説明

膝裏地用織物

【課題】滑り性や制電性の機能に優れ、かつ、生地端ホツレや加工シワ欠点等がない耳組織品位に優れ、快適な着用感が得られる膝裏地用織物の提供。
【解決手段】シャトルレス織機で製織されたタックイン耳組織を持つ膝裏地用織物であって、地組織部の生地厚み(A)と耳組織の生地厚み(B)の比(B/A)が0.8〜1.7であることを特徴とする前記織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は滑り性、制電性に優れる快適な膝裏地用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、裏地に用いられる織物は、キュプラ、ビスコースレーヨンなどの再生セルロース繊維、ポリエステルやポリアミドなどの合成繊維、あるいは再生セルロース繊維と合成繊維を経緯に組み合わせて用いたものが多い。
【0003】
裏地の種類には、胴裏、袖裏、膝裏があるが、中でもパンツ(ズボン)膝下部から大腿部の前部に使用する前身ごろ膝裏地は、パンツ脱着時には足先と裏地が擦れ合い、着用時は歩行や屈伸運動によって膝部や大腿部(前部)と擦れ合う頻度が非常に高い。
そのため、パンツ脱着時では裏地の裾部の生地端がホツレ易くなる。また、着用時では発汗するとムレ感や肌への張り付きが起きたり、冬場の空気が乾燥した環境に於いては静電気が発生し、衣服がまとわりついたりするなどの問題が生じる。
【0004】
前記した膝裏地の生地端ホツレを防ぐ手段としては、合成繊維の場合には生地端部分をヒートカットし経糸と緯糸を熱融着させることが一般的であるが、融着部分が多いと滑り性が損なわれ、少ないと生地端しホツレ効果を十分に得ることができないという問題がある。一方、熱融着できない再生セルロース繊維の場合には、現在では旧型織機となったシャトル織機で製織した生地の耳部を生地端になるようにして用いているのが、近年、老朽化が進むシャトル織機はエアージェットルームやウォータージェットルームに代表されるシャトルレス織機に置き換えられているのが現状である。
従って、シャトルレス織機で生地端しホツレがしにくい膝裏地を製織する技術が必要とされている。
【0005】
以下の特許文献1には、生地端ホツレがなく、着用感が良好な膝裏地用織物が開示されている。開示された膝裏地用織物は、経糸及び緯糸にポリエステル繊維やポリアミド繊維をウォータージェットルームで製織したタックイン耳組織の膝裏地用織物である。
しかしながら、開示された膝裏地用織物は、合成繊維のみからなる織物であるため、静電気が帯電し易く、気体の汗によるムレ感、ベタツキ感などの不快感を充分に改善できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−31878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を解決し、滑り性や制電性の機能に優れ、かつ、生地端ホツレや加工シワなどの欠点等がない耳組織品位に優れた膝裏地用織物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討し実験を重ねた結果、シャトルレス織機で製織されたタックイン耳組織の生地厚みに着目し本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
【0009】
[1]シャトルレス織機で製織されたタックイン耳組織を持つ膝裏地用織物であって、地組織部の生地厚み(A)と耳組織の生地厚み(B)の比(B/A)が0.8〜1.7であることを特徴とする前記織物。
【0010】
[2]前記織物を構成する経糸及び緯糸の両者にあるいは経糸又は緯糸のいずれかに再生セルロース系繊維を用いており、かつ、前記織物表面の動摩擦係数(μ)が0.35以下である、前記[1]に記載の膝裏地用織物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の裏地用織物は、滑り性や制電性の機能に優れ、かつ、生地端ホツレや加工シワ欠点等がない耳組織品位に優れた膝裏地用織物である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明の膝裏地用織物は、シャトルレス織機で製織されたタックイン耳組織である。一般的には耳組織を形成する緯糸先端の折返し長(=耳組織巾)は0.5〜2cmである。0.5cm未満ではタックイン装置において緯糸先端が織物内に綺麗に挿入されにくくなり、ワラジ耳などの耳組織品位不良が起きやすくなり、一方、2cmを超えると耳組織部の柔軟性が低下する傾向にある。また、タックイン耳組織とすることで、通常シャトルレス織物では不十分であった生地端の経糸保持を強化でき、生地端ホツレの少ない織物とすることができる。
