説明

脱リン材、脱リン装置および脱リン副産物

【課題】脱リン処理の反応速度が良好であり、リン含有廃水からリンを除去し易い脱リン材、脱リン装置および脱リン副産物を提供する。
【解決手段】粉砕されたコンクリート廃材を粒径1mm以下に分級した脱リン材により、リン含有廃水の脱リン処理を行う脱リン装置1であって、反応槽2を備える。この反応槽2にリン含有廃水を供給する廃水供給手段3を設ける。また、反応槽2に脱リン材を供給する脱リン材供給手段4を設ける。さらに、反応槽2にリン含有廃水および脱リン材を攪拌する攪拌手段5および反応槽2内の晶析物を回収する回収手段6を設ける。そして、反応槽2内に供給したリン含有廃水および脱リン材を攪拌し、反応槽2内にてリン酸カルシウムを晶析させてリン含有廃水からリンを除去し、晶析した脱リン副産物であるリン酸カルシウムを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば下水等のリン含有廃水からリンを除去する脱リン材、この脱リン材を用いてリン含有廃水からリンを除去する脱リン装置およびこの脱リン装置にて回収される脱リン副産物に関する。
【背景技術】
【0002】
リンは、生物の必須元素であり、例えば肥料の原料として不可欠であるが、今後更なる需要増が見込まれ枯渇が懸念されている。リン資源の主な産地はアメリカ、中国、モロッコであり、わが国でもリン資源の消費量の略100%を輸入に依存している。リンを原料とする肥料は食物生産に欠かせないものとなっており、近年、リンを回収または再利用する技術の開発が進められている。
【0003】
ここで、下水中にはリンが比較的高濃度で溶存しており、その大部分がリン酸イオンの形で存在するため化学的な方法で回収可能であり、リンの回収技術として下水等のリン含有廃水からリンを回収する技術が種々開発されている。なお、下水からリンを回収することにより、富栄養化による水質汚染の解決にもつながる。
【0004】
下水からリンを回収する技術としては、晶析法や凝集法が考えられ、晶析法は、前記下水中にマグネシウム塩やカルシウム塩を添加して、MAP(Magnesium Ammonium Phosphate)やHAP(Hydroxyapatite)の結晶としてリン酸を析出させる方法である。この晶析法は凝集法に比べて、発生汚泥量が増えないこと、生成物の純度が高いことなどの利点がある。
【0005】
このような晶析法に使用され、リン含有廃水を脱リンするための脱リン材としては、セメント材料と、水酸化カルシウムまたは硫化カルシウムと、水とからなる組成物を造粒し、得られた造粒物の表面にカルシウム化合物を被覆して炭酸化処理を施すことにより形成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、脱リン材としては、体積平均粒径が5μm〜0.3mmの軽量気泡コンクリートの粉体と、普通セメント等の石灰質原料と、水とを混和して造粒し、この造粒物をオートクレーブ養生して形成されたものも知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
さらに、晶析法による脱リン処理に使用される脱リン装置としては、脱リン材が充填された脱リン塔およびコンクリート廃材が充填されたコンクリート廃材収納塔を備えた脱リン装置が知られている(例えば、特許文献3参照。)。この脱リン装置では、下水等のリン含有廃水を前記脱リン塔と前記コンクリート廃材収納塔との間で循環させ、前記脱リン塔にて前記リン含有廃水が脱リンされてリン酸カルシウムが回収され、また、この脱リン除去後の処理液の一部が前記コンクリート廃材収納塔へ供給され、このコンクリート廃材収納塔にて前記処下液にカルシウムイオンが供給されかつpHが回復され、再び前記脱リン塔にて脱リンされる。
【特許文献1】特開2003−305479号公報(第2−4頁)
【特許文献2】特開2008−100159号公報(第2−5頁)
【特許文献3】特開2001−47063号公報(第2−3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2および特許文献3の脱リン材は、製造工程が煩雑であり、容易に製造できない問題が考えられる。
【0009】
