説明

脂環式構造含有重合体樹脂組成物及び成形体

脂環式構造含有重合体(A)と、0.5〜300nmの繊維径及び0.01〜300μmの繊維長を持つカーボンナノチューブ(B)とを含み、前記脂環式構造含有重合体(A)とカーボンナノチューブ(B)との比率(重量比)が、A/Bで100/0.01〜100/20であることを特徴とする樹脂組成物である。本発明によれば、脂環式構造含有重合体の有する良好な特性(成形性、耐熱性及び機械的強度)を保持しながら、導電性及び低アウトガス性に優れた樹脂組成物と、この樹脂組成物から成形される成形体を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
発明の属する技術分野
本発明は、導電性、低アウトガス性、成形性、耐熱性及び機械的強度に優れた樹脂組成物と、この樹脂組成物から成形される成形体とに、関する。
【背景技術】
従来、電子部品を包装、収納あるいは搬送する際の樹脂容器として、ポリスチレンやポリプロピレンなどのα−オレフィン(共)重合体が使用されている。
ところで、一般に電子部品を帯電した容器等に収容すると、帯電電圧によってその特性が変化することがある。また、電気電子機器では外部からの電磁波による誤作動や逆に発生した電磁波で他の機器を誤作動させるという問題が発生することがある。そこで、上記のようなポリスチレンやα−オレフィン(共)重合体に導電性充填剤を配合することにより帯電防止や電磁波シールドを行っている。
しかしながら、昨今では、容器に収納された電子部品は、高温に曝されることが多くなり、電子部品を収納する容器自体に高い耐熱性が要求されてきている。従来から使用されているポリスチレンやα−オレフィン(共)重合体は、一般に融点が低く、高い耐熱性への要求に対応できない。
また、電子機器は、無人化工程による製造が主流になっており、こうした工程においては電子部品を収納してラインを流れる容器の寸法精度が高いことが必要になる。
しかしながら、従来のα−オレフィン(共)重合体からは、無人化工程に対応できる程の高い寸法精度を有する容器は製造しにくい。
一方、ノルボルネン系重合体などの脂環式構造含有重合体は、これまで光学用途に使用されている熱可塑性樹脂と比較してガラス転移温度が高く、光線透過率が高く、しかも低複屈折性を示すなどの特徴を有している。このため、耐熱性、透明性及び光学特性に優れた透明熱可塑性樹脂として注目されており、いろいろな用途への展開が図られている。
しかしながら、脂環式構造含有重合体は本質的に絶縁体であるので、該重合体の導電性を上げるためにいろいろな検討が行われている。
例えば、下記特許文献1では、環状オレフィン系重合体と、炭素数8〜22のアルキル基を有するアルキルスルホン酸ナトリウムおよび/または炭素数8〜22のアルキル基を有するアルキルスルホン酸ホスホニウム塩と、からなることを特徴とする環状オレフィン系樹脂組成物が開示されている。
また、下記特許文献2では、軟化温度が70℃以上のエチレン・環状オレフィンランダム共重合体、特定の環状オレフィンの開環重合体、または、この開環重合体の水添物のいずれかの環状オレフィン系重合体と、これらの樹脂成分100重量部に対して、導電性充填剤5〜100重量%とからなることを特徴とする樹脂組成物が開示されている。
また、下記特許文献3では、ノルボルナン骨格を有する熱可塑性樹脂の成形体において、内部及び/又は表面に帯電防止剤を有し、全光線透過率が85%以上の帯電防止透明樹脂成形体が開示されている。
更に、下記特許文献4では、環状ポリオレフィン系樹脂と多価アルコール縮合物の脂肪飽和酸(部分)エステルとを含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
しかしながら、各特許文献に記載されている樹脂組成物を、例えば、シリコンウエハ、マスク原板、フォトマスク、磁気ディスク基板、液晶ディスプレイ基板、プリント基板などの精密基板を収納する容器やDNAチップ基板、蛍光プレートなどの蛍光測定用トレイなどに用いると、充填剤の脱離が起こったり、導電性が不十分だったり、ガスやイオンが溶出する問題があったり、さらに元の脂環式構造含有重合体樹脂の樹脂特性が損なわれたりする(例えば、成形性(流動性)の低下、機械強度の低下、表面平滑度の低下)などの問題があることがわかった。
特許文献1 特開平5−9351号公報
特許文献2 特開平5−156100号公報
特許文献3 特開平7−252404号公報
特許文献4 特開2000−53846号公報
【発明の開示】
本発明の目的は、脂環式構造含有重合体の有する良好な特性(成形性、耐熱性及び機械的強度)を保持しながら、導電性及び低アウトガス性に優れた樹脂組成物を提供することにある。また本発明の他の目的は、この樹脂組成物から成形される成形体を提供することにある。
本発明者は、鋭意検討した結果、脂環式構造含有重合体とカーボンナノチューブとからなる樹脂組成物を用いることにより、上記目的を達成することができることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、脂環式構造含有重合体(A)と、0.5〜300nmの繊維径及び0.01〜300μmの繊維長を持つカーボンナノチューブ(B)とを含み、前記脂環式構造含有重合体(A)とカーボンナノチューブ(B)との比率(重量比)が、A/Bで100/0.01〜100/20であることを特徴とする樹脂組成物が提供される。
好ましくは、前記脂環式構造含有重合体(A)が、ノルボルネン系重合体である。
