説明

膜エレメント及び膜ユニット

【課題】 膜エレメントのスペーサー部に膜エレメントの摩耗を防止する機能を付与することにより、構造を簡略化した膜ユニットを提供する。
【解決手段】 支持板12の表裏両面に分離膜11が配され、支持板の左右両側部に、隣接する膜エレメントの膜面間を所定間隔とするためのスペーサー部10が設けられた膜エレメントであって、スペーサー部10が、ゴム硬度が30〜95度の材質からなるものである。また、その膜エレメントの複数枚が、スペーサー部どうしが当接するように配列されている膜ユニットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に廃水処理および浄水処理における浸漬型膜ろ過装置として利用するのに好適な膜ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
廃水処理に適用される膜分離技術として、活性汚泥などの廃水を充填した処理槽内に膜ユニットを浸漬して、膜ユニットの透過水側をポンプで吸引することにより、あるいはサイホンなどのような水位差利用による水排出により、膜ろ過されたろ過水を得る技術が知られている。
【0003】
活性汚泥処理の場合には、処理槽内で好気性の微生物を飼育するために槽内への散気が必要である。この散気する装置を、膜ユニットの下方に据え付ければ、散気による気液混合流が膜ユニット内を上昇し、膜表面(膜面)の汚れをかきとることができるので、膜面洗浄しつつ固液分離を行うことができ、低コストでの膜ろ過運転が可能となる。この場合、通常、膜ユニットと散気装置を合わせて膜モジュールと称されている。
【0004】
膜面の汚れをかきとる気液混合流のエネルギーが高ければ、安定した運転を継続させることができる。その一方、気液混合流のエネルギーが高いと膜エレメントが大きく振動し、膜エレメントの当接した面で摩耗が発生し、膜エレメントを所定間隔で維持することができなくなり、安定した運転を持続することが困難となる。そこで、膜エレメントの摩耗を防止する手段として、図3(従来モジュールを模式的に示す斜視図)に示すように、膜エレメント3の各隙間に弾性材製の櫛歯状凸部18を上方から圧入させて設置し、膜エレメント同士の当接部分の摩耗を減少する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許3328149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来の技術では、膜エレメントの摩耗を防止する手段として膜エレメントの隙間に圧入する弾性材製の櫛歯状凸部を別途設置する必要がある。そのため、膜ユニットの上方開口部における膜エレメント間のスペースの一部を櫛歯状凸部が塞ぐので、散気による気液混合流の上昇速度が低下し、膜面洗浄の効果が低下してしまう問題がある。また、部品点数が多くなり膜ユニット製作上、効率が悪いという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、この問題点を解消し、膜エレメントの摩耗を防止する機能を既設のスペーサー部に付与することにより、散気による気液混合流の流れを阻害せず、膜面洗浄の効果を向上でき、また、部品点数を削減できる膜ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の目的を達成するために、以下に述べる構成からなる。すなわち、
(1)支持板の表裏両面に分離膜が配され、支持板の左右両側部に、隣接する膜エレメントの膜面間を所定間隔とするためのスペーサー部が設けられた膜エレメントであって、該スペーサー部は、JIS K6253に従って測定したゴム硬度が30〜95度の材質からなることを特徴とする膜エレメント。
(2)支持板の表裏両面に分離膜が配され、支持板の左右両側部に、隣接する膜エレメントの膜面間を所定間隔とするためのスペーサー部が設けられた膜エレメントの複数枚が、スペーサー部どうしが当接するように配列された膜ユニットであって、該スペーサー部は、JIS K6253に従って測定したゴム硬度が30〜95度の材質からなることを特徴とする膜ユニット。
【発明の効果】
【0008】
本発明の膜エレメントは、左右両側部のスペーサー部を、ゴム硬度が30〜95度の硬質弾性体を使用しているので、散気による隣接する膜エレメントどうしの当接部の擦れを抑制することができ、その当接部分における摩耗を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面に示す実施態様に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の膜エレメントの一実施態様を、分離膜の取付け前の状態で示す概略斜視図である。図4はこの膜エレメントを用いた膜ユニットに、散気装置を組合せた膜モジュールの一実施態様を示す概略斜視図である。また、図5はこの膜ユニットの上面を示す概略上面図である。
【0011】
本発明の膜エレメント3は、支持板12の表裏両面に分離膜11が配され、支持板12の左右両側部に、隣接する膜エレメントの膜面間を所定間隔とするためのスペーサー部10が設けられていて、このスペーサー部10は、JIS K6253に従って測定したゴム硬度が30〜95度の材質で構成されている。
