説明

脂肪族ポリエステルの製造方法

【課題】脂肪族環状エステルを重合し脂肪族ポリエステルを製造するに際し、重合時間が非常に長いという問題を解決する製造方法を提供する。
【解決手段】式(1)


[式中、R、R、及びRは、−H、−CH、−CH−CH、−(CH−CH、−CH(CH)−CHを表し、それぞれ同一かまたは異なり、式中Xは、酸素原子または硫黄原子を表し、nは整数を表す]で表される脂肪族環状エステルの重合反応において、脂肪族環状エステルの溶融開環重合後、得られた重合物を溶媒に接触させ、重合物中に残存する脂肪族環状エステルを除去することを特徴とする脂肪族ポリエステル新規な製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脂肪族環状エステルの開環重合により合成される脂肪族ポリエステルは、微生物などの作用により環境中で分解される生分解性プラスチックの一つとして近年注目を集めている。その中の一つとしてポリ(p−ジオキサノン)がある。ポリ(p−ジオキサノン)は、p−ジオキサノンの開環重合により合成され、非常に優れた柔軟性かつ耐加水分解性を有する手術用モノフィラメントとして、また外科用のデバイスとして医療分野で好適に用いられている。さらに、従来の生分解プラスチックの代替品としても期待されていることから、今後ますますその需要が伸びることが期待される。
【0003】
脂肪族環状エステルを重合し脂肪族ポリエステルを得る方法として、ポリ(p-ジオキサノン)の製造に関しては今までに多くの検討がなされている。例えば、特許文献1には25℃のヘキサフルオロイソプロパノール中0.1g/dLの濃度で試験した時2.3dL/gから約8dL/gのインヘレント粘度を示し、かさ密度が約1.3g/ccから約1.45g/ccであり、そして残存モノマー含有量が5重量%未満である、外科用デバイスおよび外科用フィラメントで用いるに適切なポリ(p−ジオキサノン)のポリマー、及び用途とそれらの製造方法が開示されている。該公報には、約100℃から約150℃の範囲の温度の乾燥した不活性雰囲気中、開始剤(例えばドデカノールまたは他のモノもしくは二官能アルカノールなど)と触媒(例えば錫触媒、即ちカプリル酸錫(II)またはカプリル酸第一錫など)の存在下で2−オキソ−1,4−ジオキサン、即ちp−ジオキサノンの開環重合を約2から約10時間行うことを含んでいる。約100℃から約120℃の範囲の温度でこの重合を実施するのが今のところ好適である、と記載されている。さらに該公報には、触媒(例えばはカプリル酸第一錫など)と開始剤(例えばドデカノールまたは同様なモノもしくは二官能アルカノールなど)を容器に仕込んだ後、この反応容器を約90から約140℃の範囲の温度に約30分から約5時間の範囲の間加熱することによって、高いインヘレント粘度を示すポリ(p−ジオキサノン)ポリマーを製造することも可能である。次に、この反応から回収したポリマーを約60から約100℃の範囲の温度の乾燥した不活性雰囲気下の通常の大きさを有する容器の中に約2から約7日間、好適には3から5日間の範囲の期間入れることで、それの重合を低温で完結させてもよい、とも記載おり、実施例1では、固体状態でのポリマーの固化に4日間、その後水分除去に10時間、未反応モノマー除去に32時間要しており、製造に約6日間もの長時間を要している。
【0004】
一方、特許文献2には、触媒及び開始剤の存在下でp−ジオキサノンを開環重合するポリ(p−ジオキサノン)の製造方法であって、p−ジオキサノンに対し、0℃において白色結晶を生じるジオクタン酸第一スズ0.002〜0.005モル%、及び開始剤0.01〜0.1モル%を添加し、85〜105℃において攪拌下、p−ジオキサノンの液相開環重合を開始し、攪拌負荷が初期負荷に対し10〜100%増加した時点で攪拌を停止し、且つ、重合温度を65〜85℃に低下して固相重合を行うことを特徴とするポリ(p−ジオキサノン)の製造方法が開示されている。該公報には、重合反応は、モノマーの転化率が95重量%以上に達するまで継続することが好ましい。重合時間は、温度、触媒量及び開始剤量により変化するが、通常、攪拌下の液相反応の反応時間は2〜24時間程度であることが好ましい。より好ましくは6〜12時間程度である。この間、粘性が発生し攪拌負荷の増加を自動的に検知して、自動的に攪拌を停止し、且つ、自動的に固相重合へ切り替える制御システムを組み込むことにより作業性を大幅に改善することができると記載されている。実施例1では固相重合に6日間、その後の脱モノマー操作に36時間要しており、製造に約8日間もの長時間を要している。
【0005】
上記いずれの方法も、実際には約6日以上の長時間をかけて製造を行っている点で共通している。工業的なポリ(p−ジオキサノン)の製造を見据えた場合、製造に約6日以上費やす従来記載の方法は、決して効率的、且つ、経済的製法とは言えない。
【特許文献1】特開平8−52205号公報
【特許文献2】特開2001−151878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、従来の脂肪族ポリエステルの製造方法に比べ、重合時間が大幅に短縮され、分子量分布が狭くかつ熱安定性に優れた脂肪族ポリエステルを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明は、一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、R、R、及びRは、−H、−CH、−CH−CH、−(CH−CH、−CH(CH)−CHを表し、それぞれ同一かまたは異なり、式中Xは、酸素原子または硫黄原子を表し、nは整数を表す]
