説明

脂環式飽和炭化水素化合物の製造方法

【課題】193nmにおける透過率に優れる液浸露光用液体として好適な脂環式飽和炭化水素化合物の透過率をより向上させることができると共に、製造コストを抑え、安定的に液浸露光用液体を工業的に製造する。
【解決手段】波長193nmにおける液体の光路長1mmあたりの透過率の平均値が99%以上である脂環式飽和炭化水素化合物を製造する方法であって、原料脂環式飽和炭化水素化合物をアルミナ、シリカアルミナおよびゼオライトから選ばれた少なくとも1つの吸着剤に2時間〜20時間接触させる液接触工程を含み、該工程に用いられる上記吸着剤の形状がペレットまたはビーズなどの粒塊である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂環式飽和炭化水素化合物の製造方法に関し、特に液浸露光装置または液浸露光方法に用いるために透過率を向上させることができる脂環式飽和炭化水素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等を製造するのに際し、フォトマスクとしてのレチクルのパターンを投影光学系を介して、フォトレジストが塗布されたウエハ上の各ショット領域に転写するステッパー型、またはステップアンドスキャン方式の投影露光装置が使用されている。
投影露光装置に備えられている投影光学系の解像度の理論限界値は、使用する露光波長が短く、投影光学系の開口数が大きいほど高くなる。そのため、集積回路の微細化に伴い投影露光装置で使用される放射線の波長である露光波長は年々短波長化しており、投影光学系の開口数も増大してきている。
このように、半導体素子等の製造分野においては、従来、露光光源の短波長化、開口数の増大により集積回路の微細化要求に応えてきており、現在では露光光源としてArFエキシマレーザ(波長193nm)を用いた1L1S(1:1ラインアンドスペース)ハーフピッチ90nmノードの量産化が検討されている。しかしながら、更に微細化が進んだ次世代のハーフピッチ65nmノードあるいは45nmノードについてはArFエキシマレーザの使用のみによる達成は困難であるといわれている。そこで、これらの次世代技術についてはF2エキシマレーザ(波長157nm)、EUV(波長13nm)等の短波長光源の使用が検討されている。しかしながら、これらの光源の使用については技術的難易度が高く、現状ではまだ使用が困難な状況にある。
【0003】
ところで、上記の露光技術においては、露光されるウエハ表面にはフォトレジスト膜が形成されており、このフォトレジスト膜にパターンが転写される。従来の投影露光装置では、ウエハが配置される空間は屈折率が1の空気または窒素で満たされている。
屈折率nの液体を投影露光装置のレンズとウエハの間に満たし、適当な光学系を設定することにより、解像度の限界値および焦点深度をそれぞれn分の1、n倍にすることが理論的に可能である。例えば、ArFプロセスで、レンズとウエハの間に満たす液体として水を使用すると波長193nmの光の水中での屈折率nはn=1.44であるから、空気または窒素を媒体とする露光時と比較し、解像度が69.4%、焦点深度が144%となる光学系の設計が理論上可能となる。
このように露光するための放射線の実効波長を短波長化し、より微細なパターンを転写できる投影露光する方法を液浸露光といい、今後のリソグラフィーの微細化、特に数10nm単位のリソグラフィーには、必須の技術と考えられている。
【0004】
本願出願人は、液浸露光方法において、従来液浸露光用液体として使用されている純水よりも屈折率が大きく、優れた透過性を有し、フォトレジスト膜あるいはその上層膜成分(とりわけ親水性成分)の溶出や溶解を防ぎ、レンズを浸食せずレジストパターンの生成時の欠陥を抑えることができ、液浸用液体として使用した場合、より解像度および焦点深度の優れたパターンを形成できる液浸露光用液体の提供を目的として、種々の化合物について検討を行なった結果、遠紫外領域における吸収が小さく、液浸露光用液体として好適な高屈折率を有する脂環式飽和炭化水素化合物について出願している(特許文献1)。
