説明

膜分離装置の汚染状態の診断方法、診断装置、および膜分離装置の洗浄方法

【課題】逆浸透膜等の分離膜の汚染状態を簡易かつ適切に診断し、汚染状態に応じた膜分離装置の洗浄方法や運転管理を可能とすること。
【解決手段】被処理液側に位置する第1膜面と、この第1膜面の反対側面であって透過液側に位置する第2膜面とを備える逆浸透膜等の分離膜について、第1膜面の表面粗さの変化と、第1膜面に付着した汚染物質の付着量とを指標として、分離膜の汚染状態を診断する。表面粗さの変化と、汚染物質の付着量とは、例えば平面座標にプロットする。診断対象の分離膜についての計測値がプロットされる位置に応じて、分離膜の汚染タイプが診断され、適切な洗浄方法が選択できる。例えば領域Zに位置する場合は有機物が主体の汚染と診断され、領域Wに位置する場合は有機物と無機物による汚染と診断され、領域Yに位置する場合は無機スケールを主体とする汚染と診断される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離装置に備えられた膜の汚染状態を診断する診断方法、診断装置、および膜分離装置の洗浄方法に関し、特に逆浸透膜のような水処理用の分離膜を備える膜分離装置の汚染状態の診断方法、診断装置、および洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の洗浄用水や医薬品製造用水等を製造する造水プラント等には、従来、逆浸透膜、限外濾過膜、または精密濾過膜等の分離膜を備える膜分離装置が設けられている。このような膜分離装置の運転を継続すると、分離膜の表面には様々な汚染物質が付着する。汚染物質は大きく無機物と有機物とに分けられ、無機物としては例えば被処理液に含まれるカルシウムによる炭酸カルシウムスケール等が挙げられ、有機物としては例えば被処理液に含まれる濁質、界面活性剤、および膜分離装置等で増殖した細菌等が挙げられる。
【0003】
このような分離膜の汚染に対し、従来、膜分離装置の定期的な洗浄が行われてきた。しかし、定期的な洗浄では必ずしも分離膜の汚染状態に応じた洗浄が行われず、分離膜の劣化や膜分離装置の運転効率の低下といった問題が生じる場合がある。このため、特許文献1では膜分離装置に供給する被処理液の圧力と、膜分離装置に取り付けられた分離膜の被処理液供給側表面(第1膜面)の浸透圧と、分離膜を透過する透過液の流量とに基づき、膜の汚れを診断して分離膜の洗浄時期を適正化する方法が提案されている。
【0004】
一方、分離膜に付着する汚染物質を特定する方法としては、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて膜表面の観察を行なう方法、蛍光X線分析装置を用いて膜表面に付着した無機成分の分析を行なう方法、および赤外吸収分光装置(IR)を用いて有機物の分析を行う方法等がある。
【特許文献1】特許第3311158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで特許文献1に記載された方法では汚染物質が特定されないことから、膜分離装置の洗浄に用いる洗浄薬品や洗浄方法は必ずしも汚染物質の性状に適したものではない場合がある。
【0006】
また膜表面の汚染は、無機物による汚染と有機物による汚染とが複合して起こっていることが多いため、IR等の分析装置を用いて膜の汚染物質を特定するだけでは分離膜の汚染状態を正確に把握するために充分な情報が得られない場合がある。例えば、蛍光X線分析装置を用いた分析により炭酸カルシウムスケールが汚染物質に含まれていることが判明した場合、従来は、スケールに対して洗浄効果が高い酸を用いた洗浄が行われているが、酸洗浄の効果が低い場合もある。
【0007】
さらに、SEMによる膜表面の観察やIRによる有機物分析では、濁質や微生物といった特定の汚染物質を判別することはできるが、これら以外の有機物や無機物を特定すること、複合汚染の原因物質を特定すること、あるいは汚染状態を総合的に判断することは困難であった。さらに、SEMやIR等の分析装置を用いる分析は操作が煩雑であり、正確な分析を行うためには熟練を要する上、被処理液の水質を考慮して汚染物質を特定するためには多岐に渡る知識や経験を要するという問題もある。
【0008】
本発明は上記課題に対し、様々な種類の汚染物質が付着した分離膜であっても、容易に高い精度で分離膜の汚染状態を診断できる膜分離装置の診断方法、およびこの診断方法を用いた膜分離装置の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、分離膜に付着する汚染物質の種類によって分離膜の表面形状の変化パターンが異なることを見出し、本発明を完成させた。具体的には発明者らは、分離膜の被処理液側の表面(第1膜面)の表面粗さの変化と、分離膜に付着する有機の汚染物質、または無機の汚染物質のいずれか一方または両方の付着量とを指標とすることにより、分離膜の汚染状態をパターン化して把握できることを見出し、本発明を完成させた。より具体的には本発明は以下を提供する。
【0010】
(1) 不純物を含む被処理液に面する第1膜面と、前記第1膜面の反対側面であって前記被処理液から不純物が除去された透過液に面する第2膜面と、を有する分離膜を備える膜分離装置の汚染状態の診断方法であって、 前記第1膜面の表面粗さの変化と、前記第1膜面に付着した汚染物質の付着量と、に基づき前記分離膜の汚染状態を診断する診断工程を含む膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【0011】
本発明は、分離膜として精密濾過膜を精密濾過膜装置、限外濾過膜を備える限外濾過膜装置、および逆浸透膜を備える逆浸透膜装置等の任意の膜分離装置に適用できる。膜分離装置の膜モジュール形式も特に限定されず、平膜型、チューブラー型、スパイラル型、および中空糸型などのいずれの形式にも適用できる。
