説明

膀胱疾患の治療のための医薬組成物

本発明は、有効成分としてヒアルロン酸亜鉛錯体および医薬上許容され得る担体および/または添加剤を含む、哺乳動物の泌尿生殖器系の疾患に対し活性を有する医薬組成物に関する。前記の医薬組成物の製造方法、ならびに哺乳動物の泌尿生殖器系におけるグルコサミノグリカン(GAG)層の異常や欠損に関連する病気の治療および予防のためのその治療的使用および、ヒアルロン酸亜鉛溶液、膀胱内投与に適用可能なカテーテルおよび、必要に応じて膀胱拡張術に適用可能なバルーンを含むキットもまた、本発明の範囲内にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分としてヒアルロン酸亜鉛錯体および医薬上許容し得る担体および/または添加剤を含む、哺乳動物の泌尿生殖器系の疾患に対し活性を有する医薬組成物に関する。前記の医薬組成物の製造方法、ならびに哺乳動物の泌尿生殖器系におけるグルコサミノグリカン(GAG)層の異常や欠損に関連する病気の治療および予防のためのその治療的使用および、ヒアルロン酸亜鉛溶液、膀胱内投与に適用可能なカテーテルおよび、必要に応じて膀胱拡張術に適用可能なバルーンを含むキットもまた、本発明の範囲内にある。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロナン(HA)は、式(I)で表される、反復N−アセチルグルコサミン−グルクロン酸二糖ユニットにより構築されたグルコサミノグリカン型のホモポリマーである。
【0003】
【化1】

【0004】
HAでは単糖類はβ(1→3)結合されるのに対し、二糖類単位はβ(1→4)結合され、そのため、交互β(1→3)及びβ(1→4)結合をもつ線状多糖類を形成する。
【0005】
生物のHAは、陽イオン、通常ナトリウムとともに形成される塩として生じ、その分子量は10〜20kDaから数千kDaの範囲に及び得る。HAのグルクロン酸部分のカルボキシル基の存在、およびグルコサミンのN−アセチル基のカルボニル基とアミノ基の存在、ならびに水酸基が存在していることは、数個の水素架橋の形成を容易にする。これらの分子内水素結合および生体系に存在するHAと水との間の相互作用を介して形成された水素架橋により、HAは複雑な三次元構造を持つ[C.L.ヒュー等、ヨーロピアン・ジャーナル・バイオケミストリー、第203巻、第33−42頁(1992);Q.リュー等、ジャーナル・アメリカン・ケミカル・ソサエティ、第118巻、第12276−12286頁(1996)]。その優れた水結合能力の結果として、比較的低濃度のHAの水溶液であっても高粘度を示す。水溶液中でそのレオロジー特性は分子のサイズに大きく依存する;例えば1%水溶液において分子サイズ1000kDaのHAは3000mPaの粘度を有するのに対し、分子サイズ4000kDaのHAが同様の濃度で400000mPaの粘度を有する。[H.B.ウイックおよびO.ウイック;ヒアルロナンの流動学、ヒアルロナンおよびその誘導体の化学、生物学および医療用途(T.C.ローレント編)、第25−32頁、ポートランド・プレス、ロンドン(1998)]。従ってHAの最も重要な二つの物理的な特徴は、その粘度および分子サイズである。
【0006】
細胞外マトリックスの主成分としてHAは身体のあらゆる部分に存在している。特定の臓器や組織(結合組織、皮膚、滑液、硝子体液、および血管壁)は、さらに高い量でHAを含む。長い間HAの生物学的役割は、その物理的性質に由来すると考えられてきた。例えば、そのレオロジー的性質のおかげで、関節に機械的保護を提供することができる。その優れた水結合能力のおかげで、HAはその浸透圧を介しておよび流れ抵抗性を提供することにより、水バランスを制御することができる。HAはまた、間質を充填する上で重要な役割を果たしおよび様々な物理的な影響から細胞を保護する。最近の研究は、体内に存在するHAと特定の巨大分子間の相互作用が、いくつかの生理学的プロセスに結びつき得ることを示している。このような巨大分子の例としては、細胞外マトリックスに位置し、細胞間隙を占有しおよび物質輸送を容易化することを主要な役割としているプロテオグリカン(アグリカン、バーシカン、ブレビカン等)である。HAとの相互作用に関わる巨大分子は、細胞内の膜内外タンパク質(CD44、RHAMM)ならびに、細胞質内に存在する受容体タンパク質(C1q、P−32、TSG−6等)であり得る。上記のタンパク質を介して、HAは細胞や体のレベルで行われているいくつかの調節プロセスにおいて重要な役割を果たしている。
