腰痛治療用軟性機能装具
【課題】腰部圧迫度と腹部圧迫度を別々に調整し、腹部圧迫による障害発生を避けつつ腰部に必要な圧迫・伸展力を及ぼすことにより、腰椎弯曲を調整しつつ腰椎椎間腔を拡大させることで腰痛を軽減することができる腰痛治療用軟性機能装具を提供する。
【解決手段】柔軟かつ低伸縮な素材で形成され、身体の体幹Aに、腰部B周りを覆うように巻き付けられる装着布2と、装着布の内側に、体幹前面の左右両側部の胸郭Cから骨盤Dに亘って、それぞれ取り付けられ、装着布を介して胸郭から骨盤間を支持する一対の前方部膨縮体と、装着布の内側に、体幹後面の腰椎Eの下部から上部に亘って並列に取り付けられて、装着布内の前方部膨縮体と協働して腰椎周辺を押圧する複数の後方部膨縮体とを備え、装着布内の前方部膨縮体および後方部膨縮体により、胸郭から骨盤の間を固定して、腰椎弯曲を調整しつつ胸郭を押し上げて腰椎椎間腔を拡大させる。
【解決手段】柔軟かつ低伸縮な素材で形成され、身体の体幹Aに、腰部B周りを覆うように巻き付けられる装着布2と、装着布の内側に、体幹前面の左右両側部の胸郭Cから骨盤Dに亘って、それぞれ取り付けられ、装着布を介して胸郭から骨盤間を支持する一対の前方部膨縮体と、装着布の内側に、体幹後面の腰椎Eの下部から上部に亘って並列に取り付けられて、装着布内の前方部膨縮体と協働して腰椎周辺を押圧する複数の後方部膨縮体とを備え、装着布内の前方部膨縮体および後方部膨縮体により、胸郭から骨盤の間を固定して、腰椎弯曲を調整しつつ胸郭を押し上げて腰椎椎間腔を拡大させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰椎弯曲を調整しつつ、腰椎椎間腔を拡大することで腰痛を軽減することができる腰痛治療用軟性機能装具に関する。
【背景技術】
【0002】
椎間板ヘルニア罹患者の腰椎を離隔させ、腰痛を緩和する空気式腰椎装具として、例えば特許文献1の空気注入式腰部圧迫腹帯が知られている。
【0003】
特許文献1の空気注入式腰部圧迫腹帯は、各々一方の側に小径部、他方の側に大径部を備えた連結部を有する複数のT型連結管を順次小径部を大径部に差し込み、重ねた部分を連結バンドで連結固定して一定の長さになる空気注入管を形成し、上記空気注入管を構成している各T型連結管の分岐管に一端が閉じられた空気膨張管の他端を挿入連結し、このように挿入連結された空気膨張管の前記他端には膨張補助管を重ねた状態で連結バンドで結合することを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2911437号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記空気注入式腰部圧迫腹帯は、上記構成の空気注入管と空気膨張管とを圧迫腹帯に固定させた上で、装着者の腰部に装着される。具体的には、空気注入管は、圧迫腹帯の上側縁に略並行に、かつ上側縁よりやや下に位置させて、身体の後面から肋骨を覆う程度の長さまでに配設されており、また、空気注入管より分岐された空気が流入される空気膨張管は、空気注入管に略直角に配置され、空気注入管に略等間隔でまんべんなく、身体の後面側から肋骨を覆う程度にまで配設されている。使用の際には、装着者は、腰部を適当に圧迫するように圧迫腹帯を固定した後、空気注入管に空気を注入すると、空気膨張管が上下方向に膨張し、腰椎を圧迫しつつ腰椎を構成している椎骨を離隔して、腰椎椎間腔を拡大させる。これにより、椎間板ヘルニアによる腰痛の緩和を実現している。
【0006】
椎間板ヘルニアとは、椎骨の間にある椎間板の線維輪にできた裂け目から、中身の髄核が上・下椎骨の圧迫により飛び出してしまうことで、飛び出した髄核が、椎骨の周辺の神経に触れることで起こるものである。このため、上記のように、腰椎椎間腔を拡大させれば、飛び出した髄核が元の椎間腔に戻りやすくなり、その症状の緩和に有効なものとなる。
【0007】
しかしながら、上記空気注入式腰部圧迫腹帯では、腰部から腹部にかけて空気注入管が連結しているため、空気注入により腹部も腰部と同じ程度に圧迫される。このため、腰部を強く圧迫した場合、腹部には内臓圧迫障害が生じる程度の強い圧迫となってしまうことがあった。
【0008】
また、一般的な腰痛の原因には、上述した椎間板ヘルニアの他に、同じく神経圧迫による腰部脊柱管狭窄症や、関節変形による変形性腰椎症などがある。そして、これら腰痛治療のためには、脊柱管を広くし、関節を痛みなく動かせる状態にする必要がある。
【0009】
脊柱管を広くするには、腰椎椎間腔の拡大のみではなく、これと同時に、腰椎弯曲を調整することが大切である。また、関節を痛みなく動かせる状態にするためには、腰椎弯曲調整により、運動時に椎間関節に無理がかからないようにすることが大切である。
【0010】
このような観点からすると、椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、変形性腰椎症に代表される腰痛の治療においては、腰椎椎間腔を拡大することのみではなく、腰椎弯曲を調整することで、腰痛の効果的かつ根本的な治療が可能となると考えられる。しかしながら、上記空気注入式腰部圧迫腹帯にあっては、その構造から、腰椎弯曲調整機能は十分でなく、腰椎椎間腔の拡大と腰椎弯曲調整とを併用した腰痛治療を行うことは難しかった。
【0011】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、腰部圧迫度と腹部圧迫度を別々に調整し、腹部圧迫による障害発生を避けつつ腰部に必要な圧迫・伸展力を及ぼすことにより、腰椎弯曲を調整しつつ、腰椎椎間腔を拡大することで腰痛を軽減することができる腰痛治療用軟性機能装具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる腰痛治療用軟性機能装具は、柔軟かつ低伸縮な素材で形成され、身体の体幹に、腰部周りを覆うように巻き付けられる装着布と、該装着布の内側に、体幹前面の左右両側部の胸郭から骨盤に亘って、それぞれ取り付けられ、上記装着布を介して胸郭から骨盤間を支持する一対の前方部膨縮体と、該装着布の内側に、体幹後面の腰椎の下部から上部に亘って並列に取り付けられて、該装着布内の該前方部膨縮体と協働して腰椎周辺を押圧する複数の後方部膨縮体とを備え、上記装着布内の前方部膨縮体および後方部膨縮体により、胸郭から骨盤の間を固定して、腰椎弯曲を調整しつつ胸郭を押し上げて腰椎椎間腔を拡大させることを特徴とする。
【0013】
前記装着布の内側には、体幹後面の脊柱上に位置して、腰椎弯曲の調整を補助する補助用膨縮体が取り付けられることを特徴とする。
【0014】
前記装着布の内側には、腹部に位置して、腹圧を調整する腹圧調整用膨縮体が取り付けられることを特徴とする。
【0015】
前記前方部膨縮体、前記後方部膨縮体、前記補助用膨縮体および前記腹圧調整用膨縮体は、内部に空気が注入される空気袋状に形成されることを特徴とする。
【0016】
前記装着布の内側には、体幹の左右両側部に、一端を骨盤周辺に位置させるとともに、他端を胸郭の前面若しくは胸郭の後面に位置させるように折り曲げた状態で、腰椎弯曲調整用空気袋が取り付けられ、該腰椎弯曲調整用空気袋は、その内部に空気を注入することで折り曲げた状態から元の形に復元されることにより、胸郭を押し上げて腰椎弯曲の調整を補助することを特徴する。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる腰痛治療用軟性機能装具にあっては、腰部圧迫度と腹部圧迫度を別々に調整し、腹部圧迫による障害発生を避けつつ腰部に必要な圧迫・伸展力を及ぼすことにより、腰椎弯曲を調整しつつ腰椎椎間腔を拡大させることで腰痛を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかる腰痛治療用軟性機能装具の好適な一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1の腰痛治療用軟性機能装具の装着布を広げた状態を示す外面図である。
【図3】図1の腰痛治療用軟性機能装具の装着布を広げた状態を示す内面図である。
【図4】図1の腰痛治療用軟性機能装具の前方部空気袋および腰椎弯曲調整用空気袋の形態を示す斜視図である。
【図5】図1の腰痛治療用軟性機能装具の後方部空気袋および腹圧調整用空気袋の形態を示す斜視図である。
【図6】図1の腰痛治療用軟性機能装具の補助用空気袋を示す斜視図である。
【図7】図1の腰痛治療用軟性機能装具を装着した状態を示す正面図および背面図である。
【図8】図1の腰痛治療用軟性機能装具を装着した状態を示す側面図である。