【0012】
膜分離装置は、第1膜面側に不純物を含む被処理液を供給し、第2膜面側に液体を選択的に透過させることにより被処理液から不純物が除去された透過液を得るものであり、被処理液と接する第1膜面の表面には被処理液に含まれる不純物等の汚染物質が付着する。第1膜面の表面粗さはかかる汚染物質の付着により変化し、本発明では汚染物質の付着による第1膜面の表面粗さの変化を分離膜の汚染状態を診断する指標のひとつとする。
【0013】
本発明では、第1膜面の表面粗さの変化と、第1膜面における有機物または無機物のいずれか一方または両方の付着量との関係から、分離膜が複数の汚染物質により複合的に汚染されている場合であっても、簡易かつ確実に汚染タイプを把握して汚染状態を診断できる。
【0014】
(2) 前記診断工程は、前記第1膜面の表面粗さの変化と、前記汚染物質の付着量と、を計測してそれぞれの計測値を得る計測工程を含む(1)に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【0015】
表面粗さの変化は、レーザー顕微鏡、原子間力顕微鏡、摩擦力顕微鏡、走査型トンネル顕微鏡(STM)、SEM、および透過型電子顕微鏡等を用いた計測で得られた計測値から求められ、例えばJIS規格による粗さ形状パラメータ(JIS規格番号B0601:2001)として数値化できる。また表面粗さの変化は、二乗平均粗さ(RMS)、平均凹凸高さ(Rc)、あるいはピークカウント(Pc)等のJIS規格以外のパラメータを用いて数値化してもよい。さらに、汚染物質が付着していない未使用の分離膜(以下、「新膜」)の表面積と、診断対象である汚染物質が付着した分離膜の表面積との比として、表面粗さの変化を数値化することもできる。
【0016】
表面粗さの変化を表すJIS規格のパラメータとしては、任意のものを用いることができ、例えば算術平均高さ(Ra)、または最大高さ(Rz)等の値を用いることができる。例えば算術平均高さ(Ra)は次式に従い求められる。なお、式中、「f(x)」は粗さ曲線の平均線を基準線としたときの基準線上の粗さ曲線の高さを意味し、「l」は測定する基準線の長さである。
【0017】
【数1】

【0018】
本発明ではまた、第1膜面に付着した汚染物質の付着量を計測し、計測値を得る。汚染物質としては、無機物または有機物のどちらか一方を対象としてもよく、これらを区別することなく、汚染物質全体を測定対象としてもよい。
【0019】
(3) 前記汚染物質の付着量は、前記第1膜面に付着した無機物または有機物のどちらか一方または両方の付着量である(1)または(2)に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【0020】
無機物の付着量は、例えば蛍光X線分析装置、原子スペクトル分析装置、およびプラズマ発光分析装置(ICP)等を単独または併用し、1または2以上の無機物についてそれぞれの付着量を求めることができる。有機物の付着量は、IR、質量分析装置(GC−MAS)、および核磁気共鳴装置(NMR)等の任意の測定装置を単独または併用し、付着量を求めることができる。汚染物質は分離膜上に付着した状態のまま、例えばIRを用いて付着量を求めてもよく、アルカリ溶液や有機溶媒等を用いて分離膜から付着物を溶解し、紫外線測定装置等を用いて溶解液中の有機物(TOC)量を測定してもよい。なお、有機物の一種である界面活性剤は一般に被処理液に含まれる濃度は低いが、膜の汚染状態に影響を与えるため、他の有機物とは別に測定してもよい。
【0021】
(4) 前記計測工程において、前記表面粗さの変化、および、前記付着量として前記第1膜面に付着した無機物付着量または前記第1膜面に付着した有機物付着量のどちらか一方を計測してそれぞれの計測値を得、 前記計測工程の後に、表面粗さの変化と、付着量と、をそれぞれ座標軸とする平面図に前記計測工程で得られた計測値をプロットして二次元プロット図を作成する二次元プロット工程を設け、 前記二次元プロット図を用いて前記分離膜の汚染状態を診断する(3)に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【0022】
計測工程は上述した方法により行なわれ、(4)記載の発明では、第1膜面の表面粗さの変化、および、無機物または有機物のいずれか一方の付着量をX軸およびY軸とした二次元座標に、計測工程で求められた計測値をプロットする。計測値がプロットされた二次元プロット図は、図中に記された計測値を表す点の分散パターンに基づき、分離膜の汚染状態を診断するために用いる。本発明によれば、有機物または無機物のどちらかの付着量を求めるだけで分離膜の汚染状態を診断できる。
【0023】
(5) 前記計測工程において、前記表面粗さの変化、および、前記付着量として前記第1膜面に付着した有機物と無機物とを含む汚染物質全体の付着量である付着全量を計測してそれぞれの計測値を得、 前記計測工程の後に、表面粗さの変化と、付着全量と、をそれぞれ座標軸とする平面図に前記計測工程で得られた計測値をプロットして二次元プロット図を作成する二次元プロット工程を設け、 前記二次元プロット図を用いて前記分離膜の汚染状態を診断する(3)に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【0024】
(5)記載の発明では、無機物または有機物のいずれか一方の付着量に代え、第1膜面に付着した汚染物質全体の付着量である付着全量を指標として、二次元プロット図を作成する。以下、(5)記載の発明で作成される二次元プロット図を、(4)記載の発明により作成される二次元プロット図と区別するため、前者を特に「付着全量プロット図」と称する場合がある。
【0025】
