による中和で生じた二酸化炭素とで構成される。各比に関する表記を用いることにより、バッグ中の二酸化炭素の量を、モル表記で計算することができ、これは、中和炭酸塩から得ることができる。
【0051】
この計算の結果を、実際の胃酸分泌に関連付けるためには、いくつかの仮定が必要となる。
【0052】
まず、炭酸塩投与前の呼気中の13C/12C比(バースライン比)は、時間とともに変化しないと仮定する必要がある。この変化は、本試験の範囲内では、無視可能として処理することができる。第2に、通常の代謝により、呼気中の二酸化炭素の量は、大きく変化し得るが、この変化は、ダグラスバッグ収集が即座になされた場合、13C/12C比に対して補正することができ、この比を用いて、酸分泌の計算が行われる。第3に、酸の中和により生じた二酸化炭素の一部は、呼気中に排出されないと仮定する必要がある。
【0053】
以降の計算は、胃内での以下の反応に基づくものであり、
【0054】
【数1】

呼気中に排気されない二酸化炭素の補正を前提にした場合、反応酸のモル数に対する呼気二酸化炭素のモル数の比は、2.0に等しくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
(例1)
ボランティアの人に対して、15分おきに4時間にわたって、10atm%の13Cを標識とする炭酸カルシウムの経口投与を行った。経口投与は、250mgの炭酸カルシウムを含む。試験管のような適当な収集容器内で呼吸をすることにより、10分のインターバルで、対象から呼気(排気)サンプルを採取した。呼気空気は、質量分光分析に供され、呼気二酸化炭素中の12C に対する13Cの比を測定した。結果を図1に示す。
【0056】
図1でプロットされた比は、13C標識炭酸カルシウムを用いた、2つの実験の結果を示している。13Cは、上昇し、約120分で一定となることがわかる。平坦となるまでの時間は、患者毎に変化し得る。
【0057】
約120分にわたって、二酸化炭素の排出量の増加が生じ、その後一定となることに留意する必要がある。観察された平坦部は、胃内での反応により生じ、胃内の二酸化炭素は、血液と平衡になり、血液中の二酸化炭素は、肺中の二酸化炭素と平衡する必要がある。過去の研究では、体内には、二酸化炭素の交換可能な貯蔵部があると考えられることが示されている。
【0058】
このように、呼吸を介して排出される13CO2が、胃内で中和される酸の量とほぼ等価であり、尿により、または隔離された非交換可能なもしくはゆっくりと交換される区画により排出される量が少ない場合、平坦部が生じると考えられる。正確な結果を得るため、例えば呼気空気の一連のサンプリングの反復評価により、安定化されてから、排気二酸化炭素中の選択された同位体の量を定めることは、重要である。
【0059】
第2の実験では、対象は、毎日20mgのオメプラゾールで2週間にわたって処置され、実験は、他の条件を揃えて2回繰り返された。図2に先の実験と比較して示すように、この場合、13C標識二酸化炭素の量は、実質的に低下した。
【0060】
次に、対象に対して、オメプラゾールの日々の投与量を40mgとした以外、その他の条件を一定にして、再度2つのさらなる実験を行った。図3には、同様の結果が示されている。
【0061】
この結果は、20mgのオメプラゾールの経口投与により、大部分の人において、このクラスの薬物の最大の酸抑制効果が生じ、40mgの使用は、この目的に対して有意な結果を与えないという、観察結果と一致した。
【0062】
(例2)
ボランティアの人に対して、最初、10atm%の13Cを標識とする2gの炭酸カルシウムの経口投与を行い、その後、さらに500mgの炭酸カルシウムを、5分おきに3時間にわたって投与した。試験管のような適当な収集容器内で呼吸をすることにより、15分のインターバルで、対象から呼気(排気)サンプルを採取した。呼気空気は、質量分光分析に供され、呼気二酸化炭素中の12C に対する13Cの比を測定した。結果を図4に示す。
【0063】
図4でプロットされた比は、13C標識炭酸カルシウムを用いた、2つの実験の結果を示している。13Cは、上昇し、約120分で一定となることがわかる。平坦となるまでの時間は、患者毎に変化し得る。
【0064】
第2の実験では、対象は、毎日20mgのオメプラゾールで1週間にわたって処置され、実験は、他の条件を揃えて2回繰り返された。図5に先の実験と比較して示すように、この場合、13C標識二酸化炭素の量は、実質的に低下した。
【0065】
前述のような本発明の方法において、さらなる改良も可能である。
【0066】
前述のデータは、一人の対象に基づいており、さらなる改良には、広範囲の研究が含まれる。各図において、対象の一般的な代謝内での二酸化炭素生成により生じ得る変化は考慮されていない。患者間で排気および隔離の差異が生じ得る。
【0067】
過去に、アルカリ刺激酸分泌については研究されておらず、代わりに食物の評価または分泌促進剤の注入が利用されている。2人以上の患者を用いた別の実験により、呼気中の二酸化炭素排出と酸分泌量の関係に関する評価が可能となる。
【0068】
異なる多数の個々の人で比較することにより、アルカリ刺激酸分泌の通常の範囲を構築することが可能となり、薬理的な酸抑制の効果を確認することが可能となる。
【0069】
今までは難しかった、ある有益な可能性のある用途は、悪性貧血を患い、胃内の酸分泌がほとんどない患者に対して、実験を行うステップを含む。これにより、胃腸粘膜および呼吸にいかなる「リーク」13Cが存在するかどうかが検証される。
【0070】
前述の例および関連する図1乃至5の図は、ある対象において胃酸量を反映する評価結果の有意で十分な差異を示す。これにより、酸抑制治療を利用した際に、本技術によって、酸分泌の差異が検出されることが確認された。
【0071】
表1には、各図から得られたデータ組を示す。各実験において、炭酸カルシウムおよび酸抑制薬物(採取された場合)の投与量は、本文および各グラフの凡例に示されている。
【0072】
また、13C/12C比に加えて、全二酸化炭素排気量を測定することも可能である。これにより、より良好な結果が得られることが予想される。同様に、炭酸カルシウムの摂取により、どの程度の刺激の度合いが得られたかを判断するため、プラズマガストリンを測定することも可能である。
【0073】
本試験は、疫学的な研究の一般的使用、胃酸分泌の生理機能の研究、および製薬産業での新たなより効果的な酸抑制剤の同定の研究に利用することができる。この評価は、特に、酸抑制に対する反応のない人々の、臨床管理に特に有益である。これは、酸抑制剤に対する応答のない人、および通常の人以上の投与が必要な人の判定に使用しても良い。また、これは、酸抑制が既に行われていて、さらなる投薬が有益ではないと思われる人々の検出に使用することもできる。投薬がほとんど効果のない少人数の人々がいる場合、この方法により、そのような人々を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】例1の結果を示す図である。
