説明

脱硫剤及びその製造方法、並びにこれを用いた炭化水素油の脱硫方法

【課題】特定の条件下で炭化水素油を長期間にわたって安定にかつ経済的に脱硫できる脱硫剤を提供する。
【解決手段】ニッケルを1〜30質量%、亜鉛を30〜80質量%、3A族から選ばれる1種類以上の元素を0.1〜20質量%含有し、比表面積が70m2/g以上であることを特徴とする脱硫剤である。該脱硫剤は、水に、ニッケル、亜鉛及び3A族から選ばれる1種類以上の元素を含有する酸性溶液とアルカリ溶液とを同時に滴下して、沈殿を生成させることで製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油中に含有される硫黄分を除去するための脱硫剤、該脱硫剤の製造方法、及び該脱硫剤を用いた炭化水素油の脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
21世紀の自動車及びその燃料においては環境問題への対応が大きな課題であり、地球温暖化ガスであるCO2排出削減とNOx等のいわゆる自動車排出ガス削減との両方の観点から、燃料の硫黄分低減が益々求められている。具体的には、ガソリンや軽油の硫黄分は、サルファー・フリー(硫黄分10質量ppm以下)に規制され、さらに低硫黄分、すなわちゼロ・サルファー(硫黄分1質量ppm以下)の燃料油も求められている。
【0003】
従来主に用いられてきた脱硫技術である水素化脱硫法(例えば、コバルト、ニッケル、モリブデンを担持したアルミナ触媒を用いて、高温高圧水素雰囲気下で脱硫する方法)を適用してガソリンや軽油などの燃料油に残存する硫黄化合物を除去し、硫黄分を10質量ppm以下、さらには1質量ppm以下にするには、高温・高圧の反応である水素化脱硫反応において従来よりもさらに高温・高圧での操作が求められるため、エネルギー消費が大きくなり、また、水素消費量も膨大になる。また、上記水素化脱硫において、空間速度を下げてマイルドな条件で反応させようとすると、膨大な触媒量を要する。そのため、水素化脱硫反応法を適用する場合には、いずれにせよ多大なコストアップとなることは避けられない。さらに、上記水素化脱硫を適用した場合、ガソリン基材については、オレフィン分まで水素化されてしまうため、オクタン価のロスが大きい。
【0004】
この問題に対して、オクタン価のロスを抑制しながら接触分解ガソリンを脱硫するための脱硫剤として、ニッケルと酸化亜鉛を含む脱硫剤が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この脱硫剤では、比表面積が小さいため、十分な脱硫レベルが得られないという問題があった。
【0005】
この問題に対して、アルミナ、シリカといった高表面積の担体成分を添加し、ニッケルと酸化亜鉛を担体上に展開することで高表面積化する手法が開発されている。例えば、下記特許文献2には、アルミナまたは擬ベーマイトを核としてニッケル成分、亜鉛成分を共沈させることで高表面積化する手法が開示されており、また、下記特許文献3には、シリカゾルを沈殿溶液に混合し、シリカ前駆体をニッケル成分、亜鉛成分と共沈させることで高表面積化する手法が開示されている。しかしながら、いずれもニッケルと酸化亜鉛が高表面積担体に展開されているため相互の接触面積が減少し、酸化亜鉛を十分に活かせないため、寿命が短いという問題があった。また、担体成分自体は硫黄を取り込むことができないため、担体成分を多く含む場合はさらに寿命が短くなる。さらには、ニッケル成分が担体の効果を受け、還元され難いという問題もあった。
【0006】
これに対して、本発明者等は、ニッケル、亜鉛を含有する脱硫剤に、アルカリ土類金属を含有させることで、接触分解ガソリンを高度に脱硫できることを見い出している(特許文献4)。しかしながら、この方法でも、十分な脱硫レベルが得られているとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−80972号公報
【特許文献2】特開2004−230317号公報
【特許文献3】特開2008−115309号公報
