説明

膜組み込みペプチドのためのナノ粒子輸送システム

【課題】膜組み込みペプチドをターゲット細胞又は組織に効率的に輸送する組成物及び方法を提供する。
【解決手段】膜組み込みペプチドを輸送するためのナノ粒子エマルジョンを含む組成物である。ナノ粒子は、膜組み込みペプチドを含む脂質/界面活性剤層にコーティングされた液状の疎水性コアを含む。このような組成物を使用する方法も本発明の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の表示)
本出願は、2007年3月5日出願の米国仮出願60/905227及び2007年11月30日出願の米国仮出願60/991654の優先権を主張し、これらの出願の内容は全て引用をもって本書に繰り込むものとする。
本発明は、膜組み込みペプチド、特に生体内でそう(膜組み込み)でなければ非選択的に細胞に有毒な膜組み込みペプチドの輸送に関する。特に本発明は、疎水性コアが脂質/界面活性剤層でコーティングされたナノ粒子の自己配列エマルジョンを用いた上記ペプチドの輸送に関する。
【背景技術】
【0002】
ランザ(Lanza)らによる米国特許第6676963号(これは引用をもって本書に組み込む)には、ターゲット化された「水相中に油が分散した」O/Wエマルジョン、典型的にはナノ粒子のフルオロカーボンコアに脂質/界面活性剤層をコーティングしたエマルジョンを用いた一般的な医薬輸送が開示されている。ここで、脂質/界面活性剤層にはターゲット剤のみならず輸送すべき医薬も含まれている。この特許文献で説明されているように、ターゲット化されたエマルジョン粒子は、ターゲット細胞又は組織の表面と長時間相互結合するという点で、ターゲット化されていない粒子とは一時的な結合しかしないことに比べて大きく異なっている。粒子が細胞表面に結合することにより、ナノ粒子がいつまでも体内を循環することを停止させ、付着粒子はターゲット細胞膜(これは脂質二重層である)と長い間相互作用することができる。これにより、脂質/界面活性剤層に含まれる医薬を効率的に輸送することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6676963号
【特許文献2】米国特許第7255875号
【特許文献3】米国特許第7186399号
【特許文献4】米国特許第5645996号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ランザらによれば、そのような医薬に、細胞の食作用を受けるか、脂質二重層細胞膜に細孔を形成するような膜組み込みペプチドは考慮されていない。これらは、例えば細胞に出入りする物質の非特異的コントロールになることから、細胞を死に至らしめうる。これらのペプチドは、特別な問題を引き起こし、非特異的でしばしば生体内で全体の細胞に害を与えるために、実際には例えば抗腫瘍剤として使用されることはない。
【0005】
疎水性コアと脂質/界面活性剤コーティングを含むナノ粒子状組成物の多くの代替組成物が米国特許第7255875号及び7186399号に開示されており、これらは引用により本書に組み込む。これらの特許文献は、ターゲット試薬のない造影剤として用いられる初期の化合物についても言及している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
膜組み込み(membrane-integrating)ペプチドを投与することによる問題は、本発明により解決された。本発明は、膜組み込みペプチドを疎水性コアの周囲の脂質/界面活性剤層と結合させることにより、そして任意的に、ペプチドを含むナノ粒子を例えば死滅させたい組織を標的として送り込むことにより、このターゲット細胞又は組織に効率的に輸送することができ、従ってこのペプチドが周囲の組織又はターゲットではない細胞又は組織に対しては何の影響を与えることなく、ターゲット細胞の成長を阻害し、実際のところ、細胞死まで生じさせるという発見に基づく。このペプチドは、他の治療用又は診断用薬剤の輸送も促進することができる。さらにこのペプチドは、保護された状態にあるため、事前に劣化されることなく輸送される。
【0007】
本発明は、膜組み込みペプチドを、自己配列(self-assembling)ナノエマルジョンを用いて輸送する組成物及び方法を指向する。いくつかの実施形態においては、このナノエマルジョンは動物の特定の組織又は細胞をターゲットとする。このような組成物及び方法は、がんや望ましくない脈管構造の治療のように、特定の組織を破壊することが望ましい症状の治療に有用である。ある場合には、細胞膜組み込み効果は、例えば血液脳関門を開けること、管内皮の浸透性を高めること、又は治療用又は診断用薬剤が細胞内に入ることを助けることにより、他の治療法の補助として用いることができる。
【0008】
従って一つの視点において、本発明は周囲を脂質/界面活性剤層で覆われた疎水性のコアを含むナノ粒子組成物を指向する。脂質/界面活性剤層は1以上の膜組み込みペプチドを含み、ある実施形態においてはさらに対象とする組織又は細胞に特異的なターゲット剤又はリガンドを含む。ある実施形態では、膜組み込みペプチドは細胞に有毒でもある。ある実施形態では、膜組み込みペプチドはさらに別の治療用又は診断用薬剤と結合しているか、脂質/界面活性剤層にそのような薬剤を含むことができる。
【0009】
他の視点において、本発明は本発明に係る組成物を用いて、治療用又は診断用薬剤を組織又は細胞に選択的に輸送する方法を指向する。また他の視点において、本発明は本発明に係る組成物を動物の生体内に投与することにより、細胞の成長阻害、ネクローシスやアポトーシスのような細胞死に効果を及ぼすことを指向する。
【0010】
さらに他の視点において、本発明はあらかじめ作成したナノ粒子の懸濁液に膜組み込みペプチドを混合することにより、本発明に係る組成物を調製する方法を指向する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】細胞膜への膜組み込みペプチド輸送と細胞膜への細孔形成の1つの仮定されたメカニズムを示す模式図である。
【図2−A】リポソームとメリチンの結合体(association)の透過型電子顕微鏡写真である。リポソームは破壊されている。
【図2−B】リポソームとメリチンの結合体の透過型電子顕微鏡写真である。リポソームは破壊されている。
【図2−C】ナノ粒子と結合したメリチンの透過型電子顕微鏡写真である。ナノ粒子は健全に保たれている。
【図2−D】ナノ粒子と結合したメリチンの透過型電子顕微鏡写真である。ナノ粒子は健全に保たれている。
【図3】Biacore(登録商標)L1 Chipでコーティングされたパーフルオロカーボン粒子の脂質単層へのメリチンの結合機構を示す測定結果である。
【図4】ナノ粒子の脂質単層へメリチンが挿入されたときのメリチンに含まれるトリプトファンから放射される蛍光がクエンチされることを示すグラフである。
【図5】PBS中のメリチン及びナノ粒子の脂質単層中のメリチンの遠紫外CDスペクトルである。
【図6】新鮮な臍帯血を用いて行った標準溶血分析において、メリチンナノ粒子に比較した自由メリチンの効果を溶血パーセントで示したグラフである。
【図7】自由メリチン、ターゲット化していないメリチンナノ粒子、ターゲット化したメリチンナノ粒子を投与した場合のC−32メラノーマ細胞の生存率を示すグラフである。
【図8】共焦点顕微鏡により得られた、C−32メラノーマ細胞中の蛍光物質標識メリチンの細胞内分布である。図8のA,Bは37℃のFITCメリチンを担持したナノ粒子の結合と吸収を示す。図8のCとDは、図8のAとBの挙動に与える、ATP消耗と4℃の条件での効果をそれぞれ示す。
【図9】図9のA、Bは、生体内腫瘍モデルでの腫瘍の重量と体積に与える、ターゲット化された及びターゲット化されていない、メリチンを含むナノ粒子の効果を示す。
