説明

膨張材用生石灰粉末、コンクリート用膨張材、水硬性結合材料、コンクリートおよびコンクリート構造物の構築方法

【課題】 打設約2〜3日後の早期に脱型した場合でも、コンクリート構造物に充分な水和膨張を発現し、その後の乾燥収縮およびひび割れ発生を大幅に低減できる早期脱型コンクリート用の膨張材用生石灰粉末を提供する。
【解決手段】 強熱減量が6質量%以下、かつCaOを90質量%以上含有し、ブレーン比表面積が3000〜7000cm/gであり、粒径が90μmから1mmの範囲の生石灰粉末のBET比表面積が2.0m/g以下である生石灰粉末であって、生石灰粉末75質量%および無水石膏25質量%の混合物75質量%と普通ポルトランドセメント25質量%との混合粉末を、等温伝導型熱量計を用いて測定した水和発熱速度曲線において、第2発熱ピークが接水後2時間以降においてのみ現れる膨張材用生石灰粉末である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物などの建設工事に使用する早期脱型コンクリートにおいて、収縮ひび割れ発生を低減することができる膨張材用生石灰粉末、その生石灰粉末を含む膨張材、その膨張材を含む水硬性結合材料、早期脱型コンクリートおよびそのコンクリートを用いたコンクリート構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の建造においては、まず、セメント、骨材、および化学混和材料等ならびに水を所定量計量して練り混ぜたコンクリートを、予め組立てられた型枠内に打設し、所定期間養生後に型枠を外す(脱型)ことにより、硬化したコンクリートからなるコンクリート構造物を得るという工程を経る。近年の土木・建築構造物の建設工事においては、コンクリートのフレッシュ時の作業性やその硬化体の強度特性・耐久性とともに、建設期間の短縮が強く求められている。このため、コンクリート構造物に所定の強度を確保したうえで、できるだけ脱型の時期を早めることが望まれている。その脱型時期は、打設条件(気温、設計強度等)によっても異なるが、コンクリートの打設後2〜3日であることが求められている。このように、脱型の時期を早めることのできるコンクリートを早期脱型コンクリートという。
【0003】
一方、脱型後、通常、コンクリート構造物は、その表面から乾燥が進むため、収縮し、その収縮応力がコンクリートの引張り強度を上回るとひび割れを生じることとなる。このひび割れを低減するためには、コンクリートに所定のコンクリート混和材料を配合することにより、コンクリートの乾燥収縮量を補償するに足りる膨張量を与えること、あるいは乾燥収縮量を低減することが必要である。そのためのコンクリート混和材料として、膨張材や収縮低減剤が知られている。
【0004】
このうち、膨張材は水和反応に伴って膨張する材料を含み、水和膨張によりコンクリート構造物の乾燥収縮を補償する。このような膨張材は、各種のコンクリート用混和材料として実用化されている。水和膨張性を有する材料としては、カルシウムサルフォアルミネート(3CaO・3Al23・CaSO4)、カルシウムアルミネート(CaO・Al23)、無水石膏(CaSO4)、酸化カルシウム(CaO)が知られている。これらの材料は、単独あるいは複数の成分原料を調合し、焼成して得られるクリンカーを粉砕して製造される。膨張材の膨張速度や膨張量の制御は、クリンカー中に生成する材料の組成およびクリンカー組織を制御することにより、ならびに無水石膏粉末および生石灰粉末等の材料のうち1種または2種以上を添加・混合することにより行われている(例えば特許文献1〜3)。膨張材の膨張速度や膨張量の制御には、高度な製造技術と品質管理が要求されるため、市販の膨張材は高価である。
【0005】
