説明

腎疾患の予防方法およびその症状を処置する方法

本発明は、腎疾患を発症するリスクを有する対象において、腎疾患、特にループス腎炎を予防するための2−メチレン−19−ノル−20(S)−1,25−ジヒドロキシビタミンDの新しい使用法に関する。蛋白尿、巨脾腫または糸球体損傷などの腎疾患の症状を予防する方法もまた、提供される。蛋白尿および巨脾腫を含む腎疾患の症状を処置する方法もまた、提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎疾患の予防およびその症状の処置に有用なビタミンD化合物;より具体的には、ループス腎炎の症状の予防および処置に有用なビタミンD化合物に関する。
【発明の背景】
【0002】
腎疾患は、米国などの高度先進国を含む、世界の事実上すべての国において、重要を増す健康問題となってきた。現在では、ほぼ完全に腎臓の機能を失った250,000人の腎透析患者がいる。その患者数の約10倍が、腎疾患のために一部の腎機能を失っており、完全な腎不全に向かって進展している。腎不全は、減少した糸球体濾過率(GFR)が、110ml/分の高い値から腎透析がしばしば開始される30ml/分までであることを根拠とする。
【0003】
多くの要因が腎疾患の発症に寄与する。高血圧は、I型およびII型糖尿病がそうであるように、重要な起因の一つである。腎疾患の現在の処置は、血液透析に制限され、きわめて高価な手法であり、個人はこの手法を自己負担する経済力を有し得ないので、現在は連邦政府により支援されている。米国だけの腎疾患の年間コストは、420億米ドルを超えている。従って、腎疾患を予防する効果的な方法やその症状を治療する効果的な方法は、大きな健康上の利益をもたらすだけでなく、大きな経済的な利益をもたらすこととなる。
【0004】
腎疾患を有する対象は、腎疾患の結果である二次的副甲状腺機能亢進症を低減するために、しばしばビタミンD化合物で処置される(例えば、引用することによりその全体が取り込まれる、米国特許出願公開第2005/0124591号公報および米国特許出願公開第2006/0171983号公報を参照)。しかし、一般的には、ビタミンD化合物は腎疾患の処置や予防に働くよりむしろ、腎不全に寄与すると考えられている。
【0005】
全身性ループスエリトマトーデス(SLE)は、高い多形性、複遺伝子性の臓器非特異的自己免疫疾患である。これは、年間で平均して100,000人に15〜50人を冒す。これは、主に女性を冒し(10の事例中約9)、ある民俗学的な集団、特にアフリカ系カリブ人、アフリカ系アメリカ人およびスペイン系アメリカ人の集団は、疾患を発症しやすいようである。
【0006】
SLEの起源は不明であるが、これは多因子性疾患であり、様々な病因因子が同定されている。遺伝学的因子に関しては、疾患の感受性は明らかに複遺伝子性である。HLA系のDR2およびDR3対立遺伝子などのいくつかの遺伝子が、遺伝学的感受性に関与することが示されている。HLA系に関係しない他の遺伝子も関与することが知られている。さらに、紫外線照射(ループスの出現の光感受性の性質)および性ホルモン(生殖の活性な期間の女性、妊娠のおよび妊娠に関する働き)などの環境因子がSLEに対する決定的な影響を有すると同定されている。
【0007】
生物学的レベルでは、SLEの特性は、ループスフレア中の全身性の炎症症状を含み、特にTNF−αの大量分泌;血液学的障害および血清学的異常、主に、抗DNA、抗ヒストン、抗ヌクレオソーム、抗Sm、抗SSAまたは抗SSB、および抗リボヌクレオプロテイン(PNP)抗体を含んでなる抗核抗体(ANA)の存在を伴う。患者は、血液やリン脂質の想像される要素に対する抗体を産生し;これらの自己抗体のいくつかは、循環する免疫複合体の形成;および免疫複合体(寛解中に改善する深刻な腎不全に関連する)による補体の使用と関連する低補体血症、および/またはC2若しくはC4の構成的な欠乏(SLEになりやすい)に関与しうるものである。
【0008】
ループス腎炎(LN)は、腎臓におけるSLEの発現である。ループス腎炎は、SLEを有する対象の約35〜55%において頻度高く発現し、SLEを診断する際の前兆となる主要な因子の一つである。これは、血尿(尿中の血液の存在)、白血球尿(尿中の白血球の存在)、高血圧または最も一般的には蛋白尿(尿中のたんぱく質レベルの上昇)を試験することにより検出できる。腎症の検出は、腎疾患の前兆に影響する分かれ目であり、なぜならLNはしばしば5〜10年以内に慢性腎不全に進展するからである。この場合、患者の生存は、透析または腎移植によってのみ達成される。
【0009】
LN発症の中心的メカニズムは腎臓構造内での自己免疫の形成および沈着に集中する。LN病因の主要経路の一つは、全体的な腎臓分解を引き起こす局所炎症および体液性の応答のカスケードの引き金を引く、糸球体の損傷である。
【0010】
具体的にはループス腎炎を含む腎臓疾患を予防する方法およびその症状を処置する方法の開発は欠けていた。現在承認されている処置は、効能の点で限定され、多くの深刻な副作用を有する。ビタミンDの活性形態は、強力な免疫調整剤であることが証明され、自己免疫疾患の多様なマウスモデルの処置に効能を示す。
【0011】
従って、腎疾患の症状を処置(すなわち、深刻度を低減し、または進展を遅延させる)することに対して効果的であると同時に、腎疾患を発症するリスクを有する対象において腎疾患およびその症状を予防することに対して効果的であるビタミンD化合物に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、今般、ビタミンDの類似体が、腎疾患およびその症状を予防することができることを見出した。
【0013】
一つの態様では、本発明は、治療上有効量の2−メチレン−19−ノル−20(S)−1,25−ジヒドロキシビタミンD(2MD)またはその薬学上許容される塩を含んでなる組成物を、腎疾患を発症するリスクを有する対象に投与することにより、対象に高カルシウム血症を誘発させることなく、腎疾患を予防する新しい方法を提供する。
【0014】
もう一つの態様では、本発明は、治療上有効量の2−メチレン−19−ノル−20(S)−1,25−ジヒドロキシビタミンD(2MD)またはその薬学上許容される塩を含んでなる組成物を、腎疾患の症状を発症するリスクを有する対象に投与することにより、対象に高カルシウム血症を誘発させることなく、蛋白尿、糸球体損傷および巨脾腫を含む腎疾患の症状を予防する方法を提供する。
【0015】
もう一つの態様では、本発明は、治療上有効量の2−メチレン−19−ノル−20(S)−1,25−ジヒドロキシビタミンD(2MD)またはその薬学上許容される塩を含んでなる組成物を、腎疾患の症状を呈する対象に投与することにより、腎疾患の症状を処置する新しい方法を提供する。一つの態様では、治療すべき腎疾患の症状は、蛋白尿および/または巨脾腫である。
【0016】
一つの態様では、2−メチレン−19−ノル−20(S)−1,25−ジヒドロキシビタミンDは、経口、局所、経皮、非経口、注射または輸液形態で、kg体重当たり0.001μg/日〜約5μg/日の範囲の量で、製剤化される。
【0017】
本発明のほかの特徴は、明細書、特許請求の範囲および図面を確認した後に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、(A)1α,25−ジヒドロキシビタミンD(1,25(OH))の分子構造;(B)2−メチレン−19−ノル−(20S)−1α,25−(OH)(2MD)の分子構造を示す図である。
【図2】図2は、2MDの更なる利点は、生存率を向上させ、血中のPTHレベルを減少させ、骨密度を改善することである。血清PTHレベルおよび全身BMD結果を示すグラフは、群平均およびSEM(1群で8〜13匹のラット)を表す。
【図3】図3は、腎不全の全マーカーが2MD処置により改善されることを示す図である。血清リンおよび血清クレアチニン値は、8〜13匹の尿毒症動物の平均およびSEMを表す。尿の容積およびたんぱく質の測定は、処置開始後6週の7〜8匹の尿毒症動物から得られ、平均およびSEMとして表されている。
【図4】図4は、2MDのすべての陽性効果が血清カルシウムを有意に上昇させない用量レベルで観察されることを示す図である。示されている全血清カルシウム値は、8〜13匹の尿毒症動物の平均およびSEMである。
【図5】図5は、全尿容積およびたんぱく質排出が、I型糖尿病腎症のモデルで減少することを示す図である。それぞれのバーは、3〜12匹の動物から得られた値を表す。示されている値は、平均+/−SEMである。
【図6】図6(A)は、血清カルシウムレベルが2MD処置で温和に上昇することを示す図である。処置は、マウスが最初に蛋白尿の兆候を示し始めた10週目で開始された。研究は19週目で終了した。(B)は、蛋白尿の終わりの発生を示す図である。蛋白尿は、5ngの2MDで完全に予防され、マウスは、より少ない用量でも用量依存的に応答した。(C)は、蛋白尿の平均的な開始が、1ngの2MD処置で遅延されること、および全体的な発生率がすべての用量群でより少ないことを示す図である。(D)は、体重減少が5ngの2MDの群で最も深刻であり、0.5ngおよび1ngの群で観察される生育阻害はとても温和である(n=8)ことを示す図である。
【図7】図7(A)および(D)は、それぞれ対照と2MD処置をした腎臓の100倍顕微鏡写真である。「G」は糸球体を意味する。(B)および(E)は、それぞれ、(A)および(D)の400倍顕微鏡写真を示す図である。(B)では、顕著な糸球体硬化症があり、繊維症(青色染色)が良く見える。(B)の右下の角では、蛋白尿を表すタンパク質の円柱が見える。間質繊維化が対照(C)と試験(F)の両方のサンプルに存在したが、その程度および頻度は、2MD処理サンプルにおいてとても小さかった。白色の矢じりは繊維症領域の青色染色を示す。すべての切片は3色染色がなされた。
【図8】図8(A)は、脾臓の写真である。角括弧は、投与された2MDの用量を示す。有意に小さい脾臓が、5ngの2MD群においてのみ存在する点に注目されたい。図8(B)は、標準化されていない脾臓の重量を示す図である。(A)の観察を反映して、脾臓の重量は、5ngの2MD群でのみ有意に減少する。図8(C)は、体重に対して標準化した脾臓の重量を示す図である。そのパターンは、(B)とほぼ同じである。(n=8)p<0.05。図8(D)および(E)は、それぞれH&E染色した対照と2MD処置群の脾臓の40倍顕微鏡写真を示す図である。(D)は乱れた白色髄質構造を示すが、(E)の白色髄質は、正常な非疾患の脾臓の鞘構造のいくつかを維持する。
【発明の具体的な説明】
【0019】
I.一般事項
明細書および特許請求の範囲において、用語「含む」および「含んでなる」は制限の無い語であり、「特に制限されないが、・・・を含む」の意味に解釈されるべきである。これらの用語は、より制限的な用語「から本質的になる」および「からなる」を包含する。
【0020】
本明細書および特許請求の範囲では、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈で明確に述べられない限り、複数の事柄を含む。同様に、用語「a」(または「an」)、「1以上」および「少なくとも1つ」は、本明細書において互換的に用いられる。用語「含んでなる」、「含む」、「を特徴とする」および「有する」は互換的に用いることができる。
【0021】
他で定義されない限り、本明細書で用いられるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により、一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で具体的に記載されるすべての出版物および特許は、出版物により報告され、本発明と関連して用いられ得る化合物、装置、統計分析および方法論を記載し開示することを含むあらゆる目的で、引用することによりその全体が本明細書の一部とされる。本明細書に引用されたすべての引用文献は、当技術分野の技術水準を示すものと捉えられるべきである。本発明が先行発明のためにその開示を早める権利を有さないとの自認として解釈されるべきものは本明細書には無い。
【0022】
II.本発明
以前、本発明者らは、食物を通して投与された1日300ngの1α,25−ジヒドロキシビタミンD(1,25(OH))が腎疾患の症状を軽減することにより腎疾患および腎不全を効果的に予防できることを明らかにした。James Wonkee Kim. Effects of lα,25-dihydroxyvitamin D3 on the MRL/MpJ-Fas/lpr model of systemic lupus erythematosus. Ph.D. These, University of Wisconsin-Madison (2009)。例えば、本発明者らは、1α,25−ジヒドロキシビタミンD(1,25(OH))の投与が全身性ループスエリトマトーデス(SLE)のMRL/MpJ−Faslpr(MRL/lpr)マウスモデルにおいて蛋白尿を完全に予防することを以前に示した。James Kid、Id。しかし、この処置には常に深刻な高カルシウム血症が伴っていた。高カルシウム血症(血中のカルシウムレベルの上昇)は、死を含む深刻な身体的問題を引き起こしうる。具体的には、およそ2mg/100mlのカルシウムの増加は穏和な高カルシウム血症と考えられ、問題とは考えられていない。しかし、2mg/100mlを超えるカルシウムレベルの増加は深刻な高カルシウム血症と考えられ、腎臓、心臓および大動脈のカルシウム沈着を引き起こしうる。結果として生じる高カルシウム血症のために、この化合物の使用が最適ではないことは明白である。本発明者らは、それゆえに、高カルシウム血症を誘発させずに腎疾患やその症状を予防する化合物を探し続けてきた。高カルシウム血症を誘発させずに腎疾患の症状を処置する(すなわち、腎疾患の深刻度を低減するか、進展を遅延させる)化合物も望まれている。
【0023】
2−メチレン−19−ノル−(20S)−1α,25−(OH)(2MD)は、イン・ビトロでの骨に対する有効性を増加させるが腸内カルシウム吸収は増加させないことが示されている1,25(OH)の類似体(図1)である。2MDの全体的な合成が、1998年12月1日に発行された米国特許第5,843,928号および引用することにより具体的に本明細書の一部とされる「2-Alkylidene-19-Nor- Vitamin D Compounds」と題するその明細書により完全に図解され、記載されている。2MDの生理活性は、引用することによりその明細書が本明細書の一部とされる、2000年7月14日に出願された米国特許出願公開第09/616,164号公報に報告されている。
【0024】
従って、本発明は、2MDが深刻な高カルシウム血症を誘発させることなく、腎疾患およびその様々な症状(蛋白尿、糸球体損傷および巨碑腫を含む)を予防することを提供し、生存率を増加させ、血中PTHレベルを減少させおよび骨密度を改善することも示している(図2)。
【0025】
本発明はまた、2MDが深刻な高カルシウム血症を誘発させることなく、腎疾患の様々な症状(そのような症状には蛋白尿および巨碑腫が挙げられる)を処置できる(すなわち、腎疾患の様々な症状の深刻度を低減する、およびその進展を遅延させる)ことを示す。
【0026】
「高カルシウム血症」とは、2mg/100mlを超える血中カルシウムレベルの上昇を意味する。通常の対象では、カルシウムレベルはおよそ9〜10.5mg/dLまたは2.2〜2.6mmol/Lである。深刻な高カルシウム血症(すなわち、15〜16mg/dLまたは3.75〜4mmol/Lを超えるカルシウムレベル)の場合、昏睡および心停止が発症しうる。
【0027】
従って、一つの態様では、本発明は、治療上有効量の2−メチレン−19−ノル−(20S)−1α,25−(OH)(2MD)またはその薬学上許容される塩を対象に投与することにより、対象に高カルシウム血症を誘発させることなく、腎疾患を発症するリスクを有する対象において腎疾患を予防する新しい方法を提供する(ここで、2MDは構造(I):
【化1】

{式中、環から突き出た二重結合は、=(CH)を表し、構造は(CH)を実際に示さなくても技術的に正しい。}
を有する)。
【0028】
「予防」とは、腎疾患および/またはループス腎炎を示す臨床的症状を未然に防ぐことを意味する。そのような未然に防ぐこととしては、例えば、特に限定されないが、蛋白尿、糸球体損傷または巨碑腫を含む腎疾患の明白な症状の発症前の腎疾患を発症させるリスクを有する対象における正常な腎機能の維持が挙げられる。従って、用語「予防」は、腎疾患の発生から対象を守るための対象の予防的処置を含む。対象における腎疾患の予防はまた、腎疾患の発症を阻害しまたは停止させることを含むことが意図されている。腎疾患の発症を阻害しまたは停止させることは、例えば、蛋白尿、糸球体損傷、巨碑腫および腎疾患のその他の症状の発生を阻害しまたは停止させることを含む。腎疾患の発症を阻害しまたは停止させることはまた、例えば、腎疾患に伴う1以上の病理的健康状態または慢性合併症の進展を阻害しまたは停止させることを含む。
【0029】
