説明

腐食センサユニットおよび腐食センサの設置方法

【課題】センサ部を保護し、センサ部付近の粗大な空隙を回避して、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を正確に検出することを可能とし、さらにセンサ部の設置作業を容易にし、作業工程の短縮化を図る。
【解決手段】コンクリート、モルタル若しくはペーストで第1の直径を有する円筒形に成形された第1のセメント硬化体10と、第1のセメント硬化体10の側面に設置され、鉄筋を腐食させる腐食因子のコンクリートへの浸透状態を検出し、腐食因子の浸透状態を示すデータを出力するセンサ部11と、センサ部11が出力したデータを無線送信するRFIDタグ12と、第1のセメント硬化体10、センサ部11およびRFIDタグ12を、コンクリート、モルタル若しくはペーストで被覆し、第1のセメント硬化体10の直径よりも大きい第2の直径を有する円筒形に成形された第2のセメント硬化体14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサユニットおよび腐食センサの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート構造物の状態を把握するためのセンサが知られている。例えば、特許文献1には、検知対象物の使用環境下で検知対象物の金属より腐食し易い金属またはアルカリ溶解性金属からなるベース材、およびベース材の少なくとも一部を被覆して形成され、検知対象物の使用環境下で腐食する金属からなる被膜により形成される検知部と、検知部を保持するための基材と、から構成された腐食センサが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、コンクリート構造物中に埋設される鋼材の腐食進行状況を診断するのに用いる腐食センサが開示されている。この腐食センサは、腐食検出部で、測定対象物または測定対象物の近傍に敷設される検出用部材を有し、金属製の検出用部材の腐食を、検出用部材の電気的特性を測定することにより検出する。そして、腐食の検出結果を読取装置に対して無線送信する。この構成により、電気的特性の変化から検出用部材の腐食を検出することができ、鉄筋、PC鋼線、鋼製シース管等の鋼材の腐食が生じているかどうかを予想することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−163324号公報
【特許文献2】特開2006−337169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の腐食センサでは、基本的にセンサ部が腐食因子に直接的に面することを前提に設計されている。これらのセンサをコンクリート構造物中に設置する場合、コンクリートの打設時に、センサ部が傷つく可能性があった。また、センサ部近傍に空隙ができ、正確な検知が妨げられる場合があった。また、細鉄線をセンサ部とした腐食検知センサでは、センサ部となる鉄部材が、埋設するまでに錆びてしまうことがあるため、鉄部材が錆びないようにする必要があった。また、既存のコンクリート構造物へ取り付ける場合は、コンクリート構造物を局部破壊(削孔)してセンサを設置することになるが、この場合にも、上記と同様の課題が存在していた。さらに、腐食因子が、例えば、塩化物イオンである場合、コンクリートでの浸透は、拡散によって進行する。このため、センサ部がどの方向から腐食因子が浸透してきてもそれを検出できるように設置することが望まれる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、センサ部を保護し、センサ部付近の粗大な空隙を回避して、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を正確に検出することを可能とし、さらにセンサ部の設置作業を容易にし、作業工程の短縮化を図ることができる腐食センサユニットおよび腐食センサの設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の腐食センサユニットは、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサユニットであって、コンクリート、モルタル若しくはペーストで第1の直径を有する円筒形に成形された第1のセメント硬化体と、前記第1のセメント硬化体の側面に設置され、鉄筋を腐食させる腐食因子のコンクリートへの浸透状態を検出し、前記腐食因子の浸透状態を示すデータを出力するセンサ部と、前記第1のセメント硬化体のいずれか一方の平滑な端面に設置され、前記センサ部が出力したデータを無線送信する送信部と、前記第1のセメント硬化体、前記センサ部および前記送信部を、コンクリート、モルタル若しくはペーストで被覆し、前記第1のセメント硬化体の直径よりも大きい第2の直径を有する円筒形に成形された第2のセメント硬化体と、を備えることを特徴としている。
【0008】
このように、センサ部が、第1のセメント硬化体の側面に設置されるため、拡散してきた腐食因子を正確に検出することが可能となる。また、第2のセメント硬化体が、第1のセメント硬化体、前記センサ部、および前記送信部を被覆するので、センサ部の保護機能が飛躍的に向上し、検査対象のコンクリート中への設置が容易となる。また、センサ部が鉄部材である場合は、コンクリート内でアルカリ環境下におかれることから、センサ部が不導体被膜で覆われる。その結果、コンクリート内部におかれていないセンサ部と比較すると錆びにくくなり、取扱いが容易となる。
【0009】
(2)また、本発明の腐食センサユニットにおいて、前記センサ部は、鉄箔で形成されていることを特徴としている。
【0010】
このように、センサ部は、鉄箔で形成されているため、センサ部をフレキシブルにすることができる。その結果、第1のセメント硬化体の側面と同じ曲率を持たせて、センサ部を第1のセメント硬化体の側面に設置することが可能となる。これにより、拡散によって腐食因子がどの方向から浸透してきても、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出することが可能となる。
【0011】
(3)また、本発明の腐食センサの設置方法は、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサの設置方法であって、コンクリート、モルタル若しくはペーストで第1の直径を有する円筒形に成形された第1のセメント硬化体を作製するステップと、前記第1のセメント硬化体の側面に、鉄筋を腐食させる腐食因子のコンクリートへの浸透状態を検出し、前記腐食因子の浸透状態を示すデータを出力するセンサ部を設置するステップと、前記第1のセメント硬化体のいずれか一方の平滑な端面に、前記センサ部が出力したデータを無線送信する送信部を設置するステップと、前記第1のセメント硬化体、前記センサ部および前記送信部を、コンクリート、モルタル若しくはペーストで被覆し、前記第1のセメント硬化体の直径よりも大きい第2の直径を有する円筒形に成形された第2のセメント硬化体を作製するステップと、前記第2のセメント硬化体を、検出対象の構造物のコンクリートをコアボーリングした削孔部に埋設し、一体化させるステップと、を少なくとも含むことを特徴としている。
【0012】
このように、センサ部が、第1のセメント硬化体の側面に設置されるため、拡散してきた腐食因子を正確に検出することが可能となる。また、第2のセメント硬化体が、第1のセメント硬化体、前記センサ部、および前記送信部を被覆するので、センサ部の保護機能が飛躍的に向上し、検査対象のコンクリート中への設置が容易となる。また、センサ部が鉄部材である場合は、コンクリート内でアルカリ環境下におかれることから、センサ部が不導体被膜で覆われる。その結果、コンクリート内部におかれていないセンサ部と比較すると錆びにくくなり、取扱いが容易となる。さらに、第2のセメント硬化体を、検出対象のコンクリートをコアボーリングした削孔部に埋設するので、作業性の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、センサ部が、第1のセメント硬化体の側面に設置されるため、拡散してきた腐食因子を正確に検出することが可能となる。また、第2のセメント硬化体が、第1のセメント硬化体、前記センサ部、および前記送信部を被覆するので、センサ部の保護機能が飛躍的に向上し、検査対象のコンクリート中への設置が容易となる。また、センサ部が鉄部材である場合は、コンクリート内でアルカリ環境下におかれることから、センサ部が不導体被膜で覆われる。その結果、コンクリート内部におかれていないセンサ部と比較すると錆びにくくなり、取扱いが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1のセメント硬化体にセンサ部と送信部とを設置した状態を示す斜視図である。
【図2】センサ部およびRFIDタグが設置された第1のセメント硬化体と、センサ部およびRFIDタグが設置された第1のセメント硬化体をコンクリートで被覆した第2のセメント硬化体を示す図である。
【図3】第2のセメント硬化体14を、躯体コンクリート30に設けられた削孔部31に挿入する様子を示す図である。
【図4】腐食センサユニットを製造する手順を示す図である。
【図5】本実施形態に係る腐食センサユニットの設置方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、第1のセメント硬化体10にセンサ部11と送信部としてのRFIDタグ12とを設置した状態を示す斜視図である。図1に示すように、コンクリート、モルタル若しくはペーストで円筒形に成形された第1のセメント硬化体10の側面に沿うように、センサ部11が設置されている。センサ部11は、鉄箔で形成されている。このため、センサ部11はフレキシブルとなり、第1のセメント硬化体10の側面と同じ曲率を持たせて、センサ部11を第1のセメント硬化体10の側面に設置することが可能となる。これにより、拡散によって腐食因子がどの方向から浸透してきても、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出することが可能となる。また、第1のセメント硬化体10の一方の底面には、送信部としてのRFIDタグ12が設けられている。センサ部11とRFIDタグ12とは、リード線13で接続されている。
【0016】
また、図2は、センサ部11およびRFIDタグ12が設置された第1のセメント硬化体10と、センサ部11およびRFIDタグ12が設置された第1のセメント硬化体10をコンクリート、モルタル若しくはペーストで被覆した第2のセメント硬化体14を示す図である。また、図3は、第2のセメント硬化体14を、躯体コンクリート30に設けられた削孔部31に挿入する様子を示す図である。図3に示すように、第2のセメント硬化体14を、削孔部31に挿入し、第2のセメント硬化体14の上に補修モルタルを構造物表面Sと同一の高さとなるように充填する。
【0017】
[腐食センサユニットの形状・寸法]
本実施形態に係る腐食センサユニットの形状は、汎用的なコアボーリングの削孔部形状に合わせた円筒の形状が好ましい。円筒の寸法は任意で良いが、通常のコアボーリングではφ50mm、φ75mm、φ100mm、φ125mm、φ150mmなどの特定の寸法で実施されている。実施範囲は、φ25mm〜φ200mm程度まで実施されている場合もある。これらのコアの直径に対して、数mm程度小さい直径とし、削孔部に挿入した後、あるいは挿入前に、躯体コンクリートとの接着のためのペーストもしくはモルタルを塗布して一体化する。
【0018】
腐食センサユニットの直径は、一体化できれば特に問わないが、例えばφ100mmの削孔部に対してφ30mmでは、接着層が厚すぎて躯体コンクリートへの腐食因子の浸入を適正に検知できない可能性が高く好ましくない。このため、削孔部よりも数mm小さい直径を有するものが好ましい。例えば、第2のセメント硬化体14の表面からセンサ部11までの距離をxとし、第2のセメント硬化体14の表面と躯体コンクリートの内面までの距離(間隙)をdとすると、d<xとなるように設置することが好ましい。ただし、間隙dは、躯体との一体化を図る上で小さくすることに限界がある。これは、一体化の際に、セメントペースト、無収縮グラウトなどの付着材を施工して一体化するためである。従って、dは、1mmを下限とし、x以下の寸法として設定する。
【0019】
すなわち、1mm<d<xを満たすように設定する。
【0020】
腐食センサユニットの長さは、検査対象となる躯体コンクリートの深さ位置、およびRFIDタグ12の通信距離によって任意に設定できる。例えば、センサ部11の設置位置を躯体コンクリートの表面から50mmとしたい場合、削孔深さ80mm、ユニットの高さ60mmのものを用いて、センサ部11をユニットの中央部30mmの位置として挿入すれば、表面から50mmの位置となる。また、削孔が深い場合でも、あらかじめ所要の深さ位置までモルタルを充填したのちに腐食センサユニットを挿入することにより、深さ位置を調節できる。削孔部の深さとユニットの長さ、ユニットにおけるセンサ設置位置を組み合わせることにより、任意の深さ位置にセンサ部を持ってくることが可能となる。
【0021】
[センサ部の寸法・形状]
センサ部11は、鉄箔センサを用いたもので、第1のセメント硬化体10の周方向に設置することにより、方向性を問わずに腐食因子を検出することを可能としている。従って、センサ部11の基材は、フレキシブル性の高い樹脂素材でシート状のものが好ましい。具体的には、PET材(ポリエチレンテレフタレート)やポリイミドなど、一般にフレキシブル基板と呼ばれる基材に使用されている樹脂が加工性も良く好適である。鉄箔センサは、前記基材と一体化されており、短冊状や、階段状、波状などのパターン形状で、モルタルユニットとの周方向に曲折して配置される。このように、一定の曲率を持たせて配置できることは、箔材の特長といえる。寸方としては、センサ部幅0.2mm程度から十数mm程度、長さはユニットの円周長さによって任意に設定することが可能であり、厚さは0.01mm〜1mm程度である。幅が0.2mm未満でも、検知感度を維持できれば問題ないが、加工性を勘案すれば0.2mm程度以上が好ましく、また幅が十数mmを超え、例えば50mmであれば、腐食因子があることは検知できるが、腐食因子の浸透深さ情報を得ることは困難になる。
【0022】
周方向の長さは、円筒の全周を1週できる長さであれば、断面の全方向に対応するため好ましいが、必ずしも1周する長さが必要という訳ではなく、例えば、半周であっても、4分の1の長さでも大きな問題にはならない。最低長さとしては、埋設する躯体コンクリートの最大骨材寸法長さ(例えば、20mm)よりも長ければ、センサ部の長さとしては可である(図1および図2参照)。
