説明

脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルオキシアルキルエステル、その製造方法、及び用途

【課題】所定の脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルオキシアルキルエステルを含む重合性組成物を用いて得られる、架橋性樹脂成形体及び架橋樹脂成形体、並びにピール強度と耐熱性に優れた積層体を提供すること。
【解決手段】所定の脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルオキシアルキルエステルを含むシクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、及び充填剤を含んでなる重合性組成物、該組成物を用いてなる架橋性樹脂成形体及び架橋樹脂成形体、並びに少なくとも、前記架橋性樹脂成形体、又は前記架橋樹脂成形体を積層してなる積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルオキシアルキルエステル、その製造方法、及び用途に関する。詳しくは、前記エステル及びその製造方法、並びに前記エステルを含む重合性組成物、該組成物を用いて得られる、架橋性樹脂成形体、架橋樹脂成形体、及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化や通信の高速度化に伴い、電子回路基板にも小型化、多機能化が求められている。小型で多機能な電子回路基板として、比誘電率の大きい誘電体材料を用いた基板が知られている。誘電体材料中を伝播する電磁波の波長は、該誘電体材料の比誘電率が大きいほど短くなるので、比誘電率の大きい誘電体材料を用いることで回路基板や電子部品の小型化が可能である。また、回路基板に高誘電率の材料を用いることで、該基板にコンデンサ機能を持たせることも提案されている。
【0003】
さらに、このような回路基板は高周波領域で用いられることが多く、優れた高周波特性が必要なため、基板に用いられる材料は高誘電率のみならず低誘電損失であることが求められる。かかる材料としては、例えば、樹脂中に高誘電率の充填剤を配合して成形した高誘電樹脂材料が検討されている。しかし、高誘電率を得るために充填剤を多量に配合する必要があり、その結果、ワニスの粘度が高くなって生産性や加工性が悪化したり、得られる樹脂成形体の強度や耐熱性が低下したりする問題があった。
【0004】
樹脂成形体のガラス転移温度を高める方法としては、例えば、カルボン酸誘導体型残基を有する環状オレフィン系樹脂と熱架橋剤及び/ 又は光架橋剤とを用いる方法(特許文献1)、エポキシ基を有する環状オレフィン系樹脂と架橋剤とを用いる方法(特許文献2)が提案されている。これらの方法により得られる樹脂成形体は、いずれも電気特性、耐熱性、及び密着性などに優れることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−20692号公報
【特許文献2】特開平8−259784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者が、前記特許文献に記載の樹脂成形体について検討したところ、金属やシリコンウエハ等の他の材料との密着性が充分ではなくピール強度に劣り、しかも未だ耐熱性に劣っており、ハンダリフロー工程やスパッタリング工程で変形やクラックが生じやすいという問題があることが明らかとなった。
本発明は、電子機器等の樹脂材料を構成するモノマーとして有用な脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルオキシアルキルエステル及びその製造方法、前記エステルを含む重合性組成物、それを用いて得られる、架橋性樹脂成形体及び架橋樹脂成形体、並びにピール強度と耐熱性に優れた積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、脂環式モノオレフィンカルボン酸と、重合性基を有するアルコールとを、カルボジイミドを縮合剤として用い、反応させることにより、高純度の前記エステルを高収率に得られること、また、かかるエステルを必須成分として含有させた重合性組成物から得られる架橋樹脂成形体及び積層体は優れたピール強度と耐熱性を有することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、
〔1〕一般式(1):
【化1】

(式中、nは1又は2を示し、nは1〜12の整数を示す。R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。)で表わされる脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルオキシアルキルエステル、
〔2〕一般式(2):
【化2】

(式中、nは1又は2を示し、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)
で表わされる脂環式モノオレフィンカルボン酸と、
一般式(3):
【化3】

(式中、nは1〜12の整数を示し、Rは、水素原子又はメチル基を示す。)
で表される(メタ)アクリル酸n−ヒドロキシアルキルとを、塩基触媒及びカルボジイミド存在下に反応させる工程を有する、前記〔1〕に記載の脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルアルキルエステルの製造方法、
〔3〕前記〔1〕に記載の一般式(1)で表される脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルオキシアルキルエステルを含むシクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、及び充填剤を含んでなる重合性組成物、
〔4〕前記〔3〕に記載の重合性組成物を塊状重合してなる架橋性樹脂成形体、
〔5〕前記〔3〕に記載の重合性組成物を塊状重合し、架橋してなる架橋樹脂成形体、並びに
〔6〕少なくとも、前記〔4〕に記載の架橋性樹脂成形体、又は前記〔5〕に記載の架橋樹脂成形体を積層してなる積層体、
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子機器等の樹脂材料を構成するモノマーとして有用な脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルオキシアルキルエステル及びその製造方法、前記エステルを含む重合性組成物、それを用いて得られる、架橋性樹脂成形体及び架橋樹脂成形体、並びにピール強度と耐熱性に優れた積層体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリロイルオキシ基」は、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を意味するものとする。
【0011】
〔脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルオキシアルキルエステル〕
本発明の脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルオキシアルキルエステルは、前記一般式(1)で表される化合物である(以下、単にエステル化合物という場合がある。)。
【0012】
前記一般式(1)において、入手容易性の観点から、nは1が好ましい。また、本発明のエステル化合物をモノマーとして用いて得られる重合体のガラス転移点を高く維持する観点から、nは1〜10の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましい。R、R及びRにより示される炭素数1〜10の炭化水素基としては、例えば、任意に置換されていてもよい、炭素数1〜10の、アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基などが挙げられる。溶媒への溶解性を良好に保つ観点から、当該炭化水素基としては、任意に置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、また、その炭素数としては、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4である。かかる好ましいアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、及びヘキシル基などが挙げられ、より好ましくはメチル基、及びエチル基であり、特に好ましくはメチル基である。一方、前記シクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、及びシクロオクチル基などが、前記アリール基の具体例としては、フェニル基、2−メチルフェニル基、及びベンジル基などが挙げられる。また、立体障害による反応性の低下という観点から、R、R及びRの中で特にR及びRは水素原子であることが好ましい。
【0013】
本発明のエステル化合物の具体例として、例えば、テトラシクロ[ 4 .4 .0 .1 2 , 5 .1 7 , 1 0 ] ドデカ− 8 − エン− 3 − カルボン酸 2−(メタ)アクリロイルオキシメチルエステル、 テトラシクロ[ 4 .4 .0 .1 2 , 5 .1 7 , 1 0 ] ドデカ− 8 − エン− 3 − カルボン酸 2−(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、テトラシクロ[ 4 .4 .0 .1 2 , 5 .1 7 , 1 0 ] ドデカ− 8 − エン− 3 − カルボン酸 2−(メタ)アクリロイルオキシ i − プロピルエステルなどが挙げられる。
