説明

脂肪族ポリエステル及びその製造方法

【課題】高分子量で且つ熱安定性ならびに耐加水分解性にも優れる為、射出成形、中空成形および押出し成形などによる成形性や引張特性等の機械物性に優れ、使用・保管時の劣化が少ない脂肪族ポリエステルを提供する。
【解決手段】ジオール単位及び脂肪族ジカルボン酸単位を主体とする脂肪族ポリエステル中に有機ホスフェイト金属塩、ホスファイト及びホスホナイトの群から選ばれる少なくとも1種の有機リン化合物を含有する脂肪族ポリエステルであって、該有機リン化合物が、該脂肪族ポリエステルに対するリン元素の含有量として、0.1ppm以上、90ppm以下含まれ、且つ脂肪族ポリエステル中のカルボキシル末端基量が、0.1当量/トン以上40当量/トン以下であることを特徴とする脂肪族ポリエステルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル及びその製造方法に関する。
詳しくは、充分な分子量を有し、熱安定性ならびに耐加水分解性に優れた脂肪族ポリエステル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生分解性を有する脂肪族ポリエステルは、環境問題に対する意識の高まりから、より環境負荷を回避する樹脂として、繊維、成形品、フィルムやシート等への応用がはかられている。例えば、生分解性を有するポリブチレンサクシネート及び/又はポリブチレンアジピネートは、ポリエチレンと似た力学特性を持つことからポリエチレン代替の汎用樹脂として開発されている。
【0003】
ところが、汎用樹脂としての応用の観点からは、このような脂肪族ポリエステルは、以下に記載の製造上の制約、そして、実用上の耐久性の課題が残されている。
一般に、経済的に有利なポリエステルの製造方法としては、触媒の存在下でのジカルボン酸とジオールとの直接エステル化反応、或いは、ジカルボン酸のアルキルエステルとジオールとのエステル交換反応によりエステル低重合体を製造後、これを加熱減圧下でエステル交換反応を行いながら生成するジオールを反応系から留去して高重合度のポリエステルを製造する方法が古くから知られ、採用されている。
【0004】
しかしながら、脂肪族ポリエステルの場合はその熱安定性が低い場合が多く、重合反応中に熱分解による分子量の低下が引き起こされる為、従来のポリエステルの製造方法では実用上十分な強度を有する高重合度のポリエステルが容易には得られなかった。ポリマーの熱安定性には、ポリマー末端(水酸基やカルボキシル基)濃度、特にカルボキシル基の残存が著しく悪影響を及ぼすと提案されている(例えば、特許文献1参照)。そのような背景から、その製造方法には種々の工夫がなされている。
【0005】
高重合度のポリエステルの製造方法としては、例えば、チタン化合物やジルコニウム化合物を触媒として溶融重合を行い、鎖延長剤としてジイソシアネート(例えば、特許文献2参照)やジフェニルカーボネート(例えば、特許文献3参照)を添加してポリマー鎖長を延ばすことによりポリマーの溶融粘度を高める方法が提案されている。これらの鎖延長剤を添加する方法は、ポリエステルの分子量を容易に増大させることができるため、一見、脂肪族ポリエステルの有効な製造方法と考えられるが、通常、反応工程が2段階になり工程が煩雑になること、また、得られるポリエステルについては、その結晶性や融点が若干低下することに加えて、分子中にウレタン結合等の異種結合が含まれているので生分解性が低下する傾向にあること、などの問題がある。
【0006】
また、分岐剤として、ジカルボン酸に対して0.5〜5モル%量の3官能オキシカルボン酸或いは0.1〜3モル%量の4官能オキシカルボン酸を添加してポリエステルの構造を架橋構造にする方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、このように3官能や4官能のオキシカルボン酸を多量に導入して溶融粘度を上げたポリエステルは、熱安定性の低下の要因となりうるポリマー末端(水酸基やカルボキシル基)濃度が高くなる傾向があり、また、実用上の物性もまた不十分である。従って、殆どの場合、重合後期に更にジイソシアネートを添加してポリマーの末端数を減少させると共にポリマーの分子量を高める工夫がなされている(例えば、特許文献5参照)。
【0007】
一方、ジイソシアネートやカーボネート等の鎖延長剤を用いることなく高分子量化する
方法もいくつか提案されている。例えば、重合反応速度を高めるために、触媒として錫化合物を用いて有機溶媒中で反応中に生成する水を溶媒と共沸留去させながら脱水縮合を行う方法(例えば、特許文献6参照)、0.005〜0.1mmHgという非常に高真空で重縮合反応を行う方法(例えば、特許文献7参照)が開示されている。しかしながら、これらの製造方法は、特に、後者の方法は、実質ヒドロキシル基末端のポリエステルが製造される為、上記の観点からは耐熱性に優れたポリエステルの製造方法として期待されるが、製造工程が煩雑なばかりでなく極めて高額の設備投資を要する欠点を有する。また、この方法では、高重合度のポリエステル製造に長時間を要する為、製造中のポリマーの熱分解や着色が懸念される。
【0008】
また、その他の方法としては、有機ホスフィン酸やリン酸水素塩等のプロトン放出性リン化合物と重合触媒とを組み合わせた触媒系が提案されている(例えば、特許文献8参照)。これらのプロトンを放出する酸性化合物は、例えば、原料のブタンジオールからテトラヒドロフランのような副生生物を発生させるばかりか(化学大辞典、7巻、p850、共立出版(1962))、最終生成物の酸濃度を高くしてポリエステルの熱安定性ならびに耐加水分解性を低下させる恐れがある。
【0009】
一方、色調改善や分子量維持の為に有機ホスファイト又はホスホナイトを添加した重合系も提案されているが、これらの系は特に加水分解反応を受けやすい特徴があり、比較的短期の保管や使用に対しても引張り特性等の機械物性の劣化が著しいなど、耐久性の観点で問題があった(例えば、特許文献9、特許文献10参照)。
それに対して本特許出願人は、ジイソシアネートやジフェニルカーボネートが含有されない脂肪族ポリエステルとして、重合成分に乳酸等の二官能オキシカルボン酸を加えて3元系(1,4−ブチレングリコール、コハク酸、乳酸)又は4元系(1,4−ブチレングリコール、コハク酸、アジピン酸、乳酸)とし、触媒としてGe系触媒を用いると、高活性で高重合度のポリエステルが製造できることを提案した(例えば、特許文献11参照)。また、更に溶融粘度を高める目的で、上記重合系に3官能脂肪族オキシカルボン酸を加える方法を提案した(例えば、特許文献12参照)。
【特許文献1】特開平7−53700号公報
【特許文献2】特開平4−189822号公報
【特許文献3】特開平8−301999号公報
【特許文献4】特開平5−170885号公報
【特許文献5】特開平5−178956号公報
【特許文献6】特開平9−77862号公報
【特許文献7】特開平5−310898号公報
【特許文献8】特開2002−187943号公報
【特許文献9】特表平9−500676号公報
【特許文献10】特開平7−242742号公報
【特許文献11】特開平8−239461号公報
【特許文献12】特開平8−259679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、環境上の問題となるイソシアネート化合物やカーボネート化合物等の鎖延長剤を使用することなく、簡便な製造方法により、充分に高分子量化され、引張特性等の機械特性に優れたポリエステルを提供することにある。特に、本発明で製造されるポリエステルは、熱安定性ならびに耐加水分解性等の耐久性に優れた特徴を有する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記実情に鑑みて脂肪族ポリエステルの製造時の熱安定性を向上させる手
法を鋭意検討した結果、特定量の特定の有機リン化合物を製造時に添加させると、より高温の条件下での製造においてもポリエステルの熱分解を抑制できるばかりでなく、優れた耐加水分解性も兼ね備えたポリエステルを提供できる知見を得、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、ジオール単位及び脂肪族ジカルボン酸単位を主体とする脂肪族ポリエステル成分中に有機ホスフェイト金属塩、ホスファイト及びホスホナイトの群から選ばれる少なくとも1種の有機リン化合物を含有する脂肪族ポリエステルであって、該有機リン化合物が、該脂肪族ポリエステルに対するリン元素の含有量として、0.1ppm以上、90ppm以下含まれ、且つ脂肪族ポリエステル中のカルボキシル末端基量が、0.1当量/トン以上40当量/トン以下であることを特徴とする脂肪族ポリエステル、に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の脂肪族ポリエステルは、熱安定性に優れ、経時的な還元粘度の低下率が少ない為、より高温条件下での製造が可能となり、生産性に優れるばかりでなく、射出成形、中空成形および押出し成形などによる成形性や引張特性等の機械物性に優れる。また耐加水分解性に優れるなど、使用・保管時の劣化度合いが少ない樹脂であるため、長期の使用や保管に耐えうる成形体として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明につき詳細に説明する。
<脂肪族ポリエステル>
本発明の対象とするポリエステルは、有機リン化合物、脂肪族ジカルボン酸単位およびジオール単位を必須成分とする。また、本発明のポリエステルは、下記のような特徴を有することが好ましい。
本発明の脂肪族ポリエステルのカルボキシル基末端濃度は、通常、50当量/トン以下であるが、下記のように優れた耐加水分解性を発現させる為には、その濃度は、40当量/トン以下、特に、30当量/トン以下、更には25当量/トン以下であることが好ましく、0.1当量/トン以上、好ましくは0.5当量/トン以上、特に1当量/トン以上が好ましい。この量が多くなると、ポリマーの成形時の熱安定性や比較的長期の使用・保管時の耐加水分解性が低下する傾向があり、カルボキシル基が少なすぎるポリマーは、より好ましい形態ではあるが、このようなポリマーを製造するには極めて高額の設備投資を要する他、多大な製造時間を要するなど経済的に不利な点である。末端カルボキシル基量は、通常、公知の滴定方法により算出されるが、本発明においては、得られたポリエステルをベンジルアルコールに溶解し0.1N NaOHにて滴定した値であり、1×106 g当たりのカルボキシル基当量である。
【0015】
本発明の脂肪族ポリエステルの還元粘度(ηsp/c)値の下限は、通常、2.0以上であり、より好ましくは2.2以上、その中でも2.3以上であると耐加水分解性が高い樹脂となる。しかしながら、還元粘度(ηsp/c)値が高すぎるとポリエステルの重合反応後の抜き出しや成形性等の操作性に弊害が生じる理由から、その上限は、通常、6.0以下、好ましくは5.0以下、更に好ましくは4.0以下である。この因子は、カルボキシル基末端濃度にも影響を与える因子であるが、ポリマーの粘度が上昇することにより疎水性が増して耐加水分解性が向上する場合がある。尚、本発明でいう還元粘度は以下の測定条件により測定されたものである。
【0016】
〔還元粘度(ηsp/c)測定条件〕
粘度管:ウベローデ粘度管
測定温度:30℃
溶媒:フェノール/テトラクロロエタン(1:1重量比)溶液
ポリエステル濃度:0.5g/dl
更に、本発明の脂肪族ポリエステルは、厚み150±25μmのフィルム状試験片とし、温度50℃、相対湿度90%R.H.の条件で10日間保持したときの還元粘度保持率が80%以上であることが好ましい。
ここで還元粘度保持率とは、保持試験後の還元粘度/保持試験前の還元粘度×100(%)をいう。還元粘度保持率の上限は特に制限されないが、通常、100%である。一方、その下限は通常70%、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上で、更に好ましくは90%以上ある。この保持率が下限を下回ると、ポリエステルの比較的長期の使用・保管時に、保存後のポリエステルの引張り特性等の機械特性の劣化が著しくなる傾向がある。
このような脂肪族ポリエステルの耐加水分解性は、未だ詳細は詳らかにされていないが、上記の還元粘度やカルボキシル基末端量、或いは以下に示す使用する有機リン化合物の種類ならびにその使用量などのいくつかの因子により発現するものと考えられる。
【0017】
<有機リン化合物>
本発明においては、有機リン化合物の含有量は、ポリエステル中のリン元素の含有量として、下限が、通常、0.01ppm以上、好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、特に好ましくは10ppm以上である。一方、その上限は、通常、500ppm以下、好ましくは300ppm以下、より好ましくは90ppm以下、更に好ましくは60ppm以下、特に好ましくは30ppm以下である。使用量が少なすぎるとポリエステルの熱安定化が発現しなく、使用量が多すぎると製造されるポリエステルの耐加水分解性が著しく低下する。
【0018】
ポリエステル中のリン元素の含有量は、通常の公知の分析手法により決定されが、その一例として、ICP発光分析(誘導結合プラズマ-原子発光分光分析)による定量分析が挙げられる。
本発明の脂肪族ポリエステル中にリン元素を含有させるためには、以下に示す有機リン化合物をポリエステル製造時の任意の工程で添加する方法がとられるが、操作の容易さの理由から反応仕込み時に含有させる方法が好ましい。
【0019】