【図9】腰痛治療用軟性機能装具を装着したことにより、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症の狭窄した椎間腔と脊柱管が拡大する様子を示した状態図である。
【図10】腰痛治療用軟性機能装具を装着したことにより、変形性腰椎症の椎間関節腔が拡大する様子を示した状態図である。
【図11】図1の腰椎弯曲調整用空気袋の作用を示した状態図である。
【図12】図1の装着布に代えて背当て部のないタイプの装着布を用いた場合の腰痛治療用軟性機能装具を装着した状態を示す正面図および背面図である。
【図13】図1の装着布に代えて着衣型の装着布を用いた場合の腰痛治療用軟性機能装具を装着した状態を示す正面図および背面図である。
【図14】腰椎弯曲の各状態における空気袋の占める割合を示した概念図である。
【図15】本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具の第1変形例を示す斜視図である。
【図16】本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具の第2変形例を示す斜視図である。
【図17】本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具の第3変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明にかかる腰痛治療用軟性機能装具の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
本実施形態に関わる諸項目のうち、腰痛治療用軟性機能装具の全体構造を図1、2、3に、部分構造を図4、5、6に示す。体幹区分と体幹における各膨縮体の位置を図7(a)、図7(b)、および図8に示す。
【0021】
本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具1は、腰痛治療機能を有する軟性装具であり、基本的には、柔軟かつ低伸縮な素材で形成され、身体の体幹Aに、腰部B周りを覆うように巻き付けられる装着布2と、装着布2の内側に、体幹A前面の左右両側部の胸郭Cから骨盤Dに亘って、それぞれ取り付けられ、装着布2を介して胸郭Cから骨盤D間を縦方向(体幹Aに沿う方向をいう。以下同様)に支持する一対の前方部膨縮体と、装着布2の内側に、体幹A後面の腰椎Eの下部から上部に亘って、横方向(体幹Aに略直角の方向をいう。以下同様)に並列に取り付けられて、装着布2内の前方部膨縮体と協働して腰椎周辺を押圧する複数の後方部膨縮体とを備え、装着布2内の前方部膨縮体および後方部膨縮体により、胸郭Cから骨盤Dの間を固定して、腰椎弯曲を調整しつつ胸郭Cを押し上げて腰椎椎間腔を拡大させる。また、装着布2の内側には、体幹A後面の脊柱F上に位置して、腰椎弯曲の調整を補助する補助用膨縮体と、腹部Gに位置して、腹圧を調整する腹圧調整用膨縮体とがそれぞれ取り付けられる。
【0022】
上記各膨縮体は空気袋状に形成される(以下、後方部空気袋5a、前方部空気袋6a、補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6cと呼ぶ)。
【0023】
装着布2は、折り曲げ自在な柔軟かつ低伸縮性の生地で形成される。ここで、低伸縮性の生地とは、伸縮性が全くない生地から、例えば、合成繊維やコットンなど伸縮の少ない織りに仕上げたものなど、伸縮性が少ない生地までを総称したものである。
【0024】
装着布2の巾は、腰部B周り(腰椎Eの下部から上部にかけて)を覆う程度に形成される。装着布2の長さは、腹部G及び腰部Bを覆うように体幹A全体に巻き付けられて、その両端部2a、2bが互いに重ね合わされる程度に形成される。重ね合わされた装着布2の両端部2a、2bには、装着布2を体幹Aに巻き付けた状態で固定する固定部3a、3bが取り付けられる。図示例にあっては、固定部3a、3bは、装着布2の一端部2aの内面に形成された第1固定部3aと、装着布2の他端部2bの内面に形成された第2固定部3bとから構成され、これらは面ファスナーの雄面または雌面により形成される。
【0025】
体幹Aに巻き付けられた装着布2の第1固定部3aと第2固定部3bとを互いに密着させることによって、装着布2は、体幹A周りに着脱自在に固定される。装着布2には、脊柱Fに沿って装着布2の上方を延出させた背当て部4が形成される。
【0026】
装着布2の内側には、両端部2a、2bを残してほぼ全面に、後方部空気袋5a、前方部空気袋6a、補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6c、および、後述する腰椎弯曲調整用空気袋6dを取り付けるための取付面10が形成される。図示例にあっては、取付面10は、一枚布の面ファスナーの雄面または雌面が、縫製や接着剤などによって装着布2の内側に接着されて形成される。
【0027】
図4は、後方部空気袋5a(腹圧調整用空気袋6cも同形状である)の斜視図、図5は、前方部空気袋6a(腰椎弯曲調整用空気袋6dも同形状である)の斜視図、図6は、補助用空気袋6bの斜視図である。後方部空気袋5aは、中に空気が注入される中空の袋体であって、その外側には空気を注入するためのチューブ状の注入口7が配設される。注入口7の先端部には、注入した空気を封止する封止栓8が設けられる。後方部空気袋5aは、注入された空気を密閉するべく気密素材で袋状に形成される。後方部空気袋5aは、例えばナイロン生地の内側にウレタン樹脂を塗布して気密加工処理を施したもの、あるいは、さらにその外側にプラスチック材のような硬質な生地素材を重ね合わせたものなどで形成される。
【0028】
また、前方部空気袋6a、補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6c、腰椎弯曲調整用空気袋6dも、後方部空気袋5aと同様の材質で、中に空気が注入される中空の袋状に形成される。これら前方部空気袋6a、補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6c、腰椎弯曲調整用空気袋6dの外側にも後方部空気袋5aと同様のチューブ状の注入口7が配設され、注入口7の先端部には、封止栓8が設けられる。
【0029】
このように形成された後方部空気袋5a、前方部空気袋6a、補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6c、腰椎弯曲調整用空気袋6d(以下これらを空気袋等という)は、空気の注入量によって自身の強度が変化するものである。しかしながら、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dの材質はこれに限られず、どのような材質であってもよい。また、空気袋の強度を補強するため、どのような材質の補助材を併用してもよい。
【0030】
空気袋等5a、6a、6b、6c、6dの外面には、その長軸方向に沿って、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dを取付面10に取り付けるための取付部9が形成される。取付部9は、取付面10の面ファスナーの雄面または雌面に噛み合う、雌面または雄面が接着されて形成される。取付部9と取付面10を密着させることで、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dが装着布2に着脱自在に取り付けられる。
【0031】
図7(a)は、腰痛治療用軟性機能装具1を体幹Aに巻き付けた状態を表す正面図である。図7(b)は、その背面図である。図8は、腰痛治療用軟性機能装具1を体幹Aに巻き付けた状態を表す側面図である。
【0032】
装着布2の内側には、体幹A前面に一対の前方部空気袋6aが取り付けられる。これら前方部空気袋6aは、縦長の棒状体に形成され、その長軸方向が体幹Aの胸郭C位置から骨盤D位置にまで亘って配設される。前方部空気袋6aを取り付けた状態で、装着布2を体幹Aに巻き付ければ、体幹A前面の腹部G周辺と装着布2との間には隙間が形成される。
【0033】
装着布2の内側には、体幹A後面の腰椎Eの下部から上部に亘って、装着布2内の前方部空気袋6aと協働して腰椎E周辺を押圧する、棒状体の後方部空気袋5aが、横方向に3本並列して取り付けられる。これら後方部空気袋5aは、隣接する後方部空気袋5aとの間に隙間をあけずに配置されている。3本のうち最上位置の後方部空気袋5aは、胸郭下部の肋骨に接するように取り付けられる。後方部空気袋5aは、膨張することにより、腰部Bに当接している面が腰椎E周辺を押圧しつつ、隣接する後方部空気袋5aを互いに押圧しあうことで上方押し上げ力を発揮し、前方部空気袋6aと協働して胸郭を押し上げ、腰椎椎間腔Hを拡張させる。なお、腰椎Eが弯曲している装着者の場合などにあっては、後方部空気袋5aは、横方向に並列に取り付けられるものではなく、腰椎Eの傾きにあわせて斜め方向に取り付けられてもよいものである。
