説明

脱穀機

【課題】多量な穀稈や濡れた穀稈を脱穀する場合でも、漏下孔の目詰まりを防止した脱穀を行い、穀粒損傷を低減すると共に脱穀負荷の少ない脱穀作業を行うことができる脱穀機を提供する。
【解決手段】外周面に扱歯を突設した扱胴4と、該扱胴4の外周に沿って張設された受網5とを備え、扱胴4を前後に分割して前側扱胴20より後側扱胴21を高速回転させる脱穀機1であって、前記受網5の前側扱胴20に臨む部位を凹凸状受網27となし、且つ後側扱胴21に臨む部位を平坦状受網29で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン等に搭載可能な脱穀機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、扱胴始端部では穀稈が急速に脱粒処理されるので、穀粒の損傷や穂切れを生じ易いことから扱胴を前後分割し、前側扱胴に比較して後側扱胴を高速回転させることにより、前側扱胴の回転を遅くして扱胴始端部での穀粒の損傷や穂切れ、切藁の発生を減少させると共に、後側扱胴の回転を速くして穀稈の扱ぎ残し処理や刺さり粒の処理と、受網を漏下していない扱ぎ下ろし物(脱穀物)の脱粒処理性能を良くするように改良した脱穀機が既に公知である(例えば特許文献1。)。
そして、上記脱穀機の前側扱胴と後側扱胴には、回転軌跡の外周に沿って張設される受網を凹凸のない平坦面状の鉄板に漏下孔を穿設形成した多孔板網で構成することにより、受網に対する切れ藁の引っ掛かりを減少させる構成としている。
【特許文献1】特開2004−57117号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1で示される受網全体を多孔板網で構成した脱穀機は、フィードチェンで搬送する穀稈や脱穀物を凹凸のない平坦面によって藁の引っ掛かりを低減しスムーズに移動させることができ、脱穀物による目詰まりを生じ難くした漏下処理をすることができることから、目詰まりを生じ易い濡れ材の脱穀に適す等の利点がある。
然し、多孔板網は凹凸が少なく扱ぎ下ろし物の脱粒処理性能が悪いため、回転の遅い前側扱胴部分を多孔板網とすると、扱胴回転が遅いことと相俟って前側扱胴部位での脱穀性能が悪化する等の課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため本発明による脱穀機は、第1に、外周面に扱歯を突設した扱胴4と、該扱胴4の外周に沿って張設された受網5とを備え、扱胴4を前後に分割して前側扱胴20より後側扱胴21を高速回転させる脱穀機1において、前記受網5の前側扱胴20に臨む部位を凹凸状受網27で、後側扱胴21に臨む部位を平坦状受網29で構成したことを特徴としている。
【0005】
第2に、凹凸状受網27を、複数の縦線30と横線31を縦横に交差させて編むことにより凹凸状をなす漏下孔32を形成したクリンプ網となし、且つ平坦状受網29を、平坦面状板に漏下孔37を形成した多孔板網とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記のように構成した本発明による脱穀機は次のような効果を奏する。扱室の前半部で前側扱胴に凹凸状受網を対設すると共に、後半部で後側扱胴に平坦状受網を対設した構成にすることにより、回転の遅い前側扱胴によって扱胴始端部での穀粒の損傷や、穂切れ、切藁の発生を減少させ、且つ後側扱胴の回転を速くして穀稈の扱ぎ残し処理、刺さり粒処理、脱穀物の脱粒処理を良好に行なうものでありながら、前側扱胴と凹凸状受網との間で脱穀物を解して漏下を促進することができ、また後側扱胴側を平坦状受網としたことにより後側扱胴が高速回転するにも拘わらず藁の引っ掛かりを減少させ目詰まりを防止した良好な脱穀処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1で示す符号1はコンバインやハーベスタ等に搭載可能な脱穀機である。この脱穀機1は扱室2の扱口に沿ってフィードチェン3を前後方向に張設し、フィードチェン3で搬送される穀稈を扱室2の前側板2a,後側板2bに支持される扱胴4の回動により脱穀し、脱穀物を本発明に係る受網5によって漏下選別することができる。