【0007】
分子のサイズと水溶液中のHAの濃度は −物理的性質の場合と同様に− その生物学的作用にかなりの影響を及ぼす。したがって、分子のサイズによって、HAは、同一の細胞プロセスにおいてプラスまたはマイナスの影響を及ぼす可能性がある。溶液のHA濃度が変更された場合、作用に同様の変化が見られる。両方のパラメータが同時に考慮される場合、望ましい最適な効果を明らかに達成することができる[E.A.バラズス、ヒアルロナンおよびその誘導体の化学、生物学および医療用途(T.C.ローレント編)、第185−204頁、ポートランド・プレス、ロンドン(1998)]。
【0008】
HAは、上述した生理学的プロセスに関与するため、いくつかの治療分野(創傷治癒、慢性炎症の処置、眼科手術)でうまく使用することができる。
【0009】
HAがヒトの治療に −上述したものを超えて− 適用可能である範囲は、化学的に構造を改変することによって拡大することができる。この点に関し、2つの主要な傾向が知られている。そのうちの一つによれば、脂肪族化合物(通常ジヒドラジド)を用いて、HA分子の2つの離れた位置の間に架橋をつくり、ヒドロゲルを形成する。架橋は、化学的に修飾されたHAの粘弾性の増加を引き起こし、体内で発生する劣化の影響に対しより大きな抵抗性をもたらす。それは滑液を回復するための処置を受けるリュウマチ性関節炎を持つ患者や術後の癒着をもつ患者の利益になる。もう一つの重要な戦略においては、吸収が困難であるか、または作用の部位に特異的に渡される活性薬物が、HAと化学的に結合されることである(例えば、タキソール、ピロカルピン、インスリン)。これらの場合では、HAが、それぞれ、HAと結合した活性薬物が改善された吸収をもたらし、ならびに目的の場所に特異的に到達するのを支援する。
【0010】
亜鉛およびコバルトと形成されたHAの錯体は、欧州特許第413016号明細書(ブルガー等、1989)に記載されており、2つのうち亜鉛−HAは創傷治療用組成物中の活性薬物として使用されている。活性薬物のさらなる研究は、亜鉛錯体がナトリウム−HA塩と比較して、新たなまたはより明確な効果を有するので、亜鉛の存在によって、治療用途の可能性を広げることができることを示した[J.イレス等、Acta Pharm.Hung、第72巻、第15−24頁(2002)]。中でも、前記の効果は、亜鉛−HAの増強された抗酸化活性であり、[Gy.T.バローグ等、アーキテク.バイオケミカル.バイオフィジオロジー、第410巻、第76−82頁(2003)];浸潤細胞により増加量で生産される組織損傷酵素(マトリックスメタロプロテイナーゼ、とりわけMMP−9)における抑制効果であるが、一方、ナトリウム−HA塩では後者の効果は示さない(国際公開第00/53194号パンフレット、イレス等、1999)。亜鉛−HAの胃保護作用(消化性潰瘍の処置)は国際公開第98/48815号パンフレットに掲載された国際特許出願に開示されており、亜鉛−HA活性薬物の抗菌効果は、国際公開第98/10773号パンフレットに掲載された国際特許出願に記載されている。
【0011】
大量のヒアルロン酸を含むグリコサミノグリカン(GAG)層は、膀胱の内面を覆っている。この高粘度、親水性の高いGAG層が、尿中の刺激物、これらに限定されないが、微生物、病原体、微結晶、タンパク質、カルシウム、尿素および発癌物質等に対して膀胱上皮を保護する。
【0012】
GAGの層が損傷しているとき、膀胱上皮は、尿刺激物に対して透過性になる。これは即座の痛みを引き起こし、これが同様に劣化プロセスの始まりである。この防護壁の損傷は感染症や腫瘍欠損の発生リスクを増大させる。GAG層の変形は生検で判明できる。
【0013】
以下の病気は、GAG層の病変と関連付けることができる。
・ 間質性膀胱炎
・ 慢性再発性細菌性および非細菌性膀胱炎
・ 放射線性膀胱炎および化学物質性膀胱炎
【0014】
