説明

腐食を促進しない導電性繊維シート

【課題】接触する金属部品の腐食を促進しない導電性繊維シートを提供する。
【解決手段】帯電性繊維シート基材が少なくとも部分的に導電性高分子で被覆されている導電性繊維シートであって、基材をドーパントを含む酸化剤水溶液で含浸し、これを気相のモノマーと接触させ、酸化重合によって基材上に導電性ポリマーを生成される。重合で使用したアニオン成分はアルカリ水溶液を接触させ、金属部品の腐食を促進しなくなるまで中和除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部分と接触した時その腐食を促進しない処理が施された導電性繊維シート、特にポリピロールで被覆された導電性繊維シートに関する。この導電性繊維シートは、例えばレーザープリンターのようなOA機器において用紙に帯電した静電気を除去するための除電ブラシの材料として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、新たな機能性材料の出現、装置産業の発達に伴い多量の静電気が電子機器に帯電する傾向にある。さらに電子部品の軽薄短小化に伴い少量の静電気が電子部品を破壊するケースもある。今後もこれらの傾向はますます加速すると考えられる。これらの静電気を取り除くために各種の除電部品、除電装置が提案されている。
例えば、レーザープリンターや複写機で紙などに帯電した静電気を除電するために自己放電型の除電ブラシが使用されている。この除電ブラシには、混合紡糸法により得られたカーボンの導電糸を部分的に編み込んだ部分導電性繊維、硫化銅を被覆した導電性繊維、金属をコーティングした導電性繊維などの繊維が使用されている。形状は櫛歯状や鋸歯状などに加工した除電ブラシが知られている。最近では、導電性ポリマーを繊維表面または繊維内部に複合化した導電性シートが報告されている。
【0003】
【特許文献1】特許2595857
【特許文献2】特開2007−059215
【特許文献3】特開2007−107084
【特許文献4】特開2005−010474
【特許文献5】特開2002−088613
【特許文献6】特開平10−125490
【特許文献7】特開2007−169823
【特許文献8】特開2007−169824
【0004】
ところで、これら従来の除電装置に用いられる材料で、混合紡糸法により得られたカーボンの導電糸を部分的に編み込んだ部分導電性繊維は、部分的な導電性を付与した構造なので除電速度が遅い。カーボン導電糸の割合を増加させていくと高価でかつ、フレキシブル性が損なわれて用途が制限される。硫化銅を被覆した導電性繊維や金属をコーティングした導電性繊維もフレキシブル性が損なわれる。導電性ポリマーの複合化による繊維シートへの導電性付与の場合は、一般にモノマーを繊維シート上で重合し、繊維を導電性ポリマーで少なくとも部分的に被覆することによって行われる。導電性ポリマーがポリピロールの場合、ピロールモノマー溶液中に繊維シートを浸漬し、その状態で保持してその後、酸化剤及びドーパント溶液中に浸漬するか、あるいは酸化剤およびドーパントを含む溶液中に繊維シートを浸漬し、その状態で保持してその後モノマー溶液に浸漬し、重合を行う液相法と、繊維状シートを酸化剤およびドーパントの溶液であらかじめ含浸し、これに気相のピロールモノマーを接触させてモノマーを重合する気相法のいずれかが採用される。気相法はナノレベルサイズに成長させた導電性ポリマー粒子をシートを構成する繊維に付着させることができる利益がある。
【0005】