【特許文献4】特開2008−291146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、炭化水素油の硫黄分を10質量ppm、さらには1質量ppm以下まで比較的マイルドな条件において安定にかつ経済的に脱硫する方法は、未だ確立されていない。そこで、本発明は、特定の条件下で炭化水素油を長期間にわたって安定にかつ経済的に脱硫できる脱硫剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、3A族から選ばれる1種類以上の元素を含む特定の脱硫剤によって炭化水素油を処理することで長期間安定的に硫黄分を低減できることを見出し、この発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)ニッケルを1〜30質量%、亜鉛を30〜80質量%、3A族から選ばれる1種類以上の元素を0.1〜20質量%含有し、比表面積が70m2/g以上であることを特徴とする脱硫剤、
(2)水に、ニッケル、亜鉛及び3A族から選ばれる1種類以上の元素を含有する酸性溶液とアルカリ溶液とを同時に滴下して、沈殿を生成させることを特徴とする前記(1)記載の脱硫剤の製造方法、
(3)硫黄分を2質量ppm以上含有する炭化水素油を前記(1)記載の脱硫剤と水素存在下で、温度50〜300℃、圧力0.2〜5.0MPa、液空間速度1.0h-1以上の条件で接触させる炭化水素油の脱硫方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の脱硫剤を特定の条件下で適用する事により、オレフィン分をほとんど水素化することなく、炭化水素油の脱硫を長期間にわたって安定かつ経済的に実施する事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[脱硫剤]
本発明の脱硫剤はニッケル、亜鉛及び3A族から選ばれる1種類以上の元素を含むものであり、例えば、共沈法によって金属成分を沈殿させてろ過、洗浄し、成形、焼成等の工程を経ることによって得ることができる。
【0013】
脱硫剤総質量に対するニッケル含有量は1〜30質量%であり、好ましくは10〜20質量%、より好ましくは13〜16質量%である。また、脱硫剤総質量に対する亜鉛含有量は30〜80質量%であり、好ましくは40〜60質量%、より好ましくは45〜55質量%である。
【0014】
ニッケル含有量が30質量%以下、亜鉛含有量が30質量%以上の場合、脱硫剤の寿命が長く、また、ニッケル含有量が20質量%以下、亜鉛含有量が45質量%以上の場合、脱硫剤の寿命が特に長くなる。なお、ニッケル及び亜鉛の合計総含有量は、脱硫剤の総質量に対して35〜80質量%、特には50〜75質量%が好ましい。
【0015】
また、本発明の脱硫剤において、3A族から選ばれる1種類以上の元素の含有量は、脱硫剤総質量に対して0.1〜20質量%、好ましくは5〜20質量%、より好ましくは7〜16質量%である。
【0016】
脱硫剤総質量に対する3A族元素含有量が0.1質量%以上であると、ニッケルを微粒子化することで細孔径2〜30nmの細孔容積、比表面積を増大させることができ、ニッケルと硫黄化合物との反応を促進できる。また、亜鉛酸化物粒子も微粒子化されることで、ニッケルと亜鉛酸化物の接触面積を増大させ、硫黄の移動を促進できる。なお、3A族元素含有量が0.1質量%未満であると、上記の効果を得るには不十分である。一方、脱硫剤総質量に対する3A族元素含有量が20質量%を超えると、脱硫剤粒子表面に3A族元素酸化物が多く存在し、ニッケルと硫黄化合物との反応、あるいはニッケルと亜鉛酸化物間の硫黄の移動を妨げる効果が大きくなり脱硫活性が低くなるだけでなく、脱硫剤全体におけるニッケルと亜鉛の含有量がその分少なくなり、炭化水素油との接触効率が低くなって寿命が短くなる。前記の3A族としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム等が挙げられ、特にはセリウムが好ましい。
【0017】
また、脱硫剤中のニッケル含有量に対する3A族元素含有量(モル比、3A族元素/Ni)は0.01〜0.6が好ましく、より好ましくは0.1〜0.55、特には0.15〜0.50が好ましい。ニッケル含有量に対する3A族元素含有量(モル比)が0.6を超えると、脱硫剤の寿命が著しく短くなり好ましくない。
【0018】
本発明の脱硫剤は、ニッケル酸化物(NiO)の結晶子径が好ましくは5.0nm以下、より好ましくは4.0nm以下であり、亜鉛酸化物(ZnO)の結晶子径が好ましくは12nm以下、より好ましくは10nm以下である。NiOの結晶子径が5nmを超えると、上記の細孔径2〜30nmの細孔容積、比表面積の増大効果が得られないため好ましくない。また、ZnOの結晶子径が12nmを超えると、上記記載のニッケルと亜鉛酸化物の接触面積を増大効果が得られないため好ましくない。
