腐食環境センサによる腐食環境評価方法
【課題】短期間で簡単に腐食環境を評価できず、鋼構造物の設置予定場所の腐食環境を評価することが難しく、腐食環境を精度よく評価できない。
【解決手段】鋼構造物の腐食に関与する大気中の腐食因子により変色する複数種類の金属片からなる腐食環境センサ1を鋼構造物と同じ環境下で腐食させ、次に腐食した腐食環境センサ1の表面を測色手段12で測定して、明度と色相と彩度に関する表色データを作成し、次に腐食環境センサから得た表色データと、腐食因子別・濃度別に腐食させた腐食環境マスター11a〜11fから予め作成しておいた表色マスターデータとを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価する。
【解決手段】鋼構造物の腐食に関与する大気中の腐食因子により変色する複数種類の金属片からなる腐食環境センサ1を鋼構造物と同じ環境下で腐食させ、次に腐食した腐食環境センサ1の表面を測色手段12で測定して、明度と色相と彩度に関する表色データを作成し、次に腐食環境センサから得た表色データと、腐食因子別・濃度別に腐食させた腐食環境マスター11a〜11fから予め作成しておいた表色マスターデータとを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼構造物の腐食に関与する大気中の腐食因子により腐食し変色する複数種類の金属片からなる腐食環境センサを実際の環境下で腐食させ、その腐食した腐食環境センサの色を表す表色データから腐食環境を評価する腐食環境評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物の損傷のうちの多くを占める腐食や疲労は、供用時間の経過と共に発生頻度は上がる。近年の腐食損傷事例の増加につれて、維持管理の重要性が広く認識され始め、効率的な予防保全のためにも、供用中の鋼構造物に対する腐食劣化予測やライフ・サイクル・コストをも考慮した最適な予防方法が求められている。
【0003】
鋼構造物の腐食の進行の程度を評価する技術として、特許文献1には、鋼構造物の腐食部分を腐食したカラーサンプルと共に撮影して、画像処理によって鋼構造物の腐食の進行の程度を評価する技術が提案されている。
特許文献2には、電気・電子機器に採用されている金属材料の大気中での暴露日数に対する腐食減量を用いて腐食環境の程度を示す環境評価点を算定し、金属材料の寿命を診断する技術が記載されている。
【0004】
大気中に置かれた鋼構造物の腐食の原因は、大気中に含まれる水分(結露、雨水)、飛来塩分、種々の大気汚染物質(SO2 ,SO3 ,NO,NO2 ,H2 S,NH3 など)、気温などの複合されたものであるが、これら因子の単独分析では腐食との対応は困難である。また、合理的な防蝕設計を行うためにも、付着塩分量、大気汚染物質、温度、湿度などの腐食因子と腐食状態(部位,程度,速度)との定量的な関係を明らかにする必要があるとされている。大気中の鋼構造物の腐食に関しては、対象表面が乾燥するため、電気化学的モニタリング手法は容易ではない。鋼材の暴露試験では、長い時間と多くのコストがかかる。
【0005】
そこで、鋼材よりも短時間で腐食因子から腐食状況を知ることのできる複数種類の金属片を用いることで、腐食環境を評価することができることに着目して、本願出願人は、金属の腐食による状態変化を利用することで鋼構造物の腐食因子を容易に特定することのできる腐食環境センサを提案した(特願2003−357560号)。
【特許文献1】特許第3329767号公報
【特許文献2】特開2001−215187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術は鋼構造物の外観に現れる腐食の程度を評価する技術であるから、鋼構造物の腐食があまり進行してない構築初期の状態では適用できないという問題がある。また、従来の技術では腐食環境を短期間で簡単に評価するのが難しい。また、鋼構造物の設置後腐食が発生しない段階では適用できないので、鋼構造物を設置する予定の場所の腐食環境を予め評価することができない。
【0007】
さらに、前記の腐食環境センサが腐食環境下で腐食する際に、複数種類の腐食因子が関与しており、腐食環境センサの複数種類の金属片の個々の腐食態様も多様であるため、腐食環境センサの腐食状態から、腐食環境を精度よく評価する技術は難しい技術であり、未だ提案されていない。
本発明の目的は、腐食環境センサの複数種類の金属片の腐食状態を測色手段で測定して表色データを作成し、その表色データに基づいて腐食環境を評価できる評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の腐食環境センサによる腐食環境評価方法は、鋼構造物の腐食に関与する大気中の腐食因子により変色する複数種類の金属片からなる腐食環境センサを鋼構造物と同じ環境下で腐食させる腐食工程と、次に腐食した腐食環境センサの表面を測色手段で測定して、明度と色相と彩度に関する表色データを作成するデータ作成工程と、次に腐食環境センサから得た表色データを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価する評価工程とを備えたことを特徴とするものである。尚、腐食環境センサは、鋼材に比較して腐食されやすい腐食速度の大きな複数種類の金属片を含むものとする。
【0009】
まず、鋼構造物の腐食に関与する大気中の腐食因子により変色する複数種類の金属片からなる腐食環境センサを鋼構造物と同じ環境下で腐食させ、次に腐食した腐食環境センサの表面を測色手段で測定して、明度と色相と彩度に関する表色データを作成し、次に腐食環境センサから得た表色データを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価する。
【0010】
請求項2の腐食環境センサによる腐食環境評価方法は、請求項1の発明において、前記評価工程の前に、前記腐食環境センサと同種の新規の腐食環境センサを実験的に複数種の腐食因子で夫々腐食させた腐食環境マスターを作成し、この腐食環境マスターを測色手段で測定して明度と色相と彩度に関する表色マスターデータを作成するマスターデータ作成工程を備えたことを特徴とする。
【0011】
前記のように、新規の腐食環境センサを実験的に複数種の腐食因子で夫々腐食させた腐食環境マスターを作成してその表色データからなる表色マスターデータを作成しておくため、この表色マスターデータと、実際に腐食させた腐食環境センサから得た表色データとに基づいて、鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価することができる。
複数種類の金属片からなる腐食環境センサには複数の腐食因子の影響が反映されるため、表色マスターデータには複数の腐食因子の影響が含まれるから、前記のようにして、鋼構造物の設置場所の腐食環境における腐食因子の影響も評価することができる。
【0012】
請求項3の腐食環境センサによる腐食環境評価方法は、請求項2の発明において、前記マスターデータ作成工程において、腐食環境センサを複数種の腐食因子で夫々腐食させた腐食環境マスターを作成する際に、腐食因子毎に複数の濃度の腐食因子で腐食させた腐食環境マスターを作成し、この腐食環境マスターから前記表色マスターデータを作成することを特徴とする。腐食因子毎に複数の濃度の腐食因子で腐食させた腐食環境マスターを作成し、この腐食環境マスターから表色マスターデータを作成するため、豊富な表色マスターデータを用いて腐食環境を評価する精度を高めることができる。
【0013】
請求項4の腐食環境センサによる腐食環境評価方法は、請求項1〜3の何れかの発明において、前記測色手段として、分光型測色計を用いることを特徴とする。
分光型測色計により、明度(L*)と、色相と彩度を示す色度(a*,b*)の表色データを得ることができるので、腐食による色変化を精度よく表色データに反映させることができる。
【0014】
請求項5の腐食環境センサによる腐食環境評価方法は、請求項1〜4の何れかの発明において、前記マスターデータ作成工程における複数種の腐食因子は、少なくとも、塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物を含むことを特徴とする。少なくとも、主要な腐食因子である塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物についての表色マスターデータを作成するため、腐食環境における塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物の影響を評価することができる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、腐食環境センサを鋼構造物と同じ環境で腐食させ、その腐食した腐食環境センサを測色手段で測定して明度と色相と彩度に関する表色データを作成し、その表色データを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価するため、鋼構造物を構築した場所又は構築予定場所の腐食環境を評価することが可能となる。
【0016】