間質性膀胱炎は、膀胱と周囲の骨盤領域での再発性の不快感や痛みをもたらす状態である。症状は、また、排尿に対する切迫感および増加した尿意頻数も含まれる。同時に、細菌性は証明できない。
【0015】
間質性膀胱炎を持つ個人はかなり障害をうけることになり、進行した間質性膀胱炎患者では、機能するために大手術が必要な場合がある。間質性膀胱炎の病因は原因不明のままであるが、それがGAG層の欠損が主な欠陥であることが示唆されている。症状は尿路系の他の疾患と同様であるので、間質性膀胱炎の診断は非常に困難であり、ほとんどの場合、長時間(5〜8年)かかる。
【0016】
放射線性膀胱炎と化学物質性膀胱炎は、骨盤内臓器(前立腺、膀胱、子宮、卵巣、膣、結腸、直腸)の腫瘍の放射線や化学療法の後に出現する可能性がある。放射線治療の主作用の一つは、膀胱上皮の損傷である。病気の期間は通常3〜6ヶ月であるが、それは24ヶ月以上になり得る。最も深刻な症例では生活様式を変える症状が出現し得る。適切な治療なしでは、膀胱に炎症がより深刻になるであろうし、症状が悪化することもある。
【0017】
上部尿路病変がない場合に、再発性細菌性膀胱炎は、再発性の重篤な細菌尿症として定義づけられる。“再発性”は通常、年に3回より多く判明した細菌性膀胱炎と解釈されている。急性細菌性膀胱炎は性的に活発な女性の間で非常に一般的な感染症である。それは生活の中で女性の30〜50%が経験し、彼女らの25〜40%が再発し得る。一般的な治療は長期にわたる抗生物質療法である。尿道症候群の場合には尿中に細菌が見いだせない。両方の事例ではGAG層の損傷の可能性もある。
【0018】
ヒアルロン酸ナトリウムは近年、泌尿生殖器系の病気の治療、特に尿道カテーテルを使用して、膀胱内に投与される間質性膀胱炎および放射線性膀胱炎の治療に使用されている(ビノシェ,国際公開第96/25168号および国際公開第00/24387号パンフレット)。国際公開第96/25168号パンフレットは、間質性膀胱炎の治療におけるヒアルロン酸ナトリウムの使用について記載する。膀胱内に投与したヒアルロン酸ナトリウム溶液の効果は臨床実験によって証明されている。研究の成果基準は、痛みや切迫感の低下に基づく症状の改善に関連している。患者は週に一度4週間ヒアルロン酸ナトリウムの膀胱内注入を受け、その後20週の期間は4週に一度維持注入が続いた。毎回、患者は0.08%のヒアルロン酸ナトリウム溶液50mlの膀胱内注入を受けた。HA組成物は尿道カテーテルを用いて膀胱に注入された。その後患者は少なくとも30分、HA溶液を保持した。14人の患者が観察された。研究の終わりに、それらの5人には症状にかなりの改善が報告された。他の患者は改善が感じられないかまたはほんの少ししか改善が感じられなかった。
【発明の概要】
【0019】
本発明は、有効成分としてヒアルロン酸亜鉛錯体および医薬上許容し得る担体および/または添加剤を含む、哺乳動物の泌尿生殖器系の疾患に対し活性を有する医薬組成物に関する。前記医薬組成物の製造方法ならびに哺乳動物における泌尿生殖器系のグルコサミノグリカン(GAG)層の異常や欠損に関連する病気の治療および予防のためのそれらの治療的使用は、また本発明の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】加圧下で有効成分の投与に適したバルーンカテーテルを備える装置である。
【図2】第一の患者の、時間の関数としてのビジュアルアナログペインスケールのスコアおよび一日平均の尿部分(実施例5)である。
【図3】第二の患者の、時間の関数としてのビジュアルアナログペインスケールのスコアおよび一日平均の尿部分(実施例5)である。
【図4】膀胱拡張術に適用可能なバルーンカテーテルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、哺乳動物における泌尿生殖器系のグルコサミノグリカン(GAG)層の異常や欠損に関連する病気の治療および予防のための医薬の製造におけるヒアルロン酸亜鉛錯体の使用に関する。
【0022】
我々は、膀胱内療法におけるヒアルロン酸亜鉛の使用が、GAGの層を再生するだけでなく、膀胱上皮のより深い層の改善もまた誘発することを発見した。
【0023】