【0014】
本発明のエステル化合物は、ノルボルネン構造を有しており、メタセシス開環重合反応においてモノマーとして機能し得る。かかるエステル化合物は、本発明の架橋性樹脂成形体、架橋樹脂成形体、及び積層体の原料モノマーとして好適に用いられる。
【0015】
(エステル化合物の製造方法)
本発明のエステル化合物は、前記一般式(2)で表わされる脂環式モノオレフィンカルボン酸と一般式(3)で表される(メタ)アクリル酸n−ヒドロキシアルキルとを、塩基触媒及びカルボジイミドの存在下に反応させることにより高純度に高収率で得ることができる。なお、前記一般式(2)及び(3)中のn、n、R、R、R、及びRは、前記一般式(1)の場合と同じ意味であり、その好ましい態様も同じである。
【0016】
前記脂環式モノオレフィンカルボン酸としては、例えば、テトラシクロ[ 4 .4 .0 .1 2 , 5 .1 7 , 1 0 ] ドデカ−8−エン−3−カルボン酸、テトラシクロ[ 4 .4 .0 .1 2 , 5 .1 7 , 1 0 ] ドデカ−8−エン−4−メチル−3−カルボン酸、テトラシクロ[ 4 .4 .0 .1 2 , 5 .1 7 , 1 0 ] ドデカ−8−エン−4−n−プロピル−3−カルボン酸、テトラシクロ[ 4 .4 .0 .1 2 , 5 .1 7 , 1 0 ] ドデカ−8−エン−3−メチル−3−カルボン酸、テトラシクロ[ 4 .4 .0 .1 2 , 5 .1 7 , 1 0 ] ドデカ−8−エン−4−イソプロピル−3−メチル−3−カルボン酸、4 ,10−ジメチルテトラシクロ[ 4 .4 .0 .1 2 , 5 .1 7 , 1 0 ] ドデカ−8−エン−3−カルボン酸、5 ,10−ジメチルテトラシクロ[ 4 .4 .0 .1 2 , 5 .1 7 , 1 0 ] ドデカ−8−エン−3カルボン酸、2 ,10−ジメチルテトラシクロ[ 4 .4 .0 .1 2 , 5 .1 7 , 1 0 ] ドデカ−8−エン−3−カルボン酸、11 ,12−ジメチルテトラシクロ[ 4 .4 .0 .1 2 , 5 .1 7 , 1 0 ] ドデカ−8−エン−3−カルボン酸などが挙げられる。
【0017】
前記(メタ)アクリル酸n−ヒドロキシアルキルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシn−プロピルなどが挙げられる。
【0018】
前記脂環式モノオレフィンカルボン酸と前記(メタ)アクリル酸n−ヒドロキシアルキルとを反応させる際、脂環式モノオレフィンカルボン酸と(メタ)アクリル酸n−ヒドロキシアルキルとの割合はモル比〔脂環式モノオレフィンカルボン酸/(メタ)アクリル酸n−ヒドロキシアルキル〕で、通常、1/1〜1/10、好ましくは1/1〜1/3である。
【0019】
前記塩基触媒としては、脱離能が高く脱水縮合反応において広く使用されているジメチルアミノピリジンを具体例の一つに挙げることができるが、これに限定されるものではない。このような塩基触媒は、原料の脂環式モノオレフィンカルボン酸1モルに対して、通常、0.01〜0.2モルの範囲、好ましくは0.05〜0.15モルの範囲で用いられる。
【0020】
カルボジイミドは、化学式:−N=C=N−で表される官能基、及びそれを含む化合物の総称である。本発明で用いる縮合剤であるカルボジイミドとしては、特に制限はないが、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩などが挙げられる。特に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩が好ましい。カルボジイミドは、原料の脂環式モノオレフィンカルボン酸1モルに対して、通常、1〜2 モルの範囲、好ましくは1.1〜 1.5 モルの範囲で用いられる。
【0021】
前記脂環式モノオレフィンカルボン酸と前記(メタ)アクリル酸n−ヒドロキシアルキルとの反応は、特に制限はないが、通常、溶媒中にて実施する。この反応溶媒としては、ジメチルスルホオキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル2−ピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒が挙げられる。特にN,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。溶媒は原料の脂環式モノオレフィンカルボン酸1重量部に対して、通常、4〜10重量部の範囲、好ましくは5〜7重量部の範囲で用いられる。
【0022】
また、前記反応は、特に制限はないが、通常、20〜50℃の範囲、好ましくは20〜35℃の範囲の温度で行われる。反応圧力は、特に制限はなく、常圧下で実施すればよい。反応は、通常、窒素ガスなどの不活性ガス存在下で行う。脂環式モノオレフィンカルボン酸、(メタ)アクリル酸n−ヒドロキシアルキル、塩基触媒、カルボジイミド、及び溶媒等の添加順序についても特に制限はないが、最後に(メタ)アクリル酸n−ヒドロキシアルキルを添加することが好ましい。このような反応条件の下で、反応は、通常、1〜10時間程度で終了する。エステル化反応の終点は、液体の薄層クロマトグラフィー分析、液体クロマトグラフィー分析又はガスクロマトグラフィー分析等によって確認することができる。
【0023】
反応終了後、得られた反応混合物から本発明のエステル化合物を単離する。例えば、得られた反応混合物を水に加え、酢酸エチルで抽出する。水層を分液除去した後、得られた有機層中の溶剤を減圧留去した後、精製する。精製の方法はシリカゲルカラムクロマトグラフィーや蒸留などの方法があるがこれに限定されない。通常、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=9:1 体積比)により精製を行えば、高純度の本発明のエステル化合物を得ることができる。
【0024】
続いて、本発明のエステル化合物を含有してなる重合性組成物、並びに、それを用いて得られる、架橋性樹脂成形体、架橋樹脂成形体、及び積層体について説明する。
【0025】
本発明の重合性組成物は、本発明のエステル化合物を含むシクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、及び充填剤を含んでなる
【0026】
(シクロオレフィンモノマー)
本発明に用いるシクロオレフィンモノマーとは、炭素原子で形成される脂環構造を有し、かつ該脂環構造中に重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物である。本明細書において「重合性の炭素−炭素二重結合」とは、連鎖重合(メタセシス開環重合)に関与する炭素−炭素二重結合をいう。
【0027】
シクロオレフィンモノマーの脂環構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環及びこれらの組み合わせ多環などが挙げられる。本発明に用いるシクロオレフィンモノマーとしては、得られる架橋樹脂成形体の機械的強度を向上させる観点から、多環のシクロオレフィンモノマーが好ましい。各環構造を構成する炭素原子数に特に限定はないが、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。シクロオレフィンモノマーは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭素数1〜30の炭化水素基や、カルボキシル基、酸無水物基などの極性基を置換基として有していてもよい。
【0028】
本発明においては、前記シクロオレフィンモノマーとしては、得られる架橋樹脂成形体の架橋密度をより増大させる観点から、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーが好適に用いられる。本明細書において「架橋性炭素−炭素不飽和結合」とは、メタセシス開環重合には関与せず、架橋反応に関与する炭素−炭素不飽和結合をいう。「架橋反応」とは橋架け構造を形成する反応をいう。本発明においては、架橋反応とは、通常、ラジカル架橋反応又はメタセシス架橋反応、特にラジカル架橋反応をいう。
【0029】
前記架橋性炭素−炭素不飽和結合としては、芳香族炭素−炭素不飽和結合を除く炭素−炭素不飽和結合、すなわち、脂肪族炭素−炭素二重結合又は三重結合が挙げられ、本発明においては、通常、脂肪族炭素−炭素二重結合をいう。架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するシクロオレフィンモノマー中、該不飽和結合の位置は特に限定されるものではなく、炭素原子で形成される脂環構造内の他、該脂環構造以外の任意の位置、例えば、側鎖の末端や内部に存在していてもよい。例えば、前記脂肪族炭素−炭素二重結合は、ビニル基(CH=CH−)、ビニリデン基(CH=C<)、又はビニレン基(−CH=CH−)として存在し得、良好にラジカル架橋性を発揮することから、ビニル基及び/又はビニリデン基として存在するのが好ましく、ビニリデン基として存在するのがより好ましい。
【0030】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーとしては、特に、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するノルボルネン系モノマーが好ましい。「ノルボルネン系モノマー」とは、ノルボルネン環構造を分子内に有するシクロオレフィンモノマーをいう。例えば、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、及びテトラシクロドデセン類などが挙げられる。