(6) 前記計測工程において、前記第1膜面の表面粗さの変化と、前記第1膜面に付着した無機物付着量と、前記第1膜面に付着した有機物付着量と、を計測してそれぞれの計測値を得、 前記計測工程の後に、表面粗さの変化と、前記無機物付着量と、前記有機物付着量と、をそれぞれ座標軸とする三次元図に前記計測値をプロットして三次元プロット図を作成する三次元プロット工程を設け、 前記三次元プロット図を用いて前記分離膜の汚染状態を診断する(3)に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【0026】
(6)記載の発明では、第1膜面の表面粗さの変化、有機物付着量、および無機物付着量をそれぞれ座標軸とする三次元図面に、上述した計測方法により求められた計測値をプロットする。本発明によれば、分離膜の汚染状態をより正確に、また総合的に診断することができる。
【0027】
(7) 前記分離膜は、逆浸透膜である(1)から(6)いずれか記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【0028】
本発明は本来、分離膜の膜材質によらず適用可能であるが、被処理液中のイオンまで分離する逆浸透膜は様々な汚染物質による複合汚染が起こりやすいため、本発明を特に好適に適用できる。
【0029】
(8) 前記逆浸透膜は、ポリアミドで構成されるスキン層を含む(7)に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【0030】
逆浸透膜の膜材質としては、酢酸セルロース、ポリアミド、ポリビニルアルコール、およびポリフッ化ビニリデン等が用いられており、本発明はこれら任意の材質の分離膜に適用できる。これらの膜材質の中でも特に架橋前芳香族ポリアミド系の分離膜は、膜面粗さの変化と汚染物質の付着量との相関が強く、かつ膜面粗さの変化が明瞭であることから、本発明を好適に適用できる。
【0031】
(9) 前記逆浸透膜は、前記スキン層と、多孔質体で構成され前記スキン層を支持する支持体層と、を含む複合膜であって、 前記スキン層が前記第1膜面側、前記支持体層が前記第2膜面側に位置する(8)に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【0032】
多孔質な支持体層の片側表面に、脱塩等の選択的透過機能を備えるスキン層が形成された非対称膜は、脱塩機能を有するスキン層を被処理液と接する第1膜面とし、スキン層を支持する支持体層を第2膜面として膜モジュールに取り付けられる。かかる非対称の複合膜は、単一素材で構成された分離膜に比して、スキン層部分の素材を変更することにより、様々な機能を付加することができ、また、スキン層を250〜500Å程度の極めて薄い層にすることができるため、透過速度を大きくすることができるといった利点がある。
【0033】
本発明は、第1膜面となるスキン層の表面粗さの変化と、スキン層に付着した汚染物質の付着量とから汚染状態を診断できることから、極めて薄いスキン層を有する複合膜にも好適に使用できる。また、近年、スキン層を三次元的に成長させて「ヒダ状構造」にすることにより、表面積を増大させ、透過液量を増大させる膜が使用されている。本発明は、スキン層の表面粗さの変化から汚染状態を診断できることから、このようなヒダ状構造を有する膜に対して特に好適に使用できる。
【0034】
(10) 不純物を含む被処理液に面する第1膜面と、前記第1膜面の反対側面である第2膜面と、を有する分離膜の汚染状態を診断する診断工程と、この診断工程の結果に基づいて前記分離膜を洗浄する洗浄工程と、を含む膜分離装置の洗浄方法であって、 前記診断工程において請求項1から9いずれか記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法により分離膜の汚染状態を診断する膜分離装置の洗浄方法。
【0035】
上記(1)〜(9)の診断方法により汚染状態を診断した分離膜は、汚染状態に応じて採用される適切な洗浄方法により洗浄することで、機能を回復させることができる。かかる診断工程と、この診断工程に続いて実施される洗浄工程とは、膜分離装置の運転管理工程の中に組み込むことができる。本発明では、分離膜の汚染状態を診断することにより、適切な洗浄薬品および洗浄方法を選択できるため、洗浄効果を高め、また分離膜の洗浄に要する薬品使用量を低減できる効果を有する。
【0036】
(11) 不純物を含む被処理液に面する第1膜面と、前記第1膜面の反対側面である第2膜面と、を有する分離膜を備える膜分離装置の汚染状態の診断装置であって、 前記第1膜面の表面粗さの変化を測定する表面粗さ測定手段と、 前記第1膜面に付着した汚染物質の付着量を測定する付着物測定手段と、 前記表面粗さ測定手段で測定された表面粗さおよび前記付着物測定手段で測定された付着量に基づき、前記分離膜の汚染状態を診断する診断手段と、を備える膜分離装置の汚染状態の診断装置。
【0037】
上記(1)〜(9)記載の発明は、SEMのような分離膜表面の粗さを計測する機器を表面粗さ測定手段とし、IR、GC−MAS、ICP等の分析装置を付着物測定手段とし、さらに中央演算処理装置(CPU)等の演算手段を備え、表面粗さと付着物量とから汚染状態を判定するコンピュータ等の情報処理手段を診断手段として備える装置によって実施できる。表面粗さ測定手段と付着物測定手段と診断手段とは、それぞれ離隔した場所に設けていてもよく、両手段を膜分離装置に隣接して配置してもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、簡易かつ高精度で分離膜の汚染状態を診断することができる。特に、本発明では、分離膜が2以上の汚染物質により複合的に汚染されている場合にも汚染タイプを適切に診断して、最適な洗浄方法を選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に、図面を用いて本発明について詳細に説明する。図1は、膜分離装置を構成するスパイラル型の膜モジュール1の分解模式図である。膜モジュール1は、分離膜としての逆浸透膜で構成された膜体10と、膜体10の片側表面に配置される網状のスペーサ20と、不純物が除去された透過液が集められる集液管30と、備えている。膜体10とスペーサ20とは、一端縁が集液管30に接続され、膜モジュール1は膜体10とスペーサ20とが集液管30を軸として巻きつけられることにより略円柱状をなす。
