説明

腎疾患の検出方法

【課題】本発明は、初期の腎臓疾患を検出するとともに腎臓疾患の進行度を同定するための、哺乳動物の腎臓疾患の新規診断マーカーおよびそれを用いた方法、並びにそれを用いた検出キットを開発することを課題とする。本発明はさらに、哺乳動物の腎臓疾患に関して、腎臓疾患の類症鑑別を迅速かつ簡便に行うための、新規診断マーカーおよびそれを用いた方法、並びにそれを用いた検出キットを開発することを課題とする。
【解決手段】本発明者は、尿中の炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)-VI(CA-VI)アイソザイムタンパク質の存在を検出するかまたは定量することにより、上述した課題を解決することができることを明らかにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎疾患、特に間質性腎疾患の検出方法を適用することに関するものである。さらに具体的には、尿中の特定のタンパク質(アイソザイム)を検出することにより、腎疾患、特に間質性腎疾患の検出方法を適用することに関するものである。
【背景技術】
【0002】
腎臓は、糸球体とそれに連なる尿細管からなるネフロンが、多数集合することにより構成されている。この構造的な特徴を利用して、腎臓ではまず、血液中の老廃物が糸球体で濾過され、老廃物を含む原尿はその後、尿細管を通過しながら尿細管再吸収と尿細管分泌を受ける。その後、集合管に集まり、腎盂を経由して、最終的に膀胱へと到達する。腎臓においては、体内の血液や体液の水分量や電解質の調節、血圧の調節、老廃物の除去の他にも、造血ホルモン(エリスロポエチン)や、活性型ビタミンDを合成・分泌する作用を有する。このように、腎臓は体内の恒常性を維持するために重要な役割を果たしているため、いったんその機能が低下すると、致死的な状況を招きかねない。
【0003】
腎臓の主要な機能は、血液を含む体液の量と質を一定に保つことである。腎臓がこのような機能を正常に果たしているか否かは、機能しているネフロンの割合を調べることによって明らかにすることができる。臨床検査の分野においては、糸球体から濾過されて尿中に排泄される老廃物の血中濃度、例えば、血中尿素窒素(BUN)濃度、血中クレアチニン(Cre)濃度を測定することや、尿中のタンパク質濃度を測定することが一般的に行われている。
【0004】
しかしながら、血中BUN濃度や血中Cre濃度の検査結果は、腎不全の診断マーカーとして用いられているものの、実際には単に糸球体での濾過障害マーカーと考えられており、腎臓疾患を検出するための一次的な検査手段としては、十分なものではない。すなわち、血中BUN濃度の測定値は、タンパク質の摂取量の相違や脱水状態(水分摂取量の変化、下痢など)によっても大きく変化しやすく、腎機能の状況を正確には反映しにくいという欠点を有する。また、血中Cre濃度は、尿細管でのクレアチニン再吸収もあまり受けないため比較的安定した数値を示すため、糸球体濾過値の指標として有用であるものの、血中クレアチニン濃度は、機能しているネフロンの数が1/2〜1/3にまで減少しないと異常値を示さないという欠点を有している。そのため、外見上は腎疾患の症状が実際に見られるにもかかわらず、血液検査では正常値を示す場合がある。このことはすなわち、血液検査によって血中クレアチニン濃度の上昇が見られ、腎臓の疾患が推定された時には、既に腎臓の障害が進行した状態である場合があることを意味している。さらに、クレアチニン濃度は腎疾患がなくても筋肉量の大小によって変化し、筋肉に傷害があると血液中や尿中で高値を示すという点も、腎疾患の判定を行う際には欠点となる。
【0005】
また、腎臓機能の低下を伴う腎臓の疾患は、傷害される部位によって糸球体腎炎や間質性腎炎などに分類されており、血液検査の結果からは、糸球体腎炎しか検査の対象にならないという欠点も存在していた。そして、検尿により多量の尿タンパク質が検出された場合は、糸球体を濾過した血漿タンパク質が尿細管において再吸収されないからと理解されているが、濾過量が急増して再吸収が間に合わない場合もあり、濾過障害と再吸収障害との判別は不可能である。また、ブタなどは膀胱炎でも尿中のタンパク質は増加する。
【0006】
さらに、ネコやイヌでは、これらの検査方法では、腎臓疾患を診断することができない症例が多く見られることが、経験的に知られている。
このような血液検査や尿検査の欠点を補完する目的で、例えば、超音波検査等の画像診断や、腎生検などの組織学的検査が行われる。しかしながら、これらの疾患は、外見的な症状が出ていたり、血液検査や尿検査の結果腎臓の疾患が疑われる場合に行われる二次的な検査に過ぎず、上述した血液検査や尿検査などの一次的な検査の欠点を補うことはできない。
【0007】
炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)-VI(CA-VI)アイソザイムは、唾液腺で合成され、唾液中に分泌される炭酸脱水酵素アイソザイムの一つであり、分子量380000の大型の分子である。このCA-VIアイソザイムは、唾液中の重炭酸塩濃度を維持し、そして上部消化管の酸性度を低下させて酸による損傷を防止する機能を有する。哺乳動物において、CA-VIアイソザイムの組織分布を調べたところ、唾液腺、唾液、肝臓、膵臓、乳腺、乳汁、胆嚢、胆汁、腎臓など、幅広い組織に局在し、体液中では唾液、乳汁、胆汁に存在していることが明らかになった(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。CA-VIアイソザイムタンパク質は血漿タンパク質ではなく、高分子のタンパク質でもあるから、例え唾液腺が傷害を受けても腎臓の糸球体から濾過されて尿中に出ることは考えられない。
