説明

脂肪酸アシル化タンパク質の検出方法

化学式Iによる高感度で非放射性の脂肪酸アシルは脂肪酸アシル化基質(例、タンパク質あるいはポリペプチド)の検出や細胞イメージングをインビボ条件下で行う方法において有用である。式Iにおいて、記号X、A、及び下付記号nは明細書に記載の通りである。脂肪酸アシル化合物は、とりわけ、様々な細胞の条件下での異なる生物学的状態におけるタンパク質の脂質組成を分析することに使用でき、細胞タンパク質における大規模な脂質分析への入口となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願とのクロスリファレンス)
この出願は、2009年2月14日に出願され、全ての目的に対してその全体がここに援用される米国仮出願第61/207527号に基づき優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
細胞内タンパク質の脂肪酸アシル化は生命維持に必須であり、タンパク−タンパク及びタンパク−膜間相互作用を制御している。タンパク質の脂肪酸アシル化は、脂質のタンパク質への共有結合である。これはタンパク質の物理化学的性質や生物学的機能を調節し、そのターゲティングを細胞内での活性化に向けることにつながる。而して、タンパク質の脂肪酸アシル化は、細胞内タンパク質輸送や選別、シグナル伝達経路や恒常性の調節を制御している(Resh, M.D. Trafficking and signaling by fatty-acylated and prenylated proteins. Nat. Chem. Biol. 2, 584 - 590 (2006);Greaves, J. & Chamberlain, L.H. Palmitoylation dependent protein sorting. J. Cell Biol. 176, 249-254;Zhang, F.L. & Casey, P.J. Protein prenylation: molecular mechanisms and functional consequences. Annu Rev Biochem 65, 241-270 (1996)を参照)。
【0003】
数種類のタンパク質脂肪酸アシル化が真核生物には存在する。これらとしては主にN−ミリストイル化とS−パルミトイル化が挙げられる(図1a)。典型的には、N−ミリストイル化タンパク質は、露出したN末端のグリシン残基に安定したアミド結合によって結合した14個の飽和炭素のミリスチン酸基を含んでいる。これに対し、S−パルミトイル化は、16炭素のパルミチン酸又はより長鎖の脂肪酸の、不安定なチオエルテル結合を介したシステイン残基への可逆的付加を含む。生細胞においてはS−パルミトイル化が優位であるが、N−パルミトイル化はハリネズミやスピッツが分泌するタンパク質で同定されており(Pepinsky, R.B.等 Identification of a palmitic acid-modified form of human Sonic hedgehog. J Biol Chem 273, 14037-45 (1998);Miura, G.I.等 Palmitoylation of the EGFR ligand Spitz by Rasp increases Spitz activity by restricting its diffusion. Dev Cell 10, 167-76 (2006)を参照)、恐らく、パルミトイル基がシステインに転位することでアミド結合を形成している。
【0004】
タンパク質の脂肪酸アシル化が生理学的に重要な役割を担っているにも関わらず、脂質修飾タンパク質を検出するための高感度な方法は殆ど存在していない(Drisdel, R.C.及びGreen, W.N. Labeling and quantifying sites of protein palmitoylation. Biotechniques 36, 276-285 (2004);Roth, A.F.等 Global analysis of protein palmitoylation in yeast. Cell 125, 1003 - 1013)を参照)。伝統的な方法は、放射性脂肪酸による代謝標識法を含むが(Schlesinger, M.J., Magee, A.I.及びSchmidt, M.F. Fatty Acid Acylation of Proteins in Cultured Cell. J. Biol. Chem. 255, 10021- 10024 (1980)を参照)、これは長時間のオートラジオグラフ照射を要するため時間がかかり、放射性同位元素を取り扱うという危険性は言うまでも無い。近年、アジド基を持つ脂肪酸アナログを代謝的に取り込み、それを利用してStaudingerライゲーション反応により脂肪酸アシル化タンパク質を検出することを記載した研究が文献で発表された。Hang, H.C.等 Chemical probes for the rapid detection of Fatty-acylated proteins in Mammalian cells. J Am Chem Soc 129, 2744-5 (2007);Kostiuk, M.A.等 Identification of palmitoylated mitochondrial proteins using a bio-orthogonal azido-palmitate analogue. Faseb J 22, 721-32 (2008);Martin, D.D.等 Rapid detection, discovery, and identification of post-translationally myristoylated proteins during apoptosis using a bio-orthogonal azidomyristate analog. Faseb J 22, 797-806 (2008);及びHeal, W.P.等 Site-specific N-terminal labelling of proteins in vitro and in vivo using N-myristoyl transferase and bioorthogonal ligation chemistry. Chem Commun (Camb), 480-2 (2008)を参照。このアプローチ法は、微生物中の組換えタンパク質の標識化に(Heal, W.P., Wickramasinghe, S.R., Leatherbarrow, R.J.及びTate, E.W. N-Myristoyl transferase-mediated protein labelling in vivo. Org Biomol Chem 6, 2308-15 (2008)を参照)、またミトコンドリアに局在化し又はアポトーシス中に翻訳後修飾を受けている脂肪酸アシル化タンパク質の同定に(Kostiuk, M.A.等 Identification of palmitoylated mitochondrial proteins using a bio-orthogonal azido-palmitate analogue. Faseb J 22, 721-32 (2008);Martin, D.D.等 Rapid detection, discovery, and identification of post-translationally myristoylated proteins during apoptosis using a bio-orthogonal azidomyristate analog. Faseb J 22, 797-806 (2008)を参照)使用されている。上記に鑑みると、特にホールセル環境下で、タンパク質アシル化の容易な機能及びプロテオミクス解析を提供する方法が当該分野で必要である。本発明は少なくともこの必要性を満たす。
【発明の概要】
【0005】
一態様では、本発明は、脂肪酸アシル化基質を検出する方法において、(i)式Iの脂肪酸アシルを動物細胞と共にインキュベートし、

ここで、式I中、下付記号nは6から15の整数であり、記号Aはエチニル基を表し、記号Xは−OH又は−ScoAを表し、上記動物細胞は、基質と該基質にIを結合させて脂肪酸アシル化基質を生成せしめることが可能な少なくとも一の酵素とを含み;(ii)工程(i)からの脂肪酸アシル化基質をアジドタグ標識基と組み合わせ、ここで、アジドタグは、脂肪酸アシル化基質のA基と[3+2]環化付加反応を受けて、標識された脂肪酸アシル化基質を産生し;(iii)脂肪酸アシル化基質の標識基を検出し;これにより脂肪酸アシル化基質を検出する方法を提供する。ある実施態様では、工程(iii)において、脂肪酸アシル化基質は動物細胞中においてインビボで検出される。
【0006】
本発明は、脂肪酸アシル化基質を検出する方法において、

(i)式Iの脂肪酸アシルを動物細胞と共にインキュベートし、ここで、式I中、下付記号nは6から15の整数であり、記号Aはエチニル基を表し、記号Xは−OH又は−ScoAを表し、上記動物細胞は、基質と該基質にIを結合させて脂肪酸アシル化基質を生成せしめることが可能な少なくとも一の酵素とを含み;(ii)工程(i)からの脂肪酸アシル化基質をアジドタグ付き標識基と組み合わせ、ここで、アジドタグは、脂肪酸アシル化基質のA基と[3+2]環化付加反応を受けて、標識された脂肪酸アシル化基質を産生し;(iii)脂肪酸アシル化基質の標識基を蛍光イメージング法により、動物細胞中においてインビボで検出し;それにより脂肪酸アシル化基質を検出する方法をまた提供する。
【0007】
本発明は、タンパク質又はポリペプチドの脂肪酸アシル化の検出のために動物細胞を使用するインビボアッセイにおける式Iの脂肪酸アシル化合物の使用をまた提供し、

ここで、式I中、下付記号nは6から15の整数であり、記号Aはエチニル基を表し、記号Xは−OH又は−ScoAを表し、検出はインビボ設定で起きる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、天然に生じる脂肪酸アシルと本発明の所定の化合物:化合物1(C10)、2(C11)、3(C13)、4(C14)、5(C16)及び6(C18)による細胞タンパク質の標識化及びイメージングの戦略を示す:(A)タンパク質に共有結合したN−ミリステート及びS−パルミタート基の化学構造;(B)本発明のために研究した本発明の例示的ω−アルキニル脂肪酸アシル;(C)式Iの例示的脂肪酸アシルで細胞性脂質修飾タンパク質を標識するスキーム。式Iの合成ω−アルキニル脂肪酸アシルを培養した細胞に添加し、代謝的にアシル化タンパク質に組み込んだ(工程1)。精査した後、アルキニル基をアジドタグ付きビオチン又はアジドタグ付きフルオロフォアに、第一銅触媒によるアルキン−アジド[3+2]環化付加反応によって、化学選択的に結合させた。コンジュゲートしたタンパク質をゲル電気泳動により分離し、ストレプトアビジン結合西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)によって検出し(経路A)、あるいは別法として、ストレプトアビジン−Alexa488フルオロフォアによって検出し、蛍光顕微鏡を使用して撮像した(経路B)。
【図2】図2は脂質修飾されたタンパク質の生化学的検出法と撮像を示す:(A)MDCK細胞を本発明の所定のω−アルキニル脂肪酸アシル化合物(100μM)により、24時間、レーン1:C10,レーン2:C11,レーン3:C13,レーン4:C14,レーン5:C16,レーン6:C18と示した通りに処理した。ここに記載された方法を使用して、細胞プロテオームを調製し、アジ化ビオチンと反応させ、ゲル電気泳動で分離し、ストレプトアビジン−HRPでのウエスタンブロッティングにより検出した。新しいバンドの強さ又は出現の増加により判断されるように、星印は、DMSOコントロール試料では無いプローブによる処理で標識されたバンドを意味する;(B)並行して、ストレプトアビジン−HRPによる検出前に、ウエスタンブロットを5%ヒドロキシルアミンで72時間処理した。レーン1:C10,レーン2:C11,レーン3:C13,レーン4:C14,レーン5:C16,レーン6:C18;(C,D,E及びF)ω−アルキニル脂肪酸アシルの非存在下(C)又はω−アルキニル脂肪酸アシルC14(D)、C16(E)、及びC18(F)の存在下で標識されたPC3細胞の蛍光顕微鏡観察。細胞をDMSO又はω−アルキニル脂肪酸(100μM)により、示した通り3時間処理した。ついで細胞を固定し、透過処理し、アジ化ローダミンでクリック反応させ、落射蛍光顕微鏡により撮像した。パネル(D)、(E)、及び(F)では、ローダミン標識ω−アルキニル脂肪酸アシルの蛍光放射が、灰色の輪で示される核を囲む灰色のハローとして現れている(スケールバー,10μm);(G,H,I)PC3細胞をC14、C16及びC18ω−アルキニル脂肪酸アシルで処理し(パネル(C−F)について上述した通り)、共焦点顕微鏡によって撮像し、その撮像の結果をパネル(G)、(H)及び(I)にそれぞれ示す。全ての画像は63倍の油浸対物レンズを用いて同じ様にして得られた。z軸に沿った蛍光は各共焦点切片の上に示されている(スケールバー,10μm);(J,K,L)異なった細胞状態における脂質修飾タンパク質の分布は蛍光イメージングによりモニターできる。中期の細胞は細胞膜においてC16標識タンパク質の特徴的分布を示し、紡錘体の周りと組織像パネルの全体で高密度な構造をとる(K)。z軸に沿った蛍光はパネルの左側に示されている(K)。細胞質分裂では、C16標識タンパク質が細胞分裂パネルの部位である分裂溝に集中する(L)。
【図3】図3はRAW2647マクロファージ(A)及びマウス線維芽細胞L細胞(B)における脂質修飾タンパク質の標識と検出を示す。細胞をω−アルキニル脂肪酸アシル(100μM)で24時間処理した(レーン1:C10,レーン2:C11,レーン3:C13,レーン4:C14,レーン5:C16,レーン6:C18)。ここに記載した方法を使用して、細胞プロテオームを調製し、アジ化ビオチンと反応させ、ゲル電気泳動で分離し、ストレプトアビジン−HRPでのウエスタンブロットにより検出した。新しいバンドの強さ又は出現の増加で判断されるように、星印はDMSOコントロール試料には無いプローブでの処理で標識されたバンドを示す。
【図4】図4は細胞タンパク質中へのC14(A)、C16(B)及びC18(C)ω−アルキニル脂肪酸アシルプローブの経時的取り込みを示している。図に示した通り、MDCK細胞をω−アルキニル脂肪酸アシルプローブで処理した。ここに記載した方法を使用して、細胞プロテオームを調製し、アジ化ビオチンと反応させ、ゲル電気泳動で分離し、ストレプトアビジン−HRPでのウエスタンブロットにより検出した。新しいバンドの強さ及び出現の増加で判断されるように、星印はDMSOコントロール試料には無いプローブでの処理で標識されたバンドを示す。
【図5】図5は細胞タンパク質中へのC14(A),C16(B)及びC18(C)ω−アルキニル脂肪酸アシルプローブの用量依存的取り込みを示している。図に示した通り、MDCK細胞をω−アルキニル脂肪酸アシルプローブで処理した。ここに記載した方法を使用して、細胞プロテオームを調製し、アジ化ビオチンと反応させ、ゲル電気泳動で分離し、ストレプトアビジン−HRPでのウエスタンブロットにより検出した。新しいバンドの強さや出現の増加で判断されるように、星印はDMSOコントロール試料には無いプローブでの処理で標識されたバンドを示す。
【図6】図6はω−アルキニル脂肪酸アシルの組み込みの特異性を示す:(A)シクロヘキシイミドの存在下におけるC14標識化の阻害。MDCK細胞をシクロヘキシイミド(100μg/ml)の存在下あるいは非存在下において、C14ω−アルキニル脂肪酸(100μM)で5時間処理した。ここに記載した方法を使用して記載されたようにして、細胞プロテオームを調製し、アジ化ビオチンと反応させ、ゲル電気泳動で分離し、ストレプトアビジン−HRPでのウエスタンブロットにより検出した。星印はDMSOコントロール使用には無いプローブによる処理で標識されたバンドを示す;(B,C)C14及びC16ω−アルキニル脂肪酸のミリスチン酸(MA)及びパルミチン酸(PA)それぞれに対する用量依存的競合。MDCK細胞をミリスチン酸(MA)及びパルミチン酸(PA)の濃度を上げていきながら、示した通りにω−アルキニル脂肪酸プローブで処理した。試料はここで記載された通りに処理した。
【図7】図7はPC3前立腺癌細胞中のω−アルキニル脂肪酸アシルで標識された細胞タンパク質の蛍光顕微鏡データを示す。細胞をDMSO(A)又は100μMのC10(B)、C13(C)、C14(D)、C16(E)、C18(F)で24時間処理した。その後、細胞を固定し、透過処理し、アジ化ビオチンとクリック反応させた後、ストレプトアビジン結合Alexa488で(場合によっては核の染色のためにヘキスト染色で)処理し、ここに記載された通りに落射蛍光顕微鏡技術を使用して撮像した。
【図8】図8はマウス線維芽細胞L細胞中のω−アルキニル脂肪酸アシルで標識された細胞タンパク質の蛍光顕微鏡データを示す。細胞をDMSO(A)又は100μMのC10(B)、C11(C)、C13(D)、C14(E)、C16(F)、C18(G)で24時間処理した。その後、細胞を固定し、透過処理し、アジ化ビオチンと反応させ、ストレプトアビジン結合Alexa488で(場合によっては核の染色のためにヘキスト染色で)処理し、ここに記載された通りに落射蛍光顕微鏡技術を使用して撮像した。
【図9】図9はRAW2647マクロファージ中のω−アルキニル脂肪酸アシルで標識された細胞タンパク質の蛍光顕微鏡データを示す。細胞をDMSO(A)又は100μMのC10(B)、C11(C)、C13(D)、C14(E)、C16(F)、C18(G)で24時間処理した。その後、細胞を固定し、透過処理し、アジ化ビオチンとクリック反応させ、ストレプトアビジン結合Alexa488で(場合によっては核の染色のためにヘキスト染色で)処理し、ここに記載された通りに落射蛍光顕微鏡技術を使用して撮像した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定義