我々の研究によれば、我々は、ヒアルロン酸亜鉛を使用する前に細菌感染の治療は必要がないことを発見した。GAG層の再生の兆候が、細菌感染が治癒していないにもかかわらず、生検試料で観察できた。
【0024】
尿中における細菌の毒素や有害な代謝産物が再生過程を阻害するかもしれない理由で、ヒアルロン酸ナトリウムの治療の前には細菌感染の治療が必須であるため、上記の観察結果は、驚くべきことである。ヒアルロン酸亜鉛液と抗生物質の併用療法は相乗効果があり得、それは治療の長さを減らすことができおよび寛解の長さを延長することができる。
【0025】
本発明の一つの望ましい実施態様では、ヒアルロン酸亜鉛溶液は、膀胱内に投与される。
【0026】
他の所望の実施態様では、ヒアルロン酸亜鉛溶液の膀胱内投与は、特に間質性膀胱炎を患っている患者の場合には膀胱のバルーン拡張術と組み合わされる。ヒアルロン酸亜鉛溶液はカテーテルを介して膀胱内に投与され、次いでバルーンを用いて膀胱の水圧拡張術(hydrodilatation of bladder)が行われる。
【0027】
間質性膀胱炎の症状は膀胱容量の減少が含まれている。病気が進行するにつれ膀胱壁の弾力性は悪化している。膀胱の水圧拡張術は泌尿器科で一般的な方法である。本発明の方法は、膀胱の拡張術と組み合わせるヒアルロン酸亜鉛溶液の投与を含む。バルーンがいっぱいにされた後、膀胱内のヒアルロン酸亜鉛溶液は、圧力下に入る。溶液は、膀胱壁とバルーンの間にとどまる。膀胱内の圧力が、尿が膀胱に入ってくるのを抑制し、従ってその溶液の濃度は減少しない。この方法のさらなる利点は、膀胱壁の表面が拡張することで、粘膜はより薄くなり、有効成分は粘膜のより深い層に拡散することができる。治療中、カテーテルが膀胱に挿入されそして残尿の排出後、有効成分の溶液は、同じカテーテルを介して膀胱内に導入される。次にカテーテルが除去され、膀胱の拡張術に適用可能なバルーンが膀胱に挿入される。いっぱいになったバルーンは、有効成分の溶液を膀胱壁に一貫して分散させるのを促す。
【0028】
膀胱拡張術にも適用可能な本発明に係るバルーンカテーテルは、プラスチックのカテーテルとカテーテルの端にある、薄く球状の(いっぱいになった際)、有利には5cmの長さのバルーンよりなるものであってよい。
【0029】
本発明の医薬組成物は有利には溶液でありおよびヒアルロン酸亜鉛の濃度が0.01〜5mg/mlである。ヒアルロン酸亜鉛の溶液は、いくつかの方法で調製することができる。
【0030】
溶液は、固体ヒアルロン酸亜鉛を滅菌水で溶解させることによって調製することができる。他の薬剤(等張剤、防腐剤)も溶液に添加できる。
【0031】
溶液は、またヒアルロン酸ナトリウムの水溶液からin situで調製することもできる。
【0032】
適当な亜鉛化合物が、ヒアルロン酸ナトリウムの水溶液に添加される場合、亜鉛イオンはナトリウムイオンと置換してヒアルロン酸亜鉛溶液が生じる。上述した薬剤もまた、この溶液に添加できる。
【0033】
本発明に係る医薬組成物は、適当な液体担体例えば無菌水性溶媒中に、ヒアルロン酸亜鉛錯体有効成分を含んでいる。それはまた、例えば塩化ナトリウムまたはソルビットのような水溶性等張剤ならびに、他の薬剤例えば、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、メチルパラベン、ポリビニルアルコール、フェニルエチルアルコールのような防腐剤、および炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムのような緩衝剤を含むことができる。
【0034】
溶液中での上記の非活性薬物の濃度は0.001〜5質量%の間で変化させることができる。
【実施例】
【0035】
以下の実施例は、本発明の単なる例示であり、いかなる場合も本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではなく、従って本発明に包含される多くの変更および同等の内容は本開示を読めば当業者にとって明らかであろう。
【実施例1】
【0036】