【0040】
膜分離装置は例えば膜モジュール1が、略円筒状の容器(図示せず)の内側に収容されて構成される。かかる膜分離装置においては、略円筒状の容器内部に被処理液が導入され、逆浸透膜11を透過した透過液が集液管30から取り出されることより、不純物が除去された脱塩水等の透過液が得られる。
【0041】
図2は、図1に示す破線に沿って膜体10の一部を切り取った模式図である。膜体10は集液管30に接続される端縁を除き周縁が接着剤等で閉じられた略袋状の逆浸透膜11で構成され、膜体10の内部には透過液の流れを促進するために網状の透過液スペーサ40が配置されている。
【0042】
図3は図2においてAで示した部分における逆浸透膜11の断面を拡大した模式図である。本態様では逆浸透膜11は、図3に示すように、例えば架橋前芳香族ポリアミドで構成されたスキン層12と、このスキン層12を支持するポリスルホンで構成された支持体層13とを有する複合膜であり、図2に示すようにスキン層12を外側、支持体層13を内側として袋状となっている。
【0043】
被処理液は、上記袋状の膜体10の外側に供給され、逆浸透膜11を透過した透過液が袋状の膜体10内部から集液管30に集められる。かかる膜モジュール1において、被処理液と接する第1膜面12sは逆浸透膜11のスキン層12で構成される面であり、透過液と接する第2膜面13sは支持体層13で構成される面である。
【0044】
このような膜モジュールを備える膜分離装置においては、運転時間の経過に伴い、被処理液に含まれる不純物等が被処理液と接する第1膜面の表面に付着する。本発明の発明者らは、次に説明するように、第1膜面に付着する汚染物質の付着状況は汚染物質の種類ごとに異なっていることを見出した。
【0045】
図4は、上記逆浸透膜11のスキン層12の表面、すなわち第1膜面12sにおいて、汚染物質として界面活性剤もしくはタンパク質等の有機物、または水酸化アルミニウムPが付着した状態を模式化した図面である。図4に示すように、有機物、または水酸化アルミニウムPは第1膜面12s全体に薄く吸着されるため、膜面形状をほとんど変化させず、第1膜面12sの表面粗さの変化は少ない。無機系の汚染物質であっても水酸化アルミニウムは有機物Pと同様に膜面形状をほとんど変化させない。
【0046】
一方、無機物を主体とする汚染物質が第1膜面に付着した場合は膜面形状の変化が大きくなる。図5は、炭酸カルシウム等の無機のスケール物質Sが第1膜面12sに付着した状態を模式化した図である。図5に示すように、炭酸カルシウム等のスケール物質Sは、第1膜面12sの面方向に対して垂直な方向に成長することから、スケール物質Sが付着した第1膜面12sには、スケール物質Sで構成される凹凸が形成され、表面積が増加する。
【0047】
また、図6に示すように、有機物であるフミン等の高分子有機物Pのカルボキシル基に、カルシウムイオン等の多価カチオンCが結合すると、有機物Pが積層して第1膜面12sの凹凸が少なくなるという表面粗さの変化が生じる。
【0048】
本発明は上記知見に基づき、第1膜面12sの表面形状の変化と、第1膜面12sの有機または無機のいずれか一方または両方の汚染物質の付着量を測定し、逆浸透膜11の汚染状態を診断する。以下、診断方法の一実施態様について説明する。本実施態様では、汚染物質により汚染された分離膜(以下、「汚染膜」)を診断対象とし、汚染膜と新膜との表面積の比から表面積の変化を数値化し、汚染膜の汚染状態を診断する。
【0049】
具体的な方法としては、汚染膜をまず25℃程度の室温で自然乾燥させる。次に測定工程として、レーザー顕微鏡(例えば超深度カラー形状測定顕微鏡)を用いて単位膜面積(例えば汚染膜1μm当たり)の第1膜面12sの実表面積を測定する。第1膜面12sの表面積は部位によって異なるため、測定対称部位を5〜20箇所程度として、複数の測定値を求め、これら複数の測定値の平均値を汚染膜の表面積の値(V)とすることが好ましい。
【0050】
同様に、診断対象の分離膜と同種の分離膜であって、汚染物質が付着していない未使用の新膜についても表面積(V)を求めておく。第1膜面12sの表面形状の変化(V)は、上記方法により求められた汚染膜の表面積V(μm/μm)と新膜の表面積V(μm/μm)に基づく表面積比として、下記に示す数式2により求められる。
【数2】

【0051】
なお、表面形状の変化は、たとえばJIS規格0601番の算術平均高さ(Ra)等で表してもよく、上述した架橋前芳香族ポリアミドからなるスキン層12を有する未使用の逆浸透膜11の場合、スキン層12の算術平均高さRaは例えば0.3μm以上程度である。
【0052】
一方、汚染物質の付着量については、例えば蛍光X線分析装置を用いて第1膜面12sに付着している無機物Sの付着量を測定する。蛍光X線分析法による測定においては、各元素の感度によって検出される蛍光強度が異なるため、例えば、次に示す数式3により、カルシウムを基準として無機物Sがカルシウムである場合の付着量を1とした場合における無機物Sの付着量比Mを相対的に数値化して表すとよい。なお式中、「Ka」は元素aの換算係数(/kcps)、Xaは元素aの蛍光強度(kcps)であり、以下同様に「Kb」は元素bの換算係数、Xbは元素bの蛍光強度を意味する。
【数3】

【0053】
なお、分離膜の膜材質に由来する硫黄(S)、塩素は無機物の付着量比Mを求める計算式から除外してもよく、同様に、アルミニウムは両性金属であって酸洗浄およびアルカリ洗浄のどちらでも効率的に洗浄できることから、無機物の付着量比Mを算出する数式3から除外してもよい。