【図10】ターゲット化した及びターゲット化していない、メリチンを含むナノ粒子の、ネズミの腫瘍モデルの体積に与える効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る組成物は、ナノ粒子エマルジョンを含み、このナノ粒子は周囲を脂質/界面活性剤層で覆われた又はコーティングされた、液状の疎水性コアを含む。脂質/界面活性剤層は1以上の膜組み込み(membrane-integrating)ペプチドを含み、またターゲットリガンドをも含みうる。
【0013】
本発明において有益な膜組み込みペプチドと粒子との結合(ないし会合、association)により、細胞毒単独での、又は別の治療用又は診断用医薬の輸送のための補助化合物としての使用が可能となる。膜組み込みペプチドは粒子と結合しているため、血液中でも劣化(変性ないし分解、degradation)が防止される。第2に、それは粒子と結合しているため、投与されたエマルジョンは、肝臓や脾臓において処理され、そこで所望の場所に輸送されなかったペプチドは分解される。他の医薬の粒子による輸送は必ずしもこのような効果はない。なぜなら、肝臓や脾臓は医薬をペプチドほどには分解できないからである。第3に、脂質/界面活性剤コーティングにより、ペプチドは直接細胞膜に輸送される。もしもナノ粒子がさらにターゲット剤を含んでいれば、この膜輸送は所定の組織に特異的なものとなる。
【0014】
本発明に係る組成物は、典型的には静脈投与され、所望の場所に輸送されなかったペプチドは、肝臓/脾臓系によって効果的に無害化される。
【0015】
ペプチドが細胞に輸送されるメカニズムは、すべての場合において完全に解明されているわけではない。選択するペプチドによるが、ペプチドが膜に細孔を形成するか、又はペプチド自体が細胞内へ取り込まれるかしうる。明らかなことは、ペプチドは細胞膜に組み込まれ(integrate)、最終的に細胞質に入り込むことである。
【0016】
図1は、膜組み込みペプチドがナノ粒子から細胞膜又は細胞内に輸送される1つの仮説的メカニズムを示す模式図であり、メリチンとターゲット化されたナノ粒子として示したものである。図示のように、ターゲット剤がナノ粒子を膜と結合させ、そこで膜と融合するのに十分な時間だけ留まる。これにより、ペプチドは粒子から拡散して出て行き、膜に入り込む。そこでメリチンの場合は膜に細孔を形成し、あるいは他の膜組み込みペプチドの場合は、食作用又は他の機序により細胞内に取り込まれることができる。メリチンは膜のコンテクスト(膜の存在ないし介在という状況)の下においてオリゴマーをアセンブルすることにより、細孔(pores)を形成する。
【0017】
しかし驚くべきことに、ターゲット化は必要ではないことが判明したことを強調しておく。
【0018】
上述のように、ターゲット細胞と組織に輸送するというメリットに加えて、ナノ粒子状の組成物はペプチド自身を安定化し、循環中に劣化(変性ないし分解)しないように保護する。本発明に係るエマルジョンに含まれるナノ粒子の構造的特徴により、例えばペプチドとの結合(ないし会合、association)で破壊されるリポソームと違って、ペプチドと脂質/界面活性剤層との安定的結合(ないし会合、association)が得られる。
【0019】
まとめると、本発明に係る組成物は膜組み込みペプチドを生体内で有効に用いることができる。このような生体内治療の対象は一般に動物、即ち細胞膜に包まれ、細胞壁で保護されていない細胞及び組織を持つ生物である。このような対象は、例えばヒトを含む哺乳類、家畜類、コンパニオンアニマル、げっ歯類・ウサギ・モルモットのような研究用動物、家禽類のような鳥類、そして魚類を含む。
【0020】
この組成物の投与は、典型的には非経口投与であるが、ある症状によっては経口投与も用いられる。他の方法として噴霧化及び気道上皮からの投与がある。
【0021】
ここで用いる「ペプチド」は、含まれるアミノ酸の数に上限はない。細胞に入り込む効果を持つペプチド/たんぱく質はすべて、本発明に係る方法に用いることができる。脂質/界面活性剤層の性質は、その特異的な特徴に応じて、本発明に用いるペプチド/たんぱく質のための適切な環境に、調整することができる。そのため、この層を構成する脂質及び界面活性剤の性質は、カチオン性ペプチド、アニオン性ペプチド、中性ペプチド、疎水性ペプチド、親水性ペプチド、両親媒性ペプチド等と親和するように選択される。
【0022】
本発明で有用な膜組み込みペプチドには、メリチンや代表的な細孔形成ペプチドであるマガイニン(magainin)とアラメチシン(alamethicin)(Ludtke, S.J., et al., Biochemistry(1996)35:13723-13728; He, K., et al., Biophys.J.(1996)70:2659-2666)のような、溶解性ペプチドを含む。細孔形成ペプチドはまた、膜活性たんぱく質から誘導できる。例えばグラニュリシン(granulysin)、プリオン(prion)たんぱく質(Ramamoorthy, A., et al., Biochim Biophys Acta(2006)1758:154-163; Andersson, A., et al., Eur. Biophys. J.(2007)DOI 10.1007/s00249-007-0131-9)である。本発明で有用な他のペプチドには、自然に存在するデフェンシン(defensins)(Hughes, A.L., Cell Mol Life Sci(1999)56:94-103)のような膜活性ペプチド、及び合成膜溶解性ペプチド(Gokel, G.W., et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry(2004)12:1291-1304)が含まれる。一般的な合成ペプチドに含まれるものは、従来のL−体のD−アミノ酸類似体、特にすべてのL−アミノ酸がD−鏡像(異性)体に置き換えられたものである。細胞透過能力を示すペプチド類似物も同様に用いられうる。従って「細胞透過ペプチド」には天然ペプチド、合成ペプチド及びペプチド類似物が含まれる。
【0023】
本発明に有用な膜組み込みペプチドの1つの特殊な類は、一般にメリチンの特徴を持つ。即ち、それは3−6個のアミノ酸からなるカチオン領域に隣接して、10−20個のアミノ酸からなる疎水性領域を含むことである。メリチン自身はハチ毒に含まれる長い前駆体から構成され、次のアミノ酸配列を有する。
GlyIleGlyAlaValLeuLysValLeuThrThrFlyLeuPro-
AlaLeuIleSerTrpIleLysArgLysArgGlnGln-NH2 (配列番号1)
【0024】
例えば米国特許第5645996号において、多数のメリチン類似体が識別され、試験されている。本発明に有用なペプチドの設計は当業者には馴染み深いものである。メリチン類似体において、疎水性領域は好ましくは15−20個のアミノ酸、より好ましくは19−21個のアミノ酸長さがあり、カチオン配列は好ましくは3−5又は4個のアミノ酸長さを持つ。
【0025】
このようなペプチドの毒性は、温度やpHのような環境因子だけでなく、膜の荷電状態、曲げ係数(bending modulus)、圧縮率その他の膜の生物物理学的特性を含む多くの因子によって影響を受ける。細胞表面のあるモイエティ(ターゲットエピトープを除く)の存否もまた毒性に影響するであろう。
【0026】
一つの実施形態において、膜組み込みペプチドの細胞毒性を単に用いることが有利である。腫瘍の治療では、例えば悪性細胞に対して特異的に成長阻害又は細胞死を及ぼすか、腫瘍に関連する新生血管構造に同様の効果を及ぼすことが望まれる。望ましくない新生血管構造に関連するその他の症状(異常)、例えば加齢による黄斑劣化を含む目の症状は、本発明に係る組成物を用いて治療可能である。本発明に係る組成物を用いて治療可能なその他の症状は、心臓血管システムの症状、そしてある場合には、脳の症状である。上述のように、本発明に係る粒子はペプチドを劣化ないし分解(degradation)しないように保護し、肝臓で処理(分解)されることにより周り(bystanders)への毒性を減少し、ペプチドが細胞膜と結合することを助ける。
