説明

腎不全の治療方法

【課題】腎不全および関連する高リン酸塩血症または高リン酸塩血症状態に進行する前段階にある患者におけるリン酸塩代謝および代謝性アシドーシスを制御するための医薬組成物および方法を提供する。本発明により患者に本発明の組成物を経口的に投与して患者の消化管内で摂取されたリン酸塩と接触および結合させ、それによって腸内吸収を妨げるという治療的な利益が得られる。
【解決手段】クエン酸第2鉄、酢酸第2鉄、またはこれらの組み合わせを含む薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般にリン酸塩停留 (phosphate retention)の制御に関するものであり、特に腎不全および関連する高リン酸塩血症に苦しむ患者を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸塩は主として腎臓を通して排出される。従ってリン酸塩停留は必然的に腎不全において起こるものである。リン酸塩制限は腎機能の低下および腎不全に軟組織石灰沈着を抑えることについて重要な役割を果す。実験的腎不全において高リン酸塩食の摂取は腎機能を悪化させ(Haut, L.L., Kidney Int 17:722-731(1980); Karlinsky, D.ら、Kidney Int 17:293-302(1980))、低リン酸塩摂取は慢性的腎不全の進行を停止させる(Lumlertgul,D.ら、Kidney Int 29:658-666)。最近の研究によりリン酸塩制限は血漿カルシトリオール(最も強力なビタミンD代謝物)を増加させ、2次的副甲状腺機能亢進症を抑制する( Portale, A.A.ら、J. Clin. Invest 73:1580-1589(1989); Kilav, R.ら、J. Clin. Invest 96:327-333(1995); Lopez, Hら、Am. J. Physiol 259: F432-437(1990))または直接に副甲状腺細胞増殖を抑制する(Naveh-Many,Tら、Am. Soc. Nephrol 6:968(1995))ことが明らかになった。これらをまとめると、リン酸塩の正常な血漿濃度および組織含量を維持することは腎不全において2次副甲状腺機能亢進症、腎性骨形成異常および軟組織石灰化を予防する重要な手段である。
リン酸塩の食餌制限は達成するのが難しく、週3回の透析だけでは毎日吸収されるリン酸塩を除去することができない。従って、リン酸塩結合試薬が腎不全におけるリン酸塩代謝を制御するために広く使用されてきた。少なくとも最近の30年間、腎臓学者は炭酸アルミニウムまたは水酸化アルミニウムをリン酸塩結合剤として使用してきた。腎不全におけるアルミニウム毒性の懸念のため炭酸カルシウムおよび酢酸カルシウムの使用が増加し、アルミニウム化合物の使用が減少してきた。しかしながら、炭酸カルシウムまたは他のカルシウム調製物は摂取された食餌性リン酸塩を全て除去するには不十分であるだけでなく、末期腎臓疾患(ESRD)の患者にカルシウムを与えすぎる。
1943年に血漿リン酸塩を低下させるためにクエン酸第2鉄アンモニウムが慢性腎不全の2人の患者に数ヶ月にわたって使用された(Liu, S.H.ら、Medicine, Baltimore 22:1031-1061(1943))。報告された副作用は下痢であった。しかしながら、クエン酸第2鉄アンモニウムは治療的投与量(1日4から12mg)で使用された場合には多量のアンモニウムを含むため理想的な化合物でないかもしれない。この化合物からのアンモニアの遊離は胃および腸への刺激のような副作用につながり得る。さらに、この化合物は肝性昏睡を引き起こすことがあるため肝臓疾患のある腎不全患者に使用することは安全でない。
加えて、動物試験によりアルミニウムおよび第2鉄塩は両方とも血漿リン酸塩および尿中リン酸塩排出を低下させるが、骨灰および骨リンを劇的に低下させもする(Cox, Gら、J. Biol. Chem 92:Xi-Xii(1931))。例えば、第2鉄塩を与えられた生長しているラットは生長遅滞、低リン酸血症、骨灰および全身のカルシウムおよびリンの著しい損失を起した。厳しいリン酸塩制限においてラットは1か月以内にくる病を起した(Brock, J.ら、J. Pediat 4:442-453(1934); Rehm, P.ら、J. Nutrition 19:213-222(1940))。第2鉄塩も1日齢のヒナに重度の低リン酸塩血症とくる病を起させた(Deobald, H.ら、Am. J. Physiol 111:118-123(1935))。