【非特許文献1】Asari M., et al., Cells Tissues Organs, 167, 18-24, 2000
【非特許文献2】Nishita T., et al., J. Vet. Med. Sci., 63, 1147-1149, 2001
【非特許文献3】Kasuya T., et al., Anat. Histol. Embryol., 36, 53-57, 2007
【非特許文献4】Gailly, P., et al., Kidney Int., 74, 52-61, 2008
【非特許文献5】Nishita, T., et al., Am. J. Vet. Res. 63, 229-235, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、初期の腎臓疾患を検出するとともに腎臓疾患の進行度を同定するための、哺乳動物の腎臓疾患の新規診断マーカーおよびそれを用いた方法、並びにそれを用いた検出キットを開発することを課題とする。本発明はさらに、哺乳動物の腎臓疾患に関して、腎臓疾患の類症鑑別を迅速かつ簡便に行うための、新規診断マーカーおよびそれを用いた方法、並びにそれを用いた検出キットを開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、一態様において、尿中の炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)-VI(CA-VI)アイソザイムタンパク質の存在を検出することを含む、間質性腎疾患の検出方法を開発することにより、上述した課題を解決することができることを明らかにした。
【0010】
本発明者は、別の態様において、尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質の存在、並びに血液中のBUNおよび/またはCreの存在を検出することによる、間質性腎疾患の進行度の同定方法を開発することにより、上述した課題を解決することができることを明らかにした。
【0011】
本発明者は、さらに別の態様において、尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質の濃度、並びに血液中のBUN濃度および/またはCre濃度を比較することによる、間質性腎疾患と糸球体腎疾患の判別方法を開発することにより、上述した課題を解決することができることを明らかにした。
【0012】
本発明者は、さらに別の態様において、尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質が陽性であり、血液中のBUNおよび/またはCreが陰性である場合に、間質性腎疾患であると判定する、請求項6に記載の判定方法を開発することにより、上述した課題を解決することができることを明らかにした。
【0013】
本発明者は、さらに別の態様において、抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体を含む、間質性腎疾患の検出キットを開発することにより、上述した課題を解決することができることを明らかにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、初期の腎臓疾患を検出するとともに腎臓疾患の進行度を同定するための、哺乳動物の腎臓疾患の新規診断マーカーおよびそれを用いた方法、並びにそれを用いた検出キットを開発することができるとともに、哺乳動物の腎臓疾患に関して、腎臓疾患の類症鑑別を迅速かつ簡便に行うための、新規診断マーカーおよびそれを用いた方法、並びにそれを用いた検出キットを開発することができた。
【発明の実施の形態】
【0015】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、尿中の炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)-VI(CA-VI)アイソザイムタンパク質の存在を検出することにより、初期の間質性腎疾患を検出すること、そして間質性腎疾患の進行度を同定することができることを明らかにした。
【0016】
炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)-VI(CA-VI)アイソザイムは、唾液腺で合成され、唾液中に分泌される炭酸脱水酵素アイソザイムの一つであり、分子量380000の大型の分子である。哺乳動物において、CA-VIアイソザイムは、唾液腺、唾液、肝臓、膵臓、乳腺、乳汁、胆嚢、胆汁、腎臓など、幅広い組織に局在し、体液中では唾液、乳汁、胆汁に存在していることが明らかになった。
【0017】
この知見に基づいて、CA-VIアイソザイムタンパク質の腎臓における組織分布をさらに詳細に検討したところ、腎臓の尿細管の遠位尿細管と集合管に局在していることが明らかになった。そこで、尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質を定量したところ、尿中においても、CA-VIアイソザイムタンパク質が存在することがわかった。そして、臨床的に腎疾患の症状が実際に見られる動物個体の尿中に、臨床的に腎疾患の症状が実際に見られない個体の尿中よりも有意に高いCA-VIアイソザイムタンパク質が存在していることが明らかになった。CA-VIアイソザイムタンパク質は血漿タンパク質ではないし、高分子のタンパク質でもあるから例え唾液腺が傷害を受けても腎臓の糸球体から濾過されて尿中に出ることは考えられない。
【0018】