有機リン化合物としては、有機ホスフェイト金属塩、ホスファイトならびにホスホナイトの群から選ばれる有機リン化合物ならびにそれらの混合物であることが好ましい。この中でも、特に製造時のポリエステルの熱安定化効果が高く且つ製造後のポリエステルの耐加水分解性等の耐久性に優れる理由から、ホスファイトならびにホスホナイトがより好ましく、ホスファイトが特に好ましい。
【0020】
これらのリン元素含有化合物を製造時に添加することによりポリエステルの熱安定化が発現し、より高温でのポリエステルの製造が可能となる。
本発明における有機ホスフェイト金属塩は、一般式(1)又は(2)により表される化合物である。
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、R1、ならびにR2は、それぞれ独立に、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ステアリル等の炭素数1〜30のアルキル基、又はフェニル、ノニルフェニル、ブチルフェニル、ブチルメチルフェニル、ジブチルフェニル、ジブチルメチルフェニル、ビフェニル及びオクチルフェニル等の炭素数6〜30のアリール基を表す。Mは、周期表で、水素、炭素を除く1族〜15族金属元素を含む化合物である。具体的には、チタン、ジルコニウム、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれた、少なくとも1種以上の金属を表し、nは金属の価数を表す。)
1,R2としては、特に限定はされないが、通常ポリマーとの相溶性に優れる理由から、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ステアリル等の炭素数6〜30のアルキル置換基を有する化合物が好ましく、金属としては、有害性が低く、製造されるポリエステルの耐久性が良い理由から、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムが好ましく、その中でも特に、亜鉛が好ましい。
【0023】
具体的には、堺化学工業株式会社製のマグネシウムステアリルホスフェイト(LBT―1812)、アルミニウムステアリルホスフェイト(LBT―1813)、カルシウムステアリルホスフェイト(LBT―1820)、ジンクステアリルホスフェイト(LBT―1830)などが挙げられる。これらの中では、ポリエステルの耐加水分解性、熱安定化能が高い理由から、カルシウムステアリルホスフェイト(LBT―1820)ならびにジンクステアリルホスフェイト(LBT―1830)が好ましい。
【0024】
本発明におけるホスファイトは、一般式(3)により表される化合物である。
【0025】
【化2】

【0026】
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペ
ンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ステアリル等の炭素数1〜30のアルキル基、又はフェニル、ノニルフェニル、ブチルフェニル、ブチルメチルフェニル、ジブチルフェニル、ジブチルメチルフェニル、ビフェニル及びオクチルフェニル等の炭素数6〜30のアリール基を表す。)
具体的には、これらの化合物の例は、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェ
ニレンホスファイト、ビス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリト
リトールジホスファイト、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニ
ル)ペンタエリトリトールジホスファイト、ジステアリル−ペンタエリトリトール−ジフォスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−トリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、トリス−(ノニルフェニル)ホスファイト及び4,4′−イソプロピリデンビス−(フェニル−ジアルキルホスファイト)等が挙げられる。これらの中では、ポリエステルの耐加水分解性が高い理由から、オルト位に一個又は二個の、より好ましくは2個のt−ブチル基を有する芳香族炭化水素基を有するものが好ましく、更にその構造に加えてペンタエリトリトール構造を有するものが特に好ましい。その様な化合物としては、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンホスファイト、ビス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト等が挙げられ、その中でもトリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイトが好ましく、特にビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイトが好ましい。
【0027】
本発明におけるホスホナイトは、一般式(4)により表される化合物である。
【0028】
【化3】

【0029】
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペ
ンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ステアリル等の炭素数1〜30のアルキル基、又はフェニル、ノニルフェニル、ブチルフェニル、ブチルメチルフェニル、ジブチルフェニル、ジブチルメチルフェニル、ビフェニル及びオクチルフェニル等の炭素数6〜30のアリール基を表す。)
具体的には、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ー1,1−ビフェニルー4,4′−ジイルビスホスホナイト、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチル−5―メチルフェニル)−1,1−ビフェニルー4,4′−ジイルビスホスホナイト等が挙げられ、好ましくは、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチル−5―メチルフェニル)−1,1−ビフェニルー4,4′−ジイルビスホスホナイトである。その構造式(5)を以下に示す。
【0030】
【化4】

【0031】
<脂肪族ジカルボン酸単位>
本発明において用いられる脂肪族ジカルボン酸単位としては、脂肪族ジカルボン酸及び/又はその誘導体から誘導されるものである。脂肪族ジカルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸、ダイマー酸ならびにシクロヘキサンジカルボン酸等の、通常、炭素数が2以上40以下の鎖状或いは脂環式ジカルボン酸が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸の誘導体として、上記脂肪族ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル及びブチルエステル等の低級アルキルエステルや例えば無水コハク酸等の上記脂肪族ジカルボン酸の環状酸無水物も使用できる。これらは、単独でも2種以上の混合物として使用してもよい。これらの内、脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸、ダイマー酸またはこれらの混合物が好ましく、脂肪族ジカルボン酸の誘導体としては、アジピン酸及びコハク酸のメチルエステル、またはこれらの混合物が好ましい。
【0032】
本発明のポリエステルは、好ましいポリエステルの製造方法の一態様として、後述するように、これらの脂肪族ジカルボン酸及びその酸無水物環状体を反応系から留去しながらポリエステルを製造する形態を採ることができる。この場合、遊離の脂肪族ジカルボン酸及び/又はその酸無水物環状体を生成させるためには、末端がカルボキシル基である方が有利であるため、上記のジカルボン酸成分としては脂肪族ジカルボン酸を用いるのが好ましい。具体的には、比較的分子量の小さい脂肪族ジカルボン酸及び/又はその酸無水物環状体が減圧下での加熱により比較的容易に留去できる点から、アジピン酸及びコハク酸が好ましく、特にコハク酸が好ましい。
【0033】
また、上記の脂肪族ジカルボン酸及び/又はその誘導体の他に、芳香族ジカルボン酸又はその誘導体を併用してもよい。芳香族ジカルボン酸の具体的な例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸及びジフェニルジカルボン酸等が挙げられ、芳香族ジカルボン酸の誘導体としては、前記した芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステル、具体的には、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル及びブチルエステル等が挙げられる。これらは、単独でも2種以上の混合物として上記脂肪族カルボン酸に加えて使用してもよい。この内、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸が好ましく、芳香族ジカルボン酸の誘導体としては、ジメチルテレフタレートが好ましい。
【0034】
これらの他のジカルボン酸の使用量は、ジカルボン酸全量中、通常、50モル%以下、好ましくは30モル%以下、より好ましくは、10モル%以下である。
本発明において、これらのジカルボン酸は、バイオマス資源から誘導されるものでもよい。
バイオマス資源としては、例えば、木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、おから、コーンコブ、タピオカカス、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、油脂、古紙、製紙残渣、水産物残渣、家畜排泄物、下水汚泥、食品廃棄物等が挙げられる。この中でも木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、おから、コーンコブ、タピオカカス、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、油脂、古紙、製紙残渣等の植物資源が好ましく、より好ましくは、木材、稲わら、籾殻、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、芋、油脂、古紙、製紙残渣であり、最も好ましくはとうもろこし、さとうきび、キャッサバ、サゴヤシである。これらのバイオマス資源は、一般に、窒素元素やNa、K,、Mg、Ca等の多くのアルカリ金属、アルカリ土類金属を含有する。
【0035】
そしてこれらのバイオマス資源は、特に限定はされないが、例えば酸やアルカリ等の化学処理、微生物を用いた生物学的処理、物理的処理等の公知の前処理・糖化の工程を経て炭素源へ誘導される。その工程には、例えば、通常、特に限定はされないが、バイオマス資源をチップ化する、削る、擦り潰す等の前処理による微細化工程が含まれる。必要に応じて、更にグラインダーやミルで粉砕工程が含まれる。こうして微細化されたバイオマス資源は、更に前処理・糖化の工程を経て炭素源へ誘導されるが、その具体的な方法としては、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸等の強酸で酸処理、アルカリ処理、アンモニア凍結蒸煮爆砕法、溶媒抽出、超臨界流体処理、酸化剤処理等の化学的方法や、微粉砕、蒸煮爆砕法、マイクロ波処理、電子線照射等の物理的方法、微生物や酵素処理による加水分解等生物学的処理が挙げられる。
【0036】
上記のバイオマス資源から誘導される炭素源としては、通常、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のヘキソース、アラビノース、キシロース、リボース、キシルロース、リブロース等のペントース、ペントサン、サッカロース、澱粉、セルロース等の2糖・多糖類、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、モノクチン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、アラキドン酸、ベヘニン酸、エルカ酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リグノセリン酸、セラコレン酸等の油脂、グリセリン、マンニトール、キシリトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース、フルクトース、キシロースが好ましく、特にグルコースが好ましい。より広義の植物資源由来の炭素源としては、紙の主成分であるセルロースが好ましい。
【0037】
これらの炭素源を用いて、微生物変換による発酵法や加水分解・脱水反応・水和反応・酸化反応等の反応工程を含む化学変換法ならびにこれらの発酵法と化学変換法の組み合わせによりジカルボン酸が合成される。これらの中でも微生物変換による発酵法が好ましい。
微生物変換に用いる微生物としては、ジカルボン酸の生産能を有すれば特に限定されないが、例えば、Anaerobiospirillum属 (米国特許第5143833
号明細書)等の嫌気性細菌、Actinobacillus属(米国特許第5504004号明細書)、Escherichia属(米国特許第5770435号明細書)等の通性嫌気性細菌、Corynebacterium属(特開平11−113588号公報)などの好気性細菌、Bacillus属、Rizobium属、Brevibacterium属、Arthrobacter属に属する好気性細菌(特開2003−235593号公報)、Bacteroidesruminicola、Bacteroides amylophilus等の嫌気性ルーメン細菌、E.coli(J.Bacteriol.,57:147−158)又はE.coliの株の変異体(特表2000−500333号公報、米国特許第6159738号明細書)を用いることができる。
