説明

脱水環化を使用して3−ヒドロキシテトラヒドロフランを製造する方法

【課題】脱水環化を使用した3−ヒドロキシテトラヒドロフランの製造方法を提供する。【解決手段】開示するのは、脱水環化を使用した3−ヒドロキシテトラヒドロフランの製造方法である。更に詳しくは、本発明は、3−ヒドロキシテトラヒドロフランを製造する方法であって、硫酸基を交換基として有する強酸性陽イオン交換樹脂触媒の存在下で、反応温度30℃〜180℃及び反応圧力5000psig(3.44×10MPa)又はそれ未満の反応条件下で、1,2,4−ブタントリオールを脱水環化させることを含む方法に関する。本発明の方法によれば、慣用の方法を使用する場合よりも、高い収率及び生産性にて、3−ヒドロキシテトラヒドロフランを経済的に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、脱水環化を使用して3−ヒドロキシテトラヒドロフランを製造する方法に関し、そしてより具体的には、硫酸基をイオン交換基として有する強酸性樹脂触媒の存在下で、1,2,4−ブタントリオールを脱水環化せしめることを含む、3−ヒドロキシテトラヒドロフランを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、3−ヒドロキシテトラヒドロフランは、医薬品及び農薬の製造において化学中間体として有用である。1,2,4−ブタントリオールから3−ヒドロキシテトラヒドロフランを製造する慣用技術は、以下の通りである。
VishnuK.TandonによるJ.Org.Chem.1983.48巻,2767〜2769(非特許文献1)には、触媒としてのパラトルエンスルホン酸の存在下での脱水環化により、(S)−1,2,4−ブタントリオールと(R)−1,2,4−ブタントリオールから(S)−3−ヒドロキシテトラヒドロフランと(R)−3−ヒドロキシテトラヒドロフランを製造する方法が開示されているが、生成物の収率は87%に過ぎない。
米国特許第4,539,415号明細書(特許文献1)は、フラー土(fuller's earth)触媒の存在下での脱水環化により、高収率でラセミ体の3−ヒドロキシテトラヒドロフランを製造する方法を開示している。この方法は、ラセミ化が起り得る150℃〜200℃の高温での触媒を使用する脱水による、ラセミ体の3−ヒドロキシテトラヒドロフランの製造のためには適するけれども、光学的に純粋な3−ヒドロキシテトラヒドロフランを製造する方法に適用するためには制限がある。
従って、本発明は、ブタントリオールの脱水環化により高収率でラセミ体の3−ヒドロキシテトラヒドロフランを製造する方法のみならず、脱水環化に際してブタントリオールの光学純度を維持することにより、高い光学純度を有する3−ヒドロキシテトラヒドロフランを製造する方法もまた提供することを目的とする。
【非特許文献1】VishnuK.TandonによるJ.Org.Chem.1983.48巻,2767〜2769
【特許文献1】米国特許第4,539,415号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
関連技術において直面した問題を回避する目的で、本発明者らは、3−ヒドロキシテトラヒドロフランの製造を鋭意研究した結果、硫酸基をイオン交換基として有する強酸性イオン交換樹脂触媒の存在下で、1,2,4−ブタントリオールの光学純度を維持しながら、3−ヒドロキシテトラヒドロフランを高収率で製造する方法を見出し、本発明を完成させた。
従って、本発明の目的は、1,2,4−ブタントリオールから3−ヒドロキシテトラヒドロフランを製造する方法であって、慣用の方法を使用する場合に比べて、生産収率を向上させ且つ反応物の光学純度を維持することが可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明は、脱水環化を使用して3−ヒドロキシテトラヒドロフランを製造する方法であって、強酸性イオン交換樹脂触媒の存在下で、回分式又は連続固定床反応器を使用して、反応温度30℃〜180℃及び反応圧力5000psig(3.44×10MPa)又はそれ未満の反応条件下で、ラセミ体純度又は光学純度を有する1,2,4−ブタントリオールを反応物として脱水環化せしめて、該反応物のラセミ体
純度又は光学純度に等しいラセミ体純度又は光学純度を有する3−ヒドロキシテトラヒドロフランを高収率で得ることからなる方法を提供する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、硫酸基をイオン交換基として有する強酸性陽イオン交換樹脂触媒を使用して所定の反応条件下で1,2,4−ブタントリオールを脱水環化せしめることにより、慣用の方法を使用する場合に比べて、より高い収率及びより高い生産性にて、反応物の光学純度に等しい光学純度を有する3−ヒドロキシテトラヒドロフランを経済的に製造する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を更に具体的に説明する。
本発明においては、1,2,4−ブタントリオールの光学純度を維持しながら、所定の触媒を使用して高収率にて、1,2,4−ブタントリオールが3−ヒドロキシテトラヒドロフランに転換される方法が提供される。
本発明によれば、触媒としての強酸性イオン交換樹脂の存在下で回分式又は連続固定床反応器を使用して、ラセミ体純度又は光学純度を有する1,2,4−ブタントリオールを脱水環化せしめ、これにより、1,2,4−ブタントリオールのラセミ体純度又は光学純度に等しいラセミ体純度又は光学純度を有する3−ヒドロキシテトラヒドロフランを得る。
