説明

脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法

【課題】生分解性を有する脂肪族ポリエステルの長尺のチューブ状フィルムを安定して製造することができる脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法において、線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン90〜100重量%と脂肪族ポリエステル0〜10重量%を押出機に供給して製膜を開始し、押出機に供給する樹脂を線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン20〜80重量%と脂肪族ポリエステル20〜80重量%との混合物に切り替えて製膜を継続したのち、脂肪族ポリエステルのみを押出機に供給して製膜することを特徴とする脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、生分解性を有する脂肪族ポリエステルの長尺のチューブ状フィルムを安定して製造することができる脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脂肪族ポリエステルが、生分解性を有するプラスチック材料として注目されている。プラスチックフィルムは、製膜性、加工性が良好であり、包装材料などとして広く用いられている。しかし、多くのプラスチックフィルムは、燃焼時の発熱量が大きく焼却炉を傷める、嵩高く土中で分解しないために埋め立てに適しないなど、使用後の処理上の問題を有している。これに対して、脂肪族ポリエステルは、ポリオレフィンなどに比べて燃焼時の発熱量が小さいので焼却炉を傷めるおそれが少なく、自然環境中で微生物の作用により分解するので埋め立て処理にも適している。
包装材料として用いるプラスチックフィルムの製造方法として、インフレーションフィルム成形法が普及している。インフレーションフィルム成形法は、押出機の中で混練された溶融樹脂を環状ダイより円筒状に押し出し、この円筒状の溶融膜内に一定量の空気を入れて加圧し、膨張させてバブルを形成させたのち冷却固化させ、チューブ状のフィルムを連続的に得る方法である。インフレーションフィルム成形法は、Tダイ法に比べて設備費が低廉であり、膨張のさせ方によって寸法を変更することができ、長尺のチューブ状のフィルムが得られ、二次加工により容易に袋体にすることができるので、包装材料としてのプラスチックフィルムの製造に適している。
インフレーションフィルム成形法に使用される樹脂としては、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が一般的である。本発明者らは、生分解性を有する脂肪族ポリエステルの包装材料への適用を考慮して、脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルム成形法による製膜を検討した。しかし、脂肪族ポリエステルはポリオレフィン樹脂に比べて溶融張力が小さいために、バブルの形状が変動しやすく、高品質のフィルムを安定して製造することは困難であった。
生産性よくインフレーション成形を行うことができる脂肪族ポリエステルの発泡解繊体の製造方法として、脂肪族ポリエステルと発泡剤を含む組成物をインフレーション法により発泡フィルムに成形し、該発泡フィルムを案内部材と接触させながら拡張させて解繊させる工程を含む方法において、案内部材の表面を構成する材料の臨界表面張力が15〜65dyne/cmである脂肪族ポリエステルの発泡解繊体の製造方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この方法を脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造に応用すると、装置が複雑になるのみならず、バブルの膨張のさせ方によってフィルムの寸法を変更することができるというインフレーションフィルム成形法の特質が失われてしまう。
【特許文献1】特開平8−325918号公報(第2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、生分解性を有する脂肪族ポリエステルの長尺のチューブ状フィルムを安定して製造することができる脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、押出機に線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンを供給して製膜を開始し、押出機に供給する樹脂を線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンと脂肪族ポリエステルとの混合物に切り替えて製膜を継続したのち、脂肪族ポリエステルのみを押出機に供給して製膜することにより、バブルの形状の変動を防ぎ、脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムを安定して製造することが可能となることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法において、線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン90〜100重量%と脂肪族ポリエステル0〜10重量%を押出機に供給して製膜を開始し、押出機に供給する樹脂を線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン20〜80重量%と脂肪族ポリエステル20〜80重量%との混合物に切り替えて製膜を継続したのち、脂肪族ポリエステルのみを押出機に供給して製膜することを特徴とする脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法、
(2)線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン20〜80重量%と脂肪族ポリエステル20〜80重量%との混合物への切り替えを複数回行い、該混合物の脂肪族ポリエステルの含有量を逐次増加する(1)記載の脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法、及び、
