説明

脂肪肝抑制剤

【課 題】 脂肪肝の予防・改善機能を有する組成物、及びそれを利用した食品、医薬品を提供する。
【解決手段】 ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる菌体及びその培養物を有効成分とする脂肪肝抑制剤。また、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる菌体及びその培養物を有効成分として含有する脂肪肝抑制作用を有する医薬品、及び脂肪肝抑制用飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする脂肪肝抑制剤に関する。また、本発明は、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする脂肪肝抑制作用を有する医薬品に関する。さらに、本発明は、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする脂肪肝抑制用飲食品に関する
【背景技術】
【0002】
脂肪肝は肝臓(肝細胞)に脂肪が過剰に蓄積された状態を言い、脂肪の蓄積に伴って食欲不振、体重減少、疲労などの症状を呈する。脂肪肝の発生機序は、いまだによく分かっていないが、これまでの研究によれば、次のように考えられている。すなわち、肝臓は、脂肪の代謝・転送に重要な役割を果たしており、正常状態では肝臓での脂肪の出納は一定の平衡状態に保たれている。肝臓の中性脂肪は、食事に由来するカイロミクロン中の脂肪酸、末梢脂肪組織より動員された遊離脂肪酸及び新しく肝臓で合成された脂肪酸に由来している。このように新しく合成されたか又は肝臓に転送されてきた脂肪酸の一部は肝臓で酸化分解されるが、一部は肝臓のマイクロゾームでエステル化されて中性脂肪となり、蛋白と結合してリポ蛋白の形で血流中に分泌される。肝中性脂肪は比較的速い代謝・回転をしながら平衡状態に保たれているが、この平衡を乱す、すなわち肝臓における中性脂肪の生成量と利用量の間に不均衡が生ずるような変化が生じると、脂肪肝が発生する。脂肪肝の原因は、原理的には、肝臓における脂肪合成の増加、肝臓における脂肪酸酸化の減少、貯蔵脂肪より肝臓への脂肪の動員の増加、肝臓より末梢への脂肪の移動の減少が考えられ、これらの異常を起こす成因としては、重症貧血、循環障害などによる酸素不足、パセドウ病などによる内分泌障害、小児型体質などによる代謝性疾患、膵疾患、栄養不良、アルコール、リン、キノコ毒などによる外来性毒物ないし薬品、慢性感染症などによる内因性毒物、脂肪及び炭水化物食事性、小腸バイパス手術など、数多くの原因が挙げられている。脂肪肝は、慢性肝炎、肝硬変等の重篤な疾患の要因とも考えられ、その治療及び予防が重要な課題である。
【0003】
脂肪肝を予防・治療する方法に関し、共役ジエンリノール酸の有効量を製剤担体もしくは食品用担体と共に含有することを特徴とする肝臓脂肪蓄積抑制組成物(例えば、特許文献1)、高度不飽和脂肪酸含有油脂にリン脂質を約25〜約70重量%含有する卵黄脂質を配合したことを特徴とする油脂組成物(例えば、特許文献2)、グルカゴン分泌作用を有するアミノ酸類の少なくとも一種、キサンチン誘導体の少なくとも一種およびチアミン化合物の少なくとも一種を含有する組成物(例えば、特許文献3)、大豆から油脂を製造する工程で生じる粗大豆レシチンを、有機溶剤、吸着剤、イオン交換樹脂等により分画して得られる、肝臓中性脂肪合成抑制作用を有する粗大豆レシチン分画物、当該粗大豆レシチン分画物を公知の原材料に配合した飲食物、動物用飼料もしくは医薬(例えば、特許文献4)、ケブラ・ペドラの有機溶媒または水抽出物を有効成分とする脂質代謝改善作用剤および肝障害抑制作用剤(例えば、特許文献5)、キシログルカンを有効成分とする脂質増加抑制剤(例えば、特許文献6)、そば粉と水の混合物においてそば粉から液層に移動し分離される組成物(例えば、特許文献7)、クスリウコン(Curcuma xanthorrhiza Roxb.)より単離したビサボラン型セスキテルペノイドであるα‐クルクメン(α‐curcumene)を有効成分とする脂質代謝改善剤(例えば、特許文献8)、 トリステアリン、1‐ステアリルジパルミチン、2‐ステアリルジパルミチン、1‐パルミトジステアリン及び2‐パルミトジステアリンから選ばれる1種または2種以上のトリグリセリドを有効成分とする脂肪肝抑制剤(例えば、特許文献9)、ドコサヘキサエン酸(DHAと云う)を有効成分とする肝機能改善剤(例えば、特許文献10)、トウモロコシふすまより澱粉質、蛋白質等を除去し、この残部をアルカリ抽出して得られるヘミセルロース、及び/または、このヘミセルロースを、更に、キシラナーゼで処理して得られるヘミセルロースの部分分解物を、有効成分として含有させるアルコール性脂肪肝抑制物質(例えば、特許文献11)等の技術が知られているが、未だ、効果的な予防・治療方法は確立されておらず、安全で効果の強い新規な有効成分及びそれを含有する組成物、更にはそれを利用した新規な食品及び医薬品の開発が待たれている。
