説明

腐敗防止冷却装置

【課題】接合された指尖部などの生体の末端部を冷却して腐敗防止するに適した冷却装置を提供する。
【解決手段】接合された生体の腐敗を防止する腐敗防止冷却装置Anc1は、生体を収容する、一端が開口した空間が設けられた収容部Ua1と、収容部Ua1の開口端に対向する閉口端に熱的に接続されたペルチェ素子よりなる吸熱部Utと、吸熱部Utに熱伝導が可能な状態に接続された放熱部Urとを備える。収容部Ua1は、
良熱伝導性材料からなる一端が開口した円筒部と、円筒部の周囲を覆う難熱伝導性材料から成る保護断熱部とを備え、前記吸熱部Utは円筒部の閉口端側に熱伝導が可能な状態に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の腐敗を防止する腐敗防止冷却装置に関し、さらに詳述すれば、接合された指尖部などの末端部を冷却して腐敗を防止する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
損傷された生体の治療、特に指先の切断事故である指尖損傷に対する治療法として、切断状態の良い指を再接着するFGF徐放システム(非特許文献1、非特許文献2)が開発されている。指尖損傷は、全切断或いは半切断と様々であるが、切断部は毛細血管が切断されている。指尖の血管は細いために、最新のマイクロサージュリと呼ばれる毛細血管接合手術でも、切断された血管の接合は非常に困難であり、実質的に不可能である。
【0003】
FGF徐放システムでは、切断面にFGF(Fibroblast Growth Factor)という成長ホルモン剤を塗布して、切断された指先(以降、「切断指」と称する)を元の部位に縫い合わせて接合する。FGFは、毛細血管が指尖に向かって徐放するのを促進することにより、徐放した血液から切断指尖の細胞に対して必要な栄養の供給を早める働きがある。FGF徐放システムにより、縫い合わされ治療された指の長さは事故前と同じになる。通常の再接着手術の再生率が40%程度であるのに対して、FGF徐放システムによる治療では再生率は70%近くまで上昇できる。
【0004】
しかしながら、接着された部分の血管が再生されるまで、再接着された切断指には血流がないために、酸素及び必要な栄養が届かずに腐敗して壊死しやすい。これを防ぐには、接合後の治療において、血管が再生されて切断指への血流が再開するまでの間、切断指の腐敗を防止する必要がある。より正確には、切断指が再接着されてから腐敗に至るまでの時間を延長さ(腐敗を遅ら)せる必要がある。そのためには、生体である切断指を凍傷を引き起こさない適度の低温で冷却することが有効である。再接着された切断指の冷却に供せられる冷却装置及び冷却手段は、冷却対象である生体(切断指)に取り付けて、治療の一環として数日間使用されるので、少なくとも以下に述べる条件を満たす必要がある。
【0005】
条件とは;
人体および環境に対して悪影響(騒音や有毒物質など)を与えず;
冷媒の漏れや腐食性液体の漏れの心配がなく保守が容易であり;
冷却対象(切断指)に合わせて、冷却装置及び冷却手段を自由な形状にすることができ;
患者に対する冷却装置及び冷却手段の装着負荷を低減するために、冷却装置及び冷却手段自体が小型かつ軽量であり;
血管再生及び血流再開の状態に応じて、精密かつ迅速に温度調整でき;
生体である切断指を凍傷を引き起こさない適度の低温に温度制御することができ、且つ切断指が接合される側である非切断指の血流は阻害せず;
切断指の再接着(血管再生、血流再開)を損なうような振動や負荷を発生せず;そして、
保守が容易なことである。
【0006】
上述の条件を満たす冷却手段として、電子冷却素子であるペルチェ素子を利用した冷却装置が望ましい。一方、ペルチェ素子を利用した、生体を冷却する種々の技術が提案されている。例えば、血行障害の診断のために用いられる指尖部の皮膚温度測定装置(特許文献1:特開平8−215153号公報)や、皮膚科治療用ペルチェ冷却装置(特許文献2:特表2000−515410号公報)や、温冷覚検査器具(特許文献3:特開2004−148005号公報)等がある。
【0007】