【0023】
[タグ側のアンテナの設置位置]
第1のセメント硬化体10に設置するRFIDタグ12において、無線通信用のアンテナは、円筒形の第1のセメント硬化体10上端面に設置する。向きは、円筒の上端面と平行になるように、あるいはコンクリート面と平行になるように設置する。円筒の上端面からの埋設深さは任意で良いが、数mm〜数十mm程度の範囲が好ましい。アンテナの大きさは、第2のセメント硬化体14に埋設できる大きさであれば任意でよい。一般に、アンテナが大きい方が通信距離を取り易い傾向があるため、好ましくは、モルタル中に埋設でき且つ耐久性を確保できる範囲で大きいものを用いることが好ましい。
【0024】
[コンクリート、モルタル、ペーストの関係]
[定義]
コンクリートとは、セメント、水、細骨材、粗骨材および必要に応じて加える混和材料を構成材料とし、これらを練り混ぜその他の方法によって混合したもの、または硬化させたものをいう。モルタルとは、セメント、水、細骨材および必要に応じて加える混和材料を構成材料とし、これらを練り混ぜその他の方法によって混合したもの、または硬化させたものをいう。ペーストとは、セメント、水および必要に応じて加える混和材料を構成材料とし、これらを練り混ぜその他の方法によって混合したもの、または硬化させたものをいう。細骨材とは、10mm網ふるいを全部通り、5mm網ふるいを質量で85%以上通る骨材をいう。粗骨材とは、5mm網ふるいに質量で85%以上とどまる骨材をいう。
【0025】
[関係]
コンクリート、モルタル、ペーストの相互関係は、次の通りである。コンクリートは、最上位概念であり、範囲は最大となる。コンクリートのうち、粗骨材を含まないものがモルタルであり、モルタルのうち、細骨材を含まないものがペーストである。
【0026】
[使用するセメントについて]
第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するコンクリートは、腐食因子によって浸透性が大きく異なる場合があるため、構造物コンクリートで使用されるセメント材料を選定することが好ましい。前提として、構造物コンクリートと水セメント比等を合わせ、強度を確保しつつ浸透性を同等にできるのであれば、対象構造物コンクリートに使用されているセメントを使用することに問題は無く、むしろ好ましい。一般的なコンクリートでは、普通ポルトランドセメントが使用される割合が高いため、以下、普通ポルトランドセメントを基準に記載する。
【0027】
例えば、腐食因子が塩化物イオンである場合、塩化物イオンの浸透は、セメント中のアルミネート相(CA)、フェライト相(CAF)が多い場合、セメントが水と反応して生成される水和物として、カルシウムアルミネート水和物の割合が増える。カルシウムアルミネート水和物は、塩化物イオンと接すると、その一部が塩化物イオンを固定化するフリーデル氏塩(不溶性の塩)を生成する。そのため、同一強度レベルのコンクリートで比較した場合、塩化物イオンの浸透が緩やかとなる。また、高炉スラグを含む高炉セメント(=混合セメント)を用いたコンクリートでは、塩化物イオンの浸透が抑制されることが知られている。
【0028】
逆に、CA量の少ないセメントでは塩化物イオンが浸透しやすくなり、市販のものでは低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントなどが挙げられる。また、CA、CAFの含有割合の少なく、混合材等を多く含まないセメントであれば、特に種類を限定するものではない。
【0029】
これに対し、腐食因子が二酸化炭素である場合は、塩分とメカニズムが異なるため、被覆モルタルへの浸透性に影響するセメントは異なる。二酸化炭素に起因したコンクリートの中性化による鉄筋腐食は、コンクリートのpH低下によって発生する。その進行過程は、二酸化炭素の拡散では、コンクリートの構成物質である水酸化カルシウム(pH12.6程度)の炭酸化によるコンクリートのpHの低下、鋼材の腐食(pH9〜10で腐食進行)、のように進行する。従って、セメントが水と反応して生成される水酸化カルシウム量によって、中性化の進行速度は異なってくる。
【0030】
水酸化カルシウムは、セメント主要水和物で、一般のセメントでは必ず生成されるため、一概にセメント種によって中性化の速さを述べることは難しいが、水酸化カルシウムの生成量もしくは生成可能量の観点から考えた場合、生成量の少ないセメントほど中性化に対しては抵抗性が小さくなるといえる。従って、最も水酸化カルシウムの生成量が少ないセメントは、混合セメントである高炉セメント、フライアッシュセメントが挙げられる。混合セメントは、セメントに高炉スラグ、フライアッシュ等が混合されたセメントで、前記の混合材は水酸化カルシウムを生成せず、むしろ水酸化カルシウムと反応して硬化するため水酸化カルシウム量が相対的に少なくなる。