で表される脂肪族環状エステルの重合反応において、脂肪族環状エステルの溶融開環重合後、得られた重合物を溶媒に接触させ、重合物中に残存する脂肪族環状エステルを除去する工程を含む脂肪族ポリエステルの製造方法を提供する。
【0011】
前記脂肪族ポリエステルの製造方法において、
[第一工程] 触媒及び重合開始剤の存在下、脂肪族環状エステルを溶融開環重合により、重量平均分子量5万以上、分子量分布1.0以上6.0以下、残存脂肪族環状エステル量10以上70重量%以下の重合物を得る工程
[第二工程]第一工程で得られた重合物を溶媒に接触させることにより、重量平均分子量5万以上、分子量分布1.0以上5.0以下、残存脂肪族環状エステル量1以上50重量%以下の重合物を得る工程
[第三工程]第二工程で得られた重合物を加熱処理することにより、重量平均分子量5万以上、分子量分布1.0以上4.5以下、残存脂肪族環状エステル量1重量%以下とする工程
以上、3段階の工程を含む脂肪族ポリエステルの製造方法は本発明の好ましい態様である。
【0012】
前記脂肪族ポリエステルが、ポリ(p−ジオキサノン)である脂肪族ポリエステルの製造方法も本発明の好ましい態様である。
【0013】
更に本発明は重量平均分子量が5万以上かつ5%重量減少温度が200℃以上であるポリ(p−ジオキサノン)も提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法で得られる脂肪族ポリエステルは、重量平均分子量5万以上、分子量分布が1.0以上4.5以下の高分子量体であり、熱安定性に優れ、従来知られている製造方法に比べ重合時間が短時間である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で示す脂肪族環状エステルは、式(2)
【0016】
【化2】

【0017】
で表され、式中、R、R、及びRは、−H、−CH、−CH−CH、−(CH−CH、−CH(CH)−CHを表し、それぞれ同一かまたは異なり、式中Xは、酸素原子または硫黄原子で表される化合物である。より好ましい脂肪族環状エステルは、R、R、及びRは、−H、−CH、−CH−CH、−(CH−CH、−CH(CH)−CHを表し、それぞれ同一かまたは異なり、Xが酸素原子であるp−ジオキサノン誘導体である。さらに好ましくは、R、R、及びRのいずれも−Hであり、Xが酸素原子であるp−ジオキサノンである。
【0018】
本発明で使用する脂肪族環状エステルは単独でも又は2種類以上でも良い。更に脂肪族環状エステルと前記脂肪族環状エステルとは異なる脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)や環状二量体を同時に使用しても良い。脂肪族環状エステルとは異なる脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)や環状二量体の具体例としては、ラクタイド、グリコライド、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等が挙げられる。
【0019】
本発明で示す脂肪族ポリエステルとは、前記脂肪族環状エステルの開環重合によって得られる重合体であって、式(3)で示されるものである。
【0020】
【化3】

【0021】
式中、R、R、及びRは、−H、−CH、−CH−CH、−(CH−CH、−CH(CH)−CHを表し、それぞれ同一かまたは異なり、式中Xは、酸素原子または硫黄原子を表す化合物である。より好ましい脂肪族ポリエステルは、R、R、及びRは、−H、−CH、−CH−CH、−(CH−CH、−CH(CH)−CHを表し、それぞれ同一かまたは異なり、Xが酸素原子であるポリ(p−ジオキサノン)誘導体である。さらに好ましくは、R、R、及びRのいずれも−Hであり、Xが酸素原子であるポリ(p−ジオキサノン)である。
【0022】
本発明にかかる脂肪族ポリエステルの製造方法は、原料である脂肪族環状エステルの溶融開環重合を行い、その後得られた重合物中に残存する脂肪族環状エステルを溶媒に接触させて除去する工程を含むものである。
【0023】
脂肪族環状エステルを溶融開環重合するとは、脂肪族環状エステルの融点以上での重合であれば特に制限されない。この工程で得られる重合物としては、好ましくは重量平均分子量5万以上、分子量分布1.0以上6.0以下、残存脂肪族環状エステル量10以上70重量%以下の重合物、より好ましくは、重量平均分子量10万以上、分子量分布1.0以上5.5以下、残存脂肪族環状エステル量10以上60重量%以下の重合物、さらに好ましくは、重量平均分子量20万以上、分子量分布1.0以上5.0以下、残存脂肪族環状エステル量10以上50重量%以下の重合物である。尚、本発明で示す重量平均分子量及び数平均分子量とはゲルパーミッションクロマトグラフ(GPC)法により測定した値であり、分子量分布とは、重量平均分子量を数平均分子量で割った値であり、リファレンス検量線としてPMMA(ポリメタクリル酸メチル)を使用する。
【0024】
