説明

脂肪族ジカルボン酸モノエステルの製造方法

【発明の詳細な説明】
<産業上の利用分野> 本発明は医農薬中間体あるいは化成品中間体として利用される脂肪族ジカルボン酸モノエステルの製造方法に関する。
<従来の技術> 脂肪族ジカルボン酸とアルコールとを脱水縮合し、モノエステル体を得る場合、目的のモノエステル体以外にジエステル体を副生することが知られている。
そこでジエステル体の副生をを抑える目的で、アルコールの使用量を少なくすることが考えられるが、その場合には未反応の脂肪族ジカルボン酸の回収が多くなり、転化率の大幅な低下が避けられない。かかる方法の改良的手段として特開昭54−22316においては、ジエステルの生成を抑制する目的で、アジピン酸ジメチルエステルを共存させるとともに、当モル以上の水を使用し、酸性イオン交換樹脂に接触させて、アジピン酸モノメチルエステルを得ている。しかしながら本方法において転化率が低く、満足できる方法ではなかった。
<発明が解決しようとする課題> 本発明者らは、より効率的な脂肪族ジカルボン酸モノエステルの製造方法を検討し、原料である脂肪族ジカルボン酸の転化率を高め、副生する脂肪族ジカルボン酸ジエステル体の生成を抑え、しかも後の精製も有利に反応を行う方法を見出し本発明を完成した。
<解決するための手段> 即ち、本発明は、一般式[II]
HOOC(CH2mX(CH2nCOOH [II]
(式中、mおよびnは1〜4の整数を示し、Xは、−CH2CH2−、−CH=CH−または−C≡C−を示す。但し、Xが−CH=CH−または−C≡C−であるときはm=nである。)
で示される脂肪族ジカルボン酸と、一般式[III]
R−OH [III]
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で示されるアルコールとを、酸触媒存在下、一般式[IV]
ROOC(CH2mX(CH2nCOOR [IV]
(式中、m、n、XおよびRは前記と同じ意味を表わす。)
で示される脂肪族ジカルボン酸ジエステルを共存させ、実質的に水を使用させずに反応させることを特徴とする一般式[I]
ROOC(CH2mX(CH2nCOOH [I]
(式中、m、n、XおよびRは前記と同じ意味を表わす。)
で示される脂肪族ジカルボン酸モノエステルの製造方法に関するものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用される一般式〔II〕で示される脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、2−ブテン−1,4−ジカルボン酸、3−ヘキセン−1,6−ジカルボン酸、4−オクテン−1,8−ジカルボン酸、5−デセン−1,10−ジカルボン酸、2−ブチン−1,4−ジカルボン酸、3−ヘキシン−1,6−ジカルボン酸、4−オクチン−1,8−ジカルボン酸、5−デシン−1,10−ジカルボン酸等を例示することができる。
もう一方の原料である一般式〔III〕で示されるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、n−オクタノール、イソオクタノール、n−ヘキサノール等を例示することができる。
該アルコール〔III〕の使用量は脂肪族ジカルボン酸〔II〕1モルに対し、0.7モル以上、1.4モル以下が好ましい。
共存させる一般式〔IV〕で示される脂肪族ジカルボン酸ジエステルの量は、脂肪族ジカルボン酸〔II〕1モルに対し、0.3モル以上、1.3モル以下が好ましい。
本反応においては有機溶媒の使用が有効である。
かかる溶媒としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロルエタン、ジオキサン等の芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、ケトン、エーテル類を挙げることができる。
なかでも後処理の点から、原料の脂肪族ジカルボン酸〔II〕に対し、冷時溶解度の低いものが好ましく、かかる意味からトルエン、ベンゼン、キシレン、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素や、ジクロルエタン等のハロゲン化炭化水素が好ましい。
かかる溶媒の使用量は特に制限されないが、通常、原料の脂肪族ジカルボン酸に対し0.5〜5重量倍程度である。
酸触媒としては、例えば、硫酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸、塩化水素、硝酸等の無機または有機の酸が利用されるが、中でも、トルエンスルホン酸、硫酸、メタンスルホン酸が好ましい。
該酸触媒の使用量は通常、原料である脂肪族ジカルボン酸〔II〕に対して0.5〜5重量%の範囲である。
また本発明において、実質的に水を使用せずとは、水を反応資材として用いないと言う意味であり、全く水が存在してはならないということではない。従って、脂肪族ジカルボン酸〔II〕、アルコール〔III〕、脂肪族ジカルボン酸ジエステル〔IV〕、酸触媒等中に含まれる比較的少量の水分は十分許容されるのである。
反応温度は通常、60〜120℃の範囲であり、溶媒の沸点により適宜定めることができる。
反応時間は特に制限されないが、通常1〜8時間の範囲である。
反応終了後、反応混合物からの脂肪族ジカルボン酸モノエステル〔I〕の単離は、例えば、反応液を冷却し、未反応の脂肪族ジカルボン酸を結晶として除いたあと、有機層を濃縮、蒸留してもよいし、有機層をアルカリを用いて抽出し、水層を酸析後さらに溶媒にて抽出後、濃縮、蒸留によっても精製できる。
かかる操作により、一般式〔I〕で示される脂肪族ジカルボン酸モノエステルが効率よく得られる。
<発明の効果> 本発明により、原料である脂肪族ジカルボン酸〔II〕の転化率を高め、脂肪族ジカルボン酸ジエステル〔IV〕の副生を抑えることにより、一般式〔I〕で示される脂肪族ジカルボン酸モノエステルが高い収率で、しかも工業的にも有利に得られる。該脂肪族ジカルボン酸モノエステルは医薬、農薬、添加剤、化成品等の中間体として有用である。