【0019】
本発明の脱硫剤は、細孔径が2〜30nmである細孔の容積が好ましくは0.25〜0.50mL/gであり、より好ましくは0.25〜0.35mL/gである。細孔径が2〜30nmの細孔の容積が0.25mL/g未満であると、主として脱硫反応が起こる空間が少なくなるため好ましくない。また、細孔径が2〜30nmの細孔の容積が0.50mL/gを超えると、脱硫剤の嵩密度が小さくなって一定容量の反応器に充填できる質量が少なくなり寿命が短くなるため好ましくない。一方、細孔径が2〜30nmである細孔の容積が0.50mL/g以下であれば、十分な嵩密度が得られる。
【0020】
本発明の脱硫剤の比表面積は、70m2/g以上であり、好ましくは90〜600m2/gである。多孔質脱硫剤の比表面積が70m2/g未満であると、ニッケルや亜鉛酸化物と炭化水素油との接触効率が低くなって寿命が短くなる。なお、該比表面積は、窒素吸脱着法によるBET法で測定できる。
【0021】
本発明の脱硫剤は、水素雰囲気下200〜350℃で処理して用いられることが好ましい。水素雰囲気下での処理温度が200℃未満では、ニッケルが還元され難くなるため好ましくない。また、該処理温度が350℃を超えると、ニッケルがシンタリングしてしまって活性が低くなるため好ましくない。
【0022】
本発明の脱硫剤は、共沈法により調製されることが好ましい。共沈法による調製方法は、アルミナのような多孔質担体に亜鉛、ニッケル、3A族元素などの金属成分を含浸、担持して焼成する製造方法に比べて脱硫に有効なニッケルと亜鉛を脱硫剤中に多く含ませることができるため、脱硫剤の長寿命化を達成できる。一方、亜鉛酸化物担体にニッケル及び3A族元素を含浸する方法は、亜鉛酸化物担体の細孔の閉塞により比表面積及び細孔容積が減少し、脱硫活性が低くなるため好ましくない。さらに、亜鉛及びニッケルを含む脱硫剤に3A族元素を含浸する方法も、担体の細孔の閉塞により比表面積及び細孔容積が減少し、脱硫活性が低くなるため好ましくない。
【0023】
本発明では、ニッケルと亜鉛と3A族元素を含む酸性溶液をアルカリ溶液に混合して、ニッケルと亜鉛と3A族元素を含有する脱硫剤を調製することができる。ニッケルと亜鉛と3A族元素を含む酸性溶液は、亜鉛、ニッケル、3A族元素の硝酸塩、硫酸塩等を水で溶解することにより得られる。また、上記アルカリ溶液として、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等を用いることができるが、中でも炭酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0024】
本発明の脱硫剤は、水に、ニッケル、亜鉛及び3A族から選ばれる1種類以上の元素を含有する酸性溶液とアルカリ溶液とを同時に滴下して、ニッケルと亜鉛と3A族元素を含有する沈殿を生成させることにより調製されることが特に好ましい。なお、本発明において、酸性溶液とアルカリ溶液との同時滴下とは、酸性溶液の80容量%以上の量、好ましくは90容量%以上の量を滴下している期間、酸性溶液を滴下しつつアルカリ溶液が滴下されており、且つ、アルカリ溶液の80容量%以上の量、好ましくは90容量%以上の量を滴下している期間、アルカリ溶液を滴下しつつ酸性溶液が滴下されていることを指し、酸性溶液及びアルカリ溶液の滴下の開始と終了が完全に一致していることを要さない。
【0025】
上記の工程で生成した沈殿物はろ過後に乾燥する必要があるが、乾燥温度は100〜200℃が好ましい。また、その後の焼成は必ずしも必要ではないが、焼成する場合の温度は400℃以下が好ましく、350℃以下が更に好ましい。焼成温度が400℃を超えると、塩が分解してできるニッケルと亜鉛と3A族元素の酸化物の結晶化が進み、ニッケル、亜鉛および3A族元素酸化物の結晶子径が大きくなり比表面積が低下するので好ましくない。
【0026】