図7に、特許文献1に開示の、指尖部の皮膚温度測定装置を示す。この皮膚温度測定装置は、切断などの損傷を受けていない手指の振動障害による指尖部の血行障害の有無を判断するために、指尖部の皮膚温度を測定するものである。具体的には、ボックス101の内部に挿入された指尖部fに、ペルチェ素子112a、112bで冷却された冷風を吹き付けて、その皮膚温度を放射温度計105で測定するように構成されている。
【0008】
図8に、特許文献2に開示の、皮膚科治療用ペルチェ冷却装置を示す。この皮膚科治療用ペルチェ冷却装置は、皮膚疾患を放射線照射により処置する装置である、患者の皮膚の治療領域を冷却するためのペルチェ冷却装置220を有している。レーザやガス放電ランプなどの放射線源240から放射線が照射された治療領域の温度が温度センサ270で感知される。感知された温度に基づいて、治療領域が所定温度を超えないように、ペルチェ冷却装置220または放射線源240の動作が制御される。
【0009】
図9に、特許文献3に開示の、温冷覚検査器具300を示す。この温冷覚検査器具300は、神経疾患の患者に対する温度感覚検査において、ペルチェ素子302の低温側及び高温側にそれぞれ密着させた冷覚感知用伝熱板303と、温覚感知用伝熱板304と、温覚感知用伝熱板304に試着した放熱装置308から構成されている。つまり、一つの温冷覚器具によって、同時に低温部と高温部とを備えることにより、スイッチ切替をせずに冷覚と温覚とを容易に検査できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−215153号公報
【特許文献2】特表2000−515410号公報
【特許文献3】特開2004−148005号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】楠原廣久、磯貝典孝、「切断指再接着術」、形成外科、克誠堂出版株式会社、第51巻 第7号 807頁〜815頁
【非特許文献2】楠原廣久、磯貝典孝、田畑泰彦、「1.細胞増殖因子 13)指尖部切断再接着への応用」、トランスレーショナルリサーチを支援する遺伝子医学MOOK13 患者までとどいている再生誘導治療 バイオマテリアル、生体シグナル因子、細胞を利用した患者のための再生医療の実際、株式会社メディカルドゥ、144頁〜149頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
指尖部の皮膚温度測定装置(特許文献1)では、ペルチェ素子は治療ではなく検査対象である指に低温負荷を与える冷風を作り出すために用いられており、測定装置は、安定的に冷風を指に吹き付けて、指の温度を測定できるように構成されている。そのために、装置は大きく構成されており、接合された切断指のような損傷を負った生体を保護しながら長時間に渡って装着するための配慮は一切されていない。
【0013】
皮膚科治療用ペルチェ冷却装置(特許文献2)は、ペルチェ素子は放射線により加熱された皮膚の冷却に用いられている。冷却温度は皮膚の腐敗を防げるような程度ではなく、また血管再生までの間、接合された切断指などの生体を保護しながら長時間に渡って装着するための配慮は一切されていない。
【0014】
温冷覚検査器具(特許文献3)は、従来、冷覚検査及び温覚検査のいずれかの用途に排他的に用いられていたペルチェ素子をその低温側と高温側を同時に使用できるように構成されたものである。温冷覚検査器具は検査対象部に押し当てて使用される。冷却温度は皮膚の腐敗を防げるような程度ではなく、また血管再生までの間、接合された切断指などの生体を保護しながら長時間に渡って装着するための配慮は一切されていない。
【0015】
上述の、ペルチェ素子を用いた従来の装置或いは器具は、接合された切断指のような損傷を負った生体を、長時間に渡って保護しながら冷却する用途に必要とされる条件を満たしていない。よって、本発明は、生体の腐敗を防止する腐敗防止冷却装置を提供することを目的とし、さらに接合された指尖部などの生体の末端部を冷却して腐敗防止するに適した腐敗防止冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明に係る、接合された生体の腐敗を防止する腐敗防止冷却装置は、
前記生体を収容する、一端が開口した空間が設けられた収容部と、
