説明

脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスおよびそのプレバイオティクス物質としての使用

本発明は、タンパク質およびペプチドをほとんど含まない脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキス、ならびに前記エキスに含まれる成分をはじめとするオリゴ糖の成分に関する。本発明は、その調製方法ならびにそのプレバイオティクス物質としての使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質およびペプチドをほとんど含まない脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキス、ならびに前記エキスに含まれる成分をはじめとするオリゴ糖の成分に関する。本発明は、その調製方法ならびにそのプレバイオティクス物質としての使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
マメ科植物は農産物加産業の優れた原料となり、特に、タンパク質、とりわけアミロースが豊富な澱粉、繊維および澱粉の派生物(グルコースシロップ、マルトデキストリン、デキストロースまたはイソグルコースなど)を生成するための優れた原料となるものである。
【0003】
これらの生成物は、接着剤部門や紙部門などの多様な分野で販路が見出されるが、特に、人間用の食品でも動物用の食品でもマメ科植物の栄養価値を無視できない食品分野での販路が見込まれている。そのため、このような分野の中でもインゲン、エンドウおよびソラマメなど実のなるマメ科植物は、エネルギーおよびタンパク質の摂取に幅広く使用されている。実際、乾燥エンドウの実は、実質的には澱粉で形成されショ糖およびオリゴ糖でも形成されている糖質、(リジン含有率の高い)タンパク質および繊維が豊富である。
【0004】
栄養価の利点とは逆に、乾燥エンドウなどのマメ科植物は消化率が悪く、調理および消費する前に酸性環境に浸す必要があることが多い。この欠点は主に、D−ガラクトース、D−グルコースおよびD−フルクトースの単位で構成されるα−ガラクトシルオリゴ糖の含有率が高いことに起因する。実際、これらのオリゴ糖は、(α−1,6−ガラクトシド類とβ−1−4フラクトシド類との結合を弱化させることができない)ヒト酵素では消化性にならず、鼓腸現象を引き起こすウェルシュ菌(Clostridium perfringens)などの細菌の発酵基質を提供する大腸内までそのままの状態で運搬される。何人かの研究者によれば、インゲン(Phaseolus vulgaris)の場合この現象は特に、インゲンに含まれるラフィノースのフルクトースの末端構造に起因することがわかった(MYHARA RMら、Can.Inst.Food Soi.Technol.J.、第21巻、第3号、第245〜250頁、1988年)。
【0005】
よってこれらのオリゴ糖は一般に、このようなオリゴ糖の含有率が低い系統の農作物(特に大豆またはインゲン)の経路か(BURBANO C.ら、J.Sci.Food Agric、第79巻、第1468〜1472頁、1999年)、物理的な分離および除去か、あるいは一般にこれらのマメ科植物の消費に先立って実施される(α−ガラクトシダーゼを用いた)酵素加水分解または発酵加水分解かによって除去されるが、大腸内に到達する前にこれらのオリゴ糖を加水分解して消化性成分にするための酵素で構成される栄養補助食品の摂取によっても除去される(米国特許第5,651,967号)。
【0006】
米国特許第4,008,334号には、パン酵母を用いた酵素消化によって、特に大豆由来でラフィノースおよびスタキオースを含む植物性タンパク質から可溶性炭水化物を除去するための方法が提案されている。同じく、米国特許第4,216,235号には、酵母サッカロマイセスウバルム(Saccharomyces uvarum) を使用してメリビオースおよびマンニノトリオースをはじめとする大豆オリゴ糖を弱体化させる方法が示唆されている。
【0007】
エンドウの場合、オリゴ糖は、工場でマメ科植物の実を加工する際に除去されることが最も多い。エンドウの精製によって生じるオリゴ糖の量は急激に増加しており、現在ヨーロッパおよびカナダで年間25,000tを上回ると考えられている。エンドウは、下水処理場での処理を避けるため、消化率が低いにもかかわらず、一般に農家では家畜の飼料となってしまっている。しかしながらこの対策は、精製によって生じる水溶性エキスが大幅に希釈されるためにエネルギーコストがかかることから、確実に保存し、動物を介した運搬および使用を可能にするにはエキスを濃縮する必要がある。
