説明

膜電極接合体の製造装置および製造方法

【課題】膜電極接合体製造における電解質膜と触媒電極層との間の歪み発生を抑制する。
【解決手段】第1および第2の貼り合せローラーによる貼り合せローラー対のニップ部に積層体シートが至る前の位置で、積層体シートが第1の貼り合せローラーに接触した状態で、剥離ローラーに沿ってベースシートを巻き込んで剥離させる。ベースシートが剥離された電解質膜シートの第1の面とは反対の第2の面を第1の貼り合せローラーに接触させた状態で、第1の貼り合せローラーの回転に応じて、電解質膜シートをニップ部に移動させる。触媒電極層シートを第2の貼り合せローラーの回転に応じて電解質膜シートの第1の面に重ね合せるようにニップ部に移動させる。重ね合された電解質膜シートおよび触媒電極層シートに対して加熱することなく加圧して貼り合せる。貼り合された電解質膜シートおよび触媒電極層シートに対して加熱および加圧することにより接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に用いられる膜電極接合体は、電解質膜の両面に、燃料電池反応を促進させるための触媒を担持させた触媒電極(アノードおよびカソード)が形成されている。この膜電極接合体の製造方法としては、帯状の電解質膜の両面に、帯状のキャリアフィルム上に形成された触媒電極層を重ね合せるとともに、2つの熱ロールにて加熱および加圧することにより、複数の膜電極接合体を連続して製造する方法が提案されている(下記特許文献1等参照)。
【0003】
上記従来例の製造方法では、帯状のキャリアフィルム上に形成された電解質膜が、一方の触媒電極層に重ね合わされると同時に、この触媒電極層を介して一方の加熱ロールに接した時点で、ニップロールによりキャリアフィルムが剥離され、電解質膜のキャリアフィルムの剥離面に他方の触媒電極層が重ね合された後、2つの加熱ロールにて加圧されている。
【0004】
ここで、電解質膜は、通常、膜の剛性が低いという特性を有している。また、電解質膜は高分子膜であるため、加熱により収縮しやすいという特性を有している。従って、加圧される前の電解質膜は、単に触媒電極層上に重ね合されているのみであるので、加熱ロールからの熱による収縮が発生するとともに、ニップロールによって触媒電極層上に押さえられるために、シワが発生しやすくなっている。このため、熱収縮やシワが発生した状態の電解質膜に触媒電極層が加熱および加圧によって接合されるので、電解質膜に収縮やシワが発生したままの膜電極接合体が生成されることになる。また、常温に戻った場合に、電解質膜は収縮状態から戻ろうとするため、接合された触媒電極層と電解質膜との間で歪みが発生し、シワや反りの発生を招くことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−055922号公報
【特許文献2】特開2004−026348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、膜電極接合体の製造時において、電解質膜シートに付着しているベースシートの剥離によって発生する電解質膜のシワやタワミを抑制し、また、加熱による電解質膜の熱収縮やシワの発生を抑制し、電解質膜と触媒電極層との間の歪みの発生を抑制することが可能な燃料電池用の膜電極接合体の製造技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
膜電極接合体の製造装置であって、
ベースシート上に電解質膜シートが形成された帯状の積層体シートおよび帯状の触媒電極層シートが送り込まれ、送り込まれた前記積層体シートの前記電解質膜シートと前記触媒電極層シートとを貼り合せる貼り合せ部と、
貼り合された前記電解質膜シートおよび前記触媒電極層シートに対して加熱および加圧することにより、前記貼り合された電解質膜シートおよび触媒電極層シートを接合する接合部と、を備え、
前記貼り合せ部は、
前記積層体シートから前記ベースシートを剥離するための剥離ローラーと、
前記ベースシートが剥離された電解質膜シートの第1の面に前記触媒電極層シートを貼り合せるための貼り合せローラー対を構成する第1および第2の貼り合せローラーと、
を備え、
前記剥離ローラーは、前記積層体シートが前記貼り合せローラー対のニップ部に至る前の位置において前記積層体シートが前記第1の貼り合せローラーのローラー面に接触した状態で、前記剥離ローラーのローラー面に沿って前記ベースシートを巻き込んで前記ベースシートを剥離させ、
