説明

膨張式救命いかだ投下装置

【課題】水平方向に到来するレーダ波に対するRCSが小さく、かつ手動で簡単に膨張式救命いかだを海面上に投下し膨張させることができる膨張式救命いかだ投下装置を提供する。
【解決手段】中空円筒形のコンテナ1を上部に載せかつその自重によりコンテナ1が海側に転動可能な第1傾斜面11を有する格納架台10と、格納架台に水平軸26を中心に閉鎖位置から投下位置まで自重により揺動可能に取り付けられた架台蓋20と、架台蓋を閉鎖位置に固定しかつ手動で固定を解除可能な手動離脱装置30とを備える。架台蓋20は、閉鎖位置において水平方向外方から到来するレーダ波を下方又は上方に向けて反射するRCS低減板22と、投下位置において第1傾斜面11の海側に連続して位置しコンテナ1が海側に転動可能な第2傾斜面23とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RCS対策用の開閉扉を有する膨張式救命いかだ投下装置に関する。
【背景技術】
【0002】
RCS(Radar Cross Section:レーダ反射断面積)とは、船舶等のレーダ目標が、どの程度レーダ波を反射するかの指標である。
また、「膨張式救命いかだ」は、中空円筒形のコンテナに収容された状態で船舶に搭載され、船舶の沈没等の緊急時にコンテナごと海面上に投下し、海面上で膨張させるようになった救命用のいかだである。
【0003】
従来の膨張式救命いかだ投下装置として、特許文献1〜3が既に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−692号公報、「膨張式救命いかだの投下装置」
【特許文献2】特開2002−127987号公報、「膨張式救命いかだの積付け及び投下装置」
【特許文献3】特開2002−264892号公報、「膨張式救命いかだの積付け及び投下装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の膨張式救命いかだ投下装置は、例えば船舶の甲板上に設置され、膨張式救命いかだ、搭載装置、及び搭載装置後方の構造物が、外部に対し露出していた。
そのため、艦船等に従来の装置を搭載した場合、水平方向に到来するレーダ波に対するRCS(レーダ反射断面積)が大きく、水平方向に到来するレーダ電波を多方向に反射してしまい、この装置を搭載した艦船等が発見される可能性が高い問題点があった。
【0006】
また、RCSが小さいカバー又は扉を、従来の装置に付設した場合、緊急時に手動で作動させることが困難になる問題点があった。
すなわち、膨張式救命いかだ投下装置は、船舶の沈没等の緊急時に手動で簡単に膨張式救命いかだをコンテナごと海面上に投下し、海面上で膨張させる必要がある。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。
すなわち、本発明の目的は、水平方向に到来するレーダ波に対するRCS(レーダ反射断面積)が小さく、かつ手動で簡単に膨張式救命いかだをコンテナごと海面上に投下し、海面上で膨張させることができる膨張式救命いかだ投下装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、中空円筒形のコンテナに収容された膨張式救命いかだを船舶に搭載し、手動でコンテナごと海面上に投下し、海面上で膨張させる膨張式救命いかだ投下装置であって、
前記船舶の外板又は外板付のフラットに固定され、前記コンテナを上部に載せかつその自重により前記コンテナが海側に転動可能な第1傾斜面を有する格納架台と、
前記格納架台に水平軸を中心に閉鎖位置から投下位置まで、自重により揺動可能に取り付けられた架台蓋と、
前記架台蓋を前記閉鎖位置に固定しかつ手動で固定を解除可能な手動離脱装置とを備え、
前記架台蓋は、前記閉鎖位置において前記コンテナ及び格納架台に向けて水平方向外方から到来するレーダ波を下方又は上方に向けて反射するRCS低減板と、
前記投下位置において前記第1傾斜面の海側に連続して位置し前記コンテナが海側に転動可能な第2傾斜面とを有する、ことを特徴とする膨張式救命いかだ投下装置が提供される。
【0009】
本発明の実施形態によれば、前記手動離脱装置は、一端が前記架台蓋に連結され船側に延びる固定部材と、該固定部材に隙間を持って貫通し固定部材の投下位置への揺動を阻止する固定ピンと、該固定ピンを前記固定部材から手動で引き抜き可能な手動作動機構とからなる。
【0010】