【0038】
微生物変換における反応温度、圧力等の反応条件は、選択される菌体、カビなど微生物の活性に依存することになるが、ジカルボン酸を得るための好適な条件を各々の場合に応
じて選択すればよい。
微生物変換においては、pHが低くなると微生物の代謝活性が低くなったり、或いは微生物が活動を停止するようになり、製造歩留まりが悪化したり、微生物が死滅するため、通常には中和剤を使用する。通常はpHセンサーによって反応系内のpHを計測し、所定のpH範囲となるように中和剤の添加によりpHを調節する。中和剤の添加方法については特に制限はなく、連続添加であっても間欠添加であってもよい。
【0039】
中和剤としてはアンモニア、炭酸アンモニウム、尿素、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩が挙げられる。好ましくはアンモニア、炭酸アンモニウム、尿素である。なお上記アルカリ(土類)金属の水酸化物としてはNaOH、KOH、Ca(OH)2、Mg(OH)2等、或いはこれらの混合物などが挙げられ、アルカリ(土類)金属の炭酸塩としては、Na2CO3
2CO3、CaCO3、MgCO3、NaKCO3等、或いはこれらの混合物などが挙げら
れる。
【0040】
pH値は、用いる菌体、カビ等の微生物の種類に応じて、その活性が最も有効に発揮される範囲に調整されるが、一般的には、pH4〜10、好ましくは6〜9程度の範囲である。
発酵法を含む製造方法により得られるジカルボン酸の精製方法は電気透析を用いる方法、イオン交換樹脂を用いる方法、塩交換法等が知られている。例えばジカルボン酸塩を分離し純粋な酸を生成する電気透析および水分解工程を組み合わせて用いることによって製造し、更なる精製を、一連のイオン交換カラムに生成物ストリームを通すことによって達成しても良いし、ジカルボン酸の過飽和溶液に変換するための水分解電気透析を用いても良い(米国特許第5,034,105号明細書)。また、塩交換法は例えばジカルボン酸のアンモニア塩を硫酸水素アンモニウム及び/または硫酸と十分に低いpHで混合して反応させジカルボン酸及び硫酸アンモニウムを生成させても良い(特表2001−514900号公報)。イオン交換樹脂を用いる具体的方法としては、ジカルボン酸の溶液から遠心分離、濾過等により菌体等の固形分を除去した後、イオン交換樹脂で脱塩し、その溶液から結晶化或いはカラムクロマトグラフィーによりジカルボン酸を分離精製する方法が挙げられる。精製方法はどのような方法を用いても良い。特に、コスト、効率の点でイオン交換法又は塩交換法が好ましく、工業的生産性の点で塩交換法が特に好ましい。
【0041】
精製によりジカルボン酸中に含まれる不純物の窒素化合物や金属カチオンの量を減らすことが、通常、実用的な重合体を得るために必要である。
上述の方法にてバイオマス資源から誘導されたジカルボン酸には、バイオマス資源由来、発酵処理ならびに酸による中和工程を含む精製処理に起因して不純物として窒素元素が含まれてくる。具体的には、アミノ酸、たんぱく質、アンモニウム塩、尿素、発酵菌由来等の窒素元素が含まれてくる。
【0042】
上述の方法にてバイオマス資源から誘導されたジカルボン酸中に含まれる窒素原子含有量は、カルボン酸中に、原子換算にして、上限は通常2000ppm以下、好ましくは、1000ppm以下、より好ましくは100ppm以下、最も好ましくは50ppm以下である。下限は通常、0.01ppm以上、好ましくは、精製工程の経済性の理由から0.1ppm以上である。
【0043】
窒素原子含有量は、元素分析法等の公知の方法や、アミノ酸分析計を用い、生体アミノ酸分離条件にて試料中のアミノ酸やアンモニアを分離し、これらをニンヒドリン発色させて検出する方法により測定される値である。
窒素原子含有量が上記の範囲にあるジカルボン酸を用いることで、得られるポリエステルの着色の減少に有利になる。また、ポリエステルの重合反応の遅延化を抑制する効果も
併せ持つ。
【0044】
ジカルボン酸中に含まれる不純物のアンモニアの量を効率的に減らす具体的な方法として、目的とするジカルボン酸よりもpHの高い弱酸性の有機酸を使用した反応晶析方法が挙げられる。
また、発酵法により製造したジカルボン酸を用いる場合には、酸による中和工程を含む精製処理により硫黄原子が含まれてくる場合がある。具体的に、硫黄原子が含有される不純物としては、硫酸、硫酸塩、亜硫酸、有機スルホン酸、有機スルホン酸塩等が挙げられる。
【0045】
ジカルボン酸中に含まれる硫黄原子含有量は、ジカルボン酸中に、原子換算にして、上限は通常100ppm以下、好ましくは、10ppm以下、より好ましくは、上限が5ppm以下、最も好ましくは、上限は0.5ppm以下である。一方、下限は通常、0.001ppm以上、好ましくは、0.01ppm以上、より好ましくは、0.1ppm以上である。多すぎると、重合反応が遅延化したり、ポリマーの安定性が低下する傾向がある。一方、少なすぎる系は、好ましい形態であるが、精製工程が煩雑となり経済的に不利になる。硫黄原子含有量は、公知の元素分析法により測定される値である。
【0046】
本発明において、上述の方法で得られたバイオマス資源由来のジカルボン酸をポリエステル原料として使用するにあたり、重合系に連結される該ジカルボン酸を貯蔵するタンク内の酸素濃度を一定値以下に制御してもよい。これによりポリエステルの不純物である窒素源の酸化反応による着色を防止することができる。
酸素濃度を制御し原料を貯蔵するためには、通常タンクが用いられる。しかし、タンク以外でも酸素濃度を制御できる装置であれば特に限定されない。貯蔵タンクの種類は具体的には限定は無く、公知の金属製もしくはこれらの内面にガラス、樹脂などのライニングを施したもの、さらにはガラス製、樹脂製の容器などが用いられる。強度の面などから金属製もしくはそれらにライニングを施したものが好んで用いられる。金属製タンクの材としては、公知のものが使用され、具体的には、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、SUS410等のマルテンサイト系ステンレス鋼、SUS310、SUS304、SUS316等のオーステナイト系ステンレス鋼、クラッド鋼、鋳鉄、銅、銅合金、アルミニウム、インコネル、ハステロイ、チタン等が挙げられる。
【0047】
ジカルボン酸の貯蔵タンク内の酸素濃度は、貯蔵タンク全体積に対して、下限は特に限定されないが、通常0.00001%以上、好ましくは0.01%以上である。一方、上限が16%以下、好ましくは14%以下、より好ましくは、12%以下である。酸素濃度が低すぎる場合には、設備や管理工程が煩雑になり経済的に不利であり、一方、高すぎる場合には、製造されるポリマーの着色が増加する傾向がある。
【0048】
ジカルボン酸の貯蔵タンク内の温度は、下限が通常−50℃以上、好ましくは0℃以上である。一方、上限が通常200℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは、50℃以下であるが、温度管理の必要がない理由から室温で貯蔵する方法が最も好ましい。温度が低すぎる場合には、貯蔵コストが増大する傾向があり、また、高すぎる場合には、カルボン酸の脱水反応等が併発する傾向がある。
【0049】
ジカルボン酸の貯蔵タンク内の湿度は、貯蔵タンク全体積に対して、下限は特に限定されないが、通常0.0001%以上、好ましくは0.001%以上であり、より好ましくは、0.01%以上、最も好ましくは0.1%以上であり、上限が80%以下、好ましくは60 %以下、より好ましくは、40%以下である。湿度が低すぎる場合には、管理工程が煩雑で経済的に不利になる傾向があり、また、高すぎる場合には、貯蔵タンクや配管へのジカルボン酸の付着、ジカルボン酸のブロック化、貯蔵タンクが金属製の場合にはタ
ンクの腐食等が問題になる傾向がある。
ジカルボン酸の貯蔵タンク内の圧力は、通常、大気圧(常圧)である。
【0050】
<ジオール単位>
本発明においてジオール単位とは、芳香族ジオール及び/又は脂肪族ジオールから誘導されるものであり、公知の化合物を用いることができるが、脂肪族ジオールを使用するのが好ましい。脂肪族ジオールとは、2個のOH基を有する脂肪族及び脂環式化合物であれば特に制限はされないが、炭素数の下限値が2以上であり、上限値が通常10以下、好ましくは6以下の脂肪族ジオールが挙げられる。
【0051】
脂肪族ジオールの具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール及び1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらは、単独でも2種以上の混合物として使用してもよい。
この内、エチレングリコール、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオール、及び1,4−シクロヘキサンジメタノ−ルが好ましく、その中でも、エチレングリコール及び1,4−ブタンジオ−ルが好ましく、更には、1,4−ブタンジオ−ルが特に好ましい。全ジオール成分中の脂肪族ジオールの割合は、全ジオール成分中、通常、70モル%以上、好ましくは80モル%以上である。
【0052】
芳香族ジオールとしては、2個のOH基を有する芳香族化合物であれば、特に制限はされないが、炭素数の下限値が6以上であり、上限値が通常15以下の芳香族ジオールが挙げられる。芳香族ジオールの具体例としては、例えば、ヒドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、4,4‘−ジヒドロキシジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン及びビス(p−ヒドロキシフェニル)―2,2―プロパン等が挙げられる。本発明において、ジオール全量中、芳香族ジオールの含有量は、通常、30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
【0053】
また、両末端ヒドロキシポリエーテルを上記の脂肪族ジオールと混合して使用してもよい。両末端ヒドロキシポリエーテルとしては、炭素数が下限値が通常4以上、好ましくは10以上であり、上限値が通常1000以下、好ましくは200以下、更に好ましくは100以下である。
両末端ヒドロキシポリエーテルの具体例としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ1,3−プロパンジオール及びポリ1,6−ヘキサメチレングリコール等が挙げられる。また、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合ポリエーテル等を使用することもできる。これらの両末端ヒドロキシポリエーテルの使用量は、使用ポリエステル中の含量として、通常90重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下に計算される量である。
【0054】
本発明において、これらのジオールは、バイオマス資源から誘導されたものを用いてもよい。具体的には、ジオール化合物はグルコース等の炭素源から発酵法により直接製造してもよいし、発酵法により得られたジカルボン酸、ジカルボン酸無水物、環状エーテルを化学反応によりジオール化合物に変換しても良い。
例えば1,4−ブタンジオールをコハク酸、コハク酸無水物、コハク酸エステル、マレイン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸エステル、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン等から化学合成により1,4−ブタンジオールを製造しても良いし、発酵法により得られた1,3−ブタジエンから1,4−ブタンジオールを製造してもよい。この中でもコハク酸を還元触媒により水添して1,4−ブタンジオールを得る方法が効率的で好ましい。
【0055】
コハク酸を水添する触媒の例として、Pd、Ru、Re、Rh、Ni、Cu、Co及びその化合物が挙げられ、より具体的には、Pd/Ag/Re、Ru/Ni/Co/ZnO、Cu/Zn酸化物、Cu/Zn/Cr酸化物、Ru/Re、Re/C、Ru/Sn、Ru/Pt/Sn、Pt/Re/アルカリ、Pt/Re、Pd/Co/Re、Cu/Si、Cu/Cr/Mn、ReO/CuO/ZnO、CuO/CrO、Pd/Re、Ni/Co、Pd/CuO/CrO3、リン酸Ru、Ni/Co、Co/Ru/Mn、Cu/Pd/KOH、Cu/Cr/Znが挙げられる。この中でもRu/Sn又はRu/Pt/Snが触媒活性の点で好ましい。
【0056】
更に、バイオマス資源から公知の有機化学触媒反応の組み合わせによりジオール化合物を製造する方法も積極的に用いられる。例えば、バイオマス資源としてペントースを利用する場合には公知の脱水反応、触媒反応の組み合わせで容易にブタンジオール等のジオールを製造できる。
バイオマス資源由来から誘導されたジオールには、バイオマス資源由来、発酵処理ならびに酸による中和工程を含む精製処理に起因して不純物として窒素原子が含まれてくる場合がある。この場合、具体的には、アミノ酸、蛋白質、アンモニア、尿素、発酵菌由来の窒素原子が含まれてくる。
【0057】
発酵法により製造したジオール中に含まれる窒素原子含有量は、ジオール中に、原子換算にして、上限は通常2000ppm以下、好ましくは、1000ppm以下、より好ましくは100ppm以下、最も好ましくは50ppm以下である。下限は特に制限されないが、通常、0.01ppm以上、好ましくは、精製工程の経済性の理由から0.1ppm以上である。