このように、医学界では腎不全におけるリン酸塩結合に効果的なリン酸塩結合剤の開発に対する緊急の必要性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の一つの目的は高リン酸塩血症およびリン酸塩停留をリン酸結合化合物を用いて制御する方法を提供することである。本発明の他の目的は、腎不全における代謝性アシドーシスを治療する方法を提供することである。また本発明の他の目的は、経口投与剤の形で食餌性リン酸吸収を妨げ、かつ/または代謝性アシドーシスを治療するための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明により、クエン酸第2鉄および酢酸第2鉄を含む第2鉄含有化合物が消化管中の摂取リン酸塩の吸収を妨げるための薬剤として使用される。この化合物は本発明により、摂取リン酸塩に結合して、それにより摂取リン酸塩の腸からの吸収を妨げるために経口投与剤の形で使用することができる。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、クエン酸第2鉄および酢酸第2鉄を含む第2鉄含有化合物が消化管中の摂取リン酸塩の吸収を妨げるための薬剤として使用される。この化合物は代謝性アシドーシスを治療するための薬剤として使用されてもよい。この化合物は本発明により、摂取リン酸塩に結合して、それにより摂取リン酸塩の腸からの吸収を妨げるために経口投与剤の形で使用することができる。1g投与量のクエン酸第2鉄および/または酢酸第2鉄はおよそ40mgのリンと結合することができると考えられている。
従って、本発明の方法は腎不全におけるリン酸塩停留を低減し代謝性アシドーシスを治療するために使用されることがある。さらに第2鉄含有化合物からの鉄の吸収は腎不全の患者の治療において有益でもある。なぜなら、貧血および鉄欠乏症が腎不全ではしばしば起こり、エリスロポイエチンを与えられた患者では特によく起こるからである。
理論に拘泥するものではないが、クエン酸第2鉄および酢酸第2鉄はリン酸塩と反応し、不溶性で腸で吸収されないリン酸第2鉄またはリン酸第1鉄としてリン酸を沈殿させると考えられる。クエン酸第2鉄あるいはクエン酸に転換される酢酸第2鉄からのクエン酸は炭酸水素塩に転換され代謝性アシドーシスを是正するものと信じられている。
本発明の他の特徴および利点は以下の記載と添付の請求項から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
腎不全および関連する高リン酸塩血症に苦しむ患者、または高リン酸塩血症状態に進行する前状態にある患者の血清リン酸塩レベルおよび代謝性アシドーシスを制御する方法が提供される。本発明の方法は、クエン酸第2鉄、酢酸第2鉄およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる第2鉄含有化合物を患者に投与することを含むものである。そのような方法に従って、患者の消化管中の摂取リン酸塩と結合させるため患者にその化合物を経口的に投与することによって治療上の利益を得ることができる。
【0007】
本発明の好ましい実施態様では、第2鉄含有化合物は高リン酸塩血症またはその状態に進行する前状態の患者に対する経口投与のための治療投薬剤として製剤化される。従って、第2鉄含有化合物は液体またはゲル懸濁液として製剤化することができ、または圧縮錠剤またはカプセルのような単位固体投薬剤に製剤化することができる。ゲルおよび固体剤形を調製するための賦形剤および方法はいずれもこの技術分野でよく知られている。本発明の組成物はエステル、塩のような製薬的に許容できる剤形で、または前駆薬剤としても使用されてもよいことは理解されるであろう。
経口投薬剤形は、患者に摂取された場合に、その患者の消化管中の充分な摂取リン酸塩に結合して、摂取リン酸塩の吸収を阻害し、それによって高リン酸血症状態の進行または既に生じている高リン酸血症状態の合併症の可能性を低減するために充分な第2鉄含有化合物を含むように製剤化される。従って、本発明による治療用第2鉄含有化合物の各経口投与量は約500mgから約1000mgの第2鉄含有化合物を含むことができる。投与すべき第2鉄含有化合物の治療上効果的な量は患者の状態の悪さ、患者の食餌の性質および製剤中の第2鉄含有化合物の結合能に依存するであろう。「治療上効果的な量」とは本発明により、不適当な有害な生理学的効果または副作用を伴わずに、選択した求める結果を達成するために効果的な量をいい;求める結果とは一般には臨床的に観察し得る摂取リン酸塩の吸収の低下および/または代謝性アシドーシスの是正である。したがって、本発明に従って投与すべき化合物の量は必要により患者の消化管内で要求されるリン酸塩結合のレベルに応じて変え得るものである。約5gから約10gの毎日の投与量が効果的であると期待される。