【0013】
本発明の膝裏地用織物においては、該織物の地組織部の生地厚み(A)と耳組織の生地厚み(B)の厚み比(B/A)は0.8〜1.7であり、0.8未満では耳組織が波打つなど形状変化しやすく、一方、1.7を超えると生地を長尺に巻き取ると耳組織周辺にシワ欠点が発生し易くなったり、染加工工程で生地の経方向の張り具合が地組織部と耳組織部でアンバランスとなったりすることによるシワ欠点や染斑欠点が生じやすくなる。
【0014】
厚み(A)は、地組織の経糸及び緯糸の繊度、密度、織組織により決まる。また、厚み(B)は、同一生地内にある耳組織部位について経糸繊度、経糸密度、織組織を地組織部と変えることにより決まる。
織物を構成する経糸及び緯糸の両者あるいは経糸又は緯糸のいずれかに再生セルロース系繊維を用いるのが好ましい。再生セルロース系繊維を用いることによって、静電気が蓄積しにくく、放出しやすい、つまり「制電性」を得やすくなる。
【0015】
再生セルロース系繊維とは、例えば、ビスコース法レーヨン、ポリノジックレーヨン、精製セルロース繊維、銅アンモニア法レーヨンなどのマルチフィラメントが挙げられる。
再生セルロース系繊維の糸条の撚数は0〜1500t/mであり、1500t/mを超えると肌に刺激が強すぎて好ましくない。
再生セルロース系繊維の総繊度は44〜135dtexであることが好ましく、より好ましくは56〜110dtexである。44dtex未満では摩耗強力が低くなり、一方、135dtexを超えると厚ぼったくなるため好ましくない。
再生セルロース系繊維マルチフィラメントの単糸繊度は0.8〜2.0dtexであることが好ましく、0.8dtex未満では耐摩耗性が低くなり、一方、2.0dtexを超えると肌触りが悪くなり好ましくない。
【0016】
本発明の織物表面の動摩擦係数(μ)は0.35以下が好ましい。動摩擦係数(μ)が0.35を超えると裏地の滑り性が低下し、歩行や屈伸運動時に不快感を与えることがある。
動摩擦係数は、前記した単糸繊度、単糸数、糸条繊度、撚数による他、経糸密度、緯糸密度、織組織の設計によりコントロールすることができる。
経糸又は緯糸の一方が合成繊維である交織裏地の場合には、ポリエステル繊維やポリアミド繊維のマルチフィラメントを目的に応じて任意に選定することができる。
【0017】
本発明の織物は、シャトルレス織機、例えばエアージェットルーム、ウォータージェットルーム、レピアルーム、グリッパールームを用いて製造することができる。織物の組織としては、平織、綾織、朱子織及びその変化組織等が挙げられるが、平織、綾織が特に好ましい。
本発明の織物の加工方法は特に限定されず、染料、染色助剤、仕上げ加工剤としても、一般に市販されているセルロース系繊維、合繊繊維の染色に用いているものを目的に応じて任意に選定できる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例に具体的に説明する。
(1)動摩擦係数(μ)
カトーテック社製のKES−SEを使用して、摩擦面寸法が経緯1cm角で重量が0.49Nの摩擦子に、カナキン3号の綿布(精練布)を取り付け、5cm/分の速度で固定した試料の表面上を滑らせた時の摩擦抵抗力から、以下の式により、動摩擦係数(μ)を算出した:
動摩擦係数(μ)=摩擦抵抗力(N)/摩擦子の重量(N)
具体的な測定方法としては、測定に使用する試料を20℃、65%RH環境下で24時間調湿した後、規定の大きさにサンプリングしたものを用いて測定した。
【0019】
(2)摩擦帯電圧
JIS−L−1094 B法に準じて測定した。測定環境は20℃×40%RHにて摩擦布はカナキン3号の綿布(精練布)を使用した。
【0020】
(3)生地厚みの比
JIS−L−1096厚さ試験方法に準じて、初荷重240g/cmで織物中央の地組織厚み(A)と、タックイン耳組織厚み(B)を測定し、厚み比(B/A)を求めた。