前記第1の貼り合せローラーは、剥離された前記電解質膜シートの前記第1の面とは反対の第2の面を前記第1の貼り合せローラーのローラー面に接触させた状態で、前記剥離された電解質膜シートを、前記第1の貼り合せローラーの回転に応じて、前記第1の貼り合せローラーのローラー面に沿って前記貼り合せローラー対の前記ニップ部に移動させ、
前記第2の貼り合せローラーは、送り込まれた前記触媒電極層シートを、前記第2の貼り合せローラーの回転に応じて前記剥離された電解質膜シートの前記第1の面に重ね合せるように前記貼り合せローラー対の前記ニップ部に移動させ、
前記貼り合せローラー対は、前記ニップ部で重ね合された前記電解質膜シートおよび前記触媒電極層シートに対して加熱することなく加圧することにより、前記重ね合された電解質膜シートおよび触媒電極層シートを貼り合せる
ことを特徴とする膜電極接合体の製造装置。
この膜電極接合体の製造装置によれば、貼り合せ部において、積層体シートが第1の貼り合せローラーのローラー面に接触した状態で、加熱することなく、ベースシートを剥離するとともに電解質膜シートと触媒電極層シートとを貼り合せた後、接合部において、電解質膜シートと触媒電極層シートとを加熱および加圧により接合することができる。これにより、ベースシートの剥離時における電解質膜のシワ等の発生を効果的に抑制するとともに高精度な貼り合せが可能である。また、加熱による電解質膜の熱収縮やシワの発生を抑制するとともに、電解質膜と触媒電極層との間の歪みの発生を抑制することが可能である。
【0009】
[適用例2]
前記第1の貼り合せローラーは、前記電解質膜シートの第2の面を前記第1のローラー面に吸着させるサクションローラーである適用例1に記載の膜電極接合体の製造装置。
第1の貼り合せローラーをサクションローラーとすれば、第1の貼り合せローラーのローラー面に電解質膜シートを吸着させることができるので、第1の貼り合せローラーのローラー面上で安定に電解質膜シートを保持することが可能であり、ベースシートの剥離時におけるシワ等の発生をより効果的に抑制するとともにより高精度な貼り合せが可能となる。
【0010】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の膜電極接合体の製造装置であって、
前記貼り合せ部に送り込まれる前記積層体シートの電解質膜シートは、前記電解質膜シートの前記第2の面に第1の触媒電極層が形成された触媒電極層付電解質膜シートであり、
前記貼り合せ部に送り込まれる触媒電極層シートは、前記電解質膜シートの前記第1の面に貼り合される第2の触媒電極層が形成されている
膜電極接合体の製造装置。
この膜電極接合体の製造装置によれば、電解質膜シート上にあらかじめ第1の触媒電極層が形成されているので、ベースシートの剥離時に発生するシワ等をより効果的に抑制することが可能である。
【0011】
[適用例4]
ベースシート上に第1のシートが形成された帯状の積層体シートおよび第2のシートを貼り合せて搬送する貼り合せ装置であって、
前記積層体シートから前記ベースシートを剥離するための剥離ローラーと、
前記ベースシートが剥離された第1のシートの第1の面に前記第2のシートを貼り合せるための貼り合せローラー対を構成する第1および第2の貼り合せローラーと、
を備え、
前記剥離ローラーは、前記積層体シートが前記貼り合せローラー対のニップ部に至る前の位置において前記積層体シートが前記第1の貼り合せローラーのローラー面に接触した状態で、前記剥離ローラーのローラー面に沿って前記ベースシートを巻き込んで前記ベースシートを剥離させ、
前記第1の貼り合せローラーは、剥離された前記第1のシートの前記第1の面とは反対の第2の面を前記第1の貼り合せローラーのローラー面に接触させた状態で、前記剥離された第1のシートを、前記第1の貼り合せローラーの回転に応じて、前記第1の貼り合せローラーのローラー面に沿って前記貼り合せローラー対のニップ部に移動させ、
前記第2の貼り合せローラーは、送り込まれた前記第2のシートを、前記第2の貼り合せローラーの回転に応じて前記剥離された第1のシートの前記第1の面に重ね合せるように前記貼り合せローラー対の前記ニップ部に移動させ、
前記貼り合せローラー対は、前記ニップ部で重ね合された前記第1のシートおよび前記第2のシートに対して加熱することなく加圧することにより、前記重ね合された第1および第2のシートを貼り合せる
ことを特徴とする貼り合せ装置。
この貼り合せ装置によれば、積層体シートが第1の貼り合せローラーのローラー面に接触した状態で、加熱することなく、ベースシートを剥離するとともに剥離された第1のシートと、第2のシートと、を貼り合せることができる。これにより、第1の積層体シートからベースシートを剥離する際に、第1のシートにシワ等が発生するのを効果的に抑制するとともに高精度な貼り合せが可能である。