【0058】
発酵法により製造したジオールを用いる場合には、酸による中和工程を含む精製処理により硫黄原子が含まれてくる場合がある。この場合、具体的に、硫黄原子が含有される不純物としては、硫酸、亜硫酸、有機スルホン酸塩等が挙げられる。
ジオール中に含まれる硫黄原子含有量は、ジオール中に、原子換算にして、上限は通常100ppm以下、好ましくは、10ppm以下、より好ましくは、上限が5ppm以下、最も好ましくは、上限は0.5ppm以下である。一方、下限は特に制限されないが、通常、0.001ppm以上、好ましくは、0.01ppm以上、より好ましくは、0.1ppm以上である。多すぎると、重合反応が遅延化したり、製造するポリマーの安定性が低下する傾向がある。一方、硫黄原子含有量が少ない程、好ましい形態であるが、精製工程が煩雑となり経済的に不利になる。硫黄原子含有量は、公知の元素分析法により測定される値である。
【0059】
本発明において、上述の方法で得られたバイオマス資源由来のジオールをポリエステル原料として使用するにあたり、上記不純物に起因するポリエステルの着色を抑制するため、重合系に連結されるジオールを貯蔵するタンク内の酸素濃度や温度を制御してもよい。この制御により、不純物により促進されるジオールの酸化反応が抑制され、不純物自身の着色やジオール酸化生成物によるポリエステルの着色を防止することができる。
【0060】
酸素濃度を制御し原料を貯蔵するためには、通常タンクが用いられる。しかし、タンク以外でも酸素濃度を制御できる装置であれば特に限定されない。貯蔵タンクの種類は具体的には限定は無く、公知の金属製もしくはこれらの内面にガラス、樹脂などのライニングを施したもの、さらにはガラス製、樹脂製の容器などが用いられる。強度の面などから金属製もしくはそれらにライニングを施したものが好んで用いられる。金属製タンクの材としては、公知のものが使用され、具体的には、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、SUS410等のマルテンサイト系ステンレス鋼、SUS310、SUS304、SUS316等のオーステナイト系ステンレス鋼、クラッド鋼、鋳鉄、銅、銅合金、アルミニウム、インコネル、ハステロイ、チタン等が挙げられる。
【0061】
ジオールの貯蔵タンク内の酸素濃度は、貯蔵タンク全体積に対して、下限は特に限定されないが、通常0.00001%以上、好ましくは 0.0001%以上であり、より好ましくは、0.001%以上、最も好ましくは、0.01%以上であり、上限が通常10%以下、好ましくは 5%以下、より好ましくは、1%以下、最も好ましくは、0.1%以下である。酸素濃度が低すぎる場合には、管理工程が煩雑となり経済的に不利になる傾向があり、また、高すぎる場合には、ジオールの酸化反応生成物によるポリマーの着色が増大する傾向がある。
【0062】
ジオールの貯蔵タンク内の貯蔵温度は、下限が通常15℃以上、好ましくは 30℃以上であり、より好ましくは、50℃以上、最も好ましくは、100℃以上であり、上限が230 ℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは、180℃以下、最も好ましくは、160℃以下である。温度が低すぎる場合には、ポリエステル製造時の昇温に時間を要し、ポリエステル製造が経済的に不利になる傾向があるばかりかジオールの種類によっては固化してしまう場合がある。一方、高すぎる場合には、ジオールの気化により高圧対応の貯蔵設備が必要となり経済的に不利になるばかりかジオールの劣化が増大する傾向がある。
【0063】
ジオールの貯蔵タンク内の圧力は、通常大気圧(常圧)である。圧力が低すぎたり、高すぎる場合には、管理設備が煩雑になり経済的に不利となる。
本発明において、色相の良いポリマー製造に用いられるジオールの酸化生成物の含有量の上限は、通常、ジオール中、10000ppm以下、好ましくは、5000ppm以下、より好ましくは3000ppm以下、最も好ましくは2000ppm以下である。一方、下限は特に制限されないが、通常、1ppm以上、好ましくは、精製工程の経済性の理由から10ppm以上、より好ましくは100ppm以上である。
本発明においては、通常、ジオールは蒸留による精製工程を経てポリエステル原料として使用される。
【0064】
本発明のポリエステルとは、上記に列挙したジカルボン酸単位およびジオール単位の範疇に属する各種化合物を主体とする成分の反応により製造されるポリエステルはすべて本発明のポリエステルに含まれるが、典型的なものとして、以下のポリエステルが具体的に例示できる。
コハク酸を用いたポリエステルとしては、コハク酸とエチレングリコールのポリエステル、コハク酸と1,3−プロピレングリコ−ルのポリエステル、コハク酸とネオペンチルグリコールのポリエステル、コハク酸と1,6−ヘキサメチレングリコールのポリエステル、コハク酸と1,4−ブタンジオールのポリエステル及びコハク酸と1,4−シクロヘキサンジメタノールのポリエステルなどが例示できる。
シュウ酸を用いたポリエステルとしては、シュウ酸とエチレングリコールのポリエステル、シュウ酸と1,3−プロピレングリコ−ルのポリエステル、シュウ酸とネオペンチルグリコールのポリエステル、シュウ酸と1,6−ヘキサメチレングリコールのポリエステル、シュウ酸と1,4−ブタンジオールのポリエステル及びシュウ酸と1,4−シクロヘキサンジメタノールのポリエステルなどが例示できる。
アジピン酸を用いたポリエステルとしては、アジピン酸とエチレングリコールのポリエステル、アジピン酸と1,3−プロピレングリコ−ルのポリエステル、アジピン酸とネオペンチルグリコールのポリエステル、アジピン酸と1,6−ヘキサメチレングリコールのポリエステル、アジピン酸と1,4−ブタンジオールのポリエステル及びアジピン酸1,4−シクロヘキサンジメタノールのポリエステルなどが例示できる。
その他、上記のジカルボン酸を組み合わせたポリエステルも好ましい組み合わせであり
、コハク酸とアジピン酸とエチレングリコールのポリエステル、コハク酸とアジピン酸と1,4−ブタンジオールのポリエステル、テレフタル酸とアジピン酸と1,4−ブタンジオールのポリエステル及びテレフタル酸とコハク酸と1,4−ブタンジオールのポリエステルなどが例示できる。
【0065】
<その他の共重合成分>
本発明においては、上記のジオール成分とジカルボン酸成分に加えて、共重合成分を加えてもよい。
共重合成分の具体的な例としては、2官能のオキシカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、架橋構造を形成するために3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸及び/又はその無水物並びに3官能以上のオキシカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の多官能化合物が挙げられる。これらの共重合成分の中では、高重合度のポリエステルが容易に製造できる傾向があるため、特に2官能及び/又は3官能以上のオキシカルボン酸が好適に使用される。その中でも、3官能以上のオキシカルボン酸の使用は、後述する鎖延長剤を使用することなく、極少量で容易に高重合度のポリエステルを製造できるのでもっとも好ましい方法である。
【0066】
2官能のオキシカルボン酸としては、具体的には、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、カプロラクトン等が挙げられるが、これらはオキシカルボン酸のエステルやラクトン、或いはオキシカルボン酸重合体等の誘導体であっても良い。また、これらオキシカルボン酸は単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体、またはラセミ体のいずれでもよく、形態としては固体、液体、または水溶液であってもよい。これらの中では、入手の容易な乳酸またはグリコール酸が特に好ましい。形態は、30〜95%の水溶液のものが容易に入手することができるので好ましい。高重合度のポリエステルを容易に製造する目的で2官能のオキシカルボン酸を共重合成分として使用する場合、その効果が発現する使用量の下限としては、通常、原料モノマーに対して通常、0.02モル%以上、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは1.0モル%以上である。一方、使用量の上限は、通常30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
【0067】
具体的にそのポリエステルの態様を示すと、2官能のオキシカルボン酸として乳酸を用いると、例えば、コハク酸−1,4−ブタンジオール−乳酸の共重合ポリエステルやコハク酸−アジピン酸−1,4−ブタンジオール−乳酸の共重合ポリエステルとなる。グリコール酸を用いると、例えば、コハク酸−1,4−ブタンジオール−グリコール酸の共重合ポリエステルである。
不飽和ジカルボン酸としては、イタコン酸、アコニット酸、フマル酸やマレイン酸等が挙げられ、単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。不飽和ジカルボン酸の使用量は、ゲルの発生原因となるため通常、ポリエステルを構成する全単量体単位に対して、通常、5モル%以下、好ましくは、0.5モル%以下、より好ましくは0.05モル%以下である。
3官能以上の多価アルコールとしては、具体的には、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられ、単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。
共重合成分の3官能以上の多価アルコールとしてペンタエリスリトールを用いると、例えば、コハク酸−1,4−ブタンジオール−ペンタエリスリトールの共重合ポリエステルやコハク酸−アジピン酸−1,4−ブタンジオール−ペンタエリスリトールの共重合ポリエステルとなる。3官能以上の多価アルコールを任意に変えて、所望の共重合ポリエステルが製造できる。
【0068】
3官能以上の多価カルボン酸またはその無水物としては、具体的には、プロパントリカルボン酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、シクロペンタテトラカルボン酸無水物等が挙げられ、単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。
3官能以上のオキシカルボン酸としては、具体的には、リンゴ酸、ヒドロキシグルタル酸、ヒドロキシメチルグルタル酸、酒石酸、クエン酸、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸等が挙げられ、単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。特に、入手のし易さから、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸ならびにその混合物が好ましい。共重合成分の3官能のオキシカルボン酸としてリンゴ酸を用いる場合、例えば、コハク酸−1,4−ブタンジオール−リンゴ酸の共重合ポリエステル、コハク酸−アジピン酸―1,4−ブタンジオール−リンゴ酸の共重合ポリエステル、コハク酸−1,4−ブタンジオール−リンゴ酸―酒石酸の共重合ポリエステル、コハク酸−アジピン酸―1,4−ブタンジオール−リンゴ酸―酒石酸の共重合ポリエステル、コハク酸−1,4−ブタンジオール−リンゴ酸―クエン酸の共重合ポリエステル、コハク酸−アジピン酸―1,4−ブタンジオール−リンゴ酸―クエン酸の共重合ポリエステルとなる。3官能のオキシカルボン酸を任意に変えて、所望の共重合ポリエステルが製造できる。
勿論、更に2官能のオキシカルボン酸との組み合わせで、例えば、コハク酸−1,4−ブタンジオール−リンゴ酸―乳酸の共重合ポリエステル、コハク酸−アジピン酸―1,4−ブタンジオール−リンゴ酸―乳酸の共重合ポリエステル、コハク酸−1,4−ブタンジオール−リンゴ酸―酒石酸―乳酸の共重合ポリエステル、コハク酸−アジピン酸―1,4−ブタンジオール−リンゴ酸―酒石酸―乳酸の共重合ポリエステル、コハク酸−1,4−ブタンジオール−リンゴ酸―クエン酸―乳酸の共重合ポリエステル、コハク酸−アジピン酸―1,4−ブタンジオール−リンゴ酸―クエン酸―乳酸の共重合ポリエステルとなる。

【0069】
上記の3官能以上の多官能化合物単位の量は、ゲルの発生原因となるため通常、ポリエステルを構成する全単量体単位100モル%に対して、上限値が通常、5モル%以下、好ましくは1モル%以下、更に好ましくは、0.50モル%以下、特に好ましくは0.3モル%以下である。一方、高重合度のポリエステルを容易に製造する目的で3官能以上の化合物を共重合成分として使用する場合、その効果が発現する3官能以上の化合物単位の、ポリエステルを構成する全単量体単位に対する量の下限値としては、通常、0.0001モル%以上、好ましくは、0.001モル%以上、より好ましくは、0.005モル%以上、特に好ましくは0.01モル%以上である。
【0070】
<鎖延長剤>
本発明のポリエステルは、カーボネート化合物やジイソシアネート化合物等の鎖延長剤を使用することもできる。
その量は、通常、ポリエステルを構成する全単量体単位に対し、カーボネート結合ならびにウレタン結合が10モル%以下である。しかしながら、本発明のポリエステルを生分解性樹脂として使用する場合には、ジイソシアネートやカーボネート結合が存在すると、生分解性を阻害する可能性があるため、その使用量は、ポリエステルを構成する全単量体単位に対し、カーボネート結合が1モル%未満、好ましくは、0.5モル%以下、より好ましくは0.1モル%以下であり、ウレタン結合が、0.06モル%未満、好ましくは0.01モル%以下、より好ましくは0.001モル%以下である。
