説明

自動ねじ締め装置

【課題】 ねじの斜め締付けによるねじ締め異常を判断して、従来よりも短時間でビットの回転および下降の動作を停止させ、ワークの損傷を最小限に抑制できる自動ねじ締め装置の提供を目的とする。
【解決手段】 モータ21の駆動を受けて回動可能かつねじ61の駆動部に係合可能なビット23を有するドライバツール20と、このドライバツール20を昇降可能な往復移動手段30とを有する自動ねじ締め装置において、
下降する前記ドライバツール20があらかじめ設定した測定開始設定点に到達すれば、ドライバツール20の移動距離の測定を開始する一方、この測定開始から所定の時間間隔で同様の測定を段階的に開始し、これらの測定をあらかじめ設定した測定設定時間が経過するまでそれぞれ行い、それぞれの測定終了直後に測定した距離とあらかじめ設定した判定基準距離とを比較してねじ締め異常か否かを判断する制御手段40を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじあるいは六角ボルト等の締結部品を締結する自動ねじ締め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生産設備の一例である従来の自動ねじ締め装置は、一般的に特許文献1に示すものが知られており以下に説明する。特許文献1に示す従来の自動ねじ締め装置は、円筒状で側面に長穴を形成されたケーシングパイプと、このケーシングパイプ内にスプリングを配し、このスプリングに当接し下方へ付勢される摺動ブッシュを配し、この摺動ブッシュを前記ケーシングパイプから抜けないように規制するストッパリングを有する。前記摺動ブッシュには締結部品の一例であるねじの吸着を可能な吸着パイプが固定されており、この吸着パイプにねじの駆動部と係合可能でかつ回転可能なビットが内挿される。一方、前記摺動ブッシュにはL型のホース継手が固定されて、このホース継手は前記ケーシングパイプの長穴部から突出しており、このホース継手の突出部に係合レバーが固定され、この係合レバーは、吸着パイプの摺動と連動する。また、前記係合レバーの摺動方向に延びるようには、チェック軸が配置され、このチェック軸は係合レバーに当接して摺動可能であるとともに、この摺動状態に応じてチェック軸の端部を検出可能なセンサがねじ無し検出用、他方にはねじ浮き検出用として配置されている。次にこの自動ねじ締め装置の作用について説明する。ねじを吸着した吸着パイプは、軸方向に下降するとその先端が被締結物に当接し、ビットが前記スプリングの撓みによって押し出される形でワーク側に接近する。これにより、ねじの先端と締結物とが当接してビットとねじの駆動部とが嵌合して、ねじはビットの回転を受けて締結物に螺入される。その後、自動ねじ締め装置は、目標の締付けトルクに到達するか、あるいはねじ締め開始からあらかじめ設定した時間(例えば10秒)が経過するとビットの回転および下降の動作を停止するとともに、前記センサの検出信号に基づきねじ無しあるいはねじ浮きのチェックを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平6-37869号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような従来の自動ねじ締め装置において、ねじ締め位置のズレ等によりねじがめねじに螺入されずワーク上に乗り上げたり、ねじが斜めに傾く斜め喰付き等の状態である螺入異常が発生し、ビットが正規のねじ締め完了時点の位置まで到達しないことがある。このように、前記螺入異常が発生してからビットの回転および下降の動作を停止するまでの時間が長いため、作業効率を向上できない問題があった。さらに、前記螺入異常が発生してから短時間でビットの回転および下降の動作を停止できないため、ワークに与える損傷の度合いが高まる問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題に鑑みて創成されたものであり、ねじ締め工程において、ねじの斜め喰付き等によりねじをワークに螺入できない状態となってからビットの回転および下降の動作を短時間で停止させ、ワークに与える損傷を最小限に抑制する自動ねじ締め装置の提供を目的とする。この目的を達成するために、本発明は、 回転駆動源の駆動を受けて回転可能かつ締結部品の駆動部に係合可能なビットを有するドライバツールと、このドライバツールを前記ビットの軸方向に往復移動操作可能に支持した往復移動手段とを有する自動ねじ締め装置において、