【0004】
乳酸菌のラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)については、免疫増強剤(例えば、特許文献12)、病原体感染防御剤(例えば、特許文献13)、血清コレステロール上昇抑制剤(例えば、特許文献14)、抗酸化剤(例えば、特許文献15)、糖尿病合併症予防・改善・治療剤(例えば、特許文献16)、炎症性腸疾患及び過敏性腸症候群の予防・治療剤(例えば、特許文献17)などに関する知見が得られ、特許が公開されているが、肝臓機能や組織性状に及ぼす影響に関してはまったく知られていない。
【特許文献1】特開平11−79987号公報
【特許文献2】特開平10−237480号公報
【特許文献3】特開平10−158170号公報
【特許文献4】特開平10−84879号公報
【特許文献5】特開平9−241176号公報
【特許文献6】特開平9−224608号公報
【特許文献7】特開平9−183735号公報
【特許文献8】特開平7−149628号公報
【特許文献9】特開平6−279278号公報
【特許文献10】特開平5−339154号公報
【特許文献11】特開平5−43470号公報
【特許文献12】特開2006‐69993号公報
【特許文献13】特開2005‐225841号公報
【特許文献14】特開2003‐306436号公報
【特許文献15】特開2003‐253262号公報
【特許文献16】特開2003‐252770号公報
【特許文献17】特開2003‐95963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、脂肪肝の予防・改善・治療機能を有する脂肪肝抑制剤、脂肪肝抑制作用を有する医薬品、及び脂肪肝抑制用飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々の発酵乳の研究を行っていたところ、発酵食品から分離された乳酸菌やヒト由来の乳酸菌の中で特にラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌の培養物及び菌体が、脂肪肝形成の抑制をもたらすことを見出し、上記課題の解決に成功した。
すなわち、本発明は、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる菌体及びその培養物を有効成分とする脂肪肝抑制剤に関する。さらに、本発明は、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる菌体及びその培養物を有効成分として含有する脂肪肝抑制作用を有する医薬品、及び脂肪肝抑制用飲食品に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする脂肪肝抑制剤、脂肪肝抑制作用を有する医薬品、そして、脂肪肝抑制用飲食品を提供することができる。本発明の脂肪肝抑制剤は、毒性及び副作用が極めて少なく食品素材として特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであって、本発明者らは、目的とする乳酸菌をスクリーニングするに際し、次のような基準を新たに設定し目的に合致する株を選定した。すなわち、本発明者らは、発酵食品やヒト由来の数多くの乳酸菌のうち、胃酸耐性が高い、低pH条件下での生育が良好である、血清コレステロールの上昇を抑制する、ヒト腸管へ高い定着性を示す、ヒト腸管細胞に親和性を示す、胆汁酸耐性がある、コレステロール吸着性を有する、胆汁酸吸着性がある、食品に適用した際に生残性が高く、香味、物性も優れている等々の条件を設定し、菌株の選定につき鋭意研究を重ねた。このような条件を満足するラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)の菌株については全く知られていなかった。
【0009】
本条件によってスクリーニングした結果、これらの条件に合致する菌株として以下の菌株を選択することができた。これらの菌株は、次の寄託番号により独立行政法人産業技術総合研究所に寄託されている。