【0027】
本発明に係る膜組み込みペプチドは、バクテリア、菌類、ウイルスに対して一般に毒性を持つので、抗感染薬としての機能も持つ。これらのペプチドは、宿主を保護するペプチドと考えられ、体内を循環するペプチドは抗バクテリア活性、抗菌類活性、抗ウイルス活性を持つであろう。
【0028】
以下に水溶性で、カチオン性、両親媒性の26個のアミノ酸のαらせんペプチドである、膜組み込みペプチドメリチンを示す(Suchanek, G., et al., PNAS(1978)75:701-704)。これはセイヨウミツバチ(Apis mellifera)の毒の40%乾燥重量を占めている。メリチンは過去にはがんの化学療法の候補であったが、非特異的な細胞毒活性と血液中でそのペプチドが急速に分解することから、実用的ではないことが判明した。Dアミノ酸成分を用いてメリチンを安定化する試み(Papo, N., et al., Cancer Res.(2006)66:5371-5378)や、メリチンにより非ウイルス性遺伝子輸送ベクターの核への接近を増大させるための試み(Ogris, M., et al., J.Biol.Chem.(2001)276:47550-47555 and Boeckle, S., et al., J.Control release(2006)112:240-248)がなされている。最終的なメリチンの効果は、細胞膜、そしておそらく内部の細胞小器官の膜に細孔を形成し、細胞を損傷して細胞死へ導くことである。
【0029】
他の実施形態として、活性能又は抑制能に基づき、Bcl−2族のたんぱく質からのペプチド、例えばBH3ドメインのペプチド(Daniel, N.N., et al., Cell(2004)116:205-219)が用いられた。細胞内に侵入した後、ペプチドは内生性のBcl−2族やそれに結合する細胞内たんぱく質を活性化させ、又は非活性化する(Walensky, L.D., et al., Mol Cell(2006)24:199-210)。これにより、アポトーシスの細胞内機構を、さまざまな治療の目的に向けて調整することができる。
【0030】
他の実施形態において、脂質/界面活性剤層は、細胞内に入ることが望まれる治療薬又は診断薬もまた含むことができる。従って、脂質/界面活性剤層は、小(small)分子の医薬、アンチセンス核酸又は遺伝子抑制(ジーンサイレンシング)RNAのようなオリゴヌクレオチド、核酸ベクター、放射性同位元素、蛍光化合物等もまた含むことができる。これらの物質は、直接膜組み込みペプチドに結合でき、又は任意的に切断可能な接合(cleavable linkage)を介して結合できる。
【0031】
複数のタイプの医薬も含まれる。それには、例えばVEGFといった脈管形成剤のように積極的な効果を奏するもの、パクリタキセル(paclitaxel)のような抗増殖剤が含まれる。一般的には、このような輸送機構は薬局方に記載されたあらゆる薬剤に適用されるものであり、1以上の薬剤が、例えば複数の医薬を一つの粒子で輸送するシステムに入れ込むことにより(粒子により直接輸送されるにしろ、あるいは膜組み込みペプチドに関連してにしろ)輸送される。代替的に、同じ組織をターゲットにした、又はターゲットにしない、あるいは異なる各種組織をターゲットにした、異なる医薬(drugs)又は診断用薬剤(agents)を含む粒子により構成された投与用組成物とすることもできる。これにはターゲット化されていない粒子を同時に含んでいてもよく、含んでいなくとも良い。本発明に係る組成物はこのように混合し、組み合わせる(matched)ことができる。あるいは、一つのタイプの粒子か、又は異なるタイプの粒子の混合物のいずれかを含む複数の組成物を順次投与することができる。
【0032】
本発明の用いるその他の有用な薬品として、宿主を保護するペプチドを含む抗バクテリア、抗菌類、又は抗ウイルス医薬である。なぜなら、これらの医薬のいくつかはそれ自体がペプチドであり、本発明に係るシステムを用いる輸送に特に都合が良いからである。
【0033】
この実施形態の1つの形態において、所望のターゲット細胞又は組織に輸送すべき1以上の化合物又は追加のペプチドも、脂質/界面活性剤層に含むことができる。前記のランザ特許に述べられているように、ターゲットナノ粒子を含むナノ粒子はそのような投与のための輸送担体(ビヒクル)として知られている。しかし本発明に係る膜組み込みペプチドを含むことにより、輸送効果がさらに増強される。そのため、複数の医薬又は医薬と診断薬剤とを組み合わせたものを、細胞又は組織に輸送すべき粒子に含むことができる。このような治療用及び診断用薬剤の性質は、後続のパラグラフにおける本発明を実施するための追加的態様の開示と同様である。種々のタイプの複数の粒子を含む組成物もまた本発明の範囲に含まれる。よって、治療用又は診断用化合物が細胞膜さらには血液脳関門を通過することに対する障壁が増強される。
【0034】
この実施形態の第2の形態は、膜組み込みペプチドそれ自身が治療薬又は診断薬と結合し、この融合部分がペプチド自身とともに入り込む。例えば、リシンのような有毒物の追加的アミノ酸配列が膜組み込みペプチドと融合することができ、毒素と膜組み込みペプチドの両方に、望ましくない細胞又は組織に対する毒性を与える。代替的に、成長ホルモンのようなペプチドホルモンを、結合した膜組み込みペプチドにより入り込むようにされた適切な組織や細胞を目標に、輸送することができる。標識用放射性同位元素を任意的に含む治療用有機化合物に、膜組み込みペプチドを共有結合的に結合させることもできる。例えば、磁気共鳴撮像(MRI)に適した遷移金属又はランタノイドイオンを含むキレート剤を、ペプチドに共有結合的に結合させることができる。
【0035】
適切な治療剤には、例えばパクリタキセル(paclitaxel)、ドキソルビシン(doxorubicin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、フマギリン(fumagillin)等を含む。他の治療薬として、成長因子のようなたんぱく質、脈管形成化合物、サイトカイン等がある。これらの薬剤を、膜組み込みペプチドと融合させて含んでも、あるいは脂質/界面活性剤層に含んでも、いずれも相乗効果を奏する。
【0036】
この実施形態の第3の形態において、膜組み込みペプチドは細胞内に輸送すべき部分と非共有結合的に結合することができる。例えば、負に帯電したDNA又はRNAは、膜組み込みペプチドに含まれる正に帯電したアミノ酸と結合できる。それらは、それ自身が正に帯電した脂質/界面活性剤層と結合することもできる。発現ベクターを含むプラスミドは、本発明に係る膜組み込みペプチドと結合することにより、細胞内へトランスフェクションされうる。
【0037】
本発明の組成物に含まれるナノ粒子は、パーフルオロカーボンのようなフッ素化合物を典型的に含むか、本質的にそれから構成される疎水性のコアを含む。あるいはハロゲン化炭化水素を用いることもできる。脂質/界面活性剤層は、典型的にはレシチンとその他の適切な洗剤ないし界面活性剤(detergents)からなる。このような粒子の構造の詳細は、ランザらによる米国特許第6676963号、7255875号、7186399号に記載されており、これらは引用により本書に組み込むものとし、ここでは繰り返さない。ナノ粒子は、生体内で液体を保持するパーフルオロカーボンのコアを含み、このコアは脂質/界面活性剤でコーティングされている。
【0038】
ある実施形態では、本発明に係る組成物は脂質/界面活性剤層にターゲットリガンドも含む。ターゲットリガンドは、ターゲット細胞又は組織に特異的である。
【0039】
