説明

脛骨用ドリルガイド装置

【課題】骨プレートを固定するためのスクリュと、前十字靱帯再建術において靱帯を移植するために脛骨に形成される貫通孔との干渉を回避する。
【解決手段】脛骨付着部Aへ刺入される穿孔指示部2aと、穿孔指示部2aを通過する直線Hを軸線として、脛骨Bの高位前側面から貫通孔Cを穿孔する貫通孔用ドリル3を案内する第1のガイド筒部4と、第1のガイド筒部4と穿孔指示部2aとを位置決め状態に連結する連結部5と、脛骨Bの高位内側面から下孔を形成するための下孔用ドリルを案内する第2のガイド筒部7とを備え、該第2のガイド筒部7が、その軸線回りに回転可能に連結部5に取り付けられ、先端に、脛骨Bの高位内側面に沿って配置される骨プレート10に設けられたネジ孔に締結される雄ネジを備え、第1のガイド筒部4と第2のガイド筒部7とが、貫通孔Cと下孔とが相互に干渉しない位置に配置されている脛骨用ドリルガイド装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脛骨用ドリルガイド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、骨折した大腿骨や脛骨を含む長骨の一部を固定する骨プレートとして、長骨に締結される複数のスクリュの頭部に設けられた雄ネジに締結するネジ孔を有する帯板状の骨プレートが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−500069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の骨プレートを変形膝関節症の高位脛骨骨切り術に用いる場合に、前十字靱帯再建術において靱帯を移植するために脛骨に形成される貫通孔と、骨プレートを固定するスクリュとが干渉してしまう不都合が発生する傾向がある。このような干渉が発生した場合には、スクリュによって、移植された靱帯が損傷したり、貫通孔の形成の際にドリルによってスクリュが損傷を受けたりする不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、骨プレートを固定するためのスクリュと、前十字靱帯再建術において靱帯を移植するために脛骨に形成される貫通孔との干渉を回避するように貫通孔およびスクリュ用の下孔を穿孔することを可能にする脛骨用ドリルガイド装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、皮外から脛骨付着部へ刺入して保持され穿孔位置を指示する穿孔指示部と、該穿孔指示部を通過する直線を軸線として、脛骨の高位前側面から前記脛骨に貫通孔を穿孔するための貫通孔用ドリルを貫通させて案内する第1のガイド筒部と、該第1のガイド筒部と前記穿孔指示部とを位置決め状態に連結する連結部と、該連結部に取り付けられ、前記脛骨の高位内側面から前記脛骨に下孔を形成するための下孔用ドリルを貫通させて案内する第2のガイド筒部とを備え、該第2のガイド筒部が、その軸線回りに回転可能に前記連結部に取り付けられるとともに、その先端に、前記脛骨の高位内側面に沿って配置される骨プレートに設けられたネジ孔に締結される雄ネジを備え、前記第1のガイド筒部と前記第2のガイド筒部とが、前記貫通孔用ドリルにより形成される貫通孔と、前記下孔用ドリルにより形成される下孔とが相互に干渉しない位置に配置されている脛骨用ドリルガイド装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、穿孔指示部を皮外から脛骨付着部まで刺入してその場所に保持すると、第1のガイド筒部の軸線が穿孔指示部を通過するように配置される。この状態で、脛骨の高位内側面に沿う所定の位置に骨プレートを配置し、該骨プレートに設けられたネジ孔に第2のガイド筒部の先端に備えられた雄ネジを締結することにより、第1のガイド筒部と第2のガイド筒部とが脛骨に対して位置決めされる。
【0008】
そして、第1のガイド筒部内に貫通孔用ドリルを貫通させて脛骨の高位前側面から穿孔していくと、穿孔指示部により指示された穿孔位置まで到達する貫通孔が形成される。一方、第2のガイド筒部内に下孔用ドリルを貫通させて脛骨の高位内側面から穿孔していくと、骨プレートを脛骨に固定するためのスクリュの下孔が形成される。
【0009】
この場合において、骨プレートに固定することによって脛骨に位置決めされた第1のガイド筒部と第2のガイド筒部とをガイドとして、貫通孔と下孔とを形成するので、形成された貫通孔と下孔とが相互に干渉しない位置に配置される。すなわち、貫通孔に沿って挿入される前十字靱帯再建用の靱帯に、骨プレートを固定するためのスクリュが接触せず、スクリュによる靱帯の損傷を防止するように貫通孔と下孔とを形成することができる。
