膜評価方法、および、膜評価補助装置
【課題】湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることを抑制すること。
【解決手段】湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価するための膜評価方法であって、湿度変化した場合における収縮力または膨張力が膜より大きい変位膜を用意する変位膜用意工程と、膜に、変位膜を貼り付け、膜と変位膜とから成る貼着アセンブリを形成する貼着工程と、膜の周縁部を保持する保持工程と、貼着工程および保持工程後、貼着アセンブリを、加湿雰囲気下または乾燥雰囲気下に配置する乾湿工程と、を備える。
【解決手段】湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価するための膜評価方法であって、湿度変化した場合における収縮力または膨張力が膜より大きい変位膜を用意する変位膜用意工程と、膜に、変位膜を貼り付け、膜と変位膜とから成る貼着アセンブリを形成する貼着工程と、膜の周縁部を保持する保持工程と、貼着工程および保持工程後、貼着アセンブリを、加湿雰囲気下または乾燥雰囲気下に配置する乾湿工程と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する膜評価方法、および、その装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に用いられる電解質膜(例えば、固体高分子型電解質膜)は、湿度が変化すると、収縮または膨張し、それに伴い劣化するため、その耐久性を向上させたいという要望があった。そのためには、電解質膜の耐久性の評価をする必要があった。例えば、下記特許文献1には、電解質膜を、電解質膜が破壊されるまで加湿雰囲気下および乾燥雰囲気下に交互に配置し、すなわち、電解質膜が破壊されるまで収縮および膨張させ、耐久性を評価する評価方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−166595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記評価方法では、電解質膜自体の収縮力・膨張力によって、電解質膜を収縮・膨張させているので、耐久性を評価するまでに多大な時間がかかるおそれがあった。なお、上記問題は、電解質膜に限られず、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜であれば、生じ得る問題である。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価するための膜評価方法であって、湿度変化した場合における収縮力または膨張力が前記膜より大きい変位膜を用意する変位膜用意工程と、前記膜に、前記変位膜を貼り付け、前記膜と変位膜とから成る貼着アセンブリを形成する貼着工程と、前記膜の周縁部を保持する保持工程と、前記貼着工程および前記保持工程後、前記貼着アセンブリを、加湿雰囲気下または乾燥雰囲気下に配置する乾湿工程と、を備えることを要旨とする。
【0008】
上記構成の膜評価方法によれば、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることを抑制することができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載の膜評価方法において、前記膜は、貫通孔が形成されており、前記貼着工程は、前記膜の前記貫通孔の少なくとも一部を覆うように、前記変位膜を貼り付け、前記貼着アセンブリを形成することを特徴とする膜評価方法。
【0010】
このようにすれば、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることをより抑制することができる。
【0011】
[適用例3]
適用例1に記載の膜評価方法において、前記膜は、貫通孔が形成されており、前記変位膜用意工程は、前記収縮力または前記膨張力が前記膜より大きく、枠状に形成される第1変位膜と、前記収縮力または前記膨張力が前記第1変位膜より大きい第2変位膜と、を用意する工程を含み、前記貼着工程は、前記膜の前記貫通孔の周縁部に沿って、前記第1変位膜を貼り付けると共に、前記第2変位膜を、前記貫通孔の少なくとも一部を覆うように、前記第1変位膜に貼り付け、前記貼着アセンブリを形成する第2貼着工程と、を含むことを特徴とする膜評価方法。
【0012】
このようにすれば、第2変位膜の収縮力が大きい場合であっても、電解質膜と第1変位膜、第1変位膜と第2変位膜とが、それぞれ、剥離することを抑制することができ、すなわち、第2変位膜を電解質膜にしっかりと固定することができる。
【0013】
[適用例4]
適用例2に記載の膜評価方法において、前記収縮力または前記膨張力が前記膜より小さい弱変位膜を用意する弱変位膜用意工程を備え、前記貼着工程は、前記弱変位膜を、前記変位膜に隣接するように配置すると共に、前記貫通孔の一部を覆うように、前記膜に貼り付け、前記貼着アセンブリを形成することを特徴とする膜評価方法。
【0014】
このようにすれば、電解質膜において、変位膜と貼着している部分と弱変位膜と貼着している部分との界面付近で、大きな剪断力を生じさせることができる。
【0015】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれかに記載の膜評価方法において、前記膜は、燃料電池に用いられる電解質膜であることを特徴とする膜評価方法。
【0016】
このようにすれば、燃料電池用電解質膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることを抑制することができる。
【0017】
[適用例6]
湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する際に用いられる膜評価補助装置であって、湿度変化した場合における収縮力または膨張力が前記膜より大きく、前記膜に貼り付けられる変位膜と、前記膜の周縁部を保持する保持部と、を備えることを特徴とする膜評価補助装置。
【0018】
上記構成の膜評価補助装置によれば、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることを抑制することができる。
【0019】
[適用例7]
適用例6に記載の膜評価補助装置において、前記膜は、貫通孔を有しており、前記変位膜は、前記膜の貫通孔の少なくとも一部を覆うように、貼り付けられることを特徴とする膜評価補助装置。
【0020】
このようにすれば、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることをより抑制することができる。
【0021】
[適用例8]
適用例6に記載の膜評価補助装置において、前記膜は、貫通孔を有しており、前記変位膜は、前記収縮力または膨張力が前記膜より大きく、枠状に形成され、前記膜の前記貫通孔の周縁部に沿って貼り付けられる第1変位膜と、前記収縮力または前記膨張力が前記第1変位膜より大きく、前記貫通孔を覆うように前記第1変位膜に貼り付けられる第2変位膜と、を備えることを特徴とする膜評価補助装置。
【0022】
このようにすれば、第2変位膜の収縮力が大きい場合であっても、電解質膜と第1変位膜、第1変位膜と第2変位膜とが、それぞれ、剥離することを抑制することができ、すなわち、第2変位膜を電解質膜にしっかりと固定することができる。
【0023】
[適用例9]
適用例7に記載の膜評価補助装置において、前記収縮力または前記膨張力が前記膜より小さい膜であって、前記変位膜に隣接するように配置すると共に、前記貫通孔の一部を覆うように、前記膜に貼り付けられる弱変位膜を備えることを特徴とする膜評価補助装置。
【0024】
このようにすれば、電解質膜において、変位膜と貼着している部分と弱変位膜と貼着している部分との界面付近で、大きな剪断力を生じさせることができる。
【0025】
[適用例10]
適用例6ないし適用例9のいずれかに記載の膜評価補助装置において、前記膜は、燃料電池に用いられる電解質膜であることを特徴とする膜評価補助装置。
【0026】
このようにすれば、燃料電池用電解質膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることを抑制することができる。
【0027】
なお、本発明は、上記した膜評価方法の他、燃料電池用電解質膜の評価方法など他の方法発明の態様として実現することも可能である。また、上記した膜評価補助装置の他、燃料電池用電解質膜の評価補助装置など他の装置発明の態様として実現することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき次の順序で説明する。
A.第1実施例:
A1.電解質膜評価方法:
図1は、第1実施例における電解質膜評価方法を示すフローチャートである。この電解質膜評価方法は、後述する電解質膜評価補助装置を用いて、湿度が変化した場合に収縮または膨張する電解質膜の耐久性を評価する方法である。この電解質膜評価方法を以下に説明する。
【0029】
本実施例の電解質膜評価方法において、まず、図1に示すように、電解質膜、膜固定枠、変位膜を用意する(ステップS10)。図2は、電解質膜10、膜固定枠20、および、変位膜30の外観斜視図である。膜固定枠20および変位膜30は、電解質膜評価方法に用いられる電解質膜評価補助装置である。
【0030】
電解質膜10は、四角形状に形成され、燃料電池に用いられる固体高分子型電解質膜であり、湿度変化に応じて収縮または膨張する、パーフルオロスルホン酸などのフッ素系樹脂から成る。電解質膜10は、フッ素系樹脂に限られず、炭化水素系樹脂で構成してもよい。また、電解質膜10は、固体高分子型電解質膜に限られず、湿度変化に応じて収縮または膨張する他の燃料電池用電解質膜を用いても良い。
【0031】
膜固定枠20は、金属製であり、電解質膜10の周縁部を固定するため内寸が電解質膜10より若干小さく形成されている。変位膜30は、湿度が変化した場合に、収縮率が電解質膜10よりも大きく、すなわち、収縮力が電解質膜10よりも大きいフッ素系樹脂から成る。変位膜30の収縮力は、電解質膜10よりも、1.1倍〜5倍程度大きいことが好ましく、1.5倍〜3倍程度大きいことがさらに好ましく、1.7倍〜2.5倍程度大きいことが特に好ましい。変位膜30は、フッ素系樹脂に限られず、炭化水素系樹脂で構成してもよい。
【0032】
続いて、電解質膜10に貫通孔HLを形成する(ステップS20)。図3は、貫通孔HLが形成された電解質膜を示す図である。貫通孔HLが形成された電解質膜を、以下では、電解質膜10Aと呼ぶ。電解質膜10Aにおいて、貫通孔HLは、略四角形であり、電解質膜10Aの略中央付近に形成される。電解質膜10Aにおいて、貫通孔HLの大きさは、変位膜30よりやや小さい程度の大きさとなっている。電解質膜10Aにおいて、貫通孔HLの大きさは、それぞれの辺が、電解質膜10Aの内寸の20%〜40%程度の大きさとなるように形成されることが好ましい。