腐食環境センサは、鋼材に比較して腐食されやすく腐食速度の大きな複数種類の金属片を含むので、鋼構造物と同じ環境に短期間おくだけで腐食するから、短期間で腐食環境の評価を行うことができる。しかも、腐食させた腐食環境センサを測色手段で測色して明度と色相と彩度に関する表色データを作成し、この表色データに基づいて鋼構造物の設置されいる場所の腐食環境を評価するため、精度よく腐食環境を評価することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、表色マスターデータと、実際に腐食させた腐食環境センサから得た表色データとに基づいて、鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を精度よく評価することができる。しかも、表色マスターデータには複数の腐食因子の影響が含まれるから、鋼構造物の設置場所の腐食環境における腐食因子の影響も評価することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、腐食因子毎に複数の濃度の腐食因子で腐食させた腐食環境マスターを作成し、この腐食環境マスターから表色マスターデータを作成するため、豊富な表色マスターデータを用いて腐食環境を評価する精度を高めることができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、前記測色手段として分光型測色計を用いるため、腐食環境センサの腐食による色変化を精度よく表色データに反映させることができる。
請求項5の発明によれば、少なくとも、主要な腐食因子である塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物についての表色マスターデータを作成するため、腐食環境における塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物の影響を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る腐食環境センサによる腐食環境評価方法は、鋼構造物の腐食に関与する大気中の腐食因子により変色する複数種類の金属片からなる腐食環境センサを鋼構造物と同じ環境下で腐食させる腐食工程と、次に腐食した腐食環境センサの表面を測色手段で測定して、明度と色相と彩度に関する表色データを作成するデータ作成工程と、次に腐食環境センサから得た表色データを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価する評価工程とを備えたことを特徴とするものである。
【実施例1】
【0021】
次に、実施例1に係る腐食環境評価システムと腐食環境評価方法について説明する。
図1は腐食環境センサ1を示し、この腐食環境センサ1は、腐食感度に優れる5種類の金属片1a〜1e(Mg片1a,Al片1b,Cu片1c,Ag片1d,Fe片1e)からなる腐食環境センサ1を示す。これら金属片1a〜1eは、絶縁性の合成樹脂製の基板2に形成した浅い凹部に夫々装着して固定され、この腐食環境センサ1が新品の状態では、5種類の金属片1a〜1eと基板2の表面は気密性の封止膜で覆われており、基板2の背面には腐食環境センサ1を鋼構造物に装着するための永久磁石片(図示略)が固定されている。尚、前記の金属片1a〜1eをセンサ片と言う場合もある。
【0022】
図1の腐食環境センサ1を橋桁などの鋼構造物にセットし、前記の封止膜を除去して所定期間(例えば、1ケ月〜6ケ月)大気中に暴露状態に保持すると、5種類のセンサ片1a〜1eが夫々大気中の腐食因子と接触して腐食し、各センサ片1a〜1e特有の状態に腐食し変色する。図2は、そのように腐食させた後の腐食環境センサ1を模式的に図示したものである。
【0023】
次に、5種類のセンサ片1a〜1eの初期状態と腐食による変色について簡単に説明する。Mg片1aは、初期には銀色であるが、水と反応しやすく、灰色を経て黒色に変化する。Al片1bは、初期には銀色であるが、塩素イオンと反応して塩化物を生成し、徐々に白色に変化していく。Cu片1cは初期には銅色であるが、水と反応して酸化すると茶色の酸化物を生成し、また、塩素イオンと反応して塩化物を生成する場合、硫黄酸化物と水と反応して硫化物を生成する場合には、赤黒色に変化していく。
【0024】
Ag片1dは初期には銀色であるが、硫黄酸化物と水と反応して硫化物を生成する場合には、灰色を経て黒色に変化していく。Fe片1eは初期には鉄色であるが、水と反応して酸化物を生成する場合は薄茶色に変化していき、塩素イオンと反応して塩化物を生成する場合には黒色に変化していく。
【0025】
この腐食環境評価システム10は、6種類の腐食環境マスター(湿度用腐食環境マスター11a、塩水用腐食環境マスター11b、硫黄酸化物用腐食環境マスター11c、窒素酸化物用腐食環境マスター11d、硫化水素用腐食環境マスター11e、アンモニア用腐食環境マスター11f)と、複数組の新しい腐食環境センサ1と、腐食環境マスターや腐食させ回収した腐食環境センサ1から表色マスターデータや表色データを作成する分光型測色計12と、分光型測色計12で作成したデータをコンピュータ14に入力するインタフェース13と、コンピュータ14(コンピュータ本体、ディスプレイ、キーボード、マウスを含む)などを有する。
【0026】
湿度用腐食環境マスター11aは、4つの腐食環境センサ1を異なる4種類の湿度(20,40,60,80%RH)の環境下に2ケ月間保持して腐食させたものである。塩水用腐食環境マスター11bは、4つの腐食環境センサ1を異なる4種類の濃度(10,20,30,40%)の塩水噴霧環境下に2ケ月間保持して腐食させたものである。硫黄酸化物用腐食環境マスター11cは、3つの腐食環境センサ1を異なる3種類の濃度(0.02,0.04,0.06ppm、湿度80%RH)の硫黄酸化物(SO2 とSO3 の1:1の混合ガス)の環境下に2ケ月間保持して腐食させたものである。
【0027】
窒素酸化物用腐食環境マスター11dは、3つの腐食環境センサ1を異なる3種類の濃度(0.02,0.04,0.06ppm、湿度80%RH)の窒素酸化物(NOとNO2 の1:1の混合ガス)の環境下に2ケ月間保持して腐食させたものである。硫化水素用腐食環境マスター11eは、3つの腐食環境センサ1を異なる3種類の濃度(0.01,0.02,0.03ppm、湿度80%RH)の硫化水素の環境下に2ケ月間保持して腐食させたものである。アンモニア用腐食環境マスター11fは、3つの腐食環境センサ1を異なる3種類の濃度(0.01,0.02,0.03ppm、湿度80%RH)の硫化水素の環境下に2ケ月間保持して腐食させたものである。
【0028】
分光型測色計12は、物体の色を明度(L*)と、色相と彩度を表す色度(a*,b* )を数値化した表色データ(L*,a*,b* )に変換する機能を有するものである。尚、この明細書と図面において、表色データ(L*,a*,b* )を(L,a,b)と記載し、色差「ΔE*a*b*」を「ΔEab」と簡略的に記載する(図4〜図16参照)。
【0029】
4つの湿度用腐食環境マスター11aを分光型測色計12により測定した表色マスターデータのデータ構造は図4に示すようになる。4つの塩水用表色マスター11bを分光型測色計12により測定した表色マスターデータのデータ構造は図5に示すようになる。硫黄酸化物用表色マスター11cを分光型測色計12により測定した表色マスターデータのデータ構造は図6に示すようになる。
【0030】
窒素酸化物用表色マスター11dを分光型測色計12により測定した表色マスターデータのデータ構造は図7に示すようになる。硫化水素用表色マスター11eを分光型測色計12により測定した表色マスターデータのデータ構造は図8に示すようになる。アンモニア用表色マスター11fを分光型測色計12により測定した表色マスターデータのデータ構造は図9に示すようになる。
【0031】
図4〜図9に示す表色マスターデータは、測定するごとに分光型測色計12からインターフェース13を介してコンピュータ14に格納される。次に、何れかの場所に設置された道路橋や鉄橋の橋桁(鋼構造物)の腐食環境を検知し、橋桁の寿命予測を行う場合には、新規の腐食環境センサ1を前記の橋桁に固定し橋桁と同じ環境下に2ケ月間放置し腐食させてから回収する。
【0032】
次に、腐食環境評価システム10により腐食環境を評価する腐食環境評価方法について、図17、図18に基づいて説明する。尚、前記の説明と重複する内容については簡単に説明する。図17において、Pi(i=1,2,・・)は各工程を示す。
最初に、工程P1において、複数組の腐食環境マスター11a〜11fの製作の準備のため、所要枚数の腐食環境センサ1を準備する。本実施例の場合、6種類のマスター用に計20枚の腐食環境センサ1を準備する。
【0033】
次に、工程P2において、腐食環境マスターの製作のための腐食実験を行って、前述したとおりの腐食因子別(湿度、塩水、硫黄酸化物、窒素酸化物、硫化水素、アンモニア)の濃度別の腐食環境マスター11a〜11fを製作する。
次に、工程P3において、腐食因子別、濃度別の複数組の腐食環境マスター11a〜11fを分光型測色計12で順次測定し、腐食因子別、濃度別の表色マスターデータ(図4〜図9参照)を作成し、その表色マスターデータをコンピュータ14のハードディスクに格納する。
【0034】
次に、工程P4において、1又は複数組の新規の腐食環境センサ1を前記特定の橋桁(鋼構造物)に設置して橋桁と同じ腐食環境下に1〜6月程度の所定期間(本実施例では、例えば2ケ月間)腐食させる。尚、この工程P4は工程P1,P2と並行的に実施してもよい。次に、工程P5において、前記所定期間の経過後に橋桁から腐食環境センサ1を回収する。
【0035】
次に、工程P6において、回収した実施腐食環境センサ1の5枚のセンサ片1a〜1eを測色計12で測定し、図10に示すような表色データ(L,a,b)を作成し、コンピュータ14のハードディスクに格納する。次に、工程P7において、コンピュータに予め格納した腐食環境評価制御プログラムにより、図4〜図9の表色マスターデータと図10の表色データを処理することにより、前記の橋桁が設置されている腐食環境を評価する評価演算処理を実行する。
【0036】
この工程P7においてコンピュータ14により実行される腐食環境評価演算処理について図18のフローチャートに基づいて説明する。尚、図18においてSi(i=1,2,・・・)は各ステップを示すものである。