前記ドライバツールが所定の位置に到達すればドライバツールの移動距離の測定を開始する一方、この測定の開始から所定の時間経過する度にドライバツールの移動距離の測定を段階的に開始し、これらの測定をあらかじめ設定した時間が経過するまであるいはあらかじめ設定した位置にドライバツールが到達するまで行うとともに、これらの測定終了直後に測定した距離とあらかじめ設定した距離とを比較してねじ締めが正常に行われているか否かを判断し、異常と判断すればねじ締めを中断する制御手段を備えたことを特徴とする。
【0006】
なお、最初のドライバツールの移動距離の測定開始をドライバツールの下降開始直後あるいは、最初のドライバツールの移動距離の計測開始をドライバツールの下降速度の切り替え位置である速度切替設定点にしてもよい。さらに、往復移動手段は、回転駆動源の一例であるACサーボモータと、このACサーボモータに連結したボールねじとから構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の自動ねじ締め装置は、ねじをワークに螺入できない状態となってから短時間でねじ締めを中断しているため、ねじ締め時間の短縮となり、作業効率が向上する利点がある。また、前述のようにねじをワークに螺入できない状態を短縮したことにより、ワークの破損を最小限に抑えてワークの再利用率を高めたため、ワークに掛かるコストを低減できる利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係わる一実施例の自動ねじ締め装置の一部切欠断面図である。
【図2】本発明に係わるねじ締め作業の動作説明図である。
【図3】図2の各ねじ締め時の波形毎の説明図である。
【図4】本発明に係わるねじ締め制御のフローチャートである。
【図5】本発明に係わるねじ締め制御のフローチャートである。
【図6】本発明に係わるドライバツール20の下降速度変更処理のフローチャートである。
【図7】本発明に係わるねじ締め正常か否かを判定する制御のフローチャートである。
【図8】本発明に係わるねじ斜め喰付きか否かを判定する制御のフローチャートである。
【図9】本発明に係わるねじ締め判定後のねじ締め制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1ないし図9に基づき本発明の一実施例を説明する。図1に示すように自動ねじ締め装置10は、締結部品の一例であるねじ61の駆動部と係合可能なビット23を有するドライバツール20と、このドライバツール20を前記ビット23の軸方向に往復移動操作可能に支持した往復移動手段30と、前記ドライバツール20および前記往復移動手段30を制御可能な制御手段40とから構成される。
【0010】
前記ドライバツール20は、その上部に回転駆動源の一例であるACサーボモータ(以下、単にモータ21という)と、このモータ21の出力軸の回転角を検出可能なエンコーダ22とを具備しており、前記モータ21の出力軸に磁化されたビット23が直結されている。
【0011】
前記往復移動手段30は、ベース33に垂直に立設されたロッド34a、34bの上部にモータ取付板35が固定される。このモータ取付板35には回転駆動源の一例であるACサーボモータ(以下、単にモータ31という)と、このモータ31の出力軸の回転角を検出可能なエンコーダ32とが固定されており、前記モータ31の出力軸にはボールねじ36が接続されている。また、このボールねじ36には、ボールねじ36のリードに沿って往復可動するナット部材37が配されており、このナット部材37にブラケット38が固定されている。このブラケット38は、前記ロッド34a、34bのそれぞれに摺動可能に挿通され、その前方には前記ドライバツール20が固定される。よって、前記モータ31の出力軸が回転することで、前記ボールねじ36の回転を受けて昇降するナット部材37を介して、前記ブラケット38および前記ドライバツール20は、ボールねじ36の軸線と平行に昇降する。
【0012】
前記制御手段40は、前記モータ21および前記エンコーダ22に接続されたモータ制御部41と、前記モータ31および前記エンコーダ32に接続されたモータ制御部42と、これらモータ制御部41,42への駆動指令およびプログラム処理等を可能な制御部43と、ねじ各部の寸法データ(ねじのリード、首下長さ等)等からなるねじ締めパラメータ、前記モータ21,31の制御データ(ねじ締めの過程における出力トルクや速度等)および制御プラグラム等を記憶するとともに、ねじ締め結果データおよびねじ締め作業時に生成される一時データ等の記憶領域を有する記憶部44と、各種情報の入力画面およびねじ締め作業における各種情報を表示可能な表示部45と、前記各種データや前記ねじ締めパラメータ等を入力するための入力部46とを備えている。