また、上述した特許文献1の脱リン装置による脱リンでは、原料を容易に用意できるが、コンクリート廃材収納塔に充填されるコンクリート廃材として建築材料の製造工程で発生した端材の粒径約5mmの粉砕物を使用しており、コンクリート廃材の粒径が5mmであると、一般的に粒径が5mm以上である粗骨材や、一般的に粒径が5mm以下である細骨材が含有されてしまう。これらの骨材はリン含有廃水に対する脱リン処理の反応に寄与せず、また、前記骨材がコンクリート廃材に含有されているとカルシウム含有量が低下するため、脱リン処理の反応速度が低下してリン含有廃水からリンが除去し難くなるおそれがある。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、脱リン処理の反応速度が良好であり、リン含有廃水からリンを除去し易い脱リン材、脱リン装置および脱リン副産物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載された脱リン材は、反応式:10Ca2++4PO3−+2OH→Ca10(PO(OH)に基づいてリン含有廃水からリンを除去する脱リン処理に用いられる脱リン材であって、粉砕されたコンクリート廃材が粒径1mm以下に分級されたものである。
【0012】
請求項2に記載された脱リン装置は、請求項1に記載された脱リン材によりリン含有廃水の脱リン処理を行う脱リン装置であって、反応槽と、この反応槽に設けられこの反応槽内へリン含有廃水を供給する廃水供給手段と、前記反応槽に設けられこの反応槽内へ脱リン材を供給する脱リン材供給手段と、前記反応槽に設けられこの反応槽内にてリン含有廃水および脱リン材を攪拌する攪拌手段と、前記反応槽に設けられこの反応槽内の晶析物を回収する回収手段とを具備し、前記反応槽内に供給された前記リン含有廃水および前記脱リン材を攪拌し、前記反応槽内にてリン酸カルシウムを晶析させることにより前記リン含有廃水からリンを除去し、晶析した脱リン副産物を回収するものである。
【0013】
請求項3に記載された脱リン副産物は、請求項2に記載した脱リン装置にて回収される脱リン副産物であって、リンの含有率がP換算で15wt%以上であるものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載された発明によれば、粉砕されたコンクリート廃材を粒径1mm以下に分級するだけであるので、容易に製造できる。また、このように製造した脱リン材は、粉砕されたコンクリート廃材を粒径が1mm以下に分級することにより、前記脱リン材の骨材の含有量を抑制できるので、脱リン処理の反応速度が良好であり、リン含有廃水からリンを除去し易い。
【0015】
請求項2に記載された発明によれば、請求項1記載の脱リン材を使用することにより、一つの反応槽にてカルシウムイオンおよび水酸化物イオンの供給とリン酸カルシウムの晶析とをできるので、簡単な構成で脱リン装置を形成できる。
【0016】
請求項3に記載された発明によれば、脱リン副産物は、リンの含有率がP換算で15wt%以上であるので、肥料として有用な脱リン副産物を回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態の構成について図1を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1に示す脱リン装置1は、リン含有廃水と脱リン材とを反応させることにより、リン酸カルシウムを晶析させる晶析法にてリンを除去し、リン含有廃水の脱リン処理を行うものである。
【0019】
この脱リン装置1は、開放型の反応槽2を備えている。この反応槽2には、この反応槽2内へリン含有廃水を供給する廃水供給手段3および反応槽2内へ脱リン材を供給する脱リン材供給手段4が設けられている。また、反応槽2には、この反応槽2内の内容物を攪拌する攪拌手段5および反応槽2内の脱リン副産物である晶析物を回収する回収手段6が設けられている。
【0020】
反応槽2内に供給されたリン含有廃水および脱リン材を攪拌手段5にて攪拌することにより、反応槽2内にてリン酸カルシウムを晶析させ脱リン副産物が生成される。このリン酸カルシウムは、反応式:10Ca2++4PO3−+2OH→Ca10(PO(OH)に基づいて、リン含有廃水由来のリン酸イオンと、脱リン材由来のカルシウムイオンおよび水酸化物イオンとが反応して晶析する。また、リン含有廃水は、リン酸カルシウムの晶析によりリンが除去される。さらに、晶析した脱リン副産物が回収手段6にて回収され、脱リン処理後の処理液が、反応槽2に設けられた排水手段7にて排水される。