ここで使用される場合、「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、本出願全体を通して互換的に使用され得、少なくとも2つの共有結合したアミノ酸を意味し、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド及びペプチドを含む。タンパク質は天然に生じるアミノ酸とペプチド結合、又は合成ペプチド模倣構造から構成されうる。よって、ここで用いられる「アミノ酸」又は「ペプチド残基」は天然に生じるアミノ酸と合成アミノ酸の双方を意味する。例えば、ホモ−フェニルアラニン、シトルリン及びノルロイシンは本発明の目的のアミノ酸と考えられる。「アミノ酸」はまたプロリン及びヒドロキシプロリンのようなイミノ酸残基も含む。側鎖は(R)又は(S)配座の何れかでありうる。好ましい実施態様では、アミノ酸は(S)又はL−配座にある。非天然に生じる側鎖が使用される場合、例えばインビボでの分解を防いだり遅らせるために、非アミノ酸置換基が使用されうる。
【0010】
ここで使用される場合、「基質」という用語は酵素に作用される物資を言う。
【0011】
ここで使用される場合、「酵素」という用語は、典型的には化学反応を触媒しうるタンパク質である生体分子を言う。
【0012】
ここで使用される場合、「標識」又は「標識基」は、直接的に(すなわち一次標識)、又は、間接的に(すなわち二次標識)検出される分子を意味し、例えば、標識は可視化及び/又は測定され、あるいは別の方法で同定され、その存在あるいは非存在について知ることができる。当業者には理解されるであろうが、これがなされる方法はその標識に依存するであろう。本発明において使用される適切な標識基は、とりわけ、例えば蛍光標識、FRETエネルギー供与体、標識酵素などの一次検出可能標識、及びとりわけ結合ペアの一員などの二次標識を含む。
【0013】
ここで使用される場合、「標識酵素」は標識酵素基質の存在下で反応を受け、検出可能な産物を作り出す酵素を意味する。本発明において使用される適切な標識酵素には、限定されるものではないが、西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリ性フォスファターゼ、及びグルコースオキシダーゼが挙げられる。そのような基質の使用方法は当該分野でよく知られており、またここに記載される。標識酵素の存在は、標識酵素の基質との反応を酵素が触媒し、同定可能な産物を生み出すことにより一般的に明らかになる。そうした産物は、西洋わさびペルオキシダーゼのテトラメチルベンジジンとの反応のように不透明であり、様々な色を呈しうる。ルミノール(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィックから購入できる)のような、蛍光反応産物を作り出す他の標識酵素基質が開発されている。標識酵素を標識酵素基質を用いて同定する方法は当該分野でよく知られており、多くの商用キットが利用できる。様々な標識酵素の例とその使用方法が、その全体が出典明示によりここに援用されるSavage等, Previews 247:6-9 (1998), Young, J. Virol. Methods 24:227-236 (1989)’に記述されている。
【0014】
ここで使用される場合、「蛍光標識」は、その固有の蛍光特性を通じて検出されうる任意の分子を意味する。適切な蛍光標識としては、限定されるものではないが、フルオレセイン、ローダミン、テトラメチルローダミン、エオシン、エリスロシン、クマリン、メチル−クマリン、ピレン、マラカイトグリーン、スチルベン、ルシファーイエロー、カスケードブルーTM、テキサスレッド、IAEDANS、EDANS、BODIPY FL、LCレッド640、Cy5、Cy5.5、LCレッド705及びオレゴングリーンが挙げられる。適切な光学色素は、出典明示により明示的にここに援用されるリチャードP.ハウグランドによる2002年版Molecular Probes Handbook(第9版)に記載されている。適切な蛍光標識は、また、限定しないが、緑色蛍光タンパク質(GFP;Chalfie等, Science 263(5148):802-805 (Feb. 11, 1994);及びEGFP;Clontech−Genbank受託番号U55762)、青色蛍光タンパク質(BFP;1.Evrogen Inc. Miklukho-Maklaya str, 16/10, 117997, モスクワ,ロシア;2.Stauber, R. H. Biotechniques 24(3):462-471 (1998);3.Heim, R.及びTsien, R. Y. Curr. Biol. 6:178-182 (1996))、高感度黄色蛍光タンパク質(EYFP;Clontech Laboratories, Inc., 1290 Terra Bella Avenue, Mountain View, CA 94043, USA)、ルシフェラーゼ(Ichiki等, J. Immunol. 150(12):5408-5417 (1993))、βガラクトシダーゼ;(Nolan等, Proc Natl Acad Sci USA 85(8):2603-2607 (April 1988))、又はウミシイタケ;米国特許第5292658号;同第5418155号;同第5683888号;同第5741668号;同第5777079号;同第5804387号;同第5874304号;同第5876995号;及び同第5925558号)を含む。上に引用した文献の全てが、出典明示によりここに明示的に援用される。
【0015】
また、標識は間接的に検出でき、そのようなものとして、標識基は、例えば、結合ペアの一員でありうる。ここで使用される場合、「結合ペアの一員」とは第一と第二の部分の一方を意味し、ここで該第一及び該第二の部分は互いに対して特異的な結合親和性を有している。本発明での使用に適切な結合ペアとしては、限定されるものではないが、ビオチン/アビジン(又はビオチン/ストレプトアビジン)、抗原/抗体(例えば、ジオキシゲニン/抗ジオキシゲニン、ジニトロフェニル(DNP)/抗DNP、ダンシル−X−抗ダンシル、フルオレセイン/抗フルオレセイン、ルシファーイエロー/抗ルシファーイエロー、及びローダミン/抗ローダミン)及びカルモジュリン結合タンパク質(CBP)/カルモジュリンが挙げられる。他の適切な結合ペアは、FLAG−ペプチド(Hopp等, BioTechnology, 6:1204-1210 (1988));KT3エピトープペプチド(Martin等, Science, 255:192-194 (1992));チューブリンエピトープペプチド(Skinner等, J. Biol. Chem., 266:15163-15166 (1991));及びT7遺伝子10プロテインペプチドタグ(Lutz-Freyermuth 等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6393-6397 (1990))及びそれぞれの抗体を含む。
【0016】
当業者には理解されるであろうが、一つの結合ペアの相補的な一員は、他の結合ペアの相補的な一員にもなり得る。例えば、抗原(第一の部分)は第一の抗体(第二の部分)、に結合し得、後者は、今度は、第二の抗体(第三の部分)の抗原となり得る。そうした状態では第一の部分と第三の部分が、それぞれに相補的な結合ペアの一員である中間の第二の部分を介して間接的に結合することが可能となることが更に理解される。
【0017】
当業者には理解されるであろうが、上述した通り、標識基は結合ペアの一員を構成しうる。これにより、ある化合物(例えば、脂肪酸アシル化基質)が、例えばビオチン部分のような結合ペアの一員と結合することで、間接的に標識されることが可能となることが更に理解されよう。結合ペアの一員を基質(例えば、脂肪酸アシル化基質)に結合させることは、結合ペアのそのような一員が例えばストレプトアビジンのような相補的結合パートナーを有する場合、ここでは「間接的標識」と称する。
【0018】
「アルキレン」という用語は、−CHCHCHCH−及び−CFCF−に例示されるように、アルキル基から誘導された2価の基を意味する。典型的には、アルキル(又はアルキレン)基は、1から24個の炭素原子を有するが、本発明では10個又はそれより少ない炭素原子を持つ基が好ましい。明確にするために、「アルキル基」という用語は、表示された炭素数を有する(例えば、C1−6は1から6個の炭素を意味する)、直鎖状又は分岐鎖の炭化水素ラジカル及びハロゲン化バリアントを意味する。
【0019】
「ヘテロアルキレン」という用語は、

