説明

腎炎検出試薬

【課題】本発明は、腎炎検出試薬に関する。
【解決手段】以下の通り、構成する。イ、腎糸球体基底膜(GBM)の主成分であるタイプIVコラーゲンα3鎖及び又はα4鎖及び又はα5鎖及び又はα6鎖の7Sを抗原とし、及び又はそのペプタイド(以下7S)を抗原として、腎炎特有の抗7S自己抗体を検出する方法と試薬。ロ、腎糸球体基底膜(GBM)の主成分であるタイプIVコラーゲンα3鎖及び又はα4鎖及び又はα5鎖及び又はα6鎖の7Sを抗原とし、及び又はそのペプタイド(以下7S)を抗原として反応する抗体を用いて、腎炎特有の7Sを検出する方法と試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎炎検出試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
タイプ4コラーゲン関連の腎炎検出には体外診断薬として尿中タイプ4コラーゲン測定試薬がある。同キットは当初、糖尿病性腎炎の早期診断を標榜して使用されていたが、現在は腎炎検出試薬に適用拡大している。
しかし、臨床の場では、より優れた腎炎検出試薬を求めていた。
【発明の開示】

【発明が解決しょうとする課題】
【0003】
本発明者は、長い間、腎疾患の早期検出方法の開発に努めてきた。
【発明が解決する為の手段】
【0004】
その結果、発明者は、次のように本発明を成した。
タイプ4コラーゲンは基底膜コラーゲンとも呼ばれ、生体組織基底膜の主成分である。タイプ4コラーゲンはα1鎖〜α6鎖までの6種の同位体(isomer)が知られている。α1鎖、α2鎖は胎盤で富み、全身に分布するが、腎基底膜ではα3鎖〜α6鎖が特徴的に存在する。
【0005】
又、基底膜の由来組織をペプシン処理するとタイプ4コラーゲンは、主にN端の7Sと三本鎖中央領域(TH)が得られる(通常タイプ4コラーゲンと呼ばれる)。ペプシン処理したタイプ4コラーゲンは電気泳動すると細断片の混在像で各社市販品の泳動像でも濃淡に違いがあり、一致しない。
この点は、標準物質として用いるのに大きな課題があった。
【0006】
又、この標準物質を抗原として抗体を作製すると抗体間に認識部位の違いが生じやすく、免疫反応を論じる時に食い違いを生じる懸念があった。
【0007】
更に、腎炎の体外診断薬として知られ唯一販売されている尿中タイプ4コラーゲン測定試薬キットは、標準がヒト胎盤由来タイプ4コラーゲンで、使用モノクロ−ナル抗体作製時の抗原もペプシン処理で得られた胎盤由来タイプ4コラーゲンである。
しかし、腎炎で尿中に出現するタイプ4コラ−ゲン(7SやNC1を含めて)は腎臓由来である。胎盤由来でペプシン処理した現行のタイプ4コラ−ゲン測定キットは、腎炎の検出に用いるには充分なもので無かった。
又、症例によっては腎臓由来のタイプ4コラーゲン(7SやNC1を含めて)が血流中にも出現するが、肝臓の線維化などのタイプ4コラーゲン(7SやNC1を含めて)との識別が必要であった。
【0008】
それゆえ、腎炎の検出に用いるタイプ4コラーゲン(7SやNC1を含めて)測定キットなら、腎臓由来の抗原とその抗原に基ずく抗体を利用するほうが理に適うだろうと思い至った。
【0009】
そこで、出発材料に腎臓組織を用いる事とした。
【0010】
予備試験としての胎盤由来と腎臓由来の比較(1)
ペプシン処理にて取り出した、胎盤由来タイプ4コラーゲンとウシ腎糸球体基底膜(GBM)由来タイプ4コラ−ゲンを抗原として腎炎患者尿中の抗タイプ4コラーゲン抗体をELISA法で測定したところ、明らかに腎GBM由来タイプ4コラーゲンに良く反応した。従って、抗原に腎由来を用いることの妥当性を裏付けた。
[測定手順;マイクロプレート固相化抗原(抗原5ug/ml PBS,pH7.6を120ul/well添加し4C×一夜放置)−洗浄後、4倍希釈検体100ul添加−室温×2時間放置−洗浄後、酵素標識抗ヒト抗体100ul添加−室温×1時間放置−洗浄後、基質溶液(TMB)100ul−青色を目安に反応(室温×5〜30分)−反応停止液(1N−H2SO4)50ul添加し、直ちに450nmで吸光度測定]
【0011】
予備試験としての胎盤由来と腎臓由来の比較(2)
更に、ペプシン処理にて得られたウシ腎GBM由来タイプ4コラーゲンでラットとウサギで抗体を作製した(プロテインG精製)。この2種の抗体で、サンドイッチELISA法でウシ腎GBM由来タイプ4コラ−ゲンを測定した。その結果、0.13ng/mlまで測定できたが、ヒト胎盤由来タイプ4コラーゲン(K34 コラ−ゲン技術研修会製)を検体とした時は、吸光度は半分以下でバックも極めて高かった。
この結果は、尿中のタイプ4コラーゲンを測定するには、腎由来のタイプ4コラーゲンを標準とし、腎由来の抗タイプ4コラーゲン抗体を用いる事が良いと判断できた。つまり、腎由来の物質を測定するには腎由来の抗原、標準、腎由来抗原に対応する抗体を用いるのが適切である。
[測定手順;マイクロプレート固相化抗体(ウサギIgG2000倍希釈PBS.pH7.6を120ul/well添加し4C×一夜放置)−洗浄後、段階希釈抗原(タイプ4コラ−ゲン)100ul添加−室温×2時間放置−洗浄後、抗体(ラットIgG1000倍希釈)100ul添加−室温×2時間放置−洗浄後、酵素標識抗ラット抗体100ul添加−室温×1時間放置−洗浄後、基質溶液(TMB)100ul−青色を目安に反応(室温×5〜30分)−反応停止液(1N−H2SO4)50ul添加し、直ちに450nmで吸光度測定]
【0012】
さらに、酵素処理は細菌コラゲナ−ゼを用いる事とした。
ペプシン処理ではタイプ4コラーゲンが細断片となり、一定の分子量のものを得る事は困難である。又、7Sを取り出す時にも、最初にペプシン処理を行うと更にコラゲナ−ゼ処理を行う必要があり二度手間を要する。
最初から細菌コラゲナ−ゼで処理すれば1回の手間で済み、カラムクロマトグラフィーで7SとNC1が簡単に分取でき、その電気泳動像は一定である。
【0013】
そこで、電気泳動像が一定の7SやNC1を用いる事とした。
7SやNC1は、いわゆるタイプ4コラーゲンを使用するのに比べ、均質の分子量が得られるので、動物に投与して抗体を作製する時も、ロット間でのばらつきが少ないし、抗原でアフィニテ−精製しても力価に差が生じにくい。この事は、7SやNC1の検出キット作製に有用である。同時に、7SやNC1を抗原として生体試料から自己抗体を検出するにも作成時の抗原による差が生じないと言う利点がある。
NC1については、抗糸球体基底膜抗体腎炎(狭義のグッドパスチャ−症)などで研究が進んでいるので、ここでは、研究の進んでいない7Sについて述べ、基礎研究にも役立つようにする。NC1についても7Sについて述べることと同様である。
【0014】
以上の様にして、腎炎時に出現する腎特異的な7Sの検出にふさわしい「ウシ腎糸球体基底膜由来」を出発原料に、簡便な1回の酵素処理「細菌コラゲナ−ゼ」で得た均質な分子量の「7S」を抗原として、抗体を作製した。
7S抗体作製に用いる抗原は腎糸球体由来ならいずれの動物種でも良い。抗体作製動物もいずれの動物でも良い。
抗体作製には、ウサギとモルモットの2種を用いた例を示す。一般的にモルモットでの抗体作製は他の動物に比べ例示が少ない。
ウサギに作製する時には、背部皮内に同容量のFCAと共に初回0.1−0.15mg、追加免疫は2週後、4週後に0.2−45mgを投与し、ELISAで充分抗体価が上っている事を確認して5週後に採血した。続いて、7Sでアフィニテ−精製を行い、1mg/PBS1ml液で冷凍保存した。
モルモットを用いる時は、背部皮内に同容量のFCAと共に初回0.05−0.1mg、追加免疫は2週後、4週後に0.1−0.3mgを投与し、以降同様にして精製した抗体をBiotin標識し、検出にはAvidin−HRPを用いる。腎由来7S測定ELISAキットは、次の仕様とした。
固相化抗原(ウサギ由来5ug/ml)マイクロプレ−トを1夜放置−洗浄後、ブロックエ−ス25%−PBSを加え保存。使用時、PBS−0.05%Tween20で洗浄後、検体(標準、4倍希釈尿、10倍希釈血清)を加え−2時間室温放置後洗浄し、Biotin−抗体(モルモット由来)を加え−2時間室温放置後洗浄し、Avidin−HRP(4千倍希釈)を加え−30分放置後洗浄し、TMB発色基質液を加え−室温20分放置後、反応停止液(1N硫酸)を加えて、450nmで吸光度を測定する。
【0015】
ヒト7S由来ペプチドの作製方法
α1鎖からα6鎖まで7Sのアミノ酸配列は公表されているので、これを用いる。α3鎖7S(約190個のアミノ酸配列)は、N端から20個単位のアミノ酸配列を、10個を重ねながらC端まで18個に合成する(y301−y318)。全部の合成ペプチド(18個)を抗原として、96穴マイクロプレートに固相化する(5−10ug/ml PBS,pH7.6)。対象抗原はウシ腎糸球体基底膜由来7Sを用いた。検体には、あらかじめウシ腎糸球体基底膜由来7Sを抗原として抗7S抗体がある腎炎患者尿を用いる。ペプチドは、対象抗原より反応したものを選ぶ(以下7S様ペプチド)。このようにして用意した7S様ペプチドは、7Sの代用抗原として自己抗体の検出に、更に抗体作製の抗原として使用できる。7S様ペプチド及び又は抗7S様ペプチド抗体は血清や試料中の抗7S様ペプチド抗体及び又は7S様ペプチドの除去装置にも用いられる。7S様ペプチドの作製は、α4鎖からα6鎖の7Sについても同様にして行う。α5鎖NC1では、N端から1個から12個が無い(公表文献の記載が空白)ので、最初の20個のペプチドは無しにして2個目のペプチドを18アミノ酸残基で作製する。他のα鎖NC1の欠損ついても同様に処理する。途中域のアミノ酸欠損残基は少ないので、そのままで合成する。
又、α1鎖、α2鎖は、α3鎖〜α6鎖までと相同性が約50%程度あるので、α1鎖、α2鎖についてもペプチドを同様に実施しても良いが腎炎検出試薬の作製には十分で無い。
【0016】
α3鎖からα6鎖までのそれぞれの抗7S様ペプチド抗体を用いたアフィニテ−カラムを用意して、腎糸球体基底膜由来7S(例えばウシ)を通すことで、各α鎖の7S(α3鎖〜α6鎖の7S)が得られる。これら各α鎖の7Sを用いる事で、又その抗体を用いる事で、抗7S抗体や7Sが測定できる。
【0017】
7S投与又は抗7S抗体投与による腎炎の寛容化
動物(ウサギやラットなど)にあらかじめ一定期間微量の7S(以下、含む7S様ペプチド)又は抗7S抗体を経口投与もしくは注射投与(皮下、皮内、筋肉、静注他)することで、後日の免疫惹起が緩和もしくは抑制される。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、腎炎の早期発見、治療薬の開発、医薬品の腎臓への副作用評価指標、ジン疾患治療薬のスクリ−ニング方法、腎炎の透析装置、腎炎モデルの作製として、更には各種研究に於ても利用できるがこれに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【図】〔添付1〕ヒト7Sのアミノ酸配列例
【図】〔添付2〕ウシ腎糸球体基底膜を細菌コラゲナ−ゼ処理で得た7SとNC1