(3)脂肪族ポリエステルが、ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンサクシネートアジペートである(1)記載の脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法、
を提供するものである。
さらに、本発明の好ましい態様として、
(4)線状低密度ポリエチレンを押出機に供給して製膜を開始する(1)記載の脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法、
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0005】
本発明方法によれば、溶融張力の小さい脂肪族ポリエステルのバブルの形状の変動を防ぎ、高品質の脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムを安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法においては、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)又は低密度ポリエチレン(LDPE)90〜100重量%と脂肪族ポリエステル0〜10重量%を押出機に供給して製膜を開始し、押出機に供給する樹脂を線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン20〜80重量%と脂肪族ポリエステル20〜80重量%との混合物に切り替えて製膜を継続したのち、脂肪族ポリエステルのみを押出機に供給して製膜する。
製膜の最初から押出機に脂肪族ポリエステルを供給すると、環状ダイから円筒状に押し出される溶融樹脂の円筒状膜内に空気を入れて膨張させて形成させるバブルの形状が変動しやすく、高品質のインフレーションフィルムを安定して製造することが困難である。押出機に線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンを供給して製膜を開始し、形状の安定したバブルを形成したのち、押出機に供給する樹脂を線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンと脂肪族ポリエステルとの混合物に切り替えて製膜を継続し、さらに脂肪族ポリエステルのみを押出機に供給して製膜することにより、バブルの形状の変動を防ぎ、脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムを、高品質で安定して製造することが可能となる。
【0007】
本発明方法において、製膜を開始するときに供給する樹脂は、線状低密度ポリエチレン若しくは低密度ポリエチレン、又は、これらのポリエチレン90重量%以上と脂肪族ポリエステル10重量%以下との混合物である。線状低密度ポリエチレン若しくは低密度ポリエチレンと脂肪族ポリエステルとの混合物中の脂肪族ポリエステルの割合が10重量%を超えると、製膜開始時のバブルの形状が変動しやすく、安定して製膜することが困難となるおそれがある。
本発明方法においては、線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンを押出機に供給して製膜を開始することが好ましく、線状低密度ポリエチレンを押出機に供給して製膜を開始することがより好ましい。線状低密度ポリエチレンは、形状の変動の少ない安定したバブルを形成し、押出機に供給する樹脂を線状低密度ポリエチレンから線状低密度ポリエチレンと脂肪族ポリエステルとの混合物に切り替える際のバブルの形状の変動も少ない。
【0008】
本発明方法においては、線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン90〜100重量%と脂肪族ポリエステル0〜10重量%を押出機に供給して製膜を開始したのち、押出機に供給する樹脂を線状低密度ポリエチレン20〜80重量%と脂肪族ポリエステル20〜80重量%との混合物に切り替えて製膜を継続する。切り替える樹脂として、線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン80〜90重量%と脂肪族ポリエステル10〜20重量%との混合物と、線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン1〜20重量%と脂肪族ポリエステル20〜99重量%との混合物を用いることも可能であるが、通常はこの組成範囲の樹脂混合物を用いることなく、脂肪族ポリエステルのみまで押出機に供給する樹脂を切り替えることができる。
本発明方法においては、線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン20〜80重量%と脂肪族ポリエステル20〜80重量%との混合物への切り替えを複数回行い、該混合物の脂肪族ポリエステルの含有量を逐次増加することが好ましい。樹脂混合物の切り替えを複数回行い、樹脂混合物の脂肪族ポリエステルの含有量を逐次増加することにより、バブルの形状の変動を抑制し、安定してインフレーション成形を継続することができる。樹脂混合物の切り替え回数に特に制限はないが、通常は2〜3回の切り替えにより、脂肪族ポリエステルのみを押出機に供給し得る状態とし、安定して高品質の脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムを製造することができる。
【0009】
本発明方法に用いる脂肪族ポリエステルに特に制限はなく、例えば、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリ乳酸、ポリ−γ−ブチロラクトン、ポリ−δ−バレロラクトン、ポリ−ε−カプロラクトン、これらの脂肪族ポリエステルの共重合体、これらの脂肪族ポリエステルの末端ヒドロキシル基をジイソシアネート化合物と反応させて鎖延長して得られる化合物などを挙げることができる。これらの中で、ポリブチレンサクシネートとポリブチレンサクシネートアジペートは、良好なインフレーション成形性と生分解性を有するので特に好適に用いることができる。
本発明方法に用いる線状低密度ポリエチレンに特に制限はなく、例えば、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体などを挙げることができる。本発明方法に用いる線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンのメルトフローレートに特に制限はないが、温度190℃、荷重21.18Nで測定したメルトフローレートが0.1〜3.7g/10minであることが好ましく、0.5〜2.5g/10minであることがより好ましい。