【0010】
上記発明においては、前記穿孔指示部が、前記第1のガイド筒部の軸線に沿って移動可能に設けられていてもよい。
このようにすることで、脛骨の大きさや形状の個人差に合わせて穿孔指示部を移動させても、穿孔指示部により指示される穿孔位置を、常に第1のガイド筒部の軸線上に配置することができる。したがって、脛骨の大きさや形状が個人差により異なっても、第1のガイド筒部を貫通させて貫通孔用ドリルを案内することにより、脛骨の高位前側面から脛骨付着部に指示された穿孔位置まで到達する貫通孔を簡易に形成することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記第2のガイド筒部が、前記第1のガイド筒部との間隔を調節可能に前記連結部に取り付けられていてもよい。
このようにすることで、脛骨の周方向の大きさが個人差によって異なっても、第2のガイド筒部を第1のガイド筒部との間隔を調節することにより、第2のガイド筒部の先端に設けられた雄ネジを骨プレートのネジ孔に無理なく締結することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記第2のガイド筒部が、前記第1のガイド筒部との相対的な角度を調節可能に前記連結部に取り付けられていてもよい。
このようにすることで、脛骨の周方向あるいは軸方向の曲率が個人差によって異なっても、第2のガイド筒部を第1のガイド筒部との相対的な角度を調節することにより、第2のガイド筒部の先端に設けられた雄ネジを骨プレートのネジ孔に無理なく締結することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、骨プレートを固定するためのスクリュと、前十字靱帯再建術において靱帯を移植するために脛骨に形成される貫通孔との干渉を回避するように貫通孔およびスクリュ用の下孔を穿孔することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る脛骨用ドリルガイド装置を示す一部を破断した正面図である。
【図2】図1の脛骨用ドリルガイド装置による貫通孔の形成工程を説明する図である。
【図3】図1の脛骨用ドリルガイド装置を第2のガイド筒部の軸線に沿う方向から見た側面図である。
【図4】図1の脛骨用ドリルガイド装置による下孔の形成工程を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る脛骨用ドリルガイド装置1について、図面を参照していかに説明する。
本実施形態に係る脛骨用ドリルガイド装置1は、図1および図2に示されるように、膝関節約90°屈曲位において、関節鏡視下で膝関節前面から脛骨付着部Aへ皮外から刺入される針状の穿孔指示部2aを先端に有する指示部材2と、脛骨B前側面から脛骨付着部Aに貫通する貫通孔Cおよび大腿骨付着部Dから大腿骨E内側面に貫通する貫通孔Fを形成するためのドリル3を案内する第1のガイド筒部4と、該第1のガイド筒部4と指示部材2とを連結する連結部材(連結部)5と、脛骨Bの高位内側面から脛骨B内に下孔G(図4参照。)を形成するためのドリル6を案内する第2のガイド筒部7とを備えている。
【0016】
第1のガイド筒部4は、略円筒状に形成され、連結部材5の一端に一体的に固定されている。第1のガイド筒部4の中央には長手方向に貫通する内孔4aが設けられている。内孔4aの内径寸法は、脛骨Bおよび大腿骨Eに貫通孔C,Fを穿孔するためのドリル(貫通孔用ドリル)3の外径寸法より若干大きく形成されている。
【0017】
これにより、ドリル3を第1のガイド筒部4の内孔4aに挿入すると、ドリル3は、内孔4a内においてその軸線回りの円滑な回転と軸線方向の円滑な移動とを支持されて、脛骨Bおよび大腿骨Eに内孔4aの軸線方向に沿う貫通孔C,Fを簡易に形成することができるようになっている。
第1のガイド筒部4は、その中心軸線H上に指示部材2の穿孔指示部2aが配置されるように、連結部材5に固定されている。
【0018】
指示部材2は、連結部材5の他端に設けられた断面非円形、例えば、断面四角形のガイド孔8内に、該ガイド孔8の軸方向(矢印Jの方向)に移動可能に挿入されている。ガイド孔8を非円形に構成することにより、ガイド孔8の軸線回りの指示部材2の回転が係止され、ガイド孔8の軸線に沿う方向に移動する際に、指示部材2がその姿勢を維持しつつ移動させられるようになっている。