【0013】
また、図2は、ねじ締め工程におけるドライバツール20の昇降位置および時間の関係とドライバツール20の移動距離(図2の1a等)の測定回数および測定時間の関係を示す。図2の波形A(実線)は、正常なねじ締め時の波形である一方、波形B(一点鎖線)は、ねじ61の軸線とめねじの軸線とがズレてねじ61を螺入できない時の波形であり、波形C(二点鎖線)は、ねじ61が傾いて締結物71に形成されためねじの入り口部とねじ61の先端とが喰付いて螺入できない斜め喰付き時の波形である。
【0014】
本発明の自動ねじ締め装置10は、前記波形Bおよび波形Cのように、ねじ61の締結物71へ螺入できない状態であれば、前記螺入異常と判断して短時間でねじ締めを中断するよう構成されている。このねじ締め異常の判断に必要なデータは、前記ねじ締めパラメータであり、あらかじめ前記記憶部44に保存されている。
【0015】
前記ねじ締めパラメータは、図2に示すドライバツール20の移動距離を測定する時間である「測定設定時間」と、前記ドライバツール20の待機位置である「ねじ締め開始設定点」と、1回目のドライバツール20の移動距離を計測し始めるドライバツール20の昇降位置の「測定開始設定点」と、2回目以降のドライバツール20の移動距離の測定をし始める基準時間の「測定開始間隔時間」と、前記ドライバツール20の下降速度を切り替えるドライバツール20の昇降位置である「速度切替設定点」と、ビット23の推力を切り替えるドライバツール20の昇降位置の「推力切替設定点」と、正常なねじ締めが完了した時点のドライバツール20の昇降位置である「ねじ締め完了設定点」と、ねじ61が締結物71に螺入される際のねじ61の軸方向の移動速度である「螺入速度」と、測定したドライバツール20の移動距離と比較する距離である「判定基準距離」等からなる。
【0016】
前記測定設定時間は、例えば0.7秒に設定されており、この間のドライバツール20の移動距離(以下、測定距離という)の計測が行われる。また、この測定距離は、この計測の開始時点および終了時点のドライバツール20の昇降位置をそれぞれ求めて両者の差を前記制御部43により演算され、前記記憶部44に保存される。
【0017】
前記測定開始設定点は、前記ねじ締め開始設定点から前記速度切替設定点までの区間内に設定されており、1回目の前記測定距離の計測開始の基準となっている。
【0018】
前記測定開始間隔時間は、前記測定設定時間よりも短い時間が設定されており、例えば0.2秒に設定されている。この測定開始間隔時間は、1回目の前記測定距離の計測開始からカウントされ始め、このカウント開始から0.2秒経過する度に2回目、3回目と2回目以降の前記測定距離の計測が開始される。
【0019】
前記速度切替設定点は、下降する前記ビット23に係合したねじ61の先端がワークに触れない位置に設定されており、被締結物72の表面とねじ61の先端との隙間が例えば2mmとなるドライバツール20の昇降位置に設定される。
【0020】
前記推力切替設定点は、ねじ61の頭部が前記被締結物72と当接する直前の位置に設定されており、ねじ61の頭部下面と被締結物72の表面との隙間が例えば0.5mmとなるドライバツール20の昇降位置に設定される。また、前記ドライバツール20がこの推力切替設定点に到達すると、制御部43は、前記螺入異常の発生がないと判断して、今まで行っていた前記測定距離の計測を全て終了させて、目標の締付けトルクに到達するまでねじ締め作業が行われる。
【0021】
つまり、図2に示すように、1回目の前記測定距離の計測は、ドライバツール20が前記測定開始設定点に到達してから前記測定設定時間(0.7秒)が経過するまで行われ、2回目以降の前記測定距離の計測は、1回目の前記測定距離の計測開始から0.2秒間隔毎に開始され、ドライバツール20の昇降位置が前記推力設定切替点に到達するまで重複して行われる。
【0022】
前記ねじ締め完了設定点は、ねじ61の頭部下面が被締結物72の表面に当接した状態(図2の着座位置)でかつ、ビット23の出力トルクが目標の締付けトルクに到達した時点のドライバツール20の昇降位置である。
【0023】
前記螺入速度は、ドライバツール20が前記螺入開始位置から前記着座位置へ到達するまでのドライバツール20の下降速度であり、ねじ61がビット23の回転を受けて前記締結物71に螺入されるビット23の下降速度である。つまり、この螺入速度は、ビット23の回転数およびねじ61のリードに規制されるため、例えば、モータ21の設定回転数が300rpm、ねじ61のリードが0.7mmであれば、300rpm×0.7mm÷60秒=3.5mm/秒と求めることができる。