溶融開環重合の際には触媒を用いても良い。使用する触媒は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)や環状二量体の開環重合で通常使用されている化合物であれば特に制限されない。具体的には、2−エチルヘキサン酸錫(II)、カプリル酸錫(II)、ジエチル錫ジラウレート等の有機錫化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリセカンダリーブトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド等の有機アルミニウム化合物、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0025】
触媒の使用量は、重合速度、解重合速度、触媒除去処理の有無、脂肪族ポリエステル中の残留触媒の許容量等を考慮して適宜決定される。本発明で使用する触媒の量は、溶融開環重合に供するモノマー量の重量に対して0.0001重量%〜5重量%であるが、触媒除去処理が無い場合は、0.002重量%〜0.2重量%である事が好ましく、触媒除去処理が有る場合は、0.002重量%〜2重量%である事が好ましい。尚、溶融開環重合に供するモノマー量は、脂肪族環状エステルと脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)及び/又は環状二量体の合計量より算出される。尚、本発明で言うモノマーとは、脂肪族ポリエステルの原料を指す。
【0026】
溶融開環重合の際に、重合開始剤を用いても良い。重合開始剤は水、又は活性水素を有する有機化合物であって、該化合物と脂肪族環状エステルと触媒の存在下で溶融開環重合が進行すれば特に問題なく、公知公用の重合開始剤を使用する事が出来る。重合開始剤の一般的な例はアミノ基、及び/又は水酸基を有する化合物であり、脂肪族アルコール、グリコール、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族アミン、芳香族アミンなどが挙げられるが、安全性を考慮すると脂肪族アルコール、グリコール、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が好ましい。好適な具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、乳酸、グリコール酸等が挙げられる。
【0027】
重合開始剤の使用量は、所望する脂肪族ポリエステルの分子量に応じて適宜決定される。本発明で使用する開始剤の量は、開環重合に供する脂肪族環状エステル量(モノマー量)の重量に対して0.001重量%〜1重量%である事が好ましい。尚、溶融開環重合に供するモノマー量は、脂肪族環状エステルと脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)及び/又は環状二量体の合計量より算出される。
【0028】
溶融開環重合での重合温度は、反応混合物が溶融状態であれば特に制限は無いが、重合速度、解重合速度、得られる脂肪族ポリエステルの分子量、及び脂肪族ポリエステル中に含まれる残存脂肪族環状エステルの量、脂肪族ポリエステルの着色の度合い、溶融開環重合後に造粒する場合は、溶融開環重合が終了した時点での反応混合物の溶融粘度等を勘案して適宜設定される。重合温度と得られる脂肪族ポリエステルの分子量、及び脂肪族ポリエステル中の残存脂肪族環状エステルの量は一般的に相関があり、重合温度の低い程、得られる脂肪族ポリエステルの分子量は高く、脂肪族ポリエステル中の残存脂肪族環状エステルの量は少なくなる。従って、重合温度は反応混合物が溶融状態を維持できていれば低い方が好ましい。一般的に重合温度は脂肪族ポリエステルの融点以上〜200℃が好ましく、120℃〜180℃がより好ましい。
【0029】
溶融開環重合に供する時間は、重合温度、触媒量、重合スケール、重合開始剤の量、反応混合物中に含まれる脂肪族環状エステルの量等を考慮して決定される。具体的には、反応混合物中の残存脂肪族環状エステルの量が10以上70重量%以下となった任意の時間で溶融開環重合を終了することが好ましく、10以上50重量%以下となった任意の時間で溶融開環重合を終了することがより好ましい。具体的には、0.1時間〜40時間である事が好ましく、1時間〜16時間である事がより好ましい。
【0030】
溶融開環重合で用いる反応装置としては公知公用のものを用いることができる。反応系内の粘度が大きく変化するため、反応系内の粘度変化に対応して高粘度流体を攪拌することが可能な反応装置を用いることが望ましく、具体的には、パドル型、平板型、プロペラ型、タービン型、ブルーマージン型、錨型、ヘリカル型、スクリュー型などが挙げられ、より好ましくはスクリュー型等が挙げられる。
【0031】
溶融開環重合は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。不活性ガス雰囲気下で行わない場合、気中水分等の影響により、生成した脂肪族ポリエステルが加水分解を受ける可能性がある。本発明で示す不活性ガスとはヘリウム、窒素、アルゴン等通常知られている不活性ガスであれば何れでも良い。しかし、コスト等を考慮した場合、窒素を用いるのが最も望ましい。
【0032】
次に溶融開環重合終了後、得られた重合物を取り出し、得られた重合物を溶媒に接触させ、重合物中に残存する脂肪族環状エステルを除去する工程について説明する。
【0033】