【0031】
本発明の重合性組成物に用いるシクロオレフィンモノマーは本発明のエステル化合物を含むものであるが、該エステル化合物は、架橋性炭素−炭素不飽和結合として脂肪族炭素−炭素二重結合を少なくとも1つ有するノルボルネン系モノマーである。当該エステル化合物を含む、本発明の重合性組成物によれば、ピール強度が高く、しかも耐熱性に優れた積層体を効率よく得ることができる。かかる効果は、架橋性炭素−炭素不飽和結合として脂肪族炭素−炭素二重結合を少なくとも1つ有するノルボルネン系モノマーの中でも、本発明のエステル化合物に特有のものである。本発明の重合性組成物中、該エステル化合物の配合量としては、通常、0.5〜40重量%、好ましくは0.5〜10重量%である。
【0032】
本発明のエステル化合物と共にシクロオレフィンモノマーとして用いられる、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、3−ビニルシクロヘキセン、4−ビニルシクロヘキセン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロへキサジエン、1,4−シクロへキサジエン、5−エチル−1,3−シクロへキサジエン、1,3−シクロへプタジエン、1,3−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィンモノマー;5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−アリルノルボルネン、5,6−ジエチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができる。これらの中では、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0033】
また、本発明においてシクロオレフィンモノマーとしては、前記架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーの他、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーが用いられる。
【0034】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3,5−ジメチルシクロペンテン、3−クロロシクロペンテン、シクロへキセン、3−メチルシクロへキセン、4−メチルシクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロヘキセン、3−クロロシクロヘキセン、シクロへプテンなどの単環シクロオレフィンモノマー;ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5,6−ジメチルノルボルネン、1−メチルノルボルネン、7−メチルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、テトラシクロドデセン、1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,5−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−シクロへキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−イソブチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、5−フルオロノルボルネン、5−メトキシノルボルネン、5,6−ジカルボキシルノルボルネンアンハイドレート、5−シアノノルボルネンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができる。これらの中でも、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0035】
以上のシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、シクロオレフィンモノマーとして、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーと架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの混合物が用いられる。
【0036】
本発明の重合性組成物に配合するシクロオレフィンモノマー中、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーと架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの配合割合は所望により適宜選択すればよいが、重量比(架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマー/架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマー)で、通常、5/95〜100/0、好ましくは10/90〜95/10、より好ましくは15/85〜90/15の範囲である。当該配合割合がかかる範囲にあれば、得られる架橋樹脂成形体において耐熱性や機械的強度がバランスよく向上し、好適である。
【0037】
なお、本発明の重合性組成物には、本発明の効果の発現が阻害されない限り、以上のシクロオレフィンモノマーと共重合可能な任意のモノマーが含まれていてもよい。
【0038】
(メタセシス重合触媒)
本発明に用いるメタセシス重合触媒は、前記シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合可能なものであれば、特に限定されない。
メタセシス重合触媒としては、遷移金属原子を中心にして、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表、以下同じ。)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては、好ましくはタンタルが挙げられ、6族の原子としては、好ましくは、モリブデン及びタングステンが挙げられ、8族の原子としては、好ましくは、ルテニウム及びオスミウムが挙げられる。
【0039】
これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体が好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性に優れるため、架橋性樹脂の生産性に優れ、残留未反応モノマーに由来する臭気が少ない架橋性樹脂を得ることができる。また、8族のルテニウムやオスミウムの錯体は、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも架橋性樹脂の生産が可能である。
【0040】
ルテニウムカルベン錯体の具体例としては、以下の式(1)又は式(2)で表される錯体が挙げられる。
【0041】
【化4】

【0042】
式(1)及び(2)において、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。X及びXは、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示す。L及びLはそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物又はヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物を表す。また、RとRは互いに結合して、ヘテロ原子を含んでいてもよい、脂肪族環又は芳香族環を形成してもよい。さらに、R、R、X、X、L及びLは、任意の組合せで互いに結合して多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0043】
ヘテロ原子とは、周期表15族及び16族の原子をいう。ヘテロ原子の具体例としては、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、砒素原子、セレン原子などが挙げられる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、窒素原子、酸素原子、リン原子及び硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。
【0044】
ヘテロ原子含有カルベン化合物は、カルベン炭素の両側にヘテロ原子が隣接して結合した構造を有するものが好ましく、さらにカルベン炭素原子とその両側のヘテロ原子とを含んでヘテロ環が形成された構造を有するものがより好ましい。また、カルベン炭素原子に隣接するヘテロ原子に嵩高い置換基を有するものが好ましい。
【0045】
ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、以下の式(3)又は式(4)で示される化合物が挙げられる。
【0046】
【化5】

【0047】
式(3)又は式(4)において、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20個の炭化水素基を表す。また、R〜Rは任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0048】
前記式(3)又は式(4)で表される化合物の具体例としては、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1−シクロヘキシル−3−メシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0049】