なお、本発明において脱硫剤とは、硫黄収着機能を持った脱硫剤をいう。ここでいう硫黄収着機能を持った脱硫剤とは、有機硫黄化合物中の硫黄原子を脱硫剤に固定化するとともに、有機硫黄化合物中の硫黄原子以外の炭化水素残基については有機硫黄化合物中の炭素−硫黄結合が開裂することによって脱硫剤から脱離させる機能をもった脱硫剤をいう。この有機硫黄化合物中の炭化水素残基が脱離する際には、硫黄との結合が開裂した炭素に、系内に存在する水素が付加する。したがって、有機硫黄化合物から硫黄原子が除かれてそこに水素が付加した炭化水素化合物が生成物として得られることになる。ただし、硫黄原子が除かれた炭化水素化合物が、さらに水素化、異性化、分解等の反応を受けた生成物を与えることがあっても構わない。一方、硫黄は脱硫剤に固定化されるため、水素化精製処理とは異なり、反応生成物として硫化水素などの硫黄化合物の発生を伴わない。そのため、反応系内の水素をリサイクルして使用する際にも、硫化水素を除去する設備が不要となるため経済的に有利である。
【0027】
[炭化水素油]
本発明による脱硫方法の対象となる原料の炭化水素油は、硫黄分を含む炭化水素油であれば特に限定されないが、硫黄分を2質量ppm以上含むものが好ましく、より好ましくは2〜1,000質量ppm、より一層好ましくは2〜100質量ppm、特に好ましくは2〜40質量ppm含むものである。硫黄分が1,000質量ppmを超えると、脱硫剤の寿命が短くなり好ましくない。
【0028】
原料の炭化水素油として、具体的には、製油所などで一般的に生産されるLPG留分、ガソリン留分、ナフサ留分、灯油留分、軽油留分などに相当する基材が挙げられる。LPG留分は、プロパン、プロピレン、ブタン、ブチレンなどを主成分とする燃料ガスおよび工業用原料ガスである。該LPG留分は、通常は、LPG(液化石油ガス)と称されるように、加圧下の球状タンクに液相の状態で貯蔵されるか、大気圧近傍の低温下にて、液相の状態で貯蔵される。上記ガソリン留分は、一般に炭素数4〜11の炭化水素を主体とし、密度(15℃)が0.783g/cm3以下、10%留出温度が24℃以上、90%留出温度が180℃以下である。上記ナフサ留分は、ガソリン留分の構成成分(ホールナフサ、軽質ナフサ、重質ナフサ、又はそれらの水素化脱硫ナフサ)あるいはガソリン基材を製造する接触改質の原料(脱硫重質ナフサ)となる成分などの総称であり、沸点範囲がガソリン留分と殆ど同じ範囲か、ガソリン留分の沸点範囲に包含されるものである。したがって、ガソリン留分と同じ意味で用いられることも多い。上記灯油留分は、一般に沸点範囲150〜280℃の炭化水素混合物である。上記軽油留分は、一般に沸点範囲190〜350℃の炭化水素混合物である。
【0029】
また、原料の炭化水素油は、製油所などで生産されるものには限らず、硫黄分を2〜1,000質量ppm含有し、石油化学から生産される石油(炭化水素)ガスや前記と同様な沸点範囲を有する留分でも構わない。好ましく使用できる炭化水素油としては、重質油を熱分解又は接触分解して得られた炭化水素をさらに分留したものが挙げられる。
【0030】
なお、本発明による脱硫方法の対象となる原料の炭化水素油として特に好ましいのは、接触分解ガソリンや軽油留分である。接触分解ガソリンはオレフィン分を10〜50容量%程度含むため、一般的に行われる水素化脱硫触媒による水素化精製ではオレフィン分が水素化されてオクタン価が大きく低下してしまうが、本発明の脱硫方法ではオレフィン分はほとんど水素化されない。従って、オレフィン分を10〜50容量%、好ましくは10〜30容量%含有する炭化水素油にも、好適に使用できる。
【0031】
また、軽油留分には芳香族分が多く含まれるため、一般的に行われる水素化脱硫触媒による水素化精製では芳香族分が水素化されるため水素の消費量が多いが、本発明の脱硫方法では芳香族分はほとんど水素化されない。ただし、軽油留分の場合、通常硫黄分を10,000質量ppm程度含むため、水素化脱硫触媒による水素化精製で硫黄分をある程度低減し、具体的には2〜40質量ppmまで低減したのち、本発明の脱硫方法を適用することが好ましい。硫黄分が多いと、脱硫剤の寿命が大きく低下してしまう。本発明の対象とする炭化水素油の芳香族分に制限はないが、芳香族分は0.1〜50容量%、好ましくは0.1〜45容量%含有する炭化水素油にも、好適に使用できる。
【0032】
[脱硫反応条件]
炭化水素油を脱硫剤と接触させる条件としては、反応温度は50〜300℃が好ましく、さらに好ましくは100〜300℃、特に好ましくは100〜200℃である。反応温度が50℃未満であると、脱硫速度が低下し、効率的に脱硫ができず好ましくない。また、反応温度が300℃を超えると、脱硫剤がシンタリングし、脱硫速度、脱硫容量とも低下し好ましくない。なお、反応温度が100℃以上であれば、脱硫速度が十分に高く、効率的に脱硫を行うことができる。
【0033】