ここで用いる、ターゲット細胞又は組織に「特異的」なリガンドとは、そのリガンドが非ターゲット細胞又は組織よりもターゲット細胞又は組織に、より強固にしっかりと結合し、実質的にターゲットにのみ効果を及ぼすことを意味する。典型的には、この結合はターゲット細胞又は組織の表面に存在するエピトープを介して行われる。典型的なターゲット体(標的)としては、抗体、アプタマー、ペプチド類似体等があり、上述のランザ特許にもこのようなターゲット体をナノ粒子に結合させる方法として言及されている。典型的には、このような技術は、ターゲットリガンドを、界面活性剤層に吸収されうるモイエティ(半部分)に、通常は共有結合的に、結合させることである。従って、ターゲットリガンドは、しばしば脂質/界面活性剤層の構成組織に共有結合している。
【0040】
一方、膜組み込みペプチドは単に脂質/界面活性剤層に吸収されている。本発明の一つの調製方法では、ターゲット剤を任意的に含むナノ粒子懸濁液は、適量のペプチドと混合され、吸収のための十分な時間だけ保温処理(ないし培養、インキュベート、incubate)される。この調製法は、ペプチドを加える前にナノ粒子懸濁液を殺菌でき、ペプチド自身が劣化(分解)されるような条件を避けることができるという利点がある。
【0041】
まとめると、本発明に係る組成物は、赤血球を溶血させたり、必要な組織を破壊することなく、細胞障壁を選択的に横断する機会を初めて提供するものである。
【実施例】
【0042】
以下の実施例は本発明を例示するものであり、限定するものではない。
【0043】
(調製A)
リポソームの調製
パーフルオロカーボンナノ粒子ビヒクルへのペプチドキャリヤとしての従来型リポソームの挙動を比較するため、リポソーム(98モル%卵レシチン、2モル%DPPE)をSaito, M.ら(Nat. Cell. Biol.(2000)2:553-555)による方法で合成した。Avanti Polar Lipid, Inc.からクロロホルム溶解脂質を得て、高真空中で3時間乾燥させることにより溶媒の痕跡を飛ばし、脂質膜を得た。脂質をジエチルエーテルに溶解し、等容量の緩衝液(PBS)に懸濁させ、全脂質濃度を10mMとした。混合液は超音波槽(Laboratory Supplies Co, Hicksville, NY)にフラスコを沈めて20秒間超音波処理し、安定なエマルジョンを得た。減圧下で有機溶媒を除去した後、得られたリポソームを200nmのポリカーボネートのメンブレンフィルタで押出し、4℃で保存した。
【0044】
(実施例1)
パーフルオロカーボンナノ粒子の調製
パーフルオロカーボンナノ粒子をWinter, P.M.らの方法で合成した(Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol.(2006)26:2103-2109)。簡単にいうと、卵レシチン(98モル%)の脂質界面活性体混合体とジパルミトイル−ホスファチジルエタノールアミン(DPPE)2モル%(Avanti Polar Lipids, Piscataway, NJ)とをクロロホルムに溶解し、減圧蒸留し、50℃の真空オーブンで乾燥させ、超音波処理して水に分散させた。懸濁液はパーフルオロオクチルブロマイド(PFOB)又はパーフルオロ−15−クラウンエーテル(CE)(Gateway Specialty Chemicals, St. Peters, MO)と結合させ、脱イオン水で蒸留し、S110マイクロフルイディクス懸濁装置(Microfluidics, Newton, MA)により20000lbf/in2で4分間連続処理した。αβ−インテグリンをターゲットとしたナノ粒子は、等モルのレシチンに置換するポリエチレングリコール(PEG)2000−ホスファチジルエタノールアミン(Avanti Polar Lipids, Inc.)と結合した0.1モル%ペプチド類似体のビトロネクチンアンタゴニストを導入することにより調製した。
【0045】
ホスファチジルエタノールアミンと結合したαβ−インテグリンターゲットリガンドは以下のような化学式を持つ。

【0046】
(実施例2)
ナノ粒子へのメリチンの導入
メリチンを担持したナノ粒子は、既知の量のメリチンをパーフルオロカーボンナノ粒子に混合することにより形成した。固体状ペプチド合成法により製造される、純粋なメリチンペプチド物質は、ワシントン大学医学校細胞生物学及び生理学部のRobert Mecham博士から得た。メリチンを100mMKCl(pH7,10mMHEPES)に0.1mMで溶解し、50μlのナノ粒子懸濁液に混合しつつ2−20mL加えた。室温で10分間保温処理(インキュベート)した後、ナノ粒子を2回の遠心分離(100g、10分間)で洗浄し、未結合のメリチンを除去した。上澄み液中のメリチンを、トリプトファン蛍光法(下記)で定量した。加えたメリチンの量により、メリチンを担持したナノ粒子が、脂質/メリチンモル比で1000から40の範囲で得られた。
【0047】
(実施例3)
メリチンナノエマルジョンの性質
A.粒度分布とゼータ電位
メリチンを担持したナノ粒子の粒度分布は、Malvern Zetasizer 3000HS(Malvern Instruments, Malvern, UK)を用いて光子相関法(PCS)により測定された。ナノ粒子のゼータ電位(ζ)は、Brookhaven Instruments PALS Zeta Potential Analizer(Brookhaven Instruments)を用いて測定された。データは、25℃の溶液平衡ののち、相解析光分散法(PALS)により得られた。測定されたナノ粒子の電気泳動移動度(μ)からζを計算するにあたってスモルコフスキー近似を用いた。
μ=ε・ζ・(1.5)/η
ここでεとηはそれぞれ溶媒の誘電率と絶対粘度である。
【0048】
メリチンを担持したナノ粒子は、マルバーン(Malvern)粒度測定器を用いて90度角で測定した場合、平均直径358.8nm(多分散度指数0.011)であった。ゼータ電位(ζ)は−31.5mVであった。ζの再現性は、10個のデータの平均値から±1.2mVの範囲内であった。
【0049】
パーフルオロカーボンナノ粒子の脂質単層へのメリチン導入は、表面プラズモン共鳴分析、蛍光分析、及びCDスペクトル分析により確認された。それぞれの技術で独立してナノ粒子の脂質単層へのメリチン導入が確認された。これらの分析により、メリチンはαらせん構造をとることが示され、パーフルオロカーボンナノ粒子から非常にゆっくりとしか分離しないことがわかった。
【0050】
B.電子顕微鏡測定
二重層リポソームと単層パーフルオロカーボンナノ粒子に与えるメリチンの効果を、透過型電子顕微鏡により確認した。メリチンを担持したパーフルオロカーボンナノ粒子は実施例2のように調製した。粒子は、0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液に2.5%グルタルアルデヒドを含む液に30分間氷上において固定した。遠心分離後のペレットをすすぎ、粒子を順に1.25%四酸化オスミウム、2%タンニン酸、及び酢酸ウラニルで染色し、ペレットを脱水し、Polybed812(Polysciences, Inc, Warrington, PA)に包埋した。次にペレットをReichert-Jung Ultracutで薄く切片化し、さらに酢酸ウラニルとクエン酸鉛で染色した。
【0051】
リポソームを可視化するため、電子顕微鏡用の銅製のメッシュグリッド(S160−4)がグロー放電により負に帯電された。メリチン処理したリポソームをグリッドとともに1分間保温処理し、その後グリッドを吸い取り紙で静かに乾燥させ、蒸留水で洗浄したのち、2%のリンタングステン酸で30秒間染色した。リポソームとナノ粒子のサンプルをツァイス(Zeiss)902電子顕微鏡で観察し、コダック(Kodak)E.M.フィルムで記録した。
【0052】
透過型電子顕微鏡写真(TEM)により、メリチン導入後の破壊された二重層リポソームと比較して、メリチンを担持したパーフルオロカーボンナノ粒子の完全な構造を見ることができる。TEMによれば、破壊されたリポソームの典型的な半月状の膜の水泡が現れている(図2A,2B)が、ナノ粒子は構造的に健全性を保っている(intact)(図2C,2D)。
【0053】