また、前記式(3)又は式(4)で示される化合物のほかに、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、1,3,4−トリフェニル−4,5−ジヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、3−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−2,3−ジヒドロチアゾール−2−イリデンなどのヘテロ原子含有カルベン化合物も用い得る。
【0050】
前記式(1)及び式(2)において、アニオン(陰イオン)性配位子XとXは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、弗素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0051】
また、中性電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子であればいかなるものでもよい。その具体例としては、カルボニル類、アミン類、ピリジン類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、チオエーテル類、芳香族化合物、オレフィン類、イソシアニド類、チオシアネート類などが挙げられる。これらの中でも、ホスフィン類、エーテル類及びピリジン類が好ましく、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
【0052】
前記式(1)で表される錯体化合物としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)[(フェニルチオ)メチレン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−ピロリドン−1−イルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、ヘテロ原子含有カルベン化合物及びヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物が各々1つ結合したルテニウム錯体化合物;
【0053】
ベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)ビス(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、ヘテロ原子含有カルベン化合物以外の2つの中性電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物;
【0054】
ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドなどの、2つのヘテロ原子含有カルベン化合物が結合したルテニウム錯体化合物;などが挙げられる。
【0055】
前記式(2)で表される錯体化合物としては、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(フェニルビニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(t−ブチルビニリデン)(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリン−2−イリデン)フェニルビニリデンルテニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0056】
これらの錯体化合物の中でも、前記式(1)で表され、かつ配位子として前記式(4)で表される化合物を1つ有するものが最も好ましい。
【0057】
メタセシス重合触媒の使用量は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常、1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0058】
メタセシス重合触媒は所望により、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では、工業的に汎用な芳香族炭化水素や脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素の使用が好ましい。また、メタセシス重合触媒としての活性を低下させないものであれば、液状の老化防止剤、液状の可塑剤、液状のエラストマーを溶剤として用いてもよい。
【0059】
メタセシス重合触媒は、重合活性を制御し、重合反応率を向上させる目的で活性剤(共触媒)と併用することもできる。
【0060】
活性剤としては、アルミニウム、スカンジウム、スズの、アルキル化物、ハロゲン化物、アルコキシ化物及びアリールオキシ化物などを用いることができる。その具体例としては、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。
【0061】
活性剤の使用量は、(触媒中の金属原子:活性剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0062】
また、メタセシス重合触媒として、5族及び6族の遷移金属原子の錯体を用いる場合には、メタセシス重合触媒及び活性剤は、いずれもモノマーに溶解して用いるのが好ましいが、生成物の性質を本質的に損なわない範囲であれば少量の溶剤に懸濁又は溶解させて用いることができる。
【0063】
(架橋剤)
架橋剤は、本発明の重合性組成物を重合反応に供して得られる重合体において架橋反応を誘起する目的で使用される。従って、該重合体は、後架橋可能な熱可塑性樹脂となる。ここで「後架橋可能な」とは、該樹脂を加熱することにより架橋反応を進行させて架橋樹脂になし得ることをいう。前記重合体を基材樹脂とする本発明の架橋性樹脂成形体は、加熱により溶融し、高粘度であるため、その形状は保持する一方、任意の部材を接触させた場合、その表面では、該部材の形状に対し追従性を発揮し、最終的に架橋して硬化する。本発明の架橋性樹脂成形体のかかる特性は、本発明の架橋性樹脂成形体を積層し、加熱して溶融、架橋して得られる積層体においてピール強度の向上に寄与するものと考えられる。
【0064】
架橋剤としては、ラジカル発生剤が好適に用いられる。ラジカル発生剤としては、例えば、有機過酸化物、ジアゾ化合物、及び非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物、及び非極性ラジカル発生剤である。
【0065】
前記有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン、3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリパーオキソナン、3,6−ジエチル−3,6−ジメチル−1,2,4,5−テトロキサンなどの環状ペルオキシド類;などが挙げられる。これらの中でも、メタセシス重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド類、ペルオキシケタール類、及び環状ペルオキシド類が好ましい。
【0066】
前記ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
前記非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
これらのラジカル発生剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
本発明に用いる架橋剤がラジカル発生剤の場合、その1分間半減期温度は、硬化(本発明の重合性組成物を重合反応に供して得られる重合体の架橋)の条件により適宜選択されるが、通常、100〜300℃、好ましくは120〜250℃、より好ましくは150〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。ラジカル発生剤の1分間半減期温度については、例えば、各ラジカル発生剤メーカー(例えば、日本油脂株式会社)のカタログやホームページを参照すればよい。
【0068】
本発明の重合性組成物への架橋剤の配合量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0069】
(充填剤)
本発明の重合性組成物は、従来、プリプレグや積層体の製造に用いられている、エポキシ樹脂等を溶媒に溶かしてなる重合体ワニスと比べて低粘度であるため、容易に充填剤を高配合することができる。よって、得られる架橋性樹脂成形体、架橋樹脂成形体、又は積層体中には、充填剤が、従来のプリプレグや積層体の限界含有量を超えて含まれ得る。
【0070】
本発明で用いられる充填剤に特に限定はなく、有機物であっても無機物であってもよく、得られる樹脂成形体の用途に応じて適宜選択すればよい。充填剤の形状も特に限定されず、球状、粒状、不定形状、樹枝状、針状、棒状、扁平状等のいかなる形状であってもよい。また、充填剤の平均粒子径も特に限定されないが、レーザー散乱回折式粒度分布計で測定した全粒子の50体積%が含まれるメディアン径で、通常、0.001〜70μm 、好ましくは0.01〜50μm、より好ましくは0.05〜15μm、最も好ましくは、0.1〜5μmである。
【0071】