【0071】
カーボネート化合物としては、具体的には、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジアミルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどが例
示される。その他、フェノール類、アルコール類のようなヒドロキシ化合物から誘導される、同種、または異種のヒドロキシ化合物からなるカーボネート化合物が使用可能である。
【0072】
ジイソシアネート化合物としては、具体的には、2,4−トリレンジイソシアネート、
2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの混合体、ジ
フェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の公知のジイソシアネートなどが例示される。
【0073】
また、その他の鎖延長剤として、ジオキサゾリン、珪酸エステルなどを使用してもよい。 珪酸エステルとしては、具体的には、テトラメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジフェニルジヒドロキシラン等が例示される。
珪酸エステルは、環境保全ならびに安全性の面の理由からは、特にその使用量に制限はされないが、操作が煩雑になったり、重合速度に影響を与える可能性があるため、その使用量は少ない方が良い場合がある。従って、この含有量は、ポリエステルを構成する全単量体単位に対して、0.1 モル%以下とするのが好ましく、10-5 モル%以下とするのが更に好ましい。
【0074】
本発明においては実質上鎖延長剤を含有しないポリエステルが最も好ましい。但し、溶融テンションを高めるために、毒性の低い化合物を添加する限り、少量のパーオキサイドを添加してもよい。
また本発明においては、ポリエステル末端基をカルボジイミド、エポキシ化合物、単官能性のアルコール又はカルボン酸で封止しても良い。
カルボジイミド化合物としては、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物(ポリカルボジイミド化合物を含む)が挙げられ、具体的には、モノカルボジイミド化合物として、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどが例示される。ポリカルボジイミド化合物としては、その重合度が、下限が通常2以上、好ましくは4以上であり、上限が通常40以下、好ましくは、30以下であるものが使用され、米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.Org.Chem.28巻、p2069−2075(1963)、及びChemical Review 1981、81巻、第4号、p.619−621等に記載された方法により製造されたものが挙げられる。
ポリカルボジイミド化合物の製造原料である有機ジイソシアネートとしては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートやこれらの混合物を挙げることができ、具体的には、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネートなどが例示される。
工業的に入手可能な具体的なポリカルボジイミドとしては、カルボジライトHMV−8CA(日清紡製)、カルボジライト LA−1(日清紡製)、スタバクゾールP(ライン
ケミー社製)、スタバクゾールP100(ラインケミー社製)などが例示される。
カルボジイミド化合物は単独で使用することもできるが、複数の化合物を混合して使用することもできる。
【0075】
<ポリエステルの製造方法>
本発明におけるポリエステルの製造方法としては、従来の公知の方法が使用でき、例えば、上記の脂肪族ジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重縮合の一般的な方法や、有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法によっても製造することができるが、経済性ならびに製造工程の簡略性の観点から、無溶媒下で行う溶融重縮合でポリエステルを製造する方法が好ましい。
【0076】
また、重縮合反応は、重合触媒の存在下に行うのが好ましい。重合触媒の添加時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。
重合触媒としては、一般には、周期表で、水素、炭素を除く1族〜15族金属元素を含む化合物である。具体的には、チタン、ジルコニウム、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれた、少なくとも1種以上の金属を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩またはβ―ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、更には前記した金属の酸化物や複合酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物及びそれらの混合物が挙げられる。
【0077】
更には、白水春雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)等に記載される公知の層状珪酸塩を単独で或いは上記金属化合物と組み合わせた触媒を使用すると、重合速度が向上する場合があるため、このような触媒系もまた好んで使用される。
層状珪酸塩としては、具体的には、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト、メタハロイサイト、ハロイサイト等のカオリン族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等のスメクタイト族、バーミキュライト等のバーミキュライト族、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、パイロフィライト、タルク及び緑泥石群等が挙げらる。
【0078】
これらの中では、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムを含む金属化合物、並びにそれらの混合物が好ましく、その中でも、特に、チタン化合物、ジルコニウム化合物及びゲルマニウム化合物が好ましい。また、触媒は、重合時に溶融或いは溶解した状態であると重合速度が高くなる場合がある為、重合時に液状であるか、エステル低重合体やポリエステルに溶解する化合物が好んで使用される。また、本発明において重縮合は無溶媒で行うことが好ましいが、これとは別に、触媒を溶解させるために少量の溶媒を使用しても良い。この触媒溶解用の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオールなどの前述のジオール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ヘプタン、トルエン等の炭化水素化合物、水ならびにそれらの混合物等が挙げられ、その使用量は、触媒濃度が、通常0.0001重量%以上、99%重量%以下となるように使用する。
【0079】
チタン化合物としては、テトラアルキルチタネートが好ましく、具体的には、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート及びこれらの混合チタネートが挙げられる。また、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタン(ジイソプロキシド)アセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、チタンビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシド、チタン(トリエタノールアミネート)イソプロポキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ブチルチタネートダイマー等も好んで用いられる。更には、酸化チタンや、チタンと珪素を含む複合酸化物(例えば、Acordis Industrial Fibers社製のチタニア/シリカ複合酸化物(製品名:C−94))も好んで用いられる。これらの中では、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート及びテトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー、酸化チタン、チタニア/シリカ複合酸化物(例えば、Acordis Industrial Fibers社製の製品名:C−94)が好ましく、テトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー、チタニア/シリカ複合酸化物(例えば、Acordis Industrial Fibers社製の製品名:C−94)がより好ましく、特に、テトラ−n−ブチルチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタニア/シリカ複合酸化物(例えば、Acordis Industrial Fibers社製の製品名:C−94)が好ましい。
【0080】
ジルコニウム化合物としては、具体的には、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニルジアセテイト、シュウ酸ジルコニウム、シュウ酸ジルコニル、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシド、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネートならびにそれらの混合物が例示される。更には、酸化ジルコニウムや、例えばジルコニウムと珪素を含む複合酸化物も好適に使用される。これらの中では、ジルコニルジアセテイト、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシドが好ましく、ジルコニルジアセテイト、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドがより好ましく、特にジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレートが着色のない高重合度のポリエステルが容易に得られる理由から好ましい。
【0081】
ゲルマニウム化合物としては、具体的には、酸化ゲルマニウムや塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物、テトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物が挙げられる。価格や入手の容易さなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム及びテトラブトキシゲルマニウムなどが好ましく、特に、酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0082】
これらの重合触媒として金属化合物を用いる場合の触媒添加量は、生成するポリエステルに対する金属量として、下限値が通常、0.1ppm以上、好ましくは0.5ppm以上、より好ましくは1ppm以上であり、上限値が通常、30000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは250ppm以下、更に好ましくは100ppm
以下である。使用する触媒量が多すぎると、経済的に不利であるばかりでなく、理由は未だ詳らかではないが、ポリマー中のカルボキシル基末端濃度が多くなる傾向がある為、カルボキシル基末端量ならびに残留触媒濃度の増大によりポリマーの熱安定性や耐加水分解性が低下する場合がある。逆に少なすぎると重合活性が低くなり、それに伴いポリマー製造中にポリマーの熱分解が誘発され、実用上有用な物性を示すポリマーが得られにくくなる。
【0083】
また、生分解性の機能を有し且つ環境に優しい脂肪族ポリエステルを提供する本発明の趣旨からは、上記の重合触媒の中で、特に、錫含有化合物やアンチモン含有化合物は、毒性が比較的高いため、それらの化合物の使用量を制限するのが好ましい。従って、錫含有化合物やアンチモン含有化合物を重合触媒として使用する場合の使用量は、錫化合物触媒の場合、生成するポリエステルに対する金属量として、通常、60ppm以下、好ましくは10ppm以下、より好ましくは1ppm以下であり、一方、アンチモン化合物触媒の場合は、生成するポリエステルに対する金属量として、通常、100ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。
【0084】
温度、時間、圧力などの条件は、従来公知の範囲を採用できる。
ジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応の反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下である。反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。反応圧力は、通常、常圧〜10kPaであるが、常圧が好ましい。
【0085】