すなわち、菌株、
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) SBT 10801(FERM P-18137)、
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) SBT 1703(FERM P-17785)、
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) SBT 10241(FERM P-17786)、
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) SBT 0274(FERM P-17784)、
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) SBT 10239(FERM P-16639)、
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) SBT 2055(FERM P-15535)
である。
【0010】
さらにこれらの菌株は、ヒト腸管細胞に高い親和性を有し、経口で投与した時、生存して腸管内に到達することができ、長期間腸管内に常在することが可能である。さらに本発明では、上記寄託菌に限らずヒトや発酵食品から分離されるラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)の菌株であって、上記の作用を示すものであれば、いずれのものでも使用できる。
【0011】
次にこれらの乳酸菌の培養方法を記す。本発明のラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)の培地には、乳培地または乳成分を含む培地、これを含まない半合成培地等、種々の培地を用いることができる。このような培地としては、脱脂乳を還元して加熱殺菌した還元脱脂乳培地を例示することができる。培養は静置培養またはpHを一定にコントロールした中和培養で行うが、菌が良好に生育する条件であれば特に培養方法に制限はない。
本発明は上述のようにして得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする。また乾燥した粉末を有効成分としてもよい。これらの乾燥は凍結乾燥で行うことが菌体を変質させることなく乾燥することができるので好ましいが、噴霧乾燥などの熱が負荷される方法を適用しても構わない。
そして、これらの有効成分は経口摂取することが望ましい。また、これらの粉末は乳糖等の適当な賦形剤と混合し、粉剤、錠剤、丸剤、カプセル剤または粒剤等として経口摂取することができる。摂取量は、摂取対象者の症状、年齢等を考慮してそれぞれ個別に適宜決定されるが、通常成人1日当たり乾燥物として0.5〜50gであり、これを日数回に分けて摂取するとよい。また、本発明における飲食品は、前述したラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)の菌株を使用して乳酸発酵を行って製造されたヨーグルト等であっても良い。
【0012】
本発明のラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする脂肪肝抑制剤、脂肪肝抑制作用を有する医薬品、そして、脂肪肝抑制用飲食品は、アルコール摂取を原因とする脂肪肝、エネルギーの過剰摂取による脂肪肝、肝臓での脂肪分解能低下による脂肪肝、肝臓での脂肪合成亢進による脂肪肝、小腸での脂肪吸収亢進による脂肪肝など、各種の要因により引き起こされる脂肪肝に対し、予防・改善効果が期待できることより、健康維持、健康増進用飲食品の素材として利用することが出来る。また、通常、脂肪肝により肝機能が低下すると体力の低下が著しい。従って、脂肪肝の予防・改善は、体力の維持・増進・回復に繋がるので、本発明の食品組成物は体力の維持・増進・回復用健康食品組成物としても利用することが出来る。
【0013】
以下に本発明に用いる乳酸菌株として、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)SBT2055(FERM P-15535) (以下、SBT2055という)を用いた試験例を示し、分類学的性状及びインビトロ、インビボによる効果を具体的に説明する。
【0014】
[試験例1]
(SBT2055株の同定)
