腐食センサおよび腐食センサの設置方法
【課題】センサを保護し、センサ付近の粗大な空隙を回避して腐食因子の正確な検出を可能とすると共に、センサの設置作業を容易にし、作業工程の短縮化を図る。
【解決手段】鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサ3aであって、鉄筋を腐食させる腐食因子のコンクリートへの浸透状態を検出し、腐食因子の浸透状態を示すデータを出力する検出部1aと、検出部1aを被覆し、コンクリート、モルタルまたはペーストで成形されたセメント硬化体部と、を備える。セメント硬化体部は、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで成形されている。
【解決手段】鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサ3aであって、鉄筋を腐食させる腐食因子のコンクリートへの浸透状態を検出し、腐食因子の浸透状態を示すデータを出力する検出部1aと、検出部1aを被覆し、コンクリート、モルタルまたはペーストで成形されたセメント硬化体部と、を備える。セメント硬化体部は、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで成形されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサおよび腐食センサの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート構造物の状態を把握するためのセンサが知られている。例えば、特許文献1には、検知対象物の使用環境下で検知対象物の金属より腐食し易い金属またはアルカリ溶解性金属からなるベース材、およびベース材の少なくとも一部を被覆して形成され、検知対象物の使用環境下で腐食する金属からなる被膜により形成される検知部と、検知部を保持するための基材と、から構成された腐食センサが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、コンクリート構造物中に埋設される鋼材の腐食進行状況を診断するのに用いる腐食センサが開示されている。この腐食センサは、腐食検出部で、測定対象物または測定対象物の近傍に敷設される検出用部材を有し、金属製の検出用部材の腐食を、検出用部材の電気的特性を測定することにより検出する。そして、腐食の検出結果を読取装置に対して無線送信する。この構成により、電気的特性の変化から検出用部材の腐食を検出することができ、鉄筋、PC鋼線、鋼製シース管等の鋼材の腐食が生じているかどうかを予想することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−163324号公報
【特許文献2】特開2006−337169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の腐食センサでは、腐食因子を検出するセンサは、基本的に、腐食因子に直接的に面することを前提に設計されている。これらのセンサをコンクリート構造物中に設置する場合、コンクリートの打設時に、センサが傷つく可能性があった。また、センサ近傍に空隙ができ、正確な検知が妨げられる場合があった。また、細鉄線を検知部とした腐食検知センサでは、検知部となる鉄部材が、埋設するまでに錆びてしまうことがあるため、鉄部材が錆びないようにする必要があった。さらに、既存のコンクリート構造物へ取り付ける場合は、コンクリート構造物を局部破壊(削孔)してセンサを設置することになるが、この場合にも、上記と同様の課題が存在していた。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、センサを保護し、センサ付近の粗大な空隙の発生を回避して、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境の正確な検出を可能とすると共に、センサの設置作業を容易にし、作業工程の短縮化を図ることができる腐食センサおよび腐食センサの設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の腐食センサは、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサであって、鉄筋を腐食させる腐食因子のコンクリートへの浸透状態を検出し、前記腐食因子の浸透状態を示すデータを出力する検出部と、前記検出部を被覆し、コンクリート、モルタルまたはペーストで成形されたセメント硬化体部と、を備えることを特徴としている。
【0008】
このように、検出部をコンクリート、モルタルまたはペーストで被覆するため、検出部の保護機能が飛躍的に向上し、検査対象の構造物のコンクリート中へ容易に設置することが可能となる。また、検出部が鉄部材である場合は、コンクリート、モルタルまたはペースト内でアルカリ環境下に置かれることから、検出部が不導体被膜で覆われる。その結果、コンクリート、モルタルまたはペースト内部に置かれていない検出部と比較すると錆びにくくなり、取扱いが容易となる。
【0009】
(2)また、本発明の腐食センサにおいて、前記セメント硬化体部は、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで成形されていることを特徴としている。
【0010】
このように、セメント硬化体部は、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで成形されているので、腐食因子の浸透性状が、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上となり、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を正確に検出することが可能となる。また、検査対象の構造物のコンクリート中に設置した後も、強度が確保されるため、欠陥が発生する可能性を極めて低くすることが可能となる。
【0011】
(3)また、本発明の腐食センサにおいて、前記セメント硬化体部は、円筒形に成形されていることを特徴としている。
【0012】
このように、セメント硬化体部は、円筒形に成形されているので、既存のコンクリート構造物へ取り付ける場合、コアボーリングを行なった後の削孔部に設置することができ、作業性の向上を図ることが可能となる。
【0013】
(4)また、本発明の腐食センサにおいて、前記検出部は、前記データを無線信号で出力することを特徴としている。
【0014】
このように、データを無線信号で出力するので、ケーブルをコンクリートから引き出す必要がなくなり、ケーブルとコンクリートとの隙間から腐食因子が浸入することを回避することが可能となる。
【0015】
(5)また、本発明の腐食センサの設置方法は、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサの設置方法であって、鉄筋を腐食させる腐食因子の浸透状態を検出し、前記腐食因子の浸透状態を示すデータを出力する腐食センサを、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで被覆してセメント硬化体部を成形するステップと、前記セメント硬化体部を、検査対象の構造物のコンクリートに埋設するステップと、を少なくとも含むことを特徴としている。
【0016】
このように、検出部をコンクリート、モルタルまたはペーストで被覆するため、検出部の保護機能が飛躍的に向上し、検査対象の構造物のコンクリート中へ容易に設置することが可能となる。また、検出部が鉄部材である場合は、コンクリート、モルタルまたはペースト内でアルカリ環境下に置かれることから、検出部が不導体被膜で覆われる。その結果、コンクリート、モルタルまたはペースト内部に置かれていない検出部と比較すると錆びにくくなり、取扱いが容易となる。また、セメント硬化体部は、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで成形されているので、腐食因子の浸透性状が、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上となり、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を正確に検出することが可能となる。また、検査対象の構造物のコンクリート中に設置した後も、強度が確保されるため、欠陥が発生する可能性を極めて低くすることが可能となる。
【0017】
(6)また、本発明の腐食センサの設置方法は、前記セメント硬化体部を、検出対象の構造物のコンクリートをコアボーリングした削孔部に挿入可能な直径を有する円筒形に成形し、前記セメント硬化体部を前記削孔部に埋設することを特徴としている。