【0008】
よって、これらの副産物に価値を生むことができる手段を備えることが有用であろう。
【0009】
この観点から、米国特許出願公開第2004/0198965号では、D−ガラクトースの合成に、とりわけ大豆に存在するオリゴ糖を使用することが示唆されている。
【0010】
本発明は、これらの副産物の別の使用法を提供することを目的とする。具体的には、タンパク質およびペプチドをほとんど含まずオリゴ糖が豊富なエンドウの可溶性部分を、オリゴ糖を脱フルクトシル化した後にプレバイオティクス物質として有用に使用することができることを出願人が明らかにする。
【0011】
「プレバイオティクス」とは、難消化性で、選別的に発酵した食品成分のことであり、これは腸内細菌叢の組成および/または活動に特別な変化をもたらし、宿主の心と体の健康に有益なものである(Gibson GRら、Nutrition Research Reviews、第17巻: 第259〜275頁、2004年)。プレバイオティクスはとりわけ、腸障害を予防し、ミネラル分の吸収を向上させ、脂質代謝を調節し、かつ/または免疫系を刺激することができるビフィズス菌および乳酸菌など、大腸に有利に働く細菌に対する食品と考えることができる。
【0012】
食品成分の摂取によって腸内フローラのバランスの調節が可能であることがわかって以来、「プレバイオティクス」と呼ばれる数多くの候補が研究されてきた。そのほとんどは植物由来の炭水化物である。最もよく知られ、かつ最も特徴的なものはフルクトースの重合体であるフルクタンで、フルクタンには、一般にチコリ根あるいはリュウゼツランから抽出されるイヌリン、およびイヌリンの加水分解かショ糖およびフルクトースからの生合成かによって生成されるフラクトオリゴ糖(FOS)がある。
【0013】
その他のオリゴ糖にも、ある程度明らかになっているプレバイオティクスの特性が備わっている。ガラクトオリゴ糖(GOS)または母乳内に存在する化合物にきわめて近い「トランスガラクトオリゴ糖」(TOS)、大豆オリゴ糖(SOS)、イソマルトオリゴ糖(IMOS)、ラクチュロース、ラフィノース、キシロオリゴ糖などである。
【0014】
きわめて特徴的なプレバイオティクス(FOSおよびGOSなど)に対しても多数の候補分子に対してもきわめて多くの研究が実施されているものの、健康機能性食品・飲料の(潜在的)製造者が研究している以下の特性を併せ持つプレバイオティクスが現時点で欠如している。その特性とは、簡易かつ経済的な製造方法、期待する効果を実際に得るのに十分な濃度の使用を可能にするきわめて高い腸の耐性、加熱方法および食品産業の幅広い部門に通常多い酸性環境に対する高い安定性である。
【0015】
したがって、イヌリンおよびFOSは平均的な腸の耐性を備えている。何人かの研究者によれば、FOSによる不快感の症状は、2.5g/日の摂取で被験者の25%、20g/日の摂取で被験者の75%に現れる。イヌリンの耐性はFOSの耐性と対等であるが、ビフィズス効果を得るのに有効なイヌリンの用量はFOSよりも多いため、ビフィズス効果を得るための最低用量と腸の耐性問題を回避するための最大用量との間の調整が特に問題となっている。その上、イヌリンおよびFOSは、酸および熱に対しては不安定である。
【0016】
これは、プレバイオティクスを活性化させるXOS、ラフィノースおよびSOSについては異なる。ただし、これらは腸の耐性がきわめて弱い。
【0017】
酸および熱に対する良好な安定性、および良好な耐性を備えているピロデキストリン、IMOSおよびポリデキストロースは逆に、プレバイオティクスの特異性が低く(大腸細菌への刺激が未分化)かつ/または難消化性が低いことから、有効性が低い。
【0018】
これらに対してGOSは、腸の耐性があり、酸およびプロセスに対する安定性が高い。これらはβ−ガラクトシダーゼを用いて乳糖からのトランスガラクトシル化反応(重合)によって得られる。反応収率は低く、調査した化合物(β−GOS)の合成によってマイナスの影響を受けるため、トランスガラクトシル化およびプレバイオティクスの利用に十分な精度を備える生成物の取得に有利な条件を維持することができるように、反応生成物に対するさまざまな分離技術、とりわけ膜またはクロマトグラフィの技術が必要である。このような技術はコストがかかるため、プレバイオティクスであるGOSの安価な提供とは相反する結果となる。
【0019】
その結果、既存のプレバイオティクスは、限られた数の食品用途(特に人工母乳)で、in vitroおよびin vivoの臨床研究で理論上常に効果が保証されるわけではない濃度のものにしか使用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第5,651,967号