1.分類学的性状
(1)菌形
LBS寒天平板培地を用いて37℃、48時間嫌気培養後の結果を示す。
形状:桿菌
大きさ:0.5-1×3-4μm
連鎖したもの多数
(2)グラム染色性 陽性
(3)コロニー形態
形状:円形
周縁:波状
大きさ:直径2〜3mm
色調:白色
表面:円滑
(4)芽胞形成 陰性
(5)ガス産生 なし
(6)運動性 なし
(7)カタラーゼ活性 陰性
(8)脱脂乳凝固性 凝固
(9)ゼラチン液化性 なし
(10)硝酸塩還元性 なし
(11)インドール産性 なし
(12)硫化水素産性 なし
【0015】
2.糖の発酵性
市販の細菌同定用キット(アピ50CH、ビオメリュー社)にて糖の発酵性を検討した結果を以下に記載する。
グリセロール −
エリスリトール −
D‐アラビノース −
L‐アラビノース +
リボース −
D‐キシロース −
L‐キシロース −
アドニトール −
β‐メチル‐D‐キシロシド −
ガラクトース +
D‐グルコース +
L‐フルクトース +
D‐マンノース +
L‐ソルボース −
ラムノース −
ダルシトール −
イノシトール −
マンニトール −
ソルビトール −
α‐メチル‐D‐マンノシド −
α‐メチル‐D‐グルコシド −
N‐アセチル‐グルコサミン +
アミグダリン +
アルブチン +
エスクリン +
サリシン +
セロビオース +
マルトース +
ラクトース +
メリビオース −
サッカロース +
トレハロース +
イヌリン −
メレジトース −
D‐ラフィノース −
アミドン −
グリコーゲン −
キシリトール −
β‐ゲンチオビオース +
D‐ツラノース −
D‐リキソース −
D‐タガトース +
D‐アラビトール −
L‐アラビトール −
グルコネート −
2‐ケト‐グルコネート −
5‐ケト‐グルコネート −
(+は発酵性有りを示し、−は発酵性なしを示す。)
上記の分類学的性状は、典型的なラクトバチルス・アシドフィルス複合菌種(Lactobacillus acidophilus complex)の性状を示した。
【0016】
3.相同性
DNA相同性試験による確認試験を実施した。
以下に記載したラクトバチルスの基準株、被験菌SBT2055株 、そしてコントロールとして、大腸菌(Escherichia coli)のDNAを抽出、精製した。
被験菌: SBT2055株
基準株:ラクトバチルス・アシドフィルス JCM1132株
ラクトバチルス・クリスパタス JCM1185株
ラクトバチルス・ガリナラム JCM2011株
ラクトバチルス・アミロボラス JCM1126株
ラクトバチルス・ガセリ JCM1131株
ラクトバチルス・ジョンソニー JCM2012株
大腸菌(Escherichia coli)
SBT2055株のDNA同士の相同性を100%、SBT2055株と大腸菌とのDNA相同性を0%としたときの、LG2055株と各基準株のDNA相同性をDNAハイブリダイゼーション法により検討した。その結果、SBT2055株はラクトバチルス・ガセリJCM1131株と90%以上の相同性を有していたため、SBT2055株はラクトバチルス・ガセリと同定された。
【0017】
[試験例2]
(ヒトの腸管通過能と腸内定着性)
無脂乳固形9.5%、乳脂肪3.0%の乳にSBT2055株のスターターを4%接種して39℃で4時間発酵させた発酵乳を、健康な成人ボランティア42名に4週間、毎日100gを1日1回摂食させて腸内菌の変化を観察した。試験期間中は腸内菌に影響のある食品やオリゴ糖、薬品の摂取を禁ずる以外は自由に食事をさせて評価を行った。試験前は検出されなかったSBT2055株がすべての被験者から4週間後には検出され、SBT2055株が高い腸内定着性を有することがわかった。
【0018】
[試験例3]
(ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)脱脂乳培養物の調製)
SBT2055株を115℃、20分間の滅菌処理をした0.5%酵母エキス(アサヒビール社製)添加の11.55%脱脂乳培地にて37℃、16時間の培養を3代以上行って賦活させた。これを同培地に3%接種し、37℃で16時間培養した。得られた培養物は、凍結乾燥後、乳鉢で粉砕した。
【0019】
[試験例4]
(肝臓脂質の測定)
