説明

腫瘍治療における三酸化二ヒ素の副作用低減剤及び解毒剤

【課題】三酸化二ヒ素の腫瘍に対する効果を減ずることなく、正常細胞に対する副作用を減ずる手段を開発すること。
【解決手段】αリポ酸を三酸化二ヒ素と組み合わせて用いることで、三酸化二ヒ素の抗腫瘍作用を減じることなく正常細胞への毒性を低減できるというきわめて優れた効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、三酸化二ヒ素(As2O3、三酸化ヒ素とも呼ばれる。)を有効成分とする抗
腫瘍剤の副作用及び毒性を低減させる薬剤に関する。より具体的には、白血病治療における三酸化二ヒ素の副作用を低減させる薬剤に関わる。
【背景技術】
【0002】
ヒ素化合物は、古来より、顔料や除草剤の原料、そして殺虫剤として使われてきた。例えば、中国では、ヒ素を含有する化合物が漢方薬として用いられている。欧州でも、化粧水として用いられていたほか、ファウラー液 (Dr. Fowler's solution)は、ヒ素を含有する重宝な万能薬として用いられ、白血病治療においても、慢性骨髄性白血病の治療にも用いられていた(非特許文献1)。
【0003】
他方、砒素は、摂取すると、皮膚がん及び肺がん(非特許文献2-3)、神経毒性(非特許文献4)、末梢血管に関わる病気(非特許文献5-6)などの健康上の問題を起こすことが知られ
ている。ヒ素は、排尿により体外に排出されるが、腎臓に蓄積され、砒素化合物は、高濃度で腎臓組織に、細胞障害性であることが知られている。(非特許文献7)
急性前骨髄球性白血病は、急性白血病のサブタイプで特徴的な細胞形態を有しており、特定の染色体転座(t15;17)を特徴とし、前骨髄球性白血病遺伝子とレチノイック酸レセプター(RARα)遺伝子の再配列を起こし、PML-RARαキメラタンパク質を発現する。all-trans retinoic acid(ATRA)により85%以上のAPL患者で臨床上の完全な寛解を起こし、PML-RARαがATRAの標的であると考えられている。
【0004】
しかしながら、ATRA処置は、2つの臨床上の限界があることが知られている。一つには
、レチノイン酸シンドロームで、これは進行性の貧血及び多臓器不全をAPL患者の5〜25%で引き起こす。またレチノイド抵抗性は、ほぼすべての患者で生じる。このためATRA以外の治療法の開発が、特にATRA抵抗性の患者には必要であった。
【0005】
そこで、最近、新たな治療法としてヒ素化合物、特に、三酸化二ヒ素を用いる治療法が開発されてきた。既に三酸化二ヒ素は急性前骨髄球性白血病(APL)の治療に用いられる
ようになっており、多発性骨髄腫(MM)についても治療法が開発されている(非特許文献8-12)。更に、三酸化二ヒ素は、種々の血液癌、固形がんの治療へも有用であるとされている。
【0006】
【非特許文献1】:Am.J.Med.sci.,1978 1月、81-84
【非特許文献2】:Sommers SC, McManus RG. Multiple arsenical cancers of skin and internal organs. Cancer. 1953;6:347-359.
【非特許文献3】Hyes RB. The carcinogenicity of metals in humans. Cancer Causes Control. 1997;8:371-385.
【非特許文献4】Franzblau A, Lilis A. Acute arsenic intoxification from environmental arsenic exposure. Arch Environ Health. 1989;44:385-390.
【非特許文献5】Lin TH, Huang YL, Wang MY. Arsenic species in drinking water, hair, fingernails, and urine of patients with blackfoot disease. J Toxicol EnvironHealth A. 1998;53:85-93.
【非特許文献6】Tseng CH, Chong CK, Chen CJ, Tai TY. Dose-response relationship between peripheral vascular disease and ingested inorganic arsenicamong residents in blackfoot disease endemic villages in Taiwan. Atherosclerosis.1996;120:125-133.
【非特許文献7】Keith RL, McGuinness SJ, Gandolfi AJ, Lowe TP, Chen Q, Fernando Q. Interaction of metals during their uptake and accumulation in rabbit renal cortical slices. Environ Health Perspect. 1995;103(suppl 1):77-80.
【非特許文献8】Haung SL, Guo AX, Xiang Y. Clinical study on the treatment of APL mainly with composite Indigo Naturalis tablets. Chin J Hematol. 1995;16:26-29.
【非特許文献9】Soignet SL, Maslak P, Wang ZG, et al. Complete remission after treatment of acute promyelocytic leukemia with arsenic trioxide. N Engl J Med. 1998;339:1341-1348
【非特許文献10】Zhang TD, Chen GQ, Wang ZG, Wang ZY, Chen SJ, Chen Z. Arsenic trioxide, a therapeutic agent for APL. Oncogene. 2001;20:7146-7153.
【非特許文献11】Hussein MA. Trials of arsenic trioxide in multiple myeloma. Cancer Control. 2003;10:370-374.