【0024】
また、図3は、図2の波形Aないし波形Cにおける所定時間(前記測定設定時間:0.7秒)当たりのドライバツール20の移動距離とその測定回数との関係を示す。この図3に示す前記判定基準距離は、前記螺入速度(3.5mm/秒)に前記測定設定時間(0.7秒)を乗じた距離(3.5mm/秒×0.7秒=2.45mm)よりも低く設定されており、螺入異常の判断基準となっている。
つまり、ねじ締め開始から前記推力切替設定点までの間を移動するドライバツール20の下降速度は、図2の波形Aのような正常なねじ締めであれば、前記螺入速度を下回ることがない一方、波形Bあるいは波形Cのような異常なねじ締めであれば、前記螺入速度を下回るため、この速度を測定し、前記螺入速度と比較することでねじ締め異常が判断できる。換言すると、図3に示すように、前記測定設定時間(0.7秒)当たりのドライバツール20の移動距離を測定し、この前記測定距離と前記判定基準距離とを比較すれば前記波形Bあるいは波形Cのような螺入異常が判定できる。
【0025】
一方、前記モータ制御部41は、前記モータ21に生じている実際の負荷電流(以下、実負荷電流という)および前記エンコーダ22から出力される出力パルス信号を常時検出可能に構成されるとともに、これらモータ21の実負荷電流とエンコーダ22の出力パルス信号とを入力し、これらの情報を前記制御部43へ送信している。
【0026】
同様に、前記モータ制御部42は、前記モータ31の実負荷電流および前記エンコーダ32から出力される出力パルス信号を常時検出可能に構成されるとともに、これらモータ31の実負荷電流とエンコーダ32の出力パルス信号とを入力し、これらの情報を前記制御部43へ送信している。
【0027】
前記モータ21の実負荷電流は、モータ21の出力軸に生じている負荷トルク(以下、実負荷トルクという)とほぼ比例関係にあり、このモータ21の実負荷トルクは、ビット23に生じている反力トルクとほぼ一致する。一方、前記モータ31の実負荷電流は、前記ドライバツール20の昇降時に前記ボールねじ36から前記ナット部材37に与えられる前記ボールねじ36の軸方向の押圧力(以下、推力という)とほぼ比例関係にあり、このナット部材37に生じる推力(以下、実ナット推力という)は、ナット部材37の昇降と同期する前記ビット23に生じる推力(以下、実ビット推力という)と相関関係がある。つまり、前記モータ21の実負荷電流は、ねじ61に与える締付けトルク(以下、実出力トルクという)に置き換えられる一方、前記モータ31の実負荷電流は、ビット23がねじ61を押圧する実ビット推力に置き換えることがそれぞれ可能となる。
【0028】
また、前記エンコーダ22,32の出力パルス信号は、前記制御部43によってモータ21,31の出力軸の所定時間に対する回転角度(以下、出力軸回転数という)に変換される。また、前記モータ21の出力軸回転数は、前記ビット23の出力軸回転数と同一であるため、エンコーダ22の出力パルス信号から、ビット23の出力軸回転数を求めることができる。一方、前記モータ31の出力軸回転数は、モータ31の回転方向と前記ボールねじ36のリードとから前記ナット部材37の昇降方向の位置を求めることができる。さらに、前記ナット部材37の昇降と前記ドライバツール20の昇降とは同期するため、前記モータ31の出力軸回転数から前記ドライバツール20の昇降位置を割り出すことができる。また、この割り出したドライバツール20の昇降位置を所定時間測定することで前記ドライバツール20の昇降速度が求められる。なお、これらドライバツール20の昇降位置および昇降速度は、前記制御部43によって求められる。
【0029】
前記モータ21,31は、前記モータ制御部41,42を介し、前記制御部43の駆動指令信号によって駆動しており、この駆動制御は、モータ21,31の出力軸回転数をエンコーダ22,32の出力パルス信号に基づき演算して確認した後、それぞれの出力軸回転数があらかじめ設定された回転数となるようにモータ21,31に与える電流を変更して行われる。
【0030】
つまり、モータ31であれば、前記ドライバツール20の下降速度があらかじめ設定された速度を下回る場合であれば、モータ31に与える電流を増加してあらかじめ設定された速度を発揮させる一方、上回る場合あれば、モータに与える電流を減少させてあらかじめ設定された速度を発揮させる。このとき、モータ31に与える電流の上限を設定すれば、前記実ビット推力を制限でき、ワークに加わる負荷が制限ができる。