液相法にせよ気相法にせよ、上の方法で処理した繊維シートは、導電性ポリマーに重合させる際に、酸化剤及びドーパントとモノマーを反応させる。例えば、一般的な酸化剤で使用される過硫酸アンモニウムは、酸化剤として利用後もしくは、水溶液中で分解を伴い硫酸イオンを生成する。ドーパントは、導電性ポリマーの導電性を向上させるアニオンであり、いずれにしても、これらのイオンが残留すると導電性ポリマーの複合化による繊維シートは水分の存在下で酸性を示し、金属などを腐食させる恐れがある。これらの繊維シートを洗浄強化や繰り返し洗浄することにより残留アニオンは低減するが完全では無いし、生産性が悪い。必要以上に洗浄を繰り返すと、繊維と複合化した導電性ポリマーが脱落するし、繊維自身の耐久性が悪くなる。結果、繊維表面の抵抗値が増大し除電性能を満足できない。例えば、レーザープリンターや複写機の自己放電型の除電装置として使用する場合、導電性は任意にコントロールできるし、フレキシブル性にも優れているが、鉄などの金属物質に固定や接触させる場合、防錆性能を実用上許容されるレベルまで向上させる有効な対策が望まれている。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、接触する金属部品の腐食(サビの発生)を促進しない導電性繊維シートが提供される。この導電性繊維シートは、帯電性繊維シート基材が少なくとも部分的にポリピロールよりなる導電性高分子で被覆されている。本発明によれば、導電性高分子の重合に必要なアニオン成分が中和除去されている。
【0007】
好ましくは導電性繊維シートは、ポリエステルおよび/またはナイロンのような合成繊維の不織布、または織物またはニットのような布帛である。
好ましくは、導電性高分子による被覆は、帯電性繊維シートをドーパントを含む酸化剤水溶液で含浸し、含浸した基材を気相のピロールモノマーと接触させ、基材上に酸化重合した導電性高分子の被覆を生成させる。金属部品との接触によって腐食を促進するアニオンは、重合に使用したドーパントおよび酸化剤であるが、これらの成分を除去するには、被覆後処理した繊維シートを水酸化ナトリウムのようなアルカリ水溶液で処理して中和し、脱イオン水で十分に洗浄し、乾燥することによって達成することができる。場合により、導電性高分子の被覆の脱落を防止するため最後にバインダー樹脂で処理し、導電性高分子の接着を強化してもよい。
【0008】
ここで本出願において使用するいくつかの術語について定義する。
【0009】
「帯電性基材」とは、導電性で無い基材のことを言う。ここでいう導電性基材とは表面抵抗率が1×10Ω/□以下の基材を言い、例えば1×10Ω/□、1×10Ω/□の帯電性基材を本発明の方法によりそれぞれ1×10Ω/□、1×10Ω/□の防錆性を付与した導電性基材にすることができる。
【0010】
「繊維シート」とは、天然繊維、合成もしくは半合成化学繊維、またそれらの混合物によって構成されるシート状のウエブをいう。シートの構造もしくは形状は、例えば織物、ニットなどの布帛、不織布、紙などであるが、本発明による処理剤の受入れを許容するため繊維間に微細な間隙を持っていなければならない。特に低発塵性能を求められる用途には、極細繊維、典型的には極細ポリエステル繊維を原料とする布帛が好ましい。
【0011】
「ポリピロール」とは、ピロールのホモポリマーのみならず、ピロールと小割合の共重合可能なピロール同族体もしくは誘導体、例えばN−メチルピロール、3−メチルピロール、3,5−ジメチルピロール、2,2’−ビピロールとの共重合体をいう。
【0012】
「酸化剤」は、ピロールモノマーの酸化的重合によって導電性のポリピロールを与えることができる化学的酸化剤をいう。使用し得る酸化剤の具体例は米国特許Nos.4,604,427、4,521,450および4,617,228を含む多数の文献に記載されており、過硫酸アンモニウム、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、過酸化水素、過ホウ酸アンモニウム、塩化銅(II)などを含む。ドーパントとして使用するスルホン酸、例えばパラトルエンスルホンの第2鉄塩も酸化剤として使用することができる。
【0013】
「ドーパント」とは、ポリピロールの導電性を向上させるアニオンを指し、その具体例はやはり前出の米国特許を含む多数の特許文献に記載されている。パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ドテシルベンゼンスルホン酸、スルホン化ポリスチレンなどのスルホン酸が好ましい。
【0014】