コンクリート構造物の乾燥収縮量を補償するために、所定の膨張量を短期間、例えば型枠存置期間、コンクリート養生期間の間に実現させることが必要であるが、そのためには高度な技術が要求される。従来は、短期間に所定の膨張量を得るため、単に、上記した種々の膨張材の配合量を増量することにより対応していた。しかしながら、このような膨張材は中長期的に水和するため、コンクリートが充分硬化したのちも水和膨張反応が進行することが多く、それにより、強固に形成されたコンクリート組織が壊されてしまい、強度が低下する恐れがある。また、極端な場合には、膨張材の単位配合量が過剰になり、過大な膨張やひび割れを生じさせ、構造物が崩壊することにもなりかねない。このような異常膨張現象を回避するために、充分な養生期間を取ることにより膨張材の水和反応を養生期間中に完結させることが求められ、結果として工期の短縮や建設コストの低減が困難となっていた。
【0006】
一方、安価な膨張材として、生石灰粉末は古くから用いられており、生石灰粉末と無水石膏粉末とを組み合わせることにより、その膨張量が増進することが知られている(例えば非特許文献1)。この安価な材料を活用した膨張材の改良検討が進められ、生石灰粉末の比表面積や水和発熱特性を所定の範囲とすることにより、より大きな膨張量を得る技術が開示されている(特許文献4、5)。
【特許文献1】特開昭48−12325号公報
【特許文献2】特許第3494238号公報
【特許文献3】特公昭53−13650号公報
【特許文献4】特開2004−299989号公報
【特許文献5】特開2005−162565号公報
【非特許文献1】佐藤雅男他、「せっこう粉末が“死焼”石灰の膨張作用におよぼす増進効果について」、セメント技術年報、No.29、pp.118−121(1975)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、打設約2〜3日後の早期に脱型した場合でも、コンクリート構造物に充分な水和膨張を発現し、その後の乾燥収縮およびひび割れ発生を大幅に低減できる早期脱型コンクリート用の膨張材用生石灰粉末、その生石灰粉末を含む早期脱型コンクリート用膨張材、早期脱型コンクリート用膨張材を用いた水硬性結合材料、早期脱型コンクリートおよびそのコンクリートを用いたコンクリート構造物の構築方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記のような課題を解決するために鋭意研究を行った結果、コンクリート打設後、早期脱型(約2〜3日後)しても、その後のコンクリートの乾燥収縮を充分に補償し得る膨張量を発現できる生石灰粉末系の早期脱型コンクリート用膨張材を見出した。また、この早期脱型コンクリート用膨張材に用いる生石灰粉末のキャラクタリゼーションを行い、その適正なキャラクターを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の膨張材用生石灰粉末は、強熱減量が6質量%以下、かつCaOを90質量%以上含有し、ブレーン比表面積が3000〜7000cm/gである膨張材用生石灰粉末であって、粒径が90μmから1mmの範囲の生石灰粉末のBET比表面積、すなわち窒素ガス吸着による比表面積が2.0m/g以下である、膨張材用生石灰粉末である。また、本発明の膨張材用生石灰粉末は、さらに、生石灰粉末75質量%および無水石膏25質量%の混合物75質量%と普通ポルトランドセメント25質量%との混合粉末を、等温伝導型熱量計を用いて測定した水和発熱速度曲線において、第2発熱ピークが接水後2時間以降においてのみ現れる、膨張材用生石灰粉末である。
【0010】
また、本発明は、膨張材用生石灰粉末と無水石膏粉末とを含む早期脱型コンクリート用膨張材であって、生石灰:無水石膏の割合が、30:70〜90:10である、早期脱型コンクリート用膨張材である。
【0011】
本発明は、さらに、水硬性結合材料および水を含むコンクリート組成物であって、水硬性結合材料が、上記の膨張材とセメントとを含み、膨張材の含有量が、膨張材とセメントとの合計量に対して3〜9質量%であり、水/(セメント+膨張材)質量比が45〜60%である、早期脱型コンクリート組成物である。
【0012】