【0033】
次に、膜固定枠20に、電解質膜10Aの周縁部を固定する(ステップS30)。図4は、電解質膜10Aが膜固定枠20に固定された様子を示す図である。具体的には、図4(A)は、電解質膜10Aが膜固定枠20に固定された様子を示す外観斜視図であり、図4(B)は、図4(A)におけるZ−Z断面図である。電解質膜10Aは、周縁部が、図4に示すように、膜固定枠20に固定されるので、湿度が変化しても、収縮または膨張することができず、内部に大きな力がかかる。
【0034】
続いて、膜固定枠20に固定された電解質膜10Aの貫通孔HLを覆うように、変位膜30を電解質膜10Aに貼り付ける(貼着する)。図5は、電解質膜10Aの貫通孔HLに変位膜30を貼り付けた様子を示す図である。具体的には、図5(A)は、電解質膜10Aの貫通孔HLに変位膜30を貼り付けた様子を示す外観斜視図であり、図5(B)は、図5(A)におけるA−A断面図である。変位膜30は、図5に示すように、電解質膜10Aの貫通孔HLの周縁部に貼着される。電解質膜10Aに変位膜30が貼着されたアセンブリを貼着アセンブリASとも呼ぶ。
【0035】
そして、所定のチャンバー(図示せず)に貼着アセンブリASを入れ、まず、そのチャンバーに加湿した空気を所定時間流すことにより貼着アセンブリASを加湿雰囲気下に配置し、次に、チャンバー内に乾燥した空気を所定時間流し、貼着アセンブリASを乾燥雰囲気下に配置する(ステップS50)。
【0036】
ステップS50の工程において、貼着アセンブリASを加湿雰囲気下および乾燥雰囲気下にそれぞれ1回づつ配置した状態を、繰り返し回数1として、カウントする(ステップS60)。
【0037】
ステップS50の工程で、電解質膜10Aが破れなかった場合(ステップS70:No)には、再度ステップS50の工程にリターンする。
【0038】
ステップS50の工程で、電解質膜10Aが破れた場合(ステップS70:Yes)には、ステップS60の工程における繰り返し回数に基づいて、電解質膜10Aの耐久性を評価する(ステップS80)。
【0039】
以上のように、本実施例の電解質膜評価方法では、電解質膜10Aの周縁部が、膜固定枠20に固定され、電解質膜10Aの貫通孔HLを覆うように、変位膜30を電解質膜10Aに貼着し、貼着アセンブリASを形成するようにしている。このようにすれば、ステップS50の工程で、貼着アセンブリASを湿度変化する状況に配置した場合において、変位膜30が大きく収縮・膨張するので、電解質膜10Aに大きな引っ張り応力・押圧力を付加することができ、電解質膜の劣化を早めることができる。その結果、ステップS60の工程における繰り返し回数のカウントを減少させることができ、電解質膜の耐久性の評価を迅速に行うことができる。
【0040】
本実施例の貼着アセンブリASの電解質膜10Aにおいて、変位膜30が貼着される貫通孔HL周辺は、他の部分と比較して特に、変位膜30により大きな引っ張り応力・押圧力が付加されると考えられる。そこで、電解質膜10Aにおいて、任意の場所に貫通孔HLを設け、変位膜30を貼着させるようにしてもよい。このようにすれば、貫通孔HLを設けた場所周辺において、電解質膜の劣化を早めることができ、すなわち、電解質膜10Aにおいて、任意な場所の耐久性の評価を行うことができる。
【0041】
A2.比較例との対比:
図6は、本実施例および比較例の電解質膜評価方法を比較した比較結果を示す図である。具体的には、図6は、電解質膜評価方法において、最初に電解質膜が破れるまでの繰り返し回数を、本実施例と比較例とで対比させたグラフ図である。本実施例および比較例における電解質膜評価方法の設定条件を以下に説明する。以下では、本実施例の電解質膜評価方法を単に「実施例」とも呼び、比較例の電解質膜評価方法を単に「比較例」とも呼ぶ。
【0042】
A2−1.設定条件:
比較例における電解質膜は、電解質膜10と同様の構成であり、貫通孔HLが形成されず、また、変位膜30も貼着されない。そして、比較例では、この電解質膜を用いて、膜固定枠20に固定し、上記電解質膜評価方法(図1)におけるステップS50〜S70の工程を行った。本実施例および比較例の電解質膜は、収縮時の収縮率が約10%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。
【0043】
本実施例において、変位膜30は、収縮時の収縮率が約25%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。変位膜30は、本実施例および比較例の電解質膜より厚く、収縮力が本実施例および比較例の電解質膜より約2倍程度となる膜を用いた。本実施例において、変位膜30は、電解質膜10Aに約80℃でホットプレスすることで貼着させた。
【0044】
本実施例および比較例において、上記電解質膜評価方法のステップS50の工程を行う場合には、チャンバーに電解質膜(本実施例では、貼着アセンブリAS)を入れ、まず、チャンバーに相対湿度95%の加湿空気を30分流すことにより電解質膜を加湿雰囲気下に配置し、次に、チャンバーに相対湿度20%の乾燥空気を30分流すことにより電解質膜を乾燥雰囲気下に配置した。
【0045】
A2−2.対比結果:
以上の設定条件で、本実施例および比較例の電解質膜評価方法を行い、それぞれ、電解質膜が最初の膜裂けが起こるまでの繰り返し回数をカウントした。図6に示すように、本実施例では、電解質膜の最初の膜裂けが起こるまでに繰り返し回数が200回程度であるのに対し、比較例では、300回程度であり、本実施例の繰り返し回数は、比較例に対し35%程度少なかった。このことから、本実施例の電解質膜評価方法は、比較例の電解質膜評価方法よりも繰り返し回数のカウントを減少させることができ、電解質膜の耐久性の評価を迅速に行うことができると実証された。
【0046】
図7は、本実施例の電解質膜評価方法において最初の膜裂けの発生例を示す図である。上記実施例と比較例との対比において、本実施例の電解質膜評価方法を行った際、図7に示すように、貼着アセンブリASにおいて、膜固定枠20の角部周辺の電解質膜10Aが最初に膜裂けを起こした。
【0047】
なお、本実施例において、電解質膜10は、特許請求の範囲における膜または電解質膜に該当し、貫通孔HLは、特許請求の範囲における貫通孔に該当し、膜固定枠20は、特許請求の範囲における保持部に該当し、変位膜30は、特許請求の範囲における変位膜に該当し、貼着アセンブリASは、特許請求の範囲における貼着アセンブリに該当する。
【0048】
B.第2実施例:
B1.電解質膜評価方法:
図8は、第2実施例における電解質膜評価方法を示すフローチャートである。この電解質膜評価方法は、第1実施例とは異なる後述の電解質膜評価補助装置を用いて、湿度が変化した場合に収縮または膨張する電解質膜の耐久性を評価する方法である。この電解質膜評価方法を以下に説明する。
【0049】
本実施例の電解質膜評価方法において、まず、図8に示すように、電解質膜、膜固定枠、第1変位膜、第2変位膜を用意する(ステップS100)。ここで用意する電解質膜および膜固定枠は、第1実施例の電解質膜10および膜固定枠20と同様の構成であり、その説明を省略すると共に以下同符号で示す。
【0050】
図9は、第1変位膜40、および、第2変位膜50の外観斜視図である。膜固定枠20、第1変位膜40、および、第2変位膜50は、本実施例の電解質膜評価方法に用いられる電解質膜評価補助装置である。
【0051】
第1変位膜40は、枠状に形成され、湿度が変化した場合に、収縮率が電解質膜10よりも大きく、すなわち、収縮力が電解質膜10よりも大きいフッ素系樹脂から成る。第2変位膜50は、四角形状に形成され、第1変位膜40よりも湿度が変化した場合に、収縮率が電解質膜10よりも大きく、すなわち、収縮力が電解質膜10よりも大きいフッ素系樹脂から成る。第1変位膜40または第2変位膜50は、フッ素系樹脂に限られず、炭化水素系樹脂で構成してもよい。
【0052】
続いて、第1実施例における図3のごとく、電解質膜10に貫通孔HLを形成する(ステップS110)。第1実施例同様に、貫通孔HLが形成された電解質膜を、電解質膜10Aと呼ぶ。
【0053】
次に、第1実施例における図4のごとく、膜固定枠20に、電解質膜10Aの周縁部を固定する(ステップS120)。
【0054】
続いて、膜固定枠20に固定された電解質膜10Aの貫通孔HLに沿って、第1変位膜40を電解質膜10Aに貼り付ける(貼着する)。図10は、電解質膜10Aの貫通孔HLの周縁部に沿って第1変位膜40を貼り付けた様子を示す図である。具体的には、図10(A)は、貫通孔HLの周縁部に沿って第1変位膜40を貼り付けた様子を示す外観斜視図であり、図10(B)は、図10(A)におけるB−B断面図である。第1変位膜40は、図10に示すように、電解質膜10Aの貫通孔HLの周縁部に貼着される。電解質膜10Aに第1変位膜40が貼着されたアセンブリを貼着アセンブリAS1とも呼ぶ。
【0055】
さらに、貼着アセンブリAS1における貫通孔HLを覆うように、第2変位膜50を第1変位膜40に貼り付ける(貼着する)。図11は、第1変位膜40に第2変位膜50を貼り付けた様子を示す図である。具体的には、図11(A)は、第1変位膜40に第2変位膜50を貼り付けた様子を示す外観斜視図であり、図11(B)は、図11(A)におけるC−C断面図である。第2変位膜50は、図11に示すように、第1変位膜40の内枠周縁部に貼着される。貼着アセンブリAS1に第2変位膜50が貼着されたアセンブリを貼着アセンブリAS2とも呼ぶ。
【0056】
そして、所定のチャンバー(図示せず)に貼着アセンブリAS2を入れ、まず、そのチャンバーに加湿した空気を所定時間流すことにより貼着アセンブリAS2を加湿雰囲気下に配置し、次に、チャンバー内に乾燥した空気を所定時間流し、貼着アセンブリAS2を乾燥雰囲気下に配置する(ステップS150)。
【0057】
ステップS150の工程において、貼着アセンブリAS2を加湿雰囲気下および乾燥雰囲気下にそれぞれ1回づつ配置した状態を、繰り返し回数1として、カウントする(ステップS160)。
【0058】
ステップS150の工程で、電解質膜10Aが破れなかった場合(ステップS170:No)には、再度ステップS150の工程にリターンする。
【0059】
ステップS150の工程で、電解質膜10Aが破れた場合(ステップS170:Yes)には、ステップS160の工程における繰り返し回数に基づいて、電解質膜10Aの耐久性を評価する(ステップS180)。
【0060】
ところで、上記第1実施例の電解質膜評価方法では、変位膜30を電解質膜10Aに貼着するようにしているが、変位膜30の収縮力が非常に大きいと、変位膜30が湿度変化により収縮する際、変位膜30が収縮により波うち、変位膜30と電解質膜10Aとの貼着部分(図5(B))で、変位膜30と電解質膜10Aとが剥離するおそれがあった。
【0061】