【特許文献2】米国特許第4,008,334号
【特許文献3】米国特許第4,216,235号
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0198965号
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】MYHARA RM et al.,Can.Inst.Food Soi.Technol.J.,Vol.21,n°3,pp.245−250,1988
【非特許文献2】BURBANO C.et al.,J.Sci.Food Agric,Vol.79,pp.1468−1472,1999
【非特許文献3】Gibson GR et al.,Nutrition Research Reviews,17:259−275,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
そこで出願人は、脱フルクトシル化したエンドウのエキス中に存在するオリゴ糖を混合させることにより、プレバイオティクスに対して研究されている特性の妥協点が得られることを明らかにした。
【課題を解決するための手段】
【0023】
したがって本発明は、タンパク質およびペプチドをほぼ含まない脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスを目的とする。
【0024】
また本発明は、この脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスのオリゴ糖の特色を持つ組成であって、マンニノテトラオース(manninoteraose)/メリビオースの比率が少なくとも1:1、かつ好ましくは少なくとも4:1、もしくは少なくとも5:1(かつたとえば最大約10:1)であるエンドウ、および/またはマンニノトリオース/マンニノテトラオースの比率が0.3:1〜4:1、好ましくは0.8:1〜1:1であるエンドウ中に、メリビオース、マンニノトリオースおよびマンニノテトラオースを含有し、好ましくは実質的にこれらで構成される組成も目的とする。
【0025】
さらに本発明は、タンパク質およびペプチドをほとんど含まない脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスまたは前述の組成のプレバイオティクス物質としての使用も目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0026】
「タンパク質およびペプチドを実質的に含まない」とは、本発明による水溶性エキスが含有するこのような成分が(乾燥原料中)5重量%未満であるという意味である。これらの成分はとりわけアルブミンを含んでいる。
【0027】
本発明による脱フルクトシル化したエンドウのエキスは、タンパク質およびペプチドをほとんど含まない可溶性物質中に存在するオリゴ糖の脱フルクトシル化によって得られる。
【0028】
このエキスの取得方法はとりわけ、
1− 凝結可能なタンパク質、不溶性繊維および/またはエンドウまたはエンドウの粉の澱粉を分離してエンドウの水溶性エキスを得るステップと、
2− 特に抗トリプシン作用のある要素から可溶性ペプチドを除去するステップと、
3− 前記エキス中に存在するオリゴ糖の脱フルクトシル化を可能にする条件下で、たとえばサッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から生じるインベルターゼを前記エキスに対して作用させるステップと、
4− このようにして得られた脱フルクトシル化したエキスを回収するステップ
とを含むことができる。
【0029】
よって本発明は、タンパク質およびペプチドをほとんど含まない脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスの調製方法であって、少なくとも上記の一連のステップを含む方法も目的とする。
【0030】
当然ながら、後述するように、本方法はこれ以外にも前述したステップの予備ステップ、中間ステップまたは後続ステップを含んでもよい。したがって、本方法はとりわけ、ミネラル分を除去(脱塩)して特定の用途における着色反応を減少させる少なくとも1つのステップを含んでもよい。他のミネラル分を除去する前に、(たとえば結晶化によって)カリを除去するステップで、製糖工場での発酵残渣に対して処理されるステップとほぼ同じステップを適用することが有利である。エンドウの可溶性物質中に存在する塩は特にカリウムが豊富であるため(約35%)、この処理には、他の技術(とりわけイオン交換樹脂)で除去しながらミネラル分の含有率を約50%低下させることと、有機栽培で認可される価値の高い肥料となるカリを発生させることとの二重の利点がある。この処理は一般に、(多くはH2SO4による)酸化とそのあとのアンモニアでの中和からなり、結晶はデカンテーションおよび/または遠心分離によって回収する。変形例では、コストを下げつつ本方法を最適化することができる膜の技術(とりわけ電気透析)を使用してもよい。