用いる充填剤としては、より高誘電率の樹脂成形体又は積層体を得る観点から、無機物であるのが好ましい。無機物からなる充填剤としては、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、タングステン等の金属;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、炭素バルーン等の炭素;ガラス、シリカ、シリカバルーン等の非金属の酸化物;アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化アンチモン、酸化ベリリウム、酸化タングステン、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、BaTiO、BaPbO、MgTiO、CaTiO、SrTiO、NaNbO、KNbO、NaTaO、KTaO、LiTaO、LiNbO、ロッシェル塩等の、複合酸化物であってもよい金属酸化物; 水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩;硫酸カルシウム等の硫酸塩;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等のケイ酸塩;チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩;窒化アルミニウム;炭化ケイ素;ウィスカー;等が挙げられる。中でも、絶縁体であることから、金属酸化物が好ましい。
【0072】
金属酸化物としては、ペロブスカイト構造を有するものが高い誘電率を示すので好ましい。ペロブスカイト構造を有する金属酸化物は、一般に式ABXで表される構造を有しており、Aサイトの陽イオンとXサイトの陰イオン(O2−)とが同程度の大きさを有し、AサイトとXサイトとから構成される立方晶系単位格子の中にAサイトのものよりも小さなサイズの陽イオンがBサイトに位置するものである。上式において、A及びBは互いに異なる金属イオンを表し、AとBの価数の合計は6である。具体的には、BaTiO、CaTiO、SrTiO、PbTiO、PbZrO、及びBaMnOなどのA2+4+で表されるもの;KNbO、KTaO、NaNbO、及びNaTaOなどのA5+で表されるもの;BiFeO、BiAlO、YFeO、GdFeO、及びLaAlOなどのA3+3+で表されるもの;が挙げられる。
【0073】
ペロブスカイト構造を有する金属酸化物の中でも、複合ペロブスカイト型化合物が特に好ましい。複合ペロブスカイト型化合物は、上式において、A及び/又はBとして複数の金属原子のイオンを有するものである。具体的には、A2+(B2+1/35+2/3)O、A2+(B3+1/25+1/2)O、A2+(B2+1/26+1/2)O、A2+(B3+2/36+1/3)O、A2+(B1/45+3/4)O、(A1/23+1/2)B4+、A3+(B2+1/24+1/2)O、及び(A1/23+1/2)(B2+1/35+2/3)Oなどの組成を有するものが例示される。これらの式において、例えば、Aとしては、Li、Na、K、及びAgが;A2+としては、Pb2+、Ba2+、Sr2+、及びCa2+が;A3+としては、Bi3+、La3+、Ce3+、及びNd3+が;Bとしては、Li、及びCuが;B2+としては、Mg2+、Ni2+、Zn2+、Co2+、Sn2+、Fe2+、Cd2+、Cu2+、及びCr2+が;B3+としては、Mn3+、Sb3+、Al3+、Yb3+、In3+、Fe3+、Co3+、Sc3+、Y3+、及びSn3+が;B4+としては、Ti4+、及びZr4+が;B5+としては、Nb5+、Sb5+、Ta5+、及びBi5+が;B6+としては、W6+、Te6+、及びRe6+が;挙げられる。かかる複合ペロブスカイト型化合物の具体例としては、Pb(Ni1/3Nb2/3)O、Ba(Ni1/3Nb2/3)O、Pb(Sc1/2Nb2/3)O、(Li1/2Bi1/2)TiO、(Na1/2Bi1/2)TiO、(K1/2Bi1/2)TiO、(Ag1/2Bi1/2)TiO、Bi(Mg1/2Ti1/2)O、Bi(Zn1/2Ti1/2)O、及びBi(Ni1/2Ti1/2)O、(Na1/2Bi1/2)(Mg1/3Nb2/3)Oなどが挙げられる。複合ペロブスカイト型化合物を用いることで、得られる樹脂成形体又は積層体を、誘電率の温度特性が安定で、かつ誘電正接が小さなものとすることができる。
【0074】
有機物としては、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、塩化ビニル、各種エラストマー、及び廃プラスチック等が挙げられる。
【0075】
また、充填剤としては、上記の無機物及び有機物の他、チョップド(chopped)ストランドやミルドファイバー等の短繊維長繊維を用いることもできる。繊維の種類としては、ガラス繊維、カーボン繊維、及び金属繊維等の無機繊維や;アラミド繊維、ナイロン繊維、ジュート繊維、ケナフ繊維、竹繊維、ポリエチレン繊維、延伸ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、及び延伸ポリプロピレン繊維等の有機繊維が挙げられる。
【0076】
さらに、充填剤として難燃剤を用いてもよい。例えば、金属水酸化物などの無機物からなる難燃剤や、含リン化合物、含ハロゲン化合物、及び含窒素化合物などの有機物からなる難燃剤が挙げられる。中でも、環境負荷低減という観点から、金属水酸化物からなる難燃剤が好ましい。金属水酸化物からなる難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性酸化マグネシウム、及びドーソナイト等が挙げられる。
【0077】
以上の充填剤は、得られる架橋性樹脂成形体等の基材樹脂であるシクロオレフィンポリマーとの密着性を向上させる観点から、公知のシランカップリング剤と接触させて、予め表面処理して用いるのが好ましい。例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、及びテトラフェノキシシランなどの、加水分解及び縮合反応性に優れるテトラエトキシシラン化合物と接触させ、次いで、アクリロキシトリメトキシシラン、メタクリロキシトリメトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、及びビニルトリメトキシシランなどの、オレフィン部位を有するシラン化合物と接触させて、二段階で表面処理する方法が挙げられる。
【0078】
シランカップリング剤と充填剤とを接触させて、充填剤の表面を処理する方法は特に限定されない。当該方法としては、例えば、シランカップリング剤を直接、充填剤の表面と接触させる乾式法、又はシランカップリング剤を溶媒に溶解してなる溶液に充填剤を添加し、混合する湿式法が挙げられる。工程が簡単で効率的であることから、乾式法が好ましい。
【0079】
1回の表面処理(二段階で行う場合は、各回での表面処理)に使用するシランカップリング剤の量は、適宜調整すればよいが、処理対象の充填剤100重量部に対し、通常、0.1〜20重量部である。処理温度は40〜200℃が好ましい。処理時間は特に限定されず、通常、5〜100分間である。また、シランカップリング剤と充填剤とを接触させて、充填剤の表面を処理した後、所望により、充填剤の乾燥を行ってもよい。乾燥温度は、通常、20〜200℃である。乾燥時間は、通常、10〜60分間である。
【0080】
本発明の重合性組成物における充填剤の使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、50〜600重量部、好ましくは100〜500重量部、より好ましくは150〜450重量部、特に好ましくは200〜400重量部である。充填剤の使用量がかかる範囲にあれば、樹脂成形体の製造時や、樹脂成形体の積層時に不良を生じることがなく、好ましい。
【0081】
(重合性組成物)
本発明の重合性組成物には、上記シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、及び充填剤を必須成分として、所望により、重合調整剤、重合反応遅延剤、連鎖移動剤、架橋助剤、酸化防止剤、及び着色料等のその他の配合剤を添加することができる。
【0082】
重合調整剤は、重合活性を制御したり、重合反応率を向上させたりする目的で配合されるものである。その具体例としては、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの重合調整剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合調整剤の使用量は、(メタセシス重合触媒中の金属原子:重合調整剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0083】
本発明の重合性組成物は、重合反応遅延剤を含有していると、その粘度増加が抑制され、例えば、後述するような繊維状強化材に対し、容易かつ均一に含浸できるので、好ましい。重合反応遅延剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;等を用いることができる。
【0084】
本発明に用いる重合性組成物に連鎖移動剤を配合した場合、該組成物を塊状重合して得られる架橋性樹脂成形体の表面では、加熱溶融時の追従性がより向上し得る。それゆえ、連鎖移動剤を配合してなる重合性組成物を用いて得られた架橋性樹脂成形体を積層し、加熱して溶融、架橋して得られる積層体では、層間密着性が一層高まり、ピール強度が向上するので、好ましい。
【0085】