しかし、公知の方法で合成され、または市場で入手できる脂環式飽和炭化水素化合物を液浸露光用液体に用いた場合、一般に遠紫外領域に大きな吸収を有するため、透過率の不足により、感度低下に伴うスループットの低下、液体の光吸収による液体の発熱による屈折率変動に起因する光学像のデフォーカス、歪み、あるいは光学像のデフォーカスによる解像度、パターン形状の劣化等の問題が生じる場合があった。
【0005】
遠紫外領域における吸収は、非常に微量であっても透過率に大きく影響する炭素−炭素不飽和結合または芳香族環を有する化合物、カルボニル基、水酸基等の官能基を有する化合物が不純物として原料となる脂環式飽和炭化水素化合物に僅かに存在しているためと考えられることから、処理温度の異なる複数の硫酸洗浄処理工程を含み、少なくとも最終硫酸洗浄処理工程の処理温度が該洗浄処理工程より前の処理工程の処理温度よりも低い処理温度で処理することを特徴とする方法を本発明者等は既に提案している(特許文献2)。 また、吸着剤を用いて脂環式飽和炭化水素化合物を精製する方法が開示されている(特許文献3および4)。
しかしながら、上記精製方法であっても脂環式飽和炭化水素化合物の193nmにおける透過率が十分に向上しなかったり、工数が煩雑になったりするという問題がある。例えば特許文献3の方法では193nmにおける透過率を光路長1mmあたり99%以上に高められない。また特許文献4の方法では透過率を高めるのに2種類の吸着剤を使用しなくてはならないという問題がある。更に、特許文献3および特許文献4の方法では、液浸露光用液体の工業的製造を図ろうとした場合に、効率よく脂環式飽和炭化水素化合物を吸着剤で処理できないという問題がある。
【0006】
吸着剤処理によって液浸露光用液体の工業的製造を実施する手法としては、固定層法、攪拌槽吸着法、移動層法、流動層法などが挙げられるが、一般的には固定層法または攪拌槽吸着法がよく用いられる。しかし攪拌槽吸着法によって、193nmにおける透過率を光路長1mmあたり99%以上となるように脂環式飽和炭化水素化合物中の不純物を除去しようとした場合、バッチ攪拌操作を複数回実施する必要がある。場合によっては3回以上のバッチ攪拌操作が必要となるため、工程数や設備点数が増加し、製品コストが上昇したり品質管理が困難になったりする可能性がある。一方、固定層法の工程は簡素であり、設備点数が少ない。また、吸着処理に必要な吸着剤量が攪拌槽法より少なくなるため、製品コストを下げることができる。固定層法では、吸着剤単位重量あたりで除去できる不純物量が多くなるためである。
【0007】
吸着剤の粒子径は、不純物を吸着する速度に大きく関与する。例えば粉末状の吸着剤は表面積が大きいため、ペレット状やビーズ状の吸着剤と比較して吸着速度が大きい。すなわち、固定層式で粉末状の吸着剤を使用する場合、カラム長を短くできるため小型装置が必要とされるオンサイトでの吸着処理に適する。ここで、「ペレット」とは円柱状の固体を指し、「ビーズ」とは球状の固体のことを指す。
しかし、粉末状の吸着剤を使用すると圧力損失が大きくなるという問題がある。同一の送液ポンプを使用する場合は流速を低減させる必要があるが、流量低下に伴って生産性が低下するため好ましくない。流量を維持するためにはカラム直径を大きくする必要があるが、カラム直径が大きくなるとカラム内の流れに偏りが生じやすくなり、不純物除去が不十分である脂環式飽和炭化水素化合物が得られてしまう可能性がある。
また、液浸露光用液体を固定層式で、かつ粉末状の吸着剤を使用して工業的製造を図ろうとした場合、ハンドリングが悪いという問題がある。粒径が数〜数100μmの粉末はカラムや攪拌槽への投入時に舞い上がりやすく、作業性が悪い。作業員が好適に作業し、周囲の環境を汚染させないためには、粉塵除去設備などを設置して吸着剤を回収する必要がある。しかし、回収した吸着剤は、液浸露光用液体という製品の品質上、廃棄せざるを得ない。
【特許文献1】WO2005/114711
【特許文献2】特願2006−329265
【特許文献3】WO2005/119371
【特許文献4】WO2006/115268
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題に対処するためになされたもので、吸着剤を用いる精製方法で、193nmにおける透過率に優れる液浸露光用液体として好適な脂環式飽和炭化水素化合物の透過率をより向上させることができると共に、製造コストを抑え、安定的に液浸露光用液体を工業的に製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