また、本発明は、上記の早期脱型コンクリート組成物を用いて打設・養生し、早期脱型コンクリート組成物の膨張が収束するまで、すなわち材齢2日〜3日で脱型する、コンクリート構造物の構築方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の早期脱型コンクリート用膨張材を用いると、打設約2〜3日後の早期に脱型した場合でも、コンクリートは充分な水和膨張を発現し、その後の乾燥収縮およびひび割れ発生を大幅に低減できる早期脱型コンクリートを得ることができる。このような早期脱型コンクリートによって、コンクリート構造物の建設期間が短縮できる。さらに、コンクリート構造物のひび割れ発生を抑制でき、コンクリート構造物の耐久性が向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の膨張材用生石灰粉末は、硬焼生石灰と称される1100〜1200℃を超える高い温度で焼成時間を長くして焼成度を上げることにより、水和活性が抑制されるように調整されたものであり、その具体的な特性として、強熱減量が6質量%以下であり、CaOを90質量%以上含有する。強熱減量は、少量の未分解炭酸カルシウムや、焼成後の生石灰粉末が大気中の湿分や炭酸ガスと水和反応または炭酸化反応して、いわゆる風化により生石灰粒子表面に生じた水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムが強熱時に分解することによる重量減少である。強熱減量が大きいと生石灰の反応活性は低下するので、これが6質量%以下であれば、膨張に寄与する遊離酸化カルシウム量が減少することがない。CaOが90質量%以上であると、必要な膨張量が得られる。ここで、CaOを90質量%以上にするには、原料である石灰石の純度を90質量%以上とする。これにより、生石灰中の遊離CaO量が減少することがないので、膨張量の低下を抑えることができる。
【0015】
本発明の膨張材用生石灰粉末は、上記のように高温焼成された塊状物を粉砕することによって得ることができる。その適正な粉末比表面積は、JIS R 5201:1997で規定するブレーン比表面積(BL比表面積)が3000〜7000cm/gの範囲である。また、膨張特性に関連する生石灰粉末のキャラクターとして、JIS Z 8801−1:2000規定する公称目開き1mmのふるいを通過し、同規格が規定する目開き90μmのふるい上に残る粒径が90μmから1mmの範囲の生石灰粉末の窒素ガス吸着による比表面積(BET比表面積)が2.0m/g以下である。
【0016】
ここで、本発明において規定する、「粒径が90μmから1mmの範囲の生石灰粉末のBET比表面積」とは、生石灰粉末の原料である生石灰焼塊の焼成度、すなわち粉体の緻密化の程度(多孔性)を反映する数値であり、これは、粉体の粒度(分布)と多孔性を反映する数値である粉体全体のBET比表面積とは異なる。本発明において、生石灰は炭酸カルシウム(CaCO)を主成分とする岩石である石灰石を焼成して製造される。焼成の過程で石灰石中の炭酸が解離して酸化カルシウムを生成するが、この脱炭酸により焼塊は多孔質となる。焼成時間が長くなると、焼結の進行と結晶成長により結晶粒は成長し、焼塊は緻密化していく。このようにして得た焼塊を粉砕して生石灰粉末を得る。このとき、粉体全体のBET比表面積は、粉末粒度分布と粉体粒子の多孔性の両方が影響しているが、焼結の初期には多孔性の影響が強く現れ、焼結の進行とともに多孔性の影響が反映されなくなる。言い換えると、結晶粒が小さく焼成度の低い生石灰粉末では、粉体全体のBET比表面積は粒度分布よりも生石灰焼塊の多孔性を反映するが、結晶粒が大きく焼成度の高い硬焼生石灰では必ずしも当てはまらず、前述の篩い分けして得た粒径が90μmから1mmの範囲の生石灰粉末のBET比表面積にのみ、その多孔性を反映した値を得ることができる。
【0017】
生石灰粉末のブレーン比表面積が7000cm/gを超える粉末では、水和反応速度が早くなりすぎ、収縮を補償するための有効な膨張を得ることができない場合があるが、7000cm/g以下であると水和反応速度が適切な値であり、収縮を補償するための有効な膨張を得ることができる。また、ブレーン比表面積が3000cm/g未満の場合には粗粒子が生じやすくなり、未水和物が長期的に水和してポップアウト現象を起こしたりする場合があるが、ブレーン比表面積が3000cm/g以上の場合には、これらの現象は問題とならない。なお、ブレーン比表面積を上記範囲に制御するには、生石灰(焼塊)を粉砕する工程における、ミルの回転数、挽き入れ量等を制御する。