また、一端が格納架台に固定され、前記コンテナの周方向に沿って延び、他端部に前記固定ピンが隙間を持って貫通しコンテナを格納位置に固縛する固縛ワイヤロープを備える、ことが好ましい。
【0011】
また、水没時に前記固縛ワイヤロープを格納架台から自動で離脱させる自動離脱装置を備える、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記本発明の構成によれば、閉鎖位置において、架台蓋のRCS低減板によりコンテナ及び格納架台に向けて水平方向外方から到来するレーダ波を下方又は上方に向けて反射するので、水平方向に到来するレーダ波に対するRCS(レーダ反射断面積)を小さくできる。
【0013】
また、架台蓋が格納架台に水平軸を中心に閉鎖位置から投下位置まで、自重により揺動可能に取り付けられているので、手動離脱装置により架台蓋の固定を手動で解除することにより、架台蓋を閉鎖位置から投下位置まで自重により揺動させることができる。
【0014】
さらに、格納架台が中空円筒形のコンテナを上部に載せかつその自重によりコンテナが海側に転動可能な第1傾斜面を有し、投下位置において架台蓋が第1傾斜面の海側に連続して位置しコンテナが海側に転動可能な第2傾斜面を有するので、手動離脱装置により、架台蓋を手動で開放することにより、コンテナが第1傾斜面と第2傾斜面を自重で転動して海面上に落下するので、緊急時に手動で簡単に膨張式救命いかだをコンテナごと海面上に投下し、海面上で膨張させることができる。

【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による膨張式救命いかだ投下装置の第1実施形態図である。
【図2】本発明による膨張式救命いかだ投下装置の第2実施形態図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明による膨張式救命いかだ投下装置の第1実施形態図である。
本発明の膨張式救命いかだ投下装置は、中空円筒形のコンテナ1に収容された膨張式救命いかだを船舶に搭載し、緊急時に手動でコンテナ1ごと海面上に投下し、海面上で膨張させる装置である。
船舶は、例えば艦船である。またコンテナ1の大きさは、例えば直径約740mm、長さ約1250mmであるが、本発明はこれに限定させず、中空円筒形である限り、その他の大きさであってもよい。
【0018】
図1において、本発明の膨張式救命いかだ投下装置は、格納架台10、架台蓋20及び手動離脱装置30を備える。
【0019】
格納架台10は、この例では船舶の外板2に固定されている。船舶が全通甲板の場合、航空機が離着陸する甲板3より上方に突起物がないように、格納架台10は、船舶の外板2から海側(図で右側)に張り出して取り付けるのがよい。
【0020】
この例で、格納架台10は、細長い部材12,13,14,15からなる。部材13、14は水平部材であり、それぞれ左端は船舶の外板2に固定されている。また、部材15は鉛直部材であり、水平部材13,14を連結する。部材12は傾斜部材であり、鉛直部材15と水平部材14に連結されている。
さらに、この例で、部材12,13,14,15は、2組設けられ、それぞれ紙面に垂直方向に間隔を隔てて位置し、連結部材16,17により互いに連結されている。この間隔は、中空円筒形のコンテナ1の長さより短く、コンテナ1を2点で支持するようになっている。
【0021】
また、傾斜部材12は、コンテナ1を上部に載せ、かつコンテナ1の自重によりコンテナ1が海側(図で右側)に転動可能な第1傾斜面11を有する。第1傾斜面11の角度は、自重で転動できる限りで任意であるが、例えば水平に対して5〜70度であるのがよい。
【0022】
架台蓋20は、格納架台10に水平軸26を中心に閉鎖位置(図に実線で示す)から投下位置(図に2点鎖線で示す)まで、自重により揺動可能に取り付けられている。水平軸26は、架台蓋20の重心より船側に位置する。
【0023】
また、架台蓋20は、RCS低減板22、蓋支持部材24及びストッパ27を有する。
【0024】
RCS低減板22は、閉鎖位置においてコンテナ1及び格納架台10の水平方向外面全体を覆う面積及び形状を有する。この形状は矩形の平板であるのが好ましいが、その他の形状であってもよい。また、RCS低減板22の外面は、閉鎖位置において、この例ではコンテナ及び格納架台に向けて水平方向外方から到来するレーダ波を下方に向けて反射するように、鉛直に対して上側が海側傾斜している。この傾斜角度は、5〜30度であるのがよい。なお、レーダ波を上方に向けて反射するように設定してもよい。