【0031】
このような方法は一般に、天然のエンドウに対して実施される。本発明で使用するエンドウは、しわのないまたはしわのあるエンドウの品種とすることができ、種Pisumsativum L.のエンドウ、とりわけ亜種elatius、transcaucasicum Govorov、syriacum Berger、abyssinicum Govorov、asiaticum Govorov、sativum (たとえば品種Arvense L.、sativumまたはmacrocarpon)の中から選択することが有利である。
【0032】
エンドウは、次に水中で懸濁状にする粉末に粉砕する前にあらかじめ洗浄、選別、不要部分の除去、および/または粉塵の除去を行ってもよい。
【0033】
凝結可能なタンパク質と澱粉および/または不溶性繊維との分離は、当業者に周知のあらゆる手段で行い、とりわけ抽出、遠心分離、デカンテーション、膜への濾過(とりわけ限外濾過)またはタンパク質の等電点沈殿によって、あるいはこれらの手段を複数組み合わせ、場合によっては逆浸透および/または真空蒸発による濃縮ステップと組み合わせることによって行う。このような分離方法の一例が特許文献第WO2007/017572号に記載されている。
【0034】
得られたエンドウの可溶性物質は、ペプチドおよびオリゴ糖が豊富である。これらのエンドウの可溶性物質を処理し、有利には限外濾過および/またはナノ濾過によって分子量が5000Daを上回るペプチドを分離する。ここで注意すべきことは、回収可能なペプチド部分はアルブミンPAlbが豊富になり(分子量11,000Da)、穀物に適しているその殺虫特性が特許文献第EP1078085号に記載されていることである。よって、食品以外のこのような使用に対するこの部分の回収は、本発明の新たな潜在的利点となる。
【0035】
このステップにより、オリゴ糖が豊富でタンパク質およびペプチドをほとんど含まない水溶性部分が得られ、この部分は有利には逆浸透によって濃縮することができる。
【0036】
次に、この部分に含まれる残留するエンドウのオリゴ糖の脱フルクトシル化は、エンドウの可溶性物質中に存在するオリゴ糖の末端のフルクトース構造を除去することができる酸加水分解、熱的および/または酵素的方法などのあらゆる方法で、常にα−ガラクトシド結合を保持し、かつ特にインベルターゼ(またはβ−フルクトフラノシダーゼ)の作用を持つ酵素または酵母(有利にはサッカロマイセスセレビシエ)の作用を受けた状態で連続的または順次実施することができる。このステップにより、ラフィノース、スタキオースおよびベルバスコースをそれぞれメリビオース、マンニノトリオースおよびマンニノテトラオースに変換することができる。
【0037】
自由酵素(サッカロマイセスセレビシエのインベルターゼ)は、たとえば乾燥した状態で200〜300UI.mg−1の量を、温度40〜50℃、有利にはpH5.0〜5.4で、たとえば10〜14時間に及ぶ間、濃度100〜400g/l(たとえば約200g/l)の浸透液に対して浸透液の乾燥原料1グラムあたり酵素50〜70UIの割合で使用することができる。
【0038】
本脱フルクトシル化方法において酵素よりもむしろ酵母を使用することにより、酵母が反応によって生成されたフルクトースを使用し、これによってフルクトースが除去されるため、糖のない生成物を(あとで分離することなく)直接回収することができるという利点がある。本発明による方法が酵素を使用する場合は逆に、本方法はフルクトースを除去する新たなステップを含むことになる。
【0039】
本方法は、
− 使用する原材料は、好ましくは農産物加工産業の廃棄物であり、
− 有利には、エネルギーをそれほど消費しない膜による精製技術を使用し、
− 修正されていない微生物を使用して、自然なバイオテクノロジーを用いるかぎり、
先行技術によってプレバイオティクスを得る方法と比較して無視できない環境面での利点がある。
【0040】
得られた脱フルクトシル化したエンドウの可溶性エキスは、液体の形態または場合によっては脱水したのちにとりわけ微粒化または凍結乾燥による粉末の形態で使用することができる。平均分子量が少なく、多分散性であることから、液体の形態での使用が好ましく、生成物によって粘着性が弱まり、結晶化の問題が生じることなく微生物の安定性が向上する。
【0041】