【0008】
この脱穀機1は上記扱室2の側方に、処理胴6と処理網7からなる処理室8を併設しており、奥側終端の送塵口8aを介して送り込む脱穀物を処理胴6の回転によって処理し、混在する穀粒を処理網7から漏下させて回収すると共に排塵物を排塵口8bから排出することができる。また扱室2及び処理室8の下方には、機体の前後に配置される送風ファン9と吸引排塵ファン10によって選別風路Sを形成し、該選別風路S中に揺動選別体11を前後揺動可能に装架している。
【0009】
この構成により脱穀機1は、扱室2の受網5と処理室8の処理網7を漏下した脱穀物を揺動選別体11の篩選別と選別風路Sの風選別とにより選別し、選別された籾は一番ラセン12を介して穀粒タンク13に収容し、未選別物は二番ラセン15を介して揺動選別体11上に還元し、藁屑は吸引排塵ファン10により機外に吸引排出することができる。
また扱室後側板2bの下部に穀稈排出口2cを形成し、その後方に4番口16を4番漏斗壁17を設けて形成しており、穀稈排出口2cから排出される脱穀済みの排稈をフィードチェン3から排稈搬送装置18へ受け継ぎ搬送し、後方のカッター等の排稈処理装置19により機外排出処理するように構成している。
【0010】
次に図1〜図4を参照し本発明に係る扱胴4及び受網5の構成について説明する。この扱胴4は図2に示すように前後長さの略中間位置で前後に分割した前側扱胴20と後側扱胴21で構成しており、前側板2a,後側板2bの間に軸支される前側扱胴軸22と後側扱胴軸23とからなる扱胴軸24にそれぞれ軸着している。
即ち、扱胴軸24は短い前側扱胴軸22内に長い後側扱胴軸23を回転自在に軸支した状態で、前側板2aに前側扱胴軸22の前端を軸支し、且つ後側板2bに後側扱胴軸23の後端を軸支しており、上記前側板2aの前側に設けた図示しない駆動装置によって前側扱胴軸22と後側扱胴軸23をそれぞれ個別に低速及び高速回転駆動するようにしている。
【0011】
上記構成からなる扱胴軸24は、前側扱胴軸22には前側扱胴20を軸着すると共に、後側扱胴軸23には後側扱胴21を軸着している。そして、従来のものと同様に上記前側扱胴20は扱室2の穀稈供給口2dに対向するテーパ状の斜面と円筒状のドラム面に整流歯と並歯等からなる扱歯25を前後段に複数立設し、且つ後側扱胴21は円筒状のドラム面に並歯と梳歯等からなる扱歯26を前後段に複数立設している。
【0012】
一方受網5は上記扱胴4の回転軌跡の下半部外周に沿って半円弧状に形成されて対設され、図示例の受網5は扱室前半部と後半部とで分割形成した前側の凹凸状受網(クリンプ網)27と後側の平坦状受網(多孔板網)29とからなり、それぞれ前側扱胴20と後側扱胴21に対設される。
図2,図3で示すように上記クリンプ網27は、複数の縦線30と横線31を縦横に交差させて編むことにより、方形小孔状の漏下孔32を形成する網体33となし、その外周に機体装着用のフレーム35を一体的に組み付けた構成となしている。
【0013】
即ち、縦線30と横線31を縦横に交差させて編んだクリンプ網27は、図3(A)で示すように扱歯25の先端と縦線30との間隔Hと横線31との間隔Lとを異ならせて、各扱歯に対面する方向に突出する凸部と凹入する凹部とにより凹凸状に形成される。これによりフィードチェン3で扱室2内に供給されて後方移動する穀稈が、クリンプ網27で支持され前側扱胴20の扱歯25によって脱穀されるとき、脱穀物を縦線30と横線31に引っ掛かり接触させて解すことができ、またクリンプ網27の全面に形成される漏下孔32から穀粒を速やかに漏下させて刺さり粒を低減することができる。
【0014】
またフィードチェン3による穀稈の後方移動が行われるとき、扱室2内で穂先は低速回転する扱歯25と接触し緩やかに梳き揃えられるので、穀粒の損傷を抑制し枝梗付着粒となる穂切れや切藁(藁屑類)の発生を抑制しながら、クリンプ網27上での脱穀処理(クリンプ網部脱穀)を順次受けることができる。
【0015】
従って、多量の穀粒が付着する穀稈をクリンプ網27上で脱穀する前半脱穀作業は、低速回転する扱歯25によって枝梗付着粒の発生を抑制し脱粒を確実に行うことができる。
