説明

膨隆剤組成物および膨隆剤製造方法

【課題】生体への安全性が高く、カテーテルによる患部への注入が容易でありながら、患部を隆起させた状態を安定に保持する。
【解決手段】20〜100重量%の生分解性ポリエステルを含む疎水性ブロックと、50〜100重量%のポリエチレングリコールを含む親水性ブロックとを含み、分子量が1500〜70000であるトリブロック共重合体を含む膨隆剤組成物を提供する。本発明によれば、体内への注入時はゾル状態で、注入後はゲル状態で、膨隆剤を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨隆剤組成物および膨隆剤製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、胃や腸など消化管粘膜上に形成されたポリープや癌などの治療方法として、内視鏡的粘膜剥離術による病変部位の切除が行われている。内視鏡下で病変部位の識別を容易にして切除すべき部位を的確に切除するために、病変部位の粘膜下層にあらかじめ膨隆剤を注入して切除すべき部位を隆起させる方法が用いられている。膨隆剤としては、例えば、生理食塩水やヒアルロン酸溶液などが用いられている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
【0003】
一方、温度によりゾル状態とゲル状態との間で状態変化する温度応答性材料が知られている。例えば、特許文献3に記載のプルロニックは、室温と体温との間にゲル転移温度を有する。また、特許文献4に記載のトリブロック共重合体は、親水性のポリエチレングリコール(PEG)と疎水性のポリエステルからなる生分解性の組成物であり、成分含量、分子量、濃度など様々なパラメータによりゲル転移温度、ゲル化時の強度、溶解性などが大きく変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−192336号公報
【特許文献2】国際公開第2002/056914号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2003/087019号パンフレット
【特許文献4】特表2002−516910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、膨隆剤として生理食塩水のように粘性が低い溶液を用いた場合、切開した部位から容易に漏出して隆起が消失してしまうため繰り返し注入する必要がある。したがって、手術の進行の妨げとなり、膨隆剤にかかる費用も増加するという不都合がある。膨隆剤として高分子のヒアルロン酸溶液のように粘性が高いものを用いた場合、細径のカテーテル内を通過させて患部に注入させるには高い注入圧が必要となるため操作が困難であり医師の大きな負担となっている。また、粘性の高い膨隆剤を用いても、食道などの蠕動運動が激しい器官では漏出が著しく、病変部位の隆起を保持させるのに有効な手段とはなっていない。
【0006】
また、温度応答性材料を医療用として使用するには生体適合性が高く、生体内で代謝可能、あるいは、人体に毒性を与えずに排せつ可能な大きさまで生体内で分解可能であることが望ましい。しかしながら、従来温度応答性材料として知られているプルロニック等は生分解性ではないため、体内に残留して人体へ影響を及ぼす可能性があり、臨床には適していない。
【0007】
また、特許文献4に記載のトリブロック共重合体は、ゲル状態の温度範囲が広く室温ではすでにゲル化して粘性が高いため、膨隆剤としての実用は難しい。また、トリブロック共重合体は分子量が低いためゲル状態での強度が低く容易に変形し、切除すべき部位を隆起させた後に、切除が完了するまでその形状を安定に保持させるのは困難である。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、生体への安全性が高く、カテーテルによる患部への注入が容易でありながら、患部を隆起させた状態を安定に保持することができる膨隆剤組成物および膨隆剤製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、20〜100重量%の生分解性ポリエステルを含む疎水性ブロックと、50〜100重量%のポリエチレングリコールを含む親水性ブロックとを含み、分子量が1500〜70000であるトリブロック共重合体を含む膨隆剤組成物を提供する。