100mlのフラスコに0.20mgのヒアルロン酸ナトリウム(欧州薬局方試薬(Reag.Ph.Eur.))を秤量した後、再蒸留水で調製した0.10mol/L濃度の塩化亜鉛溶液の5.0ml(注射用水、パイロジェンフリー、無菌)を加え、次いで容積が50mlになるまで再蒸留水で満たす。次に、1.00mol/L濃度のソルビトール溶液の23.5mlを添加する(溶液は再蒸留水で調製されている)。続いて、容積が100mlになるまで再蒸留水で満たす。最後に、溶液をメンブランフィルターで濾過する。
【0037】
動物モデルの研究
実験の2つのシリーズは、膀胱壁の再生におけるヒアルロン酸亜鉛溶液の有効性を評価するために設計された。間質性膀胱炎において膀胱壁内に起こる変化のモデルとして、第1のシリーズの実験病理学的プロセスが提供される。実験の第2シリーズでは、膀胱の急性炎症プロセスがモデル化される。
【実施例2】
【0038】
間質性膀胱炎のモデル
実験は、20匹の雌のホワイトラットで行われた。間質性膀胱炎における膀胱壁内に起こるのと同様の実験病理学的プロセスがモデル化された。凍結破壊(cryodestruction)を、膀胱内に引き起こした。液体窒素を含浸させたタンポンは、膀胱に導入され20秒間保持されて、間質性膀胱炎を誘発した。
【0039】
次いで、動物を3つのグループに選定した:
・ グループ1:ラットは凍結破壊後の48時間後に、一度だけ処理された。ヒアルロン酸亜鉛溶液(実施例1に従う)の1mlが膀胱内に導入され、30分間保持された。
・ グループ2:動物は、第一のグループの動物と同じ処理を受けたが、3回(3日間連続で)受けた。
・ グループ3:3匹の対照動物は凍結破壊後の処理を受けなかった。
【0040】
次に、ラットをチオペンタールナトリウムの過剰摂取で殺し、膀胱を摘出した。組織学的研究のために、試料は10%緩衝ホルマリンで定着され、そして標準的な方法で処理された。試料は、トルイジンブルーで染色した。トルイジンブルーは損傷した粘膜をよく染色することができ、変色性は、組織の損傷の程度に依存する。対照動物に関する組織学的研究では、粘膜潰瘍、病巣周囲の領域における多形核白血球を伴うリンパ組織球性浸潤、および微小循環系血管の顕著な血管拡張を示した。トルイジンブルーで染色した試料は、結合組織の変色性を示した。電子顕微鏡の研究では、横紋構造の損失を伴うコラーゲン線維の破壊を示した。上記の形態学的変化は、間質性膀胱炎の状況に相当している。
【0041】
処理された動物の組織学的研究では、最も顕著な有益な変化が結合組織で起こった。これらの変化は、1回のヒアルロン酸亜鉛溶液による処理後著しかった。3回にわたるヒアルロン酸亜鉛溶液の投与は、さらに結合組織の変化を起こした。
【0042】
1回処理した動物の場合、電子顕微鏡所見は、コラーゲン線維の安定化とそれらの横紋構造の部分的な回復を示す。3回処理した後、コラーゲン線維の安定化がより顕著でありおよびそれらの横紋構造の回復は完全であった。
【実施例3】
【0043】
急性細菌性膀胱炎モデル
実験は、16匹の雌のホワイトラットで行われた。大腸菌E.coli培養液(10CFU/ml)1.0mlの注射(圧力下)によって膀胱の急性炎症を引き起こさせた。
【0044】
次いで、動物を3つのグループに選定した:
・ グループ1:ラットはE.coliの注射後48時間後に一度だけ処理された。ヒアルロン酸亜鉛溶液(実施例1に従う)の1mlが膀胱内に導入され、30分間保持された。
・ グループ2:動物は第一のグループの動物と同じ処理を受けたが、3回(3日間連続で)受けた。
・ グループ3:3匹の対照動物は凍結破壊後の処理を受けなかった。
【0045】
次に、ラットをチオペンタールナトリウムの過剰摂取で殺し、膀胱を摘出した。組織学的研究のために、試料は10%緩衝ホルマリンで定着され、そして標準的な方法で処理された。試料は、トルイジンブルーで染色した。
【0046】
対照動物における組織学的研究は、次のような変化を示した:
・ 膀胱壁全層の顕著な浸潤
・ 微小循環系血管の血管拡張
・ 浮腫
・ 膀胱上皮およびその結合組織の局所的破壊
【0047】
トルイジンブルー染色試料の顕微鏡研究では、結合組織において大幅な変色性を示した。
【0048】
処理した動物の場合における電子顕微鏡の所見は、ヒアルロン酸亜鉛処理が、グルコサミノグリカンの安定化を示す、コラーゲン線維を顕著に安定化させ、浮腫を減少させおよび変色性を減少させることを検証した。