【0054】
汚染物質として無機物の付着量のみを算出する場合は、例えば表面粗さの変化を横軸(対数軸)、無機物付着量を縦軸とする平面座標に、上記方法により得られた計測値を書き込み、二次元プロット図を作成する。図7は、表面粗さの変化を示す表面積比Vを横軸(対数軸)、無機物付着量比Mを縦軸とする平面座標とした二次元プロット図であり、表面積比Vと無機物の付着量比Mの値が共に低い場合(領域Z内にプロットされる場合)は、上述したとおり汚染物質の主体は有機物と診断され、表面積比Vの値は低い一方、無機物の付着量比Mは比較的高い場合(領域W内にプロットされる場合)は、有機物のカルボキシル基にカルシウムイオン等が結合した汚染のタイプと診断できる。さらに、表面積比Vと無機物の付着量比Mの値が共に高い場合(領域Y内にプロットされる場合)は、無機のスケールが多く付着している汚染状態と診断される。
【0055】
上記方法により汚染状態のタイプが診断されれば、汚染状態に応じて分離膜の洗浄に用いる洗浄薬品や洗浄順序等を適宜、選択して分離膜を洗浄する洗浄工程を実施する。例えば、領域Z内にプロットされる有機物主体型の汚染タイプであればアルカリ洗浄、または有機溶媒もしくはポリオールなどを用いた洗浄が効果的であり、領域W内にプロットされる結合型の汚染タイプであればアルカリ洗浄と硝酸洗浄との組合せが効果的である。また、領域Y内にプロットされる無機物主体型の汚染タイプにはシュウ酸や塩酸を用いた酸洗浄、または酸洗浄とアルカリ洗浄の組合せが効果的である。
【0056】
かかる診断工程および洗浄工程を組み込んだ膜分離装置の運転管理方法においては、さらに、膜分離装置から回収される透過液の回収率、添加薬品の添加量、添加順序等を適宜変更して分離膜の汚染を防止する対策を講じてもよい。
【0057】
なお、本発明は分離膜の第1膜面の表面粗さの変化と、汚染物質の付着量との関係に着目して、これらの関係を分離膜の汚染状態の診断に用いる点に技術的な特徴があり、表面粗さの変化を数値化する数式や、数値化された表面粗さの変化等から図面を作成することは、これらの関係を可視化する手段であり、診断方法は上記数式を用いるものに限られない。
【実施例】
【0058】
次に実施例に基づき、本発明をさらに詳しく説明する。
【0059】
[実施例1]
分離膜として、ポリスルホン系の支持体層に芳香族ポリアミドで構成されたスキン層を有する複合膜である逆浸透膜を備えるスパイラル型の膜モジュール(日東電工株式会社製、NTR−759HR)で構成された膜分離装置を用い、被処理液として機械製造工場排水を用いた膜分離法による排水処理を行なった。排水は4.6mg/Lの濃度のTOC成分と、80mg/Lの濃度のカルシウム成分と、16mg/Lの濃度のシリカを含み、pHは9.5であった。また、未使用の膜モジュールが配置された膜分離装置の純水透過流速は、操作圧力1.2MPaで1.0〜1.2m/(m・日)であり、操作圧力1.2MPaで排水処理を行なったところ、逆浸透膜に汚染物質が付着して透過流速が0.19m/(m・日)まで低下した。そこで、膜モジュールを分解して汚染物質が付着した分離膜を汚染膜Aとした。
【0060】
次に汚染膜Aの第1膜面であるスキン層の表面を、超深度カラー形状測定顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK−9500)を用いて計測し、上述した方法により、新膜と汚染膜Aの表面積比Vとして汚染膜Aの表面粗さの変化を数値化した。また、蛍光X線分析装置(フィリップス社製、PW1404)を用い、無機物としてシリカおよびカルシウムの合計付着量比Mを上述した方法により求めた。
【0061】
また、有機物として特に界面活性剤の付着量を求めることとし、汚染膜Aの一部を水酸化ナトリウム水溶液(pH12)に60分間浸漬して45kHzの超音波をかけながら処理した。この処理により得られた液体のアルキルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤濃度をAPE−ELISA キット(武田薬品工業株式会社製)により測定し、測定に供した汚染膜Aの表面積で除した値を非イオン界面活性剤付着量(mg/cm)とした。
【0062】
得られた表面積比Vと無機物付着量比Mの値を基に、汚染膜Aの汚染状態を示す点Aを図7に示す二次元平面プロット図にプロットしたところ、領域Y内にプロットされた。また、表面積比VをX軸、無機物付着量比MをY軸、非イオン界面活性剤付着量をZ軸とする三次元図に測定値をプロットしたところ、図8に示す三次元プロット図が得られた。
【0063】
これらのプロット図から汚染膜Aはスケール物質を多く含む無機物主体型の汚染タイプで、また、非イオン界面活性剤による軽度の汚染があると診断された。そこで、汚染膜Aをクエン酸の2質量%水溶液と水酸化ナトリウム(pH12)とを用いた酸洗浄と、アルカリ洗浄との組合せで洗浄した。
【0064】
洗浄は、各洗浄液に汚染膜Aを24時間浸漬することで行い、各洗浄液での洗浄終了後に純水を用いた透過流速試験を行ない、汚染物質の除去効果を確認した。実施例1では、
酸洗浄後の透過流速は0.8m/(m・日)、アルカリ洗浄後の透過流速は0.98m/(m・日)となり、新膜と同程度まで透過流速が回復された。
【0065】
[実施例2]
被処理液として機械製造工場排水の代わりに分子量数万程度の牛血清タンパク質(BSA)を10mg/Lの濃度で含む模擬排水を用いた以外は実施例1と同様の条件で試験を行なった。模擬排水の処理を継続した結果、逆浸透膜に汚染物質が付着して透過流速が0.75m/(m・日)まで低下した。そこで、膜モジュールを分解して汚染物質が付着した分離膜を取り出し、汚染膜Bとした。
【0066】
