説明

膜電極接合体及びその製造方法

【課題】膜電極接合体に関し、触媒層の埋設箇所に存在する反応サイトを有効に活用可能なMEA及びその製造方法を提供する。
【解決手段】カソード触媒層16を構成するカーボン粒子161の外表面には、触媒粒子162を被覆するようにアイオノマー163が設けられている。また、カソード触媒層16の電解質膜12側の一部は、スキン層15に埋設されている(埋設箇所(A))。スキン層15は、プロトン伝導性と高酸素透過性とを有する材料から構成される。そのため、埋設箇所(A)に存在する触媒粒子162の近傍に、スキン層15を経由した酸素の供給が可能となる。従って、触媒粒子162を有効に使い切ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、膜電極接合体及びその製造方法に関し、より詳細には、固体高分子形燃料電池に用いられる膜電極接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、触媒や含フッ素イオン交換樹脂の他に、脂肪族環構造を有するパーフルオロカーボンに基づく繰り返し単位を有する重合体や、ポリシロキサン化合物を含む触媒層を備える燃料電池が開示されている。上記重合体やポリシロキサン化合物は、高い酸素透過性を有する。従って、これらを含む触媒層を、カソード触媒層として適用した燃料電池は、カソード触媒層内の反応サイト近傍の酸素濃度を増加して電気化学反応を促進できるので、出力特性の向上が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−252001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、固体高分子形燃料電池においては、一般に、供給ガスのクロスオーバーの抑制を目的として、電解質膜には、ガス透過性の低い(ガス遮断性の高い)高分子材料が用いられる。また、一般に、プロトン伝導性の向上等を目的として、触媒層には、含フッ素イオン交換樹脂を代表とするアイオノマーが、触媒層の表面を被覆するように設けられる。更に、一般に、電解質膜と触媒層とは、熱圧着により接合されるため、これら境界部分においては、電解質膜側に触媒層の表面の一部が埋設したような構造をとる。
【0005】
これらを前提とした場合、上記特許文献1の触媒層と、ガス透過性の低い電解質膜とで膜電極接合体(以下、「MEA」ともいう。)を構成した場合、触媒層を被覆する上記アイオノマーは、電解質膜側に埋設されることになる。そのため、この埋設箇所に着目した場合、ガス透過性の低い高分子材料に、上記アイオノマーが覆われることになる。従って、この埋設箇所においては、アイオノマー近傍に存在する反応サイトまで、供給ガスが到達できない可能性が高い。供給ガスが到達できなければ、上記重合体やポリシロキサン化合物が存在したとしても、これらを活用できないことになる。従って、埋設箇所に存在する反応サイトの有効利用に関しては、依然として改良の余地があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、触媒層の埋設箇所に存在する反応サイトを有効に活用可能なMEA及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、MEAであって、
第1のプロトン伝導性材料からなる電解質膜と、
前記電解質膜の表面に形成され、前記第1のプロトン伝導性材料よりもガス透過性の高い第2のプロトン伝導性材料からなる薄膜層と、
前記薄膜層の形成面と対向して配置され、前記第1のプロトン伝導性材料よりもガス透過性の高い第3のプロトン伝導性材料により表面が被覆された触媒層と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記第2のプロトン伝導性材料のガス拡散係数が、前記第1のプロトン伝導性材料のガス拡散係数の3倍以上であることが好ましい。
【0009】
また、第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記第2のプロトン伝導性材料のガス拡散係数が、前記第3のプロトン伝導性材料のガス拡散係数以上であることが好ましい。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃至第3何れか1つの発明において、
前記薄膜層の厚みが、前記電解質膜の厚みの1/5以下であることが好ましい。
