説明

脳室周囲白質軟化症の処置を目的とする医薬を得るためのアゴメラチンの使用

【課題】未熟児における脳麻痺の最も高頻度の原因である脳室周囲白質軟化症の処置を目的とする医薬を得るための使用。
【解決手段】アゴメラチンまたはN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミドが,脳室周囲白質の二次病巣の修復機序を促進するという神経防御効果を有し,脳室周囲白質軟化症治療に有効であり,しかも薬物相互作用の問題がないという特徴を有することによる,アンゴラメラチン,ならびにその水和物,結晶形,および薬学的に許容され得る酸または塩基との付加塩の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I):
【0002】
【化1】

【0003】
で示されるアゴメラチンまたはN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、ならびにその水和物、結晶形、および薬学的に許容され得る酸または塩基との付加塩の使用であって、脳室周囲白質軟化症の処置を目的とする医薬を得るための使用に関する。
【0004】
アゴメラチンまたはN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミドは、一方では、メラトニン作用系レセプターのアゴニストであり、他方では、5−HT2Cレセプターのアンタゴニストであるという、二重の特徴を有する。これらの特性のため、中枢神経系、より特別には重度うつ病、季節性情動障害、睡眠障害、心血管病態、消化系病態、時差ぼけによる不眠および疲労、食欲障害、ならびに肥満症の処置において活性である。
【0005】
アゴメラチン、その製造、および治療におけるその使用は、欧州特許出願公開第0 447 285号および第1 564 202号公報に記載されている。
【0006】
本出願人は、ここに、アゴメラチンまたはN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、ならびにその水和物、結晶形、および薬学的に許容され得る酸または塩基との付加塩が、脳室周囲白質軟化症の処置における使用を可能とする価値ある特性を有することを見出した。
【0007】
脳室周囲白質軟化症は、未熟児における脳麻痺の最も高頻度の原因である。この早期新生児障害は、脳室周囲白質の環の単数または複数の病巣の形成によるもので、妊娠後20〜34週、例外的には出産日までの産前または新生児期の間に発生する。脳室周囲白質軟化症は、未熟児の運動性続発症の大部分の原因である。ところが、その他の神経学的続発症もしくは他の併発症も、頻度はより低いものの、観察されることがあって、脳室周囲白質を越える病巣の拡大、すなわち、樹状突起の増殖および/または退縮の異常を本質的に示す、脳周囲の成長異常;付随する皮質損傷に二次的である知能欠乏;「就学準備科」に進む年齢(すなわち7歳の入学時)の2または3人の小児のうち1人に影響する、発達の特異的な障害;例外的ではあるが、聴または視放線の損傷に二次的である感覚欠損;増加する頻度の幼児突然死を示している。神経学的続発症という問題、またはその子供の死に直面する両親の苦悩に加えて、ときには未熟児のその他の併発症がない新生児における広範な脳室周囲白質軟化症の出現に直面したときに、完全に途方に暮れる医師団の無力がある。事実、そのような病巣の拡大を防止または限定するのを可能にする治療方策は、現在、皆無である。更に、多胎妊娠の頻度の上昇、および高度未熟児の生存率の限度の更なる低下は、新生児学者に突きつけられた主要な課題である、脳室周囲白質軟化症の発生率の認知された上昇を招いている。最近、この障害の原因は、多元的であることが確立されている。すなわち、妊娠前、出生前および周産期の因子が、脳の発生の際の病巣の形成に関与している可能性がある。これらの因子のうちでも、低酸素性虚血、内分泌不均衡、遺伝的因子、成長因子に関連する障害、過剰なサイトカイン産生を招く母体感染、炎症促進性薬剤との接触等々のエピソードが列挙され得る。これらの多数の危険因子は、共通の分子的発現、特に興奮性アミノ酸の過剰な放出、および反応性酸素化化学種の産生の増大を有する。
【0008】
本出願人は、ここに、アゴメラチンが、脳室周囲白質の二次病巣の修復機序を促進するという効果を有する、神経防護効果を有することを見出した。したがって、アゴメラチンは、脳室周囲白質軟化症の処置に対する新たな取組方を構成する。加えて、アゴメラチンは、非常に充分に認容され、薬物相互作用の問題がないという特徴を有しており、この適応症に特に適切である処置手段である。
【0009】
上記により、本発明は、アゴメラチン、ならびにその水和物、結晶形、および薬学的に許容され得る酸または塩基との付加塩の使用であって、脳室周囲白質軟化症の処置を目的とする薬学的組成物を得るための使用に関する。
【0010】
本発明は、特に、欧州特許出願公開第1 564 202号公報に記載された、結晶形IIとして得られるアゴメラチンの使用であって、脳室周囲白質軟化症の処置を目的とする薬学的組成物を得るための使用に関する。
【0011】
この薬学的組成物は、経口、非経口、経皮、経鼻、直腸または経舌経路による投与に適切な形態で、また特に注射可能製剤、錠剤、舌下錠、トローチ剤、ゼラチンカプセル剤、カプセル剤、トローチ剤、坐剤、クリーム剤、軟膏、経皮ゲル等々の形態で提供されよう。
【0012】
アゴメラチンに加え、本発明による薬学的組成物は、希釈剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤、吸収剤、着色剤、甘味料等々から選ばれる、1種類またはそれ以上の賦形剤もしくは担体を含む。
【0013】
非限定的な例を目的として、
・希釈剤としては、乳糖、デキストロース、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、セルロース、グリセリンが、
・潤滑剤としては、シリカ、タルク、ステアリン酸ならびにそのマグネシウムおよびカルシウム塩、ポリエチレングリコールが、
・結合剤としては、ケイ酸アルミニウムおよびマグネシウム、澱粉、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびポリビニルピロリドンが、
・崩壊剤としては、寒天、アルギン酸およびそのナトリウム塩、発泡性混合物が
列挙され得る。
【0014】
有用な投与量は、患者の年齢および体重、投与経路、障害の性質、ならびに付随する何らかの処置に応じて変動し、24時間あたりアゴメラチン1〜50mgに渉る。
【0015】
好ましくは、アゴメラチンの日次用量は、1日25mgであろうが、1日50mgまで増量できる可能性もある。
【0016】
薬学的組成物:
活性成分25mgをそれぞれ含有する1,000錠を製剤するための処方:
N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド...25g
乳糖一水和物...........................62g
ステアリン酸マグネシウム.....................1.3g
ポビドン...............................9g
無水コロイド状シリカ.......................0.3g
グリコール酸ナトリウムセルロース..................30g
ステアリン酸...........................2.6g
【0017】
イボテン酸塩の脳内注射によって脳の白質の病巣を形成した生後5日の幼マウスで、アゴメラチンの神経防護効果を観察した。イボテン酸塩10μgの投与後直ちに、0.005〜5mg/kgのアゴメラチン、標準的な抗うつ剤の対照として用いた10mg/kgのフルオキセチン(fluoxetine)、または溶媒のみを5μlの最終量として、腹腔内の経路によって注射した。第二の実験では、イボテン酸塩の脳内注射後の腹腔内注射を、2、4または8時間後に実施した。
【0018】
結果:イボテン酸塩の投与後、幼マウスは、皮質の病巣、および脳室周囲白質にも病巣を発症した。アゴメラチンの同時投与の反映は、5mg/kgの投与に対して59%減に達する白質の病巣の用量依存的な減少によって示された。フルオキセチンまたは溶媒のみ(PBS:「リン酸緩衝生理食塩水」)の同時投与の場合には、白質の病巣に対する有意な効果は、全く観察されなかった。
【0019】
アゴメラチンを用いて観察された神経防護効果は、イボテン酸塩の注射の0〜4時間後に投与を実施したときに低下し、そうして、イボテン酸塩の注射の8時間後に投与を実施したときは、有意な神経防護が回復した。結果は、以下のようにプロットされた。
【0020】
【化2】

【0021】
イボテン酸塩を投与された動物が発症した病巣では、その大きさは、注射後の初めの24時間に増大し、次いで安定化した。アゴメラチンで(同時にか、または8時間後に)同時処理した動物では、同じ病巣が、初めの24時間に観察された後、次の4日の間に非常に大幅に退縮した。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、生後5日の幼マウスで観察されたアゴメラチンの神経防護効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゴメラチンもしくはN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、またはその水和物、結晶形、および薬学的に許容され得る酸もしくは塩基との付加塩のうち一つの使用であって、脳室周囲白質軟化症の処置を目的とする医薬を得るための使用。
【請求項2】
アゴメラチンを、結晶形IIとして得ることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項3】
アゴメラチン、またはその水和物、結晶形、および薬学的に許容され得る酸もしくは塩基との付加塩の一つを、それ自体のみ、または薬学的に許容され得る一つもしくはそれ以上の賦形剤との組合せとして含む薬学的組成物であって、脳室周囲白質軟化症の処置を目的とする医薬の製造に用いるための薬学的組成物。
【請求項4】
アゴメラチンを、結晶形IIとして得ることを特徴とする、請求項3記載の薬学的組成物。
【請求項5】
脳室周囲白質軟化症の処置に用いるための、アゴメラチンもしくはN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、またはその水和物、結晶形、および薬学的に許容され得る酸もしくは塩基との付加塩の一つ。
【請求項6】
脳室周囲白質軟化症の処置に用いるためのアゴメラチンの結晶形II。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−133279(P2008−133279A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−302456(P2007−302456)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】