【0021】
廃水供給手段3、脱リン材供給手段4および排水手段7には、バルブ等の開閉手段8,9,10が設けられており、これら開閉手段8にてリン含有廃水の供給が操作され、開閉手段9にて脱リン材の供給が操作され、開閉手段10にて処理水の排水が操作される。
【0022】
反応槽2へ供給するリン含有廃水としては、例えば下水等が用いられ、特に下水を活性汚泥法で処理して汚泥とし、この汚泥を脱水する際に発生する余剰水である汚泥返送水が好ましい。この汚泥返送水はリンがリン酸として溶け込んでおり、リン濃度が約50mgPL−1と高く、リンを回収する際の反応効率が良好である。
【0023】
反応槽2へ供給する脱リン材としては、粉砕されたコンクリート廃材が1mm以下に分級されたものが用いられる。コンクリート中のセメント水和物部分は、水酸化カルシウム等の塩基性のカルシウム化合物を多く含有しており、水溶液中にて、反応式:Ca(OH)→Ca2++2OHに示す水酸化カルシウムの溶解反応を起こし、カルシウムイオンおよび水酸化物イオンとして作用する。したがって、セメント中のカルシウムイオンおよび水酸化物イオンがリン酸イオンと反応し、リン酸カルシウムが晶析する。
【0024】
しかし、通常、コンクリート廃材には、重量の7割程度の骨材が含まれており、この骨材はリン含有廃水の脱リン処理の反応には全く関与せず、骨材が含有することにより脱リン材の反応効率を悪化させてしまう。骨材には粗骨材と細骨材とが含まれ、一般的に、粗骨材は粒径が5mm以上、細骨材は粒径が5mm以下と規定される。また、セメント混和物部分は、骨材と比較して機械的性質が劣る。したがって、コンクリート廃材のセメント混和部を粉砕し、この粉砕されたコンクリート廃材を粒径1mm以下に分級することにより、骨材とセメント水和物部の微粉末とを分離し易く、骨材の含有量が抑制され、脱リン処理に必要なカルシウムイオンおよび水酸化物イオンを含むセメント水和物部の微粉末を脱リン材として用いることができる。ここで、近年、骨材資源の枯渇に伴い骨材のリサイクル化が進められており、この骨材のリサイクル技術として、例えば粉砕・すりもみ処理による方法等が確立されている。この粉砕・すりもみ処理の際には、廃セメント微粉末が副産物として発生する。この骨材のリサイクルの際の副産物である廃セメント微粉末を脱リン材として使用すると、脱リン材の製造コストを抑制できるので特に好ましい。
【0025】
攪拌手段5は、例えば、攪拌羽根が設けられた攪拌器等のように通常の攪拌作業に使用されるものが用いられている。
【0026】
回収手段6は、例えば、固液分離装置や遠心分離装置等の固体と液体とを分離できるものであればよい。この回収手段6にて脱リン副産物が回収された処理液は、排水経路11を通って排水される。
【0027】
また、回収される脱リン副産物は、肥料として有用なHAP(Hydroxyapatite)の結晶である。このHAPを晶析させる際には、リン酸イオン、カルシウムイオン、水酸化物イオンのバランスが重要である。すなわち、カルシウム添加量やpHを調整して、溶液中のイオン積[Ca2+10[PO3−[OHをHAPの溶解度積(10−114mol18−18)から過溶解度積(約10−80mol18−18)の間で操作することにより結晶質のHAPが種結晶上に成長する。一般的にはpHが7から9の間で析出操作が行われる。
【0028】
さらに、回収する脱リン副産物としては、クエン酸2%溶液に可溶なリンの含有率がP換算で15wt%以上であると、肥料法にて分類されている副産リン酸肥料に該当するので好ましい。
【0029】
そして、上記の脱リン材および脱リン装置1による脱リン処理に際しては、まず、廃水供給手段3により反応槽2にリン含有廃水である汚泥返送水を供給する。
【0030】
次いで、攪拌手段5にて攪拌しながら脱リン材供給手段4により反応槽2に脱リン材である廃セメント微粉末を供給する。なお、この廃セメント微粉末の供給により、反応槽2中の溶液にカルシウムイオンおよび水酸化物イオンが供給される。
【0031】
次いで、反応槽2内でリン含有廃水と脱リン材とを攪拌手段5にて攪拌することにより、リン含有廃水と脱リン材とが、反応式:10Ca2++4PO3−+2OH→Ca10(PO(OH)に基づいて反応する。この反応に際しては、脱リン材の不溶分が種結晶として作用し、また、脱リン材の表面のカルシウム分とリン酸とが直接反応してリン酸カルシウムであるHAPを晶析する。