以下に詳しく議論するように、ラットを用いたin vivoの研究では、およそ1gの鉄(Fe+++)が正常ラットおよび腎不全ラットにおいて各々およそ130mgおよび180mgのリンを結合する、あるいは正常ラットおよび腎不全ラットにおいて1gのクエン酸第2鉄が各々およそ30mgおよび40mgのリンを結合する。各動物は毎日220mgの鉄を含むおよそ24gの食餌を消費した。クエン酸第2鉄および酢酸第2鉄はヒト患者においても同じ結合能を有しているだろうと考えられる。更に、ラット1kgあたり4gの第2鉄含有化合物の摂取は有害な作用を引き起こさなかった。
本発明は本発明の組成物は経口投与が好ましいと意図してはいるが、本明細書中のいかなるものもデリバリーの方法を限定する意図と解釈してはならないことを理解すべきである。経口的および全身的デリバリー経路の何れも適当であろう。さらに、複合治療レジームも本発明によって予定されている。本発明の組成物および方法において使用される化合物は本発明に従っていかなる製薬的に許容できるキャリアー中で投与することもでき、その担体は非毒性であって、かつデリバリーの特定形態に適切であることが好ましい。本化合物は製薬技術において充分に確立された方法によって投与のために製剤化されてよい。
本発明の前述の、および更なる側面は以下の実施例と関連させてよりよく理解できるかもしれない。以下の実施例は説明を目的として提示されるものであり、限定を意図したものではない。
当業者は、本明細書の記載から、本発明の広範な教示が種々の態様で実行できることが理解できるであろう。従って、本発明は特定の実施例との関係で記載されているが、本発明の真の範囲はそのように限定されるべきではなく、明細書および請求の範囲を検討することにより熟練した技術者には他の改変が明らかとなるであろう。
【実施例1】
【0008】
材料と方法
正常ラットにおけるクエン酸第2鉄のリン酸塩結合効果
正常なオスのSprague-Dawleyラット(N=6)を1.02%Pおよび0.95%Caを含む通常のラット粉末飼料(ICN Biomedicals Inc. Cleveland, OH)で2週間飼育した。飼料中のPの含量を確認した。粉末飼料は尿および便による飼料の汚染を防ぐために使用した。別の6匹の正常ラットを同じ飼料だが4%のクエン酸第2鉄を含む飼料で2週間飼育した。全ての動物はそれぞれ別個の代謝ケージ(metabolic cage)をあてがった。各ラットの体重、1日あたりの排尿量、排便量、および飼料消費量を2週間の間、週に4日間モニターした。1日当たりの尿および便の週ごとのデータを一緒にプールし、各週に対する1日の平均として表した。血漿のリン、クレアチニンおよび調査の最後には血中甲状腺ホルモン[PTH]、カルシトリオールおよび鉄濃度の測定のため血液を毎週1回採取した。
【0009】
腎不全ラットにおける第2鉄化合物のリン酸塩結合効果
第2鉄化合物のリン酸塩結合効果を腎不全ラットにおいて研究した。腎不全は部分的腎摘出によって達成した。1方の腎臓の2/3を外科的に取り出し、もう一方の腎臓は3日後に側腹部切開により取り出した。これらの動物において腎機能は正常の約50%に低下した。腎不全は観察を通じて4つの動物群の間で類似していた。動物を4つの群に分けた[各群=7匹のラット]。コントロール群のラットは上述したような1.02%Pおよび0.95%Caを含む通常のラット粉末飼料で4週間飼育した。他の3つの動物群はそれぞれ、5%クエン酸第2鉄アンモニウム[16.5%〜18.5%の鉄を含む]、4.4%FeCl3・6H2O[M.W. 270.2]または4%クエン酸第2鉄[FeC6H5O7, M.W. 245]を含む飼料で4週間飼育した。後の3種の飼料は全て100gの飼料あたり0.95gのFeを含んでいる。各ラットの体重、1日あたりの排尿量、排便量および飼料消費量を4週間の間、週に4日間測定した。1日の尿および便のデータを週ごとに一緒にプールし、各週に対する1日あたりの平均として表した。血漿のリン、クレアチニンおよび調査の最後には血中甲状腺ホルモン[PTH]、カルシトリオールおよび鉄濃度の測定のため血液を毎週1回採取した。
【0010】