得られた重合物を取り出す方法としては、特に限定されないが例えば、溶融開環重合が終了した時点で、反応槽内の温度を重合物の融点以上に上昇させ内容物を反応槽外部へ排出する。排出後、重合物を粉砕により、ペレットもしくは顆粒(以下、総称してペレットと記載する)にしても良い。ペレットとする場合その粒径については、0.5〜5.0mmが好ましく、より好ましい粒径は、1.0〜3.0mmである。
【0034】
脂肪族環状エステルの溶融開環重合後、得られた重合物を溶媒に接触させ、重合物中に残存する脂肪族環状エステルを除去する工程(以下、溶媒接触型残存モノマー除去工程という)とは、重合物を溶媒に接触、好ましくは浸漬、洗浄することによって、重合物中に残存している残存モノマーを除去することである。溶媒接触型残存モノマー除去工程では、重合物中に残存する脂肪族環状エステルのみでなく、脂肪族環状エステルより得られる脂肪族ポリエステルオリゴマーの除去を含んでいてもよい。用いられる溶媒としては、重合開始剤となり得る脂肪族アルコール類、グリコール類、ヒドロキシカルボン酸類、フェノール類等以外であれば特に制限がなく、具体的には、トルエン、キシレン、ベンゼン、ナフタレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の炭化水素系有機溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系有機溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチル、乳酸エチル、フタル酸ジエチル等のエステル系有機溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アニリン、キノリン等の含窒素系有機溶媒等が挙げられ、より好ましくは炭化水素系有機溶媒であり、さらに好ましくは、キシレン、シクロヘキサンなどである。
【0035】
溶媒の使用量は、重合物の重量に対し、1〜100倍の範囲が好ましく、1〜50倍の範囲がより好ましい。溶媒に接触させる時間は、1分〜20時間、より好ましくは30分〜10時間であり、さらに好ましくは、1〜5時間である。溶媒に接触させる温度は、20℃以上80℃以下が好ましく、より好ましくは、30〜70℃である。
【0036】
所定の時間、温度で重合物を溶媒に接触させた後、固液分離する方法は特に限定されないが、具体的には、常圧下または減圧下でろ過をする方法や、遠心分離操作により分離する方法等が挙げられる。固液分離後の重合物の乾燥の有無については特に限定されない。乾燥する場合は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましく、100〜300ml/分、より好ましくは100〜200ml/分で10〜18時間、より好ましくは10〜15時間かけて行うのが良い。乾燥温度は20〜60℃、より好ましくは20〜40℃である。
【0037】
重合物を溶媒に接触させることにより、重合物中に残存する脂肪族環状エステルのみならず、溶媒に溶解する脂肪族ポリエステルのオリゴマー成分等を除去することもできる。
【0038】
溶媒接触型残存モノマー除去工程で得られる重合物としては、好ましくは重量平均分子量で5万以上、分子量分布1.0以上5.0以下、残存モノマー量1以上50重量%以下、より好ましくは、重量平均分子量5万以上、分子量分布1.0以上4.5以下、残存モノマー量1以上40重量%以下の重合物、さらに好ましくは、重量平均分子量20万以上、分子量分布1.0以上4.0以下、残存モノマー量1以上30重量%以下の重合物である。
【0039】
当該溶媒接触型残存モノマー除去工程後に、更に溶媒との接触以外の方法での残存モノマーの除去工程、固相重合等の重合工程を含んでいてもよい。好ましくは、溶媒接触型残存モノマー除去工程後に溶媒との接触以外の方法での残存モノマーの除去工程を含むものである。
【0040】
本発明の製造方法のさらに好ましい形態としては、以下に説明する[第一工程]、[第二工程]及び[第三工程]を含むものである。
【0041】
第一工程は、前述の溶融開環重合を行う工程の好ましい形態であり、触媒及び重合開始剤の存在下、脂肪族環状エステルを溶融開環重合により、重量平均分子量5万以上、分子量分布1.0以上6.0以下、残存モノマー量10以上70重量%以下の重合物を得る工程である。
【0042】
第一工程で使用する触媒は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)や環状二量体の開環重合で通常使用されている化合物であれば特に制限されない。具体的には、2−エチルヘキサン酸錫(II)、カプリル酸錫(II)、ジエチル錫ジラウレート等の有機錫化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリセカンダリーブトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド等の有機アルミニウム化合物、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0043】
第一工程に係る触媒の使用量は、重合速度、解重合速度、触媒除去処理の有無、重合物中の残留触媒の許容量等を考慮して適宜決定される。本発明で使用する触媒の量は、溶融開環重合に供するモノマー量の重量に対して0.0001重量%〜5重量%であるが、触媒除去処理が無い場合は、0.002重量%〜0.2重量%である事が好ましく、触媒除去処理が有る場合は、0.002重量%〜2重量%である事が好ましい。尚、溶融開環重合に供するモノマー量は、脂肪族環状エステルと脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)及び/又は環状二量体の合計量より算出される。
