説明

脊髄損傷修復剤

【課題】損傷した脊髄に対して修復機能を発揮する脊髄損傷修復剤を提供する。
【解決手段】本発明の脊髄損傷修復剤は、プロポリスの溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。好ましくは、前記溶媒は、水、親水性有機溶媒、又は水と親水性有機溶媒の混合液である。また、本発明の脊髄損傷修復剤は、脊髄損傷部位において、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を抑制する脊髄保護剤として用いることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロポリスの溶媒抽出物を有効成分とする脊髄損傷修復剤に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
一般に、主として脊柱に強い外力が加えられることにより脊椎が損壊し、脊髄に損傷を受ける病態として脊髄損傷が知られている。脊髄を含む中枢神経系(脳、脊髄)は、末梢神経と異なり、神経軸索の再生は困難であり、脊髄損傷等の中枢神経の損傷修復は、回復が望めないのが現状である。脊髄は、末梢組織と脳との間の知覚、運動神経情報の伝道路であり、交通事故やスポーツ事故、高齢者の圧迫骨折等で脊髄が物理的障害を受けて神経軸索が傷害されると、運動麻痺、呼吸麻痺、知覚障害等の重篤な身体障害に陥る。安全性の高い方法で、脊髄損傷修復が可能になれば、患者にとって大きな福音になる。
【0003】
従来より、神経細胞の増殖維持に特異的に作用する物質として神経成長因子(NGF)が知られている。しかしながら、一旦成長した成体の中枢組織では、NGFの発現及びその受容体(TrkA)がほとんどなく、また再生阻害因子の存在等の種々の理由により、神経再生は起こらない。例えば、非特許文献1に、NGFは脊髄に軸索を送っている脳神経細胞には作用しないことが示されている。現在のところ、多大な研究にもかかわらず、脊髄損傷において、有効な治療法は確立されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】The Journal of Neuroscience, February 1995, 15(2):1567-1576
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、プロポリスは、巣の防御及び補強等を目的として、ミツバチが採取した植物の滲出液、新芽、及び樹脂等にミツロウを混ぜて作られる膠状ないしは蝋状の物質である。このプロポリスは、ミツバチが原料として巣箱周辺の種々の植物を採取して生産されるため、多種多様な成分を含有している。
【0006】
プロポリスは、抗菌効果や抗炎症効果を有していることが古くから知られている。また、プロポリスの主要な生理活性として、抗酸化作用及び免疫賦活作用が知られている。そのため、プロポリスは、医薬品或いは健康食品の素材として古くから用いられてきた。プロポリス中に含まれる有効成分としては、極性の高い有機酸、フラボノイド類、ポリフェノール類、さらには極性の低いテルペノイド類等の非常に多様な種類の有効成分が確認されている。
【0007】
本発明は、プロポリスの溶媒抽出物が損傷した脊髄に対して修復機能を発揮することを見出しことに基づくものである。本発明の目的とするところは、損傷した脊髄に対して修復機能を発揮する脊髄損傷修復剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明の脊髄損傷修復剤は、プロポリスの溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の脊髄損傷修復剤において、前記溶媒は、水、親水性有機溶媒、又は水と親水性有機溶媒の混合液であることを特徴する。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の脊髄損傷修復剤において、脊髄損傷部位において、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を抑制する脊髄保護剤として用いられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、損傷した脊髄に対して修復機能を発揮する脊髄損傷修復剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】プロポリスの親水性溶媒抽出物における脊髄損傷モデルラットに対する影響を示すデータ。(a)プロポリス溶媒抽出物を0.2mg/kg投与した場合、(b)1mg/kg投与した場合、(c)5mg/kg投与した場合を示す。有意差は、二元配置分散分析(Two-way Repeated-Measures ANOVA)及びこれに引き続くBonferroni post-testにより行った(P<0.05、**P<0.01、***P<0.001 vs vehicle投与群)。
【図2】プロポリス溶媒抽出物を投与した際の脊髄損傷部位における損傷サイズの影響を示すデータ。(a)vehicle投与群の脊髄損傷個所におけるGFAP免疫染色の蛍光写真を示す。(b)プロポリス溶媒抽出物投与群の脊髄損傷個所におけるGFAP免疫染色の蛍光写真を示す。(c)蛍光写真中の点線で囲まれる損傷個所の面積を求めたグラフを示す。有意差は、Student’s t-testにより行った(**P<0.01 vs vehicle投与群)。