【0031】
第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルは、高炉セメントやフライアッシュセメントなどの混合セメントや、あるいは低熱高炉セメントや中庸熱フライアッシュセメントなどを用いることが相対的に好ましいと考えられる。また、市販品に限定するものではなく、混合材の混合比等を換えて製造したセメントでも良い。
【0032】
すなわち、本実施形態で使用するセメントは、次のようなものが好ましい。
(1)水セメント比同等(物性/浸透性同等)とする場合は、対象構造物に使用されているセメント、普通セメント、またはより浸透性の高いセメントを使用する。
(2)水セメント比が小さい場合、あるいは感度をより向上させたい場合で、塩化物イオンを考慮する場合は、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントなどがある。なお、CA、CAFの含有割合の少なく、混合材等を多く含まないセメントであれば、特に種類を限定するものではない。
(3)水セメント比が小さい場合、あるいは感度をより向上させたい場合で、炭酸ガス(中性化)を考慮する場合は、高炉セメント、フライアッシュセメントなどがある。
【0033】
なお、上記化学組成については、次の通りである。アルミネート(CA)、フェライト(CAF)等の呼称は、セメント鉱物に用いられる呼称で、JIS等での記載は、アルミン酸三カルシウムで、「3CaO・Al」と記す。セメントの主要構成鉱物は、他にCS、CS、CAFがある。エーライト(CS)は、けい酸三カルシウムで、「3CaO・SiO」と記す。また、ビーライト(CS)は、けい酸二カルシウムで、「2CaO・SiO」と記す。また、フェライト(CAF)は、アルミン酸鉄四カルシウムで、「4CaO・Al・Fe」と記す。
【0034】
JIS R 5210のポルトランドセメントの規格に記載のCAの規定値は、次の通りである。
低熱ポルトランドセメント:アルミン酸三カルシウム 鉱物組成 6%以下
中庸熱ポルトランドセメント :アルミン酸三カルシウム 鉱物組成 8%以下
耐硫酸塩ポルトランドセメント:アルミン酸三カルシウム 鉱物組成 4%以下
なお、普通ポルトランドセメントには、アルミン酸三カルシウムの上限規定値はない。
【0035】
通常、良く使用されるセメントの鉱物組成の一例を以下に示す。
【表1】

上記の表において、構成鉱物の合計割合が100%にならないのは、セメント製造で添加される粉砕助剤、石こう、5%以下で認められるJIS規定の混合材(石灰石微粉末、高炉スラグ、フライアッシュなど)があることによる。これらを全て足すと100%となる。
【0036】
なお、高炉セメントとは、JIS R 5211の「高炉セメント」のことをいう。また、本明細書では、前記に加え、JIS A6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」で規定のものを混合材として混合したセメントも含める。また、フライアッシュセメントとは、JIS R 5213の「フライアッシュセメント」のことをいう。また、本明細書では、前記に加え、JIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」で規定のものを混合材として混合したセメントも含める。
【0037】
[コンクリートの強度について]
コンクリートの強度は、使用材料が同一であれば、水とセメントの比(水/セメント質量比)によって決定される。このため、一般に、コンクリートの強度は、水セメント比あるいはセメント水比によって設定される。この関係は、比例関係にあることが確認されており、セメント水比の場合に強度と正比例する。また、物質浸透性(物質移動)についても、水セメント比が大きなファクターとして規定され、セメント種が同一であれば、これが支配的要因となる。
【0038】
ただし、強度は、使用骨材が異なると変動するので、水セメント比が同一の条件でも、強度を完全に一致させることは難しい(比例直線の切片が異なる)。第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルは、工場で管理・製造するので、ある特定の骨材を使用して、水セメント比ごとに強度を確認し、水セメント比と強度の関係を予め確認し、比例直線を求めておく。この関係から、対象構造物コンクリートの強度以上となる水セメント比で、かつ対象構造物の水セメント比と近くなるように第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルの水セメント比を設定する。ここで、強度が同等でも水セメント比が対象構造物コンクリートよりも大きくなる場合は、水セメント比を同一にする(強度が大きい分には問題にならない)。
【0039】
本実施形態においては、コンクリートの強度を次のように定める。