この結果に基づいて、本発明において、尿中の炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)-VI(CA-VI)アイソザイムタンパク質の存在を検出し定量することを含む、間質性腎疾患の検出方法を提供する。ここで、間質性腎疾患という場合、ネフロンや血管の間を取り巻いて埋めている構造である間質に炎症を生じた状態のことをいい、例えば、間質性の腎炎、腎不全、Dent病などの尿細管病変を伴う疾患を例示することができる。
【0019】
尿サンプル中のCA-VIアイソザイムタンパク質の存在を検出するためには、抗原-抗体反応を使用して抗原の検出・定量を行うために使用される当該技術分野において既知の方法であればいずれの方法であっても使用することができ、例えばウェスタンブロット法、イムノクロマト法、競合的反応型ELISA法やサンドイッチ型ELISA法などのELISA法、プロテインチップ法、マンシーニー法などを使用することができる。
【0020】
本発明において使用することができる抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体はともに、生体組織(例えば唾液腺)からCA-VIアイソザイムタンパク質を精製し、この精製CA-VIアイソザイムタンパク質を免疫原として使用して、当該技術分野においてよく知られている方法に従って、免疫動物(たとえばポリクローナル抗体の場合にはヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラットなど、また、モノクローナル抗体の場合にはマウス、ラットなど)に投与し、体内において抗体を産生させる。ポリクローナル抗体の場合には、免疫動物の血清、または血清から精製した免疫グロブリンを使用できる。一方、モノクローナル抗体の場合には、CA-VIアイソザイムタンパク質で免疫したマウスやラットなどの脾臓由来のプラズマ細胞をミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマ細胞を作製し、そのなかからCA-VIアイソザイムタンパク質と反応する抗体を生産するクローンを選択して得ることができる。通常は、このようにして調製したハイブリドーマをマウス腹腔に注射し、腹水中に蓄積されたモノクローナル抗体を精製することにより、モノクローナル抗体を得ることができる。またハイブリドーマ細胞を無血清培地で培養し、その培養上清から精製することも可能である。またファージ等を利用して抗体を作製する方法も利用することができる。
【0021】
CA-VIアイソザイムタンパク質の種間のアミノ酸配列同一性が最低でも68%あることから、イヌ、ネコ、ブタ、ウシまたはヒト等の哺乳動物のいずれに由来するCA-VIアイソザイムタンパク質を使用して抗体を作製した場合であっても、それぞれの抗体がイヌ、ネコ、ブタ、ウシまたはヒト等の哺乳動物のいずれに由来するCA-VIアイソザイムタンパク質にも交差反応することができる。従って、上述した本発明の方法は、イヌ、ネコ、ブタ、ウシまたはヒト等の哺乳動物のいずれに対しても適用することができる。
【0022】
本発明で使用する抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体を検出する方法としては、当該技術分野において既知の抗体検出方法であればいずれの方法であっても使用することができる。例えば、抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体をペルオキシダーゼ(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ;HRP)などの検出可能な分子で標識しておき発色基剤を発色させることにより検出する方法、抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体をビオチン標識しておき、ビオチンをアビジンを使用した検出系により検出する方法、あるいは抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体を認識する標識二次抗体(例えば抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体がマウス由来のIgG抗体であれば抗マウスIgG抗体)を使用し、この二次抗体を上述したHRP系またはビオチン-アビジン系等を用いて検出する方法、等のいずれの方法であっても、本発明において使用することができる。
【0023】
定量を行う場合には、例えば競合的反応型ELISA法、ウェスタンブロット法を使用して行うことができる。競合的ELISA法により定量する場合、例えばCA-VIアイソザイムタンパク質を固定化した測定プレートに、調べたいサンプルと抗CA-VIアイソザイムタンパク質一次抗体を添加して、固相上に固定化されたCA-VIアイソザイムタンパク質とサンプル中に含まれるCA-VIアイソザイムタンパク質との間で、抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体に対して競合的に反応させることにより行う。測定プレートを洗浄したのちに、上述したいずれかの方法で標識した、抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体に対する二次抗体を反応させる。測定プレートを洗浄したのち、発色試薬を添加して、酵素反応によって発色した反応液の吸光度を測定し、サンプル中のCA-VIアイソザイムタンパク質を算出する。抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体は固定化されたCA-VIアイソザイムタンパク質またはサンプル中のCA-VIアイソザイムタンパク質と競合的に反応するので、サンプル中のCA-VIアイソザイムタンパク質が多いほど固定化されたCA-VIアイソザイムタンパク質と反応してプレート内に残る抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体の量は減少し、同時に標識した抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体に対する二次抗体も減少する。つまり、サンプル中のCA-VIアイソザイムタンパク質濃度が高いほど、発色が少ないことになる。