【図3】プロポリス溶媒抽出物の誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)、並びに神経栄養因子として、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)、及びグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)の遺伝子発現に与える影響を示すデータ。(a)iNOS、(b)BDNF、(c)NT−3、(d)GDNFを示す。有意差は、二元配置分散分析(Two-way Repeated-Measures ANOVA)及びこれに引き続くBonferroni post-testにより行った(P<0.05、**P<0.01 vs vehicle投与群)。尚、βアクチン(β−Actin)は、陽性コントロールとして使用した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の脊髄損傷修復剤を具体化した実施形態を説明する。
本実施形態の脊髄損傷修復剤は、原料としてのプロポリスから抽出溶媒を用いて抽出処理することにより得られた抽出物を有効成分として含有する。原料となるプロポリスは、巣の防御及び補強等を目的として、セイヨウミツバチ等のミツバチが採取した植物の滲出液、新芽及び樹皮等に唾液を混ぜて作られる膠状ないしは蝋状の物質である。本実施形態において使用されるプロポリスの産地は、特に限定されず、例えば中国、日本等のアジア諸国、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ等の南米諸国、ハンガリー、ブルガリア等のヨーロッパ、カナダ等の北米、オーストラリア、ニュージーランド等のオセアニア等を使用することができる。プロポリス原塊は、そのままの形態で抽出原料として使用することができる。
【0013】
抽出溶媒としては、好ましくは、水、親水性有機溶媒、又は水と親水性有機溶媒の混合液が用いられる。本実施形態において用いられる有機溶媒としては、水に溶解する性質を有するエタノール、メタノール、イソプロパノール等の低級アルコールのほか、アセトンやエーテル類、クロロホルムを適宜選択して使用することができる。これらの有機溶媒を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中で、エタノール又はメタノール、クロロホルム、及びそれらの混合液が好ましく適用される。より好ましくは、生体に対する適用性等の観点からエタノールが最も好ましい。水と親水性有機溶媒の混合液として、例えば含水エタノールが使用される場合は、抽出溶媒中におけるエタノールの濃度は、50〜99容量%が好ましく、80〜99容量%がより好ましく、90〜99容量%が最も好ましい。
【0014】
前記溶媒を用いて抽出する場合、抽出処理前にプロポリス採取時に混入するゴミ等の夾雑物を除去し、粗粉砕することが好ましい。抽出溶媒として親水性有機溶媒を適用する場合、親水性有機溶媒の使用容量は、抽出原料の質量に対して好ましくは1〜20倍量、より好ましくは5〜15倍量である。親水性有機溶媒の使用容量が1倍量未満の場合には、目的成分の抽出率が悪いので好ましくない。逆に親水性有機溶媒の使用容量が20倍量を超える場合には、不必要に大きな装置が必要となるばかりでなく、濃縮等の工程に時間を要し、作業性が著しく低下するので好ましくない。抽出温度は抽出溶媒の種類のより適宜設定されるが、5〜40℃であることが好ましい。抽出温度が5℃未満の場合には、有効成分の抽出率が悪いので好ましくない。逆に抽出温度が40℃を超える場合には、ロウ成分が抽出されて、抽出後の濾過性が悪くなるおそれがある。また、揮発性の高い抽出溶媒の場合、溶媒が蒸発するため好ましくない。なお、抽出操作は、前記抽出温度で攪拌しながら4時間以上行えばよい。そして、上記の抽出条件で有効成分を十分に抽出した後、濾紙濾過、珪藻土濾過などの濾過処理を行なうことにより有機溶媒抽出物を得ることができる。
【0015】
上記方法により得られたプロポリス抽出物は、高い脊髄損傷修復作用を有する。より具体的には、脊髄損傷に起因する運動機能の低下において、その回復の度合いを向上させることができる。また、脊髄損傷部位において、その損傷サイズを減少させることができる。したがって、それらの作用効果を得ることを目的とした脊髄損傷修復剤として適用することができる。また、上記方法により得られたプロポリス抽出物を有効成分として含有する脊髄損傷修復剤は、さらに脊髄損傷部位において、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を抑制する作用、並びに神経栄養因子、例えば脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)、及びグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)の発現を促進する作用を発揮する。したがって、本実施形態の脊髄損傷修復剤は、さらに脊髄損傷部位における脊髄保護剤として用いることができる。