反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは、4時間以下である。
その後の重縮合反応は、圧力を、下限が通常0.01×103Pa以上、好ましくは0
.05×103Pa以上であり、上限が通常1.4×103Pa以下、好ましくは0.6×103Pa以下、更に好ましくは0.3×103Pa以下の真空度下として行う。重合製造時の圧力が高すぎると、ポリエステルの重合製造時間が長くなり、それに伴いポリエステルの熱分解による分子量低下や着色が引き起こされ、実用上充分な特性を示すポリエステルを製造が難しくなる傾向がある。一方、超高真空重合設備を用いて製造する手法は重合速度を向上させる観点からは好ましい態様であるが、極めて高額な設備投資が必要なばかりでなく、それでも未だポリエステルの重合製造時間が長くなる傾向があるため、それに伴うポリエステルの熱分解による分子量低下や着色が懸念される。
【0086】
この時の反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上、更に好ましくは200℃以上であり、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下の範囲である。この温度が低すぎると、重合反応速度が遅く、高重合度のポリエステル製造に長時間を要するばかりでなく、高動力の撹拌機も必要となる為、経済的に不利である。一方、反応温度が高すぎると製造時のポリマーの熱分解が引き起こされ、高重合度のポリエステルの製造が難しくなる傾向がある。
【0087】
反応時間は、下限が通常2時間以上であり、上限が通常15時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間以下である。反応時間が短すぎると反応が不充分で低重合度のポリエステルが得られ、機械物性が充分でなく、また、そのカルボキシル基末端量が多いこともあり、引張り破断伸び率等の物性劣化も著しくなる場合が多い。一方、反応時間が長すぎると、ポリエステルの熱分解による分子量低下が顕著となり、機械物性が低下するばかりでなく、耐加水分解性に影響を与えるカルボキシル基末端量が熱分解により増加する場合がある。
【0088】
本発明において、有機リン化合物は、特に添加順序には限定はなく、例えば、原料のモ
ノマーと一括に反応釜に入れて反応することもできるし、ジオール成分と脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体とをエステル化反応又はエステル交換反応させた後に反応釜に添加しても良い。
更に本発明において、ジカルボン酸成分として脂肪族カルボン酸に加えて芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルを混合して使用する場合は、特に添加順序には限定はなく、例えば、第1として、原料のモノマーを一括に反応釜に入れて反応することもできるし、第2として、ジオール成分と脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体とをエステル化反応又はエステル交換反応させた後、ジオール成分と芳香族ジカルボン酸又はその誘導体をエステル化反応又はエステル交換反応させ、更に重縮合反応させる方法等種々の方法を採用することができる。
【0089】
本発明においてポリエステルを製造する反応装置としては、公知の縦型あるいは横型撹拌槽型反応器を用いることができる。例えば、溶融重合を同一又は異なる反応装置を用いて、エステル化及び/又はエステル交換の工程と減圧重縮合の工程の2段階で行い、減圧重縮合の反応器としては、真空ポンプと反応器を結ぶ減圧用排気管を具備した攪拌槽型反応器を使用する方法が挙げられる。また、真空ポンプと反応器とを結ぶ減圧用排気管の間には、凝縮器が結合されており、該凝縮器にて縮重合反応中に生成する揮発成分や未反応モノマーが回収される方法が好んで用いられる。
本発明においてポリエステルを連続式に製造する反応装置としては、エステル化反応槽の型式として特に限定されるものではないが、例えば公知の縦型攪拌完全混合層、縦型熱対流式混合層、塔型連続反応槽などを使用することができる。重縮合反応槽の型式としても同様、特に限定されるものではなく、例えば公知の縦型攪拌重合槽、横型攪拌重合槽、薄膜蒸発式重合槽などを使用することができる。エステル化反応槽および重縮合反応槽は、1基とすることも出来るし、異種の複数基の槽を直列させた複数槽とすることもできる。
【0090】
本発明においては、ポリエステルの製造方法として、従来の、上記の脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下で、ポリエステルのアルコール末端のエステル交換反応により生成するジオールを留去しながらポリエステルの重合度を高める方法、或いは、ポリエステルの脂肪族カルボン酸末端から脂肪族ジカルボン酸及び/又はその酸無水物を留去させながらポリエステルの重合度を高める方法が用いられる。後者の場合、重縮合反応条件下では、留出される脂肪族ジカルボン酸は容易に酸無水物になりやすいため、酸無水物の形態で加熱留出させる場合が多い。また、その際、ジオールから誘導される鎖状又は環状エーテル及び/又はジオールもまた脂肪族ジカルボン酸及び/又はその酸無水物と共に除去されてもよい。更に、ジカルボン酸成分とジオール成分の環状単量体を共に留去させる方法は、重合速度が向上するため、好ましい態様である。
【0091】
本発明においては、脂肪族ジカルボン酸及び/又はその酸無水物を留去する方法により高重合度のポリエステルを製造する場合には、真空ポンプと反応器を結ぶ減圧用排気管の反応容器側排気口の温度を、脂肪族ジカルボン酸無水物の融点、或いは重縮合反応時の真空度での脂肪族ジカルボン酸無水物環状体の沸点のいずれか低い方の温度以上に保持すると生成する酸無水物環状体が効率よく反応系から除去でき、目的の高重合度のポリエステルが短時間で製造できるため好ましい。更には、反応容器側排気口から凝縮器までの配管温度を酸無水物の融点、或いは重縮合反応時の真空度での沸点のいずれか低い方の温度以上に保持するとより好ましい。
【0092】
本発明において、目的とする重合度のポリエステルを得るためのジオール成分とジカルボン酸成分とのモル比は、その目的や原料の種類により好ましい範囲は異なるが、酸成分1モルに対するジオール成分の量が、下限が通常0.8モル以上、好ましくは、0.9モ
ル以上であり、上限が通常1.5モル以下、好ましくは1.3モル以下、特に好ましくは1.2モル以下である。
【0093】
更に、脂肪族ジカルボン酸及び/又はその酸無水物の留去により高重合度のポリエステルを製造する場合には、末端カルボン酸量が多い方が重合において有利であるため、従来の方法で用いられるような原料としてより過剰なジオールの使用は必要ではない。この場合もやはり目的とするポリエステルの重合度や種類によってジオール成分とジカルボン酸成分とのモル比の好ましい範囲は異なるが、酸成分1モルに対するジオール成分の量が、下限が通常0.8モル以上、好ましくは、0.9モル以上、更に好ましくは0.95以上であり、上限が通常1.15モル以下、好ましくは1.1モル以下、更に好ましくは1.06モル以下である。
【0094】
本発明におけるポリエステルは、還元粘度(ηsp/C)を高め、製造されるポリエステル中の末端カルボン酸量を低く抑えることにより、耐熱安定性、耐加水分解性にすぐれたポリエステルとなるが、上記の仕込み比を制御することにより、製造されるポリエステル中のカルボキシル基末端量を調整することも可能である。これにより、ポリエステルの耐加水分解性や生分解性を調整することも可能となる。
【0095】
<ポリエステル組成物>
上述の方法で得られたポリエステルは、従来公知の各種の樹脂とブレンド(混練)することにより、ポリエステル組成物が得られる。他のポリエステルとしては、従来公知の各種の樹脂を用いることができ、好ましくは生分解性高分子や汎用の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらを単独で用いても、2種類以上ブレンドして用いてもよい。
【0096】
生分解性を有する高分子としては、脂肪族ポリエステル系樹脂、多糖類、その他の分解性樹脂が挙げられる。
脂肪族ポリエステル系樹脂としては、脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位並びに脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位を必須成分とする脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂等が挙げられる。
【0097】
上記脂肪族ポリエステル系樹脂を構成する脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位の具体例としては、例えば、エチレングリコール単位、ジエチレングリコール単位、トリエチレングリコール単位、ポリエチレングリコール単位、プロピレングリコール単位、ジプロピレングリコール単位、1,3−ブタンジオール単位、1,4−ブタンジオール単位、3−メチル−1,5−ペンタンジオ−ル単位、1,6−へキサンジオール単位、1,9−ノナンジオール単位、ネオペンチルグリコール単位、ポリテトラメチレングリコール単位、1,4−シクロヘキサンジメタノール単位等が挙げられる。また、これらは2種以上混合して用いることもできる。
【0098】
上記脂肪族ポリエステル系樹脂を構成する脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位の具体例としては、例えば、コハク酸単位、シュウ酸単位、マロン酸単位、グルタル酸単位、アジピン酸単位、ピメリン酸単位、スベリン酸単位、アゼライン酸単位、セバシン酸単位、ウンデカン二酸単位、ドデカン二酸単位、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位等が挙げられる。また、これらは2種以上混合して用いることもできる。
【0099】
上記脂肪族オキシカルボン酸系樹脂を構成する脂肪族オキシカルボン酸単位の具体例としては、例えば、グリコール酸単位、乳酸単位、3−ヒドロキシ酪酸単位、4−ヒドロキシ酪酸単位、4−ヒドロキシ吉草酸単位、5−ヒドロキシ吉草酸単位、6−ヒドロキシカプロン酸単位を挙げることができる。また、これらは2種以上混合して用いることもできる。
【0100】
上記脂肪族ポリエステル系樹脂には、乳酸単位、6−ヒドロキシカプロン酸単位等のオキシカルボン酸単位、トリメチロールプロパン単位、グリセリン単位、ペンタエリスリトール単位、プロパントリカルボン酸単位、リンゴ酸単位、クエン酸単位、酒石酸単位等の3官能以上の脂肪族多価アルコール単位、脂肪族多価カルボン酸単位、脂肪族多価オキシカルボン酸単位が共重合されていても良い。上記記載の単位の量は、ポリエステルを構成する全単量体単位100モル%に対して、上限は通常90モル%以下、好ましくは70モル%以下、50モル%以下である。また、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂には、1,4−ブタンジオール単位、コハク酸単位、アジピン酸単位等の脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位並びに脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位、トリメチロールプロパン単位、グリセリン単位、ペンタエリスリトール単位、プロパントリカルボン酸単位、リンゴ酸単位、クエン酸単位、酒石酸単位等の3官能以上の脂肪族多価アルコール単位、脂肪族多価カルボン酸単位、脂肪族多価オキシカルボン酸単位が共重合されていても良い。上記記載の単位の量は、ポリエステルを構成する全単量体単位100モル%に対して、上限は通常90モル%以下、好ましくは70モル%以下、より好ましくは、50モル%以下である。
【0101】
また、上記脂肪族ポリエステル系樹脂を構成するジオール(多価アルコール)単位、ジカルボン酸(多価カルボン酸)単位、及びオキシカルボン酸単位は、脂肪族系が主成分であるが、生分解性を損なわない範囲で、少量の他の成分、例えば、芳香族ジオール(多価アルコール)単位、芳香族ジカルボン酸(多価カルボン酸)単位、芳香族オキシカルボン酸単位等の芳香族系化合物単位を含有してもよい。芳香族ジオール(多価アルコール)単位の具体例としては、ビスフェノールA単位、1,4−ベンゼンジメタノール単位等が挙げられ、芳香族ジカルボン酸(多価カルボン酸)単位の具体例としては、テレフタル酸単位、イソフタル酸単位、トリメリット酸単位、ピロリメリット酸単位、ベンゾフェノンテトラカルボン酸単位、フェニルコハク酸単位、1,4−フェニレンジ酢酸単位等が挙げられる。芳香族オキシカルボン酸単位の具体例としては、ヒドロキシ安息香酸単位が挙げられる。これらの芳香族系化合物単位の導入量は、全ポリマー中50モル%以下、好ましくは30モル%以下である。
【0102】
ポリエステル組成物における本発明のポリエステルに対する上記記載の樹脂の混合比率(重量比)は、本発明のポリエステル/樹脂が、99.9/0.1以上0.1/99.9以下であることが好ましく、99/1以上 1/99以下であることがより好ましく、最も好ましくは、98/2以上2/98以下である。
脂肪族ポリエステル系樹脂の製造方法は、公知公用の方法を採用することが出来、特に限定されない。また、生分解性に影響を与えない範囲で、脂肪族ポリエステル系樹脂には、ウレタン結合、アミド結合、カーボネート結合、エーテル結合、ケトン結合等が導入されていても良い。また脂肪族ポリエステルとしては、例えばイソシアネート化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、酸無水物、過酸化物等を用いて分子量を高めたり、架橋させたものを用いてもよい。さらに末端基をカルボジイミド、エポキシ化合物、単官能性のアルコール又はカルボン酸で封止していても良い。