「アルカリ水溶液」とは、特に限定するものでは無いが、水酸化物、アミン、アンモニアなどが使用することができる。例えば尿素のように加熱加水分解してアンモニアを生成するようなものも使用することができる。
【0015】
「バインダー樹脂」とは、溶剤型常乾塗料あるいはエマルションもしくはディスパージョンの形で常乾水系塗料にフィルム形成樹脂として使用される樹脂成分をいう。具体的には、塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニリデンなどのホモもしくはコポリマーを含むビニル系樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、それらの変性樹脂が含まれるが、化学的親和性を考慮して基材を構成する繊維と同系のバインダー樹脂、例えばポリエステル繊維に対してポリエステル系バインダー樹脂を採用するのが好ましい。ポリウレタンエマルションもしくはディスパージョンは多種類の材質の繊維シート基材に対して良好な接着性を持っている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の特徴部分は、基材となる材質や構造にはないので、先に定義した帯電性基材の中から使用目的に応じて適宜選択することができる。以下の説明は主として自己放電型の除電装置として使用する導電性繊維シートに向けられているが、使用する基材、処理剤、処理条件は、導電性を付与した帯電性基材の特定の使用目的に応じて当業者は容易に決定することができるであろう。
【0017】
先に述べたように、本発明の重要な局面の一つは、気相重合の採用により、一次粒子の90%以上が100nm以下のサイズのポリピロールをもって繊維シート基材を被覆することである。モノマーの重合反応速度はドーパントを含む酸化剤溶液のpHに依存し、通常は酸性側、特にpH1〜3の範囲にコントロールされる。より好ましい実施態様によれば、この溶液のpHは3〜11、さらに好ましくはpH3〜9の範囲にコントロールされる。先に挙げた酸化剤の中には、塩化第2鉄、硫酸第2鉄のように水溶液が本来酸性を呈するものがあり、中和によってFe3+イオンが溶液中に安定に存在し得なくなるものがある。このことを考慮に入れて、この場合は例えば過硫酸アンモニウム、過ホウ酸アンモニウムのようなpH6〜9において安定な酸化剤を選ぶ必要がある。重合反応速度をコントロールするための他の方法は、ピロール自体より反応速度の遅いコモノマーを共重合する方法である。例えばN−メチルピロールはピロールより反応速度が遅いことが知られている。そこで少割合、例えば10モル%以下のN−メチルピロールを含むピロールを重合反応に使用する。ドーパントを含む酸化剤溶液にバインダーを混合させた溶液を使用しても、重合反応速度を遅らせる効果がある。
【0018】
これまで酸化剤およびドーパントの両方の存在下で気相重合を行った場合のポリピロールの粒子サイズや発塵性などの性質に及ぼす影響はあまり検討されていない。さらにドーパントと酸化剤との特定の組合わせによっては含浸液が安定に存在し得なくなる場合を生ずる。本発明者は、ドーパントとして芳香族スルホン酸を使用する場合に、過硫酸のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩のような水溶性過硫酸塩を使用することにより、満足なポリ粒子サイズ、満足な低発塵性を有するポリピロールを基材上でピロールを気相重合することができることを発見した。また芳香族スルホン酸と過硫酸塩との組合わせは、水溶液中で酸性域からアルカリ性域までの広いpH範囲において安定である。
【0019】
次に基材はドーパントを含む酸化剤溶液で含浸されるが、含浸は浸漬、噴霧、塗布などによって行うことができる。過剰の溶液はマングルロールなどによって絞り出すことが望ましい。ドーパントおよび酸化剤の濃度はそれぞれ0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%、特に約1%が好適である。
【0020】
