説明

脱臭剤及びその製造方法

【課題】酸性ガス及びアルカリ性ガスを同時に脱臭できるとともに耐水性及び強度にも優れた脱臭剤を提供する。
【解決手段】本発明の脱臭剤は、Si元素含有率が9〜24wt%であり、Fe元素含有率(wt%)とC元素含有率(wt%)の比(C/Fe)が0.1〜4.3であることを特徴とする。この脱臭剤は、珪質頁岩、酸化鉄及び活性炭を混合して粉砕した後、成形して焼成することにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性ガスとアルカリ性ガスを同時に脱臭することができ、特に下水処理場や下水配管などから発生する悪臭ガスの脱臭に適した脱臭剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の脱臭剤、特に酸性ガスとアルカリ性ガスを同時に脱臭することができる脱臭剤としては、例えば、下記に示すものが開発されている。
【0003】
特許文献1には、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物と活性炭とを主成分とする脱臭組成物において、上記脱臭組成物における活性炭の含有量が、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物と活性炭との合計量に対して10重量%以上40重量%未満であることを特徴とする、含窒素系臭気及び含硫黄系臭気の脱臭性能、並びに機械的強度に優れた脱臭組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、組成比がシリカ20−70モル%、アルミナ5−20モル%、三酸化二鉄0−10モル%、マグネシア0−15モル%、HOが5−20モル%である層構造粘土鉱物を50℃−100℃の温度で1−5時間第一段水熱合成した後、150℃−250℃で1−3時間第二段水熱合成してなる粘土鉱物微結晶を主成分とする、塩基性から酸性に亘る複合臭気ガスに対して1種類で実用的な効果を持つ複合臭気用脱臭剤が開示されている。
【0005】
特許文献3には、珪質頁岩の粉砕物を単独で使用するか、あるいは当該粉砕物を任意の形状に成形することにより得られる多孔質材料からなる、調湿機能と消臭機能を同時に有する調湿消臭材料が開示されている。
【0006】
特許文献4には、硫酸アルミニウムと硫酸鉄とを水分の存在下で炭酸カルシウムと反応させ、生成したアルミニウム成分及び鉄分成分を含有する硫酸カルシウム粒子を100乃至500℃の温度で焼成することを特徴とする、アルカリ性物質と酸性物質との両方に優れた脱臭作用を示す脱臭性複合組成物の製造方法が開示されている。
【0007】
特許文献5には、硫酸鉄、消石灰、活性炭および腐植質土壌を含み、該硫酸鉄の含有量が固形脱臭組成物の全量中、固形分として10〜50重量%であり、pHが6〜8である、複数の臭気成分を1剤で脱臭する固形脱臭組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−96027号公報
【特許文献2】特開平10−263391号公報
【特許文献3】特開2001−219059号公報
【特許文献4】特開2006−102660号公報
【特許文献5】特開2008−272225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
下水処理場や下水配管などから発生する悪臭ガスの脱臭においては、脱臭剤に、硫化水素等の酸性ガスやアンモニア等のアルカリ性ガスを同時に脱臭する脱臭性能が求められる他、高湿度下に暴露される環境で使用されるため下水設備から発生する長期間高湿度の悪臭ガスに晒されても脱臭性能や形状を保持する性能などが求められる。
【0010】
そこで、本発明の目的は、酸性ガス及びアルカリ性ガスを同時に脱臭できるとともに耐水性及び強度にも優れた脱臭剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の脱臭剤は、Si元素含有率が9〜24wt%であり、Fe元素含有率(wt%)とC元素含有率(wt%)の比(C/Fe)が0.1〜4.3であることを特徴とする。
【0012】
本発明の脱臭剤は、酸性ガス及びアルカリ性ガスを同時に脱臭できるとともに耐水性及び強度にも優れたものになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】脱臭剤中のSi元素含有率に対する酸性ガス及びアルカリ性ガスの減衰率を示したグラフである。
【図2】脱臭剤のα値(C/Fe)に対する耐水性の評価を示したグラフである。
【図3】実施例及び比較例として作製した脱臭剤の形態を示した拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の脱臭剤を一実施形態に基づいて説明する。ただし、本発明の範囲は、この実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明の一実施形態の脱臭剤は、Si(珪素)元素含有率が9〜24wt%であり、Fe(鉄)元素含有率(wt%)とC(炭素)元素含有率(wt%)の比(C/Fe)が0.1〜4.3である。なお、本発明では、C/Feの値をα値ともいう。
Si元素含有率は、より好ましくは12〜18wt%であり、C/Feは、より好ましくは0.3〜0.9である。
Si元素含有率が上記範囲であると、酸性ガス及びアルカリ性ガスをともに消臭でき、α値が上記範囲であると耐水性及び強度に優れる。
【0016】
Si元素は、原材料として、Si(珪素)及びFe(鉄)を含有する粘土鉱物を用いるのが好ましく、この粘土鉱物としては、例えば、珪質頁岩、セピオライト、アタパルジャイトなどを挙げることができる。
珪質頁岩は、千葉県安房地方、北海道天北地方、京都府丹波地方などで採掘でき、SiOを60〜80wt%、Alを10〜20wt%、Fe及びFeOを2〜7wt%、CaOを1〜4wt%、NaOを0.5〜3wt%、KOを2〜4wt%含有するものが好ましく、また含水率は0〜10%、BET法による比表面積が30〜200m/g、嵩密度は0.2〜1.5g/ml、0.5〜200nmの細孔を有し、全細孔容積は0.01〜0.5cm/gであるものが好ましい。
【0017】
Fe元素は、原材料として、上記粘土鉱物や市販の酸化鉄などを用いるのが好ましい。
Fe元素含有率は、脱臭剤中に6〜46wt%であるのが好ましく、18〜36wt%であるのがより好ましい。
【0018】
C元素は、原材料として、活性炭を用いるのが好ましく、この活性炭としては、例えば、コークス、ピッチ、木炭、ヤシガラなどから作製された活性炭を挙げることができ、回分式流動層炉で製造したものが好ましく、BET法による比表面積は500〜2000m/g、嵩密度は0.1〜1.0g/ml、細孔分布が1Å〜1000Å、全細孔容積は0.1〜1.0cm/gであるものが好ましい。
C元素含有率は、脱臭剤中に1〜46wt%であるのが好ましく、8〜24wt%であるのがより好ましい。
【0019】
なお、脱臭剤中のSi元素含有量は重量法(JIS M8214準拠)、Fe元素含有量はICP法(JIS M8212準拠)、C元素含有量は、高温法(JIS M8813 付属書の1)で測定することができる。
【0020】
脱臭剤は、例えば、上記粘土鉱物、酸化鉄、活性炭などの原材料を適量混合して粉砕した後、適宜形状に成形して焼成することにより作製することができる。
原材料としては、上記粘土鉱物、酸化鉄、活性炭などの他、結着剤としてのリグニンスルホン酸やポリビニルアルコールなどを混合してもよい。
粉砕や混合は、例えば、ハンマークラッシャー、ジョーククラッシャー、スタンパー、バンタムミル、ロールクラッシャー、遊星ミル、振動ミルなどで行うことができ、なかでも、ロシャルミルやブラウンミルで粉砕し、二軸ミキサーやパグミルで混合するのが好ましい。
この際、原材料が、平均粒径0.1μm〜500μmになるまで粉砕するのが好ましい。
なお、本発明において、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定法(JIS Z 8825−1)で測定することができる。
【0021】
成形は、例えば、乾式プレス、鋳込み成形、可塑成形、押し出し成形などで行うことができ、なかでも、ロール成形機やディスクペレッターを用いることが好ましい。
この際、直径3〜20mmの円柱状に成形するのが好ましい。また、円柱長さは、5〜50mmに成形するのが好ましい。
【0022】
焼成は、例えば、ロータリーキルン、トンネルキルンなどで行うことができ、大気もしくは窒素雰囲気中、100〜600℃で10〜90分間行うのが好ましい。
【0023】
より具体的には、SiOを60〜70wt%、Fe及びFeOを4〜6wt%含む珪質頁岩を30〜80wt%、ヤシガラから形成した活性炭を3〜40wt%、95%Feを5〜67wt%を混合し、これらを平均粒径0.1〜500μmに粉砕して成形し、大気雰囲気中、100〜600℃で10〜90分間焼成して脱臭剤を作製することができる。
【0024】
本発明の脱臭剤は、酸性ガス及びアルカリ性ガスの臭気を同時に脱臭できるとともに耐水性及び強度にも優れたものである。
そのため、下水処理場や下水配管などから発生する臭気の脱臭の他、ビルや工場の排水の臭気の脱臭に好適に用いることができ、下水用脱臭剤として好適である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の一実施例を説明する。但し、本発明の範囲は、この実施例に限定されるものではない。
【0026】
≪原材料≫
原材料としては、以下の珪質頁岩、活性炭及び酸化鉄を用いた。
【0027】
(珪質頁岩)
千葉県安房郡鋸南町産の珪質頁岩を用いた。この珪質頁岩は、Siを65.6wt%、Feを5.0wt%含み、含水率は3.2%、BET法による比表面積は40m/g、嵩密度は0.78g/ml、細孔径分布は1〜100nm分布をもち、分布のピーク値は6nmであった。
【0028】
(活性炭)
クラレケミカル株式会社製「クラレコールPDX−1」を用いた。この活性炭のBET法による比表面積は1100m/g、嵩密度は0.35g/ml、細孔分布は1Å〜300Å、全細孔容積は0.7cm/gであった。
【0029】
(酸化鉄)
和光純薬工業製95%Feを用いた。
【0030】
≪脱臭剤作製≫
珪質頁岩、活性炭、酸化鉄を下記表1に示す割合で混合し、ロシェルミルで平均粒径が10μmになるまで粉砕した。この平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定法(JIS Z8825−1)で測定した。粉砕した原材料を二軸ミキサーで均一になるまで混合し、ロール成形機を用いて成形した後、ロータリーキルンを用いて大気雰囲気中、450℃で30分間焼成し、図3に示すような直径5mm×長さ10mmの円柱状の脱臭剤を作製した。
【0031】
作製した実施例1〜29及び比較例1〜26の脱臭剤の元素含有量は下記表1のとおりである。
【0032】
【表1】

【0033】
≪評価試験≫
作製した各脱臭剤を用いて酸性ガス消臭性、アルカリ性ガス消臭性、耐水性、pH値について評価した。
【0034】
(酸性ガス消臭性)
酸性ガス消臭性については、以下の1〜6の手順で評価した。
1.5Lのテドラバッグに硫化水素発生管よりエアーポンプ(岩城ポンプ製「OPN026D」)を用いて2Lの硫化水素ガスを注入する。
2.検知管により硫化水素ガスの濃度を測定する。
3.10Lのテドラバッグに高濃度硫化水素と空気を注入し、硫化水素ガスの濃度が40ppmになるようにする。
4.5Lのテドラバッグの角を切り、脱臭剤を10g入れクリップシーラー(テクノインパルス製)でシーリングする。
5.5Lの脱臭剤入りテドラバッグに、10Lのテドラバッグから3Lの
40ppm硫化水素ガスを注入する。
6.その注入時から15分後の硫化水素濃度を検知管で測定する。
【0035】
検知管で測定した硫化水素の濃度から減衰率を算出し、95%以上を「◎」、90%以上95%未満を「○」、90%未満を「×」と評価した。その結果を上記表1に示す。
【0036】
(アルカリ性ガス消臭性)
アルカリ性ガス消臭性については、以下の1〜6の手順で評価した。
1.5Lのテドラバッグにアンモニアガス発生管よりエアーポンプ(岩城ポンプ製「OPN026D」)を用いて2Lのアンモニアガスを注入する。
2.検知管によりアンモニアガスの濃度を測定する。
3.10Lのテドラバッグに高濃度アンモニアガスと空気を注入し、アンモニアガスの濃度が60ppmになるようにする。
4.5Lのテドラバッグの角を切り、脱臭剤を10g入れクリップシーラー(テクノインパルス製)でシーリングする。
5.5Lのテドラバッグに、10Lのテドラバッグから3Lの60ppmアンモニアガスを注入する。
6.その注入時から15分後のアンモニアガス濃度を検知管で測定する。
【0037】
検知管で測定したアンモニアガスの濃度から減衰率を算出し、92%以上を「◎」、90%以上92%未満を「○」、90%未満を「×」と評価した。その結果を上記表1に示す。
【0038】
また、各脱臭剤のSi含有量に対する酸性ガス及びアルカリ性ガスの減衰率をプロットしたグラフを図1に示す。
【0039】
(耐水性)
耐水性は、100mlのビーカーに脱臭剤10gと水80mlを入れ、12時間放置した後、水の懸濁と脱臭剤の形状の崩壊を目視にて確認した。
懸濁及び崩壊がともにない場合を「◎」、懸濁はあるが崩壊がない場合を「○」、懸濁及び崩壊がともにある場合を「×」として判定した。その結果を、上記表1に示す。また、各脱臭剤のα値に対するこの判定結果をプロットしたグラフを図2に示す。
【0040】
(pH値)
各消臭剤のpH値を、下記の手順で測定した。
各消臭剤を乳鉢で粉砕し、この紛体10gを、ビーカーに純水100gとともに入れ、攪拌した後、室温にて1時間放置した。
この混合液体を、pH測定器(横河電気株式会社製:pH71)を用いてpH値を測定した。
その結果、各脱臭剤において、pH値は全て6.5〜7.5の中性域を示した。
【0041】
(総合判定)
酸性ガス消臭性、アルカリ性ガス消臭性、耐水性の評価結果において、一つでも「×」の評価のあるものは総合判定「×」とした。すべて「◎」の評価のものは総合判定「◎」とした。「◎」及び「○」の両方の評価があるものは「○」として評価した。
【0042】
≪結果≫
Si元素含有率が9〜24wt%であり、Fe元素含有率(wt%)とC元素含有率(wt%)の比(C/Fe)が0.1〜4.3である脱臭剤は、酸性ガス及びアルカリ性ガスを同時に脱臭できるとともに耐水性及び強度にも優れたものになり、さらに、pH値も中性域を保持できることが見出せた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si元素含有率が9〜24wt%であり、Fe元素含有率(wt%)とC元素含有率(wt%)の比(C/Fe)が0.1〜4.3である脱臭剤。
【請求項2】
Si元素含有率が12〜18wt%であり、Fe元素含有率(wt%)とC元素含有率(wt%)の比(C/Fe)が0.3〜0.9である脱臭剤。
【請求項3】
珪素及び鉄を含有する粘土鉱物、酸化鉄及び活性炭を原材料とした請求項1叉は請求項2に記載の脱臭剤。
【請求項4】
前記粘土鉱物は、珪質頁岩である請求項3に記載の脱臭剤。
【請求項5】
珪質頁岩、酸化鉄及び活性炭を混合して粉砕した後、成型して焼成する脱臭剤の製造方法。
【請求項6】
珪質頁岩30〜80wt%、酸化鉄5〜67wt%、活性炭3〜40wt%を用いた請求項5に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−232239(P2012−232239A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100976(P2011−100976)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(391017159)日本メサライト工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】