説明

腫瘍マーカ、腫瘍診断キットおよび腫瘍マーカの測定方法

【課題】 感度および特異性の双方が高い腫瘍マーカを提供する。
【解決手段】 本発明の腫瘍マーカは、下記(A)の腫瘍マーカおよび下記(B)の腫瘍マーカの少なくとも一方を含む腫瘍マーカである。
(A)ヒト由来PGAM、抗ヒト由来PGAM抗体、ヒト由来PGAM遺伝子およびヒト由来PGAMmRNAからなる群から選択される少なくとも一つを含む腫瘍マーカ。
(B)ヒト由来TPI、抗ヒト由来TPI抗体、ヒト由来TPI遺伝子およびヒト由来TPImRNAからなる群から選択される少なくとも一つを含む腫瘍マーカ。
例えば、組換えPGAM1を抗原として、被験者の血清中の自己抗体をCLEIA法により測定すれば、図1のグラフに示すように、高感度かつ高特異性で癌を判定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍マーカ、腫瘍診断キットおよび腫瘍マーカの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の診断においては、X線による画像診断が従来から実施されてきたが、最近では、血清中の腫瘍マーカを利用した診断が多用されるようになってきた。腫瘍マーカとは、癌細胞が産生する物質、または癌細胞と反応して体内の正常細胞が産生する物質のなかで、それを血液、組織、排泄物中から検出することが、癌の診断または治療の目印として役立つものをいう。これまでに、種々の生体物質が腫瘍マーカとして有効であることが報告されている(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。例えば、肝臓癌の腫瘍マーカとして、AFPおよびPIVKAII等、膵癌の腫瘍マーカとして、CA19−9等、前立腺癌の腫瘍マーカとして、PSA等、扁平上皮癌の腫瘍マーカとして、SCCおよびCYFRA等が使用されている。これらの腫瘍マーカの測定は、診断対象患者から血清を採取し、前記血清中の前記腫瘍マーカの濃度を測定することにより実施され、その陽性および陰性が判断される。
【0003】
【特許文献1】特開2003−240774号公報
【非特許文献1】J.Jpn.Soc.Cancer Ther.22(9):2182〜2190,Oct.,1987
【非特許文献2】CANCER March 1,1999/Vol.85/No.5/1018−1025
【非特許文献3】臨床病理 53:5・2005,437−445
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の腫瘍マーカは、感度の点で問題があり、良性疾患等で偽陽性を示すことも少なくない。また、従来の腫瘍マーカは、早期癌を検出することが困難なもの(陰性を示すもの)もあった。このため、感度および特異性の高い腫瘍マーカの開発が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、感度および特異性の高い新規な腫瘍マーカ、前記腫瘍マーカを利用した腫瘍診断キットおよび前記腫瘍マーカの測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の腫瘍マーカは、下記(A)の腫瘍マーカおよび下記(B)の腫瘍マーカの少なくとも一方を含むことを特徴とする。
(A)ヒト由来PGAM、抗ヒト由来PGAM抗体、ヒト由来PGAM遺伝子およびヒト由来PGAMmRNAからなる群から選択される少なくとも一つを含む腫瘍マーカ。
(B)ヒト由来TPI、抗ヒト由来TPI抗体、ヒト由来TPI遺伝子およびヒト由来TPImRNAからなる群から選択される少なくとも一つを含む腫瘍マーカ。
【0007】