【0011】
また、第5の発明は、第1乃至第4何れか1つの発明において、
前記第2のプロトン伝導性材料のプロトン伝導度が、前記第1のプロトン伝導性材料のプロトン伝導度の1/2以上であることが好ましい。
【0012】
第6の発明は、上記の目的を達成するため、MEAの製造方法であって、
第1のプロトン伝導性材料からなる電解質膜の表面に、前記第1のプロトン伝導性材料よりもガス透過性の高い第2のプロトン伝導性材料からなる薄膜層を形成させる工程と、
前記第1のプロトン伝導性材料よりもガス透過性の高い第3のプロトン伝導性材料により被覆された触媒層の表面と、前記薄膜層の形成面とを対向させて熱圧着する工程と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1〜第6の発明によれば、触媒層の埋設箇所に存在する反応サイトを有効に活用可能なMEA及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態のMEAが設けられた燃料電池の断面構成の模式図である。
【図2】図1のスキン層近傍の一部の拡大模式図である。
【図3】図2の比較としてスキン層を設けない場合のカソード触媒層の近傍の一部の拡大模式図である。
【図4】実施例1及び比較例1のMEAの放電評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(MEAの構成)
図1は、本実施形態のMEA10が設けられた燃料電池の断面構成の模式図である。図1に示すように、電解質膜12の片側には、アノード触媒層14が設けられている。アノード触媒層14と反対側には、スキン層15を介してカソード触媒層16が設けられている。アノード触媒層14の外側には、ガス拡散層18、セパレータ20が順に設けられている。同様に、カソード触媒層16の外側には、ガス拡散層22、セパレータ24が順に設けられている。電解質膜12と、アノード触媒層14と、スキン層15と、カソード触媒層16とからMEA10が構成される。MEA10と、ガス拡散層18,22とからMEGA26が構成される。
【0016】
電解質膜12は、プロトンをアノード触媒層14からカソード触媒層16へ伝導する役割をもつプロトン交換膜である。電解質膜12は、一般に、側鎖にリン酸基、スルホン酸基やホスホン酸基といった酸性官能基を有する炭化水素系又はフッ素系の高分子電解質から構成される。
【0017】
炭化水素系又はフッ素系の高分子としては、(i)主鎖が脂肪族炭化水素からなる炭化水素系高分子、(ii)主鎖が脂肪族炭化水素からなり、主鎖の一部又は全部の水素原子がフッ素原子で置換された高分子や、(iii)主鎖が芳香環を有する高分子等が挙げられる。また、高分子電解質としては、酸性基を有する高分子電解質、塩基性基を有する高分子電解質のいずれも用いることができる。このうち、酸性基を有する高分子電解質を用いると、発電性能に優れた燃料電池が得られる傾向にあるため好ましい。酸性基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基などが挙げられる。このうち、スルホン酸基又はホスホン酸基が好ましく、スルホン酸基が特に好ましい。
【0018】
このような電解質膜12に用いられる高分子電解質の一例としては、NAFION(デュポン社、登録商標)、FLEMION(旭硝子(株)、登録商標)、ACIPLEX(旭化成ケミカルズ(株)、登録商標)等が挙げられる。
【0019】
アノード触媒層14、カソード触媒層16は、燃料電池における電極として機能する層である。アノード触媒層14、カソード触媒層16の両方には、カーボン粒子に担持された触媒が設けられている。また、これらアノード触媒層14、カソード触媒層16には、上記触媒を被覆するようにアイオノマーが設けられている。
【0020】
スキン層15は、プロトン伝導性と高酸素透過性とを有する材料から構成される。具体的には、高酸素透過性を備える高分子電解質や、高酸素透過性を有する化合物と、高分子電解質との混合物から構成される。
【0021】
酸素透過性を備える高分子電解質としては、上述した炭化水素系又はフッ素系の高分子電解質の構造中に、脂肪族環状構造を有する繰り返し単位を導入したものや、上述した炭化水素系又はフッ素系の高分子電解質の側鎖に、ケイ素に炭化水素が結合した化合物を導入したものや、上述した炭化水素系又はフッ素系の高分子電解質の分子鎖間を、ケイ素に炭化水素が結合した構造で架橋したものが挙げられる。例えば、特開2003−36856号公報、特開2004−164857号公報に記載された高分子材料が該当する。