【0012】
[適用例5]
前記第1の貼り合せローラーは、前記第1のシートの第2の面を前記第1のローラー面に吸着させるサクションローラーである適用例4に記載の貼り合せ装置。
第1の貼り合せローラーをサクションローラーとすれば、第1のシートを第1の貼り合せローラーのローラー面に吸着させることができるので、第1の貼り合せローラーのローラー面上で、第1のシートを安定に保持することが可能であり、ベースシートの剥離時における第1のシートのシワ等の発生をより効果的に抑制するとともにより高精度な貼り合せが可能となる。
【0013】
[適用例6]
適用例4または適用例5に記載の貼り合せ装置であって、
前記第1のシートは電解質膜で構成される電解質膜シートであり、
前記第2のシートは、触媒電極層で構成される触媒電極層シートである
貼り合せ装置。
この貼り合せ装置によれば、ベースシートの剥離時における電解質膜のシワ等の発生を効果的に抑制するとともに高精度な貼り合せが可能となる。
【0014】
[適用例7]
請求項4または請求項5に記載の貼り合せ装置であって、
前記第1のシートは、電解質膜で構成される電解質膜シート上に第1の触媒電極層が形成された触媒電極層付電解質膜シートであり、
前記第2のシートは、第2の触媒電極層で構成される触媒電極層シートである
貼り合せ装置。
この貼り合せ装置によれば、ベースシートの剥離時における電解質膜のシワ等の発生をより効果的に抑制するとともにより高精度な貼り合せが可能となる。
【0015】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池用の膜電極接合体の製造装置および製造方法、貼り合せ装置および貼り合せ方法等の種々の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態としての膜電極接合体製造装置について示す模式図である。
【図2】第1の貼り合せ部を拡大して示す模式図である。
【図3】剥離構造と貼り合せ構造とを合せた第2の貼り合せ部について示す模式図である。
【図4】第1の貼り合せ部の構造を適用した拡散層接合部について示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.実施例:
図1は、本発明の一実施形態としての膜電極接合体製造装置について示す模式図である。この膜電極接合体製造装置100は、第1の貼り合せ部10と接合部20と第2の貼り合せ部30とを備えている。
【0018】
第1の貼り合せ部10は、剥離ローラー12と第1および第2の貼り合せローラー14a,14bとを備えている。剥離ローラー12は、第1のシート巻き出し部RO1から送り込まれた積層体シートW0から第1のベースシートS1を剥離するためのローラーである。第1および第2の貼り合せローラー14a,14bは、第1のベースシートS1が剥離された状態の第1のシートW1に、第2のシート巻き出し部RO2から送り込まれた第2のシートW2を貼り合せるための貼り合せローラー対を構成する。なお、第1のシート巻き出し部RO1は、ロール状に巻かれた積層体シートW0のロールがセットされることにより、積層体シートW0が巻き出される。また、第2のシート巻き出し部RO2は、ロール状に巻かれた第2のシートW2のロールがセットされることにより、第2のシートW2が巻き出される。
【0019】
積層体シートW0は、帯状の第1のベースシートS1上に、帯状の触媒電極層付電解質膜シートが第1のシートW1として形成されたシートである。触媒電極層付電解質膜は、帯状の電解質膜M1のシート上に第1の触媒電極層M2が形成された複層膜である。第1の触媒電極層M2は、複数の触媒電極層M2pが一定間隔で形成されている。第1のベースシートS1としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等のポリエステル系、ポリスチレン等の高分子フィルムが用いられている。電解質膜M1としては、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す固体高分子電解質材料が用いられている。固体高分子電解質材料としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸を備えるフッ素系樹脂(例えば、ナフィオン、デュポン社製)等を用いることができる。第1の触媒電極層M2としては、発電反応を促進するための触媒として、例えば、白金、あるいは、白金合金を担持したカーボン粒子と、電解質膜を構成する高分子電解質と同様の電解質と、を備えた触媒電極層材料を電解質膜M1上に塗工することにより形成することができる。
【0020】
第2のシートW2は、帯状の第2のベースシートS2上に第2の触媒電極層M3がシート状に形成された触媒電極層シートである。この第2のベースシートS2としては、例えば、PETやPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の高分子フィルムが用いられている。第2の触媒電極層M3としては、第1の触媒電極層M2と同様に、触媒電極層材料を第2のベースシートS2上に塗工することにより形成することができる。
【0021】
図2は、第1の貼り合せ部を拡大して示す模式図である。第1のシート巻き出し部RO1(図1参照)から第1の貼り合せ部10に送り込まれた第1のシートW1は、積層体シートS1が第1および第2の貼り合せローラー14a,14bのニップ部に至る前の位置において、第1の貼り合せローラー14aのローラー面に接触した状態で、剥離ローラー12によって第1のベースシートS1が巻き込まれて剥離される。剥離された第1のベースシートS1は、第1のベースシート巻き取り部RI1(図1参照)で巻き取られる。第1のベースシートS1が剥離された第1のシートW1は、第1の貼り合せローラー14aのローラー面に接触したまま、ローラー面に沿って第1および第2の貼り合せローラー14a,14bのニップ部で挟みこまれるように搬送される。一方、第2のシート巻き出し部RO2(図1参照)から第1の貼り合せ部10に送り込まれた第2のシートW2は、第2の貼り合せローラー14bによって、第1および第2の貼り合せローラー14a,14bのニップ部に挟み込まれるように搬送される。このとき、第2のシートW2は、第1および第2の貼り合せローラー14a,14bのニップ部で、第2のシートW2の第2の触媒電極層M3が第1のシートW1の電解質膜M1に接するように重ね合されるとともに、第2の貼り合せローラー14bによって加圧されて押さえられることにより剥離状態第1のシートW1pに密着するように貼り合される。
【0022】
ここで、第1の貼り合せローラー14aには、シートを吸気によりローラー面に吸着させて搬送するサクションローラーを用いることが好ましい。なお、吸気範囲は、通常、ローラー面に対するシートの接触範囲に対して、接触開始位置および接触終了位置よりも内側10〜15度の範囲となるように設定されている。サクションサクションローラーを用いれば、第1のシートW1である触媒電極層付電解質膜をローラー面に吸着させた状態で第1のベースシートS1を剥離し、触媒電極層付電解質膜のシートに第2のシートW2の第2の触媒電極層M3を貼り合せることができる。これにより、剥離や搬送によって電解質膜にタワミやシワが発生することを抑制することが可能である。なお、第1の貼り合せローラー14aのローラー面は、触媒電極層に接触することになるので、金属製のローラー面の場合には、接触による触媒電極層への影響を防止するための表面処理、例えば、クロムメッキ等を施すことが好ましい。
【0023】
また、サクションローラーのローラー面は、カーボン材等を焼結することにより形成された多孔質体で形成されることが好ましい。ローラー面に多孔質体を用いれば均一に吸着ことが可能となるので、複数の気孔が並ぶ通常の構造の場合に比べて、剥離や搬送によって電解質膜にタワミやシワが発生することをより効果的に抑制することが可能である。また、気孔の形状が搬送するシートに転写されてしまうことを防止することもできる。さらにまた、通常の構造で搬送速度が高速の場合には、ローラー面とシート間に巻き込んだ空気による空気層の影響によって、ローラー面上にシートを安定に保持することができなくなり、シートの蛇行を招く可能性がある。これに対して、多孔質体を用いた場合には、高速搬送での安定な保持が可能である。また、ローラー面に接触する第1の触媒電極層M2は、上記したように、複数の触媒電極層M2pが一定の間隔で形成されているので、複数の触媒電極層間に空気層が形成されるため、通常の構造の場合には保持力が弱くなり、同様に、安定な保持ができなくなり、シートの蛇行を招く可能性がある。これに対して、多孔質体を用いた場合には、保持力を高めることが可能であり、安定な保持が可能となる。
【0024】
図1に示すように、第1の貼り合せ部10で剥離状態第1のシートW1pおよび第2のシートW2が貼り合された状態の第3のシートW3は、第1の貼り合せ部10から接合部20へ送り出される。
【0025】