【0021】
(4)耳組織品位
シワ、ヒキツリ、フレアなどの外観品位とハンドリング摩擦によるガサツキ、組織ズレ有無を評価し、「良好」、「概ね良好」、「不良」に判別した。
【0022】
[実施例1]
地組織の経糸に[旭化成せんい社製、ベンベルグ(登録商標)]84dtex45f無撚フィラメントのキュプラ糸、耳組織の経糸には56dtex30fフィラメント糸と緯糸に110dtex75f無撚フィラメントのキュプラ糸[旭化成せんい社製、ベンベルグ(登録商標)]を用い、タックイン方式エアージェットルーム[津田駒工業株式会社製、ZAXクランク開口(型式)]にて、地組織及び耳組織共に平組織の織物を作成し、オープンソーパータイプの精練機にて精練剤1cc/l、80℃×5分間で精練2槽、湯洗い2槽を経て、水洗、乾燥した後、170℃×1分で乾燥を行い、実施例1の布帛を得た。
【0023】
[実施例2]
地組織及び耳組織の経糸に84dtex45f無撚フィラメントのキュプラ糸[旭化成せんい社製、ベンベルグ(登録商標)]と緯糸に110dtex75f無撚フィラメントキュプラ糸[旭化成せんい社製、ベンベルグ(登録商標)]を用い、タックイン方式エアージェットルーム[津田駒工業株式会社製、ZAXカム開口(型式)]にて、地組織は平組織で耳組織は変則並び平組織の織物を作成し、実施例1と同様の方法で精練、乾燥を行い、実施例2の布帛を得た。
【0024】
[実施例3]
地組織及び耳組織の経糸に84dtex36f無撚フィラメントのポリエステル糸を用い、緯糸に110dtex75f無撚フィラメントキュプラ糸[旭化成せんい社製、ベンベルグ(登録商標)]を用い、タックイン方式エアージェットルーム[津田駒工業株式会社製、ZAXカム開口(型式)]にて、地組織は平組織で耳組織は変則並び平組織の織物を作成し、実施例1と同様の方法で精練、乾燥を行い、実施例3の布帛を得た。
【0025】
[比較例1]
地組織及び耳組織の経糸に84dtex45f無撚フィラメントのキュプラ糸[旭化成せんい社製、ベンベルグ(登録商標)]と緯糸に110dtex75f無撚フィラメントキュプラ糸[旭化成せんい社製、ベンベルグ(登録商標)]を用い、タックイン方式エアージェットルーム[津田駒工業株式会社製、ZAXカム開口(型式)]にて、地組織及び耳組織共に平組織の織物を作成し、実施例1と同様の方法で精練、乾燥を行い、比較例1の布帛を得た。
【0026】
[比較例2]
地組織及び耳組織の経糸及び緯糸に84dtex36f無撚フィラメントのポリエステル糸、緯糸に84dtex36f仮撚加工糸を用い、ウォータージェットルームで織物耳部をヒートカットした平織物を、実施例1と同様の方法で精練、乾燥を行い、比較例2の布帛を得た。
【0027】
以上の実施例及び比較例について、評価結果等をまとめて以下の表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例1〜3は滑り性、制電性、耳組織品位に優れているのに対して、比較例1と2は滑り性、制電性、耳組織品位をすべて満足できるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によって得られた膝裏地用織物は、耳組織品位が良好で、滑り性、制電性に優れるため、快適な着用感が得られ衣服用の膝用裏地として好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャトルレス織機で製織されたタックイン耳組織を持つ膝裏地用織物であって、地組織部の生地厚み(A)と耳組織の生地厚み(B)の比(B/A)が0.8〜1.7であることを特徴とする前記織物。
【請求項2】
前記織物を構成する経糸及び緯糸の両者にあるいは経糸又は緯糸のいずれかに再生セルロース系繊維を用いており、かつ、前記織物表面の動摩擦係数(μ)が0.35以下である、請求項1に記載の膝裏地用織物。

【公開番号】特開2011−26728(P2011−26728A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172267(P2009−172267)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】