本発明の腫瘍診断キットは、血清ELISA法または血清CLEIA法を用いた腫瘍診断キットであって、ヒト由来PGAMおよびヒト由来TPIの少なくとも一方の腫瘍特異的抗原と、前記腫瘍特異的抗原に対する自己抗体を認識する標識二次抗体とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の腫瘍マーカの測定方法は、前記腫瘍マーカが、ヒト由来PGAMおよびヒト由来TPIの少なくとも一方のタンパク質に対する血清中の自己抗体であり、前記ヒト由来PGAMおよび前記ヒト由来TPIの少なくとも一方のタンパク質に、前記タンパク質に対する前記自己抗体を結合させて複合体を形成させ、前記複合体を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明者等は、感度および特異性の高い新規な腫瘍マーカを得るために、一連の研究を重ねたところ、前記(A)の腫瘍マーカおよび前記(B)の腫瘍マーカの少なくとも一方が、感度および特異性の高い腫瘍マーカとなり得ることを見出し、本発明に到達した。本発明の腫瘍マーカは、例えば、後述の実施例等に示すように、感度が高いため偽陽性率が低く、しかも特異性が高いため早期癌を高精度で検出することが可能である。また、本発明の腫瘍診断キットおよび腫瘍マーカの測定方法によれば、癌を高感度で特異的に測定することができ、高精度かつ早期診断が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、前記(A)の腫瘍マーカおよび前記(B)の腫瘍マーカは、それぞれ単独で用いても良いし、二つを併用してもよく、併用することが好ましい。
【0011】
PGAMは、正式名称が、ホスホグリセリン酸ムターゼ(phosphoglycerate mutase)であり、解糖系の酵素である。また、TPIは、正式名称が、トリオースリン酸イソメラーゼ(triose−phosphate isomerase)であり、解糖系の酵素である。
PGAMには、下記に示すように3種類のアイソザイムがある。これらの中でも、B型(脳型)のPGAMが好ましく、より好ましくはB型のPGAM1である。
M型(MM homodimer):成人の骨格筋(一般に筋型)
B型(BB homodimer):脳、肝臓、腎臓(一般に脳型)
MB型(MB heterodimer):心筋
TPIは、下記に示すように、2種類のアイソザイムが存在するが、ヒトでの報告はTPI1のみである。
1型(TPI1):解糖系酵素
2型(TPI2):機能不明
【0012】
本発明において、ヒト由来PGAMおよびヒト由来TPIは、天然(ヒト)から分離したタンパク質および遺伝子工学により作製された組換えタンパク質のいずれであってもよい。ヒト由来PGAMとして好ましいのは、ヒト由来PGAM1であり、ヒト由来TPIとして好ましいのは、ヒト由来TPI1である。本発明の腫瘍マーカとして好ましいのは、抗ヒト由来PGAM抗体および抗ヒト由来TPI抗体である。本発明の腫瘍マーカとして好ましい抗ヒト由来PAGM抗体は、抗ヒト由来PGAM1抗体であり、好ましい抗ヒト由来TPI抗体は、抗ヒト由来TPI1抗体である。
【0013】
ヒト由来PGAM1としては、例えば、下記の(A1)若しくは(A2)のタンパク質があげられる。下記(A2)のタンパク質のアミノ酸配列は、下記(A1)のアミノ酸配列との相同性が、例えば、50%以上であり、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上である。また、下記(A2)のタンパク質のアミノ酸配列において、置換、付加、挿入もしくは欠失したアミノ酸残基の数は、例えば、1〜127残基、好ましくは、1〜50残基、より好ましくは、1〜25残基である。
(A1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(A2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸残基が置換、付加、挿入もしくは欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質であって、ヒトPGAM1としての機能を有するタンパク質。
【0014】
ヒト由来TPI1としては、例えば、下記の(B1)若しくは(B2)のタンパク質があげられる。下記(B2)のタンパク質のアミノ酸配列は、下記(B1)のアミノ酸配列との相同性が、例えば、50%以上であり、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上である。また、下記(B2)のタンパク質のアミノ酸配列において、置換、付加、挿入もしくは欠失したアミノ酸残基の数は、例えば、1〜124残基、好ましくは、1〜49残基、より好ましくは、1〜24残基である。