【0018】
また、上記の粒径が90μmから1mmの範囲の生石灰粉末のBET比表面積が2.0m/gを超える場合、生石灰粉末の反応活性が高くなりすぎ、水和反応速度が速くなり、収縮を補償する有効な膨張が得られなくなるという問題が生じる場合があるが、2.0m/g以下では、これらは適切な値となる。BET比表面積を2.0m/g以下に制御するには、焼成温度を高くし、かつ焼成時間を長くした硬焼生石灰を好適に使用することができる。
【0019】
また、本発明の膨張材用生石灰粉末は、さらに、膨張材用生石灰粉末75質量%および無水石膏25質量%の混合物75質量%と普通ポルトランドセメント25質量%との混合粉末を、等温伝導型熱量計を用いて測定した水和発熱速度曲線において、第2発熱ピークが接水後2時間以降においてのみ現れる膨張材用生石灰粉末である。第2発熱ピークを示さない、あるいは接水後2時間以内に生じる場合はコンクリート硬化時に適切な膨張を与えることができなくなる。なお、等温伝導型熱量計の測定は、装置内に試料粉体と水をそれぞれ独立した試料容器に入れ、外部からの操作により装置内で試料粉体と水とを混合し、その際に生じる発熱量を測定して行う。したがって、「接水」とは、この試料粉体と水が接触する時点を意味する。第2発熱ピークを示す生石灰と示さない生石灰の差異は明らかでないものの、生石灰の反応性に関連し、生石灰が水と触れ水和した際(第1ピーク)の生石灰表面への水和生成物の成膜とその後の膜の破壊と水和の再開(第2ピーク)によるものではないかと考えている。したがって、水和発熱速度曲線における第2発熱ピークの出現が接水後2時間以降とするために、生石灰の焼成度の制御が有効である。
【0020】
本発明の早期脱型コンクリート用膨張材は、上記の生石灰粉末と無水石膏粉末とを含む。生石灰粉末の含有率は30〜90質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましい。生石灰粉末の含有率の増加とともに膨張効果は増すものの、生石灰粉末の含有率が90質量%を越えると、生石灰の膨張効果の増加は小さくなる。無水石膏粉末の含有量は10〜70質量%が好ましく、20〜60質量%がより好ましい。したがって、早期脱型コンクリート用膨張材中の生石灰:無水石膏の割合は、30:70〜90:10であることが好ましく、40:60〜80:20がより好ましい。
【0021】
本発明の早期脱型コンクリート用膨張材中の無水石膏粉末は、通常、セメント製造用に工業的に使用されている品質の天然無水石膏や化学工業プロセスで生じる副産無水石膏を使用することができる。また、無水石膏粉末を併用することにより生石灰粉末の水和膨張が適度に発現するようになる。無水石膏粉末中の硫酸カルシウムの純度は、SO3基準で約50〜57質量%であることが好ましく、少量、例えば5質量%程度の二水石膏を共存していてもよい。生石灰粉末の水和膨張をより効果的に生じさせるために、無水石膏粉末のブレーン比表面積は3000cm2/g以上、好ましくは3500〜7000cm2/gの範囲とする。ブレーン比表面積がこの範囲からはずれると生石灰粉末の水和速度の調節が適正に行われないため、好ましくない。
【0022】
本発明の早期脱型コンクリート用膨張材は生石灰粉末と、無水石膏粉末と、からなることが好ましい。アウインのようなアルミネート系の膨張成分は、長期的に膨張することから、含有しないことが好ましい。
【0023】
また、本発明は、上記の膨張材およびセメントを含む早期脱型水硬性結合材料である。セメントには、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸ポルトランドセメントあるいは混合セメントを使用することができる。
【0024】