この汚染膜Bの第1膜面であるスキン層の表面を、実施例1と同様の方法で測定し、汚染膜Bの表面粗さの変化を示す表面積比Vと、無機物の付着量比Mを求め、汚染膜Bの汚染状態を示す点Bを図7に示す二次元平面プロット図にプロットしたところ、点Bは領域Z内にプロットされた。また、非イオン界面活性剤付着量についても実施例1と同様の方法で測定し、図8に示す三次元プロット図にプロットした。これらのプロット図から汚染膜Bは有機物を主体とする有機物主体型の汚染タイプであって非イオン界面活性剤による汚染は実質的にないタイプと診断された。そこで、汚染膜Bを水酸化ナトリウム(pH12)によりアルカリ洗浄した。アルカリ洗浄は実施例1と同様にして実施し、洗浄終了後に純水を用いた透過流速試験を行なったところ、洗浄後の透過流速は1.06m/(m・日)となった。
【0067】
[実施例3]
被処理液として機械製造工場排水の代わりにグルコースを主体とする有機物源を10mg/Lの濃度で含む模擬排水を用いた以外は実施例1と同様の条件で試験を行なった。模擬排水は、TOC濃度4mg/L、窒素濃度0.4mg/L、リン濃度0.04mg/L、およびカルシウム濃度50mg/Lであった。この模擬排水の処理を継続した結果、逆浸透膜に汚染物質が付着して透過流速が0.67m/(m・日)まで低下した。そこで、膜モジュールを分解して汚染物質が付着した分離膜を取り出し、汚染膜Cとした。
【0068】
この汚染膜Cの第1膜面であるスキン層の表面を、実施例1と同様の方法で測定し、汚染膜Cの表面粗さの変化を示す表面積比Vと、無機物の付着量比Mを求め、汚染膜Cの汚染状態を示す点Cを図7に示す二次元平面プロット図にプロットしたところ、点Cは領域Z内にプロットされた。また、非イオン界面活性剤付着量についても実施例1と同様の方法で測定し、図8に示す三次元プロット図にプロットした。これらのプロット図から汚染膜Cは有機物を主体とする有機物主体型の汚染タイプであって非イオン界面活性剤による汚染は実質的にないタイプと診断された。
【0069】
グルコースは透過流速を低下させないと考えられるため、汚染膜Cの汚染物質の主体は有機物の中でも微生物を主体とするものと考えられた。そこで、汚染膜Cを水酸化ナトリウム(pH12)によりアルカリ洗浄した。アルカリ洗浄は実施例1と同様にして実施し、洗浄終了後に純水を用いた透過流速試験を行なったところ、洗浄後の透過流速は1.02m/(m・日)となった。
【0070】
[実施例4]
被処理液として機械製造工場排水の代わりに色素材料製造工場排水を用い、膜分離装置として、東レ株式会社製の逆浸透膜(架橋ポリアミド系のスキン層を有する複合膜)を備えるスパイラル型の膜モジュール(SU−720)を用いた以外は実施例1と同様の試験を行なった。排水は1.82mg/Lの濃度のTOC成分と、アルミニウム(Al)、シリカ(Si)、リン(P)、カルシウム(Ca)、および鉄(Fe)を含み、導伝率87μS/cm、pHは6.0であった。また、未使用の膜モジュールが配置された膜分離装置の純水透過流速は、実施例1の膜分離装置と同じであり、実施例1と同様の試験を行なった結果、透過流速が0.47m/(m・日)まで低下した。そこで、膜モジュールを分解して汚染物質が付着した分離膜を取り出し、汚染膜Dとした。
【0071】
この汚染膜Dの第1膜面であるスキン層の表面を、実施例1と同様の方法で測定し、汚染膜Dの表面粗さの変化を示す表面積比Vと、無機物の付着量比Mを求め、汚染膜Dの汚染状態を示す点Dを図7に示す二次元平面プロット図にプロットしたところ、点Dは領域W内にプロットされた。また、非イオン界面活性剤付着量についても実施例1と同様の方法で測定し、図8に示す三次元プロット図にプロットした。これらのプロット図から汚染膜Dは有機物と無機物とが結合した結合型の汚染タイプであって、非イオン界面活性剤による軽度の汚染があるタイプと診断された。
【0072】
そこで、汚染膜Dを水酸化ナトリウム(pH12)、5質量%濃度の硝酸水溶液、さらに水酸化ナトリウム(pH12)の順で洗浄した。洗浄は実施例1と同様にして実施し、洗浄終了後に純水を用いた透過流速試験を行なったところ、洗浄後の透過流速は1.10m/(m・日)まで回復した。
【0073】
[実施例5]
被処理液として機械製造工場排水の代わりに市水を用い、膜分離装置として、日東電工株式会社製の逆浸透膜(全芳香族ポリアミド系のスキン層を有する複合膜)を備えるスパイラル型の膜モジュール(ES−20)を用いた以外は実施例1と同様の試験を行なった。被処理液は0.5mg/Lの濃度のTOC成分と、0.08mg/Lの濃度のアルミニウムとを含み、pHは6.0であった。また、未使用の膜モジュールが配置された膜分離装置の純水透過流速は、操作圧力0.75Mpaで1.0〜1.2m/(m・日)であり、排水処理は操作圧力を1.2Mpaとする代わりに0.75Mpaとして実施した。その結果、透過流速が0.5m/(m・日)まで低下した。そこで、膜モジュールを分解して汚染物質が付着した分離膜を取り出し、汚染膜Eとした。
【0074】
この汚染膜Eの第1膜面であるスキン層の表面を、実施例1と同様の方法で測定し、汚染膜Eの表面粗さの変化を示す表面積比Vと、無機物の付着量比Mを求め、汚染膜Eの汚染状態を示す点Eを図7に示す二次元平面プロット図にプロットしたところ、点Eは領域Z内にプロットされた。また、非イオン界面活性剤付着量についても実施例1と同様の方法で測定し、図8に示す三次元プロット図にプロットした。これらのプロット図から汚染膜Eは有機物主体型の汚染タイプであって非イオン界面活性剤による汚染は実質的にないタイプと診断された。汚染膜Eについては、被処理液のTOC濃度が1mg/Lに満たない低い濃度であることから、水酸化アルミニウムによる汚染があると考えられた。
【0075】
このため、水酸化ナトリウム(pH12)を用いて実施例1と同様にして汚染膜Eの洗浄を実施し、洗浄終了後は透過液の回収率を90%から70%に変更したところ、回収率変更前と同じ期間処理を継続しても透過流速は0.8m/(m・日)であり、透過流速の低下が抑制できた。
