説明

膜ホーミングポリペプチドにより一過性にトランスフェクトされた樹状細胞およびそれらの使用

本発明は、膜ホーミングポリペプチドと場合により少なくとも一種の追加抗原とを一過性に発現する樹状細胞(“DC”)を産生する、改良方法を提供する。これらのDCはインビボにおいてリンパ節へホーミングしうる能力を有している。一部の態様において、これらのDCは患者へ静脈内投与され、その後にリンパ節へホーミングして免疫応答を刺激しうる。本発明の方法およびDCは様々な疾患および障害の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、樹状細胞をトランスフェクトする改良方法に関する。更に詳しくは、本発明は、膜ホーミング(帰巣)ポリペプチドにより一過性にトランスフェクトされた樹状細胞を産生する方法を提供する。一部の態様において、樹状細胞は、静脈内投与後にリンパ節へ抗原を運ぶことができる。
【0002】
背景技術
50万人以上のアメリカ人が毎年癌により死亡している(1日1500人以上)。アメリカにおいては、4人に1人の死亡原因が癌である。200万人を超える癌の新しい症例が毎年診断されている(American Cancer Society,Cancer Facts and Figures 2004参照)。癌患者の効果的な治療には大きな課題がある。典型的な治療法には外科切除、外部ビーム照射療法、および/または全身化学療法がある。これらの療法は、一部の悪性腫瘍の治療において一部成功したが、その他の悪性腫瘍では満足すべき結果を出せず、それらの治療は患者に劇的で、望ましくない副作用を有することがある。
【0003】
樹状細胞ベースワクチン接種は癌療法への比較的新しいアプローチであり、一部の症例において素晴らしい成功をおさめた。樹状細胞(DC)は免疫系のプロフェッショナル抗原提示細胞であり、免疫応答を劇的に刺激するポテンシャルを有する。それらは、末梢血を含めた事実上すべての組織において前哨細胞(sentinel cells)として働き、そこではそれらが暴露されている抗原をそれらが連続的に取り込んでプロセッシングする。DCは次いで排出リンパ節へ移動し、そこでそれらは抗原をリンパ球に提示する。未成熟DCは、特に抗原摂取およびプロセッシングに優れているが、生産的T細胞応答には成熟および十分に活性化されたDCを必要とする。極めて少数の活性化DCは、ウイルス、他の病原体、および内因性の癌に対する免疫応答を生じる上で、極めて効果的である。
【0004】
樹状細胞の免疫調節能の活用は、癌の治療において非常に有望である。したがって、様々な疾患および障害を治療するDC“ワクチン”を開発するために、多くの研究が行われてきた。DCワクチンは、例えば腫瘍関連抗原などの抗原により負荷されたDCを含む。患者への投与により、DCワクチンは、負荷抗原を担持した細胞に対する免疫応答、例えばその抗原を担持した癌細胞に対する抗原特異的T細胞応答などを誘導すると考えられている。
【0005】
しかしながら、当初の結果は有望であったが、現在までDCワクチンが疾患または障害の治療に対して承認されていない。入念な研究デザインと標準化された臨床および免疫学的基準の利用が、臨床試験の結果を適正に評価するため、そして規制当局の許可に対する厳格な要件を満足する標準治療を提供するために、必要とされる(例えば、Figdor et al.(2004)Nat.Med.10:475参照)。DCベース療法に関する多くの重要なパラメーターが臨床試験においてなお評価中であり、これらのパラメーターが個別的および包括的の双方において最適化されれば、DCワクチンの効力を改善しうる可能性がある。そのため、十分に特徴化および標準化されたDCワクチンを開発および利用する必要性が認められている(例えば、Figdor et al.(2004)Nat.Med.10:475参照)。
【0006】
DCは、血液由来の単球から大量に作製され(ここでは“単球由来DC”または“moDC”と称される)、多くの第I相臨床試験および第II相臨床試験において用いられてきた。これらの大部分の試験において、DCは皮内または皮下注射により患者へ投与された(例えば、Markiewicz et al.(2004)Cancer Invest.22:417-434、Gilboa and Vieweg(2004)Immunol.Rev.199:251-263、Paczesny et al.(2003)Semin.Cancer Biol.13:439-447、Banchereau et al.(2001)Cell 106:271-274、Figdor et al.(2004)Nat.Med.10:475-480参照)。しかしながら、抗原特異的T細胞刺激が生じている末梢リンパ組織へ達するためには、DCは注射部位から排出リンパ節へ移動しなければならない。残念ながら、DCが皮内または皮下注射で投与された場合には、局所リンパ節(LN)へのそれらの移動は、最大約1%〜2%のDCが局所リンパ節へ到達するにすぎないため、非常に非効率的である(例えば、Ridolfi et al.(2004)J.Transl.Med.2:27、de Vries et al.(2003)Cancer Res.63:12-17、Morse et al.(1999) Cancer Res.59:56-58参照)。この非効率的な移動は、効率的DCワクチン接種にとって大きな障害である(例えば、Rosenberg et al.(2004)Nat.Med.10:909-915参照)。
【0007】
皮内または皮下注射投与による他の潜在的な欠点は、T細胞に及ぼす周辺組織の影響である。異なる器官のリンパ節中にあるT細胞が、体中でより全般的な分布をするよりむしろ、DCとの接触後にこの器官へT細胞を標的化するホーミングパターンを得る、というということが一層明らかとなっている(例えば、von Andrian et al.(2000)New Engl.J.Med.343:1020-1034、Robert et al.(1999)New Engl.J.Med.341:1817-1828、Campbell et al.(2002)J.Exp.Med.195:135-141、Dudda et al.(2004)J.Immunol.172:857-863、Dudda et al.(2005)Eur.J.Immunol.35:1056-1065参照)。確かに、DCが皮内またはリンパ内に注射されたDCワクチン接種戦略によれば、ほとんどの皮膚転移において効果的クリアランスをもたらした、と報告された(例えば、Nestle et al.(1998)Nat.Med.4:328-332、Thurner et al.(1999)J.Exp.Med.190:1669-1678、Banchereau et al.(2001)Cancer Res.61:6451-6458参照)。
【0008】
対象者へのDCの別の運搬システムは、リンパ節へ直接、注射することである。しかし、このアプローチは重大な危険および欠点を有する。リンパ節へ注射しうるワクチンの容量が限られ、特別な装置および経験が効果的な治療を行うためには必要とされる。操作が適正に行われないと、DCがリンパ節へ運ばれず、またはリンパ節の構造が壊されることさえある。この方法が非常に多様な結果をもたらすことは意外ではない(例えば、de Vries et al.(2003)Cancer Res.63:12-17参照)。
【0009】
これまでのところ、運搬の他の方法も無効であることが判明した。例えば、DCの静脈内注射は運搬の他の方法に伴うこれら問題の多くを克服しうるが、静脈内注射されたDCは血液からリンパ節へ直接移動できず、代わりに最初に肺、その後に肝臓、脾臓、および骨髄に蓄積する(例えば、Morse et al.(1999)Cancer Res.59:56-58参照)。この分布はTh2に傾いた免疫応答に有利であるが、この種の免疫応答は癌治療には有益でない(例えば、Fong et al.(2001)J.Immunol.166:4254-4259参照)。
【0010】
ある免疫細胞(例えば、T細胞および樹状細胞の一部のサブ集団)は、高内皮性小静脈(HEV)からリンパ節へ入れることが知られている(例えば、Yoneyama et al.(2005)Int.J.Hematol.3:204-207参照)。この移動は、E‐セレクチン、L‐セレクチン、CCR7、およびLFA‐1を含めた、様々な細胞表面タンパク質により可能となる。CCR7およびLFA‐1タンパク質は、単球由来の成熟DC(“moDC”)においても発現されるが、L‐セレクチンは発現されない。セレクチンは、特定組織への白血球ホーミングにとり重要な細胞表面分子である(Janeway,Jr.,et al.,eds.(2001)Immunobiology(5th ed.,Garland Publishing,New York)参照)。
【0011】
数種のセレクチンがあり、それら全てが共通の核構造を有しているが、異なるレクチン様ドメインをそれらの細胞外部分に有している。L‐セレクチンはナイーブT細胞において発現され、血液から末梢リンパ系組織へのそれらの移動を導くが、P‐セレクチンおよびE‐セレクチンはエフェクター細胞を周辺組織へ補充するために感染部位の血管内皮において発現される。L‐セレクチンは、血管内皮細胞の表面において発現される、血管アドレシンと称されるムチン様分子の炭水化物部分、硫酸化シアリル‐ルイスと結合する。L‐セレクチンは、リンパ節にある高内皮性小静脈(HEV)において高度に発現される末梢節アドレシン(PNAd)と結合することも知られている。
【0012】
L‐セレクチン(例えば、受理No.CAB55488またはAAH56281)は、CD62Lと称される場合もある、E‐セレクチン(例えば、受理No.AAQ67702)はCD62Eとも称される場合もある、およびP‐セレクチン(例えば、受理No.AAQ67703)はCD62Pとも称される場合もある。
【0013】
Robertら((2003)Gene Ther.10:1479-1486)は、DCがそれらの細胞表面においてキメラE/Lセレクチンタンパク質を発現するように、成熟DCがレトロウイルス形質導入により遺伝子修飾されうることを示した(米国特許第6,929,792号も参照)。Lセレクチンの結合特異性を備えながら、プロテアーゼリッチDC細胞表面からの剥落を避けるために、キメラE/Lセレクチンタンパク質はE‐セレクチンのプロテアーゼ抵抗性細胞外部分をLセレクチンの細胞内ドメインと組み合わせていた。このキメラセレクチンを発現するDCが対象者へ静脈内注射されると、それらは末梢節アドレシンと結合して、HEVからリンパ節へ移動しうる。
【0014】
しかしながら、この方法は、ヒトの治療においてその使用を妨げるいくつかの重要な欠点を有する。第一に、レトロウイルス形質導入により修飾された細胞は、特に規制上の観点から、ヒトの療法に適さない(例えば、Haviernik and Bunting(2004)Curr.Gene Ther.4:263-276参照)。レトロウイルス形質導入を用いる最大の欠点は、プロウイルスが形質導入細胞のゲノムへランダムに組み込まれ、可能性として、例えば細胞周期の制御に関与する重要遺伝子の発現を破壊しうることである。この不運な事象の周知例が、重症複合免疫不全症(SCID)に関する遺伝子治療の臨床試験において生じた。この試験では、SCID患者において欠陥のある共通γ鎖をコードした遺伝子を含有するレトロウイルスベクターで自己造血幹細胞が形質導入された、少なくとも二つの例では、プロウイルスがLMO‐2癌遺伝子に組み込まれ、患者において白血病様の症状を呈した(例えば、Buckley(2002)Lancet 360:1185-1186、Hacein-Bey-Abina et al.(2002)New Engl.J.Med.346:1185-1193、Marshall(2002)Science 298:34-35参照)。
【0015】
DCを産生する上でレトロウイルス形質導入を用いる他の欠点は、トランスフェクション効率が様々であって、非増殖単球由来のDCではなく、増殖CD34細胞由来のDCのような分裂細胞のみでレトロウイルス形質導入が用いられることである(例えば、Ardeshna et al.(2000)Br.J.Haematol.108:817-824参照)。しかしながら、CD34幹細胞の単離は時間のかかる複雑な操作であり、しかも患者に重荷であり、そのため他の代替法が多くの場合に好まれている。
【0016】
非分裂樹状細胞を形質導入するために用いられる代替法としては、レンチウイルス形質導入またはアデノウイルス形質導入がある。しかしながら、レンチウイルス形質導入は導入分子の異種発現を生じる(例えば、Dullaers et al.(2004)Mol.Ther.10:768-779、Breckpot et al.(2003)J.Gene Med.5:654-667、Sumimoto et al.(2002)J.Immunol.Meth.271:153-165参照)。アデノウイルス形質導入(例えば、Korokhov et al.(2005)Cancer Biol.Ther.4:289-294、Ophorst et al.(2004)Vaccine 22:3035-3044、Rea et al.(2001)J.Immunol.166:5236-5244参照)も導入分子の異種発現を生じ(例えば、Cho et al.(2003)Vaccine 22:224-236参照)、効率的抗癌応答の代わりに調節T細胞の誘導に至ることさえある(例えば、Lundqvist et al.(2005)J.Immunother.28:229-235参照)。
【0017】
細胞を形質導入するために用いられてきた他の方法はRNAのエレクトロポレーションである。この方法は、染色体組込みが不可能であるため、一過性のタンパク質発現のみが生じることを確保する、そのため、前記方法は細胞の性質を一過性に変えるだけである。RNAエレクトロポレーションは、ある分子の一過性の発現のみが必要である適用例、例えば血液からリンパ節へのDCのターゲティングおよびDCによる抗原の提示に、適切である。RNAのエレクトロポレーションはDCにおいて用いられていたが、結果は概して混在していた(例えば、Van Tendeloo et al.(1998)Gene Ther.5:700-707参照)。しかしながら、最適化エレクトロポレーション法が用いられると、約95%の高いトランスフェクション効率が得られる(例えば、Schaft et al.(2005)J.Immunol.174:3087-3097参照)。
【0018】
これまでのところ、RNAのエレクトロポレーションは、例えば抗原(Ag)をDCへ運ぶため、またはDC刺激能を増すためなど、限られた環境でのみ用いられてきた(例えば、Abdel-Wahab et al.(2005)J.Surg.Res.124:264-273、Dannull et al.(2005)Blood 105:3206-3213、Grunebach et al.(2005)Cancer Gene Ther.12:749-756、Cisco et al.(2004)J.Immunol.172:7162-7168参照)。これらの研究において発現されるタンパク質は、あるシグナリングカスケードに関与するシグナリングレセプターまたはタンパク質として機能性であることが示されたが、まさに低い発現レベルが報告された。しかしながら、血液から末梢リンパ節へ移動しうるDCを得るために、細胞表面においてタンパク質のかなり高い発現レベルが必要であり、このような高い発現レベルはRNAのトランスフェクションを用いて達成するには不可能ではないにしても困難であろう、と考えられてきた。
【0019】
このように、静脈内投与後にリンパ節へホーミングができ、様々な疾患および障害の治療用ワクチンとして用いられるDCを産生する方法について、希求されている。
【発明の概要】
【0020】
本発明は、膜ホーミングポリペプチドと、場合により少なくとも一種の追加抗原とを一過性に発現する樹状細胞(“DC”)を産生する、改良方法を提供する。これらのDCはインビボにおいてリンパ節へホーミングしうる能力を有する。一部の態様において、これらのDCは患者へ静脈内投与されてから、対象の抗原に対する免疫応答を刺激しうる。本発明による方法およびDCは、様々な疾患および障害の治療に有用である。
【発明の具体的説明】
【0021】
本発明は、膜ホーミングポリペプチドを一過性に発現して、インビボにおいてリンパ節へホーミングしうる能力を有した、樹状細胞(“DC”)を産生する改良方法を提供する。一部の態様において、本発明は、例えば患者への静脈内注射後に、リンパ節へホーミングしうるDCの集団を産生しうる、RNAエレクトロポレーションの改良方法を提供する。本発明の方法により産生されたDCも提供される、これらのDCはレトロウイルスを含有せず、DCによる膜ホーミングポリペプチドの発現は他の細胞表面タンパク質の発現または機能を妨げない。そのため、本発明のDCは、様々な疾患および障害の治療用ワクチンとして用いられ、静脈内注射により投与される。したがって、本発明は患者をDCにより治療する方法も提供する。
【0022】
一部の態様において、DCは膜ホーミングポリペプチドと少なくとも一種の他の抗原(ここでは、“対象の抗原”と称される場合もある)を一過性に発現するようにトランスフェクトされる。これらの樹状細胞は静脈内投与後にリンパ節へホーミングでき、それにより少なくとも一種の他の前記抗原をリンパ節へ運ぶことができる。そこで、DCは前記抗原をT細胞へ提示して、免疫応答を刺激しうる。
【0023】
本発明の改良トランスフェクション法は、凍結保存後であっても、DCの高いトランスフェクション効率および収率をもたらし、トランスフェクトされた核酸からの非常に高い発現レベルも可能にする。こうして、本発明は、膜ホーミングポリペプチドのリガンドにより被覆された表面において“係留”(即ち、“付着”)および/または“ローリング”しうるDCの能力で証明されるように、膜ホーミングポリペプチドを機能的に発現するDCを初めて提供する(例えば、実施例4参照)。したがって、一部の態様において、本発明は、膜ホーミングポリペプチドをコードするRNAにより一過性にトランスフェクトされた単離樹状細胞を提供し、前記樹状細胞はその膜ホーミングポリペプチドのリガンドにより被覆された表面においてローリングしうる。このように、一部の態様において、単離DCも提供される。
【0024】