【0037】
この処理の開始後、最初のS1では、図4の湿度用表色マスターデータ(L,a,b)と、図10の回収した腐食環境センサの表色データ(L,a,b)を読み出し、図11に示すようなデータ構造の色差ΔEab(hm) が演算される。尚、(hm) は「湿度」を示す添え字である。また、前記表色マスターデータと表色データについて、明度Lの差分をΔL、色度a,bの差分をΔa,Δbとしたとき、色差ΔEabは次式で演算される。
ΔEab=[ΔL2 +Δa2 +Δb2 ]1/2
【0038】
このように演算された湿度用の色差ΔEabのデータの構造は、図11のようになる。 ある色と別の色とが類似した色になる程、色差ΔEabの値が小さくなることから、次に、S2において、図11の色差ΔEabのデータにおいて、各センサ片1a〜1e別に最小の色差ΔEabを抽出し、5つの最小の色差ΔEabに対応する5つの湿度H1〜H5を演算し、湿度評価値Hmを湿度H1〜H5の平均値として求め、ハードディスクに格納する。こうして、前記の橋桁が設置されている環境の湿度の程度が数値化される。
【0039】
次に、S3においては、図5の塩水用表色マスターデータ(L,a,b)と、図10の回収した腐食環境センサの表色データ(L,a,b)とから、S1と同様に、図12に示すように色差ΔEab(CL)を演算する。尚、(CL)は「塩水」を示す添え字である。
次に、S4において、図12の色差ΔEabのデータにおいて、各センサ片1a〜1e別に最小の色差ΔEabを抽出し、5つの最小の色差ΔEabに対応する5つの塩水濃度CL1 〜CL5 を演算し、塩水濃度評価値CLm を塩水濃度CL1 〜CL5 の平均値として求め、ハードディスクに格納する。こうして、前記の橋桁が設置されている腐食環境の塩分濃度の程度が数値化される。
【0040】
次に、S5において、上記と同様にして、図6の硫黄酸化物用表色マスターデータ(L,a,b)と、図10の表色データ(L,a,b)とから硫黄酸化物についての色差ΔEab(s)(図13参照)と硫黄酸化物濃度評価値SOmが演算される。尚、(s)は「硫黄酸化物」を示す添え字である。図7の窒素酸化物用表色マスターデータ(L,a,b)と、図10の表色データ(L,a,b)とから窒素酸化物についての色差ΔEab(n)(図14参照)と窒素酸化物濃度評価値NOmが演算される。尚、(n)は「窒素酸化物」を示す添え字である。
【0041】
図8の硫化水素用表色マスターデータ(L,a,b)と、図10の表色データ(L,a,b)とから硫化水素についての色差ΔEab(hs)(図15参照)と硫化水素濃度評価値HSmが演算される。尚、(hs)は「硫化水素」を示す添え字である。図9のアンモニア用表色マスターデータ(L,a,b)と、図10の表色データ(L,a,b)とからアンモニアについての色差ΔEab(nh)(図16参照)とアンモニア濃度評価値NHが演算される。尚、(nh)は「アンモニア」を示す添え字である。
【0042】
以上説明した腐食環境評価方法においては、腐食環境センサ1を鋼構造物(橋桁)と同じ環境で腐食させ、その腐食した腐食環境センサ1を分光型測色計12で測定して明度と色相と彩度に関する表色データを作成し、その表色データを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価するため、鋼構造物を構築した場所の腐食環境を評価することが可能となる。しかも、鋼構造物の設置予定場所に、腐食環境センサ1を設置することにより、設置予定場所の腐食環境を評価することも可能である。
【0043】
腐食環境センサ1は、鋼材に比較して腐食しやすい5種類のセンサ片1a〜1e(Mg片,Al片,Cu片,Ag片,Fe片)を含むので、鋼構造物と同じ環境に数ケ月の短期間おくだけで腐食するから、短期間で腐食環境の評価を行うことができる。しかも、腐食させた腐食環境センサ1を分光型測色計12で測色して明度と色相と彩度に関する表色データを作成し、この表色データに基づいて鋼構造物の設置された場所の腐食環境を評価するため、精度よく腐食環境を評価することができる。
【0044】
複数の腐食因子別、濃度別の表色マスターデータと、実際に腐食させて回収した腐食環境センサ1から得た表色データとに基づいて、5種類のセンサ片1a〜1eについて、複数の腐食因子別、濃度別の色差ΔEabを演算し、その色差ΔEabの最小のものからセンサ片1a〜1e別に腐食因子の濃度を算出し、複数のセンサ片1a〜1eからのデータで得た濃度の平均値から濃度評価値を算出するので、鋼構造物の設置された場所や設置予定場所の腐食環境を精度よく評価することができる。
【0045】
しかも、表色マスターデータには複数の腐食因子の影響が含まれるから、鋼構造物の設置場所の腐食環境における複数の腐食因子の影響も確実に評価できる。即ち、少なくとも、主要な腐食因子である塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物についての表色マスターデータを作成するため、腐食環境における塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物の影響を評価することができる。
【0046】
しかも、腐食因子毎に複数の濃度の腐食因子で腐食させた腐食環境マスター11a〜11fを作成し、この腐食環境マスター11a〜11fから表色マスターデータを作成するため、豊富な表色マスターデータを用いて腐食環境を評価する精度を高めることができる。また、分光型測色計12を用いるため、腐食環境センサ12の腐食による微妙な色変化を精度よく表色データに反映させることができる。
【0047】
ここで、前記実施例を部分的に変更する例について説明する。
1)図17の工程は一例に過ぎず、工程P1〜P3を工程P4〜P6と並行的に行い、工程P7の開始までに、工程P3の表色マスターデータをコンピュータに格納しておけばよい。
2)腐食環境センサに適用する金属の種類は、前記の5種類に限定されず、Zn,Pb,Snなどの金属片も含む腐食環境センサを採用してもよく、成分的に安定している種々の合金(例えばSUS、真鍮、青銅など)などの金属片も含む腐食環境センサを採用してもよい。
【0048】
3)前記実施例では、腐食環境センサ1に含まれる5種類のセンサ片1a〜1eにおける表色マスターデータを全部活用して、腐食因子の濃度を演算する例について説明したが、腐食因子に対して腐食感度の鈍い1又は複数のセンサ片を無視した形で、2〜4種類のセンサ片における表色マスターデータと表色データを活用して腐食因子の濃度を演算するように構成してもよい。
【0049】
4)前記実施例では、腐食環境センサ1に含まれる5種類のセンサ片1a〜1eにおける表色マスターデータを全部平等に活用して、腐食因子の濃度を演算する例について説明したが、腐食因子に対する腐食感度の高低に応じて重み付けする重み付け係数を予め設定しておき、その重み付け係数を用いて腐食因子の濃度を演算するように構成してもよい。
【0050】
5)前記実施例では、腐食環境マスターの製作の際に腐食期間を2ケ月として製作したが、この腐食期間は一例であり、これに限定されるものではない。また、腐食環境マスターの製作の際に同種の腐食因子の特定の濃度についてのみ長い腐食期間の間腐食させ、全部の濃度については短い期間腐食させた腐食環境マスターから、外挿法等を駆使して、表色マスターデータを作成するようにしてもよい。
6)その他、当業者ならば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能である。
【実施例2】
【0051】
以下、本発明の実施例2について図面を参照して説明する。
先ず、実施例1において説明した腐食環境センサ1(図示略)を、橋桁等の既存の鋼構造物と同じ腐食環境下で約2ケ月間腐食させた場合における腐食環境センサ1のセンサ片の表面状態について定性的に説明する。
【0052】
実施例1の図2に示すように、回収後の腐食環境センサ1のセンサ片の表面状態は、大気中の腐食因子により化合物が生成されセンサ片の色彩が変化する。図19に示すように、マグネシウム(Mg)は、水と反応しやすく、固体状の酸化物が生成し、銀色(原色)から肌色を経て白色に変色する。銀(Ag)は、硫黄酸化物と水と反応して粉末状の硫化化合物を生成する場合には、銀色(原色)から灰色を経て黒色に変色する。
【0053】
アルミニウム(Al)は、塩素イオンと反応して粉末状の塩化物を生成し、銀色(原色)から白色に変色する。銅(Cu)は、水と反応して酸化物を生成する場合には、銅色(原色)から茶色に変色し、また、塩素イオンと反応して塩化物を生成する場合、硫化酸化物と水と反応して硫化物を生成する場合には、銅色(原色)から赤黒色に変色する。鉄(Fe)は、水と反応して固体状の酸化物を生成する場合は、鉄色(原色)から薄茶色に変色し、硫黄酸化物と反応して固体状の塩化化合物を生成する場合には、鉄色(原色)から黒色に変色する。
【0054】
次に、前記腐食環境センサ1をJIS規格の5種の腐食試験によって腐食させることにより作成した腐食環境マスターについて説明する。
図20に示すように、前記腐食試験は、大気中の主な腐食因子を想定して設定された5種の腐食条件について実施した。腐食試験(1)は、腐食環境センサ1を45日間大気中に暴露する試験であり、この腐食試験により腐食環境マスター20aが得られる。腐食試験(2)は、腐食環境センサ1を50℃、95%の一定の高温高湿条件下に14日放置する試験であり、この腐食試験により腐食環境マスター20bが得られる。
【0055】