本発明の早期脱型水硬性結合材料中の、早期脱型コンクリート用膨張材とセメントとの合計量に対する膨張材の添加量は、膨張材を構成する成分、特に生石灰粉末と無水石膏粉末との割合によって異なるが、3〜9質量%、より好ましくは4〜8質量%である。3質量%未満では収縮を補償するに充分な膨張量を発現できず、9質量%を超えるとコンクリート構造物の強度低下を引き起こす可能性が高まるが、上記の範囲の膨張材の添加ではこれらの問題は生じない。コンクリート中の膨張材の単位量は、単位セメント量によって異なるが、概ね10〜30kg/m3に相当する。
【0025】
本発明のコンクリートは、上記の水硬性結合材料を、骨材、水およびAE減水剤と練り混ぜることにより得ることができる。コンクリート中の水/(セメント+膨張材)の質量比は、0.45〜0.60の範囲で好適に使用できる。
【0026】
さらに、本発明は、上記のコンクリートを用いて打設および養生し、コンクリートの膨張が収束する材齢2日〜3日で脱型することを特徴とするコンクリート構造物の構築方法である。本発明のコンクリートは、打設後2日〜3日後のような早期の材齢で脱型しても問題がなく、収縮ひび割れが生じ難い優れたコンクリート構造物を構築することができる。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
表1に示す特性の異なる5種類の生石灰粉末を使用した。A1、A2は前述の硬焼生石灰であり、A4およびA5は軟焼生石灰と呼ばれるものである。軟焼生石灰とは、石灰石を900から1400℃の高温で比較的短い時間で焼成製造したもので、比表面積が大きく反応性が高いものである。A3は、強熱減量が13%もある、風化が著しく進行した生石灰粉末である。
【0029】
【表1】

【0030】
無水石膏粉末は、表2に示すフッ酸無水石膏を使用した。
【表2】

【0031】
セメントにはJIS R 5210:2003に適合する普通ポルトランドセメント(宇部三菱セメント(株)販売)を使用した。
【0032】
表1記載の生石灰粉末をJIS Z 8801−1:2000規定する公称目開き1mmを通過し、同規格が規定する公称目開き90μmのふるい上に残る、粒径90μmから1mmの粉体を採取した。この粉体の窒素ガス吸着による比表面積(BET比表面積)を測定した。測定には日本ベル株式会社製BELSORP−miniを用いた。また、生石灰種別A1およびA4の90μmのふるい上に残る粉末粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図1および図2に示す。ここで、ふるいに残った粒子はエポキシ樹脂に包理したのち、切断・研磨を行って、倍率3000倍でSEM観察を行った。A1では生石灰の結晶粒がよく成長し、一方A4では生石灰の顕著な成長は認められず、粒子表面に微細な空隙が存在しているのが認められる。
【0033】
また、表1記載の生石灰粉末75質量%と表2記載の無水石膏25質量%を混合した混合物、およびこの混合物75質量%と普通ポルトランドセメント25質量%混合した試料粉体を調製した。この両者について、双子型コンダクションカロリメータ(東京理工株式会社製TCC−26)を用いて、20℃における水和発熱速度を測定した。なお、測定条件は、水粉体比5、粉体2g、水10gとし、水は蒸留水を使用した。
【0034】
JIS A 6202:1997附属書1に規定の膨張材のモルタルによる膨張性試験方法に準拠して試験体の作製および測定を行い、拘束条件下での材齢7日におけるモルタルの長さ変化率をもって膨張材の膨張性を評価した。
【0035】
図3に、表1記載の生石灰粉末75質量%と表2記載の無水石膏25質量%の混合物の水和発熱速度曲線を示す。また、この混合物75質量%と普通ポルトランドセメント25質量%とを混合した場合の水和発熱速度曲線を図4に示す。
【0036】
表3に、粒径が90μmから1mmの範囲の生石灰粉末のBET比表面積と、生石灰粉末75質量%および無水石膏25質量%の混合物75質量%と普通ポルトランドセメント25質量%との混合粉末を、等温伝導型熱量計を用いた水和発熱速度曲線における第2ピーク出現時期を示す。
