説明

膜ろ過装置の運転制御方法

【課題】原水の性状変動がある場合にも常に最適のタイミングで逆洗を実施し、膜閉塞に至ることを防止することができる膜ろ過装置の運転制御方法を提供する。
【解決手段】膜ろ過運転工程中に原水の水質を水質測定手段7により測定し、演算手段8により膜面への汚濁負荷を演算し、その汚濁負荷をパラメータとして逆洗工程に移行する。汚濁負荷としては、原水中の粒子濃度の測定値から演算した粒子負荷あるいは、原水のE260の測定値から演算した有機物負荷を用いることができる。これらの汚濁負荷により膜閉塞を予測できるので、事前に逆洗を実施して膜閉塞を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は上水場などで使用されている膜ろ過装置の運転制御方法に関するものであり、特に膜ろ過運転工程から逆洗工程への移行タイミングを適切に決定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上水場その他で使用されている膜ろ過装置は、膜ろ過運転工程と逆洗工程とを繰り返す方法で運転されているのが普通である。すなわち、膜ろ過運転を継続する間に膜表面に堆積した閉塞物を、ろ過水による逆洗操作によって洗浄することを繰り返している。膜ろ過運転工程から逆洗工程へ移行するタイミングは、一般的にタイマーによる時間制御か、膜差圧制御によって決定されている。
【0003】
図1はタイマー制御の場合の洗浄パターンを示すグラフであり、膜ろ過運転の開始から一定時間が経過する毎に逆洗工程に移行する。また図2は膜差圧制御の場合の洗浄パターンを示すグラフであり、運転開始時からの膜差圧の上昇を測定し、所定の圧力まで上昇した時点で逆洗工程に移行する。なお特許文献1には浸漬型の膜ろ過装置の運転制御に関する記載があるが、やはり膜差圧制御の一類型に属するものである。
【0004】
ところが、タイマー制御は原水の性状変動に対応することができず、急激な膜差圧の上昇を引き起こすことがあった。また膜差圧制御は原水の性状変動にある程度までは対応できるものの、膜面が閉塞した結果である膜差圧の上昇に基づいて逆洗を実施するため、原水性状が急激に悪化した場合などには対応し切れず、膜閉塞に至ることがあった。このような事態に至ると、特に浄水場では必要な供給水量を確保できなくなるおそれがある。
【特許文献1】特開2003−53159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、原水の性状変動がある場合にも常に最適のタイミングで逆洗を実施し、膜閉塞に至ることを防止することができる膜ろ過装置の運転制御方法を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、膜ろ過運転工程中に原水の水質を測定して膜面への汚濁負荷を演算し、その汚濁負荷をパラメータとして逆洗工程に移行することを特徴とするものである。本発明において汚濁負荷としては、原水中の粒子濃度の測定値から演算した粒子負荷あるいは、原水のE260(260オングストロームの紫外線吸光度)の測定値から演算した有機物負荷を用いることができる。
【0007】
そして具体的には、上記の汚濁負荷の積算値が設定値を超えたときに逆洗工程に移行する方法、汚濁負荷の変化率が設定値を超えたときに逆洗工程に移行する方法を採用することができるが、従来からのタイマー制御や膜差圧制御と組み合わせた制御を行うことも可能であることはいうまでもない。
【発明の効果】
【0008】
本発明の膜ろ過装置の運転制御方法によれば、膜ろ過運転工程中に原水の水質を測定して膜面への汚濁負荷を演算して膜面の閉塞状態を予測し、その汚濁負荷をパラメータとして逆洗工程に移行する。このため膜ろ過運転工程中に原水性状の急激な変動があっても膜面の閉塞に至る前に逆洗を行うことができ、膜閉塞に至ることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図3は本発明の実施形態を示す図面であり、1は原水槽、2は膜ろ過モジュール、3はろ過水槽である。膜ろ過運転工程中は原水がポンプ4により膜ろ過モジュール2に供給され、ろ過水はろ過水槽3に貯留されたうえで後段に供給される。また逆洗用ポンプ4を備えた逆洗ライン5が設けられており、逆洗工程に移行したときには逆洗水槽6に汲み上げられたろ過水を逆洗用ポンプ9により膜ろ過モジュール2のろ過水側に打込み、逆洗を行えるようになっている。なおこの実施形態では出願人が製造している膜面の細孔径が0.1μmのモノリス型のセラミック膜を使用したが、膜の構造及び材質は特に限定されるものではなく、平膜であっても有機膜であっても差し支えない。
【0010】
上記の構成は従来と同様であるが、本発明においては膜ろ過モジュール2の前段に原水の水質測定手段7を設置し、膜ろ過運転工程中に原水の水質を測定する。原水の水質測定手段7としては、原水中の粒子濃度の測定器、あるいは原水のE260(260オングストロームの紫外線吸光度)を測定できる測定器を使用する。これらの測定器自体は市販されているものを使用することができる。粒子濃度の測定器は原水中の懸濁粒子(例えば1〜3μmの懸濁粒子)を光学的に測定するものであり、E260は原水中の有機物の二重結合を検出し、原水に含まれるフミン質などの有機物量を測定するものである。