好ましくは、前記脂環式構造含有重合体(A)が、ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素添加物である。
好ましくは、前記脂環式構造含有重合体(A)が、60℃以上のガラス転移温度を持つものである。
本発明によれば、上記いずれかの樹脂組成物を成形して得られる成形体が提供される。
この成形体は、好ましくは、1012Ω/□以下の表面抵抗を持つ。
この成形体は、好ましくは、精密基板の収納容器またはバイオ用検査容器である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の樹脂組成物は、脂環式構造含有重合体樹脂(A)と、カーボンナノチューブ(B)とを含んで構成される。
本発明で使用する脂環式構造含有重合体樹脂(A)とは、主鎖及び/又は側鎖に脂環式構造を有するものであり、機械強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有するものが好ましい。
重合体の脂環式構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が最も好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合がこの範囲にあると成形体の透明性および耐熱性の観点から好ましい。
脂環式構造含有重合体の具体例としては、例えば、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び(1)〜(4)の水素添加物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系重合体の水素添加物、ビニル脂環式炭化水素重合体及びその水素添加物が好ましい。
(1)ノルボルネン系重合体
ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体及びノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体、ならびにこれらの水素添加物、ノルボルネン系モノマーの付加重合体及びノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとの付加共重合体などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素添加物が最も好ましい。
ノルボルネン系モノマーとしては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,7−ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)及びその誘導体、7,8−ベンゾトリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3−エン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう:慣用名メタノテトラヒドロフルオレン)及びその誘導体、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体、などが挙げられる。
置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基などが例示でき、上記ノルボルネン系モノマーは、これらを2種以上有していてもよい。具体的には、8−メチル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エンなどが挙げられる。
これらのノルボルネン系モノマーは、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
これらノルボルネン系モノマーの開環重合体、またはノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体は、モノマー成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物、及び還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとしては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などを挙げることができる。
ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素添加物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
ノルボルネン系モノマーの付加重合体、またはノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとの付加(共)重合体は、これらのモノマーを、公知の付加重合触媒、例えば、チタン、ジルコニウム又はバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いて(共)重合させて得ることができる。
ノルボルネン系モノマーと付加共重合可能なその他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなどの炭素数2〜20のα−オレフィン、及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィン、及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが用いられる。これらの中でも、α−オレフィン、特にエチレンが好ましい。
