説明

膜モジュールの保護方法

【課題】有機ガスから膜モジュールを保護することができる膜モジュールの保護方法を提供する。
【解決手段】外装の少なくとも一部(1,2)が熱可塑性樹脂で形成された膜モジュール(10)の保護方法において、膜モジュール(10)全体を保護材(20)で被覆する被覆工程と、膜モジュール(10)と保護材(20)との間に空気及び不活性ガスから選択される少なくとも1つの気体を送る送気工程とを含み、保護材(20)、及び膜モジュール(10)と保護材(20)との間の少なくとも一方に前記気体が漏れる漏出部(30)を形成しておき、前記送気工程において、前記気体が漏出部(30)から漏れるように送気することを特徴とする膜モジュール(10)の保護方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外装の少なくとも一部が、ポリスルホン等の熱可塑性樹脂で形成された膜モジュールの保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜モジュール等の膜モジュールが設置されるユーティリティゾーン(特に超純水製造装置が設置されている場所)では、メンテナンス時や増設時に有機溶剤を希釈剤とした塗料が使用されることが多い。この有機溶剤の中には、膜モジュールの外装材として使用される熱可塑性樹脂に対しソルベントクラックを発生させるものがある。
【0003】
例えば特許文献1では、膜モジュールの外装材の例としてポリスルホンが挙げられているが、ポリスルホンはアセトン等の有機溶剤が付着すると、ソルベントクラックが発生するおそれがある。よって、アセトン等の有機溶剤を希釈剤として使用すると、この有機溶剤が蒸発してポリスルホンからなる外装に付着し、この外装を破損させるおそれがある。
【0004】
しかし、このような場合でも、有機溶剤蒸気(有機ガス)と膜モジュールが接触しなければソルベントクラックが発生しないので、従来は、予め膜モジュールの外装を水性塗料で塗装したり、膜モジュールの設置後においてはオレフィン系ラップを巻き付けたりして、有機ガスとの接触を防いでいた。
【特許文献1】特開2007−44665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、予め水性塗料で塗装する場合には、塗膜の厚みむらが生じたり、膜モジュールの搬送中や設置時に塗膜が剥がれたりする上、膜モジュールの接続部分の隙間等を完全に塗装する事が困難であったため、有機ガスとの接触を防ぐには未だ不充分であった。また、オレフィン系ラップ等を巻き付ける場合も、巻き方によるばらつきが生じるため、同じく有機ガスとの接触を防ぐには、未だ不充分であった。
【0006】
本発明の目的は、有機ガスから膜モジュールを保護することができる膜モジュールの保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す膜モジュールの保護方法により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の膜モジュールの保護方法は、外装の少なくとも一部が熱可塑性樹脂で形成された膜モジュールの保護方法において、前記膜モジュール全体を保護材で被覆する被覆工程と、前記膜モジュールと前記保護材との間に空気及び不活性ガスから選択される少なくとも1つの気体を送る送気工程とを含み、前記保護材、及び前記膜モジュールと前記保護材との間の少なくとも一方に前記気体が漏れる漏出部を形成しておき、前記送気工程において、前記気体が前記漏出部から漏れるように送気することを特徴とする。
【0009】
本発明の膜モジュールの保護方法(以下、単に「保護方法」ともいう。)は、膜モジュール全体を保護材で被覆した後で、膜モジュールと保護材との間に空気及び不活性ガスから選択される少なくとも1つの気体を送ることによって、膜モジュールと有機ガスとの接触を防ぐことができる。よって有機ガスから膜モジュールを保護することができる。
【0010】
本発明の保護方法において、前記保護材はポリオレフィン系樹脂を含むことが好ましい。ポリオレフィン系樹脂は有機ガスを通さないので、膜モジュールと有機ガスとの接触を確実に防ぐことができるからである。
【0011】
本発明の保護方法において、前記保護材には、製品名等の表示が設けられていてもよい。この場合の「表示」は、シール等の表示ラベルであってもよいし、保護材に直接印刷された製品名等の表示であってもよい。保護材で膜モジュールを被覆している間は、膜モジュールが外側から確認し難くなるため、例えば膜モジュールの製品名やロゴ、あるいは商標が判別し難くなるおそれがある。そのような場合に、保護材に表示を設けることによって、被覆された膜モジュールの判別が可能となる。
【0012】
本発明の保護方法において、前記被覆工程が前記膜モジュールの設置後に行われる場合は、前記保護材が前記被覆工程前においてシート状に形成されており、前記被覆工程において、前記膜モジュールの設置面に対し略垂直な方向を巻心方向として前記保護材で前記膜モジュール全体を巻いた後、前記保護材の端辺同士を接合することが好ましい。膜モジュールを簡易かつ迅速に保護材で被覆することができるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に適用される膜モジュールの一例である中空糸膜モジュールの側面図である。また、図2は、本発明で使用される保護材の一例を示す平面図であり、図3は、図1の膜モジュールを図2の保護材で被覆した状態を示す側面図である。
【0014】
本発明では、膜モジュールの出荷時から保護材で被覆してもよく、膜モジュールの設置後に現場において保護材で被覆してもよい。また、被覆前の保護材の形状は特に限定するものではなく、例えばシート状であっても袋状であってもよいが、膜モジュールの設置後に被覆する場合は、図2に示す保護材20のようにシート状が望ましい。シート状の保護材の形状としては、図2に示す保護材20のように、膜モジュールの原水入口や透過水出口などの配管への接続部分を考慮した形状にする事が望ましい。
【0015】
図1に示す中空糸膜モジュール10は、外装として、ポリスルホン製のハウジング1と、ポリスルホン製のポート2とを有する。また、ハウジング1とポート2との間にはVバンド3が巻きつけられている。なお、図1中、参照符号4は原水入口、参照符号5は透過水出口、参照符号6は濃縮水出口を示す。
【0016】
図2に示す保護材20は、ポリプロピレン製シートからなる。ポリプロピレンは、有機ガスを通さないので、膜モジュールと有機ガスとの接触を確実に防ぐことができる。なお、本実施形態では保護材20としてポリプロピレン製シートを使用したが、本発明はこれに限定されず、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂製シートを用いれば、同様の効果を奏する。また、ポリオレフィン系樹脂以外にも、保護材の材料として、ポリアミドやポリイミド等の材料を使用することもできる。なお、保護材の材料には、膜モジュールの外装に対し悪影響を及ぼす物質(例えば塩化ビニルフィルムに含まれる軟化剤等)が含まれていないことが好ましい。
【0017】
また、本実施形態では保護材20としてポリプロピレンのみからなるシートを使用したが、ポリオレフィン系樹脂層に他の樹脂層を積層した積層シートを使用してもよいし、ポリオレフィン系樹脂を使用せずに、他の樹脂層を積層した積層シートを使用してもよい。この場合、他の樹脂としては、例えばポリアミド、ポリ塩化ビニリデン等を使用できる。このような積層シートを使用する場合は、膜モジュールの外装側(内側)の層の材料として、膜モジュールの外装に対し悪影響を及ぼさない材料(例えばポリオレフィン系樹脂等)を使用し、外側の層にはガス透過性を重視した材料を使用してもよい。なお、本発明で使用する保護材の厚みは、有機ガスを通さない限り特に限定されないが、ポリプロピレン製シートを用いる場合は、例えば0.1〜2mm程度であればよい。
【0018】
図2に示す保護材20には、表示ラベル21が設けられている。この表示ラベル21には、膜モジュールの製品名やロゴ、あるいは商標等を表示することができ、これにより被覆された膜モジュールの判別が可能となる。
【0019】
本発明の保護方法では、膜モジュール全体を保護材で被覆した後で、膜モジュールと保護材との間に空気及び不活性ガスから選択される少なくとも1つの気体を送る。その一例を図2及び図3を参照しながら説明する。なお、以下では、膜モジュールの設置後に保護材で被覆する場合について説明する。
【0020】
まず、図2に示すシート状の保護材20を用意し、図3に示すように、中空糸膜モジュール10の設置面に対し略垂直な方向を巻心方向として保護材20で中空糸膜モジュール10の全体を巻く。
【0021】
次に、図2の破線部で示す貼りしろにおいて、両面粘着テープを介して保護材20の端辺同士を重ねて接合する。この際の接合方法としては、両面粘着テープによる方法以外にも、マジックテープ(登録商標)、ヒートシール、チャック等、様々な方法が採用できる。この際、中空糸膜モジュール10の原水入口4、透過水出口5及び濃縮水出口6を保護材20とともに紐等を用いて後述する気体が漏れる程度に縛ることによって、漏出部30を形成しておく。なお、漏出部30は、保護材20の一部に孔を空けて形成してもよい。また、保護材20の端辺同士を接合する際に、端辺の一部を接合しないで開放させておき、その部分を漏出部30としてもよい。
【0022】