吸着剤を用いる精製方法で、脂環式飽和炭化水素化合物に含まれる不純物を効率よく除去することに関して種々の検討を行なった。
吸着剤の形状および粒径はカラム内部の圧力損失に関与している。粒径の小さい粉末状の吸着剤を使用した場合は送液ポンプの能力で流速が制限され、期待した流量以下となる場合がある。この問題は粒径が大きいペレット状またはビーズ状等の粒塊状の吸着剤を使用すれば解決できる。粒塊の粒径が大きくなるに従って、不純物を吸着する速度が低下する問題があるが、充填高の増加および滞留時間の延長によって、粉末状の吸着剤を使用した場合と同等の透過率の脂環式飽和炭化水素化合物を得ることができた。
本発明は上記知見に基づきなされたものである。すなわち、本発明の脂環式飽和炭化水素化合物の製造方法は、波長193nmにおける液体の光路長1mmあたりの透過率の平均値が99%以上である脂環式飽和炭化水素化合物を製造する方法であって、原料脂環式飽和炭化水素化合物を吸着剤に接触させる液接触工程を含み、該工程に用いられる上記吸着剤の形状が粒塊であることを特徴とする。
特に上記粒塊がペレットまたはビーズであることを特徴とする。
また、上記液接触工程において、原料と吸着剤とを接触させる接触時間が0.5時間〜20時間であることを特徴とする。
また、上記吸着剤は、アルミナ、シリカアルミナおよびゼオライトから選ばれた少なくとも1つの吸着剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
粉末の吸着剤ではなく、ペレットなどの粒塊の吸着剤を使用することによって、圧力損失を低減させることができた。これによって、送液ポンプの能力を極端に上げたり、カラム直径を大きくしたりする必要がなくなり、製造コストを抑えることができる。また、吸着剤の充填高さと脂環式飽和炭化水素化合物の滞留時間を調節することによって、粉末の吸着剤を使用した場合と同等の透過率99.5%/mmの脂環式飽和炭化水素化合物を得ることができる。
この製造方法で精製された脂環式飽和炭化水素化合物を使用することにより、光吸収による発熱を抑えることができ、屈折率変動に起因する光学像のデフォーカス、歪み、あるいは光学像のデフォーカスによる解像度、パターン形状の劣化等の問題を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の製造方法により製造される脂環式飽和炭化水素化合物は、波長193nmにおける光の透過率が液体の光路長1mmあたり99%以上である。
光路長1mmあたりの透過率Tと光路長1cmあたりの吸光度Aとの間には、

T(%) = 100 × 10−0.1A

の関係があるので、光路長1mmあたり99%以上の透過率は、光路長1cmあたりの吸光度0.0437以下に相当する。
本発明の製造方法において、透過率は複数の測定結果の平均値として表される値である。また、3σ値は0.1以下である。ここでσ値は透過率の測定値が正規分布をするとして計算された測定試料の標準偏差である。好ましくは測定数が5以上の統計値である。
透過率の平均値および3σ値が上記範囲となることにより、光吸収による発熱を抑えることができ、屈折率変動に起因する光学像のデフォーカス、歪み、あるいは光学像のデフォーカスによる解像度、パターン形状の劣化等の問題を再現性よく抑えることができる。
【0012】
原料となる脂環式飽和炭化水素化合物と吸着剤との接触は、吸着剤を適当な時間原料化合物に浸漬させる方法、吸着剤と原料化合物を適当な時間撹拌混合する方法、吸着剤をカラムに充填して原料化合物を通過させるカラムクロマトグラフィー法が挙げられる。
【0013】
上記カラムは、吸着剤が内部に充填されている容器である。好ましくは両端に開口部を有する筒状の容器であり、一方の開口部より原料となる脂環式飽和炭化水素化合物を投入し、精製物が他方の開口部より回収できる容器である。カラムに充填した吸着剤の粒子密度(ρp(g/cm3))と嵩密度(ρb(g/cm3))とから算出される充填率(100ρb/ρp)は15%以上が好ましい。粒子密度ρpは、ピクノメーターを用いて測定することができ、嵩密度ρb(g/cm3)はカラムに吸着剤をいれ、そのときの単位体積あたりの吸着剤の質量として算出できる。
【0014】
本発明で使用できる吸着剤は、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト、またはこれらを組み合わせて得られる酸化物である。
アルミナは組成式がAl23で表される酸化物である。シリカアルミナは無定形シリカ・アルミナと称されるものであり、ゼオライトは、結晶性アルミノケイ酸塩と称されるものである。
【0015】
吸着剤の形状は、粉末状ではなく、粉末よりも粒子径が大きい粒塊である。粒塊の平均粒子径は篩い分け法で測定して0.5mm〜50mmであることが好ましい。
0.5mm未満であると圧力損失の増大によって流量の制限が必要になったり、作業中に飛散しやすく取り扱いが困難であったりするため、工業的に有用でなく、50mmをこえると、不純物の吸着速度が著しく低下し、生産性が低下するため好ましくない。
粒塊の形状としては、平均粒径として数mm〜数cm程度を有する、粒子状、球状、円柱状、角柱状、円筒状、角筒状等の形状をした塊が挙げられる。
好ましい粒塊としては、ペレットまたはビーズである。
【0016】
原料の脂環式飽和炭化水素化合物と上記吸着剤とを接触させる接触時間は、0.5時間〜20時間、好ましくは2時間〜20時間、より好ましくは4時間〜10時間である。
ここで接触時間は、大気圧下、接触温度25℃において、[吸着剤の体積(ml)/脂環式飽和炭化水素化合物の流速(ml/h)]として定義される滞留時間である。接触時間が0.5時間未満であると不純物を含有した低透過率の1,1'−ビシクロヘキシルなどの脂環式飽和炭化水素化合物が流出する可能性があるため好ましくない。また、接触時間が20時間をこえると処理効率が低下し、生産量の減少および製品価格の上昇の原因となるため好ましくない。
【0017】
本発明で使用できる吸着剤は、以下の方法により評価したとき、上記吸着剤に接触させた後の吸光度と、上記吸着剤に接触させる前の脂環式飽和炭化水素化合物の吸光度との比が1.1以下であれば使用できる。
<評価方法>
ガラス製容器内に波長193nmにおける液体の光路長1cmあたり0.0437以下の脂環式飽和炭化水素化合物30mlを入れ、この脂環式飽和炭化水素化合物中に1.5gの吸着剤を加えて窒素雰囲気下において、25℃で72時間静置する。吸着剤に接触させる前の吸光度(A)と、接触させた後の吸光度(B)とを波長193nmの光で測定し、その吸光度比(B/A)を算出する。
【0018】
本発明で使用するために、吸着剤は200〜500℃、好ましくは250〜500℃の温度で使用前に焼成することが好ましい。200℃未満の焼成であると、上記評価の値を達成することができなくなり、500℃をこえると粒塊の形状を維持できなくなる場合がある。
【0019】
本発明の製造方法において、原料となる脂環式飽和炭化水素化合物を上記吸着剤と不活性ガス雰囲気内で接触させる。
本発明に使用できる不活性ガスは、25℃で大気圧下において脂環式飽和炭化水素化合物と接触することにより、該化合物の193nmにおける透過率を低下させない気体をいう。
上記不活性ガスとしては、ヘリウム、アルゴンなどの希ガス、窒素ガス等が挙げられる。工業的利用のしやすさから窒素ガスが好ましい。
また、上記不活性ガスは脂環式飽和炭化水素化合物の透過率を低下させる要因となる成分を含まないことが好ましい。透過率を低下させる成分としては酸素、炭化水素(特に不飽和炭化水素)等が挙げられる。
本発明の製造方法において、酸素濃度が0.1体積%以下、炭化水素濃度が1体積ppm以下である不活性ガス、特に酸素濃度が0.1体積%以下、炭化水素濃度が1体積ppm以下である窒素ガスが好ましい。酸素濃度が0.1体積%以下、炭化水素濃度が1体積ppm以下である窒素ガス雰囲気下で原料となる脂環式飽和炭化水素化合物と吸着剤とを接触させることにより、透過率の平均値が99%以上、3σ値が0.1以下の脂環式飽和炭化水素化合物が得られる。
なお、酸素濃度の測定は大気圧イオン化質量分析法により、炭化水素濃度は水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフィ法により、それぞれ測定できる。
【0020】