【0018】
このように、セメント硬化体部を、検出対象の構造物のコンクリートをコアボーリングした削孔部に挿入可能な直径を有する円筒形に成形し、セメント硬化体部を削孔部に埋設するので、既存のコンクリート構造物へ取り付ける場合、コアボーリングを行なった後の削孔部に設置することができ、作業性の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、検出部をコンクリート、モルタルまたはペーストで被覆するため、検出部の保護機能が飛躍的に向上し、検査対象の構造物のコンクリート中へ容易に設置することが可能となる。また、検出部が鉄部材である場合は、コンクリート、モルタルまたはペースト内でアルカリ環境下に置かれることから、検出部が不導体被膜で覆われる。その結果、コンクリート、モルタルまたはペースト内部に置かれていない検出部と比較すると錆びにくくなり、取扱いが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】矩形の検出部1aおよびその支持部2aを示す図である。
【図1B】円形の検出部1bおよびその支持部2bを示す図である。
【図2A】プレート型に成形した腐食センサの斜視図である。
【図2B】プレート型に成形した腐食センサの平面図である。
【図2C】プレート型に成形した腐食センサの側面図である。
【図3A】円筒型に成形した腐食センサの斜視図である。
【図3B】円筒型に成形した腐食センサの側面図である。
【図4A】本実施形態に係る腐食センサ4aの製造方法の一例を示す図である。
【図4B】本実施形態に係る腐食センサ4aの製造方法の一例を示す図である。
【図5A】腐食センサの製造方法の一例を示す図である。
【図5B】腐食センサの製造方法の一例を示す図である。
【図5C】腐食センサの製造方法の一例を示す図である。
【図6A】新設構造物に腐食センサを取り付ける様子を示す図である。
【図6B】既設構造物に腐食センサ6bを取り付ける様子を示す図である。
【図7】水セメント比に対する塩分拡散係数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る腐食センサでは、検出部をモルタルで被覆する構成を採る。構造物中の鉄筋の腐食は、様々な要因によって生じるが、模擬腐食部材を用いた腐食センサでは、腐食環境を検知するので腐食因子の種類は問わない。このような腐食センサにおいて、まず、モルタルで被覆される検出部について説明する。図1Aは、矩形の検出部1aおよびその支持部2aを示す図であり、図1Bは、円形の検出部1bおよびその支持部2bを示す図である。検出部1a、1bの形状は、長方形や正方形、円形、梯子状、階段状など、任意の形状とすることができる。検出部1a、1bの寸法は、モルタルに使用している骨材の最大骨材寸法よりも大きいことが好ましい。本実施形態では、検出部1aの寸法を20mm×30mmとし、支持部2aの寸法を30mm×40mmとしている。また、検出部1bの寸法を直径25mmとし、支持部2bの寸法を直径30mmとしている。
【0022】
例えば、細骨材で考えた場合、10mmのふるいを全通することが条件であるため、10mm×10mm程度の大きさ以上とする。また、検出部と被埋設モルタル表面の間隙が小さい場合、コンクリートと接するモルタル面の直上に、コンクリートの骨材が配置される可能性があり、この場合は検出部の寸法がコンクリート骨材よりも小さいと検知感度に影響を受けることが推測される。コンクリートの骨材は、汎用的には20〜25mmを最大粗骨材寸法としている。このことから、検出部の面積は20mm〜30mm以上とすれば、確率的に配置位置による検知感度への影響は小さくなる。
【0023】
一方、検出部の面積が極端に大きくなる、すなわち埋設するセンサの大きさが著しく大きい場合は、設置するコンクリートの物性と異なるため、変状が生じる可能性があり好ましくない。例えば、600mm×800mmでは好ましくない。検出部の支持部2a、2bは、モルタル・コンクリートに不具合を生じない材料で、腐食因子による反応性が無い材料であれば種類を問わない。例えば、PET材やポリイミドなどの高分子樹脂が好ましい。これらの高分子樹脂は成形性が良く、薄肉化を図ることができる。
【0024】
なお、本実施形態では、検出部1a、1bの形状は問わない。例えば、検出部1a、1bを櫛形の金属で形成しても良いし、鋸歯状の金属で形成しても良い。
【0025】
図2Aは、プレート型に成形した腐食センサの斜視図であり、図2Bは、プレート型に成形した腐食センサの平面図、図2Cは、プレート型に成形した腐食センサの側面図である。腐食センサ3aにおいて、検出部1aを被覆するモルタルは、直方体型、立方体型、プレート型、円筒型、階段型など、設置に不具合が無ければ任意の形状として良い。ただし、既設構造物に設置する場合は、円筒型とすることが好ましい。
【0026】
モルタルの寸法は、上記の検出部の寸法と同様の理由により、小さすぎても大きすぎても好ましくない。図2Bおよび図2Cに示すように、モルタルの寸法は、例えば、50mm〜60mm、厚さは25mm、表面からの距離d1は、2mm〜20mmとすることが好ましい。なお、d1は、2mm〜5mmの範囲であっても良いし、2mm〜10mmの範囲であっても良い。
【0027】
検出部1aとモルタル表面との距離は、短いほうが検知感度の向上に繋がるが、一方で使用材料の骨材が充分に充填されなければ意味が無い。ペーストであれば2mm〜5mmとすることも可能であるが、モルタルの場合は、骨材の最大粒径を勘案した場合、5mm〜20mm程度とするのが好ましい。
【0028】
図3Aは、円筒型に成形した腐食センサの斜視図であり、図3Bは、円筒型に成形した腐食センサの側面図である。この腐食センサ3bの直径は、46mm、表面からの距離d2は10mmである。但し、これはあくまでも例であって、本発明は、これらの数値に限定されるわけではない。
【0029】
[コンクリート、モルタル、ペーストの関係]
[定義]
コンクリートとは、セメント、水、細骨材、粗骨材および必要に応じて加える混和材料を構成材料とし、これらを練り混ぜその他の方法によって混合したもの、または硬化させたものをいう。モルタルとは、セメント、水、細骨材および必要に応じて加える混和材料を構成材料とし、これらを練り混ぜその他の方法によって混合したもの、または硬化させたものをいう。ペーストとは、セメント、水および必要に応じて加える混和材料を構成材料とし、これらを練り混ぜその他の方法によって混合したもの、または硬化させたものをいう。細骨材とは、10mm網ふるいを全部通り、5mm網ふるいを質量で85%以上通る骨材をいう。粗骨材とは、5mm網ふるいに質量で85%以上とどまる骨材をいう。
【0030】
[関係]
コンクリート、モルタル、ペーストの相互関係は、次の通りである。コンクリートは、最上位概念であり、範囲は最大となる。コンクリートのうち、粗骨材を含まないものがモルタルであり、モルタルのうち、細骨材を含まないものがペーストである。
【0031】
[使用するセメントについて]
腐食センサを被覆するコンクリートは、腐食因子によって浸透性が大きく異なる場合があるため、構造物コンクリートで使用されるセメント材料を選定することが好ましい。前提として、構造物コンクリートと水セメント比等を合わせ、強度を確保しつつ浸透性を同等にできるのであれば、対象構造物コンクリートに使用されているセメントを使用することに問題は無く、むしろ好ましい。一般的なコンクリートでは、普通ポルトランドセメントが使用される割合が高いため、以下、普通ポルトランドセメントを基準に記載する。
【0032】
例えば、腐食因子が塩化物イオンである場合、塩化物イオンの浸透は、セメント中のアルミネート相(C3A),フェライト相(C4AF)が多い場合、セメントが水と反応して生成される水和物として、カルシウムアルミネート水和物の割合が増える。カルシウムアルミネート水和物は、塩化物イオンと接すると、その一部が塩化物イオンを固定化するフリーデル氏塩(不溶性の塩)を生成する。そのため、同一強度レベルのコンクリートで比較した場合、塩化物イオンの浸透が緩やかとなる。また、高炉スラグを含む高炉セメント(=混合セメント)を用いたコンクリートでは、塩化物イオンの浸透が抑制されることが知られている。
【0033】
逆に、C3A量の少ないセメントでは塩化物イオンが浸透しやすくなり、市販のものでは低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントなどが挙げられる。また、C3A、C4AFの含有割合の少なく、混合材等を多く含まないセメントであれば、特に種類を限定するものではない。
【0034】