分析方法:便を800℃にてマッフルファーネス(muffled furnace)中で30分間かけて灰にし、便中のリンを10%過塩素酸で一晩抽出してリン測定を行った。リンおよびクレアチニンを以前に記載されたように測定した(Hsu,C.ら、Kidney Int 25:789-795 (1984))。血漿カルシトリオールをReinhardtら(Reinhardt, T.A.ら、J. Clin. Endocrinol Metab 58:91-98(1984))およびHollis(Hollis, B.W.ら、Clin. Chem. 32:2060-2063(1986))の方法に従って、二重に測定した。アッセイ間の変動係数は低コントロール(20pg/ml、N=12)については7.0%、高コントロール(100pg/ml、N=12)については4.1%であった。アッセイ内変動率は低コントロール(N=6)については5.4%、高コントロールについては4.7%であった。カルシトリオール回収率は平均65%であった。PTHをラットPTHアッセイキット(Nichols Institute, Capistrano, CA)を用いてイムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)によって測定した。
すべてのデータは平均±標準誤差として表した。統計解析はANOVAを用い繰り返し測定し、FisherのPLSDテストで行った。0.05未満のp値を有意と考えた。
【0011】
結果
正常ラットにおけるクエン酸第2鉄のリン酸塩結合:両動物群は同じ速度で生長した。処置の前および処置後の2週間に両者は同様に体重が増加した[処置前は、コントロール、264±2.9g;処置群、269±3.7g、処置後は、コントロール、313±4.7g;処置群、319±3.5g]。全てのラット(N=12)は等量の飼料、1日平均24gの飼料を消費した[リンの1日の消費量はコントロールで240.8±6.1 mg/日、処置群240.2±7.2 mg/日]。第1日から実験の間、実験群[クエン酸第2鉄を含む飼料を食べた]における1日のリンの尿中排泄量は第1週の終わりおよび第2週の終わりに50%を超えて減少した。[第1週:コントロール、71.4±2.5 mg/日対処置群、30.4±2.6 mg/日、P<0.01、第2週:コントロール75.7±4.0 mg/日、処置群、30.7±1.5 mg/日、P<0.01]。1日の平均クレアチニン尿中排泄量は2つの動物群で異ならなかった[第1週:コントロール、8.72±0.38 mg/日vs.処置群、8.95±0.80 mg/日;第2週:コントロール、9.99±0.43 mg/日vs.処置群、9.44±0.64 mg/日]。リン酸塩の尿中排泄の減少は、クエン酸第2鉄を含む飼料を食べていたラットにおいて便中のリン酸塩がおよそ30mg/日増加したので[1日あたりの平均便中P排泄、コントロール第1週、135±4.1 mg/日対処置群、164±10.7 mg/日、P<0.03。コントロール第2週、136±5.2 mg/日対処置群163±1.7 mg/日、P<0.007]、リン酸塩の腸からの吸収の減少を反映するものである。これらのデータから1グラムのFe+++はおよそ130mgのリンと結合し、または、1グラムのクエン酸第2鉄は30mgのリンと結合すると計算された。血中のPTH[コントロール、16.2±3.8 pg/ml vs.処置群、16.0±3.5 pg/ml]、カルシトリオール[コントロール、83.5±1.5 pg/ml vs.処置群、82.2±2.0 pg/ml]、鉄[コントロール、1.76±0.17 μg/ml vs.処置群1.73±0.12μg/ml]、ヘマトクリット[コントロール、48.8±0.5% vs.処置群47.8±0.7%]およびリン値(phosphorus value)は2つの動物群の間で相違しなかった。これらの動物における同様な血漿鉄濃度という結果は正常ラットでは2週間の実験の間に鉄が吸収されなかったことを示唆する。
【0012】
腎不全ラットにおける第2鉄化合物のリン酸塩結合効果:これらの第2鉄化合物のリン酸塩結合効果の結果は正常ラットで行った前の研究と類似していた。しかしながら、第22日(第4週)で2匹の動物、クエン酸第2鉄アンモニウム群の1匹とクエン酸第2鉄群の別の1匹は気道感染したため殺した。クエン酸第2鉄アンモニウムまたはクエン酸第2鉄を含む飼料で飼育した動物はコントロールの動物と同じ速度で生育した[表1]。しかしながら、塩化第2鉄を含む飼料で飼育された動物は等量の飼料[表2]およびリン[表3]を消費するにもかかわらずコントロール動物よりも生長が遅い傾向があった。
【0013】
表1.週平均体重