(1)第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルの強度が、対象構造物コンクリートと同等以上とする。
(2)上記(1)を満たし、対象構造物コンクリートの水セメント比以下の条件で、第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルの水セメント比を最大とする。
【0040】
(例1)対象構造物コンクリートが強度36N/mmで、水セメント比が52.5%である場合、第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルは、強度40N/mm以上で、水セメント比が55%以下である必要があるとすると、第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルの水セメント比を52.5%と設定する。
【0041】
(例2)対象構造物コンクリートが強度36N/mmで、水セメント比が57.5%である場合、第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルは、強度40N/mm以上で、水セメント比が55%以下である必要があるとすると、第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルの水セメント比を55%と設定する。
【0042】
新設構造物であれば、水セメント比が既知であるため、上述の手法を用いる。既設コンクリートで、水セメント比などの配合情報が既知の場合も同様である。一方、配合情報が未知の場合は、既設構造物への設置はコア抜きが伴うので、抜いたコンクリートコアについて試験し、強度レベルを確認する。ここから、例えば、既設コンクリートの強度レベルに安全率を20%程度の安全率を乗じて、第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルの強度レベルを設定し、そこから水セメント比が決定される。この場合は、対象コンクリートの水セメント比が未知であるものの、強度に安全率を乗じて算定された水セメント比であるため、問題は生じない。
【0043】
これは、実質的に同等もしくは小さい水セメント比になると考えられるためである。既設コンクリートは、長期間経過して強度が増進しているため、強度レベルで合わせると短期強度で設計する第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルの水セメント比は小さくなる場合が多く、さらに安全率を乗じているためである。
【0044】
[モルタルの配合について]
モルタルの配合は、単位容積当りの構成材料の質量で示されている。配合を選定する条件は、材料種類(水、セメント、骨材)、水セメント比(質量比)、単位骨材容積比(単位容積に占める骨材容積の割合)である。なお、水は、一般に上水道水であれば良く、JIS適合水でも良い。モルタルの水セメント比(mass)の範囲は20%〜70%、単位骨材容積率(vol)は0%〜75%程度の範囲で、対象のコンクリートに合わせて設定することが好ましい。
【0045】
水セメント比は、検査対象のコンクリートの水セメント比に対して同等であることが最も好ましく、0〜10%程度小さく設定しても良い。単位骨材容積は、割合が高いほどコンクリートに近づくが施工性も低下する。逆に割合が低ければ施工性は改善されるがコンクリートの物性から離れ、また材料分離も生じやすくなる。軟らかさや締固め性、腐食センサの設置位置などを勘案して設定でき、0%〜75%の範囲で設定でき、好ましくは30%〜65%の範囲である。次の表は、モルタル・ペーストの配合条件と配合例を示す。なお、対象コンクリートのW/Cは、57.5%であるとする。
【0046】
【表2】

ここでは、中庸熱ポルトランドセメント(密度3.21g/cm)、砕砂(密度:2.60g/cm)を使用する。
【0047】
第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルは、複数の配合を予め準備し、適当な範囲となるものを選択することができる。次の表は、第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルの水セメント比の適用範囲の一例を示す。なお、次の表よりも、細かく設定することも可能である。
【0048】
【表3】

対象のコンクリートの水セメント比が不明の場合、調査によってある程度の範囲で推定することができる。そのため、上記の表のような選択基準でモルタルを選択することも可能である。
【0049】
[拡散係数とセンサ部の設置位置について]
腐食因子が、例えば、塩化物イオンや炭酸ガスであるような場合、モルタル・コンクリートへの浸透は、拡散によって進行する。このため、拡散係数が、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を示す直接的な尺度となる。モルタル・コンクリートの拡散係数は、使用材料、配合、環境によって異なるため、厳密な意味での拡散係数を求めることは容易ではないが、試験や調査によって見かけの拡散係数を求めることができる。環境条件を除けば、拡散係数は、材料組成に依存するので、拡散係数によってモルタル品質を設定しても良い。
【0050】
腐食センサの検知対象が塩分である場合は、セメント種としてCA量の少ないセメントの使用により、また、検知対象が炭酸ガスである場合には、低アルカリセメントや混合セメントの使用により、塩分および炭酸ガスの見掛けの拡散係数が大きくなる傾向がある。このため、検知感度の向上に有効である。また、配合上の水セメント比を同程度、あるいは近付けて設定すれば拡散係数を近付けることが可能となる。その上で、第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルに埋設する腐食センサの設置位置を、施工性や保護性を担保した範囲で、できるだけ表面近傍に設置すれば、検知感度が向上する。検知対象のコンクリートと、腐食センサ埋設モルタルにおいて、塩分・二酸化炭素の拡散が生じ、腐食センサによって検知することが可能となる。拡散は、濃度差を駆動力として、時間に応じて因子の到達距離が決定される。言い換えれば、距離を短くすることは拡散因子の到達時間を短縮する直接的な手法となり得る。
【0051】
表面からセンサ部までの間隔は、2mm〜20mm程度とすることが好ましく、より好ましくは2mm〜10mm程度、さらに好ましくは2mm〜5mm程度とすることが好ましい。上記の範囲であれば、水セメント比が検知対称コンクリートより多少小さくなったとしても、モルタル材料の検討を行なうことで、コンクリート構造物中の腐食因子の浸透から鉄筋腐食までの時間的オーダー(数年〜数十年)と比較して、維持管理に資する上で、十分な検知感度を付与することが可能となる(数ヶ月から数年以内の検知感度)。なお、既述したように、検知対象のコンクリートと第1のセメント硬化体10および第2のセメント硬化体14を形成するモルタルの水セメント比が同等であることが最も好ましい。なお、拡散係数は、塩分拡散係数、炭酸ガス拡散係数(中性化速度係数)等、種々有るので、用途に合わせて、いずれを基準にして設定しても良い。
【0052】
[ユニットの製造方法]
図4は、腐食センサユニットを製造する手順を示す図である。ここでは、φ50mm、深さ120mmのコアボーリングを行なった削孔部に挿入する腐食センサユニットの製造方法の一例について説明する。まず、土台となるモルタルの内側円筒部、すなわち、第1のセメント硬化体10であるが、φ40mmとして作製する。具体的には、汎用の円筒φ50mm×高さ100mmの型枠40を用意し、これにモルタルが付着しないテフロン(登録商標)製の中抜け円筒A(外径φ49.8mm、内径φ40mm、高さ100mm)を挿入して、モルタルを高さ80mmの位置まで打設する(ステップS1)。打設してモルタルが硬化したのち(例えば、1週間後)、テフロン(登録商標)筒Aと・モルタル円筒を取り出し、第1のセメント硬化体10を得る(ステップS2)。
【0053】
次に、第1のセメント硬化体10の所定の表面に、センサ部11およびアンテナを有するRFIDタグ12を貼り付け、センサ部11とRFIDタグ12とをリード線13で接続する(ステップS3)。これらの接続部は、長期使用時における耐久性の欠点となりやすので、シリコン材やスチレンゴム材などの防水・防湿材料で充分に被覆する。その後、φ50mm・高さ100mmの型枠41にテフロン(登録商標)中抜け円筒B(外形φ49.8mm、内径φ46mm、高さ100mm)を挿入し、センサ部11等が設置済みの第1のセメント硬化体10(φ40)を挿入する(ステップS4)。その後、最大粒子径の小さい砂を用いたモルタルで、間隙を打設し、高さ100mmとなるようにする。モルタルの硬化まで1週間程度養生し、そののち、型枠を取り外して、φ46mmのユニットが完成する(ステップS5)。
【0054】
本実施形態に係る腐食センサユニットは、以上のような手法を用いて工場で製造することができるため、品質および精度が確保され、コンクリート中での測定において、センサ部11の検知データのばらつきを抑えることができる。すなわち、不確実性の少ない腐食センサユニットを提供することが可能となる。
【0055】
[設置方法の一例]
図5は、本実施形態に係る腐食センサユニットの設置方法の一例を示す図である。既設構造物の躯体コンクリート30において、検知したい箇所をコアボーリングする。この際、調査目的でサンプル採取のためにコア抜きした削孔部31を用いても良い。この削孔部31に、上記の手法で製造した腐食センサユニット(第2のセメント硬化体14)を挿入する。ここで、躯体コンクリート30との付着を取るために、あらかじめペースト・モルタルを第2のセメント硬化体14の外表面に塗り、そののち挿入しても良いし、挿入後、ペースト・モルタルを圧入しても良い。設置後、削孔部31の表面は、腐食因子の浸入の可能性があるので、補修モルタル32で補修する。
【0056】
[検知方法]
腐食センサユニット(第2のセメント硬化体14)を削孔部31に挿入したのち、時間の経過とともに、躯体コンクリート30と腐食センサユニットとの間で腐食因子の拡散が生じる。例えば、塩化物イオンであれば、ユニットへ浸透し、水分・酸素の供給によってセンサ部11の鉄箔に腐食が生じる。このセンサ部11の変状を捉えることによって、躯体コンクリート30の腐食環境が判断できる。例えば、表面側のセンサ部11に腐食断線が生じても、奥側のセンサ部に変状が生じていなければ、腐食環境の浸透深さが判別できる。また、構造物の竣工日が既知であれば、時間と浸透深さの関係から、腐食環境の今後の浸透について、例えば、鉄筋位置への到達時期などについて、おおよそ(数年後、十数年後、数十年後等)の将来予測が可能となる。これによって、計画的な補修・改修工事などにより構造物の延命措置を検討することが可能となる。
【0057】
また、構造物の補修・改修工事の効果の判断にも使用できる。これは、工事の際に本センサを埋設することによって可能であり、例えば、補修工事前の予備調査時に実施した削孔部に本実施形態に係る腐食センサユニットを埋設して、工事の効果を確認するともに、工事後に長期的なモニタリングを実施することを可能とする。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、センサ部11が、第1のセメント硬化体10の側面に設置されるため、拡散してきた腐食因子を正確に検出することが可能となる。また、第2のセメント硬化体14が、第1のセメント硬化体10、センサ部11、およびRFIDタグ12をコンクリートで被覆するので、センサ部11の保護機能が飛躍的に向上し、検査対象のコンクリート中への設置が容易となる。また、センサ部11が鉄部材である場合は、コンクリート内でアルカリ環境下におかれることから、センサ部11が不導体被膜で覆われる。その結果、コンクリート内部におかれていないセンサ部と比較すると錆びにくくなり、取扱いが容易となる。
【符号の説明】
【0059】
10 第1のセメント硬化体
11 センサ部
12 RFIDタグ
13 リード線
14 第2のセメント硬化体
30 躯体コンクリート
31 削孔部
32 補修モルタル
40、41 型枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサユニットであって、
コンクリート、モルタル若しくはペーストで第1の直径を有する円筒形に成形された第1のセメント硬化体と、
前記第1のセメント硬化体の側面に設置され、鉄筋を腐食させる腐食因子のコンクリートへの浸透状態を検出し、前記腐食因子の浸透状態を示すデータを出力するセンサ部と、
前記第1のセメント硬化体のいずれか一方の平滑な端面に設置され、前記センサ部が出力したデータを無線送信する送信部と、
前記第1のセメント硬化体、前記センサ部および前記送信部を、コンクリート、モルタル若しくはペーストで被覆し、前記第1のセメント硬化体の直径よりも大きい第2の直径を有する円筒形に成形された第2のセメント硬化体と、を備えることを特徴とする腐食センサユニット。
【請求項2】
前記センサ部は、鉄箔で形成されていることを特徴とする請求項1記載の腐食センサユニット。
【請求項3】
鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食環境を検出する腐食センサの設置方法であって、
コンクリート、モルタル若しくはペーストで第1の直径を有する円筒形に成形された第1のセメント硬化体を作製するステップと、
前記第1のセメント硬化体の側面に、鉄筋を腐食させる腐食因子のコンクリートへの浸透状態を検出し、前記腐食因子の浸透状態を示すデータを出力するセンサ部を設置するステップと、
前記第1のセメント硬化体のいずれか一方の平滑な端面に、前記センサ部が出力したデータを無線送信する送信部を設置するステップと、
前記第1のセメント硬化体、前記センサ部および前記送信部を、コンクリート、モルタル若しくはペーストで被覆し、前記第1のセメント硬化体の直径よりも大きい第2の直径を有する円筒形に成形された第2のセメント硬化体を作製するステップと、
前記第2のセメント硬化体を、検出対象の構造物のコンクリートをコアボーリングした削孔部に埋設し、一体化させるステップと、を少なくとも含むことを特徴とする腐食センサの設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−237090(P2010−237090A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86491(P2009−86491)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】