これらの、ノルボルネン系モノマーと共重合可能なその他のモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとを共重合する場合は、共重合体中のノルボルネン系モノマー由来の構造単位と共重合可能なその他のモノマー由来の構造単位との割合が、重量比で通常30:70〜99:1、好ましくは50:50〜97:3、より好ましくは70:30〜95:5の範囲となるように適宜選択される。
(2)単環の環状オレフィン系重合体
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を用いることができる。
(3)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−または1,4−付加重合した重合体及びその水素添加物などを用いることができる。
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びその水素添加物;スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素添加物;などが挙げられ、ビニル脂環式炭化水素重合体やビニル芳香族系単量体と、これらの単量体と共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体、ブロック共重合体などの共重合体及びその炭素−炭素二重結合(芳香環部分も含む)水素添加物など、いずれでもよい。ブロック共重合体としては、ジブロック、トリブロック、またはそれ以上のマルチブロックや傾斜ブロック共重合体などが挙げられ、特に制限はない。
脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を含有してなる構造のうち、ノルボルナン環を有さない脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上、特に好ましくは50重量%以上である。ノルボルナン環を有さない脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合の多い方が特に熱収縮後の防湿性、機械強度に優れ好ましい。
中でも、ノルボルナン環を有さない脂環式構造を含有してなる繰り返し単位を前記範囲で有するノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素添加物が好ましい。
開環重合体の水素添加物としたとき、ノルボルナン環を有さない脂環式構造を含有してなる繰り返し単位を持つモノマーとしては、ノルボルネン(置換基を有するものも含む);ノルボルネン環に例えば5員環や芳香環などのノルボルネン環以外の環が結合したノルボルネン系モノマー;が挙げられる。ノルボルネン環に例えば5員環や芳香環などのノルボルネン環以外の環が結合したノルボルネン系モノマーとしては、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,7−ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)及びその誘導体(環に置換基を有するもの)、7,8−ベンゾトリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3−エン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう:慣用名メタノテトラヒドロフルオレン)及びその誘導体が挙げられる。
脂環式構造含有重合体の分子量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロヘキサン溶液(重合体が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常5,000〜500,000、好ましくは8,000〜250,000、より好ましくは10,000〜200,000の範囲であるときに、樹脂の機械的強度及び成形加工性とが高度にバランスされて好適である。
脂環式構造含有重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは60℃以上、より好ましくは90℃〜170℃の範囲である。脂環式構造含有重合体のガラス転移温度を前記範囲にすることにより、高温下での使用においても変形や応力が生じることがなく耐久性に優れた成形体を得ることができる。脂環式構造含有重合体のガラス転移温度が前記下限温度を下回ると耐熱性の点で問題となる傾向があり、逆に上記上限温度を超えると加工性が低下する傾向がある。
本発明で使用するカーボンナノチューブ(B)とは、炭素六角網面が円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造をした材料のことである。単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また部分的にカーボンナノチューブの構造を有している炭素材料も使用できる。また、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブ、グラファイトナノファイバーといった名称で称されることもある。