図2に示すように、同じ脂質組成物(98モル%卵レシチン、2モル%DPPE)を持つリポソーム(図2A,2B)とパーフルオロカーボンナノ粒子(図2C,2D)がメリチンで処理された。脂質膜の破壊によってリポソームが健全性(integrity)を損なわれるのに対し、ナノ粒子はその特徴的な疎水性のパーフルオロカーボンコアにより構造の健全性が保たれることが良くわかる。スケールバーは200nmである。
【0054】
C.動力学的研究のための表面プラズモン共鳴
パーフルオロカーボンナノ粒子の脂質単層へのメリチン挿入動力学を、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて調査した。SPRは表面の屈折率の変化を測定するものである。ビアコア−Xバイオセンサとカルボキシメチル化デキストランチップL1をビアコア(Biacore, Inc)(Piscataway, NJ)より得た。溶液はすべて脱ガスし、推奨どおり0.22μmメンブレンでろ過した。35μlのPFOBナノ粒子(3μl/分)で注入することにより、L1チップの上に均一な脂質単層を生成した。2分間流量を1500μl/分に増加させ、次いで水酸化ナトリウム(50μl、10mM)を注入することにより、緩く沈着しているナノ粒子を除去し、安定なベースラインを得た。陰性対照試料であるウシの血清アルブミン(25μl、0.1mg/μlPBS)を注入することにより、完全被覆が確認された。メリチンをいろいろな濃度で流量30μl/分(30μlPBS;15nMから1000nM)で注入し、60分間反応を記録した。各試験終了後、チップは3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルフォネート(CHAPS)(50μl、100μl/分)を2回続けて注入して再生した。選択したメリチン濃度の一連のセンサーグラムが得られた。データは、BIAevaluation(登録商標)ソフトウェア(Biacore, Inc, Piscataway)を用いて、種々の濃度のペプチドのセンサーグラムを同時にフィッティングすることにより、包括的に解析された。脂質単層に対するメリチン相互作用の明らかな結合親和性(K)が、注入したメリチンの濃度(μM)関数としての平衡メリチン結合応答(応答単位, RU)のプロッティングと、ラングミュア等温式モデルへのフィッティングにより、推定された。
【0055】
結果を図3に示す。図3は、ビアコアL1チップにコーティングされたパーフルオロカーボンナノ粒子の脂質単層(98モル%レシチン、2モル%DPPE)へのメリチン結合の動力学を示す。メリチン濃度は15,25,50,100,500及び1000nMである。L1チップの上にナノ粒子を沈着させたあと、〜4000RUの再現性のある最大応答が得られた。血清アルブミンを注入した後もシグナルの増加が見られないことから、L1はナノ粒子に最大限覆われていることが確認された。メリチンの濃度を変えることにより、結合速度定数(k)は4.5±0.35×10(Ms)−1、解離速度定数(k)は6.5±0.41×10−3(s)−1であり、結合の平衡定数(K)は6.3±1.2×10Mとなることが測定された。この高い親和性結合定数Kは、主にこれらの条件下におけるメリチンのパーフルオロカーボンナノ粒子からの非常に遅い解離速度に基づく。
【0056】
D.蛍光スペクトル分析
ナノ粒子の蛍光スペクトル分析が脂質/メリチン比80において行われた。脂質二重層に挿入されたペプチドの立体配列が、内因性トリプトファン蛍光測定により調査された。メリチンは19位置にトリプトファン残基を持つ。臭素を含む分子はトリプトファン放出の波長に強い吸収を示すため、トリプトファンの蛍光を、トリプトファンと臭素との接触が必要な重元素衝突クエンチ、又はフォルスター(Forster)エネルギー転移のいずれかによってクエンチすることが知られている。パーフルオロカーボンナノ粒子の脂質単層へのメリチンの挿入は、ミニサンプル攪拌器を備える蛍光スペクトル分析計(Varian, Inc, Palo Alto, CA)中で280nmで励起した後、トリプトファン蛍光放射(350nm)の動力学によって調査された。強度は、メリチンを含まないナノ粒子を含むキューベットからの信号を差し引くことにより、光散乱の補正を行った。パーフルオロ−15−クラウンエーテルコアにより合成されたナノ粒子を陰性対照(臭素を含まない)として用いた。メリチン濃度は10μMであった。
【0057】
メリチン内の内因性トリプトファン蛍光(280nm励起、350nm放射)がメリチンとパーフルオロカーボンナノ粒子との相互作用を追跡するのに用いられた。メリチンは脂質二重層に入り込むにあたって、疎水性膜という環境のため、通常「ブルーシフト」(即ち350nmから345nmへの放射変化)を起こす。しかし溶液中のメリチンがナノ粒子の脂質単層に取り込まれるに当たり、ブルーシフトは見られなかった。
【0058】
PFOBナノ粒子をメリチン溶液中に加えると、溶液中のメリチン蛍光強度は低下した。さらにPFOBナノ粒子を加えるとメリチン蛍光は最大〜50%までさらに低下し、それ以上はPFOB粒子を加えても蛍光強度は低下しなかった。トリプトファンクエンチがPFOBコア中の臭素との相互作用により生じることを確認するため、ナノ粒子のかわりにパーフルオロ−15−クラウンエーテル(CE)コアを用いた。CEナノ粒子のクエンチが生じなかったことから、メリチン中のトリプトファンがPFOBナノ粒子のナノ粒子コアの臭素と相互作用していることが確認された。結果を図4に示す。
【0059】
臭素化ハイドロカーボンがトリプトファン蛍光をクエンチする機構は、衝突又はフォルスターエネルギー転移である。フォルスター(Forster)距離(クエンチングが50%となるような距離)は8オングストロームである。従って、19位置のトリプトファン残基はナノ粒子の臭素化コアから8オングストローム内に配置しているか、コアに近いテイル領域の脂質単層内に十分入り込んでいることになる。この特有の相互作用は、表面プラズモン共鳴実験から計算されるナノモルの解離速度の一部を説明できた。これらのデータは、溶液中のメリチンとナノ粒子脂質単層中に入り込んだメリチンとの動的平衡の存在を確証するものである。
【0060】
E.円偏光二色性分光分析
円偏光二色性(CD)分光分析は、ペプチド及びたんぱく質の二次構造に関する情報を与える。この方法は、一般に脂質膜に取り込まれたペプチドに研究に用いられる。アミド発色団はペプチド主構造の構造的変化に対して敏感である。ジャスコ(Jasco) J-810分光偏光計(Jasco, Inc., Eastern, MD)を用いて、遊離メリチンとナノ粒子脂質単層内に入り込んだメリチンのCD測定を行った。1cm光路長の石英キューベットを200−260nmの範囲の遠UVで50nm/分のスキャン速度でスキャンし、すべてのスペクトルはアルゴン下で採取した。ナノビーズと、脂質/メリチン比40でメリチンを含むナノビーズとを遠心分離で洗浄し、5mMのリン酸塩緩衝液でpH7に緩衝した150mMの塩化ナトリウム液に分散させ、20℃、レスポンス4秒、バンド幅1nmで測定した。すべてのデータは15回のスキャンを平均したものであり、またブランクを差し引くことにより、バックグラウンド信号を補正している。データはモル楕円率[θ]で表している。
[θ]=θobs/(10*C*L)
ここでθobsは測定された楕円率(mdeg)、Lは光路長(cm)、Cはメリチン濃度(モル/l)である。
【0061】
240nm及びそれより小さい波長領域の吸収は、主としてペプチド結合によるものである。小さいながら広いn→pi遷移の吸収が220nmを中心として、より強いpi→pi遷移の吸収が190nm前後に見られる。メリチンがナノ粒子脂質単層に入り込んでいるときは、αらせん構造に特有の二つの負のピークが、1つは220nm,もうひとつは208nmに見られる(図5)。二次構造の詳細な調査は、広い波長(160−250nm)での楕円率を測定する必要があるが、今回は緩衝剤又はPFOBの吸収により、比較的小さい波長領域でははっきりしなかった。
【0062】