【0019】
ここで、ガイド孔8の軸線は、第1のガイド筒部4の中心軸線Hと平行に配置されている。これにより、ガイド孔8の軸線に沿って指示部材2が移動させられても、指示部材2の先端に設けられた穿孔指示部2aは、第1のガイド筒部4の中心軸線H上に維持されるようになっている。
図中、符号9は、緩められることにより連結部材5に対する指示部材2の移動を許容し、締結されることにより、連結部材5に対する指示部材2の移動を固定する止めネジである。
【0020】
第2のガイド筒部7は、略円筒状に形成されている。第2のガイド筒部7の中央には長手方向に貫通する内孔7aが設けられている。内孔7aの内径寸法は、脛骨Bに下孔Gを穿孔するためのドリル(下孔用ドリル)6の外径寸法より若干大きく形成されている。
【0021】
これにより、ドリル6を第2のガイド筒部7の内孔7aに挿入すると、ドリル6は、内孔7a内においてその軸線回りの円滑な回転と軸線方向の円滑な移動とを支持されて、脛骨Bに内孔7aの軸線方向に沿う下孔Gを簡易に形成することができるようになっている。
【0022】
第2のガイド筒部7の先端には、図2および図3に示されるように、脛骨Bの高位内側面に沿って配置される骨プレート10のネジ孔10aに締結される雄ネジ7bが形成されている。
骨プレート10は、図2および図3に示されるように、変形膝関節症の高位脛骨骨切り術において、骨切り後の脛骨Bの側面に固定される細長い帯板状の部材であり、脛骨Bの骨幹部から端部に向かって移行する位置の脛骨B側面の湾曲した表面形状に沿わせることができるように、代表的な表面形状に合わせて微妙に湾曲した形状を有している。
【0023】
第2のガイド筒部7は、連結部材5の長手方向の途中位置に設けられたガイド孔11に沿って移動可能に設けられたスライド部材12の一端に取り付けられている。ガイド孔11は断面非円形、例えば、断面四角形であり、内部に挿入されているスライド部材12が、ガイド孔11の軸線回りに回転しないように係止しつつ、軸線方向に沿うスライド部材12の移動を支持している。
【0024】
ガイド孔11およびスライド部材12は、一定の曲率を有する円弧状に形成され、穿孔指示部2aが脛骨付着部Aまで刺入された状態で、脛骨Bの中心軸に概略一致する軸線回りに湾曲する形状を有している。これにより、穿孔指示部2aを脛骨付着部Aまで刺入した状態で、スライド部材12をガイド孔11の軸線に沿って移動させると、第2のガイド筒部7が脛骨Bの表面に沿って周方向(図4における矢印Kの方向)に移動させられ、第1のガイド筒部4と第2のガイド筒部7との相対的な角度を変化させることができるようになっている。
【0025】
図中、符号13は、緩められることにより連結部材5に対するスライド部材12の移動を許容し、締結されることにより、連結部材5に対するスライド部材12の移動を固定する止めネジである。
また、第2のガイド筒部7は、スライド部材12の端部に設けられたガイド部14内に長手方向(図4における矢印Lの方向)に移動可能に配置されている。
【0026】
また、ガイド部14は、スライド部材12に、その長手軸M回りに回転可能に取り付けられている。これにより、スライド部材12に対して、脛骨Bの長手軸方向に沿う平面内において、第2のガイド筒部7を揺動させて、その角度調節を行うことができるようになっている。
【0027】
そして、本実施形態においては、軸線M回りの第2のガイド筒部7の回転、ガイド孔11に対するスライド部材12の矢印Kに沿う方向の移動のいずれを行っても、第1のガイド筒部4により案内されるドリル3の経路と、第2のガイド筒部7により案内されるドリル6の経路とが干渉しないように配置されている。
【0028】
このように構成された本実施形態に係る脛骨用ドリルガイド装置1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る脛骨用ドリルガイド装置1を用いて、脛骨Bに前十字靱帯再建用の貫通孔C,Fおよび高位脛骨骨切り術の骨プレート10を脛骨Bに固定するスクリュ(図示略)用の下孔Gを形成するには、図2〜図4に示されるように、脛骨Bの内側面に沿って骨プレート10を配置する。
【0029】
次いで、止めネジ9を緩めて、指示部材2をガイド孔8内において矢印Jの方向に移動させて、穿孔指示部2aの位置、すなわち、第1のガイド筒部4に対する穿孔指示部2aの距離を適当に調節する。調節し終えた状態で、止めネジ9を締めることにより、指示部材2を連結部材5に固定する。
【0030】