【0034】
装着布2の背当て部4の内側には、補助用空気袋6bが取り付けられる。図示例にあっては、補助用空気袋6bは体幹A後面の脊柱Fに当接するように取り付けられている。補助用空気袋6bは、装着者の腰椎Eの弯曲度にあわせて、補助的に取り付けられる。
【0035】
装着布2の内側には、体幹A前面の腹部Gに位置して、腹圧調整用空気袋6cが取り付けられる。上述したように、前方部空気袋6aによって、装着布2と腹部G周囲の間には隙間が形成されるため、腹部Gには圧力がかからない。しかしながら、症状によっては腹圧をかけながら治療をした方がよい場合もある。腹圧調整用空気袋6cは、ある程度腹圧をかけ、腰部Bおよび腹部G周りを圧迫させた方がよい装着者のために、補助的に取り付けられるものである。図示例にあっては、腹圧調整用空気袋6cは、上腹部G1に位置させて横方向に取り付けられている。しかしながら、腹圧調整用空気袋6cは、装着者の状態にあわせて、横方向のみならず縦方向や斜め方向に取り付けられる場合もある。また、上腹部G1のみでなく、腹部の適宜な位置に取り付けられるものであり、その形態や本数においても適宜変更できるものである。
【0036】
また、装着布2の内側には、腰椎弯曲を調整する腰椎弯曲調整用空気袋6dが取り付けられる。図示例にあっては、腰椎弯曲調整用空気袋6dは、縦長の棒状体に形成されており、その一端を骨盤Dの側部に位置させ、他端を胸郭Cの前面側若しくは後面側に位置させるように折り曲げられた状態で取り付けられる。腰椎弯曲調整用空気袋6dは、空気を注入することにより、折り曲げられた状態から元の形に復元する。そして、その復元力で胸郭Cを後上方若しくは前上方としての斜め上方に押し上げて、腰椎弯曲を調節するものである。
【0037】
次に本発明にかかる腰痛治療用軟性機能装具1の作用機序について説明する。腰痛治療用軟性機能装具1は、椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、変形性腰椎症に代表される腰痛の治療に用いられる。装着するに際しては、装着布2の取付面10であって、体幹A後面の腰椎E周辺位置に、空気を注入してない状態の3本の後方部空気袋5aを隙間なく取り付ける。また、前方部空気袋6a、補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6c、腰椎弯曲調整用空気袋6dについても、空気を注入していない状態で、装着布2の取付面10の所定取付位置に取り付ける。そして、体幹Aに装着布2を巻き付け固定部3a、3bで固定する。この後、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dに空気を注入する。
【0038】
すると、図8に示すように、装着布2内で後方部空気袋5a、前方部空気袋6aが膨張することにより、胸郭Cから骨盤Dの間は前方部空気袋6aで固定され、体幹A前面が支持される。そして、膨張した後方部空気袋5aは、腰椎E周辺を押圧しながら隣接する後方部空気袋5aどおしが互いを押し合うことで、上方への押し上げ力が発生し胸郭Cを押し上げる。このように、前方部空気袋6aと後方部空気袋5aが別部品であることから、それぞれに空気圧の調節ができ、腰部圧迫度と腹部圧迫度とを別々に調整することが可能となる。
【0039】
これにより、例えば図9(a)に示すように、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの場合、椎間板の線維輪にできた裂け目から飛び出し、椎骨の周辺の神経に触れてしまっていた髄核は、図9(b)に示すように、腰椎椎間腔Hが拡大しながら腰椎Eが前屈することで元の腰椎椎間腔Hに戻り、腰痛の症状が緩和されることとなる。
【0040】
また、例えば図10(a)に示すように、変形性腰椎症の場合に腰を前屈させる現象は、椎間関節が凸凹な状態であり、腰を動かすと痛みが発生するために、腰椎Eを自然に前屈させて椎間関節腔Iを開く姿勢をとってしまうことで起こるものである。このような場合にあっても、当該腰痛治療用軟性機能装具1は、上述のように、前方部空気袋6aによる体幹A前面側からの支持力と、後方部空気袋5aによる体幹A後面側からの上方押し上げ力により、図10(b)に示すように、胸郭Cを押し上げて腰椎椎間腔Hを拡大し、さらには自然な姿勢のまま椎間関節腔Iをも開くことが可能となり、腰痛の症状を緩和することが可能となる。
【0041】
図11(a)には、腰椎弯曲調整用空気袋6dに空気を注入するときに、腰痛弯曲調整用空気袋6dの上端部が胸郭Cを前上方に押し上げる様子を示した状態を示す。また、図11(b)には、腰椎弯曲調整用空気袋6dに空気を注入するときに、腰椎弯曲調整空気袋6dの上端が部が胸郭Cを後上方に押し上げる様子を示す。このように、腰部Bに十分な圧迫・伸展力を及ぼすことができる。
【0042】
また、身体においては、脊柱Fが胸郭Cと骨盤Dを結ぶ主柱となっていて、上半身の体重は、主に脊柱Fを通じて骨盤Dに伝えられるものであり、腹部内臓柱が、これを補助する補助柱として機能している。装着布2を介して体幹Aに固定された後方部空気袋5aおよび前方部空気袋6aは、腹部内臓柱と同様に補助柱として機能し、腰椎Eをバイパスして骨盤Dに伝わる体重部分を増やす効果をもつ。なお、上記補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6cおよび腰椎弯曲調整用空気袋6dも、同様に補助柱として機能し、腰椎Eをバイパスして骨盤Dに伝わる体重部分を増やす効果をもつ。
【0043】
さらには、上記従来技術のように、腰部Bから腹部Gにかけて全体を圧迫するタイプのものに比べて、体幹A前面側部に前方部空気袋6aが固定されることによって、装着布2と腹部Gの間に隙間ができるため、装着者は腹部G周りを圧迫せずに腰椎E周りの動きを制限することができ、腹部圧迫による障害を生じることなく、腰痛の治療をすることが可能となる。
【0044】
体幹A後面の脊柱F上に取り付けられる補助空気袋6bは、腰椎弯曲性の症状にあわせ補助的に用いられる。例えば、後弯した脊柱Fの頂点部などに取り付けることで、装着布2を介して補助用空気袋6bが頂点部を押圧することにより、腰椎弯曲性の調整に効果的に働くことを可能にするものである。
【0045】
腹部Gに取り付けられた腹圧調整用空気袋6cは、装着者の状態にあわせ腹圧の調整用として用いられる。上述のように、体幹A前側面の前方部空気袋6aによって、腹部Gの側面のみ圧迫され、腹部Gの前面は圧迫されない。しかしながら、腹圧は腹部内臓を硬くし、体重支持の補助柱として作用させる効果を持つため、装着者の症状によっては、腹圧をあげた方がよい場合もある。このような場合に、腹圧調整用空気袋6cは取り付けられるものである。
【0046】
腰椎弯曲調整用空気袋6dもまた、装着者の症状にあわせて用いられる。例えば、腰椎弯曲度が強い場合などに、後方部空気袋5a、前方部空気袋6aと併用して補助的に用いられる。具体的には、一端を体幹A両側部の骨盤D周辺位置に取り付けて、他端を胸郭Cの前面に位置させて取り付けた場合には、空気の注入により、胸郭Cを押し上げつつ体幹Aを前方から後方側へ傾けるような調整を行うことが可能となる。また、一端を体幹A両側部の骨盤D周辺位置に取り付けて、他端を胸郭Cの後面に位置させて取り付けた場合には、空気の注入により、胸郭Cを押し上げつつ体幹Aを後方から前方側へ傾けるような調整を行うことが可能となる。
【0047】
本実施形態にあっては、装着者の症状に応じて必要な腰椎椎間腔拡大度と腰椎弯曲度を決め空気袋等5a、6a、6b、6c、6dの強さを段階的に調整しながら、目的とする腰椎椎間腔拡大度と腰椎弯曲度を得る。空気袋等5a、6a、6b、6c、6dの強さは、注入する空気量を調節することで、その膨張度により変化するものである。腰椎弯曲調整度や、腰椎椎間腔拡大度が軽度でよい場合には、注入する空気量を少なめにして、柔和な状態で使用するのが望ましい。一方、より強固な固定力や矯正力が必要な場合には、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dには大量に空気を注入し、膨張度を最大にして使用するのが望ましい。
【0048】
本実施形態にあっては、装着布2は、腹部G及び腰部Bを覆い、かつ背当て部4のついたタイプを使用していた。しかしながら、装着者の症状により、補助用空気袋6bを使用しなくてもよい場合には、図12に示すように、背当て部4のついていないタイプの装着布2を使用してもよい(図は、後方部空気袋5a及び前方部空気袋6aのみを取り付けたものである。)。
