説明

脂肪酸エステルの製造方法

【構成】
油脂類とアルコール類とのエステル交換反応による脂肪酸エステルの製造方法であって、触媒としてアニオン交換体を用い、且つ、油脂類とアルコール類のモル比が1/30〜1/1であることを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法。
【効果】
油脂類を高濃度で使用するので、イオン交換樹脂の単位重合当たり、及び、時間当たりの脂肪酸エステルの生成量が大きい。即ち、脂肪酸エステルの生産性が大きい。得られた脂肪酸エステルをバイオディーゼル燃料に利用することにより環境負荷の軽減に寄与できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂肪酸エステルの製造方法に関する。更に詳しくは、油脂類を原料として、陰イオン交換体を使用してエステル交換法により脂肪酸エステルを製造する方法に関する
【背景技術】
【0002】
油脂類とアルコールとのエステル交換反応によって合成される脂肪酸エステルは、バイオディーゼル燃料として注目されている。バイオディーゼル燃料は、従来の石油系ディーゼル燃料(経由)に比べて、
(1)燃焼した際の排ガスが75%程度クリーンになる。
(2)一酸化炭素や炭化水素、粒子状物質等の排出量が10〜20%減少する。
(3)排出ガス中に硫黄酸化物や硫酸塩を含まない。
(4)潤滑性能が高いなど多くの特性を有している。
【0003】
この燃料は、どんなディーゼルエンジンにも改造する必要がなくそのまま使用することができる利点がある。また、環境汚染の一因となる廃食用油を原料として用いることもできるため、環境負荷を二重に減らすことができるバイオマス原料である。アメリカやヨーロッパでは、既に、石油系ディーゼル燃料に1〜20%程度バイオディーゼル燃料を混合したものを使用しはじめており、それだけでも、高潤滑性のためにエンジンに与える負荷が軽減し、かつ、環境や健康に与える負荷も軽減していることが報告されている。このようにあらゆる点で石油系ディーゼル燃料よりも優れたバイオディーゼル燃料を積極的に利用しようとする動きは、近年徐々に活発化しているが、石油系ディーゼル燃料の2,3倍という高コストであることが大きな問題となっている。これは、現在のバイオディーゼル燃料製造プロセスでは水酸化カリウムなどの均相アルカリ触媒が用いられているため、製品化の際にこれらの触媒を分離除去するためのコストが付加されることが原因であり、分離プロセスの不要な活性の高い不均相固体触媒の探索が急務となっている。
【0004】
バイオディーゼル燃料の製造を直接の目的とした不均相固体触媒として、CaTiO3、CaMnO3のようなペロブスカイト型構造を有する複合酸化物を用いる方法(特許文献1参照)、アルコールを超臨界状態もしくは亜臨界状態にして、アルカリ土類金属酸化物、水酸化物もしくは炭酸塩を用いる方法(特許文献2参照)、生石灰もしくは苦土石灰を用いる方法(特許文献3参照)、水酸化カルシウムもしくは酸化カルシウムを用いる方法(特許文献4参照)などが知られている。しかしながら、これらの方法では、高温度が必要である、触媒の再生が困難である、触媒が高価である、或いは反応速度が充分ではない等の問題があった。
【0005】
一方、バイオディーゼル燃料の製造とは離れて、古くから、トリグリセリドとアルコールから脂肪酸エステルを製造する方法が知られている。例えば、トリグリセリドにアルコール類および必要に応じて溶剤を加え、塩基性イオン交換樹脂(アニオン交換樹脂)と接触させる方法(特許文献5参照)が挙げられる。しかしながら、この方法においては、基質となるトリグリセリドはアルコールに対して希薄であることが好ましいとされていた。これは、1)エステル交換反応の平衡を生成物側にずらし、平衡反応率を上げる、2)充填層型反応器中で樹脂の膨潤による破損を回避する、3)アルコールのモル比を下げることによって起こる不溶のトリグリセリドによる相分離を防止する等の観点によるものと思われる。結果として、イオン交換樹脂との接触に際して多量のアルコールが使用され、目的とする脂肪酸エステルを高濃度で取得することができず、また、イオン交換樹脂当たりの脂肪酸エステルの生成量が充分ではないという問題があった。