【0031】
ここで、ねじ締めの工程における前記モータ31への駆動指令信号について説明する。前記モータ31に指令される駆動指令信号は、ねじ締め開始直後(図2のねじ締め開始設定点)から前記速度切替設定点に到達するまで発せられる第1駆動指令信号と、前記速度切替設定点に到達した直後から前記推力切替設定点に到達するまで発せられる第2駆動指令信号と、前記推力着替設定点に到達した直後から前記ねじ締め完了設定点に到達し、かつ前記実出力トルクが目標の締付けトルクするまで発せられ続ける第3駆動指令信号とに分けられている。前記第1駆動指令信号は、前記ドライバツール20の下降速度があらかじめ設定された速度を発揮するように下降速度を重視した駆動指令信号である一方、前記第2、第3駆動指令信号は、前述の実ビット推力を制限しつつあらかじめ設定された速度を発揮するように前記ドライバツール20を下降させる実ビット推力が重視された駆動指令信号である。
【0032】
また、前記第2、第3駆動指令信号で制限されている実ビット推力は、前記ビット23とねじ61との係合が解けるカムアウト現象の発生を防止し、かつねじ61の螺入中に生じる実ビット推力を抑制するために設定される。前記カムアウト現象は、前記実出力トルクが高くなるほどビット23が浮き上がりやすいため、前記第3駆動指令信号で制限された実ビット推力は、前記第2駆動指令信号で制限された実ビット推力よりも高くなるように設定される。
【0033】
前記制御部43は、図4ないし図9に示すように、
S01:モータ制御部41に駆動指令を送るとともに、モータ制御部42に第1駆動指令信号を送る。
S02:モータ制御部41,42からエンコーダ22,32の出力パルス信号を取得する。
S03:ドライバツール20が測定開始設定点に到達するのを待つ。
S04:n=1をセットする。
S05:TRa(n)を起動する。(測定設定時間のセットされたタイマーを起動)
S06:TRbを起動する。(測定開始間隔時間のセットされたタイマーを起動)
S07:TRa(n)起動直後のドライバツール20の昇降位置を割出し、記憶する。
S08:下降速度変更処理を行うため、S40にジャンプする。
S09:モータ21の実負荷電流が目標の締付けトルクに相当する電流に到達していればS61にジャンプする。
S10:第3駆動フラグが立っているか確認し、立っていればS09にジャンプする。
S11:TRbが経過しているか確認し、経過していなければS08にジャンプする。
S12:TRa(n)が経過しているか確認し、経過していればS81にジャンプする。
S13:n+1の演算を行い、演算結果の値をTRa(n)のnに代入してS05にジャンプする。
S40:下降速度変更処理の開始。
S41:第2駆動フラグが立っているか確認し、立っていなければS46にジャンプする。
S42:第3駆動フラグが立っているか確認し、立っていればS48にジャンプする。
S43:推力切替設定点に到達しているか確認し、到達していなければS48にジャンプする。
S44:モータ制御部42に第3駆動指令信号を送り、第3駆動フラグを立てる。
S45:起動中のTRa(n),TRbを全て停止させ、S48にジャンプする。
S46:速度切替設定点に到達したか確認し、到達していなければS48にジャンプする。
S47:モータ制御部42に第2駆動指令信号を送り、第2駆動フラグを立てる。
S48:下降速度変更処理を終了させ、S09にジャンプする。
S61:モータ制御部41,42に駆動停止指令信号を送る。
S62:ドライバツール20がねじ締め完了設定点に到達しているか確認し、到達していればS64にジャンプする。
S63:ねじ浮き異常表示信号を表示部45に送り、S90にジャンプする。
S64:ねじ締め正常表示信号を表示部45に送り、S90にジャンプする。
S81:TRa(n)が経過するまでのドライバツール20の移動量(前記測定距離)を演算し、記憶する。
S82:測定距離が判定基準距離よりも多ければS13にジャンプする。
S83:モータ制御部41,42に駆動停止指令信号を送る。
S84:螺入異常表示信号を送り、S90にジャンプする。
S90:モータ制御部42に逆転駆動指令信号を送る。
S91:ねじ締め開始点に復帰するのを待つ。
S92:モータ制御部42に駆動停止指令信号を送る。
S93:END
となるねじ締め制御を行う。
【0034】