【0022】
また、酸素透過性を有する化合物と、高分子電解質との混合物としては、上述した炭化水素系又はフッ素系の高分子電解質にフッ素系エーテル化合物を加えたものが挙げられる。例えば、特開平11−354129号公報に記載された高分子材料が該当する。尚、これらの材料を使用したスキン層15の近傍の詳細については後述する。
【0023】
ガス拡散層18,22は、反応ガスや水をその厚み方向に通過可能にする無数の孔を有する多孔質カーボンから構成される。ガス拡散層18,22は、アノード触媒層14、カソード触媒層16に反応ガスを均一に拡散させると共に、MEA10の乾燥を抑制する能を有する。ガス拡散層18,22としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の炭素系多孔体、ポリイミドを炭化したもの、カーボンブラックとフッ素樹脂との混合物やカーボン不織布にフッ素をコートしたもの等が使用できる。
【0024】
セパレータ20,24は、電子伝導性を有する材料から構成されている。セパレータ20,24に使用できるこのような材料としては、例えば、カーボン、樹脂モールドカーボン、チタン、ステンレス等が挙げられる。セパレータ20のガス拡散層18側の表面には、燃料ガスとしての水素を流通させるための燃料ガス流路が形成されている。同様に、セパレータ24のガス拡散層22側の表面には、酸化剤ガスとしての空気(酸素)を流通させるための酸化剤ガス流路が形成されている。
【0025】
図1においては、上記のように構成されたMEGA26とその両側に配置された一対のセパレータ20,24を1組のみ図示したが、実際の燃料電池は、MEGA26がセパレータ20,24を介して複数積層されたスタック構造を有している。
【0026】
図2は、図1の燃料電池のスキン層15近傍の一部の拡大模式図である。図2に示すように、スキン層15の両側には、電解質膜12とカソード触媒層16とが設けられている。また、図2に(A)として示すように、カソード触媒層16の一部は、スキン層15に埋設されている。これは、電極形成時においては、アノード触媒層14側から運搬されてくるプロトンの移動性低下の防止を目的として、圧着されているからである。
【0027】
スキン層15に一部埋設したカソード触媒層16の詳細な構成について説明する。図2に示すように、カソード触媒層16は、多孔質のカーボン粒子161を含んでいる。カーボン粒子161としては、カーボンブラックが最も一般的であるが、その他にも黒鉛、炭素繊維、活性炭等やこれらの粉砕物、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素化合物等が使用できる。
【0028】
また、図2に示すように、カーボン粒子161の外表面には、触媒粒子162が設けられている。触媒粒子162としては、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、又はそれらの合金等が挙げられる。好ましくは、白金、及び白金と例えばルテニウムなど他の金属とからなる合金である。
【0029】
また、図2に示すように、カーボン粒子161の外表面には、触媒粒子162を被覆するようにアイオノマー163が設けられている。アイオノマー163は、触媒粒子162やカーボン粒子161の表面上に、数ナノから十数ナノメートルの薄い層を形成している。アイオノマー163としては、プロトン伝導性及び酸素透過性を有する高分子材料であって、例えば電解質膜12として挙げた炭化水素系又はフッ素系の高分子電解質が用いられる。
【0030】
カソード触媒層16においては、上述した触媒粒子162近傍の反応サイトにおいて、プロトンと、空気中の酸素とから水を生成する反応が起こる(4H+O+4e→2HO)。この反応に供されるプロトンは、アノード触媒層14側から運搬されてきたものである。一方、酸素は、図1のガス拡散層22側から流入してきたものであり、アイオノマー163の構造中を透過してきたものと考えられている。
【0031】
ところで、燃料電池の各種特性の改良に対しては様々なアプローチがなされているところではあるが、発電効率を上げるためには、効率よく触媒を利用すること、即ち触媒利用率を向上させることが不可欠であるとされている。特に、触媒使用量を低減させる際には、低触媒化により上記反応サイトの面積自体が減少することになるので、より一層、触媒利用率を向上させることが必要となる。