【0044】
第一工程で使用する重合開始剤は水、又は活性水素を有する有機化合物であって、該化合物と脂肪族環状エステルと触媒の存在下で溶融開環重合が進行すれば特に問題なく、公知公用の重合開始剤を使用する事が出来る。重合開始剤の一般的な例はアミノ基、及び/又は水酸基を有する化合物であり、脂肪族アルコール、グリコール、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族アミン、芳香族アミンなどが挙げられるが、安全性を考慮すると脂肪族アルコール、グリコール、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が好ましい。好適な具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、乳酸、グリコール酸等が挙げられる。
【0045】
第一工程に係る重合開始剤の使用量は、所望する脂肪族ポリエステルの分子量に応じて適宜決定される。本発明で使用する開始剤の量は、開環重合に供するモノマー量の重量に対して0.001重量%〜1重量%である事が好ましい。尚、溶融開環重合に供するモノマー量は、脂肪族環状エステルと脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)及び/又は環状二量体の合計量より算出される。
【0046】
第一工程の溶融開環重合温度は、反応混合物が溶融状態であれば特に制限は無いが、重合速度、解重合速度、得られる脂肪族ポリエステルの分子量、及び脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステルの量、脂肪族ポリエステルの着色の度合い、開環重合後に造粒する場合は、開環重合が終了した時点での反応混合物の溶融粘度等を勘案して適宜設定される。重合温度と得られる脂肪族ポリエステルの分子量、及び脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステルの量は一般的に相関があり、重合温度の低い程、得られる脂肪族ポリエステルの分子量は高く、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステルの量は少なくなる。従って、重合温度は反応混合物が溶融状態を維持できていれば低い方が好ましい。一般的に重合温度は脂肪族ポリエステルの融点以上〜200℃が好ましく、120℃〜180℃がより好ましい。
【0047】
第一工程の溶融開環重合時間は、重合温度、触媒量、重合スケール、重合開始剤の量、反応混合物中に含まれる脂肪族環状エステルの量等を考慮して決定される。具体的には、反応混合物中に含まれる脂肪族環状エステルの量が10以上70重量%以下となった任意の時間で溶融開環重合を終了することが好ましく、10以上50重量%以下となった任意の時間で溶融開環重合を終了することがより好ましい。具体的には、0.1時間〜40時間である事が好ましく、1時間〜16時間である事がより好ましい。
【0048】
第一工程で得られた重合物を取り出す方法としては、特に限定されないが例えば、溶融開環重合が終了した時点で、反応槽内の温度を重合物の融点以上に上昇させ内容物を反応槽外部へ排出する。排出後、重合物を粉砕により、ペレットもしくは顆粒(以下、総称してペレットと記載する)にしても良い。ペレットとする場合その粒径については、0.5〜5.0mmが好ましく、より好ましい粒径は、1.0〜3.0mmである。
【0049】
第一工程においては、反応装置としては公知公用のものを用いることができる。反応系内の粘度が大きく変化するため、反応系内の粘度変化に対応して高粘度流体を攪拌することが可能な反応装置を用いることが望ましく、具体的には、パドル型、平板型、プロペラ型、タービン型、ブルーマージン型、錨型、ヘリカル型、スクリュー型などが挙げられ、より好ましくはスクリュー型等が挙げられる。
【0050】
第一工程は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。不活性ガス雰囲気下で行わない場合、気中水分等の影響により、生成した脂肪族ポリエステルが加水分解を受ける可能性がある。本発明で示す不活性ガスとはヘリウム、窒素、アルゴン等通常知られている不活性ガスであれば何れでも良い。しかし、コスト等を考慮した場合、窒素を用いるのが最も望ましい。
【0051】
第一工程により得られる重合物は、好ましくは重量平均分子量で5万以上、分子量分布1.0以上6.0以下、残存モノマー量10以上70重量%以下、より好ましくは、重量平均分子量10万以上、分子量分布1.0以上5.5以下、残存モノマー量1以上60重量%以下の重合物、さらに好ましくは、重量平均分子量20万以上、分子量分布1.0以上5.0以下、残存モノマー量1以上50重量%以下の重合物である。
【0052】
次に第二工程について説明する。第二工程とは前述の溶媒接触型残存モノマー除去工程の好ましい形態であり、第一工程で得られた重合物を溶媒に接触、好ましくは浸漬、洗浄することによって、重量平均分子量5万以上、分子量分布1.0以上5.0以下、残存モノマー量1以上30重量%以下の重合物を得る工程である。