そして、指示部材2を脛骨Bと大腿骨Eとの間に前面から刺入して、指示部材2の先端に設けられている穿孔指示部2aを脛骨付着部Aに到達させる。この状態で、止めネジ13を緩めて、スライド部材12をガイド孔11内で矢印Kに沿う方向に移動させたり、第2のガイド筒部7をガイド部14内において矢印Lに沿う方向に移動させたり、第2のガイド筒部7を軸線M回りに揺動させたりして、ガイド筒部7の先端に設けられている雄ネジ7bを骨プレート10のネジ孔10aに一致させる。
【0031】
雄ネジ7bが骨プレート10のネジ孔10aに一致した時点で、第2のガイド筒部7をガイド部14内においてその軸線回りに回転させることにより、第2のガイド筒部7の雄ネジ7bを骨プレート10のネジ孔10aに締結する。これにより、ドリル3を案内する第1のガイド筒部4と、ドリル6を案内する第2のガイド筒部7とが、骨プレート10を基準として相互に位置決めされる。この状態で、止めネジ13を締めて、スライド部材12を連結部材5に固定する。
【0032】
そして、第1のガイド筒部4の内孔4a内にドリル3を挿入して軸線回りに高速回転させることにより、脛骨Bおよび大腿骨Eに貫通孔C,Fを形成し、第2のガイド筒部7の内孔7aにドリル6を挿入して軸線回りに高速回転させることにより、脛骨Bにスクリュ用の下穴Gを形成することができる。
【0033】
この場合において、本実施形態に係る脛骨用ドリルガイド装置1によれば、前十字靱帯再建用の貫通孔C,Fおよび高位脛骨骨切り術の骨プレート10用の下穴Gを相互に干渉しない位置にドリル3,6を案内して穿孔することができる。その結果、前十字靱帯最剣術において貫通孔C,F内に移植される靱帯が、下穴Gに締結されたスクリュと接触することを未然に防止することができ、移植靱帯を長期にわたって健全な状態に維持することができるという効果がある。
【0034】
なお、本実施形態においては、ガイド孔11およびスライド部材12を円弧軌道に沿って移動するように形成したが、これに代えて、直線移動するように構成してもよい。また、指示部材2およびスライド部材12の移動、第2のガイド筒部7の軸線M回りの移動はなくてもよい。
【符号の説明】
【0035】
A 脛骨付着部
B 脛骨
C 貫通孔
G 下孔
H 中心軸線(直線)
1 脛骨用ドリルガイド装置
2a 穿孔指示部
3 ドリル(貫通孔用ドリル)
4 第1のガイド筒部
5 連結部材(連結部)
6 下孔用ドリル
7 第2のガイド筒部
7b 雄ネジ
10 骨プレート
10a ネジ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮外から脛骨付着部へ刺入して保持され穿孔位置を指示する穿孔指示部と、
該穿孔指示部を通過する直線を軸線として、脛骨の高位前側面から前記脛骨に貫通孔を穿孔するための貫通孔用ドリルを貫通させて案内する第1のガイド筒部と、
該第1のガイド筒部と前記穿孔指示部とを位置決め状態に連結する連結部と、
該連結部に取り付けられ、前記脛骨の高位内側面から前記脛骨に下孔を形成するための下孔用ドリルを貫通させて案内する第2のガイド筒部とを備え、
該第2のガイド筒部が、その軸線回りに回転可能に前記連結部に取り付けられるとともに、その先端に、前記脛骨の高位内側面に沿って配置される骨プレートに設けられたネジ孔に締結される雄ネジを備え、
前記第1のガイド筒部と前記第2のガイド筒部とが、前記貫通孔用ドリルにより形成される貫通孔と、前記下孔用ドリルにより形成される下孔とが相互に干渉しない位置に配置されている脛骨用ドリルガイド装置。
【請求項2】
前記穿孔指示部が、前記第1のガイド筒部の軸線に沿って移動可能に設けられている請求項1に記載の脛骨用ドリルガイド装置。
【請求項3】
前記第2のガイド筒部が、前記第1のガイド筒部との間隔を調節可能に前記連結部に取り付けられている請求項1または請求項2に記載の脛骨用ドリルガイド装置。
【請求項4】
前記第2のガイド筒部が、前記第1のガイド筒部との相対的な角度を調節可能に前記連結部に取り付けられている請求項1または請求項2に記載の脛骨用ドリルガイド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−165977(P2012−165977A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31455(P2011−31455)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(304050912)オリンパステルモバイオマテリアル株式会社 (99)
【Fターム(参考)】