このようにドーパントを含む酸化剤溶液で含浸した基材は、気相のピロールモノマーと接触させられる。モノマーはドーパントを含む酸化剤溶液で濡れた基材と接触し、その上にポリピロールの導電性高分子の被覆を形成する。この気相重合反応は、ドーパントを含む酸化剤で含浸した基材を仕切られた反応室に入れ、その中にモノマーを気相の状態で導入し、モノマーがそれ以上反応しなくなるまでその状態に放置することによって実施することができる。場合により含浸工程をも含めて、気相重合反応を連続式に実施することも可能である。
【0021】
ピロールの大気圧における沸点は130℃であるが、それ以下の温度においても飽和蒸気圧に達するまで空気中で気化する。そのため反応室内に液体ピロールのエバポレータを設置し、気化したピロールと液体ピロールとを平衡状態に維持し、この状態の雰囲気にドーパントを含む酸化剤水溶液で含浸した基材を保持する。代りに、液体ピロールを収容したエバポレータを室外に設置し、窒素のような不活性キャリアーガスでバプリングし、気化したピロールをキャリアーガスと共に室内へ供給することもできる。エバポレータをどちらに設置するにせよ、液体ピロールの温度は5℃から100℃の範囲でよく、好ましくは20℃〜50℃、特に好ましくは常温でよい。液相法と違って気相法では反応に必要な酸化剤の量が限られているので、反応時間を厳密にコントロールする必要はない。
【0022】
ピロールの酸化重合は含浸した基材に含まれる酸化剤の消費につれて平衡に達し、自然に停止する。このような処理によって繊維シートの表面抵抗率を1011Ω/□のオーダー以下とすることができる。もし抵抗率がこの値に達しなければ、再び上に記載した含浸および気相重合のステップを所望の抵抗率に達するまで繰り返せば良い。処理した基材は洗浄して残っているドーパントを除去した後次工程に用いる。
【0023】
導電性ポリマーの付着率、すなわち処理前の基材に対する導電性ポリマーの重量%は、基材の性質、特に基材の比表面によって大幅に変動するが、一般に0.1〜5%であろう。
【0024】
導電性ポリマーを基材へ付着後、洗浄により未反応物質などを取り除き、その後アルカリ水溶液に代表される水酸化ナトリウム水溶液などによって中和し、最後に洗浄、乾燥を実施する。
【実施例】
【0025】
以下の実施例および比較例は限定を意図するものではなく、また「部」および「%」は特記しない限り重量基準による。
【0026】
1×10Ω/□以上の表面抵抗率の測定は、三菱化学社製表面抵抗計Hiresta−UP MCP−Hi450を用いて行った。1×10Ω/□以下の表面抵抗率の測定は、ダイアインスツルメンツ製ロレスタ−EP MCP−T360 MCP−TRF1を用いた。
【0027】
密着性の評価としては、摩擦堅牢度試験 JIS L0849 II形に準拠し、乾燥試験法で100回往復で評価を行った。
【0028】
繊維シート基材上のポリピロール粒子径の観察には、パシフィックナノテクノロジー社製 走査型プローブ顕微鏡 NANO−Rステージを用いて行った。
【0029】
腐食性は、35mmΦ、深さ20mmのポリエステル製の円筒容器に蒸留水を3g入れ、容器の開封部に作製された導電性シートを貼り付け、その上に軟鋼板を接触させて、50℃の乾燥機で24時間放置後で評価を行った。軟鋼板は軟鋼板SPCC−SB(JIS G3141)150×70mmをシンナーにより表面を脱脂処理したものを使用した。
【0030】
実施例1
マージンを除いて幅24cm、長さ120cm、厚み0.7mm、目付100g/mのポリエステル不織布を、過硫酸アンモニウム1.4%、パラトルエンスルホン酸1%の水溶液(pH1.35)に浸漬し、マングルにて過剰の溶液を除去した。その後湿った不織布を平坦に広げた状態で反応室に入れ、室内に設置したエバポレーターからピロールの蒸気を室内に充満させ、1時間放置してピロールの気相重合を行った。反応終了後不織布を反応室から取出し、10Lの蒸留水で3回洗浄し、マングルにて水切りした後、105℃で1時間乾燥した。処理前および処理後の重量差から、ポリピロールの付着率は1.2%と計算された。
【0031】
得られた導電性不織布をマージンを残して24×24cm大の5枚にカットし、5枚の平均表面抵抗率を測定したところ、4×10Ω/□であった。