上記形状の吸着剤を用いる精製法において、原料となる脂環式飽和炭化水素化合物としては、1,1'−ビシクロヘキシル、exo−テトラヒドロジシクロペンタジエン、およびtrans−デカヒドロナフタレンから選ばれる少なくとも1つの脂環式飽和炭化水素化合物であることが本発明の製造方法により透過率を99%/mm以上としやすいため、好ましい。
特に、1,1'−ビシクロヘキシルが容易に透過率を99%/mm以上としやすいため好ましい。
また、原料となる脂環式飽和炭化水素化合物は吸着剤に接触させる前のGC純度が99質量%以上であることが好ましい。GC純度は、Agilent6890ガスクロマトグラフィシステム、カラム(TC1701)、キャリアガス(ヘリウム)、検出器(TCD)で測定できる。
【0021】
脂環式飽和炭化水素化合物と吸着剤との組み合わせは、脂環式飽和炭化水素化合物が1,1'−ビシクロヘキシルまたはexo−テトラヒドロジシクロペンタジエンの場合、吸
着剤はシリカアルミナ、ゼオライト、またはこれらの混合物が原料となる脂環式炭化水素化合物中に含まれている不純物を効率的に除去できるという理由で好ましい。
また、脂環式飽和炭化水素化合物がtrans−デカヒドロナフタレンの場合、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト、またはこれらの混合物が原料となる脂環式炭化水素化合物中に含まれている不純物を効率的に除去できるという理由で好ましい。
【0022】
本発明方法で製造された脂環式飽和炭化水素化合物は、レジスト成分とりわけ、揮発性不純物の溶出が少ないため、簡便な方法で回収、精製を行なうことにより、光学特性を再現性よく回復し、再利用することができる。
再利用する場合の精製の方法としては、水洗処理、酸洗浄(硫酸洗浄)、アルカリ洗浄、精密蒸留、適当なフィルター(充填カラム)を用いた精製、ろ過等の方法および、上記本発明方法による精製法、あるいはこれらの精製法の組み合わせによる方法が挙げられる。この中で、本発明方法による精製処理、水洗処理、アルカリ洗浄、酸洗浄、精密蒸留、酸化物吸着あるいはこれらの精製法の組み合わせにより精製を行なうのが好ましい。
上記アルカリ洗浄は液浸露光用液体に溶出した露光により発生した酸の除去、酸洗浄は液浸露光用液体に溶出したレジスト中の塩基性成分の除去、水洗処理は液浸露光用液体に溶出したレジスト膜中の光酸発生剤、塩基性添加剤、露光時に発生した酸等の溶出物の除去に対して有効である。
本発明で開示した脂環式飽和炭化水素化合物の製造方法は上記回収、精製においても有効であり、本方法により、樹脂中の酸解離性保護基の分解または、液体への放射線の照射により生じる光反応生成物である炭素、炭素不飽和結合を有する不純物の除去を有効にできるため、透過率の変動を防ぐことが可能である。
なお、精製時において精密蒸留を行なうことができる。精密蒸留は、上記添加剤のうち低揮発性の化合物の除去に対して有効な他、露光時にレジスト中の保護基の分解により発生する疎水性成分を除去するのに有効である。
【0023】
フォトレジスト膜、または液浸用上層膜が形成されたフォトレジスト膜に本発明で製造された脂環式飽和炭化水素化合物を媒体として、所定のパターンを有するマスクを通して放射線を照射し、次いで現像することにより、レジストパターンを形成することができる。
液浸露光に用いられる放射線は、使用されるフォトレジスト膜およびフォトレジスト膜と液浸用上層膜との組み合わせに応じて、例えば可視光線;g線、i線等の紫外線;エキシマレーザ等の遠紫外線;シンクロトロン放射線等のX線;電子線等の荷電粒子線の如き各種放射線を選択使用することができる。特にArFエキシマレーザ(波長193nm)あるいはKrFエキシマレーザ(波長248nm)が好ましい。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示す。なお、吸光度は酸素濃度50ppm以下に管理した窒素雰囲気のグローブボックス中でポリテトラフルオロエチレン製蓋付の光路長1cmおよび2cmのセルに液体のサンプリングを行ない、日本分光社製JASCO−V7100を用いて、上記液体の入ったセルをサンプル、空気をリファレンスとして吸光度を測定し、両者の差を1cmあたりの吸光度とした。測定温度は23℃である。この値を元にランベルトベールの法則により1mmあたりの透過率を算出した。サンプルの透過光強度をl0、リファレンスの透過光強度をlとすると、吸光度はlog10(l0/l)で示される。各実施例で示す値はセルの反射を計算により補正した値である。