インビトロである表面へ“係留”、“付着”、および/または“ローリング”しうるDCの能力は、静脈内投与後に血液からリンパ節へ移動しうる、インビボにおけるDCの能力と相関する。セレクチンを発現するDCについて、これらの係留、付着、およびローリング挙動は、実施例4において証明されているように、シアリル‐ルイスにより被覆された表面を用いるパラレルプレートフローチャンバーアッセイにより評価されうる(Robert et al.(2003)Gene Therapy 10:1479-1486も参照)。このように、本発明の方法は、インビトロでもまたはインビボであっても、適切なコントロール細胞と比較して、適切なリガンドにより被覆された表面において係留、付着、および/またはローリングの増加を示すDCを産生する。
【0025】
特に、“係留”または“付着”および“ローリング”とは、膜ホーミングポリペプチドをコードするRNAでトランスフェクトされた、適切な試験表面を流れる培地に懸濁しているDCが、前記表面とよく結合して、培地の流速の20%以下にある速度でローリングすることを意味する。適切な試験表面とは、導入された膜ホーミングポリペプチドが結合しうる物質またはリガンドにより被覆された表面のことであり、それはインビトロでもまたはインビボであってもよい。このように、個別DCは、それが培地の流速の20%以下にある速度で表面と結合してローリングするならば、“係留”または“付着”および“ローリング”挙動を示すと考えられる。類似条件下において、ローリングすることが観察されたコントロール細胞の数より、10倍多い細胞が試験表面の規定面と結合してローリングすることが観察されるならば、細胞の集団は“係留”または“付着”および“ローリング”挙動を示すと考えられる。このように、例えば、同様の環境下において、適切なコントロール細胞と比較して10倍多いDCが流れの20%未満の速度で1〜5dyn/cmの剪断力下シアリル‐ルイスにより被覆された表面と結合して通り過ぎるならば、DCの集団は係留およびローリング挙動を示す。
【0026】
ここで記載されたこのおよび他のアッセイにおいて、適切なコントロール細胞は膜ホーミングポリペプチドをコードするRNAによりトランスフェクトされなかったものである。このように、例えば、適切なコントロール細胞はモック‐エレクトロポレートされたDCでも、またはそれは膜ホーミングポリペプチドをコードしないRNAでエレクトロポレートされたDCであってもよい。当業者であれば、どの具体的なアッセイにも適したコントロールの選択および作製に精通している。
【0027】
本発明の改良方法は、望ましい挙動(即ち、DCが膜ホーミングポリペプチドによりトランスフェクトされ、膜ホーミングポリペプチドのリガンドにより被覆された表面を用いるパラレルプレートフローチャンバーアッセイで検定された場合の、係留、付着、および/またはローリング挙動)を示す多くのDCを提供する。このように、例えば、本発明の方法に従いトランスフェクトされた(例えば、セレクチンについてコードするRNAによりエレクトロポレートされた)DCの集団においては、コントロール集団(例えば、モック‐トランスフェクトされたDCまたはEGFPについてコードするものと無関係のRNAによりトランスフェクトされたDC)の場合より少なくとも10倍以上の細胞が、適切な試験表面(例えば、シアリル‐ルイスまたは高内皮性小静脈で被覆されたスライド)において係留、付着、およびローリングする。
【0028】
本発明のDCはリンパ節へ“ホーミング”しうる、即ち静脈内注射後に血液から少なくとも一つのリンパ節へ移動しうる。このように、本発明のDCが静脈内注射された場合、後の時点において、例えば注射時間後少なくとも1時間、2時間、4時間、8時間、18時間、24時間、48、時間またはそれ以上において、本発明のDCを少なくとも一つのリンパ節へ向かわせることが可能である。本発明のDCは、高い内皮性小静脈(“HEV”)において血液から移動しうる。
【0029】
本発明の方法は、発現が細胞の永久遺伝子修飾というよりむしろ一過性のトランスフェクションの結果である、表面レセプターの発現の結果として、改変された移動挙動を示すDC集団を初めて提供する。換言すれば、本発明の方法により産生されたDC集団は、ゲノムの継承性遺伝子修飾の必要性を避けながら、新たな望ましい特性を獲得している。このように、本発明は、様々な使用向けに可能な新規改良DCワクチンを作製する。
【0030】
本発明の方法は既知方法により産生されたものより定量的かつ定性的双方で優れたDCを提供するため、例えば転移性のメラノーマのような、以前はDCにおいて難治性であった疾患および障害を治療することが可能かもしれない。本発明は現存する癌を治療するために用いうるが、それが癌を予防するためにも用いられることは明らかであろう。本発明により得られる他の利点は、本発明のDCが単一リンパ節のみへは標的化されず、代わりに多数のリンパ節へホーミングし、DCとT細胞との接触増加、ひいては抗原特異的T細胞のより効率的な刺激を生じうると予想されることである。
【0031】
本発明により得られる更に他の利点は、本発明によるDCが静脈内注射により患者へ投与されうることである。皮内または皮下注射によるDCの投与がDCを皮膚排出リンパ節へ入れるだけであり、そのためより全身的な免疫応答を可能にするというよりむしろ、得られる免疫応答を皮膚および皮膚関連疾患および障害に向けるホーミングパターンを呈する、と報告されていた。静脈内投与は、対照的に、広範囲の組織および器官を流れるリンパ節にDCを入り込ませ、こうして皮膚に加えて器官内および周辺においても免疫応答の誘導により効率的となりうる。
【0032】
更に、本発明の方法は、DCワクチンに重要なDCの三つの特徴:成熟DC表現型(即ち、実施例1において証明されているような、CD80、CD83、CD86、CD25、HLAクラスI、およびHLA‐DRの高い発現)、正常CCR7媒介移動能の維持(実施例2において証明されているような)、および抗原特異的T細胞刺激能の維持(実施例3において証明されているような)を備えたDCを提供する。
【0033】
“樹状細胞”(DC)という用語は、様々なリンパ系および非リンパ系組織において見られる形態学的に類似した細胞型の多様な集団に関する(例えば、Steinman(1991)Ann.Rev.Immunol.9:271-296参照)。樹状細胞が最も有効で好ましい抗原提示細胞(APC)である。樹状細胞は単球または他の前駆細胞から分化でき、これら前駆体と異なる表現型を有することがある。例えば、単球はCD14抗原を発現するが、成熟樹状細胞では発現しない。しかも、成熟樹状細胞は貪食性細胞ではないが、単球は強い貪食細胞である。
【0034】
樹状細胞の樹状細胞成熟の異なる段階に特徴的な細胞表面マーカーの一部が、下記表Iでまとめられている。しかしながら、表面マーカーは成熟工程に応じて変わることがある。そのため、ここで用いられている“樹状細胞”とは、成熟樹状細胞に特徴的なマーカーの少なくとも一つを発現し、未成熟樹状細胞または単球に特徴的なマーカーの少なくとも一つを発現しない細胞に関する。例えば、成熟樹状細胞はCD83を発現するが、CD14を高レベルで発現しない。
【表1】

【0035】
成熟DCは、免疫療法により未成熟DCより現在好まれている。ただ、完全成熟DCはGM‐CSFレセプター(GM‐CSF‐R)を欠き、GM‐CSFの除去(即ち、非存在下)により安定的な成熟状態にある。成熟DCはインビトロおよびインビボでT細胞応答を誘導する際に未成熟DCより優れていることが示され、T細胞活性化および増殖に必要な全てのシグナルを提示しうる。対照的に、未成熟DCは調節T細胞を誘導し、ひいてはインビトロおよびインビボにおいて寛容性を誘導することが報告されている(例えば、Jonuleit et al.(2000)Exp.Med.192:1213、Dhodapkar et al.(2001)Exp.Med.193:233参照)。成熟樹状細胞は、インビトロまたはインビボにおいて抗原を取り込んで、それをTリンパ球へ提示する。本発明による抗原提示DCおよび/またはこれらのDCにより教育されたT細胞(即ち、これらのDCが抗原を提示した、結果的にその抗原を認識するT細胞)は、研究、診断、および療法を含めた多くの適用例を有する。
【0036】
成熟DCは組織から抽出することが困難であり、白血球の1%未満がこのカテゴリーに属することから、末梢血から成熟樹状細胞を単離することが困難である。したがって、他の供給源から成熟樹状細胞を作製させる方法に向けた多くの研究が存在する。未成熟DCがDC前駆細胞を含有した適切な組織源から単離または作製され、成熟DCを産生するためにインビトロにおいて分化される方法が開発されてきた。例えば、適切な組織源としては:骨髄細胞、末梢血始原細胞(PBPC)、末梢血幹細胞(PBSC)、および臍帯血細胞がある。好ましくは、組織源は末梢血単核細胞(PBMC)である。組織源は新鮮でもまたは凍結してもよい。一部の方法において、細胞または組織源は、対象者の細胞から容易に分離されることになる、非幹細胞または始原細胞の成長および分化を促す有効量の成長因子により前処理される。これらの方法は当業界において知られており、例えばRomani et al.(1994)J.Exp.Med.180:83およびCaux et al.(1996)J.Exp.Med.184:695-706において簡潔に記載されている。
【0037】
本発明の一部の態様においては、未成熟DCが末梢血単核細胞(PBMC)またはそのサブ集団から単離される。PBMCは密度遠心により健康ドナーの白血球搬出産物または全血から作製しうる。PBMCはインターロイキン4(IL‐4)および/またはIL‐13の存在または非存在下において有効量の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM‐CSF)により処理され、こうしてPBMCは未成熟DCへ分化する。一部の態様においては、未成熟DCを産生するために、PBMCがGM‐CSFおよびIL‐4の存在下において約4〜7日間、好ましくは約5〜6日間培養される。最初の成熟シグナルは4、5、6ま、たは7日目、最も好ましくは5または6日目に示される。加えて、GM‐CSF並びにIL‐4および/またはIL‐13が第一および/または第二シグナリングの時点で培地に存在してもよい。このような方法は当業界において公知である。
【0038】
DCは、GM‐CSFおよびIL‐4またはGM‐CSFおよびIL‐13を含有した培地での培養により、末梢血中の繁出性但し非増殖性CD14前駆体(単球)から得られる(例えば、WO97/29182号、Sallusto and Lanzavecchia(1994)J.Exp.Med.179:1109、Romani et al.(1994)J.Exp.Med.180:83、Berger et al.(2002)J.Immunol.Meth.268:131-140参照)。その他は、このアプローチで得られるDCがどちらかといえば均一であり、未成熟状態または成熟(即ち、完全に分化した)状態で産生される、と報告していた。完全成熟および不可逆的安定DCは、成熟を刺激するために、自家調製単球ならし培地を用いて得られるか(例えば、Romani et al.(1996)J.Immunol.Meth.196:137-151、Bender et al.(1996)J.Immunol.Meth.196:121参照)、または規定成熟混合物を用いて得られる(例えば、Jonuleit et al.(1997)Eur.J.Immunol.27:3135、Schaft et al.(2005)J.Immunol.174:3087-3097参照)。
【0039】
本発明のDCは、典型的にはPBMCまたは単球から作製されるが、樹状細胞は例えばCD34幹細胞のような他の細胞から作製してもよい。多くの方法が、CD34幹細胞の単離および拡張と樹状細胞へのそれらの分化に関して、当業界において知られている(例えば米国特許第5,199,942号参照)。
【0040】
CD34幹細胞は、骨髄細胞から、あるいは例えばCD4、CD8細胞(T細胞)、およびCD45細胞(panB細胞)などの不要な細胞と結合する抗体により骨髄細胞または他の供給源をパンニングすることにより単離しうる(例えば、Inaba et al.(1992)J.Exp.Med.176:1693-1702参照)。ヒトCD34細胞は、臍帯血、骨髄外植片、および動員末梢血を含めた、様々な供給源から得られる。CD34細胞の精製は、抗体アフィニティ操作により行うことができる(例えば、Paczesny et al.(2004)J.Exp.Med.199:1503-11、Ho et al.(1995)Stem Cells 13(suppl.3):100-105、Brenner(1993)J.Hematother.2:7-17、Yu et al.(1995)Proc.Nat’l.Acad.Sci.92:699-703参照)。
【0041】
CD34幹細胞は、前記細胞を適切なサイトカインとインキュベートすることにより、樹状細胞に分化させることができる。このような方法は当業界において公知である。例えば、Inaba et al.((1992)J.Exp.Med.176:1693-1702)において、幹細胞をマウスGM‐CSFとインキュベートすることによる、樹状細胞へのマウス幹細胞のインビトロ分化について記載していた。簡単に言えば、単離された幹細胞が、一日おきに約1回新鮮培地で入れ替えられる標準RPMI増殖培地において、1〜200ng/mLマウスGM‐CSF、好ましくは約20ng/mL GM‐CSFとインキュベートされる。IL‐4が類似範囲において場合により加えられる。培養約5〜7日後に、表面マーカーの発現および細胞形態で評価すると、細胞の多くは樹状である。樹状細胞は次いで蛍光活性化細胞選別装置(FACS)または当業界において、知られる他の方法により単離できる。
【0042】
ヒトCD34造血幹細胞は、前記細胞をヒトGM‐CSFおよびTNF‐αと培養することにより、インビトロにおいても分化させうる(例えば、Szabolcs et al.(1995)J.Immunol.154:5851-5861参照)。ヒトGM‐CSFが類似範囲において用いられ、TNF‐αも分化を促すためにほぼ同範囲で加えられる。場合により、SCFまたは他の増殖リガンド(例えばFlt3)がDCを分化させるために類似用量範囲で加えられる。WO95/28479号も、末梢血細胞を単離し、CD34血液前駆細胞について富化させ、次いで造血成長因子およびサイトカインの組合せにより拡張させることにより、樹状細胞を作製する工程について開示している。
【0043】
欧州特許公開EP‐A‐0922758号は、マクロファージまたは樹状細胞特徴を発現するポテンシャルを有した多能性細胞に由来する未成熟樹状細胞からの、成熟樹状細胞の産生について開示している。前記方法は、IFN‐γを含めた樹状細胞成熟因子と未成熟樹状細胞の接触を必要とする。欧州特許公開EP‐B‐0633930号は、CD1a造血細胞の形成を誘導するために、最初にヒトCD34造血細胞を(i)GM‐CSF、(ii)TNF‐αおよびIL‐3、または(iii)GM‐CSFおよびTNF‐αと培養することによる、ヒト樹状細胞の産生について開示している。米国特許公開第2004/0152191号は、樹状細胞をRU41740と接触させることによる、それらの成熟について開示している。米国特許公開第2004/0146492号は、造血幹細胞を形質転換させ、次いでGM‐CSFを含有した培地中の培養で前記幹細胞を樹状細胞へ分化させることによる、組換え樹状細胞を産生するための工程について開示している。米国特許公開第2004/0038398号は、哺乳動物の末梢血からのDCおよび単球の実質的精製集団の作製のための方法について開示している。ミエロイド細胞が哺乳動物から単離され、単球の単離サブ集団を得るためDCがこの集団から分離される。DCは次いでT細胞を除去するために抗CD2抗体でのネガティブ選択により富化される。PCT/US05/036304号は、引用することにより本明細書の開示の一部とされるが、CD40L、インターフェロン、PGE2、および場合によりTNF‐αを用いて樹状細胞を成熟させるための方法について開示している。
【0044】
当業界において知られているように、幹細胞および単球を樹状細胞に分化させるための用量範囲は概算である。異なる供給者からのサイトカインおよび同一供給者の異なるロットからのサイトカインであっても、それらの活性に違いがある。特定のサイトカインについて最適用量を決めるために用いられる技術の一つで、各サイトカインを容易に滴定しうる。
【0045】
本発明のDCは、ヒトドナーから得られる細胞から誘導しても、あるいは例えばマウスまたはイヌのような動物ドナーから得られる細胞から得てもよい。ヒトを含めた動物において樹状前駆細胞の数を増加させるために、対象者は造血を刺激する物質(即ち、造血因子)により前処理される。このような物質としてはG‐CSFおよびGM‐CSFがあるが、それらに限定されない。投与される造血因子の有効量は、前記因子が投与されている個体の細胞差を測定することにより求められる。典型的には、G‐CSFおよびGM‐CSFのような因子の用量は、細胞障害剤との処理から回復するよう個体を処理するために用いられる用量と類似している。例として、GM‐CSFまたはG‐CSFは、樹状細胞前駆体の割合を増やすために、源組織の除去前に標準用量で4〜7日間投与される。米国特許第6,475,483号は、5〜13日間にわたる1日300μgのG‐CSFの用量と4〜19日間にわたる1日400μgのGM‐CSFの用量が、樹状細胞の有意な収率につながることを開示している。
【0046】
別記されない限り、本発明の実施においては、組換え技術、微生物学、細胞生物学、生化学、および免疫学を含めた分子生物学の従来技術を用いるが、それらの全てが当業界で知られている。例えば、本発明の実施に有用な様々な技術が下記文献で記載されている:Sambrook et al.(1989)MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,2nd edition(1989)、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(Ausubel et al.eds.(1987))、the series METHODS IN ENZYMOLOGY(Academic Press,Inc.)、PCR:A PRACTICAL APPROACH(M.MacPherson et al.IRL Press at Oxford University Press(1991))、PCR 2:A PRACTICAL APPROACH(M.MacPherson,Hames and Taylor eds.(1995))、ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL(Harlow and Lane eds.(1988))、USING ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL(Harlow and Lane eds.(1999))、ANIMAL CELL CULTURE(Freshney ed.(1987))。