【0024】
また、ウェスタンブロット法を用いて定量する場合、常法にしたがってウェスタンブロットを行ったメンブレンを、イメージアナライザーなどで解析することにより、定量することができる。イムノドット法も同様である。
【0025】
イヌおよびネコにおいて、外見上腎疾患を有さない正常な個体の尿中に含まれるCA-VIアイソザイムタンパク質を測定したところ、イヌの場合には100 ng/ml以下のCA-VIアイソザイムタンパク質が尿中に含まれる場合を正常の範囲であると考えることができることが推定された。従って、尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質を測定した場合、100 ng/ml以下のCA-VIアイソザイムタンパク質、好ましくは80 ng/ml以下のCA-VIアイソザイムタンパク質、さらに好ましくは70 ng/ml以下のCA-VIアイソザイムタンパク質、さらに好ましくは60 ng/ml以下のCA-VIアイソザイムタンパク質、最も好ましくは50 ng/ml以下のCA-VIアイソザイムタンパク質、が尿中に含まれる場合に、正常であると判断される。一方、ネコの場合には、70 ng/ml以下のCA-VIアイソザイムタンパク質が尿中に含まれる場合を正常の範囲であると考えることができることが推定された。従って、尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質を測定した場合、70 ng/ml以下のCA-VIアイソザイムタンパク質、好ましくは60 ng/ml以下のCA-VIアイソザイムタンパク質、最も好ましくは50 ng/ml以下のCA-VIアイソザイムタンパク質、が尿中に含まれる場合に、正常であると判断される。
【0026】
また、イヌおよびネコにおいて、外見上腎疾患を有さない正常な個体の尿中に含まれるCA-IIIアイソザイムタンパク質を測定したところ、CA-VIアイソザイムタンパク質の場合と同様に、100 ng/ml以下のCA-IIIアイソザイムタンパク質が尿中に含まれる場合を正常の範囲であると考えることができることが推定された。従って、尿中のCA-IIIアイソザイムタンパク質を測定した場合、100 ng/ml以下のCA-IIIアイソザイムタンパク質、好ましくは80 ng/ml以下のCA-IIIアイソザイムタンパク質、さらに好ましくは70 ng/ml以下のCA-IIIアイソザイムタンパク質、さらに好ましくは60 ng/ml以下のCA-IIIアイソザイムタンパク質、最も好ましくは50 ng/ml以下のCA-VIアイソザイムタンパク質、が尿中に含まれる場合に、正常であると判断される。
【0027】
さらに、尿中に含まれるCA-VIアイソザイムタンパク質濃度が高い場合に、尿中のCA-IIIアイソザイムタンパク質濃度も比較的高い濃度で存在する、という正の相関性もまた示された。
【0028】
本発明は別の態様において、上述した尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質の存在についての特徴を調べるとともに、血液中のBUNおよび/またはCreの存在を検出することにより、間質性腎疾患の進行度を同定する方法も提供する。前述したとおり、血液中のBUNおよび/またはCreの存在は、腎臓中の機能しているネフロンの数が1/2〜1/3にまで減少しないと異常値を示さないという特徴を有するため、腎疾患の中期〜後期の指標となる腎疾患マーカーである。一方、本発明のCA-VIアイソザイムタンパク質は、腎疾患の比較的初期に尿中に出現することを特徴としている。従って、尿サンプル中のCA-VIアイソザイムタンパク質は検出されるが血液中のBUNおよび/またはCreは検出されない場合を初期〜中期の腎疾患と同定することができ、そして尿サンプル中のCA-VIアイソザイムタンパク質も血液中のBUNおよび/またはCreも検出される場合を中期〜後期の腎疾患と同定することができる。
【0029】
血液中のBUNおよび/またはCreの検出、定量については、既に臨床検査の分野において確立されている方法を使用することができる。
本発明はさらに別の態様において、尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質の濃度、並びに血液中のBUN濃度および/またはCre濃度を比較することによる、間質性腎疾患と糸球体腎疾患とを判別する方法も提供する。血液中のBUNおよび/またはCreは、糸球体腎炎の場合に濃度が上昇する傾向があることが知られている。それに対して、本発明により、尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質は、間質性腎炎の場合に濃度が上昇する傾向があることがわかった。これらの結果に基づいて、尿サンプル中のCA-VIアイソザイムタンパク質濃度の上昇が検出されるが血液中のBUN濃度および/またはCre濃度は上昇しない場合を間質性腎疾患と同定することができ、そして尿サンプル中のCA-VIアイソザイムタンパク質濃度の上昇は検出されないが血液中のBUN濃度および/またはCre濃度の上昇が検出される場合を糸球体腎疾患と同定することができる。
【0030】
血液中のBUNおよび/またはCreの検出、定量については、既に臨床検査の分野において確立されている方法を使用することができる。