【0016】
具体的な配合形態として、脊髄損傷修復剤は、脊髄損傷患者に対する医薬品及び飲食品等として好ましく適用することができる。
本実施形態の脊髄損傷修復剤を医薬品として使用する場合は、服用(経口摂取)、血管内投与、経皮投与、腹腔内投与の他、患部に塗布又は直接患部に投与する方法等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、各投与方法に適した剤形を適宜採用することができるが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。また、必要により、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0017】
本実施形態の脊髄損傷修復剤を飲食品に適用する場合、脊髄損傷患者用の飲食品に適宜採用することができる。本実施形態の脊髄損傷修復剤を種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって使用することができる。飲食品の形態としては、特に限定されず、液状、粉末状、ゲル状、固形状等のいずれであってもよく、また剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤のいずれであってもよい。その中でも、吸湿性が抑えられることから、カプセル剤であることが好ましい。前記飲食品としては、その他の成分としてゲル化剤含有食品、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【0018】
本実施形態の脊髄損傷修復剤は、成人1日当たり上記有効成分(固形分)の含有量として好ましくは0.001〜2000mg/kg(体重)、より好ましくは0.01〜100mg/kg(体重)、最も好ましくは0.1〜10mg/kg(体重)である。この脊髄損傷修復剤において、上記有効成分(固形分)の1日当たりの摂取量が0.001mg未満の場合には前記有効成分による脊髄損傷修復剤を効果的に高めることができないおそれがあり、逆に2000mgを越える場合には不経済である。
【0019】
本実施形態の脊髄損傷修復剤によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の脊髄損傷修復剤は、プロポリスの溶媒抽出物を有効成分とする。したがって、脊髄損傷患者において、脊髄損傷の回復のための医薬品又は食品として好適に使用することができる。
【0020】
(2)好ましくは、溶媒は、水、親水性有機溶媒、又は水と親水性有機溶媒の混合液が用いられる。したがって、脊髄損傷修復作用を発揮する成分の抽出効率を向上させることができる。
【0021】
(3)本実施形態の脊髄損傷修復剤は、脊髄損傷部位において、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を抑制する作用を発揮する。脊柱に強い外力が加えられることによって生じた脊髄損傷部位において、外傷後に二次的障害が発生し、損傷部位の拡大、又は損傷の更なる誘発が生ずる場合がある。かかる二次的障害は、主として一酸化窒素の発生等の酸化ストレスにより生ずることが知られている。本実施形態の脊髄損傷修復剤は、脊髄損傷部位において、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を抑制し、一酸化窒素の発生を抑制することから、二次的障害の誘発を抑制するための脊髄保護剤又は二次的障害の誘発抑制剤として好ましく用いることができる。
【0022】
(4)本実施形態の脊髄損傷修復剤は、神経栄養因子、例えば脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)、及びグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)の発現を促進する作用を発揮する。したがって、本実施形態の脊髄損傷修復剤は、損傷した脊髄に対し、神経保護的に働く作用も発揮することが示唆される。よって、本実施形態の脊髄損傷修復剤は、損傷した脊髄に対し、神経保護作用を発揮する神経保護剤としても好ましく適用することができる。
【0023】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記プロポリス抽出物を得た後の抽出残渣に、さらに抽出溶媒を添加して抽出処理してもよい。抽出残渣を再利用することにより、回収率を高めることができる。
【0024】
・上記実施形態の脊髄損傷修復剤は、ヒトが摂取する医薬品又は飲食品等に対して適用することができるのみならず、家畜等の飼養動物に対する飼料、薬剤等に適用してもよい。
【実施例】
【0025】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<試験例1:プロポリスの親水性溶媒抽出物における脊髄損傷モデルラットに対する影響>
プロポリスの親水性溶媒抽出物を脊髄損傷モデルラットに投与した際の運動機能の回復割合を評価した。
【0026】
(プロポリスの親水性有機溶媒抽出物の調製)