連鎖移動剤は、架橋性炭素−炭素不飽和結合をさらに1以上有していてもよい。かかる架橋性炭素−炭素不飽和結合はビニル基及び/又はビニリデン基として存在するのが好ましい。連鎖移動剤の具体例としては、1−ヘキセン、2−ヘキセン、スチレン、ビニルシクロヘキサン、アリルアミン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリンなどの、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たない連鎖移動剤;ジビニルベンゼン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸ヘキセニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ウンデセニル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレートなどの、架橋性炭素−炭素不飽和結合を1つ有する連鎖移動剤;アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシランなどの、架橋性炭素−炭素不飽和結合を2以上有する連鎖移動剤などが挙げられる。架橋樹脂成形体及び積層体の強度を向上させる観点から、架橋性炭素−炭素不飽和結合を1以上有するものが好ましく、架橋性炭素−炭素不飽和結合を1つ有するものがより好ましい。かかる連鎖移動剤の中でも、ビニル基とメタクリル基とを1つずつ有する連鎖移動剤が好ましく、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸ヘキセニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、及びメタクリル酸ウンデセニルなどが特に好ましい。
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤の使用量としては、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0086】
また、本発明においては、重合性組成物を塊状重合して得られる重合体中での架橋反応を促進させる観点から、架橋助剤を使用してもよい。架橋助剤としては、ジイソプロペニルベンゼンなどのイソプロペニル基を2以上有する炭化水素化合物;トリメチロールプロパントリメタクレートなどのメタクリレート化合物;トリアリルシアヌレートやトリアリルイソシアヌレートなどのシアヌル酸化合物;マレイミドなどのイミド化合物;などが挙げられる。一方、ラジカル架橋遅延剤を用いることもできる。
【0087】
本発明においては、重合性組成物に酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤を加えることにより、架橋反応を阻害しないで、得られる積層体の耐熱性を高度に向上させることができ好適である。これらの中でも、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤が好ましく、フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸化防止剤の使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜1重量部の範囲である。
【0088】
本発明の重合性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、メタセシス重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)を、シクロオレフィンモノマーや充填剤などの必須成分、及び所望により、その他の配合剤を配合した液(モノマー液)に添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0089】
(架橋性樹脂成形体)
本発明の架橋性樹脂成形体は、前記重合性組成物を塊状重合することにより得られる。重合性組成物を塊状重合して架橋性樹脂成形体を得る方法としては、例えば、(a)重合性組成物を支持体上に塗布し、次いで塊状重合する方法、(b)重合性組成物を成形型内に注入し、次いで塊状重合する方法、(c)重合性組成物を繊維状強化材に含浸させ、次いで塊状重合する方法などが挙げられる。
【0090】
本発明の重合性組成物は低粘度であるため、(a)の方法における塗布は円滑に実施でき、(b)の方法における注入では、複雑形状の空間部であっても迅速に泡かみを起こさずに重合性組成物を行き渡らせることができ、(c)の方法においては繊維状強化材に対して速やかに満遍なく重合性組成物を含浸させることができる。
【0091】
(a)の方法によれば、フィルム状や板状等の架橋性樹脂成形体が得られる。該成形体の厚さは、通常、15mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは0.5mm以下、最も好ましくは0.1mm以下である。支持体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、及びナイロンなどの樹脂からなるフィルムや板;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、及び銀などの金属材料からなるフィルムや板;などが挙げられる。中でも、金属箔又は樹脂フィルムの使用が好ましい。金属箔又は樹脂フィルムの厚さは、作業性などの観点から、通常、1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜75μmである。金属箔としては、その表面が平滑であるものが好ましく、表面粗度(Rz)としては、AFM(原子間力顕微鏡)により測定される値で、通常、10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。また、金属箔の表面は、公知のカップリング剤や接着剤などで処理されているのが好ましい。(a)の方法によれば、例えば、支持体として銅箔を用いた場合、樹脂付き銅箔〔Resin Coated Copper (RCC)〕を得ることができる。
【0092】
支持体上に本発明の重合性組成物を塗布する方法としては、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、及びスリットコート法などの公知の塗布方法が挙げられる。
【0093】
支持体上に塗布された重合性組成物を所望により乾燥させ、次いで塊状重合する。塊状重合は重合性組成物を所定の温度で加熱して行われる。重合性組成物の加熱方法としては特に制約されず、支持体に塗布された重合性組成物を、加熱プレート上に載せて加熱する方法、プレス機を用いて加圧しながら加熱(熱プレス)する方法、加熱したローラーで押圧する方法、加熱炉内で加熱する方法などが挙げられる。
【0094】
(b)の方法によれば、任意の形状の架橋性樹脂成形体を得ることができる。その形状としては、シート状、フィルム状、柱状、円柱状、及び多角柱状等が挙げられる。
【0095】
ここで用いる型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造、すなわち、コア型とキャビティー型を有する成形型を用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型は、目的とする成形品の形状にあった空隙部を形成するように作製される。成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。さらに、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入し塊状重合することにより、シート状又はフィルム状の架橋性樹脂成形体を得ることもできる。
【0096】
重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力(注入圧)は、通常、0.01〜10MPa、好ましくは0.02〜5MPaである。充填圧力が低すぎると、キャビティー内周面に形成された転写面の転写が良好に行われない傾向にあり、充填圧が高すぎると、成形型の剛性を高くしなければならず経済的ではない。型締圧力は、通常、0.01〜10MPaの範囲内である。重合性組成物の加熱方法としては、成形型に配設された電熱器やスチームなどの加熱手段を利用する方法や、成形型を電気炉内で加熱する方法などが挙げられる。
【0097】
(c)の方法は、シート状又はフィルム状の架橋性樹脂成形体を得るのに好適に使用される。例えば、重合性組成物の繊維状強化材への含浸は、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、及びスリットコート法等の公知の方法により繊維状強化材に塗布し、所望によりその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。重合性組成物を繊維状強化材に含浸させた後、含浸物を所定温度に加熱することで重合性組成物を塊状重合させ、所望の架橋性樹脂成形体を得る。
【0098】
繊維状強化材としては、無機系及び/又は有機系の繊維が使用でき、例えば、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、アミド繊維、ポリアリレートなどの液晶繊維などの公知のものが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組合せて用いることができる。繊維状強化材の形状としては、特に限定されず、例えば、マット、クロス、及び不織布などが挙げられる。
【0099】
繊維状強化材に重合性組成物を含浸させてなる含浸物の加熱方法としては、例えば、含浸物を支持体上に設置して前記(a)の方法のようにして加熱する方法、予め型内に繊維状強化材を設置しておき、該型内で重合性組成物を含浸させて含浸物を得、前記(b)の方法のようにして加熱する方法などが挙げられる。