【0006】
また、トリグリセライドとアルコールとを、複合金属化合物、金属硫酸塩、ヘテロポリ酸、合成ゼオライト、イオン交換樹脂等の固体酸触媒の存在下で反応させる方法(特許文献6参照)が知られている。しかしながら、特許文献6の方法は、油脂中の遊離脂肪酸を前処理することなく、脂肪酸石鹸の副生が少ないという利点はあるが、反応速度が小さく実用的ではない。また、ここでいうイオン交換樹脂は固体酸触媒の作用をするものであるので、利用できる樹脂は当然にカチオン交換樹脂に限られていた。
【0007】
【特許文献1】特開2002−294277号公報
【特許文献2】特開2002−308825号公報
【特許文献3】特開2004−35873号公報
【特許文献4】特開2001−271090号公報
【特許文献5】特開昭62−218495号公報
【特許文献6】特開平6−313188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、均相アルカリ触媒の欠点である触媒分離の工程をカットできるイオン交換樹脂を用いるエステル交換反応において、温和な条件下、大きな反応速度をもって効率的に脂肪酸エステルを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は、油脂類とアルコール類とのエステル交換反応による脂肪酸エステルの製造方法であって、触媒としてアニオン交換体を用い、且つ、油脂類とアルコール類のモル比が1/30〜1/1であることを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法に存する。
【0010】
また、本発明の他の要旨は、油脂類が天然油脂、合成油脂、合成トリグリセリド、モノグリセリド及び/又はジグリセリドを含む合成トリグリセリド、これらの変性物、又はこれらを含む廃品油脂類である前記の脂肪酸エステルの製造方法に存する。
【0011】
更に、本発明の他の要旨は、アルコール類が炭素数1〜5の低級アルコールである前記の脂肪酸エステルの製造方法に存する。
【0012】
更に、本発明の他の要旨は、アニオン交換体が強塩基性多孔質アニオン交換樹脂である前記の脂肪酸エステルの製造方法に存する。
【0013】
更に、本発明の他の要旨は、エクスパンデットベッドカラム型反応器を使用してエステル交換反応を行うことを特徴とする前記の脂肪酸エステルの製造方法に存する。
【発明の効果】
【0014】
(1)均相アルカリ触媒の欠点である触媒分離の工程をカットできる。
(2)使用するイオン交換樹脂当たりの脂肪酸エステルの生成量が大きい。
(3)時間当たりの脂肪酸エステルの生成量が大きい。
(4)油脂類を高濃度で使用するので生産性が大きい。
(5)イオン交換樹脂は複合金属酸化物よりも一般に安価であり、触媒活性も安定している。
(6)イオン交換樹脂は性能が劣化した場合でも、交換基の再生が容易である。
(7)エクスパンデットベッドカラム型反応器を使用する場合は、特に膨潤による樹脂の破損を回避することができる。
(8)脂肪酸エステルをバイオディーゼル燃料に利用することにより環境負荷の軽減に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[1]アニオン交換体
アニオン交換体としては、アニオン交換樹脂、アニオン交換膜等が挙げられるが、アニオン交換樹脂が好ましい。アニオン交換樹脂は、強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂などが挙げられるが、強塩基性アニオン交換樹脂が好ましい。アニオン交換樹脂を架橋度又は多孔度から分類した場合、ゲル型、ポーラス型、ハイポーラス型等が挙げられるが、ポーラス型、ハイポーラス型が好ましい。
【0016】
市販品としては、例えば、ダイヤイオンPA−306(三菱化学社製)、ダイヤイオンPA−306S(同)、ダイヤイオンPA−308(同)、ダイヤイオンHPA−25(同)ダウエックス1−X2(ダウケミカル社製)、アンバーライトIRA−45(オルガノ社製)、アンバーライトIRA−94(同)等を用いることができる。
【0017】
アニオン交換樹脂の市販品は、購入時点ではCl型となっているためOH基に置換してから本発明に使用される。例えば、置換剤には0.5〜2モル/dm3のNaOH水溶液が用いられ、置換剤の通液速度は、アニオン交換樹脂1ml当たり、2〜10ml−NaOH/分程度が好ましい。通液量はアニオン交換樹脂1ml当たり5〜20ml使用される。置換終了後、カラムから樹脂を取り出し、置換剤が残留しないように蒸留水で充分洗浄する。樹脂の洗浄液のpHを測定し、蒸留水と同じpHになったことを確認し、最後に所定のアルコールで洗浄して本発明に使用する。
【0018】
アニオン交換樹脂の使用量は、撹拌槽型反応器の場合は、油脂類1モル当たり、通常100〜1000g、好ましくは200〜800gの範囲から選択される。使用後は繰り返し同じ反応に利用できるが、適宜、樹脂を再生することが好ましい。イオン交換樹脂を充填層として使用する場合は、樹脂1リットル当たりの油脂類の通液量は、通常10〜100mL、好ましくは15〜60mL程度が使用され、その後は公知の方法に従い、再生処理する。例えば、酸の水溶液で処理し、水洗、アルコール洗浄などを行う。酸水溶液での洗浄は、エステル交換反応と平衡して起こる加水分解反応によって生成した遊離脂肪酸を樹脂から脱着させるために必要である。このような酸として、蟻酸、酢酸、クエン酸などの有機酸を使用することができる。
【0019】
[2]反応基質
[2−1]油脂類:
本発明で使用される油脂類は特に限定されるものではなく、天然油脂でも合成油脂でも、これらの混合物でもよい。例えば、大豆油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、トウモロコシ油、ラッカセイ油、ヒマワリ油、オリーブ油、サフラワー油、ココナッツ油、カシ油、アーモンド油、クログルミ油、アンズの仁油、ココアバター油、大風子油、紅花油、シナ脂、アマニ油、綿実油、ナタネ油、キリ油、ヒマシ油、綿実ステアリン、ゴマ油等の植物系油脂、ラード油、ニワトリ油、バター油、タラ肝油、鹿脂、イルカ脂、イワシ油、サバ油、馬脂、豚脂、骨油、羊脂、牛脚油、ネズミイルカ油、サメ油、マッコウクジラ油、鯨油、牛脂、牛骨脂などの動物系油脂、レストラン、食品工場、一般家庭などから廃棄される植物油等を例示できる。これらの油脂を単独あるいは混合した油脂、ジグリセリドやモノグリセリドを含む油脂、合成されたトリグリセリド、モノグリセリド及び/又はジグリセリドを含む合成トリグリセリド、これらの油脂類の一部を酸化、還元等の処理をして変性した変性油脂でもよい。または、これらの油脂を主成分とする油脂加工品も原料とすることができる。
【0020】
油脂中には、油脂以外の成分が混入していてもよい。具体的には、原油、重油、軽油、鉱物油、精油、石炭、脂肪酸、糖類、金属粉、金属塩、タンパク質、アミノ酸、炭化水素、コレステロール、フレーバー、色素化合物、酵素、香料、アルコール、繊維、樹脂、ゴム、塗料、セメント、洗剤、芳香物化合物、脂肪族化合物、すす、ガラス、土砂、含窒素化合物、含硫黄化合物、含リン化合物、含ハロゲン化合物などがあげられるが、これには限定されない。これらの異物成分は、好ましくは沈降、濾過、分液などにより除去したのち本発明に適用する。
【0021】
[2−2]アルコール類:
本発明に使用するアルコール類は特に限定されず、炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜5の、飽和の直鎖または分岐鎖の炭化水素骨格を有するアルコール類が挙げられる。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t-ブチルアルコールなどを挙げることができる。これらのアルコールは単独あるいは2種以上混合して使用することができる。本発明においては、入手の容易性及び得られた脂肪酸エステルの利用性の観点から、メタノール及び/又はエタノールを使用するのが好ましい。本発明においてアルコール類は、油脂類を加アルコール分解(エステル交換反応)する反応基質として作用するほか、油脂類の希釈や粘度を調節するための溶媒作用も併せ有するものである。
【0022】
[2−3]油脂類とアルコール類のモル比:
本発明で最も重要な要件の一つは、反応基質として使用する油脂類とアルコール類のモル比にある。油脂類とアルコール類のモル比は、1/30〜1/1であることが必須の要件であり、好ましくは1/20〜1/2、更に好ましくは1/15〜1/3、特に好ましくは1/10〜1/3の範囲である。これを油脂類のモル濃度で表示すると、3.2〜50モル%、好ましくは4.8〜33モル%、更に好ましくは6.2〜25モル%、特に好ましくは9〜25モル%の範囲となる。油脂類の量が多すぎると相対的にアルコール量が少なくなり、結果的に反応物の容量が著しく少なくなるなど、良好に反応を行うことができない。一方、油脂類が少な過ぎても平衡反応が加アルコール分解側に進まず、また、アルコール類に溶解しない油脂類単独の相が生成し、二層系となる場合があり、十分な反応速度を得ることが出来ない。油脂類とアルコール類は、両者の混合物として均一相を形成することが好ましい。
【0023】
油脂類としてトリオレイン(オレイン酸トリグリセリド:分子量879)、アルコール類としてエタノール(分子量46)を選択したモデルケースにおいて、油脂類とアルコール類のモル比1/30〜1/1の範囲を油脂類の重量%で表現すると38.9〜95.0重量%となるから、本発明における油脂類とアルコール類のモル比は、油脂類濃度として有意に高濃度であることが判る。先に引用した特許文献5の発明において、トリグリセリド濃度が0.1〜20%、好ましくは0.1〜3%の希薄溶液であることが望ましいとされた事実と対照的である。
【0024】
[2]その他の反応条件、後処理
(1)反応温度としては、10℃から100℃程度、好ましくは10〜70℃が選択される。最も好ましくは室温附近の穏やかな反応である。上記範囲を超えるとイオン交換体の耐熱性に問題があり、また生成物が着色するおそれもある。一方、上記未満では反応速度が小さく生産性に問題がある。反応時間(接触時間)は反応温度、イオン交換樹脂の使用量にも左右されるが、油脂類の反応率が平衡反応率附近に到達できるように設定することが好ましい。例えば、反応温度を50℃として、攪拌層では通常1〜10時間、好ましくは3〜5時間、また、流通系では5分〜2時間、好ましくは10分〜1時間程度で実施する。上記平衡反応率は必ずしも100%ではなく、モル比に応じて異なるものである。更に具体的には、攪拌槽でイオン交換樹脂を4g(湿重量)使用し、全反応液量を10g、反応温度50℃の場合、モル比が1/3では3時間程度、モル比1/6〜1/10の範囲ではどちらも1.5時間程度で平衡反応率に到達する。
【0025】
(2)反応圧力は特に制限ない。常圧下で実施するのが操作上簡便であるが、必要に応じて1〜10気圧程度に加圧してもよい。
【0026】
(3)反応溶媒は特に必要とはしない。反応基質として使用するアルコール類が溶媒としての作用を兼ねるからである。しかしながら、油脂類とアルコール類の混合物からなる両反応基質をカラムに充填したイオン交換樹脂層を通液する場合など、粘度、通液性を調整する目的からベンゼン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、アセトン、ジエチルエーテルなどを適宜に混合してもよい。
【0027】
(4)油脂類とアルコール類の混合物とイオン交換樹脂との接触方式については、バッチ法、連続法など特に限定されない。例えば、撹拌槽を用いる方法、充填層に通液する方法、流動層反応器、振とう型反応器などを用いる方法が挙げられる。イオン交換樹脂をカラムに充填して使用する場合、樹脂が膨潤して破損することを防止するため、空隙率の高いエクスパンデットベットカラム充填層を用いる態様は好ましい。ここで、エクスパンデッドベッドカラムとは、粘度の高い流体や固形分を含んだ流体中から溶解している目的成分を吸着剤粒子に吸着させて回収する分離精製法用いられ、カラム内を上向きに流体を流し、比重の大きい吸着剤粒子を静止状態で浮遊させ、空隙率を大きく保った状態でカラムクロマトグラフィー操作を行うもの等をいい、例えば、化学工学論文集第27巻第2号(2001)第145−148頁等に記載される公知の方法を用いることができる。アルコール類に対する油脂類のモル比が大きい範囲において、膨潤によるイオン交換樹脂の破損の問題が生じ易いので、反応器の設計に際して留意される。
【0028】
(5)後処理(分離、精製、イオン交換樹脂の再生など)
撹拌槽型反応器を使用した場合は、所定の温度まで冷却し、固相である樹脂を分離したのち、液相を脂肪酸エステル層とグリセリン層に成層分離する。遠心分離を利用することもできる。脂肪酸エステル層は、要すれば水洗浄、アルカリ洗浄、吸着剤処理等をして、更にアルコール類を除去して製品化される。吸着剤としては、活性炭、酸性白土、珪藻土などが使用できる。一方、グリセリン層は比重差によって分離され、公知の方法にてグリセリンが回収される。
【実施例】
【0029】
以下、実施例をあげて本発明の構成および効果を具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記実施例によってなんら制限を受けるものではない。
【0030】
実施例中、特に断らない限りアニオン交換樹脂はOH形、カチオン交換樹脂はH形を用い、またこれらは反応に供する前に蒸留水、エタノールの順で洗浄した。実施例及び比較例で使用したイオン交換樹脂の基礎物性値を表1にまとめた。
【0031】
[実施例1]
油脂類として、合成トリグリセリドであるトリオレイン(シグマーアルドリッチ社製、純度99%)、アルコール類として、エタノール(和光純薬工業社製、特級)を使用した。両者のモル比(トリオレイン/エタノール)を1/10となるように調製した溶液10.0gを500mLの広口メジューム瓶に採取し、ここに触媒として、ポーラス型アニオン交換樹脂(三菱化学社製、Diaion PA306S)を湿重量で4.0g投入した。その後、50℃の恒温槽中、150spmの速度で振とうした。反応開始後、3時間経過した時点の溶液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果、オレイン酸エチルの生成量は19.3mmolであった。この触媒は、オレイン酸エチル生成反応に対して1.60(mmol/g-Catalyst・hr)と、非常に優れた活性を有していた。結果を表2に示す。
【0032】
なお、HPLCは溶離液としてアセトニトリル、2−プロパノール及び超純水を用いるグラジェント法(カラム温度40℃、出力波長205nm)で行った。
【0033】
[実施例2]
触媒として、ポーラス型アニオン交換樹脂(三菱化学社製、Diaion PA308)を用いた以外は実施例1と同様にしてオレイン酸エチルの生成反応を行った。その結果、オレイン酸エチルの生成量は16.6mmolであった。この触媒は、オレイン酸エチル生成反応に対して1.38(mmol/g-Catalyst・hr)と、非常に優れた活性を有していた。結果を表2に示す。
【0034】
[実施例3]
触媒として、ハイポーラス型アニオン交換樹脂(三菱化学社製、Diaion HPA25)を用いた以外は実施例1と同様にしてオレイン酸エチルの生成反応を行った。その結果、オレイン酸エチルの生成量は14.7mmolであった。この触媒は、オレイン酸エチル生成反応に対して1.23(mmol/g-Catalyst・hr)と、非常に優れた活性を有していた。結果を表2に示す。
【0035】
[比較例1]
触媒として、ポーラス型カチオン交換樹脂(三菱化学社製、Diaion PK208)を用い、反応時間を5時間にした以外は実施例1と同様にしてオレイン酸エチルの生成反応を行った。その結果、オレイン酸エチルの生成量は1.0mmolであった。この触媒の、オレイン酸エチル生成反応に対する活性は0.05(mmol/g-Catalyst・hr)であった。結果を表3に示す。
【0036】
[実施例4]
内径11mm、長さ300mmのウォータージャケット付きカラムを垂直に立て、温水を循環させて、内温を50℃に保った。このカラム中にポーラス型アニオン交換樹脂(三菱化学社製、Diaion PA306S)を湿重量で7.0g、予め充填した。引き続きペリスタ・ポンプを用い、カラム底部より一定流速でトリオレイン(シグマ−アルドリッチ社製、純度58%)とエタノールの、モル比(トリオレイン/エタノール)1/10の溶液(50℃)を連続的に供給した。反応は滞留時間約20分で定常状態に達した。この時、カラム上部より液を回収し、その液組成をHPLCで分析したところ、液中のオレイン酸エチルの濃度は約0.8mol/Lであった。