【0037】
図3に示すように、いずれの生石灰粉末を用いた場合にも、接水後1時間以内に第1発熱ピークを示し、その後第2ピークは出現しなかった。
【0038】
図4に示すように、普通ポルトランドセメントを混合した条件で測定した水和発熱速度曲線では、図3とは異なり、接水後1時間以内に第1発熱ピークを示すものの、その後に第2発熱ピークを示す生石灰があることが分る(A1、A2)。すなわち、生石灰の水和反応がセメントの共存によって影響を受け、その影響は生石灰によって異なることを示唆している。
【0039】
発明者らはこの発熱特性と生石灰のキャラクターおよび膨張材とした場合の膨張特性との関係を詳細に検討した。その結果、表3に示すように、粒径90μmから1mmの生石灰粉末のBET比表面積と水和発熱速度における第2発熱ピークの出現時期に関係があることを知見した。
【0040】
【表3】

【0041】
表4に、生石灰粉末の種類および生石灰粉末と無水石膏粉末の配合割合を変えた場合の膨張特性を示す。
【0042】
【表4】

【0043】
表4および図5に示すように、生石灰:無水石膏の配合割合が75:25の一定条件において、生石灰粉末(A1)を用いた場合に長さ変化率が最も大きく(実施例1)、次いで生石灰粉末(A2)が大きく(実施例2)、生石灰粉末(A3)から生石灰粉末(A5)はほぼ同じ値を示した(比較例1から3)。
【0044】
また、表3に示した粒径90μmから1mmの生石灰粉末のBET比表面積と、水和発熱速度の第2発熱ピークの出現時期とを比較すると、大きな膨張が得られる生石灰粉末は、粒径が90μmから1mmの範囲の生石灰粉末のBET比表面積が2.0m/g以下で、かつ第2発熱ピークの出現時期が2時間以降であることが分る。この関係は、表1で示した生石灰粉末全体のBET比表面積からは見出すことはできず、特に、生石灰焼塊の多孔性を保持すると考えられる、粒径が90μmから1mmの範囲の生石灰粉末のBET比表面積と、セメントとの相互作用が生じる条件で測定した水和発熱速度曲線とによってのみ知見・評価できるものである。
【0045】
生石灰粉末(A1)および無水石膏粉末(B1)の配合割合(質量基準)を変えて調製した膨張材を使用したモルタルは、その長さ変化が生石灰粉末の割合の増加とともに大きくなった。また、生石灰粉末割合が30質量%から90質量%の範囲で良好な膨張が得られた。なお、膨張材の生石灰粉末の割合が90質量%の場合では、生石灰粉末の配合割合が70質量%とほぼ同程度の長さ変化率であり、生石灰粉末を大量に配合しても、膨張の更なる増加は期待できないことが分る。実用上、膨張材中の生石灰粉末の割合は40〜80質量%が好ましいといえる。
【0046】
図6に、生石灰粉末(A1)および無水石膏粉末(B1)の配合割合(質量基準)を変えて調製した膨張材を使用したモルタルの長さ変化の経時変化を示す。これより、膨張は材齢3日以内に収束していることが分かる。すなわち、コンクリート打設後、2〜3日程度で膨張反応は収束するため、型枠を早期に脱型することができるようになる。
【0047】
本発明の膨張材を用いた場合の膨張特性を、コンクリート組成物を作製して評価した。表5に使用した材料を、表6にコンクリートの配合を示す。
【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
コンクリートは、容量50Lの強制に軸練りミキサに、粗骨材、細骨材、セメント、膨張材を投入し、30秒間空練りした後に、予め所定量(粉体に対して0.25質量%)のAE減水剤を混和した練混ぜ水を加えて90秒間練り混ぜて作製した。なお、練混ぜ量は45Lとした。
【0051】