【0053】
第二工程に用いられる溶媒としては、重合開始剤となり得る脂肪族アルコール類、グリコール類、ヒドロキシカルボン酸類、フェノール類等以外であれば特に制限がなく、具体的には、トルエン、キシレン、ベンゼン、ナフタレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の炭化水素系有機溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系有機溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチル、乳酸エチル、フタル酸ジエチル等のエステル系有機溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アニリン、キノリン等の含窒素系有機溶媒等が挙げられ、より好ましくは炭化水素系有機溶媒であり、さらに好ましくは、キシレン、シクロヘキサンなどである。
【0054】
溶媒の使用量は、重合物の重量に対し、1〜100倍の範囲が好ましく、1〜50倍の範囲がより好ましい。溶媒に接触させる時間は、1分〜20時間、より好ましくは30分〜10時間であり、さらに好ましくは、1〜5時間である。溶媒に接触させる温度は、20℃以上80℃以下が好ましく、より好ましくは、30〜70℃である。
【0055】
所定の時間、温度で重合物を溶媒に接触させた後、固液分離する方法は特に限定されないが、具体的には、常圧下または減圧下でろ過をする方法や、遠心分離操作により分離する方法等が挙げられる。固液分離後の重合物の乾燥の有無については特に限定されない。乾燥する場合は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましく、100〜300ml/分、より好ましくは100〜200ml/分で10〜18時間、より好ましくは10〜15時間かけて行うのが良い。乾燥温度は20〜60℃、より好ましくは20〜40℃である。
【0056】
重合物を溶媒に接触させることにより、重合物中に残存する脂肪族環状エステルのみならず、溶媒に溶解する脂肪族ポリエステルのオリゴマー成分等を除去することもできる。
【0057】
第二工程により得られる重合物は、好ましくは重量平均分子量で5万以上、分子量分布1.0以上5.0以下、残存モノマー量1以上50重量%以下、より好ましくは、重量平均分子量5万以上、分子量分布1.0以上4.5以下、残存モノマー量1以上40重量%以下の重合物、さらに好ましくは、重量平均分子量20万以上、分子量分布1.0以上4.0以下、残存モノマー量1以上30重量%以下の重合物である。
【0058】
次に第三工程について説明する。第三工程は、第二工程で得られた重合物を加熱処理することにより、重量平均分子量5万以上、分子量分布1.0以上4.5以下、残存脂肪族エステル量を1重量%以下とする工程である。この工程は、第二工程で用いた溶媒の除去、残存モノマーを除去するものであり、この工程で重合が進行しても良い。
【0059】
第二工程で得られた重合物を加熱処理する方法は特に制限されない。具体的には、重合物を常圧下でガスを流通させながら加熱する方法やガスを流通させながら及び/又は、ガスを流通させずに減圧下で加熱する方法等が挙げられる。
【0060】
また、該加熱処理は連続操作でも回分操作でも行って良く、連続操作の具体例としては、重合物を塔型の脱残存モノマー装置へ連続的に装入し、重合物を移動させつつ、その移動方向と反対方向へガスを流通させながら加熱する方法等があり、回分操作の具体例としては、重合物を塔型の脱残存モノマー装置へ充填し、重合物を移動させずにガスを流通させながら加熱する方法や、重合物を減圧可能な脱残存モノマー装置に入れ、減圧下にてガスを流通させながら及び/又は、ガスを流通させずに重合物を移動させずに加熱する方法等が挙げられる。これらの具体例は一例にすぎず、連続操作、回分操作は特に制限されない。
【0061】
重合物を加熱処理する温度は、重合物が実質的に固体状態を維持していれば特に制限されないが、第二工程において脱残存モノマー処理をする際の重合物から残存モノマーを除去する効率や重合物中に含まれる残存モノマー量の含有量、更に分子量低下の度合いや取り扱い易さを考慮して適宜設定される。一般的には50℃〜脂肪族ポリエステルの融点未満である事が好ましく、脂肪族ポリエステルがポリ(p−ジオキサノン)である場合は50℃〜85℃である事がより好ましい。
【0062】
重合物を加熱処理する際に使用するガスの具体例としては窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、キセノンガス、クリプトンガス等の不活性ガスや乾燥空気等が挙げられる。中でも窒素ガス、乾燥空気が好ましい。
【0063】
重合物を加熱処理する際に使用するガスの含水量は出来るだけ低く、実質的に無水状態のガスである事が好ましい。含水量が多いと加熱処理中に重合物の分子量が低下する場合があり好ましくない。この場合、ガスを脱水する為にモレキュラーシーブ類やイオン交換樹脂類が充填された層にガスを通過させてから使用する事が出来る。ガス中の含水量を露点で表すと、ガスの露点が−20℃以下である事が好ましく、−50℃以下である事がより好ましい。
【0064】