一方、以上のように、本実施例の電解質膜評価方法では、収縮力が大きい第2変位膜50を直接的に電解質膜10Aに貼着(固定)せず、電解質膜10Aよりは収縮力が大きく第2変位膜50よりは収縮力が小さい中間的な第1変位膜40を介して電解質膜10Aに固定するようにしている。このようにすれば、電解質膜10Aと第1変位膜40との貼着部分(図11(B))において、第1変位膜40が収縮により波うっても電解質膜10Aも同調するように波うち、また、第1変位膜40と第2変位膜50との貼着部分(図11(B))において、第2変位膜50が収縮により波打っても第1変位膜40も同調するように波うつ。従って、第2変位膜50の収縮力が非常に大きい場合であっても、電解質膜10Aと第1変位膜40、第1変位膜40と第2変位膜50とが、それぞれ、剥離することを抑制することができ、すなわち、第2変位膜50を電解質膜10Aにしっかりと固定することができる。
【0062】
また、本実施例の電解質膜評価方法では、収縮力が大きい第2変位膜50を電解質膜10Aに固定し、貼着アセンブリAS2を形成するようにしている。このようにすれば、ステップS150の工程で、貼着アセンブリAS2を湿度変化する状況に配置した場合において、第2変位膜50が大きく収縮・膨張するので、電解質膜10Aに大きな引っ張り応力・押圧力を付加することができ、電解質膜の劣化を早めることができる。その結果、ステップS160の工程における繰り返し回数のカウントを減少させることができ、電解質膜の耐久性の評価を迅速に行うことができる。
【0063】
本実施例の貼着アセンブリAS2の電解質膜10Aにおいて、第1変位膜40が貼着され、第2変位膜50が固定される貫通孔HL周辺は、他の部分と比較して特に、第2変位膜50により大きな引っ張り応力・押圧力が付加されると考えられる。そこで、電解質膜10Aにおいて、任意の場所に貫通孔HLを設け、第1変位膜40を貼着し、第2変位膜50を固定させるようにしてもよい。このようにすれば、貫通孔HLを設けた場所周辺において、電解質膜の劣化を早めることができ、すなわち、電解質膜10Aにおいて、任意な場所の耐久性の評価を行うことができる。
【0064】
B2.比較例との対比:
図12は、本実施例および比較例の電解質膜評価方法を比較した比較結果を示す図である。具体的には、図12は、電解質膜評価方法において、最初に電解質膜が破れるまでの繰り返し回数を、本実施例と比較例とで対比させたグラフ図である。本実施例および比較例における電解質膜評価方法の設定条件を以下に説明する。以下では、本実施例の電解質膜評価方法を単に「実施例」とも呼び、比較例の電解質膜評価方法を単に「比較例」とも呼ぶ。
【0065】
B2−1.設定条件:
比較例における電解質膜は、電解質膜10と同様の構成であり、貫通孔HLが形成されず、また、変位膜30も貼着されない。そして、比較例では、この電解質膜を用いて、膜固定枠20に固定し、上記電解質膜評価方法(図8)におけるステップS150〜S170の工程を行った。本実施例および比較例の電解質膜は、収縮時の収縮率が約10%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。
【0066】
本実施例において、第1変位膜40は、収縮時の収縮率が約20%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。第2変位膜50は、収縮時の収縮率が約35%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。第2変位膜50は、本実施例および比較例の電解質膜より厚く、収縮力が本実施例および比較例の電解質膜より約3倍程度となる膜を用いた。本実施例において、第1変位膜40は、電解質膜10Aに約80℃でホットプレスすることで貼着させた。第2変位膜50は、第1変位膜40に約80℃でホットプレスすることで貼着させた。
【0067】
本実施例および比較例において、上記電解質膜評価方法のステップS150の工程を行う場合には、チャンバーに電解質膜(本実施例では、貼着アセンブリAS2)を入れ、まず、チャンバーに相対湿度95%の加湿空気を30分流すことにより電解質膜を加湿雰囲気下に配置し、次に、チャンバーに相対湿度20%の乾燥空気を30分流すことにより電解質膜を乾燥雰囲気下に配置した。
【0068】
なお、本実施例において、電解質膜10は、特許請求の範囲における膜または電解質膜に該当し、第1変位膜40は、特許請求の範囲における第1変位膜に該当し、第2変位膜50は、特許請求の範囲における第2変位膜に該当し、貫通孔HLは、特許請求の範囲における貫通孔に該当する。
【0069】
B2−2.対比結果:
以上の設定条件で、本実施例および比較例の電解質膜評価方法を行い、それぞれ、電解質膜が最初の膜裂けが起こるまでの繰り返し回数をカウントした。図12に示すように、本実施例では、電解質膜の最初の膜裂けが起こるまでに繰り返し回数が150回程度であるのに対し、比較例では、300回程度であり、本実施例の繰り返し回数は、比較例に対し50%程度少なかった。このことから、本実施例の電解質膜評価方法は、比較例の電解質膜評価方法よりも繰り返し回数のカウントを減少させることができ、電解質膜の耐久性の評価を迅速に行うことができると実証された。
【0070】
図13は、本実施例の電解質膜評価方法において最初の膜裂けの発生例を示す図である。上記実施例と比較例との対比において、本実施例の電解質膜評価方法を行った際、図13に示すように、貼着アセンブリASにおいて、膜固定枠20の角部周辺の電解質膜10Aが最初に膜裂けを起こした。
【0071】
C.第3実施例:
C1.電解質膜評価方法:
図14は、第3実施例における電解質膜評価方法を示すフローチャートである。この電解質膜評価方法は、第1実施例とは異なる後述の電解質膜評価補助装置を用いて、湿度が変化した場合に収縮または膨張する電解質膜の耐久性を評価する方法である。この電解質膜評価方法を以下に説明する。
【0072】
本実施例の電解質膜評価方法において、まず、図14に示すように、電解質膜、膜固定枠、変位膜、および、非変位膜を用意する(ステップS200)。ここで用意する電解質膜および膜固定枠は、第1実施例の電解質膜10および膜固定枠20と同様の構成であり、その説明を省略すると共に以下同符号で示す。
【0073】
図15は、変位膜30Aおよび非変位膜70の外観斜視図である。膜固定枠20、変位膜30A、および、非変位膜70は、本実施例の電解質膜評価方法に用いられる電解質膜評価補助装置である。
【0074】
変位膜30Aは、四角形状に形成され、湿度が変化した場合に、収縮率が電解質膜10よりも大きく、すなわち、収縮力が電解質膜10よりも大きいフッ素系樹脂から成る。変位膜30Aは、第1実施例の変位膜30と比較して、面積が約半分程度となっている。変位膜30Aの収縮力は、電解質膜10よりも、1.1倍〜5倍程度大きいことが好ましく、1.5倍〜3倍程度大きいことがさらに好ましく、1.7倍〜2.5倍程度大きいことが特に好ましい。変位膜30Aは、フッ素系樹脂に限られず、炭化水素系樹脂で構成してもよい。
【0075】
非変位膜70は、変位膜30Aと同一形状、同一の大きさであり、吸湿性がなく、すなわち、湿度が変化しても収縮しない膜であり、ポリエチレンから成る。非変位膜70は、湿度が変化しても収縮しない膜であればよく、プラスチックやカーボン等で構成してもよい。
【0076】
続いて、第1実施例における図3のごとく、電解質膜10に貫通孔HLを形成する(ステップS210)。第1実施例同様に、貫通孔HLが形成された電解質膜を、電解質膜10Aと呼ぶ。
【0077】
次に、第1実施例における図4のごとく、膜固定枠20に、電解質膜10Aの周縁部を固定する(ステップS220)。
【0078】
続いて、膜固定枠20に固定された電解質膜10Aの貫通孔HLの半分程度を覆うように、変位膜30Aを電解質膜10Aに貼り付ける(貼着する)。図16は、電解質膜10Aの貫通孔HLに変位膜30Aを貼り付けた様子を示す図である。具体的には、図16(A)は、電解質膜10Aの貫通孔HLに変位膜30Aを貼り付けた様子を示す外観斜視図であり、図16(B)は、図16(A)におけるD−D断面図である。変位膜30Aは、図16に示すように、電解質膜10Aの貫通孔HLの半分程度を覆うように、貫通孔HLの周縁部に貼着される。電解質膜10Aに変位膜30Aが貼着されたアセンブリを貼着アセンブリAS3とも呼ぶ。
【0079】
そして、貼着アセンブリAS3における貫通孔HLの残り半分程度を覆うように、非変位膜70を電解質膜10Aに貼り付ける(貼着する)。図17は、貼着アセンブリAS3における貫通孔HLに非変位膜70を貼り付けた様子を示す図である。具体的には、図17(A)は、貼着アセンブリAS3における貫通孔HLに非変位膜70を貼り付けた様子を示す外観斜視図であり、図17(B)は、図17(A)におけるE−E断面図である。非変位膜70は、図17に示すように、貼着アセンブリAS3の貫通孔HLの残り半分程度を覆うと共に、変位膜30Aに隣接して貫通孔HLの周縁部に貼着される。貼着アセンブリAS3に変位膜30Aが貼着されたアセンブリを貼着アセンブリAS4とも呼ぶ。
【0080】
そして、所定のチャンバー(図示せず)に貼着アセンブリAS4を入れ、まず、そのチャンバーに加湿した空気を所定時間流すことにより貼着アセンブリAS4を加湿雰囲気下に配置し、次に、チャンバー内に乾燥した空気を所定時間流し、貼着アセンブリAS4を乾燥雰囲気下に配置する(ステップS250)。
【0081】
ステップS250の工程において、貼着アセンブリAS4を加湿雰囲気下および乾燥雰囲気下にそれぞれ1回づつ配置した状態を、繰り返し回数1として、カウントする(ステップS260)。
【0082】
ステップS250の工程で、電解質膜10Aが破れなかった場合(ステップS270:No)には、再度ステップS250の工程にリターンする。
【0083】
ステップS250の工程で、電解質膜10Aが破れた場合(ステップS270:Yes)には、ステップS260の工程における繰り返し回数に基づいて、電解質膜10Aの耐久性を評価する(ステップS280)。
【0084】
以上のように、本実施例の電解質膜評価方法では、貼着アセンブリAS4において、貫通孔HLを覆うように、変位膜30Aおよび非変位膜70が貼着されると共に、変位膜30Aと非変位膜70とが隣接して配置されている。このようにすれば、電解質膜10Aにおいて、変位膜30と貼着している部分では、引っ張り応力・押圧力が大きいのに対し、非変位膜70と貼着している部分では、引っ張り応力・押圧力が小さいので、電解質膜10Aを収縮または膨張させると、変位膜30Aと貼着している部分と非変位膜70と貼着している部分との界面付近で、大きな剪断力を生じさせることができる。従って、電解質膜の劣化を早めることができる。その結果、ステップS260の工程における繰り返し回数のカウントを減少させることができ、電解質膜の耐久性の評価を迅速に行うことができる。
【0085】