脂質二重層に取り込まれたメリチンの、205−240nmでの研究は過去になされており、二重層膜内のメリチンは主にαらせんであることが結論付けられている。図5に示す結果から、ナノ粒子の脂質単層内に取り込まれたメリチンはαらせん構造をとることを示す。
【0063】
(実施例4)
メリチンを担持したナノ粒子と細胞との相互作用
メリチンを担持したナノ粒子の赤血球とC−32メラノーマ細胞に与える影響が、溶血分析と細胞増殖(MTT)分析によって調査された。メリチンは、赤血球を溶解し、細胞死をもたらすことが知られている。
【0064】
A.溶血分析
同意を得た後、ヒトの臍帯血が健康なドナーから採取された。赤血球が200gで10分間の遠心分離により分離され、通常の生理食塩水に再分散させた。さまざまな濃度のメリチン又はメリチンを担持したナノ粒子を決まった数の赤血球(5×10細胞)に加え、37℃で3時間保温処理(インキュベート)した。遠心分離後、Microplate Reader(Model 550, BioRad)で上澄み液の540nmの吸収を測定することにより、ヘモグロビンの放出量を測定した。同じ条件下で水中で保温処理した赤血球の上澄み液の吸収を100%とした。
【0065】
遊離したメリチンのIC50(50%が溶血する濃度)は0.51±0.12μMである。図6に示すように、メリチンを担持したナノ粒子と赤血球との相互作用は、全メリチン濃度が25μMまで有意な溶血作用を示さない。50μMでもメリチンを担持したナノ粒子は〜10%の溶血作用を生ずるのみである。これらの結果から、メリチンを担持したナノ粒子と赤血球の非特異的な相互作用は、生体内では重大な溶血作用を示さないと考えられる。
【0066】
B.細胞増殖抑止分析
αβをターゲットとしたメリチンナノ粒子の、C−32がん細胞増殖に与える効果を、3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT)分析によって調査した。この分析法は、テトラゾリウム塩であるMTTを、570nmに吸収を持つホルマザン結晶に変換するミトコンドリアエンザイム活性を測定するものである。
【0067】
C−32メラノーマ細胞を96孔プレートに5000細胞/孔の濃度で播種した。37℃で一晩保温処理した後、細胞を種々の濃度の遊離メリチン、αβをターゲットとしたメリチンナノ粒子、何もターゲットとしていないメリチンナノ粒子で処理した。37℃で3時間保温処理した後、細胞をPBSで3回洗浄し、37℃で72時間保温処理した。媒体を吸引し、細胞をリン酸塩緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、20μlのMTT溶液(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, 最終濃度PBS中5mg/ml)を各孔に加えた。細胞をさらに37℃で30分間保温処理し、200mlのDMSOで溶解し、析出したホルマザンを溶解マイクロプレートリーダー(Biorad, Model 550)で570nmの吸収度を測定した。バックグラウンド吸収を差し引き、未処理の対照細胞を100%の生存率とした。
【0068】
細胞増殖(MTT分析)に与えるメリチンの効果は、図7に示すように、メリチンをナノ粒子内に入れ込むことにより、大きく保護されることがわかった。遊離メリチンは、C−32メラノーマ細胞に対して非常に毒性が強い(IC50:0.93±0.08μM)。何もターゲットとしていないナノ粒子では、IC50は80倍増加し(〜80μM)、メリチンの影響から守っている。しかしメリチンを含むナノ粒子が、インテグリンαβの過剰発現を起こす細胞をターゲットにした場合、IC50は15.2±0.08μMに低下した。従って、αβインテグリンをターゲットにしたパーフルオロカーボンナノ粒子にメリチンを導入したものは、通常細胞への非特異的な毒性効果を顕著に弱めるが、ターゲット化により、ターゲット細胞への毒性効果は発揮される。
【0069】
C.細胞死のモード
メリチンによる細胞死がアポトーシスによるのかネクローシスによるのかを決定するため、アネキシン−V FITCのホスファチジルセリンへの結合がフローサイトメトリにより測定された。アポトーシスの初期の事象のひとつとして、ホスファチジルセリンが細胞膜の外面部(outer cell membrane)に移動し、アネキシン結合部位が露出する。膜の健全性はアポトーシスでは最後の段階まで維持されるが、ネクローシスでは早い段階で弱められる。アネキシン−V FITCの結合と7−AADの染色のフローサイトメトリによる解析により、メリチンを含むパーフルオロカーボンナノ粒子による細胞死の支配的な機構は、アポトーシスであることを示している。
【0070】
アネキシン−V FITC(Sigma, St. Louis, MO)と7−アミノ−アクチノミオシンD染色溶液(7-AAD, Becton Dickenson Biosciences, San Jose, CA)を、細胞膜外面部のホスファチジルセリンと核酸をそれぞれ染色するために用いた。
【0071】
ターゲット化しない、あるいはαβターゲット化メリチンを担持したナノ粒子を37℃で1時間保温処理した後、細胞を回収し、冷リン酸塩緩衝食塩水(PBS)で洗浄した。洗浄した細胞を遠心分離してアネキシン結合緩衝液(50mM Hepes 15mLに700mM NaCl,12.5mM CaCl2, pH7.4)に再分散した。100μlの細胞分散液にFITC−アネキシンV(5μl)と7−AAD(5μl)をそれぞれ加えた。細胞はさらに室温で15分間保温処理され、その後400μlの1Xアネキシン結合緩衝液を加え、サンプルはフローサイトメトリで分析されるまで氷上で保管された。細胞はシステムIIバージョン3.0ソフトウェアを用いたEpics XL−MCLフローサイトメータ(Beckman Coulter, Inc., Miami, FL)で、488nmのレーザ励起波長で測定した。FITC−アネキシンVからの緑色信号は525nmで、7−AADからの赤色信号は620nmで、それぞれ測定した。FITCと7−AADとのスペクトルの重なりを最小限にすることにより、最適な信号分離を行うことができた。
【0072】
細胞は4つに分類された。グループ1:生存細胞(FITC−、7−AAD−);グループ2:アポトーシス初期(FITC+、7−AAD−);グループ3:アポトーシス後期(FITC+、7−AAD+);グループ4:ネクローシス(FITC−、7−AAD+)であり、結果を表1に示す。

表1
メリチン
ナノ粒子 生存 アポトーシス初期 アポトーシス後期 ネクローシス
(×10−6M) % % % %
10 15.03±1.02 83.51±2.58 1.44±0.08 0.02±0.01
20 4.97±0.17 90.33±3.1 4.67±1.14 0.03±0.01
25 1.57±0.09 92.35±2.97 6.06±1.1 0.02±0.02
【0073】
αβターゲット化メリチンを担持したナノ粒子とともに1時間保温処理したあとの生存細胞パーセンテージは、濃度とともに低下する傾向が見られた。同時に、アポトーシス初期及びアポトーシス後期の細胞%は濃度とともに増加した。細胞死のIC50の2倍である25μMまでメリチン濃度を上昇させても、ネクローシスは見られなかった。
【0074】
D.細胞内部でのメリチンの輸送
細胞内に輸送されるメリチンを追跡し、位置を同定するため、蛍光標識メリチンを作成した。FITCをメリチンのN末端に結合させるため、Fluoro Tag(登録商標)FITC結合キット(Sigma, St. Louis, MO)を用いた。簡単に言うと、フルオレセイン−イソチオシアネートとメリチンを、0.1Mの炭酸塩−重炭酸塩緩衝液(pH9.0)中にモル比で10:1で混合した。定常的に攪拌しつつ、室温で一晩保温処理し、混合反応液をG−25セファデックス(sephadex)カラムに通し、フラクションを集めて保存した。結合していないFITCを除去するため、カラムをPBSで洗浄して再生した。A280>0.4であるフラクションを集め、結合率を以下の式で評価した。





MWはたんぱく質の分子量、