重合物を加熱処理する際に使用するガスの流量は特に制限されないが、一般的にはガスの流量が多い程、重合物中の残存モノマー等を効率良く除去する事が出来る。具体的には、ガスの流量は重合物1gに対して0.02〜200(ml/分)である事が好ましく、0.5〜50(ml/分)である事がより好ましく、1〜10(ml/分)である事が更に好ましい。
【0065】
重合物の加熱処理を減圧下で行う場合、減圧度は特に制限されない。一般的に、効率良く残存モノマーを除去する為には減圧度は出来るだけ高い方が好ましいものの、あまり減圧度が高いと設備費が高くなるので両者を考慮して適切な減圧度を設定する。具体的には、減圧度が0.1mmHg〜750mmHgである事が好ましく、1mmHg〜100mmHgである事がより好ましく、10mmHg〜50mmHgである事が更に好ましい。
【0066】
本発明で得られる脂肪族ポリエステルは、好ましくは重量平均分子量で5万以上、分子量分布1.0以上4.5以下、残存モノマー量1重量%以下、より好ましくは、重量平均分子量10万以上、分子量分布1.0以上4.0以下、残存モノマー量0.5重量%以下、さらに好ましくは、重量平均分子量20万以上、分子量分布1.0以上3.5以下、残存モノマー量0.3重量%以下である。
【0067】
本発明で得られる脂肪族ポリエステルは熱安定性に優れており、重量平均分子量5万以上の脂肪族ポリエステルに置ける5%重量減少温度は好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上250℃以下、さらに好ましくは220℃以上250℃以下である。なお、本発明で示す5%重量減少温度とは、脂肪即ポリエステルの重量減少温度を、島津製作所製DTG−60/60Hシステムを用い測定し、重量の減少が5%となる温度のことである。
【0068】
本発明に係る脂肪族ポリエステルの成形加工法は特に制限されず、射出成形、押出成形、インフレーション成形、押出中空成形、発泡成形、カレンダー成形−、ブロー成形、バルーン成形、真空成形、紡糸等の各種成型加工法により様々な用途に対応した製品を製造する事ができる。
【0069】
本発明に係る脂肪族ポリエステルの用途は、その高い安全性と生分解性、生体吸収性を活かし、手術用モノフィラメントや外科用のデバイス、経口医薬品用カプセル、肛門・膣用座薬用担体、皮膚・粘膜用張付剤用担体、注射筒の部材、等といった医療用用途はもちろん、農薬用カプセル、肥料用カプセル、種苗用カプセル、植木鉢等と言った農業、園芸用用途、釣り糸、釣り用浮き、漁業用擬餌、ルアー等の漁業用用途、弁当箱、食器、コンビニエンスストアで販売されるような弁当や惣菜の容器、鮮魚、精肉、青果、豆腐、惣菜等の食料品用の容器やトレイ、鮮魚市場で使用されるようなトロバコ、牛乳・ヨーグルト・乳酸菌飲料等の乳製品用のボトル、炭酸飲料・清涼飲料等のソフトドリンク用のボトル、ビール・ウイスキー等の酒類ドリンク用のボトル、歯磨き粉用チューブ、化粧品容器、保冷箱等の容器、ラップフィルム、コンポストバック等のフィルム、シート及びそれらから製造される製品などが挙げられる。
【実施例】
【0070】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、脂肪族環状エステルとしてp−ジオキサノンを用いた場合の実施例及び比較例を以下に記した。尚、本発明の主な物性は下記の方法にて測定した。
【0071】
[重量平均分子量、数平均分子量及び分子量分布]
ゲルパーミッションクロマトグラフ法(GPC)により測定した。使用した装置は、島津製作所製 CLASS−VPシステムを用い、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)による通常の検量線法により換算した。
【0072】
[残存p-ジオキサノン量の定量]
あらかじめ、濃度既知のp-ジオキサノンの検量線を作成した後、得られた重合物50〜100mgをヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC−14型ガスクロ装置、キャピラリーカラム:ZB−624、50m×0.32mm、カラム温度120℃)を用いて測定した。
【0073】
[5%重量減少温度の測定方法]
得られた重合物10〜11mgの5%重量減少温度を、島津製作所製DTG−60/60Hシステムを用い測定した。
【0074】
[実施例、比較例中のp−ジオキサノン]
実施例及び比較例で用いたp−ジオキサノンは、大和化成工業株式会社製の水分80ppm以下、純度99%以上のものを用いた。
【0075】
[実施例1]
[第一工程]
脂肪族環状エステルとして、大和化成工業株式会社製のp−ジオキサノン(以下、PDOと呼ぶ)91.7g(0.898モル)を、300mlの排出口付4つ口フラスコに、水分が更に混入しないように窒素気流下で加え、さらに触媒として2−エチルヘキサン酸錫(II)13.8mg(PDOに対し150ppm、アルドリッチ社製)、重合開始剤としてラウリルアルコール76.6mg(PDOに対し835ppm、東京化成社製)をそれぞれ加えた。回転数50rpmで攪拌させながら、常圧、窒素気流下、室温から110℃まで昇温させ溶融開環重合を開始した。溶融開環重合開始8時間後、重量平均分子量46万、残存PDO量22重量%となったところで、内温を110℃から150℃まで昇温させ攪拌を停止、続いてフラスコ底部のコックを通して窒素雰囲気下で生成した重合物をトレイ上へ排出させた。トレイ上に排出した重合物を窒素ボックス内で常温まで冷却した。第一工程後の重合物は、重量平均分子量46万、分子量分布3.8、残存PDO量22重量%であった。