【0032】
次いで、晶析したHAPの結晶を回収手段6により回収し、脱リン処理された処理液を排水する。
【0033】
このような脱リン処理に使用される脱リン材は、粉砕されたコンクリート廃材を粒径1mm以下に分級することにより、脱リン処理の反応に寄与しない脱リン材中の骨材の含有量を抑制できるので、脱リン処理の反応速度が良好であり、リン含有廃水からリンを除去し易い。また、粒径が小さい程、脱リン材の重量あたり表面積が増加するため、脱リンの際の反応速度が向上し、リン含有廃水からリンを除去し易い。さらに、粒径が小さい程、脱リン材の粒子の内部に存在するカルシウムも反応し易く、脱リン材が脱リン処理の反応に寄与し易くなる。
【0034】
脱リン材は、粉砕されたコンクリート廃材を粒径1mm以下に分級するだけであるので、容易に製造できる。
【0035】
また、脱リン材として、コンクリート廃棄物から骨材をリサイクルする際に発生する廃セメント微粉末を用いることにより、廃セメント微粉末は、骨材を再生する工程で発生した余剰物であるので、脱リン材の製造コストが実質的にほとんど発生しない。なお、従来、リン酸カルシウムを晶析させて脱リン処理をする場合は、原料費が設備運転費の約1割から5割と高いことが懸念されていたが、廃セメント微粉末を用いることで原料費を抑制できる。
【0036】
リン含有廃水として、汚泥返送水を用いることにより、この汚泥返送水中のリンの濃度が高いので、反応効率が良好であり、脱リン処理によってリン酸カルシウムを晶析させ易く、回収し易い。
【0037】
粒径が1mm以下の脱リン材を脱リン処理に用いることにより、水酸化カルシウムの溶出によるカルシウム供給およびpH上昇効果、ケイ酸カルシウム水和物等の不溶分の種結晶効果、脱リン材表面のカルシウム分とリン酸との直接反応効果が得られ、これらの効果により、リン含有廃水からリン酸カルシウムを晶析し易い。したがって、脱リン材を供給することにより、カルシウムイオンおよび水酸化物イオンを供給でき、リン含有廃水および脱リン材を攪拌することにより、脱リン材の不溶分が種結晶として作用して脱リン材表面のカルシウム分とリン酸とが直接反応しリン酸カルシウムが晶析してリンを除去できる。したがって、一つの反応槽2にて脱リン処理を行うことができる。このように一つの反応槽2にて脱リン処理を行うことにより、簡単な構成で脱リン装置1を形成できる。なお、一つの反応槽2により脱リン処理を行う構成には限定されず、粒径が1mm以下の脱リン材を使用する構成であれば、カルシウムイオンおよび水酸化物イオンを供給する溶出槽およびリン酸カルシウムを析出させる析出槽の二つの反応槽にて脱リン処理を行う構成等にしてもよい。
【0038】
粒径1mm以下の脱リン材は、上記のようにカルシウム含有量が高いので、クエン酸2%溶液に可溶なリンの含有率がP換算で15wt%以上である純度の高いリン酸カルシウムを晶析させた脱リン副産物として回収できる。このような脱リン処理によって晶析し回収される脱リン副産物は、クエン酸2%溶液に可溶なリンの含有率がP換算で15wt%以上であるので、肥料法にて分類されている副産リン酸肥料に該当する肥料として有用なリン酸カルシウムを回収できる。また、クエン酸2%溶液に可溶なリンの含有率がP換算で15w%以上のリン酸カルシウムは、その後特殊な処理を施さずに肥料としてそのまま使用できる。なお、クエン酸2%溶液に可溶なリンの含有率がP換算で15%以上のリン酸カルシウムを回収する構成のみには限定されず、処理の効率等を優先してリン含有量が15%以下のリン酸カルシウムを回収する構成としてもよい。
【実施例】
【0039】
次に、上記一実施の形態の実施例を説明する。
【0040】
本実施例では、リン含有廃水である下水のモデル水溶液として、リン酸二水素化カリウム水溶液を用いた。また、脱リン材として、廃セメント微粉末の試料を用いた。
【0041】
図2は、レーザ光散乱粒度分布計(島津製作所製SALD‐1100)を用いて行った廃セメント微粉末試料の粒度分布測定実験の結果を示す。粒径はおよそ10〜200μmに分布しており、個数基準では14μm、体積基準では80μmにピークが存在した。またエネルギ分散型蛍光X線装置(日本電子製JSX−3220型)を用いて検量線法で測定した廃セメント微粉末試料の元素組成を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、廃セメント微粉末試料は、カルシウム含有率が27.3w%で最も多く、次いでケイ素、鉄の順に多かった。実験においては廃セメント微粉末試料とモデル水溶液との比を0.67〜5.00gL−1の範囲で変化させた。モデル水溶液と濃度分析に用いた薬品と標準試料は全て和光純薬試薬1級のものを用いた。
【0044】
実験は全て以下に述べるような回分式実験装置を用いて5つの実験(AないしE)を行った。
【0045】
実験Aでは、比較例であるコンクリート粉砕物と本実施例である廃セメント微粉末との溶存オルトリン酸濃度(以下、リン酸濃度と示す)の減少速度の比較を行った。実験Bおよび実験Cでは、廃セメント微粉末量および初期リン酸濃度それぞれの依存性を調べた。実験Dでは長時間反応時の挙動を調べた。また実験Eでは、溶存炭酸によるHAP析出反応阻害効果を調べた。なお、実験Bおよび実験Cについてはそれぞれ3回実験を行い、その他の実験は1回のみ行った。また、実験B、C、Dについては、実験終了後に固形物を吸引濾過して取り出し、90℃で2時間加熱して水分を蒸発させたあと、反応前廃セメント微粉末とともに分析した。さらに、SEM(日本電子製JSM−5600にて加速電圧15kV、倍率1300〜1400倍)で表面の観察を行い、またX線回折装置(リガク製MiniFlexにて測定範囲2θ=25−40°、走査速度1°min−1)で結晶構造を分析した。液体サンプルについては、モリブデン青法(日本分光製紫外可視分光光度計V−650を使用)で溶存オルトリン酸濃度の定量を行った。実験Bおよび実験Cについては実験中のpHをpHメータ(堀場製D−52)で、カルシウムイオン濃度をICP−AES(島津製作所製ICP−7510)で測定した。各実験の条件を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
実験Aでは、300mLのプラスチック製ビーカーを用いて回分式析出実験を行った。これにモデル水溶液として濃度50mgPL−1のリン酸二水素カリウム水溶液を200mL入れ、マグネチックスターラにて約300rpmで攪拌しながら、廃セメント微粉末試料を5.0gL−1の比で投入したものを条件番号A−1とした。また、コンクリート廃材を粉砕し0.8〜1.6mmにふるい分けした比較例としての試料(以下、廃コンクリート試料とする。)の条件番号A−2とした。実験開始後一定時間ごとに実験溶液をシリンジで3mL採取し、0.45μmフィルタで濾過した溶液をサンプル液とした。
【0048】
この実験Aにおける廃セメント微粉末および廃コンクリートそれぞれについて、反応時間とリン酸濃度との関係を図3に示す。この図3に示すように、比較例であるA−2では、反応後180分で20%程度のリン酸が除去されたのに対し、本実施例であるA−1では、略全てのリン酸が除去された。したがって、廃セメント微粉末単体で水溶液中のリン酸を除去できることが確認できる。その速度は廃コンクリートよりも非常に速い結果となった。ここで、各試料の初期反応速度、一次反応を仮定した初期反応速度および球体仮定により求めた各試料の総表面積、試料の単位面積あたりの反応速度を表3に示す。なお、廃セメント微粉末試料の粒径については図1に示す粒径分布のデータを用い、廃コンクリートについては粒径が一律1.2mmとした。
【0049】
【表3】

【0050】
表3に示すように、廃セメント微粉末試料は、廃コンクリート試料に比べ、初期反応速度が非常に速い。また、廃セメント微粉末試料の総表面積は、廃コンクリート試料の約30倍であった。さらに、廃セメント微粉末の粒径の単位表面積あたりの反応速度は、廃コンクリートの3倍程度であった。このことから、粒径が小さく比表面積が大きいことに加えて骨材の含有量が抑制されたことにより、廃セメント微粉末の方がリン酸との反応速度が速くなると考えられる。
【0051】
実験Bおよび実験Cでは、反応時間を6時間に設定し、各種初期条件の依存性を調べた。この反応時間は晶析反応においてHAPの結晶がある程度生成するとされる時間である。実験Bおよび実験Cの実験操作は実験Aと同様であるが、溶液量を300mLに変更した。実験Bでは、初期リン酸濃度を50mgPL−1に固定し、添加した廃セメント微粉末量を0.67gL−1から1.33gL−1まで変化させ、B−1の添加した廃セメント微粉末量を0.67gL−1とし、B−2の添加した廃セメント微粉末量を1.00gL−1とし、B−3の添加した廃セメント微粉末量を1.33gL−1とした。
【0052】
実験Bにおける反応時間とリン酸濃度との関係を図4に示す。なお、エラーバーは標準誤差を示す。図4に示すように、リン酸濃度は実験開始直後から減少し、B−2では360minで初期濃度の約半分になった。リン酸濃度の減少速度は、この実験範囲では添加した廃セメント微粉末量にほぼ比例していた。図5に反応時間と溶液のpHとの関係を示す。なお、エラーバーは標準誤差を示す。反応開始前のモデル水溶液のpHは約5であったが、反応後60minでは、B−1、B−2、B−3のいずれもpHが9前後まで上昇した。なお、廃セメント微粉末量が多いほどpHの上昇が高くなった。また、反応時間とカルシウムイオン濃度との関係を図6に示す。なお、エラーバーは標準誤差を示す。カルシウムイオン濃度は、B−1、B−2、B−3のいずれも30min前後までに一旦30mgCaL−1付近まで上昇し、その後減少するという結果となった。60min以降のカルシウムイオン濃度については、廃セメント微粉末量が多いほど濃度が低くなるという傾向があった。
【0053】
これらのことから、以下の反応メカニズムが推察された。反応メカニズムとしては、廃セメント微粉末粒子の表面に付着しているカルシウム分と溶液中のリン酸が直接反応する表面反応と、溶液中のリン酸とカルシウムイオンが反応する溶液反応の2種類が考えられる。すなわち、反応の初期では、カルシウム分の溶解速度に比べて、HAP生成反応の反応速度が遅く、溶液中のカルシウムイオン濃度が一旦上昇する。その後、カルシウム分の溶解速度が低下し、カルシウムイオンは溶液内のリン酸との溶液反応によって徐々に消費され、カルシウムイオン濃度が減少する。その結果、反応開始30min後にカルシウムイオン濃度に最大値が見られることになる。このように、反応のごく初期段階では表面反応が主として起こり、反応時間とともに徐々に表面反応の割合が減少し、溶液反応の割合が増大するものと考えられる。
【0054】
実験Cでは、セメントの量を1.00gL−1にて固定し、初期リン酸濃度を10mgPL−1から100mgPL−1まで変化させ、C−1の初期リン酸濃度を10mgPL−1とし、C−2の初期リン酸濃度を50mgPL−1とし、C−3の初期リン酸濃度を100mgPL−1とした。
【0055】
実験Cのリン酸濃度の変化およびpHの変化を図7および図8に示す。なお、エラーバーは標準誤差を示す。図7および図8に示されるように、C−1では、360minで約9割の溶存リン酸が減少し、pHも10.5前後まで上昇したのに対し、C−3では360minでリン酸が約3割しか減少せず、pHも8を超えなかった。図9に実験Bおよび実験Cにおける初期Ca/P比と反応後360minでのリン酸濃度の減少率との関係を示した。CaおよびPそれぞれの絶対量に関係なく、Ca/P<8の範囲ではリン酸の減少率がCa/P比にほぼ比例している。
【0056】
これらのことから、溶存リン酸の反応率に関してCa/P比が重要な要素になっていることがわかる。HAPのCa/P比は2.15であり今回の実験は全てCa/P比が2.7以上のカルシウム過剰の条件下で行っている。リン酸に比べてカルシウム量が多いほどリン酸の反応速度が高くなる。したがって、脱リン材の骨材含有量を抑制し、カルシウム含有量を向上させることは重要である。
【0057】
実験Dでは、実際の晶析プロセスでは種結晶量に対して大きな結晶を作る必要があるので、種結晶の滞留時間が6時間よりも長くなることが想定されるので、実際の晶析プロセスを想定して反応時間を10日間に設定した。この実験では2Lのプラスチック製ビーカーを用いた。モデル水溶液の量を2Lとし、ポリプロピレン製攪拌羽根にて約300rpmで攪拌した。
【0058】
実験Dの反応時間とリン酸濃度、カルシウムイオン濃度、pHの関係を図10に示す。リン酸濃度は240時間に至るまで減少し続け、最終的には初期濃度の1割程度まで減少した。240時間後のリン酸の減少量は、HAPの量論比から計算すると、セメント中のカルシウムのうち35%が利用されていることに相当する。また、実験中のpHの変化は反応開始後1時間以降、約8.6から8.9間においてほとんど変化がなかった。カルシウムイオン濃度は反応開始後増加と減少を繰り返した後、50時間以降ではゆっくりと減少し続けた。
【0059】
反応開始後1時間以降のpHの変化がほとんどなかったことから、セメント表面からの水酸化カルシウム溶出反応は反応時間1時間でほぼ終了していることが考えられる。それに対してリン酸濃度、カルシウムイオン濃度が減少し続けたことから、溶液反応が進行し続けていることがわかる。図11に実験結果から求めたHAPのイオン積と熱力学的な溶解度積を比較して示す。図11に示すように、HAPのイオン積は10−84から徐々に下がっているが、反応開始後240時間の時点でも熱力学的な平行に達しておらず、さらに反応時間を増やすことで、溶解度積(10−114)の平衡値に近づくものと考えられる。
【0060】
実験Eでは、晶析反応を阻害する汚泥返送水中の主な成分として挙げられる有機物および溶存炭酸のうち、溶存炭酸による阻害効果を確かめるために、重炭酸カリウム(KHCO3)を添加したモデル水溶液を用いて比較した。重炭酸カリウムを添加しないものをE−1とし、炭酸濃度は実際の下水の濃度に近い2種類の濃度を選んで、E−2の炭酸濃度を22mgCO−1とし、E−2の炭酸濃度を110mgCO−1とした。この値は汚泥返送水においても殆ど変わらないとされる。これらの実験は全て20℃の室内で行った。
【0061】
実験Eにおけるの反応時間とリン酸濃度との関係を図12に示す。図12に示すように、60分後のリン酸の反応率は、E−2では炭酸塩を加えないE−1と比べて約9%減少し、E−3では約22%減少した。実際の汚泥返送水には炭酸が含まれるため、これがHAP生成反応を多少阻害する可能性があることがわかった。これはおもに炭酸カルシウム沈殿のセメント表面への付着による阻害効果であると考えられる。
【0062】
次に、生成物について分析する。
【0063】
脱リン処理の反応前のセメント試料のSEM写真を図13(a)に示し、B−2の反応後の試料を図13(b)に示す。反応後のものでは、表面に粒状の結晶が成長していることが確認された。また、それぞれの試料の表面のEDX(Energy Dispersive X−ray)チャートを図14中の(a),(b)にそれぞれ示す。反応後のものは、CaおよびPのピークが反応前に対して大幅に増加していた。したがって、Si,Ca,Alが均質に存在している反応前の廃セメント微粉末に対して、反応後の試料はHAPの結晶がセメント表面に析出することで表面のCaの割合がPとともに増えていると考えられる。
【0064】
また、図15中の(a),(b),(c)に反応前後のセメント試料のX線回折パターンを示し、図15中の(d)に塩化カルシウムとリン酸二水素カリウムの溶液反応により別に作成したHAP試料のX線回折パターンを示す。図15中の(c)に示す10日間反応後の試料では、2θ=32°付近にHAPのピークと共通と思われるピークが弱く確認された。2θ=27°,27.5°,29°,39°については図15中の(a)ないし(c)に示す試料で共通しており、セメント水和物由来のピークであると考えられる。HAPのピークが比較的小さいことについては、セメントの量に対して生成物が少ないことのほか、HAPの結晶が非晶質であることも考えられる。
【0065】
これらのことから、溶液中のリン酸はカルシウムと反応することによってHAPを生成し、セメント表面に結晶として付着していることが示唆された。
【0066】
次に、他のリン晶析プロセス実験との比較について考察する。
【0067】
今回の実験結果と、既往のリン晶析プロセスの実験との反応速度の比較を行った。上甲(1980)は、リン酸水溶液と塩化カルシウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、HAP種結晶を混合し回分式晶析実験を行った。またゾルテック(1974)はリン酸水溶液、塩化カルシウム、水酸化ナトリウムのほかに炭酸塩を加え、種結晶にリン鉱石を用いて回分式晶析実験を行った。比較にあたって、リン酸の反応率はCa/P比が大きく影響することから、上記文献値とCa/P比が近い実験B−2を比較に用いた。
【0068】
比較した実験条件、実験後のリン酸イオン減少率などを表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