接合部20は、接合ローラー対を構成する第1および第2の加熱ローラー22a,22bと、搬送ローラー24と、剥離ローラー26と、を備えている。第1の貼り合せ部10から送り込まれた第3のシートW3は、第1の加熱ローラー22aに接触して第1の触媒電極層M2側から加熱されるとともに、第1および第2の加熱ローラー22a,22bのニップ部で挟み込まれるように搬送される。第1および第2の加熱ローラー22a,22bで挟み込まれた第3のシートW3は、第2の加熱ローラー22bで第2の触媒電極層M3側からも加熱されるとともに加圧されることによって、第2の触媒電極層M3が電解質膜M1に熱圧着されて接合される。そして、第1のシートW1および第2のシートW2が熱圧着された第4のシートW4は、搬送ローラー24に接触して第2の貼り合せ部30へ向けて送り出される際に、第2のベースシートS2が剥離ローラー26で剥離される。剥離された第2のベースシートS2は、第2のベースシート巻き取り部RI2で巻き取られる。これにより、第2の触媒電極層M3が電解質膜M1に転写されて、電解質膜M1に第1および第2の触媒電極層M2,M3が接合された膜電極接合体である第5のシートW5が形成され、搬送ローラー24によって第2の貼り合せ部30へ送り出される。
【0026】
第2の貼り合せ部30は、貼り合せローラー対を構成する第3および第4の貼り合せローラー32a,34aを備えている。接合部20から送り込まれた膜電極接合体のシートである第5のシートW5は、第3の貼り合せローラー32aによって、第3および第4の貼り合せローラー32a,32bのニップで挟み込まれるように搬送される。また、第3のシート巻き出し部RO3から第2の貼り合せ部30に送り込まれたキャリアシートS4は、第4の貼り合せローラー32bによって、第3および第4の貼り合せローラー32a,32bのニップ部で挟み込まれるように搬送される。このとき、キャリアシートS4は、第5のシートW5に重ね合されるとともに、第4の貼り合せローラー32bによって加圧されて押さえられることにより第5のシートW5に密着するように貼り合される。第5のシートW5にキャリアシートS4が貼り合された状態の第6のシートW6は、シート巻き取り部RI3で巻き取られる。第5のシートW5にキャリアシート(「合紙」とも呼ばれる)S4を貼り合せるのは、第5のシートW5がシート巻き取り部RI3でロール状に巻き取られる場合に、第1の触媒電極層M2と第2の触媒電極層M3とが重ね合されて付着するのを防止するためである。なお、このキャリアシートS4としては、例えば、PETやPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の高分子フィルムが用いられている。第3のシート巻き出し部RO3は、ロール状に巻かれたキャリアシートS4のロールがセットされることにより、キャリアシートS4が巻き出される。
【0027】
以上説明した膜電極接合体製造装置100では、第1の貼り合せ部10において、第1のベースシートS1が付着した状態の触媒電極層付電解質膜(第1のシートW1)を第1の貼り合せローラー14aへの接触を維持した状態でした状態で、触媒電極層付電解質膜を加熱することなく、剥離ローラー12によって第1のベースシートS1を剥離するため、電解質膜の熱収縮や電解質膜のシワの発生による変形を抑制することができる。また、第1および第2の貼り合せローラー14a,14bで、加熱することなく、触媒電極層付電解質膜(第1のシートW1)に、第2のベースシートS2が付着した状態の第2の触媒電極層M2(第2のシートW2)を貼り合せた状態で、接合部20の第1および第2の加熱ローラー22a,22bへ搬送し、第1および第2の加熱ローラー22a,22bによって加熱および加圧されるので、接合された電解質膜と第2の触媒電極層との間の熱収縮量の差を抑制して、電解質膜と第2の触媒電極層との間の歪みを抑制することができ、電解質膜のシワの発生や膜電極接合体の反りの発生を抑制することが可能である。
【0028】
なお、第1の貼り合せ部10の構造は、図1の接合部20の搬送ローラー24および剥離ローラー26による第2のベースシートS2を剥離する構造を省略し、第2の貼り合せ部30の第3および第4の貼り合せローラー32a,34bによるキャリアシートS4を貼り合せる構造に、省略した剥離構造を合せた構造として適用することが可能である。
【0029】