【0049】
また、装着布2は、着衣形状のものを2枚重ねて形成してもよい。具体的には、内着の外側に取付面10を形成し、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dを取付部9を介して取り付ける。そして空気袋等5a、6a、6b、6c、6dを外着によって固定する。そして、外着の安全性を増したり、空気袋の剛性を高める必要がある場合は、さらに外側からベルトなどで固定する。装着布2の形態は、例えば、図13に示すような前あきのベスト型のものや(図は、後方部空気袋5a及び前方部空気袋6aのみを取り付けたものである。)、図示はしないが前閉じのTシャツ型のものでもよい。また、装着布2の生地についても、通気性を確保すべくメッシュ地などで形成してもよい。さらに、サスペンダなどを用いて装着布2を釣り上げてもよい。
【0050】
本実施形態にあっては、後方部空気袋5aの本数は3本配設されていたが、複数本であればこれに限られない。また、例えば後方部空気袋5aは蛇腹状に形成してもよい。このとき、後方部空気袋5aは、全長を蛇腹状に形成してもよいし、適宜な長さ分のみ蛇腹状に形成してもよい。この蛇腹状の後方部空気袋5aを用いた場合には、後方部空気袋5aは、装着布2の内側に、体幹A後面の腰椎Eの下部から上部に亘って、縦方向に並列に取付られることとなる。そして、装着後に後方部空気袋5aに空気を注入させて蛇腹部分が伸張することによって、上方への押し上げ力が発生し胸郭Cを押し上げる。
【0051】
前述したとおり、本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具1は、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dは、脱着自在に取り付けられている。このため、装着者の症状にあわせ空気袋等5a、6a、6b、6c、6dの形態や強度や本数を変更できるものである。図14は、腰椎弯曲の状態にあわせた後方部空気袋5aの占める割合を概念的に図示したものである。ただし、この図は後方部空気袋5aの形態や本数を示すものではない。円背、凹円背、亀背、全後弯などの状態がある場合には、脊柱Fが正常なS字カーブを描いているときに比べて、後方部空気袋5aの占める割合を適宜変化させる必要がある。また、その他の空気袋6a、6b、6c、6dの形態や強度も症状によって、変化させるものである。
【0052】
次に本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具1における、後方部空気袋の第1変形例を図15に示す。本変形例にあっては、3本の後方部空気袋5aに代えて、略「目」の字状に形成された空気ユニット11を用いる。空気ユニット11は、具体的には、横方向に長い3本の空気袋を互いに適宜間隔をあけて並べ、その両端を、縦方向に長い空気袋に連結させて一体的に形成される。本変形例にあっては、後方部空気袋5aに代えて空気ユニット11を用いることで、取付けが簡単で、かつ、隣接する横方向に長い空気袋の間に、間隙Sが形成されているため、通気性をよくすることができる。
【0053】
次に、本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具1における、後方部空気袋の第2変形例を図16に示す。本変形例にあっては、横長の空気袋5aが3本互いに間隔をおいて配置されている。そして、後方部空気袋5aの両端部には、縦長の第2空気袋5bが配設される。これら縦長の第2空気袋5bには、後方部空気袋5aの両端部の位置にあわせて、両端部が挿入される凹部12が形成されている。当該変形例においても、横長の後方部空気袋5aが互いに離隔して配設されているため通気性をよくすることができる。
【0054】
次に、本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具1における後方部空気袋の第3変形例を図17に示す。本変形例にあっては、前方部空気袋6aに代えて、凹部12を有する縦長の第2空気袋5bが配設される。縦長の第2空気袋5bは、前方部空気袋6aと同様に、胸郭Cから骨盤Dにかけて固定されるべく、これにあわせた位置に取り付けられている。他方、3本の後方部空気袋5aは、第2空気袋5bの凹部12にその両端を挿入すべく、腰部B全体を包む程度に長尺に形成されている。この場合、後方部空気袋5aは、柔らかい素材で形成されるか、体幹Aにあわせ側部が弯曲するような工夫が施されているものである。
【0055】
なお、本変形例では、3本の後方部空気袋5aと、縦長の第2空気袋5bは、別体となっていた。しかしながらこれらを一体に形成してもよい。また、この際後方部空気袋5aに相当する部分の本数や配設間隔については、装着者の状態にあわせて適宜変更できるものである。また、体幹A後部にも縦長の第2空気袋5bを装着することも可能である。この場合、例えば体幹A前後に配設された縦長空気袋5bの間に、横長の空気袋を複数本配設してもよい。さらに、これらを一体に形成するとしてもよい。また、装着者の体幹形態によっては、腰部周囲に小型の一体式空気袋を複数取り付けてもよい。
【0056】
上記実施形態にあっては、前方部膨縮体、後方部膨縮体、補助用膨縮体および腹圧調整用膨縮体は空気を注入することで膨張し、排気することで縮小する前方部空気袋6a、後方部空気袋5a、補助用空気袋6bおよび腹圧調整用空気袋6cや、若しくはこれらの代用として、空気ユニット11、第2空気袋5bを使用していた。しかしながら、上記各膨縮体はこれらの空気袋5a、6a、6b、6c、6d、11、5bに限られず、スポンジやゴムなど伸縮可能な素材で形成されていてもよい。特に、装着者の症状が軽度であるなど膨縮体自体の強度を必要としない場合には、これらのものを代用することによって、低コストで製作することが可能となる。
【0057】
本実施形態では、固定部3a、3bは面ファスナーで形成されていた。しかしながら、固定部3a、3bは、面ファスナーで形成されていなくてもよく、これらを互いに留める一般周知の形態であってもよい。
【0058】
本実施形態では、取付面10は一枚布の面ファスナーで形成されていたが、例えばテープ状の面ファスナーを取付面に適宜間隔をおいて縦あるいは横方向に接着するなどしてもよい。また、装着布にポケットを配設し上記の空気袋5a、6a、6b、6c、6d、11、5bを、ポケットの中に挿入して取り付けるようにしてもよい。
【0059】
上述した腰痛治療用軟性機能装具1は、本発明の好適な一実施形態である。このため、特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。特に本発明は、装着者の状態にあわせて、適宜変更するのが好ましいため、腰部圧迫度と腹部圧迫度を別々に調整し、腹部圧迫による障害発生を避けつつ腰部に必要な圧迫・伸展力を及ぼすことにより、腰椎弯曲を調整しつつ、腰椎椎間腔を拡大するものであれば、各膨縮体の形状、大きさ、数、配置位置については限定されるものではない。
【符号の説明】
【0060】
1 腰痛治療用軟性機能装具
2 装着布
5a 後方部空気袋
6a 前方部空気袋
6b 補助用空気袋
6c 腹圧調整用空気袋
6d 腰椎弯曲調整用空気袋
A 体幹
B 腰部
C 胸郭
D 骨盤
E 腰椎
F 脊柱
G1 上腹部
G 腹部
I 椎間関節腔
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰椎弯曲を調整しつつ、腰椎椎間腔を拡大することで腰痛を軽減することができる腰痛治療用軟性機能装具に関する。
【背景技術】
【0002】
椎間板ヘルニア罹患者の腰椎を離隔させ、腰痛を緩和する空気式腰椎装具として、例えば特許文献1の空気注入式腰部圧迫腹帯が知られている。
【0003】
特許文献1の空気注入式腰部圧迫腹帯は、各々一方の側に小径部、他方の側に大径部を備えた連結部を有する複数のT型連結管を順次小径部を大径部に差し込み、重ねた部分を連結バンドで連結固定して一定の長さになる空気注入管を形成し、上記空気注入管を構成している各T型連結管の分岐管に一端が閉じられた空気膨張管の他端を挿入連結し、このように挿入連結された空気膨張管の前記他端には膨張補助管を重ねた状態で連結バンドで結合することを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2911437号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記空気注入式腰部圧迫腹帯は、上記構成の空気注入管と空気膨張管とを圧迫腹帯に固定させた上で、装着者の腰部に装着される。具体的には、空気注入管は、圧迫腹帯の上側縁に略並行に、かつ上側縁よりやや下に位置させて、身体の後面から肋骨を覆う程度の長さまでに配設されており、また、空気注入管より分岐された空気が流入される空気膨張管は、空気注入管に略直角に配置され、空気注入管に略等間隔でまんべんなく、身体の後面側から肋骨を覆う程度にまで配設されている。使用の際には、装着者は、腰部を適当に圧迫するように圧迫腹帯を固定した後、空気注入管に空気を注入すると、空気膨張管が上下方向に膨張し、腰椎を圧迫しつつ腰椎を構成している椎骨を離隔して、腰椎椎間腔を拡大させる。これにより、椎間板ヘルニアによる腰痛の緩和を実現している。