【0032】
触媒利用率の向上に当たっては、アイオノマー163や電解質膜12に用いる高分子材料の選択が重要である。先ず、アイオノマー163には、高プロトン伝導性と高酸素透過性を有する高分子材料が用いられる。高プロトン伝導性と高酸素透過性を有する高分子材料を用いることで、カソード触媒層16に存在する反応サイトに、より多くの反応物質を供給することができる。また、電解質膜12には、高プロトン伝導性と高ガス遮断性を有する高分子材料が用いられる。これは、電解質膜12にガス遮断性の低い材料を用いると、透過ガスの反応による触媒被毒等を防止して、触媒利用率の低下を抑制できるからである。また、透過ガスが多くなり燃費が著しく悪化することをも抑制できる。
【0033】
ここで、アイオノマー163と電解質膜12の酸素透過性に着目した場合、アイオノマー163には高酸素透過性を有する高分子材料が、電解質膜12には低酸素透過性を有する高分子材料が、それぞれ用いられることになる。しかしながら、上述した電解質膜12やカソード触媒層16を直接接合した場合には、却って触媒利用率の低下が生じる可能性がある。
【0034】
この触媒利用率の低下に関して、図3を用いて説明する。図3は、電解質膜とカソード触媒層とを圧着した場合のカソード触媒層の近傍の一部の拡大模式図を示す。尚、説明の都合上、図3においては、図2に用いた符号とは異なるものを用いるが、電解質膜やカソード触媒層の構成は図2と同一である。
【0035】
図3に(A)´として示すように、電解質膜とカソード触媒層とを圧着した場合、カソード触媒層30の一部は、数百ナノメートル電解質膜28側に埋設されることになる。そのため、この埋設箇所(A)´に存在するアイオノマー303は、周囲を高ガス遮断性の電解質膜によって覆われることになる。従って、この埋設箇所(A)´においては、供給された酸素は、数ナノから十数ナノメートルのアイオノマー303の層内を移動しなければ触媒粒子302近傍に到達できないことになる。
【0036】
埋設箇所(A)´は電解質膜12に近いので、プロトン供給としては有利な部分である。しかしながら、上述した理由により、直接接合した場合は、酸素が最も拡散し難い部分となってしまうことになる。仮に、アイオノマー303の層厚を増加させれば、酸素の移動性を向上できる可能性はある。アイオノマー303には、高酸素透過性の高分子材料が用いられているためである。しかしながら、層厚を増加させれば排水性が低下する場合があり、また、カソード触媒層30の構造上、設けられるアイオノマー303の層厚の限界もある。従って、酸素の十分な移動性を確保できるとは言い難い。
【0037】
そこで、本実施の形態では、電解質膜12とカソード触媒層16との間に、高酸素透過性のスキン層15を設けることで、電解質膜12側に近い触媒粒子162の触媒利用率を向上させることとしている。図3の埋設箇所(A)´同様、図2の埋設箇所(A)においては、カソード触媒層16の一部がスキン層15に数百ナノメートル埋設される。しかしながら、この埋設箇所(A)に存在するアイオノマー163は、周囲を高酸素透過性の電解質膜によって覆われることになる。よって、高酸素透過性の電解質膜を経由した酸素の供給が可能となるので、触媒利用率を向上できる。
【0038】
スキン層15のMEA積層方向の層厚は、図2の埋設箇所(A)の触媒利用率を向上するのに十分であれば良い。ただし、カソード触媒層16の一部は、スキン層15に数百ナノメートル埋設されるので、スキン層15の積層方向の層厚は、それよりも大きければ良く、数マイクロメートル程度でも良い。また、電解質膜12の膜厚に占める割合が多くなりすぎると、電解質膜12全体の透過ガスが増え、燃費悪化等の不具合が生じる。そのため、スキン層15の層厚は、電解質膜12の膜厚に対して1/5以下に抑えるのが好ましい。
【0039】
また、スキン層15の具体的な高酸素透過性としては、電解質膜12の酸素透過係数以上であることが好ましい。より好ましくは、3倍以上であることが好ましい。電解質膜12の酸素透過係数以上であれば、埋設箇所(A)にアイオノマー163同様の酸素供給が期待でき、3倍以上の場合には、確実に酸素を供給できることになるので好ましい。より具体的には、電解質膜12にデュポン製のナフィオン溶液(EW1000)のキャスト膜であれば、相対湿度30%の条件下、酸素透過係数は10×10−12(mol/cm/sec)であるので、スキン層15の酸素透過係数はそれ以上が好ましく、30×10−12(mol/cm/sec)であることがより好ましい。