そして、図3に示すように、保護材20に設けた送気口31から、中空糸膜モジュール10と保護材20との間に空気及び不活性ガス(ヘリウム、アルゴン等)から選択される少なくとも1つの気体を送る。この際、気体が漏出部30から漏れるようにする。なお、気体の送気圧としては、中空糸膜モジュール10と保護材20との間の空間が陽圧になればよく、例えば0.005〜0.5MPa程度であればよい。また、中空糸膜モジュール10と保護材20との間隔は、気体が流れる程度であればよく、例えば5〜50mm程度であればよい。これにより、中空糸膜モジュール10におけるポリスルホン製のハウジング1やポート2が、有機ガスと接触しなくなるため、ハウジング1やポート2のソルベントクラックを防ぐことができる。なお、送気口31は、保護材20の一部に孔を空けて形成してもよいし、保護材20の端辺同士を接合する際に、端辺の一部を接合しないで開放させておき、その部分を送気口31としてもよい。
【0023】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されない。例えば、上記実施形態では、外装に使用される熱可塑性樹脂としてポリスルホンが使用された例を挙げたが、本発明はこれに限定されず、有機ガスでソルベントクラックが発生する可能性がある限り、いずれの熱可塑性樹脂に対しても効果を奏する。例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等の熱可塑性樹脂に対しても有効である。また、本発明の保護方法に適用される膜モジュールは、外装の少なくとも一部が熱可塑性樹脂で形成された膜モジュールである限り、上記実施形態のような中空糸膜モジュールに限定されず、例えば、スパイラル型膜モジュール、平膜モジュール、内圧チューブ型膜モジュール、外圧チューブ型膜モジュール等にも適用できる。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例)
図2に示す保護材20を使用して、図3に示すように中空糸膜モジュール10を被覆し、送気口31から圧縮空気(0.01MPa)を送った。この際、漏出部30に設置した有機ガス用ガス検知管(図示せず)により、漏出部30から空気が漏れ、有機ガスが進入しない事を確認した。
【0026】
(比較例1)
図1に示す中空糸膜モジュール10を設置した後に、これをポリエチレン製ストレッチフィルムで巻き付けた。しかし、中空糸膜モジュール10の外装は、ハウジング1とVバンド3との境界部分等のように形状が複雑で凹凸が多いため、中空糸膜モジュール10をポリエチレン製ストレッチフィルムで完全に覆うことができなかった。
【0027】
(比較例2)
図1に示す中空糸膜モジュール10の外装に1液性の水性ウレタン塗料を刷毛にて塗装したが、ハウジング1とVバンド3との境界部分等のような形状が複雑な箇所で塗膜の厚みむらが生じた上、原水入口4等の接続部分の隙間を完全に塗装する事ができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に適用される膜モジュールの一例である中空糸膜モジュールの側面図である。
【図2】本発明で使用される保護材の一例を示す平面図である。
【図3】図1の膜モジュールを図2の保護材で被覆した状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 ハウジング
2 ポート
3 Vバンド
4 原水入口
5 透過水出口
6 濃縮水出口
10 中空糸膜モジュール
20 保護材
21 表示ラベル
30 漏出部
31 送気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装の少なくとも一部が熱可塑性樹脂で形成された膜モジュールの保護方法において、
前記膜モジュール全体を保護材で被覆する被覆工程と、
前記膜モジュールと前記保護材との間に空気及び不活性ガスから選択される少なくとも1つの気体を送る送気工程とを含み、
前記保護材、及び前記膜モジュールと前記保護材との間の少なくとも一方に前記気体が漏れる漏出部を形成しておき、前記送気工程において、前記気体が前記漏出部から漏れるように送気することを特徴とする膜モジュールの保護方法。
【請求項2】
前記保護材は、ポリオレフィン系樹脂を含む請求項1に記載の膜モジュールの保護方法。
【請求項3】
前記保護材には、表示が設けられている請求項1又は2に記載の膜モジュールの保護方法。
【請求項4】
前記被覆工程は、前記膜モジュールの設置後に行われ、
前記保護材は、前記被覆工程前においてシート状に形成されており、
前記被覆工程において、前記膜モジュールの設置面に対し略垂直な方向を巻心方向として前記保護材で前記膜モジュール全体を巻いた後、前記保護材の端辺同士を接合する請求項1〜3のいずれか1項に記載の膜モジュールの保護方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−95780(P2009−95780A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270401(P2007−270401)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】