【0006】
椎間板ヘルニアとは、椎骨の間にある椎間板の線維輪にできた裂け目から、中身の髄核が上・下椎骨の圧迫により飛び出してしまうことで、飛び出した髄核が、椎骨の周辺の神経に触れることで起こるものである。このため、上記のように、腰椎椎間腔を拡大させれば、飛び出した髄核が元の椎間腔に戻りやすくなり、その症状の緩和に有効なものとなる。
【0007】
しかしながら、上記空気注入式腰部圧迫腹帯では、腰部から腹部にかけて空気注入管が連結しているため、空気注入により腹部も腰部と同じ程度に圧迫される。このため、腰部を強く圧迫した場合、腹部には内臓圧迫障害が生じる程度の強い圧迫となってしまうことがあった。
【0008】
また、一般的な腰痛の原因には、上述した椎間板ヘルニアの他に、同じく神経圧迫による腰部脊柱管狭窄症や、関節変形による変形性腰椎症などがある。そして、これら腰痛治療のためには、脊柱管を広くし、関節を痛みなく動かせる状態にする必要がある。
【0009】
脊柱管を広くするには、腰椎椎間腔の拡大のみではなく、これと同時に、腰椎弯曲を調整することが大切である。また、関節を痛みなく動かせる状態にするためには、腰椎弯曲調整により、運動時に椎間関節に無理がかからないようにすることが大切である。
【0010】
このような観点からすると、椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、変形性腰椎症に代表される腰痛の治療においては、腰椎椎間腔を拡大することのみではなく、腰椎弯曲を調整することで、腰痛の効果的かつ根本的な治療が可能となると考えられる。しかしながら、上記空気注入式腰部圧迫腹帯にあっては、その構造から、腰椎弯曲調整機能は十分でなく、腰椎椎間腔の拡大と腰椎弯曲調整とを併用した腰痛治療を行うことは難しかった。
【0011】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、腰部圧迫度と腹部圧迫度を別々に調整し、腹部圧迫による障害発生を避けつつ腰部に必要な圧迫・伸展力を及ぼすことにより、腰椎弯曲を調整しつつ、腰椎椎間腔を拡大することで腰痛を軽減することができる腰痛治療用軟性機能装具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる腰痛治療用軟性機能装具は、柔軟かつ低伸縮な素材で形成され、身体の体幹に、腰部周りを覆うように巻き付けられる装着布と、該装着布の内側に、体幹前面の左右両側部の胸郭から骨盤に亘って、それぞれ取り付けられ、上記装着布を介して胸郭から骨盤間を支持する一対の前方部膨縮体と、該装着布の内側に、体幹後面の腰椎の下部から上部に亘って並列に取り付けられて、該装着布内の該前方部膨縮体と協働して腰椎周辺を押圧する複数の後方部膨縮体とを備え、上記装着布内の前方部膨縮体および後方部膨縮体により、胸郭から骨盤の間を固定して、腰椎弯曲を調整しつつ胸郭を押し上げて腰椎椎間腔を拡大させることを特徴とする。
【0013】
前記装着布の内側には、体幹後面の脊柱上に位置して、腰椎弯曲の調整を補助する補助用膨縮体が取り付けられることを特徴とする。
【0014】
前記装着布の内側には、腹部に位置して、腹圧を調整する腹圧調整用膨縮体が取り付けられることを特徴とする。
【0015】
前記前方部膨縮体、前記後方部膨縮体、前記補助用膨縮体および前記腹圧調整用膨縮体は、内部に空気が注入される空気袋状に形成されることを特徴とする。
【0016】
前記装着布の内側には、体幹の左右両側部に、一端を骨盤周辺に位置させるとともに、他端を胸郭の前面若しくは胸郭の後面に位置させるように折り曲げた状態で、腰椎弯曲調整用空気袋が取り付けられ、該腰椎弯曲調整用空気袋は、その内部に空気を注入することで折り曲げた状態から元の形に復元されることにより、胸郭を押し上げて腰椎弯曲の調整を補助することを特徴する。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる腰痛治療用軟性機能装具にあっては、腰部圧迫度と腹部圧迫度を別々に調整し、腹部圧迫による障害発生を避けつつ腰部に必要な圧迫・伸展力を及ぼすことにより、腰椎弯曲を調整しつつ腰椎椎間腔を拡大させることで腰痛を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかる腰痛治療用軟性機能装具の好適な一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1の腰痛治療用軟性機能装具の装着布を広げた状態を示す外面図である。
【図3】図1の腰痛治療用軟性機能装具の装着布を広げた状態を示す内面図である。
【図4】図1の腰痛治療用軟性機能装具の前方部空気袋および腰椎弯曲調整用空気袋の形態を示す斜視図である。
【図5】図1の腰痛治療用軟性機能装具の後方部空気袋および腹圧調整用空気袋の形態を示す斜視図である。
【図6】図1の腰痛治療用軟性機能装具の補助用空気袋を示す斜視図である。
【図7】図1の腰痛治療用軟性機能装具を装着した状態を示す正面図および背面図である。
【図8】図1の腰痛治療用軟性機能装具を装着した状態を示す側面図である。
【図9】腰痛治療用軟性機能装具を装着したことにより、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症の狭窄した椎間腔と脊柱管が拡大する様子を示した状態図である。
【図10】腰痛治療用軟性機能装具を装着したことにより、変形性腰椎症の椎間関節腔が拡大する様子を示した状態図である。
【図11】図1の腰椎弯曲調整用空気袋の作用を示した状態図である。
【図12】図1の装着布に代えて背当て部のないタイプの装着布を用いた場合の腰痛治療用軟性機能装具を装着した状態を示す正面図および背面図である。
【図13】図1の装着布に代えて着衣型の装着布を用いた場合の腰痛治療用軟性機能装具を装着した状態を示す正面図および背面図である。
【図14】腰椎弯曲の各状態における空気袋の占める割合を示した概念図である。
【図15】本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具の第1変形例を示す斜視図である。
【図16】本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具の第2変形例を示す斜視図である。
【図17】本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具の第3変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明にかかる腰痛治療用軟性機能装具の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
本実施形態に関わる諸項目のうち、腰痛治療用軟性機能装具の全体構造を図1、2、3に、部分構造を図4、5、6に示す。体幹区分と体幹における各膨縮体の位置を図7(a)、図7(b)、および図8に示す。
【0021】
本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具1は、腰痛治療機能を有する軟性装具であり、基本的には、柔軟かつ低伸縮な素材で形成され、身体の体幹Aに、腰部B周りを覆うように巻き付けられる装着布2と、装着布2の内側に、体幹A前面の左右両側部の胸郭Cから骨盤Dに亘って、それぞれ取り付けられ、装着布2を介して胸郭Cから骨盤D間を縦方向(体幹Aに沿う方向をいう。以下同様)に支持する一対の前方部膨縮体と、装着布2の内側に、体幹A後面の腰椎Eの下部から上部に亘って、横方向(体幹Aに略直角の方向をいう。以下同様)に並列に取り付けられて、装着布2内の前方部膨縮体と協働して腰椎周辺を押圧する複数の後方部膨縮体とを備え、装着布2内の前方部膨縮体および後方部膨縮体により、胸郭Cから骨盤Dの間を固定して、腰椎弯曲を調整しつつ胸郭Cを押し上げて腰椎椎間腔を拡大させる。また、装着布2の内側には、体幹A後面の脊柱F上に位置して、腰椎弯曲の調整を補助する補助用膨縮体と、腹部Gに位置して、腹圧を調整する腹圧調整用膨縮体とがそれぞれ取り付けられる。
【0022】