原料として中国産プロポリスの原塊50gに95容量%エタノール500mlを加え、室温(25℃)で24時間撹拌した。3000rpmで30分間遠心分離し、その上清をロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去することにより、粉末状の中国産プロポリスの親水性有機溶媒の抽出物32g(固形分)を得た。以下、中国産プロポリスの親水性有機溶媒の抽出物をプロポリス溶媒抽出物とする。
【0027】
(脊髄損傷モデルラットの作製)
7週齢の雌性Wistar系ラットをペントバルビタール(40mg/kg)で麻酔し、脊柱を露出後、第9胸椎の椎弓を除去し、鋭利な刃物で第10胸髄(T10)右側半球を切断した。背筋、皮膚を縫合した後、後肢麻痺を確認し実験に用いた。
【0028】
(溶媒抽出物の投与方法)
脊髄損傷直後から、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に溶解したプロポリス溶媒抽出物を0.2mg(固形分、以下同じ)/kg(体重、以下同じ)、1mg/kg、5mg/kgの各用量で1日1回、4週間にわたり腹腔内に投与した(n=7)。尚、コントロールとして、賦形剤(vehicle)を使用し、同様に投与した(n=9)。
【0029】
(運動機能の評価方法)
BBB(Basso,Beattie and Bresnahan)運動機能評価スケール(Basso et al., 1995)を用いて、右後肢の運動機能を評価した。尚、脊髄損傷直後のラットの運動機能は0ポイント、非脊髄損傷ラットの運動機能は21ポイントとする。結果を図1に示す。
【0030】
(結果)
本試験においては、脊髄の右半分を切断するモデルを使用しており、特に処置しなくても運動機能はある程度(12ポイント程度)自然に回復する。プロポリス溶媒抽出物の投与群のうち、0.2mg/kg投与群は、vehicle投与群に対してほとんど違いを示さなかった(図1a参照)。しかしながら、1mg/kg投与群は、vehicle群と比較すると投与開始9〜15日頃に運動機能の回復の度合いが有意に大きくなった(図1b参照)。また、5mg/kg投与群をvehicle群と比較すると、運動機能の改善効果が認められるが、1mg/kg投与群に比べると低いことが確認された(図1c参照)。
【0031】
<試験例2:プロポリス溶媒抽出物を投与した際の脊髄損傷部位における損傷サイズの影響>
プロポリス溶媒抽出物の抗炎症作用を組織化学的に検討するために脊髄損傷14日後における損傷のサイズを比較した。
【0032】
(試験方法)
脊髄損傷直後から、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に溶解したプロポリス溶媒抽出物を1mg/kgの用量で1日1回、14日間にわたり腹腔内に投与した(n=3)。尚、コントロールとして、賦形剤(vehicle)を使用し、同様に投与した(n=3)。
【0033】
(脊髄損傷部位における損傷サイズ(Lesion Size)の測定)
麻酔下で0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解した4%パラフォルムアルデヒド(PFA)の心臓灌流によりラット組織を固定した。損傷部位を含む脊髄組織を切り出して同PFA液で後固定し、20%ショ糖液に15時間浸漬した後、包埋して凍結保存した。クライオスタットで作製した30μm厚の凍結切片をスライドグラスに張り、4%PFA溶液で10分間固定後、0.3%(v/v)のTritonX−100を含む37℃の0.1M Tris−HCl buffer(pH7.4)に浸し、PBSで洗浄後、2%Block Aceでブロッキングした。次に適切に希釈したグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)を一次抗体として4℃で反応させ、PBSで洗浄後、蛍光標識した二次抗体を室温で3時間反応させ、蛍光レーザー顕微鏡で観察した。
【0034】
損傷部位のサイズは、脊髄の走行軸に沿って作製した5枚の切片について、GFAPの染色で囲まれた部分の面積を計算した。5枚の切片を作製した位置はラットごとに、脊髄の中心から腹側側0.12、0.24mm中心部、背側側へ0.12、0.24mmである。結果を図2に示す。
【0035】
(結果)
図2に示されるようにプロポリス溶媒抽出物を1mg/kg投与した群は、vehicle投与群に比べ、有意に損傷サイズが小さくなった。
【0036】
<試験例3:プロポリス溶媒抽出物を投与した際の脊髄損傷部位におけるiNOS、BDNF、NT−3、及びGDNFの遺伝子発現に与える影響>
プロポリス溶媒抽出物の誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)、並びに神経栄養因子としての、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)、及びグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)の各mRNAの発現レベルに与える影響を試験した。
【0037】
(試験方法)
脊髄損傷直後から、リン酸化生理食塩水(PBS)に溶解したプロポリス溶媒抽出物を1mg/kgの用量で1日1回、1、3、7及び14日間の各日数にわたりそれぞれ腹腔内に投与した。尚、コントロールとして、賦形剤(vehicle)を使用し、同様に投与した。
【0038】