【非特許文献12】Phase 2 study of arsenic trioxide in patients with relapsed or refractory multiple myeloma. Br J Haematol. 2004;125:470-476.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
三酸化二ヒ素は急性前骨髄球性白血病(APL)の治療に用いられるようになり、多発性
骨髄腫(MM)の治療への適用も研究されているが、低尿素、血清中のクレアチン及び血中尿素窒素、並びに蛋白尿などの腎臓への障害が報告され (非特許文献11)、副作用の克服
が課題となっている。毒性の低い新規ヒ素化合物を合成する努力もされているが、活性の点でまだ十分でなく実用化まで至っていない(Cancer Chemother Pharmacol. 2003 May; 51(5):427-32)。そこで、三酸化二ヒ素の腫瘍に対する効果を減ずることなく、正常細胞に対する副作用を減ずる手段を開発することを本願発明の第1の課題とする。更に、具体
的には、急性前骨髄球性白血病(APL)及び多発性骨髄腫(MM)の治療における三酸化二
ヒ素の腫瘍に対する効果を減ずることなく、腎臓細胞に対する副作用を減ずる手段を開発することを本願発明の第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者等は、三酸化二ヒ素の腎細胞への毒性作用機構を解明することにより、αリポ酸を用いることで、三酸化二ヒ素の抗腫瘍作用を減じることなく正常細胞への毒性を低減できることを見出して本願発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
本願発明は、αリポ酸を三酸化二ヒ素と組み合わせて用いることで、三酸化二ヒ素の抗腫瘍作用を減じることなく正常細胞への毒性を低減できるというきわめて優れた効果を奏する。すなわち、本願発明は、単に三酸化二ヒ素の毒性を単に中和するのではなく、抗癌剤としての三酸化二ヒ素の有効性を保ちつつ、正常組織に対する有害反応を抑制できるというきわめて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願発明者等は、三酸化二ヒ素を有効成分とする抗腫瘍剤はきわめて効果的な薬剤であるにもかかわらず、腎障害という副作用を生じることがあり、これを低減させることが、多発性骨髄腫(MM)においては特に重要であるほか、今後の抗腫瘍剤としての適用拡大にも重要であることに鑑み、この副作用の低減に取り組んだ。具体的には、三酸化二ヒ素の投与により腎細胞において発現の変動する遺伝子を特定し、三酸化二ヒ素の腎細胞における毒性作用機構を解明した。そして、三酸化二ヒ素の腫瘍細胞に対する毒性に影響せず、腎細胞を保護する物質を同定した。
【0011】
1.三酸化二ヒ素の投与により腎細胞において発現の変動する遺伝子を特定
代表的な腎細胞株を用いて、通常使用される濃度の三酸化二ヒ素による、遺伝子発現の変動を調べたところ、73遺伝子に変動が見られた。この73遺伝子を5つの群にわけた。そ
のうちの一つの群に属する24遺伝子の発現は、三酸化二ヒ素による処理時間に時間的に依存して増加していた。そして、24遺伝子のうち機能の解明されている17遺伝子から、三酸化二ヒ素の量に依存して発現が増大する遺伝子として、HMOXIが見出された。実際に腎細
胞中でHMOXIの遺伝子産物であるヘムオキシゲナーゼ1タンパク質が見出され、さらに、HMOXIを腎細胞に遺伝子導入することにより三酸化二ヒ素に対する感受性が低下することから、HMOXIは、三酸化二ヒ素から腎細胞を保護するものと考えられた。
【0012】
2.三酸化二ヒ素の投与による腎細胞障害のメカニズム解明
HMOXIは、酸化ストレスにより誘導されることが知られていることから、腎細胞への酸
化ストレス、特に活性酸素種の影響が調べられた。具体的には、三酸化二ヒ素、スーパーオキサイドアニオン、及び/又は過酸化水素で腎細胞を処理した。このとき、Tiron(スーパーオキシド アニオン スカベンジャー)、DPI(NAD(P)Hオキシダーゼのインヒビター)、SOD(スーパーオキシド アニオンから過酸化水素を生成する酵素)、又はカタラーゼ(過酸化水素を酸素と水に変換する酵素)を共存させるか否かによる影響を調べた。Chenらの提唱する三酸化二ヒ素によるNIH/3T3のアポトーシス経路図からみて、腎細胞においても、三酸化二ヒ素がNADPHオキシダーゼを活性化し、これによりスーパーオキシドアニオンが発生し、更にスーパーオキシドアニオンから過酸化水素が生成し、過酸化水素により細胞毒性が生じるという反応経路が予想された。
【0013】
3.三酸化二ヒ素の投与による腎細胞障害を低減する薬剤の同定
三酸化二ヒ素の細胞毒性に酸化反応が関与していることが明らかとなったので、抗酸化剤の中から、三酸化二ヒ素による腎細胞毒性を低減し、しかも三酸化二ヒ素の抗腫瘍活性に影響を与えない薬剤を探索したところ、αリポ酸が同定された。なお、下記比較例にも示すように、他の抗酸化剤は、正常腎細胞への毒性を低減しなかった。また、αリポ酸以外のビタミンCやαトコフェロールなどの抗酸化剤を三酸化二ヒ素を併用すると、三酸化
二ヒ素の抗癌作用が弱まってしまうと考えられている。
αリポ酸は、三酸化二ヒ素(As2O3)による腎臓細胞への障害を顕著に保護するが、ス
ーパーオキシドアニオンによる腎臓細胞死に対しては、腎臓細胞をあまり保護することはなく、過酸化水素により誘導される腎臓細胞死については影響しなかった。そこで、αリポ酸は、上述のアポトーシス経路図においてスーパーオキシドアニオンが発生する段階より上流で、活性酸素種の生成を阻害することにより、三酸化二ヒ素(As2O3)による毒性
を減らしているものと考えられる。
他方、αリポ酸は、三酸化二ヒ素(As2O3)の急性前骨髄球性白血病(APL)及び多発性骨髄腫(MM)などの腫瘍細胞に対する細胞毒性にはあまり影響しないことがわかった。
【0014】
4.三酸化二ヒ素とαリポ酸を併用する抗腫瘍剤
本願発明は、三酸化二ヒ素及びαリポ酸を併用する抗腫瘍剤を包含する。
4−1.対象疾患
本願発明の投与対象となる癌、及び/又は腫瘍としては、三酸化二ヒ素が有効である、
すべての癌及び腫瘍が包含され、例えば、固形癌、血液性腫瘍、及び神経腫などが挙げられる。より具体的には、消化管、食道、胃、腸、結腸、膀胱、前立腺、卵巣、肝臓、脳、骨、乳房、及び肺などの組織における腫瘍及び癌並びに白血病及びリンパ腫などが含まれが、これらに限定されるものではない。更に好適には、本願発明の抗腫瘍剤の適用対象には、急性前骨髄球性白血病(APL)、多発性骨髄腫(MM)、急性リンパ芽球白血病(ALL)、急性リンパ芽球性B細胞白血病、急性リンパ芽球性T細胞白血病、急性骨髄芽球性白血病(AML)、急性単芽球性白血病、急性赤白血病性白血病、急性骨髄巨核球性白血病、急性骨髄単球性白血病、急性未分化白血病、慢性骨髄白血病、及び慢性リンパ性白血病が含まれる。
4−2.投与方法
本願発明の抗腫瘍剤は、経口投与、又は注射による投与若しくは吸入投与などの非経口と、任意の投与形態を取ることができる。
4−3.投与量
本願発明の抗腫瘍剤の投与量は、その投与経路により異なるが、経口投与する場合は、例えば、それぞれ、1日あたり、三酸化二ヒ素を、0.03〜1.0mg/kg、好適には0.15mg/kg、及びαリポ酸を3.5〜35mg/kg投与することができる。投与回数は、例えば、1日1回とすることができる。
4−4.配合剤としての製剤化
本願発明の本発明の三酸化二ヒ素及びαリポ酸を有効成分とする抗腫瘍剤は、例えば、両成分を含有する配合剤とすることができる。三酸化二ヒ素(As2O3)とα−リポ酸の比
率を、1:23〜1:230となるようすることができる。
【0015】
経口投与には、本発明の三酸化二ヒ素及びαリポ酸を有効成分とする抗腫瘍剤を、例えば、適宜の液体に溶解して溶液として、又は、シロップ若しくは懸濁液とし、液剤とすることができる。例えば、ソルビット、セルロース誘導体などの懸濁剤、レシチンなどの乳化剤、保存剤などの薬学的に許容される他の成分を含むことができる。さらに、散剤、顆粒剤、錠剤、又はカプセル剤など、適宜の剤形とすることがでる。製剤化には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、及び滑沢剤など、製剤化のために常用される補助剤を添加することができる。賦形剤としては、例えば、デンプン、乳糖、白糖、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、リン酸水素カルシウム、合成ケイ酸アルミニウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、及びハイドロキシプロピルス
ターチ(HPS)などがある。 また、結合剤としては、デンプン、微結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(PVP)、アラビアゴム末、
ゼラチン、ブドウ糖、及び白糖などの水溶液、並びにそれらの水・エタノール溶液などがある。崩壊剤としては、デンプン、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、微結晶セルロース、ハイドロキシプロピルスターチ、及びリン酸カルシウムなどがある。滑沢剤としては、カルナバロウ、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、天然ケイ酸アルミニウム、合成ケイ酸マグネシウム、硬化油、硬化植物油誘導体(ステロテックスHM)、ゴマ油、サラシミツロウ、酸化チタン、乾燥水酸化アルミニウム・ゲルステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、リン酸水素カルシウム、及びラウリル硫酸ナトリウムなどがある。
【0016】
注射投与には、体液の浸透圧に等しくするための、等張化剤を添加できる。生理的に等張となるように水に溶解できる化合物であれば、いずれでも良く、例えば、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、又は塩化ナトリウムが挙げられる。更に、溶解補助剤を添加できる。溶解補助剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、プロピレングリコール、ポリソルベート80、安息香酸ナトリウム、安息香酸ベンジル、ウレタン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、グリセリン、サリチル酸ナトリウム、ジエチルアセタミド、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、尿素、N―ヒドロキシエチルラクタマイド、及びモノメチルアセトアミドが挙げられる。
【0017】
4−5.キット
本願発明の本発明の三酸化二ヒ素及びαリポ酸を有効成分とする抗腫瘍剤は、三酸化二ヒ素を有効成分として含む製剤及びαリポ酸を有効成分とする製剤を組み合わせたキットとすることもできる。例えば、既に周知の三酸化二ヒ素を有効成分として含む任意の製剤及びαリポ酸の含む任意の製剤又は健康補助食品を組み合わせたキットとすることもできる。本キットにおいて、三酸化二ヒ素(As2O3)とαリポ酸の比率を、1:23〜1:230の範囲とすることが望ましい。
【0018】
具体的には、三酸化二ヒ素を有効成分として含む製剤としては、経口投与、注射投与及び吸入投与のための製剤が挙げられる。同様に、αリポ酸についても、経口投与、注射投与及び吸入投与のための製剤が挙げられる。これらの製剤化のための助剤としては薬学的に許容される任意の助剤が使用できるが、例えば、上記4-4.配合剤で挙げた助剤を用いることができる。
【実施例】
【0019】
[実施例1] 三酸化二ヒ素により正常腎細胞において発現が変化する遺伝子の特定
PRCC及びHEK293細胞をAs2O3で処理後に両細胞で遺伝子発現が変化する遺伝子が選択さ
れた。
日本人のPRCCは、Oshima Y, Kurokawa S, Tokue A, et al. Primary cell preparation
of human renal tubular cells for transcriptome analysis. Toxicol Mech Methods. 2004;14:309-316.に記載の方法で調製され、20% fetal bovine serum, 2 mM L-glutamine, 100 mU/mL penicillin,及び100 mg/mL streptomycinを添加したWilliam’s medium E培地で培養された。HEK293細胞はRIKEN BioResource Center, Tsukuba, Japanより入手し、10% fetal bovine serum, 100 mU/mL penicillin,及び100mg/mLstreptomycin を添加したRPMI-1640培地で培養した。培養は、37℃、5%COで行なわれた。
【0020】
サブコンフルエントになったPRCC又はHEK293細胞は0.1μMのAs2O3を含む上記培地でそ
れぞれ10分間、1時間、6時間、又は24時間、処理された。
【0021】
両細胞から、RNeasy mini kit (Qiagen,Valencia, CA, USA)を用いて、製造元の取扱説明書に従い全RNAを抽出した。20μgの精製RNAから2重鎖DNAを合成し、the Test3,HG-U133A,及びHG-U133B DNAマイクロアレーチップ(GeneChip System; Affymetrix, Santa Clara, CA, USA)でのハイブリダイゼーション用ビオチンラベルcRNAを調製に用いた。
【0022】
Genechip systemを用いて製造元の取扱説明書に従い、それぞれの細胞から調製されたcRNAをマイクロアレーチップでハイブリダイゼーションし、洗浄し、シグナルを調べた。
なお、出発RNAの完全性、並びに第1鎖cDNA合成及びin vitro cRNA合成の効率の指標として、βアクチンやグリセルアルデヒド-3-フォスフェート デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の
ようなハウスキーピング遺伝子の5’末に対する3’の比率を測定した。各プローブセットについて得られたシグナルはプローブの配列及びハイブリダイゼーションの特性を反映している。5’に対する3’の比が3より大きい値を示す実験からのデータは、分析から除外された。
【0023】
[結果]
発現パターンの類似性から、73遺伝子が5つのクラスターにグループ分けされた。一つ
のクラスターの24の遺伝子は時間依存的に発現の増大を示した。24遺伝子中17遺伝子の機能は十分特定されている(表1)。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に記載の遺伝子の内、三酸化二ヒ素(As2O3)がHMOX1を誘導することを以下に検討する。
【0026】
[実施例2] PRCC及びHEK293細胞において、三酸化二ヒ素(As2O3)がHMOX1を誘導することの確認
(1)実施例1と同様に、PRCC及びHEK293は培養された。PRCC又はHEK293細胞のHMOX1発
現に対するAs2O3を含む上記培地への暴露時間に対する影響を調べるために、PRCCは0.1μMのAs2O3 を含む上記培地で、HEK293細胞は1μMのAs2O3を含む上記培地でそれぞれ10分間、1時間、6時間、又は24時間、処理された。実施例1と同様にcDNAを調製し、定量PCRにより、内生のGAPDHをコントロールとして、mRNAの比発現量が測定された。
【0027】
また、PRCC又はHEK293細胞のHMOX1発現に対するAs2O3を含む上記培地へのAs2O3濃度に
対する影響を調べるために、0.1μM、0.5μM、又は2μMのAs2O3濃度で、24時間処理され
た。実施例1と同様にcDNAを調製し、定量PCRにより、内生のGAPDHをコントロールとして
、mRNAの比発現量が測定された。
【0028】
[結果]
HMOX1は、As2O3への暴露時間に依存してAs2O3に誘導される遺伝子であると確認された
(図1A)。0.1μM、0.5μM、又は2μMのAs2O3濃度で、HMOX1の比発現は、PRCCでは、それ
ぞれ、2.2倍、11.7倍、及び33.5倍に増加し、HEK293細胞では、1.12倍、8.3倍、及び224.9倍に増加した(図1B)。これは、PRCC及びHEK239両細胞において、HMOX1がAs2O3により、暴露時間及び量依存的に誘導されることが明確に示されている。
【0029】
(2)次に、PRCC及びHEK293細胞は、1μMのAs2O3で24時間処理された。処理された細胞
は、CelLytic MT reagentで溶解され、タンパク質はSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳
動(10-20%Tricine gel Invitrogen, Carlsbad,CA, USA)で分離され、ポリビニリデンジフロライド膜(Invitrogen)に移された。非特異的結合は、5%スキムミルク添加0.1%Tween20含有Tris緩衝塩溶液でブロックされた。その後、上記膜は、3%スキムミルク及び0.1%Tween20を含有するTris緩衝塩溶液で100倍に希釈した抗ヒトへムオキシゲナーゼI-ヤギポリクローナル抗体で、室温でインキュベートされた。アルカリフォスファターゼ結合抗ヤギ免疫グロブリン抗体でインキュベーション後、ウエスタン ブリーズ ケミルミネッセントで可視化された。シグナルは、1D Imaging Analysis software(Eastman Kodak, Rochester, NY, USA)を用いるデンシトメトリーで定量された。
【0030】
[結果]
ウエスタンブロットの結果を図1Cに示す。三酸化二ヒ素(As2O3)に曝されたPRCC及びHEK293細胞からは、へムオキシゲナーゼIが明らかに検出されたが、三酸化二ヒ素処理をしないと、へムオキシゲナーゼIはかすかにしか検出されなかった。したがって、PRCC及びHEK293では三酸化二ヒ素がへムオキシゲナーゼIを誘導している。
【0031】
[実施例3]HMOX1高発現細胞での三酸化二ヒ素(As2O3)の影響
(イ)HMOX1高発現細胞の調製
三酸化二ヒ素(As2O3)で処理したHEK293細胞の全RNAからHMOX-1のcDNAが調製され、5'-TACTCGAGAGCACGAACGAGCCCAGCAA-3'及び5'-ATGGATCCACGGTAAGGAAGCCAGCCAAGAG-3'のプライマーセットで、PCRにより増幅された。上記プライマーにより、XhoIサイトとBamHIサイトがcDNAの5'末端及び3'末端にそれぞれ導入された。PCR産物は、a TOPO TA cloning kit (Invitrogen)を用いてサブクローニングされ、配列が、ABI Prism 7700 sequence detection system (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用いて、確認された。pCI哺乳動物発現ベクターにHMOX1cDNAは挿入するために、PCR増幅産物は、XhoI及びBamHI (Takara Bio)で消化され、ゲルで精製された後、XhoI及びBamHI(Takara Bio)で消化されpCI哺乳動物発現ベクター(Promega, Madison, WI, USA)にT4 DNA リガーゼを用いてライゲーションされた。ライゲートされたプラスミドはリポフェクタミン2000 (Invitrogen)を用いてHEK293細胞にトランスフェクトされ、HMOX1高発現細胞が調製された。
【0032】
(ロ)細胞生存試験
上記HMOX1高発現細胞の細胞生存率が Premix WST-1 cell proliferation assay system
(Takara Bio, Otsu, Japan)を用いて測定した。なお、以下の実験で同様である。
HMOX1高発現細胞(HEK293-HMOX1)及びコントロールのmock transfected HEK239細胞は0.5、1、2又は5μMの三酸化二ヒ素(As2O3)で48時間処理後、生存率が測定された。
【0033】
[結果]
両細胞とも、三酸化二ヒ素(As2O3)濃度の増加に応じて生存率は低下した(図2)。0.5
、1、2及び5μMの三酸化二ヒ素(As2O3)に曝されたHEK239-HMOX1細胞の生存率は、それ
ぞれ、67.8%、53.5%、39.5%、及び16.2%で、mock-transfectd HEK239の生存率は、
それぞれ、49.3%、36.3%、24.5%、及び6.0%に比較して、高かった。これから、HMOX1は三酸化二ヒ素(As2O3)に対して細胞保護効果を与えていると考えられる。
【0034】
[実施例4]三酸化二ヒ素(As2O3)誘導細胞死と活性酸素種
(1)活性酸素種処理
HMOX1は酸化ストレスで誘導されることから、スーパーオキシドアニオン及び過酸化水
素のようなROS(反応性酸素種)がHEK239に障害を与えるか否かを検討した。
スーパーオキシドアニオンは、ヒポキサンチン及びキサンチンオキシダーゼを培地に添加することで生産された。HEK239細胞は、1mMのヒポキサンチン及び0.01から2mU/mLのキサンチンオキシダーゼを含有する培地で24時間処理された。
また、HEK239細胞は、1から200μMの過酸化水素を含有する培地で24時間処理された。
細胞生存率は、実施例3と同様に測定した。
[結果]
1mU/mL又は2mU/mLキサンチンオキシダーゼ及びヒポキサンチンを含有する培地で処理後の細胞生存率は、それぞれ、37.1%及び5.7%であった。同様に、20μM又は40μMの過酸化水素で処理した場合の生存率は、それぞれ、63.5%及び32.3%であった。
【0035】
(2)活性酸素種を発生する酵素の阻害剤が、三酸化二ヒ素(As2O3)、スーパーオキシ
ドアニオン及び過酸化水素に与える影響 (三酸化二ヒ素(As2O3)誘導細胞死の作用機
構の検討)
HEK293細胞は、(i)1mM Tiron、(ii)200mU/mL スーパーオキシド ジスムターゼ(SOD)、又は(iii)400Um/mLカタラーゼの存在下又は非存在下で、(A)2μM三酸化二ヒ素(As2O3)で48時間処理、(B)1mMヒポキサンチンと2mU/mLキサンチンオキシダーゼで24時間、又は(C)30μMH2O2で24時間処理された。
さらに、(D)0.05μM、0.1μM、又は0.2μM DPI存在下又は非存在下で、HEK293細胞は、2μM三酸化二ヒ素(As2O3)、2mU/mLキサンチンオキシダーゼ、又は30μMH2O2で、24時間処理し、生存率を測定した。
なお、Tironは、スーパーオキシドアニオン スカベンジャーであり、DPIは、NAD(P)H
オキシダーゼのインヒビターであり、SODは、スーパーオキシドアニオンから過酸化水素
を生成する酵素であり、カタラーゼは、過酸化水素を酸素と水に変換する酵素である。
【0036】
[結果]
図3Aに示されるように、Tiron及びカタラーゼは、三酸化二ヒ素(As2O3)による細胞死からHEK293を顕著に保護したが、SODは、三酸化二ヒ素(As2O3)の毒性を顕著に増強した。また、図3Bから、Tiron及びカタラーゼが、スーパーオキシド アニオンによる細
胞死からHEK293を顕著に保護したが、SODは、スーパーオキシド アニオンによる毒性を
顕著に増強したことがわかる。更に、図3Cに示されるように、カタラーゼは、過酸化水
素による細胞死からHEK293を顕著に保護したが、Tironは細胞生存率に影響を与えず、SODは、過酸化水素の細胞毒性を顕著に増強した。
【0037】
また、0.05μM、0.1μM、又は0.2μM DPI存在下で、HEK293細胞の生存率は、それぞれ
、81%、79.1%、及び74.1%であった。また図3Dに示されるように、DPIは、過酸化水素によるHEK293への細胞毒性に影響にせず、三酸化二ヒ素(As2O3)による細胞毒性もほとんど阻害していない。しかしながら、DPIは、スパーオキシド アニオンによる細胞毒性を顕著に阻害した。
【0038】
(3)スーパーオキシド アニオンの存在の確認
三酸化二ヒ素(As2O3)に曝されたHEK293細胞においてO2-が生成しているか否かを確認した。HEK293細胞は、0.9%食塩水に懸濁され、10μM三酸化二ヒ素(As2O3)で処理し、
又は処理されなかった。1μM(最終濃度)の2-methyl-6-(p-methoxyphenyl)-3,7-dihydroimidazo[1,2-a]pyrazine-3-one (MCLA)を添加し、the Xenogen In Vivo imaging system (IVIS; Xenogen,Alameda, CA, USA)を用いてO2-を可視化した。3度同じ条件で繰り返した。
[結果]
結果は、図4に示されている。スーパーオキシド アニオンの生成は三酸化二ヒ素(As2O3)により加速されていることから、三酸化二ヒ素(As2O3)はスーパーオキシド アニオンの生産を増強することが分かる。
【0039】
[実施例5]αリポ酸の作用
(1)腎臓由来細胞に対する三酸化二ヒ素(As2O3)の毒性のαリポ酸による低減
PRCCまたはHEK293を、10μMのαリポ酸の存在下又は不存在下で、0.1から20μMの三酸
化二ヒ素(As2O3)で48時間処理した後、実施例3と同様に細胞生存率をPremix WST-1 cell proliferation assay system (Takara Bio, Otsu, Japan)を用いて測定した。
[結果]
PRCCでは、αリポ酸の添加により、1,2,5,10、又は20μMの三酸化二ヒ素(As2O3)で処理されたPRCCの生存率が回復することが分かった(図5A)。
同様に、HEK293では、αリポ酸の添加により、0.5、1、2、又は5μMの三酸化二ヒ素(As2O3)で処理されたPRCCの生存率が回復することが分かった(図5A)。
これにより、αリポ酸は、三酸化二ヒ素(As2O3)による細胞への障害に対する細胞保
護活性があることが分かる。
【0040】
(2)三酸化二ヒ素(As2O3)処理HEK293細胞でのαリポ酸の抗酸化活性
HEK293細胞が、0.9%食塩水に懸濁後、αリポ酸の存在下または非存在下で、三酸化二
ヒ素(As2O3)で処理し、又は処理されなかった。1μM(最終濃度)の2-methyl-6-(p-methoxyphenyl)-3,7-dihydroimidazo[1,2-a]pyrazine-3-one (MCLA)を添加し、the Xenogen In Vivo imaging system (IVIS; Xenogen,Alameda, CA, USA)を用いてO2-を可視化した(図5B)。
[結果]
図5Bに示されるように、三酸化二ヒ素(As2O3)により誘導されるスーパーオキシドアニオンの生成は、αリポ酸により抑制されている。
【0041】
(3)さらに、同様に、細胞は、0.9%食塩水に懸濁後、リポ酸の存在下または非存在下
で、(A)2μM三酸化二ヒ素(As2O3)で48時間処理、(B)1mMヒポキサンチンと2mU/m
Lキサンチンオキシダーゼで24時間、又は(C)30μMH2O2で24時間処理された。その後、実施例3と同様に細胞生存率をPremix WST-1 cell proliferation assay system (Takara Bio, Otsu, Japan)を用いて測定した。
[結果]
図5Cに示されるように、αリポ酸は、三酸化二ヒ素(As2O3)による細胞死から、顕
著にHEK293細胞を保護したが、スーパーオキシドアニオンによる細胞死からは、あまりHEKL293細胞を保護することはなく、過酸化水素により誘導される細胞死については影響しなかった。
【0042】
[実施例6]急性前骨髄球性白血病(APL)細胞株又は多発性骨髄腫(MM)細胞株の三酸化
二ヒ素(As2O3)処理に対するαリポ酸の添加の影響
急性前骨髄球性白血病細胞株(human acute promyelocytic leukemia cell line)としては、 NB4 and HL-60 cells (American Type Culture Collection,Manassas, VA, USA)
が用いられた。多発性骨髄腫細胞株( human multiple myeloma cell line)としては、 U266cells (IgE, l-light chain-producing; American Type Culture Collection)及び KMS12BM (immunoglobulin nonproducing, T. Otsuki教授, Kawasaki Medical School, Japanより供与)をもちいた。上記の細胞株は、いずれも、10% fetal bovine serum, 100 mU/mL penicillinを含有するRPMI-1640 で培養された。
HL-60、NB4、U266及びKMS12BM細胞は、いずれも、10μM αリポ酸の存在下又は非存在
下で、0.01から50μM までの三酸化二ヒ素(As2O3)で処理され、細胞の生存率は、Premi
x WST-1 cell proliferation assay system (Takara Bio, Otsu, Japan)を用いて測定し
た。
[結果]
HL-60細胞及びNB4細胞の両者とも、αリポ酸が含まれる有る場合と含まれない場合で、三酸化二ヒ素(As2O3)の濃度と生存率のカーブは、類似している(図6A及びB)。KMS12BM細胞及びU266細胞の両者でも、αリポ酸の有無で生存率の差はほとんど見られない。
したがって、αリポ酸は、三酸化二ヒ素(As2O3)の急性前骨髄球性白血病(APL)及び多発性骨髄腫(MM)に対する細胞毒性にはあまり影響しないことがわかる。
【0043】
[実施例7]RATへのアルファリポ酸・ヒ素用量〜 一般臨床用量と実験系の比較
Ratを6群で各群4匹に対して、As2O3を5mg/kg ip 5day/week,8weekで、アルファリポ酸低用量 (3.5mg/kg 5day/week x 8week)を投与せずに、又は投与して70日間飼育し、
生存率を測定した。
同様に、As2O3を5mg/kg ip 5day/week, 8weekで、アルファリポ酸高用量 (35mg/kg
5day/week x 8week)を投与せずに、又は投与して70日間飼育し、生存率を測定した。
[結果]
図8に示す。RATの生死のデータを生存曲線をKaplan & Meier法で表示した。共に死亡
が見られるのはAs2O3 5mg/kgの群である。As2O3 5mg/kg 5day/week x 8weeks +アルフ
ァリポ酸低用量 (3.5mg/kg 5day/week x 8week)及びαリポ酸高用量(35mg/kg 5day/week x 8week)では、70日経過後も死亡しなかった。
αリポ酸は、三酸化二ヒ素(As2O3)による不整脈を抑制していると考えられる。
【0044】
[比較例1]HEK293細胞に対する三酸化二ヒ素(As2O3)の殺細胞活性の測定αリポ酸以外
の抗酸化剤の作用
αリポ酸以外の抗酸化剤の存在下における三酸化二ヒ素(As2O3)のHEK293細胞に対す
る殺細胞活性を、0.5X105/mlの細胞を96穴プレートに撒いて、以下の条件で調べた。最終濃度がαトコフェロールは20μM、アスコルビン酸は200μM、デヒドロアスコルビン酸は
、200μMとし、0.01から20μMの三酸化二ヒ素(As2O3)で48時間処理した後、実施例3と
同様にPremix WST-1 cell proliferation assay system (Takara Bio, Otsu, Japan)を用いて各ウエルの吸光度を測定した。
[結果]
結果を図9に示す。図9より、デヒドロアスコルビン酸及びαトコフェロールは、三酸
化二ヒ素(As2O3)の毒性には影響を与えていない。また、アスコルビン酸は、三酸化二
ヒ素(As2O3)と併用するとばらつき芽多く佳枝って毒性が強まる場合もあった。いずれ
にせよ、他の抗酸化剤には、三酸化二ヒ素(As2O3)の毒性から細胞を保護する活性は見
られなかった。黒丸がアスコルビン酸、四角がデヒドロアスコルビン酸、三角がコントロール、そして白丸がトコフェロールを、それぞれ、添加した場合を示す。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明は、抗腫瘍剤として、及び抗腫瘍剤製造の産業で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】AにPRCC又はHEK293細胞でのHMOX1遺伝子発現に対するAs2O3を含む上記培地への暴露時間に対する影響を示す。BにPRCC又はHEK293細胞のHMOX1発現に対するAs2O3 を含む上記培地へのAs2O3濃度に対する影響を示す。Cに三酸化二ヒ素(As2O3)に曝されたPRCC及びHEK293細胞からのへムオキシゲナーゼIのウエスタンブロットによる検出を示す。
【図2】HMOX1高発現細胞での三酸化二ヒ素(As2O3)の影響を示す。黒丸が、HMOX1高発現細胞を、白丸がコントロールのベクターのみの場合を示す。
【図3】活性酸素種を発生する酵素の阻害剤が、三酸化二ヒ素(As2O3)、スーパーオキシドアニオン及び過酸化水素に与える影響を示す。HEK293細胞が、(i)1mM Tiron、(ii)200mU/mL スーパーオキシド ジスムターゼ(SOD)、又は(iii)400Um/mLカタラーゼのそれぞれの存在下又は非存在下で、2μM三酸化二ヒ素(As2O3)を添加し若しくは添加せずに48時間処理後の細胞生存率をAに示す。同様に、HEK293細胞が(i)1mM Tiron、(ii)200mU/mL スーパーオキシド ジスムターゼ(SOD)、又は(iii)400Um/mLカタラーゼのそれぞれの存在下又は非存在下で、1mMヒポキサンチンと2mU/mLキサンチンオキシダーゼを添加し若しくは添加せずに24時間処理後の細胞生存率をBに示す。更に、同様に、(i)1mM Tiron、(ii)200mU/mL スーパーオキシド ジスムターゼ(SOD)、又は(iii)400Um/mLカタラーゼのそれぞれの存在下又は非存在下で、30μM H2O2での添加若しくは添加することなく24時間処理後の生存率をCに示す。また、0.05μM、0.1μM、0.2μM DPI存在下又は非存在下で、HEK293細胞を、2μM三酸化二ヒ素(As2O3)、2mU/mLキサンチンオキシダーゼ、又は30μMH2O2で、24時間処理し、生存率を測定した結果をDに示す。なお、それぞれ、左から、白棒がDPI不存在の場合、次の灰色の棒が0.05μMのDPI存在下の場合、横線のある棒が0.1μMのDPI存在下、そして一番右の黒棒が0.2μMのDPIの場合を示す。
【図4】三酸化二ヒ素(As2O3)に曝されたHEK293細胞においてO2-が生成しているか否かを2-methyl-6-(p-methoxyphenyl)-3,7-dihydroimidazo[1,2-a]pyrazine-3-one (MCLA)を添加し、the Xenogen In Vivo imaging system (IVIS; Xenogen,Alameda, CA, USA)を用いてO2-を可視化して確認した。三酸化二ヒ素(As2O3)はスーパーオキシドアニオンの生産を増強することが分かる。
【図5】Aには、PRCCまたはHEK293を、10μMのαリポ酸の存在下又は不存在下で、0.1から20μMの三酸化二ヒ素(As2O3)で48時間処理後の細胞生存率を示す。黒丸がαリポ酸の存在下、白丸がαリポ酸不存在下の場合を示す。Bには、α―リポ酸の添加により、三酸化二ヒ素(As2O3)により誘導されるスーパーオキシドアニオンの生成が影響されるかを、(MCLA)を添加し、the Xenogen In Vivo imaging system (IVIS;Xenogen,Alameda, CA, USA)を用いてO2-を可視化した結果を示す。Cには、細胞を0.9%食塩水に懸濁後、リポ酸の存在下または非存在下で、(A)2μM三酸化二ヒ素(As2O3)で48時間処理、(B)1mMヒポキサンチンと2mU/mLキサンチンオキシダーゼで24時間、又は(C)30μMH2O2で24時間処理した後、実施例3と同様に細胞生存率を測定した結果を示す。それぞれ左側の白棒がαリポ酸が不存在の場合、右側の灰色の棒がαリポ酸が存在する場合を示す。
【図6】急性前骨髄球性白血病(APL)細胞株又は多発性骨髄腫(MM)細胞株の三酸化二ヒ素(As2O3)処理に対するαリポ酸の添加の影響を示す。白丸が、αリポ酸が不存在の場合、黒丸がαリポ酸が存在する場合をあらわす。
【図7】αリポ酸による三酸化二ヒ素(As2O3)の細胞毒性抑制機構の概念図を示す。
【図8】RATへのアルファリポ酸及び三酸化二ヒ素(As2O3)を投与した場合の、生存率を示す。
【図9】αリポ酸以外の抗酸化剤の存在下における三酸化二ヒ素(As2O3)のHEK293細胞に対する殺細胞活性を吸光度で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三酸化二ヒ素(As2O3)及びαリポ酸を組み合わせてなる腎臓への副作用が低減した抗
腫瘍剤。
【請求項2】
三酸化二ヒ素(As2O3)とαリポ酸の比率を、1:23〜1:230の範囲となるように組み合わせてなる請求項1記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
抗腫瘍剤が配合剤である請求項1又は2記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
三酸化二ヒ素(As2O3)を有効成分とする薬剤とαリポ酸を有効成分とする薬剤とを組
み合わせてなる抗腫瘍剤キット。
【請求項5】
三酸化二ヒ素(As2O3)とαリポ酸の比率を、1:23〜1:230の範囲となるように組み合わせてなる請求項4記載の抗腫瘍剤キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−201765(P2008−201765A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47053(P2007−47053)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載者:Elsevier B.V. 掲載物:Experimental Hematology 掲載アドレス:http://www.sciencedirect.com/ 電気通信回線発表日:2007年1月24日
【出願人】(505246789)学校法人自治医科大学 (49)
【Fターム(参考)】