に例示されるように、ヘテロアルキルから誘導された2価基を意味する。明確にするために、「ヘテロアルキル」という用語は、記述された数の炭素原子と、O、N、Si及びSからなる群から選択される1から3個のヘテロ原子からなり、窒素及び硫黄原子は場合によっては酸化され得、窒素ヘテロ原子は場合によっては第四級化されうる、安定した直鎖状又は分岐鎖の炭化水素基を意味する。ここで使用される場合、「ヘテロアルキレン」という用語は、またモノ−及びポリ−ハロゲン化バリアントをも意味する。
【0020】
発明の実施態様
特にホールセル環境下で、タンパク質脂肪酸アシル化の容易な機能及びプロテオミクス解析を提供する方法が当該分野で尚も必要とされている。本発明は、式Iの脂肪酸アシルを含む非放射性アルキンの使用を提供することで、この必要性を満たしている:

ここで、式I中、下付記号nは6から15の整数であり、記号Aはエチニル基を表し、記号Xは−OH又は−SCoAを表し、これは、代謝的に基質、例えばタンパク質及びポリペプチドに代謝的に取り込まれて細胞環境中に入りうる。式Iの化合物は、少なくとも、動物細胞中の脂肪酸酸アシル化基質の検出と可視化に有用性が見出される。
【0021】
ここで使用される場合、SCoAの略語は次の構造を有するコエンザイムA基を示し、

ここで、波線

はコエンザイムA基の式Iの化合物の残りの部分への結合点を示す。
【0022】
驚くべきことに、本出願人は、式Iの脂肪酸アシルを含むアルキンを、動物細胞(一実施態様では、哺乳類細胞、別の実施態様では、癌細胞)であって、該動物細胞、又はその各実施態様が式Iの化合物での基質の脂肪酸アシル化を触媒することが可能な酵素を含んでいるものにおいて、インビボ設定下でインキュベーションすることで、タンパク質又はペプチドのような基質の脂肪酸アシル化に使用することができることを見出した。有利なことに、式Iの化合物はこの目的に非常に適している。如何なる特定の理論によっても限定されるものではないが、本発明者は、式Iの脂肪酸アシル炭素鎖のアルキン基が脂肪酸アシル鎖の疎水性を維持し、脂肪酸アシル鎖の物理化学的な性質との干渉とその相互作用を最小にすると考える。更に、式Iの脂肪酸アシルを含むアルキンがひとたびタンパク質やペプチドのような基質に結合すると、そのアルキニル基は代謝的に不活性であるが、適切な化学的条件下では十分に反応性であり、そのため、アルキン部分がアジドタグを含む標識基の結合点として使用されうる。
【0023】
アジドタグ化した部分を含む標識あるいは標識基は、アジドタグ部分と標識を連結させるリンカー基をまた含みうる。一実施態様では、標識基は直接的にアジドタグ部分に結合される。他の実施態様では、リンカー基がリンカー基を介してアジド部分に結合される。典型的には、リンカー基又はリンカーは、例えばC1−12アルキレンリンカー又はC1−12ヘテロアルキレンリンカーのような標識基もアジド部分を繋ぐために使用される比較的短い非反応性のカップリング部分、例えば以下の実施例において提供されるものである。
【0024】
多くのアジドタグ標識基が商用的供給者を通じて調達できる。インビトロジェン(カールスバット, カリフォルニア)は、「クリックケミストリー試薬」として多くのアジドタグ標識を販売している。とりわけ、Click−iTTMアジド試薬は本発明での使用に適している。これらは以下を含む:AlexaFluorR488アジド−(Alexa Fluor(登録商標)488 5−カルボキサミド−(6−アジドヘキサニル)、ビス(トリエチルアンモニウム塩)),カタログ番号A10266;AlexaFluor(登録商標)594アジド−(Alexa Fluor(登録商標)594 カルボキサミド−(6−アジドヘキサニル)、トリエチルアンモニウム塩),カタログ番号A10270;AlexaFluor(登録商標)647アジド,カタログ番号A10277;アジ化ビオチン−PEG4カルボキサミド−6−アジドヘキサニルビオチン,カタログ番号B10184;Oregon Green(登録商標)488アジド−(Oregon Green(登録商標)6−カルボキサミド−(6アジドヘキサニル)、トリエチルアンモニウム塩),カタログ番号O10180;テトラメチルローダミンアジド−テトラメチルローダミン5−カルボキサミド−(6−アジドヘキサニル)),カタログ番号T10182。その他のアジドタグ標識基は当業者に知られており、既知の合成法で調製できるか又は商品的供給源から入手できる。
【0025】
脂肪酸アシル化基質に標識基を結合させるための特に有用な方法は、その教唆が出典明示によりここに援用される米国特許第7375234号に記載された通りに、Sharpless等によって開発され、アルキン及びアジドタグ基の間で、第一銅触媒によるHuisgen[3+2]環化付加反応の変法を使用するものであり、以下に概説する。Sharpless等は「クリック反応」として、Huisgen[3+2]環状付加反応のこの変法を新しく作り出した。本発明で使用されるクリック反応を以下のスキーム1に例証する:エチニル

基を含む本発明の脂肪酸アシル化基質A1と、アジドタグ標識基A2は、組み合わせられると、標識された脂肪酸アシル基質A3及びA3を生じ、通常はA3異性体が多く存在する。本出願においてアルキニル含有基質とアジドタグ部分が「[3+2]環状付加反応を受ける」と記述しているが、これは、アルキニル基とアジド基が下記のスキーム1に示した通り、環状付加反応において互いに反応し、その反応の産物がトリアゾール官能基を含んでいることを意味する。一実施態様では、[3+2]環状付加反応を触媒するために第一銅試薬が添加される。一実施態様では、基質はタンパク質又はポリペプチドである。他の実施態様では、反応はインビボ条件下で実施される。一実施態様では、アジドタグ付き標識基はアジ化ビオチンである(インビトロジェンカタログ番号B10184)。他の実施態様では、アジドタグ付き標識基は、アジ化テトラメチルローダミンである(インビトロジェンカタログ番号T10182)。別の実施態様では、アジドタグ付き標識基は、アジ化ローダミンである(Speers, A.E.及びCravatt, B.F. Profiling enzyme activities in vivo using click chemistry methods. Chem. Biol. 11, 535-546 (2004)を参照)。

【0026】
式Iの化合物で脂肪酸アシル化された基質(例えば、タンパク質又はポリペプチド)に標識基を結合させた後、脂肪酸アシル化基質産物を、その上の標識基を検出することにより検出することが可能である。基質に結合させた標識基の検出は、限定しないが、蛍光画像、ウエスタンブロット法、質量分析法、蛍光分光法を含む当業者によく知られた方法と試薬を使用して実施される。場合によっては、脂肪酸アシル化基質(スキーム1ではA3及びA3と例示)に結合される標識基は、結合ペア(例、アジ化ビオチン)の一員であり、検出に先立ち、標識された脂肪酸アシル化基質は、結合ペアの相補的一員を含む化合物と共にインキュベートされ、別の標識、例えば、とりわけ蛍光基、標識酵素(例えば、インビトロジェン(カールスバット, CA)から入手できるもののような、ストレプトアビジン結合フルオロフォア、例えばとりわけ、ストレプトアビジン結合:AlexaFluor(登録商標)488,カタログ番号S32354;テトラメチルローダミン,カタログ番号S870;フルオレシン,カタログ番号S869、ローダミンB,カタログ番号S871;AlexaFluor(登録商標)660,カタログ番号S21377)に結合され、これが検出されて、脂肪酸アシル化タンパク質が検出される。
【0027】
本発明に使用される好ましい検出方法は、蛍光放射の検出による。一実施態様では、複合体からの蛍光放射が、限定しないが、通常の光学又は蛍光顕微鏡法(落射蛍光顕微鏡法)、共焦点レーザースキャニング顕微鏡法、及びフローサイトメトリーで、場合によってはイメージ・デコンボリューションアルゴリズムを使用するものを含む、様々な蛍光イメージング法により視覚化されうる。共焦点顕微鏡法における三次元像分解能技術は、焦点のずれた光をその正しい視点に配するために、顕微鏡の点広がり関数(点光源の像)の知識を活用する。異なる標識基で標識された基質は、場合によっては、空間的に、経時的に、大きさにより、又は、検出可能に異なるスペクトルの性質(例えば励起及び発光の最大値、蛍光強度、蛍光寿命、蛍光偏光、蛍光退色率、又はそれらの組み合わせ)の使用、又はこれらの性質の組合せによって、分離されうる。
【0028】
本発明で使用される他の好ましい検出方法はウエスタンブロット法である。
【0029】
発明者は、式Iの化合物により脂肪酸アシル化されている基質をインビボ設定下で(例えば、哺乳類細胞、又は癌細胞のような動物細胞中で)検出する方法を開示し、下記に記した通り、インビボアッセイの設定下での式Iの化合物の使用を開示する。例えば、式Iの化合物は、動物細胞中における基質のタンパク質脂肪酸アシル化、例えばパルミトイル化及びミリスチル化などの常套的な生化学的検出と、放射性プローブの必要性無しに、動物細胞中の広範囲のタンパク質アシル化の蛍光イメージングのために使用するプローブとしての有用性を有する。ここに記載される式Iの化合物と方法は、脂肪酸アシル化を含む生物系における細胞性プロセスの解析と、脂肪酸アシル化された細胞性基質の精製に有用であり、かかる有用性は、例えば、(a)対象とする特定のタンパク質の脂質化状態の評価;(b)標識の導入によって微量タンパク質を濃縮し、別の方法では抗体と免疫沈降させることが困難であるタンパク質の分離を容易にする;(c)新たなアシル化タンパク質の同定;(d)N−ミリスチルトランスフェラーゼ及びパルミトイルトランスフェラーゼ阻害剤のような薬物に反応するタンパク質のような、画像化分析において、基質の脂肪酸アシル化を解析するための診断レポーターとして;(e)アシルトランスフェラーゼの候補修飾薬のスクリーニング;及び(f)抗体の部位特異的タギングを含む。
【0030】
従って、一態様において、第一の実施態様では、本発明は、脂肪酸アシル化基質を検出する方法において、
i.式Iの脂肪酸アシルを動物細胞と共にインキュベートし、

ここで、式I中、下付記号nは6から15の整数であり、記号Aはエチニル基を表し、記号Xは−OH又は−SCoAを表し、上記動物細胞は基質と該基質にIを結合させて脂肪酸アシル化基質を産生させ得る少なくとも一つの酵素を含み;
ii.工程(i)からの脂肪酸アシル化基質をアジドタグ付き標識基と組み合わせ、ここで、アジドタグは脂肪酸アシル化基質のA基と[3+2]環化付加反応を受けて、標識された脂肪酸アシル化基質を産生し;
iii.脂肪酸アシル化基質の標識基を検出し;これにより脂肪酸アシル化基質を検出する
方法を提供する。
【0031】
第二の実施態様では、本発明は脂肪酸アシル化基質を検出する方法において、
i.式Iの脂肪酸アシルを動物細胞と共にインキュベートし、

ここで、式I中、下付記号nは6から15の整数であり、記号Aはエチニル基を表し、記号Xは−OH又は−SCoAを表し、上記動物細胞は基質と該基質にIを結合させて脂肪酸アシル化基質を産生させ得る少なくとも一つの酵素を含み;
ii.工程(i)からの脂肪酸アシル化基質をアジドタグ付き標識基と組み合わせ、ここで、アジドタグは脂肪酸アシル化基質のA基と[3+2]環化付加反応を受けて、標識された脂肪酸アシル化基質を産生し;
iii.脂肪酸アシル化基質の標識基を蛍光イメージング法により動物細胞中においてインビボで検出し;これにより脂肪酸アシル化基質を検出する
方法を提供する。
【0032】
他の実施態様では、第一又は第二の実施態様の所定の態様において、本方法は哺乳類細胞において実施される。
【0033】
他の実施態様では、第一又は第二の実施態様の所定の態様において、細胞は癌細胞である。
【0034】
他の実施態様では、第一又は第二の実施態様の所定の態様において、酵素はアシルトランスフェラーゼである。所定の態様では、酵素はN−ミリストイルトランスフェラーゼ、S−アシルトランスフェラーゼ及びS−パルミトイルトランスフェラーゼからなる群から選択される。
【0035】
他の実施態様では、第一又は第二の実施態様の所定の態様において、式I中、下付記号nは7から14の整数である。所定の態様では、下付記号nは、7、8、10、11及び13からなる群から選択される整数である。所定の他の態様では、下付記号nは11又は13の整数である。
【0036】
他の実施態様では、第一又は第二の実施態様の所定の態様において、式I中、Xは−OHである。
【0037】
他の実施態様では、第一又は第二の実施態様の所定の態様において、式I中、Xは−SCoAである。
【0038】
他の実施態様では、第一又は第二の実施態様の所定の態様において、基質はタンパク質又はポリペプチドである。
【0039】
他の実施態様では、第一の実施態様の所定の態様において、標識基は、標識酵素及び蛍光標識基からなる群から選択される。所定の実施態様では、標識基はアジ化ローダミンである。所定の実施態様では、標識基はアジ化ビオチンである。
【0040】
他の実施態様では、第一又は第二の実施態様の所定の態様において、標識基は結合ペアの一員を含む。この実施態様の所定の態様では、該方法において、工程ii及びiiiの間には、工程iiから産生される標識された脂肪酸アシル化基質を上記結合ペアの相補的一員を含む検出可能な標識基で処理する工程があり、ここで上記結合ペアの上記相補的一員は工程iiから産生される上記標識された脂肪酸アシル化基質の標識基と結合する。この実施態様の所定の態様では、上記結合ペアの相補的一員は、フルオロフォアに結合したストレプトアビジンである。この実施態様の所定の態様では、上記結合ペアの相補的一員は、AlexaFluor488に結合したストレプトアビジンである。
【0041】
他の実施態様では、第一の実施態様の所定の態様において、方法の工程iiiにおいて、標識された脂肪酸アシル化基質はウエスタンブロット法、質量分析法又は蛍光イメージングで検出される。所定の態様では、標識された脂肪酸アシル化基質は蛍光イメージングにより検出される。
【0042】
他の実施態様では、第一の実施態様の所定の態様において、標識基は哺乳類細胞中、又は癌細胞中においてインビボで検出される。
【0043】
他の態様では、本発明は、タンパク質又はポリペプチドの脂肪酸アシル化の検出のための、動物細胞中でのインビボアッセイにおける式Iの脂肪酸アシル化合物の使用を提供する。

【0044】
ここで、式I中、下付記号nは6から15の整数であり、記号Aはエチレン基を表し、記号Xは−OH又は−ScoAを表し、検出はインビボ設定下で起きる。第19の実施態様の所定の態様では、アッセイは哺乳類細胞を用いて実施される。この実施態様の特定の態様では、アッセイは癌細胞を用いて実施される。この実施態様の所定の態様では、式I中、下付記号nは7から14の整数である。この実施態様の所定の態様では、下付記号nは7、8、10、11、及び13からなる群から選択される整数である。この実施態様の所定の態様では、下付記号nは11又は13から選択される整数である。
【0045】
化合物の合成
【0046】
以下のスキーム2に示されるように、式Iの化合物は、例えば、内部アルキン(B1)を持つ対応アルコールから、内部アルキンの末端アルキン(B2)への異性化を生じるジッパー反応(Brown, C.A.及びYamashita, A. Saline hydrides and superbases in organic reactions. IX. Acetylene zipper. Exceptionally facile contrathermodynamic multipositional isomeriazation of alkynes with potassium 3-aminopropylamide. J. Am. Chem. Soc. 97, 891-892 (1975)を参照)を経て合成することができる。これにジョーンズ酸化が続き、脂肪酸アシル(B3)が得られる。コエンザイムAと脂肪酸アシル(B3)を(B3)の活性化アシル誘導体(これはMishra, P.K. and Drueckhammer, D.G. Coenzyme A Analogues and Derivatives: Synthesis and Applications as mechanistic Probes of Coenzyme A Ester-utilizing Enzymes. Chem. Rev. 100(9) 3283-3310に記載された合成法によって調製することができる)を経由してカップリングさせ、コエンザイムA誘導体(B4)を得る。化合物B1、B2、B3及びB4において、下付記号m及びnは独立して0から13の整数であり、但し、各化合物内のmとnを組み合わせた値は13以下である。

【0047】
リンカーを介して結合されたアジド部分を含む標識基(例えばD3)は、スキーム3において以下に概要を示した合成法に従い調製されうる。

【0048】
例えば、リンカーは既に一末端にアジドタグを含み、アジドタグがハロゲン化物又はトリフラートあるいはカルボキシル誘導体(例えば、−CC(O)CCl)のような適切な離脱基である「U」官能基を含む標識基(例えば、D2)への結合を容易にするために更に少なくとも一つの官能基(例えば、化合物(D1)中にTと表記されたアミノ基又はヒドロキシル基のような求核基)を含む。そのような反応は、典型的には、ジメチルホルムアミドのような非プロトン性溶媒中にて、例えば、トリエチルアミンのような弱塩基の存在下で実施することができる。スキーム3において、標識は、例えば、とりわけローダミン、ビオチンなどのような一次又は二次標識でありうる。
【0049】
別法では、リンカー基は、例えば、官能基化された標識基を官能基化されたアジドタグに結合させるために使用される、少なくとも2つの官能基を持ちうる。該リンカーはまたポリマーでありうる。所定の場合、アジドタグ付き標識基はリンカーを含まない。この場合、標識基は直接アジドタグに結合している。標識基及びアジドタグは、結合の様式が標識基の機能的目的を有意には変えない限り、上に列挙されたものを含む様々な方法で結合されうる。
【0050】
上に一般に概要を述べた通り、アジドタグが結合されるリンカー基は、これを官能化して、標識基への共有結合を容易にすることができる:他の適切な官能基は、限定するものではないが、イソシアネート基、アミノ基、ハロアセチル基、マレイミド、サクシニミジルエステル、及びスルホニルハライドを含み、これらの全てがアジドタグを標識基に共有結合させるために使用されうる。当業者であれば、アジドタグ付きリンカー基が、マレイミドのような求電子基であるT基で官能化される例では、標識基は、適切な反応性の求核基であるU基で官能化されなければならないことを理解するものと期待される。例えば、インビトロジェン(カールズバット、カリフォルニア)は、リンカーの一末端に結合したアジド基を持ち、更にPEGリンカーの他の末端にサクシニミジルエステル官能基を持つPEGリンカーを販売している(「アジドポリエチレングリコール(PEG4),サクシニミジルエステル」,カタログ番号A10280。この化合物は、結合のためのアミノ官能基を含む標識基に結合されうる。より一般的には、リンカー上の官能基の選択は、上に概説されたリンカー又は標識基の何れかへの結合部位に依存する。
【0051】
次の実施例は単に本発明を例証する目的で提供され、特許請求の範囲に記載の発明の範囲を限定するものと決して解してはいけない。
【実施例】
【0052】
実施例1
化学式Iの脂肪酸アシルの細胞タンパク質への代謝的組み込み。
【0053】
式Iの合成脂肪酸アシルが細胞タンパク質へ代謝的に組み込まれたことを証明するために、C10(1)、C11(2)、C13(3)、C14(4)、C16(5)、及び、C18(6)炭素原子を含む(図1Bを参照)ω−アルキニル脂肪酸アシルを外因的に培養MDCK細胞に添加し、24時間インキュベートした。細胞プロテオームの調製の際に、アシル化タンパク質に組み込まれたアルキニル基を、第一銅触媒Huisgenアルキン−アジ化環状付加反応によって、化学選択的にアジドタグ付きビオチン(合成は実施例2を参照)、又はフルオロフォアに結合させた(Wang, Q.等 J. Am. Chem. Soc. 125, 3192 - 3193 (2003)を参照)(図1C)。コンジュゲートしたタンパク質をゲル電気泳動によって分離し、ストレプトアビジン結合西洋わさびペルオキシダーセを使用してウェスタンブロットにより分析した(図2A)。様々なタンパク質が炭素鎖の長さに依存して標識され、C13、C14、及びC16がタンパク質への最高の組み込み度合いを示した。このことは、細胞中における大部分のタンパク質の脂質修飾がミリストイル化とパルミトイル化を含むことを考えれれば合理的なことであった。更に、ω−アルキニル脂肪酸アシルは、RAW2647マクロファージやマウスL細胞など他の細胞株に効率的に取りこまれ、代謝的に組み込まれたことから(図3)、これらのプローブの多用途性が証明された。
【0054】
代謝的組み込みの特異性を証明するために、MDCK細胞由来のアルキン標識化タンパク質を、タンパク質にアミド結合でなくチオエステル結合を介して結合した脂肪酸アシルを選択的に除くヒドロキシルアミンで処理した(図2B)。(Drisdel, R.C.及びGreen, W.N. Labeling and quantifying sites of protein palmitoylation. Biotechniques 36, 276-285 (2004)を参照)。16個の炭素原子を有するω−アルキニル脂肪酸アシルは、ヒドロキシルアミンに実質的な感受性を示し、よって大部分がチオエステル結合を介して結合する。これに対して、C13及びC14炭素脂肪酸アシル鎖は、ヒドロキシルアミン処理に対するその抵抗性から推測されるように、アミド結合を介して大部分が組み込まれた。これらの実験は、C14及びC16アルキニル脂肪酸アシルが、タンパク質ミリストイル化やパルミトイル化に対して、それぞれプローブとして有用であることを実証している。実験では、また、C10、C11及びC18は大部分がチオエステル結合を介して結合し(図2B)、よってS−アシル化のプローブとしても役立つことを示している。
【0055】
ω−アルキニル脂肪酸アシルは、時間及び用量依存的に細胞タンパク質に代謝的に組み込まれた。MDCK細胞をC14、C16又はC18脂肪酸アシル(100uM)で処理すると、6時間以内に標識タンパク質バンドのレベルが時間依存的に増加することを示している(図4参照)。同様の方法で、C14、C16又はC18脂肪酸アシルの濃度を上げていく処理を行うと、4時間で投与量依存的に代謝的に組み込まれることが示され(図5参照)、ω−アルキニル脂肪酸アシルによる標識が、活性な細胞代謝に依存することを示している。タンパク質のN−ミリストイル化は同時翻訳現象ゆえ、本発明者は、タンパク質合成阻害薬であるシクロヘキシミドで処理すると、C14によるタンパク質標識化を阻害することを示した(図6Aを参照)。更に、ミリスチン酸及びパルミチン酸との競合実験では、ω−アルキニルC14及びC16脂肪酸アシルが、ぞれぞれ細胞におけるタンパク質N−ミリストイル化及びS−パルミトイル化のための特異的なプローブとなることを示している(図6B、図6C)。総合すると、これらの結果は、ω−アルキニル脂肪酸アシルが培養細胞によって十分に取り込まれ、良好に許容されると思われ、生合成機構に容易に認識され、効率的に細胞性タンパク質に組み込まれることを説明している。
【0056】
標識された脂肪酸アシル化タンパク質の蛍光イメージングによる検出
脂肪酸アシル化タンパク質をインビボで検出するためのω−アルキニル脂肪酸アシルの広範な有用性を実証するために、我々は細胞の脂肪酸アシル化タンパク質を視覚化する蛍光顕微鏡検査法を実施した。PC3前立腺癌細胞をビヒクル(図2C)又は様々なω−アルキニル脂肪酸アナログで処理し、固定化し、アジ化ローダミン又はアジ化ビオチンによるクリック反応のために処理した後、ストレプトアビジン結合Alexa488で処理した。DMSO処理されたPC3細胞中の試料(図2C)の最小シグナルに比して、ω−アルキニル脂肪酸アシルで処理した試料(図2D、図2E、図2F)では、高い蛍光シグナルが観測された。シグナルとバックグランドの比率は、アジ化ビオチンに比し、ローダミンアジドで処理した試料の方がより高いことが観察され、これはバックグランドの要因となる内因性ビオチン化タンパク質によるものである。蛍光イメージングは様々なω−アルキニル脂肪酸アシルに関して、異なる細胞内分布を表した(図2C、図2D、図2E、図2Fの記述を参照)。ω−アルキニル脂肪酸アシルで処理した試料の方が、PC3細胞(図2(C−F)図7(A−F)、マウス線維芽細胞L−細胞(図8(A−G)又はRAW2647マクロファージ(図9(A−G))のDMSO処理した試料中の最小シグナルに比して高い蛍光シグナルが観察された。シグナルとバックグランドの比率はアジ化ビオチンに比し、アジ化ローダミンで処理した試料において一般的により高く、これは、バックグランドの要因となる内因性ビオチン化タンパク質によるものである。蛍光像は、様々なω−アルキニル脂肪酸の異なる細胞内分布を明瞭に示している。興味深いことに、共焦点顕微鏡像(図2G、図2H、図2I)はC14、C16及びC18脂肪酸アシルプローブが、パンクチャーなパターンで核の外部に分布し、細胞質の小胞構造中に局在し細胞膜と膜ラッフルを標識している。細胞分化を受けていて、チューブリンマーカーに加えC16ω−アルキニル脂肪酸アシルで標識されたPC3細胞が、イメージングによって観察された(図2J、図2K、図2L)。中期の細胞は細胞膜でC16標識タンパク質の特徴的な分布を示し、紡錘体の周りと細胞全体において高密度の構造をとっている(図2K)。興味深いことに、細胞質分裂において、C16標識タンパク質は、細胞分裂位置である分裂溝(矢印参照)に集中している(図2L)。
【0057】
実施例2
化合物の合成
一般的な方法:
NMRスペクトルを内部基準(CHClに対して7.26ppm及び77.26ppmにおいてCDClトリプレット)としてH又は13Cの溶媒ピークを利用してバリアン400分光計で記録した。エレクトロスプレイイオン化(ESI)質量分析スペクトル(MS)をAgilent API100 Perkin−Elmer SCIEX単四極子質量分析計を使い、4000Vエミッターボルトにて、正あるいは負のイオンモードにて得た。分析的薄層クロマトグラフィーを0.25mmのE.メルクシリカゲルプレート(60F−254)で行い、KMnO溶液に浸すことにより可視化し、加熱した。E.メルクシリカゲル60(粒径0.040−0.063mm)をカラムクロマトグラフィーに使用した。全ての化学薬品はシグマ・アルドリッチから購入し、受け入れた状態のまま使用した。使用した溶媒は入手可能な最高の商用グレードである。反応は、特に示さない限り、不活性ガス(N)下、無水状態で無水溶媒を用いて実施した。使用した略号は以下の通りである:s(一重項),d(二重項),t(三重項),m(多重項)。所定のω−アルキニル脂肪酸アシルは次の通り商業的に調達した:化合物1,2,6(シグマ−アルドリッチ)及び3(Otava Ltd.,ON)(図1bを参照)。
【0058】
式Iの化合物の代表的実施例の合成:15−ヘキサデシン−1−カルボン酸(5)。