脱フルクトシル化したエンドウのオリゴ糖の特色は、脱フルクトシル化した他のマメ科植物(大豆またはインゲンなど)から生じたオリゴ糖との混合物と比較して、研究されているプレバイオティクスの有効性およびその耐性面に関して特に有利であることが明らかになった。とりわけ、エンドウの緩下作用は大豆よりも弱く、大腸の入口だけでなく近位大腸および中部大腸内に対してもプレバイオティクス効果がある。本脱フルクトシル化方法はさらに、エンドウの場合、ショ糖の分離ステップも必要なく、大豆の場合は逆にその可溶性物質のミネラル塩がきわめて豊富であるために不可欠となるミネラル分の除去ステップも必要ないかぎり、豆およびインゲンなどの他のマメ科植物ほど複雑ではなく、またコストもかからない。
【0042】
さらに、本発明によって脱フルクトシル化したエンドウのエキスはフルクトースを除去するため、低う蝕原性でカロリー値が低い。
【0043】
よって本発明による脱フルクトシル化したエンドウのエキスおよびこれに類似の組成は、以下の利点の少なくとも1つを得るための優良なプレバイオティクスの成分となる。その利点とは、大腸の細菌組成の修正、ビフィズス菌および乳酸菌の刺激、有害な細菌およびクロストリジウム属、大腸菌などの病原菌の相対量の減少、内腔pHの低下、ミネラル分(特にカルシウム)吸収率の増大、解毒作用のある細菌酵素の刺激、毒性の細菌酵素の抑制、排泄を促す胆汁酸塩の不溶化、胆汁酸変換の阻害、フェノールおよびインドールなどの有害化合物生成の減少、便秘の減少、感染性下痢のリスクの軽減、炎症性腸疾患の減少、短鎖脂肪酸の生成の刺激、アポトーシスの刺激、大腸癌の予防、腸バリアの強化、細菌転座および/または細菌毒素の減少、満腹ホルモンの分泌の刺激、コレステロール率の低下、体重の減少、体重増加の低下、食物摂取の低下、脂質生成の減少および/または代謝障害の症状の減少である。
【0044】
よってこれらを目的として、または上記の利点の少なくとも1つを得るための組成を製造するために使用することが有利である。
【0045】
このほか、取得が簡易で製造コストがわずかであることから、本発明による脱フルクトシル化したエンドウのエキスは大量消費製品に使用するのに大変適している。特に、貯蔵、熱および酸に対する安定性の点で、長期保存食品および砂糖入りの炭酸飲料への使用に大変適している。
【0046】
これらの用途では、エンドウエキスの脱フルクトシル化は、エキスがプレバイオティクス特性を付与することになる食品または飲料に使用する前に実施してもよい。変形例では、脱フルクトシル化は調製処理中および/または(この食品またはこの飲料中に存在するインベルターゼの酸性作用または活性作用による)貯蔵の過程で実施してもよい。
【0047】
よって本発明は、少なくとも1つの甘味料および脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスおよび/または前述したような組成を含有する炭酸飲料も目的とする。
【0048】
本発明はまた、脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスおよび/または前述したような組成を含有する長期保存食品、ヨーグルトまたは乳児用ミルクなどの食品も目的とする。
【0049】
変形例では、本発明による脱フルクトシル化したエンドウのエキスまたはこれに対応する組成は、たとえばシロップ、カプセル、錠剤、経口懸濁液用の粉末、または経口投与に適するその他のあらゆる生薬形態の栄養補助食品として服用してもよい。
【0050】
本発明の一実施形態によれば、本発明による脱フルクトシル化したエンドウのエキスまたはこれに対応する組成を含有する飲料、食品または栄養補助食品はさらに、少なくとも1つの別のプレバイオティクス物質で、とりわけ脱フルクトシル化した大豆、脱フルクトシル化したソラマメ、または脱フルクトシル化した発酵残渣もしくはテンサイの可溶性物質から生じたプレバイオティクス物質を含んでもよい。
【0051】
次に、以下の非限定的な実施例により本発明を説明する。
【実施例1】
【0052】
実施例1:脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスの調製
【0053】
澱粉および繊維を抽出してタンパク質を凝固させたのちに得られた、乾燥原料が50重量%であるエンドウの可溶性部分を溶かして乾燥原料を15重量%にし、この部分を浄化してペプチドを除去するために遮断閾値を5,000Daに設定した限外濾過膜を用いて濾過する。このステップに引き続き逆浸透によって浸透液を濃縮し、乾燥原料を20重量%まで引き上げる。
【0054】