本実施例の貼着アセンブリAS4の電解質膜10Aにおいて、変位膜30Aが貼着される部分と非変位膜70が貼着される部分との界面周辺は、他の部分と比較して、大きな剪断力が生じると考えられる。そこで、電解質膜10Aにおいて、任意の場所に貫通孔HLを設け、変位膜30Aおよび非変位膜70を隣接するように貼着させるようにしてもよい。このようにすれば、貫通孔HLを設けた場所周辺(上記界面周辺)において、電解質膜の劣化を早めることができ、すなわち、電解質膜10Aにおいて、任意な場所の耐久性の評価を行うことができる。
【0086】
C2.比較例との対比:
図18は、本実施例および比較例の電解質膜評価方法を比較した比較結果を示す図である。具体的には、図18は、電解質膜評価方法において、最初に電解質膜が破れるまでの繰り返し回数を、本実施例と比較例とで対比させたグラフ図である。本実施例および比較例における電解質膜評価方法の設定条件を以下に説明する。以下では、本実施例の電解質膜評価方法を単に「実施例」とも呼び、比較例の電解質膜評価方法を単に「比較例」とも呼ぶ。
【0087】
C2−1.設定条件:
比較例における電解質膜は、電解質膜10と同様の構成であり、貫通孔HLが形成されず、また、変位膜30も貼着されない。そして、比較例では、この電解質膜を用いて、膜固定枠20に固定し、上記電解質膜評価方法(図14)におけるステップS250〜S270の工程を行った。本実施例および比較例の電解質膜は、収縮時の収縮率が約10%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。
【0088】
本実施例において、変位膜30Aは、収縮時の収縮率が約25%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。変位膜30Aは、本実施例および比較例の電解質膜より厚く、収縮力が本実施例および比較例の電解質膜より約2倍程度となる膜を用いた。本実施例において、変位膜30Aおよび非変位膜70は、電解質膜10Aに約80℃でホットプレスすることで貼着させた。
【0089】
本実施例および比較例において、上記電解質膜評価方法のステップS250の工程を行う場合には、チャンバーに電解質膜(本実施例では、貼着アセンブリAS4)を入れ、まず、チャンバーに相対湿度95%の加湿空気を30分流すことにより電解質膜を加湿雰囲気下に配置し、次に、チャンバーに相対湿度20%の乾燥空気を30分流すことにより電解質膜を乾燥雰囲気下に配置した。
【0090】
C2−2.対比結果:
以上の設定条件で、本実施例および比較例の電解質膜評価方法を行い、それぞれ、電解質膜が最初の膜裂けが起こるまでの繰り返し回数をカウントした。図18に示すように、本実施例では、電解質膜の最初の膜裂けが起こるまでに繰り返し回数が150回程度であるのに対し、比較例では、300回程度であり、本実施例の繰り返し回数は、比較例に対し50%程度少なかった。このことから、本実施例の電解質膜評価方法は、比較例の電解質膜評価方法よりも繰り返し回数のカウントを減少させることができ、電解質膜の耐久性の評価を迅速に行うことができると実証された。
【0091】
図19は、本実施例の電解質膜評価方法において最初の膜裂けの発生例を示す図である。上記実施例と比較例との対比において、本実施例の電解質膜評価方法を行った際、図18に示すように、貼着アセンブリAS4において、変位膜30Aが貼着される部分と非変位膜70が貼着される部分との界面部分が最初に膜裂けを起こした。このことは、変位膜30Aが貼着される部分と非変位膜70が貼着される部分との界面部分に、大きな剪断力が生じることを実証している。
【0092】
なお、本実施例において、電解質膜10は、特許請求の範囲における膜または電解質膜に該当し、変位膜30Aは、特許請求の範囲における変位膜に該当し、非変位膜70は、特許請求の範囲における弱変位膜に該当し、貫通孔HLは、特許請求の範囲における貫通孔に該当する。
【0093】
D.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば以下のような変形も可能である。
【0094】
D1.変形例1:
上記実施例では、電解質膜に貫通孔を設け、その周縁部を覆うように、収縮力が大きい変位膜を貼着するようにしているが、本発明は、これに限られるものではなく、電解質膜に貫通孔を設けず、電解質膜の所定部位に変位膜を貼着するようにしてもよい。このようにしても上記実施例の効果を奏することができる。
【0095】
D2.変形例2:
上記第3実施例において、非変位膜70は、吸湿性がなく、すなわち、湿度が変化しても収縮しない膜としているが、本発明は、これに限られるものではなく、非変位膜70は、湿度が変化した場合において、電解質膜10よりも収縮力が小さい膜であればよい。このようにしても、上記実施例の効果を奏することができる。
【0096】
D3.変形例3:
上記第3実施例において、非変位膜70は、変位膜30Aと同一形状、同一の大きさとしているが、本発明は、これに限られるものではなく、非変位膜70は、変位膜30Aより大きくしてもよいし、小さいくしてもよい。このようにすれば、電解質膜10Aにおいて、変位膜30Aが貼着される部分と非変位膜70が貼着される部分との界面部分の位置を変えることができ、電解質膜10Aにおける任意の位置の耐久性を評価することができる。
【0097】
D4.変形例4:
上記実施例において、電解質膜に貫通孔を設け、その周縁部を覆うように、収縮力が大きい変位膜を用いているが、この変位膜の角を丸みを帯びさせるようにしても良い。このようにすれば、変位膜と電解質膜との貼着部分において、接着力を高めることができる。
【0098】
D5.変形例5:
上記実施例では、燃料電池用の電解質膜を評価するようにしているが、種々の膜に対して、上記評価方法を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】第1実施例における電解質膜評価方法を示すフローチャートである。
【図2】電解質膜10、膜固定枠20、および変位膜30の外観斜視図である。
【図3】貫通孔HLが形成された電解質膜を示す図である。
【図4】電解質膜10Aが膜固定枠20に固定された様子を示す図である。
【図5】電解質膜10Aの貫通孔HLに変位膜30を貼り付けた様子を示す図である。
【図6】第1実施例および比較例の電解質膜評価方法を比較した比較結果を示す図である。
【図7】第1実施例の電解質膜評価方法において最初の膜裂けの発生例を示す図である。
【図8】第2実施例における電解質膜評価方法を示すフローチャートである。
【図9】第1変位膜40および第2変位膜50の外観斜視図である。
【図10】電解質膜10Aの貫通孔HLの周縁部に沿って第1変位膜40を貼り付けた様子を示す図である。
【図11】第1変位膜40に第2変位膜50を貼り付けた様子を示す図である。
【図12】第2実施例および比較例の電解質膜評価方法を比較した比較結果を示す図である。
【図13】第2実施例の電解質膜評価方法において最初の膜裂けの発生例を示す図である。
【図14】第3実施例における電解質膜評価方法を示すフローチャートである。
【図15】変位膜30Aおよび非変位膜70の外観斜視図である。
【図16】電解質膜10Aの貫通孔HLに変位膜30Aを貼り付けた様子を示す図である。
【図17】貼着アセンブリAS3における貫通孔HLに非変位膜70を貼り付けた様子を示す図である。
【図18】第3実施例および比較例の電解質膜評価方法を比較した比較結果を示す図である。
【図19】第3実施例の電解質膜評価方法において最初の膜裂けの発生例を示す図である。
【符号の説明】
【0100】
10…電解質膜
10A…電解質膜
20…膜固定枠
30…変位膜
30A…変位膜
40…第1変位膜
50…第2変位膜
70…非変位膜
HL…貫通孔
AS…貼着アセンブリ
AS1…貼着アセンブリ
AS2…貼着アセンブリ
AS3…貼着アセンブリ
AS4…貼着アセンブリ
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する膜評価方法、および、その装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に用いられる電解質膜(例えば、固体高分子型電解質膜)は、湿度が変化すると、収縮または膨張し、それに伴い劣化するため、その耐久性を向上させたいという要望があった。そのためには、電解質膜の耐久性の評価をする必要があった。例えば、下記特許文献1には、電解質膜を、電解質膜が破壊されるまで加湿雰囲気下および乾燥雰囲気下に交互に配置し、すなわち、電解質膜が破壊されるまで収縮および膨張させ、耐久性を評価する評価方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−166595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記評価方法では、電解質膜自体の収縮力・膨張力によって、電解質膜を収縮・膨張させているので、耐久性を評価するまでに多大な時間がかかるおそれがあった。なお、上記問題は、電解質膜に限られず、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜であれば、生じ得る問題である。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価するための膜評価方法であって、湿度変化した場合における収縮力または膨張力が前記膜より大きい変位膜を用意する変位膜用意工程と、前記膜に、前記変位膜を貼り付け、前記膜と変位膜とから成る貼着アセンブリを形成する貼着工程と、前記膜の周縁部を保持する保持工程と、前記貼着工程および前記保持工程後、前記貼着アセンブリを、加湿雰囲気下または乾燥雰囲気下に配置する乾湿工程と、を備えることを要旨とする。
【0008】
上記構成の膜評価方法によれば、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることを抑制することができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載の膜評価方法において、前記膜は、貫通孔が形成されており、前記貼着工程は、前記膜の前記貫通孔の少なくとも一部を覆うように、前記変位膜を貼り付け、前記貼着アセンブリを形成することを特徴とする膜評価方法。
【0010】
このようにすれば、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることをより抑制することができる。
【0011】
[適用例3]
適用例1に記載の膜評価方法において、前記膜は、貫通孔が形成されており、前記変位膜用意工程は、前記収縮力または前記膨張力が前記膜より大きく、枠状に形成される第1変位膜と、前記収縮力または前記膨張力が前記第1変位膜より大きい第2変位膜と、を用意する工程を含み、前記貼着工程は、前記膜の前記貫通孔の周縁部に沿って、前記第1変位膜を貼り付けると共に、前記第2変位膜を、前記貫通孔の少なくとも一部を覆うように、前記第1変位膜に貼り付け、前記貼着アセンブリを形成する第2貼着工程と、を含むことを特徴とする膜評価方法。
【0012】
このようにすれば、第2変位膜の収縮力が大きい場合であっても、電解質膜と第1変位膜、第1変位膜と第2変位膜とが、それぞれ、剥離することを抑制することができ、すなわち、第2変位膜を電解質膜にしっかりと固定することができる。
【0013】
[適用例4]
適用例2に記載の膜評価方法において、前記収縮力または前記膨張力が前記膜より小さい弱変位膜を用意する弱変位膜用意工程を備え、前記貼着工程は、前記弱変位膜を、前記変位膜に隣接するように配置すると共に、前記貫通孔の一部を覆うように、前記膜に貼り付け、前記貼着アセンブリを形成することを特徴とする膜評価方法。
【0014】
このようにすれば、電解質膜において、変位膜と貼着している部分と弱変位膜と貼着している部分との界面付近で、大きな剪断力を生じさせることができる。
【0015】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれかに記載の膜評価方法において、前記膜は、燃料電池に用いられる電解質膜であることを特徴とする膜評価方法。
【0016】
このようにすれば、燃料電池用電解質膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることを抑制することができる。
【0017】
[適用例6]
湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する際に用いられる膜評価補助装置であって、湿度変化した場合における収縮力または膨張力が前記膜より大きく、前記膜に貼り付けられる変位膜と、前記膜の周縁部を保持する保持部と、を備えることを特徴とする膜評価補助装置。
【0018】
上記構成の膜評価補助装置によれば、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることを抑制することができる。
【0019】
[適用例7]
適用例6に記載の膜評価補助装置において、前記膜は、貫通孔を有しており、前記変位膜は、前記膜の貫通孔の少なくとも一部を覆うように、貼り付けられることを特徴とする膜評価補助装置。
【0020】
このようにすれば、湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることをより抑制することができる。
【0021】
[適用例8]
適用例6に記載の膜評価補助装置において、前記膜は、貫通孔を有しており、前記変位膜は、前記収縮力または膨張力が前記膜より大きく、枠状に形成され、前記膜の前記貫通孔の周縁部に沿って貼り付けられる第1変位膜と、前記収縮力または前記膨張力が前記第1変位膜より大きく、前記貫通孔を覆うように前記第1変位膜に貼り付けられる第2変位膜と、を備えることを特徴とする膜評価補助装置。
【0022】
このようにすれば、第2変位膜の収縮力が大きい場合であっても、電解質膜と第1変位膜、第1変位膜と第2変位膜とが、それぞれ、剥離することを抑制することができ、すなわち、第2変位膜を電解質膜にしっかりと固定することができる。
【0023】
[適用例9]
適用例7に記載の膜評価補助装置において、前記収縮力または前記膨張力が前記膜より小さい膜であって、前記変位膜に隣接するように配置すると共に、前記貫通孔の一部を覆うように、前記膜に貼り付けられる弱変位膜を備えることを特徴とする膜評価補助装置。
【0024】
このようにすれば、電解質膜において、変位膜と貼着している部分と弱変位膜と貼着している部分との界面付近で、大きな剪断力を生じさせることができる。
【0025】
[適用例10]
適用例6ないし適用例9のいずれかに記載の膜評価補助装置において、前記膜は、燃料電池に用いられる電解質膜であることを特徴とする膜評価補助装置。
【0026】
このようにすれば、燃料電池用電解質膜の耐久性を評価する場合に、時間がかかることを抑制することができる。
【0027】
なお、本発明は、上記した膜評価方法の他、燃料電池用電解質膜の評価方法など他の方法発明の態様として実現することも可能である。また、上記した膜評価補助装置の他、燃料電池用電解質膜の評価補助装置など他の装置発明の態様として実現することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき次の順序で説明する。
A.第1実施例:
A1.電解質膜評価方法:
図1は、第1実施例における電解質膜評価方法を示すフローチャートである。この電解質膜評価方法は、後述する電解質膜評価補助装置を用いて、湿度が変化した場合に収縮または膨張する電解質膜の耐久性を評価する方法である。この電解質膜評価方法を以下に説明する。
【0029】
本実施例の電解質膜評価方法において、まず、図1に示すように、電解質膜、膜固定枠、変位膜を用意する(ステップS10)。図2は、電解質膜10、膜固定枠20、および、変位膜30の外観斜視図である。膜固定枠20および変位膜30は、電解質膜評価方法に用いられる電解質膜評価補助装置である。
【0030】
電解質膜10は、四角形状に形成され、燃料電池に用いられる固体高分子型電解質膜であり、湿度変化に応じて収縮または膨張する、パーフルオロスルホン酸などのフッ素系樹脂から成る。電解質膜10は、フッ素系樹脂に限られず、炭化水素系樹脂で構成してもよい。また、電解質膜10は、固体高分子型電解質膜に限られず、湿度変化に応じて収縮または膨張する他の燃料電池用電解質膜を用いても良い。
【0031】
膜固定枠20は、金属製であり、電解質膜10の周縁部を固定するため内寸が電解質膜10より若干小さく形成されている。変位膜30は、湿度が変化した場合に、収縮率が電解質膜10よりも大きく、すなわち、収縮力が電解質膜10よりも大きいフッ素系樹脂から成る。変位膜30の収縮力は、電解質膜10よりも、1.1倍〜5倍程度大きいことが好ましく、1.5倍〜3倍程度大きいことがさらに好ましく、1.7倍〜2.5倍程度大きいことが特に好ましい。変位膜30は、フッ素系樹脂に限られず、炭化水素系樹脂で構成してもよい。
【0032】
続いて、電解質膜10に貫通孔HLを形成する(ステップS20)。図3は、貫通孔HLが形成された電解質膜を示す図である。貫通孔HLが形成された電解質膜を、以下では、電解質膜10Aと呼ぶ。電解質膜10Aにおいて、貫通孔HLは、略四角形であり、電解質膜10Aの略中央付近に形成される。電解質膜10Aにおいて、貫通孔HLの大きさは、変位膜30よりやや小さい程度の大きさとなっている。電解質膜10Aにおいて、貫通孔HLの大きさは、それぞれの辺が、電解質膜10Aの内寸の20%〜40%程度の大きさとなるように形成されることが好ましい。
【0033】
次に、膜固定枠20に、電解質膜10Aの周縁部を固定する(ステップS30)。図4は、電解質膜10Aが膜固定枠20に固定された様子を示す図である。具体的には、図4(A)は、電解質膜10Aが膜固定枠20に固定された様子を示す外観斜視図であり、図4(B)は、図4(A)におけるZ−Z断面図である。電解質膜10Aは、周縁部が、図4に示すように、膜固定枠20に固定されるので、湿度が変化しても、収縮または膨張することができず、内部に大きな力がかかる。
【0034】
続いて、膜固定枠20に固定された電解質膜10Aの貫通孔HLを覆うように、変位膜30を電解質膜10Aに貼り付ける(貼着する)。図5は、電解質膜10Aの貫通孔HLに変位膜30を貼り付けた様子を示す図である。具体的には、図5(A)は、電解質膜10Aの貫通孔HLに変位膜30を貼り付けた様子を示す外観斜視図であり、図5(B)は、図5(A)におけるA−A断面図である。変位膜30は、図5に示すように、電解質膜10Aの貫通孔HLの周縁部に貼着される。電解質膜10Aに変位膜30が貼着されたアセンブリを貼着アセンブリASとも呼ぶ。
【0035】
そして、所定のチャンバー(図示せず)に貼着アセンブリASを入れ、まず、そのチャンバーに加湿した空気を所定時間流すことにより貼着アセンブリASを加湿雰囲気下に配置し、次に、チャンバー内に乾燥した空気を所定時間流し、貼着アセンブリASを乾燥雰囲気下に配置する(ステップS50)。
【0036】
ステップS50の工程において、貼着アセンブリASを加湿雰囲気下および乾燥雰囲気下にそれぞれ1回づつ配置した状態を、繰り返し回数1として、カウントする(ステップS60)。
【0037】
ステップS50の工程で、電解質膜10Aが破れなかった場合(ステップS70:No)には、再度ステップS50の工程にリターンする。
【0038】
ステップS50の工程で、電解質膜10Aが破れた場合(ステップS70:Yes)には、ステップS60の工程における繰り返し回数に基づいて、電解質膜10Aの耐久性を評価する(ステップS80)。
【0039】
以上のように、本実施例の電解質膜評価方法では、電解質膜10Aの周縁部が、膜固定枠20に固定され、電解質膜10Aの貫通孔HLを覆うように、変位膜30を電解質膜10Aに貼着し、貼着アセンブリASを形成するようにしている。このようにすれば、ステップS50の工程で、貼着アセンブリASを湿度変化する状況に配置した場合において、変位膜30が大きく収縮・膨張するので、電解質膜10Aに大きな引っ張り応力・押圧力を付加することができ、電解質膜の劣化を早めることができる。その結果、ステップS60の工程における繰り返し回数のカウントを減少させることができ、電解質膜の耐久性の評価を迅速に行うことができる。
【0040】
本実施例の貼着アセンブリASの電解質膜10Aにおいて、変位膜30が貼着される貫通孔HL周辺は、他の部分と比較して特に、変位膜30により大きな引っ張り応力・押圧力が付加されると考えられる。そこで、電解質膜10Aにおいて、任意の場所に貫通孔HLを設け、変位膜30を貼着させるようにしてもよい。このようにすれば、貫通孔HLを設けた場所周辺において、電解質膜の劣化を早めることができ、すなわち、電解質膜10Aにおいて、任意な場所の耐久性の評価を行うことができる。
【0041】
A2.比較例との対比:
図6は、本実施例および比較例の電解質膜評価方法を比較した比較結果を示す図である。具体的には、図6は、電解質膜評価方法において、最初に電解質膜が破れるまでの繰り返し回数を、本実施例と比較例とで対比させたグラフ図である。本実施例および比較例における電解質膜評価方法の設定条件を以下に説明する。以下では、本実施例の電解質膜評価方法を単に「実施例」とも呼び、比較例の電解質膜評価方法を単に「比較例」とも呼ぶ。
【0042】
A2−1.設定条件:
比較例における電解質膜は、電解質膜10と同様の構成であり、貫通孔HLが形成されず、また、変位膜30も貼着されない。そして、比較例では、この電解質膜を用いて、膜固定枠20に固定し、上記電解質膜評価方法(図1)におけるステップS50〜S70の工程を行った。本実施例および比較例の電解質膜は、収縮時の収縮率が約10%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。
【0043】
