説明

臓器モデル

【課題】適度な親水性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がる切開感および良好な引張強度を有し、べとつきがなく、手技練習をするのに好適に使用することができる臓器モデル、該臓器モデルに好適に使用することができる臓器モデル用成形材料およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】平均重合度が300〜3500であり、ケン化度が90モル%以上であるポリビニルアルコールからなる架橋ゲルおよびシリカ粒子を含有することを特徴とする臓器モデル用成形材料、平均重合度が300〜3500であり、ケン化度が90モル%以上であるポリビニルアルコール、シリカ粒子、ジメチルスルホキシドおよび水を含有する混合溶液を−10℃以下の温度で冷凍した後、解凍することを特徴とする臓器モデル用成形材料の製造方法および前記臓器モデル用成形材料からなる臓器モデル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器モデルに関する。さらに詳しくは、例えば、人体などの切開や切削縫合などの手術のための手技練習、内視鏡による手技練習などの際に好適に使用することができる臓器モデルならびに該臓器モデルに好適に使用することができる臓器モデル用成形材料およびその製造方法に関する。本発明の臓器モデルは、さらに、手術用メス、手術用ナイフ、レーザーメスなどの手術用切除具の切れ味を確認するときにも好適に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
外科医による手術のなかでも手術用メスなどを用いた心臓などの臓器の執刀は、その執刀によって切開したときの深さが深すぎるとそれが致命傷となることから、生死を分かつ慎重で熟練した技術が要求される作業である。したがって、外科医には、高度の熟練した執刀技術が要求されることから、従来、ブタなどの動物の内部臓器を用いて手技練習が行なわれている。
【0003】
しかし、動物の内部臓器を用いた手技練習では、その内部臓器に鮮度が要求され、手技操作を誤り、練習している者が負傷したとき、その傷口から動物の内部臓器に含まれている病原菌などが感染するおそれがあるとともに、手技練習をする際に使用される器具などの衛生管理や、使用済みの内部臓器の廃棄に多大なコストが必要となる。さらに、手技練習用の動物の内部臓器は、医学生、研修医、開業医などに幅広く普及していないのが現状である。
【0004】
したがって、医師などによる手技練習の際には、その技術向上のため、生体の臓器に類似させた人工臓器モデルが使用されている。従来、人工臓器モデルとして、例えば、シリコーン、ウレタンエラストマー、スチレンエラストマーなどで製造されたモデル主体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、これらの材料からなる臓器モデルは、その素材が撥水性を有するため、人体のような親水性がなく、しかも切開をしたときに切開部が閉じて広がらないため、人体の切削感とはかなり異なることから、医師などが手技練習をするのに適しているとはいえない。
【0006】
また、生体軟組織の模型として、2種類のポリビニルアルコールを溶解させた溶液を生体軟組織の鋳型に注入した後、冷却させることによってゲル化させ、得られた架橋ゲル組成物を鋳型から取り出すことによって得られる模型が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
しかし、この生体軟組織の模型は、その製造段階で原料として2種類のポリビニルアルコールを必要とするため、その組成の調整が煩雑であり、さらにその表面がべとつくとともに脆くて引張強度が小さいため、生体臓器とはかなり相違する切開感を有するという欠点がある。
【0008】
したがって、近年、医師、医学系大学、外科系病院などから、適度な親水性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がる切開感および良好な引張強度を有し、べとつきがなく、手技練習をするのに好適に使用することができる臓器モデルの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-241988号公報
【特許文献2】特開2007-316434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、適度な親水性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がる切開感および良好な引張強度を有し、べとつきがなく、手技練習をするのに好適に使用することができる臓器モデル、該臓器モデルに好適に使用することができる臓器モデル用成形材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
(1)平均重合度が300〜3500であり、ケン化度が90モル%以上であるポリビニルアルコールからなる架橋ゲルおよびシリカ粒子を含有することを特徴とする臓器モデル用成形材料、
(2)平均重合度が300〜3500であり、ケン化度が90モル%以上であるポリビニルアルコール、シリカ粒子、ジメチルスルホキシドおよび水を含有する混合溶液を−10℃以下の温度で冷凍した後、解凍することを特徴とする臓器モデル用成形材料の製造方法、
(3)前記(1)に記載の臓器モデル用成形材料からなる臓器モデル、ならびに
(4)前記(1)に記載の臓器モデル用成形材料からなる表面層を有する臓器モデル
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の臓器モデル用成形材料は、適度な親水性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がる切開感および良好な引張強度を有し、べとつきがないので、手技練習をする際に使用される臓器モデルなどに好適に使用することができる。
【0013】
本発明の臓器モデル用成形材料の製造方法によれば、適度な親水性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がる切開感および良好な引張強度を有し、べとつきがない臓器モデル用成形材料を製造することができる。
【0014】
本発明の臓器モデルは、少なくともその表面が前記臓器モデル用成形材料で構成されているので、適度な親水性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がる切開感および良好な引張強度を有し、べとつきがないので、例えば、手技練習をする際に使用される臓器モデルなどとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は、前記した従来の臓器モデルが抱えている技術的課題に着目して鋭意研究を重ねたところ、臓器モデルを構成する材料として、平均重合度が300〜3500であり、ケン化度が90モル%以上であるポリビニルアルコールからなる架橋ゲルおよびシリカ粒子を含む材料からなる表面層を有する臓器モデルは、適度な親水性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がる切開感および良好な引張強度を有し、べとつきがないので、医師などが手技練習をするのに好適に使用することができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0016】
本発明の臓器モデル用成形材料は、臓器モデルの表面層を形成するものであってもよく、あるいは臓器モデル全体を構成するものであってもよい。なお、本発明の臓器モデル用成形材料が臓器モデルの表面層を形成する場合、本発明の臓器モデル用成形材料は、臓器モデル用表面材料として用いられる。
【0017】
本発明の臓器モデル用成形材料は、平均重合度が300〜3500であり、ケン化度が90モル%以上であるポリビニルアルコールからなる架橋ゲルおよびシリカ粒子を含有する。架橋ゲルは、良好な引張強度を有する臓器モデル用成形材料を製造する観点から、ジメチルスルホキシドを用いて架橋された架橋ゲルであることが好ましい。
【0018】
本発明の臓器モデル用成形材料は、例えば、平均重合度が300〜3500であり、ケン化度が90モル%以上であるポリビニルアルコール、シリカ粒子、ジメチルスルホキシドおよび水を含有するポリビニルアルコール混合溶液を−10℃以下の温度に冷却した後、解凍することによって容易に製造することができる。
【0019】