次に、自動ねじ締め装置10の作用について説明する。作業者(図示せず)は、前記ビット23の先端にねじ61を係合させて供給し、スタートスイッチ(図示せず)を押してスタート信号を発する。このスタート信号は、前記制御手段40へ入力され、前記制御部43は、前記モータ制御部41に駆動指令信号を送るとともに、前記制御部42に前記第1駆動指令信号を送る。これにより、前記モータ制御部41は、前記モータ21の出力軸をあらかじめ設定された回転数(300rpm)で駆動させる一方、前記モータ制御部42は、前記モータ31の出力軸をあらかじめ設定したドライバツール20の下降速度(例えば、200mm/秒)から求められる回転数で駆動させる。このモータ31の出力軸回転数の算出は、設定されたドライバツール20の下降速度÷ボールねじ61のリード×60秒で求められており、具体的には、200mm/秒÷12mm×60秒=1000rpmの求められた回転数で駆動する。つまり、前記ビット23は、前記ねじ61を締付ける方向に300rpmで回転しながら200mm/秒で下降する。
【0035】
その後、前記制御部43は、前記モータ制御部41,42を介して前記エンコーダ31,32の出力パルス信号を取得し、ビット23の回転数およびドライバツール20の昇降位置を割り出すため、ドライバツール20の昇降位置が常時検出可能となる。
【0036】
前記制御部43は、このドライバツール20の昇降位置が測定開始設定点に到達していれば、前記測定設定時間に設定されたタイマーのTRa(n)のnに1の値をセットして起動するとともに、前記測定開始間隔時間に設定されたタイマーのTRbを同時に起動する。このTRa(1)の起動直後およびTR(1)の経過直後には、制御部43によってドライバツール20の昇降位置がそれぞれ割り出され、前記測定距離が演算される。つまり、この演算された測定距離は、図2および図3に示す1aや2a,2b,2cに相当する。
【0037】
また、前記TRa(n)のnには、前記TRbが経過する度に前回の(n)に1を加算した2,3・・・7等の数値が順次代入されて、TRa(n)は起動し、前記測定距離の計測が複数回重複して行われる。
【0038】
このように段階的に計測された前記測定距離は、それぞれの計測直後に前記判定基準距離と比較され、前記判定基準距離よりも少なければ、制御部43は、前記螺入異常であると判断し、ビット23の回転およびドライバツール20の下降の動作を即座に停止してねじ締めを中断してドライバツール20を前記ねじ締め開始設定点に復帰させる。これにより、位置ズレや斜め喰付き等の前記螺入異常を発生しても、最長でも測定設定時間程度の時間が経過すればワーク等に与える負荷をなくせるため、従来よりもワークに与える負荷時間を短時間にすることができる。
【0039】
また、前記ドライバツール20の昇降位置が速度切替設定点に到達すれば、制御部43は、前記モータ制御部42に前記第2駆動指令信号を送るとともに、第2駆動フラグを立てドライバツール20の下降速度を200mm/秒から例えば20mm/秒に切り替える。これにより、前記ねじ61の先端と締結物71とが当接する際に生じる衝撃を軽減させてワーク等の破損を防止している。次に、前記ねじ61がその先端と締結物71とが当接して螺入され始めると前記ビット23の下降速度は、図2の螺入開始位置を境に20mm/秒から前記螺入速度(3.5mm/秒)にさらに減速し、この速度差によって、実ビット推力は、ほぼ0(零)から前述の制限された値に上昇して前記カムアウト現象の発生が抑制される。
【0040】
さらに、ドライバツール20は下降し、その昇降位置が前記推力切替設定点に到達すれば、制御部43は、前記モータ制御部42に前記第3駆動指令信号を送るとともに、第3駆動フラグを立てドライバツールの下降指令速度を20mm/秒から例えば30mm/秒に切り替える。これにより、前記実ビット推力は、さらに上昇して前記着座時に発生し易いカムアウト現象を抑制する。
【0041】
また、制御部43は、前記第3駆動フラグが立てば、起動中の前記TRa(n)およびTRbを全て停止させ、前記測定距離の計測を全て打ち切り通常のねじ締め作業を行う。つまり、前記推力切替設定点にドライバツール20が到達するまでに計測された複数の前記測定距離は、全て前記判定基準距離を超えているため、この区間におけるねじ締め状態は、正常と判断できる。
【0042】
前記第3駆動フラグが立てば、制御部43は、前記モータ21の実負荷電流があらかじめ設定された目標の締付けトルクに相当する電流に達するまでねじ締めを行い、目標の締付けトルクに相当する電流に到達すればドライバツール20の昇降位置が前記ねじ締め完了設定点に到達しているか確認する。この確認により、到達していればねじ締め正常表示信号を前記表示部45に送る一方、到達していなければねじ浮き異常表示信号を前記表示部45に送る。これにより、前記表示部45は、上述の表示信号からねじ締め正常あるいはねじ浮き異常のメッセージを表示し、作業者にねじ締め状態を知らせる。