4週齢のSDラットを1週間の予備飼育の後、試験例3で調製したラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)脱脂乳培養物を20%含有する飼料摂取群(ガセリ菌培養物群)、脱脂粉乳を20%含有する飼料摂取群(対照群)に分けた。脂質含量は10%とし、摂食は飼育途中からPair-feedingを行い、自由飲水で12時間のライトサイクル、室温21〜23℃で4週間飼育した。4週間の摂食の後、絶食させずに腹部大動脈よりの採血で屠殺を行い、肝臓および血清を得た。肝臓脂質は、Folchの方法(Folch, J. Biol. Chem.、 226, 497-506, 1957)によりクロロホルム:メタノール=2:1(v/v)溶液にて抽出・水洗後、トリグリセリド、リン脂質、コレステロール量を定量した。トリグリセリドはアセチルアセトン法(トリグリセリドテストワコー、和光純薬工業社製)、リン脂質は過マンガン酸塩灰化法(リン脂質テストワコー、和光純薬工業社製)、コレステロールは酵素法(デタミナTC555、協和メディックス社製)にてそれぞれ分析した。
【0020】
肝臓脂質の測定結果を表1に示す。摂食量、終体重、糞排泄量については、群間で差は見られなかった。肝臓重量、血清脂質、肝臓コレステロール、および肝臓リン脂質についても群間で差は見られなかった。しかしながら、肝臓の中性脂質(TG)量は、ガセリ菌培養物群で有意に低かった。
【0021】
[表1]
-------------------------------------------------------------------------------
対照群 ガセリ菌培養物群
-------------------------------------------------------------------------------
中性脂質 44.58±5.21 25.63±3.25 *p<0.05
コレステロール 2.92±0.19 2.96±0.27
リン脂質 26.82±0.48 27.71±0.73
-------------------------------------------------------------------------------
【0022】
[試験例5]
(肝臓の脂肪変性の測定)
10週齢の雌性C57BL/6Jマウス(Crj:CD-1(ICR),日本チャールズ・リバー社製)を5匹/群に分け、対照群Aは高脂肪・高糖分食精製飼料(オリエンタル酵母社製)で、対照群Bは脂肪分を除去した成長期用標準配合飼料(AIN−93G:オリエンタル酵母社製)に脂肪分としてダイズ油8%を添加した飼料(正常食)で飼育した。ガセリ菌培養物群は上記高脂肪・高糖分食精製飼料の蛋白質と炭水化物部分を、試験例3で調製したラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)脱脂乳培養物で置き換えた飼料を用いて飼育した。試験飼料或いは対照飼料で4週間飼育した。飼育の最後日から約16時間絶食させた後、エーテル麻酔下で放血死させ肝臓を摘出した。肝臓はホルマリン固定後、常法によりパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色を施し、光学顕微鏡にて病理組織検索を実施した。肝臓の脂肪変性の程度を5段階(−、±、+、++、+++)にグレード分けし、グレード毎の個体数にて評価した。
【0023】
評価の結果を表2に示す。高脂肪・高糖分食飼育群(対照群A)では肝臓に脂肪が蓄積し脂肪肝になる像が認められ、正常食飼育群(対照群B)ではその様な像は認められなかった。ガセリ菌培養物群では、脂肪の蓄積が抑制される像が認められた。
【0024】
[表2]
--------------------------------------------------------------
肝臓脂肪変性頻度 − ± + ++ +++
--------------------------------------------------------------
対照群A 0 0 1 4 1
対照群B 6 0 0 0 0
ガセリ菌培養物群 2 2 2 0 0
--------------------------------------------------------------
【0025】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。しかし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
SBT2055株を10%還元脱脂乳培地(121℃、10分加熱)に3%接種し、37℃で64時間培養した。本培養物を凍結乾燥して粉末化し、本発明の脂肪肝抑制剤を調製した。