これに対し、腐食因子が二酸化炭素である場合は、塩分とメカニズムが異なるため、被覆モルタルへの浸透性に影響するセメントは異なる。二酸化炭素に起因したコンクリートの中性化による鉄筋腐食は、コンクリートのpH低下によって発生する。その進行過程は、二酸化炭素の拡散では、コンクリートの構成物質である水酸化カルシウム(pH12.6程度)の炭酸化によるコンクリートのpHの低下、鋼材の腐食(pH9〜10で腐食進行)、のように進行する。従って、セメントが水と反応して生成される水酸化カルシウム量によって、中性化の進行速度は異なってくる。
【0035】
水酸化カルシウムは、セメント主要水和物で、一般のセメントでは必ず生成されるため、一概にセメント種によって中性化の速さを述べることは難しいが、水酸化カルシウムの生成量もしくは生成可能量の観点から考えた場合、生成量の少ないセメントほど中性化に対しては抵抗性が小さくなるといえる。従って、最も水酸化カルシウムの生成量が少ないセメントは、混合セメントである高炉セメント、フライアッシュセメントが挙げられる。混合セメントは、セメントに高炉スラグ、フライアッシュ等が混合されたセメントで、前記の混合材は水酸化カルシウムを生成せず、むしろ水酸化カルシウムと反応して硬化するため水酸化カルシウム量が相対的に少なくなる。
【0036】
被覆モルタルは、高炉セメントやフライアッシュセメントなどの混合セメントや、あるいは低熱高炉セメントや中庸熱フライアッシュセメントなどを用いることが相対的に好ましいと考えられる。また、市販品に限定するものではなく、混合材の混合比等を換えて製造したセメントでも良い。
【0037】
すなわち、本実施形態で使用するセメントは、次のようなものが好ましい。
(1)水セメント比同等(物性/浸透性同等)とする場合は、対象構造物に使用されているセメント、普通セメント、またはより浸透性の高いセメントを使用する。
(2)水セメント比が小さい場合、あるいは感度をより向上させたい場合で、塩化物イオンを考慮する場合は、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントなどがある。なお、C3A、C4AFの含有割合が少なく、混合材等を多く含まないセメントであれば、特に種類を限定するものではない。
(3)水セメント比が小さい場合、あるいは感度をより向上させたい場合で、炭酸ガス(中性化)を考慮する場合は、高炉セメント、フライアッシュセメントなどがある。
【0038】
なお、上記化学組成については、次の通りである。アルミネート(C3A)、フェライト(C4AF)等の呼称は、セメント鉱物に用いられる呼称で、JIS等での記載は、アルミン酸三カルシウムで、「3CaO・Al2O3」と記す。セメントの主要構成鉱物は、他にC3S、C2S、C4AFがある。エーライト(C3S)は、けい酸三カルシウムで、「3CaO・SiO2」と記す。また、ビーライト(C2S)は、けい酸二カルシウムで、「2CaO・SiO2」と記す。また、フェライト(C4AF)は、アルミン酸鉄四カルシウムで、「4CaO・Al2O3・Fe2O3」と記す。
【0039】
JIS R 5210のポルトランドセメントの規格に記載のC3Aの規定値は、次の通りである。
低熱ポルトランドセメント:アルミン酸三カルシウム 鉱物組成 6%以下
中庸熱ポルトランドセメント :アルミン酸三カルシウム 鉱物組成 8%以下
耐硫酸塩ポルトランドセメント:アルミン酸三カルシウム 鉱物組成 4%以下
なお、普通ポルトランドセメントには、アルミン酸三カルシウムの上限規定値はない。
【0040】
通常、良く使用されるセメントの鉱物組成の一例を以下に示す。
【表1】
上記の表において、構成鉱物の合計割合が100%にならないのは、セメント製造で添加される粉砕助剤、石こう、5%以下で認められるJIS規定の混合材(石灰石微粉末、高炉スラグ、フライアッシュなど)があることによる。これらを全て足すと100%となる。
【0041】
なお、高炉セメントとは、JIS R 5211の「高炉セメント」のことをいう。また、本明細書では、前記に加え、JIS A6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」で規定のものを混合材として混合したセメントも含める。また、フライアッシュセメントとは、JIS R 5213の「フライアッシュセメント」のことをいう。また、本明細書では、前記に加え、JIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」で規定のものを混合材として混合したセメントも含める。
【0042】
[コンクリートの強度について]
コンクリートの強度は、使用材料が同一であれば、水とセメントの比(水/セメント質量比)によって決定される。このため、一般に、コンクリートの強度は、水セメント比あるいはセメント水比によって設定される。この関係は、比例関係にあることが確認されており、セメント水比の場合に強度と正比例する。また、物質浸透性(物質移動)についても、水セメント比が大きなファクターとして規定され、セメント種が同一であれば、これが支配的要因となる。
【0043】
ただし、強度は、使用骨材が異なると変動するので、水セメント比が同一の条件でも、強度を完全に一致させることは難しい(比例直線の切片が異なる)。被覆モルタルは工場で管理・製造するので、ある特定の骨材を使用して、水セメント比ごとに強度を確認し、水セメント比と強度の関係を予め確認し、比例直線を求めておく。この関係から、対象構造物コンクリートの強度以上となる水セメント比で、かつ対象構造物の水セメント比と近くなるように被覆モルタルの水セメント比を設定する。ここで、強度が同等でも水セメント比が対象構造物コンクリートよりも大きくなる場合は、水セメント比を同一にする(強度が大きい分には問題にならない)。
【0044】
本実施形態においては、コンクリートの強度を次のように定める。
(1)被覆モルタルの強度が、対象構造物コンクリートと同等以上とする。
(2)上記(1)を満たし、対象構造物コンクリートの水セメント比以下の条件で、被覆モルタルの水セメント比を最大とする。
【0045】
(例1)対象構造物コンクリートが強度36N/mm2で、水セメント比が52.5%である場合、被覆モルタルは強度40N/mm2以上で、水セメント比が55%以下である必要があるとすると、被覆モルタルの水セメント比を52.5%と設定する。
【0046】
(例2)対象構造物コンクリートが強度36N/mm2で、水セメント比が57.5%である場合、被覆モルタルは強度40N/mm2以上で、水セメント比が55%以下である必要があるとすると、被覆モルタルの水セメント比を55%と設定する。
【0047】
新設構造物であれば、水セメント比が既知であるため、上述の手法を用いる。既設コンクリートで、水セメント比などの配合情報が既知の場合も同様である。一方、配合情報が未知の場合は、既設構造物への設置はコア抜きが伴うので、抜いたコンクリートコアについて試験し、強度レベルを確認する。ここから、例えば、既設コンクリートの強度レベルに安全率を20%程度の安全率を乗じて、被覆モルタルの強度レベルを設定し、そこから水セメント比が決定される。この場合は、対象コンクリートの水セメント比が未知であるものの、強度に安全率を乗じて算定された水セメント比であるため、問題は生じない。
【0048】
これは、実質的に同等もしくは小さい水セメント比になると考えられるためである。既設コンクリートは、長期間経過して強度が増進しているため、強度レベルで合わせると短期強度で設計する被覆モルタルの水セメント比は小さくなる場合が多く、さらに安全率を乗じているためである。
【0049】
[モルタルの配合について]
モルタルの配合は、単位容積当りの構成材料の質量で示されている。配合を選定する条件は、材料種類(水、セメント、骨材)、水セメント比(質量比)、単位骨材容積比(単位容積に占める骨材容積の割合)である。なお、水は、一般に上水道水であれば良く、JIS適合水でも良い。モルタルの水セメント比(mass)の範囲は20%〜70%、単位骨材容積率(vol)は0%〜75%程度の範囲で、対象のコンクリートに合わせて設定することが好ましい。
【0050】
水セメント比は、対象のコンクリートの水セメント比に対して同等であることが最も好ましく、0〜10%程度小さく設定しても良い。単位骨材容積は、割合が高いほどコンクリートに近づくが施工性も低下する。逆に割合が低ければ施工性は改善されるがコンクリートの物性から離れ、また材料分離も生じやすくなる。軟らかさや締固め性、腐食センサの設置位置などを勘案して設定でき、0%〜75%の範囲で設定でき、好ましくは30%〜65%の範囲である。次の表は、モルタルの配合条件と配合例を示す。なお、対象コンクリートのW/Cは、57.5%であるとする。
【0051】
【表2】
ここでは、中庸熱ポルトランドセメント(密度3.21g/cm3)、砕砂(密度:2.60g/cm3)を使用する。
【0052】