【0012】
この一例を示す図1の実施態様では、支持板12の表裏両面に、シート状の分離膜11が設置されおり、支持板12の上端部にノズル形状の透過水出口17があり、左右両側部にスペーサー部10を有し、さらに、透過水出口17は、分離膜11と支持板12との間のろ過水流動空間(ろ過水室という)に、連通孔18を介して接続されている。分離膜11の外側からろ過されてろ過水室内に入ったろ過水は、連通孔18を介して透過水出口17から排出される構造である。ここで、膜エレメント3の左右両側部は、膜エレメントの水平方向の端部を指す。
【0013】
支持板12は略平板状のものであれば特に限定されない。その材質としては、ASTM試験法のD790におけるヤング率が300MPa程度以上の剛性を持つ材質であれば特に限定されるものではないが、ステンレスなどの金属類、アクリロニトリルブタジエンスチレンゴム(ABS樹脂)、塩化ビニルなどの樹脂、繊維強化樹脂(FRP)などの複合材料、その他の材質などを適宜選択、使用することができる。
【0014】
スペーサー部10は、図1に示すように支持板12の両側部に固設させて厚肉部分を形成させた膜エレメントと一体構造のものでもよいし、また、図2に示すように、膜ユニットの組立て時に、支持板の両側部を挟むように取り付ける構造(分割構造)でもよい。図5のように、この両スペーサー部10と分離膜11とで囲まれる空間に原水流路13が形成される。そのため、原水流路13の幅に応じて適宜スペーサー部10の厚みが設定される。原水流路13の幅は特に限定されないが、原水流路13内を流れる原水の流速が0.1〜1.5m/秒となるように設定するのが好ましい。
【0015】
スペーサー部10は、膜エレメント3の左右両側部の全長に渡って設置しても良いし、また断続的に設置しても良い。全長に渡って設置する場合には、膜エレメント各部を均等に固定することができ、また断続的に設置した場合には、膜エレメントの重量を低減することができる。例えば、各原水流路13に8リットル/分以上のエア33を流す場合、全長に渡ってスペーサー部10を設置するのが好ましい。
【0016】
また、スペーサー部を構成する材質は、少なくとも隣接する膜エレメントと当接する面がJIS K6253に従って測定したゴム硬度が30〜95度の材質であれば特に限定されるものではなく、スペーサー部の全体が、JIS K6253に従って測定したゴム硬度が30〜95度の材質であってもよい。
【0017】
このスペーサー部を構成するJIS K6253に従って測定したゴム硬度が30〜95度の材質としては、例えば、そのようなゴム硬度をもつ硬質エラストマー樹脂が挙げられる。
【0018】
このスペーサー部10の材質と支持板12の材質を同じものを選択した場合、スペーサー部10はエレメントと一体のものとすることが容易になる。また、スペーサー部10の材質としてオレフィン系熱可塑性エラストマーまたはスチレン系熱可塑性エラストマーを選択し、支持板12の材質としてポリプロピレンまたはポリエチレンを選択した場合、または、スペーサー部10の材質としてエステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマーまたはウレタン系熱可塑性エラストマーを選択し、支持板12の材質としてアクリロニトリルブタジエンスチレンゴム(ABS樹脂)、ポリカーボネイト、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド樹脂またはポリアクリル酸メチルを選択した場合、2色成形法を用いて、スペーサー部が支持板の両側部に固設された一体構造成形物を製作することができるので、膜エレメントの生産工程を簡略化できる。
【0019】
分離膜11は、全周縁部が支持板12に溶着、融着、接着等の手段で固定されていて、分離膜11の外面が原水側、内面がろ過水側と仕切られている。分離膜11としては、特に限定されるものではないが、活性汚泥水の固液分離を行う場合にはその分離膜11のろ過性能を決定する細孔の孔径が0.01〜20μm程度の範囲内にある平膜状分離膜が好ましい。
【0020】
本発明の膜ユニット2は、複数枚の膜エレメント3と、これら膜エレメント3の両最外部に設置される封止パネル4とから基本的に構成され、これらを一体化させるため、図5に示すようにスペーサー部10および封止パネル4に通しボルト5を通すための貫通孔を設置し通しボルト5を用いて締結しても良いし、図6に示すように封止パネル4に通しボルト5を通すための貫通孔を設置して通しボルト4を用いて締結しても良い。ここで、複数枚の膜エレメント3の両最外部とは、膜エレメント配列方向の両端側を指す。複数枚の膜エレメント3は隣り合った膜エレメントのスペーサー部10どうしを当接させつつ配列される。
【0021】
封止パネル4は、配列させた膜エレメント3の最外部を覆う板状のものであり、通しボルト5により一体化させる場合には通しボルト用の貫通孔が設けられている。膜ユニット2における各膜エレメント3間の原水流路13は略均一な幅であるのが好ましいので、封止パネル4の内側の面にも膜エレメント間と略同じ幅の原水流路13が形成されるように、図5に示すように、封止パネル4の内面側の左右両側部(膜エレメントと当接する側)にスペーサー部を設置するのが好ましい。封止パネル4の材質は特に限定されず、支持板12と同様の材質を適宜選択することができる。
【0022】
通しボルト5は、封止パネル4および複数枚の膜エレメント3を貫通させることにより一体化し、固定できるものであれば、特に限定されるものではない。膜ユニット2の締付力や重量に応じて、適宜、通しボルトの本数やボルト径を設定することができる。通しボルト5を固定する際には、両端にナット8を設置して固定するのが好ましい。
【0023】
図4は、図2の膜エレメント3を用いた膜ユニット2に、散気装置を組み合せた膜モジュール1の一例を表すものである。
【0024】
本発明の膜エレメント3を用いて組み立てた膜ユニット2の下方には、エアを噴出する散気装置7を設置し、膜モジュール1として使用に供される。この散気装置7は図4のように、膜ユニット2を積載する架台6に固定されてもよく、また別体に設置されても良い。散気装置7の配置、形態に関しても特に限定されるものではなく、複数枚の膜エレメントに均一にエアを送れるような配置であり、かつ散気孔のある形態であればよい。一例としては、複数本のパイプを膜エレメント3の下方に配置し、このパイプの上面もしくは下面に一定間隔の散気孔を設けたものがあげられる。この散気孔の孔の数、大きさなども特に限定されず、エアの量などに応じて適宜設定することができる。
【0025】
上述した膜モジュール1は、図7に示すように、被処理水31が貯留された処理槽34内に浸漬されて使用される。被処理水31が貯留された処理槽34内に膜モジュール1を浸漬し、膜モジュール1にはろ過水を吸引するための吸引ポンプ35が接続され、また、散気装置7にはエアを供給する配管33が接続されている。図7では、ろ過水を膜ユニット1から取り出すために吸引ポンプ35を使用しているが、その他に、ポンプを使用せず、処理槽34内の水面とろ過水抜き出し部分との水頭差を利用した重力ろ過も実施することができる。
【0026】
このように構成された水処理装置において、廃水などの被処理水31は、ポンプの吸引力により膜エレメント3に設置された分離膜を通過する。この際、被処理水31中に含まれる微生物粒子、無機物粒子などの懸濁物質が濾過されて被処理水31側に残留する。そして、分離膜を通過した水(ろ過水)は、支持板と分離膜との間の空間(ろ過水室)から集水路等を経て処理槽34の外部に取り出される。一方、膜ろ過を行うと同時にエアが散気装置7から噴出され、膜ユニットの原水流路内に入る。エア33の上昇によって生じる、膜エレメント3の膜面に平行な気液混合の上昇流が、膜面に堆積した濾過物を離脱させ、膜面洗浄される。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の膜ユニット装置や膜エレメントは、処理槽内に設置して水ろ過処理を行う場合に適用することでき、例えば、廃水処理や浄水処理に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の膜エレメントの一例を、分離膜の取付け前の状態で示す概略斜視図である。
【図2】本発明の膜エレメントの他の一例を、分離膜の取付け前の状態で示す概略斜視図である。
【図3】従来の膜ユニットに、散気装置を組合せた膜モジュールの一例を示す概略斜視図である。
【図4】図1の膜エレメントを用いた膜ユニットに、散気装置を組合せた膜モジュールの一例を示す概略斜視図である。
【図5】図4の膜ユニットの上面を示す概略上面図である。
【図6】本発明の膜ユニットの他の一例の上面を示す概略上面図である。
【図7】本発明の膜ユニットを使用する水処理装置を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 膜モジュール
2 膜ユニット
3 膜エレメント
4 封止パネル
5 通しボルト
7 散気装置
8 ナット
10 スペーサー部
11 分離膜
12 支持板
13 原水流路
17 透過水出口
18 櫛歯状凸部
31 被処理水
33 エア供給配管
34 処理槽
35 吸引ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持板の表裏両面に分離膜が配され、支持板の左右両側部に、隣接する膜エレメントの膜面間を所定間隔とするためのスペーサー部が設けられた膜エレメントであって、該スペーサー部は、JIS K6253に従って測定したゴム硬度が30〜95度の材質からなることを特徴とする膜エレメント。
【請求項2】
支持板の表裏両面に分離膜が配され、支持板の左右両側部に、隣接する膜エレメントの膜面間を所定間隔とするためのスペーサー部が設けられた膜エレメントの複数枚が、スペーサー部どうしが当接するように配列された膜ユニットであって、該スペーサー部は、JIS K6253に従って測定したゴム硬度が30〜95度の材質からなることを特徴とする膜ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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