RCS低減板22の外面形状は、この例では平面であるが、上述した機能を満たす限りで、他の形状であってもよい。
【0025】
蓋支持部材24は、RCS低減板22の船側(図で左側)に取り付けられ、閉鎖位置においてコンテナ1が海側に転がるのを阻止する形状になっている。また、この蓋支持部材24は、投下位置(図に2点鎖線で示す)において第1傾斜面11の海側に連続して位置し、コンテナ1が海側に転動可能な第2傾斜面23を有する。
第2傾斜面23の角度は、第1傾斜面11の角度と同一であるのが好ましいが、コンテナ1が海側に転動できる限りで相違してもよい。また、第2傾斜面23の海側端部の位置は、コンテナ1が第1傾斜面11と第2傾斜面23を自重で転動して海面上に落下するように設定する。
【0026】
ストッパ27は、蓋支持部材24の一部(この例では下端)に設けられ、投下位置(図に2点鎖線で示す)において、架台蓋20の揺動位置を、第2傾斜面23が第1傾斜面11の海側に連続して位置するように位置決めする機能を有する。この場合、第1傾斜面11と第2傾斜面23は同一平面を形成するのがよい。
【0027】
手動離脱装置30は、架台蓋20を閉鎖位置に固定し、かつ手動でこの固定を開放可能な装置である。この例において、手動離脱装置30は、固定部材31、固定ピン32及び手動作動機構33からなる。
固定部材31は、一端(図で上端)が架台蓋20の蓋支持部材24にピンで連結され、船側(図で左下方向)に延びる。また固定部材31の他端(図で下端)には固定ピン32を隙間を持って通す孔(図示せず)が設けられている。この孔は、固定部材31の他端に取り付けられたリング部材の孔であってもよい。
固定ピン32は、細長い棒状部材であり、その先端(図で右端)が固定部材31の他端部の孔に隙間を持って貫通し、固定部材31の投下位置への揺動を阻止するようになっている。
【0028】
手動作動機構33は、この例では固定ピン32の末端(図で左端)に連結され、中間部が水平軸を中心に揺動する手動レバーであり、固定ピン32を固定部材31から手動で引き抜くことができるようになっている。
なお、手動作動機構33はこの例では、手動レバー又はリンク機構に限定されず、その他の機構であってもよい。
また、図で34は、手動レバー33を閉鎖位置に固定する固定装置であり、簡単な機構(例えばピン)により、手動でこの固定を解除し、手動レバー33を閉鎖位置から投下位置に揺動できるようになっている。
【0029】
また、この例で手動作動機構33は、更に、固縛ワイヤロープ35を備える。この固縛ワイヤロープ35は、その一端(図で左端)が格納架台10の連結部材17に固定され、コンテナ1の周方向に沿って延びる。また、固縛ワイヤロープ35の他端部(図で右端部)に上述した固定ピン32の先端部が隙間を持って貫通し、コンテナ1を格納位置に固縛するようになっている。
【0030】
この構成により、閉鎖位置において、固定ピン32の先端部が固定部材31の他端部と固縛ワイヤロープ35の他端部を貫通して、固定部材31と固縛ワイヤロープ35を固定しているので、架台蓋20とコンテナ1を閉鎖位置に固定することができる。
また、手動作動機構33により固定ピン32を固定部材31及び固縛ワイヤロープ35から手動で引き抜くと、架台蓋20が、閉鎖位置から投下位置まで自重で揺動するので、コンテナ1が第1傾斜面11と第2傾斜面23を自重で転動して海面上に落下させることができる。
【0031】
また、本発明の膨張式救命いかだ投下装置は、さらに自動離脱装置40を備える。自動離脱装置40は、固縛ワイヤロープ35の中間部又は一端部に設けられ、水没時に水圧を感知して、固縛ワイヤロープ35を格納架台から自動で離脱させるようになっている。
【0032】
図2は、本発明による膨張式救命いかだ投下装置の第2実施形態図である。
この例において、格納架台10は、船舶の外板付のフラット4に固定されている。
また、この例において、格納架台10は、細長い部材12,14,15a,15bからなる。部材15a,15bは鉛直部材であり、それぞれ下端は船舶の外板付のフラット3に固定されている。部材14は水平部材であり、鉛直部材15a,15bを連結する。部材12は傾斜部材であり、鉛直部材15aと水平部材14に連結されている。
さらに、この例で、架台蓋20のRCS低減板22の上部が蝶番により外方に折れ曲がるようになっている。また、この例で固縛ワイヤロープ35は、RCS低減板22の上部をコンテナ1と共に格納位置に固縛するようになっている。
その他の構成は、図1の第1実施形態と同様である。
【0033】