腐食センサを埋設するモルタルは、複数の配合を予め準備し、適当な範囲となるものを選択することができる。次の表は、腐食センサを埋設するモルタルの水セメント比の適用範囲の一例を示す。なお、次の表よりも、細かく設定することも可能である。
【0053】
【表3】
対象のコンクリートの水セメント比が不明の場合、調査によってある程度の範囲で推定することができる。そのため、上記の表のような選択基準でモルタルを選択することも可能である。
【0054】
[拡散係数と腐食センサの設置位置について]
腐食因子が、例えば、塩化物イオンや炭酸ガスであるような場合、モルタル・コンクリートへの浸透は、拡散によって進行する。このため、拡散係数が、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を示す直接的な尺度となる。モルタル・コンクリートの拡散係数は、使用材料、配合、環境によって異なるため、厳密な意味での拡散係数を求めることは容易ではないが、試験や調査によって見かけの拡散係数を求めることができる。環境条件を除けば、拡散係数は、材料組成に依存するので、拡散係数によってモルタル品質を設定しても良い。
【0055】
腐食センサの検知対象が塩分である場合は、セメント種としてC3A量の少ないセメントの使用により、また、検知対象が炭酸ガスである場合には、混合セメントの使用により、塩分および炭酸ガスの見掛けの拡散係数が大きくなる傾向がある。このため、検知感度の向上に有効である。また、配合上の水セメント比を同程度、あるいは近付けて設定すれば拡散係数を近付けることが可能となる。その上で、被覆モルタルに埋設する腐食センサの設置位置を、施工性や保護性を担保した範囲で、できるだけ表面近傍に設置すれば、検知感度が向上する。検知対象のコンクリートと、腐食センサ埋設モルタルにおいて、塩分・二酸化炭素の拡散が生じ、腐食センサによって検知することが可能となる。拡散は、濃度差を駆動力として、時間に応じて因子の到達距離が決定される。言い換えれば、距離を短くすることは拡散因子の到達時間を短縮する直接的な手法となり得る。なお、水セメント比に対する塩分拡散係数の関係の一例を図7に示す。
【0056】
表面から腐食センサまでの間隔は、2mm〜20mm程度とすることが好ましく、より好ましくは2mm〜10mm程度、さらに好ましくは2mm〜5mm程度とすることが好ましい。上記の範囲であれば、水セメント比が検知対称コンクリートより多少小さくなったとしても、モルタル材料の検討を行なうことで、コンクリート構造物中の腐食因子の浸透から鉄筋腐食までの時間的オーダー(数年〜数十年)と比較して、維持管理に資する上で、十分な検知感度を付与することが可能となる(数ヶ月から数年以内の検知感度)。なお、既述したように、検知対象のコンクリートと被覆モルタルの水セメント比が同等であることが最も好ましい。なお、拡散係数は、塩分拡散係数、炭酸ガス拡散係数(中性化速度係数)等、種々有るので、用途に合わせて、いずれを基準にして設定しても良い。
【0057】
[腐食センサの製造]
図4Aおよび図4Bは、本実施形態に係る腐食センサ4aの製造方法の一例を示す図である。検出部1aを、固定具4bを用いて固定する。ワイヤ等を用いて検出部1aを吊るしても良い。図4Aおよび図4Bにおいて、浸透防止用樹脂4c(またはフィルム等)をモルタル(セメント硬化体部)背面に設置し、腐食センサ4aを介して、コンクリート構造物に腐食因子が浸透するのを防ぐ。
【0058】
[埋設物]
腐食センサの製造は、検出部、すなわち、センサ部、基板、ケーブル(無線の場合は不要)をモルタル中に埋設する。無線方式(RFID方式)の場合は、RFIDタグ部をモルタル中に埋設して、ワイヤレスのセンサとする。無線方式は、新設構造物、既設構造物の維持管理において、効率化だけでなくデータの保持や、長期耐久性の観点でも極めて有効な手段である。特に、既設構造物に埋設する場合、削孔部の躯体表面近傍は入念な補修が必要となり、無線であることのメリットは大きい。
【0059】
[製造方法]
図5A〜図5Cは、腐食センサの製造方法の一例を示す図である。検出部1aを被覆するセメント硬化体部5a(モルタル)は、直方体、立方体、プレート型、円筒状、階段状など、設置に不具合が無ければ任意の形状として良く、前記形状となる型枠を使用して作製する。この際、検出部1aの位置精度を出す必要があるので、検出部1aを、モルタルを流し込む前にあらかじめ型枠に設置しても良いし、2回に分ける方法、すなわち硬化したモルタルにセンサを設置後に再度打設して、腐食センサを作製することもできる(図5B、図5C参照)。検出部1aを型枠に設置後、まだ固まらないモルタル・ペーストを前記型枠に打設して、硬化させて作製する。
【0060】
なお、図5Bでは、型枠にスリットを入れ、半月形のセメント硬化体部5bを作成する。硬化後のモルタルの平面部に、図5Cに示すように、検出部1aを設置した後、同一の型枠に入れ直し、モルタルを打設する。また、図5Cに示すように、検出部1aの反対側の表面に、浸透防止樹脂5c(またはフィルム等の躯体コンクリートに影響を与えない素材)でシールする。また、図5Cにおいて、検出部1aの設置位置S1、S2は、スリットを変更することにより変更することができる。
【0061】
本実施形態に係る腐食センサは、以上のような手法を用いて工場で製造することができるため、品質および精度が確保され、コンクリート中での測定において、腐食センサの検知データのばらつきを抑えることができる。すなわち、不確実性の少ない腐食センサを提供することが可能となる。
【0062】
[構造物への設置]
[新設構造物]
図6Aは、新設構造物に腐食センサを取り付ける様子を示す図である。構造物に不具合の生じないように、腐食センサ6aを任意の位置に設置する。腐食センサ6aの固定は、内部の鉄筋6cを活用する。有線の場合はケーブルを外に引き出すが、無線の場合は、RFIDタグ等を一緒に構造物内に設置する。腐食センサとタグは有線で接続し、分割した場所でも、同一の箇所に設置しても良い。
【0063】
[既設構造物]
図6Bは、既設構造物に腐食センサ6bを取り付ける様子を示す図である。既設構造物にコアボーリングを行なった後、筒型の腐食センサ6bを設置し、補修モルタル等で残り削孔空洞部を充填する。これにより、有線・無線ともに活用できる。無線はRFIDだけではなく、特定省電力無線や、電池を積んだアクティブタイプRFIDを用いても良い。また、無線通信部は構造物に埋設することが好ましいが、構造物外に出して設置して良い。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係る腐食センサによれば、検出部1a、1bをコンクリート、特に、モルタルで被覆するため、検出部1a、1bの保護機能が飛躍的に向上し、検査対象のコンクリート中への設置が容易となる。また、検出部1a、1bが鉄部材である場合は、コンクリート内でアルカリ環境下におかれることから、検出部1a、1bが不導体被膜で覆われる。その結果、コンクリート内部におかれていない検出部と比較すると錆びにくくなり、取扱いが容易となる。
【符号の説明】
【0065】
1a、1b 検出部
2a、2b 支持部
3a、3b、4a 腐食センサ
4b 固定具
4c、5c 浸透防止用樹脂
5a、5b セメント硬化体部
6a、6b 腐食センサ
6c 鉄筋
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサおよび腐食センサの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート構造物の状態を把握するためのセンサが知られている。例えば、特許文献1には、検知対象物の使用環境下で検知対象物の金属より腐食し易い金属またはアルカリ溶解性金属からなるベース材、およびベース材の少なくとも一部を被覆して形成され、検知対象物の使用環境下で腐食する金属からなる被膜により形成される検知部と、検知部を保持するための基材と、から構成された腐食センサが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、コンクリート構造物中に埋設される鋼材の腐食進行状況を診断するのに用いる腐食センサが開示されている。この腐食センサは、腐食検出部で、測定対象物または測定対象物の近傍に敷設される検出用部材を有し、金属製の検出用部材の腐食を、検出用部材の電気的特性を測定することにより検出する。そして、腐食の検出結果を読取装置に対して無線送信する。この構成により、電気的特性の変化から検出用部材の腐食を検出することができ、鉄筋、PC鋼線、鋼製シース管等の鋼材の腐食が生じているかどうかを予想することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−163324号公報
【特許文献2】特開2006−337169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の腐食センサでは、腐食因子を検出するセンサは、基本的に、腐食因子に直接的に面することを前提に設計されている。これらのセンサをコンクリート構造物中に設置する場合、コンクリートの打設時に、センサが傷つく可能性があった。また、センサ近傍に空隙ができ、正確な検知が妨げられる場合があった。また、細鉄線を検知部とした腐食検知センサでは、検知部となる鉄部材が、埋設するまでに錆びてしまうことがあるため、鉄部材が錆びないようにする必要があった。さらに、既存のコンクリート構造物へ取り付ける場合は、コンクリート構造物を局部破壊(削孔)してセンサを設置することになるが、この場合にも、上記と同様の課題が存在していた。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、センサを保護し、センサ付近の粗大な空隙の発生を回避して、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境の正確な検出を可能とすると共に、センサの設置作業を容易にし、作業工程の短縮化を図ることができる腐食センサおよび腐食センサの設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の腐食センサは、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサであって、鉄筋を腐食させる腐食因子のコンクリートへの浸透状態を検出し、前記腐食因子の浸透状態を示すデータを出力する検出部と、前記検出部を被覆し、コンクリート、モルタルまたはペーストで成形されたセメント硬化体部と、を備えることを特徴としている。
【0008】
このように、検出部をコンクリート、モルタルまたはペーストで被覆するため、検出部の保護機能が飛躍的に向上し、検査対象の構造物のコンクリート中へ容易に設置することが可能となる。また、検出部が鉄部材である場合は、コンクリート、モルタルまたはペースト内でアルカリ環境下に置かれることから、検出部が不導体被膜で覆われる。その結果、コンクリート、モルタルまたはペースト内部に置かれていない検出部と比較すると錆びにくくなり、取扱いが容易となる。
【0009】
(2)また、本発明の腐食センサにおいて、前記セメント硬化体部は、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで成形されていることを特徴としている。
【0010】
このように、セメント硬化体部は、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで成形されているので、腐食因子の浸透性状が、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上となり、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を正確に検出することが可能となる。また、検査対象の構造物のコンクリート中に設置した後も、強度が確保されるため、欠陥が発生する可能性を極めて低くすることが可能となる。
【0011】
(3)また、本発明の腐食センサにおいて、前記セメント硬化体部は、円筒形に成形されていることを特徴としている。
【0012】
このように、セメント硬化体部は、円筒形に成形されているので、既存のコンクリート構造物へ取り付ける場合、コアボーリングを行なった後の削孔部に設置することができ、作業性の向上を図ることが可能となる。
【0013】
(4)また、本発明の腐食センサにおいて、前記検出部は、前記データを無線信号で出力することを特徴としている。
【0014】
このように、データを無線信号で出力するので、ケーブルをコンクリートから引き出す必要がなくなり、ケーブルとコンクリートとの隙間から腐食因子が浸入することを回避することが可能となる。
【0015】
(5)また、本発明の腐食センサの設置方法は、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサの設置方法であって、鉄筋を腐食させる腐食因子の浸透状態を検出し、前記腐食因子の浸透状態を示すデータを出力する腐食センサを、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで被覆してセメント硬化体部を成形するステップと、前記セメント硬化体部を、検査対象の構造物のコンクリートに埋設するステップと、を少なくとも含むことを特徴としている。
【0016】
このように、検出部をコンクリート、モルタルまたはペーストで被覆するため、検出部の保護機能が飛躍的に向上し、検査対象の構造物のコンクリート中へ容易に設置することが可能となる。また、検出部が鉄部材である場合は、コンクリート、モルタルまたはペースト内でアルカリ環境下に置かれることから、検出部が不導体被膜で覆われる。その結果、コンクリート、モルタルまたはペースト内部に置かれていない検出部と比較すると錆びにくくなり、取扱いが容易となる。また、セメント硬化体部は、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで成形されているので、腐食因子の浸透性状が、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上となり、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を正確に検出することが可能となる。また、検査対象の構造物のコンクリート中に設置した後も、強度が確保されるため、欠陥が発生する可能性を極めて低くすることが可能となる。
【0017】
(6)また、本発明の腐食センサの設置方法は、前記セメント硬化体部を、検出対象の構造物のコンクリートをコアボーリングした削孔部に挿入可能な直径を有する円筒形に成形し、前記セメント硬化体部を前記削孔部に埋設することを特徴としている。
【0018】
このように、セメント硬化体部を、検出対象の構造物のコンクリートをコアボーリングした削孔部に挿入可能な直径を有する円筒形に成形し、セメント硬化体部を削孔部に埋設するので、既存のコンクリート構造物へ取り付ける場合、コアボーリングを行なった後の削孔部に設置することができ、作業性の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、検出部をコンクリート、モルタルまたはペーストで被覆するため、検出部の保護機能が飛躍的に向上し、検査対象の構造物のコンクリート中へ容易に設置することが可能となる。また、検出部が鉄部材である場合は、コンクリート、モルタルまたはペースト内でアルカリ環境下に置かれることから、検出部が不導体被膜で覆われる。その結果、コンクリート、モルタルまたはペースト内部に置かれていない検出部と比較すると錆びにくくなり、取扱いが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】矩形の検出部1aおよびその支持部2aを示す図である。
【図1B】円形の検出部1bおよびその支持部2bを示す図である。
【図2A】プレート型に成形した腐食センサの斜視図である。
【図2B】プレート型に成形した腐食センサの平面図である。
【図2C】プレート型に成形した腐食センサの側面図である。
【図3A】円筒型に成形した腐食センサの斜視図である。
【図3B】円筒型に成形した腐食センサの側面図である。
【図4A】本実施形態に係る腐食センサ4aの製造方法の一例を示す図である。
【図4B】本実施形態に係る腐食センサ4aの製造方法の一例を示す図である。
【図5A】腐食センサの製造方法の一例を示す図である。
【図5B】腐食センサの製造方法の一例を示す図である。
【図5C】腐食センサの製造方法の一例を示す図である。
【図6A】新設構造物に腐食センサを取り付ける様子を示す図である。
【図6B】既設構造物に腐食センサ6bを取り付ける様子を示す図である。
【図7】水セメント比に対する塩分拡散係数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る腐食センサでは、検出部をモルタルで被覆する構成を採る。構造物中の鉄筋の腐食は、様々な要因によって生じるが、模擬腐食部材を用いた腐食センサでは、腐食環境を検知するので腐食因子の種類は問わない。このような腐食センサにおいて、まず、モルタルで被覆される検出部について説明する。図1Aは、矩形の検出部1aおよびその支持部2aを示す図であり、図1Bは、円形の検出部1bおよびその支持部2bを示す図である。検出部1a、1bの形状は、長方形や正方形、円形、梯子状、階段状など、任意の形状とすることができる。検出部1a、1bの寸法は、モルタルに使用している骨材の最大骨材寸法よりも大きいことが好ましい。本実施形態では、検出部1aの寸法を20mm×30mmとし、支持部2aの寸法を30mm×40mmとしている。また、検出部1bの寸法を直径25mmとし、支持部2bの寸法を直径30mmとしている。