図3は、剥離構造と貼り合せ構造とを合せた第2の貼り合せ部について示す模式図である。この第2の貼り合せ部30Aは、図1の第1および第2の貼り合せローラー14a、14bに対応する第3および第4の貼り合せローラー32a,32bと、剥離ローラー34と、を備えている。第2の貼り合せ部30Aでは、送り込まれた第4のシートW4が第3の貼り合せローラー32aに接触した状態で、剥離ローラー34によって第2のベースシートS2が剥離される。剥離された第2のベースシートS2は、第2のベースシート巻き取り部RI2で巻き取られる。第2のベースシートS2が剥離された第5のシートW5は、第3の貼り合せローラー32aに接触したまま、ローラー面に沿って第3および第4の貼り合せローラー32a,32bのニップ部で挟み込まれるように搬送される。また、第3のシート巻き出し部RO3から第2の貼り合せ部30に送り込まれたキャリアシートS4は、第4の貼り合せローラー32bによって、第3および第4の貼り合せローラー32a,32bのニップ部で挟み込まれるように搬送される。このとき、キャリアシートS4は、第5のシートW5に重ね合されるとともに、第4の貼り合せローラー32bによって加圧されて押さえられることにより第5のシートW5に密着するように貼り合される。第5のシートW5にキャリアシートS4が貼り合された状態の第6のシートW6は、シート巻き取り部RI3で巻き取られる。
【0030】
また、第1の貼り合せ部10の構造は、帯状の膜電極接合体のシートに拡散層を接合する場合に、キャリアシートS4が貼り合された状態の膜電極接合体のシート(第6のシートW6)に拡散層を貼り合せる構造として適用することが可能である。
【0031】
図4は、第1の貼り合せ部の構造を適用した拡散層接合部について示す模式図である。この拡散層接合部は、拡散層貼り合せ部40とホットプレス機50とを備えている。
【0032】
拡散層貼り合せ部40は、剥離ローラー42と、図1の第1および第2の貼り合せローラー14a,14bに対応する第5および第6の貼り合せローラー44a,44bと、を備えている。この拡散層貼り合せ部40では、第4のシート巻き出し部RO4から送り込まれた第6のシートW6が第5の貼り合せローラー44aに接触した状態で、剥離ローラー42によってキャリアシートS4が剥離される。なお、第4のシート巻き出し部RO4は、シート巻き取り部RI3でロール状に巻き取られた第6のシートW6のロールがセットされることにより、第6のシートW6が巻き出される。
【0033】
剥離されたキャリアシートS4は、キャリアシート巻き取り部RI4で巻き取られる。キャリアシートS4が剥離された第5のシートW5は、第5の貼り合せローラー44aに接触したまま、ローラー面に沿って第5および第6の貼り合せローラー44a,44bのニップ部で挟み込まれるように搬送される。また、第5のシート巻き出し部RO5から拡散層貼り合せ部40に送り込まれた拡散層M5は、第6の貼り合せローラー44bによって、第5および第6の貼り合せローラー44a,44bのニップ部で挟み込まれるように搬送される。このとき拡散層M5は、第5のシートW5に重ね合されるとともに、第6の貼り合せローラー44bによって加圧されて押さえられることにより第5のシートW5に密着するように貼り合される。第5のシートW5に拡散層M5が貼り合された状態の第7のシートW7は、ホットプレス機50に送り出される。なお、第5のシート巻き出し部RO5は、ロール状に巻かれた拡散層M5のロールがセットされることにより、拡散層M5が巻き出される。
【0034】
ホットプレス機50は、拡散層貼り合せ部40から送り込まれる第5のシートW5に拡散層M5が貼り合された状態の第7のシートW7を順次加熱および加圧して、第2の触媒電極層M3に拡散層M5を熱圧着することにより、第2の触媒電極層M3に拡散層M5を接合させた膜電極拡散層接合体である第8のシートW8を作製する。作製した第8のシートW8は、図示しない裁断装置で、適宜裁断されて所定寸法の膜電極拡散層接合体が作製される。
【0035】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0036】
上記実施例の膜電極接合体製造装置100では、電解質膜上に触媒電極層を塗工して、触媒電極層が形成された電解質膜(触媒電極層付電解質膜)を用いた場合を例に説明しているが、この触媒電極層付電解質膜を作製する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
10…第1の貼り合せ部
12…剥離ローラー
14a…第1の貼り合せローラー
14b…第2の貼り合せローラー
20…接合部
22a…第1の加熱ローラー
22b…第2の加熱ローラー
24…搬送ローラー
26…剥離ローラー
30…第2の貼り合せ部
30A…第2の貼り合せ部
32a…第3の貼り合せローラー
32b…第4の貼り合せローラー
34…剥離ローラー
40…拡散層貼り合せ部
42…剥離ローラー
44a…第5の貼り合せローラー
44b…第6の貼り合せローラー
50…ホットプレス機
100…膜電極接合体製造装置
R1…第1のシート巻き出し部
W1…第1のシート
S1…第1のベースシート