389はFITCの分子量、
198は結合FITCの490nm、pH13.0での吸収E280
(0.35×A495)はFITCの280nmでの吸収に基づく補正ファクタ、
280はたんぱく質の1.0mg/mLでの280nmでの吸収、
をそれぞれ示す。
【0075】
フルオレセイン−メリチンを担持し、αβインテグリン受容体へのペプチド類似体のビトロネクチンアンタゴニストによりターゲット化された、パーフルオロカーボンナノ粒子を、C−32メラノーマ細胞とともに37℃で1時間保温処理した。結合していない粒子をPBS洗浄で除去し、細胞を室温で10分間4%パラホルムアルデヒドで固定し、ツァイス(Zeiss)510共焦点顕微鏡を用いて画像化した。細胞内のFITCメリチンの堆積を確認するため、共焦点Zスタック画像を取得した。細胞内への侵入機構をさらに詳細に表現するため、侵入の温度依存性及びエネルギー依存性を4℃及びATP欠乏後の実験を繰り返して評価した。ATP欠乏は、ターゲット化FITCメリチンナノ粒子を加える前に、細胞を37℃で15分間、20mMのナトリウムアジドと50mMの2−デオキシグルコースで処理することにより行った。
【0076】
図8A−Dは、αβターゲット化メリチン担持ナノ粒子から輸送されたFITCメリチンがC−32メラノーマ細胞に侵入する様子を示す共焦点顕微鏡画像であり、スケールバーは20μMである。37℃で1時間保温処理した後、いくらか拡散した細胞内蛍光とともに均一な細胞膜蛍光が観察された(図8A,8B)。37℃において、点状の細胞内蛍光が観察されなかったことから、メリチンの支配的な侵入機構は、われわれがかつて細胞内への化合物の輸送を他の条件下で観察したような、粒子の食作用(エンドサイトーシス)ではないことが示唆される。温度を4℃に冷却したり(図8D)、ATPを欠乏させたり(図8C)することでFITCメリチンの侵入が抑制されることが細胞内蛍光が見られないことで確認されたが、このことから、メリチンはエネルギーに依存するプロセスで侵入することが示唆される。従って、パーフルオロカーボンナノ粒子で輸送されたメリチンの細胞内への侵入は、細胞膜の食作用である。
【0077】
E.コレステロール欠乏の効果
細胞膜に対するメリチン活性の調整に関するコレステロールの役割を、細胞増殖分析及びフローサイトメトリ(上述)の前にコレステロール細胞を欠乏させることにより評価した。C−32メラノーマ細胞を0.25mM又は0.5mMメチルベータシクロデキストリン(Sigma, St. Louis, MO)で37℃で15分間処理し、コレステロールを減少させた。メチルベータシクロデキストリンにより減少したコレステロール量の定量は、標準的操作によりメラノーマ細胞から全脂質を抽出することで行った。つまり、6孔組織培養プレートで培養した10個のC−32メラノーマ細胞をゴム製ポリスマンで掻き取り、遠心分離後のペレットを200μlのクロロホルム−メタノール(2:1)溶液で処理した。最高速度でマイクロ遠心分離した後、有機相を集めて真空乾燥した。乾燥した脂質を、10%のトリトンX100(triton-X 100)を含む、20μlの2−プロパノールに溶解して分析試料とした。細胞内の全コレステロール含有量は、Amplex Red Cholesterol Assay kit (Sigma, St. Louis, MO)を用いて測定した。製造社の推奨に基づき、標準コレステロールを用いて校正した。
【0078】
細胞死に与えるコレステロール欠乏の効果を、MTT分析及びフローサイトメトリによるアネキシンV−FITC/7−AAD染色により調査した。低濃度においては、メチルベータシクロデキストリン(0.25mM及び0.5mM)はそれぞれコレステロールを7%及び12%減少させたが、細胞増殖に対しては変化を与えなかった。このようなコレステロール欠乏細胞をαβターゲット化メリチンナノ粒子で処理すると、メリチンナノ粒子濃度(5、10μM)のいずれにおいても、通常細胞及びコレステロール欠乏細胞のいずれに対しても細胞生存に顕著な差(p<0.05)が見られた。コレスレロールを12%減少させてメリチンナノ粒子で処理した後の細胞増殖の顕著な低下(5及び10μM両方のメリチンナノ粒子濃度で細胞死100%)に関して、アネキシンV−FITC及び7−AAD染色のフローサイトメトリで分析した。これらの条件下で、細胞の破片(debris)は、この場合ネクローシスによる細胞死であることと明らかに一致していた。
【0079】
F.チトクロームC放出分析
チトクロームCは水に可溶の15kDaのタンパク質であり、ミトコンドリア膜間スペース内に存在し、アポトーシス早期に放出される。メリチン担持ナノ小滴がチトクロームC放出の引き金を引くかどうかを確認するため、C−32メラノーマ細胞をさまざまな濃度のメリチンナノ粒子で37℃、1時間処理し、それをMitochondrial Isolation Kit (Pierce Biotechnology, Rockford, IL)を用いてミトコンドリアを分離した。こうして得られたミトコンドリアフラクション及び細胞質ゾルフラクションに存在するチトクロームCを、チトクロームC ELISA kit (Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて分析した。
【0080】
チトクロームC放出分析により、遊離メリチン及びαβターゲット化メリチンナノ粒子のいずれも、メラノーマ細胞のミトコンドリアから、濃度に依存してチトクロームCを放出させることが判明した。
【0081】
G.乳酸デヒドロゲナーゼ放出分析
乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)は、安定なエンザイムであり、原形質膜の損傷によって細胞からすみやかに放出される。Bio Vision (Mountain View, CA)より得た乳酸デヒドロゲナーゼ放出分析キットを用いて、操作マニュアルに従って分析した。簡単に言うと、C−32メラノーマ細胞をさまざまな濃度の遊離メリチン又はメリチンナノ粒子で37℃、1時間処理し、放出された乳酸デヒドロゲナーゼ量を定量した。0.1%トリトンX100で処理した細胞を100%放出とした。
【0082】
対照細胞とメリチン担持ナノ粒子で処理した細胞とで、LDH放出量に有意な差はなかったことから、細胞膜の健全性は保たれていると判断される。しかし遊離メリチンでは、濃度に依存してLDH放出量が増加した。1μMの濃度では、19.17(±4.2)%のLDHが放出されたのに対し、5μMの濃度では、68.14(±7.1)%のLDH放出が観察された。まとめると、LDH放出とチトクロームC放出データによれば、低濃度の遊離メリチンはLDH及びチトクロームCの両方を放出するが、より高濃度になると、チトクロームC(55.48±6.1%)の放出量よりもLDH(68.14±4.3%)の放出量のほうが大きくなる。αβターゲット化メリチンナノ粒子では、チトクロームCは濃度に依存して増加したが、LDHは濃度25μMまでは放出されなかった。
【0083】
(実施例5)
腫瘍モデルに与えるメリチンナノ粒子の効果:B16メラノーマ
このモデルでは、100万個のB16F10メラノーマ細胞をC57BL/6マウスの右わき腹に移植した(第0日)。マウスを3つのグループに分けた。対照グループは生理食塩水を与えた。第2のグループは、αβターゲットリガンドが脂質/界面活性剤層に含まれていない点を除き、実施例1に従って調製したターゲット化していないメリチンナノ粒子を与えた。第3のグループは、実施例1に従って調製したαβターゲット化メリチンナノ粒子を与えた。
【0084】
マウスには、第4、6、8、10日に尾の血管から投与した。グループ2と3には、3mlのエマルジョン中に、1kgあたり8mgのメリチンを含むように調製して投与した。
【0085】
マウスは超音波撮像をし、第13日に犠牲にした。最終的な腫瘍の体積と重量を測定した。
【0086】
結果を図9A,図9Bに示す。図9Aに示すように、最終的な体積(mm)は以下のとおりである。