また、反応圧力は、ゲージ圧で0.2〜5.0MPaであるのが好ましく、さらには0.2〜2.0MPa、特には0.2〜1.0MPaである。反応圧力が0.2MPa未満だと、脱硫速度が低下し、効率的に脱硫ができず好ましくない。また、反応圧力が5.0MPaを超えると、炭化水素油中に含まれるオレフィン分や芳香族分の水素化等の副反応が進行するため好ましくない。なお、反応圧力が5.0MPa以下であれば、オレフィン分や芳香族分の水素化等の副反応を十分に抑制でき、2.0MPa以下であれば、これら副反応を確実に防止できる。
【0034】
更に、重量基準の液空間速度(WHSV)は、1.0h-1以上であることが好ましく、より好ましくは2.0h-1以上、さらに好ましくは3.0h-1以上である。また、WHSVは、好ましくは50.0h-1以下、より好ましくは20.0h-1以下、より一層好ましくは10.0h-1以下である。WHSVが1.0h-1未満だと、通油量が制限されたり、脱硫リアクターが大きくなり過ぎたりするため、経済的に脱硫できず好ましくない。また、WHSVが50.0h-1を超えると、脱硫するのに十分な接触時間が得られず、脱硫率が低下するため好ましくない。なお、WHSVが2.0h-1以上であれば、十分経済的に脱硫を行うことができ、WHSVが20.0h-1以下であれば、接触時間が十分に長いため脱硫率が向上し、10.0h-1以下であれば、脱硫率が特に高くなる。なお、WHSVは、脱硫剤の重量に対する、1時間あたりに流れた炭化水素油の重量である。
【0035】
水素/油比は特に限定しないが、接触分解ガソリンのようにオレフィンを多く含む留分の場合は、0.01NL/L以上が好ましく、0.1NL/L以上がより好ましく、また、200NL/L以下が好ましく、100NL/Lがより好ましい。水素/油比が0.01NL/L未満だと、十分に脱硫が進行しないため好ましくなく、水素/油比が200NL/Lを超えると、オレフィンの水素化などの副反応が起こるため好ましくない。
【0036】
また、軽油留分のように多環芳香族を含む留分の場合、水素/油比は0.1〜1,000NL/Lが好ましく、1〜500NL/Lが更に好ましく、10〜400NL/Lが特に好ましい。水素/油比が0.1NL/L未満だと、十分に脱硫が進行せず好ましくない。また、水素/油比が1,000NL/Lだと、水素流量が多くなりすぎて、水素コンプレッサーが大きくなり好ましくない。
【0037】
使用する水素はメタン等の不純物を含んでいてもよいが、水素コンプレッサーが大きくなり過ぎないよう水素純度は50容量%以上が好ましく、さらには80容量%以上、特には95%以上が好ましい。なお、水素中に硫化水素などの硫黄化合物が含まれると脱硫剤の寿命が短くなるので、水素中の硫黄分は1,000容量ppm以下が好ましく、さらには100容量ppm以下、特には10容量ppm以下が好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら制限されるものではない。
【0039】
(脱硫剤1)
硝酸亜鉛六水和物170.5g、硝酸ニッケル六水和物55.5g、硝酸セリウム六水和物15.6gを水300mLに溶解した酸性溶液Aを調製した。また、炭酸ナトリウム103.9gを水300mLに溶解したアルカリ溶液Bを調製した。蒸留水600mLを温度60℃に加温撹拌しながら、前記調製した酸性溶液Aとアルカリ溶液Bを滴下した。酸性溶液Aとアルカリ溶液Bは、ほぼ同時に滴下を開始し、60分で滴下を終了した。その後、1時間継続して撹拌した。得られた沈殿物をろ過した後、水で洗浄した。その後、120℃で16時間乾燥後、350℃で3時間焼成して脱硫剤1を得た。得られた脱硫剤1に対して、金属分の含有量をアルカリ融解ICP法で、酸化物の結晶子径はXRD測定結果から求めた。なお、NiOは(200)面のピーク、ZnOは(100)面のピークからScherrerの式により算出した。また、細孔容積を窒素吸脱着法によるBJH法で、比表面積を窒素吸脱着法によるBET法で測定した。結果を表1に示す。
【0040】
(脱硫剤2)
硝酸亜鉛六水和物を160.7g、硝酸ニッケル六水和物を52.3g、硝酸セリウム六水和物34.7gを水300mLに溶解した酸性溶液Aを調製した以外、脱硫剤1と同様の方法により脱硫剤2を得た。また、得られた脱硫剤2の金属分の含有量、酸化物の結晶子径、細孔容積、比表面積を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
(脱硫剤3)