前記脱水環化を以下の反応1に模式的に示す。
反応1
【化1】

【0007】
前記反応1から明らかなように、脱水環化において使用される触媒は、硫酸基(−SO3 H)をイオン交換基として有する強酸性陽イオン交換樹脂であり、そして好ましくは、硫酸基をイオン交換基として含む、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体である。
本発明において、硫酸基をイオン交換基として有する強酸性イオン交換樹脂触媒の存在下で脱水環化が行われる場合には、前記反応は回分式プロセス又は連続プロセスで行われ得る。特に、連続固定床反応器を使用する連続プロセスが、生産性の面で好ましい。
ここで、前記脱水環化は、30℃〜180℃、そして好ましくは50℃〜150℃の反応温度にて行われる。前記反応温度が30℃未満の場合には、反応活性を殆ど示さない。他方、前記反応温度が180℃を越える場合には、反応選択性を維持すること及び反応物の光学純度に等しい光学純度を確保することが困難である。
更に、反応圧力は制限されないけれども、反応圧力は、商業プロセスに適するためには、5000psig(3.44×10MPa)又はそれ未満、及び好ましくは1500psig(1.03×10MPa)又はそれ未満の範囲内にある。
前記脱水環化が固定床反応系を使用して行われる場合には、時間当たりの質量空間速度(weight hourly space velocity:WHSV)は0.1/時間〜30/時間、そして好ましくは0.2/時間〜20/時間である。前記WHSVが0.1/時間未満の場合には、生産性が低下する。前記WHSVが30/時間を越える場合には、反応活性が低下する。
【0008】
更に、反応性を増大させるために、前記固定床反応器内に、空気又は不活性ガスを供給
してもよい。この場合において、使用されるガス量は制限されないが、しかし、反応物及び生成物と反応しないガスを使用することが好ましい。
加えて、脱水環化に際しては、反応物としての1,2,4−ブタントリオールに加えて、溶剤が使用され得る。本発明において使用される溶剤は特に限定されないが、生成物から分離することが容易な溶剤が有用である。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン又は塩化メチレンのような非極性有機溶媒、或いは、ジグリム、テトラヒドロフラン又はジオキサンのようなエーテルを含み、そしてエタノール、プロパノール又はポリエチレングリコールのようなアルコールを含む極性溶媒が使用され得る。これらの溶剤のうち、ジグリム、テトラヒドロフラン又はジオキサンのようなエーテル及びエタノール、プロパノール又はポリエチレングリコールのようなアルコールを含む極性溶媒が好ましく使用される。更に、炭化水素混合物も使用することが可能である。
【実施例】
【0009】
本発明の良好な理解は、下記の比較例及び実施例により得ることができるが、これらの例は、本発明を説明するために記載されたものであり、本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
比較例1
ラセミ体の1,2,4−ブタントリオール304g、ポリエチレングリコール(重量平均分子量=400g/mol、以下「PEG−400」という)304g及びパラトルエンスルホン酸41.6gを、蒸留装置を備えた回分式反応器に供給し、そしてその後、撹拌した。反応圧力を10torr(1.33kPa)又はそれ未満に低下させ、そして反応器の温度を120℃にゆっくり昇温させながら、反応を12時間行った。反応の間に、反応器の上部に設置された蒸留装置を使用してテトラヒドロフランを蒸留し且つ分離して、98%又はそれを越える純度を有するテトラヒドロフランを収率85モル%で得た。
【0010】
比較例2〜3
光学純度99.9%を有する(S)−ブタントリオールを、比較例1と同様の方法で反応させ、それにより、(S)−3−テトラヒドロフランを製造した。反応温度に応じた実験結果を以下の表1に示す。
表1
┌────────┬────────┬────────┬────────┐
│ │反応温度(℃) │収率(モル%) │光学純度(%) │
├────────┼────────┼────────┼────────┤
│ 比較例2 │ 120 │ 85 │ 99.8 │
├────────┼────────┼────────┼────────┤
│ 比較例3 │ 160 │ 83 │ 98.2 │
└────────┴────────┴────────┴────────┘
反応温度が高い条件下では、光学純度が低下した。
【0011】
実施例1
比較例1において使用されたPEG−400及びパラトルエンスルホン酸触媒の代わりに、ジオキサン及び硫酸基を含む強酸性イオン交換樹脂[アンバーリスト(Amberlyst)15、H+ 形]をそれぞれ同量使用した。その後、回分式反応器を使用して、常圧及び100℃の条件下で20時間、反応を行った。反応収率は96モル%であった。
【0012】
実施例2〜3
実施例1において使用された触媒5gを、316ステンレススチール製の完全自動化された連続固定床反応器に投入し、その後、反応器の内部温度を100℃に調節し、そしてその後、(S)−1,2,4−ブタントリオール(光学純度99.9%)10質量%を含むジオキサン溶液を、WHSV2.0/時間にて前記反応器に供給し、それにより反応を
行った。
(S)−3−テトラヒドロフランの製造結果を、以下の表2に示す。
表2
┌────┬──────┬──────┬──────┬──────┐