【0025】
吸着剤は以下のものを使用した。各吸着剤は500℃で3時間焼成して使用した。
ゼオライト−1:東ソー社製、F−9(粉末状:平均粒子径6.2μm)
ゼオライト−2:東ソー社製、F−9(円柱状:直径1.5mm、長さ3mm)
【0026】
実施例1
窒素雰囲気下(酸素濃度50ppm以下、窒素純度99.999%)、ゼオライト−2を180g粗充填した内径3cmのガラス製カラムに、193nmにおける透過率が80.45%/mmの1,1'−ビシクロヘキシル を820ml通液した。通液には22時間を要し、滞留時間は5.6時間であった。この液体の193nmにおける透過率を測定したところ、99.51%/mmであった。
【0027】
実施例2
窒素雰囲気下(酸素濃度50ppm以下、窒素純度99.999%)、ゼオライト−2を68g粗充填した内径3cmのガラス製カラムに、193nmにおける透過率が80.45%/mmの1,1'−ビシクロヘキシル を820ml通液した。通液には8時間を要し、滞留時間は0.85時間であった。この液体の193nmにおける透過率を測定したところ、99.23%/mmであった。
【0028】
比較例1
窒素雰囲気下(酸素濃度50ppm以下、窒素純度99.999%)、ゼオライト−1を20g粗充填した内径7cmのガラス製カラムに、193nmにおける透過率が80.45%/mmの1,1'−ビシクロヘキシルを550ml通液した。
193nmにおける透過率が99.54%/mmの1,1'−ビシクロヘキシルを得るためには、通液に88時間を要し、滞留時間は5.2時間であった。
【0029】
実施例1、実施例2および比較例1より、粉末の吸着剤ではなくペレットの吸着剤を使用することによって、圧力損失を低減させ、かつ粉末の吸着剤を使用した場合と同等の透過率99%/mm以上の1,1'−ビシクロヘキシルを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の脂環式飽和炭化水素化合物の製造方法は、原料となる脂環式飽和炭化水素化合物を粒塊の形状である吸着剤に接触させることにより、波長193nmにおける液体の光路長1mmあたりの透過率の平均値が99%以上である脂環式飽和炭化水素化合物を製造する方法なので、脂環式飽和炭化水素化合物中に含まれる不純物を効率よく除去し、再現性よく、光学的性質が安定している液浸露光用液体が製造できる。そのため、今後更に微細化が進行すると予想される半導体デバイスの製造に必須の技術である液浸露光に用いられる液体として極めて好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長193nmにおける液体の光路長1mmあたりの透過率の平均値が99%以上である脂環式飽和炭化水素化合物を製造する方法であって、
前記原料脂環式飽和炭化水素化合物を吸着剤に接触させる液接触工程を含み、
該接触工程に用いられる前記吸着剤の形状が粒塊であることを特徴とする脂環式飽和炭化水素化合物の製造方法。
【請求項2】
前記粒塊がペレットまたはビーズであることを特徴とする請求項1記載の脂環式飽和炭化水素化合物の製造方法。
【請求項3】
前記液接触工程において、前記原料と前記吸着剤とを接触させる接触時間が0.5時間〜20時間であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の脂環式飽和炭化水素化合物の製造方法。
【請求項4】
前記吸着剤は、アルミナ、シリカアルミナおよびゼオライトから選ばれた少なくとも1つの吸着剤であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の脂環式飽和炭化水素化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−227590(P2009−227590A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72215(P2008−72215)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】