M1…電解質膜
R2…第2のシート巻き出し部
W2…第2のシート
M2…第1の触媒電極層
S2…第2のベースシート
M3…第2の触媒電極層
R3…第1のベースシート巻き取り部
W3…第3のシート
R4…第2のベースシート巻き取り部
S4…キャリアシート
W4…第4のシート
W5…第5のシート
R5…第3のシート巻き出し部
M5…拡散層
W6…第6のシート
RI3…シート巻き取り部
W7…第7のシート
R7…第4のシート巻き出し部
W8…第8のシート
RI4…キャリアシート巻き取り部
R9…第5のシート巻き出し部
M2p…触媒電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜電極接合体の製造装置であって、
ベースシート上に電解質膜シートが形成された帯状の積層体シートおよび帯状の触媒電極層シートが送り込まれ、送り込まれた前記積層体シートの前記電解質膜シートと前記触媒電極層シートとを貼り合せる貼り合せ部と、
貼り合された前記電解質膜シートおよび前記触媒電極層シートに対して加熱および加圧することにより、前記貼り合された電解質膜シートおよび触媒電極層シートを接合する接合部と、を備え、
前記貼り合せ部は、
前記積層体シートから前記ベースシートを剥離するための剥離ローラーと、
前記ベースシートが剥離された電解質膜シートの第1の面に前記触媒電極層シートを貼り合せるための貼り合せローラー対を構成する第1および第2の貼り合せローラーと、
を備え、
前記剥離ローラーは、前記積層体シートが前記貼り合せローラー対のニップ部に至る前の位置において前記積層体シートが前記第1の貼り合せローラーのローラー面に接触した状態で、前記剥離ローラーのローラー面に沿って前記ベースシートを巻き込んで前記ベースシートを剥離させ、
前記第1の貼り合せローラーは、剥離された前記電解質膜シートの前記第1の面とは反対の第2の面を前記第1の貼り合せローラーのローラー面に接触させた状態で、前記剥離された電解質膜シートを、前記第1の貼り合せローラーの回転に応じて、前記第1の貼り合せローラーのローラー面に沿って前記貼り合せローラー対の前記ニップ部に移動させ、
前記第2の貼り合せローラーは、送り込まれた前記触媒電極層シートを、前記第2の貼り合せローラーの回転に応じて前記剥離された電解質膜シートの前記第1の面に重ね合せるように前記貼り合せローラー対の前記ニップ部に移動させ、
前記貼り合せローラー対は、前記ニップ部で重ね合された前記電解質膜シートおよび前記触媒電極層シートに対して加熱することなく加圧することにより、前記重ね合された電解質膜シートおよび触媒電極層シートを貼り合せる
ことを特徴とする膜電極接合体の製造装置。
【請求項2】
前記第1の貼り合せローラーは、前記電解質膜シートの第2の面を前記第1のローラー面に吸着させるサクションローラーである請求項1に記載の膜電極接合体の製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の膜電極接合体の製造装置であって、
前記貼り合せ部に送り込まれる前記積層体シートの電解質膜シートは、前記電解質膜シートの前記第2の面に第1の触媒電極層が形成された触媒電極層付電解質膜シートであり、
前記貼り合せ部に送り込まれる触媒電極層シートは、前記電解質膜シートの前記第1の面に貼り合される第2の触媒電極層が形成されている
膜電極接合体の製造装置。
【請求項4】
ベースシート上に第1のシートが形成された帯状の積層体シートおよび第2のシートを貼り合せて搬送する貼り合せ装置であって、
前記積層体シートから前記ベースシートを剥離するための剥離ローラーと、
前記ベースシートが剥離された第1のシートの第1の面に前記第2のシートを貼り合せるための貼り合せローラー対を構成する第1および第2の貼り合せローラーと、
を備え、
前記剥離ローラーは、前記積層体シートが前記貼り合せローラー対のニップ部に至る前の位置において前記積層体シートが前記第1の貼り合せローラーのローラー面に接触した状態で、前記剥離ローラーのローラー面に沿って前記ベースシートを巻き込んで前記ベースシートを剥離させ、
前記第1の貼り合せローラーは、剥離された前記第1のシートの前記第1の面とは反対の第2の面を前記第1の貼り合せローラーのローラー面に接触させた状態で、前記剥離された第1のシートを、前記第1の貼り合せローラーの回転に応じて、前記第1の貼り合せローラーのローラー面に沿って前記貼り合せローラー対のニップ部に移動させ、
前記第2の貼り合せローラーは、送り込まれた前記第2のシートを、前記第2の貼り合せローラーの回転に応じて前記剥離された第1のシートの前記第1の面に重ね合せるように前記貼り合せローラー対の前記ニップ部に移動させ、