【0043】
また、制御部43は、前記実出力トルクが目標の締付けトルクに達すれば、ビット23の回転およびドライバツール20の下降の動作を即座に停止した後、前記モータ31を逆転駆動させて前記ドライバツール20を前記ねじ締め開始設定点に復帰させる。
【0044】
以上説明したように、本発明の自動ねじ締め装置10は、ねじ締め中に前記螺入異常であることを判定でき、かつその判断時間は、最長でも前記測定設定時間程度に短縮できるため、ワークやねじ61あるいはビット23の損傷を最小限に抑える利点がある。
また、締結物71のめねじの深さがねじ61の首下長さよりも浅く形成され、ねじ浮きを生じてドライバツール20の昇降位置が前記推力切替設定点に到達しない場合であっても前記螺入異常と判断してねじ締めを早期に中断できる利点もある。
さらに、前記測定距離は、この距離を移動したドライバツール20の平均下降速度に置き換えることができるため、ドライバツール20の下降速度が前記判定基準距離から算出した所定時間当たりの速度を一瞬下回っても前記螺入異常と判断することがなく、誤判定を防止できる利点もある。
【0045】
なお、本実施例において、計測開始設定点をねじ締め開始設定点としたが、ねじ締め開始直後であるねじ締め開始設定点あるいは、前記速度切替設定点としてもよい。
さらに、ドライバツール20は、ビット23を磁化したものとしたが、磁化していないビットにして、このビットの外周に配置した摺動可能な吸着パイプと、この吸着パイプの内部に連通する空気孔を備えたケーシングパイプとを具備するとともに、前記空気孔から空気を吸引可能にして吸着パイプ内にねじ61を吸着保持可能に構成してもよい。また、ねじ61は、今回小ねじを想定して説明したが、締結物71に下穴が設けられ、ねじの螺入と同時にめねじを形成するタッピンねじ(図示せず)にも適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0046】
10 自動ねじ締め装置
20 ドライバツール
21 ACサーボモータ
22 エンコーダ
23 ビット
30 往復移動手段
31 ACサーボモータ
32 エンコーダ
36 ボールねじ
37 ナット部材
40 制御手段
61 ねじ
71 締結物
72 被締結物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動源の駆動を受けて回転可能かつ締結部品の駆動部に係合可能なビットを有するドライバツールと、このドライバツールを前記ビットの軸方向に往復移動操作可能に支持した往復移動手段とを有する自動ねじ締め装置において、
前記ドライバツールが所定の位置に到達すればドライバツールの移動距離の測定を開始する一方、この測定の開始から所定の時間経過する度にドライバツールの移動距離の測定を段階的に開始し、これらの測定をあらかじめ設定した時間が経過するまであるいはあらかじめ設定した位置にドライバツールが到達するまで行うとともに、これらの測定終了直後に測定した距離とあらかじめ設定した距離とを比較してねじ締めが正常に行われているか否かを判断し、異常と判断すればねじ締めを中断する制御手段を備えたことを特徴とする自動ねじ締め装置。
【請求項2】
最初のドライバツールの移動距離の測定開始をドライバツールの下降開始直後にしたことを特徴とする請求項1に記載の自動ねじ締め装置。
【請求項3】
最初のドライバツールの移動距離の計測開始をドライバツールの下降速度の切り替え位置である速度切替設定点にしたことを特徴とする請求項1に記載の自動ねじ締め装置。
【請求項4】
往復移動手段は、回転駆動源の一例であるACサーボモータと、このACサーボモータに連結したボールねじとから構成したことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載の自動ねじ締め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−31888(P2013−31888A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167861(P2011−167861)
【出願日】平成23年7月30日(2011.7.30)
【出願人】(000227467)日東精工株式会社 (263)