同じように、1mg/mlのインベルターゼ溶液を100ml調製し、これも同じく遠心分離によって30分間洗浄する。底の残留物に水50mlを注入する。次にエンドウの一部分980mlを、二重壁の反応装置および50℃のウォーターバスに浸した攪拌器内で酵素溶液50mlと混合させる。加水分解は、3,5−ジニトロサリチル酸(DNS)のアルカリ水溶液を用いて還元糖の分量を測定することにより、さまざまな時間間隔で制御する。少なくとも12時間加水分解したあと酵素を中和し、次に得られた生成物を遠心分離したのちに濾過して透明な溶液を得る。次にこの溶液を、透明な液が得られるまで70℃の真空下でロータリーエバポレーターによって濃縮する。
【実施例2】
【0055】
実施例2:脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスの消化耐性に関する試験
【0056】
2−1:試験の目的
本試験の目的は、本発明(脱フルクトシル化したオリゴ糖:OD)から生じた生成物の消化耐性を、すでに市場に存在する2つのプレバイオティクスの消化耐性およびプラセボの消化耐性と比較することである。
【0057】
消化耐性に関する本試験を、フランスで17例のボランティア(男8例、女9例)に対して二重盲検法で実施した。
【0058】
2−2:操作プロトコル
本試験に参加したボランティアは、1回の服用でオレンジジュースに溶かした有効成分20gを無作為に消費し、各服用後は48時間の休止間隔をおき、合計で4回服用するようにした。
【0059】
試験を実施したさまざまな生成物は、
− 脱フルクトシル化したオリゴ糖(OD:本発明の生成物)、
− β−ガラクトオリゴ糖(β−GOS)、
− フルクトオリゴ糖(FOS)、
− ショ糖(プラセボ)
であった。
【0060】
消化耐性は、6つの異なるパラメータ:
− 腹痛、
− 鼓張、
− 腹部の雑音(グル音、ゴロゴロ鳴る音など)、
− 鼓腸、
− 吐気、吐出または胸やけ、
− 便意
に関して発生頻度(「症状なし」の1から「症状が頻繁」の5までの点数)および強度(「症状が感じられない」の1から「重大および/または容認しがたい症状」の5までの点数)を問う質問により評価した。
【0061】
2−3:試験結果および結論
試験結果は以下の表1のとおりであり、プラセボの消化耐性と比較したOD、β−GOSおよびFOSの消化耐性の評価に基づいて各パラメータに対して得られた点数の平均をまとめたものである。
【0062】
【表1】

F:症状の発生頻度;I:症状の強度
a、b:異なる文字が付された生成物の点数は他の点数と有意に異なっている(p<0.05;ダンカンの多重範囲検定)
【0063】
表1からわかるように、試験を実施したさまざまな生成物を消費した際に見られた症状の発生頻度および重傷度から、これらの生成物が消化不耐性の原因ではないことがわかった(累積点数は最大点数の3分の1にほぼ等しい)。
【0064】
しかしながら、生成物同士の間では、以下のいくつかの相違が明らかになった:
− ODの耐性は、(症状全般に対する点数が最も低い)プラセボと比較して(現時点での市場のプレバイオティクスでは最も高い耐性を示す生成物である)β−GOSと同等の耐性であった。
− ODは(症状全般に対する点数が最も高く、依然として耐性が最も低い生成物である)FOSよりも消化耐性が良好であることがわかった。
【0065】
本試験より、本発明から生じた生成物が十分な消化耐性を備えていることも明らかになった。
【実施例3】
【0066】
実施例3:脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスのビフィズス効果の試験
【0067】
本発明によるエキスの腸内細菌叢に対するビフィズス効果を評価するため、同数の2グループに分けた健常者で通院するボランティア36例(20〜45歳の男女)に対し、プラセボに対抗して無作為にモノセントリックの栄養試験を二重盲検法で実施する。本発明による生成物は、1回の服用でオリゴ糖7g(95%が乾燥原料)/日の用量を消費し、プラセボは脱水したグルコースのシロップで構成して同じ用量を消費する。治療期間は3週間である。ビフィズス菌は、定量PCRによってリアルタイムで定量する。
【実施例4】
【0068】
実施例4:脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスの酸性環境での安定性試験
【0069】
本発明による脱フルクトシル化したエンドウエキスの酸性環境における安定性を、pHが2.8である無糖コーラタイプの飲料で評価する。試験は、同じエンドウエキスだが脱フルクトシル化していないものとの比較により実施する。
【0070】
そのために、試験を実施したエキスを2.48g含んだこれらの各ロットのボトルの半分は室温で、残りの半分は37℃で1ヶ月間貯蔵する。