その後、2LのビーカーにpH5.8、5μS/cmの電気伝導度であるイオン交換水1Lを入れ、その中に作製された24×24cm大の導電性不織布を1枚入れた。5分間十分に攪拌後のイオン交換水はpH4.3を示した。
導電性不織布を含浸させたpH4.3の水溶液に、5分間十分に攪拌させた後のPHが8.5になるまで10%の水酸化ナトリウム水溶液を添加した。その後、導電性不織布を取り出し、1Lの蒸留水で3回洗浄を行った。マングルにて水切りした後、105℃で1時間乾燥した。この操作で導電性不織布を5枚とも処理を行った。再びpH5.8のイオン交換水1Lに中和された導電性不織布を含浸し、5分間十分に攪拌後の5枚の平均pHは5.7であった。これらの作製した5枚の導電性不織布をマングルにて水切りした後、105℃で1時間乾燥した。得られた導電性不織布の5枚の平均表面抵抗率を測定したところ、6×10Ω/□であった。これらの導電性不織布を3×22cmにカットし、摩擦堅牢試験を行った。3枚の平均堅牢度は2−3級であった。カットして残った導電性不織布のポリピロールの1次粒子径を観察すると、90%以上が10〜50nmのサイズであった。蒸留水が入っているポリエステル容器に中和処理によって得られた導電性不織布を貼り付けて、その上に150×70mmの軟鋼板を載せたものを2セット用意した。それを50℃の乾燥機で24時間放置した。取り出した軟鋼板の表面の錆びは確認されなかった。
【0032】
実施例2
基材を目付100g/mのポリエステル織布に変更したことを除き、実施例1の操作を繰り返した。得られたポリエステルの平均表面抵抗率および中和乾燥後の平均表面抵抗率は、それぞれ1×10Ω/□および5×10Ω/□であった。また、3枚の平均堅牢度は4級であり、ポリピロールの1次粒子径は、90%以上が10〜50nmのサイズであった。腐食試験において、軟鋼板の錆びは確認できなかった。
【0033】
実施例3
ドーパントを含む酸化剤含浸溶液を、過硫酸アンモニウム1.4%、パラトルエンスルホン酸1%、アンモニアでpH9.0に調節した水溶液に変更したことを除き、実施例2の操作を繰り返した。得られたポリエステルの平均表面抵抗率および中和乾燥後の平均表面抵抗率は、それぞれ5×10Ω/□および9×10Ω/□であった。また、3枚の平均堅牢度は4級であり、ポリピロールの1次粒子径は、90%以上が10〜40nmのサイズであった。腐食試験において、軟鋼板の錆びは確認できなかった。
【0034】
実施例4
基材を厚み1.0mm、目付120g/mのポリエステル:ナイロン=80:20の割合で構成された編み物に変更したことを除き、実施例1の操作を繰り返した。得られたポリエステル−ナイロン編み物の平均表面抵抗率および中和乾燥後の平均表面抵抗率は、それぞれ7×10Ω/□および2×10Ω/□であった。また、3枚の平均堅牢度は3−4級であり、ポリピロールの1次粒子径は、90%以上が10〜50nmのサイズであった。腐食試験において軟鋼板の錆びは確認できなかった。
【0035】
実施例5
実施例4で使用した編み物を電気化学工業製、OP−1030M 1液型アクリル樹脂で片面を編み物の重量比に対して20%量コートし、その後コーティング部を5mW/cmの紫外線照射で30秒硬化させた基材に変更したことを除き、実施例1の操作を繰り返した。得られたポリエステル−ナイロン編み物(アクリル樹脂コート品)の平均表面抵抗率および中和乾燥後の平均表面抵抗率は、それぞれ5×10Ω/□および5×10Ω/□であった。また、3枚の平均堅牢度は2−3級であり、ポリピロールの1次粒子径は、90%以上が10〜50nmのサイズであった。腐食試験において軟鋼板の錆びは確認できなかった。
【0036】
比較例1
10%水酸化ナトリウム水溶液にて中和反応をしない以外、実施例1の操作を繰り返して、導電性不織布を得た。得られた導電性不織布をマージンを残して24×24cm大の5枚にカットし、5枚の平均表面抵抗率を測定したところ、4×10Ω/□であった。また、3枚の平均堅牢度は2−3級であり、ポリピロールの1次粒子径は、90%以上が10〜50nmのサイズであった。腐食試験において軟鋼板の錆びが確認できた。