NaH(鉱油中60%,720mg,17mmol,N下でヘキサンで2回洗浄)にジアミノプロパン(DAP)(15ml)を添加した。混合物を油浴で70℃の一定温度で攪拌した。ガスの発生が10分後に観察され、1時間後に溶液は茶色に変化した。フラスコを室温まで冷却し、DAP(4ml)に溶解した7−ヘキサデシン−1−オール(512mg,2.15mmol)の溶液を添加した。混合物を55℃で一晩攪拌し、その間に黒色に変化した。フラスコを室温まで冷却し、注意深く氷冷水で加水分解し、水性10%塩酸で酸性にし、ヘキサンで3回(3×100ml)抽出した。混合した水性層をもう一度ヘキサンで抽出し、混合した油性層を飽和重炭酸ナトリウム水溶液とかん水で洗い、NaSOで乾燥させ、真空下で蒸発させた。粗製の黄褐色の生成物(〜0.5g)が下記に記した通り直接酸に転化された。
【0059】
20mlのアセトンに溶けた15−ヘキサデシ−1−オール(150mg,0.63mmol)の溶液に特徴的な深い橙赤色が持続するまでジョーンズ試薬溶液を液滴しながら添加した。5分間攪拌後、過剰な試薬を中性化するために2−プロパノールを色が薄緑色になるまで添加した。クロム塩を濾過し、アセトンを蒸発させ、残渣を酢酸エチルに溶かし、0.01NのHClで4回洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させ、蒸発させた。粗生成物にクロマトグラフィーを施し(CHCl,続いてヘキサン/酢酸エタノール(4:1))、−18℃でヘキサン中にて再結晶させ、白い固体(5)(140mg,88%)を得た。H NMR(400MHz,CDCl3)δ2.35(t,J=7.5,2H),2.18(dt,J=2.6,7.1,2H),1.94(t,J=2.6,1H),1.69−1.57(m,2H),1.57−1.46(m,2H),1.26(s,18H)。13C NMR(101MHz,CDCl3)δ180.15,85.05,68.24,34.23,29.79,29.71,29.64,29.45,29.32,29.27,28.98,28.71,24.89,18.61。MS(ESI+):m/z253.4(M+H)
【0060】
13−テトラデシン−1−カルボン酸(4)の合成。

化合物5を調製するために、上記の合成手順に従い、出発物質として3−テトラデシン−1−オールを用いる修正を加えて、化合物4を調製した:H NMR(400MHz,CDCl3)δ2.35(t,J=7.5,2H),2.18(dt,J=2.6,7.1,2H),1.94(t,J=2.6,1H),1.69−1.57(m,2H),1.57−1.46(m,2H),1.27(s,14H)。13C NMR(101MHz,CDCl3)δ180.39,85.02,68.26,34.27,29.71,29.67,29.60,29.44,29.30,29.25,28.96,28.69,24.87,18.61。MS(ESI−):m/z223.4(M−H)
【0061】
ビオチンアジド標識基の合成:N−(3−アジドプロピル)−5−((3aS,4S,6aR)−2−オキソヘキサヒドロ−1H−チエノ[3,4−d]イミダゾル−4−イル)ペンタンアミド(8)、

3−アジド−プロピルアミン(7)の合成: 3−ブロモプロピルアミンヒドロブロミド(9.76g,44.6mmol)とアジ化ナトリウム(6.19g,95.3mmol)を水に溶解させた(80ml)。得られた溶液を一晩80℃で加熱した。室温に冷却後、約50mlの水を真空下で穏やかに加熱(〜50℃)しながら蒸発させ、残りの混合物を室温で3時間5%NaOH(20ml)で攪拌し、その後、トルエン(2×25ml)で抽出した。更に5%NaOHを40ml、水相に添加し、更にトルエンによる抽出を行った(4×25ml)。混合した有機抽出物をNaSOで乾燥させ、濾過し、真空下で蒸発させて(〜40℃)、47gの溶液を得た。残留溶液には3.2mol%の3−アジド−プロピルアミンNMRインテグレーションが含まれていることが分かり、これは所望の生成物(34%収率)の3.2重量%(1.5g)に相当する。該黄色の生成物を、更に精製することなく使用した:H NMR(400MHz,CDCl3)δ3.38(t,J=6.7,2H),2.81(t,J=6.8,2H),1.73(p,J=6.8,2H),1.52(s,2H)。
【0062】
アジ化ビオチン(8)の合成: DMF(10ml)中のd−(+)−ビオチン(200mg,0.82mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(212mg,1.64mmol),HATU(622mg,1.64mmol)の溶液に7(164mg,1.64mmol)を添加し、反応物を室温で一晩攪拌した。反応混合物を真空下で濃縮させ、残渣を逆相クロマトグラフィーで精製して、白色固体として8(88mg,33%収率)を得た:H NMR(400MHz,DMSO)δ7.80(t,J=5.4,1H),6.39(s,1H),6.33(s,1H),4.36−4.22(m,1H),4.17−4.07(m,1H),3.34(t,J=6.8,2H),3.17−2.99(m,3H),2.82(dd,J=12.4,5.1,1H),2.58(d,J=12.4,1H),2.06(t,J=7.4,2H),1.73−1.56(m,3H),1.56−1.39(m,3H),1.33(m,2H)。13C NMR(101MHz,DMSO)δ172.01,162.64,61.00,59.16,55.35,48.41,35.71,35.15,28.43,28.15,25.20。MS(ESI+):m/z327.1(M+H)
【0063】
実施例3
生化学的方法
細胞培養: Raw264.7マクロファージ(ATCC#CCL−2278)を10%ウシ胎児血清(FBS)及びグルタマックス(2mM)を補填した高グルコースダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で増殖させた。MDCK(イヌ腎臓上皮細胞、ATCC#CCL−34)を、10%FBS(ATCC#30−2003)を補填したDMEM培地で増殖させた。PC−3細胞(ATCC#CRL−1435)を、10%FBS(ATCC#30−2003)を補填したF−12K培地(ATCC#30−2004)で増殖させた。マウスL−細胞(ATCC#CRL−2648)を、10%FBS(ATCC#30−2003)を補填したDMEM培地で培養した。全ての細胞は実験の前に37℃で24時間、5%COの加湿インキュベーターでインキュベートした。
【0064】
細胞抽出物中のリポタンパク質の標識と検出: 実施例で使用されるω−アルキニル脂肪酸アシル化合物をDMSOに溶解し、50mMのストック溶液を作り、−80℃で保管した。細胞を処理する前に、アナログを、5%BSA(脂肪酸非含有−シグマEC232−936−2)とグルタマックス(Raw及びMDCK細胞株用)を最終濃度100μMとなるように補填したDMEM無血清培地に溶解させた。脂肪酸培地溶液を室温で15分間超音波処理し、その後室温で15分間事前に複合体を形成させるようにした。
【0065】
細胞を6穴プレート上の完全培地に播種した(8×10細胞/2ml/ウエル)。それらを処理前に24時間インキュベートした。次に、増殖培地を除去し、細胞を一回PBSで洗い、2mLのω−アルキニル脂肪酸アシル含有培地を細胞に添加し、5%COの加湿インキュベーターで37℃でインキュベートした。24時間後に、細胞を、冷却したPBSで3回洗浄し、細胞抽出物を、細胞を400μLの溶解バッファー(1%のノニデットP−40/150mMのNaCl/プロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤/100mMのリン酸ナトリウム,pH7.5)中に再懸濁させて調製した。最終プロテオーム濃度2mg/ml(BCAキットで決定したタンパク質濃度)を得るために、細胞可溶化物を遠心限外濾過器(Pall遠心分離装置MWCO 3K,ナノセップ・デバイス,カタログ#P/N ODOO3C34)により、14000rpmで4℃で15分間、遠心分離により濃縮した。次に、タンパク質抽出物を25μL容量にて1時間室温で、次の試薬の最終濃度にて、プローブ標識化反応に供した(Speers, A.E.及びCravatt, B.F. Profiling enzyme activities in vivo using click chemistry methods. Chem Biol 11, 535-46 (2004);Hsu, T.L.等 Alkynyl sugar analogs for the labeling and visualization of glycoconjugates in cells. Proc Natl Acad Sci U S A 104, 2614-9 (2007)を参照):0.1mMのアジ化ビオチン、水に溶解した1mMのトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP,シグマ・アルドリッチ)、DMSO/t−ブタノール(20%/80%)に溶解した0.2mMのトリス[(1−ベンジル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル)メチル]アミン(TBTA,シグマ・アルドリッチ)及びPBSに溶解した1mMのCuSO。試薬をタンパク質抽出物に添加する順序は反応に重要であり、上に記載の通りに従わねばならない。
【0066】
ウエスタンブロット法: 標識化タンパク質の可溶化液を4−20%のトリス−グリシンゲルを使用してSDSページ(180Vにて1時間10分)により分離した。電気泳動後のビオチン標識化タンパク質のイムノブロット法では、タンパク質をニトロセルロース膜上に移し、これをPBS、0.1%ツイーン−20[PBST]及び5%非脂肪性粉ミルクで室温にて2時間、又は4℃で一晩ブロックした。膜をPBSTで3回(それぞれ5分間)洗浄し、ストレプトアビジン−西洋わさびペルオキシダーゼ(インビトロジェン Zymed#43−4323,PBST中1:1250)と共に、室温で1時間インキュベートした。膜をPBSTで3回(それぞれ10分間)洗浄し、製造者(アマシャム・バイオサイエンス)の推奨に従い、増強化学ルミネッセンスを用いて展開した。ヒドロキシルアミン感受性アッセイでは、タンパク質をニトロセルロース膜へ移した後、膜をPBST及び5%NHOH(シグマ・アルドリッチ)と共に65〜72時間、室温でインキュベートした。ヒドロキシルアミンでの処理の後、膜を5%の非脂肪性粉ミルクで室温にて2時間又は4℃で一晩ブロックし、上述した通りにストレプトアビジンブロットで分析した。タンパク質負荷の同等水準を証明するために、ストレプトアビジンブロットをピアス剥離バッファーに15分間室温で浸して取り除き、抗β−チューブリンHRP抗体により再探索し、増強化学ルミネッセンスを用いて展開した。
【0067】
蛍光顕微鏡法: 細胞をカバーグラス付き12穴プレート(4×10細胞/ウエル)に播種し、処理前に24時間インキュベートした。増殖培地を除き、PBSで1回細胞を洗い、示された濃度のω−アルキニル脂肪酸を含む培地を1mL添加した。24−48時間、37℃/5%COにてインキュベートした後、細胞を3回PBSで洗い、過剰のプローブ(ω−アルキニル脂肪酸)を除去し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で室温で10分間固定した。ついで、細胞をPBS/0.1%トリトンX−100で室温にて1〜2分透過処理し、次の試薬を用いて広範囲に洗浄した:0.1mMアジ化ビオチン又はアジ化ローダミン、水に溶解した1mMのトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)、及びPBSに溶解した1mMのCuSO4で室温にて1時間洗浄した。標識した細胞をPBSで広範囲にすすぎ、PBS/5%BSA中で室温で45分間ブロックした。細胞を、PBS/5%BSA中のストレプトアビジン結合AlexaFluor488(インビトロジェン カタログ#S32354,1:500)により、室温で45分間染色し、核をヘキスト33342(MP#H21492;PBS中に1:10000)で、室温で10分間染色した。アジ化ローダミンでの標識化では、細胞をヘキストで直接染色した。チューブリン染色では、細胞を、事前に冷却したメタノールにて−20℃で5〜10分間固定し、上述したクリック反応のために処理し、ついで抗チューブリン抗体及び適切な二次Alexa488コンジュゲート抗体によって染色した。蛍光画像をクールスナップCCDカメラ(ローパー・サイエンティフィック)を備えたツァイスAX10倒立顕微鏡にて撮影し、画像をスライドブック4.1ソフトウエア(インテリジェント・イメージング・イノベーション)により解析した。zセクションは0.3mm間隔で得た。一画像あたり平均で50−70のzセクションを得た。
【図1A−1B】

【図1C】

【図2A−2B】

【図2C−2F】

【図2G−2I】

【図2J−2L】

【図3A−3B】

【図4A−4C】

【図5A−5C】

【図6A−6C】

【図7A−7F】

【図8A−8G】

【図9A−9G】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸アシル化基質を検出する方法において、
i.式Iの脂肪酸アシルを動物細胞と共にインキュベートし、

ここで、式I中、下付記号nは6から15の整数であり、記号Aはエチニル基を表し、記号Xは−OH又は−SCoAを表し、上記動物細胞は基質と該基質にIを結合させて脂肪酸アシル化基質を産生させ得る少なくとも一の酵素を含み;
ii.工程(i)からの脂肪酸アシル化基質をアジドタグ付き標識基と組み合わせ、ここで、アジドタグは脂肪酸アシル化基質のA基と[3+2]環化付加反応を受けて、標識された脂肪酸アシル化基質を産生し;
iii.脂肪酸アシル化基質の標識基を蛍光イメージング法によりインビボで動物細胞中にて検出し;これにより脂肪酸アシル化基質を検出することを含む方法。
【請求項2】
上記方法が哺乳類細胞を使用して実施される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記細胞が癌細胞を使用して実施される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記酵素がアシルトランスフェラーゼである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記酵素がN−ミリストイルトランスフェラーゼ、S−アシルトランスフェラーゼ及びS−パルミトイルトランスフェラーゼからなる群から選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
式Iにおいて、下付記号nが7から14の整数である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
式Iにおいて、下付記号nが7、8、10、11及び13からなる群から選択される整数である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
式Iにおいて、下付記号nが11から13の整数である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
Xが−OHである請求項1に記載の方法。
【請求項10】
Xが−SCoAである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記基質がタンパク質又はポリペプチドである請求項1に記載の方法。
【請求項12】
上記標識基が標識酵素と蛍光標識基からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項13】
上記標識基がローダミンアジドである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記標識基が結合ペアの一員を含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】
工程(ii)と(iii)の間に、工程(ii)で産生された標識脂肪酸アシル化基質を、上記結合ペアの相補員を含む検出可能な標識基で処理する工程があり、ここで上記結合ペアの上記相補員は、工程(ii)で産生された上記標識脂肪酸アシル化基質の標識基に結合する請求項14に記載の方法。
【請求項16】
上記標識基質がアジ化ビオチンである請求項14に記載の方法。
【請求項17】
上記結合ペアの上記相補員が、フルオロフォアに結合したストレプトアビジンである請求項15に記載の方法。
【請求項18】
上記結合ペアの上記相補員が、AlexaFluor488に結合したストレプトアビジンである請求項17に記載の方法。
【請求項19】
式Iの脂肪酸アシル化合物のタンパク質又はポリペプチドの脂肪酸アシル化の検出のための動物細胞におけるインビボアッセイにおける使用であって、

ここで、式I中、下付記号nは6から15の整数であり、記号Aはエチニル基を表し、記号Xは−OH又は−SCoAを表し、検出がインビボ条件下で起きる使用。
【請求項20】
nが11又は13の整数である請求項19に記載の使用。

【公表番号】特表2012−517810(P2012−517810A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550270(P2011−550270)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/024092
【国際公開番号】WO2010/093916
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】