*値はコントロールよりも顕著に低かった(すべてのP値は0.05未満であった)
クエン酸FeNH4:クエン酸第2鉄アンモニウム;クエン酸Fe:クエン酸第2鉄
#は第4週におけるクエン酸FeNH4およびクエン酸Fe群についてN=6を示す
【0014】
表2.1日の飼料摂取量の週平均

#は第4週におけるクエン酸FeNH4およびクエン酸Fe群についてN=6を示す
【0015】
表3.1日のリン摂取量の週平均

#は第4週におけるクエン酸FeNH4およびクエン酸Fe群についてN=6を示す
【0016】
リン酸塩の尿中排泄量は第2鉄含有飼料の消費に伴って直ちに減少する。1日の平均尿中クレアチニン排泄量は4つの動物群で、FeCl3群において第3週および第4週でコントロールと比較して排泄量が少なかったことを除いて異ならなかった。これらの値は実験の4週間を通じてコントロールの値よりも有意に低かった[表5]。これに対して、1日の便中リン酸塩排泄量は第2鉄飼料で飼育されたラットにおいて期間全体を通じて増加した[表6]。便中のリン排泄の結果から、腎不全ラットにおいて1グラムのFe+++はおよそ180mgのリンを結合し、または、1グラムのクエン酸第2鉄は40mgのリンを結合すると評価された。このように、第2鉄化合物は腸内リン酸塩を効果的に結合し、腎不全の動物においてその吸収を低下させることが示された。したがって、本発明の第2鉄含有化合物はリン酸塩の腸内吸収を低下させるため腎不全に苦しむヒト患者に使用することができる。
【0017】
表4.1日のクレアチニン排泄量の週平均

#は第4週におけるクエン酸FeNH4群およびクエン酸Fe群についてN=6を表す。
*コントロールに比較してp<0.05
【0018】
表5.1日の尿中リン酸塩排泄量の週平均

*はすべてのP値が0.05未満であることを示す。
#は第4週におけるクエン酸FeNH4群およびクエン酸Fe群についてN=6を表す。
【0019】
表6.1日の便中リン酸塩排泄量の週平均

*はすべてのP値が0.05未満であることを示す。
#は第4週におけるクエン酸FeNH4群およびクエン酸Fe群についてN=6を表す。
【0020】
リン酸塩の血中濃度はこれらの動物においては前に示したように正常範囲であり、この程度の腎不全はリン酸塩の血漿濃度を上昇させない[表7](Hsu, C.H.ら、Kidney Int 37:44-50(1990))。これらの腎不全の4つの動物群の血中PTH濃度は正常動物の濃度よりも有意に高かった。更に、4つの腎不全動物群のなかでコントロールの腎不全動物は他の動物群に比較して高いPTH濃度を有していたが、その値はコントロール群における非常な変動のために統計上の有意性に達しなかった[表8]。クレアチニンの血漿濃度は4つの動物群の間で相違しなかったが、カルシトリオールの血漿濃度はFeCl3飼料を食べていた動物においては低い傾向があった。
【0021】
表7.第2鉄食餌の前後における血漿リン濃度