カーボンナノチューブは、例えば炭素電極間にアーク放電を発生させ、放電用電極の陰極表面に成長させる方法、シリコンカーバイドにレーザービームを照射して加熱・昇華させる方法、遷移金属系触媒を用いて炭化水素を還元雰囲気下の気相で炭化する方法などによって製造することができる。製造方法の違いによって得られてくるカーボンナノチューブのサイズや形態は変わってくるが、いずれの形態のものも使用できる。
本発明では、カーボンナノチューブとして、繊維径が0.5〜300nm、繊維長が0.01〜300μm、好ましくは繊維径が5〜200nm、繊維長が1〜200μmであるものを用いる。繊維径と繊維長が特定範囲のカーボンナノチューブを用いる理由は、少量で導電性の付与が可能であること、カーボンナノチューブの脱離を少なくできること、などによる。
上述した脂環式構造含有重合体(A)とカーボンナノチューブ(B)との比率(重量比)は、A/Bで100/0.01〜100/20、好ましくは100/0.1〜100/10、さらに好ましくは100/0.2〜100/5である。(A)と(B)との比率(重量比)が、A/Bで大きすぎると導電性が悪くなる傾向にあり、小さくなりすぎると加工性が劣る傾向にある。
本発明の樹脂組成物には、脂環式構造含有重合体(A)及びカーボンナノチューブ(B)の他に、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、カーボンナノチューブ以外の有機又は無機の充填材、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止材、抗菌剤やその他の樹脂、熱可塑性エラストマーなどの公知の添加剤を発明の効果が損なわれない範囲で添加することができる。
本発明の樹脂組成物を得る方法としては、例えば、▲1▼脂環式構造含有重合体(A)とカーボンナノチューブ(B)、及び/又は他の添加剤とを、二軸押出機、ロール混練機などを用いて混合することによりペレット状の樹脂組成物を得る方法、▲2▼脂環式構造含有重合体(A)とカーボンナノチューブ(B)、及び/又は他の添加剤とを、適当な溶剤に溶解して分散させ凝固する方法、などが挙げられる。二軸混練機を用いる場合、通常、混錬後に溶融状態でストランド状に押し出し、ペレタイザーにてペレット状にカットして用いる。
本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物を成形して得られる。
本発明の成形体の表面抵抗は、好ましくは1012Ω/□以下、さらに好ましくは10Ω/□以下である。成形体の表面抵抗を前記範囲にすることにより、静電気の発生が抑えられ、本発明の成形体と該成形体に収められた物体との間又は成形体内の近接する物体との間に、放電が起こらなくなるので、物体の保護又は帯電による塵付着の抑制が可能となる。
本発明の成形体を得る方法としては、特に限定されず、加熱溶融成形法、及び溶液流延法のいずれをも用いることができる。加熱溶融成形法は、さらに詳細に、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、射出成形法、ブロー成形法などに分類できる。また、成形体の形状にも特に制限はなく、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、繊維状、フィルムまたはシート形状など種々の形態にすることができる。
本発明の成形体は、導電性、低アウトガス性、耐熱性及び機械的強度に優れているので、種々の用途に好適である。例えば、シリコンウエハ(集積回路チップなどの半導体部品への加工過程にあるウエハ基板を含む)、マスク原板、フォトマスク、磁気ディスク基板、液晶ディスプレイ基板、プリント基板などの精密基板を収納する容器、梱包袋;精密製版、電子製版などの製版を収納する容器、梱包袋;ハードディスク用部品などの精密電子部品を収納する容器、梱包袋;レンズ、プリズムなどの精密光学部品を収納する容器、梱包袋;マイクロチップなどのバイオデバイスを製造過程で一時的に保管したり、製造又は加工前後に保管したりするための容器、梱包袋;シリンジ、カテーテル、透析装置などの医療器具;菌体培養液や化学分析試薬、半導体製造過程で使用される洗浄用薬液及び液晶などの高純度薬液用容器及び配管、チューブ;UVプレート、蛍光プレート、りん光プレート、DNAチップ基板などのバイオ用検査容器;宇宙・航空機器部品;微量分析・精密分析用装置;ハードディスクドライブ用部品や筐体;コピー、プリンター用の除電ロール等の部品;ピンセット、ペン、ドライバー;燃料電池用セパレーター;フィルムコンデンサーの導電層;トナー;導電性塗料などが挙げられる。中でも、精密基板を収納する容器やバイオ用検査容器などに特に好適である。
【実施例】
本発明を、参考例、及び実施例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお部及び%は特に断りのない限り重量基準である。
本実施例における評価は、以下の方法によって行った。
(1)分子量
シクロヘキサン(重合体が溶解しない場合はトルエン)を溶媒にして、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリイソプレン(またはポリスチレン)換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