【図2】例1の第2の実験の結果を示す図である。
【図3】例1の第3の実験の結果を示す図である。
【図4】例2の結果を示す図である。
【図5】例2の第2の実験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の胃液分泌の量を測定する方法であって、
(a)前記哺乳動物に、非水溶性炭酸塩の過剰な量を含む物質または製剤を投与し、胃内の酸と反応させるステップであって、前記非水溶性炭酸塩には、13C、14C、17Oおよび18Oから選択された少なくとも一つの同位体が既知の量で多く含まれている、ステップと、
(b)呼気二酸化炭素中の前記または各選択された同位体の量を安定化するステップと、
(c)二酸化炭素を含む呼気空気のサンプルを採取するステップと、
(d)前記呼気二酸化炭素中の前記選択されたまたは各選択された同位体の量を定めるステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記同位体の量を定めるステップは、好ましくは質量分光測定器を用いて、12Cに対する13Cの比を定めるステップを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記同位体の量を定めるステップは、好ましくはシンチレーションカウンタまたは加速質量分光分析器を用いて、バックグラウンドの14Cに対する、前記呼気二酸化炭素中の14Cの比を定めるステップを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記炭酸塩を投与するステップの前に、二酸化炭素を含む呼気空気のサンプルを採取するステップ、および前記呼気二酸化炭素中の前記選択されたまたは各選択された同位体の量を定めるステップを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
さらに、ステップ(c)および(d)を繰り返し、前記呼気二酸化炭素中の前記または各選択された同位体の量が、安定化されたかどうかを評価するステップ(e)を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記哺乳動物に、非水溶性炭酸塩を含む物質または製剤を投与する、少なくとも2つのステップを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
一連の投与ステップの間の時間は、少なくとも約5分であり、好ましくは少なくとも約10分であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(i)前記非水溶性炭酸塩を含む前記物質または製剤の最初の投与のステップと、(ii)前記呼気二酸化炭素中の前記または各選択された同位体の量を安定化するステップの後の、呼気空気の前記サンプルを採取するステップの間の時間は、少なくとも約60分であり、好ましくは少なくとも約120分であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記哺乳動物に投与される前記非水溶性炭酸塩の量は、既知であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記非水溶性炭酸塩は、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムおよび炭酸亜鉛のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記哺乳動物は、人であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記呼気二酸化炭素中の前記選択されたまたは各選択された同位体の量を、時間に対してプロットするステップを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記非水溶性炭酸塩は、少なくとも約1atm%の選択された同位体を含み、好ましくは、少なくとも約5atm%、特に少なくとも約10atm%の選択された同位体を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記物質または製剤は、胃内で酸と反応する前記非水溶性炭酸塩以外のいかなる成分も含まないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
患者に投与される前記非水溶性炭酸塩の全量は、少なくとも約5gであり、好ましくは、少なくとも約7.5gであり、特に少なくとも約10gであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
哺乳類の胃内で酸と反応し得る非水溶性炭酸塩を含む、薬学的に許容可能な製剤であって、
前記非水溶性炭酸塩には、13C、14C、17Oおよび18Oから選択された少なくとも一つの同位体が既知の量で多く含まれており、
当該製剤は、胃内で酸と反応する前記非水溶性炭酸塩以外のいかなる成分も含まない、製剤。
【請求項17】
タブレット、飲料、カプセルおよびトローチ剤の形態で提供されることを特徴とする請求項16に記載の製剤。
【請求項18】
粉末またはサスペンションの形態で提供されることを特徴とする請求項16に記載の製剤。
【請求項19】
一定の投与量であることを特徴とする請求項16に記載の製剤。
【請求項20】
前記一定の投与量は、少なくとも250mgであることを特徴とする請求項19に記載の製剤。
【請求項21】
前記非水溶性炭酸塩は、少なくとも約1atm%の選択された同位体を含み、好ましくは少なくとも約5atm%、特に少なくとも約10atm%の選択された同位体を含むことを特徴とする請求項16に記載の製剤。
【請求項22】
胃酸の上昇レベルの予防または処置用の薬剤の調製の際の、13C、14C、17Oおよび18Oから選択された少なくとも一つの同位体が既知の量で多く含まれている、不溶性炭酸塩の使用。
【請求項23】
悪性貧血の予防または処置用の薬剤の調製の際の、13Cおよび/または14Cが多く含まれている、不溶性炭酸塩の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−515139(P2009−515139A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520950(P2008−520950)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002580
【国際公開番号】WO2007/007100
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(508011935)
【Fターム(参考)】