ポリビニルアルコールの粘度法で求められる平均重合度は、本発明の臓器モデル用成形材料の引張強度を高める観点から、好ましくは300以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは1000以上であり、ヒトの臓器に近似した適度な弾性を付与する観点から、好ましくは3500以下、より好ましくは3000以下、さらに好ましくは2500以下である。
【0020】
また、ポリビニルアルコールのケン化度は、本発明の臓器モデル用成形材料の引張強度を高める観点から、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上である。ポリビニルアルコールのケン化度の上限値には限定がなく、高ければ高いほど好ましく、完全ケン化のポリビニルアルコールがさらに好ましい。
【0021】
ポリビニルアルコールは、通常、ジメチルスルホキシドと水との混合溶媒、当該混合溶媒に用いられる水、または当該混合溶媒にシリカ粒子が添加された混合液に添加することができる。
【0022】
ポリビニルアルコールの量は、ポリビニルアルコール、シリカ粒子、ジメチルスルホキシドおよび水を含有する混合溶液におけるポリビニルアルコールの含有量が、本発明の臓器モデル用成形材料の引張強度を高める観点から、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上となるように調整し、ポリビニルアルコールの溶解性の向上およびべとつきの防止の観点から、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下となるように調整することが望ましい。
【0023】
ポリビニルアルコールを添加する際には、ポリビニルアルコールの溶解性を高める観点から、前記混合溶媒、混合溶媒に用いられる水または混合液を加熱しておくことが好ましい。前記加熱する際の温度は、特に限定されないが、通常、60〜95℃程度であればよい。
【0024】
ジメチルスルホキシドと水との割合(ジメチルスルホキシド/水:容量比)は、本発明の臓器モデル用成形材料の引張強度を高める観点から、好ましくは50/50以上、より好ましくは60/40以上、さらに好ましくは70/30以上であり、本発明の臓器モデル用成形材料の表面のべとつきを抑制し、親水性を高める観点から、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、さらに好ましくは85/15以下である。
【0025】
本発明の臓器モデル用成形材料は、シリカ粒子を含有する。本発明の臓器モデル用成形材料には、このようにシリカ粒子が用いられているので、その製造の際に従来のようにポリビニルアルコール溶液の冷解凍を何度も繰り返したりしなくても、適度な親水性を有し、その表面がべとつかず、引張強度が大きい臓器モデル用成形材料が得られる。
【0026】
シリカ粒子の粒子径は、前記混合溶液における分散安定性および本発明の臓器モデル用成形材料の平滑性を高める観点から、3〜100nm程度であることが好ましい。
【0027】
シリカ粒子は、例えば、コロイダルシリカとして用いることが好ましい。コロイダルシリカにおけるシリカ粒子の含有量は、コロイダルシリカにおけるシリカ粒子の分散安定性などの観点から、3〜40重量%程度であることが好ましい。コロイダルシリカは、例えば、日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックス(登録商標)などとして商業的に容易に入手することができる。
【0028】
シリカ粒子の量は、水100重量部あたり、本発明の臓器モデル用成形材料の引張強度を高め、べとつきを防止し、適度な親水性を付与する観点から、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.05重量部以上、さらに好ましくは0.1重量部以上であり、本発明の臓器モデル用成形材料の柔軟性を高める観点から、好ましくは50重量部以下、より好ましくは30重量部以下、さらに好ましくは20重量部以下である。なお、前記水の量には、シリカ粒子としてコロイダルシリカを使用した場合には、当該コロイダルシリカに含まれる水の量が含まれる。
【0029】
前記混合溶液には、表面層の乾燥を防止する観点から、多糖類を添加することが好ましい。多糖類としては、例えば、キチン、脱アセチル化キチン、キトサン、キトサンアセテート、キトサンマレエート、キトサングリコネート、キトサンソルベート、キトサンホルメート、キトサンサリチレート、キトサンプロピオネート、キトサンラクテート、キトサンイタコネート、キトサンナイアシネート、キトサンガラート、キトサングルタメート、カルボキシメチルキトサン、アルキルセルロース、ニトロセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、コラーゲン、アルギネート、ヒアルロン酸、ヘパリンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、本発明の臓器モデル用成形材料の乾燥を防止する観点から、キトサンおよびその誘導体が好ましく、キトサンがより好ましい。
【0030】
キトサンは、例えば、エビ、カニ、イカなどの甲殻類に由来のキチンを脱アセチル化させたものなどが挙げられる。キトサンは、商業的に容易に入手することができる。キトサンは、通常、粉末の形態で使用することができる。キトサンの分子量は、特に限定されないが、通常、好ましくは10000〜200000、より好ましくは10000〜40000である。
【0031】
多糖類の量は、その種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、ポリビニルアルコール100重量部あたり、本発明の臓器モデル用成形材料の乾燥を防止する観点から、好ましくは0.3重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、さらに好ましくは1重量部以上であり、本発明の臓器モデル用成形材料が適度な弾力性を有するようにする観点から、好ましくは300重量部以下、より好ましくは250重量部以下、さらに好ましくは200重量部以下である。
【0032】
多糖類は、分散安定性を高める観点から、通常、水溶液として用いることが好ましい。多糖類水溶液は、例えば、酢酸、塩酸、乳酸などの酸の水溶液に濃度が0.5〜10重量%程度となるように溶解させることによって得ることができる。なお、この水溶液は、必要により、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基性物質で中性〜塩基性に調整してもよい。
【0033】
なお、前記混合溶液には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、顔料、染料などの着色剤、香料、酸化防止剤、防黴剤、抗菌剤などの添加剤を適量で添加してもよい。これらの添加剤は、通常、分散安定性の観点から、前記混合溶液に添加することが好ましい。本発明の臓器モデルを人体の臓器と近似させるために、前記混合溶液を着色剤で人体の臓器に近似した色とに着色することが好ましい。
【0034】
次に、前記混合溶液を−10℃以下の温度で冷凍した後、解凍することにより、臓器モデル用成形材料が得られる。
【0035】
本発明の臓器モデル用成形材料からなる臓器モデルを製造する場合、例えば、臓器の形態に対応した内面形状を有する成形型内に前記混合溶液を注入し、前記成形型内の混合溶液を−10℃以下の温度に冷却し、形成された架橋ゲルを解凍することにより、臓器モデルを製造することができる。
【0036】
また、本発明の臓器モデル用成形材料をシート状で製造する場合、例えば、前記混合溶液を容器などに所定の深さとなるように注入してシート状にした後、−10℃以下の温度に冷却する。なお、容器は、樹脂製容器、金属製容器などのいずれであってもよい。容器の底面が平坦であってもよく、所望の臓器モデルの形状に応じた内面形状を有するものであってもよい。平板状のシートを形成させる場合には、容器の底面が平坦であることが好ましい。
【0037】
本発明の臓器モデル用成形材料は、引張強度を高めたり、生体の臓器の表面状態に近似させるなどの観点から、その表面に樹脂シートが積層された積層体であってもよい。例えば、シート状の臓器モデル用成形材料と樹脂シートとの積層体は、前記混合溶液上に樹脂シートを載せるかまたは樹脂シート上に前記混合溶液を載せ、得られた混合溶液と樹脂シートとが積層されたシートを−10℃以下の温度に冷却することにより、容易に製造することができる。
【0038】
混合溶液上に樹脂シートを載せ、得られた混合溶液と樹脂シートとが積層された積層シートを−10℃以下の温度に冷却する場合、例えば、混合溶液を−10℃以下の温度に冷却する前に、この混合溶液を底面が平坦な容器に所望の深さとなるように入れ、その上面に樹脂シートを載置すればよい。また、樹脂シート上に混合溶液を載せ、得られた混合溶液と樹脂シートとが積層されたシートを−10℃以下の温度に冷却する場合、例えば、混合溶液を−10℃以下の温度に冷却する前に、樹脂シートを底面が平坦な容器に入れておき、その上面に混合溶液を所望の深さとなるように入れればよい。
【0039】
樹脂シートとして、形成される架橋ゲルとの密着性に優れているものを用いることが好ましい。好適な樹脂シートとしては、例えば、ポリビニルアルコールフイルム、塩化ビニル樹脂シート、ポリ塩化ビニリデンフイルム、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂からなる樹脂シート、ポリエステルフイルム、ポリウレタンフイルム、ナイロンフイルムなどのポリアミドフイルムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの樹脂シートのなかでは、ポリビニルアルコールフイルムは、形成される架橋ゲルとの密着性に優れていることから好ましい。商業的に容易に入手しうるポリビニルアルコールフイルムとしては、例えば、日本合成化学工業(株)製、商品名:ボブロン(登録商標)などの二軸延伸ポリビニルアルコールフイルムなどが挙げられる。
【0040】
なお、前記樹脂シートは、孔が多数設けられているネット状の樹脂シートであってもよい。ネット状の樹脂シートとしては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ナイロンなどの樹脂からなるネット状の樹脂シートが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。ネット状の樹脂シートの目開きは、特に限定されないが、通常、0.1〜3mm程度であればよい。
【0041】
樹脂シートの厚さは、その樹脂シートを構成している樹脂の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、0.03〜2mm程度である。
【0042】
混合溶液を冷却するときの温度は、本発明の臓器モデル用成形材料の引張強度を高める観点から、−10℃以下、より好ましくは−15℃以下、さらに好ましくは−20℃以下であり、本発明の臓器モデル用成形材料の製造効率を高める観点から、好ましくは−35℃以上、より好ましくは−30℃以上である。
【0043】
混合溶液を前記温度で冷却する時間は、本発明の臓器モデル用成形材料の引張強度を高める観点およびその製造効率を高める観点から、好ましくは1〜10時間程度、より好ましくは3〜8時間程度である。
【0044】
混合溶液を所望の温度で所望の時間冷却することによって混合溶液が凍結するが、そのときに混合溶液がゲル化するので、シリカ粒子を含有する架橋ゲルが形成される。
【0045】
次に、このようにして得られたシリカ粒子を含有する架橋ゲルを解凍する。架橋ゲルは、例えば、室温中に放置することによって自然解凍させてもよく、あるいは加熱することによって解凍させてもよいが、エネルギー効率を高める観点から、自然解凍が好ましい。架橋ゲルを解凍させるときの温度は、特に限定されず、通常、室温〜40℃程度であればよい。
【0046】
解凍した架橋ゲルは、必要により、加熱することができる。架橋ゲルを加熱することにより、架橋ゲルを構成している架橋ゲル組織の均一化を図ることができる。架橋ゲルの加熱は、例えば、乾燥室内で行なうことができる。架橋ゲルの温度は、架橋ゲル組織の均一化を図る観点から、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上であり、ゲル弾性の低下を抑制する観点から、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。架橋ゲルの温度を前記温度に調整する時間は、その温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、架橋ゲル組織の均一化を図る観点から、0.5〜3時間程度であることが好ましい。架橋ゲルの温度調整を行なった後は、架橋ゲルを室温まで放冷すればよい。
【0047】
以上の操作により、架橋ゲルおよびシリカ粒子を含有する本発明の臓器モデル用成形材料が得られる。本発明の臓器モデル用成形材料は、そのままの状態で臓器モデル用成形材料として使用することができるが、必要により、所定の大きさとなるように裁断してもよい。本発明においては、臓器の形態に対応した内面形状を有する成形型内に前記混合溶液を注入し、前記成形型内の混合溶液を−10℃以下の温度に冷却し、形成された架橋ゲルを解凍することにより、臓器モデル用成形材料からなる臓器モデルを製造してもよい。
【0048】
ところで、従来の2種類のポリビニルアルコールを用い、溶媒としてジメチルスルホキシドと水を用いたゲルの製造方法では、混合溶液の冷解凍の操作を複数回繰り返す必要がある。
【0049】
これに対して、本発明では、原料として、シリカ粒子とポリビニルアルコールとが併用されているので、従来のように混合溶液の冷解凍の操作を複数回繰り返さなくても、混合溶液の冷解凍を1回行なうだけで効率よく良好な引張強度を有する架橋ゲルを得ることができる。なお、前記冷解凍の操作は、必要により、複数回繰り返してもよい。
【0050】
本発明の臓器モデル用成形材料をシート状にするとき、そのシートの厚さは、目的とする臓器モデルの種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、刃物による切開性を高める観点から、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上であり、軽量化および経済性の観点から、好ましくは30mm以下、より好ましくは25mm以下である。
【0051】
刃物としては、例えば、人体などの切開や切開縫合などの手術のための手技練習、内視鏡による手技練習などの際に使用される手術用メス、手術用ナイフ、レーザーメスなどの手術用切除具などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0052】
本発明の臓器モデルは、前記臓器モデル用成形材料からなるものであってもよく、前記臓器モデル用成形材料からなる表面層を有するものであってもよい。なお、表面層は、前記臓器モデル用成形材料のみで構成されていてもよく、前記臓器モデル用成形材料中に添加剤などが添加されたものであってもよく、あるいは前記臓器モデル用成形材料と樹脂シートや不織布などとの積層シートであってもよい。
【0053】
本発明の臓器モデルは、軽量化を図るとともに実際の臓器に近似させる観点から、前記臓器モデル用成形材料からなる表面層を有し、その内部が空洞であることが好ましい。
【0054】
前記臓器モデル用成形材料からなる表面層を有し、その内部が空洞である臓器モデルは、例えば、その内部が空洞であるバルーンの表面に前記臓器モデル用成形材料からなる表面層を形成させることによって製造することができるほか、シート状の臓器モデル用成形材料を湾曲させて筒状にし、そのシートの端部同士を接着することによって製造することができる。
【0055】
前記バルーンは、臓器モデルの原型をなすものである。バルーンの大きさおよびその形状は、臓器の種類によって異なるので一概には決定することができないため、その臓器の種類などに応じて適宜決定することが好ましい。
【0056】
バルーンは、目的とする臓器の形状を有する臓器モデルを製造する観点から、容易に変形させることができる内部が空洞のバルーンであることが好ましい。バルーンとしては、例えば、容易に変形させることができる樹脂製のバルーン、天然ゴム、シリコーンゴムなどに代表されるゴム製のバルーンなどが挙げられる。これらのなかでは、例えば、天然ゴム、シリコーンゴムなどからなるゴム風船に代表されるゴム製のバルーンは、伸縮性を有することから好適に使用することができる。バルーンの厚さは、特に限定がなく、所望の臓器形状に形づくることができるとともに、容易にその形状を変形させることができる厚さであればよい。
【0057】
バルーンの大きさは、その外周に前記臓器モデル用成形材料からなる表面層が形成されることから、前記臓器モデル用成形材料からなる表面層の厚さなどを考慮して、目的とする臓器よりも小さくし、前記臓器モデル用成形材料からなる表面層が形成されたときに、目的とする臓器モデルの大きさとなるように調整することが好ましい。
【0058】
前記臓器モデル用成形材料からなる表面層を有し、その内部が空洞である臓器モデルは、例えば、その内部が空洞であるバルーンを前記臓器モデル用成形材料で包み込み、必要により余剰の前記臓器モデル用成形材料を除去し、その成形材料の端部同士を接着する方法、シート状の臓器モデル用成形材料を湾曲させて筒状にし、必要により余剰の前記臓器モデル用成形材料を除去し、その端部同士を接着する方法などによって製造することができる。
【0059】
前記シート状の臓器モデル用成形材料の厚さは、特に限定されないが、通常、1〜20mm、好ましくは1〜10mm程度であることが好ましい。前記シート状の臓器モデル用成形材料の厚さは、例えば、ローラーなどを用いて圧延することにより、容易に調整することができる。この圧延操作により、臓器モデル用成形材料に含まれている余分な水分を容易に除去することができる。
【0060】
臓器モデル用成形材料の大きさおよび形状は、臓器モデルの種類などによって異なるので、一概には決定することができず、特に限定されないが、例えば、バルーンを用いる場合には、通常、バルーンを包み込むことができる大きさおよび形状であればよく、また大腸や小腸などの腸管を製造する場合には、その腸管に応じた大きさおよび形状であればよい。また、例えば、前記臓器モデル用成形材料で臓器に対応する形状および大きさを有する臓器モデルを製造する場合には、臓器モデル用成形材料自体が臓器モデルの形状および大きさとなる。
【0061】
前記バルーンを用いる場合には、バルーンを臓器モデル用成形材料で包み込み、その端部同士を接着させればよい。その端部を接着させる方法としては、例えば、熱融着によって接着させる方法、接着剤によって接着させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、接着剤を必要とせず、生産効率が高められることから、熱融着によって接着させる方法が好ましい。
【0062】
なお、臓器モデル用成形材料の端部を接着する前に、臓器モデルからその内部に含まれているバルーンを除去した場合には、臓器モデル用成形材料からなる表面層のみで形成され、その内部が空洞である臓器モデルを製造することができる。また、臓器モデルからその内部に含まれているバルーンを除去しない場合には、内部が空洞であるバルーンの表面に臓器モデル用成形材料からなる表面層が形成された臓器モデルを製造することができる。この場合、臓器モデル用成形材料からなる表面層の形状を保持する観点から、その表面層の下面に樹脂シート、樹脂製のネットや不織布などが設けられていることが好ましい。
【0063】
表面層の下面に樹脂シート、樹脂製のネットや不織布などが設けられている臓器モデルは、その内部の空洞部分に、後述する液体またはゲルが充填されている場合、充填されている液体またはゲルと、その表面層を形成している臓器モデル用成形材料とが直接接触することを防止することができる。
【0064】
表面層の下面に不透水性の樹脂シートが設けられ、その内部に液体またはゲルが充填されている臓器モデルは、人体などの切開や切削縫合などの手術のための手技練習の際に、切開による創傷が深すぎて適切でないとき、樹脂シートが切り裂かれ、その内部に充填されている液体やゲルが創傷口から漏出するので、適切な手技練習が行なわれているかどうかを容易に確認することができる手技練習用の臓器モデルとして好適に使用することができる。
【0065】
また、表面層の下面に樹脂製のネットや不織布が設けられている臓器モデルは、人体などの切開や切削縫合などの手術のための手技練習の際に、切開による創傷が深すぎて適切でないとき、樹脂製のネットや不織布が切り裂かれ、その切り裂かれるときの感触により、適切な手技練習が行なわれているかどうかを容易に確認することができる手技練習用の臓器モデルとして好適に使用することができる。
【0066】
内部に空洞を有する臓器モデルにおいて、その内部は、臓器の種類によっては空洞のままであってもよいが、必要により、液体やゲルをその内部に充填することができる。
【0067】
例えば、液体として、血液と同様の色彩を有する液体を臓器モデルの内部の空洞に充填した場合には、その臓器モデル内に血液状の液体が充填された臓器モデルを製造することができる。この臓器モデルは、人体などの切開や切削縫合などの手術のための手技練習の際に、切開による創傷が深すぎて適切でないとき、その内部に充填されている液体が創傷口から漏出するので、適切な手技練習が行なわれているかどうかを容易に確認することができる手技練習用の臓器モデルとして好適に使用することができる。
【0068】
また、臓器モデルの内部の空洞にゲルを充填した場合には、その臓器モデル内に、その臓器を構成している臓器の組織物と同様の色彩や硬さなどを有する臓器の組織物状のゲルが充填された臓器モデルを製造することができる。この臓器モデルは、人体などの切開や切削縫合などの手術のための手技練習の際に、切開による創傷が深すぎて適切でないとき、その内部に充填されているゲルが創傷口から漏出するので、実践に即して適切な手技練習が行なわれているかどうかを容易に確認することができる手技練習用の臓器モデルとして好適に使用することができる。
【0069】
臓器モデルの内部に充填されるゲルには特に限定がなく、流動性を有するものから寒天状の高いゲル強度を有するものまで、生体臓器の種類に応じて幅広いゲル強度を有するゲルを臓器モデルの内部の空洞部分に充填することができる。ゲルとしては、例えば、混合溶液を冷解凍することによって得られるゲル、吸水性樹脂に水を吸収させたゲル、寒天、ゼリーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、ゲルには、その臓器の種類に応じ、その臓器内の組織に近似した性状を有するゲルを用いることが好ましい。また、ゲルには、必要により、例えば、顔料、染料などの着色剤、香料、酸化防止剤、防黴剤、抗菌剤などの添加剤が適量で添加されていてもよい。
【0070】
内部が空洞であるバルーンの表面に臓器モデル用成形材料からなる表面層が形成された臓器モデルは、その内部の空洞部分に液体またはゲルが充填されている場合、バルーンにより、充填されている液体またはゲルと、その表面層を形成している臓器モデル用成形材料とが直接接触することを防止することができる。この臓器モデルは、人体などの切開や切削縫合などの手術のための手技練習の際に、切開による創傷が深すぎて適切でないとき、バルーンが切り裂かれ、その内部に充填されている液体やゲルが創傷口から漏出するので、適切な手技練習が行なわれているかどうかを容易に確認することができる手技練習用の臓器モデルとして好適に使用することができる。
【0071】
本発明の臓器モデルは、内部が空洞であるバルーン内に、内部が空洞である他のバルーンが挿入され、その外側のバルーンと内側のバルーンとの間隙に液体またはゲルが充填され、外側のバルーンの外表面に臓器モデル用成形材料からなる表面層が形成されているものであってもよい。この臓器モデルは、内側のバルーンの内部を空洞にすることができるので、軽量化やコストの低減を図ることができる。この臓器モデルにおいて、外側のバルーンおよび内側のバルーンならびに充填される液体またはゲルは、いずれも、前記と同様であればよい。
【0072】
外側のバルーンと内側のバルーンとの間隙に液体またはゲルが充填された臓器モデルは、例えば、内部が空洞であるバルーン内に、内部が空洞である他のバルーンを挿入し、両者の間隙に液体またはゲルを所定量で充填した後、内側のバルーン内に気体や液体を充填することによって内側のバルーンを膨らませ、外側のバルーンおよび内側のバルーンの開口部を縛るなどの手段によって密封し、次いで、外側のバルーンの外表面に前記と同様にして、表面層を形成することによって製造することができる。この表面層は、前記と同様にして、このバルーンを臓器モデル用成形材料で包み込み、必要により余剰の臓器モデル用成形材料を除去し、その端部同士を接着することにより、製造することができる。
【0073】
また、本発明の臓器モデルは、より一層実際の臓器に近似させる観点から、内部に臓器に対応した形状を有する基体上に、表面層が形成されたものであることが好ましい。
【0074】
内部に臓器に対応した形状を有する基体は、例えば、ポジトロン断層法、核磁気共鳴画像法などのコンピュータ断層撮影法(CT)により、罹患した臓器の形状や大きさを測定し、そのデータに基づいてコンピュータで三次元化処理し、そのデータに基づいて、基材を加工することにより、罹患した臓器と同様の大きさおよび形状を有する基体を製造する方法などによって製造することができる。前記基材としては、例えば、放射線や熱線の照射によって硬化する性質を有するエポキシ樹脂、切削加工が容易な発泡スチロール樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0075】
形成される基体は、臓器と同様の形状を有する。基体の大きさは、その臓器の表面層と同様の厚さの臓器モデル用成形材料からなる表面層を基体上に形成したときに、実物の臓器と同様の大きさとなるように設定することが、実物の臓器に近似させる観点から好ましい。
【0076】
臓器に対応した形状を有する基体上に表面層が形成された臓器モデルは、前記バルーンの表面に臓器モデル用成形材料からなる表面層を形成させることによって得られる臓器モデルの製造方法と同様の方法で、例えば、基体を臓器モデル用成形材料で包み込み、必要により余剰の臓器モデル用成形材料を除去し、その端部同士を接着することにより、製造することができる。
【0077】
臓器に対応した形状を有する基体上に表面層が形成された臓器モデルは、罹患している臓器を体外に取り出さなくても、その臓器に近い表面層を有し、その臓器と同様の大きさおよび形状を有する臓器モデルを肉眼で把握することができる。したがって、この臓器モデルは、外科的手術を施す前の手術計画用の臓器モデルとして有用であるのみならず、患者やその家族などに事前に手術に関する説明をする際の説明用の臓器モデルとしても有用である。
【0078】
なお、臓器モデルの表面、その内部や内面には、より実物の臓器に近似させるために、必要により、前記臓器モデル用成形材料を用いて、襞、皺、血管に見立てた管や表面薄膜などを形成させてもよい。
【0079】
以上のようにして本発明の臓器モデル用成形材料を用いることにより、本発明の臓器モデルを製造することができる。
【0080】
本発明の臓器モデルは、その表面層が臓器モデル用成形材料で形成されているので、適度な親水性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がる切開感および良好な引張強度を有し、べとつきがないという優れた性質を有する。したがって、本発明の臓器モデルは、手術練習用臓器モデル、手術用切除具の切れ味の確認用臓器モデルなどとして好適に使用することができる。
【0081】
なお、前記臓器モデルとしては、例えば、脳、心臓、食道、胃、膀胱、小腸、大腸、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、子宮などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0082】
また、本発明の臓器モデルは、ヒトの皮膚などの生体組織と同様の切開感や感触を有するので、例えば、製造された手術用切除具を出荷する前に、その切れ味を検査するための手術用切除具の切れ味検査用の臓器モデル、手術を行なう前に手術用切除具の切れ味を確認するための臓器モデルなどとして使用することもできる。
【実施例】
【0083】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0084】
製造例1(粘性ゲルの製造)
25℃の10%ポリビニルアルコール〔ケン化度:98〜99モル%、平均重合度:1700、(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA−117〕水溶液300mLを1L容のビーカー内に入れた後、このビーカー内に25℃の飽和ホウ砂水溶液300mLを添加し、攪拌することにより、流動性のあるゲルを得た。
【0085】
得られた流動性のゲル約600mLを、あらかじめ25℃の飽和ホウ酸水溶液600mLを入れておいた2L容のビーカー内に添加し、十分に攪拌することにより、粘性ゲルを得た。得られた粘性ゲルに着色剤としてアクリル系水溶性塗料(デルタ社製、商品名:デルタ・セラムコート)を添加することにより、血液に近似した色に着色された粘性ゲルを得た。
【0086】
実施例1
ジメチルスルホキシド160mLと水40mLとを500mL容のビーカーに添加し、十分に混合することにより、混合溶媒を調製した。得られた混合溶媒100mLに、コロイダルシリカ〔日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックスXP、シリカの粒子径:約5nm、シリカの含有量:5重量%〕40mLを前記ビーカー内に添加し、ビーカー内の内容物を均一な組成となるように攪拌した。
【0087】
次に、前記ビーカー内に、平均重合度が1700であり、ケン化度が約98〜99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA−117〕を濃度が10重量%となるように添加した。80℃に加温しながら15分間攪拌することにより、混合溶液を得た。
【0088】
得られた混合溶液に、ヒトの胃袋の色に近い栗色で半透明のアクリル系ポスターカラー〔デルタ社製、商品名:デルタ・セラムコート〕1mLを添加し、均一な組成となるように攪拌した。
【0089】
得られた着色された混合溶液(液温:20℃)を容器内の縦の長さが25cm、横の長さが20cm、高さが7cmであるポリプロピレン製の直方体の樹脂容器内に、深さが約2mmとなるように注ぎ、その上面に二軸延伸ポリビニルアルコールフイルム〔日本合成化学工業(株)製、商品名:ボブロン(登録商標)、厚さ:約14μm〕を気泡が入らないようにして重ねた。
【0090】
次に、前記樹脂容器を冷凍室(室温:−20℃)内に入れ、5時間冷却した後、冷凍室から取り出し、室温となるまで室温中で放置した。
【0091】
次に、得られたシートをこの樹脂容器から取り出し、乾燥器内に入れ、60℃となるまで加熱し、同温度で10分間保持した後、乾燥器から取り出し、放冷した。得られたシートをB5の大きさに裁断し、臓器モデル用成形材料を作製した。
【0092】
次に、空気を吹き込むことにより、人体の胃の大きさよりもひとまわり小さく膨張させた天然ゴム製のゴムバルーン(容量:約0.8L)を用意し、その開口部を閉じた。このゴムバルーンの閉じ口を上方に向けた状態で、前記で得られた臓器モデル用成形材料上に載置した後、その臓器モデル用成形材料の四隅を指でつまんで持ち上げ、ゴムバルーン包み込み、その四隅を纏め、紐で縛り、臓器モデル用成形材料の余剰部分を鋏で切断し、洋梨状の胃袋形状に近似した形状を有する臓器モデルの原形を作製した。
【0093】
この臓器モデルの原形の四隅を縛った部分をはんだごて(100V、30W)で融着し、密閉された袋状に成形した。その後、この成形された臓器モデルの原形に前記と同様にして製造された臓器モデル用成形材料を重ね合わせることにより、より胃袋形状に近似した洋梨状の臓器モデルを作製した。
【0094】
実施例2
実施例1において、ポリビニルアルコールとして、平均重合度が1000であり、ケン化度が約98〜99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA−110〕を用いたこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0095】
実施例3
実施例1において、ポリビニルアルコールとして、平均重合度が2000であり、ケン化度が約98〜99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA−120〕を用いたこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0096】
実施例4
実施例1において、コロイダルシリカの量を2mLに変更したこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0097】
実施例5
実施例1において、コロイダルシリカの量を160mLに変更したこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0098】
実施例6
実施例1において、混合溶液(液温:20℃)を樹脂容器内に注いだ後、その上面に二軸延伸ポリビニルアルコールフイルムを重ねなかったこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0099】
実施例7
実施例1において、二軸延伸ポリビニルアルコールフイルムの代わりにポリエステル製ネット(坪量:50mg/cm2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0100】
実施例8
実施例1と同様にして、洋梨状の胃袋形状に近似した形状を有する臓器モデルを作製した。次に、臓器モデルの表面に針を刺し、内蔵されているゴムバルーンを破裂させて収縮させた後、この臓器モデルの縛られた部分をほどき、ゴムバルーンを取り出すことにより、ゴムバルーンを含まない臓器モデルを得た。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0101】
実施例9
実施例8において、二軸延伸ポリビニルアルコールフイルムの代わりにポリエステル製ネット(坪量:50mg/cm2)を用いたこと以外は、実施例8と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0102】
実施例10
実施例1において、ゴムバルーン内に空気を吹き込む代わりに水150mLを充填し、人体の胃の大きさよりもひとまわり小さく膨張させたゴムバルーンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0103】
実施例11
実施例10において、二軸延伸ポリビニルアルコールフイルムの代わりにポリエステル製ネット(坪量:5g/cm2)を用いたこと以外は、実施例10と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0104】
実施例12
実施例1において、ゴムバルーン内に空気を吹き込む代わりに、製造例1で得られた粘性ゲル150mLを充填し、人体の胃の大きさよりもひとまわり小さく膨張させたゴムバルーンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0105】
実施例13
実施例12において、二軸延伸ポリビニルアルコールフイルムの代わりにポリエステル製ネット(坪量:50mg/cm2)を用いたこと以外は、実施例12と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0106】
実施例14
実施例1において、天然ゴム製のゴムバルーン内に、このゴムバルーンと同様の他の天然ゴム製のゴムバルーンを挿入することにより、ゴムバルーンを2重に重ね合わせた。この外側のゴムバルーンと内側のゴムバルーンとの間隙に、製造例1で得られた粘性ゲル50mLを充填し、内側のゴムバルーン内に空気を吹き込むことにより、外側のゴムバルーンと内側のゴムバルーンを膨らませた後、これらのゴムバルーンの開口部を封鎖したゴムバルーンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0107】
実施例15
実施例14において、二軸延伸ポリビニルアルコールフイルムの代わりにポリエステル製ネット(坪量:50mg/cm2)を用いたこと以外は、実施例14と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0108】
実施例16
ジメチルスルホキシド160mLと水40mLとを500mL容のビーカーに添加し、十分に混合することにより、混合溶媒を調製した。得られた混合溶媒200mLに、コロイダルシリカ〔日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックスXP、シリカの粒子径:約5nm、シリカの含有量:5重量%〕40mLを前記ビーカー内に添加し、ビーカー内の内容物を均一な組成となるように攪拌した。
【0109】
次に、前記ビーカー内に、粘度平均重合度が1700であり、ケン化度が約98〜99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA−117〕を濃度が10重量%となるように添加した。80℃に加温しながら15分間攪拌することにより、混合溶液を得た。
【0110】
得られた混合溶液に、ヒトの胃袋の色に近い栗色で半透明のアクリル系ポスターカラー〔デルタ社製、商品名:デルタ・セラムコート〕1mLを添加し、均一な組成となるように攪拌した。
【0111】
得られた着色された混合溶液(液温:20℃)を容器内の縦の長さが25cm、横の長さが20cm、高さが7cmであるポリプロピレン製の直方体の樹脂容器内に、深さが約2mmとなるように注ぎ、その上面にポリエステル製ネット(坪量:50mg/cm2)を気泡が入らないようにして重ね、混合溶液の深さ方向のほぼ中央部に位置するようにポリエステル製ネットを沈めた。
【0112】
次に、前記樹脂容器を冷凍室(室温:−20℃)内に入れ、5時間冷却した後、冷凍室から取り出し、室温となるまで室温中で放置することにより、ポリビニルアルコールシートを作製した。
【0113】
一方、ポリエステル製ネット(坪量:50mg/cm2)を平坦な台上に置き、市販のポリビニルアルコールを主成分とする洗濯糊をこのポリエステル製ネットに塗布し、その上に前記で得られたポリビニルアルコールシートを重ねて一体化し、その上面から円筒形のローラーで軽く圧延した。得られたシートを反転し、ヘアードライヤー〔松下電器産業(株)製、商品名:ウインドプレスEH5401〕で温風を吹き付けて洗濯糊を乾燥させることにより、積層シートを作製し、得られた積層シートをB5の大きさに裁断することにより、臓器モデル用成形材料を得た。
【0114】
次に、空気を吹き込むことにより、人体の胃の大きさよりもひとまわり小さく膨張させた天然ゴム製のゴムバルーン(容量:約0.8L)を用意し、その開口部を閉じた。
【0115】
前記で得られた臓器モデル用成形材料のポリエステル製ネットが設けられている面を上にして台上に載置した後、ゴムバルーンの閉じ口を上方に向けた状態で置き、その臓器モデル用成形材料の四隅を指でつまんで持ち上げ、ゴムバルーン包み込み、その四隅を纏め、紐で縛り、臓器モデル用成形材料の余剰部分を鋏で切断し、洋梨状の胃袋形状に近似した形状を有する臓器モデルの原形を作製した。
【0116】
この臓器モデルの原形の四隅を縛った部分をはんだごて(100V、30W)で融着し、密閉された袋状に成形した。その後、この成形された臓器モデルの原形に前記と同様にして製造された臓器モデル用成形材料を重ね合わせることにより、胃袋形状に近似した洋梨状の臓器モデルを作製した。
【0117】
実施例17
実施例16と同様にして、洋梨状の胃袋形状に近似した形状を有する臓器モデルを作製した。次に、臓器モデルの表面に針を刺し、内蔵されているゴムバルーンを破裂させて収縮させた後、この臓器モデルの縛られた部分をほどき、ゴムバルーンを取り出すことにより、ゴムバルーンを含まない臓器モデルを得た。
【0118】
実施例18
実施例16において、ゴムバルーン内に空気を吹き込む代わりに水150mLを充填し、人体の胃の大きさよりもひとまわり小さく膨張させたゴムバルーンを用いたこと以外は、実施例16と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0119】
実施例19
実施例16において、ゴムバルーン内に空気を吹き込む代わりに製造例1で得られた粘性ゲル150mLを充填し、人体の胃の大きさよりもひとまわり小さく膨張させたゴムバルーンを用いたこと以外は、実施例16と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0120】
実施例20
実施例16において、天然ゴム製のゴムバルーン内に、このゴムバルーンと同様の他の天然ゴム製のゴムバルーンを挿入することにより、ゴムバルーンを2重に重ね合わせた。この外側のゴムバルーンと内側のゴムバルーンとの間隙に、製造例1で得られた粘性ゲル50mLを充填し、内側のゴムバルーン内に空気を吹き込むことにより、外側のゴムバルーンと内側のゴムバルーンを膨らませた後、これらのゴムバルーンの開口部を封鎖したゴムバルーンを用いたこと以外は、実施例16と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0121】
実施例21
ジメチルスルホキシド160mLと水40mLとを500mL容のビーカーに添加し、十分に混合することにより、混合溶媒を調製した。得られた混合溶媒200mLに、コロイダルシリカ〔日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックスXP、シリカの粒子径:約5nm、シリカの含有量:5重量%〕200mLを前記ビーカー内に添加し、ビーカー内の内容物を均一な組成となるように攪拌した。
【0122】
次に、前記ビーカー内に、粘度平均重合度が1700であり、ケン化度が約98〜99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA−117〕を濃度が10重量%となるように添加した。80℃に加温しながら15分間攪拌することにより、混合溶液を得た。
【0123】
得られた混合溶液に、ヒトの胃袋の色に近い栗色で半透明のアクリル系ポスターカラー〔デルタ社製、商品名:デルタ・セラムコート〕1mLを添加し、均一な組成となるように攪拌した。
【0124】
得られた着色された混合溶液(液温:20℃)を容器内の縦の長さが25cm、横の長さが20cm、高さが7cmであるポリプロピレン製の直方体の樹脂容器内に、深さが約2mmとなるように注ぎ、その上面にナイロン製メルトブロー不織布(坪量:100g/m2)を気泡が入らないように置き、混合溶液の深さ方向のほぼ中央部に位置するように不織布を沈めた。
【0125】
次に、前記樹脂容器を冷凍室(室温:−20℃)内に入れ、5時間冷却した後、冷凍室から取り出し、室温となるまで室温中で放置することにより、ポリビニルアルコールシートを作製した。
【0126】
一方、ナイロン製メルトブロー不織布(坪量:100g/m2)を平坦な台上に置き、市販のポリビニルアルコールを主成分とする洗濯糊をこの不織布に塗布し、その上に前記で得られたポリビニルアルコールシートを重ねて一体化し、その上面から円筒形のローラーで軽く圧延した。得られた複合シートを反転し、ヘアードライヤー〔松下電器産業(株)製、商品名:ウインドプレスEH5401〕で温風を吹き付けて洗濯糊を乾燥させることにより、積層シートを作製した。この積層シートをB5の大きさに裁断することにより、臓器モデル用成形材料を得た。
【0127】
次に、空気を吹き込むことにより、人体の胃の大きさよりもひとまわり小さく膨張させた天然ゴム製のゴムバルーン(容量:約0.8L)を用意し、その開口部を閉じた。
【0128】
前記で得られた臓器モデル用成形材料を台上に載置した後、ゴムバルーンの閉じ口を上方に向けた状態で置き、その臓器モデル用成形材料の四隅を指でつまんで持ち上げ、ゴムバルーンを包み込み、その四隅を纏め、紐で縛り、臓器モデル用成形材料の余剰部分を鋏で切断し、洋梨状の胃袋形状に近似した形状を有する臓器モデルの原形を作製した。
【0129】
この臓器モデルの原形の四隅を縛った部分をはんだごて(100V、30W)で融着し、密閉された袋状に成形した。その後、この成形された臓器モデルの原形に前記と同様にして製造された臓器モデル用成形材料を重ね合わせることにより、胃袋形状に近似した洋梨状の臓器モデルを作製した。
【0130】
実施例22
実施例21と同様にして、洋梨状の胃袋形状に近似した形状を有する臓器モデルを作製した。次に、臓器モデルの表面に針を刺し、内蔵されているゴムバルーンを破裂させて収縮させた後、この臓器モデルの縛られた部分をほどき、ゴムバルーンを取り出すことにより、ゴムバルーンを含まない臓器モデルを得た。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0131】
実施例23
実施例21において、ゴムバルーン内に空気を吹き込む代わりに水150mLを充填し、人体の胃の大きさよりもひとまわり小さく膨張させたゴムバルーンを用いたこと以外は、実施例21と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0132】
実施例24
実施例21において、ゴムバルーン内に空気を吹き込む代わりに、製造例1で得られた粘性ゲル150mLを充填し、人体の胃の大きさよりもひとまわり小さく膨張させたゴムバルーンを用いたこと以外は、実施例21と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0133】
実施例25
実施例21において、天然ゴム製のゴムバルーン内に、このゴムバルーンと同様の他の天然ゴム製のゴムバルーンを挿入することにより、ゴムバルーンを2重に重ね合わせた。この外側のゴムバルーンと内側のゴムバルーンとの間隙に、製造例1で得られた粘性ゲル50mLを充填し、内側のゴムバルーン内に空気を吹き込むことにより、外側のゴムバルーンと内側のゴムバルーンを膨らませた後、これらのゴムバルーンの開口部を封鎖したゴムバルーンを用いたこと以外は、実施例21と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0134】
比較例1
実施例1において、コロイダルシリカを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。
【0135】
比較例2
ポリビニルアルコール粉末(平均重合度:1700、ケン化度:99.0モル%)80gと、ポリビニルアルコール粉末(平均重合度:1800、ケン化度:86〜90モル%)20gとを混合し、ポリビニルアルコール混合物を得た。得られたポリビニルアルコール混合物をジメチルスルホキシドと水との混合溶媒〔ジメチルスルホキシド/水(重量比):80/20〕に120℃に加熱しながら溶解させ、含水率が80重量%のポリビニルアルコール溶液を調製した。
【0136】
得られたポリビニルアルコール溶液を容量が200mLのポリプロピレン製の樹脂容器内に注入した後、この樹脂容器を室温まで冷却した。
【0137】
この樹脂容器の内容物を室温下でエタノール200mL中に2時間浸漬することにより、ジメチルスルホキシドをエタノールに置換して除去し、樹脂容器内の内容物を水中に浸漬した後、その内容物を樹脂容器から取り出した。
【0138】
この内容物を観察したところ、十分にゲル化しておらず、弾力性がほとんどなく、流動性を有し、しかもその表面がべとつくため、この内容物を用いて臓器モデルを製造することができなかった。
【0139】
したがって、平均重合度が1700であり、ケン化度が99.0モル%であるポリビニルアルコールと、平均重合度が1800であり、ケン化度が86〜90モル%であるポリビニルアルコールとを80/20の重量比で混合し、水とジメチルスルホキシドとの混合溶媒に溶解させ、得られたポリビニルアルコールを室温に冷却させても弾性を有するゲルが得られないことがわかる。
【0140】
比較例3
比較例1において、ポリビニルアルコール溶液を容量が200mLのポリプロピレン製の樹脂容器内に注入した後、この樹脂容器を冷却する温度を室温から−20℃に変更し、この温度で24時間冷凍し、次いで室温に戻して解凍したこと以外は、比較例1と同様にしてゲルを調製し、臓器モデルを作製した。その際、比較例1と相違してゲルが得られたが、得られたゲルは、弾力性が小さく、脆くてその表面がべとつくことが確認された。
【0141】
比較例4
厚さが4mmの市販のシリコーンゴムシートをB5の大きさに裁断することにより、臓器モデル用成形材料を作製した。
【0142】
従来の臓器モデルとして、実施例1で用いた臓器モデル用成形材料の代わりに、前記で得られた臓器モデル用成形材料を用いて実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。
【0143】
実験例1
各実施例および各比較例で得られた臓器モデルの物性として、水濡れ性(親水性)、切開感、柔軟性、べとつき感および引張強度を以下の方法にしたがって調べた。その結果を表1に示す。
【0144】
(1)水濡れ性(親水性)
各臓器モデルに水滴を付着させ、臓器モデルの表面状態を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
A:水濡れ性に優れている。
B:水濡れ性が良好である。
C:水触れ性がやや劣る。
D:水濡れ性に劣る。
【0145】
(2)切開感
臓器モデルを手術用メスで切開をしたときの状態を調べ、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
A:切開部が大きく広がる。
B:切開部が問題のない程度に広がる。
C:切開部がやや狭まる。
D:切開部が閉じる。
【0146】
(3)柔軟性
臓器モデルを指触してその柔軟性を調べ、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
A:柔軟性に優れている。
B:柔軟性が良好である。
C:柔軟性がやや劣る。
D:柔軟性に劣る。
【0147】
(4)べとつき感
臓器モデルを指触してそのべとつき感を調べ、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
A:べとつきがまったくない。
B:べとつきがごく僅かにある程度である。
C:べとつきがやや認められる。
D:べとつきが明らかに認められる。
【0148】
(5)引張強度
臓器モデルの両端を両手の親指および人差指でそれぞれ摘まんで引っ張り、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
A:引張強度に優れている。
B:引張強度が良好である。
C:引張強度にやや劣る。
D:引張強度に劣る。
【0149】
なお、比較例2では、ゲルを製造することができなかったため、臓器モデルの物性の測定ができなかった。
【0150】
【表1】

【0151】
表1に示された結果から、各実施例で得られた臓器モデルは、いずれも、ポリビニルアルコールからなる架橋ゲルおよびシリカ粒子を含有するので、適度な親水性および柔軟性を有し、その表面がべとつかず、優れた切開感を有し、引張強度が大きいものであることがわかる。
【0152】
以上のことから、本発明の臓器モデルは、切除・縫合手術練習用の臓器モデルなどとして好適に使用することができる。
【0153】
実施例26
ジメチルスルホキシド160mLと水40mLとを500mL容のビーカーに添加し、十分に混合することにより、混合溶媒を調製した。得られた混合溶媒200mLに、コロイダルシリカ〔日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックスXP、シリカの粒子径:約5nm、シリカの含有量:5重量%〕20mLを前記ビーカー内に添加し、ビーカー内の内容物を均一な組成となるように攪拌した。
【0154】
次に、前記ビーカー内に、粘度平均重合度が1700であり、ケン化度が約98〜99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA−117〕を濃度が10重量%となるように添加した。80℃に加温しながら15分間攪拌することにより、混合溶液を得た。
【0155】
得られた混合溶液に、ヒトの肝臓の色に近い赤茶色で半透明のアクリル系ポスターカラー〔デルタ社製、商品名:デルタ・セラムコート〕1mLを添加し、均一な組成となるように攪拌した。
【0156】
ヒトの肝臓の形態に対応した内面形状を有する石膏製の成形型(上下割の成形型)を作製し、その内面に離型剤を塗布した後、型合わせをし、接合面を密閉し、成形型の上面に設けられた注入孔に前記で得られた着色された混合溶液(液温:20℃)を注いだ。
【0157】
次に、前記成形型を冷凍室(室温:−20℃)内に入れ、5時間冷却した後、冷凍室から取り出し、室温となるまで室温中で放置した。
【0158】
次に、前記成形型を乾燥器内に入れ、60℃となるまで加熱し、同温度で10分間保持した後、乾燥器から取り出し、放冷した。その後、前記成形型を型開きし、得られた臓器モデル(縦:約15cm、横幅:約10cm)を前記成形型から取り出した。
【0159】
前記で得られた人体の肝臓の形態に近似した臓器モデルの物性を実施例1と同様にして、水濡れ性(親水性)、切開感、柔軟性、べとつき感および引張強度を調べたところ、いずれも、実施例1と同様であることが確認された。
【0160】
さらに、前記で得られた人体の肝臓の形態に近似した臓器モデルを外科医に見てもらったところ、この臓器モデルは、人体の肝臓の形態に近似し、人体などの切開や切削縫合などの手術のための手技練習などに適しているとの評価を得ることができた。
【0161】
実施例27
ジメチルスルホキシド160mLと水40mLとを500mL容のビーカーに添加し、十分に混合することにより、混合溶媒を調製した。得られた混合溶媒100mLに、コロイダルシリカ〔日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックスXP、シリカの粒子径:約5nm、シリカの含有量:5重量%〕20mLを前記ビーカー内に添加し、ビーカー内の内容物を均一な組成となるように攪拌した。
【0162】
次に、前記ビーカー内に、粘度平均重合度が1700であり、ケン化度が約98〜99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA−117〕を濃度が10重量%となるように添加した。80℃に加温しながら15分間攪拌することにより、混合溶液を得た。
【0163】
得られた混合溶液に、ヒトの腸管として小腸の色に近い栗色で半透明のアクリル系ポスターカラー〔デルタ社製、商品名:デルタ・セラムコート〕1mLを添加し、均一な組成となるように攪拌した。
【0164】
得られた着色された混合溶液(液温:20℃)を容器内の縦の長さが25cm、横の長さが20cm、高さが7cmであるポリプロピレン製の直方体の樹脂容器内に、深さが約4mmとなるように注ぎ、その上面に二軸延伸ポリビニルアルコールフイルム〔日本合成化学工業(株)製、商品名:ボブロン(登録商標)、厚さ:約14μm〕を気泡が入らないようにして重ねた。
【0165】
次に、前記樹脂容器を冷凍室(室温:−20℃)内に入れ、5時間冷却した後、冷凍室から取り出し、室温となるまで室温中で放置した。得られたシートをこの樹脂容器から取り出し、乾燥器内に入れ、60℃となるまで加熱し、同温度で10分間保持した後、乾燥器から取り出し、放冷した。得られたシートを縦15cm、横6cmの長方形に裁断し、臓器モデル用成形材料を作製した。
【0166】
次に、得られた臓器モデル用成形材料の二軸延伸ポリビニルアルコールフイルムが外表面となるようにして、その短辺方向に湾曲させて円筒状にし、その長辺の端部同士を一体化させるために、前記で得られた混合溶液を前記長辺の端部の接合部に塗布した後、前記と同様にして冷解凍を行なうことにより、小腸形状を有する臓器モデルを作製した。
【0167】
得られた臓器モデルの物性を実施例1と同様にして、水濡れ性(親水性)、切開感、柔軟性、べとつき感および引張強度を調べたところ、いずれも、実施例1と同様であることが確認された。
【0168】
以上のことから、本発明の臓器モデルは、例えば、人体などの切開や切削縫合などの手術のための手技練習、内視鏡による手技練習などの手術練習用臓器モデル、手術用切除具の切れ味の確認用臓器モデルなどとして好適に使用することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度が300〜3500であり、ケン化度が90モル%以上であるポリビニルアルコールからなる架橋ゲルおよびシリカ粒子を含有することを特徴とする臓器モデル用成形材料。
【請求項2】
架橋ゲルが、ジメチルスルホキシドを用いて架橋されてなる架橋ゲルである請求項1に記載の臓器モデル用成形材料。
【請求項3】
原料としてポリビニルアルコール、シリカ粒子、ジメチルスルホキシドおよび水を含有する混合溶液が用いられてなる請求項1または2に記載の臓器モデル用成形材料。
【請求項4】
ポリビニルアルコール、シリカ粒子、ジメチルスルホキシドおよび水を含有する混合溶液を−10℃以下の温度で冷凍した後、解凍してなる請求項1〜3のいずれかに記載の臓器モデル用成形材料。
【請求項5】
その一方表面に樹脂シートが積層されてなる請求項1〜4のいずれかに記載の臓器モデル用成形材料。
【請求項6】
樹脂シートがポリビニルアルコールシートである請求項5に記載の臓器モデル用成形材料。
【請求項7】
平均重合度が300〜3500であり、ケン化度が90モル%以上であるポリビニルアルコール、シリカ粒子、ジメチルスルホキシドおよび水を含有する混合溶液を−10℃以下の温度で冷凍した後、解凍することを特徴とする臓器モデル用成形材料の製造方法。
【請求項8】
水100重量部あたりのシリカ粒子の量が0.01〜50重量部である請求項7に記載の臓器モデル用成形材料の製造方法。
【請求項9】
混合溶液におけるポリビニルアルコールの含有量が1〜40重量%である請求項7または8に記載の臓器モデル用成形材料の製造方法。
【請求項10】
ジメチルスルホキシドと水との割合(ジメチルスルホキシド/水:容量比)が50/50〜95/5である請求項7〜9のいずれかに記載の臓器モデル用成形材料の製造方法。
【請求項11】
混合溶液上に樹脂シートを載せるかまたは樹脂シート上に混合溶液を載せ、得られた混合溶液と樹脂シートとが積層されたシートを−10℃以下の温度に冷却する請求項7〜10のいずれかに記載の臓器モデル成形材料の製造方法。
【請求項12】
樹脂シートがポリビニルアルコールシートである請求項11に記載の臓器モデル成形材料の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかに記載の臓器モデル用成形材料からなる臓器モデル。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれかに記載の臓器モデル用成形材料からなる表面層を有する臓器モデル。
【請求項15】
表面層を有し、その内部が空洞である請求項14に記載の臓器モデル。
【請求項16】
内部が空洞であるバルーンの外表面に表面層が形成されてなる請求項15に記載の臓器モデル。
【請求項17】
その内部の空洞部分に液体またはゲルが充填されてなる請求項15または16に記載の臓器モデル。
【請求項18】
内部が空洞であるバルーン内に、内部が空洞である他のバルーンが挿入され、その外側のバルーンと内側のバルーンとの間隙に液体またはゲルが充填され、外側のバルーンの外表面に表面層が形成されてなる請求項15〜17のいずれかに記載の臓器モデル。
【請求項19】
臓器に対応した形状を有する基体上に、表面層が形成されてなる請求項14に記載の臓器モデル。

【公開番号】特開2011−76035(P2011−76035A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230320(P2009−230320)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(510086202)有限会社聖和デンタル (3)
【Fターム(参考)】