腐食試験(3)は、腐食環境センサ1に5%の濃度の塩水を100日間噴霧する試験であり、この腐食試験により腐食環境マスター20cが得られる。腐食試験(4)は、腐食環境センサ1に塩水を2時間噴霧し後60℃で4時間乾燥させて、その後50℃、95%の一定の高温高湿条件下に2時間放置させる一連の処理を1サイクルとして110回繰り返す複合サイクル試験であり、この腐食試験により腐食環境マスター20dが得られる。 腐食試験(5)は、腐食環境センサ1を40℃1000ppmの亜硫酸ガス(SO2) 中に2日間放置する試験であり、この腐食試験により腐食環境マスター20eが得られる。これらの5種の腐食試験は、鋼構造物が最も厳しい腐食環境下に設置されたことを想定した試験である。
【0056】
上記試験結果から、マグネシウム片は塩分や水分(雨水・結露)、銀片は亜硫酸ガス、アルミニウム片は、塩分や水分(雨水・結露)、銅片は、あらゆる腐食因子、鉄片は塩分や水分(雨水・結露)によって腐食し易いことが判る。特に、銅はあらゆる腐食因子を含む大気環境において、腐食に対する感受性が最も高いことが判った。
【0057】
図21は、図20に示す5種の腐食試験により作成した5種の腐食環境マスター20a〜20eにおける各センサ片の表面の変色状態を模式的に図示したものである。これらの腐食環境マスター20a〜20eと、別の実際の腐食環境下で腐食させた腐食環境センサ1とを目視にて対比することにより、その実際の腐食環境を概略的に評価することができる。例えば、ある腐食環境下の鋼構造物のフランジ下面に腐食環境センサ1を一定期間(1〜6ケ月)設置して腐食させた場合に、腐食環境センサ1のマグネシウム片が顕著に変色している場合、前記腐食環境マスター20a〜20eを用いて、回収後の腐食環境センサ1のマグネシウム片の変色状態と腐食環境マスター20a〜20eのマグネシウム片の変色状態とを照合して腐食因子を概略的に推定し、腐食環境を評価することができる。
【0058】
次に、前記の腐食環境マスター20a〜20eと、鋼構造物を設置する実際の腐食環境下において腐食させた腐食環境センサ1とを用いて腐食環境を評価する方法について、図22の工程図に基づいて説明する。尚、図中のPi(i=10,11,・・)は各ステップを示す。P10、P11は前述したように5種の腐食試験により腐食環境センサ1を腐食させて腐食環境マスター20a〜20eを作成するステップである。
【0059】
次に、P12において、、実施例1で説明したのと同様の腐食環境評価システム10の分光型測色計13により、腐食環境マスター20a〜20eを測色してそれらの表色マスターデータ(E,a,b)M を作成し、その表色マスターデータを腐食環境評価システム10のコンピュータ14のハードディスクに格納する。尚、表色マスターデータ(E,a,b)M は明度E、色相と彩度を示す色度a,bのデータを含む。分光型測色計13による計測条件は、照明受光光学系がd/8 SCI/SCE同時測定による拡散照明方式、測定径がΦ8mm、測定波長間隔が10nmである。尚、添字のMはマスターを示す。
【0060】
一方、新しい1又は複数の腐食環境センサ1を既存の鋼構造物と同じ腐食環境に設置して所定期間(例えば、2ケ月間)腐食させ(P13)、その後腐食させた腐食環境センサ1を回収する(P14)。次のP15においては、回収した腐食環境センサ1と、5種類の腐食環境マスター20a〜20eとを目視にて対比し、腐食因子とその濃度の程度を推定する。次に、P16において、回収した腐食環境センサ1を前記測色計13により測色して表色データ(E,a,b)S を作成し、その表色データ(E,a,b)S を腐食環境評価システム10のコンピュータ14のハードディスクに格納する。尚、添字のSは腐食環境センサを示す。
【0061】
次に、P17において、腐食環境マスター20a〜20eの各々について、表色マスターデータ(E,a,b)M と、腐食環境センサ1の表色データ(E,a,b)S とから、前記実施例1と同様にして色差ΔEabを演算する。色差ΔEabの値が小さい程、2つの色が近似していることから、色差ΔEabが小さい腐食環境マスター20a〜20eを抽出し、腐食因子を推定し、腐食環境を評価することができる。
【0062】
本実施例の腐食環境評価方法によれば、腐食環境マスターを作成する場合に、JISに規定された腐食試験により作成するため、信頼性に優れる腐食環境マスターを作成することができ、その結果、腐食環境を評価する信頼性を高めることができる。
【0063】
次に、実施例2に関連する技術について説明する。
[1]図23は、前記の腐食環境センサと同じ腐食環境センサ1に、前記とは異なる5種の腐食試験を施して、5つの腐食環境マスターを作成し、その5つの腐食環境マスターの表色データと、腐食前の腐食環境センサ1の表色データとを前記同様に作成し、それらの表色データから色差ΔEabを求めたものである。尚、この色差ΔEabは、腐食させたセンサではなく新規の腐食環境センサとの色差である点で前記と相違している。
【0064】
前記5種のJIS規格の腐食試験について説明すると、腐食試験(イ)は、腐食環境センサ1に所定濃度の塩水を550時間噴霧する試験であり、腐食試験(ロ)は、腐食環境センサ1を50℃、70〜80%の一定の高温高湿条件下に1週間放置する試験であり、腐食試験(ハ)は、腐食環境センサ1を50℃、70〜80%の一定の高温高湿条件下に1カ月放置する試験であり、腐食試験(ニ)は、腐食環境センサ1を50℃、100%の一定の高温高湿条件下に14日間放置する試験であり、腐食試験(ホ)は、40℃、80%で1000ppmの亜硫酸ガス中に1日放置する試験である。
図23の色差ΔEabに関して、その値が大きいものほど変色の度合いが大きいことを示し、図24には、色差の程度と色差ΔEabの値とを対応つけて示した。
【0065】
[2]腐食環境センサ1の代わりに、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、ステンレス鋼の金属片を採用した腐食環境センサも採用できる可能性がある。図25は、その腐食環境センサについて前記図20の(1)〜(5)と同様の腐食試験を施して腐食環境マスターを作成し、その表面の変色状態について説明したものである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1の腐食環境センサの平面図である。
【図2】腐食後の腐食環境センサの模式図である。
【図3】腐食環境評価システムの構成図である。
【図4】湿度に関する表色マスターデータのデータ構造説明図である。
【図5】塩水に関する表色マスターデータのデータ構造説明図である。
【図6】硫黄酸化物に関する表色マスターデータのデータ構造説明図である。
【図7】窒素酸化物に関する表色マスターデータのデータ構造説明図である。
【図8】硫化水素に関する表色マスターデータのデータ構造説明図である。
【図9】アンモニアに関する表色マスターデータのデータ構造説明図である。
【図10】腐食後の腐食環境センサから得た表色データのデータ構造説明図である。
【図11】湿度に関する色差データのデータ構造説明図である。
【図12】塩分に関する色差データのデータ構造説明図である。
【図13】硫黄酸化物に関する色差データのデータ構造説明図である。
【図14】窒素酸化物に関する色差データのデータ構造説明図である。
【図15】硫化水素に関する色差データのデータ構造説明図である。
【図16】アンモニアに関する色差データのデータ構造説明図である。
【図17】腐食環境評価方法の工程図である。
【図18】図17の腐食環境評価演算処理を示すフローチャートである。
【図19】腐食環境センサの各センサ片の腐食後の色彩変化を説明する図表である。
【図20】腐食環境センサを各種腐食試験により腐食させた腐食環境マスターについての説明図表である。
【図21】腐食環境センサの初期状態と各種腐食試験により腐食させた状態の外観状態を模式的に図示した説明図表である。
【図22】腐食環境マスターと実際に腐食させた腐食環境センサとの表色データを作成して、腐食環境を評価する方法の工程図である。
【図23】腐食環境センサの各種腐食試験の前後における色差の数値とその説明の説明図表である。
【図24】色差の程度を説明する説明図表である。
【図25】別の腐食環境センサを5種の腐食試験で腐食させて作成した腐食環境マスターの表面状態の説明図表である。
【符号の説明】
【0067】
1 腐食環境センサ
10 腐食環境評価システム
11a〜11f 腐食環境マスター
12 分光型測色計
14 コンピュータ
20a〜20b 腐食環境マスター
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼構造物の腐食に関与する大気中の腐食因子により腐食し変色する複数種類の金属片からなる腐食環境センサを実際の環境下で腐食させ、その腐食した腐食環境センサの色を表す表色データから腐食環境を評価する腐食環境評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物の損傷のうちの多くを占める腐食や疲労は、供用時間の経過と共に発生頻度は上がる。近年の腐食損傷事例の増加につれて、維持管理の重要性が広く認識され始め、効率的な予防保全のためにも、供用中の鋼構造物に対する腐食劣化予測やライフ・サイクル・コストをも考慮した最適な予防方法が求められている。
【0003】
鋼構造物の腐食の進行の程度を評価する技術として、特許文献1には、鋼構造物の腐食部分を腐食したカラーサンプルと共に撮影して、画像処理によって鋼構造物の腐食の進行の程度を評価する技術が提案されている。
特許文献2には、電気・電子機器に採用されている金属材料の大気中での暴露日数に対する腐食減量を用いて腐食環境の程度を示す環境評価点を算定し、金属材料の寿命を診断する技術が記載されている。
【0004】
