説明

脱穀装置

【課題】穀稈を脱穀処理する扱室を開閉する扱室カバーを備えた脱穀装置において、扱室を開閉させる際の作業負担が全体として軽減される脱穀装置を提供することを課題とする。
【解決手段】室内の扱胴4によって穀稈を脱穀処理する扱室6と、回動することにより扱室6を開閉する扱室カバー23と、扱室カバー23を開方向に付勢する付勢手段26とを備えた脱穀装置において、付勢手段26を、扱室カバー23への開方向の付勢力が扱室6開放時よりも閉鎖時の方が大きくなるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、室内の扱胴によって穀稈を脱穀処理する扱室と、扱室を開閉する扱室カバーとを備えた脱穀装置に関する。
【背景技術】
【0002】
室内の扱胴によって穀稈を脱穀処理する扱室と、回動することにより扱室を開閉する扱室カバーと、扱室カバーを開方向に付勢する付勢手段とを備え、扱室を開放させる際の作業負担を軽減させる特許文献1に示す脱穀装置が公知になっている。
【特許文献1】特開2004−173588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記文献の脱穀装置は、付勢手段が扱室を閉鎖させる際に扱室カバーを開方向に付勢するように作用するため、付勢手段を設けることにより扱室の閉鎖作業負担が増えてしまうという課題がある。
本発明は、上記課題を解決し、穀稈を脱穀処理する扱室を開閉する扱室カバーを備えた脱穀装置において、扱室を開閉させる際の作業負担が全体として軽減される脱穀装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため本発明の脱穀装置は、第1に室内の扱胴4によって穀稈を脱穀処理する扱室6と、回動することにより扱室6を開閉する扱室カバー23と、扱室カバー23を開方向に付勢する付勢手段26とを備えた脱穀装置において、付勢手段26を、扱室カバー23への開方向の付勢力が扱室6開放時よりも閉鎖時の方が大きくなるように構成したことを特徴としている。
【0005】
第2に、付勢手段26の扱室カバー23への作用点Pを移動させて該作用点Pと扱室カバー23の回動支点Sとの距離を変更することにより、付勢手段26の扱室カバー23への開方向の付勢力を変更することを特徴としている。
【0006】
第3に、扱室固定枠22側にリンクアーム38を回動可能に支持し、扱室カバー23とリンクアーム38の先端部とを融通機構37を介して連結し、付勢手段を扱室固定枠22側に回動可能に支持されたガススプリング26により構成し、融通機構37を、扱室カバー23の回動位置に応じてリンクアーム38の先端部と扱室カバー23の回動支点Sとの距離を変更するように構成し、前記ガススプリング26の先端部をリンクアーム38の先端部に回動可能に連結することにより前記作用点Pを移動させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
以上のように構成される本発明の脱穀装置によれば、付勢手段による扱室カバーの開方向への付勢力により、扱室の開放作業負担が軽減されるとともに、付勢手段を扱室カバーへの開方向の付勢力が扱室開放時よりも閉鎖時の方が大きくなるように構成することにより、付勢手段を設けることによる扱室の閉鎖作業負担の増加を最小限に抑制できる。このため、扱室カバーを介して、扱室を開閉させる際の作業負担が全体として軽減される。
【0008】
また、付勢手段の扱室カバーへの作用点を移動させて該作用点と扱室カバーの回動支点との距離を変更することにより、付勢手段の扱室カバーへの開方向の付勢力を確実に変更させしめることが可能である。
【0009】
さらに、リンクアーム、融通機構及びガススプリングを用いることにより、よりシンプルな構成で、付勢手段の扱室カバーへの開方向の付勢力を変更させしめることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明を適用したコンバインの脱穀装置の側面図である。コンバイン(図示しない)の走行機体(図示しない)の機体フレーム1上における進行方向左側には脱穀装置2が組付けられており、右側には脱穀装置2で脱穀・選別処理された穀粒(籾)を収容するグレンタンク3が固設されている。走行機体の前方に連結された前処理部(図示しない)で刈り取られた穀稈は、脱穀装置2で脱穀・選別処理され、排藁や藁屑等(芥類等)は走行機体の後端部から機外に排出され、穀粒はグレンタンク3内に収容される。