「腎疾患」とは、透析を受けていない対象、または、例えば、急性腎不全、急性腎炎症、鎮痛薬腎症、アテローム塞栓性腎疾患、慢性腎不全、慢性腎炎、先天性ネフローゼ症候群、グッドパスチャー症候群、間質性腎炎、腎臓ガン、腎臓障害(kidney damage)、腎臓感染症、腎臓損傷(kidney injury)、腎臓結石、膜性増殖性GNI、膜性増殖性GNII、膜性腎症、微小変化群、壊死性糸球体炎、腎芽細胞腫、腎石灰症、腎性尿崩症、腎症−IgA、ネフローゼ、ネフローゼ症候群、多嚢胞腎、連鎖球菌感染後GN、逆流性腎症、腎動脈塞栓症、腎動脈狭窄症、腎臓障害(renal disorders)、腎乳頭壊死、腎尿細管性アシドーシスI型、腎尿細管性アシドーシスII型、腎臓還流低下(renal underperfusion)、腎静脈血栓症などの、ステージ2または3の慢性腎疾患(CKD)患者において、障害のある腎機能を示す健康状態を意味する。
【0030】
確立した腎不全の患者(例えば、15mL/分/1.73m未満の糸球体濾過率(GFR)の患者、または持続性腎置換療法(RRT)の患者)を含むことは意図していない。「腎疾患」は、GFRの減少を伴うか伴わないかに関わらず、血液若しくは尿の組成の異常または画像検査における異常(図3)を含む、腎損傷の病理学的異常かマーカーにより明かされる、腎臓の構造的または機能的異常として定義される腎損傷を、3ヶ月以上有した対象をも意味する。腎損傷のマーカーとしては、24−HR排出法(引用することにより本明細書の一部とされる、Am. J. of Kidney Diseases, v. 39, no. 2, Suppl. 1 (Feb. 2002), pp. 546-575の表15参照)により測定される、300μg/日を超える蛋白尿が挙げられる。この定義は透析患者を含まない。
【0031】
「ステージ2 CKD」とは、腎損傷を伴うGFRの穏和な減少(60〜89mL/分/1.73m)を意味する。腎損傷は、血液若しくは尿検査における異常、または画像検査における異常を含む、損傷の病理学的異常またはマーカーとして定義される。「ステージ3 CKD」とは、GFRの中程度の減少(30〜59mL/分/1.73m)を意味する。英国のガイドラインでは、スクリーニングおよび紹介の目的でステージ3A(GFR45〜59)とステージ3B(GFR30〜44)とを区別する。これらの両方のステージの情報については、引用することにより本明細書の一部とされる、Am. J. of Kidney Disease, v. 39, No. 2, Suppl. 1, Feb 2002を参照。
【0032】
一つの態様では、腎疾患はループス腎炎である。「ループス腎炎」とは、糸球体免疫複合体(IC)沈着、糸球体および尿細管炎症並びに白血球の間質浸潤を特徴とする慢性腎疾患を意味する。ループス腎炎は、腎不全による毒性、高血圧、腎機能不全による心臓血管不全、および感染に対する感受性の増加を含む深刻な合併症を生み出しうる。ループス腎炎を有する対象は、以下の症状の少なくとも4つを示す:蝶型紅斑;円盤状ループス発疹;光感受性;口または鼻咽頭潰瘍;非びらん性多発性関節炎;胸膜炎または心膜炎;0.5g/24時間を超える蛋白尿、または円柱尿;発作または精神病;溶血性貧血または4,000/mm未満の白血球減少症または1,500/mm未満の白血球減少症または100,000/mm未満の血小板減少症;LE細胞(ハーグレーブス細胞)または抗天然DNA抗体(Abs)または抗Sm抗体または梅毒の疑陽性結果の存在を含む免疫学的異常;または、多数の抗核Absの存在。
【0033】
「対象」とは、哺乳類および非哺乳類を意味する。「哺乳類」とは、特に限定されないが、ヒト並びにチンパンジーおよびその他の類人猿およびサル種などの非ヒト霊長類;ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギおよびブタなどの家畜;ウサギ、イヌおよびネコなどの家畜;ラット、マウスおよびモルモットなどの齧歯類を含む実験動物;などを含む、哺乳綱のいずれのメンバーをも意味する。非哺乳類の例としては、特に限定されないが、鳥類などを挙げることができる。用語「対象」は特定の年齢または性を示すものではない。
【0034】
「腎疾患を発症するリスクを有する」とは、対象がSLEなどの腎疾患を有することまたは、SLEなどの腎疾患を有するリスクを有することを意味する。
【0035】
「投与する(こと)」とは、下記に詳述されるように、身体に、好ましくは全身循環系に化合物を導入するあらゆる手段を意味する。例としては、特に限定されないが、経口、局所、頬、舌下、肺、経皮および経粘膜、並びに、皮下、腹腔内、静脈内および筋肉内注射または消化管を介した液体若しくは固体投与の形態を挙げることができる。
【0036】
「治療上有効」とは、疾患を処置したい対象に投与したときに、その疾患の処置に十分な効果を示す化合物の量を意味する。「治療上有効量」は、化合物、治療する疾患の状態、深刻度または治療する疾患、対象の年齢および相対的な健康度、投与経路および形態、医師または獣医師の判断、並びにその他の要因によって変わる。本発明者らは、有意な高カルシウム血症を誘発させないであろう、様々な用量レベルの2MDをMRL/lprマウスに投薬した。本発明者らは、一匹のマウスに対して1日当り5ngの2MDが対象の血清カルシウムレベルを顕著に増加させることなく蛋白尿を防ぐに十分であることを見出した。さらに、1ngの2MDは、血清カルシウムレベルを生理学的に正常な範囲に維持しつつ、蛋白尿の発生率を60%以上減少させることが分かった。
【0037】
一つの態様では、治療上有効量は、約0.001〜5μg/日の範囲である。他の態様では、治療上有効量は、約0.025〜0.3μg/日の範囲である。(投与の好適な方法について開示し、引用することによりその全体が本明細書の一部とされる米国特許第5,843,928号公報参照)。腎疾患の進展は、全尿タンパク質排出、クレアチニン、GFRおよびリンなどの症状を追うことによりモニターできるであろう。また、これらの症状の進展が遅いと予想することができるであろう。
【0038】
他の態様では、本発明は、腎疾患の症状を処置する新しい方法を提供する。本方法は、対象に高カルシウム血症を誘発させることなく、腎疾患の症状を示す対象に治療上有効量の2MDを投与することを含んでなる。一つの態様では、治療する症状は蛋白尿および/または巨碑腫である。
【0039】
「処置する(こと)」とは、腎疾患を示す臨床的症状の緩和を意味する。臨床的症状の緩和は、例えば、腎疾患の症状の深刻度を低減し、または進展を遅延させることを含む。例えば、2MD処置に応答して腎臓から放出される血清タンパク質の量を低減することによる、または、巨碑腫を有する対象の脾臓のサイズを低減することにより、蛋白尿を制限することである。具体的には、尿中のタンパク質量を少なくとも約20%低減させることを意味する。一つの態様では、対象の尿中のタンパク質量は、約20〜40%または約35〜50%低減する。脾臓のサイズを少なくとも20%低減させることも意味する。一つの態様では、対象の脾臓のサイズは、約20〜40%または約35〜50%低減する。腎疾患の他の病理学的健康状態、慢性合併症または表現型の兆候が当業者に知られており、疾患に伴う健康状態、合併症または兆候の深刻度を低減させる限り、腎疾患の処置の尺度として同様に用いることができる。
【0040】
具体的には、一つの態様では、本発明は、対象の蛋白尿を処置し、予防する。「蛋白尿」とは、尿中の過多の血清タンパク質の存在を意味する。尿中のタンパク質は、しばしば尿を泡状にさせる。血清タンパク質は、尿から直ちに再吸収されるので、過度のタンパク質の存在は、吸収の機能不全か、濾過の障害のいずれかのしるしである。
【0041】
他の態様では、本発明は対象の追加的な糸球体損傷を予防する。「糸球体損傷」とは、対象の腎臓の内部のループした血管の小さな集まりである糸球体への損傷を意味する。血液は、腎臓の内部で糸球体に枝分かれする動脈を通して腎臓に入るが、糸球体はフィルターを意味するギリシャ語に由来する。各腎臓には、およそ100万個の糸球体またはフィルターが存在する。糸球体は、小さな液体集合尿細管の開口部に結合している。血液は、糸球体内で濾過され、余剰の水分と老廃物とが尿細管内に移り、尿となる。やがては、尿は、尿管を通じて腎臓から膀胱へと流れ込む。損傷が生じると、糸球体はタンパク質やときどき赤血球を尿中に漏らしてしまう。糸球体損傷は、腎臓による老廃産物の除去を妨げ、従ってそれらは血中に蓄積を始める。さらには、尿中のアルブミンのような血液タンパク質の欠失は血流中のそれらのレベルの低下を結果として導く。正常な血液では、アルブミンはスポンジのように働き、余剰の体液を身体から血流に引き入れ、腎臓により除去されるまで留まる。しかし、尿中にアルブミンが漏れると、血液は身体から余剰の体液を吸収する能力を失う。体液は、顔、手または足首の循環系の外部に蓄積し、浮腫を引き起こす。糸球体損傷は、蛋白尿(尿中の大量のタンパク質);血尿(尿中の血液);糸球体濾過率の低減(血液からの老廃物の不十分な濾過);低蛋白血症(血液タンパク質の低下)および水腫(身体の一部の浮腫)を含む。