#は第4週におけるクエン酸FeNH4群およびクエン酸Fe群についてはN=6を表す。
【0022】
表8.クレアチニン、カルシトリオールおよびPTHの血漿濃度

*これらの値は4週間の試験食餌糞便検査(balance study)の終わりに測定した。
#は第4週におけるクエン酸FeNH4群およびクエン酸Fe群についてN=6を表す
【0023】
表9は4週間の試験の終わりにおける4つの動物群の血漿鉄濃度およびヘマトクリットの結果を要約したものである。鉄の血漿濃度はクエン酸第2鉄飼料で飼育された腎不全ラットにおいては通常の飼料を与えられたコントロールに比較して有意に高かった。第2鉄化合物を与えられた他の動物群は血漿鉄濃度が上昇している傾向にあったが、統計的に有意には達しなかった。しかしながら、血中ヘマトクリット値は第2鉄化合物を与えられた動物において通常の飼料を与えられた動物よりも有意に高かった。明らかに、これらの第2鉄化合物、特にクエン酸第2鉄の少量が腸内で吸収される。
【0024】
表9.鉄の血漿濃度および血中ヘマトクリット

*P<0.04、**P<0.02、***P<0.01 vsコントロール
#は第4週におけるクエン酸FeNH4群およびクエン酸Fe群についてN=6を表す
【0025】
考察
腎臓はリン酸塩排泄の主要な経路であり、従って、リン酸塩停留は腎不全の患者の共通の問題である。リン酸塩の食事制限は成し遂げるのが難しく、週3回の透析だけでは毎日吸収されるリン酸塩を除去することができない(Hou, S.H.ら、Am. J. Kidney Dis 18:217-224 (1991))。従って、リン酸塩結合剤(例えば、炭酸カルシウムまたは他のカルシウム調製物)は腎不全におけるリン酸塩代謝制御に一般に使用されてきた。しかしながら、これらの薬剤を使用することは末期腎疾患(ESRD)の患者に過剰なカルシウムを与える(Ramirez,J.A.ら、Kidney Int 30:753-759)(1986))。ESRDの患者の大部分はカルシウム排泄経路を持たないため、正のカルシウム収支を有していることを述べておけなければならない。例えば[表10]、ESRD患者において食餌性カルシウム吸収を除いて、3.5mEq/lおよび2.5mEq/mlカルシウム透析液を使用した週3回の血液透析場合には、それぞれ平均+896 mg/4時間(+384 mg/日)および+150 mg/4時間(+64 mg/日)の正のカルシウム流束が考えられる(Hou, S.H.ら、Am. J. Kidney Dis 18:217-224(1991))。同様に、3.5 mEq/lと1.5%デキストロースによる腹腔透析は、正カルシウム血症(normocalcemic patient)患者において平均14 mg/交換またはおよそ56mg/日の正のカルシウム流束を与える[表11](Martis, L.ら、Perit Dial Int 9:325-328 (1989);Piraino, B.ら、Clin. Nephrol 37:48-51 (1992))。ESRD患者が食餌性カルシウムを800mg/日摂取すると仮定し、カルシウム吸収分が19%と見積もると(Ramirez, J.A.ら、Kidney Int 30:753-759 (1986))、計算された成人ESRD患者の1日のカルシウム収支は、MatkovicとHeaneyによって見積もられた18歳〜30歳の通常の平均カルシウム収支閾値114mg/日(Matkovic, V.ら、Am. J. Clin. Nutr. 55:992-996)(1992))を超えるであろう。炭酸カルシウムまたは他のカルシウム製品をリン酸塩結合剤として2次的副甲状腺機能亢進症の治療のために追加することは更にカルシウム吸収と停留を増加させ、特に30歳以上の患者において増加させるであろう(Ramirez, J.A.ら、Kidney Int 30:753-759(1986))。
【0026】
表10.血液透析患者におけるカルシウム収支の評価

*3回透析/週と仮定し、Ca流束はHou, S.H.ら、Am. J. Kidney Dis 18:217-224 (1991)の文献から評価した。
**1日の食餌性摂取の見積
***Coburn, J.W.ら、Kidney Int 3:264-272(1973)の文献から見積もった部分的Ca吸収
【0027】
表11.腹腔透析患者におけるカルシウム収支の評価