【0047】
ここで用いられている“トランスフェクト”または“トランスフェクション”とは、細胞への一以上の外来核酸またはポリヌクレオチドの導入に関する。トランスフェクションには、核酸またはポリヌクレオチドによりコードされたタンパク質が発現されるような導入を含む。トランスフェクション法は当業界において公知であり、様々な方法、例えばエレクトロポレーション、タンパク質ベース、脂質ベース、および陽イオンベース核酸運搬複合体を用いる方法、ウイルスベクター、“遺伝子銃”運搬、並びに様々な他の技術を含む。
【0048】
本発明の好ましい態様において、DCへ導入されたポリヌクレオチドはDCを遺伝子修飾せず、安定的に維持されない。“遺伝子修飾される”という用語は、細胞またはその子孫の遺伝子型を修飾し、可能性として細胞の表現系も変えるように、外来遺伝子または核酸配列を含有および/または発現することを意味する。換言すると、それは細胞の内在ヌクレオチドへの付加、欠失、または破壊に関する。導入ポリヌクレオチドの安定維持は、典型的には、前記ポリヌクレオチドが宿主細胞と適合する複製起点を含むか、あるいは宿主細胞のレプリコン、例えば、染色体外レプリコン(例えば、プラスミド)または核もしくはミトコンドリア染色体へ入り込むことを必要とする。
【0049】
ここで用いられている“一過性にトランスフェクトされる”とは、形質転換細胞の子孫が形質転換遺伝物質(例えば、核酸またはポリヌクレオチド)を受け継がないように形質転換された細胞に関する。遺伝物質はRNAへ転写され、遺伝物質によりコードされたタンパク質が発現される。このような発現はここでは一過性の発現と称される。通常、一過性の発現はトランスフェクトされた遺伝物質を染色体へ組み込まないことにより行われる。
【0050】
本発明の一部態様において、樹状細胞はRNAエレクトロポレーションを用いて一過性にトランスフェクトされる。通常、mRNAは、染色体でもまたは染色体外でも、細胞のゲノムの永久部分にならない。望ましいタンパク質を一過性に発現させるために用いられる他の方法も、本発明の範囲内と考えられる。前記方法は、ゲノムの永久改変を伴わず(即ち、細胞へ継承性遺伝子変化をもたらさない)、そのため例えばレトロウイルスおよびアデノウイルスのようなウイルスを用いるトランスフェクションに伴う欠点を避けられる。
【0051】
RNAエレクトロポレーションは当業界において公知であるが、既知の方法により得られる発現のレベルは、機能性レベルの表面レセプター発現でDC集団を産生しうるほど高くなかった。本発明の方法には、前記方法で産生されるDCの発現レベルがウイルストランスフェクションにより得られるレベルと類似していながら、ウイルストランスフェクションの欠点が避けられるように最適化された、RNAエレクトロポレーション法を含む。即ち、本発明の方法は、前記方法に従い処理された細胞の少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、またはそれ以上がトランスフェクションに用いられた核酸またはポリヌクレオチドの少なくとも一部を含有するように、高いトランスフェクション効率を呈する。本発明の方法は、凍結保存前または凍結保存後に、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、またはそれ以上で生存トランスフェクト樹状細胞の高収率も呈する(例えば、実施例1参照)。このように、ここで記載されたいずれかの方法により作製された成熟DCの富化集団も本発明により提供される。一部の態様において、樹状細胞はトランスフェクションおよび/または凍結保存前に成熟している。他の態様において、本発明は、適切な条件下において、本発明の富化樹状細胞集団を適切な凍結保存剤と接触させることからなる、成熟DCの富化集団を保管する方法を提供する。
【0052】
改良エレクトロポレーション法を開発するために、いくつかのパラメーターが変更および評価された。これらの実験において、エレクトロポレーションに用いられたRNAは試験タンパク質(富化GFP、または“EGFP”)をコードしていた。通常、評価される条件下において、タンパク質発現は用いられたRNAの濃度と比例していたが、60×10DC/mLの濃度まで細胞の濃度から独立していた。ヒトおよびマウス双方のDCにおいて、RNAが約150μg/mLの最終濃度、例えば約100、125、150、175、または200μg/mLの濃度において通常用いられた。ヒトDCにおいては、RNAがエレクトロポレーション前にキュベット中で細胞と約1、2、または3分間インキュベートされた。マウスDCでは、RNAがエレクトロポレーション前にキュベット中で細胞と通常プレインキュベートされなかったが、プレインキュベート工程が場合により含まれた。
【0053】
典型的には、細胞が約4〜6×10細胞/mL(ヒト)または4〜10×10細胞/mL(マウス)の濃度でフェノール‐レッドを含まないOptiMEM(Gibco-BRL,Long Island,USA)に再懸濁されたが、他の細胞濃度も用いられる。タンパク質の発現は0.5ms〜2msのパルス時間に比例していたが、2ms以上では大きな割合のヒト細胞が死滅した。マウスDCは2msのパルス時間に耐えたが、5msにおいては死滅した。平均蛍光強度(MFI)(発現EGFPの量に比例する)が電圧上昇で増したために、高電圧においては通常良かったが、高電圧においては細胞死も増えることから、用いられる電圧は他のパラメーターと比較して成功のためにさほど重要でなかった。
【0054】
本発明の改良RNAエレクトロポレーション法には、多くのDCを殺しすぎずに高い発現レベルをもたらす値への、パルス時間の最適化を含む。特に、ヒトDCの改良エレクトロポレーション条件には、Optimem培地中、室温において400V〜600Vのチャージおよび0.8ms〜2msの矩形波パルスによる4mmキュベットの使用を含んでいた。
【0055】
電界強度は、チャージをキュベットのギャップ幅で割ることにより測定される、例えば、4mmキュベットで500Vチャージの使用は125V/mmの電界強度を呈し、前記電界強度はチャージおよびキュベット幅の異なる組合せを用いても得られる。したがって、100V/mm〜150V/mmの電界強度を呈するチャージおよびキュベット幅の他の組合せ、例えば100、120、125、130、140、または150V/mmの電界強度を呈する組合せも本発明により提供される。このように、例えば、4mmキュベットの場合、改良エレクトロポレーション条件には、約400V、450V、500V、550V、または600Vのチャージおよび長さ約0.8、1、1.2、1.4、1.6、1.8、または2msの矩形波パルスを含む。
【0056】
マウスDCの最適エレクトロポレーション条件には、Optimem培地中室温にて4mmキュベットで500Vチャージ(即ち、125V/mmの電界強度)および2ミリ秒矩形波パルスの使用を含んでいた。したがって、マウスDCのエレクトロポレーションの場合、100V/mm〜150V/mmの電界強度を呈するチャージおよびキュベット幅の他の組合せ、例えば100、120、125、130、140、または150V/mmなどの電界強度を呈する組合せも本発明により提供される。このように、例えば、4mmキュベットの場合、改良エレクトロポレーション条件には、約400V、450V、500V、550V、または600Vのチャージおよび長さ約0.8、1、1.2、1.4、1.6、1.8、2、2.2、2.4、2.6、2.8、3、3.2、3.4、3.6、3.8、4、4.2、4.4、4.6、4.8、または5msの矩形波パルスを含む。
【0057】
エレクトロポレーションに用いられる矩形波パルスは指数減衰パルスと異なり、本発明の方法においては優れた結果をもたらす。指数減衰パルスの場合、通常、コンデンサーからサンプルへ放電され、電極間の電圧がピーク電圧まで急上昇し、次いで指数減衰波形で経時的に減退する(例えば、Bio-Rad Instruction Manual for the Gene Pulser Xcell Electroporation System,Bio-Rad,Munich Germany参照)。指数減衰パルスは下記式で表される:
=V〔e−(t/RC)
ここでVは、パルス後における時間=tミリ秒の電圧であり、Vはコンデンサーにおける初期電圧であり、eは自然対数の基数であり、Rは回路の抵抗であり(オームで表される)、Cはキャパシタンスである(マイクロファラドで表される)。
【0058】
矩形波パルスの場合、パルス長(即ち、細胞が電界に曝される時間の長さ)は細胞が電界に曝される時間を設定することにより直接制御される。矩形波パルスは、サンプルに放電した後、コンデンサーからのパルスをトランケートすることにより作り出せる。一部の態様において、矩形波パルスはパルスの始めよりパルスの最後に低い電圧を有する。矩形波パルスは下記式で表わされる:
In(V/V)=t/(RC)
ここで変数は上記の通りである。矩形波パルスを出せるエレクトロポレーションデバイスは市販されている。例えば、Genepulser Xcell(Bio-Rad,Munich,Germany)が用いられる。
【0059】
本発明の改良RNAエレクトロポレーション法は、RNAにより一過性にトランスフェクトされたDC集団を提供しうる。このような集団は多くの細胞、例えば、少なくとも1×10細胞、または少なくとも2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10もしくは9×10細胞、または少なくとも1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、もしくは9×10細胞、または少なくとも1×10、2×10、3×10、もしくは4×10細胞を含んでなる。一部の態様において、集団中細胞のほとんど(即ち、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、またはそれ以上)は、細胞集団における表現型変化、例えばインビボにおいてリンパ節へホーミングしうるまたはインビトロにおいてRNAがセレクチンをコードするシアリル‐ルイスにより被覆された表面においてローリングしうる能力をもたらすほど十分に高いレベルで、RNAによりコードされた少なくとも一種のペプチドを発現する。本発明のDCおよびDC集団はトランスフェクトRNAでコードされた二種以上のペプチドを発現することもある、例えば、それらは膜ホーミングペプチド、並びにT細胞へ提示される対象の抗原を発現しうる。更に、それらは対象の二種以上の抗原または対象の数種の抗原を発現しうる。
【0060】
ここで用いられている“膜ホーミングポリペプチド”とは、細胞の表面または細胞外マトリックスの表面のような他の表面に存在するリガンドと相互作用または結合しうる、細胞表面マーカーである。一部の態様において、膜ホーミングポリペプチドは高内皮性小静脈の表面に存在するリガンドと結合する。適切な膜ホーミングポリペプチドは、例えば低次リンパ節小静脈のような他の種類の血管の表面に存在するリガンドとも結合してもよい。いかなる膜ホーミングポリペプチドも、その発現がそれを発現するDCのリンパ節への移動に寄与する限り、本発明の組成物および方法で用いられてもよい。膜ホーミングポリペプチドは、トランスフェクトRNAからのその翻訳後に、更にプロセッシングまたは修飾されうる、と理解されている。
【0061】
一部の態様では、膜ホーミングポリペプチドがセレクチンである。ここで用いられている“セレクチン”とは、末梢節アドレシン(“PNAd”)に限定されないが、それを含めた特定の糖タンパク質にある糖部分と結合するポリペプチドである。PNAdは、リンパ節小静脈内皮の表面に存在する糖タンパク質および/または複合糖質のグループに関する(例えば、米国特許第5,538,724号参照)。一部の態様において、末梢節アドレシンは、シアロムチンで運ばれる硫酸化オリゴ糖を認識するモノクローナル抗体MECA‐79により規定される、このエピトープは6‐スルホ‐シアリル‐ルイスとオーバーラップしている(例えば、Rosen et al.(2005)Am.J.Pathol.166:935-944、Streeter et al.(1988)J.Cell.Biol.107:1853参照)。MECA‐79抗体はBD Biosciences Pharmingen(San Diego,CA)から市販されている。一方、PNAdはL‐セレクチンが結合するリガンドである、と規定される。L‐セレクチンは、GlyCAM‐1(Sgp50)、CD34(Sgp‐90)、Sgp200、MAdCAM‐1、PSGL‐1、PCLP、およびPCLP‐2に限定されないが、それを含めた、末梢リンパ節の高内皮性小静脈に存在するいくつかの糖タンパク質リガンドを選択的結合により認識する(例えば、米国特許第6,929,792号および第6,395,882号参照)。
【0062】
“選択的結合”とは、(例えば、L‐セレクチンのような)分子が、ELISAアッセイにより評価したところ、例えばウシ血清アルブミン(BSA)のようなコントロールリガンドに示される結合より5、7、9、10、20倍、またはそれ以上で、特定リガンドと結合することを意味する。一方、L‐セレクチンによる選択的結合は、例えば米国特許第5,484,891号において記載されているように、器官培養において35S‐サルフェートで標識されたリンパ節から無機サルフェート標識物質を沈降させるために、L‐セレクチン‐IgGキメラを用いることで検定してもよい。ここで用いられている“結合”とは、分子が互いに共有または非共有結合されていることを意味してもよい。
【0063】
このように、“セレクチン”という用語は、L‐セレクチン、E‐セレクチン、およびP‐セレクチンのような様々な形の天然セレクチンならびに修飾形のセレクチン、例えば天然セレクチンに存在するプロテアーゼ開裂部位を改変または除去するように工学処理されたものを包含する。“セレクチン”という用語は、米国特許第6,929,792号において記載されたE/Lセレクチンキメラのような機能性キメラタンパク質も包含し、異なる天然セレクチンからの部分またはドメインを組み合わせたキメラタンパク質、例えば天然ヒトE‐セレクチンの細胞外ドメインと天然ヒトL‐セレクチンの貫膜および細胞内ドメインとを含んでなるキメラ分子(“E/L‐セレクチン”)も含む(例えば、Robert et al.(2003)Gene Ther.10:1479-1486参照)。天然セレクチンの他のドメインも当業界において知られ、キメラタンパク質へ組み込める(例えば、Smalley and Ley(2005)J.Cell.Mol.Med.9:255-266参照)。ここで用いられている“キメラ”または“キメラタンパク質”は、あるタンパク質からの少なくとも一つのドメインと他のタンパク質からの少なくとも一つのドメインとを組み合わせている。前記タンパク質は天然でも、またはそれらは修飾してもよい。
【0064】
ここで用いられている単数形“a”、“an”、および“the”は、内容が明らかに別なことを示していない限り、複数形も含む。例えば、“a cell”という用語は、その混合物を含めて、複数の細胞も含む。全ての数値表現、例えばpH、温度、時間、濃度、および分子量は、範囲を含めて、明確に別記されない限り、0.1の増加で(+)または(−)に変化する概数である。
【0065】
ここで用いられている“含んでなる”という用語は、組成物および方法が、他を除外せずに、記載された要素を含むことを意味することを意図する。“から本質的になる”は、組成物および方法を規定するために用いられている場合に、組合せへの本質的に重要な他の要素の除外を表す。そのため、ここで規定されているような諸要素から本質的になる組成物は単離および精製法からの微量混入物を除外せず、薬学上許容される担体または他の常用添加物、例えばリン酸緩衝塩水、保存剤なども除外しない。“からなる”は、微量元素以外の他成分の除外、または方法については明確に挙げられたもの以外の実質的な方法の工程の除外を表す。これら移行句の各々により規定される態様も本発明の範囲内である。
【0066】
ここで用いられている“単離された”とは、自然環境から分離された、細胞の同定および使用を行えるほど十分な量で存在する細胞に関する。樹状細胞に関してここで用いられているように、それはDC源、即ちそれらが生物において見られる解剖学的部位、例えば血液などから取り出されたことを意味する。DC細胞培養物は本質的に純粋であるが、ここでの使用、例えばワクチンでは純粋でなくてもよい。
【0067】
“免疫応答”とは、広義において、何らかの物質に対するリンパ球の抗原特異的応答に関する。免疫応答を誘起しうる物質は“免疫原性”であると言われ、“免疫原”と称される。全ての免疫原が抗原であるが、全ての抗原が免疫原性ではない。本発明の免疫応答は体液性(抗体活性による)または細胞性(T細胞活性化による)である。
【0068】
“主要組織適合遺伝子複合体”または“MHC”という用語は、T細胞への抗原提示と急性移植片拒絶に必要な細胞表面分子をコードする遺伝子の複合体に関する。ヒトにおいて、MHCは“ヒト白血球抗原”または“HLA”複合体としても知られている。MHCでコードされたタンパク質は“MHC分子”として知られ、クラスIおよびクラスII MHC分子に分類される。クラスI MHC分子には、β‐ミクログロブリンと非共有結合されたMHCでコードされるα鎖から構成されている、膜ヘテロダイマータンパク質がある。クラスI MHC分子はほぼすべての核細胞で発現され、CD8T細胞への抗原提示において機能することが示されてきた。クラスI分子には、ヒトの場合でHLA‐A、B、およびCがある。クラスII MHC分子にも、非共有結合αおよびβ鎖からなる膜ヘテロダイマータンパク質がある。クラスII MHC分子はCD4T細胞への抗原提示で機能することが知られ、ヒトの場合においては、HLA‐DP、‐DQ、および‐DRを含む。