【0010】
本発明によれば、トリブロック共重合体は、室温と体温との間にゲル転移温度を有する。すなわち、膨隆剤組成物は、患部の粘膜下に注入するときには粘性の低いゾル状態であり、体内に注入後に体温にまで加温されてゲル状態へと変化する。これにより、細径のカテーテルを用いても低い注入圧で容易に注入可能であり、また、患部の切開された隙間から容易に漏出することなく粘膜下に留まらせて、患部を隆起させた状態で十分な時間保持させることができる。
【0011】
また、トリブロック共重合体の分子量を1500〜70000にすることにより、ゲル化後の膨隆剤組成物に十分な強度を付与し、患部の隆起した形状を安定に保持させることができる。また、生分解性ポリエステルは生体内での分解が可能であり、ポリエチレングリコールは生体適合性が高いことが知られている。したがって、これらからなるトリブロック共重合体を用いることにより、膨隆剤組成物の生体への安全性を高めることができる。
【0012】
上記発明においては、前記トリブロック共重合体が、前記疎水性ブロックの両末端に前記親水性ブロックを、または、前記親水性ブロックの両末端に前記疎水性ブロックを結合して構成されていることが好ましい。
【0013】
また、上記発明においては、前記疎水性ブロックが、D,L−ラクチド、D−ラクチド、L−ラクチド、D,L−乳酸、D−乳酸、L−乳酸、グリコリド、グリコール酸およびこれらの共重合体のうちいずれかをモノマーとして合成されたことが好ましい。
このように生体適合性が高く生分解性の分子を用いることで、膨隆剤組成物が患部を切除した後に体内に残留しても、生体内に吸収させることができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記疎水性ブロックが、グリコリドと、該グリコリドに対して0.5〜5.0のモル比のラクチドとを含んでいることが好ましい。
また、上記発明においては、前記疎水性ブロックが、500〜20000の分子量を有し、前記親水性ブロックが、500〜30000の分子量を有することが好ましい。
このようにすることで、膨隆剤組成物がゾル状態のときは粘性を十分に低く抑えながら、ゲル状態へ変化後には十分に高い粘性と強度とを有することができる。
【0015】
また、上記発明においては、直鎖状糖類または環状糖類を含むことが好ましい。
このようにすることで、トリブロック共重合体のゲル転移温度を保ったまま、膨隆剤組成物のゲル状態での強度を向上させることができる。
また、前記直鎖状糖類は、ヒアルロン酸、コンドロイチン酸およびヘパリンのうち少なくともいずれか1つであることが好ましい。
【0016】
また、上記実施形態においては、前記直鎖状糖類が、1万〜500万の分子量を有し、前記トリブロック重合体に対して0.1〜5.0重量%で含まれていることが好ましい。
このようにすることで、ゾル状態における膨隆剤組成物の粘性を抑えてカテーテルによる注入を容易にしながら、ゲル状態において十分な強度を付与することができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記環状糖類が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンのうち少なくとも1つであることが好ましい。
また、上記発明においては、前記環状糖類が、前記トリブロック共重合体に対して0.1〜5.0重量%で含まれていることが好ましい。
このようにすることで、膨隆剤組成物のゲル転移温度およびゾル状態での低い粘性を保ちながら、ゲル状態における強度を向上させることができる。
【0018】
また、本発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の膨隆剤組成物にヒアルロン酸を添加する添加ステップと、該添加ステップにおいてヒアルロン酸を添加された膨隆剤組成物に溶媒を加えて濃度を調整する調整ステップとを含む膨隆剤製造方法を提供する。