【0040】
また、スキン層15の具体的なプロトン伝導度としては、電解質膜12のプロトン伝導度の1/2以上であることが好ましい。上述したように、スキン層15の層厚は薄いので電解質膜12のプロトン伝導度以下でも過電圧増加になり難い。しかしながら、極端にプロトン伝導度が低いと性能低下の原因になるため、少なくとも1/2あることが好ましい。より好ましくは、電解質膜12のプロトン伝導度以上である。電解質膜12のプロトン伝導度以上であれば、スキン層15による性能低下の要因を排除できる。より具体的には、電解質膜12がデュポン製のナフィオン溶液(EW1000)のキャスト膜であれば、相対湿度30%の条件下、プロトン伝導度は2×10−2(S/cm)であるので、スキン層15のプロトン伝導度は、1×10−2(S/cm)以上が好ましく、2×10−2(S/cm)であることがより好ましい。
【0041】
(MEAの製造方法)
次に、本実施形態のMEA10の製造方法について説明する。先ず、別途作製した電解質膜12の表面に、所望の層厚のスキン層15を形成させる。具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)やジメチルスルホオキシド(DMSO)といった適当な溶剤にスキン層15用の高分子材料を溶解させて塗布液を調製する。続いて、予め用意しておいた電解質膜12の表面に、スピンコート法、スクリーン印刷法、スプレー法、ドクターブレード法、グラビア印刷法、ダイコート法等を用いて塗布し、その後溶剤を除去する。尚、電解質膜12及びスキン層15に用いる好ましい高分子材料及びその特性については既に上述したとおりである。
【0042】
続いて、アノード触媒層14、カソード触媒層16を作製する。先ず、触媒粒子162を担持するためのカーボン粒子161を用意する。次に、このカーボン粒子161に、触媒金属を溶液中で担持させる。触媒金属を担持させる方法としては、担持用カーボン粒子を、触媒金属を含む化合物の溶液中に分散させて、含浸法や共沈法、あるいはイオン交換法を行う方法が挙げられる。その後、溶媒を乾燥・焼成することにより触媒粒子162を分散担持するカーボン粒子161が得られる。
【0043】
例えば、触媒粒子162に白金を用いる場合、触媒金属を含む化合物の溶液としては、テトラアミン白金塩溶液やジニトロジアンミン白金溶液、白金硝酸塩溶液、塩化白金酸溶液などを用いることができる。そして、例えば、含浸法による場合では、カーボン粒子を、上記白金塩溶液中に分散させた後に、溶媒を蒸発させて乾燥し、還元処理する。これにより、カーボン粒子に白金粒子を担持させることができる。
【0044】
続いて、触媒粒子162を分散担持するカーボン粒子161を適当な水及び溶剤中に分散させるとともに、上述したアイオノマー163を含む溶液を更に混合する。これにより、触媒インクが作製できる。尚、アイオノマー163の混合方法は特に限定されず、公知の撹拌手法を用いることができる。続いて、触媒インクをポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)といった基材上に塗布し、その後乾燥させる。これにより、アノード触媒層14、カソード触媒層16がそれぞれ作製できる。
【0045】
続いて、アノード触媒層14及びカソード触媒層16を電解質膜12の両面に熱圧着スする。具体的には、カソード触媒層16を構成する高分子材料のガラス転移点よりも高い温度に触媒層側を加温しながら、スキン層15と接合する。アノード触媒層14側についても同様に、アノード触媒層14を構成する高分子材料のガラス転移点よりも高い温度に触媒層側を加温しながら、電解質膜12と接合する。以上により、MEA10が作製できる。
【0046】
尚、本実施の形態においては、電解質膜12の表面にスキン層15を形成させたが、スキン層15はカソード触媒層16上に形成させても良い。また、電解質膜12やカソード触媒層16上に形成させずに、PTFEシート上で別途作成しても良い。
【0047】
また、本実施の形態においては、電解質膜12の表面にスキン層15を形成させた後に、アノード触媒層14及びカソード触媒層16を作製したが、電解質膜12の表面にスキン層15を形成させる前に、これらの触媒層を作製しても良い。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づいてより詳細に説明する。尚、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