【0037】
[実施例5]
トリオレインとエタノールのモル比(トリオレイン/エタノール)を1/6となるように調製した以外は実施例1と同様にしてオレイン酸エチルの生成反応を行った。反応開始後、3時間経過した時点でのオレイン酸エチルの生成量は22.6mmolであった。この触媒は、オレイン酸エチル生成反応に対して2.02(mmol/g-Catalyst・hr)と、非常に優れた活性を有していた。結果を表2に示す。
【0038】
[実施例6]
トリオレインとエタノールのモル比(トリオレイン/エタノール)を1/3となるように調製した以外は実施例1と同様にしてオレイン酸エチルの生成反応を行った。その結果、オレイン酸エチルの生成量は20.5mmolであった。この触媒は、オレイン酸エチル生成反応に対して1.85(mmol/g-Catalyst・hr)と、非常に優れた活性を有していた。結果を表2に示す。
【0039】
[比較例2]
トリオレインとエタノールのモル比(トリオレイン/エタノール)を1/1527(油脂濃度1.2重量%の希薄溶液)となるように調製した溶液50gを採取し、触媒として、ポーラス型アニオン交換樹脂(三菱化学社製、Diaion PA308)を6.5g投入し、反応時間を2時間にした以外は実施例1と同様にしてオレイン酸エチルの生成反応を行った。その結果、オレイン酸エチルの生成量は1.90mmolであった。この触媒は、オレイン酸エチル生成反応に対して0.06(mmol/g-Catalyst・hr)であった。結果を表3に示す。
【0040】
この比較例2は、油脂濃度を低くしてアルコールを大過剰にすると、平衡が生成物側にずれるものの、反応溶液中の基質含有量が低くなるため、オレイン酸エチル生成量が小さくなり、生産性に劣ることを示すものである。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の目的生成物である脂肪酸エステルは、環境負荷の小さいバイオディーゼル燃料として利用可能である。そのまま、又は軽油などと適宜に混合して使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂類とアルコール類とのエステル交換反応による脂肪酸エステルの製造方法であって、触媒としてアニオン交換体を用い、且つ、油脂類とアルコール類のモル比が1/30〜1/1であることを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】
油脂類が天然油脂、合成油脂、合成トリグリセリド、モノグリセリド及び/又はジグリセリドを含む合成トリグリセリド、これらの変性物、又はこれらを含む廃品油脂類である請求項1に記載の脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項3】
アルコール類が炭素数1〜5の低級アルコールである請求項1又は2に記載の脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項4】
アニオン交換体が強塩基性多孔質アニオン交換樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項5】
エクスパンデットベッドカラム型反応器を使用してエステル交換反応を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の脂肪酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2006−104316(P2006−104316A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292212(P2004−292212)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(899000035)株式会社東北テクノアーチ (68)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】