【0022】
例えば、細骨材で考えた場合、10mmのふるいを全通することが条件であるため、10mm×10mm程度の大きさ以上とする。また、検出部と被埋設モルタル表面の間隙が小さい場合、コンクリートと接するモルタル面の直上に、コンクリートの骨材が配置される可能性があり、この場合は検出部の寸法がコンクリート骨材よりも小さいと検知感度に影響を受けることが推測される。コンクリートの骨材は、汎用的には20〜25mmを最大粗骨材寸法としている。このことから、検出部の面積は20mm〜30mm以上とすれば、確率的に配置位置による検知感度への影響は小さくなる。
【0023】
一方、検出部の面積が極端に大きくなる、すなわち埋設するセンサの大きさが著しく大きい場合は、設置するコンクリートの物性と異なるため、変状が生じる可能性があり好ましくない。例えば、600mm×800mmでは好ましくない。検出部の支持部2a、2bは、モルタル・コンクリートに不具合を生じない材料で、腐食因子による反応性が無い材料であれば種類を問わない。例えば、PET材やポリイミドなどの高分子樹脂が好ましい。これらの高分子樹脂は成形性が良く、薄肉化を図ることができる。
【0024】
なお、本実施形態では、検出部1a、1bの形状は問わない。例えば、検出部1a、1bを櫛形の金属で形成しても良いし、鋸歯状の金属で形成しても良い。
【0025】
図2Aは、プレート型に成形した腐食センサの斜視図であり、図2Bは、プレート型に成形した腐食センサの平面図、図2Cは、プレート型に成形した腐食センサの側面図である。腐食センサ3aにおいて、検出部1aを被覆するモルタルは、直方体型、立方体型、プレート型、円筒型、階段型など、設置に不具合が無ければ任意の形状として良い。ただし、既設構造物に設置する場合は、円筒型とすることが好ましい。
【0026】
モルタルの寸法は、上記の検出部の寸法と同様の理由により、小さすぎても大きすぎても好ましくない。図2Bおよび図2Cに示すように、モルタルの寸法は、例えば、50mm〜60mm、厚さは25mm、表面からの距離d1は、2mm〜20mmとすることが好ましい。なお、d1は、2mm〜5mmの範囲であっても良いし、2mm〜10mmの範囲であっても良い。
【0027】
検出部1aとモルタル表面との距離は、短いほうが検知感度の向上に繋がるが、一方で使用材料の骨材が充分に充填されなければ意味が無い。ペーストであれば2mm〜5mmとすることも可能であるが、モルタルの場合は、骨材の最大粒径を勘案した場合、5mm〜20mm程度とするのが好ましい。
【0028】
図3Aは、円筒型に成形した腐食センサの斜視図であり、図3Bは、円筒型に成形した腐食センサの側面図である。この腐食センサ3bの直径は、46mm、表面からの距離d2は10mmである。但し、これはあくまでも例であって、本発明は、これらの数値に限定されるわけではない。
【0029】
[コンクリート、モルタル、ペーストの関係]
[定義]
コンクリートとは、セメント、水、細骨材、粗骨材および必要に応じて加える混和材料を構成材料とし、これらを練り混ぜその他の方法によって混合したもの、または硬化させたものをいう。モルタルとは、セメント、水、細骨材および必要に応じて加える混和材料を構成材料とし、これらを練り混ぜその他の方法によって混合したもの、または硬化させたものをいう。ペーストとは、セメント、水および必要に応じて加える混和材料を構成材料とし、これらを練り混ぜその他の方法によって混合したもの、または硬化させたものをいう。細骨材とは、10mm網ふるいを全部通り、5mm網ふるいを質量で85%以上通る骨材をいう。粗骨材とは、5mm網ふるいに質量で85%以上とどまる骨材をいう。
【0030】
[関係]
コンクリート、モルタル、ペーストの相互関係は、次の通りである。コンクリートは、最上位概念であり、範囲は最大となる。コンクリートのうち、粗骨材を含まないものがモルタルであり、モルタルのうち、細骨材を含まないものがペーストである。
【0031】
[使用するセメントについて]
腐食センサを被覆するコンクリートは、腐食因子によって浸透性が大きく異なる場合があるため、構造物コンクリートで使用されるセメント材料を選定することが好ましい。前提として、構造物コンクリートと水セメント比等を合わせ、強度を確保しつつ浸透性を同等にできるのであれば、対象構造物コンクリートに使用されているセメントを使用することに問題は無く、むしろ好ましい。一般的なコンクリートでは、普通ポルトランドセメントが使用される割合が高いため、以下、普通ポルトランドセメントを基準に記載する。
【0032】
例えば、腐食因子が塩化物イオンである場合、塩化物イオンの浸透は、セメント中のアルミネート相(C3A),フェライト相(C4AF)が多い場合、セメントが水と反応して生成される水和物として、カルシウムアルミネート水和物の割合が増える。カルシウムアルミネート水和物は、塩化物イオンと接すると、その一部が塩化物イオンを固定化するフリーデル氏塩(不溶性の塩)を生成する。そのため、同一強度レベルのコンクリートで比較した場合、塩化物イオンの浸透が緩やかとなる。また、高炉スラグを含む高炉セメント(=混合セメント)を用いたコンクリートでは、塩化物イオンの浸透が抑制されることが知られている。
【0033】
逆に、C3A量の少ないセメントでは塩化物イオンが浸透しやすくなり、市販のものでは低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントなどが挙げられる。また、C3A、C4AFの含有割合の少なく、混合材等を多く含まないセメントであれば、特に種類を限定するものではない。
【0034】
これに対し、腐食因子が二酸化炭素である場合は、塩分とメカニズムが異なるため、被覆モルタルへの浸透性に影響するセメントは異なる。二酸化炭素に起因したコンクリートの中性化による鉄筋腐食は、コンクリートのpH低下によって発生する。その進行過程は、二酸化炭素の拡散では、コンクリートの構成物質である水酸化カルシウム(pH12.6程度)の炭酸化によるコンクリートのpHの低下、鋼材の腐食(pH9〜10で腐食進行)、のように進行する。従って、セメントが水と反応して生成される水酸化カルシウム量によって、中性化の進行速度は異なってくる。
【0035】
水酸化カルシウムは、セメント主要水和物で、一般のセメントでは必ず生成されるため、一概にセメント種によって中性化の速さを述べることは難しいが、水酸化カルシウムの生成量もしくは生成可能量の観点から考えた場合、生成量の少ないセメントほど中性化に対しては抵抗性が小さくなるといえる。従って、最も水酸化カルシウムの生成量が少ないセメントは、混合セメントである高炉セメント、フライアッシュセメントが挙げられる。混合セメントは、セメントに高炉スラグ、フライアッシュ等が混合されたセメントで、前記の混合材は水酸化カルシウムを生成せず、むしろ水酸化カルシウムと反応して硬化するため水酸化カルシウム量が相対的に少なくなる。
【0036】
被覆モルタルは、高炉セメントやフライアッシュセメントなどの混合セメントや、あるいは低熱高炉セメントや中庸熱フライアッシュセメントなどを用いることが相対的に好ましいと考えられる。また、市販品に限定するものではなく、混合材の混合比等を換えて製造したセメントでも良い。
【0037】
すなわち、本実施形態で使用するセメントは、次のようなものが好ましい。
(1)水セメント比同等(物性/浸透性同等)とする場合は、対象構造物に使用されているセメント、普通セメント、またはより浸透性の高いセメントを使用する。
(2)水セメント比が小さい場合、あるいは感度をより向上させたい場合で、塩化物イオンを考慮する場合は、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントなどがある。なお、C3A、C4AFの含有割合が少なく、混合材等を多く含まないセメントであれば、特に種類を限定するものではない。
(3)水セメント比が小さい場合、あるいは感度をより向上させたい場合で、炭酸ガス(中性化)を考慮する場合は、高炉セメント、フライアッシュセメントなどがある。
【0038】
なお、上記化学組成については、次の通りである。アルミネート(C3A)、フェライト(C4AF)等の呼称は、セメント鉱物に用いられる呼称で、JIS等での記載は、アルミン酸三カルシウムで、「3CaO・Al2O3」と記す。セメントの主要構成鉱物は、他にC3S、C2S、C4AFがある。エーライト(C3S)は、けい酸三カルシウムで、「3CaO・SiO2」と記す。また、ビーライト(C2S)は、けい酸二カルシウムで、「2CaO・SiO2」と記す。また、フェライト(C4AF)は、アルミン酸鉄四カルシウムで、「4CaO・Al2O3・Fe2O3」と記す。
【0039】
JIS R 5210のポルトランドセメントの規格に記載のC3Aの規定値は、次の通りである。
低熱ポルトランドセメント:アルミン酸三カルシウム 鉱物組成 6%以下
中庸熱ポルトランドセメント :アルミン酸三カルシウム 鉱物組成 8%以下
耐硫酸塩ポルトランドセメント:アルミン酸三カルシウム 鉱物組成 4%以下
なお、普通ポルトランドセメントには、アルミン酸三カルシウムの上限規定値はない。
【0040】
通常、良く使用されるセメントの鉱物組成の一例を以下に示す。
【表1】
上記の表において、構成鉱物の合計割合が100%にならないのは、セメント製造で添加される粉砕助剤、石こう、5%以下で認められるJIS規定の混合材(石灰石微粉末、高炉スラグ、フライアッシュなど)があることによる。これらを全て足すと100%となる。
【0041】
なお、高炉セメントとは、JIS R 5211の「高炉セメント」のことをいう。また、本明細書では、前記に加え、JIS A6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」で規定のものを混合材として混合したセメントも含める。また、フライアッシュセメントとは、JIS R 5213の「フライアッシュセメント」のことをいう。また、本明細書では、前記に加え、JIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」で規定のものを混合材として混合したセメントも含める。
【0042】
[コンクリートの強度について]
コンクリートの強度は、使用材料が同一であれば、水とセメントの比(水/セメント質量比)によって決定される。このため、一般に、コンクリートの強度は、水セメント比あるいはセメント水比によって設定される。この関係は、比例関係にあることが確認されており、セメント水比の場合に強度と正比例する。また、物質浸透性(物質移動)についても、水セメント比が大きなファクターとして規定され、セメント種が同一であれば、これが支配的要因となる。
【0043】
ただし、強度は、使用骨材が異なると変動するので、水セメント比が同一の条件でも、強度を完全に一致させることは難しい(比例直線の切片が異なる)。被覆モルタルは工場で管理・製造するので、ある特定の骨材を使用して、水セメント比ごとに強度を確認し、水セメント比と強度の関係を予め確認し、比例直線を求めておく。この関係から、対象構造物コンクリートの強度以上となる水セメント比で、かつ対象構造物の水セメント比と近くなるように被覆モルタルの水セメント比を設定する。ここで、強度が同等でも水セメント比が対象構造物コンクリートよりも大きくなる場合は、水セメント比を同一にする(強度が大きい分には問題にならない)。
【0044】
本実施形態においては、コンクリートの強度を次のように定める。
(1)被覆モルタルの強度が、対象構造物コンクリートと同等以上とする。
(2)上記(1)を満たし、対象構造物コンクリートの水セメント比以下の条件で、被覆モルタルの水セメント比を最大とする。
【0045】
(例1)対象構造物コンクリートが強度36N/mm2で、水セメント比が52.5%である場合、被覆モルタルは強度40N/mm2以上で、水セメント比が55%以下である必要があるとすると、被覆モルタルの水セメント比を52.5%と設定する。
【0046】
(例2)対象構造物コンクリートが強度36N/mm2で、水セメント比が57.5%である場合、被覆モルタルは強度40N/mm2以上で、水セメント比が55%以下である必要があるとすると、被覆モルタルの水セメント比を55%と設定する。
【0047】
新設構造物であれば、水セメント比が既知であるため、上述の手法を用いる。既設コンクリートで、水セメント比などの配合情報が既知の場合も同様である。一方、配合情報が未知の場合は、既設構造物への設置はコア抜きが伴うので、抜いたコンクリートコアについて試験し、強度レベルを確認する。ここから、例えば、既設コンクリートの強度レベルに安全率を20%程度の安全率を乗じて、被覆モルタルの強度レベルを設定し、そこから水セメント比が決定される。この場合は、対象コンクリートの水セメント比が未知であるものの、強度に安全率を乗じて算定された水セメント比であるため、問題は生じない。
【0048】
これは、実質的に同等もしくは小さい水セメント比になると考えられるためである。既設コンクリートは、長期間経過して強度が増進しているため、強度レベルで合わせると短期強度で設計する被覆モルタルの水セメント比は小さくなる場合が多く、さらに安全率を乗じているためである。
【0049】
[モルタルの配合について]
モルタルの配合は、単位容積当りの構成材料の質量で示されている。配合を選定する条件は、材料種類(水、セメント、骨材)、水セメント比(質量比)、単位骨材容積比(単位容積に占める骨材容積の割合)である。なお、水は、一般に上水道水であれば良く、JIS適合水でも良い。モルタルの水セメント比(mass)の範囲は20%〜70%、単位骨材容積率(vol)は0%〜75%程度の範囲で、対象のコンクリートに合わせて設定することが好ましい。
【0050】
水セメント比は、対象のコンクリートの水セメント比に対して同等であることが最も好ましく、0〜10%程度小さく設定しても良い。単位骨材容積は、割合が高いほどコンクリートに近づくが施工性も低下する。逆に割合が低ければ施工性は改善されるがコンクリートの物性から離れ、また材料分離も生じやすくなる。軟らかさや締固め性、腐食センサの設置位置などを勘案して設定でき、0%〜75%の範囲で設定でき、好ましくは30%〜65%の範囲である。次の表は、モルタルの配合条件と配合例を示す。なお、対象コンクリートのW/Cは、57.5%であるとする。
【0051】
【表2】
ここでは、中庸熱ポルトランドセメント(密度3.21g/cm3)、砕砂(密度:2.60g/cm3)を使用する。
【0052】
腐食センサを埋設するモルタルは、複数の配合を予め準備し、適当な範囲となるものを選択することができる。次の表は、腐食センサを埋設するモルタルの水セメント比の適用範囲の一例を示す。なお、次の表よりも、細かく設定することも可能である。
【0053】
【表3】
対象のコンクリートの水セメント比が不明の場合、調査によってある程度の範囲で推定することができる。そのため、上記の表のような選択基準でモルタルを選択することも可能である。
【0054】
[拡散係数と腐食センサの設置位置について]
腐食因子が、例えば、塩化物イオンや炭酸ガスであるような場合、モルタル・コンクリートへの浸透は、拡散によって進行する。このため、拡散係数が、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を示す直接的な尺度となる。モルタル・コンクリートの拡散係数は、使用材料、配合、環境によって異なるため、厳密な意味での拡散係数を求めることは容易ではないが、試験や調査によって見かけの拡散係数を求めることができる。環境条件を除けば、拡散係数は、材料組成に依存するので、拡散係数によってモルタル品質を設定しても良い。
【0055】
腐食センサの検知対象が塩分である場合は、セメント種としてC3A量の少ないセメントの使用により、また、検知対象が炭酸ガスである場合には、混合セメントの使用により、塩分および炭酸ガスの見掛けの拡散係数が大きくなる傾向がある。このため、検知感度の向上に有効である。また、配合上の水セメント比を同程度、あるいは近付けて設定すれば拡散係数を近付けることが可能となる。その上で、被覆モルタルに埋設する腐食センサの設置位置を、施工性や保護性を担保した範囲で、できるだけ表面近傍に設置すれば、検知感度が向上する。検知対象のコンクリートと、腐食センサ埋設モルタルにおいて、塩分・二酸化炭素の拡散が生じ、腐食センサによって検知することが可能となる。拡散は、濃度差を駆動力として、時間に応じて因子の到達距離が決定される。言い換えれば、距離を短くすることは拡散因子の到達時間を短縮する直接的な手法となり得る。なお、水セメント比に対する塩分拡散係数の関係の一例を図7に示す。
【0056】
表面から腐食センサまでの間隔は、2mm〜20mm程度とすることが好ましく、より好ましくは2mm〜10mm程度、さらに好ましくは2mm〜5mm程度とすることが好ましい。上記の範囲であれば、水セメント比が検知対称コンクリートより多少小さくなったとしても、モルタル材料の検討を行なうことで、コンクリート構造物中の腐食因子の浸透から鉄筋腐食までの時間的オーダー(数年〜数十年)と比較して、維持管理に資する上で、十分な検知感度を付与することが可能となる(数ヶ月から数年以内の検知感度)。なお、既述したように、検知対象のコンクリートと被覆モルタルの水セメント比が同等であることが最も好ましい。なお、拡散係数は、塩分拡散係数、炭酸ガス拡散係数(中性化速度係数)等、種々有るので、用途に合わせて、いずれを基準にして設定しても良い。
【0057】
[腐食センサの製造]
図4Aおよび図4Bは、本実施形態に係る腐食センサ4aの製造方法の一例を示す図である。検出部1aを、固定具4bを用いて固定する。ワイヤ等を用いて検出部1aを吊るしても良い。図4Aおよび図4Bにおいて、浸透防止用樹脂4c(またはフィルム等)をモルタル(セメント硬化体部)背面に設置し、腐食センサ4aを介して、コンクリート構造物に腐食因子が浸透するのを防ぐ。
【0058】
[埋設物]
腐食センサの製造は、検出部、すなわち、センサ部、基板、ケーブル(無線の場合は不要)をモルタル中に埋設する。無線方式(RFID方式)の場合は、RFIDタグ部をモルタル中に埋設して、ワイヤレスのセンサとする。無線方式は、新設構造物、既設構造物の維持管理において、効率化だけでなくデータの保持や、長期耐久性の観点でも極めて有効な手段である。特に、既設構造物に埋設する場合、削孔部の躯体表面近傍は入念な補修が必要となり、無線であることのメリットは大きい。
【0059】
[製造方法]
図5A〜図5Cは、腐食センサの製造方法の一例を示す図である。検出部1aを被覆するセメント硬化体部5a(モルタル)は、直方体、立方体、プレート型、円筒状、階段状など、設置に不具合が無ければ任意の形状として良く、前記形状となる型枠を使用して作製する。この際、検出部1aの位置精度を出す必要があるので、検出部1aを、モルタルを流し込む前にあらかじめ型枠に設置しても良いし、2回に分ける方法、すなわち硬化したモルタルにセンサを設置後に再度打設して、腐食センサを作製することもできる(図5B、図5C参照)。検出部1aを型枠に設置後、まだ固まらないモルタル・ペーストを前記型枠に打設して、硬化させて作製する。
【0060】
なお、図5Bでは、型枠にスリットを入れ、半月形のセメント硬化体部5bを作成する。硬化後のモルタルの平面部に、図5Cに示すように、検出部1aを設置した後、同一の型枠に入れ直し、モルタルを打設する。また、図5Cに示すように、検出部1aの反対側の表面に、浸透防止樹脂5c(またはフィルム等の躯体コンクリートに影響を与えない素材)でシールする。また、図5Cにおいて、検出部1aの設置位置S1、S2は、スリットを変更することにより変更することができる。
【0061】
本実施形態に係る腐食センサは、以上のような手法を用いて工場で製造することができるため、品質および精度が確保され、コンクリート中での測定において、腐食センサの検知データのばらつきを抑えることができる。すなわち、不確実性の少ない腐食センサを提供することが可能となる。
【0062】
[構造物への設置]
[新設構造物]
図6Aは、新設構造物に腐食センサを取り付ける様子を示す図である。構造物に不具合の生じないように、腐食センサ6aを任意の位置に設置する。腐食センサ6aの固定は、内部の鉄筋6cを活用する。有線の場合はケーブルを外に引き出すが、無線の場合は、RFIDタグ等を一緒に構造物内に設置する。腐食センサとタグは有線で接続し、分割した場所でも、同一の箇所に設置しても良い。
【0063】
[既設構造物]
図6Bは、既設構造物に腐食センサ6bを取り付ける様子を示す図である。既設構造物にコアボーリングを行なった後、筒型の腐食センサ6bを設置し、補修モルタル等で残り削孔空洞部を充填する。これにより、有線・無線ともに活用できる。無線はRFIDだけではなく、特定省電力無線や、電池を積んだアクティブタイプRFIDを用いても良い。また、無線通信部は構造物に埋設することが好ましいが、構造物外に出して設置して良い。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係る腐食センサによれば、検出部1a、1bをコンクリート、特に、モルタルで被覆するため、検出部1a、1bの保護機能が飛躍的に向上し、検査対象のコンクリート中への設置が容易となる。また、検出部1a、1bが鉄部材である場合は、コンクリート内でアルカリ環境下におかれることから、検出部1a、1bが不導体被膜で覆われる。その結果、コンクリート内部におかれていない検出部と比較すると錆びにくくなり、取扱いが容易となる。
【符号の説明】
【0065】
1a、1b 検出部
2a、2b 支持部
3a、3b、4a 腐食センサ
4b 固定具
4c、5c 浸透防止用樹脂
5a、5b セメント硬化体部
6a、6b 腐食センサ
6c 鉄筋
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサであって、
鉄筋を腐食させる腐食因子のコンクリートへの浸透状態を検出し、前記腐食因子の浸透状態を示すデータを出力する検出部と、
前記検出部を被覆し、コンクリート、モルタルまたはペーストで成形されたセメント硬化体部と、を備えることを特徴とする腐食センサ。
【請求項2】
前記セメント硬化体部は、
検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで成形されていることを特徴とする請求項1記載の腐食センサ。
【請求項3】
前記セメント硬化体部は、円筒形に成形されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の腐食センサ。
【請求項4】
前記検出部は、前記データを無線信号で出力することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の腐食センサ。
【請求項5】
鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサの設置方法であって、
鉄筋を腐食させる腐食因子の浸透状態を検出し、前記腐食因子の浸透状態を示すデータを出力する腐食センサを、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで被覆してセメント硬化体部を成形するステップと、
前記セメント硬化体部を、検査対象の構造物のコンクリートに埋設するステップと、を少なくとも含むことを特徴とする腐食センサの設置方法。
【請求項6】
前記セメント硬化体部を、検出対象の構造物のコンクリートをコアボーリングした削孔部に挿入可能な直径を有する円筒形に成形し、前記セメント硬化体部を前記削孔部に埋設することを特徴とする請求項5記載の腐食センサの設置方法。
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサであって、
鉄筋を腐食させる腐食因子のコンクリートへの浸透状態を検出し、前記腐食因子の浸透状態を示すデータを出力する検出部と、
前記検出部を被覆し、コンクリート、モルタルまたはペーストで成形されたセメント硬化体部と、を備えることを特徴とする腐食センサ。
【請求項2】
前記セメント硬化体部は、
検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで成形されていることを特徴とする請求項1記載の腐食センサ。
【請求項3】
前記セメント硬化体部は、円筒形に成形されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の腐食センサ。
【請求項4】
前記検出部は、前記データを無線信号で出力することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の腐食センサ。
【請求項5】
鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサの設置方法であって、
鉄筋を腐食させる腐食因子の浸透状態を検出し、前記腐食因子の浸透状態を示すデータを出力する腐食センサを、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の腐食因子の浸透性状を有すると共に、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストで被覆してセメント硬化体部を成形するステップと、
前記セメント硬化体部を、検査対象の構造物のコンクリートに埋設するステップと、を少なくとも含むことを特徴とする腐食センサの設置方法。
【請求項6】
前記セメント硬化体部を、検出対象の構造物のコンクリートをコアボーリングした削孔部に挿入可能な直径を有する円筒形に成形し、前記セメント硬化体部を前記削孔部に埋設することを特徴とする請求項5記載の腐食センサの設置方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【公開番号】特開2010−237089(P2010−237089A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86479(P2009−86479)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】
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