【0103】
多糖類としては、セルロース、酢酸セルロースの様な変性セルロース、キチン、キトサン、澱粉、変性澱粉が挙げられる。その他の分解性樹脂としては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール等が挙げられる。
【0104】
汎用の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体などのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等の含ハロゲン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体な
どのスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリイソプレン、ポリブタジエン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、スチレン−イソプレン共重合ゴム等のエラストマー、ナイロン6,6、ナイロン6等のポリアミド系樹脂の他、ポリ酢酸ビニル、メタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン等が挙げられる。また各種相溶化剤を併用して、諸特性を調製することもできる。
【0105】
また、従来公知の各種添加剤を配合して組成物にすることも出来る。添加剤としては、例えば、結晶核剤、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、耐光剤、可塑剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、離型剤、帯電防止剤、防曇剤、表面ぬれ改善剤、焼却補助剤、顔料、滑剤、分散助剤や各種界面活性剤などの樹脂用添加剤が挙げれる。これらの添加量は、全組成物中、通常0.01〜5重量%である。これ等は一種又は二種以上の混合物として用いる事もできる。
【0106】
また、従来公知の各種フィラーを配合して組成物にすることも出来る。フィラーは、無機系フィラーと有機系フィラーとに大別される。これ等は一種又は二種以上の混合物として用いる事もできる。
無機系フィラーとしては、無水シリカ、雲母、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ藻土、アロフェン、ベントナイト、チタン酸カリウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、カオリン、カオリナイト、ガラス、石灰石、カーボン、ワラステナイト、焼成パーライト、珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム等の珪酸塩、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸第二鉄、酸化亜鉛、酸化鉄、リン酸アルミニウム、硫酸バリウム等の塩類等が挙げられる。無機系フィラーの含有量は、全組成物中、通常1〜80重量%であり、好ましくは3〜70重量%、より好ましくは5〜60重量%である。
【0107】
有機系フィラーとしては、生澱粉、加工澱粉、パルプ、キチン・キトサン質、椰子殻粉末、木材粉末、竹粉末、樹皮粉末、ケナフや藁等の粉末などが挙げられる。これ等は一種または二種以上の混合物として使用することも出来る。有機系フィラーの添加量は、全組成物中、通常、0.01〜70重量%である。
組成物の調製は、従来公知の混練技術は全て適用でき、ブレンダー等の配合機、混合機を使用する方法や、加熱溶融させたところに各種添加剤、フィラー、熱可塑性樹脂を添加して配合する方法などが挙げられる。また、前記の各種添加剤を均一に分散させる目的でブレンド用オイル等を使用することも出来る。
【0108】
本発明に係るポリエステルおよびその組成物は、射出成形法、中空成形法および押出成形法などの汎用プラスチック成形法などにより、フィルム、ラミネートフィルム、シート、板、延伸シート、モノフィラメント、マルチフィラメント、不織布、フラットヤーン、ステープル、捲縮繊維、筋付きテープ、スプリットヤーン、複合繊維、ブローボトル、発泡体などの成形品に利用可能である。また、真空成形等の二次加工も可能である。
【0109】
得られる成形品は、ショッピングバッグ、ゴミ袋、農業用フィルム、化粧品容器、洗剤容器、食品容器、漂白剤容器、釣り糸、漁網、ロープ、結束材、手術糸、衛生用カバーストック材、保冷箱、緩衝材、医療材料、電気機器材料、家電筐体、自動車材料などの用途への使用が期待される。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
<末端カルボキシル基量>
得られたポリエステルをベンジルアルコールに溶解し0.1N NaOHにて滴定した
値であり、1×106 g当たりのカルボキシル基当量である。
<リン元素の含有量>
ポリエステル中のリン元素の含有量は、JOBIN YVON製 ICP-AES分析装置 JY 38 S
によるICP発光分析(誘導結合プラズマ-原子発光分光分析)によって決定した。
【0111】
実施例1
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、コハク酸100重量部、アジピン酸32重量部、1,4―ブタンジオール112重量部、リンゴ酸0.46重量部、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(I)0.06重量部ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め1.0重量%溶解させた88%乳酸水溶液7重量部を仕込み、窒素―減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。
【0112】
次に、系内を撹拌しながら220℃に昇温し、この温度で1時間反応させた。次に、30分かけて245℃まで昇温し、同時に1.5時間かけて0.07×103Paになるように減圧し、同減圧度で1.5時間反応を行い重合を終了し、白色のポリエステル(A)を得た。
得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は2.3であり、末端カルボキシル基量は16当量/トンあった。ポリエステル中のリン元素の含有量は、1×10ppmであった。
【0113】
<フィルムの作成・評価方法>
得られたポリマーを卓上プレス機を用いて150℃、3min.で溶融させ、さらに150℃、20MPa、2min.でプレスして厚さ約150μmのフィルムを得た。得られたプレスフィルムを50℃、90%R.H.の恒温恒湿機に入れ、10日後に溶液粘度ならびに末端カルボキシル基量の測定を行った結果、ポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は1.9であり(保持率83%)、末端カルボキシル基量は25当量/トンあった。
【0114】
実施例2
実施例1において、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトの代わりに、同量のテトラキス−(2,4−ジ−t−ブチル−5―メチルフェニル)−1,1−ビフェニルー4,4′−ジイルビスホスホナイト(II)を添加した以外は同様の方法でポリエステル(A)を製造した。得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は2.3であり、末端カルボキシル基量は16当量/トンあった。ポリエステル中のリン元素の含有量は、1×10ppmであった。
【0115】
<フィルムの作成・評価方法>
実施例1と同様に行った。フィルムを50℃、90%R.H.の恒温恒湿機に入れ、10日後に溶液粘度ならびに末端カルボキシル基量の測定を行った結果、ポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は1.9であり(保持率85%)、末端カルボキシル基量は21当量/トンあった。
【0116】
実施例3
実施例1において、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトの代わりに、同量の堺化学工業株式会社製ジンクステアリルホスフェイト(LBT―1830)(III)を添加した以外は同様の方法でポリエステル(A)を製造した。得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は2.2であり、末端カルボキシル基量は17当量/トンあった。ポリエステル中のリン元素の含有量は、2×10ppmであった。
【0117】
<フィルムの作成・評価方法>
実施例1と同様に行った。フィルムを50℃、90%R.H.の恒温恒湿機に入れ、10日後に溶液粘度ならびに末端カルボキシル基量の測定を行った結果、ポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は1.9であり(保持率86%)、末端カルボキシル基量は21当量/トンあった。
【0118】
実施例4
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、コハク酸100重量部、アジピン酸32重量部、1,4―ブタンジオール112重量部、リンゴ酸0.46重量部、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト(IV)0.1重量部ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め1.0重量%溶解させた88%乳酸水溶液7重量部を仕込み、窒素―減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。
次に、系内を撹拌しながら220℃に昇温し、この温度で1時間反応させた。次に、30分かけて245℃まで昇温し、同時に1.5時間かけて0.07×103Paになるように減圧し、同減圧度で1.3時間反応を行い重合を終了し、白色のポリエステル(A)を得た。
得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は2.3であり、末端カルボキシル基量は18当量/トンあった。ポリエステル中のリン元素の含有量は、5×10ppmであった。
【0119】
<フィルムの作成・評価方法>
実施例1と同様に行った。フィルムを50℃、90%R.H.の恒温恒湿機に入れ、10日後に溶液粘度ならびに末端カルボキシル基量の測定を行った結果、ポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は2.0であり(保持率86%)、末端カルボキシル基量は26当量/トンあった。
【0120】
実施例5
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、原料としてコハク酸100重量部、1,4―ブタンジオール88.6重量部、リンゴ酸0.16重量部、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト(IV)0.08重量部ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め1.0重量%溶解させた88%乳酸水溶液5.4重量部を仕込み、窒素―減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。
次に、系内を撹拌しながら220℃に昇温し、この温度で1時間反応させた。次に、30分かけて230℃まで昇温し、同時に1.5時間かけて0.07×103Paになるように減圧し、同減圧度で2.0時間反応を行い重合を終了し、白色のポリエステル(B)を得た。得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は2.3であり、末端カルボキシル基量は20当量/トンあった。ポリエステル中のリン元素の含有量は、5×10ppmであった。
【0121】
<フィルムの作成・評価方法>
実施例1と同様に行った。フィルムを50℃、90%R.H.の恒温恒湿機に入れ、10日後に溶液粘度ならびに末端カルボキシル基量の測定を行った結果、ポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は1.8であり(保持率81%)、末端カルボキシル基量は48当量/トンあった。
【0122】
実施例6
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、コハク酸100重量部、アジピン酸32重量部、1,4―ブタンジオール112重量部、リンゴ酸0.16重量部、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエ
リトリトールジホスファイト(IV)0.1重量部ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め1.0重量%溶解させた88%乳酸水溶液7重量部を仕込み、窒素―減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。
【0123】
次に、系内を撹拌しながら220℃に昇温し、この温度で1時間反応させた。次に、30分かけて245℃まで昇温し、同時に1.5時間かけて0.07×103Paになるように減圧し、同減圧度で2.0時間反応を行い重合を終了し、白色のポリエステル(C)を得た。