(B1)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B2)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸残基が置換、付加、挿入もしくは欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質であって、ヒトTPI1としての機能を有するタンパク質。
【0015】
本発明の腫瘍マーカにおいて、前記抗ヒト由来PGAM抗体、前記抗ヒト由来PGAM1抗体、前記抗ヒト由来TPI抗体および前記抗ヒト由来TPI1抗体は、ヒト血清中の自己抗体であることが好ましい。
【0016】
前述のように、本発明の腫瘍マーカは、ヒト由来PGAM遺伝子、ヒト由来PGAMのmRNA、ヒト由来TPI遺伝子およびヒト由来TPIのmRNAの少なくとも一つであってもよく、これらは天然(ヒト)から分離されたものであってもよいし、遺伝子工学により作製された組換え遺伝子ないし組換えRNAであってもよい。前記遺伝子の発現ないしmRNAの転写を指標にしても、腫瘍を検出できるからである。前述と同様に、前記遺伝子およびmRNAで好ましいのは、ヒト由来PGAM1遺伝子およびそのmRNA,ヒト由来TPI1遺伝子およびそのmRNAである。ヒト由来PGAM1遺伝子およびそのmRNAとしては、例えば、前記(A1)または(A2)のタンパク質をコードする遺伝子およびmRNAがあげられ、前記ヒト由来TPI1遺伝子およびそのmRNAとしては、例えば、前記(B1)または(B2)のタンパク質をコードする遺伝子およびmRNAがあげられる。本発明において、これらの遺伝子およびそれに対応するmRNAは、従来公知の方法で検出可能であり、例えば、検出プローブを用いた方法、特異的プライマーを用いた核酸増幅法(例えば、PCR法)等により検出することができる。
【0017】
本発明の腫瘍マーカ、腫瘍診断キットおよび腫瘍マーカの測定方法において、その対象となる腫瘍は、例えば、膵癌、肝臓癌、胆管癌、結腸癌、直腸癌、大腸癌、胃癌、乳癌および口腔癌であるが、これら以外の癌も対象となる。前記口腔癌は、口腔扁平上皮癌であることが好ましい。
【0018】
本発明の腫瘍診断キットおよび腫瘍マーカの測定方法において、対象となるのは、ヒト血清中の自己抗体である。前記自己抗体は、例えば、血清ELISA法または血清CLEIA法により測定する。また、本発明の腫瘍診断キットは、前記抗原タンパク質および前記二次抗体に加え、ELISA法またはCLEIA法に必要な各種試薬や器具を含んでいても良い。
【0019】
本発明の腫瘍診断キットおよび腫瘍マーカの測定方法において、前記標識二次抗体は、例えば、酵素標識抗体、蛍光標識抗体、放射能標識抗体があるが、酵素標識抗体が好ましい。前記酵素標識抗体としては、例えば、パーオキシダーゼ標識ヒト由来抗体、アルカリフォスファターゼ(ALP)標識ヒト由来抗体がある。前記ヒト由来抗体の種類は、特に制限されず、例えば、IgG,IgA,IgM等がある。
【0020】
本発明の腫瘍マーカの測定方法において、前記複合体の測定方法は、例えば、前記複合体の前記自己抗体に標識二次抗体を結合させ、前記標識二次抗体の標識を測定する方法である。
【0021】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記の実施例によってなんら制限されない。
【実施例】
【0022】
本実施例は、癌患者の血清中に、腫瘍マーカであるヒト由来PGAM1およびヒト由来TPI1のそれぞれに対する自己抗体が存在することを確認すると共に、組換えタンパク質であるヒト由来PGAM1およびヒト由来TPI1を用いて、被験者の血清中の前記自己抗体を腫瘍マーカとして、癌の判定を行った実施例である。なお、本実施例において、被険者の血清の採取は、本人の同意を得た上で行った。
【0023】
(血清の調製)