(2)ガラス転移温度(Tg)
JIS−K7121に基づいて、示差走査熱量分析法(DSC)で測定した。
(3)水素添加率
重合体の主鎖及び芳香環の水素添加率は、H−NMRを測定して算出した。
(4)表面抵抗値
温度23℃において、ASTM−D257に従って測定した。
(5)曲げ強度及び曲げ弾性率
温度23℃において、ASTM−D790に従って測定した。
(6)引張伸び
温度23℃において、ASTM−D638に従って測定した。
(7)磨耗試験
温度23℃において、ASTM−D1044に従って測定した。ただし、磨耗輪CS17,荷重500g、サイクル1000回とした。
(8)アイゾット衝撃強度
温度23℃において、ASTM−D256に従って測定した。
(9)脱離パーティクル数
成形体を超純水中で5分間超音波洗浄して表面の付着物を洗浄後、超純水300ml中に表面積114.3cmの射出成形板を投入し、5分間振とう器にかけた。その後、リキッドパーティクルカウンターに注入して、10ml中の0.5μm以上のパーティクル数を測定した。
(10)アウトガス量
長さ200mm、呼び径1/2インチのSUS316L−EP管の両末端にフランジを介して長さ4000mmの呼び径1/4インチのSUS316L−EP管をそれぞれ連結した配管に、予め400℃に加熱した高純度アルゴンガス気流を2時間通して内側表面に吸着していた水分や有機物を除去した。その後、幅8mm、厚さ1mm、表面積100cmの短冊状の試験片を管内に挿入し、両末端にブランクフランジをして配管ごと100℃の沸騰水に浸し、300分後、市販の活性炭チューブをSUS管壁に取り付けられたバルブに連結して内部の気体を連続的に捕集し、熱脱着ガスクロマトグラフィー−質量分析計(以下、「TDS−GC−MS」と記す。)で分析して成形体1gあたりの有機物の積算放出量を測定した。
(11)メルトインデックス
JIS−K7210に基づいて、荷重測定温度280℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
(参考例1)
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500部に、1−ヘキセン0.82部、ジブチルエーテル0.15部、及びトリイソブチルアルミニウム0.30部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、トリシクロ〔4.3.0.12,〕デカ−3,7−ジエン(ジシクロペンタジエン、以下、「DCP」と略記する。)170部と、8−エチリデン−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,1〕−ドデカ−3−エン(エチリデンテトラシクロドデセン、以下、「ETD」と略す。)30部と、六塩化タングステン(0.7%トルエン溶液)80部とを、2時間かけて連続的に添加し重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06部とイソプロピルアルコール0.52部を加えて重合触媒を不活性化し重合反応を停止させた。
次いで、得られた開環重合体を含有する反応溶液100部に対して、シクロヘキサン270部を加え、さらに水素添加触媒としてニッケル−アルミナ触媒(日揮化学社製)5部を加え、水素により5MPaに加圧して撹拌しながら温度200℃まで加温した後、4時間反応させ、DCP/ETD開環共重合体水素添加物を20%含有する反応溶液を得た。濾過により水素化触媒を除去した後、前記水素添加物100部あたり0.1部のヒンダードフェノール系酸化防止剤(テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン)を、得られた溶液に添加して溶解させた。次いで、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所製)を用いて、温度270℃、圧力1kPa以下で、溶液から、溶媒であるシクロヘキサン及びその他の揮発成分を除去しつつ水素添加物を溶融状態で押出機からストランド状に押出し、冷却後ペレット化してペレットを回収した。この開環共重合体水素添加物の、重量平均分子量(Mw)は35,000、水素添加率は99.8%、Tgは105℃、比重は1.01であった。
(参考例2)
径7mm、長さ48mmのグラファイト製スティックに、先端から中心軸に沿って径3mm、深さ29mmの穴を開け、この穴にロジウム:白金:グラファイト=5:5:2の混合粉末を詰めてカーボンナノチューブ製造用陽極を作成した。一方、99.998%純度のグラファイトからなる径14mm、長さ31mmの陰極を作成した。これらの電極を真空チャンバーの中に設置し、純度99.9%のヘリウムガスでチャンバー内部を置換し、直流アーク放電を行った。陽極と陰極の間隔を常に1〜2mmに制御し、圧力600torr、電流70Aで放電を行った。陰極上に生成したカーボンナノチューブを取り出した。繊維径10nm(内径5nm、外径10nm)、繊維長1〜50μmの単層及び複層のグラファイト層からなるカーボンナノチューブが得られた。
【実施例1】