*4回交換/日と仮定し、Ca流束はPiraino,B.ら、Clin. Nephrol 37:48-51(1992)の文献から評価した。
**1日の食餌性摂取の見積
*** Coburn, J.W.ら、Kidney Int 3:264-272 (1973)の文献から見積もった部分的Ca吸収
**** 4回交換/日と仮定し、Ca流束はMartis,L.ら、Perit Dial Int 9:325-328(1989)の文献から評価した。
【0028】
正常な20歳から53歳の成人において、1日のリン酸塩収支は僅かに負か平衡にある(Lakshmanan,F.L.ら、Am. J. Clin. Nutr. 1368-1379(1984))。カルシウム排泄と同様に腎臓はリン酸塩排泄の主要な経路である。リン酸塩の血漿濃度は糸球体濾過速度がおよそ20ml/分よりも低くなるまで通常正常範囲内に留まっている。腎不全がある場合の正常血漿リン酸塩は血漿PTHの評価に由来するリン酸塩排泄増大によるものである。しかしながら、血漿リン酸塩濃度は体内の全リン酸塩含量を正確に反映しないことがある(Lau, Kら、Philadelphia:Saunders 505-571(1990))。
正味のリン吸収は慢性透析患者と通常の患者とで異ならないが、リンの腸吸収は透析患者ではカルシトリオール治療を受けた場合(食餌性リン酸塩吸収は60%から86%に増加する)には増加する(Ramirez,J.A.ら、Kidney Int 30:753-759 (1986))。血液透析の間、リン酸塩流出はおよそ1057 mg/透析または3171 mg/週である(Hou, S.H.ら、Am. J. Kidney Dis 18:217-224 (1991))。血液透析によるリン酸塩の除去は従って1日のリン酸塩の食餌性吸収(4,200mg/週、食餌性摂取が1000mg/日かつリン酸塩の部分吸収が60%と仮定[表12])を除去するには不十分である(Ramirez, J.A.ら、Kidney Int 30:753-759(1986))。それぞれの透析患者は1日あたり約4gから約5gのクエン酸第2鉄、酢酸第2鉄またはそれらの組み合わせを正常なリン酸塩代謝を行うために必要とすると見積もられる。
【0029】
表12.血液透析患者におけるリン酸塩収支の評価

*3回透析/週と仮定し、P流束はHou,S.H.ら、Am. J. Kidney Dis 18:217-224(1991)の文献から見積もった。
**1日の食餌性摂取の見積
***部分的P吸収はRamirez, J.A.ら、Kidney Int 30:753-759(1986)の文献から見積もった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高リン酸塩血症の患者または高リン酸塩血症状態に進行する前段階にある患者におけるリン酸塩停留を制御するための方法であって、クエン酸第2鉄、酢酸第2鉄およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる化合物を治療上効果的な量で患者に投与するステップを含む、前記方法。
【請求項2】
化合物が患者に経口的に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化合物がクエン酸第2鉄である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
化合物が酢酸第2鉄である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
化合物の治療上効果的な量が、約500mgから約1000mgの単位用量である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
食餌性リン酸塩の吸収を低減させる必要性のある患者においてリン酸塩停留を制御するための経口剤形の治療用組成物であって、前記組成物が1回の用量あたりクエン酸第2鉄、酢酸第2鉄およびこれらの組み合わせからなる群より選ばれる約500mgから約1000mgの化合物および前記経口剤形のために製薬的に許容できる賦形剤を含む、前記治療用組成物。
【請求項7】
化合物がクエン酸第2鉄である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
化合物が酢酸第2鉄である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
腎不全の患者において血清リン酸塩代謝および代謝性アシドーシスを制御する方法であって、クエン酸第2鉄、酢酸第2鉄およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる化合物の治療上効果的な量を患者に投与するステップを含む、前記方法。
【請求項10】
化合物が患者に経口的に投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
化合物の治療上効果的な量が約500mgから約1000mgの単位用量である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
化合物がクエン酸第2鉄である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
化合物が酢酸第2鉄である、請求項9に記載の方法。

【公開番号】特開2007−217429(P2007−217429A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133978(P2007−133978)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【分割の表示】特願平10−527705の分割
【原出願日】平成9年11月14日(1997.11.14)
【出願人】(507165187)
【Fターム(参考)】