対照グループ、生理食塩水:2170(±995);
非ターゲット化メリチンナノ粒子:285(±207);
αβターゲット化メリチンナノ粒子:337(±198)
であった。同様に、最終的腫瘍重量(g)は図9Bに示すように、
生理食塩水:1.90(±0.88);
非ターゲット化メリチンナノ粒子:0.28(±0.18);
αβターゲット化メリチンナノ粒子:0.33(±0.16)
このように、非ターゲット化した、またターゲット化したメリチンを含むナノ粒子によって、腫瘍が顕著に縮小した。
【0087】
生理食塩水の投与はヘモグロビンレベルを低下させることが判った。ターゲット化、又は非ターゲット化されたメリチンナノ粒子ではこのような効果はなかった。3つのグループで体重の顕著な差はなかった。
【0088】
種々の処置による血液成分に与える効果を以下の表2に示す。

表2

AST ***p=0.004
ALKP *p=0.048;**p=0.002
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)は、肝臓への転移のため生理食塩水処置対照マウスで増加した。
【0089】
(実施例6)
MDA435異種移植片に対する生体内効果
50μlのマトリゲル(matrigel)、100ng/mlのVEGF、100ng/mlのbfGFからなる50μlに含んだ200万個のMDA435細胞を、舌脂肪体(linguinal fat pad)に挿入して、異種移植片を持つマウスを用意した(第0日)。先と同様、3つのグループに分け、生理食塩水、ターゲット化及び非ターゲット化メリチン担持ナノ粒子を第7,10,13,16,19,22日に投与した。投与量は、グループ2,3で5mg/kgであった。マウスを犠牲にし、腫瘍の体積を測定した。グループ3では、対照グループに比較して腫瘍の成長速度が24.68%減少した。ターゲット化ナノ粒子では11.18%低下した。しかし図10に示すようにグループ間でばらつきがあった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子を含む組成物であって、該ナノ粒子は脂質/界面活性剤層によってコーティングされた液状の疎水性コアを含み、該脂質/界面活性剤層は1以上の膜組み込みペプチドを含むことを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記疎水性コアは1以上の含ハロゲン炭素化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記含ハロゲン炭素化合物は、パーフルオロカーボンであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記脂質/界面活性剤層は1以上のリン脂質を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記脂質/界面活性剤層は、ターゲット組織又は細胞に特異的なターゲットリガンドを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記膜組み込みペプチドは、細胞毒性を持つことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記膜組み込みペプチドは、3−6個のアミノ酸からなるカチオン性アミノ酸配列に隣接する、10−30個のアミノ酸からなる疎水性アミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記膜組み込みペプチドはメリチンであることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ターゲットリガンドは、インテグリンと特異的に結合することを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
前記脂質/界面活性剤層は、さらに治療用又は診断用薬剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記膜組み込みペプチドは、治療用又は診断用薬剤と共有結合していることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の組成物を投与することを含む、ターゲット細胞又は組織の破壊又は成長の抑制により恩恵を受ける対象の症状を治療する方法。
【請求項13】
請求項5に記載の組成物を投与することを含む、ターゲット細胞又は組織の破壊又は成長の抑制により恩恵を受ける対象の症状を治療する方法であって、前記ターゲットリガンドは該ターゲット細胞又は組織に特異的であることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項10に記載の組成物を投与することを含む、ターゲット細胞又は組織への治療薬剤の輸送により恩恵を受ける対象の症状を治療する方法であって、前記脂質/界面活性剤層はさらに該治療薬剤を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項11に記載の組成物を投与することを含む、ターゲット細胞又は組織への治療薬剤の輸送により恩恵を受ける対象の症状を治療する方法であって、前記膜組み込みペプチドは、治療用薬剤と共有結合していることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項10に記載の組成物を投与することを含む、対象の症状の診断方法であって、前記脂質/界面活性剤層はさらに該診断用薬剤を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項11に記載の組成物を投与することを含む、対象の症状の診断方法であって、前記膜組み込みペプチドは、該診断用薬剤と共有結合していることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1に記載の組成物を調製する方法であって、脂質/界面活性剤層によってコーティングされた疎水性コアと1以上の膜組み込みペプチドを含むナノ粒子を保温処理(インキュベート)することを含み、該脂質/界面活性剤層は任意的にターゲットリガンドを含むことを特徴とする、方法。
【請求項19】
前記膜組み込みペプチドは、3−6個のアミノ酸からなるカチオン性アミノ酸配列に隣接する、10−30個のアミノ酸からなる疎水性アミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記膜組み込みペプチドはメリチンであることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記脂質/界面活性剤層はターゲットリガンドを含むことを特徴とする、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2−A】
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【図2−B】
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【図2−C】
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【図2−D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−520304(P2010−520304A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552872(P2009−552872)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/055969
【国際公開番号】WO2008/109712
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(501324867)ワシントン ユニバーシティー (3)
【Fターム(参考)】