【実施例2】
【0027】
生乳に2%脱脂乳を添加し、100℃、10分加熱して調製したヨーグルトミックスを20℃に冷却した後、SBT2055株を5%接種し、20℃で24時間培養した。培養を終えたヨーグルトミックスを紙カップに充填して冷却して、本発明の脂肪肝抑制用ヨーグルトを得た。
【実施例3】
【0028】
酵母エキス0.5%、トリプチケースペプトン0.1%を添加したホエー培地でSBT2055株を3%接種し、37℃で64時間培養した。培養後、遠心分離により、菌体を除去した。この上清液に最終濃度が50%になるように氷冷したエタノールを添加し沈澱物を得た。この沈澱物を0.2N・NaClに溶解し、上述のエタノール沈澱を更に3回繰り返し、沈澱物を約500mg/(培養物)得た。この培養物1gを乳糖5gと混合し顆粒状に成形して乾燥し、本発明の脂肪肝抑制顆粒剤を得た。
【実施例4】
【0029】
MRS液体培地(Difco社製)5LにSBT2055株を3%接種し、接種後、37℃、18時間静置培養を行った。培養終了後、7,000rpm、15分間遠心分離を行い、培養液の1/50量の濃縮菌体を得た。次いで、この濃縮菌体を脱脂粉乳10重量%、グルタミン酸ナトリウム1重量%を含む分散媒と同量混合し、pH7に調整後、凍結乾燥を行った。得られた凍結乾燥物を60メッシュのふるいで粉体化し、本発明の脂肪肝抑制用凍結乾燥菌末を得た。
【実施例5】
【0030】
第13改正日本薬局方解説書製剤総則「散剤」の規定に準拠し、上記実施例4で得られたSBT2055株の凍結乾燥菌末1gにラクトース(日局)400g、バレイショデンプン(日局)600gを加えて均一に混合し、本発明の脂肪肝抑制散剤を製造した。
【実施例6】
【0031】
脱脂乳を80〜85℃で25分間殺菌した後、ホモゲナイズし、冷却した。これにスターターとしてSBT2055株の純培養物を3.5%加え、37〜40℃で16時間発酵させ、乳酸含量2%の酸乳(脱脂乳培地における培養物)を得た。次いで、生じたカードを砕きながら、5℃に冷却し、これを酸乳とした。別に、ショ糖15%のほかに適量の酸味料、香料、色素を含有する糖液を調合し、ホモジナイズし、70〜80℃で25分間殺菌した後、5℃に冷却し、糖液とした。このようにして得た酸乳35に対して糖液65の割合で混合して本発明の脂肪肝抑制用酸乳飲料を得た。
【実施例7】
【0032】
ビタミンC40gまたはビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gに、上記実施例1で得られた脱脂乳培地における培養物の凍結乾燥粉末を40g加えて十分に混合した。混合物を袋に詰め、1袋1.5gの本発明の脂肪肝抑制用ステック状栄養健康食品を150袋製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする脂肪肝抑制剤。
【請求項2】
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌が、ヒト腸管内定着性を有するラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)である請求項1記載の脂肪肝抑制剤。
【請求項3】
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌が、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) SBT 2055(FERM P-15535)、同SBT 10801 (FERM P-18137)、同SBT 1703 (FERM P-17785)、同SBT 10241( FERM P-17786)、同SBT 0274 (FERM P-17784)、同SBT 10239 (FERM P-16639)のいずれかである請求項1又は2に記載の脂肪肝抑制剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする脂肪肝抑制作用を有する医薬品。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする脂肪肝抑制用飲食品。

【公開番号】特開2008−24680(P2008−24680A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201733(P2006−201733)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】