大気中に置かれた鋼構造物の腐食の原因は、大気中に含まれる水分(結露、雨水)、飛来塩分、種々の大気汚染物質(SO2 ,SO3 ,NO,NO2 ,H2 S,NH3 など)、気温などの複合されたものであるが、これら因子の単独分析では腐食との対応は困難である。また、合理的な防蝕設計を行うためにも、付着塩分量、大気汚染物質、温度、湿度などの腐食因子と腐食状態(部位,程度,速度)との定量的な関係を明らかにする必要があるとされている。大気中の鋼構造物の腐食に関しては、対象表面が乾燥するため、電気化学的モニタリング手法は容易ではない。鋼材の暴露試験では、長い時間と多くのコストがかかる。
【0005】
そこで、鋼材よりも短時間で腐食因子から腐食状況を知ることのできる複数種類の金属片を用いることで、腐食環境を評価することができることに着目して、本願出願人は、金属の腐食による状態変化を利用することで鋼構造物の腐食因子を容易に特定することのできる腐食環境センサを提案した(特願2003−357560号)。
【特許文献1】特許第3329767号公報
【特許文献2】特開2001−215187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術は鋼構造物の外観に現れる腐食の程度を評価する技術であるから、鋼構造物の腐食があまり進行してない構築初期の状態では適用できないという問題がある。また、従来の技術では腐食環境を短期間で簡単に評価するのが難しい。また、鋼構造物の設置後腐食が発生しない段階では適用できないので、鋼構造物を設置する予定の場所の腐食環境を予め評価することができない。
【0007】
さらに、前記の腐食環境センサが腐食環境下で腐食する際に、複数種類の腐食因子が関与しており、腐食環境センサの複数種類の金属片の個々の腐食態様も多様であるため、腐食環境センサの腐食状態から、腐食環境を精度よく評価する技術は難しい技術であり、未だ提案されていない。
本発明の目的は、腐食環境センサの複数種類の金属片の腐食状態を測色手段で測定して表色データを作成し、その表色データに基づいて腐食環境を評価できる評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の腐食環境センサによる腐食環境評価方法は、鋼構造物の腐食に関与する大気中の腐食因子により変色する複数種類の金属片からなる腐食環境センサを鋼構造物と同じ環境下で腐食させる腐食工程と、次に腐食した腐食環境センサの表面を測色手段で測定して、明度と色相と彩度に関する表色データを作成するデータ作成工程と、次に腐食環境センサから得た表色データを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価する評価工程とを備えたことを特徴とするものである。尚、腐食環境センサは、鋼材に比較して腐食されやすい腐食速度の大きな複数種類の金属片を含むものとする。
【0009】
まず、鋼構造物の腐食に関与する大気中の腐食因子により変色する複数種類の金属片からなる腐食環境センサを鋼構造物と同じ環境下で腐食させ、次に腐食した腐食環境センサの表面を測色手段で測定して、明度と色相と彩度に関する表色データを作成し、次に腐食環境センサから得た表色データを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価する。
【0010】
請求項2の腐食環境センサによる腐食環境評価方法は、請求項1の発明において、前記評価工程の前に、前記腐食環境センサと同種の新規の腐食環境センサを実験的に複数種の腐食因子で夫々腐食させた腐食環境マスターを作成し、この腐食環境マスターを測色手段で測定して明度と色相と彩度に関する表色マスターデータを作成するマスターデータ作成工程を備えたことを特徴とする。
【0011】
前記のように、新規の腐食環境センサを実験的に複数種の腐食因子で夫々腐食させた腐食環境マスターを作成してその表色データからなる表色マスターデータを作成しておくため、この表色マスターデータと、実際に腐食させた腐食環境センサから得た表色データとに基づいて、鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価することができる。
複数種類の金属片からなる腐食環境センサには複数の腐食因子の影響が反映されるため、表色マスターデータには複数の腐食因子の影響が含まれるから、前記のようにして、鋼構造物の設置場所の腐食環境における腐食因子の影響も評価することができる。
【0012】
請求項3の腐食環境センサによる腐食環境評価方法は、請求項2の発明において、前記マスターデータ作成工程において、腐食環境センサを複数種の腐食因子で夫々腐食させた腐食環境マスターを作成する際に、腐食因子毎に複数の濃度の腐食因子で腐食させた腐食環境マスターを作成し、この腐食環境マスターから前記表色マスターデータを作成することを特徴とする。腐食因子毎に複数の濃度の腐食因子で腐食させた腐食環境マスターを作成し、この腐食環境マスターから表色マスターデータを作成するため、豊富な表色マスターデータを用いて腐食環境を評価する精度を高めることができる。
【0013】
請求項4の腐食環境センサによる腐食環境評価方法は、請求項1〜3の何れかの発明において、前記測色手段として、分光型測色計を用いることを特徴とする。
分光型測色計により、明度(L*)と、色相と彩度を示す色度(a*,b*)の表色データを得ることができるので、腐食による色変化を精度よく表色データに反映させることができる。
【0014】
請求項5の腐食環境センサによる腐食環境評価方法は、請求項1〜4の何れかの発明において、前記マスターデータ作成工程における複数種の腐食因子は、少なくとも、塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物を含むことを特徴とする。少なくとも、主要な腐食因子である塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物についての表色マスターデータを作成するため、腐食環境における塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物の影響を評価することができる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、腐食環境センサを鋼構造物と同じ環境で腐食させ、その腐食した腐食環境センサを測色手段で測定して明度と色相と彩度に関する表色データを作成し、その表色データを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価するため、鋼構造物を構築した場所又は構築予定場所の腐食環境を評価することが可能となる。
【0016】
腐食環境センサは、鋼材に比較して腐食されやすく腐食速度の大きな複数種類の金属片を含むので、鋼構造物と同じ環境に短期間おくだけで腐食するから、短期間で腐食環境の評価を行うことができる。しかも、腐食させた腐食環境センサを測色手段で測色して明度と色相と彩度に関する表色データを作成し、この表色データに基づいて鋼構造物の設置されいる場所の腐食環境を評価するため、精度よく腐食環境を評価することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、表色マスターデータと、実際に腐食させた腐食環境センサから得た表色データとに基づいて、鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を精度よく評価することができる。しかも、表色マスターデータには複数の腐食因子の影響が含まれるから、鋼構造物の設置場所の腐食環境における腐食因子の影響も評価することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、腐食因子毎に複数の濃度の腐食因子で腐食させた腐食環境マスターを作成し、この腐食環境マスターから表色マスターデータを作成するため、豊富な表色マスターデータを用いて腐食環境を評価する精度を高めることができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、前記測色手段として分光型測色計を用いるため、腐食環境センサの腐食による色変化を精度よく表色データに反映させることができる。
請求項5の発明によれば、少なくとも、主要な腐食因子である塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物についての表色マスターデータを作成するため、腐食環境における塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物の影響を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る腐食環境センサによる腐食環境評価方法は、鋼構造物の腐食に関与する大気中の腐食因子により変色する複数種類の金属片からなる腐食環境センサを鋼構造物と同じ環境下で腐食させる腐食工程と、次に腐食した腐食環境センサの表面を測色手段で測定して、明度と色相と彩度に関する表色データを作成するデータ作成工程と、次に腐食環境センサから得た表色データを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価する評価工程とを備えたことを特徴とするものである。
【実施例1】
【0021】
次に、実施例1に係る腐食環境評価システムと腐食環境評価方法について説明する。
図1は腐食環境センサ1を示し、この腐食環境センサ1は、腐食感度に優れる5種類の金属片1a〜1e(Mg片1a,Al片1b,Cu片1c,Ag片1d,Fe片1e)からなる腐食環境センサ1を示す。これら金属片1a〜1eは、絶縁性の合成樹脂製の基板2に形成した浅い凹部に夫々装着して固定され、この腐食環境センサ1が新品の状態では、5種類の金属片1a〜1eと基板2の表面は気密性の封止膜で覆われており、基板2の背面には腐食環境センサ1を鋼構造物に装着するための永久磁石片(図示略)が固定されている。尚、前記の金属片1a〜1eをセンサ片と言う場合もある。