本発明はさらに別の態様において、尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質の濃度ならびに血液中のBUN濃度および/またはCre濃度を比較することによる、間質性腎疾患と糸球体腎疾患とを判別する方法もまた提供する。血液中のBUNおよび/またはCreは、糸球体腎炎の場合に濃度が上昇する傾向があることが知られている。それに対して、本発明により、尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質は、間質性腎炎の場合に濃度が上昇する傾向があることがわかった。これらの結果に基づいて、尿サンプル中のCA-VIアイソザイムタンパク質は検出されるが、血液中のBUNおよび/またはCreは検出されない場合を、間質性腎疾患と同定することができ、そして尿サンプル中のCA-VIアイソザイムタンパク質は検出されないが血液中のBUNおよび/またはCreは検出される場合を、糸球体腎疾患と同定することができる。
【0031】
本発明においては、尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質の濃度、並びに血液中のBUN濃度および/またはCre濃度を比較する際に、尿中の炭酸脱水酵素-III(CA-III)アイソザイムタンパク質の存在を同時に検出することをさらに含むことができる。CA-IIIアイソザイムタンパク質は筋肉から精製され、免疫組織化学的研究で腎臓の近位尿細管と遠位尿細管に局在することが明らかとなっているアイソザイムタンパク質である。2008年、Dent病(特発性尿細管性蛋白尿症)の際に尿中に排出されることが明らかにったアイソザイムでもある(非特許文献4)。従って、CA-VIアイソザイムタンパク質と共にCA-IIIアイソザイムタンパク質が尿中に存在している場合には、CA-VIアイソザイムタンパク質のみを検出する場合よりもより高精度に間質性腎疾患の判別を行うことができる。
【0032】
CA-IIIアイソザイムタンパク質の検出、定量は、本発明者の文献(非特許文献5)に記載される様にして行うことができる。具体的には、抗-CA-IIIアイソザイムタンパク質抗体(非特許文献5)を使用して、当該技術分野において既知のタンパク質検出・定量手段を用いて測定することができる。
【0033】
本発明はさらに、尿サンプル中のCA-VIアイソザイムタンパク質を検出・定量するための、抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体を含むキットにも関する。例えば、抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体を結合させたイムノクロマト用フィルターを含むキット、抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体を含むサンドイッチ型ELISAキット、抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体を含む競合的反応型ELISAキット等を提供することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。
実施例1:抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体の作製
本実施例においては、まず、CA-VIアイソザイムタンパク質に結合するポリクローナル抗体を作製した。
【0035】
抗体を作製するための免疫原として、本発明者らの文献(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)に記載される方法にしたがって、CA-VIアイソザイムタンパク質を、ウシ、イヌ、ブタの唾液から、阻害剤-親和性クロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーによって精製することにより調製した。
【0036】
具体的には、ピロカルピン溶液(1.5 mg/kg)をホルスタインウシ(メス)、梅山豚(メイシャントン)交配ブタ(オス)、およびイヌの筋肉内に注射して、ウシ、ブタおよびイヌの唾液分泌を誘導した。開口器を使用して口から唾液を滴下させるか(ウシおよびブタの場合)、または脱脂綿を使用して唾液を回収した(イヌの場合)。分泌された唾液をビーカーに回収し、それに0.2 Mのベンズアミジンを含有するおよそ1 L(ウシおよびブタの場合)または50 ml(イヌの場合)の0.1 M Tris-SO4バッファー(0.1 M Tris-SO4と0.2 M Na2SO4、pH 8.7)を添加した。60分間の回収の後、ウシおよびブタからはおよそ1 Lの唾液を、そしてイヌからは50 mlの唾液を、それぞれ回収した。
【0037】
次いで、唾液-バッファー混合液を4℃にて遠心分離し(27000×g)、30分間)、すべての異物を取り除いた。上清を、アフィニティークロマトグラフィーを使用したCA-VIアイソザイムタンパク質の精製のためにすぐに使用した。次いで、300 mlのアフィニティークロマトグラフィーマトリクス(p-(アミノメチル)ベンゼンスルホンアミドに結合させたCM Sephadex、Pharmacia, Uppsala, Sweden)を唾液-バッファー混合液に対して添加し、ロータリーシェーカーで4℃にて一晩、穏やかに混合した。
【0038】