【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗腎由来タイプIVコラーゲン7S領域(7S)抗体及び又は抗腎由来7S由来ペプチド抗体を用いた7S(以下7S由来ペプチドも含む)測定試薬
【請求項2】
腎由来7Sを抗原とした腎由来7S抗体測定腎炎検出試薬
【請求項3】
腎糸球体基底膜由来タイプIVコラーゲンα3鎖及び又はα4鎖及び又はα5鎖及び又はα6鎖の7Sを抗原とし、及び又はそのペプタイド(以下7S)を抗原とした尿中抗7S抗体測定法
【請求項4】
腎糸球体基底膜由来タイプIVコラーゲンα3鎖及び又はα4鎖及び又はα5鎖及び又はα6鎖の7Sを抗原とし、及び又はそのペプタイド(以下7S)を抗原として反応する抗体を用いた尿中7S測定法
【請求項5】
腎由来7S薬剤
【請求項6】
抗腎由来7S抗体薬剤
【請求項7】
腎由来7S及び又は抗腎由来7S抗体を用いた抗7S抗体及び又は7S除去装置
【請求項8】
腎由来7S及び又は抗腎由来7S抗体で惹起させた腎炎モデル

【公開番号】特開2008−191135(P2008−191135A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56326(P2007−56326)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(598100346)
【Fターム(参考)】