硝酸亜鉛六水和物を178.5g、硝酸ニッケル六水和物58.2gを水300mLに溶解した酸性溶液Aを調製した以外、脱硫剤1と同様の方法により脱硫剤3を得た。また、得られた脱硫剤3の金属分の含有量、酸化物の結晶子径、細孔容積、比表面積を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例1)
リアクターに脱硫剤1を充填し、水素気流中300℃で16時間還元処理を行った後、炭化水素油の通油試験を実施した。炭化水素油としては、接触分解重質ガソリン(密度(15℃):0.7992g/cm3、10%留出温度:120.5℃、90%留出温度:190.5℃、硫黄分13質量ppm、芳香族分:42.5容量%、オレフィン分:17.6容量%、オクタン価(RON):86.6)を用いた。反応温度140℃、反応圧力0.3MPa、水素/油比=100NL/L、WHSV=3.4h-1の条件下、リアクターの入口から炭化水素油の通油を開始した。その結果、脱硫率50%となったときの脱硫油の性状は、硫黄分6.5質量ppm、芳香族分:43.6容量%、オレフィン分:16.9容量、オクタン価(RON)ロス:0.1であった。また、脱硫率が50%を切るまでの時間(L50)は1,391時間であった。
【0044】
尚、密度はJIS K2249「原油及び石油製品−密度試験方法」、蒸留性状はJIS K2254「石油製品−蒸留試験法」、硫黄分はASTM D5453(紫外蛍光法)に準拠して測定した。芳香族分、オレフィン分及びRONはJIS K2536−2(ガスクロマトグラフによる全成分の求め方)に準拠してヒューレットパッカード社製PIONA装置を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0045】
(実施例2)
脱硫剤2を用いて、実施例1と同様にして炭化水素油の通油試験を実施した。結果を表2に示す。
【0046】
(比較例1)
脱硫剤3を用いて、実施例1と同様にして炭化水素油の通油試験を実施した。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
(比較例2)
リアクターに水素化精製触媒(Advanced Refining Technologies LLC社製、型番AT−505、(Ni、Moを含有触媒))を充填し、反応開始前に、硫化処理を行った。硫化処理は接触分解重質ガソリンにジメチルジスルフィドを1000ppm加えた油を用いて320℃、2.0MPa、WHSV=3.4h-1で8時間行った。
その後、反応圧力を2.0MPa、反応温度を脱硫率が50%(硫黄分6.5質量ppm)となるように設定し、水素/油比=100NL/L、WHSV=3.4h-1の条件下、実施例1と同じ接触分解重質ガソリンの通油試験を実施した。その結果、反応温度275℃まで上げたときに脱硫率50%となった。その際の芳香族分は39.7容量%、オレフィン分は12.2容量%、オクタン価(RON)ロスは3.0であった。
【0049】
以上に示す通り、通常の水素化精製触媒による脱硫では、芳香族分、オレフィン分が水添され減少するのに対し、本発明に従う実施例の脱硫剤は、比較的マイルドな条件において炭化水素油を長期間にわたって安定にかつ経済的に脱硫できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを1〜30質量%、亜鉛を30〜80質量%、3A族から選ばれる1種類以上の元素を0.1〜20質量%含有し、比表面積が70m2/g以上であることを特徴とする脱硫剤。
【請求項2】
水に、ニッケル、亜鉛及び3A族から選ばれる1種類以上の元素を含有する酸性溶液とアルカリ溶液とを同時に滴下して、沈殿を生成させることを特徴とする請求項1に記載の脱硫剤の製造方法。
【請求項3】
硫黄分を2質量ppm以上含有する炭化水素油を請求項1に記載の脱硫剤と水素存在下で、温度50〜300℃、圧力0.2〜5.0MPa、重量空間速度(WHSV)1.0h-1以上の条件で接触させる炭化水素油の脱硫方法。

【公開番号】特開2011−157470(P2011−157470A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20259(P2010−20259)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(590000455)一般財団法人石油エネルギー技術センター (249)
【Fターム(参考)】