【0011】
水質測定手段7の測定値は演算手段8に入力され、演算手段8では膜面への汚濁負荷を演算する。粒子濃度の測定値に基づく場合、汚濁負荷は、粒子負荷=粒子濃度×膜ろ過流量×ろ過時間として積算することができ、E260の測定値に基づく場合、汚濁負荷は、有機物負荷=E260×膜ろ過流量×ろ過時間として積算することができる。なお粒子濃度とE260とは必ずしも一致しないが、図4に示すように類似する挙動を示すことを確認した。
【0012】
上記のように演算された膜面への汚濁負荷は図5に示すように膜差圧挙動と強い相関を示すため、汚濁負荷に基づいて膜差圧上昇を予測することができる。そこで、汚濁負荷の積算値が設定値を超えたとき、演算手段8から逆洗信号を発して逆洗工程に移行すれば、膜閉塞に至る前に膜面から閉塞物を除去することができる。図6はその様子を模式的に示したグラフであり、粒子負荷あるいはE260負荷が上昇すると逆洗周期が短くなる。
【0013】
また、粒子負荷あるいはE260負荷の変化率が設定値を超えたときに逆洗工程に移行する制御を行わせることも可能である。この場合には単位時間当たりの汚濁負荷の上昇勾配が閾値を超えたときに、演算手段8から逆洗信号を発して逆洗工程に移行する。図7にその様子を模式的に示す。
【0014】
このほか、汚濁負荷の積算値あるいは変化率を、従来からのタイマー制御や膜差圧制御と組み合わせた制御を行うことも可能である。例えば汚濁負荷の積算値あるいは変化率が閾値に達していなくても、現実に膜差圧が上昇しておれば逆洗を行うべきである。
【0015】
上記のように、本発明によれば原水の汚濁負荷に基づいて膜面の閉塞を予測することができるので、原水の性状変動がある場合にも常に最適のタイミングで逆洗を実施し、膜閉塞に至ることを防止することができる。
【実施例】
【0016】
ある浄水処理場に設置され、原水のデッドエンドろ過を行っているセラミック膜を使用し、本発明による微粒子数をパラメータとした逆洗と、従来法による差圧逆洗とを行った。使用したろ過膜は、出願人会社製の膜孔径が0.1μmのモノリス型のセラミック膜である。逆洗の起動は、本発明方法では累積微粒子数が400万個/Lになった時点か、あるいはろ過時間が6時間を経過した時点に行い、従来法では膜差圧が10kPaを越えた時点か、あるいはろ過時間が6時間を経過した時点に行った。
【0017】
上記の2種類の方法で逆洗を行った場合の、膜差圧の変化と、微粒子数の変化とを図8のグラフに示した。またその結果を、表1にまとめた。これらの実験結果から分るように、本発明方法によれば、膜差圧の上昇率を従来法の2/3程度に抑制することができる。特に原水中の微粒子数が急上昇した場合に、従来法よりも速やかに逆洗を行うことによって、膜差圧の上昇を抑制できることが分る。
【0018】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】タイマー制御の場合の洗浄パターンを示すグラフである。
【図2】膜差圧制御の場合の洗浄パターンを示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態を示す系統説明図である。
【図4】粒子濃度とE260との関係の一例を示すグラフである。
【図5】汚濁負荷と膜差圧との関係を示すグラフである。
【図6】汚濁負荷の積算値により逆洗を行う様子を示すグラフである。
【図7】汚濁負荷の変化率により逆洗を行う様子を示すグラフである。
【図8】実施例の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0020】
1 原水槽
2 膜ろ過モジュール
3 ろ過水槽
4 ポンプ
5 逆洗ライン
6 逆洗水槽
7 水質測定手段
8 演算手段
9 逆洗ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜ろ過運転工程中に原水の水質を測定して膜面への汚濁負荷を演算し、その汚濁負荷をパラメータとして逆洗工程に移行することを特徴とする膜ろ過装置の運転制御方法。
【請求項2】
汚濁負荷が、原水中の粒子濃度の測定値から演算した粒子負荷であることを特徴とする請求項1記載の膜ろ過装置の運転制御方法。
【請求項3】
汚濁負荷が、原水の260オングストローム紫外線吸光度の測定値から演算した有機物負荷であることを特徴とする請求項1記載の膜ろ過装置の運転制御方法。
【請求項4】
汚濁負荷の積算値が設定値を超えたときに逆洗工程に移行することを特徴とする請求項1記載の膜ろ過装置の運転制御方法。
【請求項5】
汚濁負荷の変化率が設定値を超えたときに逆洗工程に移行することを特徴とする請求項1記載の膜ろ過装置の運転制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−229583(P2008−229583A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76548(P2007−76548)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】