【0076】
[実施例6]
被処理液として実施例1の排水に代えて、TOC成分5.3mg/L、カルシウム成分134mg/Lを含む別の機械製造工場排水を用い、膜分離装置として、日東電工株式会社製の逆浸透膜(全芳香族ポリアミドとポリビニルアルコール系素材を複合化した複合膜)を備えるスパイラル型の膜モジュール(LF−10)を用いた以外は実施例1と同様の試験を行なった。未使用の膜モジュールが配置された膜分離装置の純水透過流速は、操作圧力1.2Mpaで1.0〜1.2m/(m・日)であり、操作圧力を1.2Mpaとして排水処理を実施した結果、透過流速が0.62m/(m・日)まで低下した。そこで、膜モジュールを分解して汚染物質が付着した分離膜を取り出し、汚染膜Fとした。
【0077】
この汚染膜Fの第1膜面であるスキン層の表面を、実施例1と同様の方法で測定し、汚染膜Fの表面粗さの変化を示す表面積比Vと、無機物の付着量比Mを求め、汚染膜Fの汚染状態を示す点Fを図7に示す二次元平面プロット図にプロットしたところ、点Fは領域W内にプロットされた。また、非イオン界面活性剤付着量についても実施例1と同様の方法で測定し、図8に示す三次元プロット図にプロットした。これらのプロット図から汚染膜Fは結合型の汚染タイプであるが、非イオン界面活性剤による汚染は実質的にないタイプと診断された。
【0078】
実施例6については被処理液のカルシウムイオン濃度が高いため、被処理液を膜分離装置で処理する前に炭酸カルシウムとして析出させて除去し、膜分離装置に供給する被処理液のカルシウム濃度を38mg/Lとしたところ、診断前までの処理時間と同じ期間処理を継続しても透過流速は0.78m/(m・日)となり、透過流速の低下が抑制できた。
【0079】
[実施例7]
被処理液として実施例1の排水に代えて、アルキルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤(ポリオキシエチレン(8.5)ノニルフェニルエーテル)を10mg/Lの濃度で含む模擬排水を用いた以外は実施例1と同様の条件で試験を行なった。模擬排水の処理を継続した結果、逆浸透膜に汚染物質が付着して透過流速が0.4m/(m・日)まで低下した。そこで、膜モジュールを分解して汚染物質が付着した分離膜を取り出し、汚染膜Gとした。
【0080】
この汚染膜Gの第1膜面であるスキン層の表面を、実施例1と同様の方法で測定し、汚染膜Gの表面粗さの変化を示す表面積比Vと、無機物の付着量比Mを求め、汚染膜Gの汚染状態を示す点Gを図7に示す二次元平面プロット図にプロットしたところ、点Gは領域Z内にプロットされた。また、非イオン界面活性剤付着量についても実施例1と同様の方法で測定し、図8に示す三次元プロット図にプロットした。これらのプロット図から汚染膜Gは有機物を主体とする有機物主体型の汚染タイプであって非イオン界面活性剤による強度の汚染があるタイプと診断された。
【0081】
非イオン界面活性剤による汚染は、軽度であれば水酸化ナトリウム等の従来のアルカリ洗浄で膜性能を回復できるが、強度の汚染の場合、ポリオールなどを用いて洗浄を行うことがよい(国際公開第WO2004−076040号パンフレット参照)。そこで、国際公開第WO2004−076040号パンフレットを参照し、汚染膜Gについてはプロピレングリコール濃度が50質量%となるように水酸化ナトリウム水溶液(pH12)と混合した溶液を用いて実施例1と同様にして洗浄を行い、洗浄終了後に純水を用いた透過流速試験を行なったところ、洗浄後の透過流速は1.08m/(m・日)まで回復した。
【0082】
[比較例1]
実施例1の汚染膜Aを、汚染状態を確認せず、水酸化ナトリウム(pH12)による定期的洗浄を実施した。しかし、洗浄後の透過流速は0.28m/(m・日)であり、アルカリ洗浄では透過流速を回復させることができなかった。
【0083】
[比較例2]
実施例2の汚染膜Bを、汚染状態を確認せず、0.1質量%のシュウ酸水溶液で洗浄した。しかし、洗浄後の透過流速は0.72m/(m・日)であり、酸洗浄では透過流速を回復させることができず、むしろ、タンパク質などの高分子有機物が酸により不溶化して透過流速が低下した。
【0084】
[比較例3]
実施例3の汚染膜Cを、汚染状態を確認せず、0.1質量%のシュウ酸水溶液で洗浄した。しかし、洗浄後の透過流速は0.60m/(m・日)であり、酸洗浄では透過流速を回復させることができず、比較例2と同様にむしろ透過流速が低下した。
【0085】
[比較例4]
実施例4の汚染膜Dを、汚染状態を確認せず、水酸化ナトリウム(pH12)、0.1量%のシュウ酸水溶液、および水酸化ナトリウム(pH12)で洗浄した。しかし、洗浄後の透過流速は0.65m/(m・日)であり、透過流速を回復させることができなかった。
【0086】
[比較例5]
実施例7の汚染膜Gを、汚染状態を確認せず、水酸化ナトリウム(pH12)、0.1量%で洗浄した。しかし、洗浄後の透過流速は0.80m/(m・日)であり、透過流速を十分に回復させることができなかった。
【0087】
このように、実施例1〜7では分離膜の汚染状態を診断して適切な洗浄方法または膜分離装置の運転状況を選択することで、分離膜の汚染を効果的に除去し、または分離膜の汚染を防止できた。しかし、分離膜の汚染状態を診断せずに、分離膜を洗浄した比較例1〜5では、効果的な洗浄が行えず、場合によっては分離膜の劣化を進める結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、純水製造装置等に用いられる膜分離装置の運転管理の効率化、適正化を図るために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】膜分離装置を構成するスパイラル型逆浸透膜モジュールを示す図である。