【実施例】
【0010】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
脂肪族ポリエステル[昭和高分子(株)、ビオノーレ5151、メルトフローレート1.7g/10min(190℃、21.18N)]を用いて、インフレーションフィルムを製造した。
図1は、使用した装置の概略図である。スクリュー径は45mmであり、環状ダイの直径は100mmであり、リップギャップは1.5mmに調整した。ホッパー1下のAの温度を135〜140℃、スクリュー2のB及びCの温度を150〜155℃、環状ダイ3のD及びEの温度を145〜150℃に設定し、膨張比3.5倍として、折り径550mm、厚さ30μmのチューブ状のフィルムを製膜した。
線状低密度ポリエチレン[メルトフローレート2.0g/10min(190℃、21.18N)]10kgをホッパーに投入して製膜し、ホッパー中の樹脂がほとんどなくなったとき、線状低密度ポリエチレン7kgと脂肪族ポリエステル3kgとの混合物をホッパーに投入して製膜を続け、ホッパー中の樹脂がほとんどなくなったとき、線状低密度ポリエチレン6kgと脂肪族ポリエステル4kgとの混合物をホッパーに投入して製膜を続け、さらにホッパー中の樹脂がほとんどなくなったとき、脂肪族ポリエステルをホッパーに投入して、脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムを製膜した。樹脂が線状低密度ポリエチレンから線状低密度ポリエチレン7kgと脂肪族ポリエステル3kgとの混合物に切り替わったとき、バブルの形状がわずかにゆがんだが、すぐに安定した形状に復帰し、以後は安定して製膜することができた。
得られた脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムについて、JIS Z 1702 7.5にしたがう引張試験と、JIS Z 1711 8.4にしたがうヒートシール強さ試験を行った。縦方向の引張強さ63.4MPa、伸び360%であり、横方向の引張強さ61.9MPa、伸び820%であった。ヒートシール試験片は、200mm×200mmのインフレーションフィルムを2枚重ね、2mm×200mmのシールバーを用いて、温度175℃、圧力220kPa、シール時間0.3秒でヒートシールし、シール部の幅10mmのダンベルを打ち抜くことにより作製した。ヒートシール強さは、12Nであった。
JIS Z 1702「包装用ポリエチレンフィルム」に規定される2種Bフィルムの引張強さは29.4MPa以上、伸びは150%以上なので、実施例で得られた脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムは、引張強さ、伸びともにこの規定の2倍以上の品質を有している。また、JIS Z 1711「ポリエチレンフィルム製袋」に規定される2種B、呼び厚さ0.03mmのフィルムのヒートシール強さは、試験片の幅15mmで11.77N以上なので、実施例で得られた脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムは、ヒートシール強さにおいてもこの水準を超えている。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法によれば、生分解性を有する脂肪族ポリエステルの長尺のチューブ状フィルムを安定して製造することができる。本発明方法により製造された脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムは、包装材料に要求される引張強さ、伸び及びヒートシール強さをすべて満たしている。生分解性を有する脂肪族ポリエステルは、土中に埋め立てても微生物により分解され、最終的には水と炭酸ガスになるので、地球環境を破壊することなく処分することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例において使用した装置の概略図である。
【符号の説明】
【0013】
1 ホッパー
2 スクリュー
3 環状ダイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法において、線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン90〜100重量%と脂肪族ポリエステル0〜10重量%を押出機に供給して製膜を開始し、押出機に供給する樹脂を線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン20〜80重量%と脂肪族ポリエステル20〜80重量%との混合物に切り替えて製膜を継続したのち、脂肪族ポリエステルのみを押出機に供給して製膜することを特徴とする脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法。
【請求項2】
線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン20〜80重量%と脂肪族ポリエステル20〜80重量%との混合物への切り替えを複数回行い、該混合物の脂肪族ポリエステルの含有量を逐次増加する請求項1記載の脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法。
【請求項3】
脂肪族ポリエステルが、ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンサクシネートアジペートである請求項1記載の脂肪族ポリエステルのインフレーションフィルムの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−7655(P2006−7655A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189827(P2004−189827)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【特許番号】特許第3655625号(P3655625)
【特許公報発行日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(504171684)まつもと合成株式会社 (3)
【Fターム(参考)】