上述した本発明の構成によれば、閉鎖位置において、架台蓋20のRCS低減板22によりコンテナ1及び格納架台10に向けて水平方向外方から到来するレーダ波を下方又は上方に向けて反射するので、水平方向に到来するレーダ波に対するRCS(レーダ反射断面積)を小さくできる。
【0034】
また、架台蓋20が格納架台10に水平軸26を中心に閉鎖位置から投下位置まで、自重により揺動可能に取り付けられているので、手動離脱装置30により架台蓋20の固定を手動で解除することにより、架台蓋20を閉鎖位置から投下位置まで自重により揺動させることができる。
【0035】
さらに、格納架台10が中空円筒形のコンテナ1を上部に載せかつその自重によりコンテナ1が海側に転動可能な第1傾斜面11を有し、投下位置において架台蓋10が第1傾斜面11の海側に連続して位置しコンテナ1が海側に転動可能な第2傾斜面23を有するので、手動離脱装置30により、架台蓋20を手動で開放することにより、コンテナ1が第1傾斜面11と第2傾斜面23を自重で転動して海面上に落下するので、緊急時に手動で簡単に膨張式救命いかだをコンテナごと海面上に投下し、海面上で膨張させることができる。
【0036】
さらに、上述した固縛ワイヤロープ35を備えることにより、手動離脱装置30により、架台蓋20を手動で開放することにより、同時に固縛ワイヤロープ35を開放することができる。
また、上述した自動離脱装置40を備えることにより、手動離脱装置30を操作しない場合でも、水没時に水圧を感知して、固縛ワイヤロープ35を格納架台から自動で離脱させることができる。
【0037】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0038】
1 コンテナ、2 外板、3 甲板、4 外板付のフラット、
10 格納架台、11 第1傾斜面、12 傾斜部材、
13、14 水平部材、15 鉛直部材、
15a,15b 鉛直部材、16,17 連結部材、
20 架台蓋、22 RCS低減板、23 第2傾斜面、
24 蓋支持部材、26 水平軸、27 ストッパ、
30 手動離脱装置、31 固定部材、32 固定ピン、
33 手動作動機構(手動レバー)、
35 固縛ワイヤロープ、40 自動離脱装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円筒形のコンテナに収容された膨張式救命いかだを船舶に搭載し、手動でコンテナごと海面上に投下し、海面上で膨張させる膨張式救命いかだ投下装置であって、
前記船舶の外板又は外板付のフラットに固定され、前記コンテナを上部に載せかつその自重により前記コンテナが海側に転動可能な第1傾斜面を有する格納架台と、
前記格納架台に水平軸を中心に閉鎖位置から投下位置まで、自重により揺動可能に取り付けられた架台蓋と、
前記架台蓋を前記閉鎖位置に固定しかつ手動で固定を解除可能な手動離脱装置とを備え、
前記架台蓋は、前記閉鎖位置において前記コンテナ及び格納架台に向けて水平方向外方から到来するレーダ波を下方又は上方に向けて反射するRCS低減板と、
前記投下位置において前記第1傾斜面の海側に連続して位置し前記コンテナが海側に転動可能な第2傾斜面とを有する、ことを特徴とする膨張式救命いかだ投下装置。
【請求項2】
前記手動離脱装置は、一端が前記架台蓋に連結され船側に延びる固定部材と、該固定部材に隙間を持って貫通し固定部材の投下位置への揺動を阻止する固定ピンと、該固定ピンを前記固定部材から手動で引き抜き可能な手動作動機構とからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の膨張式救命いかだ投下装置。
【請求項3】
一端が格納架台に固定され、前記コンテナの周方向に沿って延び、他端部に前記固定ピンが隙間を持って貫通しコンテナを格納位置に固縛する固縛ワイヤロープを備える、ことを特徴とする請求項2に記載の膨張式救命いかだ投下装置。
【請求項4】
水没時に前記固縛ワイヤロープを格納架台から自動で離脱させる自動離脱装置を備える、ことを特徴とする請求項3に記載の膨張式救命いかだ投下装置。





【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−116181(P2011−116181A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273489(P2009−273489)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)