【0037】
比較例2
基材を目付100g/mのポリエステル織布に変更したことを除き、比較例1の操作を繰り返した。得られた導電性織布をマージンを残して24×24cm大の5枚にカットし、5枚の平均表面抵抗率を測定したところ、1×10Ω/□であった。また、3枚の平均堅牢度は4級であり、ポリピロールの1次粒子径は、90%以上が10〜40nmのサイズであった。腐食試験において軟鋼板の錆びが確認できた。
【0038】
帯電状態を測定するのにはトレック・ジャパン社製の表面電位計(ELECTROSTATIC VOLTMETER MODEL542)を用いて測定した。
【0039】
実施例6
30cm/minで連続駆動する装置に、図1に示すようにポリエチレンから構成される目付100g/m、幅25cmの乾式不織布01をニトリルゴム製の絞りロール02に挟んで等速で送り出した。絞りロール02から等速で送り出された乾式不織布01を、巻き取りロール03を使用して水平に送り出した。
絞りロール02と巻き取りロール03の間で、乾式不織布01の帯電状態を表面電位計04にて確認した。除電性能は自己放電型除電ブラシ05を設置後、30秒経過した値を測定した。
除電性能評価に用いた自己放電型除電ブラシ05は実施例で得たポリピール被覆繊維シートの幅30cm×長さ5cmのサイズのものを用いた。
除電性能評価は10mm直径のステンレスの棒06に自己放電型の除電ブラシ05を巻き付けて、この除電ブラシ05を幅25cm、長さ方向で3cmの面を乾式不織布01と接触するように設置させた。
【0040】
比較のため、図1において取付具を含めて除電ブラシを設けない場合、ステンレス取付具のみで導電性繊維シートを取付けない場合および本発明の導電性繊維シートの代りにカーボン繊維含有編み物(5mmピッチ)を取付けた場合の帯電状態を測定した。結果を下表に示す。
【0041】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】自己放電ブラシとして使用した場合の本発明の導電性繊維シートの除電性能の測定に使用する装置の概略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電性繊維シートが少なくとも部分的に導電性高分子で被覆されている導電性繊維シートであって、導電性高分子の重合に必要なアニオン成分がシートと接触する金属部品の腐食を促進しなくなるまで中和除去されていることを特徴とする導電性繊維シート。
【請求項2】
導電性高分子がポリピロールである請求項1の導電性繊維シート。
【請求項3】
帯電性繊維シート基材が,合成繊維の不織布または布帛である請求項1または2の導電性繊維シート。
【請求項4】
重合に必要なアニオン成分が導電性高分子重合に使用されたドーパントおよび酸化剤である請求項1または2または3の導電性繊維シート。
【請求項5】
表面抵抗率が10Ω/□以下のオーダーである請求項1の導電性繊維シート。
【請求項6】
前記導電性高分子による導電性シート基材の被覆は、(a)基材をドーパントを含む酸化剤水溶液で含浸し、(b)含浸した基材を気相のモノマーと接触させ、酸化重合によって基材上に導電性ポリマーを生成させることによって達成され、前記アニオン成分の中和除去は、ステップ(b)後処理した基材とアルカリ水溶液を接触させ、水洗乾燥することによって達成される請求項1ないし5のいずれかの導電性繊維シートの製造法。
【請求項7】
請求項5の導電性繊維シートよりなる、OA機器において用紙に発生する静電気を除去するための除電ブラシ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−221625(P2009−221625A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66988(P2008−66988)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】