【0022】
図1の腐食環境センサ1を橋桁などの鋼構造物にセットし、前記の封止膜を除去して所定期間(例えば、1ケ月〜6ケ月)大気中に暴露状態に保持すると、5種類のセンサ片1a〜1eが夫々大気中の腐食因子と接触して腐食し、各センサ片1a〜1e特有の状態に腐食し変色する。図2は、そのように腐食させた後の腐食環境センサ1を模式的に図示したものである。
【0023】
次に、5種類のセンサ片1a〜1eの初期状態と腐食による変色について簡単に説明する。Mg片1aは、初期には銀色であるが、水と反応しやすく、灰色を経て黒色に変化する。Al片1bは、初期には銀色であるが、塩素イオンと反応して塩化物を生成し、徐々に白色に変化していく。Cu片1cは初期には銅色であるが、水と反応して酸化すると茶色の酸化物を生成し、また、塩素イオンと反応して塩化物を生成する場合、硫黄酸化物と水と反応して硫化物を生成する場合には、赤黒色に変化していく。
【0024】
Ag片1dは初期には銀色であるが、硫黄酸化物と水と反応して硫化物を生成する場合には、灰色を経て黒色に変化していく。Fe片1eは初期には鉄色であるが、水と反応して酸化物を生成する場合は薄茶色に変化していき、塩素イオンと反応して塩化物を生成する場合には黒色に変化していく。
【0025】
この腐食環境評価システム10は、6種類の腐食環境マスター(湿度用腐食環境マスター11a、塩水用腐食環境マスター11b、硫黄酸化物用腐食環境マスター11c、窒素酸化物用腐食環境マスター11d、硫化水素用腐食環境マスター11e、アンモニア用腐食環境マスター11f)と、複数組の新しい腐食環境センサ1と、腐食環境マスターや腐食させ回収した腐食環境センサ1から表色マスターデータや表色データを作成する分光型測色計12と、分光型測色計12で作成したデータをコンピュータ14に入力するインタフェース13と、コンピュータ14(コンピュータ本体、ディスプレイ、キーボード、マウスを含む)などを有する。
【0026】
湿度用腐食環境マスター11aは、4つの腐食環境センサ1を異なる4種類の湿度(20,40,60,80%RH)の環境下に2ケ月間保持して腐食させたものである。塩水用腐食環境マスター11bは、4つの腐食環境センサ1を異なる4種類の濃度(10,20,30,40%)の塩水噴霧環境下に2ケ月間保持して腐食させたものである。硫黄酸化物用腐食環境マスター11cは、3つの腐食環境センサ1を異なる3種類の濃度(0.02,0.04,0.06ppm、湿度80%RH)の硫黄酸化物(SO2 とSO3 の1:1の混合ガス)の環境下に2ケ月間保持して腐食させたものである。
【0027】
窒素酸化物用腐食環境マスター11dは、3つの腐食環境センサ1を異なる3種類の濃度(0.02,0.04,0.06ppm、湿度80%RH)の窒素酸化物(NOとNO2 の1:1の混合ガス)の環境下に2ケ月間保持して腐食させたものである。硫化水素用腐食環境マスター11eは、3つの腐食環境センサ1を異なる3種類の濃度(0.01,0.02,0.03ppm、湿度80%RH)の硫化水素の環境下に2ケ月間保持して腐食させたものである。アンモニア用腐食環境マスター11fは、3つの腐食環境センサ1を異なる3種類の濃度(0.01,0.02,0.03ppm、湿度80%RH)の硫化水素の環境下に2ケ月間保持して腐食させたものである。
【0028】
分光型測色計12は、物体の色を明度(L*)と、色相と彩度を表す色度(a*,b* )を数値化した表色データ(L*,a*,b* )に変換する機能を有するものである。尚、この明細書と図面において、表色データ(L*,a*,b* )を(L,a,b)と記載し、色差「ΔE*a*b*」を「ΔEab」と簡略的に記載する(図4〜図16参照)。
【0029】
4つの湿度用腐食環境マスター11aを分光型測色計12により測定した表色マスターデータのデータ構造は図4に示すようになる。4つの塩水用表色マスター11bを分光型測色計12により測定した表色マスターデータのデータ構造は図5に示すようになる。硫黄酸化物用表色マスター11cを分光型測色計12により測定した表色マスターデータのデータ構造は図6に示すようになる。
【0030】
窒素酸化物用表色マスター11dを分光型測色計12により測定した表色マスターデータのデータ構造は図7に示すようになる。硫化水素用表色マスター11eを分光型測色計12により測定した表色マスターデータのデータ構造は図8に示すようになる。アンモニア用表色マスター11fを分光型測色計12により測定した表色マスターデータのデータ構造は図9に示すようになる。
【0031】
図4〜図9に示す表色マスターデータは、測定するごとに分光型測色計12からインターフェース13を介してコンピュータ14に格納される。次に、何れかの場所に設置された道路橋や鉄橋の橋桁(鋼構造物)の腐食環境を検知し、橋桁の寿命予測を行う場合には、新規の腐食環境センサ1を前記の橋桁に固定し橋桁と同じ環境下に2ケ月間放置し腐食させてから回収する。
【0032】
次に、腐食環境評価システム10により腐食環境を評価する腐食環境評価方法について、図17、図18に基づいて説明する。尚、前記の説明と重複する内容については簡単に説明する。図17において、Pi(i=1,2,・・)は各工程を示す。
最初に、工程P1において、複数組の腐食環境マスター11a〜11fの製作の準備のため、所要枚数の腐食環境センサ1を準備する。本実施例の場合、6種類のマスター用に計20枚の腐食環境センサ1を準備する。
【0033】
次に、工程P2において、腐食環境マスターの製作のための腐食実験を行って、前述したとおりの腐食因子別(湿度、塩水、硫黄酸化物、窒素酸化物、硫化水素、アンモニア)の濃度別の腐食環境マスター11a〜11fを製作する。
次に、工程P3において、腐食因子別、濃度別の複数組の腐食環境マスター11a〜11fを分光型測色計12で順次測定し、腐食因子別、濃度別の表色マスターデータ(図4〜図9参照)を作成し、その表色マスターデータをコンピュータ14のハードディスクに格納する。
【0034】
次に、工程P4において、1又は複数組の新規の腐食環境センサ1を前記特定の橋桁(鋼構造物)に設置して橋桁と同じ腐食環境下に1〜6月程度の所定期間(本実施例では、例えば2ケ月間)腐食させる。尚、この工程P4は工程P1,P2と並行的に実施してもよい。次に、工程P5において、前記所定期間の経過後に橋桁から腐食環境センサ1を回収する。
【0035】
次に、工程P6において、回収した実施腐食環境センサ1の5枚のセンサ片1a〜1eを測色計12で測定し、図10に示すような表色データ(L,a,b)を作成し、コンピュータ14のハードディスクに格納する。次に、工程P7において、コンピュータに予め格納した腐食環境評価制御プログラムにより、図4〜図9の表色マスターデータと図10の表色データを処理することにより、前記の橋桁が設置されている腐食環境を評価する評価演算処理を実行する。
【0036】
この工程P7においてコンピュータ14により実行される腐食環境評価演算処理について図18のフローチャートに基づいて説明する。尚、図18においてSi(i=1,2,・・・)は各ステップを示すものである。
【0037】
この処理の開始後、最初のS1では、図4の湿度用表色マスターデータ(L,a,b)と、図10の回収した腐食環境センサの表色データ(L,a,b)を読み出し、図11に示すようなデータ構造の色差ΔEab(hm) が演算される。尚、(hm) は「湿度」を示す添え字である。また、前記表色マスターデータと表色データについて、明度Lの差分をΔL、色度a,bの差分をΔa,Δbとしたとき、色差ΔEabは次式で演算される。
ΔEab=[ΔL2 +Δa2 +Δb2 ]1/2
【0038】
このように演算された湿度用の色差ΔEabのデータの構造は、図11のようになる。 ある色と別の色とが類似した色になる程、色差ΔEabの値が小さくなることから、次に、S2において、図11の色差ΔEabのデータにおいて、各センサ片1a〜1e別に最小の色差ΔEabを抽出し、5つの最小の色差ΔEabに対応する5つの湿度H1〜H5を演算し、湿度評価値Hmを湿度H1〜H5の平均値として求め、ハードディスクに格納する。こうして、前記の橋桁が設置されている環境の湿度の程度が数値化される。
【0039】
次に、S3においては、図5の塩水用表色マスターデータ(L,a,b)と、図10の回収した腐食環境センサの表色データ(L,a,b)とから、S1と同様に、図12に示すように色差ΔEab(CL)を演算する。尚、(CL)は「塩水」を示す添え字である。
次に、S4において、図12の色差ΔEabのデータにおいて、各センサ片1a〜1e別に最小の色差ΔEabを抽出し、5つの最小の色差ΔEabに対応する5つの塩水濃度CL1 〜CL5 を演算し、塩水濃度評価値CLm を塩水濃度CL1 〜CL5 の平均値として求め、ハードディスクに格納する。こうして、前記の橋桁が設置されている腐食環境の塩分濃度の程度が数値化される。
【0040】
次に、S5において、上記と同様にして、図6の硫黄酸化物用表色マスターデータ(L,a,b)と、図10の表色データ(L,a,b)とから硫黄酸化物についての色差ΔEab(s)(図13参照)と硫黄酸化物濃度評価値SOmが演算される。尚、(s)は「硫黄酸化物」を示す添え字である。図7の窒素酸化物用表色マスターデータ(L,a,b)と、図10の表色データ(L,a,b)とから窒素酸化物についての色差ΔEab(n)(図14参照)と窒素酸化物濃度評価値NOmが演算される。尚、(n)は「窒素酸化物」を示す添え字である。
【0041】
図8の硫化水素用表色マスターデータ(L,a,b)と、図10の表色データ(L,a,b)とから硫化水素についての色差ΔEab(hs)(図15参照)と硫化水素濃度評価値HSmが演算される。尚、(hs)は「硫化水素」を示す添え字である。図9のアンモニア用表色マスターデータ(L,a,b)と、図10の表色データ(L,a,b)とからアンモニアについての色差ΔEab(nh)(図16参照)とアンモニア濃度評価値NHが演算される。尚、(nh)は「アンモニア」を示す添え字である。