│ │ 反応温度 │ 反応圧力 │ 反応収率 │ 光学純度 │
│ │ (℃) │(psig)│ (モル%)│ (%) │
├────┼──────┼──────┼──────┼──────┤
│実施例2│ 100 │ 常圧 │ 99 │ 99.9 │
├────┼──────┼──────┼──────┼──────┤
│実施例3│ 120 │ 100* │ 98 │ 99.8 │
└────┴──────┴──────┴──────┴──────┘
*:100psig=0.690MPa
【0013】
実施例4
実施例1において使用された触媒5gを,316ステンレススチール製の完全自動化された連続固定床反応器に投入し、その後、反応器の内部温度を100℃に調節し、そしてその後、(R)−1,2,4−ブタントリオール(光学純度99.0%)10質量%を含むジオキサン溶液を、WHSV2.0/時間にて前記反応器に供給し、それにより反応を行った。
(R)−3−テトラヒドロフランの製造結果を、以下の表3に示す。
表3
┌────┬──────┬──────┬──────┬──────┐
│ │ 反応温度 │ 反応圧力 │ 反応収率 │ 光学純度 │
│ │ (℃) │(psig)│ (モル%)│ (%) │
├────┼──────┼──────┼──────┼──────┤
│実施例4│ 100 │ 常圧 │ 99 │ 99.0 │
└────┴──────┴──────┴──────┴──────┘
【0014】
実施例5〜6
実施例1において使用された触媒5gを、316ステンレススチール製の完全自動化された連続固定床反応器に投入し、その後、反応器の内部温度を90℃に調節し、そしてその後、(S)−1,2,4−ブタントリオール(光学純度99.9%)10質量%を含むジオキサン溶液を、WHSV2.0/時間にて前記反応器に供給し、それにより反応を行った。これらの条件下において、窒素添加の有無によって反応活性が変動することが観察された。
(S)−3−テトラヒドロフランの製造結果を、以下の表4に示す。
表4
┌────┬──────┬──────┬──────┬──────┐
│ │窒素添加量 │ 反応圧力 │ 反応収率 │ 光学純度 │
│ │ (℃) │(psig)│ (モル%)│ (%) │
├────┼──────┼──────┼──────┼──────┤
│実施例5│ 0 │ 常圧 │ 70 │ 99.9 │
├────┼──────┼──────┼──────┼──────┤
│実施例6│6cc/分 │ 常圧 │ 81 │ 99.8 │
└────┴──────┴──────┴──────┴──────┘
【0015】
本発明の好ましい実施態様が説明の目的で開示されているけれども、当業者は、添付された特許請求の範囲に開示された本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、様々な変形、追加又は置換が可能であることを認識するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水環化を使用して3−ヒドロキシテトラヒドロフランを製造する方法であって、強酸性イオン交換樹脂触媒の存在下で、回分式又は連続固定床反応器を使用して、反応温度30℃〜180℃及び反応圧力5000psig(3.44×10MPa)又はそれ未満の反応条件下で、ラセミ体純度又は光学純度を有する1,2,4−ブタントリオールを反応物として脱水環化せしめて、該反応物のラセミ体純度又は光学純度に等しいラセミ体純度又は光学純度を有する3−ヒドロキシテトラヒドロフランを高収率で得ることからなる方法。
【請求項2】
前記触媒が、硫酸基(−SO3 H)をイオン交換基として有する強酸性陽イオン交換樹脂である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記強酸性陽イオン交換樹脂が、硫酸基をイオン交換基として有する、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応温度が50℃〜150℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記反応圧力が1500psig(1.03×10MPa)又はそれ未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記環化脱水が連続固定床反応器を使用して行われる場合には、時間当たりの質量空間速度が0.1/時間〜30/時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記時間当たりの質量空間速度が0.2/時間〜20/時間である、請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2009−522350(P2009−522350A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549400(P2008−549400)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【国際出願番号】PCT/KR2006/000091
【国際公開番号】WO2007/081065
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(303024622)エスケー ホルディングス カンパニー リミテッド (28)
【Fターム(参考)】