【0076】
[第二工程]
第一工程で得られた重合物を窒素ボックス内で粉砕後、所望のサイズを得る目的で1〜3mmのスクリーンを用い重合物をふるいにかけ微細片(1mm未満)を除去した。次に、この粉砕してふるいにかけた重合物80.0gを300ml3つ口フラスコに入れ、キシレン160g(和光純薬製)を加えた後、窒素気流下、温度65℃、回転数50rpmで1時間攪拌させた。攪拌開始1時間後、ろ過によりキシレンと重合物を分離した。キシレンと重合物を分離した後、窒素を200ml/分、25℃で10時間流通させ、重合物の乾燥操作を行った。第二工程後の重合物は、重量平均分子量46万、分子量分布3.5、残存PDO量8重量%であった。
【0077】
[第三工程]
第二工程で得られた重合物のうち30.0gを、内径1.5cm、長さ30cmのカラム3本に、それぞれ10.0gずつ分けて入れ、窒素を250ml/分、80℃で40時間、それぞれのカラムに流通させ、残存PDO除去操作を行った。第三工程後の重合物は、重量平均分子量46万、分子量分布3.4、残存PDO量0.3重量%であった。
第一工程から第三工程までに要した合計の製造時間は70時間であった。
【0078】
[比較例1]
特開2001−151878の実施例1に準じて実施した。即ち、大和化成工業株式会社製の、PDO100.2g(0.981モル)を300mlの排出口付4つ口フラスコに水分が更に混入しないように窒素雰囲気下で加え、さらに触媒として2−エチルヘキサン酸錫(II)15.0mg(PDOに対し150ppm、アルドリッチ社製)、重合開始剤としてラウリルアルコール83.7mg(PDOに対し835ppm、東京化成社製)をそれぞれ加えた。回転数50rpmで攪拌させながら、常圧、窒素雰囲気下、室温から95℃まで昇温させ溶融開環重合を開始した。溶融開環重合開始4時間後、攪拌を停止し、その状態でさらに、80℃にて固相重合を6日間行った。
【0079】
その後、液体窒素にて急冷して反応器から重合物を取り出し粉砕後、真空乾燥機で12時間、室温下乾燥して粉砕品95gを得た。さらに、5mmHgの減圧下、温度63℃、窒素流量200ml/分で36時間、残存PDO除去操作を行った。この操作後の重合物は、重量平均分子量27万、分子量分布6.7、残存PDO量0.3重量%であった。重合物を製造するのに要した時間は200時間であった。
【0080】
[実施例2]
2−エチルヘキサン酸錫(II)4.6mg(PDOに対し50ppm)として反応させた以外は実施例1と同様に行った。
【0081】
[実施例3]
ジオクタン酸第一錫73.4mg(PDOに対し800ppm)として反応させた以外は実施例1と同様に行った。
【0082】
以上、実施例及び比較例で得られた脂肪族ポリエステルの分析結果を表1に記載した。また、実施例1と比較例1の分子量分布と熱分解温度の測定結果をそれぞれ図1及び図2に記載した。
【0083】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】得られた重合物の分子量分布曲線を示した。(実施例1および比較例1)
【図2】得られた重合物の熱分解曲線を示した。(実施例1および比較例1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

[式中、R、R、及びRは、−H、−CH、−CH−CH、−(CH−CH、−CH(CH)−CHを表し、それぞれ同一かまたは異なり、式中Xは、酸素原子または硫黄原子を表し、nは整数を表す]
で表される脂肪族環状エステルの重合反応において、脂肪族環状エステルの溶融開環重合後、得られた重合物を溶媒に接触させ、重合物中に残存する脂肪族環状エステルを除去する工程を含むことを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法において、
[第一工程] 触媒及び重合開始剤の存在下、脂肪族環状エステルの溶融開環重合により、重量平均分子量5万以上、分子量分布1.0以上6.0以下、残存脂肪族環状エステル量10以上70重量%以下の重合物を得る工程
[第二工程]第一工程で得られた重合物を溶媒に接触させることにより、重量平均分子量5万以上、分子量分布1.0以上5.0以下、残存脂肪族環状エステル量1以上50重量%以下の重合物を得る工程
[第三工程]第二工程で得られた重合物を加熱処理することにより、重量平均分子量5万以上、分子量分布1.0以上4.5以下、残存脂肪族環状エステル量1重量%以下とする工程
以上、3段階の工程を含むことを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の脂肪族ポリエステルが、ポリ(p−ジオキサノン)であることを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
重量平均分子量が5万以上かつ5%重量減少温度が200℃以上であることを特徴とするポリ(p−ジオキサノン)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−9157(P2007−9157A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195401(P2005−195401)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】