【0100】
前記(a)、(b)及び(c)のいずれの方法においても、重合性組成物を重合させるための加熱温度は、通常、30〜250℃、好ましくは50〜200℃、より好ましくは90〜150℃の範囲であって、かつ架橋剤、通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以下、好ましくは1分間半減期温度の10℃以下、より好ましくは1分間半減期温度の20℃以下である。また、重合時間は適宜選択すればよいが、通常、1秒間〜20分間、好ましくは10秒間〜5分間である。重合性組成物をかかる条件で加熱することにより未反応モノマーの少ない架橋性樹脂成形体が得られるので好適である。
【0101】
以上のようにして得られる架橋性樹脂成形体を構成する重合体(シクロオレフィンポリマー)は、実質的に架橋構造を有さず、例えば、トルエンに可溶である。当該重合体の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:テトラヒドロフラン)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲である。
【0102】
本発明の架橋性樹脂成形体は、後架橋可能な樹脂成形体であるが、その構成樹脂の一部分が架橋されたものであってもよい。例えば、型内で重合性組成物を塊状重合したときには、型の中心部分は重合反応熱が発散しにくいので、型内の一部の温度が高くなりすぎる場合がある。高温部では架橋反応が起き、架橋が生ずることがある。しかし、熱を発散しやすい表面部が後架橋可能な架橋性の樹脂で形成されていれば、本発明の架橋性樹脂成形体は所望の効果を充分に発揮し得る。
【0103】
本発明の架橋性樹脂成形体は、塊状重合が実質的に完全に進行して得られるものであり、保管中にさらに重合反応が進行するという恐れがない。また、本発明の架橋性樹脂成形体は、ラジカル発生剤などの架橋剤を含有してなるが、架橋反応を起す温度以上に加熱しない限り、表面硬度が変化するなどの不具合を生じず、保存安定性に優れる。
本発明の架橋性樹脂成形体は、例えば、プリプレグとして、本発明の架橋樹脂成形体及び積層体の製造に好適に用いられる。
【0104】
(架橋樹脂成形体)
本発明の架橋樹脂成形体は、本発明の重合性組成物を塊状重合し、架橋してなるものである。かかる架橋樹脂成形体は、例えば、前記架橋性樹脂成形体を架橋することにより得られる。架橋性樹脂成形体の架橋は、該成形体を、該成形体を構成する重合体において架橋反応が生ずる温度以上に維持することによって行うことができる。加熱温度は、通常、架橋剤により架橋反応が誘起される温度以上である。例えば、架橋剤としてラジカル発生剤を使用する場合、通常、1分間半減期温度以上、好ましくは1分間半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分間半減期温度より10℃以上高い温度である。典型的には、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。加熱時間は、0.1〜180分間、好ましくは0.5〜120分間、より好ましくは1〜60分間の範囲である。また、本発明の重合性組成物を、前記架橋性樹脂成形体が架橋する温度以上に維持することにより、具体的には、ここに記載する、温度及び時間で加熱することにより、シクロオレフィンモノマーの塊状重合と、当該重合により生ずるシクロオレフィンポリマーにおける架橋反応とを共に進行させて、本発明の架橋樹脂成形体を製造することも可能である。このようにして架橋樹脂成形体を製造する場合、前記(a)の方法に準じ、例えば、支持体として銅箔を用いれば、銅張積層板〔Copper Clad Laminates (CCL)〕を得ることができる。
【0105】
(積層体)
本発明の積層体は、少なくとも、前記架橋性樹脂成形体、又は前記架橋樹脂成形体を積層してなるものである。両成形体はそれぞれ、連続的に積層されていても、他の層を挟んで間接的に積層されていてもよい。
本発明の架橋性樹脂成形体を積層してなる積層体としては、例えば、前記(a)の方法で得られる、銅箔と架橋性樹脂成形体とが層状に一体化してなるRCCが挙げられる。また、本発明の架橋樹脂成形体を積層してなる積層体としては、例えば、前記(a)の方法に準じて得られる、銅箔と架橋樹脂成形体とが層状に一体化してなるCCLが挙げられる。前記(a)の方法において、支持体として、別途得られた架橋樹脂成形体を用いれば、架橋性樹脂成形体と架橋樹脂成形体との積層体を得ることもできる。
また、架橋性樹脂成形体がシート状又はフィルム状である場合、該成形体、及び所望により、シート状又はフィルム状の架橋樹脂成形体を、任意に積層し、又はさらに、例えば、前記金属箔を積層し、熱プレスして架橋することにより、架橋樹脂成形体を積層してなる、本発明の積層体が得られる。その際、前記RCCやCCLなどの積層体を積層してもよい。熱プレスするときの圧力は、通常、0.5〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。熱プレスは、真空又は減圧雰囲気下で行ってもよい。熱プレスは、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて行なうことができる。
【0106】
本発明の積層体は、低誘電率及び低誘電正接といった、シクロオレフィンポリマーに特有の優れた電気的特性を有しており、また、該積層体を構成する架橋性樹脂成形体又は架橋樹脂成形体からなる層と、当該層に接する他の層との密着性が高く、従って、ピール強度に優れる。本発明の積層体は、さらに耐熱性にも優れる。また、本発明の架橋性樹脂成形体又は架橋樹脂成形体は、多量の充填剤を均一に分散した状態で含み得るため、かかる成形体を用いて得られる本発明の積層体は、高誘電率の充填剤を高配合した高誘電樹脂材料を必要とする、高誘電性の多層回路基板の製造などに好適に用いることができる。
【0107】
このような特徴を有する本発明の架橋性樹脂成形体、架橋樹脂成形体、及び積層体は、例えば、プリプレグ、樹脂付き銅箔、プリント配線板、絶縁シート、層間絶縁膜、オーバーコート、アンテナ基板、電磁波吸収体、電磁波シールドなどの電子部品材料として好適である。
【実施例】
【0108】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下における%及び部は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0109】
実施例及び比較例における各特性は、下記の方法に従い測定した。
(1)エステル化合物の同定
試料15mgに重クロロホルム(Aldrich社製)1.1gを加え、試料液を得た。得られた試料液を500MHzNMR(Bruker社製)を用いて測定した。
【0110】
(2)重合転化率
架橋性樹脂成形体の中央部分49cmを切り取り、トルエン 3.5mL中で樹脂を溶解させ、得られた溶液に、1%のシクロオクタンのトルエン溶液を0.3g加えた。このトルエン溶液をイソプロパノール 10mLに加え、混合液の不溶部を0.2μmのメンブランフィルターで除去し、試料液を得た。得られた試料液をガスクロマトグラフィー(島津製作所社製)で測定し、残留モノマー量の算出を行って重合転化率を求めた。
【0111】
(3)重量平均分子量(Mw)
架橋性樹脂成形体の中央部分6cmを切り取り、トルエン 3.5mL中で樹脂を溶解させ、不溶部を0.2μmのメンブランフィルターで除去し、試料液を得た。得られた試料液をトルエンを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(東ソー社製)に供し、測定結果を標準ポリスチレンの分子量に換算して樹脂のMwを求めた。
【0112】
(4)ガラス転移温度(Tg)
積層体から試験片(厚さ250μm、幅4mm×長さ35mm)を切り出し、塩化銅水溶液に浸漬し、銅箔を除去した。動的粘弾性測定装置(セイコーインスツルメント株式会社製)を用い、得られた試験片を周波数1Hzでの動的粘弾性測定に供して得られるtanδのピーク温度として架橋樹脂のTgを測定した。
【0113】
(5)ピール強度
室温(25℃)にて、積層体から銅箔(厚さ12μm)を引き剥がすときの強度をJIS C 6481に基づいて測定した。
【0114】
(6)誘電正接(tanδ)
積層体から試験片(20mm角)を切り出し、これを40℃の塩化第二鉄溶液(サンハヤト社製)に浸漬して表面の銅箔を除去した。この試験片につき、インピーダンスアナライザー( アジレントテクノロジー社製、型番号E4991)を用い、20℃にて周波数1GHzにおける誘電正接(tanδ)を容量法にて測定した。
【0115】
実施例1 テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,1 0]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸2−メタク
リロイルオキシエチルエステルの合成
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−8−エン−3− カルボン酸(本州化学社製)60部、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩70.4部、ジメチルアミノピリジン 4.5部、及びジメチルホルムアミド 300部を混合し、窒素気流下、室温にて30分間反応後、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル57.3部を加え、さらに9時間反応を行った。