得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は2.3であり、末端カルボキシル基量は19当量/トンあった。ポリエステル中のリン元素の含有量は、5×10ppmであった。
【0124】
<フィルムの作成・評価方法>
実施例1と同様に行った。フィルムを50℃、90%R.H.の恒温恒湿機に入れ、10日後に溶液粘度ならびに末端カルボキシル基量の測定を行った結果、ポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は1.9であり(保持率83%)、末端カルボキシル基量は27当量/トンあった。
【0125】
実施例7
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、コハク酸100重量部、アジピン酸32重量部、1,4―ブタンジオール112重量部、リンゴ酸0.16重量部、クエン酸0.25重量部、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト(IV)0.1重量部ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め1.0重量%溶解させた88%乳酸水溶液7重量部を仕込み、窒素―減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。
次に、系内を撹拌しながら220℃に昇温し、この温度で1時間反応させた。次に、30分かけて245℃まで昇温し、同時に1.5時間かけて0.07×103Paになるように減圧し、同減圧度で1.6時間反応を行い重合を終了し、白色のポリエステル(D)を得た。
得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は2.3であり、末端カルボキシル基量は22当量/トンあった。ポリエステル中のリン元素の含有量は、4×10ppmであった。
【0126】
<フィルムの作成・評価方法>
実施例1と同様に行った。フィルムを50℃、90%R.H.の恒温恒湿機に入れ、10日後に溶液粘度ならびに末端カルボキシル基量の測定を行った結果、ポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は1.9であり(保持率80%)、末端カルボキシル基量は32当量/トンあった。
【0127】
実施例8
実施例1において、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトの代わりに同量のビス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト(V)を添加した以外は同様の方法でポリエステル(A)を製造した。得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は2.3であり、末端カルボキシル基量は20当量/トンあった。ポリエステル中のリン元素の含有量は、3×10ppmであった。
【0128】
<フィルムの作成・評価方法>
実施例1と同様に行った。フィルムを50℃、90%R.H.の恒温恒湿機に入れ、10日後に溶液粘度ならびに末端カルボキシル基量の測定を行った結果、ポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は1.6であり(保持率70%)、末端カルボキシル基量は38当量/トンあった。
【0129】
実施例9
実施例1において、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトの代わりに0.1重量部のビス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト(V)を添加した以外は同様の方法でポリエステル(A)を製造した。得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は2.3であり、末端カルボキシル基量は23当量/トンあった。ポリエステル中のリン元素の含有量は、5×10ppmであった。
【0130】
<フィルムの作成・評価方法>
実施例1と同様に行った。フィルムを50℃、90%R.H.の恒温恒湿機に入れ、10日後に溶液粘度ならびに末端カルボキシル基量の測定を行った結果、ポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は1.3であり(保持率56%)、末端カルボキシル基量は57当量/トンあった。
【0131】
実施例10
実施例5において、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト(IV)の添加量を0.1重量部から0.2重量部へ変更した以外は同様の方法でポリエステル(C)を製造した。得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は2.5であり、末端カルボキシル基量は23当量/トンあった。ポリエステル中のリン元素の含有量は、9×10ppmであった。
【0132】
<フィルムの作成・評価方法>
実施例1と同様に行った。フィルムを50℃、90%R.H.の恒温恒湿機に入れ、10日後に溶液粘度ならびに末端カルボキシル基量の測定を行った結果、ポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は1.2であり(保持率48%)、末端カルボキシル基量は67当量/トンあった。
【0133】
比較例1
実施例1において、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトを添加しなかった以外は同様の方法でポリエステル(A)を製造したが、得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は最高で1.9であり、更に反応を続けるとポリエステルの熱分解による粘度の低下が観測された。
【0134】
比較例2
実施例4において、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイトを添加しなかった以外は同様の方法でポリエステル(B)を製造したが、得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は最高で1.8であり、更に反応を続けるとポリエステルの熱分解による粘度の低下が観測された。
【0135】
比較例3
実施例5において、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイトを添加しなかった以外は同様の方法でポリエステル(C)を製造したが、得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は最高で1.7であり、更に反応を続けるとポリエステルの熱分解による粘度の低下が観測された。
【0136】
比較例4
実施例5において、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイトの代わりに0.2重量部の堺化学工業株式会社製ジンクステアリルホスフェイト(LBT―1830)(III)を添加した以外は同様の方法でポリエステル(C)を製造した。得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は2.3であり、末端カルボキシル基量は41当量/トンあった。ポリエステル中のリン元素の含有
量は、7×10ppmであった。
【0137】
<フィルムの作成・評価方法>
実施例1と同様に行った。フィルムを50℃、90%R.H.の恒温恒湿機に入れ、10日後に溶液粘度ならびに末端カルボキシル基量の測定を行った結果、ポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は0.7であり(保持率30%)、末端カルボキシル基量は105当量/トンあった。
【0138】
比較例5
実施例9において、ビス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト(V)の添加量を0.1重量部から0.2重量部へ変更した以外は同様の方法でポリエステル(A)を製造した。得られたポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は2.5であり、末端カルボキシル基量は25当量/トンあった。ポリエステル中のリン元素の含有量は、10×10ppmであった。
【0139】
<フィルムの作成・評価方法>
実施例1と同様に行った。フィルムを50℃、90%R.H.の恒温恒湿機に入れ、10日後に溶液粘度ならびに末端カルボキシル基量の測定を行った結果、ポリエステル中の還元粘度(ηsp/c)は1.0であり(保持率40%)、末端カルボキシル基量は82当量/トンあった。
上記実施例及び比較例を下記表−1に示す。
表中のポリエステルA:原料として、コハク酸100重量部、アジピン酸32重量部、
1,4―ブタンジオール112重量部、リンゴ酸0.46重量部、ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め1.0重量%溶解させた88%乳酸水溶液7重量部から製造されるポリエステル、
B:原料として、コハク酸100重量部、1,4―ブタンジオール88.6重量部、リ
ンゴ酸0.16重量部、ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め1.0重量%溶解させた88%乳酸水溶液5.4重量部から製造されるポリエステル、
ポリエステルC:原料として、コハク酸100重量部、アジピン酸32重量部、1,4
―ブタンジオール112重量部、リンゴ酸0.16重量部、ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め1.0重量%溶解させた88%乳酸水溶液7重量部から製造されるポリエステル、
ポリエステルD:原料として、コハク酸100重量部、アジピン酸32重量部、1,4
―ブタンジオール112重量部、リンゴ酸0.16重量部、クエン酸0.25重量部、ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め1.0重量%溶解させた88%乳酸水溶液7重量部から製造されるポリエステル、
(I)トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、
(II)テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチル−5―メチルフェニル)−1,1−ビフェニルー4,4′−ジイルビスホスホナイト、
(III) ジンクステアリルホスフェイト、
(IV) ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジ
ホスファイト、
(V) ビス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、を示す。
【0140】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール単位及び脂肪族ジカルボン酸単位を主体とする脂肪族ポリエステル成分中に有機ホスフェイト金属塩、ホスファイト及びホスホナイトの群から選ばれる少なくとも1種の有機リン化合物を含有する脂肪族ポリエステルであって、該有機リン化合物が、該脂肪族ポリエステルに対するリン元素の含有量として、0.1ppm以上、90ppm以下含まれ、且つ脂肪族ポリエステル中のカルボキシル末端基量が、0.1当量/トン以上40当量/トン以下であることを特徴とする脂肪族ポリエステル。
【請求項2】
脂肪族ジカルボン酸単位の一種がコハク酸単位であることを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリエステル。
【請求項3】
脂肪族ポリエステルが、3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸および3官能以上のオキシカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の3官能以上の化合物単位を有することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル。
【請求項4】
3官能以上の化合物単位の量が、ポリエステルを構成する全単量体単位に対し、0.0001モル%以上0.5モル%以下である、請求項3に記載の脂肪族ポリエステル。
【請求項5】
脂肪族ポリエステルの還元粘度が、2.0(ηsp/c)以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル。
【請求項6】
有機ホスフェイト金属塩、ホスファイトならびにホスホナイトの群から選ばれる少なくとも1種の有機リン化合物、脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体、及び脂肪族ジオールを、無溶媒下で溶融重縮合することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルを成形してなるシート状成形体。

【公開番号】特開2007−92048(P2007−92048A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234822(P2006−234822)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】