(触媒層作製)
Ptを50wt%担持したカーボンブラック(ketjen)、水、エタノール及びナフィオン溶液をカーボン濃度5.0%、ナフィオン/カーボンの重量比1.0、水/エタノールの重量比1.0になるように調合し、撹拌しながら超音波ホモジナイザーで分散処理してインクを作製した。分散されたインクは、4時間、撹拌のみで分散を安定化させた。その後、調製したインクをダイコーティングにてPTFEシート上に塗布した。白金目付量が0.05mg/cm2となるように塗布し、溶媒を乾燥させて触媒層を作製した。
【0050】
(電極作製)
<実施例1>
膜厚18μmの電解質膜を用意し、この電解質膜の上に高酸素透過性電解質を溶解した溶液をキャストして、2μmの高酸素透過性電解質スキン層(トータル厚さは20μm)を形成した。スキン層の形成後、電解質膜の両面に、作製した触媒層を1cm角のサイズで熱圧プレスして貼り付け、それぞれのPTFEシートを剥離した。これにより、実施例1のMEAを得た。
<比較例1>
実施例1の比較として、膜厚20μmの電解質膜を用意した。その後、実施例1同様に触媒層を熱圧プレスして比較例1のMEAを得た。
【0051】
(放電評価)
実施例1、比較例1の各MEAをセルに組み込み、セル温度80℃、カソードバブラー80℃、アノードバブラー80℃の条件でI−V特性試験することで評価した。結果を図4に示す。図4に示すように、同一の電極(白金目付量も同等)を用いたにも関らず、実施例1のMEAは、比較例1のMEAに比べ、低電流密度領域から電圧性能が向上した。この結果から、実施例1のMEAにおいては、白金利用率が向上したことが示された。
【符号の説明】
【0052】
12 電解質膜
14 アノード触媒層
15 スキン層
16 カソード触媒層
161 カーボン粒子
162 触媒粒子
163 アイオノマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のプロトン伝導性材料からなる電解質膜と、
前記電解質膜の表面に形成され、前記第1のプロトン伝導性材料よりもガス透過性の高い第2のプロトン伝導性材料からなる薄膜層と、
前記薄膜層の形成面と対向して配置され、前記第1のプロトン伝導性材料よりもガス透過性の高い第3のプロトン伝導性材料により表面が被覆された触媒層と、
を備えることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
前記第2のプロトン伝導性材料のガス拡散係数が、前記第1のプロトン伝導性材料のガス拡散係数の3倍以上である請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記第2のプロトン伝導性材料のガス拡散係数が、前記第3のプロトン伝導性材料のガス拡散係数以上である請求項1又は2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記薄膜層の厚みが、前記電解質膜の厚みの1/5以下である請求項1乃至3何れか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記第2のプロトン伝導性材料のプロトン伝導度が、前記第1のプロトン伝導性材料のプロトン伝導度の1/2以上である請求項1乃至4何れか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
第1のプロトン伝導性材料からなる電解質膜の表面に、前記第1のプロトン伝導性材料よりもガス透過性の高い第2のプロトン伝導性材料からなる薄膜層を形成させる工程と、
前記第1のプロトン伝導性材料よりもガス透過性の高い第3のプロトン伝導性材料により被覆された触媒層の表面と、前記薄膜層の形成面とを対向させて熱圧着する工程と、
を備えることを特徴とする膜電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−181344(P2011−181344A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44488(P2010−44488)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】