本実施例において、変位膜30は、収縮時の収縮率が約25%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。変位膜30は、本実施例および比較例の電解質膜より厚く、収縮力が本実施例および比較例の電解質膜より約2倍程度となる膜を用いた。本実施例において、変位膜30は、電解質膜10Aに約80℃でホットプレスすることで貼着させた。
【0044】
本実施例および比較例において、上記電解質膜評価方法のステップS50の工程を行う場合には、チャンバーに電解質膜(本実施例では、貼着アセンブリAS)を入れ、まず、チャンバーに相対湿度95%の加湿空気を30分流すことにより電解質膜を加湿雰囲気下に配置し、次に、チャンバーに相対湿度20%の乾燥空気を30分流すことにより電解質膜を乾燥雰囲気下に配置した。
【0045】
A2−2.対比結果:
以上の設定条件で、本実施例および比較例の電解質膜評価方法を行い、それぞれ、電解質膜が最初の膜裂けが起こるまでの繰り返し回数をカウントした。図6に示すように、本実施例では、電解質膜の最初の膜裂けが起こるまでに繰り返し回数が200回程度であるのに対し、比較例では、300回程度であり、本実施例の繰り返し回数は、比較例に対し35%程度少なかった。このことから、本実施例の電解質膜評価方法は、比較例の電解質膜評価方法よりも繰り返し回数のカウントを減少させることができ、電解質膜の耐久性の評価を迅速に行うことができると実証された。
【0046】
図7は、本実施例の電解質膜評価方法において最初の膜裂けの発生例を示す図である。上記実施例と比較例との対比において、本実施例の電解質膜評価方法を行った際、図7に示すように、貼着アセンブリASにおいて、膜固定枠20の角部周辺の電解質膜10Aが最初に膜裂けを起こした。
【0047】
なお、本実施例において、電解質膜10は、特許請求の範囲における膜または電解質膜に該当し、貫通孔HLは、特許請求の範囲における貫通孔に該当し、膜固定枠20は、特許請求の範囲における保持部に該当し、変位膜30は、特許請求の範囲における変位膜に該当し、貼着アセンブリASは、特許請求の範囲における貼着アセンブリに該当する。
【0048】
B.第2実施例:
B1.電解質膜評価方法:
図8は、第2実施例における電解質膜評価方法を示すフローチャートである。この電解質膜評価方法は、第1実施例とは異なる後述の電解質膜評価補助装置を用いて、湿度が変化した場合に収縮または膨張する電解質膜の耐久性を評価する方法である。この電解質膜評価方法を以下に説明する。
【0049】
本実施例の電解質膜評価方法において、まず、図8に示すように、電解質膜、膜固定枠、第1変位膜、第2変位膜を用意する(ステップS100)。ここで用意する電解質膜および膜固定枠は、第1実施例の電解質膜10および膜固定枠20と同様の構成であり、その説明を省略すると共に以下同符号で示す。
【0050】
図9は、第1変位膜40、および、第2変位膜50の外観斜視図である。膜固定枠20、第1変位膜40、および、第2変位膜50は、本実施例の電解質膜評価方法に用いられる電解質膜評価補助装置である。
【0051】
第1変位膜40は、枠状に形成され、湿度が変化した場合に、収縮率が電解質膜10よりも大きく、すなわち、収縮力が電解質膜10よりも大きいフッ素系樹脂から成る。第2変位膜50は、四角形状に形成され、第1変位膜40よりも湿度が変化した場合に、収縮率が電解質膜10よりも大きく、すなわち、収縮力が電解質膜10よりも大きいフッ素系樹脂から成る。第1変位膜40または第2変位膜50は、フッ素系樹脂に限られず、炭化水素系樹脂で構成してもよい。
【0052】
続いて、第1実施例における図3のごとく、電解質膜10に貫通孔HLを形成する(ステップS110)。第1実施例同様に、貫通孔HLが形成された電解質膜を、電解質膜10Aと呼ぶ。
【0053】
次に、第1実施例における図4のごとく、膜固定枠20に、電解質膜10Aの周縁部を固定する(ステップS120)。
【0054】
続いて、膜固定枠20に固定された電解質膜10Aの貫通孔HLに沿って、第1変位膜40を電解質膜10Aに貼り付ける(貼着する)。図10は、電解質膜10Aの貫通孔HLの周縁部に沿って第1変位膜40を貼り付けた様子を示す図である。具体的には、図10(A)は、貫通孔HLの周縁部に沿って第1変位膜40を貼り付けた様子を示す外観斜視図であり、図10(B)は、図10(A)におけるB−B断面図である。第1変位膜40は、図10に示すように、電解質膜10Aの貫通孔HLの周縁部に貼着される。電解質膜10Aに第1変位膜40が貼着されたアセンブリを貼着アセンブリAS1とも呼ぶ。
【0055】
さらに、貼着アセンブリAS1における貫通孔HLを覆うように、第2変位膜50を第1変位膜40に貼り付ける(貼着する)。図11は、第1変位膜40に第2変位膜50を貼り付けた様子を示す図である。具体的には、図11(A)は、第1変位膜40に第2変位膜50を貼り付けた様子を示す外観斜視図であり、図11(B)は、図11(A)におけるC−C断面図である。第2変位膜50は、図11に示すように、第1変位膜40の内枠周縁部に貼着される。貼着アセンブリAS1に第2変位膜50が貼着されたアセンブリを貼着アセンブリAS2とも呼ぶ。
【0056】
そして、所定のチャンバー(図示せず)に貼着アセンブリAS2を入れ、まず、そのチャンバーに加湿した空気を所定時間流すことにより貼着アセンブリAS2を加湿雰囲気下に配置し、次に、チャンバー内に乾燥した空気を所定時間流し、貼着アセンブリAS2を乾燥雰囲気下に配置する(ステップS150)。
【0057】
ステップS150の工程において、貼着アセンブリAS2を加湿雰囲気下および乾燥雰囲気下にそれぞれ1回づつ配置した状態を、繰り返し回数1として、カウントする(ステップS160)。
【0058】
ステップS150の工程で、電解質膜10Aが破れなかった場合(ステップS170:No)には、再度ステップS150の工程にリターンする。
【0059】
ステップS150の工程で、電解質膜10Aが破れた場合(ステップS170:Yes)には、ステップS160の工程における繰り返し回数に基づいて、電解質膜10Aの耐久性を評価する(ステップS180)。
【0060】
ところで、上記第1実施例の電解質膜評価方法では、変位膜30を電解質膜10Aに貼着するようにしているが、変位膜30の収縮力が非常に大きいと、変位膜30が湿度変化により収縮する際、変位膜30が収縮により波うち、変位膜30と電解質膜10Aとの貼着部分(図5(B))で、変位膜30と電解質膜10Aとが剥離するおそれがあった。
【0061】
一方、以上のように、本実施例の電解質膜評価方法では、収縮力が大きい第2変位膜50を直接的に電解質膜10Aに貼着(固定)せず、電解質膜10Aよりは収縮力が大きく第2変位膜50よりは収縮力が小さい中間的な第1変位膜40を介して電解質膜10Aに固定するようにしている。このようにすれば、電解質膜10Aと第1変位膜40との貼着部分(図11(B))において、第1変位膜40が収縮により波うっても電解質膜10Aも同調するように波うち、また、第1変位膜40と第2変位膜50との貼着部分(図11(B))において、第2変位膜50が収縮により波打っても第1変位膜40も同調するように波うつ。従って、第2変位膜50の収縮力が非常に大きい場合であっても、電解質膜10Aと第1変位膜40、第1変位膜40と第2変位膜50とが、それぞれ、剥離することを抑制することができ、すなわち、第2変位膜50を電解質膜10Aにしっかりと固定することができる。
【0062】
また、本実施例の電解質膜評価方法では、収縮力が大きい第2変位膜50を電解質膜10Aに固定し、貼着アセンブリAS2を形成するようにしている。このようにすれば、ステップS150の工程で、貼着アセンブリAS2を湿度変化する状況に配置した場合において、第2変位膜50が大きく収縮・膨張するので、電解質膜10Aに大きな引っ張り応力・押圧力を付加することができ、電解質膜の劣化を早めることができる。その結果、ステップS160の工程における繰り返し回数のカウントを減少させることができ、電解質膜の耐久性の評価を迅速に行うことができる。
【0063】
本実施例の貼着アセンブリAS2の電解質膜10Aにおいて、第1変位膜40が貼着され、第2変位膜50が固定される貫通孔HL周辺は、他の部分と比較して特に、第2変位膜50により大きな引っ張り応力・押圧力が付加されると考えられる。そこで、電解質膜10Aにおいて、任意の場所に貫通孔HLを設け、第1変位膜40を貼着し、第2変位膜50を固定させるようにしてもよい。このようにすれば、貫通孔HLを設けた場所周辺において、電解質膜の劣化を早めることができ、すなわち、電解質膜10Aにおいて、任意な場所の耐久性の評価を行うことができる。
【0064】
B2.比較例との対比:
図12は、本実施例および比較例の電解質膜評価方法を比較した比較結果を示す図である。具体的には、図12は、電解質膜評価方法において、最初に電解質膜が破れるまでの繰り返し回数を、本実施例と比較例とで対比させたグラフ図である。本実施例および比較例における電解質膜評価方法の設定条件を以下に説明する。以下では、本実施例の電解質膜評価方法を単に「実施例」とも呼び、比較例の電解質膜評価方法を単に「比較例」とも呼ぶ。
【0065】
B2−1.設定条件:
比較例における電解質膜は、電解質膜10と同様の構成であり、貫通孔HLが形成されず、また、変位膜30も貼着されない。そして、比較例では、この電解質膜を用いて、膜固定枠20に固定し、上記電解質膜評価方法(図8)におけるステップS150〜S170の工程を行った。本実施例および比較例の電解質膜は、収縮時の収縮率が約10%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。
【0066】
本実施例において、第1変位膜40は、収縮時の収縮率が約20%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。第2変位膜50は、収縮時の収縮率が約35%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。第2変位膜50は、本実施例および比較例の電解質膜より厚く、収縮力が本実施例および比較例の電解質膜より約3倍程度となる膜を用いた。本実施例において、第1変位膜40は、電解質膜10Aに約80℃でホットプレスすることで貼着させた。第2変位膜50は、第1変位膜40に約80℃でホットプレスすることで貼着させた。
【0067】
本実施例および比較例において、上記電解質膜評価方法のステップS150の工程を行う場合には、チャンバーに電解質膜(本実施例では、貼着アセンブリAS2)を入れ、まず、チャンバーに相対湿度95%の加湿空気を30分流すことにより電解質膜を加湿雰囲気下に配置し、次に、チャンバーに相対湿度20%の乾燥空気を30分流すことにより電解質膜を乾燥雰囲気下に配置した。
【0068】
なお、本実施例において、電解質膜10は、特許請求の範囲における膜または電解質膜に該当し、第1変位膜40は、特許請求の範囲における第1変位膜に該当し、第2変位膜50は、特許請求の範囲における第2変位膜に該当し、貫通孔HLは、特許請求の範囲における貫通孔に該当する。
【0069】
B2−2.対比結果:
以上の設定条件で、本実施例および比較例の電解質膜評価方法を行い、それぞれ、電解質膜が最初の膜裂けが起こるまでの繰り返し回数をカウントした。図12に示すように、本実施例では、電解質膜の最初の膜裂けが起こるまでに繰り返し回数が150回程度であるのに対し、比較例では、300回程度であり、本実施例の繰り返し回数は、比較例に対し50%程度少なかった。このことから、本実施例の電解質膜評価方法は、比較例の電解質膜評価方法よりも繰り返し回数のカウントを減少させることができ、電解質膜の耐久性の評価を迅速に行うことができると実証された。
【0070】
図13は、本実施例の電解質膜評価方法において最初の膜裂けの発生例を示す図である。上記実施例と比較例との対比において、本実施例の電解質膜評価方法を行った際、図13に示すように、貼着アセンブリASにおいて、膜固定枠20の角部周辺の電解質膜10Aが最初に膜裂けを起こした。
【0071】
C.第3実施例:
C1.電解質膜評価方法:
図14は、第3実施例における電解質膜評価方法を示すフローチャートである。この電解質膜評価方法は、第1実施例とは異なる後述の電解質膜評価補助装置を用いて、湿度が変化した場合に収縮または膨張する電解質膜の耐久性を評価する方法である。この電解質膜評価方法を以下に説明する。
【0072】
本実施例の電解質膜評価方法において、まず、図14に示すように、電解質膜、膜固定枠、変位膜、および、非変位膜を用意する(ステップS200)。ここで用意する電解質膜および膜固定枠は、第1実施例の電解質膜10および膜固定枠20と同様の構成であり、その説明を省略すると共に以下同符号で示す。
【0073】
図15は、変位膜30Aおよび非変位膜70の外観斜視図である。膜固定枠20、変位膜30A、および、非変位膜70は、本実施例の電解質膜評価方法に用いられる電解質膜評価補助装置である。
【0074】
変位膜30Aは、四角形状に形成され、湿度が変化した場合に、収縮率が電解質膜10よりも大きく、すなわち、収縮力が電解質膜10よりも大きいフッ素系樹脂から成る。変位膜30Aは、第1実施例の変位膜30と比較して、面積が約半分程度となっている。変位膜30Aの収縮力は、電解質膜10よりも、1.1倍〜5倍程度大きいことが好ましく、1.5倍〜3倍程度大きいことがさらに好ましく、1.7倍〜2.5倍程度大きいことが特に好ましい。変位膜30Aは、フッ素系樹脂に限られず、炭化水素系樹脂で構成してもよい。
【0075】
非変位膜70は、変位膜30Aと同一形状、同一の大きさであり、吸湿性がなく、すなわち、湿度が変化しても収縮しない膜であり、ポリエチレンから成る。非変位膜70は、湿度が変化しても収縮しない膜であればよく、プラスチックやカーボン等で構成してもよい。
【0076】
続いて、第1実施例における図3のごとく、電解質膜10に貫通孔HLを形成する(ステップS210)。第1実施例同様に、貫通孔HLが形成された電解質膜を、電解質膜10Aと呼ぶ。
【0077】
次に、第1実施例における図4のごとく、膜固定枠20に、電解質膜10Aの周縁部を固定する(ステップS220)。
【0078】
続いて、膜固定枠20に固定された電解質膜10Aの貫通孔HLの半分程度を覆うように、変位膜30Aを電解質膜10Aに貼り付ける(貼着する)。図16は、電解質膜10Aの貫通孔HLに変位膜30Aを貼り付けた様子を示す図である。具体的には、図16(A)は、電解質膜10Aの貫通孔HLに変位膜30Aを貼り付けた様子を示す外観斜視図であり、図16(B)は、図16(A)におけるD−D断面図である。変位膜30Aは、図16に示すように、電解質膜10Aの貫通孔HLの半分程度を覆うように、貫通孔HLの周縁部に貼着される。電解質膜10Aに変位膜30Aが貼着されたアセンブリを貼着アセンブリAS3とも呼ぶ。
【0079】
そして、貼着アセンブリAS3における貫通孔HLの残り半分程度を覆うように、非変位膜70を電解質膜10Aに貼り付ける(貼着する)。図17は、貼着アセンブリAS3における貫通孔HLに非変位膜70を貼り付けた様子を示す図である。具体的には、図17(A)は、貼着アセンブリAS3における貫通孔HLに非変位膜70を貼り付けた様子を示す外観斜視図であり、図17(B)は、図17(A)におけるE−E断面図である。非変位膜70は、図17に示すように、貼着アセンブリAS3の貫通孔HLの残り半分程度を覆うと共に、変位膜30Aに隣接して貫通孔HLの周縁部に貼着される。貼着アセンブリAS3に変位膜30Aが貼着されたアセンブリを貼着アセンブリAS4とも呼ぶ。
【0080】
そして、所定のチャンバー(図示せず)に貼着アセンブリAS4を入れ、まず、そのチャンバーに加湿した空気を所定時間流すことにより貼着アセンブリAS4を加湿雰囲気下に配置し、次に、チャンバー内に乾燥した空気を所定時間流し、貼着アセンブリAS4を乾燥雰囲気下に配置する(ステップS250)。
【0081】
ステップS250の工程において、貼着アセンブリAS4を加湿雰囲気下および乾燥雰囲気下にそれぞれ1回づつ配置した状態を、繰り返し回数1として、カウントする(ステップS260)。
【0082】
ステップS250の工程で、電解質膜10Aが破れなかった場合(ステップS270:No)には、再度ステップS250の工程にリターンする。
【0083】
ステップS250の工程で、電解質膜10Aが破れた場合(ステップS270:Yes)には、ステップS260の工程における繰り返し回数に基づいて、電解質膜10Aの耐久性を評価する(ステップS280)。
【0084】
以上のように、本実施例の電解質膜評価方法では、貼着アセンブリAS4において、貫通孔HLを覆うように、変位膜30Aおよび非変位膜70が貼着されると共に、変位膜30Aと非変位膜70とが隣接して配置されている。このようにすれば、電解質膜10Aにおいて、変位膜30と貼着している部分では、引っ張り応力・押圧力が大きいのに対し、非変位膜70と貼着している部分では、引っ張り応力・押圧力が小さいので、電解質膜10Aを収縮または膨張させると、変位膜30Aと貼着している部分と非変位膜70と貼着している部分との界面付近で、大きな剪断力を生じさせることができる。従って、電解質膜の劣化を早めることができる。その結果、ステップS260の工程における繰り返し回数のカウントを減少させることができ、電解質膜の耐久性の評価を迅速に行うことができる。
【0085】
本実施例の貼着アセンブリAS4の電解質膜10Aにおいて、変位膜30Aが貼着される部分と非変位膜70が貼着される部分との界面周辺は、他の部分と比較して、大きな剪断力が生じると考えられる。そこで、電解質膜10Aにおいて、任意の場所に貫通孔HLを設け、変位膜30Aおよび非変位膜70を隣接するように貼着させるようにしてもよい。このようにすれば、貫通孔HLを設けた場所周辺(上記界面周辺)において、電解質膜の劣化を早めることができ、すなわち、電解質膜10Aにおいて、任意な場所の耐久性の評価を行うことができる。
【0086】
C2.比較例との対比:
図18は、本実施例および比較例の電解質膜評価方法を比較した比較結果を示す図である。具体的には、図18は、電解質膜評価方法において、最初に電解質膜が破れるまでの繰り返し回数を、本実施例と比較例とで対比させたグラフ図である。本実施例および比較例における電解質膜評価方法の設定条件を以下に説明する。以下では、本実施例の電解質膜評価方法を単に「実施例」とも呼び、比較例の電解質膜評価方法を単に「比較例」とも呼ぶ。
【0087】
C2−1.設定条件:
比較例における電解質膜は、電解質膜10と同様の構成であり、貫通孔HLが形成されず、また、変位膜30も貼着されない。そして、比較例では、この電解質膜を用いて、膜固定枠20に固定し、上記電解質膜評価方法(図14)におけるステップS250〜S270の工程を行った。本実施例および比較例の電解質膜は、収縮時の収縮率が約10%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。
【0088】
本実施例において、変位膜30Aは、収縮時の収縮率が約25%、膨張時の膨張率が約2%程度の膜を用いた。変位膜30Aは、本実施例および比較例の電解質膜より厚く、収縮力が本実施例および比較例の電解質膜より約2倍程度となる膜を用いた。本実施例において、変位膜30Aおよび非変位膜70は、電解質膜10Aに約80℃でホットプレスすることで貼着させた。
【0089】
本実施例および比較例において、上記電解質膜評価方法のステップS250の工程を行う場合には、チャンバーに電解質膜(本実施例では、貼着アセンブリAS4)を入れ、まず、チャンバーに相対湿度95%の加湿空気を30分流すことにより電解質膜を加湿雰囲気下に配置し、次に、チャンバーに相対湿度20%の乾燥空気を30分流すことにより電解質膜を乾燥雰囲気下に配置した。
【0090】
C2−2.対比結果:
以上の設定条件で、本実施例および比較例の電解質膜評価方法を行い、それぞれ、電解質膜が最初の膜裂けが起こるまでの繰り返し回数をカウントした。図18に示すように、本実施例では、電解質膜の最初の膜裂けが起こるまでに繰り返し回数が150回程度であるのに対し、比較例では、300回程度であり、本実施例の繰り返し回数は、比較例に対し50%程度少なかった。このことから、本実施例の電解質膜評価方法は、比較例の電解質膜評価方法よりも繰り返し回数のカウントを減少させることができ、電解質膜の耐久性の評価を迅速に行うことができると実証された。
【0091】
図19は、本実施例の電解質膜評価方法において最初の膜裂けの発生例を示す図である。上記実施例と比較例との対比において、本実施例の電解質膜評価方法を行った際、図18に示すように、貼着アセンブリAS4において、変位膜30Aが貼着される部分と非変位膜70が貼着される部分との界面部分が最初に膜裂けを起こした。このことは、変位膜30Aが貼着される部分と非変位膜70が貼着される部分との界面部分に、大きな剪断力が生じることを実証している。
【0092】
なお、本実施例において、電解質膜10は、特許請求の範囲における膜または電解質膜に該当し、変位膜30Aは、特許請求の範囲における変位膜に該当し、非変位膜70は、特許請求の範囲における弱変位膜に該当し、貫通孔HLは、特許請求の範囲における貫通孔に該当する。
【0093】
D.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば以下のような変形も可能である。
【0094】
D1.変形例1:
上記実施例では、電解質膜に貫通孔を設け、その周縁部を覆うように、収縮力が大きい変位膜を貼着するようにしているが、本発明は、これに限られるものではなく、電解質膜に貫通孔を設けず、電解質膜の所定部位に変位膜を貼着するようにしてもよい。このようにしても上記実施例の効果を奏することができる。
【0095】
D2.変形例2:
上記第3実施例において、非変位膜70は、吸湿性がなく、すなわち、湿度が変化しても収縮しない膜としているが、本発明は、これに限られるものではなく、非変位膜70は、湿度が変化した場合において、電解質膜10よりも収縮力が小さい膜であればよい。このようにしても、上記実施例の効果を奏することができる。