また脱穀初期に生ずる上記滞動物は、低速回転する扱歯25とクリンプ網27の凹凸部によって解し作用が促進され、尚且つ全面に形成された漏下孔32から穀粒の速やかな漏下を促進される。これによりクリンプ網27では滞動物の量を少なくし且つ解されるので目詰まりを防止して、穀粒の損傷及び脱穀負荷を低減した初期脱穀を行うことができる。
【0016】
尚、網体33は上記クリンプ網型に限定することなく、例えば図3(B)に示すように、漏下孔間隔を有して列設した帯板状の複数の横杆36に対し、複数の丸棒状の縦線30を漏下孔32を形成するように格子状に連結した格子網として構成することにより、各扱歯に対面する方向の凹部と凸部を有した凹凸状の網体にすることができる。
この場合も穀稈を前側扱胴20の扱歯25によって脱穀するとき、滞動物を凹凸部によって解すことができるので、格子状網体33の全面に形成された漏下孔32から脱粒された穀粒の漏下を促進し効率よく脱穀することができる。
【0017】
次に図2,図4を参照し平坦状受網29について説明する。この平坦状受網29は複数の漏下孔37を有する平板を円弧状に湾曲させて、後側扱胴21の回転軌跡の下半部に沿って対設し、且つ前記クリンプ網27の後端に隣接させて脱穀機体に着脱自在に設置される。図示例の平坦状受網29はプレス打ち抜き加工等によって制作される多孔板網としており、各漏下孔37は扱歯26の回転軌跡に対応する位置に、前記後側扱胴21の軸方向の終端側ほど該後側扱胴21の回転方向に偏寄する長孔として複数列設している。
【0018】
これにより多孔板網29は前記クリンプ網27に比して凹凸の少ない平坦面状の網体となり湾曲形成されて、外周に機体装着用のフレーム38を一体的に組み付けた構成となして機体に装着される。尚、クリンプ網27と多孔板網29との隣接位置には仕切板39を設けることが望ましく、また仕切板39はクリンプ網27及び多孔板網29の必要位置にも適宜に設けられる。
【0019】
従って、扱室2内でクリンプ網27側で前半脱穀が行なわれフィードチェン3によって搬送される穀稈は、多孔板網29の平坦面により大きな抵抗を受けることなくスムーズに移動しながら後側扱胴21の扱歯26により脱穀される。この後半脱穀では高速回転する後側扱胴21で、扱残しや穀稈束内に残留している刺さり粒が脱粒処理され、またクリンプ網27側で漏下されなかった枝梗付着粒(未処理の脱穀物)を、漏下孔37の目詰まりや引っ掛かりを防止して漏下させることができる。
【0020】
このような後半脱穀作業が行なわれるとき、穀稈は凹凸の少ない多孔板網29の平坦面をスムーズに移動することができ、また前記クリンプ網27の漏下孔32より大きい傾斜状長孔の漏下孔37から逐次速やかに漏下しながら脱穀するので、漏下孔が詰まり扱室2内で多量の藁屑類が滞留回動することを防止し、高速回転する後側扱胴21の脱穀負荷を抑制した脱穀を行うことができる。従って、藁屑類が多く発生する濡れ材や多量の穀稈を脱穀する際にも、受網5の後半部を多孔板網29にした脱穀機1は、藁屑類の漏下を確実にして穀稈の後方移動をスムーズにするので、扱室2内での穀粒や藁屑類の滞留回動を低減し脱穀効率を向上させることができる。
【0021】
以上のように構成される脱穀機1は、クリンプ網27を前側扱胴20に沿って対設すると共に、多孔板網29を後側扱胴21に沿って対設した受網構造にしているので、フィードチェン3によって挟持搬送される穀稈が穀稈供給口2dから扱室2内に供給されると、穀稈は扱室前半部のクリンプ網27上で前側扱胴20によって脱穀されて、後半部において多孔板網29上で後側扱胴21によって脱穀され、4番口16から排出され排稈搬送装置18に継送されて排稈処理装置19で排稈処理され機外排出することができる。
【0022】
上記受網構造を備えた脱穀機1は、先ず前半脱穀において多量の穀粒が付着する穂先側を、クリンプ網27上で扱歯25の低速回転によって、損傷や穂切れ、切藁及び枝梗付着粒の発生を防止しながら脱粒を行うことができ、またクリンプ網27の凹凸によって解し作用を付与しながら扱歯25による脱粒を行うことができる。