アフィニティーゲルは、焼結ガラスフィルターを使用して減圧回収し、そして1 mMのベンズアミジンと20%(v/v)のグリセロールとを含有する0.1 M Tris-SO4バッファー(pH 8.7)を用いて洗浄した。ゲルをガラスカラム(3.3×30 cm)に充填し、そして未吸着のすべての成分が洗浄バッファーで洗い流されるまで1 mMのベンズアミジンと20%(v/v)のグリセロールとを含有する0.1 M Tris-SO4バッファー(pH 7.0)を用いて完全に洗浄した。次に、0.6 MのNaN3、1 mMのベンズアミジン、および20%(v/v)のグリセロールを含有する0.1 M Tris-SO4バッファー(pH 7.0)を使用して、CA-VIアイソザイムタンパク質を溶出した。このタンパク質を含有する画分を回収し、0.2 MのNaClを含有する0.05 Mリン酸ナトリウムバッファー(pH 7.5)に対して透析し、次いで同バッファーを使用して平衡化した小麦胚芽レクチン-セファロース(Pharmacia, Uppsala, Sweden)カラム上に(ウシおよびイヌの場合)、または同バッファーを使用して平衡化したDEAEセファロース(1×15 cm、Pharmacia, Uppsala, Sweden)カラム上に(ブタの場合)、それぞれ適用した。非結合タンパク質を担体カラムから洗浄除去した後、0.2 MのNaClを含有する50 mMのリン酸ナトリウムバッファー中100 mg/mlのN-アセチル-D-グルコサミン溶液により、CA-VIアイソザイムタンパク質を溶出した。溶出ピークを回収し、そして使用時まで-80℃にて保存した。
【0039】
このようにして精製したCA-VIアイソザイムタンパク質を免疫原として使用した。精製したCA-VIアイソザイムタンパク質に対する抗体は、ウサギ体内で作製した。ウサギに、Freundの完全アジュバントを用いて乳化させた1 mgの精製CA-VIアイソザイムタンパク質をまず注射した。次に、同量のこのタンパク質を、5週間にわたって毎週一度のブースター注射を行った。ウサギからは、最終注射から10日後に、耳介静脈を介して採決した。抗血清の特異性を、二重免疫拡散法もしくはウェスタンブロッティング法を使用して調べた。
【0040】
これまでに作製された抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体はすべて、二重免疫拡散法もしくはウェスタンブロッティング法の両方において、CA-VIアイソザイムタンパク質に対して結合することが明らかになった。また、これらの抗体はいずれも、ウシCA-VIアイソザイムタンパク質、ブタCA-VIアイソザイムタンパク質、イヌCA-VIアイソザイムタンパク質のいずれに対しても結合することが確認された。
【0041】
実施例2:正常動物の尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質の検出
本実施例においては、実施例1において作製された抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体を用いて、外見上腎疾患を有さない正常な動物の尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質を検出・定量できるかどうかを調べることを目的として行った。
【0042】
(1)ブタ
200頭の外見上正常なブタからそれぞれ尿サンプルを採取し、尿中に含まれるCA-VIアイソザイムタンパク質の濃度を測定した。この際、あわせて尿中に含まれるCA-IIIアイソザイムタンパク質の濃度も測定した。
【0043】
アイソザイムタンパク質濃度の測定は、競合法ELISAを使用して行った。すなわち、実施例1において得られたCA-VIアイソザイムタンパク質に対するポリクローナル抗体からIgGを精製して、これを固相(例えば、マイクロタイターウェル)に結合させ一次抗体とした。固相化した一次抗体に対して、精製したCA-VIアイソザイムタンパク質(5 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、40 ng/ml、80 ng/ml、160 ng/ml、320 ng/mlおよび640 ng/mlを各0.1ml)をスタンダードとして使用し、ビオチン標識したCA-VIアイソザイムタンパク質とスタンダードあるいは尿サンプルを混合し、抗原-抗体複合体を形成させた。一次抗体に結合しなかったビオチン化CA-VIアイソザイムタンパク質や未反応成分を洗い流した後に、ABC複合体(アビジンとビオチンとペルオキシダーゼの複合体(ABC溶液;和光純薬)を加えて反応させた。未反応のABC複合体を洗浄して除去した後、ペルオキシダーゼの発色液を加えて発色し、イムノリーダー分光光度計を用いて吸光度を測定した。各種濃度のスタンダード(5 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、40 ng/ml、80 ng/ml、160 ng/ml、320 ng/mlおよび640 ng/ml)の吸光度から検量線を作成して尿サンプル中の濃度を算出した。
【0044】
尿中のCA-IIIアイソザイムタンパク質濃度は、非特許文献2に記載される方法に従って作製したCA-IIIアイソザイムタンパク質に対するポリクローナル抗体からIgGを精製し、これを固相(例えば、マイクロタイターウェル)に結合させ一次抗体とした。固相化した一次抗体に対して精製したCA-IIIアイソザイムタンパク質をスタンダードとして使用し、ビオチン標識したCA-IIIアイソザイムタンパク質とスタンダードとして精製したCA-IIIアイソザイムタンパク質(5 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、40 ng/ml、80 ng/ml、160 ng/ml、320 ng/ml、および640 ng/ml)あるいは尿サンプルを混合し、抗原-抗体複合体を形成させた。一次抗体に結合しなかったビオチン化CA-VIアイソザイムタンパク質や未反応成分を洗い流した後に、ABC複合体(アビジンとビオチンとペルオキシダーゼの複合体(ABC溶液;和光純薬)を加えて反応させた。未反応のABC複合体を洗浄して除去した後、ペルオキシダーゼの発色液を加えて発色し、イムノリーダー分光光度計を用いて吸光度を測定した。各種濃度のスタンダード(5 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、40 ng/ml、80 ng/ml、160 ng/ml、320 ng/mlおよび640 ng/ml)の吸光度から検量線を作成して尿サンプル中の濃度を算出した。