【0071】
それぞれの温度で保存した各ロットのサンプルを週2回採取する。サンプルをHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で分析し、期間中のオリゴ糖の濃度の変化を測定し、それによってオリゴ糖の安定性を測定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質およびペプチドをほとんど含まない脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキス。
【請求項2】
種Pisum sativum L.のエンドウ、とりわけ亜種elatius、transcaucasicum Govorov、syriacum Berger、abyssinicum Govorov、asiaticum Govorovまたはsativumの中から選択されるエンドウから得られることを特徴とする、請求項1に記載のエキス。
【請求項3】
少なくとも以下の一連のステップ:
− 凝結可能なタンパク質、不溶性繊維および/またはエンドウまたはエンドウの粉の澱粉を分離してエンドウの水溶性エキスを得るステップ、
− 特に抗トリプシン作用のある要素から可溶性ペプチドを除去するステップ、
− 前記エキス中に存在するオリゴ糖の脱フルクトシル化を可能にする条件下で、たとえばサッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から生じるインベルターゼを前記エキスに対して作用させるステップ、
− このようにして得られた脱フルクトシル化した前記エキスを回収するステップ
を含む、請求項1および2のいずれか一項に記載の脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスの調製方法。
【請求項4】
マンニノテトラオース/メリビオースの比率が少なくとも1:1、かつ好ましくは少なくとも4:1、もしくは少なくとも5:1であるエンドウ、および/またはマンニノトリオース/マンニノテトラオースの比率が0.3:1〜4:1、好ましくは0.8:1〜1:1であるエンドウ中に、メリビオース、マンニノトリオースおよびマンニノテトラオースを含有し、好ましくは実質的にこれらで構成される組成。
【請求項5】
請求項1および2のいずれか一項に記載の脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキス、または請求項4に記載の組成のプレバイオティクス物質としての使用。
【請求項6】
大腸の細菌組成の修正、ビフィズス菌および乳酸菌の刺激、有害な細菌およびクロストリジウム属、大腸菌などの病原菌の相対量の減少、内腔 pHの低下、ミネラル分(特にカルシウム)吸収率の増大、解毒作用のある細菌酵素の刺激、毒性の細菌酵素の抑制、排泄を促す胆汁酸塩 の不溶化、胆汁酸変換の阻害、フェノールおよびインドールなどの有害化合物生成の減少、便秘の減少、感染性下痢のリスクの軽減、炎症性腸疾患の減少、短鎖脂肪酸の生成の刺激、アポトーシスの刺激、大腸癌の予防、腸バリアの強化、細菌転座および/または 細菌毒素の減少、満腹ホルモンの分泌の刺激、コレステロール率の低下、体重の減少、体重増加の低下、食物摂取の低下、脂質生成の減少および/または代謝障害の症状の減少を目的とする組成を製造するための、請求項1および2のいずれか一項に記載の脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスまたは請求項4に記載の組成の使用。
【請求項7】
少なくとも1つの甘味料ならびに請求項1および2のいずれか一項に記載の脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスおよび/または請求項4に記載の組成を含有する炭酸飲料。
【請求項8】
請求項1および2のいずれか一項に記載の脱フルクトシル化したエンドウの水溶性エキスおよび/または請求項4に記載の組成を含有する長期保存食品、ヨーグルトまたは乳児用ミルクなどの食品。

【公表番号】特表2012−521751(P2012−521751A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501339(P2012−501339)
【出願日】平成22年3月22日(2010.3.22)
【国際出願番号】PCT/FR2010/000238
【国際公開番号】WO2010/109093
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(511231621)
【Fターム(参考)】