【0049】
ヒアルロン酸亜鉛処理はまた、両方のモデルで上皮形成プロセスに好影響を与えた。一回投与処理した後、辺縁上皮形成の発現は、対照動物に比べて14.35%高かった。反復処理では、さらに21.51%に差が増加した。
【0050】
臨床試験
この研究のための試験対象患者基準は、以下を含む
1. 女性
2. 年齢>18歳
3. 少なくとも6ヶ月間の尿意切迫および排尿回数の増加または骨盤痛
4. 少なくとも一日に7回の排尿または排尿刺激または骨盤痛(ビジュアルアナログスケールで測定)
5. 麻酔下、点状出血(glomerulation)および血液流出(bloody effluent)を伴う60〜80cmHO圧力における水圧拡張術
6. 無菌尿培養
【0051】
本研究の除外基準は、以下を含む:
1. 尿の平均量が150ml以上である
2. 泌尿生殖器系の結核
3. 良性または悪性の膀胱腫瘍
4. 研究への登録30日以内に間質性膀胱炎の薬の投与または積極的な治療を受けている患者
5. 1週間以内に膀胱にも影響する薬を服用した患者
6. 妊娠、授乳
7. 卵巣癌、子宮癌および膣癌
8. 膣感染症
9. 3ヶ月以内に細菌性膀胱炎
10. 3ヶ月以内に活動性ヘルペス
11. 既往症のシクロフォスファミド(cyclophosamide)治療
12. 放射線膀胱炎
13. 神経因性膀胱機能障害
14. 3ヶ月以内の膀胱の炎症
15. 膀胱拡張または切除の手術
【0052】
ヒアルロン酸亜鉛処置の効果は、ビジュアルアナログペインスケールを用いておよび尿部分量を測定して評価される。
【実施例4】
【0053】
膀胱内へのヒアルロン酸亜鉛溶液の投与
8人の患者を処置した。
【0054】
膀胱カテーテルを膀胱に挿入し、膀胱内の残尿を排出した後、ヒアルロン酸亜鉛溶液(実施例1による)10mlを膀胱内に導入し、1〜1.5時間保持した。処置は患者の状態に応じて3から5週間にわたって毎週繰り返した。2人の患者は、症状の改善が報告されなかった。他の6人の患者は、切迫と回数だけでなく排尿における骨盤痛のような個別の症状の改善が、最初の処置後数時間で報告された。それはビジュアルアナログペインスケールにおいて2〜3のスコアが減少することを意味する。このうち2人は、その後に続く処置後、さらに2から3のスコアの減少を報告し、この症状の改善が1〜2ヶ月続いた。このうち4人は自分の症状の100%の改善を報告した。月に一度の処置でその状態は永続的になった。
【実施例5】
【0055】
併用療法:膀胱内へのヒアルロン酸亜鉛溶液投与および膀胱拡張術
ヒアルロン酸亜鉛の投与を膀胱のバルーン拡張術と併用した。処置後または処置前に患者は、上述の実施例に従って、何回か膀胱内にヒアルロン酸亜鉛溶液を受ける。膀胱カテーテルを膀胱内に挿入して膀胱の残尿を排出し、次いで、ヒアルロン酸亜鉛溶液(実施例1による)の20mlを膀胱内に導入する。その後、カテーテルを除去し、バルーンカテーテルを膀胱に挿入した。その後、バルーンは図1に示す装置を用いていっぱいにされた。
【0056】
満たんにした後、膀胱内のヒアルロン酸亜鉛溶液を圧力下においた。膀胱の拡張のため、その表面は拡張しそして有効成分が粘膜のより深い層中に受動的に拡散することができる。副作用(例えば、膀胱壁の損傷など)を避けるために、膀胱壁の圧力をすべての処置をとおして測定した。圧力を80HOcmまで増加させ、10分間保持した。
【0057】
上記の処置は10人の患者で行われた。併用療法の数日後、患者は100%の痛みの改善を報告した。膀胱拡張術8〜9日後、膀胱の容量が大幅に増加し、永続的に保持された。
【0058】
2人の患者の症状の改善が図2〜3に示される。曲線の一つが痛みの改善を示し、もう一方の曲線は、尿部分の量の変化を示している。併用療法の日付とヒアルロン酸亜鉛溶液の単独投与は、図表上に割り当てられている。図表によれば、ヒアルロン酸亜鉛療法のみでは痛みを減少させることができるが、膀胱の容量を増加させることができないことは明らかである。3ヵ月後、第二の患者(図3)は再度併用療法を受けた。我々は、結果が再現できることを見いだした。
【実施例6】
【0059】