本発明によれば、膨隆剤組成物にヒアルロン酸を添加した後、溶媒内に溶解して使用または保存に適した濃度に調整する。これにより、膨隆剤組成物を溶媒で溶解した後にヒアルロン酸を添加する方法と比較して、ゲル状態における膨隆剤の強度を大きく向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、生体への安全性が高く、カテーテルによる患部への注入が容易でありながら、患部を隆起させた状態を安定に保持することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の膨隆剤製造方法を示し、(a)先入れ法および(b)後入れ法を説明する図である。
【図2】本発明の実施例1に係る膨隆剤の相ダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態について、図1を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る膨隆剤組成物は、トリブロック共重合体Aとヒアルロン酸とを含んでいる。
トリブロック共重合体Aは、下記の化1で示され、PEGからなる親水性ブロックと、親水性ブロックの両末端に結合され、PLGA(乳酸・グリコール酸共重合体)からなる疎水性ブロックとから構成されている。トリブロック共重合体Aは、室温と体温との間にゲル転移温度を有する。
【0022】
【化1】

【0023】
トリブロック共重合体Aは、1500〜70000の分子量を有することが好ましい。トリブロック共重合体Aは、分子量が1500を下回ると、ゾル状態のときに所望の強度が得られず、分子量が70000を超えると、体内での分解が困難になる。また、トリブロック共重合体Aは、疎水性ブロックが500〜20000の分子量を、親水性ブロックが、500〜30000の分子量を有することがより好ましい。
【0024】
ヒアルロン酸は、1万〜500万の分子量を有することが好ましい。ヒアルロン酸は、分子量が1万を下回ると、膨隆剤組成物のゲル状態のときの所望の強度が得られず、分子量が500万を超えると、ゾル状態のときの粘性が高くなる。
また、ヒアルロン酸は、トリブロック共重合体Aに対して0.1〜5.0重量%で含まれることが好ましい。ヒアルロン酸のトリブロック共重合体Aに対する濃度が、0.1重量%を下回ると、膨隆剤組成物のゲル状態のときの強度を向上させることが難しく、5.0重量%を超えると、ゾル状態のときの粘性が高くなる。
【0025】
このように構成された膨隆剤組成物からなる膨隆剤Bを製造する膨隆剤製造方法は、図1に示されるように、トリブロック共重合体Aにヒアルロン酸を添加する添加ステップS1と、トリブロック共重合体Aに溶媒を加えて濃度を調整する調整ステップS2とを備えている。溶媒は、例えば、蒸留水やリン酸バッファ(PBS)が用いられる。
【0026】
膨隆剤Bは、図1(a)に示されるように、添加ステップS1でヒアルロン酸が添加されたトリブロック共重合体Aに、調整ステップS2において溶媒を添加して製造(先入れ法)されるのが最も好ましい。なお、図1(b)に示されるように、先に調整ステップS2においてトリブロック共重合体Aの濃度を溶媒で調整してから、添加ステップS1においてヒアルロン酸を添加し(後入れ法)てもよい。
【0027】
このようにして製造された本実施形態の膨隆剤組成物からなる膨隆剤Bは、トリブロック共重合体Aとほぼ同一のゲル転移温度を有し、室温ではゾル状態であり、体温まで加温されるとゲル状態へ変化するようになっている。
【0028】
このように構成された膨隆剤組成物および製造された膨隆剤Bの作用について以下に説明する。
本実施形態に係る膨隆剤組成物からなる膨隆剤Bを用いるには、患者の体内の病変部位へ内視鏡を挿入して患部を確認したら、カテーテルを挿入してその先端を患部の粘膜下に穿刺する。そして、カテーテルの基端側から膨隆剤組成物からなる膨隆剤Bを注入して患部の下部に貯留させると、患部が隆起させられる。膨隆剤Bが患者の体温により加温されてゲル状態に変化したら、隆起した部位の全周を切開して隆起部分を剥離すると、病変部位が切除される。
【0029】
このように、本実施形態によれば、室温と体温との間にゲル転移温度を有する膨隆剤組成物からなる膨隆剤Bを用いることにより、体内への注入時には粘性の低いゾル状態で、また、注入後にはゲル状態で膨隆剤Bが使用される。これにより、細径のカテーテルを用いても、膨隆剤Bを低い注入圧で容易に注入することができる。また、膨隆剤Bは注入後にゲル化して流動性を失うため、切開された部位から膨隆剤Bが容易に漏出することなく粘膜下に留まり、患部の隆起した状態を保持させることができる。
【0030】
また、分子量が1万〜500万のヒアルロン酸をトリブロック共重合体Aに対して0.1〜5.0重量%の濃度で用いることで、ヒアルロン酸を添加することによる膨隆剤Bのゾル状態での粘性の上昇を抑えながら、注入後には患部の膨隆させた状態を維持するのに十分な強度を得ることができる。
【0031】
さらに、膨隆剤Bを先入れ法で製造することにより、後入れ法で製造された膨隆剤Bと比べてゾル状態における強度をさらに向上させ、患部の切除の際に器具などで隆起部位が押圧されても形状が容易に変形することなく、患部の隆起した形状をより安定して保持させることができる。
【0032】
また、生分解性および生体への安全性が確認されているPEG、乳酸およびグリコール酸からトリブロック共重合体Aを構成することにより、膨隆剤組成物およびこれから製造された膨隆剤Bの生体への安全性を確保することができる。
【0033】
なお、上記実施形態においては、膨隆剤組成物がヒアルロン酸を含むこととしたが、これに代えて、他の直鎖状糖類、例えば、コンドロイチン硫酸やヘパリンを含むこととしてもよい。
このようにしても、ヒアルロン酸と同様に、トリブロック共重合体Aのゲル転移温度を保持しつつ膨隆剤組成物のゲル状態における強度を向上させることができる。
また、コンドロイチン硫酸やヘパリンは、ヒアルロン酸と同様に生体への高い安全性が確認されており、膨隆剤組成物の安全性を確保することができる。
【0034】
また、上記実施形態においては、ヒアルロン酸に代えて、環状糖類を含むこととしてもよく、直鎖状糖類と環状糖類の両方を含むこととしてもよい。
環状糖類は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンまたはこれらの混合物であることが好ましい。
このようにしても、トリブロック共重合体Aが有するゲル転移温度を変化させることなく、膨隆剤組成物のゲル状態における強度を向上させ、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0035】
また、シクロデキストリンは生体内で代謝されるので、生体に安全に膨隆剤組成物を使用することができる。また、シクロデキストリンは難溶性の物質を水に溶解させる作用があることが知られており、疎水性ブロックを有するトリブロック共重合体Aの溶媒への溶解度を高めて膨隆剤組成物のゾル状態のときの流動性を向上させる効果が期待できる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の膨隆剤組成物および膨隆剤製造方法についてより詳細に説明する。
〔実施例1〕
本発明の実施例1について以下に説明する。
本実施例に係るトリブロック共重合体は、PEG、D,L−ラクチドおよびグリコリドを、Sn(Oct)の触媒下において150℃で7時間バルク重合して合成する。このようにして合成されたトリブロック共重合体の組成を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
PLGA(疎水性ブロック)およびPEG(親水性ブロック)の分子量は、それぞれ1800および1500である。また、PLGAに含まれるグリコリドとD,L−ラクチドのモル比(LA/GA)は、1:2.4である。
このように構成されたトリブロック共重合体を、10,15,20重量%でそれぞれ蒸留水(pH=7.4、I=0.14)に溶解して膨隆剤を製造した。
【0039】
図2は、製造された各濃度の膨隆剤について、温度を変化させたときの相状態を示す相ダイアグラムである。10〜20重量%の範囲においては、トリブロック共重合体の濃度が低いほどゲル転移温度が高いが、いずれも室温(約25℃)と体温(約37℃)の間にゲル転移温度を有することがわかる。これにより、本実施例の膨隆剤は、体内に注入後に迅速にゲル化することが確認された。
【0040】
〔実施例2〕
本発明の実施例2について以下に説明する。
本実施例に係る膨隆剤組成物は、実施例1のトリブロック共重合体とヒアルロン酸とを含んでいる。ヒアルロン酸は、分子量75万の粉末状のものを用いる。
本実施例の膨隆剤は、トリブロック共重合体に、該トリブロック共重合体に対して1重量%のヒアルロン酸を添加し、これらの混合物にトリブロック共重合体の濃度が10重量%になるように蒸留水を加えて撹拌し製造した(先入れ法)。
【0041】
表2に、本実施例の膨隆剤の最大貯蔵弾性率G’maxを、37℃においてレオメータにより測定した結果を示す。本実施例の比較例として、10重量%のトリブロック共重合体を含みヒアルロン酸を含まない膨隆剤(非添加)と、本実施例と同じ濃度のトリブロック共重合体とヒアルロン酸とを含み、後入れ法により製造した膨隆剤(後入れ法)とについても同様に測定した。
【0042】
【表2】

【0043】
ゲル転移温度は、ヒアルロン酸をトリブロック共重合体に添加することにより若干低下するものの優位な変化は見られず、室温と体温との間に留まっている。最大貯蔵弾性率G’maxは、トリブロック共重合体にヒアルロン酸を添加することにより明らかに向上し、膨隆剤を先入れ法により製造することでさらに向上していることがわかる。これにより、本実施例の膨隆剤組成物からなる膨隆剤を製造する場合、先入れ法により製造することでゲル状態での強度がさらに向上し、体内に注入後により高い強度を有することが確認された。
【0044】
〔実施例3〕
本発明の実施例3について以下に説明する。
本実施例に係る膨隆剤組成物は、実施例1のトリブロック共重合体とコンドロイチン硫酸とを含んでいる。コンドロイチン硫酸は、分子量6〜7万の粉末状のものを用いる。
本実施例の膨隆剤は、トリブロック共重合体に、該トリブロック共重合体に対して1重量%のコンドロイチン硫酸を添加し、これらの混合物にトリブロック共重合体の濃度が15重量%になるように蒸留水を加えて撹拌し製造した(先入れ法)。
【0045】
表3に、本実施例の膨隆剤の最大貯蔵弾性率G’maxおよび貯蔵弾性率G’を、37℃においてレオメータにより測定した結果を示す。本実施例の比較例として、15重量%のトリブロック共重合体を含みコンドロイチン硫酸を含まない膨隆剤(非添加)についても同様に測定した。
【0046】
【表3】

【0047】
ゲル転移温度は、コンドロイチン硫酸をトリブロック共重合体に添加することにより若干低下するものの優位な変化は見られず、室温と体温との間に留まっている。最大貯蔵弾性率G’maxは、トリブロック共重合体にコンドロイチン硫酸を添加することにより明らかに向上した。また、貯蔵弾性率G’も非添加では14.7Paであるのに対し、添加では147Paと著しく上昇していることがわかる。これにより、本実施例の膨隆剤組成物からなる膨隆剤を製造する場合、コンドロイチン硫酸を添加することでゲル状態での強度がさらに向上し、体内に注入後により高い強度を有することが確認された。
【0048】
〔実施例4〕
本発明の実施例4について以下に説明する。
本実施例に係る膨隆剤組成物は、実施例1のトリブロック共重合体とヘパリンとを含んでいる。ヘパリンは、分子量4千〜6千の粉末状のものを用いる。
本実施例の膨隆剤は、トリブロック共重合体に、該トリブロック共重合体に対して1重量%のヘパリンを添加し、これらの混合物にトリブロック共重合体の濃度が15重量%になるように蒸留水を加えて撹拌し製造した(先入れ法)。
【0049】
表4に、本実施例の膨隆剤の最大貯蔵弾性率G’maxおよび貯蔵弾性率G’を、37℃においてレオメータにより測定した結果を示す。本実施例の比較例として、15重量%のトリブロック共重合体を含みヘパリンを含まない膨隆剤(非添加)についても同様に測定した。
【0050】
【表4】

【0051】
ゲル転移温度は、ヘパリンをトリブロック共重合体に添加することにより若干低下するものの優位な変化は見られず、室温と体温との間に留まっている。最大貯蔵弾性率G’maxは、トリブロック共重合体にヘパリンを添加することによりやや向上し、貯蔵弾性率G’は、著しく向上した。
【0052】
〔実施例5〕
本発明の実施例5について以下に説明する。
本実施例に係る膨隆剤組成物は、実施例1に記載のトリブロック共重合体と、α−シクロデキストリン(α−CD)を含んでいる。
トリブロック共重合体を10重量%で蒸留水に溶解し、これに1重量%のα−CDを添加して膨隆剤を製造する。
【0053】
このように製造された本実施例の膨隆剤の貯蔵弾性率を、25℃および37℃でそれぞれ測定した結果を表5に示す。また、本実施例の比較例として、10重量%のトリブロック共重合体のみからなる膨隆剤についても測定した。
【0054】
【表5】

【0055】
ゲル転移温度は、トリブロック共重合体にα−CDを添加してもほぼ同一であることがわかる。貯蔵弾性率は、α−CDを添加することにより、ゾル状態(25℃)においては大幅に低下する一方、ゲル状態(37℃)においては比較例と比べて2倍以上増加していることが分かる。
【0056】
このように、トリブロック共重合体にα−CDを添加することで、トリブロック共重合体のゲル転移温度および膨隆剤のゾル状態における低い弾性を維持しながら、膨隆剤のゲル状態における強度を大幅に向上することが確認された。さらに、α−CDを添加することにより膨隆剤の室温での流動性が高くなることが確認された。したがって、本実施例の膨隆剤を用いることにより、注入時の操作性をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0057】
A トリブロック共重合体
B 膨隆剤
S1 添加ステップ
S2 調整ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20〜100重量%の生分解性ポリエステルを含む疎水性ブロックと、50〜100重量%のポリエチレングリコールを含む親水性ブロックとを含み、分子量が1500〜70000であるトリブロック共重合体を含む膨隆剤組成物。
【請求項2】
前記トリブロック共重合体が、前記疎水性ブロックの両末端に前記親水性ブロックを、または、前記親水性ブロックの両末端に前記疎水性ブロックを結合して構成されている請求項1に記載の膨隆剤組成物。
【請求項3】
前記疎水性ブロックが、D,L−ラクチド、D−ラクチド、L−ラクチド、D,L−乳酸、D−乳酸、L−乳酸、グリコリド、グリコール酸およびこれらからなる共重合体のうちいずれかをモノマーとして合成された請求項1または請求項2に記載の膨隆剤組成物。
【請求項4】
前記疎水性ブロックが、グリコリドおよびラクチドを1:0.5〜5.0のモル比で含んでいる請求項1から請求項3のいずれかに記載の膨隆剤組成物。
【請求項5】
前記疎水性ブロックが、500〜20000の分子量を有し、
前記親水性ブロックが、500〜30000の分子量を有する請求項1から請求項4のいずれかに記載の膨隆剤組成物。
【請求項6】
直鎖状糖類または環状糖類を含む請求項1から請求項5のいずれかに記載の膨隆剤組成物。
【請求項7】
前記直鎖状糖類が、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸およびヘパリンのうち少なくとも1つである請求項6に記載の膨隆剤組成物。
【請求項8】
前記直鎖状糖類が、1万〜500万の分子量を有する請求項6または請求項7に記載の膨隆剤組成物。
【請求項9】
前記直鎖状糖類が、前記トリブロック共重合体に対して0.1〜5.0重量%で含まれている請求項6から請求項8のいずれかに記載の膨隆剤組成物。
【請求項10】
前記環状糖類が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンのうち少なくとも1つである請求項6に記載の膨隆剤組成物。
【請求項11】
前記環状糖類が、前記トリブロック共重合体に対して0.1〜5.0重量%で含まれている請求項10に記載の膨隆剤組成物。
【請求項12】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の膨隆剤組成物にヒアルロン酸を添加する添加ステップと、
該添加ステップにおいてヒアルロン酸を添加されたトリブロック共重合体に溶媒を加えて濃度を調整する調整ステップとを含む膨隆剤製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−215562(P2010−215562A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64486(P2009−64486)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】