参考例1で得られたペレット100部と参考例2で得られたカーボンナノチューブ1部とを、二軸押出機(東芝機械社製TEM−35B、スクリュー径37mm、L/D=32、スクリュー回転数250rpm、樹脂温度210℃、フィードレート10kg/時間)で混練して押し出し、ペレット化した。このペレットを、サイドゲート金型方式の射出成形装置(東芝機械株式会社製の製品番号IS450)を用いて、射出成形を行い、厚さ1.3mmの平板、曲げ試験用試験片、アイゾット衝撃試験用試験片等の成形体を得た。成形条件は、金型温度80℃、シリンダー温度280℃、ノズル温度260℃とした。こうして得られた成形体の測定結果及び評価結果を表1に示す。
【実施例2】
実施例1のカーボンナノチューブ量を10部用いる他は、実施例1と同様に成形体を得た。得られた成形体の測定結果及び評価結果を表1に示す。
比較例1
参考例1で得られたペレット100部とカーボンナノチューブの代わりに導電性カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル(社)製、ケッチェンブラックEC、粒径30nm)10部を用いる他は、実施例1と同様に成形体を得た。得られた成形体の測定結果及び評価結果を表1に示す。
比較例2
カーボンナノチューブの代わりに導電性カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル(社)製、ケッチェンブラックEC、粒径30nm)1部を用いる他は、実施例1と同様に成形体を得た。得られた成形体の測定結果及び評価結果を表1に示す。
比較例3
参考例2で得られたカーボンナノチューブを用いず、参考例1で得られたペレット100部のみを用いる他は、実施例1と同様に成形体を得た。得られた成形体の測定結果及び評価結果を表1に示す。
比較例4
参考例1で得られたペレット100部と参考例2で得られたカーボンナノチューブ25部を用いる他は、実施例1と同様に成形体を得た。得られた成形体の測定結果及び評価結果を表1に示す。

表1の結果から以下のことがわかる。実施例に示すように、本発明の樹脂組成物(脂環式構造含有重合体(A)と、0.5〜300nmの繊維径及び0.01〜300μmの繊維長を持つカーボンナノチューブ(B)とを含み、前記脂環式構造含有重合体(A)とカーボンナノチューブ(B)との比率(重量比)が、A/Bで100/0.01〜100/20である)を成形して得られる成形体は、導電性、低アウトガス性、成形性、耐熱性及び機械的強度(引張伸び、磨耗試験、アイゾット衝撃強度)に優れ、脱離パーティクル数も少ないことが確認された。
一方、カーボンナノチューブを加えるかわりにケッチェンブラックを加えたもの(比較例1)は、表面抵抗を下げるためにケッチェンブラックを多く用いなければならず、それによって、脱離パーティクル数及びアウトガス量が多くなり、メルトインデックスが低下(すなわち、成形性の低下)してしまうことが確認された。またカーボンナノチューブのかわりにケッチェンブラックをカーボンナノチューブと同量入れたもの(比較例2)は、導電性が不十分であるほか、脱離パーティクル数及びアウトガス量が多くなることが確認された。カーボンナノチューブを入れていないもの(比較例3)は、導電性が不十分であるほか、引張伸びが悪い。カーボンナノチューブを多く加えたもの(比較例4)は、脱離パーティクル数が多く、メルトインデックスが低下(すなわち、成形性の低下)してしまうことが確認された。
【産業上の利用可能性】
本発明の樹脂組成物は、脂環式構造含有重合体の有する良好な特性(成形性、耐熱性及び機械的強度)を保持しながら、導電性、低アウトガス性に優れるので、これを成形して得られる成形体は、種々の用途、特に、精密基板を収納する容器やバイオ用検査容器に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造含有重合体(A)と、0.5〜300nmの繊維径及び0.01〜300μmの繊維長を持つカーボンナノチューブ(B)とを含み、
前記脂環式構造含有重合体(A)とカーボンナノチューブ(B)との比率(重量比)が、A/Bで100/0.01〜100/20であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂環式構造含有重合体(A)が、ノルボルネン系重合体である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂環式構造含有重合体(A)が、ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素添加物である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂環式構造含有重合体(A)が、60℃以上のガラス転移温度を持つものである請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【請求項6】
1012Ω/□以下の表面抵抗を持つ請求項5に記載の成形体。
【請求項7】
精密基板の収納容器である請求項5に記載の成形体。
【請求項8】
バイオ用検査容器である請求項5に記載の成形体。

【国際公開番号】WO2004/029152
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【発行日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539493(P2004−539493)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012137
【国際出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】