前記収容部の開口端に対向する閉口端に熱的に接続された吸熱部と、
前記吸熱部に熱的に接続された放熱部とを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、生体の腐敗を防止する腐敗防止冷却装置を提供でき、さらに接合された指尖部などの生体の末端部を冷却して腐敗防止するに適した腐敗防止冷却装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1に係る腐敗防止冷却装置を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1における腐敗防止冷却装置の収容部の内部構造を示す部分断面図である。
【図3】図1における矢視図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る腐敗防止冷却装置の収容部の内部構造を示す部分断面図である。
【図5】図4に示した収容部の変形例を示す模式図である。
【図6】図5に示した収容部とは異なる変形例を示す模式図である。
【図7】従来技術に係る指尖部の皮膚温度測定装置の内部構造を示す断面図である。
【図8】従来技術に係る皮膚科治療用ペルチェ冷却装置の構成及び働きの説明図である。
【図9】従来技術に係る温冷覚検査器具の構造を示す一部破断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、図1、図2、及び図3を参照して、本発明の実施の形態1に係る腐敗防止冷却装置Anc1について説明する。そして、図4、図5、及び図6を参照して、本発明の実施の形態2に係る腐敗防止冷却装置Anc2、Anc2’、Anc2”について説明する。腐敗防止冷却装置Anc1、Anc2、Anc2’、Anc2”を腐敗防止冷却装置Ancと総称する。なお、本発明においては、腐敗防止冷却装置Ancの冷却対象である、切断された指先を「切断指」、切断指が接合される側の指を「非切断指」と定義する。
【0020】
(実施の形態1)
以下に図1、図2、及び図3を参照して、本発明の実施の形態1に係る腐敗防止冷却装置について説明する。図1に示すように、腐敗防止冷却装置Anc1は、接合された切断指等の冷却対象の生体を収容する収容部Ua1と、吸熱部Utと、放熱部Urとを含む。収容部Ua1は冷却対象を収納するに適した形状に形成されている。本実施形態においては、収容部Ua1は一端が開口した円筒形状に形成されている。冷却対象である接合された切断指(以降、「接合指」と略称する)は、この開口部から収容部Ua1に挿入される。
【0021】
収容部Ua1は、少なくとも収納する接合指に接触する部分が冷却対象の熱を吸熱できる良熱伝導材料で構成される。そのような良熱伝導の一例として、アルミニウムまたはアルミニウム合金、銅、真鍮、マグネシウム、マグネシウム合金、及びチタニウム合金等が挙げられる。この中でも加工性の良さや熱伝導性の良さからアルミニウムまたはアルミニウム合金が好ましい。この観点から、本実施形態においては、収容部Ua1はアルミニウムまたはアルミニウム合金材で構成されている。
【0022】
吸熱部Utは、電子冷却素子であるペルチェ素子から構成されると共に、収容部Ua1に熱伝導が可能な状態で接続されて、収容部Ua1から熱を吸収する。なお、吸熱部Utはペルチェ素子に限定されるものではなく、小型で冷却機能を備え持つ機器であれば用いることができる。放熱部Urは、吸熱部Utに熱伝導が可能な状態で接続されて、吸熱部Utが収容部Ua1から吸収した熱を外部に放出する。なお、吸熱部Ut及び収容部Ua1は電力により駆動されるが、そのための電源、電線、及び制御装置などの部材は外部に設けられるので図示していない。
【0023】
図2及び図3を参照して、腐敗防止冷却装置Anc1の構造についてさらに詳述する。図2は、図1に示した円筒状に形成された収容部Ua1の中心軸Ac(図1)に沿って切断された収容部Ua1の断面図である。図3は、図1において収容部Ua1の中心軸Acに沿って開口部から内部を見た矢視図である。図2に示すように、収容部Ua1は、一端(図1,図2において左端)が開口している円筒部Pcを有している。さらに、収容部Ua1は、開口端に対向する閉端部に、矩形部Prが設けられている。なお、本実施形態においては、矩形部Prは矩形形状としているが、特にこれに限定されるものではない。
【0024】
円筒部Pcの周囲には、発泡ポリエチレンなどの断熱性素材から成る円筒状の保護断熱部Piが設けられている。なお、保護断熱部Piは必ずしも必要なものではないが、冷却対象を効果的に冷却する観点から、保護断熱部Piが設けられていることが好ましい。また、保護断熱部Piを構成する素材は断熱性を有するものであれば特に限定されない。そのような断熱性材料として、発泡ポリエチレン、発泡ポリスチレン、発泡ウレタン、シリコン樹脂、コルゲート加工紙、及びプラスチック段ボール等が挙げられる。この中でも装着性や加工性の点から、シリコン樹脂や発泡ポリエチレンが好ましい。
【0025】
図3に示すように、矩形部Prは、一辺の長さLrが円筒部Pcの外径Dcoより長い正方形板状に形成されている。矩形部Prの一辺の長さLrの長さは特に限定されないが、放熱部Urに効率良く熱を伝えるために外径Dcoより長いのが好ましい。円筒部Pcの閉端部は、矩形部Prと接する部分を頂点とする所定の半径Rで規定される半球状に形成されている。なお、本実施形態では半球状としているが、この形状は限定されず、冷却対象により適宜決定してよい。矩形部Prと円筒部Pcとは、一塊りのアルミニウム合金材から一体的に削り出されている。矩形部Prの四隅部には穴Hが設けられている。
【0026】
放熱部UrのヒートシンクPsはポリアセタールのような放熱性の良いエンジニアリングプラスティック材料により、概ね、矩形部Prと同様に矩形板状に形成されている。ヒートシンクPsの四隅には矩形部Prの穴Hに対応する位置にボルトBが設けられている。ボルトBが穴Hに螺合されることにより、吸熱部Utのペルチェ素子が、収容部Ua1の矩形部Prと放熱部UrのヒートシンクPsとの間で互いに熱伝導が可能な状態で接続された状態で取り付けられる。
【0027】
ヒートシンクPsには複数の放熱板Sが延在して設けられている。放熱板Sは、ポリアセタールのような放熱性の良いエンジニアリングプラスティック材料から成る。そして、ヒートシンクPsと反対側に位置する放熱板Sの先端には、軸流ファンFが取り付けられている。なお、本実施形態においてヒートシンクPsおよび放熱板Sはポリアセタールのような放熱性の良いエンジニアリングプラスティック材料から構成されているが、放熱性の良い金属材料から構成されてもよい。また、腐敗防止冷却装置の放熱度合いによっては軸流ファンFの設置を省略してもよいし、冷却性能を高める別の手段を設けてもよい。
【0028】
上述の如く構成された、腐敗防止冷却装置における冷却機構について説明する。収容部Ua1の円筒部Pcの内部に吸熱された熱は、吸熱部Utのペルチェ素子によって円筒部Pcの端部に設けられた矩形部Prを介して、放熱部UrのヒートシンクPsに伝導される。ヒートシンクPsに伝導した熱は、放熱板Sにより外部に放出される。軸流ファンFは、冷えた空気を放熱板Sに送り込むことにより冷却能力を高めている。このことによりヒートシンクPsの熱は奪われる。この熱放出サイクルのおかげで、吸熱部Utのペルチェ素子は、矩形部Prを介して円筒部Pcから熱を連続して奪う、つまり円筒部Pcを冷却することができる。
【0029】
また、円筒部Pcは、その周囲に設けられた保護断熱部Piによって、周囲の雰囲気(気温)と遮断されているために、円筒部Pcは効果的に冷却される。また、ペルチェ素子は円筒部Pcの閉端部である矩形部Prに接触して設けられていると共に、円筒部Pcの開口端部は周囲の雰囲気(気温)に対して暴露されているので、矩形部Prから離れるにつれて円筒部Pcの温度は高めになる。つまり円筒部Pcにおける温度勾配は、円筒部Pcの開口端から閉口端に向かって下がる。
【0030】
また、吸熱部Utにペルチェ素子を用いることによって、収容部Ua1及び収容部Ua1に収容された生体(切断指)を過度に冷やすこと無く、FGF徐放システムによる治療において、切断指の回復に必要とされる72時間に渡って、回復に適した温度である4℃〜10℃の範囲で保持できる。
【0031】
(実施の形態2)
以下に、図4、図5、及び図6を参照して、本発明の実施の形態2に係る腐敗防止冷却装置について説明する。図4に示すように、腐敗防止冷却装置Anc2は、収容部Ua1が収容部Ua2に置き換えられている点を除けば、実施の形態1に係る腐敗防止冷却装置Anc1と同様に構成されている。本実施の形態2は、円筒状に形成された収容部の中でも、冷却されるべき部分(冷却対象である接合指)と冷却が必要でない部分(血流が必要である非接合指)とが異なる温度に静的に制御されることを意図している。以下に、収容部Ua2について詳しくに説明する。
【0032】
収容部Ua2は、図2における収容部Ua1の円筒部Pcが、矩形部Pr側の閉端部から開放端に向かって第1の所定長L1だけ延在する、第1の円筒小部Pc1と、第1の円筒小部Pc1より第2の所定長L2だけ延在する第2の円筒小部Pc2とに分割されて構成されている。第1の円筒小部Pc1はその所定長L1を除けば、閉端部の半球形を含めて本実施形態1の円筒部Pc(収容部Ua1)と同様に構成されている。第1の円筒小部Pc1が上述の実施の形態1におけるのと同様にアルミニウムまたはアルミニウム合金などの良熱伝導性材料で構成されているのに対して、本実施形態に掛かる第2の円筒小部Pc2は、発泡ポリエチレン及び発泡ポリスチレン等の難熱伝導性材料で構成されている。
【0033】
なお、第1の所定長L1及び第2の所定長L2は、収容部Ua2に収納される切断指に対応して任意に設定される。つまり、第1の円筒小部Pc1の長さ(L1)は、主に接合された指尖部(切断指)の収容の程度に応じて決定され、第2の円筒小部Pc2の長さ(L2)は指尖部が接合された側の指の収容程度により決定される。すなわち、指の長さの個体差(例えば、大人と子供の場合には指の長さが大きく異なる)や指尖部(切断指)の長さに応じて適宜決定される。第2の円筒小部Pc2は難熱伝導性材料で構成されているために、吸熱部Utは主に第1の円筒小部Pc1の熱を吸収する。つまり、腐敗防止冷却装置Anc2の冷却能力は、主に第1の円筒小部Pc1に収納される切断指の冷却に供されるので、第2の円筒小部Pc2に収容された指の冷却は抑えられる。このように、収容部Ua2の円筒部を、良熱伝導性の第1の円筒小部Pc1と、難熱伝導性の第2の円筒小部Pc2とに分けて構成することにより、FGF徐放システムの治療上の観点から冷却すべき指尖部と、冷却を抑えるべき根元部を異なる温度で保持することができる。これにより円筒部Pc内部で部分的冷却を行うことが可能となる。
【0034】
なお、第1の円筒小部Pc1と第2の円筒小部Pc2は、接着剤や機械的な手段で接合しても良いし、周囲の保護断熱部Piとの嵌合による接合や雌螺子と雄螺子との関係となるように接合することによって保持するように構成してもよい。なお、第1の円筒小部Pc1と第2の円筒小部Pc2の形状は、図4に示した以外の形状をも取り得る。
【0035】
例えば、図5に示す例では、腐敗防止冷却装置Anc2’において、第2の円筒小部Pc2’は保護断熱部Piと一体的に構成されている。この場合、第1の円筒小部Pc1を保護断熱部Piに差し込むだけで、収容部Ua2’を組み立てることができるという利点も期待できる。
【0036】
上述のように、円筒部Pc内部で部分的冷却を実現することにより、FGF除法システムが適用された接合指(指尖部)を挿入すると、血管が再生して血流が生成するまで、壊死を防止すべき指尖部がより強く冷却出来る一方、指尖部への血流を供給して血管を成長させる健全な部位を過度に冷却することを抑えることができる。なお、収容部Ua1は、切断指(指尖部)を非切断指に接合された状態で載置し保持し、冷却期間中、接合指を外部の熱及び外力から保護する機能も有している。
【0037】
さらに、図6に示す例では、腐敗防止冷却装置Anc2”において、収容部Ua2”の第2の円筒小部は、円筒形状では無く中心軸Ac方向に延在する棒状部Pc2”として構成されている。この場合、棒状部Pc2”上に載置される指(非切断指)は、周囲の雰囲気(気温)に暴露されるので、図4に示す第2の円筒小部Pc2に比べてさらに冷却が抑えられる。この観点より棒状部Pc2”は第1の円筒小部Pc1と同じ材料で一体的に構成されても、腐敗防止冷却装置Anc1におけるより非切断指の冷却を抑えることができる。もちろん、棒状部Pc2”を難熱伝導性材料で構成してもよい。
【0038】
上述のように構成することで、円筒部Pc内部の軸方向Acでの部分的冷却をより明確に実現することが可能となる。例えば、非切断指の腹もしくは反対側は周囲の雰囲気(気温)に暴露されるので、非切断指全体の血流の阻害を防止することに効果を発揮する。
【0039】
図4、図5、及び図6に示した何れの場合も第1の円筒小部Pc1は、円筒状に形成されるが、特にこの形状に限定されるものではない。ただし、指尖部の接合に使用される場合には、円筒状に形成されるのが、切断指(接合指)の冷却及び保護の観点から好ましい。また、切断指と非切断指との接合の保護の観点からは、第2の円筒小部Pc2もやはり非切断指を覆う円筒状形状が好ましい。
【0040】
なお、上述の各実施の形態においては、収納部にアルミニウムやアルミニウム合金が用いられているが、銅、真鍮、マグネシウム、マグネシウム合金、及びチタニウム合金等の良熱伝導性材料であれば特に限定されない。また、第2の円筒小部に発泡ポリエチレンまたは発泡ポリスチレンが用いられているが、発泡ウレタン、シリコン樹脂、コルゲート加工紙及びプラスチック段ボール等の難熱伝導性材料であれば特に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、生体の腐敗防止に利用でき、特に切断された指尖部などの生体の接合治療に利用できる。
【符号の説明】
【0042】
Anc、Anc1、Anc2、Anc2’、Anc2” 腐敗防止冷却装置
Ua、Ua1、Ua2、Ua2’、Ua2” 収容部
Pc 円筒部
Pc1 第1の円筒小部
Pc2 第2の円筒小部
Ut 吸熱部
Ur 放熱部
Ps ヒートシンク
S 放熱板
F ファン
Pi 保護断熱部
Pr 矩形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合された生体の腐敗を防止する腐敗防止冷却装置であって、
前記生体を収容する、一端が開口した空間が設けられた収容部と、
前記収容部の開口端に対向する閉口端に熱伝導が可能な状態に接続された吸熱部と、
前記吸熱部に熱伝導が可能な状態に接続された放熱部とを備える腐敗防止冷却装置。
【請求項2】
前記吸熱部はペルチェ素子からなる、請求項1に記載の腐敗防止冷却装置。
【請求項3】
前記収容部は、
良熱伝導性材料からなる一端が開口した円筒部と、
前記円筒部の周囲を覆う難熱伝導性材料から成る保護断熱部とを備え、
前記吸熱部は前記円筒部の閉口端側に熱伝導が可能な状態に接続される、請求項1及び請求項2の何れか一項に記載の腐敗防止冷却装置。
【請求項4】
前記収容部は、
前記閉口端から第1の所定長だけ延在する、良熱伝導性材料からなる第1の円筒部と
前記第1の円筒部から第2の所定長だけ延在する、難熱伝導性材料からなる第2の円筒部とを備える、請求項1及び請求項2の何れか一項に記載の腐敗防止冷却装置。
【請求項5】
前記第1の円筒部の周囲を覆う難熱伝導性材料から成る保護断熱部をさらに備える、請求項4に記載の腐敗防止冷却装置。
【請求項6】
前記第2の円筒部は前記保護断熱部と一体的に構成されている、請求項5に記載の腐敗防止冷却装置。
【請求項7】
前記収容部は、
前記閉口端から第1の所定長だけ延在する円筒部と
前記円筒部から第2の所定長だけ延在する棒状部とを備える請求項1及び請求項2の何れか一項に記載の腐敗防止冷却装置。
【請求項8】
前記第1の所定長は、前記接合された生体の長さに対応して決定され、前記第2の所定長は当該接合された生体が接合された生体の長さに対応して決定されることを特徴とする、請求項4及び請求項7の何れか一項に記載の腐敗防止冷却装置。
【請求項9】
前記円筒部は良熱伝導性材料で構成され、前記棒状部は良熱伝導性材料及び難熱伝導性材料の何れかで構成されることを特徴とする、請求項7に記載の腐敗防止冷却装置。
【請求項10】
前記円筒部の周囲を覆う難熱伝導性材料から成る保護断熱部をさらに備える、請求項9に記載の腐敗防止冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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