反応終了後、得られた反応混合物を水に投入し、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。その後、無水硫酸ナトリウムをろ別し、ろ液から酢酸エチルを減圧下に留去し、淡黄色液体を得た。この淡黄色液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー〔ヘキサン:酢酸エチル=90:10(体積比)〕により精製して、無色液体を得た。この無色液体を試料としてH−NMRによりその構造を同定したところ、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,1 0]ドデカ−8−エン−3−カルボン酸2−メタクリロイルオキシエチルエステルであることが分かった。以下、当該エステルをエステルIという。
【0116】
実施例2 重合性組成物1の調製
ホモジナイザー中にCaTiO(平均粒径1.5μm、比誘電率120)を150部入れ、第1表面処理剤としてテトラエトキシシラン(TEOS)を2部添加した。これを120℃ で30分間攪拌することで第1表面処理工程を行った。次いで、第2表面処理剤としてメタクリロキシトリメトキシシランを2部添加して120℃ で30分間攪拌し、154部の表面処理されたCaTiOを得た。また、チタンブラック(平均粒径0.8μm、比誘電率100)、及びMg(OH)(平均粒径1.8μm、比誘電率8.6)についてもCaTiOと同様の処理を行った。
【0117】
メタセシス重合触媒として(1,3−ジメシチルイミダゾリン 2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド 0.1部、重合反応遅延剤としてジシクロへキシルホスフィン 0.2部をフラスコに入れ、ここに窒素雰囲気下でテトラヒドロフラン 2.4部を入れて触媒を溶解させ、触媒液を調製した。
【0118】
シクロオレフィンモノマーとして、2−エチリデン−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロ−1,4,5,8−ジメタノナフタレン 45.8部、ジシクロペンタジエン 22.9部及びエステルI 21.7部をガラス容器に入れ、架橋助剤として、トリメチロールプロパントリメタクリレート(製品名:NKエステル TMPT、新中村化学社製)4.4部をさらに加え、ここに各々表面処理をした、CaTiO 154部、チタンブラック 18.1部、及びMg(OH) 131部を添加して均一に混合した。さらに連鎖移動剤としてウンデシレノールモノメタクリレート(新中村化学社製)1.63部、架橋剤としてジ−t−ブチルパーオキサイド〔製品名カヤブチルD(登録商標)、化薬アクゾ社製;1分間半減期温度186℃〕0.9部、及び界面活性剤としてレオドール(登録商標)SPO−30V(花王社製)0.9部を添加してモノマー液を得た。このモノマー液に上記触媒液0.32部を添加して混合し、重合性組成物1を得た。
【0119】
実施例3 架橋性樹脂成形体1の調製
70部の重合性組成物1を、ポリエチレンナフタレートフィルム(タイプQ51、厚さ75μm、帝人デュポンフィルム社製)の上に流延し、その上にガラスクロス(2116−シランカップリング剤処理品、厚さ75μm)を敷き、さらにその上に70部の重合性組成物1を流延した。その上からさらにポリエチレンナフタレートフィルムをかぶせて、ローラーを用いて重合性組成物1をガラスクロス全体に含浸させた。130℃ に熱した加熱炉中で1分間加熱し、重合性組成物1を塊状重合させて架橋性樹脂成形体1を得た。架橋性樹脂成形体1を構成する樹脂を調べたところ、重合転化率は99.8%、Mwは32,000であった。
【0120】
実施例4 積層体1の調製
架橋性樹脂成形体1を100mm角の大きさに切り出し、これからポリエチレンナフタレートフィルムを剥がし、12枚重ねた。次いで、その両側を銅箔(F2、厚さ12μm、古河電工社製)で挟み、真空熱プレスにて圧力6MPa、温度200℃で15分間プレスして架橋を進行させ、銅箔/架橋樹脂成形体/銅箔の3層構造を有する積層体1を得た。積層体1の評価結果を表1に示す。
【0121】
実施例5 重合性組成物2、架橋性樹脂成形体2、及び積層体2の調製
2−エチリデン−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロ−1,4,5,8−ジメタノナフタレンの配合量を53.3部に、ジシクロペンタジエンの配合量を26.6部に、エステルI の配合量を10.9部に変更したこと以外は実施例2と同様にして重合性組成物2を調製した。
さらに、重合性組成物2を用い、実施例3と同様にして架橋性樹脂成形体2を、実施例4と同様にして積層体2を調製した。架橋性樹脂成形体2を構成する樹脂を調べたところ、重合転化率は98.8%、Mwは32,000であった。積層体2の評価結果を表1に示す。
【0122】
実施例6 重合性組成物3、架橋性樹脂成形体3、及び積層体3の調製
2−エチリデン−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロ−1,4,5,8−ジメタノナフタレンの配合量を55.9部に、ジシクロペンタジエンの配合量を27.9部に、エステルI の配合量を6.5部に変更したこと以外は実施例2と同様にして重合性組成物3を調製した。
さらに、重合性組成物3を用い、実施例3と同様にして架橋性樹脂成形体3を、実施例4と同様にして積層体3を調製した。架橋性樹脂成形体3を構成する樹脂を調べたところ、重合転化率は99.4%、Mwは35,000であった。積層体3の評価結果を表1に示す。
【0123】
実施例7 重合性組成物4、架橋性樹脂成形体4、及び積層体4の調製
2−エチリデン−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロ−1,4,5,8−ジメタノナフタレンの配合量を59.6部に、ジシクロペンタジエンの配合量を29.8部に、エステルI の配合量を2.2部に変更したこと以外は実施例2と同様にして重合性組成物4を調製した。
さらに、重合性組成物4を用い、実施例3と同様にして架橋性樹脂成形体4を、実施例4と同様にして積層体4を調製した。架橋性樹脂成形体4を構成する樹脂を調べたところ、重合転化率は99.5%、Mwは36,000であった。積層体4の評価結果を表1に示す。
【0124】
比較例1 重合性組成物5、架橋性樹脂成形体5、及び積層体5の調製
シクロオレフィンモノマーとして、2−エチリデン−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロ−1,4,5,8−ジメタノナフタレン 66.7部、及びジシクロペンタジエン 33.3部を用い、実施例2と同様にして重合性組成物5を調製した。
さらに、重合性組成物5を用い、実施例3と同様にして架橋性樹脂成形体5を、実施例4と同様にして積層体5を調製した。架橋性樹脂成形体5を構成する樹脂を調べたところ、重合転化率は99.1%、Mwは38,000であった。積層体5の評価結果を表1に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
表1における実施例4〜7の結果と比較例1の結果の比較から、シクロオレフィンモノマーとして本発明のエステル化合物を含む重合性組成物を用いて得られた積層体は、ピール強度に優れ、しかもTgが高く、耐熱性に優れたものであることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、nは1又は2を示し、nは1〜12の整数を示す。R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。)で表わされる脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルオキシアルキルエステル。
【請求項2】
一般式(2):
【化2】

(式中、nは1又は2を示し、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)
で表わされる脂環式モノオレフィンカルボン酸と、
一般式(3):
【化3】

(式中、nは1〜12の整数を示し、Rは、水素原子又はメチル基を示す。)
で表される(メタ)アクリル酸n−ヒドロキシアルキルとを、塩基触媒及びカルボジイミド存在下に反応させる工程を有する、請求項1に記載の脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルアルキルエステルの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の一般式(1)で表される脂環式モノオレフィンカルボン酸(メタ)アクリロイルオキシアルキルエステルを含むシクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、及び充填剤を含んでなる重合性組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の重合性組成物を塊状重合してなる架橋性樹脂成形体。
【請求項5】
請求項3に記載の重合性組成物を塊状重合し、架橋してなる架橋樹脂成形体。
【請求項6】
少なくとも、請求項4に記載の架橋性樹脂成形体、又は請求項5に記載の架橋樹脂成形体を積層してなる積層体。

【公開番号】特開2011−74293(P2011−74293A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228852(P2009−228852)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】