【0096】
D3.変形例3:
上記第3実施例において、非変位膜70は、変位膜30Aと同一形状、同一の大きさとしているが、本発明は、これに限られるものではなく、非変位膜70は、変位膜30Aより大きくしてもよいし、小さいくしてもよい。このようにすれば、電解質膜10Aにおいて、変位膜30Aが貼着される部分と非変位膜70が貼着される部分との界面部分の位置を変えることができ、電解質膜10Aにおける任意の位置の耐久性を評価することができる。
【0097】
D4.変形例4:
上記実施例において、電解質膜に貫通孔を設け、その周縁部を覆うように、収縮力が大きい変位膜を用いているが、この変位膜の角を丸みを帯びさせるようにしても良い。このようにすれば、変位膜と電解質膜との貼着部分において、接着力を高めることができる。
【0098】
D5.変形例5:
上記実施例では、燃料電池用の電解質膜を評価するようにしているが、種々の膜に対して、上記評価方法を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】第1実施例における電解質膜評価方法を示すフローチャートである。
【図2】電解質膜10、膜固定枠20、および変位膜30の外観斜視図である。
【図3】貫通孔HLが形成された電解質膜を示す図である。
【図4】電解質膜10Aが膜固定枠20に固定された様子を示す図である。
【図5】電解質膜10Aの貫通孔HLに変位膜30を貼り付けた様子を示す図である。
【図6】第1実施例および比較例の電解質膜評価方法を比較した比較結果を示す図である。
【図7】第1実施例の電解質膜評価方法において最初の膜裂けの発生例を示す図である。
【図8】第2実施例における電解質膜評価方法を示すフローチャートである。
【図9】第1変位膜40および第2変位膜50の外観斜視図である。
【図10】電解質膜10Aの貫通孔HLの周縁部に沿って第1変位膜40を貼り付けた様子を示す図である。
【図11】第1変位膜40に第2変位膜50を貼り付けた様子を示す図である。
【図12】第2実施例および比較例の電解質膜評価方法を比較した比較結果を示す図である。
【図13】第2実施例の電解質膜評価方法において最初の膜裂けの発生例を示す図である。
【図14】第3実施例における電解質膜評価方法を示すフローチャートである。
【図15】変位膜30Aおよび非変位膜70の外観斜視図である。
【図16】電解質膜10Aの貫通孔HLに変位膜30Aを貼り付けた様子を示す図である。
【図17】貼着アセンブリAS3における貫通孔HLに非変位膜70を貼り付けた様子を示す図である。
【図18】第3実施例および比較例の電解質膜評価方法を比較した比較結果を示す図である。
【図19】第3実施例の電解質膜評価方法において最初の膜裂けの発生例を示す図である。
【符号の説明】
【0100】
10…電解質膜
10A…電解質膜
20…膜固定枠
30…変位膜
30A…変位膜
40…第1変位膜
50…第2変位膜
70…非変位膜
HL…貫通孔
AS…貼着アセンブリ
AS1…貼着アセンブリ
AS2…貼着アセンブリ
AS3…貼着アセンブリ
AS4…貼着アセンブリ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価するための膜評価方法であって、
湿度変化した場合における収縮力または膨張力が前記膜より大きい変位膜を用意する変位膜用意工程と、
前記膜に、前記変位膜を貼り付け、前記膜と変位膜とから成る貼着アセンブリを形成する貼着工程と、
前記膜の周縁部を保持する保持工程と、
前記貼着工程および前記保持工程後、前記貼着アセンブリを、加湿雰囲気下または乾燥雰囲気下に配置する乾湿工程と、
を備えることを特徴とする膜評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の膜評価方法において、
前記膜は、貫通孔が形成されており、
前記貼着工程は、
前記膜の前記貫通孔の少なくとも一部を覆うように、前記変位膜を貼り付け、前記貼着アセンブリを形成することを特徴とする膜評価方法。
【請求項3】
請求項1に記載の膜評価方法において、
前記膜は、貫通孔が形成されており、
前記変位膜用意工程は、
前記収縮力または前記膨張力が前記膜より大きく、枠状に形成される第1変位膜と、前記収縮力または前記膨張力が前記第1変位膜より大きい第2変位膜と、を用意する工程を含み、
前記貼着工程は、
前記膜の前記貫通孔の周縁部に沿って、前記第1変位膜を貼り付けると共に、前記第2変位膜を、前記貫通孔の少なくとも一部を覆うように、前記第1変位膜に貼り付け、前記貼着アセンブリを形成する第2貼着工程と、
を含むことを特徴とする膜評価方法。
【請求項4】
請求項2に記載の膜評価方法において、
前記収縮力または前記膨張力が前記膜より小さい弱変位膜を用意する弱変位膜用意工程を備え、
前記貼着工程は、
前記弱変位膜を、前記変位膜に隣接するように配置すると共に、前記貫通孔の一部を覆うように、前記膜に貼り付け、前記貼着アセンブリを形成することを特徴とする膜評価方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の膜評価方法において、
前記膜は、燃料電池に用いられる電解質膜であることを特徴とする膜評価方法。
【請求項6】
湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する際に用いられる膜評価補助装置であって、
湿度変化した場合における収縮力または膨張力が前記膜より大きく、前記膜に貼り付けられる変位膜と、
前記膜の周縁部を保持する保持部と、
を備えることを特徴とする膜評価補助装置。
【請求項7】
請求項6に記載の膜評価補助装置において、
前記膜は、貫通孔を有しており、
前記変位膜は、
前記膜の貫通孔の少なくとも一部を覆うように、貼り付けられることを特徴とする膜評価補助装置。
【請求項8】
請求項6に記載の膜評価補助装置において、
前記膜は、貫通孔を有しており、
前記変位膜は、
前記収縮力または膨張力が前記膜より大きく、枠状に形成され、前記膜の前記貫通孔の周縁部に沿って貼り付けられる第1変位膜と、
前記収縮力または前記膨張力が前記第1変位膜より大きく、前記貫通孔を覆うように前記第1変位膜に貼り付けられる第2変位膜と、
を備えることを特徴とする膜評価補助装置。
【請求項9】
請求項7に記載の膜評価補助装置において、
前記収縮力または前記膨張力が前記膜より小さい膜であって、前記変位膜に隣接するように配置すると共に、前記貫通孔の一部を覆うように、前記膜に貼り付けられる弱変位膜を備えることを特徴とする膜評価補助装置。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9のいずれかに記載の膜評価補助装置において、
前記膜は、燃料電池に用いられる電解質膜であることを特徴とする膜評価補助装置。
【請求項1】
湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価するための膜評価方法であって、
湿度変化した場合における収縮力または膨張力が前記膜より大きい変位膜を用意する変位膜用意工程と、
前記膜に、前記変位膜を貼り付け、前記膜と変位膜とから成る貼着アセンブリを形成する貼着工程と、
前記膜の周縁部を保持する保持工程と、
前記貼着工程および前記保持工程後、前記貼着アセンブリを、加湿雰囲気下または乾燥雰囲気下に配置する乾湿工程と、
を備えることを特徴とする膜評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の膜評価方法において、
前記膜は、貫通孔が形成されており、
前記貼着工程は、
前記膜の前記貫通孔の少なくとも一部を覆うように、前記変位膜を貼り付け、前記貼着アセンブリを形成することを特徴とする膜評価方法。
【請求項3】
請求項1に記載の膜評価方法において、
前記膜は、貫通孔が形成されており、
前記変位膜用意工程は、
前記収縮力または前記膨張力が前記膜より大きく、枠状に形成される第1変位膜と、前記収縮力または前記膨張力が前記第1変位膜より大きい第2変位膜と、を用意する工程を含み、
前記貼着工程は、
前記膜の前記貫通孔の周縁部に沿って、前記第1変位膜を貼り付けると共に、前記第2変位膜を、前記貫通孔の少なくとも一部を覆うように、前記第1変位膜に貼り付け、前記貼着アセンブリを形成する第2貼着工程と、
を含むことを特徴とする膜評価方法。
【請求項4】
請求項2に記載の膜評価方法において、
前記収縮力または前記膨張力が前記膜より小さい弱変位膜を用意する弱変位膜用意工程を備え、
前記貼着工程は、
前記弱変位膜を、前記変位膜に隣接するように配置すると共に、前記貫通孔の一部を覆うように、前記膜に貼り付け、前記貼着アセンブリを形成することを特徴とする膜評価方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の膜評価方法において、
前記膜は、燃料電池に用いられる電解質膜であることを特徴とする膜評価方法。
【請求項6】
湿度が変化した場合に収縮または膨張する膜の耐久性を評価する際に用いられる膜評価補助装置であって、
湿度変化した場合における収縮力または膨張力が前記膜より大きく、前記膜に貼り付けられる変位膜と、
前記膜の周縁部を保持する保持部と、
を備えることを特徴とする膜評価補助装置。
【請求項7】
請求項6に記載の膜評価補助装置において、
前記膜は、貫通孔を有しており、
前記変位膜は、
前記膜の貫通孔の少なくとも一部を覆うように、貼り付けられることを特徴とする膜評価補助装置。
【請求項8】
請求項6に記載の膜評価補助装置において、
前記膜は、貫通孔を有しており、
前記変位膜は、
前記収縮力または膨張力が前記膜より大きく、枠状に形成され、前記膜の前記貫通孔の周縁部に沿って貼り付けられる第1変位膜と、
前記収縮力または前記膨張力が前記第1変位膜より大きく、前記貫通孔を覆うように前記第1変位膜に貼り付けられる第2変位膜と、
を備えることを特徴とする膜評価補助装置。
【請求項9】
請求項7に記載の膜評価補助装置において、
前記収縮力または前記膨張力が前記膜より小さい膜であって、前記変位膜に隣接するように配置すると共に、前記貫通孔の一部を覆うように、前記膜に貼り付けられる弱変位膜を備えることを特徴とする膜評価補助装置。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9のいずれかに記載の膜評価補助装置において、
前記膜は、燃料電池に用いられる電解質膜であることを特徴とする膜評価補助装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−9759(P2010−9759A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164185(P2008−164185)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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