【0042】
以上説明した腐食環境評価方法においては、腐食環境センサ1を鋼構造物(橋桁)と同じ環境で腐食させ、その腐食した腐食環境センサ1を分光型測色計12で測定して明度と色相と彩度に関する表色データを作成し、その表色データを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価するため、鋼構造物を構築した場所の腐食環境を評価することが可能となる。しかも、鋼構造物の設置予定場所に、腐食環境センサ1を設置することにより、設置予定場所の腐食環境を評価することも可能である。
【0043】
腐食環境センサ1は、鋼材に比較して腐食しやすい5種類のセンサ片1a〜1e(Mg片,Al片,Cu片,Ag片,Fe片)を含むので、鋼構造物と同じ環境に数ケ月の短期間おくだけで腐食するから、短期間で腐食環境の評価を行うことができる。しかも、腐食させた腐食環境センサ1を分光型測色計12で測色して明度と色相と彩度に関する表色データを作成し、この表色データに基づいて鋼構造物の設置された場所の腐食環境を評価するため、精度よく腐食環境を評価することができる。
【0044】
複数の腐食因子別、濃度別の表色マスターデータと、実際に腐食させて回収した腐食環境センサ1から得た表色データとに基づいて、5種類のセンサ片1a〜1eについて、複数の腐食因子別、濃度別の色差ΔEabを演算し、その色差ΔEabの最小のものからセンサ片1a〜1e別に腐食因子の濃度を算出し、複数のセンサ片1a〜1eからのデータで得た濃度の平均値から濃度評価値を算出するので、鋼構造物の設置された場所や設置予定場所の腐食環境を精度よく評価することができる。
【0045】
しかも、表色マスターデータには複数の腐食因子の影響が含まれるから、鋼構造物の設置場所の腐食環境における複数の腐食因子の影響も確実に評価できる。即ち、少なくとも、主要な腐食因子である塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物についての表色マスターデータを作成するため、腐食環境における塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物の影響を評価することができる。
【0046】
しかも、腐食因子毎に複数の濃度の腐食因子で腐食させた腐食環境マスター11a〜11fを作成し、この腐食環境マスター11a〜11fから表色マスターデータを作成するため、豊富な表色マスターデータを用いて腐食環境を評価する精度を高めることができる。また、分光型測色計12を用いるため、腐食環境センサ12の腐食による微妙な色変化を精度よく表色データに反映させることができる。
【0047】
ここで、前記実施例を部分的に変更する例について説明する。
1)図17の工程は一例に過ぎず、工程P1〜P3を工程P4〜P6と並行的に行い、工程P7の開始までに、工程P3の表色マスターデータをコンピュータに格納しておけばよい。
2)腐食環境センサに適用する金属の種類は、前記の5種類に限定されず、Zn,Pb,Snなどの金属片も含む腐食環境センサを採用してもよく、成分的に安定している種々の合金(例えばSUS、真鍮、青銅など)などの金属片も含む腐食環境センサを採用してもよい。
【0048】
3)前記実施例では、腐食環境センサ1に含まれる5種類のセンサ片1a〜1eにおける表色マスターデータを全部活用して、腐食因子の濃度を演算する例について説明したが、腐食因子に対して腐食感度の鈍い1又は複数のセンサ片を無視した形で、2〜4種類のセンサ片における表色マスターデータと表色データを活用して腐食因子の濃度を演算するように構成してもよい。
【0049】
4)前記実施例では、腐食環境センサ1に含まれる5種類のセンサ片1a〜1eにおける表色マスターデータを全部平等に活用して、腐食因子の濃度を演算する例について説明したが、腐食因子に対する腐食感度の高低に応じて重み付けする重み付け係数を予め設定しておき、その重み付け係数を用いて腐食因子の濃度を演算するように構成してもよい。
【0050】
5)前記実施例では、腐食環境マスターの製作の際に腐食期間を2ケ月として製作したが、この腐食期間は一例であり、これに限定されるものではない。また、腐食環境マスターの製作の際に同種の腐食因子の特定の濃度についてのみ長い腐食期間の間腐食させ、全部の濃度については短い期間腐食させた腐食環境マスターから、外挿法等を駆使して、表色マスターデータを作成するようにしてもよい。
6)その他、当業者ならば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能である。
【実施例2】
【0051】
以下、本発明の実施例2について図面を参照して説明する。
先ず、実施例1において説明した腐食環境センサ1(図示略)を、橋桁等の既存の鋼構造物と同じ腐食環境下で約2ケ月間腐食させた場合における腐食環境センサ1のセンサ片の表面状態について定性的に説明する。
【0052】
実施例1の図2に示すように、回収後の腐食環境センサ1のセンサ片の表面状態は、大気中の腐食因子により化合物が生成されセンサ片の色彩が変化する。図19に示すように、マグネシウム(Mg)は、水と反応しやすく、固体状の酸化物が生成し、銀色(原色)から肌色を経て白色に変色する。銀(Ag)は、硫黄酸化物と水と反応して粉末状の硫化化合物を生成する場合には、銀色(原色)から灰色を経て黒色に変色する。
【0053】
アルミニウム(Al)は、塩素イオンと反応して粉末状の塩化物を生成し、銀色(原色)から白色に変色する。銅(Cu)は、水と反応して酸化物を生成する場合には、銅色(原色)から茶色に変色し、また、塩素イオンと反応して塩化物を生成する場合、硫化酸化物と水と反応して硫化物を生成する場合には、銅色(原色)から赤黒色に変色する。鉄(Fe)は、水と反応して固体状の酸化物を生成する場合は、鉄色(原色)から薄茶色に変色し、硫黄酸化物と反応して固体状の塩化化合物を生成する場合には、鉄色(原色)から黒色に変色する。
【0054】
次に、前記腐食環境センサ1をJIS規格の5種の腐食試験によって腐食させることにより作成した腐食環境マスターについて説明する。
図20に示すように、前記腐食試験は、大気中の主な腐食因子を想定して設定された5種の腐食条件について実施した。腐食試験(1)は、腐食環境センサ1を45日間大気中に暴露する試験であり、この腐食試験により腐食環境マスター20aが得られる。腐食試験(2)は、腐食環境センサ1を50℃、95%の一定の高温高湿条件下に14日放置する試験であり、この腐食試験により腐食環境マスター20bが得られる。
【0055】
腐食試験(3)は、腐食環境センサ1に5%の濃度の塩水を100日間噴霧する試験であり、この腐食試験により腐食環境マスター20cが得られる。腐食試験(4)は、腐食環境センサ1に塩水を2時間噴霧し後60℃で4時間乾燥させて、その後50℃、95%の一定の高温高湿条件下に2時間放置させる一連の処理を1サイクルとして110回繰り返す複合サイクル試験であり、この腐食試験により腐食環境マスター20dが得られる。 腐食試験(5)は、腐食環境センサ1を40℃1000ppmの亜硫酸ガス(SO2) 中に2日間放置する試験であり、この腐食試験により腐食環境マスター20eが得られる。これらの5種の腐食試験は、鋼構造物が最も厳しい腐食環境下に設置されたことを想定した試験である。
【0056】
上記試験結果から、マグネシウム片は塩分や水分(雨水・結露)、銀片は亜硫酸ガス、アルミニウム片は、塩分や水分(雨水・結露)、銅片は、あらゆる腐食因子、鉄片は塩分や水分(雨水・結露)によって腐食し易いことが判る。特に、銅はあらゆる腐食因子を含む大気環境において、腐食に対する感受性が最も高いことが判った。
【0057】
図21は、図20に示す5種の腐食試験により作成した5種の腐食環境マスター20a〜20eにおける各センサ片の表面の変色状態を模式的に図示したものである。これらの腐食環境マスター20a〜20eと、別の実際の腐食環境下で腐食させた腐食環境センサ1とを目視にて対比することにより、その実際の腐食環境を概略的に評価することができる。例えば、ある腐食環境下の鋼構造物のフランジ下面に腐食環境センサ1を一定期間(1〜6ケ月)設置して腐食させた場合に、腐食環境センサ1のマグネシウム片が顕著に変色している場合、前記腐食環境マスター20a〜20eを用いて、回収後の腐食環境センサ1のマグネシウム片の変色状態と腐食環境マスター20a〜20eのマグネシウム片の変色状態とを照合して腐食因子を概略的に推定し、腐食環境を評価することができる。
【0058】
次に、前記の腐食環境マスター20a〜20eと、鋼構造物を設置する実際の腐食環境下において腐食させた腐食環境センサ1とを用いて腐食環境を評価する方法について、図22の工程図に基づいて説明する。尚、図中のPi(i=10,11,・・)は各ステップを示す。P10、P11は前述したように5種の腐食試験により腐食環境センサ1を腐食させて腐食環境マスター20a〜20eを作成するステップである。
【0059】
次に、P12において、、実施例1で説明したのと同様の腐食環境評価システム10の分光型測色計13により、腐食環境マスター20a〜20eを測色してそれらの表色マスターデータ(E,a,b)M を作成し、その表色マスターデータを腐食環境評価システム10のコンピュータ14のハードディスクに格納する。尚、表色マスターデータ(E,a,b)M は明度E、色相と彩度を示す色度a,bのデータを含む。分光型測色計13による計測条件は、照明受光光学系がd/8 SCI/SCE同時測定による拡散照明方式、測定径がΦ8mm、測定波長間隔が10nmである。尚、添字のMはマスターを示す。