【0069】
“抗原提示細胞”(APC)という用語は、免疫系の特定エフェクター細胞により認識されうるペプチド‐MHC複合体の形で一種以上の抗原を提示することで、提示されている抗原に対する効果的細胞性免疫応答を誘導しうる細胞のクラスに関する。APCには、マクロファージ、B細胞、内皮細胞、活性化T細胞、および樹状細胞のような完全な全細胞、または天然または合成の他の分子、例えばβ‐ミクログロブリンと複合化された精製MHCクラスI分子がある。多くの種類の細胞がT細胞認識のためにそれらの細胞表面で抗原を提示しうるが、樹状細胞だけは、例えば適正な補助刺激分子との組み合わせにより、細胞障害性Tリンパ球(CTL)応答に向けにナイーブT細胞を活性化するために適した状況で抗原を提示しうる能力を有している。
【0070】
“免疫エフェクター細胞”という用語は、抗原と結合でき、免疫応答を媒介する細胞に関する。これらの細胞にはT細胞、B細胞、単球、マクロファージ、NK細胞、および細胞障害性Tリンパ球(CTL)、例えばCTL系、CTLクローン、および腫瘍、炎症、または他の浸潤物からのCTLがあるが、それらに限定されない。“ナイーブ”免疫エフェクター細胞とは、その細胞を活性化しうる抗原に曝されなかった免疫エフェクター細胞である。ナイーブ免疫エフェクター細胞の活性化には、増殖して抗原特異的武装化エフェクターT細胞へ分化するために、ペプチド:MHC複合体の認識とプロフェッショナルAPCによる補助刺激シグナルの同時運搬の双方を必要とする。
【0071】
ここで用いられている“教育された”抗原特異的免疫エフェクター細胞という用語は、既に抗原と出会った免疫エフェクター細胞である。そのナイーブ対応物とは対照的に、教育された抗原特異的免疫エフェクター細胞の活性化には補助刺激シグナルを必要としない。ペプチド:MHC複合体の認識は十分である。“活性化された”という用語は、T細胞に関して用いられている場合、細胞がもはやG0期になく、細胞毒素、サイトカイン、および細胞型に特徴的な他の関連膜結合タンパク質(例えば、CD8+またはCD4+)の一種以上を産生し始め、表面で特定のペプチド/MHC複合体を示す標的細胞を認識してそれと結合でき、そのエフェクター分子を放出しうることを意味する。
【0072】
“補助刺激分子”は、抗原提示細胞およびT細胞の表面で発現されるレセプターリガンドペア間の相互作用にかかわる。過去数年かけて蓄積された研究は、休止T細胞がサイトカイン遺伝子発現および増殖の誘導に少なくとも二つのシグナルを要することを、納得のいくように証明した(例えば、Schwartz(1990)Science 248:1349-1356およびJenkins(1992)Immunol.Today 13:69-73参照)。一つのシグナル、特異性を付与するものは、TCR/CD3複合体と適切なMHC/ペプチド複合体との相互作用により生じる。第二のシグナルは抗原特異性でなく、“補助刺激”シグナルと称される。このシグナルは、マクロファージおよび樹状細胞、いわゆる“プロフェッショナル”APCのような骨髄由来アクセサリー細胞により得られる活性として、当初定義された。
【0073】
いくつかの分子は補助刺激活性を呈するおよび/または高めることが示されていた。これらには、熱安定抗原(HSA)(Liu et al.(1992)J.Exp.Med.175:437-445)、コンドロイチン硫酸修飾MHCインバリアント鎖(li-CS)(Naujokas et al.(1993)Cell 74:257-268)、細胞内接着分子1(ICAM‐1)(Van Seventer(1990)J.Immunol.144:4579-4586)、B7.1/CD80、およびB7.2/B70/CD86(Schwartz(1992)Cell 71:1065-1068)がある。これらの分子は各々、T細胞においてそれらの同種(cognate)リガンドと相互作用することにより、補助刺激を供給するおよび/または助けるようである。補助刺激分子は、ナイーブT細胞の完全活性化を行うために、正常生理的条件下において、必要な補助刺激シグナルを媒介する。一つの例示レセプター‐リガンドペアは、APCの表面における補助刺激分子のB7ファミリーと、T細胞におけるそのカウンターレセプターCD28またはCTLA‐4である(Freeman et al.(1993)Science 262:909-911、Young et al.(1992)J.Clin.Invest.90:229およびNabavi et al.(1992)Nature 360:266-268)。他の重要な補助刺激分子はCD40およびCD54である。
【0074】
“補助刺激分子”という用語は、T細胞の表面でTCRにより結合されたMHC/ペプチド複合体と一緒に作用する場合、前記ペプチドと結合したT細胞の活性化を行う補助刺激効果を発揮する、単一分子または分子の組合せを包含している。前記用語はそのため、MHC複合体と一緒に、同種(cognate)リガンドと結合して、T細胞の表面にあるTCRが前記ペプチドと特異的に結合した場合にT細胞の活性化を生じる、B7またはAPCのような抗原提示マトリックスにおける他の補助刺激分子、その断片(単独、他の分子と複合化されている、または融合タンパク質の一部として)を包含している。“補助刺激分子”という用語は、野生型または精製補助刺激分子と同様の生物活性を有する分子(例えば、その組換え産生または突然変異タンパク質)にも関する。
【0075】
ここで用いられている“サイトカイン”という用語は、細胞において様々な効果を発揮する、例えば成長または増殖を誘導する、多数の可溶性因子のいずれか一つに関する。本発明の実施に際して単独でまたは組合せで用いられるサイトカインは、限定されないが、例えば、インターロイキン‐2(IL‐2)、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン‐3(IL‐3)、インターロイキン‐6(IL‐6)、インターロイキン‐12(IL‐12)、G‐CSF、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM‐CSF)、インターロイキン‐1アルファ(IL‐1α)、インターロイキン‐1L(IL‐1l)、MIP‐11、白血病増殖阻止因子(LIF)、c‐kitリガンド、トロンボポエチン(TPO)、およびflt3リガンドがある。サイトカインは、例えばGenzyme(Framingham,MA)、Genentech(South San Francisco,CA)、Amgen(Thousand Oaks,CA)、R&D Systems(Minneapolis,MN)、およびImmunex(Seattle,WA)のようないくつかのベンダーから市販されている。“サイトカイン”という用語は、野生型または精製サイトカインと同様の生物活性を有する分子(例えば、その組換え産生または突然変異タンパク質)も包含する。
【0076】
“ポリヌクレオチド”、“核酸”、および“核酸分子”という用語は、あらゆる長さのヌクレオチドのポリマー形に言及するために、互換的に用いられる。ポリヌクレオチドにはデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、および/またはそれらのアナログを含む。ヌクレオチドは何らかの三次元構造を有し、既知または未知の何らかの機能を発揮してもよい。“ポリヌクレオチド”という用語は、例えば一本鎖、二本鎖、および三重らせん分子、遺伝子または遺伝子断片、エキソン、イントロン、mRNA、tRNA、rRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、何らかの配列の単離DNA、何らかの配列の単離RNA、核酸プローブ、およびプライマーを含む。自然核酸分子に加えて、本発明の核酸分子には修飾核酸分子も含む。ここで用いられているmRNAは、樹状細胞において翻訳されうるRNAに関する。このようなmRNAは典型的にはキャップされ、リボソーム結合部位(Kozak配列)および翻訳開始コドン、その後に選択のペプチドまたはタンパク質についてコードする読み取り枠を有し、通常ポリAテールを含有する。
【0077】
“ペプチド”という用語は、二以上のサブユニットアミノ酸、アミノ酸アナログ、またはペプチドミメティックの化合物に関する、最広義の意味で用いられている。サブユニットはペプチド結合によりつながれてもよい。他の態様において、サブユニットは他の結合、例えばエステル、エーテルなどによりつながれてもよい。ここで用いられている“アミノ酸”という用語は、グリシンと両D‐およびL‐光学異性体、アミノ酸アナログ、およびペプチドミメティックを含めた、天然および/または非天然または合成アミノ酸に関する。アミノ酸3個以上のペプチドは、そのペプチド鎖が短ければ、オリゴペプチドと通称されている。ペプチド鎖が長ければ、ペプチドはポリペプチドまたはタンパク質と通称されている。
【0078】
本発明の方法において使用されるポリペプチドおよびタンパク質は、Perkin Elmer/Applied Biosystems,Inc.,Model 430Aまたは431A,Foster City,CA,USAにより製造されるもののような市販自動ペプチドシンセサイザーを用いて、化学合成により得られる。合成されたタンパク質またはポリペプチドは沈降され、例えば高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)により、更に精製される。一方、タンパク質およびポリペプチドは公知の組換え法を用いて得てもよい。
【0079】
ここで用いられている“発現”とは、ポリヌクレオチドがmRNAに転写され、mRNAが更にペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質に翻訳される工程に関する。このように、ここで用いられている“発現”という用語は、別記されない限り、転写および翻訳の双方を包含する。mRNAとペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の双方の発現に必要な調節要素は、当業界において公知である。“転写コントロール下”は当業界において理解されている用語であり、ポリヌクレオチド配列、通常DNA配列の転写が、転写の開始に寄与するまたはそれを促進する要素へ作動的に結合されているか否かにかかることを示す。“作動的に結合される”とは、要素が他の要素において、それらの効果を発動および/または発揮させる配置にあることを示す。例えば、双方が同一発現ベクターに含まれている場合、転写エンハンサーはプロモーターへ作動的に結合されてもよい。
【0080】
発現のために多用途クローニング部位および必要な要素を含有するベクターが当業界において知られている。環境に応じて、様々な特徴のあるベクターが用いられてもよく、当業者であれば様々な特徴およびそれらが適合する環境に精通している。ベクターは、例えば次の一部または全部を含有してもよい:哺乳動物細胞で安定的または一過性のトランスフェクタントの選択のための選択マーカー遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性)、高いレベルの転写のためのエンハンサーおよび/またはプロモーター配列(例えば、ヒトCMVの即時型遺伝子から)、mRNA安定性のための転写終結およびRNAプロセッシングシグナル(例えば、SV40から)、SV40ポリオーマ複製起点および適正なエピソーム複製のためのColE1、多用途マルチクローニング部位、並びにセンスおよび/またはアンチセンスRNAのインビトロ転写のためのプロモーター(例えば、T7および/またはSP6プロモーター)。これらおよび他の有用な要素の他の例も当業界において知られ、市販されている。例えば、一部の有用なベクターはインビトロまたはインビボにおいてRNAを転写でき、Stratagene(La Jolla,CA)およびPromega Biotech(Madison,WI)のような供給元から市販されている。一部の態様において、発現ベクターはRNAを産生するために用いられ、次いでそれが細胞集団をトランスフェクトするために用いられる。
【0081】
発現および/またはインビトロ転写を最適化するためには、当業界において知られているある修飾が必要であるかまたは役立つ。一部の態様において、インビトロ転写mRNAは安定性および翻訳の効率のために最適化される。例えば、mRNA安定性および/または翻訳効率は、mRNAに3′UTR、および/または5′UTRを含有させることにより高められる。3′UTRの好ましい例には、ヒトCD40、β‐アクチン、およびロタウイルス遺伝子6からのものがある。5′UTRの好ましい例には、CD40Lからのもの、およびHsp70、VEGF、脾臓ネクローシスウイルスRU5、およびタバコエッチウイルスの5′UTRにおける翻訳エンハンサーがある。調節要素の他の例には以下があるが、それらに限定されない。
【0082】
ベータ‐アクチンはヒト非筋肉細胞において豊富に発現される遺伝子である。ヒトβ‐アクチンプロモーターは、哺乳動物細胞系およびトランスジェニックマウスにおいて遺伝子発現を行わせるために広く用いられていた。このプロモーターを含有する構築物において、β‐アクチン3′UTR+フランキング領域の含有は、mRNA蓄積のレベルを更に高めることが証明された(例えば、Qin and Gunning(1997)J.Biochem.Biophys.Meth.36:63-72参照)。
【0083】
サルロタウイルス遺伝子6mRNAの3′UTRは、そのキャップされた非ポリアデニル化ウイルス転写物において、翻訳のエンハンサーとして機能する。前記3′UTRは、ウサギ網状赤血球溶解物において、異種リポーターmRNAの翻訳も高めることが示されていた(例えば、Yang et al.(2004)Arch.Virol 149:303-321参照)。
【0084】
ヒトhsp70遺伝子の5′UTRは、ストレス誘導の非存在下において、メッセージ安定性に劇的な影響を与えることなく、リポーターmRNAの翻訳を高めることが示されていた。エンハンサー機能がいくつかのヒト細胞系において証明されていた(例えば、Vivinus et al.(2001)Eur.J.Biochem.268:1908-1917参照)。
【0085】
マウスVEGF5′UTRはモノシストロニックリポーターRNAの翻訳を高め、IRES(内部リボソーム侵入部位(Internal Ribosome Entry Site))活性も有している。そのエンハンサー活性はラット、ハムスター、およびヒト細胞系において証明されていた。全鎖長5′UTRは1014ヌクレオチドであるが、163ヌクレオチド変異体バージョンは更に活性であることが示された(例えば、Stein et al.(1998)Mol.Cell.Biol.18:3112-3119参照)。
【0086】
脾臓ネクローシスウイルス(SNV)は鳥レトロウイルスである。ウイルス5′LTRのRU5領域は、ヒト293細胞で非ウイルスリポーターRNAの翻訳効率を刺激する(例えば、Roberts and Boris-Lawrie(2000)J.Virol.74:8111-8118参照)。
【0087】
タバコエッチウイルスRNAの143−ヌクレオチド5′リーダーは、植物および動物細胞系においてリポーターmRNAのキャップ非依存性翻訳を促進する。リーダー配列はキャップ化転写物の翻訳を更に高めることはないが、樹状細胞のキャップ非依存性CD40L発現はインビトロキャッピングに代わる非常に魅力的な選択肢である(例えば、Gallie et al.(1995)Gene 165:233-238、Niepel and Gallie(1999)J.Virol.73:9080-9088、Gallie(2001)J.Virol.75:12141-12152参照)。
【0088】
ここで用いられている“遺伝子運搬”または“遺伝子トランスファー”とは、導入に用いられる方法とかかわりのない、宿主細胞への外来ポリヌクレオチドの導入に関する。遺伝子運搬(またはトランスファー)は、宿主細胞のゲノムへ組み込まれてもよい、または宿主細胞ゲノムとは別に複製してもよい、核酸の運搬に関する。遺伝子運搬は細胞へのmRNAの導入に関するものではない。“遺伝子運搬ビヒクル”は、宿主細胞へ挿入ポリヌクレオチドを運べる、何らかの分子である。遺伝子運搬ビヒクルの例としては、例えば:リポソーム、生体適合性ポリマー(天然または合成)、リポタンパク質、ポリペプチド、多糖、リポ多糖、人工ウイルスエンベロープ、および金属粒子がある。遺伝子運搬ビヒクルの例としては、細菌またはウイルス(例えば、バキュロウイルス、アデノウイルス、およびレトロウイルス)、バクテリオファージ、ベクター(例えば、コスミドおよびプラスミド)、および様々な真核および原核宿主において発現に関して記載されてきた、遺伝子療法並びにポリヌクレオチドまたはタンパク質の産生に用いられてもよい、当業界で公知の他の組換えビヒクルも含まれる。
【0089】
いくつかのベクターは、当業界において知られ、ここで記載されているように、哺乳動物細胞への遺伝子のトランスファーを媒介しうる。“ウイルスベクター”は、インビボ、エクスビボ、またはインビトロで宿主細胞へ運ばれるポリヌクレオチドを含んでなる、組換え産生ウイルスまたはウイルス粒子として定義される。ウイルスベクターの例としては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、アルファウイルスベクターなどがある。アルファウイルスベクター、例えばセムリキ森林ウイルスベースベクターおよびシンドビスウイルスベースベクターも、遺伝子療法および免疫療法で使用のために開発されてきた。例えば、Schlesinger and Dubensky(1999)Curr.Opin.Biotechnol.5:434:439およびZaks et al.(1999)Nat.Med.7:823-827を参照。
【0090】