前記貼り合せローラー対は、前記ニップ部で重ね合された前記第1のシートおよび前記第2のシートに対して加熱することなく加圧することにより、前記重ね合された第1および第2のシートを貼り合せる
ことを特徴とする貼り合せ装置。
【請求項5】
前記第1の貼り合せローラーは、前記第1のシートの第2の面を前記第1のローラー面に吸着させるサクションローラーである請求項4に記載の貼り合せ装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の貼り合せ装置であって、
前記第1のシートは電解質膜で構成される電解質膜シートであり、
前記第2のシートは、触媒電極層で構成される触媒電極層シートである
貼り合せ装置。
【請求項7】
請求項4または請求項5に記載の貼り合せ装置であって、
前記第1のシートは、電解質膜で構成される電解質膜シート上に第1の触媒電極層が形成された触媒電極層付電解質膜シートであり、
前記第2のシートは、第2の触媒電極層で構成される触媒電極層シートである
貼り合せ装置。
【請求項8】
膜電極接合体の製造方法であって、
ベースシート上に電解質膜シートが形成された帯状の積層体シートから前記ベースシートを剥離するための剥離ローラーと、前記ベースシートが剥離された電解質膜シートの第1の面に帯状の触媒層電極シートを貼り合せるための貼り合せローラー対を構成する第1および第2の貼り合せローラーと、を有し、前記積層体シートの前記電解質膜シートと前記触媒電極層シートとを貼り合せる貼り合せ部と、
貼り合された前記電解質膜シートおよび前記触媒電極層シートに対して加熱および加圧することにより、前記貼り合された電解質膜シートおよび触媒電極層シートを接合する接合部と、
を備え、
前記貼り合せ部において、
送り込まれた前記積層体シートが前記貼り合せローラー対のニップ部に至る前の位置において前記積層体シートが前記第1の貼り合せローラーのローラー面に接触した状態で、前記剥離ローラーのローラー面に沿って前記ベースシートを巻き込んで前記ベースシートを剥離させ、
剥離された前記電解質膜シートの前記第1の面とは反対の第2の面を前記第1の貼り合せローラーのローラー面に接触させた状態で、前記剥離された電解質膜シートを、前記第1の貼り合せローラーの回転に応じて、前記第1の貼り合せローラーのローラー面に沿って前記貼り合せローラー対の前記ニップ部に移動させ、
送り込まれた前記触媒電極層シートを、前記第2の貼り合せローラーの回転に応じて前記剥離された電解質膜シートの前記第1の面に重ね合せるように前記貼り合せローラー対の前記ニップ部に移動させ、
前記貼り合せローラー対の前記ニップ部で重ね合された前記電解質膜シートおよび前記触媒電極層シートに対して加熱することなく加圧することにより、前記重ね合された電解質膜シートおよび触媒電極層シートを貼り合せる
ことを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【請求項9】
ベースシート上に第1のシートが形成された帯状の積層体シートおよび第2のシートを貼り合せて搬送する貼り合せ方法であって、
前記積層体シートから前記ベースシートを剥離するための剥離ローラーと、
前記ベースシートが剥離された第1のシートの第1の面に前記第2のシートを貼り合せるための貼り合せローラー対を構成する第1および第2の貼り合せローラーと、
を備え、
前記積層体シートが前記貼り合せローラー対のニップ部に至る前の位置において前記積層体シートが前記第1の貼り合せローラーのローラー面に接触した状態で、前記剥離ローラーのローラー面に沿って前記ベースシートを巻き込んで前記ベースシートを剥離させ、
剥離された前記第1のシートの前記第1の面とは反対の第2の面を前記第1の貼り合せローラーのローラー面に接触させた状態で、前記剥離された第1のシートを、前記第1の貼り合せローラーの回転に応じて、前記第1の貼り合せローラーのローラー面に沿って前記貼り合せローラー対のニップ部に移動させ、
送り込まれた前記第2のシートを、前記第2の貼り合せローラーの回転に応じて前記剥離された第1のシートの前記第1の面に重ね合せるように前記貼り合せローラー対の前記ニップ部に移動させ、
前記ニップ部で重ね合された前記第1のシートおよび前記第2のシートに対して加熱することなく加圧することにより、前記重ね合された第1および第2のシートを貼り合せる
ことを特徴とする貼り合せ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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