【0060】
一方、新しい1又は複数の腐食環境センサ1を既存の鋼構造物と同じ腐食環境に設置して所定期間(例えば、2ケ月間)腐食させ(P13)、その後腐食させた腐食環境センサ1を回収する(P14)。次のP15においては、回収した腐食環境センサ1と、5種類の腐食環境マスター20a〜20eとを目視にて対比し、腐食因子とその濃度の程度を推定する。次に、P16において、回収した腐食環境センサ1を前記測色計13により測色して表色データ(E,a,b)S を作成し、その表色データ(E,a,b)S を腐食環境評価システム10のコンピュータ14のハードディスクに格納する。尚、添字のSは腐食環境センサを示す。
【0061】
次に、P17において、腐食環境マスター20a〜20eの各々について、表色マスターデータ(E,a,b)M と、腐食環境センサ1の表色データ(E,a,b)S とから、前記実施例1と同様にして色差ΔEabを演算する。色差ΔEabの値が小さい程、2つの色が近似していることから、色差ΔEabが小さい腐食環境マスター20a〜20eを抽出し、腐食因子を推定し、腐食環境を評価することができる。
【0062】
本実施例の腐食環境評価方法によれば、腐食環境マスターを作成する場合に、JISに規定された腐食試験により作成するため、信頼性に優れる腐食環境マスターを作成することができ、その結果、腐食環境を評価する信頼性を高めることができる。
【0063】
次に、実施例2に関連する技術について説明する。
[1]図23は、前記の腐食環境センサと同じ腐食環境センサ1に、前記とは異なる5種の腐食試験を施して、5つの腐食環境マスターを作成し、その5つの腐食環境マスターの表色データと、腐食前の腐食環境センサ1の表色データとを前記同様に作成し、それらの表色データから色差ΔEabを求めたものである。尚、この色差ΔEabは、腐食させたセンサではなく新規の腐食環境センサとの色差である点で前記と相違している。
【0064】
前記5種のJIS規格の腐食試験について説明すると、腐食試験(イ)は、腐食環境センサ1に所定濃度の塩水を550時間噴霧する試験であり、腐食試験(ロ)は、腐食環境センサ1を50℃、70〜80%の一定の高温高湿条件下に1週間放置する試験であり、腐食試験(ハ)は、腐食環境センサ1を50℃、70〜80%の一定の高温高湿条件下に1カ月放置する試験であり、腐食試験(ニ)は、腐食環境センサ1を50℃、100%の一定の高温高湿条件下に14日間放置する試験であり、腐食試験(ホ)は、40℃、80%で1000ppmの亜硫酸ガス中に1日放置する試験である。
図23の色差ΔEabに関して、その値が大きいものほど変色の度合いが大きいことを示し、図24には、色差の程度と色差ΔEabの値とを対応つけて示した。
【0065】
[2]腐食環境センサ1の代わりに、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、ステンレス鋼の金属片を採用した腐食環境センサも採用できる可能性がある。図25は、その腐食環境センサについて前記図20の(1)〜(5)と同様の腐食試験を施して腐食環境マスターを作成し、その表面の変色状態について説明したものである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1の腐食環境センサの平面図である。
【図2】腐食後の腐食環境センサの模式図である。
【図3】腐食環境評価システムの構成図である。
【図4】湿度に関する表色マスターデータのデータ構造説明図である。
【図5】塩水に関する表色マスターデータのデータ構造説明図である。
【図6】硫黄酸化物に関する表色マスターデータのデータ構造説明図である。
【図7】窒素酸化物に関する表色マスターデータのデータ構造説明図である。
【図8】硫化水素に関する表色マスターデータのデータ構造説明図である。
【図9】アンモニアに関する表色マスターデータのデータ構造説明図である。
【図10】腐食後の腐食環境センサから得た表色データのデータ構造説明図である。
【図11】湿度に関する色差データのデータ構造説明図である。
【図12】塩分に関する色差データのデータ構造説明図である。
【図13】硫黄酸化物に関する色差データのデータ構造説明図である。
【図14】窒素酸化物に関する色差データのデータ構造説明図である。
【図15】硫化水素に関する色差データのデータ構造説明図である。
【図16】アンモニアに関する色差データのデータ構造説明図である。
【図17】腐食環境評価方法の工程図である。
【図18】図17の腐食環境評価演算処理を示すフローチャートである。
【図19】腐食環境センサの各センサ片の腐食後の色彩変化を説明する図表である。
【図20】腐食環境センサを各種腐食試験により腐食させた腐食環境マスターについての説明図表である。
【図21】腐食環境センサの初期状態と各種腐食試験により腐食させた状態の外観状態を模式的に図示した説明図表である。
【図22】腐食環境マスターと実際に腐食させた腐食環境センサとの表色データを作成して、腐食環境を評価する方法の工程図である。
【図23】腐食環境センサの各種腐食試験の前後における色差の数値とその説明の説明図表である。
【図24】色差の程度を説明する説明図表である。
【図25】別の腐食環境センサを5種の腐食試験で腐食させて作成した腐食環境マスターの表面状態の説明図表である。
【符号の説明】
【0067】
1 腐食環境センサ
10 腐食環境評価システム
11a〜11f 腐食環境マスター
12 分光型測色計
14 コンピュータ
20a〜20b 腐食環境マスター
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物の腐食に関与する大気中の腐食因子により変色する複数種類の金属片からなる腐食環境センサを鋼構造物と同じ環境下で腐食させる腐食工程と、
次に腐食した腐食環境センサの表面を測色手段で測定して、明度と色相と彩度に関する表色データを作成するデータ作成工程と、
次に腐食環境センサから得た表色データを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価する評価工程と、
を備えたことを特徴とする腐食環境センサによる腐食環境評価方法。
【請求項2】
前記評価工程の前に、前記腐食環境センサと同種の新規の腐食環境センサを実験的に複数種の腐食因子で夫々腐食させた腐食環境マスターを作成し、この腐食環境マスターを測色手段で測定して明度と色相と彩度に関する表色マスターデータを作成するマスターデータ作成工程を備えたことを特徴とする請求項1に記載の腐食環境センサによる腐食環境評価方法。
【請求項3】
前記マスターデータ作成工程において、腐食環境センサを複数種の腐食因子で夫々腐食させた腐食環境マスターを作成する際に、腐食因子毎に複数の濃度の腐食因子で腐食させた腐食環境マスターを作成し、この腐食環境マスターから前記表色マスターデータを作成することを特徴とする請求項2に記載の腐食環境センサによる腐食環境評価方法。
【請求項4】
前記測色手段として、分光型測色計を用いることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の腐食環境センサによる腐食環境評価方法。
【請求項5】
前記マスターデータ作成工程における複数種の腐食因子は、少なくとも、塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の腐食環境センサによる腐食環境評価方法。
【請求項1】
鋼構造物の腐食に関与する大気中の腐食因子により変色する複数種類の金属片からなる腐食環境センサを鋼構造物と同じ環境下で腐食させる腐食工程と、
次に腐食した腐食環境センサの表面を測色手段で測定して、明度と色相と彩度に関する表色データを作成するデータ作成工程と、
次に腐食環境センサから得た表色データを用いて鋼構造物の設置されている場所の腐食環境を評価する評価工程と、
を備えたことを特徴とする腐食環境センサによる腐食環境評価方法。
【請求項2】
前記評価工程の前に、前記腐食環境センサと同種の新規の腐食環境センサを実験的に複数種の腐食因子で夫々腐食させた腐食環境マスターを作成し、この腐食環境マスターを測色手段で測定して明度と色相と彩度に関する表色マスターデータを作成するマスターデータ作成工程を備えたことを特徴とする請求項1に記載の腐食環境センサによる腐食環境評価方法。
【請求項3】
前記マスターデータ作成工程において、腐食環境センサを複数種の腐食因子で夫々腐食させた腐食環境マスターを作成する際に、腐食因子毎に複数の濃度の腐食因子で腐食させた腐食環境マスターを作成し、この腐食環境マスターから前記表色マスターデータを作成することを特徴とする請求項2に記載の腐食環境センサによる腐食環境評価方法。
【請求項4】
前記測色手段として、分光型測色計を用いることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の腐食環境センサによる腐食環境評価方法。
【請求項5】
前記マスターデータ作成工程における複数種の腐食因子は、少なくとも、塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の腐食環境センサによる腐食環境評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2006−64466(P2006−64466A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245551(P2004−245551)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
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