【0011】
上記脱穀装置2は、室内の扱胴4により穀稈の脱穀処理を行う扱室6と、上記扱室6の下方に配置されて扱室6で処理された処理物の選別処理を行う選別室7と、上記扱室6で処理された処理物を受止めて選別室7に漏下させる選別網8と、扱室6等で脱穀処理されて排藁となった穀稈を切断処理して走行機体の後端部から機外に排出するカッター部9と、穂先が扱室6に挿入された状態で扱室6に沿って穀稈を後方搬送するフィードチェーン11と、フィードチェーン11から受取った排藁をカッター部9に向かって後方搬送する排藁チェーン12とを備えている。なお、扱胴4で処理しきれなかった未処理物は、扱室6の後端部右側方から後方に延設された処理胴13によって処理され、選別室7に送り込まれる。
【0012】
上記選別室7は、前部に唐箕ファン14、後部に排塵ファン16を備えており、これら上記2つのファン14,16等によって起風される後方斜め上方の選別風により、扱胴4又は処理胴13により処理された処理物が、選別室3の後部上側まで吹き上げられる藁屑等と、選別風の影響を殆ど受けず殆ど後方に移動することなく落下する1番物と、選別風の影響を若干受けて若干後方に移動しながら落下する2番物とに選別される。
【0013】
藁屑等は排塵ファン13により機外に排出される一方で、1番物は穀粒として1番ラセン17及び揚穀筒18を介して上記グレンタンク3内に収容され、2番物は2番ラセン19及び還元筒21を介して、再び、上部から選別室7内に導入される。
【0014】
図2は、脱穀装置の要部正面図である。扱室6は、機体フレーム1に対して固定された固定枠22(扱室固定枠)等によって内壁が構成され、上方が開口部6a(図4参照)を介して開放されているおり、その室内には前後方向に延びる円筒状の扱胴4が回転自在に支持されている。上記開口部6aは、上部カバー23(扱室カバー)によって開閉される。
【0015】
上部カバー23は、扱室6の上方を覆う天板部23aと、天板部23aの前後端からそれぞれ下方に一体的に延設された側板部23b,23bとを備えており、上記天板部23aの右(図2における左)端部が前後方向の支軸S(回動支点)を介して固定枠22に支持されることにより上部カバー23が上下回動自在に固定枠22に取付けられている。くわえて、上部カバー23は、ガススプリング26(付勢手段,弾力付勢手段)により、常時、扱室6を開放させる方向(開方向,上方回動方向)に弾力的に付勢されている。また、扱胴4が上部カバー23とともに一体的に上下回動するように、扱胴4を上記前後の側板23b,23bに支持している。なお、図示する例では、このように、扱胴4と上部カバー23とが一体的に上下回動するように、扱胴4及び上部カバー23を構成しているが、上部カバー23の上下回動に伴って扱胴4を上下回動させずに上部カバー23のみが上下回動するように、扱胴4及び上部カバー23を構成してもよい。
【0016】
天板部23aの左端部には、作業者が上部カバー23を開放させる際に把持する前後方向の開閉ハンドル27が固設されている他、上部カバー23を扱室6閉鎖状態でロックするロックレバー28が上下揺動自在に支持されている。
【0017】
開閉ハンドル27の左右の端部には、U字状の延長ハンドル29の端部がそれぞれ上下回動自在に取付けられている。この延長ハンドル29は、前後方向に延びる把持部29aを有しており、上下回動自在に支持されることにより、開閉ハンドル27の下方に突出する延長姿勢と、把持部29aが天板部23aに沿うように開閉ハンドルの上方に収納される収納姿勢とに姿勢切換可能に構成されている。上記構成の延長ハンドル29によって、背丈の低い作業者の手が最上方位置に開放された上部カバー23の開閉ハンドル27に届かずに扱室6の閉鎖作業を行うことが困難になるという事態を防止できる。
【0018】
ロックレバー28は、基端部が前側の側板部23bの左端部に上下揺動自在に支持され、先端部が天板部23a前部から外側方(左側方)に突出している。ロックレバー28は、連結アーム31及び連結ロッド32からなるリンク機構30を介して、前側の側板部23bの右端部に上下揺動自在に取付けられたロックアーム33に連結されている。ロックアーム33は、扱室6閉鎖時に下方揺動されることにより、固定枠22に突出形成されたロックピン34と係合して上部カバー23を扱室6閉鎖状態でロックするとともに、上部カバー23による扱室6閉鎖時に上方揺動されることにより、ロックピン34との係合を解除して上部カバー23の閉鎖状態でのロックを解除するように構成されている。
【0019】
ロックレバー28を上方揺動することにより、連結アーム31が右側に回動され、これに伴って連結ロッド32が右側に移動してロックアーム33が上方揺動する一方で、ロックレバー28を下方揺動することにより、連結アーム31が左側に回動され、これに伴って連結ロッド32が左側に移動してロックアーム33が下方揺動する。なお、連結ロッド32は、コイルスプリング36によりロックアーム33を下方揺動させる方向(右方向)に付勢されている。
【0020】
次に、図3及び4に基づき、ガススプリングの構成について詳述する。
図3は、扱室閉鎖時の状態を示す要部正面図であり、図4は、扱室開放時の状態を示す要部正面図である。上記ガススプリング26は、上部カバー23の前後の側板部23b,23bに、それぞれ1個づつ設けられ、伸縮可能に構成されており、内部に注入されたガスにより伸縮状態によらず略一定の力で伸長方向に弾力的に付勢されている。
【0021】
各ガススプリング26は、一端(基端)側が固定枠22に上下揺動自在に支持され、他端側が融通機構37及びリンクアーム38を介して上部カバー23の側板部23bに上下回動自在に支持されている。
【0022】
融通機構37は側板部23b上に穿設された長孔37aを備え、この長孔37aは支軸Sから離間・近接する方向(図3における左右方向)に形成されている。
【0023】
リンクアーム38は、基端部が固定枠22の上部に上下揺動自在に支持され、先端部が長孔37a内を移動自在な状態で側板部23bに上下回動可能に支持されている。
【0024】
上記融通機構37は、上部カバー23を上方回動させることによりリンクアーム38の先端部を支軸Sに近接する方向に移動案内する一方で、上部カバー23を下方回動させることによりリンクアーム38の先端部を支軸Sから離間する方向に移動案内する。このことにより、融通機構37は、リンクアーム38の先端部と支軸Sとの距離が上部カバー23の回動位置に応じた所定距離に変更されるように構成されている。
【0025】
このような支持構造のリンクアーム38の先端部に、前述したガススプリング26の先端部を左右回動自在に連結する。このことにより、ガススプリング26の上部カバー23への作用点Pがリンクアーム38の先端部に位置した状態になる。ガススプリング26の伸長方向への付勢力は前述したように一定であり、ガススプリング26は、上部カバー23への開方向への付勢力が、作用点Pの回動支点Sからの距離が遠くなるほど大きくなり、作用点Pの回動支点Sからの距離が近くなるほど小さくなるように構成されている。
【0026】
以上により、上部カバー23による扱室6閉鎖時にガススプリング26による上部カバー23への開方向への付勢力が最大(作業点Pと回動支点Sとの距離が最大)になり、上部カバー23を扱室6閉鎖状態から上方回動させていくと次第にガススプリング26による上部カバー23への開方向への付勢力が減少し、上部カバー23による扱室6全開時にガススプリング26による上部カバー23への開方向への付勢力が最小(作業点Pと回動支点Sとの距離が最小)になる。
【0027】
上記構成により、上部カバー23による扱室6全開時、ガススプリング26による上部カバー23への上方回動方向への付勢力が最小になるため、自重等により、上部カバー23が下降作動する可能性がある。これを防止するため、ストッパーアーム39(下降ストッパー)を設ける。
【0028】
ストッパーアーム39は、上端部が上部カバー23の後側の側板部23bに左右揺動自在に支持されており、下端部にフック部39a(係合部)が形成されている。上部カバー23を最上方位置に回動させてストパーアーム39のフック部39aを、固定枠22の上部に突出形成されたストッパーピン41に近接する位置まで上方移動させると、ストッパーアーム39は図示しない弾性部材によりストッパーピン41側に付勢されているため、ストッパーアーム39のフック部39aがストッパーピン41と係合し(ストッパーピン41に引っ掛って係止され)、上部カバー23が扱室6全開状態でロックされて上部カバー23の自重等による下降作動が防止される。
【0029】
上記ストッパーアーム39は図示しないワイヤー(連係機構)を介して上部カバー23の左端部に回動操作可能に取付けられた解除レバー42に連結されており、この解除レバー42を回動操作することにより、ストッパーアーム39をロック解除方向(フック部39aとストッパーピン41との係合を解除させる方向,図4における右方向)に揺動させ、上部カバー23を下方回動可能な状態にする。
【0030】
以上により、ガススプリング26の上部カバー23への開方向への付勢力が小さい扱室6全開時においても、上部カバー23を扱室6の開口部6aに対して係止させることが可能になるとともに、その係止を解除レバー42の操作によって解除することができる。
【0031】
以上のように構成される本発明によれば、ガススプリング26の付勢力を強くすると、上部カバー23を閉じた状態から開く時には操作荷重が小さくなる一方で上部カバー23を開いた状態から閉じる時には操作荷重が大きくなって上部カバー23の閉じ操作が困難になるという、ガススプリング26の付勢力が伸長状態に関係無く略一定であることに起因した問題を是正できる。
【0032】
すなわち、本発明は、ガススプリング26の上部カバー23への開方向への付勢力が、閉じ状態で一番大きくなり、全開状態で一番小さくなるため、上部カバー23の開操作荷重と閉操作荷重の両方を極力小さくできる。くわえて、上部カバー23が閉じる直前は閉操作荷重が大きくなるが、ある程度、上部カバー23が開いた状態から勢いよく閉操作すれば、閉じる直前の操作荷重増は殆ど問題にならない。
【0033】
また、上部カバー23全開状態でのガススプリング26の上部カバー23への開方向の付勢力が小さいため、上部カバー23が全開状態を保持できずに下降するおそれがあるが、この問題を前述したストッパーアーム39を設けることにより解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を適用したコンバインの脱穀装置の側面図である。
【図2】脱穀装置の要部正面図である。
【図3】扱室閉鎖時の状態を示す要部正面図である。
【図4】扱室開放時の状態を示す要部正面図である。
【符号の説明】
【0035】
4 扱胴
6 扱室
22 固定枠(扱室固定枠)
23 上部カバー(扱室カバー)
26 ガススプリング(付勢手段,弾力付勢手段)
37 融通機構
38 リンクアーム
P 作用点
S 支軸(回動支点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内の扱胴(4)によって穀稈を脱穀処理する扱室(6)と、回動することにより扱室(6)を開閉する扱室カバー(23)と、扱室カバー(23)を開方向に付勢する付勢手段(26)とを備えた脱穀装置において、付勢手段(26)を、扱室カバー(23)への開方向の付勢力が扱室(6)開放時よりも閉鎖時の方が大きくなるように構成した脱穀装置。
【請求項2】
付勢手段(26)の扱室カバー(23)への作用点(P)を移動させて該作用点(P)と扱室カバー(23)の回動支点(S)との距離を変更することにより、付勢手段(26)の扱室カバー(23)への開方向の付勢力を変更する請求項1の脱穀装置。
【請求項3】
扱室固定枠(22)側にリンクアーム(38)を回動可能に支持し、扱室カバー(23)とリンクアーム(38)の先端部とを融通機構(37)を介して連結し、付勢手段を扱室固定枠(22)側に回動可能に支持されたガススプリング(26)により構成し、融通機構(37)を、扱室カバー(23)の回動位置に応じてリンクアーム(38)の先端部と扱室カバー(23)の回動支点(S)との距離を変更するように構成し、前記ガススプリング(26)の先端部をリンクアーム(38)の先端部に回動可能に連結することにより前記作用点(P)を移動させる請求項2の脱穀装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−153393(P2009−153393A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331747(P2007−331747)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】