遺伝子トランスファーがレトロウイルスベクターで媒介される局面において、ベクター構築物はレトロウイルスゲノムまたはその一部と治療遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドに関する。ここで用いられている“レトロウイルス媒介遺伝子トランスファー”および“レトロウイルス形質導入”という用語は同様の意味を有し、細胞へ入りそのゲノムを宿主細胞ゲノムへ組み込むウイルスにより、遺伝子または核酸配列が宿主細胞へ安定的に移される工程に関する。ウイルスはその正常な感染機構により宿主細胞へ入り込めるか、またはそれが異なる宿主細胞表面レセプターまたはリガンドと結合して細胞へ入り込めるように修飾される。ここで用いられている“レトロウイルスベクター”とは、ウイルスまたはウイルス様エントリーメカニズムにより外来核酸を細胞へ導入しうるウイルス粒子に関する。レトロウイルスはRNAの形態によりそれらの遺伝情報を伝える、しかしながら、ウイルスが細胞に感染すると、そのRNAは感染細胞のゲノムDNAへ組み込まれるDNAへ逆転写され、それはプロウイルスと称される。
【0091】
二以上のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチド領域(またはポリペプチドまたはポリペプチド領域)はある割合の“配列同一性”を有してもよい。ヌクレオチドまたはアミノ酸配列で共有される配列同一性のアライメントおよび評価は、デフォルトパラメーターでBLASTアライメントプログラムを用いて決定される。BLASTプログラムは、Karlin and Altschul(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264の、Karlin and Altschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877で修正されたアルゴリズムの手法である。代わりのプログラムは、以下のデフォルトパラメーターを用いる、BLASTNおよびBLASTPである:遺伝コード=標準、フィルター=なし、鎖=両方、カットオフ=60、期待値=10、マトリックス=BLOSUM62、デスクリプション(description)=50配列、分類(sort by)=HIGH SCORE、データベース=非リダンダント,GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳+SwissProtein+SPupdate+PIR。マッチの数を最大化してギャップの数を最少化する二つの完全配列のアライメントを見出すために、Needleman and Wunsch((1970)J.Mol.Biol.48:443-453)のアルゴリズムを用いるGAPプログラムを用いても、配列は比較しうる。これらプログラムの詳細はURL ncbi.nlm.nih.gov/cgi-bin/BLASTでみられる。BLASTおよびGAPプログラムを含めた配列比較ソフトウェアは、Accelrys GCGパッケージ(バージョン11.0,Accelrys,San Diego)として市販されている。配列は、例えば少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の配列同一性のように、様々な割合の配列同一性を有する。アライメントおよび配列同一性評価は、上記のアルゴリズムまたは他のアルゴリズムを用いて、マニュアルで行ってもよい。
【0092】
アミノ酸配列またはそれをコードするヌクレオチド配列の“保守的改変”とは、類似した電荷密度、親水性もしくは疎水性、大きさ、および/または立体配置の別のアミノ酸配列をもたらすものである(例えば、Ileの代わりにVal)。比較として、“非保守的改変”とは、有意に異なる電荷密度、親水性もしくは疎水性、大きさ、および/または立体配置の別のアミノ酸配列をもたらすものである(例えば、Pheの代わりにVal)。このような修飾を行える手法は当業界で周知であり、市販キットおよびベクター(例えば、New England Biolabs,Inc.,Beverly,Mass.、Clontech,Palo Alto,Calif.から市販されるもの)でも遂行しうる。
【0093】
“単離”もしくは“精製”核酸分子、ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、またはその断片は、その自然環境においてみられるような核酸分子またはタンパク質と通常随伴または相互作用している成分を実質的または本質的に伴わない。このように、単離または精製核酸分子またはタンパク質は、組換え技術で産生された場合、他の細胞物質または培地成分を実質的に伴わず、あるいは化学的に合成された場合、化学前駆体または他の化学物質を実質的に伴わない。例えば、好ましくは、“単離”ポリヌクレオチドは、前記ポリヌクレオチドが由来する生物のゲノムDNAで前記ポリヌクレオチドに通常隣接する(タンパク質コード配列のような)配列(即ち、核酸の5′および3′末端に位置する配列)を伴わない。例えば、様々な態様において、単離ポリヌクレオチドは、ゲノムDNAで前記ポリヌクレオチドに通常隣接するヌクレオチド配列の約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kb、または0.1kb未満を含有するのみである。細胞物質を実質的に伴わないタンパク質には、混入タンパク質の約30%、20%、10%、5%、または1%未満(乾燥重量で)を有するタンパク質の調製物を含む。本発明のタンパク質またはその生物活性部分が組換え産生される場合、好ましくは培地成分は対象のタンパク質以外の化学前駆体または化学物質の約30%、20%、10%、5%、または1%未満(乾燥重量で)を占めるにすぎない。
【0094】
ポリヌクレオチドは当業界において知られたいずれかの方法により複製される。PCR技術はDNAを複製する一つの手法であり、米国特許第4,683,195号、第4,800,159号、第4,754,065号、および第4,683,202号において記載され、PCR:THE POLYMERASE CHAIN REACTION(Mullis et al.eds,Birkhauser Press,Boston(1994))およびそこで引用された参考文献においても記載されている。ポリヌクレオチドを作製する追加の方法が当業界において知られている。
【0095】
“濃縮”ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、またはその断片は、容量当たりの分子の濃度または数がその天然対応物の場合より大きい点で、天然対応物とは区別される。当業者に明らかなように、非天然ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、またはその断片は、例えばその一次配列、または他の特徴、例えばそのグリコシル化パターン、またはある他の特徴によりその天然対応物と区別されることから、それを天然対応物と区別させる“単離”を必要としない。
【0096】
“宿主細胞”、“標的細胞”、および“レシピエント細胞”という用語は、外来核酸分子、ポリヌクレオチド、および/またはタンパク質の取込みのためのベクターのレシピエントであるまたはあった、個別の細胞または細胞培養物を含めた意味である。それは単一細胞の子孫も含めた意味であり、子孫は自然的、偶発的、または意図的突然変異により元々の親細胞と必ずしも(形態またはゲノムもしくは全DNA相補性で)完全に同一でなくてよい。細胞は原核でもまたは真核でもよく、細菌細胞、酵母細胞、動物細胞、および哺乳動物細胞、例えばマウス、ラット、サル、またはヒト細胞を含むが、それらに限定されない。
【0097】
“対象者”は、例えば哺乳動物またはヒトのような脊椎動物である。哺乳動物には、マウス、サル、ヒト、飼育動物、スポーツ・アニマル、およびペットがあるが、それらに限定されない。“患者”とは、例えば癌のような特定の疾患または障害について、治療の必要な対象者である。しかしながら、正確な疾患または障害は、患者が治療される上で特定される必要はない。“コントロール”は比較のために実験で用いられる別の対象者またはサンプルである。コントロールは陽性でもまたは陰性でもよい。例えば、実験の目的が免疫応答と具体的培養条件との相関性を調べることである場合、陽性コントロールおよび陰性コントロールを用いることが通常好ましい。適切なコントロールのための基準およびパラメーターは当業界において公知であり、当業者であれば容易に決定できる。例えば、ある環境下でトランスフェクト樹状細胞に適したコントロールは、“モック‐トランスフェクト”された、例えばRNAなしでエレクトロポレートされた、同一または類似系統の樹状細胞である。一方、ある環境下においてトランスフェクト樹状細胞に適したコントロールは、対象の表現型に影響を与えないと予想される、異なるタンパク質についてコードするRNAでトランスフェクトされた樹状細胞である。
【0098】
“癌”とは、比較的自律した成長を示す、少なくとも一つの異常細胞を意味する。癌細胞は、細胞増殖コントロールの有意な喪失により特徴づけられる、異常な成長表現型を示す。癌性細胞は良性でもまたは悪性でもよい。癌は、例えば膀胱、血液、脳、乳房、結腸、消化管、肺、卵巣、膵臓、前立腺、または皮膚を含めた、様々な組織または器官の細胞に罹患しうる。癌細胞の定義には、ここで用いられているように、一次癌細胞のみならず、癌細胞原種に由来する細胞も含む。これには転移癌細胞と、癌細胞に由来するインビトロ培養物、および細胞系を含む。
【0099】
癌には、固形腫瘍、液体腫瘍、血液悪性腫瘍、腎臓細胞癌、メラノーマ、乳癌、前立腺癌、精巣癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮癌、胃癌、食道癌、膵臓癌、肺癌、神経芽腫、神経膠芽腫、網膜芽腫、白血病、ミエローマ、リンパ腫、肝癌、腺腫、肉腫、癌腫、芽腫などがあるが、それらに限定されない。固形腫瘍として通常現れる癌の種類に言及する場合、“臨床的に検出しうる”腫瘍とは、例えばCATスキャン、磁気共鳴画像化(MRI)、X線、超音波、または触診のような手法により、腫瘍塊に基づき検出しうるものである。生化学または免疫学的所見だけでは、この定義を満たす上で不十分かもしれない。
【0100】
“培養”という用語は、適切な培地における細胞のインビトロ維持、分化、および/または増殖に関する。“富化”とは、生物に存在する組織においてみられるより全細胞の多くの割合で存在する細胞を組成物が含んでなることを意味する。例えば、本発明の方法により得られるDCの富化培養物および調製物は、それらが生物で存在する組織中の割合と比較して、全細胞の高い割合で存在している(例えば、血液、皮膚、リンパ節など)。
【0101】
一部の態様において、“組成物”とは、活性剤と、不活性(例えば、検出可能な剤または標識)、または活性(例えば、アジュバント)な他の化合物または組成物との組合せを包含した意味である。“医薬組成物”または薬剤とは、活性剤と、インビトロ、インビボ、またはエクスビボにおいて診断または治療用に組成物を適したものにする、不活性または活性な担体との組合せを含んだ意味である。ここで用いられている“薬学上許容される担体”という用語は、あらゆる標準的に薬学上の担体、例えばリン酸緩衝塩溶液、水、およびエマルジョン、例えば油/水または水/油型エマルジョン、および様々な種類の湿潤剤を包含する。組成物は安定剤および保存剤も含有しうる。担体、安定剤、およびアジュバントの例に関しては、Martin REMINGTON’S PHARM.SCI.,18th Ed.(Mack Publ.Co.,Easton(1990))を参照。
【0102】
“有効量”は、少なくとも一つの有益なまたは望ましい結果、例えば高い免疫応答または医学的状態(疾患、感染など)の改善を得るために十分な量である。有効量が1回以上の投与、塗布、または投薬により投与される。適切な投薬量は、体重、年齢、健康、治療される疾患または状態、および投与経路に応じて変化する。
【0103】
一部の態様において、方法の各工程はインビボまたはエクスビボにおいて行われる。エクスビボで実施される場合、前記方法はオープンまたはクローズドシステムで実施される。細胞集団を培養および富化させるための方法およびシステムは当業界で公知である。米国特許公開第2004/0072347号の実施例1および2参照。細胞拡張のためのクローズドシステムについて記載する米国特許公開第2003/0235908号も参照。
【0104】
本発明の一部態様において、樹状細胞は、成熟DCでプロセッシングおよび/または提示されることになる、対象の一種以上の抗原で追加的に負荷してもよい。DCはそれらが未成熟またはそれらが成熟である場合に負荷され、あるいは前駆細胞が負荷され、次いで成熟負荷DCを作製するために用いられる。“負荷”または“抗原負荷”とは、抗原が樹状細胞によりT細胞へ提示されるように、それが樹状細胞に取り込まれることを意味する。一部の態様では、抗原を含有した培地で培養されることにより、樹状細胞が負荷される(“パルス”または“パルスド”と称される場合がある、例えば、Shaw et al.(2002)Infect.Immun.70:1097-1105参照)。DCは次いでMHC分子と会合して細胞表面で抗原を取込んでプロセッシングする。他の態様において、DCは抗原をコードする核酸でのトランスフェクションにより抗原で負荷され、例えばDCはそれらが発現することになる抗原をコードするRNAでエレクトロポレートされる。
【0105】
“抗原”という用語は当業界でよく理解されており、免疫原性である物質、即ち免疫原を含んでいる。抗原の使用が本発明で使用上考えられており、そのため“抗原”という用語が、自己抗原(正常または病気関連)、感染性もしくは病原体特異的抗原(例えば、微生物抗原、ウイルス抗原など)、または一部他の外来抗原(例えば、食品成分、花粉など)に限定されないが、それらを含むことは明らかであろう。例えば、抗原には、病原体、病原体溶解物、病原体抽出物、病原体ポリペプチド、ウイルス粒子、細菌、タンパク質、ポリペプチド、癌細胞、癌細胞溶解物、癌細胞抽出物、および癌細胞特異的ポリペプチドを含むが、それらに限定されない。抗原は、当業界において知られているように、生存率または免疫原性を高めるように作用することもある。“病原体特異的”抗原とは、他の病原体または病原体の群ではなく、各々特定の病原体または特定の病原体の群により産生される抗原である。病原体特異的抗原の例は、HIV特異的抗原(例えば、Stratov et al.(2004)Curr.Drug Targ.5:71-88参照)およびHCV特異的抗原(例えば、Simon et al.(2003)Infect.Immun.71:6372-6380、Encke et al.(1998)J.Immunol.161:4917-4923参照)を含めて、当業界において公知である。
【0106】
抗原は、天然でもまたは組換え産生してもよい。“抗原”という用語は二種以上の抗原の集合体にも適用され、そのため複数抗原に対する免疫応答が同時に調整されることもある。更に、前記用語には抗原の様々な異なる処方のあらゆるものを含む。“エピトープ”は免疫応答を誘起する抗原の一部(通常、表面部分またはMHC結合ペプチド)であり、ここで用いられている“抗原”という用語に通常包含される。
【0107】
抗原はポリペプチドまたはタンパク質として細胞へ運ばれ、またはそれらは抗原をコードする核酸分子またはポリヌクレオチドとして運ばれ、こうして核酸分子またはポリヌクレオチドの発現が治療される個体(インビボで運ばれる場合)または細胞培養系(インビトロで運ばれる場合)において抗原産生をもたらす。そのため、本発明の方法は、いずれか適切な方法(例えば、トランスフェクション、パルスなど)により抗原負荷DCを産生するために、一種以上の抗原または一種以上の抗原をコードするポリヌクレオチドを未成熟または成熟DCへ導入することを更に含んでなる。一部の態様では、抗原をコードするmRNAがエレクトロポレーションにより細胞へ導入される。一部の態様では、このmRNAがCD40アゴニストをコードするmRNAと一緒にまたはCD40アゴニストシグナリングと実質上、同時に導入される。
【0108】
抗原はその“天然”の形態で、即ち抗原を作製する上でまたはそれがDCと出会う環境へ入るようそれを誘導する上でヒトの介入が伴わないように運ばれる。一方または追加的に、抗原は、例えば従来のアレルギーショットまたは腫瘍溶解物で通常投与される種類の、粗調製物により運ばれてもよい。抗原は一方で実質的に精製して、例えば少なくとも約90%純粋でもよい。一部の態様において、抗原は新生物細胞または病原体または病原体感染細胞から単離または誘導されたRNAの形態により、即ちバルクで、抗原提示細胞へ運ばれる。何らかの細胞から抽出されたRNAのRT‐PCRおよびインビトロ転写に関する方法は、例えばPCT/US05/053271号において開示されている。
【0109】
抗原がペプチドである場合、例えば単離タンパク質のタンパク質開裂により、それが作製される。限定されないが、ペプシン、臭化シアン、トリプシン、キモトリプシンなどを含めた様々な開裂剤が利用される。一方、ペプチドは、好ましくは自動シンセサイザーにより、化学的に合成してもよい(例えば、Stewart et al.,Solid Phase Peptide Synthesis,2d.Ed.,Pierce Chemical Co.,1984参照)。一部の態様において、対象のペプチドをコードする核酸を作製して、望ましい条件下において(例えば、宿主細胞でまたはそれが容易に精製されるインビトロ発現系において)そのペプチドを発現させるために、組換え技術も用いられてよい。
【0110】
一部の態様において、抗原は、いかなる天然化合物とも異なる構造を有しうる。本発明のある態様において、抗原は、天然抗原のものと実質的に似ているが、天然化合物の正確な構造と一以上の違いを含む構造を有する、“修飾抗原”である。例えば、天然抗原がタンパク質またはポリペプチド抗原である場合、修飾抗原は、そのタンパク質またはポリペプチド抗原と比較して、一以上のアミノ酸の付加、置換、または欠失により天然抗原のものと異なるアミノ酸配列を有している、および/またはアミノ酸に共有結合された一以上の化学部分の付加、置換、または欠失により天然抗原における対応アミノ酸と異なる一以上のアミノ酸を含有している。一つの態様において、天然および修飾抗原は、少なくとも約75%同一である、少なくとも五つのアミノ酸の少なくとも一つの領域を共有している。当業者であればわかるように、二つのアミノ酸配列を比較してそれらの同一性の程度を調べる上で、同一アミノ酸のストレッチ(即ち、少なくとも二つの領域)間の間隔が常に正確に保たれている必要はない。天然および修飾タンパク質またはポリペプチド抗原は、少なくとも五つのアミノ酸の少なくとも一つの領域について、アミノ酸配列で少なくとも約80%の同一性、更には85%、90%、95%、または99%以上の同一性を示せる。多くは、アミノ酸配列の更に長い領域(例えば、10、20、50、100、またはそれ以上のアミノ酸を含んでなる領域)について、所定度の同一性を示すことが有用かもしれない。
【0111】
一部の態様において、DCは癌細胞または病原体、例えばHIVまたはHCVからの少なくとも一種の他の抗原を発現する。“腫瘍関連抗原”または“TAA”という用語は、癌と関連した抗原に関する。癌性細胞に対する免疫応答を誘導するまたは高めるために本発明のDCにより発現される具体的腫瘍関連抗原の例は当業界において公知であり、例えばMAGEタンパク質、MART、LAGE、NY‐ESO‐1、チロシナーゼ、PRAME、前立腺特異的抗原(PSA)、Melan-A、およびその他を含む(例えば、Santin et al.(2005)Curr.Pharm.Des.11:3485-3500、Rimoldi et al.(2000)J.Immunol.165:7253-7261、Watari et al.(2000)FEBS Lett.466:367-371、Engelhard et al.(2000)Cancer J.6 Suppl.3:S272-S280、Chakraborty et al.(2003)Cancer Immunol.Immunother.52:497-502、Romero et al.(2002)Immunol.Rev.188:81-96参照)。腫瘍関連抗原である対象の抗原の使用は、癌の治療において対象者の免疫応答の調節に有用である。そのため、一部の態様において、本発明は癌を治療するための方法を提供する。
【0112】
本発明は、例えば(a)膜ホーミングポリペプチドをコードするRNAにより一過性にトランスフェクトされ、少なくとも一種の他の抗原により負荷された、単離樹状細胞を用意し、そして(b)前記樹状細胞を患者へ静脈内投与する工程を含んでなる、患者においてリンパ組織に抗原負荷樹状細胞を運ぶための方法を提供する。一部の態様においては、他の抗原が規定され、他の態様ではそれが規定されない。抗原のペプチドまたはタンパク質の各々の同一性および長さが予め知られている場合、抗原は“規定”されている。逆に、抗原の少なくとも一つのペプチドまたはタンパク質成分の同一性および/または長さが予め知られていない場合、抗原は“未規定である”または“規定されていない”。例えば、全細胞タンパク質を含んでなる抗原(例えば、全細胞mRNAとして細胞へ提示される抗原)が未規定の抗原である。
【0113】
本発明の抗原負荷DCは、対象の抗原に対する免疫応答を対象者で誘導するまたは高める上で有用である。そのため、一部の態様において、本発明は、本発明の抗原負荷DCの有効量を対象者へ投与することを含んでなる、対象者において、免疫応答を誘導するまたは高める方法を提供する。DCは対象者にとって、同種異系でもまたは自家でもよい。DCの“有効量”は、経時的に対象者において望ましい有益な治療応答を発揮するため、または癌細胞の成長を阻止するため、または感染を阻止するために十分なものである。
【0114】
ここで用いられている、対象者で免疫応答を“誘導する”または“高める”という用語は、当業界において理解されている用語であり、対象者への抗原の導入前における免疫応答(もしあれば)と比較して、対象者への抗原の導入後に検出または測定される抗原に対する免疫応答で、少なくとも約2倍、5倍、10倍、100倍、500倍、または少なくとも約1000倍またはそれ以上の増加に関する。抗原に対する免疫応答には、抗原特異的抗体の産生および抗原と特異的に結合する分子をその表面で発現する免疫細胞の産生を含むが、それらに限定されない。
【0115】
所定抗原に対する免疫応答が誘導された(または高められた)か否かを調べる方法は当業界において周知である。例えば、固定された抗原に対するサンプル中抗体の結合が検出可能標識第二抗体(例えば、酵素標識マウス抗ヒトIg抗体)で検出されるELISAに限定されないが、それを含めた、当業界で知られている様々なイムノアッセイのいずれかを用いて、例えば、抗原特異的抗体が検出される。
【0116】
本発明の樹状細胞は、患者への投与、例えば静脈内に適した処方で提供しうる。患者への投与に適した本発明のDCは、“ワクチン”または“DCワクチン”としてここでは称される。ワクチンまたはDCワクチンは免疫応答の調節を助ける追加成分を更に含んでもよく、またはそれは患者への投与に適するように更にプロセッシングしてもよい。樹状細胞の静脈内投与の方法は当業界において公知であり、当業者であれば投与されるDCの治療効果を最大化させるために静脈内投与のパラメーターを変えられる。
【0117】
このように、多くは少なくとも一種の薬学上許容される担体と共に、いずれか適切な手法で、DCが対象者へ投与される。薬学上許容される担体の適合性は、投与される具体的組成物と組成物を投与するために用いられる具体的方法により、一部は定められる。最も典型的には、品質コントロール試験(例えば、微生物学的アッセイ、クローン原性アッセイ、生存能力試験)が行われ、一部の場合には、ジフェンヒドラミンおよびヒドロコルチゾンの投与を先行させて、細胞が対象者へ逆に再注入される。例えば、Korbling et al.(1986)Blood 67:529-532およびHaas et al.(1990)Exp.Hematol.18:94-98を参照。
【0118】
例えば、静脈内投与による非経口投与に適した処方物には、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、および処方物を所定レシピエントの血液と等張にさせる溶質を含有しうる水性等張無菌注射液と、懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、および保存剤を含有しうる水性および非水性無菌懸濁液がある。
【0119】
通常、本発明のDCは、当業者により決められるような対象者の大きさおよび総合健康度と合うように、有効用量、細胞型の毒性(例えば、LD‐50)、および様々な濃度での細胞型の副作用により決まる速度で、対象者へ投与される。投与は1回でまたは用量分割して行われる。本発明のDCは、例えば従来の放射線療法、細胞障害剤、ヌクレオチドアナログ、および生物応答調整剤を含めた、疾患または障害用の他の治療を補うことができる。
【0120】
説明のみの目的であるが、本発明のDCは次のように対象者へ投与される。血液サンプルが注入前に対象者から得られ、一部のアリコートが後の解析および比較のために保管される。通常、少なくとも約10〜10、典型的には1×10〜1×10細胞が約60〜120分間かけて70kg患者へ静脈内注入される。患者は典型的にはパルスオキシメトリーでバイタルサインおよび酸素飽和について綿密に測定される。血液サンプルは間隔をあけて採取し、解析用に保管してもよい。細胞再注入は、例えば1年間にわたりおよそ毎月全部で10〜12回の処理により、繰り返される。初回治療後は、医師の裁量により外来患者ベースで注入を行うことができる。
【0121】
本発明は、抗原ペプチドの有効性を試験しうる方法を更に提供する。最適応答を生じるアミノ酸配列を特定するために、比較される各ペプチドに対する免疫化および応答として、様々な類似ペプチドが投与される。各ペプチドに対する修飾は、例えばHLA結合親和性のような公知のパラメーターに基づき行われるか、または修飾はランダムに行われて、免疫原性ポテンシャルについて試験される。
【0122】
いずれか具体的な組成物または適用例において用いられる抗原の量は、当業者であれば容易に明らかとなるように、具体的抗原とそれが用いられる適用例の性質に依存する。
【0123】
本方法は、インビトロまたはインビボにおいて、細胞をサイトカインまたは補助刺激分子の有効量と接触させることで、更に改変しうる。これらの剤は、ポリペプチド、タンパク質としてまたは代わりにポリヌクレオチドまたはそれらをコードする遺伝子として運ばれる。サイトカイン、補助刺激分子、およびケモカインは、非純粋調製物(例えば、細胞にとり内在性または外来性のサイトカイン遺伝子を発現する細胞の単離物)としてまたは“精製”の形態で供される。精製調製物は、少なくとも約90%、95%、または少なくとも約99%純粋であることが好ましい。
【0124】
サイトカインおよび抗原の双方が個体へ運ばれる場合、それらは一緒にまたは別々に供されてもよい。それらがポリペプチドまたはタンパク質として運ばれる場合、それらは通常の封入デバイスにより、または物理的会合、例えば共有結合、水素結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用などにより運ばれる。別の態様では、双方をコードするポリヌクレオチドが供されるように、化合物が一緒に供される。一部の態様においては、サイトカインおよび抗原がペプチド結合で互いに共有結合された融合タンパク質として、双方の因子が単一の隣接ポリヌクレオチドから発現される。一方または追加的に、双方の遺伝子が同一刺激に応答して個体内で発現されるように、遺伝子が同一または対応するコントロール配列へ結合されてもよい。サイトカインおよび/または抗原の投与が、いずれか他の望ましい免疫系調節因子、例えばアジュバントまたは他の免疫調節化合物の投与と場合により組み合わされてもよい。
【0125】
T細胞を活性化するDCの能力を検定するために、T細胞が当業界において知られている操作を用いて得られてもよい。簡単には、密度勾配遠心が赤血球および好中球からPBMCを分離するために用いられる。T細胞は、カラムまたは磁気ビーズへつながれた適切なモノクローナル抗体でのネガティブまたはポジティブ選択により富化される。本発明の方法で作製された成熟DCは、当業界で知られているおよび/またはここで記載されているいずれか適切なアッセイにより測定したところ、コントロールDCよりもインビボにおいてT細胞を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、またはそれ以上良く刺激しうる。
【0126】
細胞表面マーカーは、様々な目的のために特定の細胞型を同定および/または単離する上で用いられる。例えば、ヒト幹細胞は典型的にはCD34抗原を発現する。特定の細胞型を同定および単離する方法としては、例えばFACS、カラムクロマトグラフィー、磁気ビーズでのパンニング、ウエスタンブロット、ラジオグラフィー、電気泳動、キャピラリー電気泳動、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、超拡散クロマトグラフィーなど、および様々な免疫学的方法、例えば流体またはゲル沈降反応、免疫拡散(単純または二重)、免疫電気泳動、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、免疫蛍光アッセイなどがある。一般的な免疫学的およびイムノアッセイ操作のレビューに関しては、例えばStites and Terr eds.(1991)BASIC AND CLINICAL IMMUNOLOGY(7th ed.)、Harlow and Lane,eds.(1988)ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL、Harlow and Lane,eds.(1999)USING ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL参照。
【0127】
様々な目的に用いられる抗体は、例えばモノクローナルまたはポリクローナルのように、いずれか適切な種類である、抗体はヒト、キメラ、またはヒト化である。例えばFab、Fab′、Fab2、Fab′2、および一本鎖可変領域を含めて、抗体の機能性断片または誘導体も用いられてよい。抗体は細胞培養、ファージ、またはいずれか適切な動物で産生しうる。一連の所定条件下において、適切な抗原(即ち、抗体により認識されるまたはされうる抗原)への抗体の結合を無関係な抗原または抗原混合物(即ち、抗体により認識されないと予想されるまたは認識されない抗原)への抗体の結合と比較することにより、抗体が結合の特異性について試験される。抗体が無関係な抗原または抗原混合物より少なくとも2、5、7、または10倍多く適切な抗原と結合する場合には、抗体結合は特異的であると考えられる。
【0128】
様々な技術が、タンパク質および/またはポリペプチドを検出および定量するために当業界において知られ、それにはラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合イムノソルベントアッセイ)、“サンドイッチ”イムノアッセイ、免疫放射線および/または免疫染色アッセイ、in situ イムノアッセイ(例えば、コロイド金、酵素、または放射性同位元素標識を用いる)、ウエスタンブロット解析、免疫沈降アッセイ、免疫蛍光アッセイ、およびPAGE‐SDSがあるが、それらに限定されない。フローサイトメトリーは、様々な細胞表面マーカーの存在または非存在について細胞の集団を評価するために用いられる。例えば、Givan(1992)Flow Cytometry:First Principles(John Wiley & Sons,New York,NY,USA)を参照。
【0129】
細胞の凍結保存のための方法は当業界において公知である、例えばFeuerstein et al.(2000)J.Immunol.Meth.245:15-29を参照。
【0130】
本発明の方法により誘導および拡張された樹状細胞の免疫原性と教育されたT細胞の質および量は、以下に限定されないが、それらを含めた周知の方法論により調べられる:
【0131】
51Cr‐放出溶解アッセイ:抗原特異的T細胞は、ペプチド‐パルスまたはある他の手法により、抗原を提示する51Cr‐標識標的を溶解させうるそれらの能力について比較され、“活性な”組成物ほど時間の関数として標的の大きな溶解を示す。例えば4時間のような特定の時間枠内における溶解の動態と溶解の量により、性能が評価される(例えば、Ware et al.(1983)J.Immunol.131:1312参照)。
【0132】
サイトカイン‐放出アッセイ:T細胞の機能的活性は、修飾APCとの接触時に前記細胞により分泌されるサイトカインの種類と量によっても測定される。サイトカインは、サイトカイン産生の速度および総量を調べるために、ELISAまたはELISPOTアッセイにより測定される(例えば、Fujihashi et al.(1993)J.Immunol.Meth.160:181、Tanquay and Killion(1994)Lymph.Cyt.Res.13:259参照)。
【0133】
T細胞のインビトロ教育:DCが、正常ドナーまたは患者のPBMCから反応性T細胞集団を誘起しうる能力に関して検定される。誘起されたT細胞は、溶解活性、サイトカイン放出、多クローン性、および抗原に対する交差反応性について試験される(例えば、Parkhurst et al.(1996)J.Immunol.157:2539-2548参照)。
【0134】
トランスジェニック動物モデル:HLAトランスジェニックマウスを本発明の組成物により接種して、誘導された免疫応答の性質および程度を調べることにより、免疫原性がインビボにおいて評価される。一方、hu‐PBL‐SCIDマウスモデルは、ヒトPBLの養子移入(adoptive transfer)によりマウスでヒト免疫系の再構築を行える。これらの動物が本組成物により接種され、Shirai et al.(1995)J.Immunol.154:2733、Mosier et al.(1993)Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 90:2443において以前に述べられたように免疫応答に関して解析される。
【0135】
増殖アッセイ:T細胞は反応性組成物に応答して増殖し、増殖は例えばH‐チミジン取込みを測定することにより定量的に測定される(例えば、Caruso et al.(1997)Cytometry 27:71参照)。
【0136】
霊長類モデル:チンパンジーはヒトMHC分子とオーバーラップするMHC‐リガンド特異性を共有し、そのため相対的インビボ免疫原性についてHLA‐限定リガンドを試験するために用いられる(例えば、Bertoni et al.(1998)J.Immunol.161:4447参照)。
【0137】
TCRシグナル形質導入現象の測定:MHC‐リガンド複合体によるTCR係合の成功は、いくつかの細胞内シグナル形質導入現象(例えば、リン酸化)と関連する。これらの現象は、TCR係合でエフェクター細胞を活性化させうる組成物の相対的能力と、定性的および定量的に相関していた(例えば、Salazar et al.(2000)Tnt.J.Cancer 85:829、Isakov et al.(1995)J.Exp.Med.181:375参照)。
【実施例】
【0138】
上記に従い、下記実施例が本発明の様々な態様を、それら限定されず、実証するためにある。
【0139】
実験
下記物質および方法が、以下で記載された実施例で適宜に用いられた。包括的に、以下の実験は、DCへのキメラE/Lセレクチンの導入により、血流から高い内皮性小静脈(HEV)を経て直接リンパ節へDCを入り込ませられることを示す
【0140】
抗体:DCの表現系を調べるために、以下の抗体(Ab)を用いた:FITC標識抗CD83、抗CD86、抗CD25、および抗CD80(BD Pharmingen,Heidelberg,Germany)、FITC標識抗HLA‐DR(BD Biosciences,Heidelberg,Germany)、およびFITC標識抗HLAクラスI(Chemicon International,Hampshire,United Kingdom)。イソタイプコントロールはIgG1‐FITC(BD Pharmingen)およびIgG2a‐FITC(Chemicon International)であった。E/Lセレクチン発現を調べるために、FITC標識抗ヒトE‐セレクチン/CD62E mAb(クローンBBIG‐E5)を用いた(R&D Systems GmbH,Wiesbaden-Nordenstadt,Germany)。T細胞表現系を調べるために、ECD標識抗CD45RA、PC7標識抗CD8(双方ともBeckman Coulter GmbH,Krefeld,Germany)、およびFITC標識抗CCR7(R&D Systems GmbH)を用いた。
【0141】
白血球搬出および全血からヒトDC作製:単球由来DC(“moDC”)を本質的にBerger et al.(2002)J.Immunol.Meth.268:131-140において記載されているように作製した。簡単には、Lymphoprep(Axis-Shield,Oslo,Norway)を用いる密度遠心により健康ドナーの白血球搬出産物または全血から末梢血単核細胞(PBMC)を作製した。血液製剤はインフォームド・コンセント後に得られ、治験審査委員会により承認された。1%の熱不活化ヒト血漿、2mM L‐グルタミン(Bio-Whittaker)および20mg/Lゲンタマイシン(Sigma-Aldrich Chemie GmbH,Taufkirchen,Germany)を含有したRPMI1640(Cambrex,Verviers,Belgium)からなる自家調製培地にPBMCを再懸濁した。PBMCを次いで1.2×10細胞/セルファクトリーでセルファクトリー(Nunc,Roskilde,Denmark)へ、または少量のDCの作製の場合は30×10細胞/皿で組織培養皿(Falcon (BD),Le Pont De Claix,France)へ移した。接着を考慮して、細胞を37℃において1〜2時間インキュベートした。非接着フラクションを次いで除去および凍結保存し、一方200mL(セルファクトリー)または10mL(皿)の自家調製培地を接着細胞へ加えた。培地およびサイトカイン(GM‐CSF(Leukine,Berlex,Montville NJ,USA)およびIL‐4(Strathmann,Hamburg,Germany))の細胞供給とDCの成熟化は、本質的にSchaft et al.(2005)J.Immunol.174:3087-3097で以前に記載されているように行った。24時間の成熟化後に、細胞をエレクトロポレーションに用いた。
【0142】
マウスBM由来DC作製:GM‐CSFによる骨髄(BM)‐DCの作製は、本質的にLutz et al.(1999)J.Immunol.Meth.223:77-92において記載されている通りであった。細胞培地(R10)は、ペニシリン(100U/mL,Sigma,Deisenhofen,Germany)、ストレプトマイシン(100μg/mL,Sigma)、L‐グルタミン(2mM,Sigma)、2‐メルカプトエタノール(50μM,Sigma)、および10%熱不活化および濾過FCS(PAA,Colbe,GermanyのFCS、Millipore,Eschborn,Germanyの0.22μmフィルターで濾過)で補充されたRPMI‐1640(GIBCO BRL,Eggenstein,Germany)からなっていた。0日目に、マウスの後肢から得たBM白血球を、マウスGM‐CSF遺伝子でトランスフェクトされた細胞系からの10%GM‐CSF上澄を含有する10mL R10培地に、2×10細胞/皿で接種した。3日目に、10%GM‐CSF上澄を含有する他の10mL R10培地をプレートへ加えた。6日目に、培養上澄の半分を集めて遠心し、細胞ペレットを10%GM‐CSF上澄含有の10mL新鮮R10培地へ再懸濁し、元の皿へ戻した。8日目に、細胞をエレクトロポレーション用に収集した。
【0143】
インビトロ転写RNAの産生:RNAのインビトロ作製のために、二種のプラスミドを用いた:pGEM4Z64A‐MelanAプラスミド(Heiser et al.(2000)J.Immunol.164:5508-5514、Dr.I.Tcherepanovaによる贈与、メラノーマ抗原MelanAの全鎖長読み取り枠を含有する)およびPSP73SphA64+ELプラスミド(ヒトE‐セレクチンの細胞外ドメインとヒトL‐セレクチンの貫膜および細胞内ドメインを一つの読み取り枠に含有する、Dr.C.Robertによる贈与)。双方のプラスミドを、製造業者の説明に従い、Ambion mMESSAGE mMACHINE T7 UKTRAキット(Austin,Texas,USA)を用いて、以前に記載されたように転写した(例えば、Schaft et al.(2005)J.Immunol.174:3087-3097参照)。
【0144】
樹状細胞のエレクトロポレーション:ヒトおよびマウスDCをセルファクトリーまたは皿から収集し、純粋RPMI1640で1回およびPBSで1回(すべて室温)洗浄した。細胞を4〜6×10細胞/mL(ヒト)または4〜10×10細胞/mL(マウス)の濃度でフェノール‐レッドを含まないOptiMEM(Gibco-BRL,Long Island,USA)に再懸濁した。発現レベルを高めるために時間定数およびRNA濃度の修正を加えながら、本質的には以前に記載されたように(例えば、Schaft et al.(2005)J.Immunol.174:3087-3097参照)、Genepulser Xcell(Biorad,Munich Germany)機でDCへRNAをエレクトロポレートした。
【0145】
特に、ヒトDCの最適エレクトロポレーション条件には、Optimem培地中、室温にて4mmキュベットで500Vチャージおよび1ミリ秒矩形波パルスの使用を含むことが調べられた。RNAを150μg/mLの最終濃度で用い、エレクトロポレーション前にキュベットで3分間、細胞とインキュベートした。マウスDCの最適エレクトロポレーション条件には、Optimem培地中室温にて4mmキュベットで500Vチャージおよび2ミリ秒矩形波パルスの使用を含んでいた。RNAを150μg/mLの最終濃度で用いたが、エレクトロポレーション前にキュベットで細胞とプレインキュベートしなかった。
【0146】
エレクトロポレーション直後に、前記濃度のGM‐CSFおよびIL‐4で補充された自家調製培地(ヒト細胞の場合)または10%GM‐CSF含有上澄で補充されたR10培地(マウス細胞の場合、前記“BM由来DC作製”と題する項目において記載されている)へ細胞を移した。
【0147】
細胞の凍結保存:凍結保存は本質的に以前に記載された通りに行った(例えば、Feuerstein et al.(2000)J.Immunol.Meth.245:15-29参照)。簡単には、細胞を5〜10×10細胞/mL(DCの場合)または20〜50×10細胞/mL(非接着細胞の場合)の濃度で20%ヒト血清アルブミン(HSA,Pharmacia & Upjohn)へ入れ、氷上において10分間保管した。等量の凍結保存用培地を細胞懸濁液へ加えた(即ち、55%HSA(20%)、20%ジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma-Aldrich)、および25%グルコース(Glucosteril 40,Fresenius,Bad Homburg,Germany))。細胞を次いで急速凍結(cryo-freezing)容器(Nalgene,Roskilde,Denmark)中、−1℃/minで−80℃に凍結させた。細胞の剥離がみえるまで、37℃水浴でクリオチューブを保持することにより、解凍を行った。細胞を次いで10mLのRPMI1640培地へ注ぎ、250IU IL‐4/mLおよび800IU GM‐CSF/mL入りの予熱された自家調製培地を含有する細胞培養皿へ加えた。細胞を更なる実験前に37℃インキュベーター中において1〜2時間放置した。
【0148】
フローサイトメトリー解析:表面染色のために、DCを洗浄し、次いで100μLの冷FACS溶液(0.1%アジ化ナトリウム(Sigma-Aldrich)および0.2%HSA(Octapharma,Langenfeld,Germany)含有のDPBS(Bio Whittaker,Walkersville,Maryland,USA))に1×10細胞で懸濁し、モノクローナル抗体または適切なイソタイプコントロールと30分間インキュベートした。細胞を次いで2回洗浄し、100μLの冷FACS溶液に再懸濁した。染色された細胞をFACSstar細胞解析器(Becton-Dickinson)で免疫蛍光について解析した。フォワードおよびサイドスキャッターでゲートを用いて細胞の破片を解析から除いた。最少で10細胞を表面染色細胞の各サンプルで解析した。Cellquestソフトウェア(Becton-Dickinson)を用いて結果が解析された。
【0149】
トランスウェル移動アッセイ:本質的にSchaft et al.(2005)J.Immunol.174:3087-3097において以前に記載されたように、孔径5μmのトランスウェルインサート(Costar,London,UK)およびCCL19(100ng/mL,tebu-bio GmbH,Offenbach,Germany)を用いてトランスウェル移動アッセイを行った。
【0150】
細胞障害性T細胞(CTL)誘導アッセイ:RNAなし、E/LセレクチンRNA単独、MelanA RNA単独またはE/LセレクチンRNAと組み合わされたMelanAによりDCをエレクトロポレートした。加えて、モック‐エレクトロポレートおよびE/LセレクチンRNAエレクトロポレートされたDCを、比較のため10μg/mLのMelanA由来HLA‐A2‐結合アナログペプチドELAGIGILTVと37℃において1時間パルスした。同一健康ドナーからの非接着細胞フラクションを、製造業者の説明に従いMACS(Miltenyi Biotech,Bergisch-Gladbach,Germany)を用いて、CD8T細胞の作製用の供給源として用いた。CD8細胞を次いで、10%プール血清(Cambrex)、10mM Hepes、1mMピルビン酸ナトリウム、1%MEM非必須アミノ酸(100×)2mM L‐グルタミン、20mg/Lゲンタマイシンおよび20U/mLのIL7で補充されたRPMI中、各々1×10/mLおよび1×10/mLの最終濃度で、前記で異なる前処理されたDCと同時培養した。2および4日目に、20IU/mLのIL2および20U/mLのIL7を加えた。7日目に、細胞を収集して解析した。
【0151】
抗原特異的CD8T細胞のテトラマー染色および表現型判定:HLA‐A2‐MelanAテトラマー染色(Beckman Coulter GmbH)と抗CCR7、抗CD45RA、および抗CD8抗体を用いるT細胞表現型判定を、本質的にSchaft et al.(2005)J.Immunol.174:3087-3097で以前に記載されたように行った。細胞をBeckman CoulterのCYTOMICS FC500で解析した。
【0152】
細胞毒性アッセイ:本質的にSchaft et al.(2005)J.Immunol.174:3087-3097において以前に記載されたように、細胞毒性を標準4‐h51Cr放出アッセイで試験した。
【0153】
E/L‐セレクチン誘導性インビトロ移動アッセイ:樹状細胞をE/L‐セレクチンRNAとまたはそれなしでエレクトロポレートし、1×10細胞/mLの濃度で再懸濁した。長方形カバースリップ(24×60mm)をシアリル‐ルイスおよび硫酸化チロシンへ結合されたビオチニル化ポリアクリルアミド(Lectinity Holdings Inc.,Moscow,Russia)5μgで被覆し、風乾した。非特異的結合を防ぐために、すべてのカバースリップを0.5%ウシ血清アルブミン(PBS中)と少なくとも30分間インキュベートした。50μmのスリット深さおよび500μmのスリット幅を有し、被覆または未被覆カバースリップを備えた、透明フローチャンバーを、1mL細胞懸濁液を含有するシリンジへの接続前に、2mM CaClで補充されたハンクス平衡塩類溶液(HBSS)で簡単にすすいだ。パルスフリーポンプを用い1.04dyne/sの剪断速度にて20℃において灌流を行った。灌流に際して、顕微鏡位相差像をリアルタイムで記録した。10分間の灌流後、四つの異なる顕微鏡視野(10×対物)を記録し、接着細胞の数を各視野でカウントした。MetaView Imagingソフトウェア(Universal Imaging Corporation,Downington,USA)を用いて画像解析をオフラインで行った。
【0154】
E/L‐セレクチン誘導性インビボ移動:マウスDCをE/L‐セレクチンRNAでまたはそれ無しでエレクトロポレートし、製造業者のガイドラインに従い5‐クロロメチルフルオレセインジアセテート(CMFDA)(Molecular Probes,OR,USA)により染色した。細胞をC57/B6マウスの尾静脈へ注射した、16時間後、マウスを犠牲にし、鼠蹊リンパ節(LN)、脾臓、および肺の一部を摘出し、直ちに液体窒素で凍結した。器官をTissue-Tek O.C.T. Compound(Sakura,NL)に包埋し、−80℃において保管した。凍結器官を次いでLeica CM3050 S Cryostat(Leica,Wetzlar,Germany)で10μm厚切片に切り、−20℃においてSuperFrost Plus顕微鏡スライド(Menzel GmbH,Braunschweig,Germany)に保管した。
【0155】
免疫蛍光染色のために、凍結切片を解凍し、10分間乾燥させた。切片を4%パラホルムアルデヒド(Merck,Darmstadt,Germany)で20分間かけて固定させた。PBSでの洗浄、15分間にわたる0.1Mグリシンで過剰アルデヒド基の中和後、切片を2%BSA(PAA,Colbe,Germany)の阻止溶液と15分間インキュベートし、2%BSA溶液により1:200希釈されたCD90.2に特異的な抗体(Thy1.2,BD Biosciences,Heidelberg,Germany)で染色した。30分間後に、細胞を2%BSA溶液で1:1000希釈された抗ラットAlexa555複合抗体(Invitrogen GmbH,Karlsruhe,Germany)とインキュベートした。30分間のインキュベート後、切片をFluoromount封入剤(Serva Electrophoresis GmbH,Heidelberg,Germany)に包埋した。蛍光解析をLeica DMRDリサーチ顕微鏡(Leica,Wetzlar,Germany)で行った。
【0156】
実施例1:成熟ヒトDCへのE/L‐セレクチンコードRNAのエレクトロポレーションは高いトランスフェクション効率および収率をもたらす
前記の様々なエレクトロポレーション設定を試験した後で確立された最適化エレクトロポレーションプロトコールを用いて、キメラE/L‐セレクチンをコードするRNAをDCへエレクトロポレートした。RNAトランスフェクトDCをエレクトロポレーション後4時間で凍結保存し、解凍し、評価した。図1(パネル1a)で示されているように、これらのDCはE/L‐セレクチンの高い均質な発現を示した。DCが解凍された後24時間および48時間でも高い発現が観察され(図1a)、これはE/L‐セレクチンの長期発現が得られたことを示している。
【0157】
ヒト患者でワクチンとしてDCを用いるために、DCは製造工程を生き延びることが重要である。DCはエレクトロポレーションおよび凍結保存工程を生き延びねばならず、ホーミングポリペプチドといずれか対象の抗原を発現することから過度のダメージ(例えば、毒性作用)を示すべきではない。そのため、DCを収率(即ち、全操作前における細胞の数と比較した、エレクトロポレーションおよび凍結保存後における生存細胞の割合)について評価した。E/L‐セレクチンRNAでまたはRNAなしでエレクトロポレートされたDCを凍結保存し、次いで解凍した。トリパンブルーでカウントすることにより収率を調べた。細胞を解凍後0時間で評価し、またはIL‐4およびGM‐CSF含有の自家調製培地中、37℃において培養し、解凍後24時間および48時間で評価した。図1(パネル1b)で示されているように、解凍直後におけるDCの生存率は約80%であり、48時間にわたりゆっくりと減少した。類似の結果がコントロールDCで得られたが、これはE/L‐セレクチンRNAの導入がDCで毒性作用を有しないことを示していた。
【0158】
実施例2:E/L‐セレクチンRNAでエレクトロポレートされた成熟ヒトDCは正常マーカー表現型およびCCR7媒介移動を示す
最良性能のために、DCワクチンは腫瘍関連抗原(“TAA”)を提示しうる成熟DCの最高可能頻度を有しているべきである。そのため、エレクトロポレートされたDCを、それらがそれらの成熟表現型を全体または一部で備えているか否かを調べるために評価した。ELS RNAでエレクトロポレートされたまたはモック‐エレクトロポレートされたDCをCD80、CD83、CD86、CD25、HLAクラスIおよびHLA‐DR分子の表面発現について評価した。成熟表現型を検出したところ、双方のDC集団で差異は観察されなかった、結果を図2に示す。
【0159】
最良性能のために、DCは、皮膚からリンパ節への正常DC移動にとり重要である、CCR7媒介移動能も備えているべきである。更に、機能性CCR7発現もHEVで“ローリングする”ためにDCに必要である。したがって、ELS RNAでエレクトロポレートされたまたはモック‐エレクトロポレートされたDCを比較した。移動能を標準トランスウェルインビトロ移動アッセイで試験した(例えば、Scandella et al.(2002)Blood 100:1354-1361参照)。このアッセイでは、DCをトランスウェルシステムの上側ウェルに入れた、ケモカインCCL19を次いで上側ウェル(即ち、細胞と同じウェル)または下側ウェルに入れた。ケモカインと共に上側ウェルへ入れられたが、そのウェルから移動した細胞は、ケモカインと“逆方向”へ移動したと言われ、一方ケモカインとは異なるウェルに入れられたが、ケモカインウェルの方へ移動する細胞は、ケモカインと“同方向”へ移動したと言われる。細胞を2時間移動させ、次いで評価した。どちらのDCのグループもCCL19勾配と逆方向には移動せず、最も重要なことに、DCの両集団がCCL19と同方向へ同一の移動能を示した(図3)。陰性コントロールとして、細胞をCCL19なしのトランスウェルでインキュベートした。
【0160】
上記実験で示されているように、成熟マーカー表現型およびCCR7媒介移動能を含めたDCのいくつかの性質は、DCの表面におけるE/L‐セレクチンの発現で影響されない。
【0161】
実施例3:E/L‐セレクチンRNAでエレクトロポレートされたDCはMelanA特異的CTLのなお効率的なインデューサーである
癌に対するDCワクチンの最良性能のために、DCはTAA特異的CTLを効率的に誘導しうるべきである。これを試験するために、我々はメラノーマ関連抗原(Ag)MelanAを選択した。MelanA特異的T細胞はボランティアで比較的多くナイーブ表現型であるため、MelanA Agはこのアッセイでよく機能する。これらのT細胞は、強力なDCが用いられれば、1回の刺激後でも検出可能に拡張されうる(例えば、Schaft et al.(2005)J.Immunol.174:3087-3097、Pittet et al.(1999)J.Exp.Med.190:705-715、Romero et al.(2002)Immunol.Rev.188:81-96参照)。
【0162】
様々なDCの誘導能を次いで検定した。MelanA単独で負荷されたDCの誘導能を、MelanAで負荷され、E/L‐セレクチンRNAでエレクトロポレートされたDCの誘導能と比較した。抗原負荷は、ナイーブMelanAをコードするRNAのコエレクトロポレーションにより、またはこれらの環境下で天然MelanAペプチドより良い刺激を出すMelanA由来HLA‐A2限定アナログペプチドとパルスすることにより行った(例えば、Schaft et al.(2005)J.Immunol.174:3087-3097、Abdel-Wahab et al.(2003)Cell.Immunol.224:86-97参照)。
【0163】
エレクトロポレートされたDCを自己CD8T細胞と1週間同時培養し、HLA‐A2/MelanAテトラマー陽性T細胞の割合を調べた。テトラマー陽性T細胞は更に、それらのCCR7およびCD45RA発現による四つの表現型(例えば、Sallusto et al.(1999)Nature 401:708-712参照)(ナイーブ、セントラル・メモリー、エフェクター・メモリー、および溶解エフェクター)のうちの一つに分類した。MelanA RNA単独で並びにMelanA RNAおよびE/L‐セレクチンRNAの組合せでエレクトロポレートされたDCは、エフェクター集団の方へ強く偏向して、MelanA特異的T細胞のプールを同程度に拡張させることができた(図4a)。モック‐エレクトロポレートされたおよびE/L‐セレクチンRNAエレクトロポレートされたDCは、陰性コントロールとして働いた。MelanAアナログペプチドで負荷されたDCの方が抗原特異的T細胞をより強く刺激したが、刺激能の実質的差異は、ELS RNAでエレクトロポレートされたDCと、モック‐エレクトロポレートされたDCとの間で観察されなかった(図4a)。
【0164】
この操作で作製されたT細胞を、標的細胞として特定のアナログペプチドで負荷されたT2細胞を用いて、標準Cr51放出アッセイで、それらの細胞溶解能について調べた。MelanAアナログペプチド負荷DCで刺激されたT細胞は、それらのDCがELS RNAでエレクトロポレートされまたはモック‐エレクトロポレートされても、高い細胞溶解性を示した(図4、パネルb)。T細胞は更に、MelanA RNA単独でエレクトロポレートされたDCまたはELS RNAおよびMelanA RNAの組合せでエレクトロポレートされたDCによりそれらが刺激されても、類似した溶解能を示した(図4、パネルb)。T細胞は、ELS RNAでエレクトロポレートされたまたはモック‐エレクトロポレートされたDCでそれらが刺激されたとき、細胞溶解を示さなかった(図4、パネルb)。無関係なペプチドで負荷されたT2標的細胞のバックグラウンド溶解は、試験された全T細胞集団で<10%であった(データ示さず)。
【0165】
要約すると、これらのデータは、DCによるE/L‐セレクチンの同時発現が、腫瘍関連Agを提示することでCTLを誘導しうるDC機能性能力を阻害せず、DCによるMelanAの同時発現がE/L‐セレクチンの膜発現を阻害しなかったことを示す。
【0166】
実施例4:E/L‐セレクチンRNAでエレクトロポレートされたDCはシアリル‐ルイスと結合することによりローリングする
導入されたキメラE/L‐セレクチンタンパク質の機能性を、パラレルプレートフローチャンバーにおいてシアリル‐ルイス(SLX)で被覆されたスライドを用いるインビトロローリングアッセイで確認した。前記アッセイにおける剪断力は高内皮性小静脈(“HEV”)における剪断力(例えば、1.04dyne/s)に近かった。E/L‐セレクチンRNAによりエレクトロポレートされたDCは、遅いローリング速度でSLX被覆スライド上をローリングしたが、モック‐エレクトロポレートされたDCはSLX被覆スライドでローリングまたは付着しなかった。どちらのDCの集団も未被覆スライドでローリングまたはそれに付着しなかった。10分間のフロー後、四つのランダム視野の画像を映し、細胞をカウントした、このデータは図5において異なるDCドナー3例についてまとめられ、p値が示されており、データの統計学的有意性を示している(スチューデントのt検定)。全3例のドナーからのDCについて、RNA無しでエレクトロポレートされたDCはすべてSLX被覆スライドに付着またはそこでローリングしなかったが(図5および7)、E/L‐セレクチンRNAでエレクトロポレートされたDCは付着およびローリングすることが観察された(図5)。マウスDCへのE/L‐セレクチンの導入もSLX被覆スライドにおいて、これらDCのローリングをもたらした。
【0167】
一緒にすると、これらのデータは、インビトロローリングにおいて証明されるように、E/L‐セレクチンRNAでトランスフェクトされたDCがキメラE/L‐セレクチンタンパク質を機能的に発現したことを示す。
【0168】
実施例5:E/L‐セレクチンRNAによりエレクトロポレートされたDCは血液から効率的に滲出し、インビボにおいてリンパ節へ移動する
導入されたE/L‐セレクチンのインビボ機能性を証明するために、マウスDC(C57/B6)をE/L‐セレクチンRNAでエレクトロポレートし、CMFDAで染色し、C57/B6マウスの尾静脈へ注射した。14〜18時間後、マウスを犠牲にし、脾臓およびリンパ節の凍結切片を作製した。図6において示されているように、陽性染色DCが、それらのDCがELS RNAでエレクトロポレートされたものでも、またはそれらがモック‐エレクトロポレートされたものでも、DCの注射後に脾臓で検出された。しかしながら、ELS RNAによりエレクトロポレートされたDCのみは末梢リンパ節へ移動したが、モック‐エレクトロポレートされたDCはそうでなく(図6)、このことはE/L‐セレクチンを発現するDCが血液からリンパ節へ移動しうる能力を獲得したことを示す。
【0169】
全体として、これらのデータは、DCによるE/L‐セレクチンの機能的発現をもたらすために、即ち静脈内投与後に血液からリンパ節へ移動しうるDCを提供するために、RNAエレクトロポレーションが用いられることを示す。
【0170】
この開示を通して、様々な文献、特許および公開特許明細書が表記引用により掲載されている。各掲載文献、特許および公開特許明細書は、本発明が属する業界の水準を更に詳しく記載するために、特に引用することにより本明細書の開示の一部とされる。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】図1は、DC細胞におけるE/L‐セレクチンの発現がE/L‐セレクチンRNAのエレクトロポレーション後に高いことを証明する。成熟DCがE/L‐セレクチン(ELS)RNAでまたはそれ無しでエレクトロポレートされ、4時間後に凍結保存された、細胞が次いで解凍され、解凍後0時間、24時間、および48時間目にFACS解析によりELS発現について検定された。パネル(a)は、ELS RNAでエレクトロポレートされたDC(黒色ヒストグラム)、およびモック‐エレクトロポレートされたコントロールDC(灰色ヒストグラム)のELS発現を示す。各時点について、パネル(a)はELS陽性細胞の割合および平均蛍光強度(MFI)も示す。示されたデータは3回の独立標準化実験を表していた。パネル(b)は、ELS RNAでエレクトロポレートされたDC(白四角)、およびモック‐エレクトロポレートされたDC(黒丸)からのDC収率を示す。“収率”は、エレクトロポレーション前における細胞の数と比較した、エレクトロポレーションおよび凍結保存後における生存細胞の割合である、細胞の生存率はトリパンブルー染色により調べた。示されたデータは三回の独立標準化実験の平均±平均の標準誤差(SEM)を表す。
【図2】図2は、ELS RNAによりトランスフェクトされたDCがそれらの成熟表現型を備えていたことを証明する。成熟DCがE/L‐セレクチン(ELS)RNA(灰色ヒストグラム)でまたはELS RNAなし(黒線)でエレクトロポレートされ、4時間放置され、凍結保存され、解凍され、特徴的成熟‐表面マーカーCD25、CD80、CD83、CD86、HLAクラスI、およびHLA‐DRについて染色された。点線は各マーカーに関するイソタイプコントロールを各々表す。示されたデータは3回の独立標準化実験を表している。
【図3】図3は、E/L‐セレクチンによりトランスフェクトされたDCがそれらのCCR7媒介移動能を備えていることを証明する。DCがE/L‐セレクチンRNA(“ELS RNA”)によりエレクトロポレートされまたはRNA無し(“No RNA”)によりモック‐エレクトロポレートされ、次いで標準トランスウェル移動アッセイでCCL19を含有した培地と同方向へのそれらのCCR7媒介移動能(黒棒、“同方向”)について試験された(実施例2参照)。自発的移動が上側または下側コンパートメントにおいてCCL19なしのトランスウェルにおいて細胞をインキュベートすることにより測定され(白棒、“neg.”)、他のコントロールは上側コンパートメントにCCL19を含有した(灰色棒、“anti”)。三回の標準化実験の平均(±SEM)を示す。
【図4】図4は、E/L‐セレクチンでトランスフェクトされたDCがナイーブCD8T細胞を刺激しうるそれらの能力を備えていることを証明する。DCがRNAなし(白丸、“No RNA”)、E/L‐セレクチンRNA単独(黒丸、“ELS”)、MelanA RNA単独(白四角、“MelA RNA”)、またはE/L‐セレクチンRNAと組み合わされたMelanA(黒四角、“ELS+MelA RNA”)でエレクトロポレートされ、自己ナイーブCD8細胞を刺激するために用いられた。加えて、モック‐エレクトロポレートされたまたはE/L‐セレクチンRNA単独でエレクトロポレートされた一部のDCがMelanA由来アナログペプチド(MelA pep.)により負荷され、ナイーブCD8T細胞の刺激のために用いられた。刺激の1週間後、MelanA/A2‐テトラマー‐結合CD8T細胞が表現型(パネル(a))および細胞溶解能(パネル(b))について評価された。機能性T細胞表現型が次のように設定された:溶解エフェクター(“LE”、CD45RA/CCR7)、エフェクター・メモリー(effector memory)(“EM”、CD45RA/CCR7)、セントラル・メモリー(central memory)(“CM”、CD45RA/CCR7)、ナイーブ(“N”、CD45RA/CCR7)。MelanAアナログペプチドまたは非関連gp100ペプチドにより負荷されたT2細胞の標的を用いて、細胞溶解能(b)が標準Cr51放出アッセイで調べられた。パネル(b)において示されたデータは、MelanAアナログペプチドにより負荷されたT2標的細胞の溶解率である、試験された全T細胞集団について、gp100ペプチドにより負荷されたT2細胞の溶解は10%未満であった。標的:エフェクター比(T:E)が水平軸に示される。示されたデータは、三回の独立標準化実験のうち一つの代表的実験からのものである。
【図5】図5は、E/L‐セレクチンRNAによりトランスフェクトされたDCがシアリル‐ルイス被覆スライドでローリングしうる能力を獲得したことを証明する。ヒトドナー3例からのDCがE/L‐セレクチンRNA(“ELS RNA”)でエレクトロポレートされまたはRNA無し(“No RNA”)によりエレクトロポレートされ、凍結保存された。それらは次いで解凍され、シアリル‐ルイスで被覆されたスライドを用いてパラレルプレートフローチャンバーでローリングしうるそれらの能力について評価された(実施例4参照)。灌流がパルスフリーポンプを用い、1.04dyne/sの剪断速度にて20℃において行われた。灌流に際して、顕微鏡位相差像がリアルタイムで記録された(一つの代表像が写されている(10×対物))。10分間の灌流後、四つの異なる顕微鏡視野が記録され、ローリング(即ち、接着)細胞の数が各視野についてカウントされた。示された値は、各ドナーに関する四つの視野の細胞数の平均(±SEM)である。P値が得られ、データの統計学的有意性を示している(スチューデントのt検定)。
【図6】図6は、E/L‐セレクチンでトランスフェクトされたDCがインビボで末梢リンパ節へ移動しうることを証明する。マウス樹状細胞(C57/B6,雌性)がE/L‐セレクチンRNA(“ELS RNA”)により、またはRNA無し(“No RNA”)によりエレクトロポレートされ、5‐クロロメチルフルオレセインジアセテート(CMFDA)で染色され、C57/B6雌性マウスの尾静脈へ注射された。注射後16時間で、マウスが犠牲にされ、脾臓および末梢リンパ節から凍結切片が作製された。T細胞エリアがCD90.2(Thy1.2)/alexa555で染色され、凍結切片が蛍光顕微鏡で解析された。示された写真は、四つの実験のうち一つ実験からの器官の代表エリアのものである(100×対物)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜ホーミングポリペプチドをコードするRNAにより一過性にトランスフェクトされた樹状細胞を含んでなる組成物であって、
前記樹状細胞が前記ポリペプチド用のリガンドにより被覆された表面においてローリングしうるものである、組成物。
【請求項2】
前記膜ホーミングポリペプチドがセレクチンであり、好ましくは前記セレクチンがE‐セレクチン、L‐セレクチン、P‐セレクチン、またはそれらのキメラであり、最も好ましくは前記セレクチンがE/Lセレクチンキメラである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(i)前記樹状細胞がシアリル‐ルイスにより被覆された表面においてローリングし、および/または
(ii)前記樹状細胞が成熟であり、および/または
(iii)前記樹状細胞が単球由来樹状細胞であり、および/または
(iv)前記樹状細胞がヒト樹状細胞であり、および/または
(v)前記樹状細胞がRNAエレクトロポレーションにより一過性にトランスフェクトされた、
請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記樹状細胞が対象の抗原により追加的に負荷される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記抗原が、パルスおよびトランスフェクションからなる群から選択される方法により前記樹状細胞へ負荷される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記抗原が
(i)腫瘍関連抗原であり、または
(ii)病原体特異的抗原である、好ましくは前記病原体がHIVまたはHCVである、
請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物を含んでなる、ワクチン。
【請求項8】
癌治療用薬剤の製造のための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項9】
前記薬剤が静脈内投与に適する、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
RNAの存在下において、100ボルト/mm〜150ボルト/mmの電界強度および0.8ms〜2msの矩形波パルス長により、成熟樹状細胞をエレクトロポレートすることを含んでなる、樹状細胞をRNAによりトランスフェクトする方法。
【請求項11】
a)RNAにより一過性にトランスフェクトされた単離樹状細胞を用意し(ここで、前記RNAは膜ホーミングポリペプチドをコードする)、そして
b)前記樹状細胞をヒト対象者へ静脈内投与する、
工程を含んでなる、ヒト対象者においてリンパ節へ樹状細胞を運ぶ方法。
【請求項12】
前記樹状細胞が抗原負荷される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記樹状細胞がヒト対象者から本来的に単離された、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記膜ホーミングポリペプチドがセレクチンである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記セレクチンがE/Lセレクチンキメラである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記単離樹状細胞が、腫瘍関連抗原をコードするRNAにより更に一過性にトランスフェクトされた、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記単離樹状細胞が、病原体特異的抗原をコードするRNAにより更に一過性にトランスフェクトされた、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記病原体特異的抗原がHIVまたはHCVからの抗原である、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−532019(P2009−532019A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555751(P2008−555751)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051417
【国際公開番号】WO2007/096278
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(505182915)アルゴス セラピューティクス,インコーポレイティド (8)
【出願人】(307023122)キリンファーマ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】