血清は、57例の悪性疾患患者(癌患者)、14例の良性疾患患者、17例の健常者より、全て同意を得た上で採血し、至適条件にて遠心分離した後、血清のみを採取し解析に用いた。癌患者(malignant)の内訳は、胃癌(Gastric ca.):7例、大腸癌(Colo−rectal ca.):17例(結腸癌:9例、直腸癌:8例)、乳癌(Breast ca.):7例、膵癌(Pancreas ca.):13例、肝・胆道系癌(Bile duct ca. & HCC):3例(肝細胞癌:1例、胆管癌:2例)、口腔扁平上皮癌(OC.SCC):10例であり、男女比29(男):28(女)、平均年齢68.5歳(38〜85歳)である。良性疾患患者(benign)の内訳は、慢性膵炎:1例、胆石症:4例、口腔良性疾患:9例であり、男女比6(男):8(女)、平均年齢54.4歳(24〜70歳)である。健常者(control)は、男女比11(男):6(女)、平均年齢46.9歳(23〜80歳)である。なお、自己抗体の存在を確認するために用いたのは、前記悪性疾患患者(癌患者:57例)である。また、癌患者は、初発または再発を問わない。
【0024】
(細胞株)
細胞株として、ヒト膵臓癌細胞株MIAPaCa IIを用いた。ヒト膵癌細胞株MIAPaCa IIを、10%牛胎児血清含有RPMI medium 1640(Invitrogen社)を用いて、5%COインキュベータにて培養した。
【0025】
(1) 癌患者血清中の癌特異的自己抗体の存在の確認
【0026】
(電気泳動用サンプル調製)
培養したヒトMIAPaCa II細胞を回収し、可溶化バッファー(8M Urea、4%CHAPS、60mM DTT、2%IPG Buffer(pI:3−10)、0.002%Bromophenol blue)と混和し、超音波破砕処理をした後、遠心分離(12000rpm/4℃/12min)し、上清を泳動用サンプルとした。また、リン酸化を促進させタンパク質の抗原性を高めたモデルでは、培養液中にPMA(Phorbol 12−myristate13−acetate)を加え一晩培養し、その後同様の条件でサンプル調製した。
【0027】
(2次元電気泳動およびゲルの染色)
まず、固定化pH勾配ゲル(商品名:Immobiline Drystrip,7cm,pH3−10/Amersham biosciences社)を使用し、等電点電気泳動を行った(商品名:Ettan IPGphor II/Amersham biosciences社)。次に、2次元目にポリアクリルアミドゲル(10% Real Gel plate / BIO CRAFT社)を使用しSDS−PAGEを行った。泳動後のゲルはCBB(Coomassie Brilliant Blue)にて染色した。
【0028】
(Western blotting)
2次元電気泳動後のゲル上のタンパク質をSemi−dry blotterを用いて電気的にPVDF(poly vinilidene difluoride)膜(MILLIPORE社)に転写した。転写したPVDF膜をブロッキングバッファー(5% nonfat milk−PBS−0.1%Tween)を用いて室温1時間インキュベートした後、1次抗体として癌患者のヒト血清(1000倍希釈/5%BSA−PBS−0.1%Tween)を室温1時間反応させ、その後洗浄した。次に2次抗体として5%BSA−PBS−0.1%Tweenにて10000倍希釈したパーオキシダーゼ標識anti−Human IgG antibody(Santacruz社)を室温1時間反応させ、その後洗浄し、ECL(Amersham biosciences社)にて化学発光させ、X線フィルムに露光させた。
【0029】
(2) 癌特異的自己抗体認識抗原タンパク質の同定
【0030】
(抗原タンパク質(PGAM)の決定)
Western blottingにて観察される癌患者血清と反応を示すバンドと、CBB染色した2次元電気泳動ゲルを比較し、一致するタンパク質スポットをゲルより切り出した。そして、下記の条件により、ゲルの染色液の脱色、ゲルの脱水、ゲル内消化およびペプチド抽出の一連の操作を行い、ペプチドの質量解析を行った。その結果、前記癌患者血清と特異的に反応したタンパク質として、PGAM(PGAM1)が同定された。この質量解析の結果を図13に示す。
【0031】
染色液の脱色:50%ACN/25mM NH Bicarbonate溶液100μLを使用し、15分間適宜震盪した。この操作を3回繰り返し施行した。