上記各膨縮体は空気袋状に形成される(以下、後方部空気袋5a、前方部空気袋6a、補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6cと呼ぶ)。
【0023】
装着布2は、折り曲げ自在な柔軟かつ低伸縮性の生地で形成される。ここで、低伸縮性の生地とは、伸縮性が全くない生地から、例えば、合成繊維やコットンなど伸縮の少ない織りに仕上げたものなど、伸縮性が少ない生地までを総称したものである。
【0024】
装着布2の巾は、腰部B周り(腰椎Eの下部から上部にかけて)を覆う程度に形成される。装着布2の長さは、腹部G及び腰部Bを覆うように体幹A全体に巻き付けられて、その両端部2a、2bが互いに重ね合わされる程度に形成される。重ね合わされた装着布2の両端部2a、2bには、装着布2を体幹Aに巻き付けた状態で固定する固定部3a、3bが取り付けられる。図示例にあっては、固定部3a、3bは、装着布2の一端部2aの内面に形成された第1固定部3aと、装着布2の他端部2bの内面に形成された第2固定部3bとから構成され、これらは面ファスナーの雄面または雌面により形成される。
【0025】
体幹Aに巻き付けられた装着布2の第1固定部3aと第2固定部3bとを互いに密着させることによって、装着布2は、体幹A周りに着脱自在に固定される。装着布2には、脊柱Fに沿って装着布2の上方を延出させた背当て部4が形成される。
【0026】
装着布2の内側には、両端部2a、2bを残してほぼ全面に、後方部空気袋5a、前方部空気袋6a、補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6c、および、後述する腰椎弯曲調整用空気袋6dを取り付けるための取付面10が形成される。図示例にあっては、取付面10は、一枚布の面ファスナーの雄面または雌面が、縫製や接着剤などによって装着布2の内側に接着されて形成される。
【0027】
図4は、後方部空気袋5a(腹圧調整用空気袋6cも同形状である)の斜視図、図5は、前方部空気袋6a(腰椎弯曲調整用空気袋6dも同形状である)の斜視図、図6は、補助用空気袋6bの斜視図である。後方部空気袋5aは、中に空気が注入される中空の袋体であって、その外側には空気を注入するためのチューブ状の注入口7が配設される。注入口7の先端部には、注入した空気を封止する封止栓8が設けられる。後方部空気袋5aは、注入された空気を密閉するべく気密素材で袋状に形成される。後方部空気袋5aは、例えばナイロン生地の内側にウレタン樹脂を塗布して気密加工処理を施したもの、あるいは、さらにその外側にプラスチック材のような硬質な生地素材を重ね合わせたものなどで形成される。
【0028】
また、前方部空気袋6a、補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6c、腰椎弯曲調整用空気袋6dも、後方部空気袋5aと同様の材質で、中に空気が注入される中空の袋状に形成される。これら前方部空気袋6a、補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6c、腰椎弯曲調整用空気袋6dの外側にも後方部空気袋5aと同様のチューブ状の注入口7が配設され、注入口7の先端部には、封止栓8が設けられる。
【0029】
このように形成された後方部空気袋5a、前方部空気袋6a、補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6c、腰椎弯曲調整用空気袋6d(以下これらを空気袋等という)は、空気の注入量によって自身の強度が変化するものである。しかしながら、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dの材質はこれに限られず、どのような材質であってもよい。また、空気袋の強度を補強するため、どのような材質の補助材を併用してもよい。
【0030】
空気袋等5a、6a、6b、6c、6dの外面には、その長軸方向に沿って、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dを取付面10に取り付けるための取付部9が形成される。取付部9は、取付面10の面ファスナーの雄面または雌面に噛み合う、雌面または雄面が接着されて形成される。取付部9と取付面10を密着させることで、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dが装着布2に着脱自在に取り付けられる。
【0031】
図7(a)は、腰痛治療用軟性機能装具1を体幹Aに巻き付けた状態を表す正面図である。図7(b)は、その背面図である。図8は、腰痛治療用軟性機能装具1を体幹Aに巻き付けた状態を表す側面図である。
【0032】
装着布2の内側には、体幹A前面に一対の前方部空気袋6aが取り付けられる。これら前方部空気袋6aは、縦長の棒状体に形成され、その長軸方向が体幹Aの胸郭C位置から骨盤D位置にまで亘って配設される。前方部空気袋6aを取り付けた状態で、装着布2を体幹Aに巻き付ければ、体幹A前面の腹部G周辺と装着布2との間には隙間が形成される。
【0033】
装着布2の内側には、体幹A後面の腰椎Eの下部から上部に亘って、装着布2内の前方部空気袋6aと協働して腰椎E周辺を押圧する、棒状体の後方部空気袋5aが、横方向に3本並列して取り付けられる。これら後方部空気袋5aは、隣接する後方部空気袋5aとの間に隙間をあけずに配置されている。3本のうち最上位置の後方部空気袋5aは、胸郭下部の肋骨に接するように取り付けられる。後方部空気袋5aは、膨張することにより、腰部Bに当接している面が腰椎E周辺を押圧しつつ、隣接する後方部空気袋5aを互いに押圧しあうことで上方押し上げ力を発揮し、前方部空気袋6aと協働して胸郭を押し上げ、腰椎椎間腔Hを拡張させる。なお、腰椎Eが弯曲している装着者の場合などにあっては、後方部空気袋5aは、横方向に並列に取り付けられるものではなく、腰椎Eの傾きにあわせて斜め方向に取り付けられてもよいものである。
【0034】
装着布2の背当て部4の内側には、補助用空気袋6bが取り付けられる。図示例にあっては、補助用空気袋6bは体幹A後面の脊柱Fに当接するように取り付けられている。補助用空気袋6bは、装着者の腰椎Eの弯曲度にあわせて、補助的に取り付けられる。
【0035】
装着布2の内側には、体幹A前面の腹部Gに位置して、腹圧調整用空気袋6cが取り付けられる。上述したように、前方部空気袋6aによって、装着布2と腹部G周囲の間には隙間が形成されるため、腹部Gには圧力がかからない。しかしながら、症状によっては腹圧をかけながら治療をした方がよい場合もある。腹圧調整用空気袋6cは、ある程度腹圧をかけ、腰部Bおよび腹部G周りを圧迫させた方がよい装着者のために、補助的に取り付けられるものである。図示例にあっては、腹圧調整用空気袋6cは、上腹部G1に位置させて横方向に取り付けられている。しかしながら、腹圧調整用空気袋6cは、装着者の状態にあわせて、横方向のみならず縦方向や斜め方向に取り付けられる場合もある。また、上腹部G1のみでなく、腹部の適宜な位置に取り付けられるものであり、その形態や本数においても適宜変更できるものである。
【0036】
また、装着布2の内側には、腰椎弯曲を調整する腰椎弯曲調整用空気袋6dが取り付けられる。図示例にあっては、腰椎弯曲調整用空気袋6dは、縦長の棒状体に形成されており、その一端を骨盤Dの側部に位置させ、他端を胸郭Cの前面側若しくは後面側に位置させるように折り曲げられた状態で取り付けられる。腰椎弯曲調整用空気袋6dは、空気を注入することにより、折り曲げられた状態から元の形に復元する。そして、その復元力で胸郭Cを後上方若しくは前上方としての斜め上方に押し上げて、腰椎弯曲を調節するものである。
【0037】
次に本発明にかかる腰痛治療用軟性機能装具1の作用機序について説明する。腰痛治療用軟性機能装具1は、椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、変形性腰椎症に代表される腰痛の治療に用いられる。装着するに際しては、装着布2の取付面10であって、体幹A後面の腰椎E周辺位置に、空気を注入してない状態の3本の後方部空気袋5aを隙間なく取り付ける。また、前方部空気袋6a、補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6c、腰椎弯曲調整用空気袋6dについても、空気を注入していない状態で、装着布2の取付面10の所定取付位置に取り付ける。そして、体幹Aに装着布2を巻き付け固定部3a、3bで固定する。この後、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dに空気を注入する。