膀胱内に投与した細胞増殖抑制薬剤によって誘発される化学物質性膀胱炎の治療
処置は、実施例5に記載したものと同じにした。悪性腫瘍のため膀胱切除手術を受けた2人の患者に処置をした。手術後、彼らは、膀胱内に細胞増殖抑制薬剤を受けた。細胞増殖抑制剤治療後の彼らの症状は間質性膀胱炎の症状と非常に類似していた。
【0060】
最初の処置(実施例5に記載した)後の患者はほぼ100%の症状の改善を報告した。ビジュアルアナログペインスケールのスコアは80%減少し、そして平均尿部分量が40〜50%増加した。
【0061】
処置の効果は次の4〜6ヶ月間に永続的に保持された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における泌尿生殖器系のグルコサミノグリカン(GAG)層の異常や欠損に関連する病気の治療および予防のためのヒアルロン酸亜鉛錯体を含む医薬組成物。
【請求項2】
膀胱炎の治療のための請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
間質性膀胱炎の治療のための請求項1ないし2のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項4】
溶液の形態である請求項1ないし3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
溶液の濃度が0.01〜5mg/mlである請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
溶液の内圧が50〜80HOcmである請求項4ないし5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
哺乳動物における泌尿生殖器系のグルコサミノグリカン(GAG)層の異常や欠損に関連する病気の治療および予防のための医薬の製造におけるヒアルロン酸亜鉛錯体の使用。
【請求項8】
前記病気が膀胱炎であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記病気が間質性膀胱炎であることを特徴とする請求項1ないし2のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
ヒアルロン酸亜鉛錯体を含む医薬組成物を投与することによる、哺乳動物における泌尿生殖器系のグルコサミノグリカン(GAG)層の異常や欠損に関連する病気の治療および予防の方法。
【請求項11】
組成物が膀胱内に膀胱内投与された後、必要に応じて膀胱のバルーン拡張術が続く請求項10に記載の方法。
【請求項12】
医薬組成物が溶液の形態である請求項10ないし11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
溶液の濃度が0,01〜5mg/mlである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
溶液の内圧が50〜80HOcmである請求項12ないし13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の医薬組成物、膀胱内投与に適用可能なカテーテルおよび必要に応じて膀胱拡張術に適用可能なバルーンを含むキット。
【請求項16】
キットが膀胱拡張術に適用可能なバルーンを含むことを特徴とする請求項15に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−511504(P2013−511504A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539417(P2012−539417)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/HU2010/000125
【国際公開番号】WO2011/061554
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(591180314)リヒター ゲデオン ニルバーノシャン ミーケデーレスベニュタールシャシャーグ (33)
【Fターム(参考)】