【0045】
このようにして測定した結果、外見上正常なブタの尿中には、平均して56.7±43.3 ng/mlのCA-VIアイソザイムタンパク質が存在し、また平均して39.5±55.6 ng/mlのCA-IIIアイソザイムタンパク質が存在することが明らかになった。
【0046】
(2)イヌ
11頭の外見上正常と判断されるイヌからそれぞれ尿サンプルを採取し、尿中に含まれるCA-VIアイソザイムタンパク質の濃度を測定した。この際、あわせて尿中に含まれるCA-IIIアイソザイムタンパク質の濃度も測定した。
【0047】
タンパク質濃度測定は、ブタの場合(1)と同様に、競合法ELISAを使用して行った。このようにして測定した結果、外見上正常と判断されるイヌの尿中におけるCA-VIアイソザイムタンパク質濃度およびCA-IIIアイソザイムタンパク質濃度を、以下の表1にまとめる。表中、太字はCA-VIアイソザイムタンパク質濃度が異常値と判断された個体を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
この結果から、動物番号5、6および9の3頭の動物が、CA-VIアイソザイムタンパク質濃度について100 ng/ml以上の異常値を示すと判断された。なお、イヌの場合において、尿中に含まれるCA-VIアイソザイムタンパク質濃度が高い場合、尿中のCA-IIIアイソザイムタンパク質も比較的高い濃度で存在するという、相関性が示された。
【0050】
(3)ネコ
8頭の外見上正常と判断されるネコからそれぞれ尿サンプルを採取し、尿中に含まれるCA-VIアイソザイムタンパク質の濃度を測定した。この際、あわせて尿中に含まれるCA-IIIアイソザイムタンパク質の濃度も測定した。
【0051】
タンパク質濃度測定は、ブタの場合(1)と同様に、競合法ELISAを使用して行った。このようにして測定した結果、外見上正常と判断されるネコの尿中におけるCA-VIアイソザイムタンパク質濃度およびCA-IIIアイソザイムタンパク質濃度を、以下の表2にまとめる。表中、太字はCA-VIアイソザイムタンパク質濃度が異常値と判断された個体を示す。
【0052】
【表2】

【0053】
この結果から、動物番号5の動物が、CA-VIアイソザイムタンパク質濃度について70 ng/ml以上の異常値を示すと判断された。なお、ネコの場合においても、尿中に含まれるCA-VIアイソザイムタンパク質濃度が高い場合、尿中のCA-IIIアイソザイムタンパク質も比較的高い濃度で存在するという、相関性が示された。
【0054】
実施例3:腎疾患を有する動物の尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質の検出
本実施例においては、実施例1において作製された抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体を用いて、外見上臨床的な腎疾患の症状を有する疾患動物の尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質を検出・定量できるかどうかを調べることを目的として行った。
【0055】
(1)イヌ
臨床所見として、食欲不振、多飲、多渇、多尿、体重減少、嘔吐などの観点での腎不全の症状を示すと判断された13頭のイヌから、それぞれ尿サンプルを採取し、尿中に含まれるCA-VIアイソザイムタンパク質の濃度を測定した。この際、あわせて尿中に含まれるCA-IIIアイソザイムタンパク質の濃度も測定すると共に、血液を採取して、血中BUN濃度およびCre濃度も測定した。
【0056】
尿中タンパク質濃度の測定は、実施例2の(1)と同様に、競合法ELISAを使用して行った。また、血中BUN濃度およびCre濃度は、臨床検査の分野において周知であるように、ドライケム(動物用生化学自動分析装置、富士フイルム株式会社)を使用して測定した(イヌの場合正常値はBUN濃度が30 mg/dl以下、Cre濃度が2 mg/dl以下である)。このようにして測定した結果、外見上臨床的な腎不全の症状を有すると判断されるイヌの尿中におけるCA-VIアイソザイムタンパク質濃度およびCA-IIIアイソザイムタンパク質濃度、ならびに血液中のBUN濃度およびCre濃度を、以下の表3にまとめる。表中、太字はCA-VIアイソザイムタンパク質濃度が異常値と判断された個体を、そして下線を引いた数値は、BUN濃度およびCre濃度について正常値であることを示す。
【0057】
【表3】

【0058】
この結果から、動物番号1〜3、および8が、CA-VIアイソザイムタンパク質濃度について100 ng/ml以上の異常値を示すと判断された。その一方で、臨床的には腎不全の症状を示しているにもかかわらず、血中のBUN濃度およびCre濃度が共に正常範囲に収まっている動物が13頭中7頭(54%)も見られ(動物番号1〜7、および12)、それらの動物のうち3頭(動物番号1〜3)では、CA-VIアイソザイムタンパク質濃度が異常値を示していることが明らかになった。
【0059】