【0042】
他の態様では、本発明は対象の巨脾腫を処置し、または予防する。「巨脾腫」とは、脾臓の拡大を意味し、脾臓は通常はヒトの腹部の左上の1/4区に位置する。それは、通常は増加した仕事量に関連し(溶血性貧血におけるものなど)、機能亢進への応答であることが示唆される。それは、脾臓中で破壊された異常な赤血球と関連するいかなる疾患過程にも伴う。巨脾腫は、12cmを超えるサイズの脾臓として定義される。中程度の巨脾腫は11〜20cmのサイズの脾臓として定義され、深刻な巨脾腫は20cmを超えるサイズの脾臓として定義される。処置は、通常脾摘出を含み、脾臓が摘出される。しかし、これは、患者を感染症のリスク増大に感受性にさせてしまう。
【0043】
「治療上有効」とは、疾患を治療したい対象に投与したときに、その疾患の処置に十分な効果を示す化合物の量を意味する。「治療上有効量」は、化合物、治療する疾患の状態、深刻度または治療する疾患、対象の年齢および相対的な健康度、投与経路および形態、医師または獣医師の判断、並びにその他の要因によって変わる。一つの態様では、治療上有効量は、kg体重当たり約0.001〜5μg/日の範囲である。他の態様では、治療上有効量は、kg体重当たり約0.025〜0.3μg/日の範囲である。腎疾患の進展は、全尿タンパク質排出、クレアチニン、GFRおよびリンなどの症状を追うことによりモニターできるであろう。また、これらの症状の進展が遅いと予想することができるであろう。
【0044】
本発明の一つの態様では、2MD処置は、高血圧の処置に用いられるアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)またはアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)と組み合わされるであろう。
【0045】
効果的な化合物の製剤は、米国特許第5,843,928号に記載されており、無害の溶媒中の溶液として、または、好適な溶媒若しくは担体中のエマルジョン、懸濁液若しくは分散液として、または固形担体と合わさった丸薬、錠剤、カプセル剤としての医薬応用を含む。他の製剤としてはまた、安定化剤、抗酸化剤、結合剤、着色剤または乳化若しくは味覚改変剤などの薬学上許容可能で無毒性の賦形剤および持続放出製剤が挙げられる。
【0046】
用量
一つの態様では、2MD化合物は、本発明の活性な医薬成分(API)である。APIは、無害な溶媒中の溶液、好適な溶媒若しくは担体中のエマルジョン、懸濁液または分散液として、経口投与医薬剤形で製剤化される。APIはまた、好適な医薬固形担体を用いる丸薬、錠剤またはカプセル剤などの様々な経口投与剤形で製剤化される。そのような医薬製剤は、他の薬学上好適なUSP承認不活性成分、すなわち、安定化剤、抗酸化剤、結合剤、着色剤、乳化剤、および/または味覚改変剤などの賦形剤を含んでも良い。
【0047】
APIは、経口、局所、非経口若しくは経皮で、または吸入により投与することができる。化合物は、好適な滅菌溶液を用いて注射または静脈内輸液により投与することができる。局所投与剤形は、クリーム、軟膏、パッチ、または経皮および局所投与剤形として適切な同様のビヒクルとすることができる。
【0048】
kg体重当たり0.1μg〜10μg/日の範囲のAPIの投薬が、腎不全/蛋白尿の予防または処置に用いられうる。2MDのすべてのプラスの効果は、血清カルシウムを有意に上昇させない用量レベルで観察される(図4)。そのような投薬および投薬計画は、疾患の深刻度または進展、患者の体質/リスク/感受性および他の既知の基準に合わせて調節され得る。
【0049】
薬学上好適な経口運搬システム(薬剤送達システムとも呼ばれ、薬剤の身体への均一な放出またはターゲッティングを可能とする薬剤製品と共にあるいはその一部として知れ渡る最新の技術である)は、好ましくは、FDA承認および/またはUSP承認の不活性成分を含む。21 CFR 210.3(b)(8)の下では、不活性成分は、薬剤製品の活性成分以外のあらゆる成分である。21 CFR 210.3(b)(7)によれば、活性成分は、医薬活性、または疾患の診断、治療、緩和、処置若しくは予防において他の直接的な効果を成し遂げ、あるいは、ヒト若しくは他の動物の身体の構造や機能に影響を与えることを意図された、薬剤製品のあらゆる成分である。活性成分は、薬剤製品の製造中に化学変化を起こし、かつ、特定の活性または効果を発揮することを意図した改変形態で薬剤製品中に存在するその製品のこれらの成分を含む。本明細書で用いられるように、キット(剤形とも呼ばれる)は、関連した材料のパッケージ化された収集物である。
【0050】
投与
本明細書で用いられるように、経口投与剤形とは、殻と内容物からなる固形経口製剤であるカプセルを含み、殻はシールされた単一の封入物であるか、互いにフィットする2つの半分から構成され、バンドでシールされることもあり、カプセル剤の殻は、ゼラチン、でん粉若しくはセルロースまたは他の好適な材料から作られ、軟らかくても硬くてもよく、注がれるか搾り取られる固形若しくは液体成分で満たされている。経口投与剤形は、カプセルでもコートされたペレットでもよく、薬剤は、硬い若しくは軟らかい可溶性の入れ物、または好適な形態のゼラチンでできた「殻」に封入されている。薬剤そのものは、様々な量のコーティングがなされた顆粒剤の形態であっても、持続放出剤でコーティングされたカプセル剤であってもよく、薬剤は、硬い若しくは軟らかい可溶性の入れ物、または好適な形態のゼラチンでできた「殻」に封入されている。さらに、カプセルは、従前の剤形として存在する薬剤と比べて投薬頻度を少なくとも低減させることを可能とする様式で薬剤を放出するように設計されたコーティングで被覆されていてもよい。
【0051】
経口投与剤形は、さらに徐放カプセルであってもよく、薬剤は好適な形態のゼラチンでできた硬いまたは軟らかい可溶性の入れ物に封入され、投与直後以外の時間に薬剤を放出し、それにより、腸溶性コーティング品は徐放剤形である。薬剤が硬い若しくは軟らかい可溶性の入れ物、または好適な形態のゼラチンでできた「殻」に封入されている持続放出型カプセルペレットは有用である。これらの場合には、薬剤そのものは、腸溶性コーティングされた顆粒剤の形態であり、腸に入り込むまではその薬剤の放出を遅らせている。持続放出型カプセル剤およびフィルムコーティング持続放出型カプセル剤も有用である。
【0052】
さらに、カプセル剤、ゼラチンコーティングカプセル(薬剤が好適な形態のゼラチンでできた、硬いまたは軟らかい可溶性の入れ物に封入された固形剤形;接着工程により、カプセルはさらなるゼラチンの層でコーティングされて完全なシールを形成している。)、および液体充填カプセル(薬剤はソルビトールまたはグリセリンなどのポリオールを添加して可塑化した可溶性のゼラチンの殻に封入され、それゆえに硬い殻のカプセル剤よりも、いくらか粘度が濃い)は、所定のフィルムコーティングで被覆され、従前の剤形として存在する薬剤と比べて投薬頻度を少なくとも低減させることを可能とする様式で薬剤を放出する。
【0053】
一般的に、活性成分は、液体ビヒクルに溶解されているか懸濁されているか、顆粒剤(小粒または結晶粒)、ペレット剤(賦形剤を伴いまたは伴わず、高度に精製された薬剤からなり、顆粒の形成により、または加圧および型押しにより作製される小さな滅菌された固形のかたまり)であり、持続放出型コーティングされたペレット剤(薬剤そのものは、様々な量のコーティングがされた顆粒の形態であり、従前の剤形として存在する薬剤と比べて投薬頻度を低減させることができる様式で薬剤を放出する)である。
【0054】
他の形態としては、丸薬(経口投与のための薬剤を含む、小さな丸い固形剤形)、粉末剤(内部または外部使用のための、乾燥した細かく砕かれた薬剤および/または化学物質の完全な混合物)、エリキシール剤(溶解した薬剤を含む、クリアで好ましい香をつけられ甘くされたヒドロアルコール液体;経口用途である)、チューイングガム(噛むと口腔内に薬剤物質が放出される、様々な形の甘くされ香を付けられた不溶性の可塑性の物質)、シロップ剤(高濃度のショ糖または他の糖類を含む、経口用溶液;この用語は、甘い粘着性のビヒクル中で調製されたほかのいかなる液体剤形をも含んで用いられ、経口用懸濁液を含む)、錠剤(好適な希釈剤を伴う、または伴わない、医薬物質を含む固形剤形)、咀嚼可能な錠剤(好適な希釈剤を伴う、または伴わない、医薬物質を含む、噛むための固形剤形であり、飲み込みやすく、苦いまたは不快な後味を残さず、口腔内に快適な風味を残す)、コーティング錠剤または徐放錠剤、分散性錠剤、発泡性錠剤、持続放出錠剤、フィルムコーティング錠剤、またはフィルムコーティング持続放出錠剤が挙げられ、錠剤は、摂取して長時間後に含有される薬剤が利用可能となる様式で製剤化されている。
【0055】
他の形態では、溶液用錠剤、懸濁液用錠剤、複層錠剤、複層持続放出錠剤が提供され得、錠剤は従前の剤形として存在する薬剤と比べて投薬頻度を少なくとも低減させることができる様式で製剤化されている。口内分解性錠剤、口内分解性遅延放出錠剤、可溶性錠剤、糖コーティング錠剤、浸透性錠剤なども好ましい。
【0056】
経口投与剤形組成物は、活性な医薬成分と、希釈剤、可溶化剤、アルコール類、結合剤、制御放出ポリマー類、腸溶性ポリマー類、崩壊剤、賦形剤、着色剤、着香剤、甘味剤、抗酸化剤、保存剤、色素、添加物、充填剤、懸濁化剤、界面活性剤(例えば、アニオン性、カチオン性、両向性および非イオン性)などの1以上の不活性な医薬成分とを含む。FDA承認の様々な局所用不活性成分は、製造者により具体的に意図される不活性成分を含むFDAの「The Inactive Ingredients Database」に見出され、それにより、不活性成分は、21 CFR 210.3(b)(7)に与えられた活性成分の定義に従えば、ある環境下では活性成分であると考えることもできる。アルコールは、製品製剤によっては活性としても非活性としても考えうる成分の良い例である。
【0057】
本明細書で用いられるように、注射剤および輸液用剤形としては、特に限定されないが、リポソーム注射剤が挙げられ、リポソーム(活性薬剤物質を封入するために用いられるリン脂質から通常構成される脂質二重層のベシクル)からなるか、リポソームを形成する。非経口用途のための滅菌製剤を含み;USPの定義によれば5つの異なる注射剤のクラスが存在する注射剤も好適である。非経口で投与するための滅菌済みの発熱物質フリーの製剤からなるエマルジョンまたは脂質複合体注射剤を含む、エマルジョン注射剤も好適である。
【0058】
他の形態としては、溶液注射用の粉末剤(非経口使用のための溶液を形成するための再構築用の滅菌製剤である);非経口使用のための懸濁液を形成するための再構築用の滅菌製剤である懸濁注射用の粉末剤;リポソーム懸濁液注射用の凍結乾燥粉末剤(再構築の際にリポソーム(資質二重層の内部または水の空間に活性薬剤物質を封入するために用いられる、通常リン脂質から構成される資質二重層のビヒクル)が形成されるような様式で製剤化される非経口使用のための再構成用のための滅菌凍結乾燥製剤);溶液注射用の凍結乾燥粉末剤(凍結乾燥(「フリーズドライ」)、すなわち極度の低圧下にて凍結状態で製品から水分を取り除く工程により調製される水溶液用の剤形である)が挙げられる。
【0059】
これは、注射剤の必要条件にあらゆる点で適合する溶液を作製するために脂質のその後の追加が意図されている;好適な流動性メディア中に懸濁された個体を含み、滅菌懸濁液の必要条件にあらゆる点で適合する、非経口使用が意図された液体製剤である懸濁液注射用の凍結乾燥粉末剤;懸濁液用の薬剤は、凍結乾燥(「フリーズドライ」)、すなわち極度の低圧下にて凍結状態で製品から水分を取り除く工程により調製される;注射に適した好適な溶媒または互いに混合可能な溶媒の混合物に溶解させた1以上の薬剤物質を含む、液体製剤である溶液注射剤;好適な溶媒を追加すると注射剤の必要条件にあらゆる点で適合する水溶液を得る、非経口使用のための滅菌製剤である水溶液濃縮注射剤。
【0060】
懸濁液注射剤は、水相中に分散した油相からなるかその逆であることもできる、溶解しない液相中に分散した固体粒子からなる、注射に適した液体製剤を含んでなる。懸濁リポソーム注射剤は、リポソーム(資質二重層の内部または水の空間に活性薬剤物質を封入するために用いられる、通常リン脂質から構成される資質二重層のビヒクル)が形成される様式で水相中に分散した油相からなる、注射に適した液体製剤を含んでなる。懸濁超音波処理注射剤は、溶解しない液相中に分散した固体粒子からなる、注射に適した液体製剤を含んでなる。さらに、製品は超音波処理され、懸濁液中でガスが泡立ち、その結果固体粒子によって微小球が形成される。
【0061】
非経口輸送システムは、溶媒および補助溶媒、可溶化剤、湿潤剤、懸濁化剤、増粘剤、乳化剤、キレート剤、緩衝剤、pH調整剤、抗酸化剤、還元剤、抗菌剤、保存剤、充填剤、保護剤、浸透圧調整剤、および特定の添加剤などの1以上の医薬上好適な賦形剤を含む。非経口投与に適した製剤は、レシピエントの血液と好ましくは等張である活性成分の滅菌した油性のまたは水性の製剤を含んでなる。
【0062】
本明細書で用いられるように、吸入用剤形としては、特に限定されないが、加圧下でパッケージングされ、皮膚への局所塗布、鼻(鼻用エアゾール)、口(舌および舌下用エアゾール)または肺(吸引エアゾール)内への局所適用を意図した適切なバルブシステムの活性化の際に放出される治療上の活性成分を含む製品であるエアゾール;1以上の活性成分、界面活性剤、水性若しくは非水性液液体および噴射剤を含む剤形であるエアゾールフォーム(ここで、噴射剤が内部(不連続)相(すなわち、水中油型)の場合は、安定な泡が発射され、噴射剤が外部(連続)相(すなわち、油中水型)の場合は、スプレーまたは急速に崩壊する泡が発射される);活性化毎に均一な量のスプレーの放出を可能とする定量バルブからなる加圧剤形である定量エアゾール;加圧下でパッケージングされ、適切なバルブシステムの活性化の際に放出される粉末形態の治療上の有効成分を含む製品である粉末エアゾール;および、圧縮ガスを発射剤として用いて製品を湿ったスプレーとして放出させるに十分な力をもたらすエアゾール製品であり、水性溶媒中の医薬の溶液に適用することができるエアゾールスプレーが挙げられる。
【0063】
本明細書で用いられるように、経皮投与剤形としては、特に限定されないが、体の外部に適用されるのが通常である粘着性の裏張りをしばしば含む薬物送達システムであるパッチ(これにより、パッチのある部分から成分が受動的に拡散または能動的に輸送され、パッチに依存して、成分は体の外表か体内に輸送される);マトリックス、貯蔵、当該技術分野で知られたその他のものなどの、その他の各種経皮パッチを挙げることができる。
【0064】
本明細書で用いられるように、局所投与剤形としては、ローション(エマルジョン液体剤形であり、この剤形は一般的に皮膚への外部的な塗布用である)、補強されたローション(薬剤送達が増強されたローション剤形であり、補強は剤形における薬物の強さを意味するものではない)、ゲル(溶液に硬さまたはコロイド分散を与えるためのゲル化剤を含む半固形剤形であり、ゲルは懸濁した粒子を含んでいてもよい)および軟膏(ビヒクルとして通常20%未満の水分および揮発性物質および50%を超える炭化水素、ワックスまたはポリオールを含む半固形剤形であり、この剤形は一般的に皮膚や粘膜への外部的な塗布用である)などの当該技術分野で知られた様々な剤形を挙げることができる。
【0065】
補強された軟膏(薬物送達が増強された軟膏剤形であり、補強は剤形における薬物の強さを意味するものではない)、クリーム剤(通常20%を超える水分および揮発性物質および/または50%未満の炭化水素、ワックスまたはポリオールを含むエマルジョン半固形剤形をビヒクルとして用いてもよく、この剤形は一般的に皮膚または粘膜への外部的な塗布用である)。補強されたクリーム剤(薬物送達が増強されたクリーム剤形であり、補強は剤形における薬物の強さを意味するものではない)、乳剤(少なくとも2の不混和性液体からなり、そのうちの一つは、他方の外相または連続相の液体中で液滴、内相または分散相として分散し、一般的には1以上の乳化剤で安定化された二相系からなる剤形であり、エマルジョンは、具体的な用語(例えばクリーム、ローション、軟膏)が適用できないときに剤形の用語として用いられる)、懸濁剤(液体ビヒクル中に分散した固形粒子を含む液体剤形)、持続放出型懸濁剤、ペースト剤(脂肪酸ビヒクル中に細かく分散した固形物を大量(20〜50%)に含む半固形剤形であり、この剤形は一般的に皮膚または粘膜への外部的な塗布用である)、溶液(溶媒中または相互に混ざり合う溶媒の混合物中に溶解した1以上の化学物質を含む、澄んだ均一な液体剤形)、および粉末剤も好適である。
【0066】
シャンプー(髪や頭皮を洗浄するために通常用いられる石鹸または界面活性剤を有するローション剤形)が皮膚科学的薬剤のビヒクルとしてしばしば用いられる。例えば、シャンプー懸濁剤(髪や頭皮を洗浄するために用いられ、皮膚科学的薬剤のビヒクルとしてしばしば用いられる液体ビヒクルに分散した1以上の固形の不溶性物質を含む液体石鹸または界面活性剤)がしばしば用いられる。エアゾールフォーム(すなわち、1以上の活性成分、界面活性剤、水性または非水性液体および噴射剤を含む剤形;噴射剤が内部の不連続相、すなわち水中油型の場合は、安定した泡が発射され、噴射剤が外部の連続相、すなわち油中水型の場合は、スプレーまたは急速に崩壊する泡が発射される)、スプレー(空気や蒸気のジェットにより細分化された液体)、定量スプレー(各活性化の際に特定量のスプレーを投与できるバルブからなる非加圧化剤形)、および懸濁スプレー(局所的に、最も一般的には咽頭鼻管に、または皮膚に局所的に塗布されるための、液体ビヒクル中にきめの粗い液滴の形態でまたは細分化された固体として分散した固形粒子を含む液体製剤)もまた、好適である。
【0067】
ゼリー(ゲルの一つの分類であり、液体が深く浸透した小さな無機粒子であるか大きな有機分子から形成される懸濁液からなる半固形システムであり、構造的に凝集したマトリックスが大量の液体、通常は水分を含んでいる)および、持続放出型フィルム(血中または標的組織中の薬剤レベルが一定に保たれるように長期にわたり薬剤を放出するフィルム形態の薬剤送達システム)および可溶性フィルム(液体に接触すると溶解しやすい薄層またはコーティング)を含む、フィルム(薄層またはコーティング)、例えば、もまた、好適である。
【0068】
スポンジ(薬剤を含む、ポーラスで織り交ぜられた吸収性のマテリアルであり、一般的には塗布または導入薬物治療、あるいは浄化に用いられ、また、スポンジは通常その形態を保つ)、消毒綿(薬剤を含む、比較的平らで小さな吸収性のマテリアルであり、消毒綿は小さな棒の一端に付着させてもよく、消毒綿は一般的に薬物治療の適用または浄化に用いられる)。
【0069】
パッチ(一般的に身体の外部に適用される粘着性の裏張りをしばしば含む薬剤送達システムであり、これにより、その成分がパッチの一部から受動的に分散し、あるいは能動的に輸送され、それにより、パッチに依存してその成分が身体の外表または体内に送達され、かつ、それによりパッチはしばしば「持続放出型フィルム」または「システム」と同義である)、持続放出型パッチ(従来の剤形、例えば、溶液または即効性薬剤放出型の従来の固形剤形として存在する薬剤と比べて、投与頻度を低減するように薬剤を放出するパッチの形態の薬剤送達システム)、電子的に制御された持続放出型パッチ(従来の剤形、例えば、溶液または即効性薬剤放出型の従来の固形剤形として存在する薬剤と比べて、投与頻度を低減するように薬剤を放出する電流により制御されるパッチ形態の薬剤送達システム)など。様々な局所投与剤形がまた、即効性放出剤、制御放出剤、持続放出剤などとして製剤化される。
【0070】
局所投与剤形組成物は、活性医薬成分と、賦形剤、着色剤、色素、添加剤、充填剤、軟化剤、界面活性剤(例えば、アニオン性、カチオン性、両向性および非イオン性)、透過促進剤(例えば、アルコール類、脂肪族アルコール類、脂肪酸類、脂肪酸エステル類およびポリオール類)などの1以上の不活性医薬成分とを含む。様々なFDA承認の局所用不活性成分は、製造者により明確に不活性成分と意図する成分を含むFDAの「The Inactive Ingredients Database」に見いだされ、不活性成分は21 CFR210.3(b)(7)による活性成分の定義によれば、ある環境下では活性成分と考えることもできる。アルコールは、製品製剤により、活性であるとも不活性であるとも考えられる成分の良い例である。
【0071】
多くの態様が開示されているが、本発明の他の態様もまた、以降の詳細な説明により当業者に明らかとなるであろう。本発明は、本発明の精神及び範囲を離れることなく、様々な自明な点で改変が可能であるが、そのこともまた明らかであろう。従って、本発明の新しい方法の詳細な説明は、本質的に例示として考えられるべきものであって、制限的なものではないと考えられるべきものである。
【実施例】
【0072】
続く実施例は当然、例示の目的のためだけに提示されるのであって、いかなる意味でも本発明の範囲を制限することを意図したものではない。事実、本明細書で示され、記載されたものに加えて、本発明の様々な改変が、続く説明や続く実施例から当業者に明らかとなるであろうし、特許請求の範囲に含まれるであろう。
【0073】
要するに、下記の実施例は、当初骨粗しょう症の予防および処置に重要であると考えらえられてきた1,25−(OH)の類似体である2MDが、腎疾患の進展を遅延させおよびその症状を処置するのにも重要であることを示している。腎臓の5/6を外科的に摘出したラットで行われた研究は、毎日の2MDの経口処置により、ビヒクル対照動物と比べて、リン、クレアチニン、尿容積およびタンパク質排出、つまり腎不全のすべての指標である、のレベルを低下させることを示した。さらに、この化合物は、血清カルシウムを上昇させない用量レベルで、全体的な生存率の増加、骨密度の増加、PTHレベルの低下をもたらす。I型糖尿病腎症の2番目の動物モデルでは、尿毒症ラットモデルで得られた結果が確認された。餌中に2MDを与えられたマウスは、全尿中タンパク質排出および前尿容積の排出量に顕著な改善が見られた。
【0074】
実施例1:方法と材料
マウス 本研究に用いたマウスはすべて、The Jackson Laboratory社から直接購入したか、購入された起源を有し、ケージ内で飼育されたメスMRL/MpJ−Faslpr/Jマウスであった。各研究に用いたすべてのマウスは、週齢を合わせられた。すべての動物の取り扱いは、ウィスコンシン大学マジソン校動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)の承認を受けた実験計画A1205に従って行われた。離乳から、メスのマウスは、処置開始までは2MDを含まず0.47%のカルシウムを含む精製された餌の上に乗せられた。この精製された粉末の餌は、寒天の形態で調製され、1週間に3回与えられた。2MDは、マウス当たり5gの一日餌消費に基づき、餌を通して与えられた。水分は自由に与えられた。血液は、イソフルラン麻酔の下、後眼窩血液採取法により採取された。血清は、血液サンプルから単離され、凍結させた後に、ベンチトップの臨床化学分析器(Pentra400、ホリバABX社製)を用いて解析された。臓器の写真は、24−105mmレンズを装着したCanon EOS 5D DSLRを用いてRAWフォーマットで取られた。
【0075】
5/6腎摘出ラットモデル 疾患の誘発。離乳したオスのSprague−Dawleyラットは、ハルラン社(マジソン、MI)から得た。10〜13日の順化に続き、動物は一方の腎臓の2/3を摘出された。1週間後、もう一つの腎臓全体が摘出された。その後、動物は、通常の餌から、0.6%Ca、0.9%リン並びに脂溶性ビタミンA、D、EおよびKを含む、精製されたげっ歯類の餌(Suda et al, Purified Rodent Diet-Diet 11)に変えた。水分および餌は自由に与えられた。
【0076】
動物管理 動物は、トウモロコシ穂軸の下地の宙づりのプラスチック製靴箱スタイルのケージ内で(術前)、またはステンレス製の針金底のケージ内で(術後約1週間)飼育した。動物室は、華氏68〜72度の温度、および相対湿度25〜75%に維持した。待機室は、一日12時間の照明が提供されるように設定された。
【0077】
処置群 2回目の手術の約4週間後に動物は、各群が同一の平均PTHレベルを有するように、処置群(14〜15動物/群)に割り当てられた。
【0078】
用量製剤(ビヒクル製剤) 負の対照のマテリアルは、体積測定されたエタノール(5%)とネオビー(Neobee)油により調製し、混合させて、その後、2〜8℃で保存庫に置かれた。
【0079】
用量製剤(2MD製剤) 2MD製剤(DP001、Sigma Aldrich Fine Chemicals社製、マジソン、WI)は、最初に、UV分光器(透過係数=42,000;λmax=252nm)を用いてエタノール保存溶液の濃度を測定することにより調製した。溶液は、その後、最終溶液においてエタノールが5%を超えないように、ネオビー油に体積測定により加えられた。必要に応じて、追加のエタノールを加えて最終エタノール量を5%とした。溶液は混合され、2〜8℃で保存された。
【0080】
用量投与方法 ビヒクルおよび2MDの両方が、0.5mL/kg体重で、8週間にわたり1日1回舌の裏に経口投与された。
【0081】
血清副甲状腺ホルモン(PTH)レベル 「血清PTHレベル」とは、副甲状腺により放出されるPTHの量を意味する。PTHは、体のカルシウムおよびリンレベルのもっとも重要な調整因子であり、血中のカルシウムレベルによって制御されている。血中カルシウムレベルが低下すると、放出されるPTHは増加するが、血中のカルシウムレベルが増加するとPTH放出は抑制される。正常値は、1ミリリットル当たり10〜55ピコグラム(pg/mL)である。手術の4週間後、並びに処置開始4および8週間後に、血液は、尾動脈から採取され、生理活性血清PTHの濃度は、Immutopics社製(サンクレメンテ、CA)のラットBioActive Intact PTH ELISA Kitを用いて測定した。
【0082】
血清カルシウム分析 手術に続く4週間、並びに処置開始4および8週間後に、血液が各実験動物の尾動脈から採取された。血液を室温で凝固させ、その後、3000×gで15分間遠心分離した。血清は、ポリプロピレンチューブに移され、−20℃で凍結保存された。カルシウムレベルは、0.1%塩化ランタンに血清を希釈し、原子吸光分析計(パーキンエルマー モデル3110、シェルトン、CT)で吸光度を測定することにより、測定された。
【0083】
リン分析 手術4週間後、並びに処置開始8週間後に、血液が各実験動物の尾動脈から採取された。血液を室温で凝固させ、その後、3000×gで15分間遠心分離した。血清は、ポリプロピレンチューブに移され、−20℃で凍結保存された。リンレベルは、臨床分析器(Pentra400、ホリバABXダイアグノスティックス社製、フランス、リンモリブデン酸塩を用いたUV法)を用いて測定した。
【0084】
クレアチニン分析 血清クレアチニンレベルの測定は、腎不全を評価する、有用で安価な方法である。クレアチニンは、骨格筋組織によるクレアチニンリン酸代謝物の非タンパク質性老廃物である。クレアチニン産生は連続的であり、筋量に比例する。クレアチニンは、障害なしに濾過され、従って、血清クレアチニンレベルは糸球体濾過率(GFR)に依存する。腎不全は、クレアチニンの濾過能力を縮小し、血清クレアチニンは上昇する。血清クレアチニンレベルが2倍のとき、GFRは半分であったと考えられる。3倍の上昇は、腎機能の75%の欠失を反映すると考えられる。
【0085】
以下の実施例では、血清クレアチニンレベルは、手術後4週間、および処置開始8週間後に評価された。血液は、各実験動物の尾動脈から採取された。血液を室温で凝固させ、その後、3000×gで15分間遠心分離した。血清は、ポリプロピレンチューブに移され、−20℃で凍結保存された。クレアチニンレベルは、腎機能の障害および慢性腎炎の指標であり、臨床分析器(Pentra400、ホリバABXダイアグノスティックス社製、フランス;ヤッフェ(Jaffe)反応)を用いて測定された。本発明の一つの態様では、約30%の血清クレアチニンレベルの減少が、本発明の方法による処置の後に期待される。
【0086】
蛋白尿測定 蛋白尿測定は、半定量計量棒(Combistix、バイエル社製)を用いてきれいな表面上で、スポット尿分析のために膀胱に緩やかな圧力を加えることにより測定した。マウスは、尿タンパク質排出量が100mg/dL以上であるときに蛋白尿を有すると決定された。尿は、代謝ケージに動物を入れて、24時間の採取を2回行うことにより採取した。全タンパク質は、Bradfordアッセイを用いて測定した(MM Bradford, Analytical Biochemistry 72: 248-254, 1976)。
【0087】
組織学 腎臓の半分が、冷却した亜鉛ホルマリン固定液で保存され、パラフィンに包埋され、4μm厚の切片にされた。ヘマトキシリン・エオシン(H&E)およびマッソンゴールドナー(Masson-Goldner)の三重染色が、腎臓サンプル間の組織学的な差異を研究するために用いられた。フォン−コッサ(Von Kossa)染色が、心臓へのカルシウム沈着を測定するために、心臓切片(上記のように処理された)全体に行われた。切片作成と染色は、ウィスコンシン大学マジソン校のMcArdle Histology Laboratoryにより行われた。図面の顕微鏡写真は、オリンパスBH−2顕微鏡およびニコンCoolpix990デジタルカメラにより取られた。
【0088】
実施例2:I型糖尿病腎症のNODマウスモデル
疾患の誘発 NODマウス(増殖用ペア)は、JAX laboratories社(Bar Harbor、ME)から得た。離乳したマウスを餌(5K52 Lab Diets)または精製した餌(Suda et al., Purified Rodent Diet-Diet 11)上に置き、自発的に糖尿病(2回の連続した測定で血漿グルコースが250mgを超える)を発症させた。水分と餌は自由に与えられた。
【0089】
動物管理 動物はトウモロコシ穂軸の下地のオートクレーブしたプラスチック製靴箱スタイルのケージで2〜4動物/ケージの群で飼育した。マウスが糖尿病と確認されると、ケージは毎日交換された。動物室は、華氏68〜72度の温度および相対湿度25〜75%に維持された。待機室は、一日12時間の照明が提供されるように設定された。
【0090】
処置群 マウスは、尿のグルコースの上昇(2000mgを超える;計量棒)を週に2回検査した。尿検査が陽性の場合は、翌日に空腹時血糖を行った(分光計またはグルコメーター)。陽性の場合は、2回目の血糖検査を確認のために行った。動物が糖尿病であると決定されたら、動物は、各群が登録時に同一の平均血漿グルコースレベルを有するように、処置群(6〜12/群)に割り当てられた。処置は餌中に経口で提供された。
【0091】
餌の調製 負の対照の餌は、体積測定したエタノール(餌の0.1%)および大豆油(餌の2%)により調製され、ボルテックスにかけて、その後、餌の半分に加えて20分混合し、その後、残りの餌に加えた。2MDを含む餌は、最初に、UV分光器(透過係数=42,000;λmax=252nm)を用いてエタノール保存溶液の濃度を測定することにより調製した。溶液はその後、最終溶液中のエタノールが0.1%を超えないように、体積測定されて大豆油に加えられた。必要に応じて、追加のエタノールを加えて最終エタノール量を0.1%にした。エタノールおよび油溶液は、ボルテックスにかけ、餌の半分に加え、20分間混合してその後、残りの餌を加えて、さらに20分間混合した(図5)。
【0092】
実施例3:蛋白尿の発症は2MDにより防がれる
本実施例では、本発明者らは、NODマウスの蛋白尿発症を防ぐことに対する2MDの効果を示す。
【0093】
本発明者らは、下記のいずれかを引き起こす2MDの容量を選択した:1)重大な高カルシウム血症(〜11〜12mg/dLまたは対照群を△〜1.5〜2.5mg/dL超える);2)温和(〜10〜11mg/dLまたは対照群を△〜0.7〜1.5mg/dL超える)に血清カルシウムレベルを上昇させる;または、3)血清カルシウムレベルの上昇がほとんどない(〜10mg/dLまたは対照群を△0.5mg/dL超える;図6A)。2MDは、用量依存的に蛋白尿を防ぐのに効果的であり、5ngの2MD/マウス/日の用量で蛋白尿が完全に防がれた(300ngの用量の1,25(OH)と比べて;図6B)。蛋白尿を防ぐことに加えて、1ngの2MD処置は、蛋白尿の発症の平均時間を遅延させた(図6C)。マウスの成長は、5ngの2MD処置で悪影響を受け、0.5および1ngの2MD処置で成長へのわずかな影響が観察された(図6D)。5ngの2MD処置群は、手入れのなされていない毛皮および神経質を含む高カルシウム血症の症状を有し、嗜眠および病的状態はいずれの2MD用量群においても観察されなかった。
【0094】
蛋白尿の完全な予防が観察された1,25(OH)または2MDによるMLR/lprマウスの処置において、高カルシウム血症のレベルに有意な差異があった。300ngの1,25(OH)が血清カルシウムを、維持される〜13mg/dLに上昇させるのに対して、5ngの2MDは、血清カルシウムを最も高い測定点で12.4mg/dLおよび研究終了時で10.9mg/dLに上昇させただけであった(図6A)。この証拠は、蛋白尿の予防(およびLNの緩和)は、主にはホルモン(または類似体)によるものであることを示唆する。この仮説は、150ngの1,25(OH)(血清カルシウムレベルを〜12mg/dLに上昇させる)の高カルシウム血症の効果を、2MD(血清カルシウムレベルは研究を通じて生理学的に正常な範囲である)と比べると、より強化される。両方共が、蛋白尿の発症の低減には同等の効能を示した(12〜25%の発症)が、体重減少を含む高カルシウム血症およびその関連する効果は1ngの2MD群において有意に小さかった。
【0095】
実施例4:糸球体損傷は2MDにより防がれる
本実施例では、本発明者らは、糸球体損傷は治療上有効量の2MDの投与により防がれることを示す。
【0096】
対象群および5ngの2MD群からの腎臓を回収し、組織学的分析のために染色した。最も際立った特徴は、2MD処置により防がれた(図7EおよびF)糸球体損傷が対照で観察された(図7AおよびB)ことであった。対照の腎臓は、糸球体硬化症、繊維症、基底膜肥厚および糸球体間質の増殖を示した(図7B)。2MD処置の腎臓は、これらの特徴はほとんどあるいは全く有さなかった(図7E)。処置により、尿細管間質浸潤の顕著な低減と血管周囲の浸潤のわずかな低減もあった。間質性繊維症が、対照および2MDの腎臓の両方で存在したが(図7CおよびF)、繊維症の染色の程度は、処置群において有意に低かった。おそらくもっとも勇気づけられる発見は、2MDで処置したマウスの腎臓および心臓において高カルシウム血症の痕跡がなかったことである。
【0097】
対照群と5ngの2MD処置群との間には腎臓の組織学に明確な変化があった。糸球体損傷は、LNにおける主要な要因であり、下流の様々な炎症事象が糸球体損傷により引き起こされる。糸球体間質のケモカイン排出および近位尿細管のタンパク質の過剰負荷の刺激が、糸球体免疫複合体沈着および続く炎症により引き起こされる腎損傷を悪化させ得る。LNの病因における枢要な因子である糸球体の破壊を予防することにより、正常な腎機能が保持され、蛋白尿が予防される。白血球の間質浸潤は、2MD処置で実質的により少なく、血管周囲の浸潤も顕著に減少した。これは、糸球体損傷の予防まで遡るケモカインシグナリングの減少に由来し得る。細胞浸潤の減少は、本発明者らが以前観察したものとは異なる。これは、この実験で用いたマウスの特定の系統、MRL/MpJ−Faslpr/Jのためであり、この系統はMRL/MpJ−Faslpr/2J系統が徐々に急速な攻撃的な疾患を発症する能力を失うために、凍結保存からリカバリーさせたものである。
【0098】
LN治療法の開発の点で最も重要な組織学的発見は、2MD処置マウスの腎臓および心臓において石灰沈着産物がなかったことである。300ngの1,25(OH)は、蛋白尿の予防において5ngの2MDと同等程度に有効であったが、1,25(OH)処置群の腎臓には腎構造中にカルシウム血症が見られた(データ非掲載)。高カルシウム血症および関連した損傷の副作用の低減と組み合わさった2MDの能力の増加は、2MDをLN処置の開発の前途有望な候補とする。
【0099】
実施例5:巨脾腫は2MD処置で減少する
本実施例では、本発明者らは、本発明の方法によれば巨脾腫が処置で減少することを示す。
【0100】
5ngの2MDは、0ngの対照群と比べて、有意に巨脾腫を減少させた。対照群の体重と比べると体重の減少を伴ったが、5ngの2MDマウスは、視覚的(図8A)にも重量測定(図8B)をした場合でも、さらには、体重で標準化(図8C)した場合でも、脾臓が小さかった。蛋白尿の発症で見られた2MDの用量依存的効果とは異なり、巨脾腫の減少は、5ngの2MD処置群でのみ観察され、顕著な高カルシウム血症を伴った。組織学によれば、MRL/lprマウスの巨脾腫は乱れた白色髄質構造を生じたが(図8E)、5ngの2MD処置は非疾患マウスで通常みられる鞘様構造を保つのを助けていた。
【0101】
300ngの1,25−(OH)および2MDの研究では、最も深刻な高カルシウム血症を有する最大用量群のみが、体重で標準化した脾臓重量の統計学的に有意な減少を示した。加えて、300ngの1,25−(OH)群は、5ngの2MD群よりも高い血清カルシウムレベルを生み出し、脾臓重量のより大きな減少をも生み出し、5ngの2MD処置で見られるよりも正常な脾臓の組織学を良好に保持した(図8E)。1日150ngの用量の1,25−(OH)は、5ngの2MD処置で達成されたよりも脾臓重量が減少した。これらの結果は、血清カルシウムレベルの上昇は、MRL/lprマウスでの巨脾腫の減少に需要な役割を果たしていることを示唆する。
【0102】
上記の説明、添付した図面およびその説明は例示を意図したものであって、本発明を限定することを意図したものではないことに注意すべきである。本発明の多くのテーマおよび変更が、これおよび開示に照らして当業者に示唆されるであろう。そのようなテーマおよび変更は、これに関する期待の範囲内である。例えば、本発明は、上記で概説した様々な例示的態様と結びつけて記載されてきたが、様々な代替法、改変、変更、改良および/または実質的に同等のものが、知られているかどうか、稀かどうか、または現在予期できないかを問わず、通常の技術力を少なくとも有する者に明白になるであろう。様々な変更が本発明の精神および範囲から逸脱せずになされ得る。従って、本発明は、すべての既知の、若しくは後に開発される、これらの例示的態様の代替法、改変、変更、改良および/または実質的に同等のものを含むことが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎疾患を発症するリスクを有する対象において腎疾患を予防する方法であって、治療上有効量の2−メチレン−19−ノル−20(S)−1,25−ジヒドロキシビタミンDまたはその薬学上許容される塩を、腎疾患を予防するその対象に高カルシウム血症を誘発させることなく、投与することを含んでなる、方法。
【請求項2】
腎疾患が、ループス腎炎である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2−メチレン−19−ノル−20(S)−1,25−ジヒドロキシビタミンDが、経口、局所、経皮、非経口、注射または輸液の剤形で製剤化される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
治療上有効量が、kg体重当たり約0.001μg/日〜約5μg/日の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
腎疾患の症状を発症するリスクを有する対象において腎疾患の症状を予防する方法であって、治療上有効量の2−メチレン−19−ノル−20(S)−1,25−ジヒドロキシビタミンDまたはその薬学上許容される塩を、腎疾患の症状を予防するその対象に高カルシウム血症を誘発させることなく、投与することを含んでなる、方法。
【請求項6】
腎疾患が、ループス腎炎である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
腎疾患の症状が、蛋白尿、糸球体損傷および巨脾腫からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
腎疾患の症状を有する対象において腎疾患の症状を処置する方法であって、治療上有効量の2−メチレン−19−ノル−(20s)−1α25−ジヒドロキシビタミンD(2MD)またはその薬学上許容される塩を、腎疾患の症状を処置するその対象に高カルシウム血症を誘発させることなく、投与することを含んでなる、方法。
【請求項9】
腎疾患が、ループス腎炎である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
腎疾患の症状が、蛋白尿および巨脾腫からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
2MDの治療上有効量が、kg体重当たり約0.001μg/日〜約5μg/日の範囲である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
2MDの治療上有効量が、kg体重当たり約0.01μg/日〜約1μg/日の範囲である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
2MDの治療上有効量が、kg体重当たり約0.025μg/日〜約0.3μg/日の範囲である、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−501049(P2013−501049A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523654(P2012−523654)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/043551
【国際公開番号】WO2011/017165
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(591057706)ウィスコンシン・アルムニ・リサーチ・ファウンデーション (26)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】