(iNOS、BDNF、NT−3、GDNFの遺伝子発現レベルの測定)
脊髄を半切断した後、上記プロポリス溶媒抽出物又は賦形剤(vehicle)を1日1回、1、3、7、14日間の各日数にわたりそれぞれ投与したラットから脊髄を取り出し、切断部位に接する吻側と尾側各2mmの組織を採集した。この組織から総RNAを調製し、混入するゲノムDNAを除くためDNA分解酵素としてDNAase Iで処理した後、RT−PCR法に用いて、iNOS、BDNF、NT−3、及びGDNFのmRNAレベルを解析した。β−アクチンのmRNAの発現を内部標準として用いた。PCRによる増幅をおこなうためのサーマルサイクラーの温度制御は、まず94℃で5分間維持した後、94℃で30秒間、60〜63℃で1分間、72℃で45秒間を1サイクルとして24〜38サイクル実施した。プライマー配列、アニーリング温度、PCR産物のサイズは以下に示す。
【0039】
β−アクチンのフォワードプライマーとして配列番号1、リバースプライマーとして配列番号2を使用するとともに、アニーリング温度63℃とした。PCR産物のサイズは390bpであった。iNOSのフォワードプライマーとして配列番号3、リバースプライマーとして配列番号4を使用するとともに、アニーリング温度63℃とした。PCR産物のサイズは688bpであった。BDNFのフォワードプライマーとして配列番号5、リバースプライマーとして配列番号6を使用するとともに、アニーリング温度61℃とした。PCR産物のサイズは350bpであった。NT−3のフォワードプライマーとして配列番号7、リバースプライマーとして配列番号8を使用するとともに、アニーリング温度61℃とした。PCR産物のサイズは348bpであった。GDNFのフォワードプライマーとして配列番号9、リバースプライマーとして配列番号10を使用するとともに、アニーリング温度60℃、PCR産物のサイズは337bpであった。増幅後PCR産物は2%アガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイドで可視化した。各バンドの蛍光強度を測定し、画像処理によって数値化した。0日の値を1とした場合の相対値を求めた。結果を図3に示す。
【0040】
(結果)
iNOSのvehicle投与群(n=3)について、脊髄の損傷部位では損傷1日後にiNOSのmRNA発現が顕著に上昇したが、その後急速に減少傾向となり、損傷3日後にピーク値の半分に減少し、1週間後に正常値に戻った。一方、プロポリス溶媒抽出物を腹腔内投与(1mg/kg)した群(n=3)は、損傷に伴うiNOSのmRNAの発現誘導レベルが、特に試験の1日目と3日目においてvehicle投与群の2分の1〜3分の1に抑制された(図3a参照)。すなわち、プロポリス溶媒抽出物は、脊髄損傷によって誘導されるiNOSのmRNAの発現を強力に阻害する作用を有することが確認された。プロポリス溶媒抽出物は、脊髄損傷部位における外傷後の酸化ストレスを抑止し、二次的障害の発生を抑制できることが示唆された。
【0041】
神経栄養因子のvehicle投与群に関する脊髄損傷に伴う発現の変化は、BDNFのmRNAとGDNFのmRNAは類似し、損傷1日後に顕著に上昇したが、NT−3のmRNAは、逆に2日後に減少した。BDNF及びNT−3について、プロポリス溶媒抽出物を1mg/kg用量で投与した群(n=6)は、vehicle投与群(n=6)に比べて、mRNA発現はそれぞれ3日後に有意な上昇を示した(図3b、c参照)。GDNFについて、プロポリス溶媒抽出物を1mg/kg用量で投与した群(n=3)は、vehicle投与群(n=3)に比べて、mRNA発現は変化が認められなかった(図3d参照)。
【0042】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(a)腹腔内投与剤として構成されることを特徴とする前記脊髄損傷修復剤。
(b)脊髄損傷部位において、神経栄養因子の発現を促進する脊髄保護剤として用いられることを特徴とする前記脊髄損傷修復剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロポリスの溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする脊髄損傷修復剤。
【請求項2】
前記溶媒は、水、親水性有機溶媒、又は水と親水性有機溶媒の混合液であることを特徴する請求項1に記載の脊髄損傷修復剤。
【請求項3】
脊髄損傷部位において、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を抑制する脊髄保護剤として用いられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の脊髄損傷修復剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−25685(P2012−25685A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164167(P2010−164167)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(591045471)アピ株式会社 (59)
【Fターム(参考)】