そして、穀稈から脱粒された穀粒を凹凸により抵抗を与えながら漏下孔32から速やかに漏下させるので、脱穀初期に扱室2内での穀粒や枝梗付着粒及び藁屑類の滞留回動量を少なくすることができる。これにより、実りのよい多量な穀稈や濡れた穀稈が供給される場合でも、クリンプ網27の目詰まりを極力防止し穀粒の損傷及び脱穀負荷を低減した前半脱穀作業を能率よく行うことができる。
【0023】
また後半脱穀において、クリンプ網27から多孔板網29に移動した穀稈は、扱残し粒を有する穂先部が後側扱胴21の扱歯26と高速で接触する際に、凹凸の少ない多孔板網29の平坦面によって引っ掛かりなくスムーズに移動するので、穂切れや切藁の発生を抑制した脱穀を行うことができる。
また後半脱穀では前半脱穀で生じた藁屑類と合流するため、脱粒を含む多量の藁屑類が多孔板網29上で持ち回り処理されるが、このとき多孔板網29は平坦面であること、及び長孔状の漏下孔37が穿設されていることにより、藁屑の引っ掛りが少なく目詰まりが防止されるから、藁屑類の持ち回り抵抗を増大させることなく藁屑類を速やかに漏下させるので、藁屑類の滞留回動を抑制した脱穀をスムーズに行うことができる。
【0024】
従って、扱室前半部で前側扱胴20に凹凸状受網27を対設すると共に、後半部で後側扱胴21に平坦状受網29を対設した受網構造を備えた脱穀機1は、多量な穀稈や濡れた穀稈を脱穀する場合でも、漏下孔32,37の目詰まりを防止し藁屑類の滞留回動を抑制した脱穀を行うことができるので、穀粒損傷を低減すると共に脱穀負荷の少ない高能率脱穀を行うことができる。
尚、穀稈の品種或いは性状等に対応させた前半脱穀と後半脱穀を適切に行う上で、凹凸状受網27と平坦状受網29の広さや位置は適宜調整したものを設置することができる。
【0025】
また扱室2の終端では処理室8の送塵口8aに対する送塵物の量も少なくなるため、処理室8の排塵口8bら排出される排塵物は主として吸引排塵ファン10によって直接的に吸引し機外に速やかに排出することができ、揺動選別体11による処理室8から排出される排塵物の処理負荷を低減し、選別負荷の大きい濡れ材や大量穀稈に対する脱穀の選別精度を上げながら脱穀作業を高能率に行うことができ、また必要により処理室8の設置を省略した廉価型脱穀機の提供を可能することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明が適用された脱穀機の側断面図である。
【図2】図1の脱穀機の扱胴と受網の構成を示す斜視図である。
【図3】図1の脱穀機の凹凸状受網の実施形態を示す要部の断面図である。
【図4】図1の脱穀機の平坦状受網の実施形態を示す要部の断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 脱穀機
2 扱室
4 扱胴
5 受網
20 前側扱胴
21 後側扱胴
27 クリンプ網(凹凸状受網)
29 多孔板網(平坦状受網)
30 縦線
31 横線
32 漏下孔
37 漏下孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に扱歯を突設した扱胴(4)と、該扱胴(4)の外周に沿って張設された受網(5)とを備え、扱胴(4)を前後に分割して前側扱胴(20)より後側扱胴(21)を高速回転させる脱穀機(1)において、前記受網(5)の前側扱胴(20)に臨む部位を凹凸状受網(27)で、後側扱胴(21)に臨む部位を平坦状受網(29)で構成した脱穀機。
【請求項2】
凹凸状受網(27)を、複数の縦線(30)と横線(31)を縦横に交差させて編むことにより凹凸状をなす漏下孔(32)を形成したクリンプ網となし、且つ平坦状受網(29)を、平坦面状板に漏下孔(37)を形成した多孔板網とする請求項1記載の脱穀機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−142157(P2009−142157A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319774(P2007−319774)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】