このことから、臨床的に腎不全と診断された動物のうち、血液検査によるBUN濃度およびCre濃度の測定では検出できなかった腎疾患個体を、尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質濃度を測定することにより検出できる場合が存在することが示された。
【0060】
(2)ネコ
臨床所見として、食欲不振、多飲、多渇、体重減少などの観点などの臨床的な観点での腎不全の症状を示すと判断された31匹のネコから、それぞれ尿サンプルを採取し、尿中に含まれるCA-VIアイソザイムタンパク質の濃度を測定した。この際、あわせて尿中に含まれるCA-IIIアイソザイムタンパク質の濃度も測定すると共に、血液を採取して、血中BUN濃度およびCre濃度も測定した。
【0061】
尿中タンパク質濃度の測定は、および血中BUN濃度およびCre濃度の測定は、実施例3の(1)と同様に行った。また、ドライケム(動物用生化学自動分析装置、富士フイルム株式会社)を使用して測定したネコにおけるBUN濃度およびCre濃度の正常値は、BUN濃度が30 mg/dl以下、Cre濃度が2 mg/dl以下である。このようにして測定した結果、外見上臨床的な腎不全の症状を有すると判断されるネコの尿中におけるCA-VIアイソザイムタンパク質濃度およびCA-IIIアイソザイムタンパク質濃度、ならびに血液中のBUN濃度およびCre濃度を、以下の表4にまとめる。表中、太字はCA-VIアイソザイムタンパク質濃度が異常値と判断された個体を、そして下線を引いた数値は、BUN濃度およびCre濃度について正常値であることを示す。
【0062】
【表4】

【0063】
この結果から、動物番号6、15、19、20、27、30および31が、CA-VIアイソザイムタンパク質濃度について70 ng/ml以上の異常値を示すと判断された。その一方で、臨床的には腎不全の症状を示しているにもかかわらず、血中のBUN濃度およびCre濃度が共に正常範囲に収まっている動物が31頭中5頭(16%)も見られ(動物番号23〜25、27および28)、それらの動物のうち1頭(動物番号27)では、CA-VIアイソザイムタンパク質濃度が異常値を示していることが明らかになった。
【0064】
このことから、臨床的に腎不全と診断された動物のうち、血液検査によるBUN濃度およびCre濃度の測定では検出できなかった腎疾患個体を、尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質濃度を測定することにより検出できる場合が存在することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明により、初期の腎臓疾患を検出するとともに、腎臓疾患の進行度を特定するための哺乳動物の腎臓疾患の新規診断マーカーおよびそれを用いた方法、ならびにそれを用いた検出キットを開発することができるとともに、哺乳動物の腎臓疾患に関して、腎臓疾患の類症鑑別を迅速かつ簡便に行うための、新規診断マーカーおよびそれを用いた方法、ならびにそれを用いた検出キットを開発することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿中の炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)-VI(CA-VI)アイソザイムタンパク質の存在を検出することを含む、間質性腎疾患の検出方法。
【請求項2】
間質性腎疾患が、腎炎、腎不全からなる群から選択される、請求項1に記載の間質性腎疾患の検出方法。
【請求項3】
動物種が、イヌ、ネコ、ブタまたはヒトである、請求項1または2に記載の間質性腎疾患の検出方法。
【請求項4】
アイソザイムタンパク質の存在を検出するための方法が、ウェスタンブロット法、イムノクロマト法、競合的反応型ELISA法やサンドイッチ型ELISA法などのELISA法、プロテインチップ法、マンシーニー法などの抗体を用いた免疫化学定量法からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の間質性腎疾患の検出方法。
【請求項5】
尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質の存在、並びに血液中の血中尿素窒素(BUN)および/またはクレアチニン(Cre)の存在を検出することによる、間質性腎疾患の進行度の同定方法。
【請求項6】
尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質の濃度、並びに血液中のBUN濃度および/またはCre濃度を比較することによる、間質性腎疾患と糸球体腎疾患の判別方法。
【請求項7】
尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質が陰性であり、血液中のBUNおよび/またはCreが陽性である場合に、糸球体腎疾患であると判定する、請求項6に記載の判定方法。
【請求項8】
尿中の炭酸脱水酵素-III(CA-III)アイソザイムタンパク質の存在を同時に検出することをさらに含む、請求項6〜8のいずれか1項に記載の判定方法。
【請求項9】
尿中のCA-VIアイソザイムタンパク質が陽性であり、血液中のBUNおよび/またはCreが陰性である場合に、間質性腎疾患であると判定する、請求項6に記載の判定方法。
【請求項10】
抗CA-VIアイソザイムタンパク質抗体を含む、間質性腎疾患の検出キット。

【公開番号】特開2010−139429(P2010−139429A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317179(P2008−317179)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(502341546)学校法人麻布獣医学園 (17)
【Fターム(参考)】