【図2】前記膜モジュールに含まれる逆浸透膜の断面模式図である。
【図3】前記逆浸透膜の拡大断面模式図である。
【図4】逆浸透膜の第1膜面に付着する汚染物質の付着状況を示す模式図である。
【図5】逆浸透膜の第1膜面に付着する汚染物質の付着状況を示す模式図である。
【図6】逆浸透膜の第1膜面に付着する汚染物質の付着状況を示す模式図である。
【図7】本発明に従い、作成された二次元プロット図である。
【図8】本発明に従い、作成された三次元プロット図である。
【符号の説明】
【0090】
1 膜モジュール
10 膜体
11 逆浸透膜
12 スキン層
12s 第1膜面
13s 第2膜面
13 支持体層
20 スペーサ
30 集液管
40 透過液スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含む被処理液に面する第1膜面と、前記第1膜面の反対側面であって前記被処理液から不純物が除去された透過液に面する第2膜面と、を有する分離膜を備える膜分離装置の汚染状態の診断方法であって、
前記第1膜面の表面粗さの変化と、前記第1膜面に付着した汚染物質の付着量と、に基づき前記分離膜の汚染状態を診断する診断工程を含む膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【請求項2】
前記診断工程は、前記第1膜面の表面粗さの変化と、前記汚染物質の付着量と、を計測してそれぞれの計測値を得る計測工程を含む請求項1に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【請求項3】
前記汚染物質の付着量は、前記第1膜面に付着した無機物または有機物のどちらか一方または両方の付着量である請求項1または2に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【請求項4】
前記計測工程において、前記表面粗さの変化、および、前記付着量として前記第1膜面に付着した無機物付着量または前記第1膜面に付着した有機物付着量のどちらか一方を計測してそれぞれの計測値を得、
前記計測工程の後に、表面粗さの変化と、付着量と、をそれぞれ座標軸とする平面図に前記計測工程で得られた計測値をプロットして二次元プロット図を作成する二次元プロット工程を設け、
前記二次元プロット図を用いて前記分離膜の汚染状態を診断する請求項3に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【請求項5】
前記計測工程において、前記表面粗さの変化、および、前記付着量として前記第1膜面に付着した有機物と無機物とを含む汚染物質全体の付着量である付着全量を計測してそれぞれの計測値を得、
前記計測工程の後に、表面粗さの変化と、付着全量と、をそれぞれ座標軸とする平面図に前記計測工程で得られた計測値をプロットして二次元プロット図を作成する二次元プロット工程を設け、
前記二次元プロット図を用いて前記分離膜の汚染状態を診断する請求項3に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【請求項6】
前記計測工程において、前記第1膜面の表面粗さの変化と、前記第1膜面に付着した無機物付着量と、前記第1膜面に付着した有機物付着量と、を計測してそれぞれの計測値を得、
前記計測工程の後に、表面粗さの変化と、前記無機物付着量と、前記有機物付着量と、をそれぞれ座標軸とする三次元図に前記計測値をプロットして三次元プロット図を作成する三次元プロット工程を設け、
前記三次元プロット図を用いて前記分離膜の汚染状態を診断する請求項3に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【請求項7】
前記分離膜は、逆浸透膜である請求項1から6いずれか記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【請求項8】
前記逆浸透膜は、ポリアミドで構成されるスキン層を含む請求項7に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【請求項9】
前記逆浸透膜は、前記スキン層と、多孔質体で構成され前記スキン層を支持する支持体層と、を含む複合膜であって、
前記スキン層が前記第1膜面側、前記支持体層が前記第2膜面側に位置する請求項8に記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法。
【請求項10】
不純物を含む被処理液に面する第1膜面と、前記第1膜面の反対側面である第2膜面と、を有する分離膜の汚染状態を診断する診断工程と、この診断工程の結果に基づいて前記分離膜を洗浄する洗浄工程と、を含む膜分離装置の洗浄方法であって、
前記診断工程において請求項1から9いずれか記載の膜分離装置の汚染状態の診断方法により分離膜の汚染状態を診断する膜分離装置の洗浄方法。
【請求項11】
不純物を含む被処理液に面する第1膜面と、前記第1膜面の反対側面である第2膜面と、を有する分離膜を備える膜分離装置の汚染状態の診断装置であって、
前記第1膜面の表面粗さの変化を測定する表面粗さ測定手段と、
前記第1膜面に付着した汚染物質の付着量を測定する付着物測定手段と、
前記表面粗さ測定手段で測定された表面粗さおよび前記付着物測定手段で測定された付着量に基づき、前記分離膜の汚染状態を診断する診断手段と、を備える膜分離装置の汚染状態の診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−14878(P2007−14878A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198725(P2005−198725)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】