膨張特性は、図7に示すように、丸鋼(PC鋼棒)と、その両端に配置した厚さ19mmの鋼板により構成される拘束具により拘束された10×10×40cmのコンクリート供試体を用いて評価した。ひずみは丸鋼中央部に貼りつけたひずみゲージを使用して測定した。直径6mm、10mmおよび20mmの3種類の丸鋼をそれぞれ使用して、拘束鋼材比を0.2、0.8および3.2%と変えた条件で膨張量を測定した。練り上がったコンクリートを、図7に示す拘束具を取り付けた型枠内に打設して締め固めた後、10時間後に型枠をはずした。また、無拘束での膨張量を測定するため、図8に示すような、型枠からの拘束の影響を排除するため、テフロンシートおよびポリスチレンボードを敷設した型枠を使用し、埋め込み型ひずみ計をコンクリートに埋設してひずみを測定した。拘束および無拘束のいずれの条件でも、打設後から測定終了まで、乾燥が生じないようにラップで覆ってコンクリート試験体を養生して、ひずみを測定した。
【0052】
図9に、本発明の膨張材を用いたコンクリートの長さ変化率を示す。これより、無拘束条件で非常に大きな膨張が得られ、しかも大きな拘束を与えた条件でも膨張を発現することが確認できた。また、膨張は概ね材齢1日で収束することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の膨張材を使用することにより、例えば材齢2日〜3日のような極めて短い養生期間後に脱型しても、乾燥収縮に伴うひび割れが発生し難いコンクリート構造物あるいは部材を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】90μmのふるい上に残った生石灰粉末粒子A1を走査型電子顕微鏡により観察した反射電子像を示す図である。
【図2】90μmのふるい上に残った生石灰粉末粒子A4を走査型電子顕微鏡により観察した反射電子像を示す図である。
【図3】各種生石灰粉末75質量%と無水石膏25質量%を混合した膨張材の水和発熱速度曲線を示す図である。
【図4】各種生石灰粉末75質量%および無水石膏25質量%の混合物75質量%と普通ポルトランドセメント25質量%との混合粉末の水和発熱速度曲線を示す図である。
【図5】各種生石灰粉末75質量%と無水石膏25質量%を混合した膨張材を使用したモルタルの長さ変化率を示す図である。
【図6】生石灰粉末(A1)および無水石膏粉末(B1)を用い、これらの割合(質量基準)を変えて調製した膨張材を使用したモルタルの長さ変化率を示す図である。
【図7】拘束膨張ひずみ測定用拘束具および拘束膨張ひずみ試験用供試体の概要を示す図である。
【図8】無拘束ひずみ測定用供試体の概要を示す図である。
【図9】膨張材を添加したコンクリートの無拘束および拘束条件での長さ変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強熱減量が6質量%以下、かつCaOを90質量%以上含有し、ブレーン比表面積が3000〜7000cm/gである膨張材用生石灰粉末であって、粒径が90μmから1mmの範囲の生石灰粉末のBET比表面積が2.0m/g以下である、膨張材用生石灰粉末。
【請求項2】
生石灰粉末75質量%および無水石膏25質量%の混合物75質量%と普通ポルトランドセメント25質量%との混合粉末を、等温伝導型熱量計を用いて測定した水和発熱速度曲線において、第2発熱ピークが接水後2時間以降においてのみ現れる、請求項1記載の膨張材用生石灰粉末。
【請求項3】
請求項1または2記載の膨張材用生石灰粉末と無水石膏粉末とを含む早期脱型コンクリート用膨張材であって、生石灰:無水石膏の割合が、30:70〜90:10である、早期脱型コンクリート用膨張材。
【請求項4】
水硬性結合材料および水を含むコンクリート組成物であって、水硬性結合材料が、請求項3記載の膨張材とセメントとを含み、膨張材の含有量が、膨張材とセメントとの合計量に対して3〜9質量%であり、水/(セメント+膨張材)質量比が45〜60%である、早期脱型コンクリート組成物。
【請求項5】
請求項4記載の早期脱型コンクリート組成物を用いて打設・養生し、早期脱型コンクリート組成物の膨張が収束する時間までに脱型する、コンクリート構造物の構築方法。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図9】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate