説明

胚のガラス化保存用具及びそれを用いた胚のガラス化保存方法

【課題】 完全な透明体に包まれた豚桑実胚及び胚盤胞を、液体窒素と直接接触することなく、しかも簡易な方法でガラス化保存する技術を開発すること。
【解決手段】 胚の付着保持具と、前記付着保持具を収容する筒状の収容具と、からなる胚のガラス化保存用具であって、前記胚の付着保持具として、先端近傍の上面をカットすることにより形成した開口を有する金属製筒状部材を用いることを特徴とする胚のガラス化保存用具、並びにそれを用いた胚のガラス化保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胚の移植技術に関し、詳しくは胚の超低温保存に関する。
【背景技術】
【0002】
豚胚移植は疾病伝搬リスクを最小限に抑えた種豚導入方法として期待されている。それは、完全な透明帯に覆われている時期の胚(胚盤胞以前の胚)をトリプシン処理することで、オーエスキー病の母豚から胚への伝搬を防ぐことが報告されたことに由来する。
【0003】
豚胚の超低温保存技術は未だ再現性のある手法が確立されておらず、超低温保存が可能な胚は拡張胚盤胞の透明帯から脱出直後の胚盤胞に限られていた。1995年に、初期胚を遠心処理することで細胞内の脂肪顆粒を1点に集積し、それをマイクロマニュピレーターで取り除いた後に凍結することで、超低温保存胚から子豚を生産することに成功している(非特許文献1参照)。しかしながら、この場合は専用の機材が必要になる他に、透明帯に欠損が生じることとなる。
【0004】
完全な透明体に包まれた桑実胚及び胚盤胞のガラス化保存の従来の成功例は、いずれも、胚を含むガラス化液と液体窒素とが直接接触するオープンプルドストロー法及びマイクロドロップレット法等によるものである(非特許文献2、3及び特許文献1参照)。しかし、これらの方法では、液体窒素から胚への汚染が問題となっている。
そこで、豚胚を衛生的に超低温保存するため、胚を含むガラス化液を液体窒素に直接接触させずに豚桑実胚及び胚盤胞をガラス化保存する方法が望まれていた。
【0005】
【非特許文献1】Nakashima H. et al., Nature 1995; 373, 416
【非特許文献2】Vajta G. et al., Mol. Reprod. Dev., 1998, 51: 53-8
【非特許文献3】Kouji Misumi. Et al., Therio, 2003, 60, 253-260
【特許文献1】特開2002−212001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、
1.疾病制御にも応用できる、完全な透明体に包まれた豚桑実胚及び胚盤胞の超低温保存
2.汚染の可能性がある液体窒素と、胚を含むガラス化液とが、直接接触することのない
方法での豚胚の超低温保存
3.簡易な方法による豚胚のガラス化保存
上記の条件を満たした豚胚の超低温保存技術の開発を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために、新たなガラス化保存具及びガラス化保存方法の開発が必要であると考えた。
そこで、鋭意検討を重ねた結果、本発明者らは、胚を含むガラス化溶液を付着・保持させて筒状の収容具に収容することにより、胚を液体窒素に直接接触させずにガラス化保存できるガラス化保存具を開発した。
そして、このガラス化保存具を用いたガラス化方法によって豚胚をガラス化保存し、その後融解させた豚胚を受胚豚に移植することにより、子豚を生産することに成功した。
これらの知見に基き、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、請求項1に係る本発明は、胚の付着保持具と、前記付着保持具を収容する筒状の収容具と、からなる胚のガラス化保存用具であって、前記胚の付着保持具として、先端近傍の上面をカットすることにより形成した開口を有する金属製筒状部材を用いることを特徴とする胚のガラス化保存用具である。
請求項2に係る本発明は、先端近傍の上面をカットすることにより形成した開口を有する金属製筒状部材よりなる、胚の付着保持具を用い、胚の入ったガラス化溶液を当該付着保持具の開口に付着・保持させると共に、前記付着保持具を収容する筒状の収容具をその先端が液体窒素外へ突出するように液体窒素内に投入し、次いで当該筒状の収容具内に、前記付着保持具を収容することを特徴とする胚のガラス化保存方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、今まで超低温保存が困難とされていた桑実胚及び胚盤胞を、直接液体窒素に浸積することなく超低温保存する事が可能となった。
そのことから、豚においても疾病伝搬リスクが最小な超低温保存胚による種豚の流通が可能になる他に、特定疾病(オーエスキー病等)に感染した豚群を胚移植によって清浄化する際に、新たに超低温保存胚の利用が可能になることが期待できる。
また、本発明のガラス化保存方法によって胚を超低温保存することで、従来のガラス化保存法よりも作業が簡便になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。
請求項1に係る本発明は、胚の付着保持具1と、前記付着保持具1を収容する筒状の収容具2と、からなる胚のガラス化保存用具であって、前記胚の付着保持具1として、先端近傍の上面をカットすることにより形成した開口11を有する金属製筒状部材を用いることを特徴とする胚のガラス化保存用具である。
【0011】
本発明においてガラス化保存の対象とする胚としては、ブタ、ウシ、ヒツジなどの家畜類、ヒト等の桑実胚〜胚盤胞の胚が挙げられるが、特にブタの桑実胚及び胚盤胞が好ましい。
【0012】
ガラス化保存とは、高濃度の凍結防止剤が添加されたガラス化溶液と共に胚を速やかに冷却することによって、胚に対して有害な低温域を速やかに通過すると共に細胞内氷晶を形成しないため、胚に損傷を与えずに胚を凍結(ガラス化)保存できる技術である。
本発明のガラス化保存用具は、このガラス化保存技術のために用いる器具であり、胚の付着保持具1と、前記付着保持具1を収容する筒状の収容具2と、から構成されるものである。
【0013】
本発明における胚の付着保持具1は、胚を含むガラス化溶液をこの上に付着・保持させたまま速やかに冷却し、凍結させる。その後、ガラス化した胚を前記付着保持具1ごと融解液に入れることにより、胚を融解させる。
【0014】
前記付着保持具1は、金属製筒状部材の一方の先端近傍の上面を、先端から4〜5cm、好ましくは4.5cmカットして、長楕円形の開口11を形成することにより作製することができる。このとき、金属製筒状部材のカットした部分の断面は、U字型になるように加工する(図1参照)。
本発明では、このようにしてなるU字型の溝(開口)11の上に、胚を含むガラス化溶液を付着・保持させることにより、ガラス化溶液を薄く延ばすことができ、胚を速やかに冷却することが可能となるだけでなく、ガラス化溶液が前記筒状収容具2の内壁に付着するのを防ぐことができる。
なお、本発明において「カット」する手段は、金属製筒状部材の素材に応じて、切断面が胚の扱いに適した滑らかさを有するように加工できる手段を適宜選択すればよい。具体的には、マイクロリューター等による研磨などの手段を用いることができる。
【0015】
前記付着保持具1の素材としては、胚を急激に冷却し、胚に有害な低温域を速やかに通過させるため、鉄、銅など熱伝導性が高い金属を用いることが好ましく、特に液体を付着させることから錆びにくいステンレススチールが好適である。また、金属を用いることによって、前記付着保持具1を前記収容具2内に収容する際の振動によって胚が飛散することを防ぐための剛性も持ち合わせている。
また、前記金属製筒状部材の形状は長さが6〜8cm、好ましくは7cm、内径が900〜1200μm、好ましくは1000μm、厚さが80〜120μm、好ましくは100μmの筒状であり、少なくとも上記でカットした方の先端が閉じているものが好ましい。
本発明において最も好適に用いられる金属性筒状部材は注射針である。注射針を用いる場合は、尖った方の先端の近傍を上記のようにカットする。また、当該先端部をヤスリで丸く削っておくことが好ましい。
【0016】
前記付着保持具1は、後述する筒状の収容具2内に固定された状態で収容することができるように、前記収容具用の栓12に接続して固定する。このとき、前記付着保持具1が前記収容具2の内壁に接触しないようにする。
前記付着保持具1の固定方法は特に限定されないが、前記収容具用の栓12に細い穴を開け、前記付着保持具1の前記開口11と反対側の穴と、前記栓12に開けた穴とに銅線などの金属線を刺し込んで固定する方法などが挙げられる。
この場合、金属線は、前記付着保持具1のU字型の溝の終点から少し出るまで刺し込み、金属線と溝の終点および金属性筒状部材と金属線との間を接着剤などで接着し、溝より上側(前記栓12側)の穴を塞ぐようにすると良い(図2参照)。そうすることにより、ガラス化保存後の胚を融解する際に、U字型の溝より上側に毛細管現象で胚が吸い込まれるのを防ぐことができる。
なお、前記収容具用の栓12の素材としては、操作時の低温火傷の危険性を避けるため、吸水性がなく、熱伝導性が低いプラスチック素材が好ましい。具体例としては「マーカーロッド」(商品名、IVM社、フランス)が挙げられる。
【0017】
次に、本発明における筒状の収容具2は、その先端が液体窒素外へ突出するように液体窒素中に立ててある状態で、胚を含むガラス化溶液を付着・保持した前記付着保持具1を収容することにより、胚が液体窒素に接触することなくガラス化保存することができる。
それゆえ、胚が液体窒素により汚染されることを防ぐことができ、胚の衛生面での改善に繋がる。
【0018】
前記収容具2の素材としては、液体窒素に沈めても破損しない強度を持ち、色は透明なものが好ましく、特にプラスチックが好適である。
また、その形状は長さが13〜14cm、好ましくは13.5cm、内径が1.2〜1.8mm、好ましくは1.4mm、厚さが0.8〜1.2μm、好ましくは0.8μmの筒状である。
本発明において前記収容具2として最も好適に用いられるものは、ウシ胚の保存用として広く用いられているプラスチック製0.25ml容ストロー(IMV社, フランス)である。
【0019】
前記収容具2は、液体窒素が内部に浸入するのを防ぐために両端を栓でふさいでおく。
この栓は、液体窒素の超低温に耐えられるものであればどんな素材のものでも良いが、特に前記収容具2を液体窒素中に立てたときに液体窒素外に突出する側の栓には、操作時の低温火傷の危険性を避けるため、吸水性が無く、熱伝導性が低いプラスチック素材が好ましい。具体例としては「マーカーロッド」(商品名、IVM社、フランス)が挙げられる。
なお、前記収容具2として上記のプラスチック製0.25ml容ストローを用いる場合は、ストローの一端に綿栓が装着してある状態で市販されているので、この綿栓を培養液などで湿らせてストロー内に固定しておき、その上からさらに栓をするのが好ましい(図3参照)。
【0020】
請求項2に係る本発明は、先端近傍の上面をカットすることにより形成した開口11を有する金属製筒状部材よりなる、胚の付着保持具1を用い、胚の入ったガラス化溶液を当該付着保持具1の開口11に付着・保持させると共に、前記付着保持具1を収容する筒状の収容具2をその先端が液体窒素外へ突出するように液体窒素内に投入し、次いで当該筒状の収容具2内に、前記付着保持具1を収容することを特徴とする胚のガラス化保存方法である。
このように、本発明の胚のガラス化保存方法は、上記した請求項1記載のガラス化保存用具を用いるものである。
【0021】
以下に、本発明のガラス化保存用具の使用方法並びにガラス化保存方法について、詳しく説明する。
(1)ガラス化溶液の準備
1.8Mエチレングリコール(EG)を含む下記の組成のPZM液(1液)の100μlドロップを1つ、1.8M EG、0.3Mショ糖、1%(w/v)BSAを含むPZM液(2液)の100μlドロップを1つ、5M EG、0.6Mショ糖、2%(w/v)BSAを含むPZM(3液)の100μlドロップを2つ、シャーレ上に作成する。ドロップの載ったシャーレは38℃に保温する。
【0022】
PZM液組成 (100ml作成時)
NaCl 0.6312 g
KCl 0.0746 g
KH2PO4 0.0048 g
MgSO4・7H2O 0.0098 g
NaHCO3 0.2106 g
Na-pyruvate 0.0022 g
Ca-(lactate)2 5H2O 0.0617 g
グルタミン 0.0292 g
ヒポタウリン 0.0546 g
BME Amino Acids Solution 2%v/v
MEM Non-Essential Amino Acids Solution 1%v/v
BSA(F-V) 0.3 g
硫酸ゲンタマイシン 0.005 g
上記をDWで100mlにメスアップ
※BME:Basal Medium Eagle、MEM:Minimum Essential Medium
【0023】
(2)胚の採取およびガラス化溶液との平衡
まず、通常の胚移植技術により胚を採取し、胚の正常性を検査した。
次に、正常な1〜20個、好ましくは15個の胚を、ピペット等で1液のドロップに移して5分間平衡した後、2液のドロップに移して5分間平衡する。ここで、ピペット等としては、パスツールピペットが好ましいが、先端部が細く微小滴を形成し易いものであればよい。
2液での平衡中に、上記した本発明の筒状収容具2を、両側に栓を取りつけた状態で、液体窒素の中に架台を用いて立てておくことにより、前記収容具2をあらかじめ冷却しておく。その際、前記収容具2の一方の先端が液体窒素から出ている状態にし、収容具2内に液体窒素が浸入しないように注意する。
前記収容具2としてウシ胚の保存用として広く用いられているプラスチック製0.25ml容ストロー(IMV社, フランス)を用いる場合、栓をする際には、まず、ストローの一端にあらかじめ装着されている綿栓を極少量の培養液などで湿らせることにより、綿栓をストロー内に固定させてから、その上にさらに栓を差し込むと良い。次いで、もう一方の端に栓を軽く差し込む(図3参照)。なお、ストローを液体窒素中に立てる際は、綿栓側が下になるようにする。
2液の平衡が終了した後、胚を3液のドロップに移し、直ちにもう一つの3液のドロップに移す。続いて、3液と共に胚をピペット等で吸い、上記した本発明の胚の付着保持具1の先端のU字型の溝(開口)11の上に、胚の入ったガラス化溶液を薄く延ばして置く。
【0024】
(3)ガラス化保存
あらかじめ液体窒素中に投入しておいた前記筒状収容具2の上部の栓を外した後、直ちに上記で胚を置いた前記付着保持具1をその中に入れ、前記収容具2の全体を液体窒素中に沈める(図4参照)。これにより、胚を含むガラス化溶液は、前記付着保持具1に保持された状態で凍結する。
なお、上記(2)において胚を3液に移してから、前記収容具2を液体窒素中に浸漬するまでの作業は、1分以内に行う。
その後、凍結した胚を使用するときまでは、前記収容具2ごと超低温下で保存することができる。その際、上記(2)において綿栓の上からさらに栓をした場合は、外側の栓は外しても構わない。
【0025】
上記のガラス化保存方法によって超低温下に保存されている胚は、以下に例示した方法で融解し、所定のプロセスを経た後、胚の移植に供することができる。
以下に、ガラス化保存胚の融解方法の1例を示す。
【0026】
(4)希釈溶液(融解液)の準備
1.8Mエチレングリコール、0.6Mショ糖を含むPZM液を調製し、希釈溶液(融解液)とする。この融解液を試験管に3ml取り、39℃に保温する。
【0027】
(5)ガラス化保存胚の融解及びガラス化溶液の希釈方法
液体窒素を入れた容器に、凍結胚を入れた前記筒状収容具2を移す。次いで、前記収容具2を液体窒素に入れたままの状態で、胚を保持した前記付着保持具1を液体窒素外に出し、前記付着保持具1を前記収容具2から素早く抜き取る。さらに、胚の置いてあるU字型の溝(開口)11を、直ちに3mlの融解液が入った試験管に入れて胚を融解する。
胚が融解した後、試験管からシャーレに胚と融解液とを移し、5分間稀釈する。さらに、PZM液で数回洗浄し、ガラス化溶液を完全に除去する。
このようにして融解した胚は生存率が高く、胚の移植に利用される。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例により本発明を図面に即して詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
実施例1
(1)本発明のガラス化保存用具の作製
本発明の胚の付着保持具1(図1)の材料には、0.25mlストロー用栓12(商品名:マーカーロッド、プラスチック製、IVM社 フランス)、19G×70mmの注射針及び銅線(太さ0.55 mm)を用いた。
はじめに、ストロー用栓12のストローの内側にくる先端部分の中央に精密ドリル(直径0.8mm)で、栓12の長手方向と平行に深さ1cmの穴を開けた。
次に、注射針の先端部分をヤスリで丸くした。注射針の上部を、ダイヤモンドカッターを装着したマイクロリュ−ターで先端から4.5cm 削り、削った部分の断面がU字型になるように加工した。
さらに、注射針をシリンジ装着するためのプラスチック部分を取り外し、プラスチックが付いていた方の針の穴に、4cmに切った銅線を3cm刺した状態で、U字型の溝の終点を接着剤で接着した(図2参照)。
最後に、上記でストロー用栓12に開けた穴に、注射針に刺した銅線の外に出ている部分を差し込み、ストロー用の栓12と加工した注射針とを接続することにより、本発明の胚の付着保持具1(図1)を得た。
【0030】
(2)胚の採取
未性成熟豚を供胚豚に用いる場合は、妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG)を1500IU投与し、その72時間後にhCGを500IU投与した。hCG投与の翌日及び翌々日に人工授精(AI)を実施した。hCG投与日の翌日を0日して、5日目に外科的に、もしくはと殺によって、両子宮角内をPBS(−)液(Takara shuzo co. 製、PBSタブレット)でかん流し、かん流液から胚を回収した。
性成熟豚を供胚豚に用いる場合は、上記と同様に処置し、AI後20〜35日目にプロスタグランジンF2α(PGF2α)を適量投与し、その24時間後に再びPGF2αを投与した。2回目のPGF2α投与時に、PMSGを1500IU同時に投与した。その72時間後に、hCGを500IU投与した。hCG投与の翌日及び翌々日にAIを実施し、hCG投与日の翌日を0日して、5日目に外科的に、もしくはと殺によって、両子宮角内をPBS(−)液でかん流し、かん流液から胚を回収した。
【0031】
(3)ガラス化溶液の準備
表1に示す組成の3種類のガラス化溶液を調製した。
1.8Mエチレングリコール(EG)を含む下記の組成のPZM液(1液)の100μlドロップを1つ、1.8M EG、0.3Mショ糖、1%(w/v)BSAを含むPZM液(2液)の100μlドロップを1つ、5M EG、0.6Mショ糖、2%(w/v)BSAを含むPZM(3液)の100μlドロップを2つ、シャーレ上に作成した。ドロップの載ったシャーレは38℃に保温した。
【0032】
【表1】


※EG:エチレングリコール
【0033】
PZM液組成 (100ml作成時)
NaCl 0.6312 g
KCl 0.0746 g
KH2PO4 0.0048 g
MgSO4・7H2O 0.0098 g
NaHCO3 0.2106 g
Na-pyruvate 0.0022 g
Ca-(lactate)2 5H2O 0.0617 g
グルタミン 0.0292 g
ヒポタウリン 0.0546 g
BME Amino Acids Solution 2%v/v
MEM Non-Essential Amino Acids Solution 1%v/v
BSA(F-V) 0.3 g
硫酸ゲンタマイシン 0.005 g
上記をDWで100mlにメスアップ
※BME:Basal Medium Eagle、MEM:Minimum Essential Medium
【0034】
(4)ガラス化溶液との平衡
(2)において一腹から採取した分の胚(3〜10個)を、パスツールピペットで1液のドロップに移して5分間平衡した後、2液のドロップに移して5分間平衡した。
2液での平衡中に、両側に0.25ml容ストロー用のプラスチック製の栓(商品名:マーカーロッド、IVM社、フランス)を取りつけたプラスチック製0.25ml容ストロー2(IMV社, フランス)を、綿栓側を下にした状態で、あらかじめ液体窒素の中に試験管立てを用いて立てておいた。その際、ストロー2の先端が液体窒素から出ている状態にし、ストロー2内に液体窒素が浸入しないように注意した。
ストロー2に栓をする際には、まず、ストロー2の中に培養液を極少量入れて、ストロー2の一端にあらかじめ装着されている綿栓を湿らせることにより、綿栓を固定してから、その上にさらに栓を差し込んだ。次いで、もう一方の端に栓を軽く差し込んだ(図3参照)。
2液の平衡が終了した後、パスツールピペットで胚を3液のドロップに移し、直ちにもう一つの3液のドロップに移した。続いて、3液と共に胚をパスツールピペットで吸い、(1)で作製した付着保持具1の先端のU字型の溝(開口)11の上に、胚の入ったガラス化溶液を薄く延ばして置いた。
【0035】
(5)ガラス化保存
あらかじめ液体窒素中に投入しておいた0.25ml容ストロー2の上部の栓を外した後、直ちに胚を置いた付着保持具1をその中に挿入し、ストロー2の全体を液体窒素に沈めた(図4参照)。これにより、胚を含むガラス化溶液は、付着保持具1の開口11に保持された状態で凍結した。
なお、上記(4)において胚を3液に移してから、ストロー2を液体窒素中に浸漬するまでの作業は、1分以内に行った。
その後、凍結した胚は、ストロー2ごと液体窒素中で保存した。その際、綿栓側に差し込んだ外側の栓は外しても構わない。
【0036】
(6)希釈溶液(融解液)の準備
ガラス化保存した胚を融解するために用いる希釈溶液(融解液)を、以下のようにして準備した。
1.8Mエチレングリコール、0.6Mショ糖を含むPZM液を調製し、融解液(表2)とした。この融解液3mlを、プラスチック製の5ml試験管に取り、39℃に保温した。
【0037】
【表2】


EG:エチレングリコール
【0038】
(7)ガラス化保存胚の融解及びガラス化溶液の希釈方法
液体窒素を入れた容器に、凍結胚を入れたストロー2を移した。次いで、ストロー2を液体窒素に入れたままの状態で、胚を保持した付着保持具1を液体窒素外に出し、付着保持具1をストロー2から素早く抜き取った。さらに、胚の置いてあるU字型の溝(開口)11を、直ちに3mlの融解液が入った試験管に入れて胚を融解した。
胚が融解した後、試験管からシャーレに胚と融解液とを移し、5分間稀釈した。
【0039】
(8)融解後の胚の体外培養試験
ガラス化後融解・希釈した胚は、PZM液で3回洗浄した後、5%CO、39℃のインキュベーター内で、10%FBS(牛胎児血清)を添加したPZM液を用いた微小滴培養法で培養した。培養開始から24時間、48時間後の胚の発育状態(生存率)を調べた。
なお、対照として、液体窒素内にガラス化溶液を直接沈めて凍結するマイクロドロップレット法によりガラス化保存した胚についても、同様に融解・希釈して培養し、発育状態を調べた。
結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
ガラス化及び融解した胚22個を培養した結果、本発明の方法では、24時間後に20個(90.9%)が生存し、48時間後に19個(86.4%)が生存していた。このことから、本発明の方法でガラス化保存した胚は、48時間培養後にも高い生存率を示すことが分かる。
【0042】
(9)融解後の胚の移植
受胚豚は発情日齢4日目の雌豚を用いた。上記(7)で融解したブタ5日齢胚15個をPZM液で3回洗浄し、外科的手法で受胚豚の片側子宮角に移植した。移植液はPZM液を用いた。
結果を表4に示す。受胚豚2頭は受胎した。そのうちの1頭が雄3頭、雌3頭の子豚を分娩した。
したがって、本発明の方法によりガラス化保存した胚は、保存後にも高い生存率を有しており、しかもガラス化保存胚に由来する産子を作出する能力を保持していることが明らかとなった。
【0043】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のガラス化保存具における付着保持具と、胚を含むガラス化溶液の状態を示す図である。
【図2】本発明の付着保持具を銅線により収容具用の栓に固定する方法を示す図である。
【図3】本発明の付着保持具を収容する筒状の収容具の準備を示す図である。
【図4】本発明のガラス化保存方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胚の付着保持具と、前記付着保持具を収容する筒状の収容具と、からなる胚のガラス化保存用具であって、前記胚の付着保持具として、先端近傍の上面をカットすることにより形成した開口を有する金属製筒状部材を用いることを特徴とする胚のガラス化保存用具。
【請求項2】
先端近傍の上面をカットすることにより形成した開口を有する金属製筒状部材よりなる、胚の付着保持具を用い、胚の入ったガラス化溶液を当該付着保持具の開口に付着・保持させると共に、前記付着保持具を収容する筒状の収容具をその先端が液体窒素外へ突出するように液体窒素内に投入し、次いで当該筒状の収容具内に、前記付着保持具を収容することを特徴とする胚のガラス化保存方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−261973(P2007−261973A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87260(P2006−87260)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(301029403)独立行政法人家畜改良センター (12)
【Fターム(参考)】