<実施例> 以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
実施例1 ピメリン酸16.02g(0.1mol)、ピメリン酸ジエチルエステル12.97g(0.06mol)、エタノール4.61g(0.1mol)、濃硫酸0.32g及びベンゼン32gを加え、撹拌下5時間還流した。反応終了後、反応液を分析したところ、ピメリン酸の消費は86%であり、ピメリン酸モノエステルの選択率は90%であった。
実施例2 スベリン酸17.42g(0.1mol)、スベリン酸ジメチルエステル16.18g(0.08mol)、メタノール2.88g(0.09mol)、p−トルエンスルホン酸0.26g及びトルエン40gを加え、80〜85℃にて7時間加熱撹拌した。反応終了後、反応液を分析したところ、スベリン酸の消費量は82%であり、スベリン酸モノメチルエステルの選択率は93%であった。反応液は0〜5℃に冷却し、未反応のスベリン酸をろ別して除き、ろ液を蒸留にて精製し、後留として、スベリン酸モノメチルエステルを得た。
b.p.133〜135℃/0.5mmHg実施例3 3−ヘキセン−1,6−ジカルボン酸17.22g(0.1mol)、3−ヘキセン−1,6−ジカルボン酸ジメチルエステル24.03g(0.12mol)、メタノール2.56g(0.08mol)、濃硫酸0.51g及びトルエン51gを70〜75℃にて8時間加熱した。反応終了後、反液を分析したところ、3−ヘキセン−1,6−ジカルボン酸の消費量は、73%であり、3−ヘキセン−1,6−ジカルボン酸モノメチルエステルの選択率は91%であった。
実施例4 3−ヘキシン−1,6−ジカルボン酸17.02g(0.1mol)、3−ヘキシン−1,6−ジカルボン酸ジn−プロピルエステル12.71g(0.05mol)、n−プロパノール8.41g(0.14mol)、p−トルエンスルホン酸0.34g及びメチルイソブチルケトン35gを90℃にて6時間加熱した。反応終了後、反応液を分析すると、3−ヘキシン−1,6−ジカルボン酸の消費は91%であり、3−ヘキシン−1,6−ジカルボン酸モノn−プロピルエステルの選択率は80%であった。
実施例5 セバシン酸20.22g(0.1mol)、セバシン酸ジメチルエステル20.72g(0.09mol)、メタノール2.88g(0.09mol)、p−トルエンスルホン酸0.20g及びジクロルエタン40gを還流下に8時間反応した。反応混合物を分析したところ、セバシン酸の添加率は80%であり、セバシン酸モノメチルエステルの選択率は83%であった。
比較例〔実施例2に水を10wt%(対ジカルボン酸)加えた例〕
スベリン酸17.42g(0.1mol)、スベリン酸ジメチルエステル16.18g(0.08mol)、メタノール2.88g(0.09mol)、p−トルエンスルホン酸0.26g及びトルエン40g、水1.74g(スベリン酸に対し10wt%、0.097mol)を加え、80〜85℃にて7時間加熱撹拌した。反応終了後、反応液を分析したところ、スベリン酸の消費量は68%であり、スベリン酸モノメチルエステルの選択率は91%であった。反応液は0〜5℃に冷却し、未反応のスベリン酸をろ別して除き、ろ液を蒸留にて精製し、後留として、スベリン酸モノメチルエステルを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】一般式[II]
HOOC(CH2mX(CH2nCOOH [II]
(式中、mおよびnは1〜4の整数を示し、Xは、−CH2CH2−、−CH=CH−または−C≡C−を示す。但し、Xが−CH=CH−または−C≡C−であるときはm=nである。)
で示される脂肪族ジカルボン酸と、一般式[III]
R−OH [III]
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で示されるアルコールとを、酸触媒存在下、一般式[IV]
ROOC(CH2mX(CH2nCOOR [IV]
(式中、m、n、XおよびRは前記と同じ意味を表わす。)
で示される脂肪族ジカルボン酸ジエステルを共存させ、実質的に水を使用させずに反応させることを特徴とする一般式[I]
ROOC(CH2mX(CH2nCOOH [I]
(式中、m、n、XおよびRは前記と同じ意味を表わす。)
で示される脂肪族ジカルボン酸モノエステルの製造方法
【請求項2】使用するアルコール[III]のモル比が脂肪族ジカルボン酸[II]に対し0.7モル倍以上1.4モル倍以下である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】共存する脂肪族ジカルボン酸ジエステル[IV]のモル比が脂肪族ジカルボン酸[II]に対し0.3モル倍以上1.3モル倍以下である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】反応を有機溶媒中で実施する請求項1、2または3に記載の製造方法。
【請求項5】酸触媒がトルエンスルホン酸または硫酸である請求項1、2、3、または4記載の製造方法。

【特許番号】第2943318号
【登録日】平成11年(1999)6月25日
【発行日】平成11年(1999)8月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−314780
【出願日】平成2年(1990)11月19日
【公開番号】特開平4−182452
【公開日】平成4年(1992)6月30日
【審査請求日】平成9年(1997)7月30日
【出願人】(999999999)住友化学工業株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭49−100024(JP,A)
【文献】特開 昭54−22316(JP,A)
【文献】特開 昭54−24818(JP,A)