【0038】
すると、図8に示すように、装着布2内で後方部空気袋5a、前方部空気袋6aが膨張することにより、胸郭Cから骨盤Dの間は前方部空気袋6aで固定され、体幹A前面が支持される。そして、膨張した後方部空気袋5aは、腰椎E周辺を押圧しながら隣接する後方部空気袋5aどおしが互いを押し合うことで、上方への押し上げ力が発生し胸郭Cを押し上げる。このように、前方部空気袋6aと後方部空気袋5aが別部品であることから、それぞれに空気圧の調節ができ、腰部圧迫度と腹部圧迫度とを別々に調整することが可能となる。
【0039】
これにより、例えば図9(a)に示すように、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの場合、椎間板の線維輪にできた裂け目から飛び出し、椎骨の周辺の神経に触れてしまっていた髄核は、図9(b)に示すように、腰椎椎間腔Hが拡大しながら腰椎Eが前屈することで元の腰椎椎間腔Hに戻り、腰痛の症状が緩和されることとなる。
【0040】
また、例えば図10(a)に示すように、変形性腰椎症の場合に腰を前屈させる現象は、椎間関節が凸凹な状態であり、腰を動かすと痛みが発生するために、腰椎Eを自然に前屈させて椎間関節腔Iを開く姿勢をとってしまうことで起こるものである。このような場合にあっても、当該腰痛治療用軟性機能装具1は、上述のように、前方部空気袋6aによる体幹A前面側からの支持力と、後方部空気袋5aによる体幹A後面側からの上方押し上げ力により、図10(b)に示すように、胸郭Cを押し上げて腰椎椎間腔Hを拡大し、さらには自然な姿勢のまま椎間関節腔Iをも開くことが可能となり、腰痛の症状を緩和することが可能となる。
【0041】
図11(a)には、腰椎弯曲調整用空気袋6dに空気を注入するときに、腰痛弯曲調整用空気袋6dの上端部が胸郭Cを前上方に押し上げる様子を示した状態を示す。また、図11(b)には、腰椎弯曲調整用空気袋6dに空気を注入するときに、腰椎弯曲調整空気袋6dの上端が部が胸郭Cを後上方に押し上げる様子を示す。このように、腰部Bに十分な圧迫・伸展力を及ぼすことができる。
【0042】
また、身体においては、脊柱Fが胸郭Cと骨盤Dを結ぶ主柱となっていて、上半身の体重は、主に脊柱Fを通じて骨盤Dに伝えられるものであり、腹部内臓柱が、これを補助する補助柱として機能している。装着布2を介して体幹Aに固定された後方部空気袋5aおよび前方部空気袋6aは、腹部内臓柱と同様に補助柱として機能し、腰椎Eをバイパスして骨盤Dに伝わる体重部分を増やす効果をもつ。なお、上記補助用空気袋6b、腹圧調整用空気袋6cおよび腰椎弯曲調整用空気袋6dも、同様に補助柱として機能し、腰椎Eをバイパスして骨盤Dに伝わる体重部分を増やす効果をもつ。
【0043】
さらには、上記従来技術のように、腰部Bから腹部Gにかけて全体を圧迫するタイプのものに比べて、体幹A前面側部に前方部空気袋6aが固定されることによって、装着布2と腹部Gの間に隙間ができるため、装着者は腹部G周りを圧迫せずに腰椎E周りの動きを制限することができ、腹部圧迫による障害を生じることなく、腰痛の治療をすることが可能となる。
【0044】
体幹A後面の脊柱F上に取り付けられる補助空気袋6bは、腰椎弯曲性の症状にあわせ補助的に用いられる。例えば、後弯した脊柱Fの頂点部などに取り付けることで、装着布2を介して補助用空気袋6bが頂点部を押圧することにより、腰椎弯曲性の調整に効果的に働くことを可能にするものである。
【0045】
腹部Gに取り付けられた腹圧調整用空気袋6cは、装着者の状態にあわせ腹圧の調整用として用いられる。上述のように、体幹A前側面の前方部空気袋6aによって、腹部Gの側面のみ圧迫され、腹部Gの前面は圧迫されない。しかしながら、腹圧は腹部内臓を硬くし、体重支持の補助柱として作用させる効果を持つため、装着者の症状によっては、腹圧をあげた方がよい場合もある。このような場合に、腹圧調整用空気袋6cは取り付けられるものである。
【0046】
腰椎弯曲調整用空気袋6dもまた、装着者の症状にあわせて用いられる。例えば、腰椎弯曲度が強い場合などに、後方部空気袋5a、前方部空気袋6aと併用して補助的に用いられる。具体的には、一端を体幹A両側部の骨盤D周辺位置に取り付けて、他端を胸郭Cの前面に位置させて取り付けた場合には、空気の注入により、胸郭Cを押し上げつつ体幹Aを前方から後方側へ傾けるような調整を行うことが可能となる。また、一端を体幹A両側部の骨盤D周辺位置に取り付けて、他端を胸郭Cの後面に位置させて取り付けた場合には、空気の注入により、胸郭Cを押し上げつつ体幹Aを後方から前方側へ傾けるような調整を行うことが可能となる。
【0047】
本実施形態にあっては、装着者の症状に応じて必要な腰椎椎間腔拡大度と腰椎弯曲度を決め空気袋等5a、6a、6b、6c、6dの強さを段階的に調整しながら、目的とする腰椎椎間腔拡大度と腰椎弯曲度を得る。空気袋等5a、6a、6b、6c、6dの強さは、注入する空気量を調節することで、その膨張度により変化するものである。腰椎弯曲調整度や、腰椎椎間腔拡大度が軽度でよい場合には、注入する空気量を少なめにして、柔和な状態で使用するのが望ましい。一方、より強固な固定力や矯正力が必要な場合には、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dには大量に空気を注入し、膨張度を最大にして使用するのが望ましい。
【0048】
本実施形態にあっては、装着布2は、腹部G及び腰部Bを覆い、かつ背当て部4のついたタイプを使用していた。しかしながら、装着者の症状により、補助用空気袋6bを使用しなくてもよい場合には、図12に示すように、背当て部4のついていないタイプの装着布2を使用してもよい(図は、後方部空気袋5a及び前方部空気袋6aのみを取り付けたものである。)。
【0049】
また、装着布2は、着衣形状のものを2枚重ねて形成してもよい。具体的には、内着の外側に取付面10を形成し、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dを取付部9を介して取り付ける。そして空気袋等5a、6a、6b、6c、6dを外着によって固定する。そして、外着の安全性を増したり、空気袋の剛性を高める必要がある場合は、さらに外側からベルトなどで固定する。装着布2の形態は、例えば、図13に示すような前あきのベスト型のものや(図は、後方部空気袋5a及び前方部空気袋6aのみを取り付けたものである。)、図示はしないが前閉じのTシャツ型のものでもよい。また、装着布2の生地についても、通気性を確保すべくメッシュ地などで形成してもよい。さらに、サスペンダなどを用いて装着布2を釣り上げてもよい。
【0050】
本実施形態にあっては、後方部空気袋5aの本数は3本配設されていたが、複数本であればこれに限られない。また、例えば後方部空気袋5aは蛇腹状に形成してもよい。このとき、後方部空気袋5aは、全長を蛇腹状に形成してもよいし、適宜な長さ分のみ蛇腹状に形成してもよい。この蛇腹状の後方部空気袋5aを用いた場合には、後方部空気袋5aは、装着布2の内側に、体幹A後面の腰椎Eの下部から上部に亘って、縦方向に並列に取付られることとなる。そして、装着後に後方部空気袋5aに空気を注入させて蛇腹部分が伸張することによって、上方への押し上げ力が発生し胸郭Cを押し上げる。
【0051】
前述したとおり、本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具1は、空気袋等5a、6a、6b、6c、6dは、脱着自在に取り付けられている。このため、装着者の症状にあわせ空気袋等5a、6a、6b、6c、6dの形態や強度や本数を変更できるものである。図14は、腰椎弯曲の状態にあわせた後方部空気袋5aの占める割合を概念的に図示したものである。ただし、この図は後方部空気袋5aの形態や本数を示すものではない。円背、凹円背、亀背、全後弯などの状態がある場合には、脊柱Fが正常なS字カーブを描いているときに比べて、後方部空気袋5aの占める割合を適宜変化させる必要がある。また、その他の空気袋6a、6b、6c、6dの形態や強度も症状によって、変化させるものである。
【0052】
次に本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具1における、後方部空気袋の第1変形例を図15に示す。本変形例にあっては、3本の後方部空気袋5aに代えて、略「目」の字状に形成された空気ユニット11を用いる。空気ユニット11は、具体的には、横方向に長い3本の空気袋を互いに適宜間隔をあけて並べ、その両端を、縦方向に長い空気袋に連結させて一体的に形成される。本変形例にあっては、後方部空気袋5aに代えて空気ユニット11を用いることで、取付けが簡単で、かつ、隣接する横方向に長い空気袋の間に、間隙Sが形成されているため、通気性をよくすることができる。
【0053】
次に、本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具1における、後方部空気袋の第2変形例を図16に示す。本変形例にあっては、横長の空気袋5aが3本互いに間隔をおいて配置されている。そして、後方部空気袋5aの両端部には、縦長の第2空気袋5bが配設される。これら縦長の第2空気袋5bには、後方部空気袋5aの両端部の位置にあわせて、両端部が挿入される凹部12が形成されている。当該変形例においても、横長の後方部空気袋5aが互いに離隔して配設されているため通気性をよくすることができる。
【0054】
次に、本実施形態にかかる腰痛治療用軟性機能装具1における後方部空気袋の第3変形例を図17に示す。本変形例にあっては、前方部空気袋6aに代えて、凹部12を有する縦長の第2空気袋5bが配設される。縦長の第2空気袋5bは、前方部空気袋6aと同様に、胸郭Cから骨盤Dにかけて固定されるべく、これにあわせた位置に取り付けられている。他方、3本の後方部空気袋5aは、第2空気袋5bの凹部12にその両端を挿入すべく、腰部B全体を包む程度に長尺に形成されている。この場合、後方部空気袋5aは、柔らかい素材で形成されるか、体幹Aにあわせ側部が弯曲するような工夫が施されているものである。
【0055】
なお、本変形例では、3本の後方部空気袋5aと、縦長の第2空気袋5bは、別体となっていた。しかしながらこれらを一体に形成してもよい。また、この際後方部空気袋5aに相当する部分の本数や配設間隔については、装着者の状態にあわせて適宜変更できるものである。また、体幹A後部にも縦長の第2空気袋5bを装着することも可能である。この場合、例えば体幹A前後に配設された縦長空気袋5bの間に、横長の空気袋を複数本配設してもよい。さらに、これらを一体に形成するとしてもよい。また、装着者の体幹形態によっては、腰部周囲に小型の一体式空気袋を複数取り付けてもよい。
【0056】
上記実施形態にあっては、前方部膨縮体、後方部膨縮体、補助用膨縮体および腹圧調整用膨縮体は空気を注入することで膨張し、排気することで縮小する前方部空気袋6a、後方部空気袋5a、補助用空気袋6bおよび腹圧調整用空気袋6cや、若しくはこれらの代用として、空気ユニット11、第2空気袋5bを使用していた。しかしながら、上記各膨縮体はこれらの空気袋5a、6a、6b、6c、6d、11、5bに限られず、スポンジやゴムなど伸縮可能な素材で形成されていてもよい。特に、装着者の症状が軽度であるなど膨縮体自体の強度を必要としない場合には、これらのものを代用することによって、低コストで製作することが可能となる。
【0057】
本実施形態では、固定部3a、3bは面ファスナーで形成されていた。しかしながら、固定部3a、3bは、面ファスナーで形成されていなくてもよく、これらを互いに留める一般周知の形態であってもよい。
【0058】
本実施形態では、取付面10は一枚布の面ファスナーで形成されていたが、例えばテープ状の面ファスナーを取付面に適宜間隔をおいて縦あるいは横方向に接着するなどしてもよい。また、装着布にポケットを配設し上記の空気袋5a、6a、6b、6c、6d、11、5bを、ポケットの中に挿入して取り付けるようにしてもよい。
【0059】
上述した腰痛治療用軟性機能装具1は、本発明の好適な一実施形態である。このため、特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。特に本発明は、装着者の状態にあわせて、適宜変更するのが好ましいため、腰部圧迫度と腹部圧迫度を別々に調整し、腹部圧迫による障害発生を避けつつ腰部に必要な圧迫・伸展力を及ぼすことにより、腰椎弯曲を調整しつつ、腰椎椎間腔を拡大するものであれば、各膨縮体の形状、大きさ、数、配置位置については限定されるものではない。
【符号の説明】
【0060】
1 腰痛治療用軟性機能装具
2 装着布
5a 後方部空気袋
6a 前方部空気袋
6b 補助用空気袋
6c 腹圧調整用空気袋
6d 腰椎弯曲調整用空気袋
A 体幹
B 腰部
C 胸郭
D 骨盤
E 腰椎
F 脊柱
G1 上腹部
G 腹部
I 椎間関節腔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟かつ低伸縮な素材で形成され、身体の体幹に、腰部周りを覆うように巻き付けられる装着布と、
該装着布の内側に、体幹前面の左右両側部の胸郭から骨盤に亘って、それぞれ取り付けられ、上記装着布を介して胸郭から骨盤間を支持する一対の前方部膨縮体と、
該装着布の内側に、体幹後面の腰椎の下部から上部に亘って並列に取り付けられて、該装着布内の該前方部膨縮体と協働して腰椎周辺を押圧する複数の後方部膨縮体とを備え、
上記装着布内の前方部膨縮体および後方部膨縮体により、胸郭から骨盤の間を固定して、腰椎弯曲を調整しつつ胸郭を押し上げて腰椎椎間腔を拡大させることを特徴とする腰痛治療用軟性機能装具。
【請求項2】
前記装着布の内側には、体幹後面の脊柱上に位置して、腰椎弯曲の調整を補助する補助用膨縮体が取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の腰痛治療用軟性機能装具。
【請求項3】
前記装着布の内側には、腹部に位置して、腹圧を調整する腹圧調整用膨縮体が取り付けられることを特徴とする請求項1または2に記載の腰痛治療用軟性機能装具。
【請求項4】
前記前方部膨縮体、前記後方部膨縮体、前記補助用膨縮体および前記腹圧調整用膨縮体は、内部に空気が注入される空気袋状に形成されることを特徴とする請求項3に記載の腰痛治療用軟性機能装具。
【請求項5】
前記装着布の内側には、体幹の左右両側部に、一端を骨盤周辺に位置させるとともに、他端を胸郭の前面若しくは胸郭の後面に位置させるように折り曲げた状態で、腰椎弯曲調整用空気袋が取り付けられ、該腰椎弯曲調整用空気袋は、その内部に空気を注入することで折り曲げた状態から元の形に復元されることにより、胸郭を押し上げて腰椎弯曲の調整を補助することを特徴する請求項1〜4のいずれかの項に記載の腰痛治療用軟性機能装具。
【請求項1】
柔軟かつ低伸縮な素材で形成され、身体の体幹に、腰部周りを覆うように巻き付けられる装着布と、
該装着布の内側に、体幹前面の左右両側部の胸郭から骨盤に亘って、それぞれ取り付けられ、上記装着布を介して胸郭から骨盤間を支持する一対の前方部膨縮体と、
該装着布の内側に、体幹後面の腰椎の下部から上部に亘って並列に取り付けられて、該装着布内の該前方部膨縮体と協働して腰椎周辺を押圧する複数の後方部膨縮体とを備え、
上記装着布内の前方部膨縮体および後方部膨縮体により、胸郭から骨盤の間を固定して、腰椎弯曲を調整しつつ胸郭を押し上げて腰椎椎間腔を拡大させることを特徴とする腰痛治療用軟性機能装具。
【請求項2】
前記装着布の内側には、体幹後面の脊柱上に位置して、腰椎弯曲の調整を補助する補助用膨縮体が取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の腰痛治療用軟性機能装具。
【請求項3】
前記装着布の内側には、腹部に位置して、腹圧を調整する腹圧調整用膨縮体が取り付けられることを特徴とする請求項1または2に記載の腰痛治療用軟性機能装具。
【請求項4】
前記前方部膨縮体、前記後方部膨縮体、前記補助用膨縮体および前記腹圧調整用膨縮体は、内部に空気が注入される空気袋状に形成されることを特徴とする請求項3に記載の腰痛治療用軟性機能装具。
【請求項5】
前記装着布の内側には、体幹の左右両側部に、一端を骨盤周辺に位置させるとともに、他端を胸郭の前面若しくは胸郭の後面に位置させるように折り曲げた状態で、腰椎弯曲調整用空気袋が取り付けられ、該腰椎弯曲調整用空気袋は、その内部に空気を注入することで折り曲げた状態から元の形に復元されることにより、胸郭を押し上げて腰椎弯曲の調整を補助することを特徴する請求項1〜4のいずれかの項に記載の腰痛治療用軟性機能装具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−227322(P2010−227322A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78673(P2009−78673)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(508185845)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(508185845)
【Fターム(参考)】
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