ここから、廃セメント微粉末を用いたプロセスではリンの回収速度が他の晶析プロセスと遜色のないことがわかった。また、反応に用いた添加物を比較すると、他の晶析プロセスでは種結晶、カルシウム源、アルカリ源を別々に用いているのに対し、今回の実験では廃セメント微粉末単体でリンの回収が行えた。このことから、廃棄物である廃セメント微粉末を用いることによって、既存のものよりも安価なリンの回収プロセスが行える。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の脱リン装置における一実施の形態を示す構成図である。
【図2】実施例にて用いた廃セメント微粉末試料の粒度分布を示すグラフである。
【図3】同上実施例の実験Aにおける反応時間とリン酸濃度との関係を示すグラフである。
【図4】同上実施例の実験Bにおける反応時間とリン酸濃度との関係を示すグラフである。
【図5】同上実施例の実験Bにおける反応時間と溶液のpHとの関係を示すグラフである。
【図6】同上実施例の実験Bにおける反応時間とカルシウムイオン濃度との関係を示すグラフである。
【図7】同上実施例の実験Cにおけるリン酸濃度の変化を示すグラフである。
【図8】同上実施例の実施例の実験CにおけるpHの変化を示すグラフである。
【図9】同上実施例の実験Bおよび実験Cにおける初期Ca/P比と反応後360minでのリン酸濃度の減少率との関係を示すグラフである。
【図10】同上実験Dにおける反応時間とリン酸濃度、カルシウムイオン濃度、pHの関係を示すグラフである。
【図11】同上実施例の実験Dの実験結果から求めたHAPのイオン積と熱力学的な溶解度積を示すグラフである。
【図12】同上実施例の実験Eにおけるの反応時間とリン酸濃度との関係を示すグラフである。
【図13】(a)は反応前のセメント試料のSEM写真であり、(b)は反応後の試料のSEM写真である。
【図14】反応前後のセメント試料のEDXチャートを示す図である。
【図15】反応前後のセメント試料およびHAP試料のX線回折パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1 脱リン装置
2 反応槽
3 廃水供給手段
4 脱リン材供給手段
5 攪拌手段
6 回収手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応式:10Ca2++4PO3−+2OH→Ca10(PO(OH)
に基づいてリン含有廃水からリンを除去する脱リン処理に用いられる脱リン材であって、
粉砕されたコンクリート廃材が粒径1mm以下に分級された
ことを特徴とする脱リン材。
【請求項2】
請求項1に記載された脱リン材によりリン含有廃水の脱リン処理を行う脱リン装置であって、
反応槽と、
この反応槽に設けられこの反応槽内へリン含有廃水を供給する廃水供給手段と、
前記反応槽に設けられこの反応槽内へ脱リン材を供給する脱リン材供給手段と、
前記反応槽に設けられこの反応槽内にてリン含有廃水および脱リン材を攪拌する攪拌手段と、
前記反応槽に設けられこの反応槽内の晶析物を回収する回収手段とを具備し、
前記反応槽内に供給された前記リン含有廃水および前記脱リン材を攪拌し、前記反応槽内にてリン酸カルシウムを晶析させることにより前記リン含有廃水からリンを除去し、晶析した脱リン副産物を回収する
ことを特徴とする脱リン装置。
【請求項3】
請求項2に記載した脱リン装置にて回収される脱リン副産物であって、
リンの含有率がP換算で15wt%以上である
ことを特徴とする脱リン副産物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−42365(P2010−42365A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208758(P2008−208758)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年2月17日発行の化学工学会第73年会講演要旨集(講演番号:「R119」)
【出願人】(504014060)
【出願人】(508224410)
【出願人】(508224421)
【出願人】(508246283)
【出願人】(000228660)日本コンクリート工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】