【0032】
ゲルの脱水:ゲルを100%ACN溶液30μLに5分間浸し、溶液を除去した後、Speed Vacにて約15分間乾燥させ完全脱水を行った。
【0033】
ゲル内消化:脱水乾燥したゲルに、凍結保存してあるトリプシン溶液(10μg/mL Trypsin/50mM NH Bicarbonate,Promega社)20μLを入れ、37℃にて一晩インキュベートして酵素処理を行った。
【0034】
ペプチド抽出:酵素処理後のゲルに75μLの抽出液(50%ACN/5%TFA)を添加し、ゲル内のペプチドを抽出した(1時間震盪)。抽出液をSpeed Vacで5〜10μLまで濃縮し、商品名ZipTip C18(Millipore社)を用いて濃縮抽出液の脱塩と同時にペプチドを回収し、質量解析用マトリックス溶液に溶出して解析用試料とした。
【0035】
解析:MALDI−TOF型質量解析装置(商品名Voyager DE Pro,Applied Biosystems社)を使用し質量解析をし、そのデータを元にPeptide mass fingerprinting法(検索サイト:MS Fit(http://prospector.ucsf.edu/)、検索date base : NCBI)にてタンパク質を同定した。
【0036】
(3) 癌の判定
【0037】
(遺伝子クローニングおよび組換えタンパク質の作製)
ヒトMIAPaCa II培養細胞株よりRNAを抽出し、商品名RevertAid First Strand cDNA Synthesis Kit(Fermentas社)を用いてcDNAを合成した。特異的プライマーを用いRT−nested PCR法にて目的DNAを増幅して回収した。このDNAをタンパク発現用ベクター(pGEX 6p2 vectorあるいはpMAL c2 vector)に組み込み、大腸菌発現系(competent cell:BL21)を用いて融合タンパク質を発現させた。組換えPGAM1はアフィニティーゲル(Amylose Resin)にて精製し、融合タンパク質MBP−PGAM1として溶出し回収した。組換えTPI1はアフィニティーゲル(Glutathione Sepharose 4B gel)にて精製し融合タンパク質GST−TPI1として回収した後、2%Prescision protease(Amersham biosciences社)にてGST部を切断分離し、遠心分離(2500rpm/room temp./5min)後の上清をTPI1として回収した。前記両組換えタンパク質は、いずれも10%PBSに対して透析をした後、組換えタンパク質溶液として回収した。得られた抗原タンパク質は、MBP−PGAM1およびTPI1である。なお、前記RT−nested PCR法の操作および条件は、下記のとおりである。
【0038】
(RT−nested PCR法の操作および条件)
PGAM1およびTPI1のクローニングは、データベースよりそれぞれのタンパク質の全長cDNA配列を検索し、coding sequenceを基に配列を設計し、これに基づきカスタムプライマーを購入(Sigma Genosys社)し、使用した。プライマーの配列を下記に示す。括弧内はアニーリング温度を示す。反応液のDNAポリメラーゼは、商品名TaKaRa LA Taq(Takara bio 社)を使用し、下記に示すWF/WB primerを使用して1回目のPCRを行った後、そのPCR産物をテンプレートとし、下記に示すアダプターをつけたnested primerを用いて2回目のPCRを行い、全長のPGAM1およびTPI1をクローニングした。PCRのプログラムは、94℃×10sec、アニーリング(下記の括弧内の温度)×15secおよび72℃×120secの一連のサイクルを35サイクル行い、反応後は、4℃で保存した。
【0039】
(PGAM1:1回目PCRプライマー)
WF:5’−aatctgctaatcccagtcggtgcc−3’(配列番号3)
WB:5’−actcgcaaaaacccaagtcactac−3’(配列番号4)
(57℃)
【0040】
(PGAM1:2回目PCRプライマー)
F−BamH1:5’−cgcggatccatggccgcctacaaactg−3’(配列番号5)
B−EcoR1:5’−ccggaattctcacttcttggccttgcc−3’(配列番号6)
(65℃)
【0041】
(TPI1:1回目PCRプライマー)
WF:5’−caagaagggggaacgtcgg−3’(配列番号7)
WB:5’−atatgcagggaaagggcagttac−3’(配列番号8)
(57℃)
【0042】
(TPI1:2回目PCRプライマー)
F−BamH1:5’−cgcggatccatggcgccctccagg−3’(配列番号9)
B−Xho1:5’−ccctcgagtcattgtttggcattg−3’(配列番号10)
(57℃)
【0043】
(患者血清中の癌特異的自己抗体のスクリーニング)
精製組換えタンパク質をCarbonate buffer(0.2M , pH:9.5)を用いて濃度調整し、96穴プレートに100ng/100μl/wellにて固相化(4℃ , over night)した。
【0044】
ヒト抗TPI1抗体の測定は、ELISA(Enzyme−linked immunosorbent assay)法にて行った。サンプル血清は、0.5%BSA−PBS−0.01%Tweenにて1000倍に希釈し、50μl/wellずつ加え、1時間室温で静置し、その後洗浄した。検出抗体は、anti−human IgG(HRP)を用い0.5%BSA−PBS−0.01%Tweenにて4000倍希釈液をつくり、この希釈液を50μL/wellずつ加え、1時間室温静置し、その後洗浄した。TMB(3,3’5,5’−Tetramethyl Benzidin liquid/SIGMA社)を100μL/well加え、30分室温静置の後、10%HSOを50μL/well加え反応を停止させた。そして、各wellについて、450nm/620nmにて吸光度を測定した。
【0045】
ヒト抗PGAM1抗体の測定は、CLEIA(Chemiluminescent enzyme immunoassay)法にて行った。サンプル血清は、0.5%BSA−PBS−0.01%Tweenにて1000倍に希釈し、50μl/wellずつ加え、1時間室温静置し、その後洗浄した。検出抗体は、anti−human IgA (HRP)を用い0.5%BSA−PBS−0.01%Tweenにて1000倍希釈液をつくり、50μL/wellずつ加え、1時間室温静置し、その後洗浄した。ついで、発光基質(ECL)を、50μl/well加え、15分室温静置の後、ルミノメーターにて化学発光を測定した。
【0046】
(結果1)
MBP−PGAM1を用いたCLEIAの結果を、図1から図5に示す。
【0047】
図1は、全癌患者(malignant)、全良性疾患者(benign)および健常者(control)の結果を示すグラフと表である。図2は、癌の種類別にCLEIAの結果を示したグラフである。図3は、癌の種類別に陽性(positive)、陰性(negative)および陽性率(positive rate(%))を示す表である。図1から図3では、陽性(positive)の判断の閾値(Cut off)を、健常者の平均値に標準偏差の2倍の値を足した値(cont.mean+2SD)にしたものである。この閾値を「第1の閾値」という。図1のグラフと表に示すように、全ての癌と、良性疾患および健常者とを高い確率で判別することができた。また、図2および図3に示すように、6種類の癌において、各癌と、良性疾患および健常者を高い確率で区別することができた。また、図3の表に示すように、膵臓癌、大腸癌、胃癌および肝・胆道系癌を合わせると、さらに陽性率が70%に上昇した。図4は、癌の種類別にCLEIAの結果を示したグラフである。図5は、癌の種類別に陽性(positive)、陰性(negative)および陽性率(positive rate(%))を示す表である。図4および図5では、陽性(positive)の判断の閾値(Cut off)を、健常者の平均値に標準偏差値を足した値(cont.mean+SD)にしたものである。この閾値を「第2の閾値」という。図4および図5に示すように、6種類の癌において、癌と、良性疾患および健常者を高い確率で区別することができた。また、図5の表に示すように、膵臓癌、大腸癌、胃癌および肝・胆道系癌を合わせると、さらに陽性率が75%に上昇した。なお、図1、図2および図4のグラフの縦軸の「A.U」.は、「arbitrary unit」を意味する。
【0048】
(結果2)
TPI1を用いたCLEIAの結果を、図6から図10に示す。
【0049】
図6は、全癌患者(malignant)、全良性疾患者(benign)および健常者(control)の結果を示すグラフと表である。図7は、癌の種類別にCLEIAの結果を示したグラフである。図8は、癌の種類別に陽性(positive)、陰性(negative)および陽性率(positive rate(%))を示す表である。図6から図8では、陽性(positive)の判断の閾値(Cut off)を、前記第1の閾値(cont.mean+2SD)にしたものである。図6のグラフと表に示すように、全ての癌と、良性疾患および健常者とを、高い確率で判別することができた。また、図7および図8に示すように、6種類の癌において、各癌と、良性疾患および健常者を高い確率で区別することができた。図9は、癌の種類別にCLEIAの結果を示したグラフである。図10は、癌の種類別に陽性(positive)、陰性(negative)および陽性率(positive rate(%))を示す表である。図9および図10では、陽性(positive)の判断の閾値(Cut off)を、前記第2の閾値(cont.mean+SD)にしたものである。図9および図10に示すように、6種類の癌において、各癌と、良性疾患および健常者を高い確率で区別することができた。
【0050】
(従来の腫瘍マーカとの比較)
図11および図12に従来の腫瘍マーカ(CA19−9、CEA)による癌の判別と本実施例による癌の判別を示す。CA19−9は、膵癌、胆道癌等の各種消化器癌で上昇する腫瘍マーカであり、単位は、「U/ml」であり、閾値(cut off 値)は37U/mlである。CEAは、消化器癌、乳癌、肺癌等で上昇する腫瘍マーカであり、単位は、「ng/ml」であり、閾値(cut off 値)は5.0ng/mlである。これら従来の腫瘍マーカでは、いずれも、血清中の前記マーカのタンパク質濃度が測定される。図11は、腫瘍マーカ「CA19−9」の病期別の判別の表と、本実施例のPGAM1およびTPI1の癌の判別の表とを示す。同図において、閾値は、前記第1の閾値および第2の閾値の双方を示す。同図に示すように、本実施例の前記二つ腫瘍マーカは、従来の腫瘍マーカ「CA19−9」と同等以上の確率で各種癌を判別できたことが分かる。図12は、膵臓癌の13例において、従来の腫瘍マーカである「CA19−9」と「CEA」と、本実施例のPGAM1とTPI1との癌の判別を示す表である。同図において、「patien」は癌患者を示し、癌患者13名ごとに、前記各種マーカのスコアを示している。同図に示すように、「CA19−9」の陽性率は、92.3%であり、「CEA」の陽性率は33.3%であった。これに対し、本実施例の2つの腫瘍マーカであるPGAM1とTPI1を合わせた陽性率は、100%であり、癌を完全に判別できた。なお、図11および図12の従来の腫瘍マーカの判別データは、「臨床検査ガイドライン 2005/2006」(日本臨床検査医学会)による。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の腫瘍マーカは、感度および特異性の双方が高く、早期癌であっても高精度に検出できる。したがって、本発明の腫瘍マーカは、癌の診断、評価等に好ましく使用することができ、臨床分野、学術研究分野および治療薬や治療方法の研究開発の分野の全ての分野に広く用いることができ、その用途は制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明の一実施例における癌の判定結果を示すグラフである。
【図2】図2は、前記実施例における各癌の判定結果を示すグラフである。
【図3】図3は、前記実施例における各癌の判定結果を示す表である。
【図4】図4は、前記実施例における各癌のその他の判定結果を示すグラフである。
【図5】図5は、前記実施例における各癌のその他の判定結果を示す表である。
【図6】図6は、本発明のその他の実施例における癌の判定結果を示すグラフである。
【図7】図7は、前記実施例における各癌の判定結果を示すグラフである。
【図8】図8は、前記実施例における各癌の判定結果を示す表である。
【図9】図9は、前記実施例における各癌のその他の判定結果を示すグラフである。
【図10】図10は、前記実施例における各癌のその他の判定結果を示す表である。
【図11】図11は、本発明の腫瘍マーカと従来のマーカの癌の判定の比較の一例を示す表である。
【図12】図12は、本発明の腫瘍マーカと従来のマーカの癌の判定の比較のその他の例を示す表である。
【図13】図13は、本発明のさらにその他の実施例における質量解析の結果を示す表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)の腫瘍マーカおよび下記(B)の腫瘍マーカの少なくとも一方を含む腫瘍マーカ。
(A)ヒト由来PGAM、抗ヒト由来PGAM抗体、ヒト由来PGAM遺伝子およびヒト由来PGAMmRNAからなる群から選択される少なくとも一つを含む腫瘍マーカ。
(B)ヒト由来TPI、抗ヒト由来TPI抗体、ヒト由来TPI遺伝子およびヒト由来TPImRNAからなる群から選択される少なくとも一つを含む腫瘍マーカ。
【請求項2】
前記抗ヒト由来PGAM抗体および前記抗ヒト由来TPI抗体が、ヒト血清中の自己抗体である請求項1記載の腫瘍マーカ。
【請求項3】
前記ヒト由来PGAMが、ヒト由来PGAM1であり、前記ヒト由来TPIが、ヒト由来TPI1である請求項1または2記載の腫瘍マーカ。
【請求項4】
膵癌、肝臓癌、胆管癌、結腸癌、直腸癌、大腸癌、胃癌、乳癌および口腔癌からなる群から選択される少なくとも一つの癌の診断のための腫瘍マーカである請求項1から3のいずれか一項に記載の腫瘍マーカ。
【請求項5】
血清ELISA法または血清CLEIA法を用いた腫瘍診断キットであって、ヒト由来PGAMおよびヒト由来TPIの少なくとも一方の腫瘍特異的抗原と、前記腫瘍特異的抗原に対する自己抗体を認識する標識二次抗体とを含む腫瘍診断キット。
【請求項6】
前記ヒト由来PGAMが、ヒト由来PGAM1であり、前記ヒト由来TPIが、ヒト由来TPI1である請求項5記載の腫瘍診断キット。
【請求項7】
前記ヒト由来PGAMおよび前記ヒト由来TPIが、組換タンパク質である請求項5または6に記載の腫瘍診断キット。
【請求項8】
膵癌、肝臓癌、胆管癌、結腸癌、直腸癌、大腸癌、胃癌、乳癌および口腔癌からなる群から選択される少なくとも一つの癌の診断のためのキットである請求項5から7のいずれか一項に記載の腫瘍診断キット。
【請求項9】
腫瘍マーカの測定方法であって、前記腫瘍マーカが、ヒト由来PGAMおよびヒト由来TPIの少なくとも一方のタンパク質に対するヒト血清中の自己抗体であり、前記ヒト由来PGAMおよび前記ヒト由来TPIの少なくとも一方のタンパク質に、前記タンパク質に対する前記自己抗体を結合させて複合体を形成させ、前記複合体を測定する腫瘍マーカの測定方法。
【請求項10】
前記複合体の測定が、前記複合体の前記自己抗体に標識二次抗体を結合させ、前記二次抗体の前記標識を測定する方法である請求項9記載の腫瘍マーカの測定方法。
【請求項11】
前記ヒト由来PGAMが、ヒト由来PGAM1であり、前記ヒト由来TPIが、ヒト由来TPI1である請求項9または10記載の腫瘍マーカの測定方法。
【請求項12】
前記ヒト由来PGAMおよび前記ヒト由来TPIが、組換えタンパク質である請求項9から11のいずれか一項に記載の腫瘍マーカの測定方法。
【請求項13】
前記腫瘍マーカが、膵癌、肝臓癌、胆管癌、結腸癌、直腸癌、大腸癌、胃癌、乳癌および口腔癌からなる群から選択される少なくとも一つの癌の診断のための腫瘍マーカである請求項9から12のいずれか一項に記載の腫瘍マーカの測定方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2008−26290(P2008−26290A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202584(P2006−202584)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】